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寅次郎な日々

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まだ作品をご覧になっていない方は作品を見終わってからお読みください。



                 

第12作「男はつらいよ.私の寅さん」ダイジェスト版(2007年4月16日)

第11作「男はつらいよ.寅次郎忘れな草」ダイジェスト版(2007年4月11日)

第10作「男はつらいよ.寅次郎夢枕」.ダイジェスト版(2007年4月6日)

第9作「男はつらいよ.柴又慕情」.ダイジェスト版(2007年4月3日)



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『寅次郎な日々』バックナンバー





第12作「男はつらいよ.私の寅さん」ダイジェスト版
 

2007年4月16日寅次郎な日々 その307


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


第12作「男はつらいよ.私の寅さん」ダイジェスト版



切なく響く『別れの曲』   

第12作「私の寅さん」はなんと観客動員数が48作中242万人で最高である。どういう理由でそうなったのだろう?
当時トップ女優でかつフランスに住みモダンな自立する女優だった岸恵子と寅次郎の取り合わせが新鮮だったのだろうか。
第11作「忘れな草」で相当盛り上がっってきたことも弾みになったともいえるだろう。

この作品は前半はマドンナが出てこないが、さくらたちとらや一同の九州旅行(飛行機で!)が盛り込まれていて、そのあたりの寅との絡み
が非常によくできている。この部分だけでも1作品分の見ごたえがあるともいえる。

前半と後半、どちらがメインか分からないほどである。特に旅行から帰ってくるさくらたちを迎えるために料理を作り、ご飯を炊き、風呂を
沸かすこの時の寅の気持ちはなんともいえない温かみがあり、48作中でも忘れがたい場面だ。いつもは旅先から帰ってきた寅をとらやの
人々が温かく迎え入れるが今回は逆の状況が何とも新鮮で、今までと違った寅の一面を見せてもらって楽しかった。それにしても
あの寅がよくも何日もひとりで留守番をしたものだ。留守番中の寅と、さくらやおいちゃんたちの電話のやり取りや源ちゃん、タコ社長たちとの
やり取りが実に愉快で面白い。これぞ喜劇と言う場面だ。

またこの第12作はマドンナが絵描きさんで登場する。私と同じ仕事なので、彼女の言葉の中に随分共感する言葉が多かったが、
なかでも「本当に自分が気に入った作品は売りたくないものなのよ。かといって気に入らない作品っていうのはますます売りたくない
でしょう。と、言っても、売らなきゃ食べていかれないしね」というジレンマは全くその通りだと身に染みた。第17作でさらさらっと落書き
描いて寅に7万円で売らせた池ノ内青観に聞かせてやりたいセリフだった(^^;)

第11作のリリーといい、このりつ子さんといい、そして次の第13作の歌子さんといい、山田監督は『自立する女性』の姿をテーマの中心に
置いて制作している。このシリーズが第11作あたりから新しい風が吹き始めているのが手にとるように分かる。

ラスト近く、寅とりつ子さんの最後の会話の場面で流れるショパンのピアノ曲「別れの曲」は今でも切なく私の胸に残り、忘れることができない。


本編

@寅の帰郷と九州旅行騒動

今回も夢の話から


未曾有の大飢饉に苦しんでいた葛飾郡柴又村の民を救った寅次郎の活躍
さくらたちをいじめる悪徳商人。
寅「待てえ!」の声
悪徳商人「てめえは誰だ!
寅「この面体よもや見忘れではなかろう←このセリフだけでもう面白い(^^;)
と布を取って顔を見せる。
悪徳商人「く、車寅次郎…」相変わらず吉田義夫さん(^^)
一同 恐れおののく。
寅「よくも私達一家にむごい仕打ちをしてくれたな。
 飢えに苦しむ柴又の民衆に変わって天罰を与える!!
とピストルで悪党たちをやっつける。

寅次郎振り返り
寅「さくらー!
さくら泣きながら「お兄ちゃん!
抱き合って「可哀想に…辛かったろうな…
柴又の村人が「寅次郎様!」「ありがとうございます」と寄ってくる
寅「柴又の皆さん!もう大丈夫です。ここにわが同士は立ち上がった!
村人達「わー!!!」
川向こうで火が上がり、寅次郎の同志達の怒涛の歓声が聞こえてくる。
寅「見よ!!あのひんがしの空の黎明を!

           

BGM大いに盛り上がって

寅「あー!!柴又の村にも遂に平和がやって来たのだ!」と感動のもとに夢は終る。


目を覚ます寅次郎。九州のとある連絡船のなかである。
あわてて降りる寅だったが、自分のカバンと女子高生のカバンを間違え大慌て(^^;)
寅「おーい!おい!ちょっとまってくれよ!止まれ止まれ!ちょっと回って来い!普通間違わんって(^^;)

             


タイトル  男(赤文字)はつらいよ(黄色文字)私の寅さん(白文字)

バックはお馴染み江戸川土手

口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。


♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
目方で男が売れるなら こんな苦労も
こんな苦労もかけまいに かけまいに♪


子供達がサイクリングしている江戸川土手を寅がまた帰ってきた。

子供達がタモでトンボを捕っているのを寅が手伝うのだが例によってカップルの
女性のあたまにトンボが止まり
タモを頭に被せてしまう。というミニコント。


            


                    
とらや 茶の間

明日からの3泊の九州旅行に備え、三越デパートでどっさり買い物をしてきたさくら。
おばちゃん「そんなこと言ったってお前あたしゃねえ、箱根より西へ行くのは初めてなんだからね
おばちゃん、第3作で伊勢の湯の山温泉「もみじ荘」に夫婦で行ったこと忘れてるよ!!(^^;)

            

みんなで、こんな時に寅が帰ってきたら、ぐずり、ごね、悪態をつき倒すだろうと予測し、暗い気持ちになってしまう。
おいちゃんはタコ社長に、もしそうなったら寅の面倒を見て一緒に留守番してやってくれ、と頼むが、社長は嫌がり、
それがきっかけで口げんかになる。

そんな時に、本当に間が悪く帰ってくるのが寅なのだ。みんな、どうも対応がギクシャクしているので、
寅は何か様子がおかしいと、疑いながらも…。


寅ニコニコ笑いながら、
寅「
で、なんだい、もめた原因ってのは?死んでも言えない(^^;)

みんな誰も言えないので、いろいろごまかし言いくるめようとする。
ガイドブックを隠し、買ってきたものをそそくさ片付ける。

微妙〜な緊張感が漂う(^^;)
で、夜になっても結局誰も話せないまま時間だけが過ぎていったが…。


とらや一同この後どうする!?誰が猫の首、いや、寅の首に鈴をつけるのか!?

夜 茶の間

おいちゃん
さくら、なんか話があったんじゃないのか…」と催促。
さくら、ちょっと戸惑っている。
、笑いながら
なんだい?おまえアンちゃんになんか話があるの?
なに?なに?
さくら話というよりお願いがあるんだけど…
寅「金か金はだめだよ、あんちゃんわさび漬けかっちゃったから
一同 「
ハハハハ
 おいちゃんのほうを見ながらなかなか言い出せない。
さくら「
実は…あたしたちね…」なかなか言い出せない。
寅「
あ、…お前たち夫婦なんかあったのか?性格の不一致か!?
博「
いやいや、さくらといろいろ相談してですね、紙の値上がりで工場も暇だし…ええ…
寅「
あ!!おまえ裏の工場辞めようって言うんだな!それはいけないよ!」
と、話はどんどんそれていく一方。

そして、そんな時、御前様現れる。


御前様「
おー、寅 帰って来てたのかぁー
寅「
へい
御前様「
そらーぁ、とらやさんも都合が良かったね←この「ぃ」は熊本弁???
御前様「
留守番ができて←出たあ〜!!
おいちゃん「
え、ええ…え、まあ、…あの…
寅、はっとして、おいちゃんをじっと見ている
御前様「
明日の朝旅立ちと聞いたのでほんの気持ちだがお弁当代にでも
一同頭を下げて恐縮する。
寅だけ呆然として目がうつろ
寅の首に鈴をつけたのはなんと御前様でしたー!!!(@@;)/

御前様が帰った後、修羅場のにおいがプンプン。

寅、全てを察して、ブス
味噌汁のお椀をいじりいじりしまくる

おいちゃん「
えー…っとまあ、そーいう訳なんだよ…寅
寅おわんに「
はぁー.。と、お椀に息吹きかけてふきんで拭きながら
寅「
どこ行くのぉー?嫌味たっぷり&動揺たっぷり
みんなで一斉に
九州←合唱か(^^;)
おばちゃん間髪いれずに「
私達1回も行ったことないもんだからね気使うねェー!おばちゃん

             

寅「
はあ〜〜〜〜〜…と、お椀にまた息吹きかけて
 いつ帰ってくんだイまた嫌味たっぷり&動揺たっぷり
さくら「
あの…3泊4日の旅行だからすぐ帰るわよ結構長い(^^;)
寅「
ジャ、あした特急で行くンダまたまた嫌味たっぷり&動揺たっぷり
博「
いや、汽車じゃないんですよ
寅「
汽車に乗らないの?じゃ歩いて行くのか九州までまたまたまた嫌味テンコ盛り(−−;)
飛行機なんですがね一応寅、ショックで茶碗の腹でふきんを「カクッ」っと滑らせる
さくら一瞬それを見て顔真っ青(><;)
さくら「あの…あたし達一度も飛行機に乗ったことがないもんだから、こんな時にでもと思ってね…
第25作「ハイビスカスの花」でさくらは飛行機に一度も乗ったことないって言ってたがこの九州旅行でみんな乗ってるぞ。
そういえば第33作「夜霧にむせぶ寅次郎」でもさくらと博と満男は北海道へ飛行機で行った。


寅「
わかったよ…。ね、皆さん親切な方々だってことはよーく分かったよ…。
 昼間帰ってきた時どーも様子がおかしいと思ったんだ。なるほどねェ〜…

寅「
家族そろってあしたっからから楽しい旅行に出る、その前の日に俺が帰ってきた
寅ちゃん元気かいなんて作り笑いなんて浮かべやがってほんとは腹ん中で
はあーやな時にやなヤツが帰ってきた』とそう思っていたんでしょう
博「
兄さんそりゃ誤解だ
だったらなんでだったらなんではなっからスッと言わないんだい!それを!と、怒って暴れまくる寅。
さくら「
お兄…!
おばちゃん「そんな…」エーン、オイオイと、泣く。

どっちみちどう転んでも、なにをやってもこうなることは決まっている。寅ははっきり言われても淋しくて嫌だし、
隠されてもイジイジシしてていやなのだ。


さくら
私がちっちゃいとき両親無くしてもちっとも哀しい思いなんかしないですんだのはこのおいちゃんとおばちゃんの
   おかげなのよねえ、それはお兄ちゃんちゃんだって同じ気持ちでしょ。こんどの旅行はね、そのお礼の気持ちなの


さくらちょっと涙ぐんでいる。

さくら博さんが気持ちよく賛成してくれたからできたんだけどほんとはね、…ほんとは…私と
   お兄ちゃんがしなくちゃいけないことだったのよ。そう思わない?


             

さくらのテーマ流れる。
さくら、泣いている。

寅、立ち上がって二階に上がっていく。
さくら「お兄ちゃん」

社長
いいねえ…実の娘じゃあ…ああはいかねえな…と、しんみりする。
人の世の機微を垣間見た社長の意味ある発言だった。こういうセリフが山田監督の持ち味なんだよね。

社長の娘の声
おとうちゃん!早くお風呂に入ってよ!←これは「あけみ」でしょうか?
タコ社長には実は娘が2人&息子が2人いる。(第6作)

博たち下りて来る

おいちゃん「どうだった?」
なんとか…
さくら留守番するって…おいちゃん、何度も頷いてホッとしている。


翌早朝

あ、あぁ〜あ〜ぁ。よく寝た寝た。はー!おばちゃん!腹空いたい!めしめしー!!おばちゃーん!
置手紙に気づいて、手にとって

なんでい、行っちまったのか…←淋しそう

             



Aみんなを迎えてやる寅の心持ち

飛行機が大分空港に着陸

全日空ジェット
大分空港のある国東半島から大分駅の近くまで25分でいけるホーバーボート!で行く。

一同
高崎山に猿を見に行く凄い出店と人ごみ
博「ハハハ、よく食うなあいつ
おばちゃん「ねえ、寅ちゃんちゃんとお昼食べてるかしら
猿の行動から寅を連想するのが面白い(^^)

おいちゃん「食べなくたって死にやしねえよ!ごもっとも!
アナウンス「どこの社会にも必ずひとりや二人のけものがいます。
おいちゃんとさくら顔を見合わせて寅のことを思う。←すぐ反応!


