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寅次郎な日々

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ご注意) このサイトの文章には物語のネタバレが含まれます。
まだ作品をご覧になっていない方は作品を見終わってからお読みください。



                 

別れの曲  冬子さんの瞳(2007年9月28日)

『時間ですよ』の中の『寅さん大会』(2007年9月20日)

『なつかしい風来坊』から『遥かなる山の呼び声』へ(2007年9月10日)

第27作「浪花の恋の寅次郎」ダイジェスト版(2007年9月3日)

コンサートに行く菜穂ちゃんと満男(2007年9月2日)

『喧嘩辰』を歌わなかった寅と冬子さん(2007年8月24日)

『寅小僧次郎吉』の夢(2007年8月22日)

木蓮の花と夏子さんの涙(2007年8月19日)

第26作「男はつらいよ.寅次郎かもめ歌」ダイジェスト版(2007年8月16日)


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別れの曲  冬子さんの瞳


2007年9月28日 寅次郎な日々 その332


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



いよいよ日本を離れる日がまた今年も近づいてきた。
まだまだやり残したことはいっぱいあるが、それはまた来年の7月に帰国した際に再開するとしよう。

このまま日本に滞在し続けると、今度は感覚的なものを吸収するばかりで、吐き出す方がお留守になっていくのだ。
吐き出すこととは、この場合、かの地で絵を描くことであり、サイトの本編完全版を進めることであり、
もの作りを進めていくことなのだ。日本ではそれがどうしてもできない。そういう業を私は背負ってしまっている。

キツイ突き放された孤独の環境の中でしか、たくさんの絵は描けないし、このサイトの『本編完全版』のアップも
進まないのである。

泣きたくなるようなバカな気質だと我ながら思うが、こればかりは死ぬまで治らないかもしれない。

だから私は、寅がみんなに止められても、スッと旅に出ていってしまう気持ちが痛いほど分かるのだ。
水は止まると濁り、腐っていく。腐ってしまってはもう遅い。寅はそのことを知っている。

もちろんさくらたちは、止まりながらも腐らない術を体得して生きているので寅とは全く違う。
しかし、寅は腐ってしまうのである。寅とはそういう人間なのだ。




ところで、先日も書いたが、今回の滞在はDVDをいつになくたくさん見た日々だった。
ほとんどが2度目3度目の作品だったが、どれもこれも改めて随所に発見がまたあり、充実した時間だった。

その中でも特に思い出深いのが

あの、幻のテレビ版『男はつらいよ』のビデオだった。

あのビデオは第1話と最終第26話が見れることもさることながら、最初の小林俊一さんと山田洋次さんとのビック2対談や
小林さんと作詞家の星野哲郎さんとの主題歌誕生秘話対談、ラストの当時のフジテレビの美術スタッフさんたちと小林さんの
裏話満載座談会がなんとも面白い。当時の風が私たちの肌に沁み渡る感じがする。

あの臨場感は何度見てもたまらない魅力だった。

実際の作品の中も2話だけとはいえ、映画版とはまた違う魅力に溢れているのだ。

なんといってもまず第1にはあのさくら役の長山藍子さんの魅力。
映画版第5作『望郷篇』ではとても残酷に寅を振ってしまうが、テレビ版のさくらの長山さんは、繊細で兄を深く思いやる優しい妹を
柔らかく演じておられる。彼女の芝居はとてもしっとりしていてなんとも素敵だ。
兄のことを大事に思っていることが伝わるしみじみといい芝居だ。

特に第26話(最終話)での、兄の死という現実を認識したくないさくらの気持ちの揺れの芝居はこれはもう秀逸。

博士が寅は死んだんだと何度言っても、静かな口調で
「どうして分かるの?なにが証拠なの?」と、現実を認めようとしないのだ。
まるで夢を見ているような…そんな表情で…。

(まあもっとも寅のお骨も死亡診断書の写しも、病院からの直接連絡も何も無い状態で
腹違いの弟の雄二郎に帽子だけ持ってこられても信じられないというほうが正しいといえば正しい)

その夜、寅が帰ってきたと気配を感じ、布団から起き上がって玄関で幻覚を見るさくら。
生き返ったような鮮やかな笑顔で寅を玄関で迎えるのだった。
寅も生まれてくるであろう赤ん坊のおもちゃを手に持ち、音を鳴らしながら満面の笑顔で
さくらに優しく語りかけるのだった。

しかし、それはやはり幻覚だったのだ。



             



それでもさくらは、寅の幻影を追い、裸足で外に出て走っていく。

そして「お兄ちゃん!」と叫びながら寅を必死で追いかけるのだった。

このさくらの姿は、まさしく、お能の「道成寺」 に出てくる『安珍と清姫の物語』そのものだ。

さくらは、安珍を慕って、幾山千里越えて、飛ぶように追いかけていくあの清姫だ。

あのシーンにはそのような鬼気迫る怖さがあったのだ。



            



さくらは公園のところで寅に追いついたが、その瞬間、寅の後姿がスッと消えてしまう…。


呆然と立ち尽くすさくら。

その時、はじめてさくらは辛い現実を認識したのだった。




遂には、さくらを追いかけてきた博士の胸で号泣し、
悲しい現実の全てを受け入れていくシーンでこの物語は終わる。







また、同じく、マドンナの冬子さん役の佐藤オリエさんも絶品だった。

あの映画版第12作『私の寅さん』にも使われた寅との別れの場面は、映画版とは違って
冬子さんは寅の目を見つめて涙をこぼし、「寅ちゃんごめんなさい、ほんとうにごめんなさい」と謝るのだ。


あの「別れの曲」のシーン、ちょっと寂しげな声で、寅が桜の花を追って南から北へ旅をする話をしている時、
冬子さんは、寅が別れを言いに来たことをその言葉と気配で気づいたのだった。

目が潤みはじめ、寅を見つめ続ける冬子さん。
本当に目をそらさずずっと見つめる。

このカットは、私にはとても長い時間に感じられた。

そしてついに
「寅ちゃん、ごめんなさい。ほんとうにごめんなさい」と
涙が頬を伝っていくのだ。



             



寅は、その姿を見、その言葉を聞いて、
「お嬢さんが、あっしに謝ることはありません、あっしは別にどうってことないんです」
と、ひたすら恐縮して冬子さんをかばう。



             



そのあと、冬子さんはもう一度寅をそっと見つめ、

スッとそのまま顔を上げて…

庭の桜を強い瞳で見上げる。


この時の佐藤オリエさんの表情とその瞳は私にとって今滞在中、最も感動したカットとなった。



             



その瞳はもはや、悲しみに泣き暮れる色ではない。

悲しみも切なさも超えたところの彼女の純な生命がほとばしるような強い目だった。
佐藤オリエさんの、若い、とても感覚的で鋭敏なセンスを強く感じてしまった。

そして彼女のビビッドな目と重なるように
哀しげな寅の表情をカメラはアップで捉え続ける。

なんという深い孤独…。



             



そしてまた

桜が映り


最後にカメラは遠くから二人の背中を映すのだった。



             



あの演出にはさすがに私は泣いた。

ぐっと寅の気持ちに寄り添っている。

やはり冬子さんは寅のことを大事に思っているのだ。


私は、テレビ版「男はつらいよ」と言うと、
真っ先に、この、冬子さんが目を潤ませながら寅を見つめる「別れの曲」の夜を思い出す。

寅の気持ちを分かり、とてもいとおしく思ってくれる冬子さんが私には誰よりも魅力的だった。
全26話同一マドンナというのは実にいいもんだ。
それが敬愛する散歩先生のお嬢さんの冬子さんだからなおさら最高だ。

映画版第4作「新.男はつらいよ』でもそうだったが、小林俊一さんは、実にしっとりとした見せ場を
繊細に作られる。映画版ではラスト付近で夜中にそっと出て行く寅の姿とそれに気づいた
おいちゃんたちの表情や柴又界隈の人々の風情が印象的だった。


それにしても、このテレビ版をたった2話見ただけでも、いかに映画版の物語がテレビ版の物語に支えられているか
よくわかる。どちらも山田洋次さんが中心に脚本を書かれてるとはいえ、テレビ版の影響力は多大なものが
あることがわかる。大きな物語の流れからちょっとした会話まで随所にテレビ版の断片が出てくるのだ。


いつの日か、この、フジテレビが制作したテレビドラマ『男はつらいよ』が真に再評価された時、
あの別れの夜の、二人のやり取りの見事さと、それを支えた小林俊一さんの演出、
そして最後の最後に二人の表情を見事にアップで重ねて表現したスタッフの鋭敏な感覚は絶賛されるだろう。



もちろん、そのテレビ版のリメイクである映画版第12作『私の寅さん』のあの別れの曲のシーンも、
スタッフたちは集中し、時間をかけて、上手に上品に撮っている。

りつ子さんも、寅の気持ちは敏感に感じて、自分の気持ちを優しく、しかししっかりと寅に伝えている。
そこはさすがに演出も逃げていない。そして二人ともやり取りに品格すら感じられる。
演出に弛緩した穴はない。さすが山田監督だ。
第12作のクライマックスといってよいと思う。

それでも、私の人生にはあの冬子さんの、
寅を大事に思い、寅に寄り添う気持ちこそが、
そして寅のために流したあの涙がやっぱり大事だ。
そして一番最後に彼女が桜を見つめる命の輝きの目は私には何物にも代えがたい宝物なのだ。







このあともバンコク出発直前の10月9日くらいまで多忙が続きます。

それゆえ、第3作「フーテンの寅」本編完全版第1回は10月4日ごろになります(^^;)ヾ

第28作「寅次郎紙風船」ダイジェスト版は、第3作更新以降に作業いたしますので、
アップはバリに戻った後の10月末日頃になります。

またもやずるずるずるずるずるずる遅れてすみません。

どうしても日本滞在中は最後まで生業優先&充電(DVD映画鑑賞と読書)優先になります。
これがないとサイトアップの馬力が出ないのです。どうかご理解ください。





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『時間ですよ』の中の『寅さん大会』


2007年9月20日 寅次郎な日々 その331


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



ようやく先日金沢郊外での最も大きな展覧会が終わった。もうすっかり秋の気配だ。『今朝の秋』って感じだ。

あとは、10月の初旬に行われる自分の住む八尾町の『アートフェスティバル』の3日間を残すのみとなった。
それが終わったらバンコクへ向い、10日間ほどタイに滞在した後、10月23日ごろにバリに戻る予定だ。
今回の滞在中はいつにもまして深夜に映画やテレビのDVDを見続けた日々だった。

シリーズものだけでも『白い巨塔.田宮版全話』『早春スケッチブック全話』『ふぞろいの林檎たちT全話とU全話』
『北の国から全話+8スペシャル』『優しい時間全11話』『Dr.コトー診療所2003、2004、2006全話』『時間ですよ71年、73年全話』
『寺内貫太郎一家全話』『寺内貫太郎一家2全話』といったところか。それ以外にも「男はつらいよ」以前の山田洋次監督作品を
もう一度全作品見直した。
あとは単品で見たいものを30作品程度ランダムに見た。新作も見れるかぎり見た。どこに掘り出し物があるか分からないからだ。
近年は半額レンタルや100円レンタルの期間があるのでさほどの出費を考えなくても大量にDVDを借りれるようになったのが助かる。

読書は、仕事の美術書以外では、今回は映画関係の本が多かったように思う。キネマ旬報をもう一度数十年分読み返したり、
面白く過ごさせていただいた。おかげでこの数ヶ月間慢性の睡眠不足で何度か体調不良で寝込んだが、現在はすっかり睡眠も
取れているので体調は回復。

そして肝心の生業である絵と染織のそれぞれの展覧会は長年のコレクターさんたちのおかげで、なんとか目標に到達した。
これで来年もなんとかギリギリ生き延びれそうだ。凌いで凌いで、生き延びるしかないのだ。
特に最後の金沢での展覧会では多くの方々に助けていただいた。感謝以外の何ものでもない。
しかし、それでも限界がゆっくりではあるが近づいてきている気もしないでもない。先は依然としてまったく見えない状況だ。

と、いうような状況ゆえに、なかなかこのサイトの更新ははかどらず、第3作『フーテンの寅』の「本編完全版」も
第28作『寅次郎紙風船』の「ダイジェスト版」も作業が大幅に遅れている。

いつも書いているように、大量の充電ができなければエネルギーを吐き出すこともできない。どうかご理解ください。
それでもなんとか9月末には第3作『フーテンの寅』の一回目の更新だけは成し遂げたいと思っている。







『時間ですよ』の中の『寅さん大会』


で、今日は、昨日まで見ていた1971年のテレビドラマ『時間ですよ』の中に「男はつらいよ」のポスターが出てきたので紹介しようと思う。

ある話で、堺正章さん演じるボイラー焚きのケンちゃんがギャグを飛ばすいつもの脱衣場にその時貼ってあったのが
『男はつらいよ』のロードショーの後、多くの松竹系映画館で催される『
寅さん大会3本立て』のポスターだったのである。

おおー!レアもの。出ました『寅さん大会』!作品は「新男はつらいよ」「望郷篇」「純情篇」の3本立て!
この『時間ですよ』カラー版が制作されていたころはだいたい「第7作奮闘篇」のころなので辻褄が合う。

また、違う作品では『純情篇』のポスターが貼ってあった。

なんだかこうなってくると、二つの作品が繋がったようでちょっと嬉しく、思わずキャプチャーしてしまった(^^;)ヾ


『男はつらいよ』と『時間ですよ』

この二つの傑作には共に『情味』があるのだ。





             
『時間ですよ』の脱衣場に貼ってあった『寅さん大会』のポスター

                 




                   
    純情篇のポスター

             









また、そのちょと前に一気に見た寺内貫太郎一家2でも、『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』で出てくる例の『ピアノ騒動』が、
同じように物語の中に出てくるのである。

『男はつらいよ寅次郎忘れな草』ではさくらが満男のために本物のピアノが欲しいって沈んでいるのを見て、てっきりおもちゃだと思った寅が、
幼児用のおもちゃのピアノを買ってきて、本物をほしかったとは言えず、後でバレて大騒ぎになるのだが、『寺内貫太郎一家2』では、
きんばあちゃんが小さいころからの憧れだったピアノが欲しいと駄々をこねるのだ。これは、実は息子の貫太郎の愛情を確かめるためのもの。
貫太郎は最初はあまりにも突拍子がないので相手にしなかったが、母親であるきんさんを喜ばせてやろうと本物のグランドピアノを
思い切って買ってしまうのだが、孫たちはきんさんがおもちゃのピアノを欲しがっていることを察して、おもちゃのほうを買ってくる。
そして家の前でドデカイ本物とちっちゃなおもちゃが鉢合わせするという物語。

もちろんきんばあちゃんは、おもちゃのピアノでいいと照れ笑いしながらも、息子である貫太郎の自分への気持ちに涙するのだった。



『寅次郎忘れな草』が1973年

『寺内貫太郎一家2』が1975年



向田邦子さんはひょっとして「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」を見ていたのかな?
なんて、両方の大ファンである私のようなものにとってはなんだか幸せな気持ちになれてニヤニヤしていたのである。




最後に…

昨日は、同じく向田さんの脚本である『阿修羅のごとく』の映画版を見た。四人姉妹の中で、深津絵里さんが美しく光っていた。
連れ合いだった奥さん(八千草薫さん)に先立たれてしまった浮気亭主(仲代達矢さん)が、三女の滝子(深津絵里さん)の
お膳を拭いている後姿を遠くからしみじみ眺めて、そっと「母さんそっくりだ…」と、なんともいえない穏やかな顔でつぶやくのである。

気配を感じて、お膳を拭きながら、ふと振り返る深津さんの表情は美しかった…。
さすが森田芳光監督。彼はこの『美』を決して逃さない。

あまりに気に入ったので、さっきパソコンの壁紙にしたところだ(^^)ゞ






               










このあともバンコク出発直前の10月9日くらいまで多忙が続きます。

それゆえ、第3作「フーテンの寅」本編完全版第1回は9月30日ごろになります(^^;)ヾ

第28作「寅次郎紙風船」ダイジェスト版は、第3作更新以降に作業いたしますので、
アップは10月8日頃になります。

またもやずるずるずるずる遅れてすみません。

どうしても日本滞在中は生業優先&充電(DVD映画鑑賞と読書)優先になります。
これがないとサイトアップの馬力が出ないのです。どうかご理解ください。





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『なつかしい風来坊』から『遥かなる山の呼び声』へ


2007年9月10日 寅次郎な日々 その330


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
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山田洋次監督の映画といえばラストシーンの鮮やかさがあげられる。

人というものはささやかな幸せを掴むことが充分ありえるということを勇気を持って私たちに指し示してくれるのが山田映画だ。
そんなこと当たり前ではないか、と思われるかもしれないが、古今東西の数々の映画を見るにつけ、山田監督ほど
人間が幸せになることに対して怖気づいていない監督はいない、ときっぱり思うのだ。

もちろん、物語の起承転結の歯車が上手くかみ合わないと肝心のハッピーエンドもそこの浅いものになってしまうことも自明である。
ということは、ラストシーンの鮮やかさは、物語の鮮やかさでもあるわけだ。

昨年公開された「武士の一分」でもそのけれんのないラストシーンには今更ながら驚かされた。
私の好きな山田映画ラストシーンベスト3は、「幸福の黄色いハンカチ」「遥かなる山の呼び声」「寅次郎ハイビスカスの花」
である。この三作品のラストシーンは間違いなく観てよかった、としみじみ思える鮮やかな、そして心が清められるようなそんな大団円だ。

その中でも特に「遥かなる山の呼び声」のラストが飛びっきり好きだ。

朝靄の中、田島耕作が民子や武志のもとから警察に連れて行かれた時に、私たちはこの映画に映画のシェ―ンのような、
「もう会えない別れ」を感じ、残念で無念な気持ちになってしまうのだ。

そして、男手のなくなった民子の小さな牧場は離農せざるをえなくなったことが暗示するようなシーンが続き、
私たちは暗澹たる気分になり心が沈んでゆくのである。

しかし、その最後の最後に、耕作が網走刑務所に護送される列車の中であの鮮やかなどんでん返しが待っているのである。
姑息な演出も、過剰なヒロイズムも何もないこのささやかな物語。
孤独の中で寄り添いあうように暮らす民子、武志、耕作の切ない人生模様。
世間の常識などを遥かに超えた民子の耕作への信頼と愛情。

そして虻田太郎の友情と献身。


この映画のラストに流す私たちの涙は、おそらく、人が流す涙の中でもっとも浄化された清らかな涙だと思う。
こんなに涙を流していてもちっとも恥ずかしくない映画は珍しい。
いや、この映画以外にどんな映画もこのような感覚は存在しない。



              
遥かなる山の呼び声での汽車の中での民子と耕作の再会シーン。

                




しかし、この映画には実は『原型』があるのである。




それはなんとこの遥かなる山の呼び声から遡ること14年前の映画、1966年公開の『なつかしい風来坊』である。


物語はこうだ。

有島一郎さん演ずる衛生局防疫課の課長早乙女良吉がひょんなことから労務者の源五郎と知り合い、意気投合し、
家にまで連れてくる。
家族は嫌がるが、源五郎はお構いなしで、良吉に友情を感じてしまうのである。その後も源五郎は事あるたびに良吉の
家に立ち寄っては、押し売りを追い払ったり、純血種の洋犬を貰ってきたり、家族のニーズに応えるべく、マメに世話を
焼いてやるのだった。

そんなある日、源五郎はなんとずぶ濡れになった娘を良吉の家に担ぎこんでくる。
何事かと聞いてみると、どうやらその娘は入水自殺を図ろうとして、源五郎に助け出されたようなのだ。娘の名は愛子。
気立ての良い愛子は、良吉の家でしばらく養われることになり、その後、お手伝いさんとして働くのだった。

しかし、愛子は過去の辛い思い出からどうしても抜け出ることが出来ないまま日々は過ぎていった。

そして源五郎は世間の荒波に翻弄されながらも純粋な気持ちを持ち続けている愛子に惹かれていくのである。

ある日、良吉の手配で、源五郎は愛子と映画『太陽がいっぱい』を観に行き、その帰りに公園で愛子を励ましその悲しい心に
寄り添おうとするのだが、ちょっとした弾みで愛子が窪みに落ちてしまった瞬間に愛子の服が破れてしまい、源五郎に恐怖を覚え、
良吉の家まで逃げ帰ってしまったのだ。おろおろするばかりの不器用で不運な源五郎。
何度も何度も「違うんだよ」と繰り返すだけの悲しい源五郎だった。

良吉宅に帰ってから、良吉たちに強姦に遭ったと思われるのだが、悲しい過去がトラウマになってしまい、
真実を打ち明けられないで震えている愛子。

誤解が誤解を招き、源五郎も愛子をかばい警察に自白する形になってしまうのである。
そして運悪く源五郎の過去の余罪も芋ずる式に見つかってしまい、源五郎は数ヶ月刑務所に。
そしていたたまれなくなった愛子も良吉の家から姿を消してしまう。

そして良吉自身も二人が姿を消した後は、抜け殻のようになり、結局その後、左遷のような形で八戸行きを命ぜられるのだった。
家族にも距離を置かれているので結局単身赴任になり、残しひとり淋しく東北へ向う。

その汽車の中で最後のドラマはおこる。

なんと愛子に再会するのである。





【本編  ラストシーン 】


東北行きの汽車の中

良吉の目の前に座る愛子。

お互いにまだ気づかない。

愛子を見て驚く良吉。

良吉を見て驚く愛子。

愛子「は!…先生」



            




良吉「愛ちゃん…」

愛子の背中には生まれてまもなくの赤ん坊が負ぶさっている。

良吉「愛ちゃん…、君、結婚したのかい?」

愛子「…はい」



                



良吉「はあ、そうかい。それで、そのお…」

良吉が赤ん坊の父親のことを聞こうとした時だった。


車両の端から懐かしい声が聞こえてきたのだ。


源五郎「おい!母ちゃん!席あったかや!?こっちにもひとつあんぞォ!」

源五郎、遠くの良吉を見つけて

源五郎「おお!!先生!先生じゃねえか!」

良吉立ち上がり源五郎を見つめる。



                




源五郎は感無量で良吉の肩を掴み

源五郎「あっしですよ!源五郎ですよ、先生!」

満面の笑みの源五郎。

なんともえいない顔で源五郎を見つめる良吉。

そして愛子をもう一度見つめる。


恐縮しながら良吉を見ている愛子。


               




源五郎「先生、驚いたでしょう。勘弁してくださいな。ご覧のようなわけでね」

嬉しさがどうしょうもなく滲み出てくる良吉。



               




源五郎「いやあ、ご報告しなきゃ申し訳ないって、いつも愛子と話していたんですがね、
なにしろ、へへへ、恥ずかしいもんで」

良吉、しみじみ二人を見ている。

源五郎「いえー!そのうち手土産でも持って御伺いしようと…、いやあ、フフ、だけど
     驚いたなあ、こんなところで見つかっちまって、なあ!おい」

と、愛子に笑いかける源五郎。

愛子「先生のお宅には散々ご厄介になっておきながら…。この人が、どうしても恥ずかしいって
  言うもんですから。ほんとにすいませんでした」

と深々とお辞儀をする愛子だった。

愛子「お便り一つしないで、あの、な、なんとお詫びしたらいいのか…」

良吉、目を潤ませて

良吉「もういい、よく分かった。謝ることはないよ」

愛子は遂にハンカチを取り出し泣いてしまう。


高まるテーマ曲。


良吉を見つめる源五郎の目も潤んでいく。


良吉「よかった…、これで…ほんとうによかった…。僕は何と言っていいか…うう」

と泣いてしまうのである。



               



そして源五郎と愛子は良吉と一緒に座り、
あのあとの二人の恋の物語を語り始めるのだった。

良吉「愛ちゃん、おめでとう」

お辞儀をする愛子。

源五郎「さあ、積もる話とまいりましょうか」

良吉「ああ」

源五郎「へへへ!それがね」

愛子、源五郎の顔を見て微笑む。




              





源五郎「語るも涙、聞くも涙の物語でしてね!へへへ!」

赤ん坊にオッパイをやる愛子。


なんとも幸せな表情で窓の外をふと眺める良吉。



              



三人を乗せた汽車は一路北へ走っていくのだった。







と、まあ、こういう話である。







もちろん源五郎を演じるのはハナ肇さん。
14年後に「遥かなる山の呼び声」で汽車に乗り込んでくるのも虻田太郎演ずるハナ肇さんだ。

そして『なつかしい風来坊』の良吉の驚きと感動の目はもちろん『遥かなる山の呼び声』の田島耕作の驚きと感動であり
虻田太郎の感動でもあるのだ。

そして良吉の心からの嬉しい涙は田島耕作の心からの涙であり、



        
嬉さのあまり泣いてしまう良吉            民子の心に打たれ涙を流す耕作
                 






源五郎の嬉しい涙もまた田島耕作のあの涙であるのと同時に虻田太郎の涙でもあるのだ。



         
遂に泣き出しそうになる源五郎          感動で顔を伏せ泣いてしまう虻田太郎
                     





そして愛子の笑顔は民子の笑顔なのだ。



           





あの列車がどこまでも走ってゆく雄大な「遥かなる山の呼び声」のラストも、
すでに「なつかしい風来坊」の中でもうもうと煙を立てて走る汽車の姿で終わっているのである。
あの未来へ向って疾走する二つの汽車は、神様がこの人々の未来に幸多からんことを
すでに約束したことを意味する福音なのであろう。



        
  汽車は一路青森へ                  汽車は一路網走へ
                  





このように、あの名作「遥かなる山の呼び声」のラストはその遥か14年前にスタンバイされていたのである。

このような繰り返しは、これに限らず、山田監督の一般的な特徴であるが、
「なつかしい風来坊」のラストから14年。
同じ球根から発したもうひとつの芽が、もう一皮向けた力強い構成に裏打ちされた人間賛歌として
「遥かなる山の呼び声」の中に大きく花開いていたたことだけは疑う余地がないだろう。
山田監督の大きな進化をまざまざと見せつけられた思いがしたものだった。








まだまだ9月も月末まで多忙が続きます。

第3作「フーテンの寅」本編完全版第1回は9月22日ごろになります(^^;)ヾ

第28作「寅次郎紙風船」ダイジェスト版は、第3作更新以降に作業いたしますので、
アップは9月26日頃になります。

またもやずるずるずるずる遅れてすみません。

どうしても日本滞在中は生業優先&充電(DVD映画鑑賞と読書)優先になります。
これがないとサイトアップの馬力が出ないのです。どうかご理解ください。





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第27作「浪花の恋の寅次郎」ダイジェスト版


2007年9月3日 寅次郎な日々 その329


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。
  



ふみさんの涙のわけを辿る長い旅  


浜田ふみさんは、いわゆる素人ではない。ぼたん同様、水商売系に関わって生業をたてている。
そんなふみさんも,根が堅気のせいか、素の時は、質素な堅気に見えるのである。ちょうどおばあさんの墓参りに
故郷に帰ってきた時、フーテンの車寅次郎と瀬戸内の小島で出会う。そして大阪で再会し、ふたりともつかの間の恋を
花開かせていく物語である。

ふみさんは瀬戸内の小島で寅と話をしながらとても優しい目をして寅を見つめる。彼女は寅の名を聞き、
寅も彼女の名を聞く。そしてそのあとふみさんが日傘を持ちながら寅を見送るシーンがあるが、ゆったりと長く、
どこまでも寅を見送っている。この長いシーンはとてもふたりの波長が合っているのである。あれは運命的な
出会いをした女性の輝きだったと私は思うのだ。
まるで網走の波止場での寅とリリーの出会いのようだった。
多くを語らなくても分かり合えるものをお互いが持っている。
なにも大きなエピソードがなくても、ほとんど会っている時間が短くても、人は運命の出逢いをする。

この見事なフィット感は、リリー以外にはお千代さん、光枝さん、朋子さんくらいである。ぼたんの時とは若干ズレがある。
寅は初対面の日ぼたんには恋まで行かなかったが、ふみさんとはごく短い時間の中で男女の出会いになっている。

つまり、寅はリリー同様運命の出逢いをしてしまったのだ。


そしてこれまたリリーの時と同じで、だからと言ってベタベタその小島に滞在しないところがいつものよくある寅とは
違う『本物の恋』の証拠なのだ。

ここが普通の男女と真逆なところ。もう一度の運命のいたずら、運命の赤い糸に賭けるのだ。寅の『本気』というのは
やはりつくづく粋だと思った。

そして大阪で二人は再会し、いろいろな物語を育んでいく。そして例の如く寅は逃げる。

それでもふみさんは、自分の青春の最後を賭けて、もう一度寅に会いに来る。
他の男性に好かれ、その人と結婚を決意した後も、なんとしても今一度寅に会いたかった。
しかし、実際は寅もふみさんに恋をしていたので、結果的に結婚報告のような形になり寅は深く傷ついてしまうのだった。

ふみさんはそのことには気づかないままとらやを後にする。

自分は、好きだった寅に、結婚の報告という隠れ蓑を使って最後の別れを言いに来たのだとしたら、それはあまりにも切ない。

そして、ラスト。

ふみさんは、この物語の最後に対馬まではるばる会いに来た寅を強く見つめ涙を見せる。

普通に考えると弟を一緒に親身になって探してくれ、励まし、寄り添ってくれた恩人の寅が遠くこんなところまで会いに
来てくれたことに対する感動の涙だと思うのだが、私にはやはりそれだけではないような気がしているのである。

        
@寅の帰郷と社長の苦悩

今回も夢から


浦島太郎のハミングが聴こえてくる。


寅が浦島太郎になっている(^^;)

寅のナレーション

昔々、浦島寅次郎は、助けた亀に連れられて竜宮城を訪れ、
夢のように楽しい日々を過ごしたのでありました


SKDの皆様ごくろうさまです(^^)

タコ社長がタコのぬいぐるみをかぶっている。 そのまんまギャグ(^^;)
源ちゃん亀もいる。
彼が浦島寅次郎に陸で助けられたのだろう。

寅「楽しさのあまり、思わぬ長居をいたしました。故郷葛飾柴又村では、わたくしの肉親が
  帰りを待って案じております。乙姫様、これでおいとまいたします

乙姫様「どうしても、行っておしまいになるの?