           

アナウンスあいつはいつものけものにされているから性格が凶暴です。ああ言う猿には
      あまり近づかない方がいいですね。この間も子供さんが引っかかれて大騒ぎしました。


寅の横顔があののけ者猿とかさなるように映し出される。


                


とらや縁側
ああ〜〜あっ」とあくびをして縁側にあの猿と同じ顔で、くそ面白くない顔をして座って豆を食べている寅
社長と工員塀の向こうから縁側を覗いて
いまね、近寄らない方がいいよ。僻みっぽくなってるからねしつこく高崎山の猿に寅を関連付ける山田監督でした(^^;)


杖立温泉に夕方遅く着く。

さくら「そうだ…私お兄ちゃんに電話しないといけないだった…。8時過ぎた?
博「とっくだよ
657−4105です。はい。お願いします。とらやの電話番号でした。
さくら「もしもし!お兄ちゃん!?ア…
寅「なんだよ!おまえ!今晩電話するってからよ、陽が暮れるまえからずっと電話機の前で座って待ってたんだぞー
さくら「ごめんごめんなんか変わりない?
寅「おおありだよ!いっぱいあるよ!泥棒が入ったぞ!有り金残らず持ってかれちゃったからな!
 それからな!裏の工場タコんとっから火が出てこのへん丸焼けだあと東京は大震災でもって全滅だよ!!」
(^^;)
口先とはいえ大東京全滅まで演出した寅の姿に、待ちわびた膨大な時間が伺える。

このあと、次々に寅に呼ばれて、全員が電話で話す羽目になるとらや御一統さん。
最後に満男まで呼ばれる。
満男満男、満男出せ満男←満男君出番です!

満男「お土産買って帰るからねじゃーバイバイおならブーだ←満男最高!!

          

さくらたち「あら、あっははは…!」(さくら、そしてしっかりと受話器を置く。
寅「おならブーか…生意気なこといいやがって…ズッ(しんみり鼻をすする)満男には弱い寅伯父さんでした。


翌日、阿蘇山

おいちゃんもおばちゃんも寅のことが心配で景色も見ないでうわの空。
さくらも困ってしまっている。



とらや 茶の間  夜

寅、イライラしながら今日も電話のほうを見ている。アレほど昨日言ったのに
今日も連絡が遅れているのだ。そして…ようやく電話がかかってきたが、寅は怒りが収まらない。


おいちゃん「ちきしょうー悔しいな!!この野郎!てめえがそばにいたらぶん殴ってやるよ!
寅「いいねー、ぶってちょうだい!どこ?どこ?どッから殴るんだい!?
 殴ってくれ殴ってくれよ!!←電話だからね(^^;)
おいちゃん「てめえなんか出て行きやがれ!!ってんだ!←電話だって(^^;)
寅「いいやがったな この野郎!!
おいちゃん「えー!!
寅「てめえ!出てけ!!?それを言ったらおしまいだぞ!←電話だけどね(-_-;)¶

          

おいちゃん「あー!おしまいだよ!おめえ!←電話だよ!(^^;)
さくらたち「いいかげんにしなさい」ととめる
寅「よおし!出てってやるからな!てめえ!あとでもって後悔したってきかねえぞ!今畜生!←電話…(^^;)
ガチャン!と電話切る
寅「さくら!止めるな!止めるな!さくら!
と言いつつ外に出て行こうとするが、はっと誰もいないことに気づき、ニ階にトボトボ上がって行く。
社長「哀れで見ちゃいられねえな…」 と、首を振りながら酒を飲む
    
寅はやっぱり寂しいのだ。遠く旅先で一人でいるのは当たり前だし、覚悟もある、それにある意味自由な
気楽さもある。しかしわざわざ自分の故郷に帰ってきて、こういう侘しさを味わうのは、実は人は何倍もつらいのである。



熊本城公園で


博「どうですかねえ…せっかくここまで来たんだし、海をわたって雲仙に行って温泉につかって、
 そうすればまた、気分も晴れますよ
と説得しているが、老夫婦は気乗りしない様子。
おいちゃんとおばちゃんは予定を切り上げて今日、柴又に帰りたいと言い出したのだ。


           

おいちゃんもおばちゃんも寅のことが気になるのは、寅が電話でギャ-ギャ-わめく、っていうのもあるが、
やはりせっかく故郷に帰ってきた寅の元へはやく帰ってやりたいっていう優しい気持ちがあるんだよね。




柴又 とらや

その日の午後。寅は今か今かと準備万端で帰ってくるのを待っている。

源ちゃん「兄貴、まだ帰ってきまへんで

社長、エプロン姿割烹着(後ろで結ばずにずれかかっている)タコ社長はテキパキ用意を手伝っている。
とても料理のリズム感がいい。
見事な包丁さばきで漬物の千切りをトントントントンっと切っていく社長!すごい
太宰さん、昔レストランかなにかで修行してたのだろうか?料理が趣味だとか?それともこのためにもう特訓したのか?

寅「長旅から帰ってくるとシャケの切り身かなんかでお茶漬けをさらさらっと食いてえからなあー!
↑ちゃんとシャケの切り身も焼いてあった。凄い!料理上手の社長が焼いたのかな?


            

寅「あ!お新香はな、たっぷり出しておいてやってくれよ!!←いいねえ〜
社長、白菜の漬物をしぼって、切り始める。
寅「旅館の飯ってのは味気なくっていけねえや。長い旅してるとほんとお新香がくいてえーからなー経験から来る実感。

寅「いずれそのうちにその入り口からおいちゃん、おばちゃん、さくらがよ、こんな大きな荷物を抱えて、
  あーあー、くたびれたくたびれた、家が一番いいよー、
なんて言って帰ってくるんだよねー

寅「そのときの、この迎える言葉ってのが大切だな。「あ、お帰り疲れたろう?さあ、上がって上がって」ねー!
 熱い番茶に、ちょっと厚めに切った羊羹のひとつも添えて出す。ホッと一息いれたところで、
 「風呂が沸いてますよ」っと手を差し出す。長旅の疲れを、すっと落とす。出てくる。
 心のこもった昼飯が待っている。ねー!温かいご飯!しゃけの切り身 山盛りのお新香 
 「どうだい、旅は楽しかったかい…?」たとえこれがつまらない話でも「面白いねー」って聞いてやらなきゃいけない。
 長旅をしてきた人は優しくむかえてやらなきゃナー…


長い寅のアリアでした。
寅はいつもみんなにこのような出迎えをして欲しいんだね。今度は逆の立場なので、ここぞとばかりに
普段の自分のしてほしいことをさくらたちにしてやっている。でも、寅っていつも突然帰ってくるし、
さくらたちの日常生活だって予定というものがあるから状況はかなり違うんだけどね。


源ちゃん「
兄貴帰って来た!みな、帰ってきたで!!

寅、極度に緊張して、湯加減を見に慌てて風呂に駆け込む。

さくら「ただいまー
おいちゃん「
帰ったよー!!
おばちゃん「あー、やれやれどっこいしょっと、あー、やっぱり家がいちばんいいねー寅の予想通りの展開!
おいちゃん「おい、寅どおしたんだよ、寅おいちゃんずっと九州から寅のことばかり考えている。
社長がおいちゃんたちに事の仔細を身振り手振りを交えて説明する
さくら台所まで来て「あら?どーしたのこれ?」っとシャケの切り身の皿とお新香の皿を持つ。

風呂場では寅が下を向いてお湯をかき回している
さくら「お兄ちゃんただいま…っと寅のそばまで行き背中に手を触れる
寅「うん
台所で炊飯器の蓋を取ってごはんができてることに気づくおばちゃん
さくら「お風呂も沸かしといてくれてたの
寅、下を向いてかき混ぜながら「早く入れよ←照れる寅
さくら、「ねえ」っとみんなを呼ぶ
おいちゃん「寅!いま帰ったよー!」と駆け寄ってくる
おばちゃん「ただいま!たいへんだったね寅ちゃん!
博「ただいまかえりましたよ!
社長「寅さーんみんな帰ってきたぞー!!
寅の服の袖がお湯で濡れているのに気づき袖を捲くってあげようとするさくら。
寅、照れて払いのける

こういうシーンがこのシリーズを支えている。

源ちゃん窓を開けて寅を覗く寅源ちゃんのほうを見ないでお湯を源ちゃんにかける
ギャグをやっぱり入れる山田監督でした(^^;)

さくらにもお湯が少しかかり、さくらちょっとびっくり
満男「ただいま〜寅さんテレまくって無口にかき混ぜっぱなし

おばちゃん「どうしたの?」っと小声でさくらに言った後さくらはおばちゃんのほうを向き、
おばちゃんは事情がわかって微笑む。
おいちゃんも博も寅を見つめている。
いいねーこのときみんなの表情!

             

さくら少しほほえんだあと、寅の気持ちに胸を打たれ寅を見つめ続ける

このシリーズ屈指の名場面

前の晩の究極の寂しさから一転して最高の至福に変わった寅。こんな寅の至福の顔も、こんな嬉しそうなさくらの
顔もめったに見られない。この場面は地味だが、寅のことをきっかけにとらやの人々の気持ちがひとつになる
なんともいえない優しい空気漂う場面だ。男はつらいよ屈指の名場面だと断言できる。


とらやの茶の間

九州旅行のことでみんなで盛り上がるとらやの茶の間。
寅もすこぶる上機嫌(^^)
遠くで笑い声が茶の間から聞こえてくる。


数日後 題経寺境内


寅と御前様がいる。
どうやら寅が深く反省をし、改悛したようだ。


寅、ほうきを持ち「
は、あ、やります
御前様「
竜造さんたちもこれでお喜びだろう
寅「
はい
御前様「
よかった、ほんとうによかった
御前様は何度裏切られても、そのつど改悛した寅を信じてあげている。ここがこのお方の真に偉いところだ。

             



穏やかな柴又の夕暮れ景色の中「
さくらのバラード」のメロディが流れる。

さくらたちのアパート

さくらご近所の評判もいいし、おいちゃんもおばちゃんも幸せだしそれはそれで
   結構なことなんだけどね。でもなんだか…
贅沢な悩み(^^)
博「喧嘩もしない恋もしない兄さんなんか兄さんらしくないって言いたくないんだろ
でも、大丈夫だよ。そのうちきっと何か始まるさ
さくら「
それ、慰めてるつもり?
う…ん



B文彦との再会とりつ子との軋轢】

江戸川土手

寅の同級生、柳文彦
土手を歩くさくらをじーと見ている。幼馴染なので懐かしいのだが、
さくらのほうは覚えていない。痴漢だと思って逃げてしまうさくら。追いかける文彦。



とらや


おばちゃん
寅ちゃん!さくらちゃんがね!痴漢に襲われちゃったんだよ!過去形(^^;)
出ました!!またまたおばちゃんの早とちりギャグ!襲われてないよ!
てめえか!このやろう!っとずんずん前に進み、首を絞める。
文彦違う違う僕だよ

             

僕ってどこの僕だ!日本中に僕はいっぱいいるんだこのやろう!
「お前デベソか…」
そうかあ、久しぶりに会ったらおまえ立派になったって言いたいけど
  なんだい、
おまえ今痴漢やってるの?
デベソ…おまえ本名なんだっけ?
文彦柳、柳文彦だよ
おばちゃんえーえーえー、柳病院のおぼっちゃん。まあまあどうも
文彦どうもしばらくです。やっぱり僕の記憶に間違いなかったんだな
「そりゃそうだよ、おまえさくらに惚れてたじゃないか」
文彦「
そうなんだよ
おばちゃん「
さくらちゃん覚えてないだろうね幼稚園だったから
さくら、少し赤くなって、下を向く。

しばしのニ階で歓談のあと、江戸川土手を一升瓶担いで妹の家まで歩く二人。
文彦の実家は、今妹さん一人が住んでいるのだ。




りつ子の家(もともとは柳家のお屋敷だった)

留守中の部屋(アトリエ)で昔の小学校の思い出を語リ合う二人。

文彦あ、そういやいたねー…音楽の先生にキリギリスっての
寅、ポンと膝たたいていたいた女の先生!
文彦綺麗な先生だったな〜
いたいた、キリギリス…
文彦おい、おまえ覚えてるか?おまえ音楽の時間にものすごく怒られただろう
え、どんなことだっけ
文彦ほら…♪柱のキズはキリギリ〜ス…
寅も思い出して一緒に「
♪ 五月五日のキリギリス〜ち〜ま〜き〜食べ食べキリギリス〜測ってくれたキリギリス〜

              

文彦はあ〜、あの綺麗な先生が怒ったっけなー
いやあ、まいっちゃったよ…あん時なァ…立たされちゃってよ!帰っていいとは言ってくれないし、
  その
うち日が暮れてだんだん心細くなってくるしさもう面倒くさいから帰っちゃおうかなってそう思った時な、
  入り口からス…っと
キリギリスが入ってきたんだよ。で、何て言ったと思う?

文彦
もう帰っていいって言ったのか
寅「
いや、オレには何も言わずにピアノの前にスッと座ってな。静かあ〜〜にピアノを弾きながら歌いだしたんだよ
文彦「何を歌ったんだよ
♪柱のキズはキリギリ〜ス 五月五日のキリギリス〜ってなあ…
寅「オレ、なんだか先生の顔見て「ヘヘへ…」って笑ったんだけどね先生は悲しそうな顔して歌ってんだな・・・。
 そしたらオレも哀しくなっちゃってよ。
もうそんなことしないから歌止めてくれって言おうと思ったんだけれど…
 何かこう…声が出なくなっちゃってねえ…、で、しまいには、おいおいおいおい大声を出して泣いちゃったってよー。
文彦へ〜、そんなことあったのか。。。
どうして、あんないい先生にあんなことやったかねー
寅筆持ってパレットにぐにゅぐにゅいじる。←不吉な予感(^^;)
文彦
それや、やっぱり、惚れてたからだよ
冗談言っちゃいけないよ。惚れてるなんて!」ッと照れながら
ピョンピョン筆をキャンバスに付ける←わわわ…

あ!いけない!くっついちゃったよ!(@@;)/ひえ〜〜〜!!
文彦
あー…まずいなあ〜

遠くからりつ子さんの声何してんの!?
何か拭くもの…
りつ子愕然として「
どうしたの?これ…
これはタダではすまないぞ。どうするんだ、寅
りつ子さん走り寄って、キャンバスにそっと手を当てて声を震わせ
りつ子「ひどいわ…←分かる分かる(^^;)

りつ子のテーマが流れる。

                

りつ子「兄さんここはねわたしの大事な仕事場なのよ。そこにずかずか入り込んできて
   大事なカンバスにこんないたずらまでされて、私はね兄さん。魂が汚されたみたいな気持ちになってんのよ。
   そんなことそこにいる
さんなんかに分かりやしないんでしょ
分かる分かるその気持ち(^^;)
寅「熊…?
文彦「いやこれじゃないだよ
りつ子「そんなことどっちだっていいわよどっちでもよくはない(^^;)
寅「熊じゃないって言ったろう!!
りつ子「じゃあ、カバ!!←四角い
寅「カバァ!?
文彦「おいやめろ」
寅「なんでいこのキリギリス野郎
りつ子「あら?それ悪口のつもり?あのねえ私むかしっからキリギリスで通ってんのよ
    それ知らないんでしょカバさん

遂に寅は頭切れて、
寅「何でぇ畜生!おらァ帰るぞ!止めるな!←さくらじゃないんだから(^^;)
りつ子「止めやしないわよ←だから言わんこっちゃない。(~_~;)
寅「憎たらしい女だなあ… ワアアアアァーーー!嫌だ!畜生!噴火(@@;)

文彦役の前田武彦さん、ちょっと気弱な、でもとても温かいお兄さん役を見事に演じていた。
彼の演技はとても自然体でこの映画全体のイメージを柔らかくしていた。さすがだね。




夜。とらや茶の間

昼の出来事以来ずっと機嫌の悪い寅、何を言われてもブスッとしている。

おいちゃん「おい満男。上野の動物園でなカバの赤ちゃんが生まれたんだってさ←出た〜〜!!
おいちゃん「カバの赤ちゃんもやっぱり四角い顔してんのかな←また出た(^^;)
さくら「そりゃそうよ
おばちゃん「ほら満男蒲焼カバ)食べないのかい←しつこい!!(-_-;)
おいちゃん「うん?カバカバってお前今日はカバづくしだな←駄目押しですねこりゃ(* ̄▽ ̄)
寅「うるせえな!食事時ぐらい静かにできないのかい!朝から晩までペチャクチャペチャクチャよぉくもあんなに
  喋ることがあるよまったく
とニ階にあがって寝る。
まあ、とりあえず寝てください ε=( ̄。 ̄;A 

             



りつ子のアトリエ
りつ子のテーマ
ガラス戸の外から夜遅くまで一心に絵を描いてるりつ子が見える。




Cりつ子の訪問と寅の豹変】

翌日昼 とらや

電話でりつ子さんと話しているおばちゃん。

おばちゃん「ちょっとさくらちゃん大変だよ柳さんの妹さんが見えるってよ
寅「え?誰か!ちょっと電話して断れよ今ここきてもらっちゃ迷惑だってな!
おばちゃん「そんな事言ったって今 おておてお寺から…←おばちゃん大慌て(^^;)
寅「じゃ今こっちへ移動してきてる状態か?←人間じゃないみたい(^^;)
さくら「なに怒ってんだろうお兄ちゃんどうしたの一体?
寅「どうしたもこうしたもねえよ。昔っからな女だてらに絵なんか描くやつにろくな女なんかいねえんだい!
さくら「そんなむちゃくちゃな 
寅「オラァああの女が来たってなオレはこの敷居から一歩だって入れやしねえぞ!
 おらあこう言ってやるよ!何がいやだからったってな
インテリ女と便所のナメクジくらい
 嫌な物はねえんだい!吐き気がすらあ!
ここはてめえ見てえな女の来る所じゃねえんだい!

 とっとと出てけ!!さくら!もってこいって言ったらすっともってこい!味噌なんか持ってくるな!
 俺はその塩カッと掴んで野郎の顔めがけてパッ!…ぁ!


             

それにしても48作中マドンナに再会するのをこれだけ嫌ったのはこの12作以外にない。


りつ子さんが店先に立っている。

りつ子
あーら!熊さん
りつ子さんのこの明るい笑顔で寅の怒りは1億光年彼方まで一気に吹き飛ぶ(^。^;)
いえ、寅です..←もう一瞬の間に機嫌がよくなっている寅でした。
りつ子「えっ!あーごめんまた間違えちゃった寅さん昨日は本当にごめんなさい

りつ子のテーマ流れる

寅「いえ
りつ子「私、ちょっと嫌なことがあった後なもんでついあんなひどい事を…ほんとうにごめんなさい
寅「いえ…ささささどうぞどうぞ入って下さい。おばちゃん!
一歩も入れないとか、塩撒くとか、どの口で言ってたんでしょう ┐(-。ー;)
りつ子「柳りつ子と申します。どうぞよろしく


とらや 茶の間

一同「ハハハ
りつ子「
そうなの、それがひどいこと言っちゃったの。恥ずかしくて言えないくらいね
りつ子「ね、
寅さん、じゃない、熊さんだ。じゃない!寅さんだ!
一同「ハハハハ
寅「そうだったかなあ…オレどうも物覚えが悪いからねー、覚えてね―なー嘘つけ(−−;)

              



兄の文彦の話題になって、りつ子は文彦のダメぶりを嘆いている。

寅「
あんたも苦労するねーああいう兄貴を持つと。ずっと独りなの?

さくら「
あ、 でもどっか優しそうな感じの方でしたわさくらたいへんだねえ(T T;)
りつ子「
そうかしらそう言えばそんなところもあるかしらね
と、寅に振る
、さくらに
そうあいつ優しいんだようんあいつ優しいとこあるよな?
お互い兄妹なので、文彦と自分を自己同一化(^^;)

さくらうなずく。
りつ子「まとまったお金が入ったりすると、一万円札を二、三枚置いていったりするんですよ
おいちゃん「ほー!一万円をー!←これ見よがしの声(^^;)
おばちゃん「へっえ〜ぇ←おばちゃんもこれ見よがし(><;)
おいちゃん「二、三枚も・・・!←さらに強調(--;)
寅切腹マネ。「あッ〜!ブツッばらばらばら・・・
ぶしゅっ!(首まで刀)
←寅やられました(>◇< ;)

 
りつ子さん、芋の煮っ転がしが美味しくて
りつ子「あのね寅さん
寅「うん?
りつ子あのねと耳に口を近づける

              

寅「トイレでしょ?
りつ子「違うわよとさらに口を近づけるがまた寅が顔をくねらせてよける
この時の渥美さんの表情はコミカルで可愛い!
寅「おか…お金ですか?
りつ子「やだなアお芋の煮付けが美味しいからおかわりしてもいい?って聞いてるんじゃない
寅「は!なんだお芋か!
寅台所へ来て「おいさくら、煮物おかわりだ
寅「どうだいいい人だろ
さくら「うん
寅「当たり前だよお前絵描く人に悪い人なんかいやしねえよ←よく言うよ真逆だよほんとに。
『昔っからな女だてらにこんな、絵なんか描くやつにろくな女なんかいねえんだい』って言ってた…(−−;)


江戸川土手


夕焼けをバックにりつ子を見送る寅とさくら手を振ってる。



おっと!さっきまでとらやでスカートをはいていたさくらがなぜかこの時はズボンにはきかえている。

わずか数時間で!なぜだ!?
洗い物の時に何かをこぼしてしまったのか、
はたまた満男がオイタをして汚れてしまったのか…。
晩秋の夕方は冷えるからズボンにはきかえたのか。

たぶんちょっと肌寒いからはきかえたんだね(^^;)



       
   スカート                     ズボン
             


なお、この、さくらのスカートからズボンへの早変わりを発見したのは、私ではなく
こよなく『男はつらいよ』を愛するスーパー寅マニアである私の尊敬する『寅福』さんと言う方である。

このサイトでもリンクを貼ってある月虎さんが運営する「男はつらいよSNS」内で
いつも頻繁にやり取りをさせていただいているのだが、彼には実にさまざまな刺激をもらい、
頷くことしきりである。
深い洞察力をお持ちであるにもかかわらず、とても謙虚な心も同時に持たれている稀有な方だ。





数日後 とらや
 

二枚目の画商一条がとらやに来てりつ子さんを待っている。
そこへりつ子さんがやって来て、なにやら深刻な話しをしている。
一条は、りつ子さんの絵に大きな投資をしたいと言っている。
りつ子さんは返事できないまま時間が過ぎ去っている。

社長、おいちゃんに「えらいことになったねー
りつ子が男と話してるともうみんなあきらめはじめるのが面白い。

運悪く帰ってきた寅、すべてを一瞬に悟ってガクットうなだれて、頭が真っ白になり
ふらふらになりながらニ階への階段でガタガタとコケル寅でした。

おいちゃん「あいつきっと旅に出るぞ。でも止めねえほうがいいよ考えに無駄がないねえ(^^)

店では沈黙が続いている。
たとえりつ子さんがこの画商を嫌っていても、すぐに断ることができないのだ。
霞を食べて生きていくことができない以上、やはり絵を売らなくてはならないことは厳しい現実だ。

一条、しばし考えて、りつ子の肩に手を回して←ほう…そういうことかい(−−;)
一条「じゃあ、こうしましょう。2,3日考えていただいて、それからもう一度ってことで
りつ子「ええ…
二人、とらやを出て行く。

一方、寅は案の定旅支度をしてニ階から下りて来る。

寅「さくら、博と仲良くやれよ。アンちゃん旅に出るからよ
外から帰ってきたさくら「どうして?
おいちゃん後ろで『りつ子さんに男が現れて、寅がショックで泣いて旅に出る』というパントマイムをする。
松村さんの可笑しさが爆発(^^)/

寅「何も聞くな、わけは聞くなよ←聞かなくても分かるよ(^^;)
寅、振り向いて、おいちゃんのパントマイムの「泣き」部分を見て。
寅「おいちゃんまで泣くこたぁねえよ。なあ…
ちょうど泣きの部分でよかったねおいちゃん。寅にバレないで(^^;)

写真左から @りつ子さんと男が来て。 A仲良く話してて Bその時に寅がかち合っちゃって C四角い顔がお陀仏で D泣きの涙
           

寅「考えてみりゃオレも長逗留が過ぎたぜ。ここらあたりが潮時よ

ところが…りつ子思いっきり走ってすぐにとらやに戻ってきたのだ。

りつ子「あー!行っちゃった、行っちゃった!さくらさーん、見た?あの男!嫌な奴なの!
    もォ〜っ、だいっ嫌い!!


寅、急に『この世の極楽顔』に変化!

さくら、唖然…この場面、予告編ではさくらもにこっと笑っている
みんなの予想大外れェ〜!!

             

寅「おばちゃんよ!は〜!腹すいた!さあ!みんなで仲良くご飯食べよう!!秋は腹がすくなあ〜!
よくもまあ、これだけ露骨に変われるなあ。まあ、いつものことですが ┐(‐‐;)

この寅起死回生のあと腹めちゃ減り飯くれパターンは第6作「純情篇」第8作「恋歌」でも出てくる、めちゃ食いしていた。

りつ子「どうしたの?寅さん、ご飯食べてないの?まあ、そうとるよね、普通は(^^;)
さくら「いえ…」と少し照れる。さくらもちょっとほっとしている
おいちゃん、寅の方見てカア〜〜!!っと嘆き声。
おばちゃん、うるうる。



D私のパトロン 私の寅さん MON TORA 

フランスパン店でバケットを買っているりつ子さん。

寅「寅、絵描くのも大変だね。何かと物入りで
りつ子「そうなの、キャンバスでも、絵の具でもどんどん値上がりしちゃうんですのもの
寅「でも、上手く描ければ、さっきの商売人が買ってくれるんだろう
↑画商のことを商売人という寅っていいセンスしてる。

りつ子「うん。 でもね、ほんとに自分の気に入った作品って売りたくないもんなのよこれは痛いほど分かる(^^;)
寅「はあ〜〜…
りつ子「かといって、気に入らない作品ってのはますます売りたくないでしょふむふむ(−−)
じゃあ、全然売れねえじゃないか
りつ子といっても、売らなきゃ食べていかれないしね…←不変の真実(TT)
りつ子
おいくら?
りつ子「
あ、いけない、お財布持ってくんの忘れちゃったかしら?
寅「ん?あーいーよ!オレが払う。イクラだい?いいんだいいんだ。210円な。はい少額には強い寅でした(^^;)
りつ子「ごめんなさいねー
寅「いいんだよ。いいんだよ
りつ子「今度お会いした時お返しするわ
寅「いいんだよ。そんなこと心配するよりいい絵を描けよ
こういうこと言われると絵描きはそれはもうとても嬉しい。

              

りつ子「ありがとう、とっても嬉しいわ。寅さんは私のパトロンね
寅「パトロン?

芸術家に経済的援助する人をパトロンと言う。パトロンpatronは「父」であり、男の人に使う。
語源はラテン語の(父)paterから。

りつ子「そう!パトロォン!フフ…
寅「ヘヘ
りつ子「いいわ、もうこのへんで。お家の方によろしく。また遊びに着てね
そんなこと言っちゃうと寅って毎日でも来るよ。しらね‐よ、オリゃ…(−−;)
りつ子「さよなら
寅「さよなら!!
憧れの顔でりつ子の後姿を見つめる寅
りつ子「さよなら、私のパトロン!
寅「さよなら!