この作品はマドンナが夢に出演!28作、33作などもマドンナが夢に登場。

タコも泣いている。(^^;)太宰さんご苦労様です(TT)

寅「別れの悲しみは私とて同じこと
乙姫様「初めてお会いしたその日からいつかその日が来るのを覚悟しておりました。
    もはや、お引止めはいたしません。これ、亀吉

乙姫様思い出のよすがに玉手箱を…

と、お決まりの『玉手箱』を渡すのだった。

                     


柴又村 海岸

寅のナレーション

乙姫様に玉手箱をいただいた浦島寅次郎は、再び亀の背に乗って故郷に帰ってまいりましたが…
なんと驚いたことに、あの懐かしい柴又村は跡形もなく荒れ果てた野原があるのみでした

一軒の貧しい民家を見つけ

寅「ものをお尋ねいたします。このあたりにとらやという団子屋はありませんでしたでしょうか
さくらの孫「寅の方を振り向く。
寅「さくら…さくら!オレだよ!
さくらの孫「「あなたはどなたですか?
寅「なにを言ってんだ、おまえの兄さんだよ!
さくらの孫「いいえ、私には兄なんかおりませんけど
夫「誰だ?この男は?
さくらの孫「私のあんちゃんだって言うのよ
夫「頭おかしいんじゃねえか?

源ちゃん亀、干した魚介類を食べている。演出が細かい!(^^;)

                    

寅「博!博だろ?オレだ、寅次郎だよ
さくらの孫「そういえば…、おばあちゃんのお兄さんにそんな名前の人がいたわ…
寅「その寅次郎はオレだよ!
夫「バカこくでねえ!その人だったら50年前に神隠しにあっただ、
 今生きてたら80の老人だべ。こたら奴にかかずりあってねえでさ、めしだめしだ!


戸をバシッ!と閉めてしまう。
尺八の哀しい音色が流れる。

寅のナレーション

竜宮城で過ごした、夢のような数日が実は十数年の長い年月であった
 浦島寅次郎は、悲しみのあまり、さめざめと泣くのでありました

おいおい50年前だから『十数年』じゃなくて『数十年』だろうが??

寅「乙姫様…、私は心の底よりあなたのことをお慕い申しておりました
寅、手に持っている玉手箱を見て
寅「あ、そうだ…、この玉手箱には、いったい何が入っているのだ?

寅次郎、紐を解いてフタを開ける。
ピョ、ヨヨ〜〜〜ン!

白い煙がモアモアモア。。。。と立ち昇る。
寅「ややああ…
一緒に横にいた源ちゃん亀、煙をかぶって
源ちゃん亀ゴッホゴホゴホッホ…

源ちゃん亀、手で煙を扇ぐ。頭もアゴ髭も真っ白になり、老亀に変わってしまう。
ビビッテ寅を睨む源ちゃん亀。

源ちゃん亀「あれ…??ウエエエエエおっと、意外な展開!!(( ̄ ̄0 ̄ ̄;))
                   
寅「あああ!…

源ちゃん亀「助けてくれえ…、お前の代わりにオジンなってしもたんじゃああ、
       助けてくれ…タスケ…


鬼気迫る顔。演技とは思えないリアリティ
蛾次郎さん…、あまりにも凄すぎ…プロ中のプロ(_ _;)

                    




長崎県 対馬  和多都美(わだつみ)神社 (海神神社)

長崎県対馬市豊玉町

ベンチでうなされている寅。

寅「ウ…、ウァ…


寅がなぜかいきなりすでに遥か海の向こう対馬にいる!?
まだオープニングだぞぉ!いきなりラストの場所になるなよぉ…。

                   

起きる寅

寅「あー、…夢か…はあ…
海辺で子供たちが亀で遊んでいる。
寅「こら!坊主!駄目だよそんな、弱いものいじめしちゃあ、そんな、可哀相に
  まだ子供の亀じゃないか


寅はお金を上げて子供たちから亀を買い取ってやる。

寅「あいたたた!あいっ!
 噛み付きやがった
この恩知らず!
 あいたあ!あいたたあ!あいたあ!チキショウ!


乙姫様との出会いを狙ったのだろうが
現実は厳しいねえ寅(^^;)


                  

なんとかふり解いて亀を飛ばす寅でした。


タイトル

いつもより少しゆっくりめの音楽
 


男(赤)はつらいよ(黄)浪花の寅次郎(白)映倫110451


口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
   帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
   人呼んでフーテンの寅と発します。


   ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


   ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労もかけまいに かけまいに♪



江戸川土手を歩く寅。

サイクリングの3人連れのコント。

もちろん、この作品でもコントの帝王
津嘉山正種さんが大活躍。
ちょっとした誤解から三角関係になってしまい、失恋した方の男が自転車で江戸川に自ら突っ込み、
あとの二人の男女も助けようとして3人とも川に落ちる。

                  

寅はそれを見ながらなにか叫んでいる。

題経寺 山門


スズキのスクーターが止まっている。
荷台に買い物かごと
マスカット色のヘルメット。

源ちゃん「バイクや…

源ちゃん、スクーターに興味持っていじりまくっている。

境内でさくら御前様に挨拶して別れる。

さくら「
こんにちは
と言いながら
玄海ツツジとお重の空を前のカゴに入れる。
源ちゃん「これ、買うたん?
さくら「うん、ウチが遠くなったからねえ」第26作から引っ越したんだよね。
と、さくらノーヘルメット!でエンジンかけて参道を走っていった。

家からとらやまでヘルメット被らないつもりか!?
青山巡査に止められるぞ!注意一秒怪我一生。

源ちゃん「えーなあー…

                 

マジで源ちゃん羨ましそう…。
もう乗りたくてしょうがないって顔(^^;)



とらや 店 


おばちゃん「ほら、社長、きれいでしょう」さくらがもらって来た玄海ツツジを見せる。
社長「春も秋もねえよこっちは、へえぇ…

どうやら社長の工場は今度ばかりはいよいよ危ないらしい。
みんなで励ますが、社長はかなり滅入っている。


そんな時、寅が上機嫌で帰ってくるのだ。

寅、クスクス笑いながら、社長を手招き。


社長「なんだよ、なにが可笑しいんだよ
寅「オレなあ、こないだおまえの夢見たよ
社長「へえ〜、たまにはオレのこと思い出してくれんのかい?
寅「オレがな、竜宮城にいったんだ

寅「おー、そしたらね、そこにタコがいるの。なぜか!
 社長、お前なんだよそのタコが。オレビックリしちゃってさあ


 
あれえ!社長何でこんな所にいるんだよ、
 お前、裏の
工場潰れちゃったのかってオレそういったらさ、
 いや、お前がさ、その目から涙ポロポロこぼしてねえオレに
 真っ黒なスミをブァッと吹っかけやがんじゃないの、


                

 
オレ目ぇさましてもさ、おかしくっておかしくっていつまでも一人で笑ってたよ、うん。
 お前本当に裏の工場潰れちゃったんじゃないのか、おい。え?


社長、かなりムカついて、寅と喧嘩してしまう。

社長「こっちはな、毎晩首くくる夢見てんだぞ!
  それをなんだ!竜宮城で乙姫様にあった夢なんか見やがって!


毎晩首くくってちゃ、いくら夢でも大変だぞ、凄い夢の連続だ(^^;)


いつもの喧嘩と言うより、社長はどことなくやはり元気がない。
しょぼくれて金策に出かけていったのだった。


寅「なんだい、人がせっかく帰ってきたって言うのによくそ面白くもねえ、ほれ」とお土産を渡す。

寅、ちょっと、社長のことが気になって、考えている。

社長がトボトボ参道を歩いていく。背中が哀しい…。



工場 夕方

夜になっても帰ってこない社長にみんな心配している。

博「こないだ、不渡り手形をつかまされて…、ま、額はたいしたことないんだけど、
 だいぶ参ってたんだァ…

不渡り手形つかまされると、人間不信にもなるから2重のダメージなんだよなあ(−−;)
さくら「
おばちゃん「その矢先に、寅ちゃんにあんなこと言われたんじゃ、涙もこぼしたくなるよね、可哀相に
博「何て言ったんですか?兄さん
おばちゃん「竜宮城の乙姫様に会いに行ったら社長とおんなじ顔したタコが
      踊りを踊ってる夢を見たんだって


博「ふー、困ったもんだなあ

まあ、夢ですからねえ(^^;)

おいちゃん「たったひとつの言葉が、人間を死に追いやることだってあるんだからなあおいおい ヾ(^^;)


寅は、それを聞いて、社長が自殺したんじゃないかと思い、外へ飛び出していく。
そして源ちゃんを引き連れて必死で江戸川一帯を探し始めるのだった。


                  

寅「
社長はやまるなよ!
源ちゃん「社長さん!
寅「社長ー!、あ、源公おまえな、矢切の渡しで向こう岸渡り、対岸をずっと下って、
  東京湾で落ち合おう!早く行け!


叫びながら江戸川を下流に向って行く二人だった。


とらや  茶の間

満男がおいちゃんの腰揉んでいる。

吉岡秀隆君初登場!

おいちゃん「何時だ?
満男、上を見て
満男「11時」                    

で、結局この後、社長は一杯飲んで帰ってきたのだ。先払いのいい仕事を
もらったので気分よく酔っていたらしい。

そうとは知らず、寅は社長を探したが見つからないので戻ってきたのだった。

社長が横にいるにもかかわらず、社長を心配する寅。社長が横にいるので、
拍子抜けしてしまって呆然とする寅だった。


さくら「お金の目安がついたからね、一安心してお酒飲んでたんだって
おばちゃん「電話もしないで
社長「友達が誘ってくれたんだよ、くよくよしないで酒でも飲もうって
社長、含み笑いして
社長「ふ…、それがな、寅さん、気分のいいバーでな、オレ、もてちゃった、フフヘヘへ
寅、いきなりタコ社長の鼻に手の平をこすり付けてグリグリする。
社長「あいた、あいたた、いててててえ!!

                   

さくら「お兄ちゃん、やめて!
博「兄さん!やめてくださいよ
と止めにはいる。
寅「なんだこのやろ!酒なんか飲みやがって!
社長「オレが酒飲んで悪いか!?
寅「あたりめえだ!てめえら江戸川の水でも飲んでろ!
社長「なんだと!クッ!!

っと寅に掴みかかる社長。

一同  「あああ!

寅、上がり口に座って

寅「オレはてっきり、社長は、江戸川に身を投げて、土座衛門になったもんだと思ってな、
  あの江戸川をどんどんどんどん月明かりをたよりに下っていったんだい、
篠崎水門まで行くと、
 社長、おまえとおんなじ姿の白いもんがポッカリ浮かんでるんだ

社長「え?
寅「オラ、竹竿でもってな、つっついてみたんだと、竹竿で突っつく仕草。
寅「そしたらおめえ、腹にガスの溜まった子豚の死骸だったの
一同 聞き入っている。
寅「それから今井押切、どんどん下がって江戸川大橋

列車の警笛  ピ〜〜〜ッ!

寅「
あそこまで行くと、川幅がグーっと広くなるんだ。
  向こう岸の浦安の灯が心細くチラホラチラホラ見えるんだ…。
  暗ーい川の面を見ていると、『そうだ、この底の方で今頃社長は…、
  ポッ!ポッ!
  ボラの餌になってるのかなあと思うと、なんだかオレは悲しい気持ちになってなあ。
 『社長ー!社長さあああん!』


 グスン、お前の名前を呼んでるうちに涙が
 ポロポロポロポロとこぼれてきてなあ…、グスン…。
 『そうだ!オレの言葉のせいで社長は死んだんだ!』」

寅、くるっと逆向いて、手を合わせて、

寅「『だったらオレも死のう!南無阿弥陀仏、

寅、題経寺の檀家だから『南無妙法蓮華経』だろ(^^;)

江戸川へ身を投げようとする
このオレを、源公が袖をつかまえて、
『兄貴!早まっちゃいけねえ!』


                   

『いいからてめえ離せ!』
『早まっちゃいけねえ!』
『いいからてめえ離せ!』
『くっくっくくくくくく……』


おばちゃん、身を乗り出して

おばちゃん「それでどうなった!?」 おいおい講談じゃないんだから ヾ(ーー )

寅「ドボーン!とそのままオレゃな、……

寅、我に帰って、

寅「んっは…、そうなったらオレはここにいねえんだな

おばちゃん「ほんとだ、はあー、よかった…ととりあえず安心(^^;)


メインテーマがゆっくり流れる。

寅「ほんとに、無事でよかった…
と、2階にゆっくり上がっていく。
寅「はああ…はああ…
社長「迷惑かけちゃったなあ今日は。 いや、オレが飲みたいって
   言ったんじゃないんだよ、友達がさそってさ

おいちゃん「分かった分かったくどいよお前は

この一連の騒動は先ほども書いたように第22作「噂の寅次郎」の社長の酒飲み騒動を
かなり再現、もしくは模写したと言ってもいいだろう。結構物語の運びが似ている。お暇な時に
両方をじっくり比べて見てください(^^)



次の日 さくらの家の前

結局寅は、なんだか、間が悪いのと、社長が羨ましくなって出て行ったのだった。

おばちゃんとさくらとの電話で
おばちゃんの声「うん、考えてみたらねえ、寅ちゃんが旅先で行方不明になったって
        誰も心配してくれる人なんかいないもんねえそれを思ったらなんだか哀れになっちゃってねえ…。
        あ、はいはい、お客さんだから、また後でね

さくら「うん

                   

この翌朝のふたりの電話のシーンもやはり
第22作のアレンジ版だ。第22作では寅は布団をきちんとたたんで
『書き置き』をして出て行った。このあたりは山田監督も苦しい日々が続いていると
見ていいかもしれない。




Aふみさんとの運命の出会いと再会



瀬戸内海

寅が小さな連絡船に乗っている。
広島県 大崎下島 豊町

遠くから寅の啖呵バイの声が聞こえる

寅「心斎橋から天王寺の一流のデパートで…」と大阪ネタも取り入れている。
おばさんたち、ゲラゲラ笑っている。

                   

豊浜町・小野浦

寅、見晴らしのいいところで一人アンパン食べている。
雪印牛乳も飲んでいる。

この場面、映画『故郷』の松下さん思い出した。
あの時、松下さんも、一人で海の見える丘でパンを食べて『浜千鳥』を歌いだすのだ…。


                   


ふみがお墓への階段を登っているのを発見する寅。

目がいきなりハート気味な寅(^^;)

寅、会釈。

ふみも軽く会釈。

あまりの美しさに寅、つまづきそうになる。

寅「お身内の方ですか
ふみ「はい
寅「旅のものですが、通りすがったのも何かのご縁、お線香の
  一本でも上げさせてくれますか

ふみ「はい、ありがとうございます
寅「南無阿弥陀仏…こんなお美しいおかみさんを残して、
  先立たれたご主人は、さぞかしお心残りだったでしょうねえ…お気の毒です


すげえ、決め付け(^^;)宗派も決めつけ(^^;)
寅ってもしふみさんが美人じゃなかったら間違いなく素通りしてただろうね。


ふみ「ふふ、
寅「え?何か?
ふみ「うち、主人はいません、これはね、おばあちゃん

寅「あ、おばあちゃん!…おばあちゃん、南無阿弥陀仏…

                   

ふみ「ふ、ウフフ・・・

野球をしている少年たちの横を通る二人。

ふみ「両親とは訳があって小さいときに分かれたんです。
  だからウチはおばあちゃんに育てられたの

寅「へえ〜じゃあ、あんたそのおばあちゃんと
 一緒に暮らしていたのか

ふみ「ううん、ウチは大阪で働いてるの、
   だからおばあちゃんに何べんも大阪で一緒に暮らそうってゆうたんだけど、
   どうしてもこの島を離れるのは嫌だゆうて、


松阪慶子さん、大阪弁ちょっと苦手そう(^^;)

寅「そうだろうなあ年寄りにとっちゃ自分の生まれ育ったところが
  一番いいんだろうな、この島いいところだしね

細い坂を下りながら
寅「大阪で何やってんの?工場勤めだろ。

                  

ふみ「ううん
寅「うそだい…じゃあOL
この時にはさすがにもう第1作のように
BG(ビジネスガール)とは言わないようだ。
寅「え?あ!郵便局、郵便局勤めてる…

照れて首を振るふみ。



船着場

寅「当分はまだこの島にいるかい?


ふみ「おってもしょうがないよ、初七日もすんだし、2、3日うちにはまた大阪にもどんなきゃ
寅「大阪に戻るか…
ふみ「お兄さんこれからどうするの?
寅「う〜ん?へへっ、風の吹くまま気の向くままよ!

ふみ「自由でいいねえ、魚みたいに…

と、水面を泳ぐ魚を見るふみ。

                   

船長「船出しますよ

寅「おう、
寅「じゃあな

と背中を向けて去っていく寅


ふみ「お兄さん、

と駆け寄るふみ。


寅「
え?
              

ふみ「名前なんて言うの?

寅「あ、そうそう、オレな、
 東京は葛飾柴又の車寅次郎って言うんだ。人は寅と呼ぶよ

                 

ふみ「寅さんね

寅「そう、えへへへ、
 …娘さん、
 あんたの名前なんて言うんだい?


ふみのテーマがギター演奏で美しく流れる。

ふみ「浜田ふみ

寅、口の中でそっと「ふみ」と言ってみて…

寅「おお、じゃ、おふみさんか

ふみ「フフ…

寅「
ああ…」と納得。

寅、うんうんと頷いて、


寅「
じゃぁな

                   

寅を見つめるふみ。

光がまぶしい…

                   

寅「幸せにやれよ、なッ

一見普通の会話だが、この一連の船着場での
やり取りは、普通の娘さんじゃ絶対できない粋な会話だ。


船がゆっくり離れていく。


ふみのテーマが流れ続ける。


寅は何度か手を振るが、ふみさんは微笑んで寅を見つめながら歩くだけで
なかなか手は振らない。この胆の据わりかたはただ者じゃない。震えがくるほど素敵だ。
このシーンでふみさんがただの娘さんじゃないことが分かる。
静かだが、凄い演出だ。私はこの演出に心底感動した。
見事な玄人どうしの粋な別れのシーンだ。


                   

そして、しだいに姿が遠ざかり寅が3度目の手を振ったのに
に応えて、ふみも日傘を振りだす。

そして今度はふみが日傘をずっと振り続ける。

今度はそれに小さく手を振り、応える寅。

そうやって、その姿が小さくなっても二人とも手を振り続けるのだった。

一期一会と言う言葉があるが、この港での短い会話と別れのシーンは、一見何ごとも
ないように見えるが、正に一期一会のしなやかなカッコいい粋なやり取りだった。

私はこの時のふみさんがとても好きだ。ただ清楚で美しいだけでなく、やはりどこか人生の
修羅場をくぐって来た落ち着きと貫禄が漂っているのだ。


                       アニメーション:龍太郎

            



大阪市 浪速区 

通天閣そば 新世界


賑わう通天閣南本通り入り口付近

                  


新世界ホテル

オヤジさん、『朝帰り』の言い訳を母親にわざとらしくしている。

初音礼子さんさすが!
大阪の『おかん』を見事に表現してました。
なかなかこの真似はできませんよ(´ー`)


おっさん「あんたの育てようが悪いネン出た!真実(^^;)

おかみさん、掃除機かけながら、ムカッ!(▼▼メ)

松鶴師匠いい味出てます。

                  


2階の寅の部屋


オヤジ「寅やん、お目覚めでっかー。

寅「あ、はあ〜〜

オヤジ「すんまへん、これ、お願いしまっさ
   なんせ、ウチのおかん、あの
クソババがうるそうてなあ、
   ウチは一応前払いって言うことになってるやろ?
   寅やんには一日分しかもろうてへんしな。
請求書を渡す。

このオヤジ、人のせいにするタイプだな┐(-。ー;)┌

                  

寅「う〜ん、オレが来て一週間になんのか
オヤジ「は〜早いもんでんな〜月日の経つのは、
    つい昨日の事みたいにおもうてたけど

寅「う〜ん、オレはもう一ヶ月ぐらいたったかと思ってたよ、まだ一週間か…、
  へえ〜、月日の経つのは遅いもんだなあ


このパターンは第14作「寅次郎子守唄」で、京子さんたちのコーラスに参加する日を待ち望んでいる寅と、
手形に追い立てられているタコ社長との月日の感じ方が真逆だと言うことでおこる喧嘩シーンに使われていた。

オヤジ「そらまあ、東京と大阪の考え方の違いはあるわなあ、ほな、たのんまっせえ

オヤジ、下りていく。

寅「はあ〜、(紙クチャクチャとまるめて)おりょ(@@;)
寅「よいしょ!
                  

(コロコロ…ポヨョョ〜ン)」アチョー(><;)

屋根を転がり、トユにポトン。

随分貯めはりましたね(^^;)


『浪花の恋の寅次郎.新世界オリジナルマップ』↓


           




大阪石切神社  参道

石切参道商店街
店の呼び込みの声

どうぞお入り、休んでお帰り、おうどんなっと、丼もんなっと…
大阪商人の布売りのバイ

隣で寅が『水中花』の啖呵バイ
寅、隣の布屋を横目で見ながら

寅「あー、あー、おい、ちょ、ちょっと、見て、ね。見るだけはタダだからさ、
 ちょっと寄って見てってよ、ねえ、どう、おばちゃーん、
 
ちょっと寄ってこうてんかあ〜、
 やすうしとくでえ〜、おばちゃーん、
 こうてんかあ、どや、ぼうや、えーー、


寅もギャグで大阪弁使うんだねえ(^^;)


寅、ため息を深くついて

寅「あーあ、大阪はだめだなあこらあ、東京に帰るか…

大阪で物を売るのはそら難しいよ。無理無理。世界で一番難しいぞ(^^;)

                  

バイネタ  『水中花』


今回のマドンナ松坂慶子さんにちなんで愛の『水中花』 


はす向かいの
干支占い(運勢)の露天


芸者役の、かしまし娘さんたち。

ここで「待ち人来る」の占いを引く芸者さんのふみ。ズバリ寅が真正面にいたもんだから驚いて…
               
ふみ「いやーうれし、待ち人今すぐ逢えるて!

ふみ、ふと、寅と目が合う。
ふみ、はっとして、近づいてくる。

ふみ「兄さん…いつかの!?

                  

寅、頷きながら、


寅「おふみさん、って言ったな

メインテーマが軽快に流れる。
ふみ、タタタと駆け寄り、手を握り、
ふみ「寅さんやね、確か!
寅「そうよ
ふみ「うわああ!
寅「ヘヘへ
ふみ寅の手を持って振る。
ふみ「
いや!ねえ、お姐さん、占い当たったわ!うち、この人に
   会いたい会いたい思てたんよー!

と、手をグイっと引っ張って歩いていく。

                  

ふみ「まるで夢見たい!
寅「ほんとだなあと、寅も興奮ぎみ。
ふみ「いやあ嬉しいー!!

寅「フフフ


石切参道商店街

ある茶店

寅たち4人が、ビールを飲んでいる。
みんなで大笑い。ふみは寅とのなれそめをお姐さんたちに話すのだった。


                  
一同「キャー!!

芸者A「よう言うわー!
芸者B大笑いしながら芸者Aをペチ!
芸者B「そやけど、ほんとに、お宅さん綺麗な言葉ですなあ〜、
    もううちさっきからうっとりして聞いてましてんでええ。
    やっぱり男はんは
東京弁やなああ〜

芸者A「そらあ、東おとこ京おんなって言うさかいなあ〜
寅「大阪の女もなかなかいいぜえよう言うわ(−−;)


みんなで街に繰り出すことになって、
ふみ、立って、勘定を払いに行く。

寅「おーっとっと、おふみちゃん、それはいけねえよ。これで勘定してくんな
と、札入れをさっとなにげに渡す寅。
出ましたお馴染み『財布ギャグ』(^^)/ 

ふみ「
いやあ
寅「いいから、持ってきな
ふみ「へえ、おおきに
寅「

                  

芸者A「うわああ、カッコええわああカッコだけカッコだけ ゞ( ̄∇ ̄;)
寅「フフフ中身確かめろよな寅(−−)

ふみ、レジまで行って

ふみ「すんまへん、なんぼ?
店員「へえ、おおきに、4千300円です
ふみ、寅の財布の中身見て、あ、っという顔をして、すぐに
ふみ「へえ

と、言いながら、自分の財布を出して、1万円を渡す。


店主「へえ、1万円お預かりします

ふみ、自分の赤い財布を一旦ハンドバックの中に入れる。
寅の蛇革の札入れをしっかり出して両手で見ている。


この人間の機微。演出がいいですね。



座敷では芸者たちが寅に

どうもごちそう様です
寅「
いいえ、とんでもない

店員「ありがとうございました、5千700円のお返しです

ふみ、胸元に、寅の札入れを差し込んで、
お釣りを手で受け取り、もう一度自分の財布を取り出しておつりを
そっと自分の財布に入れる。


寅のメンツを壊さないように、そしてお姐さんたちにも
わからないようにしているんだね。 ほんと決めの細かい演出だ。


寅はノーテンキだね。
普通分かるよ、おおよその自分の所持金くらい(^^;)

第21作「寅次郎わが道をゆく」でも、あの留吉にも
こんなことやって、やっぱり留吉が自腹切っていた(TT)





大阪 新世界

夜の通天閣の遠景が映る
お馴染み『日立ルームエアコン』のネオン

星影のワルツが流れる。


新世界市場の看板

新世界ホテル

松鶴師匠扮する、遊び人のおっさんがボケェっと座っている。

このおっさん、いつもこのロビーで寝てんのかいな?
寅、酔っぱらって星影のワルツを歌いながら帰ってくる。
              

ガラス戸が開いて、

ふみが走って入ってくる。

ふみ、寅の肩にかけていた背広をすっと脱がせる。
なるほどね…(−−)

寅、上がって、
寅「どうだい、ちょっと汚い部屋だけど、上がっていくか?
ふみ「姐さんたちが、タクシーで待ってるから
寅「そうか、じゃ、引きとめねえ
ふみ「あ、そや!これ、お財布!

と戻ってくる。

見送りに言ったオヤジも一緒に戻ってくる(^^;)

寅「おおお、そうか、ん、なんでい、こんなもんで足りたのか?
ここまで自分の持ち金に無頓着だとスガスガしいよ(^^)

今日の分ぜ〜んぶ、ふみさんが出したんだね、
間違いないよ、4人分高くついたなあ…(TT)


ふみ「
へえ、じゅうぶん
寅「うん
と言いながら札入れの中から数千円を出す。


オヤジも中身を覗いている。
寅「あ、おふみちゃん、ちょっととお金を手渡す。

ふみ「何これ?

                 

寅「少ないけどタクシー代の足しにしてくれ
あ〜これだもんなあ(^^;)

ただ、大阪人で、こういうことやる人少ないですね。

笑福亭松鶴師匠扮する『おっさん』驚いて
口の中で「うわ…

ふみ、寅の札入れをぶん取って、手渡されたお金を、挿む。
そして、すぐに寅に戻す。


ふみ「寅さん、うちは芸者やさかい、お客はんからチップもらうことぐらいあるわよ。
   ほんでも寅さんはお客やないの、友達よ。
   友達どうしでチップなんておかしいんと違う?


オヤジもうなずいて

寅「
そりゃそうだ
ふみ「二度とこんなことしたら、もうつき合わんから
寅「わかったよ、おいらが悪かった」        
ふみ、少し照れて、下を向き、
ふみ「ほな…お休み

                

マンドリンの静かな曲が流れる。


入り口の戸のところで止まり、優しく笑って

ふみ「今日は、楽しかった

寅「そうかい

ふみ、頷きながら、戸を閉める。

寅、軽く手を上げて別れる。



寅「はあー

オヤジ、いつまでもボーっとふみの後姿を見送っている。

完全に2人とも目がハート×100  (* ̄▽ ̄*)( ̄▽ ̄*)

                



通天閣のネオンを背景に、
寅の手紙のナレーションが聞こえる。


寅の手紙のナレーション

さくら、元気か。オレは今大阪で暮らしている。



Bふみさんの弟を探す寅と意外な結末

東京 葛飾柴又   雨

とらや 台所   

みんなで寅の手紙を読んでいる。

寅の手紙のナレーション

住み着いてみりゃ、大阪はいいところだ。
人情は厚いし、食べ物は美味い。
この土地はオレの性に合っているらしい
ほんまかいな(^^;)

おいちゃん、さくらに手紙を渡す。

さくら「はあー、ねー、ずっと大阪にいたのよ
おいちゃん「大阪と寅か…、
       あんまり相性よくねえみたいだけどなあ
んだんだ(^^;)
おばちゃん「いつか大阪なんかだいっ嫌いだって
      言ってたよお、『
おまへん』だとか『そやさかい
      なんて言葉聞くとジンマシンがでるって

さくら「関西の料理は薄味で食べた気がしないなんてね

とは言うものの、それまでも、第1作奈良、 第2作京都、第3作三重、第8作岡山、第17作兵庫、
第24作和歌山、…等々けっこうな割合で『関西圏』で活動している寅です(^^;)


おばちゃん、頷く。


おいちゃん「その寅がなんで大阪をそんなに気にいったんだい??