210円ごときでパトロンと言われた寅。これはラッキーだ!安くついた(^^)/でも、ほんとうのところ、
寅の「そんなことを心配するよりいい絵を描けよ」という言葉が嬉しかったんだね。これは分かる!




Eとらやでの芸術論.人間の生きる証

とらや 夜

さくら、編物している。博,本を持っている。

寅「財布を忘れたなんて言ってるけれど、本当はあの人はパンを買うお金すら持っていないんだよ
 ニコニコ笑顔を見せて何の苦労も無い顔をしているけれども、実はあの細い体で明日のパンにも、
 ことかくような貧しさと闘っているんだなあ…。なにしろ芸術家だからなあ…

寅違うって、あの日はただ単に財布忘れただけだってヾ(^^;)

おいちゃん「するとなにか、芸術家ってのはみんな貧しいのか…
寅「決まってるじゃないか!そんなこと〜
おばちゃん「お金持ちだって中にはいるだろう?

おばちゃんの言うようになかには「池ノ内青観」や「加納作次郎」のようなお金持ちもいる。

寅「そんなのは芸術家じゃないのォ!
社長「でもねえ、今時絵なんかずいぶん高いんだよ
寅「タコは横から口出すなよ!おまえなんかに芸術が分かるか
寅「いいか、自分の気に入った作品は人に渡したくない。ましてや気に入らない作品を売るわけはない。
 だから金が全然入らない
出ました!寅のお得意芸、そのまま受け売り発言。
寅「これが芸術家ですよ。わかるかさくら
さくら「
そうねー.。。私は芸術家じゃないからよくわからないけど…でも…とっても気に入ったスーツ
   縫い上げた時なんか、ちょっとお客さんに渡したくないなんて時あるわね

博「いつかのお千代さんのスーツなんかそうだったなあ。君いつまでもぶら下げて眺めてたじゃないか
さくら「そうそうあん時そうだったわ
寅「そう!さくらおまえ芸術家だよ

              

さくら笑って「フフフ、どうもありがと
おいちゃん「しかしオレはわかんねえなー。そりゃ、お釈迦売りたくないってのは分かるよ
でもまあ、よくできた団子だったら、おおいばりで売るねーおいちゃんいい感覚だねー!こういう感覚が文化を作る。
寅「だからとらやの団子は芸術じゃねえじゃねえか
おいちゃん、笑いながら「いやあ、芸術じゃなくて結構だけどなあ〜芸術じゃない方が美味いよきっと(^^)

社長「じゃあ、寅さん、芸術家ってのはね、何で食ってくの?←霞(かすみ)
寅「決まってるだろ、お前みたいな金持ちがね、どうぞお使いくださいって、全部差し上げるんだよ
社長「冗談じゃないよォ、こっちだってね、食うのが精一杯だよ。そんなことしたらね、こっちが食えなくなっちゃうよ
寅、あきれて、「あ〜〜、いやだね〜〜、なんというかこの貧しい生き方
おいちゃん「だけどな、寅、え、早い話が人間食うために生きてるんだぜ
おばちゃん「そうだよ
寅「とても話し合えないなあ、この連中とは。なあ、博こういう時は絶対博に振る寅です(^^;)
博「確かに食っていくってことは大変なんですよね、この世の中じゃ…それも一理ある(−−)
社長大きく頷く←ここぞとばかりに(^^:)
博「でもね、人間が生きるってことはそれだけじゃ決してない・・。
 そうですよ、だからこそりつ子さんみたいな人が必要なんですよつまり、芸術家がね

寅「そうそう」と指す
社長「それどういう事?
博「ん…だから美しい音楽を聴いたり素晴らしい絵をみて感動するためにだって
 僕たちは生きてるんじゃないですか
とにかくもっともっといろんな事に
 人間は喜びを感じてるはずですよ。まあ例えばですね…

さくら「うん、ほらおいちゃんの盆栽だってなそうだわねパチンコ…ではないな(^^;)
博「うんそうそう
おばちゃん「こうやってみんなで楽しく話すこともね
博「そうですよ
おいちゃん「寅が恋をするのもそうか?
寅一瞬博と顔を見合せてテレながら馬鹿野郎!
博「いや笑い事じゃ無いですよ、その通りですよ。兄さんが美しい人に恋をするこれは兄さんが
人間として生きてる事の証ですよ。そうでしょ兄さん

寅「いやそりゃそうだそりゃそうだそりゃそうだね・・・なるほどな人間の証ね。
 そうかじゃ今夜はこのへんでお開きという事にして博これちょっと貸してくれよな。
いい言葉があったら覚えよ

寅、本なんか読まないだろうが(^^;)ほんと形だけなんだから…

寅階段上がりながら「人間の証ね
社長「人間の証か…
列車の汽笛「ぽー」

社長「腹減ったな。茶漬けでも食うか。おやすみ。
社長「♪なにを〜くよくよォ〜♪

人間は確かに博の言うようにパンのみで生きているわけではない。しかし、この競争社会、高度消費社会の渦の中で
生きている我々にもう一度自分の人生を冷静にかえりみて、個人的な感覚を大事にしていくことを実践するとすれば、
時として社会の弱者になることにもなる。




F寅の至福の日々

江戸川土手

さくらが満男と一緒にりつ子の家に向かっている。


さくら「恥ずかしいなあ…満男の絵なんか見せるの…
寅「こいつの絵だってちゃんとした専門家に見せれば立派な芸術家になるかもしれねえぞ
 ただりつ子さんに会いたいだけ( ̄▽ ̄;)
このパターン。第8作ではロークにさくらを連れて行く寅。第14作「子守歌」で赤ん坊をダシにマドンナに会いに行く寅がいた。


りつ子のアトリエ

りつ子「そんなこといったって早いわよねー、まだ満男君。今のうちは好きな絵をどんどん描いてればいいのよ〜。
りつ子「子供の絵ってのはそんなこと何にも考えなくて描くから値打ちがあるのよ」

大人の絵描きも結局は同じ。「あじさいの恋」の加納作次郎はこう言ってます。
「あのな、こんなええもん作りたい、とか、人に褒められたいって考えてるうちは、ろくなもんでけんわ」



さくら「いいわねぇー、絵を描いていらっしゃるなんて羨ましいわ
りつ子「どうして?
さくら「だって夢よ。絵描きさんなんて。←ちょっと少女趣味的発想かな(^^;)
   私ね、小さい頃図工が好きで、大きくなったら絵描きさんになろうとなんて。。。
りつ子「ほんと?
さくら「でもね、中学に入ったら音楽が好きになってね。今に声楽家になろうかなって。。さくら、歌上手いもんね。
寅、むこうでスケッチブックに何か落書きしている。
さくら「ふふふそのうちお勤めするようになってしまって、今度は素敵な芸術家と結婚しようかな、なんて思っているうちにね
寅横やり「貧しい印刷工の妻になっちゃったかぁ!
さくら「うるさい!ん!」と笑う
りつ子も笑って
りつ子「でもね…私この頃さくらさんみたいな人見てるととても羨ましいなって思うことあるのよ
↑ま、あるよな、そういうことはあるよ。うん。りつ子さん絵のことで迷いがあると見た。(ーдー)y┛~~~~

さくら「どうして?
りつ子「昔はこういうことなかったんだけどなあ。。。どうしてかしら?
寅横やり「年だよ!!←わ!言っちゃったよ!真実(@@;)
りつ子「寅さん!
寅「はいはい←このリアクションは好き!
りつ子「あら、何描いてるの?見せて

シューベルトの「鱒」がピアノで流れる

寅「はいこれ!
りつ子「なに、それ?
寅「キリギリスとラッキョが話してるんだよ!ハハハ
りつ子「らっきょ!?とさくらを指差しながら笑う。

            

さくら笑いながらうなずく
↑ラッキョといえば第10作「夢枕」でもお千代坊とさくらを『さっきょ』扱いしていたなあ。
寅絵を指差して「おいおい、ラッキョラッキョ!ハハハハ!
寅絵を指差して「キリギリスキリギリス!ハハハハ!

一同大笑い



江戸川風景

シューベルトの「鱒」


夕方りつ子が土手で江戸川をスケッチしている。

寅と源ちゃんも近くで遊んでいる。
寅後ろからゆっくり近づきちらちらと絵を見る。りつ子も気づき笑う

後ろでにこにこいつまでも見ている寅。
この時の渥美さんの仕草はチャップリンそのものなんともいえない可愛い仕草。

寅、至福の時

               



Gりつ子の失恋と寅の奮闘

りつ子の恩師の家

最近近所の自然環境がどんどん変わっていくので怒っている恩師。

              

奥さん「ほんとどっかへ引っ込みましょうよ。もっと小さいうちでもいいから」
恩師「面倒だよ
奥さん「無精者だからね
恩師「そのうち死ぬよ。排気ガスで河原崎国太郎さん、反骨精神旺盛な恩師を好演。
第5作「望郷篇」に機関士役で出演されていた松山省二(松山政路)さんの実の父親でもある。

りつ子「先生、こないだ私、安藤さんの個展見てまいりました
恩師「そう、よかっただろう
りつ子「はい、びっくりしました
恩師「彼はなかなかいいよ
りつ子「あたし…時々女ってやっぱりだめなんだな…ってそう思いました
恩師「女だっていい絵描きはいるよ
りつ子「ええ…
りつ子は恩師に自分の現在の苦悩を聞いてもらいに来たのではないだろうか。

恩師「そうだ。三田君、三田良助、
りつ子うなずく
恩師「あの男近々に結婚するらしいね。
りつ子「それで…相手の方は…←気になるのだね
恩師「金持ちの娘らしいよ
結婚相手のこの部分をいきなり強調する所がこの恩師さん、面白い。ま、すなわち
逆玉だね。
これで一生絵が描けるね三田良助さん。うらやましい…(−−;)

りつ子「へぇ〜←動揺が見え隠れ
恩師「まあ、あの男らしいけどね

「あじさいの恋」でもかがりさんの恋い慕う陶芸家が土地持ちの女性と結婚する話があったが
[ものつくり]をする人は、しばしばこのような結婚を望む。それほどにも自分の好きな道を歩むということは
経済的にも厳しい道になることが多いのである。

りつ子のテーマゆっくり流れる
雨に濡れたビワの木
孤独と失望にさいなまれながら、家からの長い階段を下っていく
りつ子の複雑な表情をカメラが超望遠で追っていく。
辛そうな背中が長く映される。

このあとりつ子さんは少し寝込んでしまうが、りつ子さんの場合はこの失恋だけが原因ではない。
自分の画業の行き詰まりや年齢のこと、収入のことなどが複雑に絡み合い、自分を支え
きれない状態になってしまった気がする
。自分の今までの物語を再構築しないといけない時期に来ているのだろう。
このあたりが正念場だ。雨上がりの階段を下りるりつ子さんの背中の孤独は私には理解できる。「女もつらい」のだ。

               

とらや 

文彦がとらやでさくらたちに相談。

さくら「じゃあ2日間ほとんど何も食べないで
文彦「なんとなく体がだるくて時々こう…はあ〜、…なんてため息をついてたりなんかしてねー
このあと実は寅が「恋の病」になってしまうがそのときおばちゃんが電話でさくらに全く同じことを言います。(^^;)



りつ子の家

シューベルトの「鱒」が流れる。

寅、庭に入ってきてりつ子さんを見つけニコッと笑い、手を上げる。お見舞いに来たのだ
寅に気づいて喜ぶりつ子さんガラス戸を開けて迎える。
寅「寝てないの?
りつ子「うん、今日はね、少し調子がいいの
寅「ふ〜ん
りつ子「上がって
寅「うんオレ、ここでいいから。あ、こんなもんだけど、フルーツ食うかい?横文字! Σ(・ロ・)
りつ子「わあ!すごい!わあ!重たい!」と持ってよろける確かに馬鹿でかい(^^;)

りつ子「兄から聞いたの?私が寝込んでるってこと」
寅「ん、そう」
りつ子「なんて言ってた?

               

りつ子、ちょっと迷いながら、「寅さんにだけ本当のこと言っちゃおうかしら。。。
寅「え?
寅のイチョウの葉っぱ取り上げてりつ子「秘密よ。誰にも言わないでね
寅「いや、言わないよ」そりつ子「あたしね…失恋しちゃったの…
↑言っていいのか?そんなこと…

これは寅にとっては本当はショック。つまり、りつ子がこういうことを寅にしゃべるってことは
寅に恋心を持っていないことが分かってしまうわけから。しかしりつ子が「失恋」したということは、
まだ寅の入り込む余地は残されているということでもある。こういうのって複雑〜。


りつ子のテーマゆっくり流れる
寅はっと驚いて、りつ子をじっと見る

りつ子「だけど相手の人が悪いんじゃないのあたしの片想いだったのよ。バカみたいいい年して
寅、じっと下を向き黙っている←やはり、ちょっとショック
りつ子「キリギリスの片想いなんて可笑しいでしょ?ね、可笑しいでしょ?フフフ
と、寅の腕を揺らす
寅「え、うん、可笑しい可笑しい、笑っちゃうな…キュウリも食えないで痩せちゃうもんね
りつ子「そう!ハハハハ
寅「ハハハ
りつ子、下を向きながら「フフフ」
表情から伺うにはまだ失恋の傷は癒えていないようである。
寅、元気を出させようと

寅「あ!蝶々グットタイミング!(*゜▽゜)/
りつ子「え?」と寅を見る
寅「ほらほら、蝶々蝶々」と庭へ歩いていく
りつ子「どこどこ?」
寅「ほら、蝶々…
あ〜!
椅子に乗って「ほら、あ!」
りつ子「手で採れないわよ寅さん」
りつ子「あっち行っちゃったほら
寅、右の方を向く
りつ子「あ、ごめんなさい!こっちだ!
と今度は逆の方を指差す
寅、笑ってりつ子を見るおどけている表情が実にいい!
↑りつ子、気持ちがちょっと柔らかくなったかな。(゜ー゜*)
渥美さん結構このコント楽しんでいる

こういうときの寅っていつも大活躍。人の心を温かくしてくれるんだよね。
最も印象的に思い出すのは第18作「純情詩集」で不治の病の綾さんを笑わせる寅の姿。
綾さんはあの時幸せそうだった。




H寅の恋煩いとりつ子の再訪

とらや

おばちゃんがさくらと電話
おばちゃん「うちに帰ってきたらね、ものも言わずに二階へ上がっちゃってそれっきり寝込んじゃったんだよ
さくら、電話「あら…どうしちゃったのかしら…。食欲はどうなの?
おばちゃん「あたしがお粥作ってやったらねひとくちかふたくち…。熱はないんだよ。ただなんとなく
      体がだるくてね。時々ね、は〜〜なんて情けないため息ついたりして

これじゃ文彦がこの前りつ子のことでとらやに来て言ってたことと全く同じだよ。(~-~;)


二階で寝ている寅

題経寺の鐘 ゴ〜ン
寅「はア〜あ〜〜あ〜。。。←ある意味重症(^^;)


さくらのアパート

博「まず間違いないな。恋の病だよ。医者呼んだって治らないぞ経験者は語る
第10作「夢枕」では、寅が、岡倉先生の「恋煩い」をピタッと当てていた。

さくら「ねえ、恋をすると本当に病気みたいになっちゃう?その質問って、自分の…(^^;)
博「そりゃなるさ、ちょうど肺病にでもなった感じだな。。。胸のあたりがこう…、やめた…バカバカしい。フッ…
↑よっ経験者!でも、さくらの前で言うのはハズカシ!!(´∀`)
さくら、気づき、ちょっと照れて博のほう向いて笑っている。でも兄のことも気になる表情。



数日後 帝釈天参道

りつ子さんがお見舞いにとらやを訪れる。

とらやの二階

さくら「お兄ちゃん、入るわよ」手に花をいけた花瓶を持っている
さくら、りつ子に「どうぞ
寅向こうを向いて寝ている
さくら「お兄ちゃんお起きて、ねえ
りつ子「いいの
寅目を開いて「あ〜。。。!とりつ子を見て驚く
寅「あ〜あ〜、さくら…
さくら「え?
寅「お前の顔までりつ子さんに見えるよやばいよ!本人だよ(¬д¬;)
さくら、りつ子を見てドギマギ
寅「この手の病気はこうなると相当重いんだよな..何回やっても免疫つかない寅でした。 
さくら「ちょっとお兄ちゃん
寅「あ〜あ〜、りつ子さんは今ごろ何してんだろう。。。全部聞かれてる!もうダメだ ヾ(ーー; )
りつ子下を向いて考え込んで…
りつ子「寅さん…あたしよ…
寅「あ〜あ、声までりつ子さんによく似てるよもうだめだ… (>< ;)

               

寅「あれ!?
りつ子「お見舞いに来たの
寅「何だ〜、りつ子さん来てたのかぁ…、オレさくらの奴だと思ってたよ
さくら「私もいるわよ
寅くるっとさくらの方へ首を回して「あ!ビックリした〜〜ん、ふたりもいたのかぁ〜
まだ意識朦朧、起きろよ!(TT)
寅「何がなんだかわからなくなっちゃったよ…と目をつぶる
さくら「ね!しっかりしてよお兄ちゃん、いやねえ
りつ子「あたし、あんまりお邪魔しても悪いから、これで失礼しますそりゃそうだろね…
寅「ん…?早く気づけよ(−−)
りつ子「寅さんはやくよくなってね、それじゃ、どうも…
りつ子立ち去って行く

さくら、焦って「ねえ、お花頂いたのよ
寅「あ。。。え!?…あ!もしもし!寅、ようやくマジで目が醒めたな…もう遅いよ…( ̄△ ̄;)

二人下りて来る

タコ社長「♪お医者さんでも〜草津の…〜♪大変だねえ!寅さん恋の病で寝込んじゃったって言うじゃねえか
やはり、この男が駄目押し!これですべては終った…(T T;)
/~~~

りつ子下を向いて「ごめんなさい」と足早に走り去ってゆく

その直後、ドドドドと地響きを立て寅が走り下りて来。社長に人差し指を立て目が完全に戦闘態勢に。
社長「違う違う違う!!←違わないって(^^;)社長に突進する寅
社長、裏庭まで逃げながら「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!
寅「チキショウ!殺してやる!
社長、振り回されながら助けて!助けてくれ!!

                



りつ子のアトリエ

秋の虫が鳴く
寅が描いたスケッチブックの絵『キリギリスとラッキョ』を見ながら考え込むりつ子。深く静かにため息をつく


悩む寅は慰めに来た文彦とも江戸川土手で喧嘩をしてしまう。

寅「お前さっきから気にらることばっかり言うなあ、慰めるってなんだいお前ここへ何しに来たんだ!
文彦「決まってんじゃないか・・りつ子のことだよ」
寅「りつ子さんがどうしたんだい。
誰が
りつ子さんに惚れてるってんだい冗談言うと承知しねえぞ

文彦「フ・・自分で言ってやがる
寅「なに!!で、喧嘩。



I寅とりつ子.別れの曲

りつ子の庭(アトリエが見える)

隣からピアノの音が聞こえる
りつ子スープとパンを食べてる。質素な食事である。

寅、少し迷いながらも庭に入ってりつ子のアトリエを見る。
りつ子寅に気がつく
りつ子の表情も、寅が見舞いに来てくれた先日よりも当然少しニュアンスが違っている感じ。
りつ子ガラス戸を開けて「こんばんは
寅「ちょっとその辺まで来たもんだから食事中じゃ悪いねえ・・・また来るよ
りつ子「ううん、いいのちっとも構わないの、さ上がってちょうだい」とガラス戸をさらに開ける。
寅「本当にいいのかね
りつ子「大丈夫よ。さあ
寅「あちょっと、俺ここでいいよすぐ帰るからね」     

寅は何を思ってりつ子の家を再度訪ねたのだろうか。
自分の気持ちは、もうりつ子は知ってしまっている。
だから、りつ子の自分への気持ちを確かめに来たのだろうか…。それとも…

隣からショパンの『別れの曲』が流れる

故郷の元恋人コンスタンツィアのことを想い出しながら
書いたというエチュード(練習曲)3番ホ長調(通称別れの曲)


エチュード(練習曲)第3番ホ長調Op.10-3 通称「別れの曲」
ホ長調の甘美な第一主題はあまりにも有名。ショパンはこの旋律について、
フランツ・リストに「これほど美しい旋律を今まで書いたことがない」と言ったといわれている。
その甘美な旋律の印象が先行して、この曲が「練習曲」であることを知らない人も多い。


二人とも黙っている

あの音楽はなんて言う音楽ですか
りつ子「あれは別れの曲
寅「別れの曲ね。やっぱり旅人(たびにん)の曲でございましょうかね
りつ子「そうかもしれないわね

叙情感あふれるこの場面はこの作品で最も美しいカットである。

これは、テレビ版の最終回で散歩先生の娘さんとの間でのやり取りのアレンジ版。
テレビ版の最終回はレンタルビデオ屋にある。一見の価値あり。

静かだが緊張した場面が続いていく。

                 

りつ子「私…
寅「え?
りつ子「とっても困ってるの…「困る」って言い方ちょっときついな。

寅、小さく頷く

りつ子「私今まで絵のことだけ考えてきたしこれからも…そんなふうにして生きていたいのよ。
   だから…おんなとしては中途半端なの。お台所のことも出来ないし…
   子供だって満足には育てられないだろうし…」だけど、女だからとっても嬉しいの、寅さんの気持ちは。
   私だって寅さんのこと大好きなんだもん。


寅、目だけちょっと照れる。

りつ子「だけど…やっぱり困るのよ…わたし、寅さんには何もかも包み隠さず話せるいい友達で…
    これからもづっと…いてほしいのよ。

寅「もういいよ。よく分かるよあんたの言うことは。
りつ子「そうかしらあたし話せば話すほど自分の考えてることとは
    違うこと言ってるみたいな気がするんだけど…

寅「大丈夫だよ、そんなことないと思うよ。だけどあんた誤解しちゃってるよ。
 俺は惚れたとかハレタとかそんなふうに
あんたのこと考えたことないよ。
 今までずーっと友達だったし、これからだってそうだよ。


寅は、自分の心も落ち着かせ、かつ、りつ子に余計な気苦労をさせないためにあえて「あんた」という言葉を
連発している。この言葉は他人どうしの場合、相手との距離をとって話す時によく使う言葉。優しいがちょっと距離を
おく感じもある。寅はなるべく冷静さを装い、客観性を言葉に持たせようとして、このように言ったのだろう。
寅のりつ子への思いやりがこのような言い回しをさせたのだと思う。


りつ子「本当?本当のわけないだろ寅の顔見りゃわかるだろそんなこと。
寅「ああ、ほんとだよ。安心しなよ。と言いつつもちょっと顔に陰が走る。
りつ子もなんだかやはり気まずさが取れない様子

別れの曲が続いている

りつ子ピアノの方を見て…ちょっと間が合って
りつ子「熱い紅茶入れてくる」と笑って台所の方へ
寅、ちょっと頷く

ひとりになった寅の表情は硬く重い。

                 

りつ子の断わりの一番の理由はこれからも自由に絵を描いていきたいからというものだったが、
それではもし三田良介なる人物がりつ子に求愛していたらどういう風な結果になっていたのだろうか。



J寅の旅立ちとりつ子の旅立ち

とらや 

二階への階段の下に寅の雪駄


外は風が強い

おいちゃんとおばちゃん雪駄を見ている。おばちゃんの顔哀しげ。
寅、ゆっくり階段を下りて来る

寅「2,3日のつもりがつい長逗留しちまって迷惑かけたね
おばちゃん「何言ってんだよ
寅「人間潮時ってものがあらァおいちゃんおばちゃん体大事にしてくれよ
寅「オレはりつ子さんにすっかり迷惑かけちまったらしいよ。

さくら「どうして?
寅「あの人にはなあ、余計な心配とか気苦労なんかさせちゃいけねえんだよ。
  そんなこと考えてたら美しい絵なんか描けねえもんな。分かるだろうおめえにも。

頷きながらさくら「分かる
寅「それから、これは俺からの頼みなんだけれどもあの人は芸術家だから貧乏なんだよ。
寅「おめえ時々言ってもしあの人がコーシーパン浸して食ってるようなことしてたら、
  簡単でいいからなんか温かくって栄養になるようなもの作ってやってくんねえか。頼むよ


寅のこのような温かな気持ちがりつ子をして「私の寅さん」と言わしめるのであろう。
つまりこの言葉は『私の恋人』というような甘ったるいものではなく自分の絵を心底応援してくれる
もっと大きな存在である『パトロン 寅』の意味合いが濃い。
しかし皮肉にも寅はおそらくりつ子さんの
絵そのものに興味があるわけではない。そこがちょっと哀しい。

さくら「うん

男はつらいよのテーマ静かに小さく流れる
寅「お前博と仲良くやれよ な、 じゃ…
さくら「お兄ちゃん  せめてお正月までいられないの?
寅「フッ、そうもいかねえだろう、正月に向かって俺たちは掻き入れだよ。
  いくら寒いからったってコタツにぬくぬくつかってるようじゃお天道様のバチが当たるよ

入り口のガラス戸まで歩いて、さくらの方を振り返り
寅「そこが渡世人のつれえところよ

               

と強い風の中肩を丸めて寂しそうに去っていく。寅の孤独があらわになって痛々しい。
さくら「お兄ちゃん!」              
さくらなんとも寂しげな目で寅を見つめている横顔これも名シーンだ。
このシーンは第8作「恋歌」のラストの別れとよく似ている

さくらマフラーに手を当てて下を向いてしまう。


おいちゃんおばちゃんも下を向いてどうすることもできない。



江戸川土手の道

さくらとりつ子が川を見て立っている
鳥が鳴きながら飛んで行く
りつ子「いつまでもいい友達でいたかったのに…

                

さくら、りつ子の方をむく

りつ子歩き始めながら「バカね寅さん…
これはりつ子の寅に対する哀惜の念が滲み出る言葉だった。

さくら、なんて言っていいのか分からない。
満男の手を引いてさくらがりつ子と一緒に歩いていく



正月  

空に凧がいっぱい

帝釈天も初詣で賑わっている。

とらや「寅年」の大きな紙を表の戸に貼ってある
そうか!この年(1973年)は寅年だったんだ!そういう縁起を担ぐ意味でも
多くのお客さんがこの作品を観たのかも知れない。

さくら「ちょっとちょっと笑っちゃダメよ笑っちゃッ
と言いながら自分がもうすでに笑っている。(^^;)

なんとネクタイ姿しかもピンクのカーディガン、しかも紫腹巻丸見え!
源ちゃんニタニタ笑って「あけましておめでとうございます
さくら笑いを我慢して挨拶「ほめでと(^^;)
みんな我慢が限界を越え大爆笑!
源ちゃんおいちゃんにそっと「夏物です
一同さらに大爆笑

                


さくら、りつ子から来た絵葉書を読み返している。
りつ子の声のナレーション

スペインの古都トレドでこのハガキを書いています。
これが着く頃は日本はもうお正月でしょうね
おめでとう なつかしいとらやのみなさん、
私は元気で絵の勉強を続けていますからご安心ください。
寅さん。
私の寅さんはどうしていますか。
まだ旅先でしょうか。
スペインにて           りつ子



りつ子さんはそうとうお金には困っていたはずである。それにもかかわらず、なぜ、日本円がまだまだ国際的には相当安い
1973年にスペインに長期の絵の勉強に行けたのだろう。まとまった絵をあの一条という画商に売ったのだろうか?