★おばちゃん、はっと気づいて、さくらの腕を持つ Σ( ̄ロ ̄|||)

★さくらもほぼ同時に気づいている 
(; ̄▽ ̄)

★おいちゃんも、ほぼ同時に
あっと気づく (* ̄○ ̄)

みなさん、さすが『寅プロ』。今までのデーターが、
走馬灯のように頭を駆け巡って、全てを理解されました
(^^;)

立っているタコ社長得意げに、

社長「言っていいかい?
おいちゃん「は?と見上げる。
おばちゃんとさくらも見上げる。

社長「原因はオレに言わせりゃ簡単だよ、ほらあ、あ…
おいちゃん「言ううう〜〜なって!!分かってんだからそうそう(^^;)

                       
ほらあ…

                  
  

社長「ち、…さて、銀行行ってくるか、雨の中を
と言って、ヘルメットを被って、カッパを着て店の前に行く。
おばちゃん「それからなんて書いてあったんだっけ
さくら「ん、『オレが今いるところは、東京で言えば、浅草みたいな賑やかなところだ、
   とても便利だが、いつまでもホテル住まいは高くつくので、そのうち安い下宿を見つけるつもりだ』


社長、ヘルメットをつけて、バイクに乗り

社長「浪花の恋か、いいなあ、ちくしょーっと走っていく。

寅の手紙のナレーション

明日は弁当持ってお寺参りに行く。朝早いから今日はこれで寝る。
 おいちゃん、おばちゃん、裏のタコにもよろしく言ってくれ、

                               兄より


さくら封筒の中に手紙をしまう。


いつものことながらちょっと心配してしまうさくらだった。

                  






ふみのテーマが軽快に流れる。


奈良 生駒山中腹 
寅とふみ、「宝山寺駅」で下車、

寅「これ登るのか!?うわあ〜坂道もっと嫌いな寅(^^)
ふみ、笑いながら、寅の背中を持つ。
石段を上りながら、フーフー言っている二人。

ふみ「
いや、こんな山の上に大昔どうやってお寺建てたんやろ
ふみのほうがフーフー言っている(^^;)
寅「オレの故郷にだってこういうお寺あるよ。帝釈天

ふみ、寅の腕を組んで、登っていく。

                  


寅「これより小さいけどな、その参道にさ、店がずーっと並んでて
  団子屋があるんだよ。その中の一番古い団子屋がオレの家だ


ふみ「いやあ、そんな古いん…
寅「ああ
ふみ「ふうん、いつ頃建てたん?
寅「あーあれはね、奈良時代かな、きっと

このパターンは第38作「知床慕情」でも出てくる。その時はりん子さんに鎌倉時代だって言ってた。
『弁慶が団子食ってる写真あるよ』って言ってたらしい。茶の間にその時の証拠写真が飾ってあった(^^;)


ふみ「…?
寅「そこに古びた夫婦がいるんだけど、
 あの二人も奈良時代からいるんじゃねえかな、きっと
ひでえ(^^;)
ふみ「ふふふ、また嘘言うてぇそらそうだ(^^)

家族連れの女性がふみを呼び止める。


女性「すみません奥さん
ふみ「はい?や、うち?
嬉しそうなふみ。


                  



男性「お宅はお子さんまだですか
ふみ「はい、まだですふみさん、『ごっこ』してます(^^;)

カシャ


寅、そのセリフ聞きながら照れまくり。
普通は、寅とふみのカップルは玄人通しに見えて、
『夫婦』には見えないけどなあ…(^^;)




宝山寺  境内

絵馬堂

絵馬に二人とも何か書いている。

『妹さくらとその一家がしあわせになりますように。 寅次郎 』

ふみ「へえ、寅さん妹おんの?
寅「うん、さっき話した団子屋で働いてんだよ

たぶん給料はもらってないと思うけどね。現金は貰わないけど、
料理を食べさせたり、銀行の担保に土地を預けてやったり、持ちつ持たれつだね。


ふみ「ねえ、妹って可愛い?
寅「べーつにぃ〜、
 何だか姑みたいに文句ばっかり言ってるよ、ヘヘへ


                  


寅「ふみちゃん、何書いたんだい
ふみ「ん?寅さんにええお嫁さんが来ますようにって
寅「うそだ〜ぇ、うそだよー、そんなこと書くわけないよ、フフ、
 でも、ちょ、ちょっと見せてやってくれる?

ふみ「あかん、いや、いやーと隠そうとする
寅「ちょっと、見せてよと、さっと取ってしまう。
寅「ハハハ
寅、絵馬を眺め、はっとする。

弟が幸せになりますように。    ふみ

                  


ゴーン

寅「弟がいたの?

ふみ「うん                 

寅「へー、両親が早く亡くなって、おばあちゃんがこの間死んで、
 一人っきりになったってそう言ってたじゃねえか

ふみ「母さんが家を出る時、ちいちゃい弟連れてったんよ
ふみ、絵馬を棚に奉納しながら、
ふみ「まだ、五つか六つやったけどねえ…昔のことよ

いろんな事情が複雑に重なっていそうだね…。



参道の食堂

で、結局、寅は生き別れになってしまった弟に会いに行くようにふみさんに強くすすめるのだった。
それでも怖気づくふみさん。自分の職業や、弟が自分を覚えていなかった時の辛さを想像してしまうのだった。

寅「どうして会わねえんだ

ふみ「おうたってしょうないやない。
  こっちは懐かしいとおもたかって弟はうちの顔なんかろくに覚えてへんのよ、
  おまけに芸者なんかしてるんやもんね、嫌な顔されるのがおちよ

                  

ふみ、ちょっと淋しそうに笑って、ビールを持って

ふみ「はい」と注ごうとする。

寅、真剣な顔になって

寅「
いや、ちょ、ちょ、ちょっと待てよ

メインテーマがゆっくり流れる。

寅「
五つか六つの時に別れたんだろ
ふみ「うん
寅「じゃあ、覚えてるよ、弟は忘れやしないよ。よーく覚えてるよ。
 毎晩抱いて寝てくれた姉ちゃんのことをさぁ。

 オレだってガキの時分にウチ出て長い間フーテン暮らししてたよ、
 だけど、片時だって肉親のことは忘れなかったよ。
 会ってやれよ。こんな広い世の中にたった二人っきりの
 姉弟じゃねえか、会いたくねえわけはねえよ、な


ふみ、考えている。

                  


寅「
オレ、一緒に行ってやるよ
腕時計を見て
寅「まだ昼だから
ふみ「え?今日?
寅「あたりめえだよ、思い立ったらすぐ行こう!はやく!ほら!

第2作「続男はつらいよ」のあの時の散歩先生と同じ。
散歩先生は京都で寅に産みの母親に会うことを
強く勧めた。この気持ちを寅はしっかり受け継ぎ、今、ふみさんに伝えている。

寅もさくらに20年間会わなかった苦い過去があるのだ。



道路 「神戸、九条方面」

タクシーが大阪港に向かって走っていく。


大阪市港区波除6丁目付近

山下運輸の大きなトラックがゆっくり走っている。
『安治川大橋』近くの倉庫群の道を走るタクシー。


このシーンで5秒ほどバックミラーに白いキャップを被った
山田監督の顔が映りつづける。お宝映像


    

                  


第18作「寅次郎純情詩集」で、柴又駅での電車のガラス窓に映る
山田監督とともに、このバックミラーの山田監督は印象深い


運転手「あ、あっこですわ。あの大きい倉庫、山下運輸や、
  もう、ごっちゃごちゃしたとこやなあ、んまあー



山下運輸株式会社

寅、頭下げて

                  

寅「
あのー、水上英男という男おりませんでしょうか?
主任さん、ドキッとして、
主任「えー…、水上君?

主任さんに案内されて二階へ上がっていった二人は…


                   



2階事務所

寅「どうしたい?あ、そうか、英男君はもうこの会社辞めちゃって、いないんだろ?ね

主任「いいえ、そうじゃないんですわ…
寅「んん
主任「あの、実はですねえ…
一同沈黙
主任「まあまあどうぞおかけください
3人とも座る。
主任「お姉さん
ふみ「はい
主任「水上君は…、もうこの世にいないんです

                  

寅とふみ「……

                   



主任「つい最近なんです、えー、先月の…あれ何日やった?
吉田「二十四日や、給料日の前
主任「急に、こう胸が苦しいちゅうてね、ここで休んでる時に言われたんです。
  それで、車に乗せて、市立病院に連れてったんです。
  えーっと、冠動脈…

吉田「心不全
主任「そう言う心臓の病気でね、すぐに手術せないかん、ちゅうて、ようさーんその血液もいる
  ちゅうんでね、会社の大方の連中みな集めまして、病院へ詰めたんですけどんね。
  大変難しい手術で…、結局…そのままちゅうことなりました…


ふみ「……

ふみ、ただ呆然と主任を見ている。

主任「あの…、手術室に入られる前に、みんなでぇ、『がんばれよー』ちゅて言いましたら、
 『ありがとう、ありがとう』ちゅて、ひとりひとりに丁寧に礼をゆうて…、
 それが最後の言葉でした。

 いやぁ…なんと申し上げていいやら、お姉さんがおいでやったんですかあ…、
 水上君生きてましたら喜んだろうにねえ…


主任、部屋の角に置いてある遺影を指して

主任「…ああ、あれが英男くんです。口数の少ない、いい男でしたぁ

英男君の遺影と一輪のピンクのバラの花
緑の帽子『MINAKAMI』


                  


遺影を見つめるふみ

                  


従業員のみんな2階へ上がって来る。

吉田「おい、おいちょっと!おい!
従業員「え?
吉田「この女の人な、英男の姉さんや
主任「こちらがご主人

寅「いや…、ちょいとした身内だ

主任「あ、どうも…と恐縮。

ふみ、急に身を乗り出して

ふみ「なんでウチにゆうてくれなかったんです?なんで!?
   ウチの弟やのに、
   なんでウチに一言ゆうてくれなかったんです!?


                  


寅「おふみちゃん、そりゃしかたがねえんだよ、な、
 ここにいる人たちゃ、誰も姉さんがいるなんてこと
 知らなかったんだから…そうだろ、な。

ふみ「……」 
主任「私たちの調べが足らんかったんです
寅「葬式はどうしたんだ?
主任「一日会社休みにして、
  私たちの手でさせていただきました
  この部屋片付けて祭壇こさえて、
  見かけは、貧しくとも心のこもった
  お葬式やったと思っております

寅もふみも下を向いている。

主任「お骨は若狭からお見えの叔母さんちゅうかたが
  持って行かはりました


ふみ、泣きながら立ち上がり窓のほうへ行く。

リリーのテーマ(11作、15作)の
アレンジバージョンが流れる。


外を見ながら

涙がとめどもなくこぼれ落ちるふみ。


                  


安治川河口を小さな遊覧船が走っていく。
手を振る子供。


寅、立ち上がり

寅「
どうもみなさん、英男が大変お世話になりました。
  ありがとうございました


と、深々とお辞儀をする。               

従業員一同恐縮してお辞儀。
寅、もう一度深々とお辞儀。
従業員たちも、もう一度深々とお辞儀。




安治川大橋の橋向こう。

此花区春日出一丁目 英男君のアパート『
松風荘


寅とふみが座敷に座っている。

ふみ、壁に貼ってある絵を見つめている。

一本の傘を差すお姉さんとと子供の絵』だろうか。

英男君の心がこの絵に表されているのかもしれない。
もしそうだとしたら、英男君の大事にしていた
心の中をふみさんは垣間見ることができたの
かもしれない。


                  


アパートの前に自転車が止まり、
若い女性がこちらにやって来る。

信子「おばちゃん、こんにちは

アパートのおばちゃん洗濯物干しながら

おばちゃん「元気になったかぁ!?

↑このアパートのおばちゃんの「元気なったかァ!?」
という言葉の波長は、とても心地よいものだった。
浪花の人情の懐をひしひしと感じました。

信子「うん
寅、下でのやり取りを窓から覗いている。

信子、階段を急いで上がってくる
信子、息を切らして入り口に立つ。
吉田「
仕事、大丈夫やったかな、抜け出して
信子「
うん                
吉田「そうか、入り
信子、ふみを見てちょこっとお辞儀。
ふみ、信子をみてちょこっとお辞儀。

信子、流しでコップに水を入れて飲む。
吉田「英男君の友達で信子ちゃんって言いますねん、
   この近所で働いてるもんやさかい、今ちょっと、電話しましたんや

吉田「信ちゃん、この方が英男君のお姉さんや。…で、こちらがご主人
吉田君、「ご主人」じゃないよ。事務所での会話覚えてろよな ゞ( ̄∇ ̄;)

寅、びくっとして
寅「
いや、オレはちょいとした身内よ
吉田「あ、そや、親戚の方や
信子、座って
                 

信子「こんにちはとお辞儀。
ふみもお辞儀。

寅、信子の前にかがんで
寅「お姉ちゃん、もしかしたら恋人だったんじゃねえか?

                 


信子「少し、微笑んで下を向く
吉田「実は…、この秋に結婚する約束しとったんですわ

寅、小さく頷いて、

寅「……、それじゃあんたが
  一番悲しい思いしちゃったなあ

信子「あんまり急やったから、どないしていいかわからんと、泣いてばっかりいました

寅、小さく頷く。

ふみ「…どうもありがとう。
   いろいろお世話になったんやね、きっと


                  

信子、少し微笑んで、
信子「あ。…いいえ、
信子「あ、吉田さんお茶も入れんで
吉田「そやな、あ、急須あったかな?
信子、立ち上がって、
信子「ウチがする

お茶の缶開けて、


信子「あー、お茶ッ葉が無いわ。下のおばちゃんにもろてくるわ

吉田「そやな
と急いで、外に出ようとして、ドアのところで止まる信子。
ふみのほう、振り向いて

信子「ウチ、英男さんから聞いてました、お姉さんのこと

                

ふみ「え…」と驚き、

ふみ、身を乗り出して
ふみ「…なんて言うてた?

信子「お母さんみたに、懐かしい人や、…

   とっても会いたがってました


                  


を潤ませて外へ出て行く信子。

信子の姿を目で追いかけるふみ。


                  


第16作(お雪さん)順子のテーマが緩やかに流れる。

階段の上で遂に泣いてしまう信子。

                 

ふみ「寅さん

寅「ん?

ふみ「お茶飲んだら帰ろ…、ウチ辛い、この部屋にいるの

寅「そうだなそうするか

ふみ「今晩大事な座敷もあるし

寅「なんだい、今夜ぐらい休めねえのか?

ふみ「休めんの…、ウチ、芸者やさかいな


              
英男君の町、オリジナルマップ(龍太郎作)

              



英男君は信子ちゃんにはお姉さんのことを話していたのだ。
自分を毎晩抱いて寝てくれたお母さんのように温かく懐かしい人。
会いたい会いたいと思い続けてきた十数年だったのであろう。

職場の名前を知っているふみさんは、踏ん切りさえつけば会いに
行くことができたはずだが、弟の人生の邪魔をしたくないばかりに、
今日の今日まで会いにいけなかった。自分のようなものが会うと
かえって迷惑なのではないかと思っていたのだ。

勇気を出して、もっと早くに会いに行けば話もできたし、
英男君の運命も変わったかもしれない。
悔やんでも悔やみきれないやるせなさがふみの心に残っていった。
ふみは遂に本当にこの世の中で一人ぼっちになってしまったのだ。



Cふみさんの涙と戸惑う寅


 みなみ  道頓堀界隈 

グリコの大きなネオン

道頓堀 から心斎橋筋

『宗右衛門町通り』

ふみが難波方面から道頓堀の橋を渡って
心斎橋筋から宗右衛門町通りを歩いていく。


板前さんの格好をした誠、道に出てきて
誠「ふみさん!

ふみ「こんばんは
誠「何べんも電話したんだ。相談があって
ふみ「ごめんねー、朝から出かけてたんよ、また今度
誠「うん

ふみの誠さんに対する対応はごく普通。
この時の短いやり取りの感触では決して『恋人』ではない。


                  


ふみ、老舗の料亭に入っていく。


料亭座敷


ふみ、悲しみの限界が来て席を立つ。
ふみ、廊下に出て、走っていく。

芸者A「ちょっと、ちょっとあんた、どこ行くの?
ふみ「お姐さん、すんまへんウチ気分悪いさかい帰らしてもらいます
と拝むようにお辞儀をし、小走りで帰ってしまう。


廊下で料亭の女将と会い、

ふみ「
お母さん、すいません」]
女将「どないしたん?
女将「ちょっと、蝶子はん?と、追いかけて行く。

第45作のマドンナ「蝶子さん」の名前が
すでにここで使われていた。


遠くで三味線の音。



通天閣の夜景 深夜

新世界ホテル  寅の部屋

ドアが開いて
オヤジ「寅やん…寅やん!

                  


寅、布団を被っている。
寅「なんだ、こんな夜中にうるせえな!
オヤジ「起きてえな、寅やん。あの子が来てるがな、
  ほれ、いつかの芸妓はん


寅スクッと起きて
寅「おふみちゃんか?
オヤジ、頷いて
オヤジ「えらい酒に酔っぱらってはるでえ

ふみ部屋に入ってきて
ふみ「は〜、…お父さん、お酒くれへん?
オヤジ「へぇへぇ、ただいま…


ふみ「今日はいろいろありがとう寅さん…
寅「い、いや、いいんだいいんだ、な

寅、自分が飲んだお銚子を片付けだす。

ふみ「せっかく弟と会えると思って楽しみに行ったのにねえ、
  あんなことになってしもうて…


                  


寅「もう、その話はいいよ、な。辛くなるばっかりだい。
 それよりよ、酒でも飲んでパッと陽気になろう、な


寅、いくらなんでも陽気にはなれないだろう、さすがに。

ふみ「けどねえ、うち安心したの。
   ヒデは身寄り頼りもなくて、一人で寂しゅう暮らしてたんやにかと思てたんやけどね。
   ぎょうさん仲間の人がおってくれて、みんなで心配してくれて、
   それに恋人までおったんやもんね


と、寅の手を掴んで納得しようとするふみ。

寅「そうだよ。あんな可愛い子に惚れられてよ
ふみ「うん
寅「弟はほんとに幸せもんだったんだよ、な、そう思いな

と、ふみの手を彼女のひざに置く。

ふみ「でもあの子可哀想やねえ…、
  恋人に死なれて…、これからどないするんやろ…


                  


寅「いや、おふみちゃん、そりゃあ心配いらないよ
ふみ「なんでぇ?
寅「そら、今は悲しいだろうけどさ、ね、
 月日が経ちゃあ、どんどん忘れていくもんなんだよ

ふみ「……
寅「忘れるってのは、ほんとうにいいことだなぁ…

この言葉、心にズーンと沁み入るなあ〜( ̄ー ̄)

ふみ「………
寅「一年か二年か経ちゃ、あの娘もきっと
 新しい恋人ができて幸せになれるよ

ふみ「…せやろか…、忘れられるやろか…
寅「忘れられるよぉ!体験したオレが言ってるんだから
  間違いありゃしないよ


寅、ニカっと笑う。

                  


ふみも同時に

ふみ「フフフ
ふみ、寅の手を握り、
ふみ「寅さんも体験者?
寅「いや、オレ、ほら、頭悪いから、すぐ忘れちゃうんだよ!へヘヘヘ、エ〜エッ
ふみ、吹き出しそうになって、大笑い。
寅は半年に一度ほど連続体験してきました。そうとう忘れ方が激しいですね(^^;)
寅「酒が遅いな
と、ドアのところまで行って、ドアを開け
寅「おーい、おっちゃん、酒まだか?

オヤジ下から声
オヤジ「へーイ、ただいま
ふみ、暑いので窓の方へ行って窓を開け腰掛ける。
ふみ「今夜は暑い
寅「んー?あー、明日はひと雨来るか
ふみ「星が出てるよと指差す。
寅「ん、じゃあ天気になるだろう適当やなあ(^^;)
ふみ「ひとーつ、ふたーつ、みっつと、星を数える。

                  


ふみ「♪わかれ〜るこぉぉ〜と〜は、辛い〜け〜ど〜、
  しかたぁ〜がぁないんんだ、君の……

ふみ「……

ふみの目にみるみる涙が溜まる。
ふみ「うち泣きたい…
              
寅「ぇ…

ふみ「寅さん泣いてもええ?

寅「え…

と、小さく驚く寅


                  


『リリーのテーマ』のアレンジバージョンが流れる。

ふみ、寅の胸にもたれかかり、そして膝に頭を乗せ、
うつ伏せで号泣する。


                     
                   

ふみ「なんで、なんで、
 めぐり逢わせ、悪いんやろか、うちは…、
 ウウウ、ウウウ!

寅「……」                   
寅「…泣きな、な、いくらでも気のすむまで泣いたらいいんだよ、な
ふみ「ウウウ、ウッ、ウ…と泣き続ける。

オヤジドアを開けて

オヤジ「お待っとうはん、
  あいにく冷蔵庫の中が、…!!

オヤジ二人の様子見て仰天(^^;)
オヤジ「うわあぁ、すいません、何も見てまへん見てないと言えない言葉だね(^^;)

と、目をつぶりながら後ろずさりでドアを閉める。

階段を踏み外す音

オヤジうああああああ!ドタドタタ!(_ _;)

一階のロビー

下まで転げ落ちて、片一方の
スリッパだけ後から落ちてくる。


オヤジ「痛あ!あーいたあ!は
オヤジ、おでこを擦りむいて、手の指に血がつく。
血に気づいて
オヤジ「は!血ぃや!!お母ちゃん!血ぃ出てるわ!!血ぃ
こりゃあきまへん┐('〜`;)┌
                

おかみさんやって来る。
オヤジ「血ぃ出てんねや、ほれ、ほれ

典型的な大阪のアホボンオヤジ ( ̄o  ̄;)
芦屋雁之助さん超十八番!上手すぎ!





2階の寅の部屋


ふみが、寅の膝で寝かかっている。

かなりきつそうに寝返りを打つ。



寅「おい、大丈夫か?
ふみ、寝言のように
ふみ「
寅さぁん、ウチねむい、今夜ここに泊めてぇ…

と、つぶやく。

                  

メインテーマがゆっくり静かに流れる。

寅「え…、あ、いいよ、こんなうす汚いとこでよかったら
  ぐっすり寝たらいいよ

ふみ「おおきに
寅、ふみの頭が重い。
かなり我慢するが限界が来る。
ふみの体越しに座布団を枕代わりに
取ろうとする、

寅の体がふみに触れて、
ふみ「なあにぃ?
寅、ビビッて、やめ、
机の向こうにある座布団に手が掛かる。

                  


寅、その座布団を諦め、
後ろにある座布団を引っ張り出して

膝の代わりに、ふみの頭に座布団を乗せてやる。

ふみ、少し意識が蘇って
ふみ「寅さん…
寅「え?ここにいるよ。大丈夫だよ

膝の痛みで足を引きずりながら、布団の場所まで行き、
掛け布団を取ってきて、ふみに掛け布団をそっとかけてやる。



寅、窓を閉めて、

電気を消す。

ふみ、もう一度寝言のように
ふみ寅さん…
寅そっと外に出て行く。
ふみ、寝言
ふみ「は〜…

                  


1階の台所


寅、台所に入ってきて、酒を持ち、コップに注ぐ。
寅「今夜…、おまえの布団で寝るからな…
オヤジ、寅の方を向き
オヤジ…?
寅「おまえ、おっかさんのオッパイでも握って寝ろ
握ってって…(^^;)


                  


オヤジ「なーんで自分の部屋で寝えへんねん?
寅「あの子が寝てるのよ酒を飲む
オヤジ「へええ……、あんたはワテの部屋で…
寅、黙って酒を飲み、おかずを食べている。
オヤジ、寅を見て
オヤジ「へええ…
と首をかしげて出て行く。




新世界 夜明け近く
新世界市場のそばの空

新世界ホテル1階ロビー
ふみが、階段をそっと降りて外へ出て行く。


                  




寅の部屋

寅が置き手紙を読んでいる。


                 



ふみの置手紙   広告の裏に書いてある。


夕べはごめんなさい。

ウチがこの部屋に泊まるのが迷惑だったら
そう言ってくれればタクシー拾って帰ったのに。

これからどうして生きていくかひとりで考えていきます。
寅さん、お幸せに。 

さようなら  ふみ 



窓を見る寅
ふと、立ち上がって、ドアを開け
階段上からかがんで下を見て、

寅「おっさん!
オヤジ「へえー

                 

寅「引き揚げるから、勘定してくれ

あー、また逃げるのかい寅…。

ふみさんは人の中で揉まれて来た大阪みなみの
売れっ子芸者さん。
その彼女が悲しみの底にいるとは言え、深夜寅の
部屋にやって来て、泊めて欲しいと言う。全てを覚悟して、
能動的に寅のところへ行ったはず。
だからこそ、「私がこの部屋に泊まるのが迷惑だったらそう
言ってくれれば…」と、置手紙を書いたのである。
寅は、この夜のふみさんの気持ちをやはりギリギリでは
受け入れることができなかったと言えよう。

結局寅は、この期に及んでも
逃げの行動しかできない
のである。この行動を、寅の優しさ、と捉えることもできる。
ふみさんの人生に責任が取れそうもない寅が、理性を持って
部屋を後にした、と考えても良いのかもしれない。
ましてや、あの夜、ふみさんは弟のことで参っていたから、
なおさら、そっとしてあげたかったのであろう。

しかし、ふみさんの気持ち的には肩透かしを食った淋しさ、
つまり、寅に自分が思われていなかったと分かった落胆は
とても辛いものであったろうことは想像に難くない。

もちろん、それはふみさんの誤解で、寅はふみさんに
惚れてはいたが、例によってプラトニックなものなので、
時としてそのことに女性は傷つき、寅を誤解する。





通天閣本通りを歩く二人


オヤジ「そやけど、もし寅やんがおらんように
    なった後でもしあの子が訪ねてきたら、わてどない言うたらええねん

寅「訪ねちゃこねえよ
オヤジ「そんなことはわからへんがな
寅「いや、来ねえ!もし来たとしたら、そのときゃ、
  あの男は東京へ帰ったとそう言ってくれれりゃいいんだ

オヤジ「なんでやねん、なんでそない逃げるようにして帰らないかんねん
寅「男ってものはな、引き際が肝心よ…

オヤジ「わかりまへんなあ、そない格好ばっかりつけてたら
  おなごはんはものにならんでぇ、そら、ちょっとぐらい
  格好悪うても、アホやなあと言われても、とことん
  付きまとって地獄の底まで追っかけてぐらいの根性が
  なかったらあきまへん、この道は


                  


寅、地下道への道の前で止まり、

寅「
ありがとうよ、いいこと教えてくれてと、にっこり笑う。

寅、もろ口だけ。ほとんど聞く耳持たなかったりして(^^;)
両者の『恋愛感』には養老孟司さんが言うところの
『バカの壁』がそびえ立っていて、交わることはないようだ。


オヤジからかばん受け取って、少し歩く。

じゃあおっさん

オヤジ「もうお別れか…

寅「世話になったな


と、階段を下りてゆく。

オヤジ、寅の背中を名残惜しげに追っている。


寅、振り返って


寅「あ、勘定の残りは必ず送るからな

うそばっかり、どうせまたさくらが…(−−;)

オヤジ「大阪に来たらまた顔出してや

寅、踊り場で、もう一度振り返って、

寅「
かあちゃんと仲良くやれよと言ってすっと消える。
                 

オヤジ、独り言をつぶやく

オヤジ「あーあ、淋しなるなあ、あの男がおらんようになると

ほんとほんと(−−)


ちなみに、第39作「寅次郎物語」では天王寺駅前まで秀吉と来ながら、
目と鼻の先のこの縁の深い「新世界ホテル」に宿泊しようとしないのは何故だろう?
見ず知らずの宿に泊まっていた。
もっともそのころはもうすでに潰れて倒産していた可能性はあるが(^^;)



新世界ホテルのオヤジの助言とは、ある意味正反対の寅の生き様。
女性を大事にし、引き際を考える寅。それは一見男の美学に見える
かも分からないが、第48作「寅次郎紅の花」でリリーが啖呵を切る
ように、実は寅のこの手の行動は、寅に気がある女性にとっては
決してカッコいいわけではなく、臆病でエゴイスティックな行動でしか
過ぎないとも言える。
しかし、『覚悟』というものを持てない風来坊の寅は、こういうふうにしか
生きれない人間なのである。

私たちにとっては歯がゆいが、いい悪いの問題では決してないとも思う。
そのような風のように生きている寅だからこそ与えることができる幸せの
かたちがあるのだろう。

寅には寅の独特の人生がある。ただそれだけだ。
寅は常に美しい幻影を追いかける哀しいロマンチストだと
言ってもいいと思う。

私はそんな寅が好きだ。




D恋やつれの寅とみんなの心配

柴又帝釈天  参道

源ちゃん、エレファントマンの格好で遊びながらとらやに向かう。

おばちゃん「もう梅雨も上がんのかしら

さくら「九州や対馬の方ではもう梅雨は上がったって言ってたわ
おばちゃん「ふーん、ほんと
さくら「ハイ、ご苦労様
源ちゃん「なんぼでっしゃろ
さくら「え?
源ちゃん「なんぼですか?
さくら、はっとして
さくら「あ、あああ、お金のことね。8千円

さくら「源ちゃん大阪弁だから分かりにくくて

おばちゃん「こっち来てから随分になるのに、
      いつまでも抜けないんだね源ちゃんの訛りは


大阪弁は『訛り』とは言わない。
大阪は西の都であるからこれはこれで、『訛り』といわれると嫌がる人が多い。
大阪の人にとっては大阪が日本の中心だからだ。
東京の人には意外にそういう中心意識はない。

さくら、1万円渡されて

さくら「
へ、おおきにとお茶目に首を傾けるさくら。

おばちゃん「フフフ

さくらお釣り取りに行く。

おいちゃん出てきて

おいちゃん「大阪といやあ、寅の奴どうしてるかなあ…


おばちゃん「ほんとだ、随分になるねえ、
    いつか手紙が来てっから



あの幸福そうな手紙がとらや着いた頃にはすでに寅はふみさんと
別れているのだ。うそのような本当の話。宝山寺へのお参りの
前の晩にさくらたちへ手紙を書き、宝山寺参りの当日、ふみさんは
弟の会社へ行き、その夜に寅の部屋に来る。そして翌昼には寅は
新世界を後にするのだ。早い早い。

おばちゃんの発言から考えると、梅雨がもうそろそろ明けるって言ってたし、
2週間くらい経っているのかもしれない。
東京へ帰る汽車賃捻出するためにどこかでバイをしていたのかも。



さくら「下宿探すなんて言ってたけど、どうなったのかしら?

おいちゃん「あいつがひとっところにそう長くいるわけねえけどなあ
と、タバコ取り出す。

おいちゃんはいつも寅の本質をよく見てるよなあ。

源ちゃん、ビクッとして駅の方角を
振り向いてシゲシゲ見る。

さくら、源ちゃんを見て「???

源ちゃん「兄貴!

さくら、その源ちゃんの声を聞いて道に飛び出す。

さくら「おかえんなさい、お兄ちゃん

                  


おいちゃん「いやあ
おばちゃん「おかえり
おいちゃん「よく帰ったな

寅、ニコニコ、と笑いながらもちょっと『』が違う。

さくらとおばちゃんを左右に見ながら


寅「
どや、みんな変わりあらへんか?

大阪弁のイントネーションボロボロ(^^;)

さくら「え??

おいちゃん「????

メインテーマがポヨヨ〜〜〜ンと流れる。

寅「どないしたんやさくら?           

さくら「ん…、元気よ

寅「おばん、神経痛のほうどないや?

そういえば前作第26作では寅はおいちゃんの神経痛のことを心配していたので、
どうやら夫婦そろって神経痛のようだ。

おばちゃん「ん!んん、なんとかね

寅「さよか

寅深くため息をついて

寅「あーあ、しんど!…、ふあああ

さくら「どうしたの?


寅「長旅で疲れてしもうた…

おばちゃん「じゃ、ちょっと2階で休んだらどうだい?

さくら「そうね、お布団引いてあげる

寅「ほんならそうしてもらいまっさ

さくら、寅のお土産を見ている。

寅「

とお土産手に持って

寅「おじん、これな、大阪の『おこぶさん』やで、食べてんか

                  




と台所へ

おいちゃん「おおきにおよよ(@@;)

さくら、おいちゃんの言葉を聞いてびっくり。

寅とさくら2階へ上がっていく。

おばちゃん「なんだか様子がおかしいねえ…旅の疲れかしら

おいちゃん「いやー!それだけじゃねえぞお

客、店先で、「おだんご下さい

おばちゃん「はい、おいでやす出たアア!おばちゃんの得意業

おいちゃん「!!

おいちゃん、そんなおどろかんでもよろし。
あんたもさっき「おおきに」てゆうてましがな (^^;)





柴又  夕暮れ

題経寺の鐘

とらや   茶の間

寅は後ろをむいたまま、ボケ〜〜〜。

博が心配そうに見ている。

ゴ〜〜〜〜ン

寅「フンーン、四天王寺の鐘の音かァ…

おいちゃん「
四天王寺…?

博「大阪にあるんじゃないですか

さくら「ほんとうに食べないのね

と、味噌汁を片付けだす。

おばちゃん「少し食べると元気になるのに、
   せっかくお芋も煮たのに…


さくら「味が辛すぎるんだっておばちゃん
博「大阪暮らしが長くて薄味になれちゃったんでしょう
おばちゃん「じゃあ、玉子でも焼こうかァ?ね
と、芋を冷蔵庫に入れる。
おばちゃん、ラップかけないと味が落ちるよ(^^;)

寅「いいよいいよ、おふみちゃん、…ありがとう

                   



一同、ビックリ!

おばちゃん小さな声でさくらに

おばちゃん「おふみちゃんって…手には卵。
                 

みんなどう言っていいか分からない。

タコ社長入って来る。

さくら「ほらあ、下宿に移るかもしれないって
  書いてたじゃない、どうだったの、そのことは?


寅「ああ、それは…、おふみちゃん
  そうしたほうがいいって言ってくれたんだ…


さくら「へえ…、お、おふみさん、…が、そう言ったの?さくら上手い!(^^;)

                  

寅「うん、芸者は金で苦労してるからなあ…
さくら「そうね知らないのに知ってるふり(^^;)
博「きれいな人でしたか?
寅、僅かに顔が緩み、微妙にニタつく。
はあ〜…ダメだこりゃε〜( ̄、 ̄;)

社長「誰のことだい?
おばちゃん「おふみさんって人              
社長「誰だいおふみさんって?
さくら「芸者さん
社長「どこの!?
おいちゃん「なんにも知らないんだから黙ってろよ!おまえは

この話の腰を折っていく社長のパターンは
第13作「寅次郎恋やつれ」の温泉津の話題で
使われていた。


博「気にしないで下さい兄さん
寅「いい女か?って聞いてるのか?
博「ええ…
寅「フ…。もしここへスゥーっと
 現われたらな、タコは腰抜かすよ
                 

さくら「へぇぇー、そんなにきれいなの?
寅「抜けるような白い肌。
 それが嬉しい時なんかパーッと
 桜色に染まるんだよ。
寅「悲しい時は透き通るような青白い色。
 黒いほつれ毛がふたすじみすじ、
寅「黒い瞳に涙を一杯貯めて、
  『寅さん、ウチ、
  あんたの膝で泣いてもえええ?』


                  


一同「…!!!!
寅「はああぁー…
一同、下を向いている。
寅「可哀想だったなあ…、
 あん時のおふみさんは…。


満男興味津々でニコニコ。
さくら「で、…どうなったの?
寅「……
博「兄さんがいろいろと力になって上げたんでしょ?
寅「気持ちだけはあるんだ

さくら頷く。

寅「でも、いくら気持ちだけあったって、
 何してやりゃあいいのかわからねえんだよ。
 金はねえしなあ…、ましてや、頭でも良けりゃァ、
 何か気の利いた言葉のひとつも
 かけてやれるものを…、それもできやしねえ

                  


寅、腹巻から、例の広告の裏に書いたふみさんの
書き置きの紙を取り出し、広げる。

大事に腹巻にしまってあったんだね(^^;)
寅「そんなおいらにあいそをつかして、あの子は行っちまったのさ…
みんな、紙の文字を眼で追っている。
寅「これからどうして生きていくのか、
  一人で考えていきます。
  寅さん、お幸せに…


   フ、そう行ってね…


                 


柱時計 ボーンボーンボーン…

寅「まあ、いまさらそんなこと言ったって、…
  こら愚痴になるだけだからさ、ね、
  今夜はこのあたりでお開きってことにしょうか

                 


さくら「…そうね
寅「うん
寅「ごちそうさん食べてないよ(^^;)
さくら「はい、お粗末様
博「はい
寅「でも、考えてみりゃァ、
 オレは幸せもんだよなあ、
 こうやって温かい家族に
 迎えられてよ。おいちゃん、
おおきにと深々と礼
おいちゃん「とんでもない
寅「お茶の間のみなさん、おやすみやす(^^;)

                       
 おやすみやす
                  


一同口々に「おやすみなさい
寅「はあー、しんど

と階段を上がっていく。

一同沈黙。

博「ま、…ふられたことには間違いないな

ふられたんじゃないんだけどね(^^;)
この頃は、たいていふられるんじゃなくて、逃げてるんですわ。


社長「へ!?じゃあ今回は
  お目にかかれないの?美人に?

博「そういうことですね。

意識を変えて
博「
満男、帰るぞ
社長がっくりして立ち上がり
社長「なーんだい、つまんないの

寅の恋愛はタコの娯楽ですからね(^^)


                  

満男「『おやすみやす』って大阪弁でしょ
博「そうだぞ

江戸川土手


寅と源ちゃんが川面を見ている。
寅「
源公
源ちゃん「
へえ
寅「おまえ、大阪生まれだったな
源ちゃん「へえ
寅「お袋の顔覚えてんのか?
源ちゃん「覚えてへん。おかんワイのこと産んで、すぐ男と逃げたさかい
寅「そうか…、悲しいこと思い出させちゃって悪かったなあ…

                  


寅、土手に体を寄りかからせて
寅「はあ…
源ちゃん、スッと立って、昔のことを思い出したのか、悔しい顔をし、涙ぐむ。

そのあと源ちゃん転んでギャグになる。

寅、雪駄を叩いて、
寅「バカ野郎

しんみりさせて、ストンとこかす。
相変わらずただじゃすまない山田演出でした(^^;)
謎の男源ちゃんの生い立ちの物語が少し垣間見れたシーンだった。

                 



Eふみさんの訪問と衝撃の事実

題経寺山門前


題経寺山門前で水をまいている御前様
さくら、スクーター乗ってきて、前で止まり、
さくら「こんにちは
出た!マスカット色のヘルメット!ヽ(*⌒∇⌒*)ノ
               


御前様「あー、どうかな、寅の具合は?
さくら「おかげさまで、なんとか

御前様「やはり旅の疲れかな?
さくら「ええ、それもありますけど、どちらかと言うと、精神的なこと…、
  いーえ!精神なんてほどのことじゃないですけど

御前様「ほー…、やはり大阪の芸者に失恋したのがこたえたのかな

さくら「あら、御前様そんなことまでご存知だったんですか?              
御前様「それぐらいのことが分からないで題経寺の住職が務まりますか
さくら「恐れ入ります

ホースの水をまきながら、

御前様「ハアーァ!、ハアーァ!、ハアーァ!、ハアーァ!
このシリーズ一番の御前様笑い(^^)
隠密源ちゃんか隠密タコ社長のどちらかが知らせたんだな。

さくら「フフフフ…
さくらこれは笑うしかないね。やっぱり可笑しいよ(^^)

                   


とまたマスカット色のヘルメットを着ける。
かわいい〜♪(^^)





帝釈天参道

ふみが柴又駅からやって来る。

うなぎの『たなかや』の前、横断歩道を渡って歩いていく。


                  




とらや  台所

おばちゃんが忙しいそうに草だんごを詰めている。

谷よしのさん登場!! 

谷さん「まだああ?
おばちゃん「すいません、お待たせして、今すぐできますから


食べていた客「おいくらですか?」 大人2人、子供2人。
おばちゃん「はいはい、えーっと…、
   
♪おでん〜とお、茶飯ーぃと、ジュースで1750円になります

歌うようなテンポでリズムをつけるおばちゃん。年季の入った演出です(^^)

谷さん「まだですかあ?
イラチの谷さん(^^;)
おばちゃん「はいただいま!と谷さんに駆け寄る。
                  

大忙しのおばちゃん、
ふみ「ごめんください」 

ふみさん、やって来ました大阪から
アポ無しで。


どのマドンナにも言えることだけどアポ無しで来ちゃって、もし寅がいなかったらどうするの?
隆子さん、葉子さん、典子さんのように「寅不在時の訪問」になっちゃう時もある。


ふみ「あのー、こちらとらやさんですね?
おばちゃん「はいそうですけど
ふみ「寅さんいてはりますでしょうか?
おばちゃん、びっくりして
おばちゃん「あ、はい、いてはりますけど…、
       あの、さっき散歩に行くといって出かけましたが


普通は寅は旅に出かけてるからまず、いないよ。
ほんとラッキーな人だ。


                  


社長、台所からのれんを上げて見ている。

ふみ「いやああ、そうですかあ!
  うち、浜田ふみと申します。
  大阪で寅さんに大変お世話になりましてえ

おばちゃん「はああああ!あの芸者さん!?
いきなり言いますおばちゃん(^^;)
ふみ「はい!

おばちゃん「あら、ごめんなさい悪いこと言っちゃって…と反省。
ふみ「いいええ!

おばちゃん「あの、寅、もうおっつけ戻ってくるでしょうから、
      とにかくおかけになって、さあ、どうぞ、どうぞ


と、イスを勧める。


社長「遂に来たね!ベッピンが、
  大変だぞこれは!博さんに教えてやろ


と、まずは工場に知らせに行く。
社長ひまだねえええ〜 ┐(-。ー;)┌



電車の音

客「ごめんください〜
ふみ、すぐに機転を利かせて、立ち上がり、
自分の荷物をよけ、店員に早変わり。
ふみ「おいでやす、なにしましょ?

野球帰りの関敬六チームが笑いながら入って来る。
敬六さん「あー、美人だなあ!言うかいきなり(−−;)
友人「またまたーハハハ
敬六さん「姉さん、ここの店員さん?
ふみ「へえ、そうです
敬六「まず、ビールにしょうか
ふみ「へえ

テキパキと接客するふみ。さすが百戦錬磨である。


裏から博を連れて社長が戻ってくる。


社長「ほら、あの人あの人
博、暖簾の下から見ている。
おばちゃんを押しのけて見ようとする社長に

おばちゃん「ちょっとー、見物に来たのかい?工場暇なの?そんなにあんたんとこ
工員たちも全員押し寄せてくる。
社長、裏へ追い払いながら

社長「なんだい、今忙しいんだよ、よおお、暇じゃないんだから…
あんたはどうなんだ ヾ(−−)

                  


そこへ、さくら、やって来て、ビックリ(@@)
さくら「!!????

                       ????
                  


さくら、台所に来て、

さくら「おばちゃん
おばちゃん「あ、さくらちゃん
さくら「誰?あの人?
おばちゃん「あのね、大阪の芸者さん
さくら「じゃあ、お兄ちゃんの?
社長「そうよ、恋人よ
と、小指を突き出す。下品だねえ〜相変わらず(−−;)

                  

ふみ台所に戻ってくる。


ふみ「おばさん、おでん2つと
  磯乙女ところてん、とりあえず

おっと
赤飯は!?忘れてる??

ふみまた店に行こうとする。

おばちゃん「あ、あの!寅の妹の
ふみ「やー、さくらさん
寅の絵馬に書いてあったもんね(^^)
さくら「はい、はじめましてとお辞儀。

ふみもお辞儀。

おばちゃん「あの、これは、夫の博ですとタコ社長を紹介(@@;)
社長も、そのまま挨拶 ちゃうちゃう ヾ(ーー )

                  


ふみ「ひゃー、はじめま…
おいおい、ふみさん、タコ見て分からんか??ゞ( ̄∇ ̄;)
博、横から
博「違います、僕ですそらそうだε〜( ̄、 ̄;)
ふみ「!!               


一同 爆笑

ふみ「フフフ
さくら「手伝ってもらってたのー?
おばちゃん「だって私しかいないんだもん


夜 工場の2階

いつも思うんだがこの朝日印刷の看板だれが見るんだろう?
位置的に、道に面していないのでとらやの住人しか見ないのでは?


                  


工員たち、みんなでふみさんを覗いている。

ふみが店を手伝ってくれたお礼をみんなで言い合って、ふみは恐縮している。

おばちゃん「ほらこれ、おみやげ
さくら「対馬からよ
博「対馬って九州の向こうの?
さくら「知り合いの方がいらっしゃるんですって
満男「ここでしょ?対馬って
ふみ「そう
とらやの家の話になって、
ふみ「え、アハ、あれいつだったかしら寅さんがこの家の事とっても古いって言うから
    ウチがいつごろ建てたん?って聞いたら

さくら「うん、お兄ちゃん何て言った?
ふみ「奈良時代だって

                  


おばちゃん「え〜?
博「アハハ
おいちゃん「いい加減な男だな
おばちゃん「口からでまかせに言うんだから
満男「本当!?満男って…(^^;)
博「違うよバカだなあ
さくら「ちょっとちょっとお兄ちゃん帰って来た
寅「♪別れ〜にぃ星影のワルツを歌おうかァ〜おーい、
 源公!お前二日酔いで鐘を撞くの忘れたら
 承知しねえぞ!この野郎、たのむぞ

おいちゃん「ビックリするぞあいつ
さくら「ねえ、ちょっと隠れてたら

出たアアア!さくらあああ、お茶目!!

\(o ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄▽ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄o)/


第46作「寅次郎の縁談」でも葉子さんを隠れさせて、
満男を驚かせていたが、あれもたぶんさくらの提案。こういうところが最高にいいね、さくらって。


ふみ「え?

               
    さくらのこのお茶目な顔見てください(^^)
                  


博「それがいい博まで(^^;)
さくら「そこの後ろ
博「そこの陰陰
ふみ「

おいちゃんたち手でもっと襖の端の陰に隠れさせ、                  
みんなお膳を整え、ふみが座っていたところを寅の席とする。
ハンドバックをお膳の下に隠したり大変(^^;)

寅「とらやの貧しき皆さん本日はご苦労様でした
おばちゃん「はは、ご機嫌だねえ、待ってたのよ、ご飯食べないで
寅「源公がよ、どうしても奢るって言うからね。あいつの顔立てて、一杯飲んでたんだよ
源ちゃん、自分の生い立ちのことでちょっと
気にかけてくれた寅の気持ちが嬉しかったのかもしれないね。

   
あ〜あ、と座りながら、帽子を満男の頭に乗っける。

みんなにやにや
満男、ちょっと後ろを振り向く

寅、満男につられて、ちょっと振り向く。
寅「ん???
何もいないので、元に戻って
寅「フフフ
寅「なんだ、なんか楽しい事でもあったか?

                  


さくら「んん、別にいつものとおりよ
と博の方を見て微妙に笑う。
寅「んー、いつものとおりの貧しい夕食が終わったわけだ
さくら「うん
寅「そうですか
寅「なっ

後ろからパッとふみが寅の目を手で隠す。
さくらたち声を出さずに笑う。

寅「ほらー!暑いんだから
 そういうことするんじゃないんだよ満男!

と、ふみの両手を持ちながら、

                  


寅「まったくお前は不精だね、
 そこへぶっ座ったままどうして後ろへ来て…??

満男、ひじをお膳に着きながら寅を見ている。
寅、自分が持ったふみの手を見て

寅「???
                        ???

                  


手を離して、満男の手を見て、
後ろのおいちゃんを見て、
親指で勘定し、
満男、おばちゃん、さくら、博、と
指で勘定し、

最後自分を勘定し、
指で、ペケマークを作り、びびる。


                  


寅「誰かしら????無声音(^^;)
さくら「いい人 同じく無声音(^^)
寅「いい人????ヒヒヒヒ!
寅「だれ…?
と、振り返りざまにふみが顔を目の前に出す。

寅「は!!!!
と寅お尻ごと飛ぶ。

ふみのテーマが流れる。

寅「な、なんだい!おふみちゃん来てたのかァ!

さくら、大笑いして下を向いている。
ふみ「寅さん!しばらくゥー!!
一同「ヤダもう!ハハハハ!!
寅「いつ?いつ来たんだ?

                  


さくら「お昼過ぎよ
ふみ「すっかりごちそうになってたんよー
寅「なんでオレに知らせなかったんだよー
さくら「だってどこ行ってたかわからないじゃない
寅「バカヤろう!オレはずっと土手に行ってたよおめえ
第32作「口笛を吹く寅次郎」では、さくらは江戸川土手に
いる寅に自転車で知らせに行っていた。今回は店が
大忙しでそんな余裕無しってことかな。


博、笑いながら

博「まあまあ、会えたんだからいいじゃありませんか
おいちゃん、笑いながら後ろから肩を叩いて、
おいちゃん「怒るなよそんなにおまえ、フフ

一同「フフフ
寅「何しにきたんだい…フフ
ふみ、おどけて
ふみ「寅さんに会いに来たんよー
寅大いに照れまくって
寅「へへ、うそだよお〜、フフ、そんなことあるわけねえよくねくね(^^)
ふみ、寅を見つめながら微笑んでいる。
寅「あ、そうだ、金持ちの客に付いて、東京見物に来たんだろ
ふみ「フフ…と笑いながら首をふる。
さくら、台所から
さくら「お兄ちゃん、ふみさんはね、芸者さんやめたんですって
寅「やめた??
ふみ、静かに頷く。
寅、真面目な顔になって

寅「そうか…

                  


ふみ「あれからいろいろ考えてね
寅「そのほうがいいよ、
 お前芸者には向いてないもんな

ふみ「そ、それでねぇ…

と、下を向く。

ふみ「大阪、引き払うことにしたの
寅「わかった!就職で東京に来たんだろ
ふみ「……
寅「大丈夫だよ!おふみちゃんだったらぜったいどこだって通用するんだから
寅、乗り乗りで
寅「あ、博!おまえな、早速仕事の心配してやれ

                  


ふみ、寅を見て何か言いたげ。

寅「あ、おまえのみすぼらしい工場じゃだめだぞ!もっと立派なビルヂングのOLでなきゃ、な
ふみ「……
寅「おばちゃん、とりあえず2階に居てもらおうじゃないか。オレはこっちの
 物置部屋でいいから、うん


こういう時の寅は人生で最も至福の時間。
おばちゃん「ああ、私たちはよおござんすよとにこにこ顔。

さくら戸惑いながら
さくら「ふみさん、本当に東京で暮らすの?
ふみ、静かに首を振る。
ふみ「…いいえと下を向く
寅「…!?
寅「じゃあ、どこへ住むんだい?
ふみ「反対のほう…、対馬…
寅「つしま…?どこなんだそりゃ?

                  


満男、地図を指差しながら、


満男「長崎県だよ、玄界灘と朝鮮海峡の間にある島、ほら…

寅、地図を覗き込んで
寅「……

おいちゃん、自分の席に戻ってくる。

おいちゃん「なんでそんな遠いとこ行くんですか?
さくら「ねえ
博「対馬に仕事でも?
ふみ、首を振る。
さくら「たとえば、お店持つとか…
おばちゃん「ねえ
ふみ「ええ」と小さく言って
ふみ「実はウチ…
おいちゃん「ほう
さくら「うん

みんな注目

ふみ「結婚するんです

                  



一同凍る。

寅、真剣な目でふみとは違うほうを向く。

満男は寅を見ている。


                       
寅を見る満男
                   


博、おばちゃん、おいちゃん、
さくらもみんな寅を見ている。

           

沈黙が続く

                  


博、我に帰って

博「満男!向こうで勉強してなさい!

                  

おいちゃん、満男の頭を押して、
あっちいってろと合図。

満男「いてえなあ
とふてくされて、仏間に行き、座りながら

満男「ケッコンするんですと物真似(@@;)

おいちゃん、カッ!と怒った顔(^^;)

ここで満男にこのギャグを言わせるとは、凄い切れ味。
肉を切らして骨を断つ山田演出の醍醐味。
吉岡秀隆君、初出演で相当な演技してます(^^)


                        ケッコンするんです
                  


ふみ、なぜか言いにくそうに

ふみ「対馬から大阪に、板前の修業に来ている人がいてね、
   今度島に帰って小さなお寿司屋さん開くことになったんです。

ふみ「その人、前からウチのこと思うててくれて、
   …ウチみたいな女でも奥さんにしてくれるって、
   そない言うんよ寅さん。


                  


寅「え……と我に帰る。

さくら、寅を見て……

                  


寅「…ん

ふみ「でもねえ…、長い間芸者してたから
 朝早く起きて掃除したり、水仕事したり、
 そんな事できる自信さっぱりないんだけどね


寅「大丈夫だよ、おまえだったら
 きっといいおかみさんになれるよ。
 料理の味付けだって美味かったじゃないか。
 関西風のよ



さくら「そうよ、今日ねお店の仕事手伝って
   もらったんだけどね、私たちよりよっぽど
   お客さんの扱いが上手なのよ、お兄ちゃん

おばちゃん「そうそう
寅「へえ、そうかい、そりゃよかったなあ
おばちゃん「あんたみたいなお嫁さんが来てくれたら、
      ウチなんか大助かりですよお

寅「ほんとにそうだよ、フフ…
ふみ「どうもありがとう
博「あのー、いい方なんでしょう?相手の人も
寅「決まってるよ!おまえそんな…

ふみ「もう…真面目なだけでね…、
   冗談一つ言わない男、寅さんみたいに楽しい人やないの

   と、寅のほうを見るふみ。

                  


寅「な、へへへ、楽しいって…
おいちゃん「楽しけりゃいいってもんじゃありませんよ男は
寅「そらそうだきっぱり(TT)
博「大事なことは、人生を力強く生きることです。
 兄さんみたいな人は、それがないんですよ

ひでええ…そこまで言い切るなよな博(−−;)

                  


寅「ん、ないない
ふみ、苦笑い。
寅、消え入りそうな声で
寅「あるもんか…(TT)

一同シーン。

ふみ、寅の顔を見て、気を使う。

いくら、ふみさんを勇気付けようとした発言とはいえ、
おいちゃんの言葉はまだいいとして、博の発言はキツ過ぎ。
そういう博はそんなことを言い切れるくらい立派なのか、
みんな似たり寄ったりじゃないのか?


さくら「ふみさん、おめでとう
寅「いいえ
と言ってしまって下を向く。もうあからさまに落ち込んでいる。


おばちゃん「よかったですねえ
ふみ、少し緊張している。

もう、露骨に下を向いている寅。

寅も、そんなに露骨にショックが隠せないんだったら、
ここぞという時に逃げるなよな。
いくらでもチャンスはあったのに、と声を大にして
言い続けたい。やはりもともと心が二つに
引き裂かれてるんだね。


ふみ、寅の方を向いてちょっと心配そう


                  


とりあえず、しょうがないのでふみさんのためにみんなで乾杯。



電話 リリリーンリリリーン

さくら、ふみさんにコップ渡して、電話口へ

ふみさんの婚約者のマコトから電話。


さくら「マコトさんって方
寅小声でさくらに
寅「マコトさん…
ふみ「ア…、ごめんなさいと恐縮

そろそろっと立ち上がり電話の方へ。

一同気まずい空気

満男、身を乗り出してニヤつきながら

満男「マコトさんて誰?
満男も好きだねえ。伯父さんの血かね〜(^^;)
博「うるさい!むこうで勉強してろ!

ふみ、電話口で

ふみ「はい、もう宿に戻ったん?
  ウチもそろそろ失礼するから…大丈夫
  道分かる…ウチこっちでごちそうなったから、
  なんかそっちで食べてて



ふみさん、まことさんにとらやの
電話番号を教えたんだ。ふーん…(−−)
     

寅、スクッと立ち上がって不機嫌に、庭の方へ歩いていく。

限界なんだね…(−−)


さくら、寅の背中を追い、庭の方を見る。

雷が鳴っている。

                  





とらや前 参道

大雨 雷

赤いタクシーが停まっている。

ふみ「じゃ、失礼します

後部座席に急いで乗ったふみ。

窓を開けて
遠く、寅を見て


ふみ「寅さん、さいなら

一同寅を見る。

寅、ちょっとみんなの目を気にして

寅「元気でな…

                  


その後も博の方をチラッと元気なく見る寅

ふみ「みなさん、さいなら

みんなそれぞれ挨拶をするが…

                  


みんなの心は寅のことで精一杯。

博、すぐに寅の方を見るが、
寅はもう2階に行ってしまっている。


おばちゃん「やれやれ、行っちゃったわかるわかる(−−)

さくら「お兄ちゃんは?