りつ子の声にかぶさるように阿蘇山の噴火口の近くで
バイをする寅の声が聞こえ、阿蘇山の煙が見える




K阿蘇山で啖呵バイ

阿蘇山火口付近
(倍賞さんたちの九州ロケに渥美さんも一緒に行ったんだね)。
『平和祈願阿蘇不動尊』のはたがひらめく
りつ子が描いた寅の笑い顔のデッサンが映る。
大きく
非売品と書いてある。
MON TORA(モン.トラ)『私の寅さん』
RITZU←サインと署名

               

今回の作品で多くのりつ子さんの絵がスクリーンに出てきたが、この寅の笑い顔のデッサンが一番好き。美術担当さん
頑張って描いたんだね。実際は写真を見て描いているからちょっと薄っぺらいが、実に渥美さんの表情が生きている。
これととても似たものが柴又の「寅さん記念館」に展示しあるが、実は別の作品。作者さんはおそらく同じ人。
第12作本編で使われたこのデッサンの方がいい出来だ。


ところでこのデッサンはいつ描かれたんだろう。寅の生き生きした表情から考えて、寅がお見舞いを持ってりつ子の家を
訪ねた時が一番可能性がある。その次の可能性はその前にさくらと一緒に訪れた時かな…。


啖呵バイ



男はつらいよのテーマ盛り上がっていく

              

寅「続いた数字が三!三三六ぽで引け目がない
 産で死んだが三島のお千、
 四谷赤坂麹町チャラチャラ流れる御茶ノ水粋な
 姐ちゃんたちしょんべん!


阿蘇の噴火口が大きく映し出される

              





上映時間 107分
動員数
241万9000人 (48作中一番)
配収 10億4000万円



第12作「私の寅さん」【本編完全版】はこちらです。


 
ここ1週間多忙のためアップが遅れました(^^;)ゝ
第12作「私の寅さん」ダイジェスト版を本日4月16日にアップしました。
第13作「寅次郎恋やつれ」ダイジェスト版はだいたい4月19日頃にアップいたします(^^;)ゞ



【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら



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第11作「男はつらいよ.寅次郎忘れな草」ダイジェスト版
 

2007年4月11日寅次郎な日々 その306


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



二つの孤独の出会い

どのような俳優さんも一生の内で、『役に出会う』ことが一度か二度はある。この人でないとこの役は、務まらない。
この人以外には考えもつかない。というような決定的な出会いがあるものだ。渥美さんや倍賞さんなどもこの映画に
よって『役に出会った』と言えよう。そして、もうひとり確実にこの長いシリーズの中で、まるで水を得た魚のように生き生き
輝いて、完全に役を自分のものにしていたのが浅丘ルリ子さんである。この3人はどんなことがあっても誰も代役ができ
ない。もうこの3人以外誰も思い浮かばない。私にとって「男はつらいよ」は寅次郎の物語であり、さくらの物語であり、そし
て、リリーの物語である。

リリーは決していわゆる岡惚れのマドンナではない。寅にとって生涯を通して深い絆のあった最愛の人だ。絶対に誰にも
分かってもらえないような、たとえ妹のさくらでさえ分からないような寂しさや辛さも境遇の似ているリリーとなら分かり合
える。慰めあえるし、笑いあえる。寅にとってリリーは最強の同士でもあるのだ。

山田監督が渥美さんという人に会っているうちに寅さんという人間像やその周りの人間関係までイメージが湧き出てきたように、
浅丘ルリ子さんという女優さんは山田監督をして、リリーという魅力的なキャラクターをイメージに浮かべさせたのだろう。
それほどにも凄い役者さんである。

この第11作「寅次郎忘れな草」は寅とリリーが初めて出会う映画である。リリーには寅と同じ匂いの孤独があり、同じフーテンが持つ
自由な空気もある。それゆえに二人はすぐにお互い惹かれあうのだ。しかし、リリーの孤独は底のない深いものであるのに対して、
寅は、生い立ちの境遇やフーテンゆえの辛さはリリーと似ているものの、絆の強い「さくら」や「とらや」を持っている分、リリーよりは
底の浅い孤独になっている。だから寅はいつまでも旅を続けることが出来るのだし、疲れたらとらやに戻ってもくるのである。
この孤独の深さの違いを埋めるためには、なによりも人生をかけた長い時間が必要だったのだろう。そしてリリーはこの後、
2度も結婚し、短いながらもリリーにとっての心の置き場所を自分なりに作っていくのである。

ともあれ、この「忘れな草」は遠い北の大地で二つの孤独が運命的に出会い、東京で再会し、ほんの少しの蜜月の時を味わいながらも、
この孤独の深さの違いに耐え切れずに別れていく話だ。お互いが未来での再会の予感を強烈に感じながら。
寅のあのセリフ「言って見りゃぁ、リリーもオレと同じ旅人よ」がいやに身にしみた。

なんといっても題名の「忘れな草」がいい!ポスターの文句も気に入っている。
ほら、逢ってる時は何とも思わねえけど、別れた後で妙に思い出す人がいますね。…そういう女でしたよ、あれは。


本編

@【寅の帰郷と父親の法事】

今回も夢から始まる。時代劇である。

貧しい農家の娘「おさく」は借金が返せなくてヤクザの親分に連れて行かれそうになり
吉田義夫さん扮する父親が別れを惜しんで泣いている。

何年も前に家を飛び出た寅次郎が、それを聞いてヤクザたちをやっつけてしまうのだ。
父親はこの人が寅次郎だとうすうす分かっている。

寅「
おさくさんとやら、いずれ御政道が改まりゃ、晴れてあんちゃんと笑顔で会える日がきっとまいりますよ
おさく「はい
父親「私どももきっとそれを信じております
寅「それじゃ、ごめんなすって」とさんど笠をかぶり、ささっと走り去る。
父親、感極まって寅!!←吉田義男さん「間」が絶妙!
音楽盛り上がって。
寅、振り向いて笑いながら「お天道様はお見通しだぜ!」と、笑顔がアップになる。

             

いよ!大統領!
日本一!
寅次郎!
いよ!後家殺し!!←なぜか大阪弁(^^;)

田舎の小さな神社の社でうたた寝
雨が降ってきた。雨が顔を濡らし、起きてしまう。少し肌寒い。雷も鳴っている。
困った顔の寅、ふと見ると床下に番傘が置いてある。喜んだ寅、ポン!と柱に打ちつけはたいて、
寅「月様、雨が…。春雨じゃ!…バサッ!と傘を開くと、ボロボロ。
寅「濡れていくか…。あーあー…、」と、背広を手で閉じ、天を見上げて辛い目をする。


タイトル 男はつらいよ 寅次郎忘れな草」 

 口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
 帝釈天で産湯をつかい姓は車、名は寅次郎、
 人呼んでフーテンの寅と発します。


 ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
 いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
 奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
 今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


 ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
 意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
 目方で男が売れるなら こんな苦労も
 こんな苦労も掛けまいに 掛けまいに♪


矢切の渡に乗り帰郷する寅。


             


今回のミニコントは江戸川土手で中高生くらいの若者グループにカメラを撮ってくれ、
と頼まれた寅が、「後ろ下がって、もうちょっと後ろ…」とか
言ってるうちに若者達が土手で転がって、寅が上から笑いながら写真を撮る。という話だった。

                

とらや

寅の父親の27回忌の法事で御前様が来て、とらやで話をしている。
御前様「ほう、燕が…
御前様「とらやさんの四角い顔の燕はどうしてるかな?今年は帰らんのかな
さくら「さあ、自分の巣を忘れちゃったんじゃないでしょうか
そう言えば、第9作「柴又慕情」の最初のシーンでも、さくらが題経寺の山門のところの燕の巣を見て、
もし来年帰ってきて自分の巣がなかったら可哀想だから残してやって欲しいと御前様に言っていた。


御前様「今日は父親の27回忌なんだが…
御前様のお経はなぜか「日蓮宗である題経寺」では読誦しないはずの般若心経(^^;)

読経の続く中とらやに寅が帰ってくる。


寅「あー!とうとうおいちゃん逝っちまいやがったか!知らなかったよーと座って手を合わせる。
寅「勘弁してくれよ、おいちゃーん!
ふと見ると、おいちゃんが寅の方を見て座っている。

寅、指差して「
あんた…??
寅「
いや、おばちゃん…お?と指を差す。
寅、目の前のさくらにさくらは達者だよな」と指を差す。
博「
い、いや、今日はですね…
寅「
博は元気だろと指差す。
寅「
じゃあ、誰なんだ…。あー!裏のタコがとうとう逝ったか!
社長「アワワ!
寅「
あ、そうかそうか、まだ生きてたか
寅「
じゃあ、誰が死んだ。んー?えー!じゃあ、このオレか!?冗談じゃねえやい。
オレは達者だぜ、この通り!
それじゃ落語だよ。
おいちゃん「バカ!おまえの親父だ!

法事だと聞いてバカにする寅。
              

まあ、それでもとりあえず、座って御前様のお経を聞いている寅だったが…。
さすがに寅、暇をもてあまし、さくらのほうを見てにっこり。
さくらも、寅が久しぶりに帰ってきたので、にこりと微笑む。
私はこの時のさくらの表情が大好きだ!久しぶりに会えた兄の笑顔に
顔がほころんだのだ。

また暇持て余して
鼻の穴に紙突っ込んで、木魚を叩く御前様の真似をする。
さくら思わず笑う。

寅、今度は紙を鼻と口の間に挟んで口をとんがらせる。
遂に
御前様が木魚を叩く棒で寅の頭を叩いてまた読誦。
寅「
あ痛っ!!
一同、つい「ハハハ!」と笑う。満男も大笑い。
寅、怒って、拳骨で御前様の頭を殴るふりをし、
御前様の頭の上にをそっと乗せる。

御前様怒り爆発(^^;)


             




A【哀しみのピアノ騒動と寅の旅立ち】

とらや 

茶の間でもめている。
寅「じゃあ、法事がめちゃめちゃになったのは全部オレが悪いっていうのか
おいちゃん「あたりめえじゃねえか
おばちゃん「だから何であんな時に笑わせるんだって言ってるんだよ!
寅「何で笑ったんだって言ってるんだよ!
このどうどうめぐりが繰り返されて、おまえのツラが面白いからだと、脱線して続いていく。
あげくの果てにおいちゃんと寅で押し合い、足の取り合いのドタバタ。
さくら「隣近所の迷惑も考えていい加減にしてね。おいちゃんもお兄ちゃんも
と、さっさと帰ってしまう。
寅もおいちゃんもおろおろ(^^;)
ちなみにさくらがあの法事の時一番笑ってたぞ(^^;)


翌日、とらや 

満男にピアノを習わせたいとため息をつくさくら。
博「満男は男の子だからな…
さくら「男の子だから習わせたいのよ
おばちゃん「ピアノはさくらちゃんの小さい時からの夢だからねえー

それを聞いた寅が突然走って外へ行く。しばらく経って戻ってくる。
寅「おい!買ってきた買ってきた買ってきた!
さくら「なにを?
寅「もちろんピアノをだよ!え!」とおもちゃの赤いピアノをテーブルに置く。
寅「な、これでいいんだろ!え!
さくら呆然とおもちゃのピアノを見て、「うん…

どう言っていいか分からないさくらだった…。

            

とらや 夜

おいちゃん「そうなんだよ、あの野郎、ピアノっていやあ、おもちゃしか浮かばねえんだから。
       だからさー、ここんところはあいつのツラを立てて、恥じをかかせないようにな

博「ええ、分かりました
おいちゃん「まかり間違っても本物の話するんじゃねえぞ。な

寅、下りて来る。
博「兄さん、思いもかけぬ立派なピアノをいただきましてありがとうございました。
みんなに持ち上げられて上機嫌の寅。
しかし、いつものように結局社長がばらしてしまう。

社長「なーんだおもちゃか、あ、ビックリした、オレまた本物のピアノ
   かと思っちゃったよ。寅さんにな、本物のピアノが買えるわけねえ…

博、タコにやめろやめろ、と手で合図。
おいちゃん「えー?上等上等!本物とちっとも変わりゃしねえじゃねえか!変わるって…(^^;)
博「もともと欲しかったのはおもちゃの方ですよ
博も見え見えのお世辞だよ。

寅、さすがに気づいて、イライラし始める。

寅「さくら、おまえ本物のピアノが欲しかったのか?あの講堂なんかにあるでっかいやつか?
さくら「実はそうだったの…。
寅「へぇー…、いいか、ピアノなんてものは広いお屋敷の芝生に白い犬が転がってるような、
 そういう家の娘が、レースの垂れ下がった応接間でポロンポロンと上品に弾くもんだよ。
 お前たちの部屋、なんだ、お前、あそこにピアノが入るのか!?あの入り口!!え!
 棺桶だってお前タテにしなきゃ入らないよ!チッ!ケッ!笑わせるんじゃないよ!まったくお前!