博「2階上がってった

おいちゃん「今夜は可哀想だったな、見ちゃおれなかったよ、オレは…



とらや  2階

さくら、寅の部屋へ上がってくる。
寅は暗い部屋のなかで黙って座っている。


さくら「凄い雨ねえ…

寅、黙って窓の方を見ている。

さくら「ふみさん、よかったね、タクシー捕まえられて
寅「わざわざ来ることはなかったんだよ、こんなとこまで…
さくら「どうして?
寅「ハガキ一本出しゃすむことじゃねえか

メインテーマがゆっくり流れる。

さくら「そんなこと言っちゃ可哀想よ、わざわざそれを言いに来た
   ふみさんの気持ちにもなってごらんなさい


さくら、ふみさんのその『気持ち』ってどんな気持ちなんだ?
事情を知らないさくらに分かるはずないよ…。

寅「こっちの気持ちにもなってくれって言うんだよ。
 こんな惨めな気分にさせられてよ…


                

さくら「…はあ…お兄ちゃん…
  よっぽど好きだったのね、あの人が…


               


雨の音…。

雷が鳴り、寅の横顔が光る。

下を向き小さくため息をつく寅。


このシーンは、第15作「寅次郎相合い傘」の雷雨のとらや2階に
状況設定が非常に似ている。あきらかにあの作品を意識しているのは
間違いない。しかし、似ているが、似て非なるものとはこのことだと思った。

さくらの発言と寅の発言が噛み合ってないのだ。
二人は違うことを言っている。


さくらの言葉「わざわざそれを言いに来たふみさんの気持ち」ってどんな
気持ちなのか、私はさくらの説明を聞きたい。


まあとにかく、大阪のふみさんととらやのふみさんは
どうも噛み合わせが悪すぎるのである。


この一連のふみさんの行動は大きく分けて
以下の4つのパターンに大別できる。

@
ふみさんは寅が彼女に惚れていることを知らずにいる。
そして自分は寅のことを友人、恩人としてとても感謝している
だけだとしたら…。
(感情的には歌子ちゃん、絹代さんのパターン)


ふみさんが寅のことをもともと友人、恩人としか全く思っていなくて、
お世話になったお礼と結婚の報告を兼ねてニコニコとらやに
やってきたのだったらさくらの言うことは間違っている。
要するに初期の頃に多かった寅の一人相撲ですむ話だ。
豆腐屋の節ちゃん、歌子ちゃん、などが寅の気持ちを知らずに結婚の
報告を嬉しそうにしている。歌子ちゃんのようにただ単に嬉し涙を流しながら
「寅さんは恩人よ!」の世界だ。

さくらが言うような「わざわざそれを言いに来た」のでなく、恩人の寅に
喜んで報告をしに来たことになる。だから「ふみさんの気持ちになってやる」
必要はないはず。ふみさんは苦渋の選択をしたわけではないのだから。


A
ふみさんは寅が彼女に惚れているのを知っていて、
 かつ、自分は寅に友人恩人以上の気持ちは
 持っていないとしたら…。(感情的には夕子さんやりつ子さんのパターン)


もし、ふみさんが寅の気持ちを知っていたとしたら、
そして自分は恋愛感情がなく、友人、恩人としか思っていなかったと
したらこれは残酷なことを承知でやってしまっていることになる。

そしてこれならさくらのあの言葉「わざわざそれを言いに来た
ふみさんの気持ちになってごらんなさい」は意味が通る!
寅が傷つくであろうことを承知で、お世話になったけじめのために
来てしまっているのだから。ある意味ふみさんは針のムシロ状態である。
さくらはふみさんがこの心の状態でとらやに来ただと思ったのだろうか?
とらやでのふみさんの演出的にはこのAのようにも感じられる。
しかしそれではあの大阪の夜はなんだったのか?

自分がとても弟のことでお世話になったからといって、
寅の気持ちを知っているくせに、自分がいい人だと自分で思いたいだけの
ために、それはそれ、恩は恩と切り離してとらやまでお礼の挨拶に来ることは、
一見恩を忘れぬいい人のように見えるが、本当はその行為は完全な
自己満足の世界で、そこには寅の心を本当に思いやる気持ちがない。
そんなものけじめでもなんでもない。そっと離れて、時間が少したってから
それこそ丁寧な手紙を心を込めて出す方が寅は傷つかない。
もしこのAのパターンだとするとさくらはなぜ「そんなこと言っちゃ可哀想よ」
って言ったのか?可哀想なのは寅じゃないのか?


B
ふみさんはかつては寅にほんの一時期恋愛感情があった。
 寅にその気がないと思った彼女は、しばらくはショックだったが、
 しかし、今は心がマコトさんの方にしっかり傾いている。
 寅への気持ちは、今はもうほとんど友人、恩人に変化して
 来ているとしたら…。(蝶子さんなど)

もし、ふみさんは寅のことをかつて好きだったが、
寅は自分のことを友人としか思っていなかったと、
誤解して、自分の想いを振り切り、その後マコトさんとのことを
考え始めた時に寅への恋愛感情は消えていって、
今は寅のことを友人、恩人だとしか思っていないのなら、
彼女のとらや訪問の辻褄は合う。

自分がとらやに訪ねていっても寅は自分のことを仲の良い友人としか
考えていないので、傷つかないだろうし、喜んでくれるくらいだ。と考える。

このパターンなら一歩踏み込んで結婚の報告をしても、逆に寅は喜んで
くれる、と考えるのが普通だろう。自分は結婚しようと思うほどに、もう
すっかり立ち直っているので安心してちょうだい。ってことになる。あの
夜自分をふった寅へ、元気になったところをみせつけてやりたい女性の
意地のようなものもあるのかもしれない。

しかし、それではなぜ「結婚するんです」という時の一連のふみさんの
表情が若干こわばっているのか?あの緊張感はどのような気持ちから
来ているのか?なぜ言いにくそうに言うのか?
寅は自分のことを女性としては好きではないに違いないと思っているなら、
どうして寅に気を使うような言い方をするのか?
だいたい普通、恋愛感情がなくなった場合は、もう少し明るく
「結婚するんです」って言うだろう。表情がちょっとこわばることもなくなる。

あの夜のことがあったにもかかわらず、それでもふみさんはやみくもな
自信で、寅が自分のことをまだ惚れていると思っているなら、そしてふみさん
の方はすっかり恋愛感情は消えてしまったとしたらBとAを合体したような
精神状態になる。

しかし、さくらの「わざわざそれを言いに来た…」がこのパターンだと
しっくりこない。でもそんなに合わなくもないか。


C
ふみさんは表面的には寅への恋愛感情が消えたと思っている。
 だからこそマコトさんとの結婚を決意した。
 しかし心の隅に恋愛感情がまだ残っていて、
 そのことと恩人であることが混ざり合い、行動がギクシャクし、
 一貫性が保てなくなっている。
 いわゆる心(表層意識と潜在意識)がどこかで引き裂かれている
 状態だとしたら…。(第48作の泉ちゃんなど)

もし、まだ今でも寅のことをどこかで忘れられないのだとしたら、
どうして結婚のことをとらや一同の前で言ってしまうのか、
ギリギリでまだ迷っているなら普通は第48作で泉ちゃんが満男に
取った態度のように二人っきりの時にそれとなく気持ちを確かめようと
するのではないのだろうか。

あれは完全に結婚を決めてから、とらやに来ていると私は断定できる。
これは間違いない。そうだとすると、やはりこの物語の冒頭に書いたように、
そうとう表の心では寅への想いをすでに整理して、友人、恩人として思おうと
している自分がいる。自分自身も、その心が自分の全てだと思い込んでいる
のだが、心の底の片隅にまだ、ほんの少し忘れられない面影が澱のように
残っていて、その心が結婚報告とお礼という形を取って、会いに来させた、
ということになる。自分はもう大丈夫!と思いたいし、人にもアピールしたい
ので、マコトさんにも寅との思い出を隠さず話をし、とらやの電話番号も教えた。
なにももう隠す必要はないのだと自分に言い聞かせるように…。

しかし、それでもいざ、結婚の話をする時にはどうしても心が
微妙に出てしまい、若干こわばってしまうのかもしれない。
もし、そうだとしたら、ふみさんも、寅も、マコトさんも可哀想だ。
特にふみさんの精神が引き裂かれてしまっている。

これならさくらのあの「わざわざそれを言いに来たふみさんの
気持ちにもなってごらんなさい」はぴったり辻褄が合う。

しかしもしそうだとしたらふみさんの心は悲しい…。

私はこのCが正解だと長年思っている。



しかし…、しかしだ。もう一度あの結婚のことを話そうとするふみさんや
話した後のふみさんの態度を見てみると、
顔がこわばってはいるが、結構冷静で、意外に迷いはない。
第48作での本当の心を抑えていた泉ちゃんの複雑な顔とは
演出的には『全く異質のもの』に見えてしまう。どう見ても寅を試している
ようには見えないし、寅に結婚なんかやめろよ、と、言って欲しそうにも
到底思えないし、見えない。

もし、まだ、気持ちがあるのに、そんな『余裕のあるふり』をしているのだと
したら、このふみさんの気持ちの奥底は暗い嵐が吹いていることに
なってしまう。これは演出的にもかなり複雑だ。山田監督の気質的に
そこまでの複雑さは嫌うと思う。


私はすでに最初に意見を書いたように、対馬でのラストの涙を考えると
Cではないかと思っているのだが、ほんとうは
以上のようにまだはっきりとは分からないのである。


ほんとうにCなのだろうか…?
しつこいようだが、あの「結婚するんです」と言った時のこわばりながらも
迷いの無い姿はなんなのだろうか?黙りながらもあの『余裕』は
なんなのだろうか?まあ、泉ちゃんが満男を想う心より、ふみさんが
寅を想う心の方が想い方が浅かった、と言ってしまえば
それで解決するという人も多いかもしれない。
リリーと寅のような出会いではなかったと。
要するに『
ちょっとある時惚れたこともあったんだけどね、今はすっかり
仲のいい友達
』って感じ??(^^;)
泉ちゃんと満男にはいろいろな歴史があるといえばある。

つまりBなのだけどほんのちょっとCが混じっている。
だからこわばる。でももうほとんどBなので、それなりの余裕がある。
まあ結局のところこんな感じでとらえる人が圧倒的に多いかもしれない。

でも…それじゃ、ラストの涙は…?

今までの感謝と遠路はるばるの感動の気持ちが大部分の涙??
第18作の雅子先生だったらあの純情詩集のラストの笑顔は100パーセント
まじりっけなしの感謝と感動なんだけどなあ…。
やっぱりふみさんはそこは違うと思いたいし…たぶん違うし…。

で、結論としては、
ふみさんの場合はまだちょっとCなのだけれどBの要素も
日々のマコトさんを交えた生活の中でどんどん芽生えて来ている。その現在進行形の時にマコト
さんの都合で一緒に東京にやって来て、ふみさんはとらやに来ちゃったってことかな。


以上、これが現在の私の結論である。
明日はまた違う気持ちかもしれない。


番外篇として、私の友人はこう言った。
『女性というものは時として「不可解、不可思議、意味不明」な行動を
取る生き物だからこういうことがおこるのだと…。後で思い出してもどうして
あんなことしたのか分からないらしい…』

これもある意味正解かな…?。つまり意味不明。


さらにもうひとつ、超番外編

別の友人のこれまた説得力のある発言。

『大阪にいるときは物語的に華やぐので二人ともルンルン恋人気分!
マドンナも寅の部屋に深夜来てもたれかかってドキドキ気分!
でも、マドンナにはもういっちょう
恒例のとらや訪問もして欲しい〜!
で、ちょっとくらい辻褄が合わなくても、全部入れて盛り上がっちゃおう!!
つまり「ルンルン」「ドキドキ」「とらやでナゴナゴ」を無条件で押し込んだ
っていう脚本だった。物語上の必然性はとことんまでは考えていない。
つまり、『
あれはあれ、それはそれ、これはこれ』(^^;)』
この制作側の気持ちを垣間見たような意見もそれなりに説得力が
ちょっとはあるなあ…。




Fふみさんを訪ねる寅と彼女の涙


夏真っ盛り 入道雲  蝉の声


とらや  店の中

おばちゃんが例のごとくかき氷をガシャガシャ回している。

新世界ホテルのオヤジが来ている。


              


さくら「
お待たせしました、ちょうど入っておりますから
   お調べになってください


やっぱりさくらが払う羽目に…(TT)

オヤジ「
いいえ、とんでもない。あ、ほな、領収書
オヤジは相変わらず自分の母親のせいにして、自分はいい子に収まっている。
オヤジ「
それに比べたらこちらのお方は実際ええお方ばっかりで、
 寅やンからねえ、毎日のように聞いとりましてん。
 おいちゃんおばちゃん確かさくらさん

さくら「はい
オヤジ「あ、まだ知ってます。裏の工場の社長はん、
    あだ名が
タコやそうで、タコそっくりのお方がいてはるそうでんなあ
おいちゃん「そこにおります

                    

オヤジ「ハハ…」振り返って、飛びのく
オヤジ「どうもして礼いたしましたほんまに

ペコペコ

社長「ほんとに失礼だ!!

風鈴屋の屋台が通る。

茶の間ではおばちゃんが
ふみさんからの手紙を見ている。


金魚蜂  金魚

              

ふみのテーマ ギター演奏でしっとりと流れる。


ふみの声



暑い日が続いていますが、
さくら様はじめ皆様にはお変わりありませんか。
その折は突然おじゃましたのにもかかわらず、
優しい御もてなしをいただき、
ほんとうにありがとうございました。




長崎県   対馬

遠望

             



長崎県対馬市厳原(いずはら)

厳原 (いずはら)


ふみの声

対馬の暮らしにもようやく慣れて、
元気に寿司屋のおかみさんを務めています



寿し処  海八


ふみの声

住み着いてみれば人情は細やかで、
風景は美しく、どことなく故郷の島にも似て、
親しみのわく土地です



ふみ「おかえり

マコト「今日はええ魚やでえ


ふみの声

ところで寅さんは今どちらでしょうか。
あいかわらず、旅の暮らしでしょうか。
もし電話でもされることがあったら、
どうか、どうかふみが元気にしておりますと、
お伝えくださいませ。お願いいたします。

ご主人様によろしく。  


さくら  様       ふみ




ふみ、車の中の真鯛を持って、喜んでいる。
ふみ「ひゃーほんまおっきいわ〜
とあわび貝を見ている


マコト店の中で電話

マコト「ちょっと待って、今聞いてくるわ

マコト外に出てきて
マコト「ふみ、
ふみ「ん?
マコト「おふくろから電話でなあ
ふみ「ふん
マコト「家のほうにあんた訪ねてお客さんが来てるがな
ふみ「お客さん?
マコト「
ふみ「は、誰やろな?
マコト「車さんちゅう人やて
ふみ、驚いて
ふみ「車さん!?
マコト「ああ、だれやァ、知ってる人かァ?
ふみ「寅さんよ!ほら、いつも話してる寅さんよ!

                  


と店の中に走っていく。
マコト、ポカ〜〜ン
ふみを乗せたワゴン車、急いで実家へ向かう。

ふみのテーマがテンポよく流れている。


海沿いの道を

赤い
万関橋を渡る。



  
長崎県対馬市峰町 青梅


青海(おうみ)の里


走って走って実家に着く。


車のドアを開け、ふみが満面の笑顔で飛び出す。

ふみ「寅さん!
寅、門に座ってバテている。
ふみを見て、笑顔が戻って
寅「よお!元気そうだなあ!
ふみ「わあー、来てくれたのー!こんなとこまでえ!

                  



寅「遠いとこだなあ、おい、えー、船着場からずっと歩いてきちゃったよ、ハハハ、
頷いて微笑んでいるふみ

メインテーマ静かに流れ始める。

寅「まあ、暑いの暑くねえの
ふみ「うん
寅「死にそうだよ、半分死んじゃったよ、もう
ふみ、感動しながら笑っている。

寅「ハハハ

                  


ふみ「フフ…

ふみこみ上げてくるものがある。

ふみ「よく来てくれた…

寅を見つめてみるみる涙が潤んで


                  


全ての思い出が蘇り、

寅を見つめ…


                  


泣きながら下を向く。

寅「
うん、ん

ふみ、寅に寄り添って泣き続けている。

寅、立っているマコトを見て
寅「よお
マコト、お辞儀をする。
寅「あ、ご主人だね、
マコト「はっ
寅「あの、マコトさんとか…
と立ち上がる。
寅「
とふみに。
ふみ、寅から離れ、今度はマコトに寄り添う。

                  


寅「私、車寅次郎と申します…
マコト「いや、挨拶は後で、『上がってもらって』、さ、どうぞ!
とカバンと背広を持ち寅を早速案内するマコト。

マコト「とりあえず奥に、どうぞ!
寅、笑いながら中に入ろうとして、足をつまずいてこけそうになる。
寅「アイタ!アイタタ
ふみも一緒にこけそうになって
ふみ「キャ〜、フフフ
人で笑いながら母屋に入っていく姿が小さく映り
               


青海(おうみ)の里の遠望が映って


                  


ふみにとって寅は弟との最後の縁を取り結んでくれた恩人。
寅がいなかったら弟が亡くなったことさえ知らずに過ごしていた。
どん底に突き落とされたあの日、寅はふみのそばで慰め続けてくれた。
彼女の生涯で最も悲しい日に寅が寄り添い、一緒にいた。

そんな思い出深い寅が遥か対馬まで自分を訪ねて来てくれたのだ。
自分自身に封印していた寅へのもう一つの気持ちがどっとあふれ出て、
マコトがいる前で、寅の胸近くに顔をうずめ泣いてしまうふみ。


寅への万感の想いを込めたふみの最後の涙。


寅はそんなふみの気持ちをまるで知らないかのように
マコトに集中し、微笑みかける。

寅「よう!」
寅「あ、ご主人だね」

マコト「はっ」

寅「あの、…確かマコトさんとか…」

寅とマコトのコミュ二ケーションが始まって、ふみは我に帰り、
立ち上がってマコトの腕を掴む。

このあと寅はしばしマコトやふみと歓談し、懐かしみ、励ましあい、
夕方の船で帰っていったのかもしれない。

ふみは、もう、あのような目も、あのような涙も、そして、もう寅に身を
寄り添うこともなく、爽やかに、またいつの日か東京での再会を誓って
船に乗って行く寅をマコトと一緒にいつまでも見送ったに違いない。

ふみのあの涙は、青春の最後の涙だったのかもしれない。




第27作「浪花の恋の寅次郎」【本編完全版】はこちらから





まだまだ9月も月末まで多忙が続きます。

第3作「フーテンの寅」本編完全版第1回は9月16日ごろになります(^^;)ヾ

第28作「寅次郎紙風船」ダイジェスト版は、第3作更新以降に作業いたしますので、
アップは9月20日頃になります。

ずるずるずるずる遅れてすみません。

どうしても日本滞在中は生業優先&充電(DVD映画鑑賞と読書)優先になります。
これがないとサイトアップの馬力が出ないのです。どうかご理解ください。





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コンサートに行く菜穂ちゃんと満男

 
2007年9月2日 寅次郎な日々 その328


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。

今、最も今年忙しい展覧会の真っ最中で目が白黒している。

それゆえに第27作の本編ダイジェスト版も第3作の本編完全版も一向に
進めない(^^;)

こういう時は会場の店番をしながら息抜きでそっとこのお気楽な『寅次郎な日々』を書くのが
ストレス発散になっていい。本編制作作業は、やはりまとまった時間がないとやれないのだ。



ということで、今日は菜穂ちゃんと満男がコンサートに行くことになった
という短い話をふにゃふにゃっと紹介しよう。




川井菜穂ちゃんはご存知のように泉ちゃんと若干疎遠になった満男が
心機一転、新しく仲良くなる彼女だ。
そう、長浜に住むあの大学の先輩の妹さんのこと。

まあいろいろあって菜穂ちゃんとはなんとなくいい関係になったあと、
兄貴の軽率な行動が壁になってしまい疎遠になってしまう…、
と、思いきや、ラストで江戸川土手を歩く菜穂ちゃんがいるわけだ。

あのあと二人はどうしたのかな、たぶん満男の両親と会って…
なんて思っていた人も多いのではないだろうか。

もちろんあのあとのことは誰も分からない。(おいおいゞ(^^;))
監督だって分からないと思います(^^;)

でも一応脚本には本編より多少具体的に書いてあるのだ。


で、ラストの正月、脚本では、朝日印刷のみんなは諏訪家には来ていない。
なぜかって言えば菜穂ちゃんがいきなり訪ねて来るからだ。
泉ちゃん同様もう徹底的にアポ無し(TT)


で、ちょっと具体的に書くと、

満男は例のごとく正月からうだうだしているのだが

玄関のチャイムが鳴る。

さくらが振り返るとそこには若い娘さんが緊張した表情でドアの向こうに
立っているんですね。それがあの菜穂ちゃんなのだ。


(ここからはしばらく脚本どおりに書きます。↓)


菜穂「こんにちは」

さくら「はい?」

菜穂「私、長浜の川井菜穂と、言いますけど、満男さんいらっしゃいますか」

さくらの表情が綻ぶ。

さくら「じゃあ、いつか満男がお世話になった先輩の妹さん?」

菜穂「はい。お電話もしないで突然お邪魔して」

さくら「いいんですよ、さあ、どうぞ」

さくらの背後に立っていた博、二階に向かって大声を出す。

博「満男、お客さんだぞ!」

満男の面倒くさそうな声が返ってくる。

満男の声「よっちんならまた明日にしてくれって言ってくれよ。
      俺、頭痛いから」

博「よっちんじゃないよ、長浜の川井菜穂さんだぞ」

菜穂「病気ですか?満男さん」

さくら「大丈夫、今に転がるように下りて来るから。さあ、どうぞ」

と、リビングに菜穂を招じ入れるさくら。

菜穂、珍しそうにあたりを見渡す。


とまあ、こういう物語になっていて、もちろん、泉ちゃんの時と
一緒で、ドタバタ転げ落ちるように満男が下りて来て、菜穂ちゃんを
両親に紹介するのだ(^^)

で、そのあと二人して江戸川土手を散歩し、例の本編でのやり取りが
そこで行われるのだ。

本編では菜穂ちゃんが兄のガサツな先走りによって満男との中が
悪くなるのは悔しいので、仲直りに来たって言うだけなんだが、

脚本では

満男の「それで、わざわざ来てくれたの?」って問いかけに、

菜穂ちゃんは首を振る。

菜穂「ついでがあったから。コンサートのチケット買ってたの。今夜の」

菜穂ちゃんはポケットから一枚のチケットを取り出す。

菜穂「これ」

満男「わあ、ガンズ.アンド.ローゼス!いいなあ、行きてえなあ」

菜穂「本当?じゃこれ満男さんの」

満男「え?俺のもあるの?やったぜ!」

と、満男はチケット片手に踊るように歩き出すのだ。




        





そのあとは場面は変わって
雲仙温泉でバスを待つ寅とポンシュウの話になってくる。


満男と菜穂ちゃんは夜、ガンズ.アンド.ローゼスのコンサートに行き、
帰りにどこかでお茶を飲んで、
その夜はおそらく満男の家にたぶん泊まっていったであろう事が分かる。

まあ本編よりはいろいろ実は進展があったわけだ。

しかし、映画とは言え、第48作ではまるでそんなこと何も無かったように
泉ちゃんがいきなり復活し、菜穂ちゃんは歴史の舞台から消えて行き、
闇に葬られてしまった。
ううう…、菜穂ちゃんも気に入ってたのに…。

ちなみにもしこの脚本のままに映画が作られていたら、
僕らは工場のゆかりちゃんが結婚間近だということもタコ社長が
昭和21年に奥さんと工場を立ち上げたことも知らなかったわけだ。

あ、別に知らなくていいか…(^^;)


ところで私はガンズ.アンド.ローゼスのことは何も知りません(^^;)ゞ



まだまだ9月も多忙が続きます。
第27作「浪花の恋の寅次郎」ダイジェスト版のアップは9月5日頃になります。
第3作「フーテンの寅」本編完全版第1回は9月15日ごろになります(^^;)ヾ
ずるずる遅れてすみませ〜ん。






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あの夜『喧嘩辰』を歌わなかった寅と冬子さん  
 
2007年8月24日 寅次郎な日々 その327


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。
  



おいちゃんがさくらの結婚式に出席できなかった理由



第1作「男はつらいよ」でおいちゃんこと車竜造さんはさくらの結婚式に出席していない。

これはこのシリーズの七不思議のひとつだ。

寅マニアの広場でも、そして巷でも、出版物でも、昔からこのことは、いろんな憶測が流れてはいるが、
もちろん本当のことは誰も知ってるわけがない。

(森川さんの予定とかプライベートなアクシデントとかいう意味でなく、あくまでも劇中での話として)

山田監督の脚本集(立風書房やちくま文庫)の第1作を見たら、竜造さんが
出席していることが、確かにたった数行でこう↓書かれてある。

『席には日奏と冬子をはじめ、さくらの会社の同僚や博の仲間の工員達。竜造たちが座っている』

と、いうことでおいちゃんは出席していることになっているのだ。
でも、ただそれだけで、そのあとは彼は会話も何もしていない。
会話できるはずがない、森川さんは予定がつかなくて大船撮影所に来れないことがわかっているのだから。


しかし、先日この寅次郎な日々でアップしたの第18作の『寅小僧』の夢同様、
当時の『キネマ旬報』に掲載された第1作の脚本を読んでみると、霧の中に隠れていた
おいちゃん欠席の謎が、少し解けたようになるのだ。

先日同様この第1作も『決定稿』の一歩前の『改定稿』のようなもの
だったのだろう。だから撮影や構想の途中段階が見え隠れしているのだ。




(キネマ旬報の脚本のまま紹介しましょう↓)


さくらの結婚式当日


題経寺 山門


降るような蝉の声。
山門傍のチリンチリンの氷売りの声。
すっかり夏である。

紋付袴の寅が、袴を引っ張り上げながら、やって来る。
後ろから借物らしい背広を着た登も走ってくる。

(この部分↑が予告編で映っていた!)



寅、怒鳴って

寅「おーい、梅さーん、どこだァ」

登「社長さーン」


                予告編で使われた幻のカット
            




題経寺 庫裏


冬子の手伝いで日奏上人が礼服の着替えに忙しい。


寅、庭へ飛び込んできて、

寅「御前様、梅太郎のヤツがこっちにお邪魔してませんか」

御前様「来てないが、どうした?」

寅「どうもこうも仲人は婚礼の日に蒸発しちまいやがるわ、
  親代わりのおいちゃんは二日酔いで寝込むわ、ムチャクチャですよ


冬子「あら!?おじさん出れないの?

寅「へえ…

寅「登、とにかくオレァ式場のほうへ行ってらあ、お前もういっぺん
 パチンコ屋の方を探してくれ、あん畜生め、
 見つけたらどやしつけてやる、
 それじゃあ、御前様、今日はパーッと大演説をお願いしますよ、
 御前様だけが頼りだからね」




川甚  玄関

紋付姿の梅太郎がスクーターで駆けつける。

その後ろから走ってくる工員たち。



とまあ、こいう脚本なのだ。



ただし、さきほど上でももちょっと書いたように
このシーンの冒頭が、実はこの第1作の『予告編』には、なんときちんと入っている。

題経寺の門前を寅が登と一緒に袴をまくりながら
社長を汗だくで探している↑上のシーンだ。
このカットが幻の脚本に絡んでいる。
(画像参照)

つまり、この脚本部分はたぶんほんとはきちんと
撮影されていたのだった。

社長が遅れて川甚のみんなの控え室にやってきた直後
後から寅と登が入ってくるが、
どおりで、登はいやに息を荒くしてぜいぜい言っていたわけだ。
ついにはしゃがんで苦しがってもいた。
登はずっと走り続けてパチンコ屋まで社長を探しにいったという
話の流れなんでしょうね。だからぜいぜい息が苦しいんですね。

つまりロケではあの幻のシーンをきちんと撮ってたことが
このあたりからも分かります。


では、なぜこの部分を切ったのか?それは分からない。
長さを短くして映画のリズム感をよくし、簡潔にするためなのか、
おいちゃんの欠席の理由がばかばかしすぎるのでカットされたのか、
私には分からない。
まあ両方かなあ…、とは思うが…。

まあ、と、いうことで、おいちゃんはどうやら、さくらの見合いの時同様、
前の晩に酒を飲みすぎて二日酔いということらしい(^^;)

これはちょっと驚きだった。さすがに…(^^)

見合いの時同様たぶん二日酔いかな…って勝手に推測はしていたが、
こうしっかり途中段階で『二日酔い』って脚本に書かれていたとは知らなかったのだ。

まさに驚き桃の木山椒の木とはこのことだ。


しかし、やはりちょっと無理があるなあ…。…と、
山田監督も思われたのかもしれない(^^;)
で、あらためて出版された脚本集ではおいちゃんが一応出席していることに
なっているのだろう。

※ちなみに「ちくま文庫」から出版されている脚本集は
 『松竹の編集に携わられてきた石井巌さんのお持ちになって
 おられた『決定稿』の所蔵を底本としています』と書かれてある。

 立風書房も内容がほぼ同じなので『決定稿』だと思われる。





今回の発見より遡ること1年半前

私は、2005年の12月10日「寅次郎な日々」その27
その昔こんな風に書いている。↓



『この長いシリーズの最大の謎の一つにさくらの結婚式においちゃんが
出席していない事がある。
これは話の流れから行くとなかなか納得できないことでもある。
森川信さんの仕事の予定が…、
なんて野暮なことは置いといてあるひとつの理由を考えてみた。

そして、その行動のヒントがこの第1作の中に隠されているのである。
さくらの見合いの時のおいちゃんである。
さくらの見合いの前の日になんと寅が20年ぶりにとらやへ帰ってきて、
嬉しくて嬉しくておいちゃんは酒をがぶ飲みしたのだろう。
それで翌朝あのように頭ガンガンで見合いに行けなかったのである。

で、おばちゃんにこっぴどくどやされる。
               

結局おいちゃんは、何か嬉しい事があると、
つい酒をがぶ飲みしてしまうところがあるようだ。

「昨夜あれほど私がほどほどにしなって言ったのに!」
とおばちゃんに言われていたが
分かっていても飲んでしまう性格なんだろう。そして酒には弱い。


結婚式後の記念撮影のときもおいちゃんの姿はなく、
その席には寅が座っていた。

              
結婚式前日、手塩にかけたさくらがお嫁に行ってしまうので
嬉しいやら淋しいやらで、
おばちゃんが止めるのも無視してぐでんぐでんになるまで
酔っ払ってしまったのであろう。

式の朝、布団の中でうずくまって頭を抱えているおいちゃん。
頭が割れるように痛いのである。

おばちゃん曰く
「またさくらちゃんの見合いの時みたいになるから、
ゆんべあれほどいい加減にしときよ!って
怒鳴るくらいに言ったのに、何考えてるんだい、
この酔っ払いのろくでなし!
今日はさくらちゃんのハレの日じゃないか、どうすんだい!まったくもう…」

おばちゃんも半泣き状態でどうしていいかわからない。

それで、寅が例の如く「オレに任せとけ」と、
おいちゃんの代役を勤めることになった。

と、いうわけなのではないだろうか。


午後、式も披露宴も無事終わり、新婚旅行へ行く直前、さくらは
博にことわって、ひとりおいちゃんが寝ているとらやへ小走りで向かう。
そして、布団を頭から被りうずくまっているおいちゃんの前にそっと座り、

さくら「おいちゃん、…長い間ありがとうございました。
   私はいつも…ほんとうに幸せでした」と涙ぐみながら語りかける。

おいちゃんは布団の中でさくらの言葉を聞き、
ついに堰を切ったように嗚咽してしまうのである。

と、いうような「想像」を勝手に今しているのですが、
みなさんはどう思われますか? 』


以上


2005年12月10日「寅次郎な日々」その27から書き写してみた。

で、この寅次郎な日々27の当事の僕が書いた内容と、
今回分かったキネ旬の脚本がシンクロして、ますますあの勝手に
描いた妄想が臨場感を持って感じられるようになったのだ。

これは私にってはこのうえもなく嬉しいことだった。







あの夜『喧嘩辰』を歌わなかった寅と冬子さん  



■話はまたちょっと変わります■



その第1作の未完成の脚本には実はもうひとつ、興味深いことが書かれてあった。

第1作のテーマソング的な、象徴的な歌と言えば、『男はつらいよ』と
なるが、実はもう一曲重要なテーマソングが存在することは、みんなが知っている。
みなさん御承知のあの北島三郎さんの『喧嘩辰』だ。


夜更けの帝釈天参道で冬子さんが歌っていたあの『喧嘩辰』を
自分も朗々と唄いながら飛び跳ねていく寅は至福だった。


♪こぉーろぉーしィ〜、たいほぉどぉー

 惚れてはいたがァ…とくりゃあ!

 ゆゥびィもォ〜触れずにィー

 …わかあれたぜぇ〜


 浪花節だと 笑っておくれ、

 野暮な情けに生きるより

 俺は仁義に

 生きて―ゆーくー。♪



              



立風書房やちくま文庫の脚本にはもちろん本編と同じく
『喧嘩辰』の歌声が書かれている。

しかし、『キネマ旬報に掲載された改定稿段階の脚本を見ると、
なんと、似ても似つかぬ違う歌を冬子さんも寅も歌っているではないか。



寅と飲み屋でお酒を飲んだ帰り、冬子さんは、酔っ払って
ついいい気分で夜更けの帝釈天参道を歩きながら歌を歌う。



♪あの人のことは―、忘れてほしい―



そして、題経寺の門前で
別れ際、寅にそっと手をしだす冬子さん。

寅も思い切って握手をする。

冬子「(にっこり笑って)おやすみなさい」

寅「(ぞくっと震えて)おやす、みなさい」

冬子さんはあの歌を歌い続るのだ。

♪あなたの―愛がまことならー、

 ただそれだけでうれしいの―…





その時の様子を脚本ではこう書いてある。

(その脚本部分をそのまま書きましょう↓)


呆然と月光の下で見送る寅。
銀鈴を振るような冬子の美しい歌声が、
森の精のように闇に消えてゆく。

寅、神妙な顔でペコリと頭を下げて引き返し始めるが、
次第に表情が緩み、やがてその口から朗々と歌声が流れ出す。

♪あなたの―愛がまことならー、

 ただそれだけでうれしいの―…



夜の、店もほとんど閉まった参道を、
寅、踊るような足取りで歌声よ響けばかり歌いながら歩いてゆく。


と、いうことだ。




この歌は『知りたくないの』というタイトルで、1965年(昭和40年)に
菅原洋一さんが歌って大変ヒットした歌。
私の親もレコード持っていた。それゆえ、私にとっても親しみ深い歌だった。




『知りたくないの』

1965年  歌 菅原洋一

作詞:ハワード・バーンズ、日本語詞:なかにし礼、
作曲:ドン・ロバートソン、編曲:早川博二

あなたの過去など知りたくないの
済んでしまったことは仕方ないじゃないの
あの人のことは忘れてほしい
たとえこの私が聞いても言わないで

あなたの愛がまことなら
ただそれだけでうれしいの
愛しているから知りたくないの
早く昔の恋を忘れてほしいの


まあ、これも上のおいちゃんの欠席理由同様、
そんな歌を歌う設定だったのかァー!って

またもや驚き桃の木山椒の木 &
ブリキにたぬきに洗濯機、猪木にえのきにケンタッキー、
やって来い来い大巨人!!

でした。

もちろん『喧嘩辰』のあの突き抜けた鮮やな高揚感は、
この『知りたくないの』には望むべくもないし、この二つの歌を
比べると私などは迷うことなく『喧嘩辰』のなんともいえない
爽やかな広がりこそがこのシーンにふさわしいと思うが、
しかし、この『知りたくないの』もなんだかちょっと聴いてみたくなって来る
から不思議だ。
まあ、要するに欲張りなんだろう。
ファンの業というものは無間地獄だ。

でも、寅がこの歌を口ずさむとやさしく柔らかな風が参道を吹いているような
静かな気持ちにもなれたかもしれないと思うのだ。

彼らは果たしてあの夜のロケの時、「知りたくないの」を
歌ってみたんだろうか。
それとも、そのロケ時には監督の心はすでに「喧嘩辰」1本だけに
絞っていたのだろうか。

そして、ひょっとしてこの映画以前にドラマか映画で、
渥美さん絡みかなんかでこの「知りたくないの」という歌が
使われていたのかもしれない。
そういうことってままあるからだ。

(どなたかご存じないでしょうか?)


追伸

(そうそう、『喧嘩辰』のことで追加です)

実は、『喧嘩辰』は、テレビ版「男はつらいよ」で、すでに第1話から
寅は歌っている。

映画版第1作で寅がさくらと20年目に再会した後、とらやの庭で
オシッコしながら「人生の並木道」歌うが、あそこでテレビ版から持って来て
アレンジしてあるのだがテレビ版ではあそこで「喧嘩辰」の1番を丸々歌うのだ。

またテレビ版最終話(第26話)のクライマックスでも「喧嘩辰」を歌っている。
さくらが、深夜、寅の幻覚を見て、裸足で寅を追いかけて外に走っていくのだが、
その場面でも寅は「喧嘩辰」を歌ってスッと消えていくのだ。これはなんとも悲しいシーンだった。
つまり、テレビ版は『喧嘩辰』に始まり、『喧嘩辰』に終っている。

テレビ版での寅の歌=「喧嘩辰」だったわけだ。

先日ようやく手に入った『テレビ版最終話の完全脚本』をさきほど
読み返してみたところ、ちゃんとテレビ版の脚本にも
「喧嘩辰」を歌っているセリフが書かれていたのだ。

つまり、あのテレビドラマの時点で
もうすっかりスタッフたちの間では『寅=喧嘩辰』になっていたということだ。


そうなってくると、映画の第1作で、途中までなぜ「知りたくないの」
を歌わせようとしたのか…ますます分からなくなってくるのだ。

まあ、いろんなことがわかるということは、
時にはややこしいことでもあるかもしれないが、
実に面白いことが多いのだ。






まだまだ8月は多忙が続きます。
第27作「浪花の恋の寅次郎」ダイジェスト版のアップは8月29日頃になります。






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『寅小僧次郎吉』の夢  
 
2007年8月22日 寅次郎な日々 その326


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
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このシリーズを見る楽しみのひとつに寅が見る冒頭の『夢』がある。
私の『夢ベスト3』は海賊船悪魔号を操る第15作「キャプテンタイガー」
「さくらのバラード」の替え歌が聴ける第16作西部劇「タイガーキッド」
そしてカッコいい寅とさくらが味わえる第18作「アラビアのトランス」などだ。

第18作の夢の寅などは「カサブランカ」や「望郷」を混ぜこぜにしたような
異国に住む男の望郷の念がにじみ出ていて、辺境の地に住む私などは、あの寅の
孤独が胸に沁みてしまう。

ところが、あの映画が封切られる直前に発売された当時の『キネマ旬報』の中に載っている脚本を
見てみると、なんとあの[アラビアのトランス」の夢がない。そして、違う夢が書かれてあるのだ。

立風書房からこの第18作が載った脚本集が出ているが、それには本編どおり「アラビアのトランス」の内容が
ちゃんと書かれてあるのだ。うーむ。

つまりあのキネマ旬報が編集されたあの時期には「アラビアのトランス」ではない別の夢が撮影されようとしていて、
その後なんらかの不具合もしくはクレームが内もしくは外からついて、急遽「アラビアのトランス」を
撮ったのかもしれないとも思う。

ところで、そのキネマ旬報に乗っていた「夢」だが、
第25作「寅次郎ハイビスカスの花」に出てくるような『ねずみ小僧』が主人公なのだ(^^;)
もっとも、物語は25作の夢とはぜんぜん違う。
名前も第25作のほうは『ねずみ小僧寅吉』。
この第18作は、ちょっと違って『寅小僧次郎吉』(^^;)
『ねずみ小僧』ではなく『寅小僧』。

この映画が作られた1976年という年は、あの越後出身の大物政治家も逮捕された大規模汚職事件である
「ロッキード事件」が発覚した年だ。それでその夢はロッキード事件のパロディが前半に入っている。


おおよその内容はこうだ。


時は幕末

江戸の町

日本橋あたり、

黒船来航で物情騒然たる江戸の町に、金持ちどもに鬼のように恐れられ、
貧乏人には神のように敬われた義賊がいた。

その名を、寅小僧次郎吉という―


悪徳商人のタコ兵衛に、小判ではちきれそうになったボストンバックが紅毛碧眼の異人商人から手渡される。
上座に控えているのが幕府の実力者『越山公』

タコ兵衛は異人の商人にこのような領収書を渡す。

『領収書 南京豆百個 右、確かに受け取り候 赤面蛸兵衛』

タコ「ナンキンマメ ミーン、ピーナッツ、ワンハンドレッド、ピーナッツ」
異人「オウ、アイ、シー」
タコ「OK?」
異人「OK!」

越山公は「いや、そのような物は受け取れぬ」と口だけでいい、すぐさまちゃっかり受け取るのだった。

それを天井裏で聞いていた寅小僧次郎吉は

寅小僧「一部始終残らず聞いたぜ!」
と、舞い下りて、異人の持っていた領収書をひったくる。
寅小僧「やい、タコ兵衛、何だこれは」

タコ「さあ、なんでしょう?わたくし、記憶にございません」国会答弁でこれありましたね(^^;)

寅小僧「嘘をつきやがれ!」

越山公「身共は潔白でござる」とシラを切うが、お構いなしに

悪人どもをコテンパンにやっつけてしまう寅小僧だった。


そしてその派手な事件は、
下条おいちゃん演じる老目明し竜造の元にも岡っ引きの源ちゃんを通じて伝わる。
竜造は病を得、なかなか往年のようには体が動かないようす。咳も出ているみたいだ。

それでも竜造は、寅小僧を捕まえるために十手を持ってスクッと立ち上がるのだった。
その姿を見てつねは、「寅小僧は『義賊』なのに捕まえるのかい?」と聞くと、
竜造「いくら義賊でも泥棒は泥棒だ、法のおきては曲げられねえ」と咳をしながらも筋を通そうとする。



その時、姪のさくらが駆け込んで来たのだ。

寅小僧の生まれ故郷がなんと葛飾柴又だと巷で聞いて驚いて帰ってきたのだった。。

「ええ!」と驚く竜造。

さくら「だとしたら、その寅小僧こそ、二十年前に別れたきりの、私のたった一人のお兄ちゃんかも…」
つねは「まさか…」とさくらが持ってきた人相書を見て
つね「ああ、この四角い顔をどうして忘れるものか、あんた、寅だよ」
さくら「ほんと?」
竜造「そんなはずはない…そんな…」と言ってヘナヘナと座り込んでしまう。


その時

呼子の音が鳴り響く中

寅小僧が障子を開けて入ってきた。

声もなくその顔を見る一同であった。




(↓ここからはキネマ旬報に載っている脚本のまま書きましょう)



寅小僧「竜造親分でござんすね。世間を騒がせた寅小僧でござんす。
     お縄ちょうだいに参りやした」

竜造「な、なんでお前がオレのところに」

寅小僧「竜造親分のご評判は前から聞いておりやした。私も盗賊のはしくれ、どうせお縄をいただくなら、
     親分のような立派な方にちょうだいしたいと思っておりやした。
     どうぞ、親分あしを捕まえて手柄にしておくんなさい―さあ」

と、両手を差し出す。

竜造「…出、出来ねえ…」」

寅小僧笑って、

寅小僧「なんていうことを。その名を聞くだけで江戸八百八町の盗賊共が震えあがる親分が、
     そのような気の弱いことを。さ、お縄を」


たまりかけて、さくらが叫ぶ

さくら「兄ちゃん!」

寅小僧、さすがにハッとする。

が、しかしにっこり笑って、

寅小僧「どちらの御新造さんか知らねえが、妙なことをおっしゃるんじゃござんせんか。
     オレにゃ親もいねえ、兄弟もいねえ、生まれ在所も分からねえ、みなし児だぜ」

笛の音、人声が路地から騒然と聞こえる。

寅小僧「さ、さ、親分、早く!」

竜造「ごめん!」

涙をのんで寅小僧の手に縄をかける。


路地

長屋の住人たちがウロウロしているところへ源公が飛び出し、大声で叫ぶ。

源公「寅小僧を捕らえた!うちの親分が寅小僧を捕らえたぞ!」

ハッとなる一同。

竜造の家から高手小手に縛られた寅小僧が出てくる。

長屋の住人たちから湧き上がる声。

「寅小僧の親分!」

「大統領!」

「神様!」

静々と歩く寅小僧。

その後ろから、さくらがかん高い声で叫ぶ。

さくら「兄ちゃん―!!」

思わず目を閉じる寅小僧。




ある田舎町の床屋

いすに座った寅、気持ちよさそうに眠っている。…




と、まあ、こう繋がっていくわけだ(^^)


もともと脚本は決定稿までの間に二転三転することはよくあるのだが、それにしても
こんなに『夢』の話がすっかり入れ替わってしまうなんて面白いものだ。

これは、迷いながらも2つの夢の構想があり、ギリギリまでどちらにするか悩みながら本編を
撮影しているうちに、雑誌の締め切りが来てしまい、とりあえず「寅小僧次郎吉」のほうを
載せたのかもしれない。

もしくは、大物政治家が絡んだ事件だったから世の中に配慮し、露骨な名称などが出てくるこの夢を
自主規制してしまったのか…。


真相は私には分からない。




          別所温泉ロケ撮影中の山田監督や岡本茉利さん、渥美清さん

           







まだまだ8月は多忙が続きます。
第27作「浪花の恋の寅次郎」ダイジェスト版のアップは8月28日頃になります。






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木蓮の花と夏子さんの涙   ― 安五郎の告白 ―
 
2007年8月19日 寅次郎な日々 その325


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。
  



木蓮の花と夏子さんの涙        ―  安五郎の告白 ―


山田洋次監督といえば、「男はつらいよ」だ。
主人公の寅次郎が高嶺の花のマドンナに恋をし、無私無欲で献身的に尽くす物語。
これは遠く、「無法松の一生」に象徴されるように、戦前から多くの日本人が追い求めた、人としてのあるべき理想の姿
なのかもしれない。
車寅次郎とは、岩下俊作の小説を原作として稲垣浩監督が昭和18年に制作した阪東妻三郎主演の「無法松の一生」を見て来た
山田監督が心に常に描き続けていった心のよりどころとなる人物像なのだ。
この「男はつらいよ」シリーズでも似たようなシチュエーションは第8作「寅次郎恋歌」や第34作「寅次郎真実一路」で表現されている。
しかし、形式は似ているが、それらの献身は不完全なものである。その中身である寅の無私の献身は、第18作「寅次郎純情詩集」の
中で大きく花が開くのである。この48作品の中で最も寅の無私の献身が表現されたのは、病身の綾さんを笑わせ、励まし続けた
あの「純情詩集」だと私は思う。そういうい意味では寅の心が最も純化されたのが第18作「寅次郎純情詩集」だったとも言える。

そして、実はそのような人物像は、山田監督の中で車寅次郎が初めてではない。
山田監督の初期の作品を見ていくと、このような車寅次郎的人物はすでにたくさん登場してくる。「馬鹿まるだし」「いいかげん馬鹿」
「馬鹿が戦車(タンク)でやって来る」「なつかしい風来坊」「吹けば飛ぶよな男だが」。このあたりは、すべて後の車寅次郎の原型が
キャラクター的にも人間関係的にも垣間見れるのである。

特に、「馬鹿まるだし」は無法松そのもののような純粋な心を持った安五郎が主人公で、それが高嶺の花の夏子さんにひそかに恋をする。
設定的にも非常に寅次郎に似ているのだ。これは山田監督と一緒に脚本を手がけた加藤泰さんも同じように長年無法松に憧れて
きているゆえに、二人とも同じ方向を向いている。それゆえ「馬鹿まるだし」は明確に「無法松」のオマージュ的な物語になっている。

実際、劇中の安五郎は旅芝居の「無法松の一生」を見、自分の境遇と似ている松五郎に強烈に憧れるのである。
そのころちょうど安五郎も、美しい未亡人の夏子さんを慕ってからだ。夏子さんには子供はいないが、まだ幼い弟清十郎がいる。
寅次郎も安五郎も松五郎同様、自分の気持ちをぐっと秘めてつくすのである。

しかし、車寅次郎も安五郎もアウトサイダーだが、寅次郎は実は、完全な根無し草ではない。優しいさくらやとらやの人々がいつも
待っていてくれる。
それに対して安五郎は漂泊者であり、誰からもつまはじきにあった完全な社会からのはみ出し者である。救いがないのである。
それゆえ、車寅次郎のマドンナへの献身と安五郎のそれは、若干その後の状況が違っているのだ。安五郎の言葉をそのまま借りれば
「吹けば飛ぶよな旅烏」ゆえの悲哀を散々味わうことになる。

寅次郎はマドンナにふられて、旅立っていくが、どこかで優しいとらやを胸に抱いたままでいる。つまりどんなに惨めでもその惨めさの
底はさほど深くないのである。それに対して安五郎の孤独は深い。散々つくしてきたマドンナの夏子さんにさらに褒めてもらおうと、
町で起こった人質事件を解決するべく、夏子さんが止めるのも聞かず、安五郎は闘いに行ってしまう。結局敵のダイナマイトが
爆発してしまい、安五郎は足を折り、失明をしてしまうのだった。その後安五郎は町で見捨てられたように暮らすのだった。
ここに安五郎の人生はどん底に達する。


やがて…、夏子さんの縁談が持ち上がり再婚が決まってしまうのである。



夏子さんの婚礼も近いある夜。


目が見えない安五郎は、夏子さんの家に訪れる。

夏子さんに最後の別れにやって来たのだ。


暗い庭の片隅にかつて安五郎が植えた木蓮の木が勢いよく伸び、真っ白な花がこぼれるように咲いている。


そこにすっと安五郎が立っている。



                   




夏子「あら、安さん、…びっくりした。黙って入ってくるから」

安五郎縁側まで来て

安五郎「このたびの御祝言、おめでとうございます」

夏子「まあ、あらたまって…、どうもありがとう」

安五郎「あっしはこんな身体なんでお見送りもできませんが、ご新造さん、末長くお幸せに…」

夏子「安さんも、元気で暮らしてくださいね」


安五郎「へえ…」


安五郎、しばらく黙っている。


夏子「いい匂いがするでしょう。安さんが植えてくれた木蓮がきれいに咲いてるわよ」


安五郎「へえ…」


安五郎はまた黙り込んでしまう。


夏子「どうかしたの?」


安五郎「あっしゃあ、申し訳ねえ…」


夏子さん驚いて


夏子「え?」



安五郎「ご新造さん、あっしゃ汚れとる」



夏子「…」


夏子さん、下を向く。



安五郎「あっしゃ汚れております」



夏子「別にどこも汚れてなんかいないわ…」



                




安五郎「へえ…、そうでやすか」


安五郎、沈んだ声でうなだれる。


安五郎は、無法松の告白を真似た自分の一生一代の告白が夏子さんに伝わらないで
空振りに終わってしまったと思い、心が沈んでいくのである。



安五郎を見つめ続ける夏子さんの瞳が潤み、

やがて一筋の涙が頬を伝っていく。



安五郎の気持ちは夏子さんに伝わっていたのだった。



               




しかし目の見えない安五郎にはそのことが分からない。






なんとも悲しく切ない別れのシーンだった。


桑野みゆきさんの白い肌と涙を浮かべた潤んだ瞳は今も脳裏に焼きついている。


山田監督の本格的な映画人としての人生はこの時から始まったのではないかと私は思っている。







まだまだ8月は多忙が続きます。
第27作「浪花の恋の寅次郎」ダイジェスト版のアップは8月27日頃になります。






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第26作「男はつらいよ.寅次郎かもめ歌」ダイジェスト版
 
2007年8月16日 寅次郎な日々 その324


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
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父親代わりの寅の奮闘記   


北海道は奥尻島。

寅の仲間のシッピンの常こと水島常吉は腸閉塞で亡くなる。その一人娘であるすみれちゃんが一人淋しく住む島が
この奥尻島である。彼女は人生をもう一度やり直すために、東京で働きながら定時制高校に通おうと密かに思っていた。
そんな時、縁あってちょうど父親の墓参りに来てくれて知り合えた寅に助けられるような感じでなんとか一緒に上京してくる。
そしてそんな何事にも自信のないすみれちゃんを寅は一生懸命護ろうと、直接柴又のとらやにつれて来るのである。

しかし、柴又参道の青山巡査はすみれちゃんを連れてきた寅を、指名手配中の誘拐犯人と間違ってしまう。
それを体を張ってかばうすみれちゃんの必死の啖呵は、胸にくるものがあった。

マドンナの啖呵といえば、リリー。数々の名場面がある。
「相合い傘」でのメロン騒動のリリーの啖呵は映画史上に残る名啖呵だった。
「紅の花」でも満男のことで、寅に対して啖呵を切る。この啖呵もリリーの長年の寅への想いが
感じられる胸にしみ入る啖呵だった。

そして、もうひとつ、忘れがたいマドンナの啖呵が、この時のすみれちゃんの啖呵である。


すみれ「やめてえ!!この人がなにしたって言うんだよ!なんてこと言うの…。
    寅さんはいい人だよ。父ちゃんの友達で、私が東京に来たいって
    行ったら、心配して一緒について来てくれたんだわ。
    そんな人警察に連れて行くなんて、バカだよー!!
    何年警官やってんだ!!出世なんかできるもんか!!おまえなんか!!
    悪いと思うなら、謝ったらどうなの。こんないい人のこと、あんまりだ」

ただただ『気持ち』で動いてくれた寅に対して、心一杯の気持ちで答えるすみれちゃん。
どのマドンナにもないダイレクトな優しさは、さすが男気のあったシッピンの常の娘だ。
渡世を生きた父親の熱い血が、こんなところに残っているのかもしれない。

寅はそんな一途で、純で、不器用なすみれちゃんが愛しくて、なんとか力になってやりたいと決意していくのだった。
そして5日間の奮闘努力の甲斐あって彼女は編入試験に合格し、葛飾高校の定時制で勉強をはじめるのである。

スクリーンではその後、学校での国語の授業が展開されるが、あのシーンを見ていると、のちの山田監督の作品
「学校」の原点がまさにここにあると思われてならない。

この物語には激しい恋やとびっきりの美人マドンナが出てくるわけではないが、あの不器用なすみれちゃんを
何とか幸せにしてやりたいと、映画を見ているこちらも寅と同じ気持ちになってくるから不思議だ。

寅自身もみんなに宣言しているようにこの作品は惚れたハレタというより、寅が父親代わりになってすみれちゃんの
幸せを切に願う物語なのである。

当時25歳の伊藤蘭さんの溌剌とした若い芝居がうまく成功していて、テンポのいい、弾けた作品に仕上がっている。
それにしても松村達雄さんは、ああいう芝居をさせたら右に出るものはいない。完全なハマリ役だった。
あの濱口國雄さんの「便所掃除」の朗読は歴史的な名シーンだ。寅とのやり取りも息がピッタリで安心してみていられる。






@さくらの引越しと寅の傷心


今回も夢から

疫病や天災が続く柴又村

悪代官が村の困窮を利用して「天狗のタタリ」だと嘘をつき、
おさく(さくら)を差し出すようにそそのかす。

困り果てている村人たち。

そこへ通りかかった旅人の寅がおさくの身代わりになって悪代官をやっつけるという話。

村人たちが朝、祠の前にやって来ると、つづらの中から寅が出てきて、
木に吊るした悪代官一味を指差す。

                 

寅「天狗様とは、真っ赤な偽り
村人たち「えー!…」
寅「悪代官とその子分たちです
村人たち、ざわめいている。

寅「さあ、これでもう安心だろ、おさく
おさく「どうして私の名前を?」
寅「今を去ること20年前、この柴又村をあとにした時以来、片時も忘れなかった名前よ

おさく「お、お兄ちゃん?」
寅「そうよ!
おいちゃん「寅!
おばちゃん「寅ちゃん!

谷よしのさんも村人で参加。
谷さんは今回は3回も登場するという離れ業を披露。


村人も喜ぶ。

寅「柴又村のみなさん、車寅次郎は帰って参りました!
村人たち「おおお!!!」とみんな拍手。
寅「悪代官は滅びました。この柴又村に永遠に平和は続くことでしょう!」と手を振る。

村人たち大歓声。

                 


寅はいつも心のどこかで柴又の人たちに歓迎されたいという気持ちがあるんだね。
夢では結構実現しているのだが…。







徳島県の片田舎の池のほとりでうたた寝している寅。


徳島県鳴門市大津町木津野西川田10

厳島神社

















この場所は
僕のリンクにも紹介している
寅友の小手寅さんが2013年4月に発見!









子供A「おい、おっちゃん目覚めたぞ」

ようやく起きて伸びをする。

寅「あ、あ〜…
木にもたれかかったら、その木が腐っていて、池にボチャン!
寅「ああ!」と、ビビル寅。

                 

子供B「おっちゃん、いらんことすな、魚が逃げるわァ!この子は最高!

謝る寅。



タイトル 男はつらいよ寅次郎かもめ歌


口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
   帝釈天で産湯をつかい、
   姓は車、名は寅次郎、
   人呼んでフーテンの寅と発します。




  ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪

   間奏が長い、

   奮闘努力の甲斐もなく今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる陽が落ちる



今回も江戸川土手に帰ってきた寅

ミニコントはいつものコントの王様津嘉山正種さん。
江戸川土手でトレーニングする人気ボクサーの津嘉山さんにサインをねだる
群集に混ざって寅ももらおうとするが、持ち合わせの紙がない。
子供に紙を1枚もらおうとして喧嘩。止めに入ったトレーナーが寅に押されて
転び、勢いでボクサーも転ぶ。怒ったボクサーはトレーナーの顔にマジックで
落書きを書いてしまう。もうそのあとは二人で棒振り回して大喧嘩。
寅はいつものように知らん顔して立ち去っていく。


                 





柴又 帝釈天参道


さくらが自転車でとらやにやってくる。



なんと今回からさくらが潜水艦アパートを脱出し、一軒家に引越したのだ。

御前さまからは大きな時計を新築祝いにプレゼントされて恐縮しているさくらだった。

おいちゃん「おい、これえ、御前様がくだすったぞ、遅くなりましたけどって

さくら「まあ、困ったわこんなことしていただいて

                 

そこへ国勢調査の調査員の人がやって来る。

おっと、杉山とく子さんだ!

                 

おばちゃん「あら、こんにちは

新旧「おばちゃん」御対面!(^^)


調査員「先日お願いした国勢調査の紙を

おばちゃん「国勢調査、あ、ちょっとあんた、その机の上

テレビ版「男はつらいよ」のおばちゃんと映画版男はつらいよのおばちゃんがご対面!
同じシーンで共演するのは実は初めてのことだ。

本来はテレビ版で人気のあった、この杉山とく子さんにおばちゃん役をお願いするはず
だったのが、 彼女の仕事の都合で出れなくなり、以前からおばちゃん役に、興味を持っていた
三崎千恵子さんが出演することになったのだ。



おいちゃん、調査員の方に、甥の寅のことを尋ねる。

おいちゃん「実は…、もう一人同居人がおりましてね、私たちの甥で寅次郎っていう
       
バカなやつなんですが…
 おいちゃん、調査員に「バカ」って言ってもしょうがないんだよ(^^;)


調査員は現在住んでいる場所で届けているはずだと教える。おいちゃんたちは、今日現在とらやに
いないのでそれなら今いないから関係ないという風になり、調査員の人が帰りかけたのだが…。




寅がその刹那、スッと前を横切ったのだ(^^;)


おいちゃんあわてて「あ、ちょっと!勘違いでした。今日現在おりました

おいちゃん律儀〜(^^)

それで、寅のことを調査書に律儀に書き加えようとしているおいちゃん。



寅が再び横切る(^^;)

さくら「お兄ちゃん!