まあ傷ついた腹いせにひどいことを言ってしまった寅だが、それにしても寅って
どうして家のこと言う時にいつも
棺桶が入るかを気にするのかなあ?(^^;)

              

博「ひどいことを言うな兄さんは…博、怒りと悲しみで声が震えている。
寅「何!!

言ってはいけないことを言ってしまった寅でした。

博「僕たちにだってねピアノを欲しがる権利はあるんだ
寅「屁理屈言うんじゃないんだよお前!稼ぎが悪いから結局欲しくたって買えないってことなんだろ!

もう言ってはいけないことを次々にしゃべり、挙句の果てにおいちゃんに出て行ってくれと
言われてしまう。


とらや店先

寅「さくらお前本物のピアノが欲しかったらなぜはっきりそれを言ってくれなかったんだい
さくら「
寅「せめて俺がおもちゃのピアノを買ってきたときに『私はおもちゃじゃなくて、本物のピアノが欲しかったのよ』って
言ってくれりゃオレァこんな恥かかなくても良かったじゃないか
←おいちゃん達の方をチラッと見ながら
さくら珍しく、「そうじゃないのよそうじゃないのよ!と真剣に強く否定
さくら「あたし達本当におもちゃのピアノでも嬉しかったのよ
寅「俺はね、もうガキ扱いはごめんだよ!」と哀しみの中出て行く。

              

さくら小さく「お兄ちゃん…!」と、寅を追いかけるが…。



B【北の果て、リリーとの運命の出会い】

北海道の原野を旅する寅  「シエラザード」が美しく流れる。 
        
リムスキーコルサコフ 交響組曲「シエラザード第3楽章「若き王子と王女」
北海道の雄大な風景と寅の孤独がこの名曲によって私たちの胸に染み込んで来る。

原野の一本道を旅する寅。
自由気ままそうでもあるがどこか寂しそうでもある。

雄大な道東の湿原。
草原で花をいじりつつ寝転がっている寅。
ゆったりとくつろいでいるが孤独が付きまとっている。


            



網走行きの夜汽車の中。

寅の後方の座席で窓の外を見てハンカチを取り出し涙ぐむ女。
寅、それに気づいて、その様子を見る。


           

なにか訳ありなのか…。と考え、女(リリー)を見つめる寅。

やがて寅も襟を立て眠りについていく。

この時の寅のリリーを見る目は温かい。そして自分と同じ悲しみと孤独をこの女も抱えているのだと、
一瞬の内に察知した眼でもあったリリーと寅の運命がこうして始まっていく。  

網走駅近く

バイのレコードが全然売れないので、腰を下ろして、ガクッ!と首を落とす。
寅「あぁ 〜…」

場所を変えて売ってみるが、誰も来ていない。ぼーっと橋の上にもたれかかって河口を見ている。

            

後ろから、女の声。
リリー「さっぱり売れないじゃないか
寅、ふと声のほうを見る。
リリーが橋にもたれて赤い包みをいじりながら人懐っこく寅の方を見て微笑んでいる。


             

寅「フッ。…不景気だからな…お互い様じゃねえか?」と微笑む。
リリー「フフフ」と笑ってレコードを見に来る。
寅「何の商売してんだい?
リリー「私?歌うたってんの
寅「ふうーん

リリー、レコードを探しながら
私もレコード出したことあるんだけどね、ここにあるかな?…あるわけないね
寅「え?ハハハ!
リリー「フフフ

             ←リリーが唯一出したレコード「夜明けのリリー」。

船着き場付近を歩いていくリリーと寅。

リリーがちょっとよろけそうになるのを寅が支えてやる。
ちょっとした仕草ややり取りがとてもいい感じ。


寅、歩きながら「故郷(くに)はどこなんだい?
リリー「くに?そうねえ…ないね、私…
寅「へえー…
リリー「生まれたのは東京らしいけどね、中学生の頃からホラ、家飛び出しちゃって、
   フーテンみたいになってたから…

寅、「へへーッ、ちょっとしたオレだね。流れ流れの渡り鳥
リリー「♪ながれぇ〜、ながれのぉ、わたーりどりーぃ〜か♪
美空ひばりの「越後獅子の歌」の節まわしで歌っている。本歌は「♪流れ流れの越後獅子」である。

波止場に腰を下ろし、帰ってきた船を見るリリー。

寅は後ろで立って見ている。カメラは手前の船のスクリューから覗くように二人を小さく撮っている。美しい映像だ。

             

寅も座って、「どうしたい、ゆんべは泣いてたじゃないか…
リリー、振り向いてちょっと驚き、恥ずかしそうに
りりー「あらいやだ見てたのー?


             

寅「うん…なにかつらいことでもあるのか?
りりー「ううん、別に…、ただ、なんとなく泣いちゃったの…

寅「なんとなく?

赤い包みを開けてタバコを取り出すリリー。

リリー「うん…。兄さんなんかそんなことないかな…。夜汽車に乗ってさ、外見てるだろ、
  そうすっと、何もない真っ暗な畑なんかにひとつポツンと灯りがついてて、
  『あー、こういうところにも人が住んでるんだろうなぁー…』、そう思ったら
  なんだか急に悲しくなっちゃって、涙が出そうになる時ってないかい?


マッチを擦る。

寅「うん…」とうなずいて。

寅「こんなちっちゃな灯りが、こう…遠くの方へスーッと遠ざかって行ってなぁー…
 あの灯りの下は茶の間かな、もうおそいから子供達は寝ちまって、父ちゃんと
 母ちゃんがふたぁりで、湿気た煎餅でも食いながら紡績工場に働きに行った娘の
 ことを話してるんだ、心配して…。ふっ…、暗い外見てそんなことを考えてると汽笛が
 ボーっと聞こえてよ。なんだか、ふっ!…っと、涙が出ちまうなんて、
 そんなこたぁあるなあ…分かるよ…


船を見つめるリリー。船が出て行く。 ポンポンポン.…
寅「お父ちゃんのお出かけか…
さっき、レコードのバイの時に見かけた例の家族が手を振って見送っている。
子供達「お父ちゃん、バイバイ!
子供達『バイバイ!お土産買ってきててねー!!」っと母親と一緒に手を振り続ける。

リリーのテーマ美しく流れる。

数あるマドンナのテーマの中で最も美しく、哀しい曲だ。この曲は第15作「相合い傘」でも使われている。
第25作「ハイビスカスの花」では新しい曲が使われている。

リリー、目にうっすら涙を浮かべてそのようすを見ている。
リリーねえ…
寅「うん?

              

リリー「私達みたいみたいな生活ってさ、普通の人とは違うのよね。
    それもいいほうに違うんじゃなくて、なんてのかな…、
    あってもなくてもどうでもいいみたいな…、
    つまりさ…
アブクみたいなもんだね…


リリーは自分のこのような放浪暮らしに相当心が疲れているのか、
メランコリックな気分に支配されている。定住に対する強い憧れがあるようだ。

寅、こっくり深くうなづいて
寅「うん、アブクだよ…。それも上等なアブクじゃねえやな。
 風呂の中でこいた屁じゃないけども背中の方へ回ってパチン!だい
リリー、うつむきながら、「クク…ヒッ、ヒック」と笑ってしまう。
寅、笑いながら、「え?可笑しいか!?←そりゃ可笑しいよ寅。
リリー、笑いながら「面白いね、お兄さん
寅、ニカッとして「へへへ!!

              

この寅のユーモアと楽天性が人生を通してリリーの心を温めていくことになるのである。

リリー、ハッと、気づいて、「今何時?」と寅の腕時計を見る。
寅、笑いながら「ん?
リリー「そろそろ商売にかかんなくちゃ…」と立ち上がる。

歌を歌うことを商売と言い切るリリー。そこに悲しみのニュアンスがある。
しかし、たとえどんなステージだろうが歌でお金が稼げる嬉しさも感じるリリーだった。


寅「行くのかい?
リリー「うん…
リリー「じゃあ、また、どっかで会おう
寅「ああ、日本のどっかでな!
リリー「うん、じゃあね
寅「うん!!

リリー、ふと足を止めて振り向いて

リリー「兄さん。…兄さん何て名前?

寅、ハッ、っとして少し照れて、でもちょっと粋に

寅「え?…オレか!オレは葛飾柴又の車寅次郎って言うんだよ

この時の渥美さんの粋な笑顔は最高にカッコイイ!

            

リリー「車寅次郎…。じゃ、寅さん…

寅「うん

リリー「フフ…、いい名前だね!フフ…」と走って行く。

            

寅夕闇迫る頃、海岸にカバンを置いて寅が立っている。

寅、しんみりとアブクか…

寅もリリーの言葉に考えるところがあったようである。

人生の辛酸をなめてきた二人はウマが合うからと言ってベタベタくっついて馴れ合うことはしないのである。
この別れ際の鮮やかさはさすがだった。


網走のキャバレー

リリーが赤いドレスを着て「港が見える丘」をしっとりと歌っている。

「♪あなたと二人で来たー丘ーは港が見える丘ー、
 色あせた桜唯一つ淋しく咲いていたー、
 船の汽ぃ笛ー咽び泣ぁーけばぁーチラリホラリと花片、
 あなたぁと私に降りかぁかるぅー春の午後でしたー…♪」


            



C【さくら網走に寅を引き取りに行く】

雨の柴又

とらや

北海道の酪農農家から速達が届く。
網走市卯原内(うばらない) 栗原久宗

おばちゃん「速達
さくら、受け取って「おばちゃん、北海道からよ。…」

           
どうやら、リリーとの会話で、反省をした寅が、牛飼いの農家に勤めてみたはいいが、
三日目に音を上げて倒れてしまい、うわごとでとらやの面々の名前を言っているという
体たらくらしいのだ。

これを回想すると…

 早朝。『モー―』と牛の声

軽快に男はつらいよの音楽が流れ


初日、寅がやる気満々で朝の空気を吸い、『牧童 車寅次郎』と書かれた札を嬉しそうに
指差して手を広げて気合を入れている。

二日目、牛の糞や汚れた草の掃除を鼻の穴にちり紙を詰め込んでその上からさらにタオルを顔に巻きつけているが
強烈な臭いに
フラフラになって倒れそうになり、栗原さんに助けられている。
この時の寅の格好はさすがに涙が出るくらい大笑いしました。(^^)

           

栗原さんの声『3日目にはとうとう熱を出してしまわれました

栗原さんたちに抱えられながら家に入って布団で寝てしまっている寅。


さくらのアパート

博「う〜ん…、なんだかよくわからないけれどこの人が迷惑していることは事実らしいな
さくら「
…うん…
博「しょうがないじゃないか…。行ってやるより
さくら、無言で、お茶を飲む。

それにしても毎度のことながら、凄いお金と労力をかけて寅を迎えに行くことになるさくらでした。
第7作奮闘篇の時もさくらは「青森県西津軽郡鯵ヶ沢」まで寅を探しに行ったが、今回はそれより遥かに遠く、
たぶん、夜行で青森まで行った後、青函連絡船に乗って、函館に渡り、そこから汽車を乗り継いでようやく
北の果て、網走に行くのだから大変だ。おまけにそのあと、寅と一緒に逆戻りの行程をしなければ
ならないのだから…。寅は確かに疲れ果てているが、重病人ではないのだから、普通の人ならば、迎えには
行かないで、お金を送って、手紙や電話で戻ってくるように促すのが一般的だろう。さくらは観音様マリア様だ。


遠く夜行に乗ってはるばる網走の栗原さんの牧場までやって来るさくら。

寅、さくらを見つけてハッ、とする。
寅、思わず「さくらぁ〜!!
さくら、遠くから手を振る。
              
寅、ふらふら歩きながら遠くのさくらに向かって

寅「大変なんだぞー、お前、朝4時に起きてよー…、まだ星が出てるんだぞー!
 それからずーっと働きづめに働いてよ、晩飯を食おうとする時はもうフラフラで、食い終わると、もうパタン
 だよ!凄いとこなんだぞ!オレァ、ひどい目にあっちゃったんだよ

寅、ヘナヘナへナとまた座り込む。



とらや 茶の間


さくら「
でもさ、酪農って本当に大変な仕事だもんねー
博「
兄さんが参るわけだよ。朝4時起きなんだろ
さくら、頷きながら、「
疲れたから今日は休みにするってわけにはいかないんですもんね。
だってそうでしょ、牛には盆も正月もないんだもんね

おばちゃん「
私達なんか遊んでいるようなもんだね。それから思うと←おばちゃん表現がストレートでいいなあ。


店先に水原君の女友達の食堂で働くめぐみちゃんが立っている。
工場の水原君を待っている。
水原君と同じ青森出身なので、なにかと一緒に過ごしているようだ。



D【リリーと寅、奇跡の再会】

二階で疲れがとれず放心状態の寅。

社長、二階を見ながら
社長「
いたのかい?すっかり忘れてたよ。あんまり大人しいんで。あれからずっと反省してるのか
寅、階段下を覗いてムッっとする。みんな寅のころで笑っている。