寅、振り向いて

寅「よ!さくら、元気か?

みんな「おかえりー

寅「ちょっとそのへんまで用事で来たもんんだからね、
どうしてるかなって寄ったんだ。ん、なに、
一時間くらいいたらすぐ帰るから

おいちゃん「一時間??

寅「ああ

おいちゃん、調査員の方を向き

おいちゃん「一時間くらいって場合は…、これ…おいおい、バカ正直(^^;)
さくら「ずっといるわよ!お兄ちゃんに書かせなさいよ
おいちゃん「ん!そうだな。あのな、ここに書いてくれ、お前の名前とか年とかいろいろ

寅、急に脅えるように声が震え、ジリジリ後ろにさがりながら、

寅「オレは別に悪いことなんかしちゃいねえからな寅のそれまでの人生がよく分かる発言です(^^;)

                 

さくら「そんなんじゃないのよ
おいちゃん「これ書かねえとな、日本の人口からはずされちゃうんだぞその表現笑える(^^;)
さくら「そうよ
寅、タジタジしながら
寅「はずされたっていいよォ〜」と怖がっている。
さくら「何言ってるの、いけないわよそんな
寅「いいんだよ

たぶん寅は生まれてからこのかた、一度も国勢調査の紙を書いていないのだろうな。


結局、すぐに終わりそうもないので調査員の方は後で取りに来るということで去っていった。


寅、呆れて

寅「まったく驚いたねえ〜、久しぶりに帰って来たのに、罪人扱いしやがっておいおい耳あるのかよ ヾ(^^;)

と見当違いなこと言っている始末。



それでもさくらたちが、念願の一軒家に引っ越したことを知ると顔がパッと明るくなる寅だった。

おいちゃん「さくらたちがな、ひろォーい家に引っ越したんだよ

                

さくら「フフフ…実はそんなに広くないので照れている。

寅「家買ったのか!」と目が輝く。

                

さくら「うん…、もちろん月賦だけどね

さくらたちは第9作「柴又慕情」の時もタコ社長の栃に20坪の小さな家を建てようとするが、
寅は、生意気だとまくし立ててケチをつけていたが、今回はあれから8年の歳月が経ち、寅も
もういいんじゃないかと思えるのかもしれない。


寅「
へえ

さくら「おいちゃんが、この店抵当に入れてね、お金借りてくれたのえらいねおいちゃん( ̄ー ̄)

寅「そうかあ、家持ったのかおまえたち…」としみじみ頷いている。

おばちゃん「2階建てだよ」とニッコニコ

寅「ほう、2階建て、そらたいしたもんだ

おばちゃん「うん

寅「いや、オレもね、心配してたの。いつまでこいつらがさ、あの潜水艦みたいな
  アパートに住んでんのかなっと思って、へへ
もう最高!座布団2枚(^^)/

みんな「フフフ」と笑う。

寅「で、どこだい?、そこは

さくら「すぐ近くよ、題経寺の南側

現在の北総鉄道北総線の『新柴又駅』の付近。
題経寺から自転車で10分くらいかな。



寅「行ってみようか!

さくら「行く!?嬉しそう(^^)

おいちゃん「見てやってくれよ、綺麗にしてるから

寅「そうか、よし、行こ行こ!」と二人して出て行く。

おばちゃん「あ、晩ごはん家で作るからねきめ細かい演出

さくら「うん

寅参道に出て

寅「おまえ庭広いのか?

さくら「ううん、庭なんて…

寅「池でも作って鯉でも入れろよ、オレ送ってやるよ、少しくらいなら

と、参道を歩いていく。

おいちゃん、二人を見て

おいちゃん「やっぱり兄妹だな」としみじみしている。

                 




柴又5丁目

さくらたちの家が見える道。


田園の近く、土手の手前に5軒建売が並んでいる。

さくら「あそこ、右から2番目青いトタン屋根の家

寅「はあー…

                  

さくら「小さくてびっくりしたでしょ

寅「え、いや、いい環境だよ、周りは畑だし


「埴生の宿」がBGMで流れる。


中に入った寅は3年経ってる割にはまだずいぶん見た目が新しいのと、
建築材や大工の仕事がしっかりしているので安心する。

                 

寅「あ。そっちは庭だな」とカーテンを開ける。小さな庭がちょこっとある。

さくら「狭いでしょう

寅はさくらに気を使いながら

寅「いや、これくらいがちょうど手ごろなんじゃないか、うん」と言い、

寅「あ、そうするとこっちがパーッと江戸川か!と、開けると隣の家の部屋が丸見え。
さっきのおじさんとご対面〜(^^;)

その反対のふすまを開けるとそこは押入れ(^^;)


気を取り直して2階へ上がろうとする寅。

階段と台所の間の関係が狭いので

寅「おい、ここの階段とここんとこ狭くてさ、上から棺桶を縦に持ってくる時、大丈夫かいこれ?え

さくら「フフフ笑うしかないよね(^^:)

昔から住居とというとすぐに葬式の際の棺桶の話をする寅だった。


2階は満男の部屋がある。

そしてもう一部屋…。

2階から寅の声「この空き部屋なんだい?下宿人でも入れんのか?

さくら、下から

さくら「それはね、お兄ちゃんの部屋。泊まる部屋があると安心でしょ

寅「

メインテーマがしっとりと流れる。

寅は胸を打たれ感動して無言のままゆっくり下りて来る。

                 

寅「お前今、なんでも欲しいものやるって言ったら、何が欲しい?

さくら、御前様がくださった時計をかける場所を見渡しながら

さくら「そうねえ、やっぱりお金かな、ローンの支払いが大変だからと、超お気楽に言う。

寅「…金かあ…と、しょんぼりしてしまう。寅に縁がないものだからである。


ちなみに山田監督の脚本では、この二階の空き部屋が「寅の部屋」だと知らされた時に、
寅はさくらに「年中旅暮らしのオレに気を使うことはないんだよ。気持ちだけはありがたくいただくよ」と
言わせている。本編では無言のままである。この『無言』に言葉では言い尽くせない
寅の喜びと感謝が表現されていた。しみじみいいシーンだった。




題経寺  境内


寅は御前様にお金の無心をお願いしようとするが、先に見抜かれてスタコラ逃げる。

                 

意外にも源ちゃんが札入れにシコタマお金を貯めていたのを発見!

寅、急に目の色が変わって

寅「ゲ〜ンちゃん、お茶飲もうお茶飲もう
源ちゃん「へ、へい
寅「ちょっと話したいことがあるんだいろいろ、と…

と源ちゃんに抱きつきながらニコニコ顔で源ちゃんを連れ去っていく。

                 

源ちゃん、蛇に睨まれた蛙状態。ああ…(TT)



夕方

題経寺の鐘


とらや 二階


一万円札2枚にアイロンをかけ、祝儀袋に入れてニコニコ顔の寅。

源ちゃん…ああ…(TT)


茶の間に下りてきて


タコ社長も交えてみんなで乾杯

ちなみに社長は銀行でローンを組むときの保証人になってくれている。
これも、意外になかなかできないことだ。

社長「っぱあー!!ビールは最初の一口が一番うまい!
おいちゃん「可笑しなやつだな、ビール飲むたびに同じこと言ってやがる
みんな爆笑。

映画「息子」の中で、いかりや長介さんもこのっぱあー!!ビールは最初の一口が一番うまい!
って言っていた。

                 


寅はあらたまって正座し、博にさくらのことで丁寧にお礼を言って祝儀袋を渡す。


寅「博君

博「あ、はい

寅「考えてみると、たった一人の妹さくらが、お前に嫁いではや十年。
  波風もたてず仲良くやってこれたというのはひとえに、おまえがよくできた男なんだ。
  兄といてあらためて礼を言う
」とお辞儀。

博、恐縮してしまって

博「いえ、どういたしまして

さくら、ジーンときている。

博「いやあ、まいったなあ

と、照れ笑い。

寅「ついては…、ついては…

腹巻の中ををもぞもぞ探して

寅「おまえたち夫婦が10年目にやっと家を持った。それに対するの心ばかりのお祝いです

祝儀袋をビシッと渡す。

みんな感激。

さくらも感激。

                 

博は当然中身を見ないで胸ポケットにしまいこむが、
中身をみんなに見せたい寅は、わざわざお金を入れ忘れたかもしれないと言って、

博にわざわざ確かめさせるのだった。

博、封筒からスッと2枚出して

博「あります

社長後ろから覗き見て

社長「2千円かい?おいおい ヾ(^^;)

博「そうですよきちんと見てくれよ(TT)

寅「…!2千円…?

博、ハッとして

博「ああ!!、っともう一度封筒から中身を取り出し仰天する

さくら「…あらあ…

社長「2万円!!」大声で叫ぶ(^^;)

寅「フフフ」と顔をこわばらせながら薄笑い。

                 

おいちゃんおばちゃん目玉が飛び出しそうになっている。

寅「ま、あればいいでしょう。しまっときなさい。フフフ

博、顔を青ざめながら


博「兄さん…、こんな大金…

寅「いいからいいから、遠慮しないで

博「困るなしかし…」弱っている。

そらそうだ、いつも多くて数千円。少ないときは500円しか財布に入っていない
寅が、2万円を持っているはずがないことは、みんな瞬時に分かってしまうのだった。
どこでどう工面したのか…、これが心配なところ。


寅「
はやく、しまっときな

博「どうでしょう

寅「ん?

博「気持ちだけいただくということにして、これは…と2万円をお膳に置く博。

寅「」顔色が変わって、芋の煮っ転がしをつついている箸を置き、

寅「それじゃ、受け取れねえっていうのか?

さくら「そうじゃないのよ、私たちにはかえって負担になるから…

おいちゃん「金額が金額だからな

おばちゃん「そうだよ」と小声で諭す。

寅、だんだん声が大きくなって

寅「くどいな、おまえたちも。いっぺん出したものが受け取れるか!そらそうだ。

博「…、兄さん、とにかく」と、2万円を寅の前に置く。

寅、ついに切れて

寅「しつこいよ!」と、お金と同時にビールも手で払ってしまう。

みんな「あああ

さくら「お兄ちゃん、怒らないで。気持ちはとっても嬉しいのよ


社長、冷静に博にこう言う

社長「じゃあ、こうしたらどうだい。5千円だけもらってあと返したら、な失礼なこと考えるね(−−;)

と提案。お金を崩す社長。
博もそれに乗って、

博「じゃあ、5千円だけもらうことにして。ありがとうございましたそれじゃ逆効果だって(−−;)

寅、もう爆発寸前。

おいちゃんも寅を見てハラハラしている。

社長1万円札上にかざして、

社長「寅さんの1万円冊か。まさか偽札じゃねえだろうな。
  あー!あった透かしがあった、ホンモノだよこれ!ハハハ!


寅は、もうその前から怒りを顔に出してんだから、空気読めよな社長(−−)

                 

寅「このヤロウ!てめえ!」とお膳のお札を撒き散らしす。

満男ひらひら舞っているお札を見ている。

寅「このヤロウ!金が欲しかったら食っちゃえ食っちゃえ、てめえは!!

と、社長の口に1万円札を丸めて押し込む寅。

                 

これでもかと、貪欲に笑いを作る山田監督究極の演出、ああ…太宰さん…。ヤギか…(TT)

社長「うぐぐぐぐ

さくらたち止めながら、寅に謝るが、

寅「どこの世界に、祝儀に釣り出すヤツがいるんだ!

みんな「…」

寅「そら2万円って金は大金だよ、オレだって1万円にしようか、2万円にしようか
 ずいぶん悩んだんだ!しかしな、オレはおまえたちの喜ぶ顔が見たかったんだよ!


さくら「

寅「えー!どうして素直に受け取れねえんだよ

                 

寅「素直に喜んで、『お兄さんありがとうございました。これで、ずーっと前からさくらが欲しがっていた
 桐の箪笥を買ってやれます。なぜそう言えねえんだい!


さくら「

寅「てめえら…、オレがテキヤ風情だと思ってバカにしてるんだろう!

さくら「違うわ!お兄ちゃん」と首を振る。

寅「なに言ってやがんでぇ!人の真心には変わりがねえんだ!

と、かばんと帽子を持って出て行く。


おいちゃん「さくら!止めろ!

さくら「お兄ちゃん、待って!

しかし、寅は早足で駅の方に行ってしまう。

さくら「お兄ちゃんごめん!私が悪かった、…わたし…

呆然と店先で立ち尽くし、そしてうつむいて涙を流すさくらだった。

                 



今回もやはり、誰も悪くない。みんなが優しい気持ちになっているのにちょっとした心のズレで、
悲劇が生まれてしまう。
このシーンを見ている人の中には、あのまま、博やさくらが感謝だけして素直に2万円を
受け取ればいいのに、と思われる方も多いだろうが、やはりさくらたちは寅のことが心配なのである。
寅は他人ではないのだ。寅にとって2万円がどれほど大金か充分に理解しているからこその
やり取りなのだ。また、その出所も身内なればこそ気になってしまう。
他人が祝儀をくれるようにはさくらたちは「ありがとう」と、簡単に割り切れるものではないのである。






Aすみれとの出会いと付き添う寅


北海道 江差


第18回江差追分の全国大会が野外で行われている。

                 


そんな会場でバイをする寅やポンシュウ。

                 



寅はバイの合間に源ちゃんに、『借金の2万円をもう少し待ってくれ、必ず返すから』という
ハガキを書いていた。

そんな時、テキヤ仲間のシッピンのツネが腸閉塞で死んでしまったことを聞き、
寅は、彼の郷里の奥尻島まで線香を上げに行くのだった。


こういうところは義理堅い寅だった。



奥尻海峡を寅を乗せたフェリー「大凾丸」が行く。

「大凾丸」については本編完全版の同じ場所を参照してください。


物悲しくすみれのテーマが流れる。


淋しい町の風景。

ツネの家を訪ねる寅。
家は留守だったが窓からツネの位牌と写真が見える。





川崎水産 イカ加工場

イカをさばいているあき竹城さんにすみれちゃんを呼んでもらう。




                 


                 

事務所から出てきたすみれちゃんに父親の友人だと名乗り、墓の場所を尋ねる寅だった。


墓はいっそう淋しい寂れた海岸に建っていた。

                 

手を合わせて拝む寅。

自分の分の香典と託された香典をすみれちゃんに渡す。

どこまでも淋しい荒涼とした海岸を見渡す寅。

すみれちゃんは墓のそばに石を積んで供養をしている。


寅「へー…、それじゃあ、ここでお祈り上げると死んだ仏に会えるのか…

すみれちゃん、もくもくと石を積み上げている。

寅「へェー、それじゃあ、おとっつあんに会いたくなったら、いつでもここへ来ればいいんだ、な

すみれ「別にィ、会いたくなんかないもん…

すみれのテーマが流れる。

寅「そりゃあ、博打好きで、大酒飲みで、ろくな親父じゃなかったから、恨みに思うの
  当たり前だけどな


と、言いながら寅も石を積み上げている。

寅「あいつはいつもお前のことを自慢してたよ。すみれって言うんだろ

すみれちゃん、寅を見る。

寅「すみれはベッピンだ。オレにはできすぎた娘だ。どんなことあったってあいつを
 テキヤのカカアにはしねえ。大学生で、まじめなサラリーマンの嫁にするんだって、酒飲んで
 酔っ払うとそう言ってたよ。
 今でもきっとそのへんで、おまえのこと心配してるよ。だから赦してやんな、な


すみれちゃんはなにも言わず、歩いていく。




その夜  ホテル 奥尻

谷よしのさん演じる女中さん布団を敷いている。(谷さん今作品2回目

寅は夕食をとっている。

              

なべつる岩が写っている「奥尻島」の観光ポスター。

そこへすみれちゃんが訪ねてくる。
昼間の墓参りのお礼にみやげ物を持ってきたのだった。

寅「ああ、ありがとう、そうかい礼に来てくれたのか

すみれ「明日帰るんですか?

寅「うん、ここにいても商売にはならねえしな

すみれちゃん、ススッと近寄って御銚子を持ちお酌をしようとする。

寅「…!あ、そうかい、フフ、こりゃありがとう」と、顔がほころぶ。

寅「そうか…、あんたのおとっつあん酒飲みだから、いつもこうやって
  お酌してたんだ
なんとまあ…。

すみれちゃん、少しはにかみ照れる。

寅「この島に、ずーっといたのかい?

すみれ「いいえ、函館で働いてました。お土産物屋とか喫茶店とか

寅「うん、そうか。函館にいたことがあるんじゃあ、この島の暮らしはちょっと淋しいな

船の汽笛 ボ〜

すみれ「おじさんは、東京ですか?

寅「うん、そうだよ

すみれ「私も東京行きたいな…

うーん、そういうのって安直な考え…。


寅「まあ、その気持ち分かるけどなァ。東京なんていいところじゃないよ

行ったことないから余計にずっと憧れ続けるんだよねえ。

すみれ「

寅「東京で働きてえのか?

すみれ「うん、働きながら学校行きたいの函館や札幌じゃダメなのかい?

寅「学校?

すみれ「私、高校中退だから就職のときもハンデがあるの。
     だから東京の定時制高校行きたいなあ…って思ってる
なぜ東京なんだ?

寅「…、おまえそんなこと考えてたのかァ…。あの極道者のツネの娘がなァ…

帰ろうとするすみれを呼び止め、 

かばんからとらやのマッチを取り出しす。

お、意外にもかばんの上に時刻表が!
寅も時刻表使うことあるんだねえ…。


寅「東京行ったらな、ここへ訪ねてきな、え、オレの家だから

すみれちゃん「東京…、

寅「うん

すみれちゃん「これ、なんて言うの?そうそう、意外に読めないよねえ…(^^;)

寅「あ、そりゃ葛飾っていうんだ

すみれちゃん「柴又

寅「うん

すみれちゃん「てい…寺の名前なんて読めないよねえ…(^^;)

寅「柴又帝釈天だ

すみれちゃん「」と頷く。

寅「

すみれちゃん「東京
寅「うん

すみれちゃん「か、かつ?

                 

寅「あの、上野駅降りたらな、これを見せろ、人に。で、ここへ行きたいんだけど、って
  訪ね。な、そうしたらすぐこれるから


第7作「奮闘編」の花子ちゃんの時と同じこと言ってるね(^^)


すみれちゃんほっとして頷き階段を下りて帰っていく。

寅「あ!ちょっと待て!あのな、あんまり目つきの悪い男に見せるなよ、え、
  学生さんに見せろ、真面目そうな


すみれちゃん「はい」と下から返事をする。

安心した表情の寅だったが

寅「ちょっと待った!今学生って言ったけどさ、学生はダメだ。学生ダメだ。
  あのー…、おまわりにしろおまわりに、な


すみれちゃん「はい」と言って宿を出て行く。

寅、やっぱり追いかけて外に出て

寅「ちょっと待て!よ!おい!おまわりって言ったけどね、それも人によるよ、ね!

警察まで疑うと聞く人いなくなっちゃうぞ(^^;)


寅、走りながら

寅「おい!ちょっと待て!」と追いかける。

上がり口で谷よしのさん「???」






Bすみれの奮闘とみんなのバックアップ


東京  とらや 台所


社長が珍しく草団子を食べている。

そこへ米倉斎加年さん演じる青山巡査が長万部から戻ってきたのだ。
この方、昔(第16作のころ)は轟巡査と言った。


青山巡査「こんにちは

おばちゃん「まあ、しばらくね青山さん

                 

青山巡査「はい、お袋の具合が悪く、しばらく郷里の長万部に帰っておりました

で、用件は今新聞を騒がせている誘拐犯の公開捜査のことで似顔絵ができたとのこと。

おばちゃん「田舎の娘さんを上手いこと言って東京へ連れ出して、
       悪いところへ売り払っちゃうっていう…


『この顔にピンときたら110番!!』

四角くて目がちっちゃい顔…のモンタージュ そのまんま(^^;)

                 

三味線の音  ぺんぺんペン

さくらたち驚く

青山巡査「角ばった顔と細い目が特徴であります

社長と青山巡査目が合って

社長「オレじゃないよ、角ばってないもん、目だって大きいし、ね、おいちゃん

おいちゃん「フフフ

おばちゃん、ポスターを見て

おばちゃん「あ、関西訛りだって書いてある、あーよかった

この次の作品、第27作「浪花の恋の寅次郎」では、寅は確かに関西訛りになってとらやに
戻ってきたね(^^)



そこへなんとすみれちゃんを連れた寅が運悪くとらやに帰ってくる。

みんな顔を見合わせて真っ青。

三味線の音

寅「お!これはみなさん、お揃いで」と店に入ってくる。

                 

寅はそれぞれに挨拶するが、みんな寅のことより「すみれちゃん」のことが気になっている。

備後屋が青山巡査にチクっている。あんた寅の昔からのお馴染みじゃないか(−−;)

青山巡査はモンタージュと顔がそっくりな寅を誘拐犯だと疑う。

まあ、あれだけ似てリャァねえ(^^;)

                 

青山巡査「あああ!

寅、怪訝な顔で青山巡査を睨む。

寅「なんだい、なんかオレに用か?

                 



結局この後、派出所まで連れて行こうとする青山巡査と寅は大喧嘩。


寅「もう我慢ができねえ!このヤロウ!

青山巡査「あいたァー!!

寅「やい!このヤロウ!ツラが四角けりゃ犯罪者か!なんだてめえ長引いたツラしやがってこのヤロウ!

第10作「夢枕」の岡倉先生VS寅の再現だ(^^;)

青山巡査「あ!あんた、僕のアゴのこと言ってるんだね!無礼な!


掴み合いの大喧嘩。

その時、さくらを振りほどいてすみれちゃんが巡査に飛び掛っていくのだった。


すみれ「いやー!やめてー!と青山巡査を突き放す。


                 

青山巡査「おい!

すみれちゃん「この人が何したって言うんだよ!

青山巡査「あんたを誘拐しようとしたんだよ!決め付け!


すみれちゃん、悔し涙で声を震わせながら

すみれちゃん「…なんてこと言うの。寅さんはいい人だよ。
      父ちゃんの友達で、私が東京に来たいって言ったら、
      心配して一緒について来てくれたんだわ。そんな人を
      警察に連れてくなんて…バカだよ!何年警官やってんだ!
      出世なんかできるもんかおまえなんかァ!!


                 

と、物凄い語気で啖呵をきるのだった。

「出世なんかできるもんかおまえなんか!!」には青山巡査にはきついパンチだったろうね(TT)


青山巡査、青ざめた顔で下を向く。

寅「わかったわかったすみれ。このアゴもよ。
 悪気があって言ってるんじゃないから、勘弁してやんな


青山巡査「もちろんそうです

すみれちゃん「悪いと思ったら謝ったらどうなの!これは正しい(^^)

すみれちゃん「こんないい人のこと、あんまりだ」と悔し涙を流している。

青山巡査も寅もどうして言いか分からないでいる。

寅、大勢の見物人を蹴散らし、青山巡査も交通整理をする。

この見物人の中にまたもや谷よしのさん登場!
めがねをかけてごまかしているがわかりますよ、谷さん(^^)
この作品だけで別人で3度も登場している。







夜 題経寺の鐘


とらや 風呂


湯船に浸かっているすみれちゃん。

★ファンサービスです、はい(^^)

                 

茶の間ですみれちゃんの生い立ちや苦労をみんなに話してやっている。
父親絡みの数々の苦労があったようだ。

それで、寅は、あらためて正座をし、博やさくらに、すみれちゃんの定時制高校
のことを頼むのだった。

寅「学校のこととなったら手も足も出ないからね

                 

おばちゃん「そらそうだね

なんせ中学校3年の時、校長の頭ぶん殴って退学になってしまったのだから(^^;)

社長「恋愛のほうなら、まかせておけだけどな、ハハハ!ハハハ!

寅ムッとして社長に詰め寄る。

寅「オレはな、あの娘の父親代わりのつもりなんだ

社長「うん」と恐縮。

寅「下手な勘ぐりはやめてくれよォ」と凄んで、社長を庭に追いやる。


このシーンは実は脚本には無い。

脚本では↓

「社長、おまえには経済的な方面で助けてもらいたいくらいだから、よろしく」

社長「
冗談じゃないよ、こっちが助けてもらいたいくらいだよ

となっていて色恋の話はしていない。現場で変えたんだね。


その時すみれちゃんがお風呂が熱いと中から訴える。

すみれちゃん「寅さん、お風呂熱いの…

寅「バカだなあ…、熱いの我慢することないんだよ、そこの水道…

と、風呂のガラス戸を開けてしまう。

すみれちゃん「キャー!!!


★ファンサービスそのAです(^^;)

                 


寅「ああ!!

目をパチクリしながら

寅「間違って見ちゃった

寅、たじたじしながら

寅「いや、見ない!見ない!見ない!見えるわけないそんな所から、ねえ!

みんなシラ〜…(−−)

寅「へんな勘ぐりやめろよ。オレは父親代わりだから。あ〜、目が霞んでしょうがない

と、頭をグルグル回してごまかす。

                 





葛飾高校 門


定時制高校の看板

【定時制で学ぼう。1〜4年各学年。希望者は本校事務所まで 連絡先 691−3357】


追加事項:2010年6月の寅福さんの調査により
この高校が【南葛飾高校】であることが判明しました!
詳しいことは「寅次郎な日々445」を御覧ください。


ちなみに満男や泉ちゃんが通っていた高校は、私も後に調べてみた結果、
葛飾野高校】であることが判明!

この二つの高校は徒歩圏だった。





事務所の説明を受けるすみれ。

すみれちゃん、入学試験があることを知り、心配になってしまうすみれちゃんだったが
付き添いできたさくらは簡単な試験だと言って励ますのだった。



                 




そのあとコンビニのセブンイレブンでパートで働くことに。
なんと社長のコネ。
社長もなかなか役立つね。

                 

このころは、コンビニの出始めなので、さくらはコンビ二とは言わず「スーパー」と言っていた。

あのオレンジ色の制服…懐かしいねえ


あのコンビニは葛飾高校のそばにあるっていう設定だが、
2010年6月寅福さんが執念であの位置を発見された。

葛飾区青戸8丁目22番地付近


環七と6号線が交差する付近だ。

ロケ地の【南葛飾高校】から1キロはある。遠い…。





夕方 とらや 台所

寅は、すみれの入学祝に「真っ白な運動靴」を買ってきてやるが、編入試験があると聞いて、
しょげてしまう。


寅「試験があるんじゃダメだよ

さくら「どうして?

寅「中学もろくすっぽ行ってないんだよ、そうだろ。葛飾柴又帝釈天っていう字が読めないんだから。
 オレだってその字は読めるよ、そうだろおまえ、えー
あんた地元なんだから当たり前だろが ヾ(^^;)

結構読み間違える人多いと思う。すみれちゃんが特別なのではない。


なんとすみれちゃんが階段から下りて寅の横にいる(^^;)

寅思わず

寅「こんちは…

はっと気づいて

寅「あ!すみれちゃん、ここにいたのか、ハハ…

すみれちゃん「人の恥、さらす事ないでしょ…、バカ

                 


その後、寅はすみれのことをなんとかしてくれと博に頼むのだった。

社長のところへ裏口入学の相談もしに行く寅。(いきなりかよヾ(^^;)

博たちはその日から5日間すみれちゃんにつきっきりで特訓。



さくらは英語。

寅は工員を蹴散らす役(^^;)


                 


おばちゃんは帝釈様にお百度参り

小金持ち源ちゃんはひたすらお金の勘定(^^;)

                 


博は数学。

寅は横で寝てるだけ(^^;)


                 


まあ、本当に、とらやの人たちって人が良すぎるね、おばちゃんのお百度参りにいたっては
凄すぎるくらいの親切心。こんなこと自分の娘にしか普通しないよ。いくら寅に頼まれたからって
ほぼ初対面の人にここまでしてやるなんて、観音様のような人たちだ。



そして遂に試験当日の夕方を迎える。


緊張しているすみれに対し、【落ちる】とか、【すべる】とか、【転ぶ】とか、
この手の言葉は絶対使うなと命令。出ましたおなじみ【禁句】シリーズ


「続男はつらいよ」では「おかあさん」の類はダメ!
「夢枕」では「息子」「坊や」「せがれ」はダメ!

「恋やつれ」では「夫、亭主、だんな、ダーリン」はダメ!
「噂の寅次郎」では「離婚」はダメ!




                 

さくらとすみれちゃん下りて来て

さくら「忘れ物ないわね。あ、願書は

すみれちゃん「はい、これ

寅「あ、そういうものはね、バックにしまっとけ、落っことすといけないからあひょ…(><;)

博「あ…

みんな指差す。(^^;)

寅「あ!!落っことすな、なんて自分で言っちゃったよ。あー、注意してるとどうしても
  口が
滑っちゃうんだよねうわっち(((((@@;)


                 

社長「

寅「あ!!!滑っちゃったって、自分で言っちゃったよ。全部言っちゃったよ社長


まあ、それでも寅とすみれちゃんはおばちゃんのお百度の願のかかったお守りを
渡されて、みんなに感謝しながら、なんとか学校のそばまで行ったのだったが…。






「綾瀬川」にかかる「五兵衛橋」


橋の袂で急に怖気づいてしまう。

すみれちゃん「寅さん、私やめようかな…。だって、どおせダメだもん

と、橋の欄干にもたれて諦めようとする。


メインテーマが静かに流れる。


寅「すみれ、おまえそれでいいのか。本当にそれでいいのか?

                 

すみれちゃん「


寅「『あの娘の親父は大酒飲みでバクチ好きだ。親父がろくでなしから
 娘もボンクラで、夜間の高校も入れやしねえ』おまえ、そうやって人に
 後ろ指指さされて、平気か?


                 

すみれちゃん、寅を見て、首を横に振る。

寅「だろう…。 な

とすみれの肩を持って一緒に歩いていく。


なにげないシーンだが、私はすみれを優しく励ます寅のこの声が好きだ。
寅だからこそ言える言葉だったと思う。こういう演出がこのシリーズの奥深さ。





葛飾高校 廊下

定時制の職員室を聞く寅。

松村おいちゃん演じる国語教師に案内されて、そのあと編入試験を教室で受けるすみれちゃん。

                 

寅は心配でしょうがないので、戸を開けて、指で国語教師を呼ぶ。

寅「先生、あの娘入れるかねここに?

国語教師「さあ、それは試験の結果見なくちゃなんとも言えんけどね

寅「いやあ、あの娘ね、オレの死んだ友達の娘でさ、この学校は入ってもらわないと
  オレ困るんだよな…


と、財布から2千円出して

寅「少しだけど、ちょっと…

国語教師「なんだい!?

寅「いや、暇な時、ちょっと駅前でパチンコでもやってよ

2千円ポッキリで、何とかしようとするなよな…。トホホ(^^;)

                 

国語教師驚いて

国語教師「バカ!なんてことする!

寅「気持ちだからさ、せっかくだしたんだから

国語教師は戸を勢いよく閉めてしまってしまい、寅は指を挟まれ痛がる。


このギャグはである松村達雄さん扮する2代目おいちゃんのキャラからとったギャグだ。
つまり2代目おいちゃんは大のパチンコ好きだったってこと(^^;)

ちなみに山田監督の脚本では「専門書かなんかを買ってくれ」となっている。
現場で「
パチンコ」に変わったんだねえ〜。


そのあとの面接も、不器用なすみれちゃんは、なかなか自分の気持ちを表現できない。
それで、つい、寅が毎回割って入って、国語教師に外に連れ出されるのだった。



                 



諏訪家 食堂

さくらが電話でおばちゃんと話している。
筆記試験も面接も上手くいかなかったらしい。すみれちゃんは泣いていたそうだ。


博が風呂場から出てくる。
さくらの家の脱衣場が映る、数少ない場面。

電話を切ったさくらに博はいいことを言う。

博「試験の成績で落としたりはしないと思うけどなあ、
  そんなことで人間を評価しないのが定時制高校なんだ


さくら「うん


                 


こういう冷静なところが博のいいところ。物事の本質から目を離さないところはさすが。


博「発表は、いつなんだ?

さくら「あした

博「今夜は眠れないな兄さん





翌日 夕方 葛飾高校


すみれちゃんが教科書を入れた封筒を持って小走りで校門を出て行く。

                 



とらや 店

すみれちゃん飛び込んでくる。

すみれちゃん「さくらさん!合格した!

さくら「ほんと!?

すみれちゃん「ほら!これ教科書、みんなただでもらって来たの

                 

みんな出てきて大喜び。

すみれちゃんは江戸川土手に寅を呼びに行く。

すみれちゃん走りながら、



すみれちゃん「寅さーん!

寅、気づいて


寅「どうした!

すみれちゃん「受かったァー!!

寅「受かった!あ!イタ!」とこける寅。

寅「よかったなあー!

すみれちゃん「ありがとう!ほんとにありがとう!

                 


寅「よかったよかったよかった


二人抱き合って、小躍りして喜び合うのだった。

いいシーンだ…。



                 






C学校に通うすみれ。そして母親との再会



夜 とらや  茶の間


夜はみんなでお祝い。

すみれちゃんが『江差追分』を歌うはめになる。

そういえば蘭ちゃんは元歌手だ!

寅はちゃかして、それ見てすみれちゃんは笑ってしまってなかなか歌えないのだった。

                 

みんなやんややんや

楽しいひと時。

幸福な日々。


                 




北海道 奥尻島

一方、喧嘩別れしたすみれの恋人である函館の大工、貞男が奥尻島にすみれちゃんを
訪ねてくる。そして東京の葛飾に今住んでいることを知るのだった。

                 




東京 柴又

すみれちゃん一生懸命セブンイレブンで働いている。


                 




夕方  とらや 店

遅刻しそうになっているすみれちゃん、さくらの自転車使って葛飾高校へ急ぐ。

寅も備後屋の自転車を無断で奪って追いかけていく。ミニギャグでしたァ(^^;)

                 





葛飾高校  定時制授業


国語教師が詩を朗読している。


                 




濱口國雄 「便所掃除」


扉をあけます
頭のしんまでくさくなります
まともに見ることが出来ません
神経までしびれる悲しいよごしかたです
澄んだ夜明けの空気もくさくします
掃除がいっぺんにいやになります

むかつくようなババ糞がかけてあります。
どうして落ち着いてしてくれないのでしょうか
尻の穴でも曲がっているのでしょう。
それともよっぽど慌てたのでしょう

唇をかみしめ戸のサンに足をかけます

静かに水を流します。
ババ糞におそるおそる箒をあてます
ボトンボトン便坪に落ちます
乾いた糞はなかなか取れません
タワシに砂をつけます
手をつき入れて磨きます
汚水が顔にかかります
唇にもつきます



生徒たち「いや〜(((((−−;)


                 



そんなことにかまっていられません
ゴシゴシ美しくするのが目的です

朝風が壷から顔をなであげます
心も糞に慣れてきます
水を流します
雑巾で拭きます。
金隠しのうらまで丁寧に拭きます
もう一度水をかけます
クレゾール液を撒きます

白い乳液から新鮮な一瞬が流れます




国語教師「こうやってな、汚い便器をピカピカに磨き上げた時、
      この人は、自分の心まできれいになったような気がして
      最後にこういう言葉でこの詩を結んでいるんだよ、よく聞けよ



                 

                 

便所を美しくする娘は美しい子供を産むと言っていた母を思い出します。

僕は男です

美しい妻に会えるかもしれません




すみれちゃん、心が振るえ、しみじみしている。

                 


みんなも静かに余韻を感じている。

ほんとうにみんないい顔をしている。

深い心の動きがあったときの人の顔は美しいのだ。


                 


国語教師「どうだ。詩はいいもんだろう…


そのような静かな感動とは別次元で
一番後ろの席で寅が、うっつらうっつら居眠りしている。
そのうちに、机が倒れそうになって、大きな音がする。

みんな大爆笑。

                 

国語教師「授業ぶち壊し(^^;)

寅照れまくる。

山田監督にはこれがあるのだ。つまり、さわやかな感動の後に
ステン!と転がす笑いが待っているのだ。ただじゃすまないのがこの映画(^^;)





翌日 帝釈天参道


すみれの母親がとらやに向かって参道を歩いている。



とらや  庭


すみれちゃんが洗濯物を干している。

工員達向こうからからかっている。

このパターンはちょくちょく使われる。

                 


さくらに呼ばれて店に来るすみれちゃん。

すみれの母親が突然訪ねてきたのだ。

母親「あらいやだ。あんたがすみれ?

すみれちゃん「はい…

母親「私。誰だかわかる?

すみれちゃん「母ちゃん?

                 

母親は懐かしがるが、その反面、今、自分には家族がいるので一緒には暮らせないとも言うのだった。
そんな母親の言葉にショックを受けたすみれちゃんは

すみれちゃん「私、なにも、あんんたなんかと一緒に暮らしたくありません!」と啖呵をきってしまう。

母親も、すみれちゃんにそう言われるのは当たり前だと、つぶやく。

お金を置いていこうとするが、すみれちゃんはその封筒を返そうとして床に落とす。

傷心の母親はさくらたちに深々とお辞儀し、

母親「すみれのことをよろしくお願いいたします

と泣きながら帰っていく。

さくら、すみれちゃんに追いかけるように言い、
しぶる彼女の腕を掴んで二人して外に飛び出る。



近くの電柱の陰で泣いている母親を見つけるすみれちゃんとさくら。


すみれちゃん、思わず母親の近くへ走り寄る。

                 


第19作のテーマのアレンジ版が流れる。


すみれちゃん「母ちゃん…

すみれちゃん、母親の肩に手をかけようとする。

母親突然振り向き、泣きながら、すみれちゃんを力いっぱい抱きしめる。


                 

母親「いいわね、お前は幸せになんのよ

さくら、その様子に胸を打たれている。

母親、さくらにもう一度丁寧にお辞儀をして、泣きながら小走りで去っていく。


母親の背中を見つめているすみれちゃん。


すみれちゃん、目を潤ませながら

すみれ「苦労してんだね…、母ちゃん」と、つぶやき、とらやに入っていく。

柴又7−6

どんな事情があろうとも、母と娘は会えてよかった。そう思える一瞬だった。
さくらが追いかけなければ、すみれちゃんは辛い思い出を背負うことになったであろう。
よかった…。

すみれちゃんの言った「母ちゃん…」は切ないね。





D貞男との再会と帰ってこないすみれ



葛飾高校 定時制の教室

みんな寅の中学校時代の話を面白がって聞いている。


寅「その校長のあだ名がさ、タヌキって言うんだよ。これツラがタヌキそっくりだ

                 

みんな「ハハハハ!」

寅「またこのタヌキがやなヤロウでね、こっちが嫌だなァ〜っと思ってるから向こうだってこのヤロウって思ってるわけだ

寅「ある日ね、オレのことを捕まえて、フン、やっぱりお前は芸者の息子か、どうせ家じゃろくな教育してないんだろ

女子生徒「ひどーい

寅「ね、こうぬかしやがったんだよ。オレは頭にきたなあー。そうだろ、オレが頼んで芸者の子に産んでもらったわけじゃ
  ねえんだから


みんな、頷いている。

                 

寅「よし!このヤロ、ぶっとばすぞ、と思ったんだ

男子生徒「ほんとに殴ったの校長を

寅「あたりめえだよおめえ。だけどまさか素面でやるわけにゃあいかねえだろ、な。
  ちょうど運動会の日だよ。オレみんなに隠れてさ、キューっと一杯飲んでな、で、仮装行列だったんだよ。
  オレ、土人のかっこうしてよ、ね。こん棒持って、タヌキの後ろ頭ねらってコキーン!とねやったのよ、うん


みんな「うわー

寅「だけどオレもバカだねえ〜、自分で顔黒く塗ってりゃ分からないと、思ったの。
  だけどいくら顔黒く塗ったってさ、この四角いオレのツラが丸くなるわけねえもんな


みんな「ハハハハ!

寅「それですぐクビだよ、クビクビクビ!んー!それが中学3年。それ以来ずーっとフーテン暮らしよ

みんな「ハハハハ!

男子生徒B「ねえ、タヌキまだ生きてんの?

寅「死んだよ、可愛い娘残してな


授業開始のチャイムが鳴る。

寅「あ、その娘ってのはさ、面白い話はあるんだよ

英語教師が入ってくる。

寅「…さ、勉強勉強、この続きはまた明日

みんな残念がる。

英語教師「寅さーん

寅「ええ?

英語教師「たまには英語の授業聞きませんか?

寅「あー、英語はいいよォ、オレアメリカに用がねえから寅上手い!座布団2枚!(^^)

                 

みんな「ハハハ

男子生徒「イェイイェイー!




学校の主事室のおばちゃんを見つけて

寅「おばちゃん

おばちゃん「はいー

寅「熱いお湯沸いてる?」とお土産をぶら下げてくる。

おばちゃん「沸いてるよー

寅「そう、美味しいおせんべい買って来たよ、柴又のとらやのせんべいじゃないのかい(^^;)

おばちゃん「まあ、いつも悪いねえ〜」と、ニッコニコ。

寅「はい、いこいこ」と主事室へ歩いていく。

このように寅は、主事室のおばちゃんとだべりながらすみれちゃんの授業が終わるのを今日も待つのでした(^^;)
寅のこういうところ私は大好き。人生の玄人。なかなか学校の主事さんに焦点が合わないんだよね、父母たちって。

                 







昼   とらや  店


おばちゃん、江戸家のおかみさんと「寒くなったね」「師走だね」、と、話をしている。


とらや 台所


さくらがお金の計算をしている。家のローンの支払いがキツイようだ。

さくら「厳しいわァ、月々ローン払っていくと

社長「そうだろうねェ

さくら「あとはボーナスが楽しみなだけうわ!キツ!座布団1枚(^^;)

社長「キツイな、さくらさんもォ



電話が鳴る。

さくらが出てる。どうやら相手は恋人の貞男らしい。東京までバイクですみれとよりを戻しにやって来たのだ。

さくらはセブンイレブンンの電話番号を教える。

この時さくらは「セブンイレブン」の言葉を口にする。
この映画の主人公たちが会社名を口に出すのはきわめて珍しいこと。

社長はすみれちゃんの恋人だと直感。

社長「色っぽいからね、すみれちゃんは

おばちゃん「あらそうかしら

社長「女には分かりませんよ、あの色気は(^^;)

社長、店を出て行きながら

社長「オレも誰かに雇われたい。ボーナスもらいたいでも、社長って呼ばれもしたいんだろ…(^^;)


さくら、笑っている。



川のほとりで貞男とすみれちゃんが話をしている。


貞男が手紙書いても返事来ないから、奥尻に行き、ここまで来たとのこと。

どうやら酒に酔った勢いで、すみれちゃんと大喧嘩し、すみれちゃんは
それを本気にし、別れてしまったようだ。


                 

貞男はもう一度すみれちゃんに

貞男「すみれ、一緒に暮らしてくれ、お願いだから、な」と手を握り、懇願する。

そして今でもすみれちゃんは貞男のことが好きだと告白する。

誤解が解けて、貞男は強くすみれちゃんを抱きしめるのだった。



                 




夜  とらや 店  

柱時計が8時の時を打つ。

寅「8時かもう…、ちっ、すみれのヤツ今頃まで何してるんだろうないったい

とイライラする寅。今夜は学校にも登校していないようなのだ。

さくらは晩ごはんを食べるように勧めるが…

寅「めしなんか食ってられるかいバカ!午後8時で、そこまでイライラするのは厳しいね。

寅、誘拐犯のモンタージュ見て、

寅「おい、まさか誘拐されたんじゃないだろうな

寅、犯人のチラシを見せて

寅「さくら、こんな顔してたか?電話してきた男

さくら「電話だから、分かるわけにでしょ、フフフ

寅「バカヤロ!電話の声聞きゃ、四角い顔か丸いツラか分かるじゃねえか!」無理無理ヾ(^^;)

                 


電話が鳴る

寅が勢いよく出て

寅「すみれ!おまえ…、団子?バカ!!客を一人永久に失ったな(−−)

ガチャ!

おいちゃん「お、よせよォ、お客さんの電話


寅はすみれのことが心配で高校に走っていく。

さくらたちは電話をかけてきた男友達のことを話し合っている。





E朝帰りのすみれに怒る寅。そして別れの時


翌朝  とらや  店


寅が茶の間で布団をかけて仮眠をとっている。


ようやくすみれちゃんが帰ってくる。

おいちゃんびっくりして

おいちゃん「心配してたんだぞ、すみれちゃん

すみれちゃん「すいません

おばちゃん「あら!いったいどこ行ってたのさ!」と台所からすっ飛んでくる。


おばちゃん「寅ちゃんが心配して、とうとう夜明かしだったんだよォ。電話すりゃいいのにィ

おいちゃん「おい、つね」と、それ以上は言わせないように配慮する。

寅、仮眠から目覚め、上半身を起き上がらせている。

すみれちゃん、寅の前にやって来て

すみれちゃん「ごめんなさい」と頭を下げる。

寅「

すみれちゃん「電話しよう電話しようって何度も思ったんだけれども…

寅、厳しい顔をして

寅「誰かと一緒だったのか

すみれちゃん「函館にいた時の友達でね、大工さんしている人

                 

寅「男か

すみれちゃん「寅さんにも会ってもらいたかったんだけど、仕事があって今朝の汽車で
        帰ってしまったの



怒りを内に秘めながもそれでも外に出てしまう寅だった。

いきなり立ち上がり

寅「それじゃ一晩その男と一緒にいたんだな!

すみれちゃん「だって私、結婚するの、その人とと真正面から寅を見つめる。

                 


寅、愕然としながら


寅「結婚…

                 

おばちゃん、すかさず二人の中に入り

おばちゃん「寅ちゃん、怒っちゃだめ、今怒っちゃ可哀想だよ。ね

                 


寅、すっと二階の自分の荷物部屋に行く。

さくらたち、家からやって来て

さくら「おはよう…、あら!!帰ってたのすみれちゃんさくらは結構平気顔、大人だね…(^^;)

おばちゃん「いいところへ来てくれたよ。寅ちゃんがね、
       物凄い顔して二階へ上がっていっちゃったんだよ


さくら「

おばちゃん「ちょっと行っとくれよ

すみれちゃん「ごめんなさい

謝るすみれちゃん。

いいのよ」って、言いながら二階へ上がっていくさくら。




二階 荷物部屋


はやくも旅支度をしている寅。

                 

さくら「お兄ちゃん、すみれちゃんの話、ちゃんと聞いてあげたの?

寅、かばんに服を入れながら

寅「オレはな、あの娘が男と泊まり歩くようなふしだらな娘だとは思わなかったんだよ

それにしてもいきなり旅支度とはなんと短絡的な…。

さくら「そんなこと言ったって、あの子、子供じゃないのよ。もう一人前の大人なのよ

寅「そいつが女ったらしだったらどうするんだ?すみれは騙されてるんじゃねえか

さくら「それはね、お兄ちゃん、すみれちゃんを信じてあげるしかないの

寅「

さくら「あの子が、自分の判断でしたことだからきっと間違ってない。そう思ってあげるしかないのよ

寅「難しいことはオレには分からねえよ。いいよ、すみれのことはおまえたちに任せる

ある意味ほんとこの人って無責任(−−)


寅、立ち上がって階段のほうへ。


そして振り返って、

寅「そのかわり、さくら

さくら「はい

寅「そいつが本当にまじめな男かどうか、すみれと所帯を持って、地道に暮らしていける男かどうか、
  おまえちゃんと確かめてやれよ



さくら立ち上がって

さくら「それだったら、お兄ちゃんが会って、お兄ちゃんの目で確かめればいいじゃない

寅、さくらを見て

寅「オレが会ったら、何するかわからねえよ…。バカヤロ…

やっぱり惚れてんのかねえ…。年の差凄いけど…。


                 



二階から下りてくる寅。


メインテーマが静かに流れる。


おいちゃん「おい、どこへ行くんだ?

寅「決まってらあな、商売の旅よ。おいちゃんおばちゃん達者でな

おばちゃん「行っちゃうのかい寅ちゃん

さくらも下りてくる。

すみれちゃん、寅を見ている。

寅、店先で

振り向いて

寅「博、お前さくらと仲良くやれよ

博「ええ…


寅、そっとすみれちゃんを見る。


出て行こうとする寅。


すみれちゃん、立ち上がり寅にすがりつく。


寅の前に立ち、寅の腕を掴んで、
泣きながら首を何度も振り、胸に顔を埋める。



                 


すみれちゃん「寅さん怒らないで、お願い

寅、すみれちゃんの方に手を当て


寅「怒らねえ…。大丈夫

                 

寅、すみれちゃんを見つめて

寅「幸せになれるんだろうな、おめえ

すみれちゃん「うん。きっとなる」と、泣いている。

寅「もしならなかったら、オレは承知しねえぞ

                 



寅、そして、優しい語調に変わり…


寅「いいな



すみれちゃん、頷く。



寅はそれを確かめ、

スッと出て行ってしまう。



すみれちゃん、呆然と立ち尽くし、

すみれちゃん「寅さん!


と走り出すが、歳末の大売出しの賑わいの中
寅は遥か向こうを歩いていくばかりだった。

                 






F寅の入学願書とさくらの涙



葛飾高校 応接室

国語教師は、すみれちゃんたちの結婚には賛成だが、結婚後も学校を止めないで続けていくように
相談しに来たさくらにも助言している。

国語教師「そうだ、この間、寅さん、いや失礼、車さんがこれを提出なさったんです


                 



さくら「入学願書…


葛飾高等学校  入学願書 (定時制)

葛飾柴又4−5−10−2

保護者が諏訪さくら 妹



車寅次郎 (男)

昭和15年11月29日40才

葛飾区柴又七ー七ー21

葛飾商業 

卒業年月 昭和25年4月 卒業見込



                 


さくら、なんともいえない表情で、寅の書いた願書を見ている。


国語教師「私どもの学校が気に入ったから、正式に入学したいと、そういうご希望なんですが、
      実は車さんは中学3年中退なんです


さくら、頷く。

国語教師「ということは、高校受験の資格がないわけで、大変お気の毒ですが、
      認定試験を受けるか、あるいは、
夜間中学…てのがありますから、そちらに入っていただくか、
      それしか方法がないんですけどね


この国語教師の言葉が後の山田監督の作品『学校』に繋がっていくのだ。

さくら、願書を見つめたまま目が潤んでいる。


                 


国語教師「車さんに、そうお伝え願いますか


さくら「あ、はい。ちょっと旅に出ておりますけど、帰ったらそう伝えます


国語教師「はい


願書をもう一度見つめるさくら。


                 




寅は、15歳の時に家出をして以来、自分の好きなように生きてきた。
風の向くまま気の向くままその日その日を生きている。

しかし、そんな寅でも『社会』や『行政』の壁というものを感じざるを得ない時もある。
アウトサイダーゆえにその厚い壁に 阻まれることもあるのである。

定時制高校は、いみじくも博が言ったように、テストの成績などで人間を評価しない。
「学びたい」という欲求さえあれば、学ぶチャンスを与えてくれるところが最大の長所であり、
その理念に基づいて最大限の援助を行ってくれるところである。

しかし、寅は「葛飾商業」という中学校を3年で中退している。つまり卒業していない寅は、
その入り口にすら立つことを 許されないのである。門前払いというやつだ。

それじゃ夜間中学校に行けばいいんじゃないの、と言えばそれまでだが、
やはり「行政の取り決め」といのは寅の気持ちに寄り添うことはしないのである。
いやまったく当たり前といえば当たり前なんだけれど、やはり淋しいし悔しい…。

さくらは、寅にほんの少し芽生えた学ぶ心に感動すると共に、
そのささやかな希望を受け入れられないこの厳しい社会に愕然としたのかもいれない。
そしてそんなことは何も知らない兄を思うと、いっそう悲しみが押し寄せて来たに違いない。



第28作「寅次郎紙風船」でも似たようなことがおこる。
寅は光枝さんと所帯を持つために今度こそ真面目に働こうとして『日の丸物産』の面接を受ける。
面接は盛り上がったのだが、経歴が悪かったのか、背広ネクタイに雪駄履きという
奇妙な格好が影響したのか、結果は『不採用』。 これがある意味社会というものなのだろう。
おいちゃんは悔しさのあまり 不採用の紙を投げ捨てていた。私にはあの気持ちが分かる。





Gすみれの結婚と愉快な再会


正月 江戸川土手

源ちゃんが江戸川土手で寅からの借金返済についてのハガキを読んでいる。

寅の声

寅「新年おめでとう、例の2万円だけど、もう少し待ってくれ。必ず利息をつけて返すから 元旦  寅 

源ちゃん、怒って、ハガキを指ではじく。

                 


源ちゃん、寅には2万円は無理だよ…諦めるしかないね(TT)





とらや  茶の間


正月で物凄い賑わいの店。

さくらやおばちゃん大忙し。

男たちはあまり手伝ってない(TT)


すみれちゃんと貞男が新年の挨拶にやって来て
仏間で博と結婚のことで話をしている。


社長が隣の茶の間から、なにげに貞男を見ている。




おいちゃん、ひそひそ話で社長に

おいちゃん「おい、どう思う?すみれちゃんのコレ(親指)ひそひそ

社長「大丈夫、あの男なら間違いないよひそひそ

おいちゃん「自信たっぷりだなおまえひそひそ

社長「こう見えてもね、経営者の端くれだい。人を見る目くらいあるよひそひそ

おいちゃん「どうだか、まあひそひそ


さくら「あー、忙しかった」と仏間に来る。

さくら「ほんとに大きいわねあなた

貞男「いやあ、頭は空っぽです」と、自分で頭を小突く おいおいヾ(^^;)

                 

みんな「フフフ


博「フフフ、3月に結婚式挙げるんだってさ

さくら「あら!、そう〜!

                 

さくらニコニコで、おいちゃんのほうを見て微笑み

さくら「やっぱりちゃんとしたほうがいいわよね

すみれちゃん「二人とも、あまり身寄りないから、どっかのお宮で簡単にと思って


                 


博「簡単でいいよ、そんなものー

さくら「ねえ、学校、続けるんでしょう?

すみれちゃん「ええ、もちろん。この人にも勧めてるの、一緒に行こうって

貞男は今東京で大工さんしてるのかな?

博「3月か…、兄さん出られるといいけどな

さくら、下を向いて

さくら「そうねえ…

すみれちゃん「出てくれるかしら?

さくら「どうして?

すみれちゃん「だって怒ってんだもん、私のこと

さくら「大丈夫よ、この人見たら安心するわよ

すみれちゃん、貞男を見る。

さくら「ねえ、おいちゃん

おいちゃん「そうそう、寅の気に入るタイプだよ



みんな大笑い。


茶の間に行ってみんんで酒を飲む。

社長はろいろ手のひらを比べあったりして貞男をかまっている。

すみれちゃん、さくらにお土産を渡す。

さくら、お礼を言って床の間に持っていく。



さくらのテーマが流れる。



寅の諏訪家への年賀状 新しい住所、新しい家だね。 



寅の声「博、さくら、新年おめでとう。

    去年の暮れはすみれのことで
    おまえたちにいろいろ迷惑をかけてすまないと思っている。
    幸せ薄いあの娘を、なんとか幸福にしてやりてえ、
    それが父親代わりのオレの一番の願いだ






徳島県鳴門市

四国 巡礼八十八箇所巡り 第一番札所 霊山寺の門前、茶店


                 


お遍路さんたちが茶店で座っている寅の前を通っていく。

鳴門道路にかかる赤い橋を歩いて渡って行く寅。

せとうちを遠望できる展望駐車場で景色を見ている寅。




寅のハガキの続き


寅の声「どうか、どうか、すみれをよろしく頼む。

    正月元旦 阿波 徳島にて   車寅次郎







鳴門スカイライン 展望台



そこへ、なんとあの奥尻島のイカ加工工場のあき竹城さんがやって来る!

あきさん「ちょっとあんた!

                 

寅「…?

あきさん「やっぱりあんたじゃねえの!

寅「そういうおまえさんは?

あきさん「いやだあ〜、ホレ、北海道の奥尻で、すみれちゃんと働いてた

寅「あーあ!あのスルメ工場のイカ裂きのおばさんか

あきさん「うん!ハハハヒヒヒヒ!!

寅「なんだい?また今日はここへ?

あきさん「いやあ、去年豊漁でよォ

寅「うん

あきさん「みんなで暖かいとこ行くべって来たんだわあ〜

寅「あー、そうか、そりゃよかったな

あきさん「どうだね、一緒にバス乗らねえか

寅「ん…、でもいいのかい?

あきさん「乗る!?

寅「んん…フフフ

あきさん「嬉しいィヒヒヒヒ!!」(^^;)

寅「フフ…

あきさん「いくべえ。いやよお、
    男いなくて退屈してたとこだったんだよ、ヒヒヒヒ!
」 寅…(((((TT)

と、寅の腕をガッチリ掴んで引っ張って行く。

                 


寅「参ったな、フフと、ヨタヨタ歩いていく(^^;)

阿波鳴門巡礼ツアー 「奥尻島 御一行様」】の超派手な幕が張られたミニバス。

あきさん「ほらみんな!お客さんだぞ!

バスの人たち「ワアアアア!」と拍手

寅「こんにちは」とお辞儀。


あきさん「ほら乗った乗ったァ!

寅「どうも北海道の皆様遠路ハルバルご苦労様でございます

みんな拍手

あきさん「ほんじゃ行くか

あきさん「今夜は男がいっから楽しいよ


                 


寅「エヘへへ

あきさん「オラ、ストリップやるだよ!ハハハ!おいおいヾ(^^;)

みんな「アハハハハ!

あきさん「おめえもやっか!やれよ!ハハハと、同僚も誘う(^^)


バスは、鳴門道路を走っていく。

遠く瀬戸内の海が白く光って




                 









まだまだ8月は多忙が続きます。
第27作「浪花の恋の寅次郎」ダイジェスト版のアップは8月27日頃になります。






【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら

【寅次郎な日々】全48作品マドンナ制作年度順






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