寅、階段を早足で下りて来る。カバンを持って旅支度をしている。
さくら、とまどいながら「お兄ちゃん…どこ行くの?」
寅「
長い間世話になったな
おばちゃん「
何言うんだよ、寅ちゃん
寅、怒りながら「
居候の身分でよ、あんまり長居したんじゃ迷惑なんじゃねえか
おいちゃん「
なんだい、聞こえたのかい、冗談だよありゃ
寅「
おいちゃん、恥ずかしくねーか。え!昼のひなかっからパチンコ玉弾いてよ!
 オレはな、おいちゃんみてえな人間がオレの身内だというだけで北海道の
開拓部落
 の人たちに顔向けができねえんだよ。


          

博「兄さん、おじさんだってたまに行くだけなんですから
寅「
おまえはなんだー!労働者の代表みたいな顔して、偉そうにお説教ばかり言ってるが、
  昼間から大口開いてケタケタケタケタ笑って、そんなに笑えるようなことがあるのか。
  あの北海道の開拓部落の人たちはなー、笑ってる暇なんかないんだぞー、飯食うんだって
  お前達みたいにぶっ座ってのうのうと食ってるんじゃないんだ!突っ立ったまま
  インスタントラーメンをすすって、タバコ1本
吸えば午後の仕事よ。お天道様は見ているぜー!
  おい、おまえたち、
バチが当たるぞバチが!
おばちゃんとタコ社長『ビクッ』っと反応。(^^;)

寅「
オレは行くぜー!もういっぺん北海道行って、自分を鍛え直してくる」と、店まで出て、
寅「
あー!腐れたこの暮らし。!ああー!見るのもつらい!全ては汚い!!」と出て行く。
みんな、
唖然としている。

寅、ふと立ち止まって、後ろを振り返る。
さくらたち、居間でその様子を見ていて、え?何だろう?という顔。

リリー「
兄さん…」と、近寄ってくる。
寅「
何してんだ!おまえ、こんな所で!え!?
リリー「

寅「
ドサまわりから帰ってきたのか、そうかそうか

リリー、ずっと寅を見続ける。

寅「
ハハハ…!なんだい!なにぼんやりしてんだよ。しっかりしろよ、おい!
リリー「
夢じゃないかね…
寅「
何言ってんだい、へへへ!
リリー、感無量で「あー!!寅さん!抱きつく。


網走ではひと時の出会いがあり、あっさり別かれたようにみえたが、やはり、寂しいリリーの胸の中で寅の面影が
ずっと生き続けていたに違いない。そうでないと人はこんなにも再会を喜ばない。リリーの寂しさを分かってくれる
のはこの人なのだと、リリーはもう分かっているのだ。


           


リリー「
どうしてこんなとこにいるのー!?
寅「
いや、ここほら、オレの故郷(ふるさと)だから…
リリー「
えー!!じゃあ、この近くに寅さんの家があるの!?
寅「
あ、あ、あるよ…。ちょっと寄るか?
リリー「
うん!連れてって!どっち!?」と言いながら寅の腕を組む。
寅「え!?…あっち…」と柴又駅方面を向く。←目の前にあるって(^^;)

リリー
寅の手を引っ張っていく。
寅、とらやを気にしながらひっぱられて歩いていく

とらやのみんなずっと身を乗り出していった方角を見ている。
後ろのタコ社長がこけてみんなドミノ倒しでこける。みんなで誰だ誰だと大騒ぎ。
リリーの行動ってさすがにちょっと大胆だなあ。堅気が見るとドギマギするよ。(^^;)

第15作相合い傘でもリリーは柴又中寅と腕組んで歩いたので、街中の噂になってしまい、御前様までドギマギしていた。

寅、店に飛び込んでくる。
寅、おどおどしながら
寅「
これにはねー、いろいろと訳ありなんだからさ…、あの…
後でもってゆっくり話すからさ…ちょっとしたことでもって驚くな!いいか!

実はたいした訳はないと思うんだが…(^^;)

寅「
アハッ!ここだここだここだ!なんだ似たような店ばっかだから間違えちゃったよ。
リリー「やーねえ自分の家間違えるなんて

            

寅二カーっと笑って「そうだね。ハハハ・・・・ただいま。」おいちゃんたちを見て笑いがひく。
寅「
なんだい!?みんな変な顔して。おいちゃんなんかおどろいてんのか?
と言いながら
寅、おいちゃんたちにウインク
おいちゃん「
おらあおどろろろかねえ!おらあおどろろろろかねえ!

寅「
このね口をフガフガさせてるもうろく爺ィが俺のおじきでね。
こっちで
浴衣着てはれぼったくなってんの俺のおばちゃん
まえっツラで口ぱかっと開けてんのが妹のさくら
(さくらハッとして口をかたく閉める。)
その向こうでサルガニ合戦の臼みてェな顎してんのがのが亭主だ。
(博、びくっと驚く。)
その向こうは見た通りタコ!ね!
こちら俺の友達の
レコード歌手のリリーさん」寅ニッコリ笑う
リリー「どうぞよろしく


とらや、茶の間


おばちゃん「
さあどうぞ」とお芋の煮ッころがしを山盛り持ってくる。
おばちゃん凄い量だよ(^^;)キップがいいね-。
さくら「
何にも無くって。
リリー「
うわあすごい。←リリー嬉しそう。
リリー、おでん?を食べながら「
これも美味しい!
おばちゃん「そんなもんでよければいくらでもありますよ←なんせ文字通り売るほどあるからね。

           

リリーの仕事の話題が出る。
おばちゃん「
でもいろんなところへ旅行ができていいじゃありませんか?
寅「
チッ!ハア〜素人はこれだからなあまともに相手に出来ねえよなったく
おばちゃん「
あらどうして?
寅「
仕事だよ。俺たちはね観光の旅行してるわけじゃないんだからまともな宿だって
泊まりゃあしないんだよ。なあリリー

リリー笑っている。
おいちゃん、しみじみ「
やっぱりつらいことやなんかあるんでしょうね
寅「
当たり前じゃねえかよ!タバコ横っくわえにしてなパチンコ弾いてる極道者に何がわかるんだい!
おばちゃん「
でも好きな歌が歌えるんでしょう?
寅「
くだらない質問するんじゃないよ何もわかんないくせに!疲れるだろ?リリー
リリー「フフッ…
寅「
ええ…?ハハハハ

流浪の旅の辛さは寅とリリーにしか分かり合えないものであり、定住者のとらやの人々とは住む世界が違うのだろう。
もちろん、定住者には定住者の倦怠や閉塞感があるが、この場面ではそこまで追求しない。



リリーが縁側に立った途端に寅の顔が真顔になり、『ワケ有リ話』を始める寅。
寅「
北海道の網走って所でよあの女とばったりと会ったんだ…
リリー「
寅さん?
寅「
あいよ!…そしたらよ…
リリー「
この紫色の可愛いの何て名前?
寅「
タンポポでしょめちゃくちゃ
さくら「
何言ってるのよ。忘れな草よ
寅「そうそう忘れな草だってよ
リリー「
へえ〜これが忘れな草かあ。ふう〜ん」 

           


でも結局訳なんてありはしないのだ。二人の心がふれあったということなのだろう。

         
帰り際 店先


と、去り際満男の頬にキスをする。満男のほっぺに大きな口紅の跡。
中村はやと君一生の思い出となりました!(^^)

          



とらや一同「さようなら」と見送る。


夕焼に染まる江戸川の土手をリリーが歌を歌いながら帰って行く。
ほんとに歌が好きなんだな-。
寅たちのお陰でしみじみと気持ちをリフレッシュしたリリーでした。


 

D【リリーの再訪とひと時の安らぎ】     

とらや 茶の間


寅「
言って見りゃリリーも俺とおなじ旅人さ見知らぬ土地を旅してる間にゃ、そりゃあ人には言えねえ
苦労もあるよ。たとえば、夜汽車の中。少しばかりの客はみんな寝てしまってなぜかおれひとりだけ
いつまでたっても寝られねえ。真っ暗な窓ガラスにほっぺたくっつけてじーっとそと見てるとね、
遠く灯りがぽつんぽつん…。あ〜あ、あんなところにも人が暮らしているか…。汽車の汽笛が
「ボ〜〜ピー…」そんな時、そんな時よ…。だだ分けも無く悲しくなって涙がぽろぽろぽろぽろ
こぼれてきやがるのよ。なあ、おいちゃんだってそんな時あるだろ?

おいちゃん「
ん〜ススがよく目に入ってくるからな。しかし近頃はたいがい電気機関車
寅「
だまってろよ!おいちゃん!今そんな程度の低い話をしてる時じゃないだろ?え?おい博
博「ええ分かります。特に北海道で夜汽車なんか乗ってるとそんな気持ちになりますね
寅「
そうだよ。ほら、大の男にしてこうなんだよ、な。リリーは女だよ。女の一人旅が
  どんなにつらいものか、おばちゃんこれ分かるだろ?

おばちゃん「
そうだね。第一ねえ、御不浄が困っちゃうんだよ、女はぁ。男だったらさ…
出ました!おばちゃんの天然ボケ!!上手いねぇー!!

生まれてからこの方『定住』しかしていないおいちゃん、おばちゃんには寅がどんなに
説明しても分かってもらえない壁があるのだろう。
そういう意味では、おいちゃんもおばちゃんも
幸せな人生を当たり前のように歩んできたともいえる。


寅「リリーという女がね、どんなつらい暮らしをしているか、つまり、おばちゃんのような、
  その、
中流階級家庭の婦人には分からないの!

中流じゃない中流だという話になって、じゃあ寅は?と聞いたおいちゃん。

寅「
え?おれか?おれは…中流…ぐらいのとこか?なあ博?
博「
は・・・中流・・・じゃあないでしょう・・・
社長「そうだよ、中流階級てのはねカラーテレビとかステレオとか
   そういうの持ってなきゃいけないんじゃないの?
この発言は時代を感じます。(^^;)
寅「
そう言う物は持ってないよな
おいちゃん
なーに言ってんだい。四角いカバンしか持ってなねえじゃないか。
なにが入っているかしらねえけどさ

寅「なんだよ
博「
ちょっと待ってください。物を持ってるからえらいとか言うの考え方はちょっと違うんじゃないですかねえ?
寅「
そ!その通り!
博「
大きな屋敷や広い土地持ってたってくだらない人間はいっぱいいるし、なにも持ってなくてもすばらしい
 人間は.・・・と言うより、財産なんか持ってない人にこそ本当に立派な人がいるんじゃないんですかねえ?


寅「いいことを言うなあ。オレこういう言葉好きよ
さくら「
お兄ちゃんはさ、カラーテレビもステレオも持ってないけど、その代わり、誰にも無いすばらしいもの持ってるもんね?
寅「
なんだよ、え?あっ!お前俺のカバン調べたろ!
さくら「違うわよ。形のあるものじゃないのよ。
寅「
なんだよ?みたいなものか?
さくら「
ちがうわよ。つまり…、愛よ。人を愛する気持ち
社長そ!それはいっぱい持ってる!←間髪を入れず反応する社長(^^;)
博「
さくらの言うとおりですよそれはどんなに高いお金を出しても買えないものですよ
寅、照れながら「
分かったようなこと言うなよお前
おいちゃん「
そうかそんな高いものを寅は持ってるか、だったらささしずめ寅は上流階級か?
さくら「ヤダァ〜!ハハハハ…
寅「
上流階級?オレが?ほお!お互いが気がつかねえな!おい!ハハハ!

            

寅「そうかねえ。上流階級ね、この僕が
 ハイ!では今夜はこの辺で
お開きと言うことにして。それじゃあお休み
一同「おやすみなさい」


題経寺の鐘『ゴ〜ン』


寅「ぁ…鐘の音か。
貧しい人たちが安らかに眠りにつくんだろうなあ…。
寅「
♪わーらーべーは見ぃーたぁり、野中のバーラ・・・清らに咲ける…♪
と2階へ上がっていく。
一同、シーン…

おいちゃん「
ばっかだねえ…」と深々とため息。



勤めてるキャバレー
で歌の打ち合わせをしているリリー。

夜来香(イエライシャン)のメロディを口ずさむ。

リリー「♪あわれ春風に〜、嘆くうぐいすよ〜月に切なくも匂う夜来香、この香りよ〜♪」
リリーのこの時のステージ衣装はなかなか可愛い!!



とらやの裏庭

またもやリリーやって来る。

リリー、店の入り口にやって来て 
リリー寅さん
寅、気がつく。
リリーのテーマ流れる。

寅「リリー!
リリー、おどけてウィンク。寅、顔全体でウインク。
リリー
また来ちゃった

寅「
よく来たな!入れ入れよ

リリー、椅子に座りながら寅の黄色い帽子を見て「
かわいい!寅さん
寅「
えっへへ。座んなよ。ラムネでも飲むか…。あっ、リリーはビールだな。
  よし、じゃ、ビール持ってくる!

リリー、嬉しそうに寅を見上げている。
この時の寅とリリーはほんとにいい雰囲気だ

             

めぐみ「ごめんください」

リリー「
お客さんよ
寅「
えっ?めずらしいね。….よお、来々軒のおねえちゃんなんだい?←めぐみちゃんの就職先分かる!
すぐ近くの中華料理屋だった!

めぐみ「いいえ。あのう・・・すみませんけど、工場の水原君呼んでください」
寅「工場の水原君か?よし。」
寅、暖簾越しに裏庭に向かって、
「おい労働者諸君の中に工場の水原君おるか?」
水原「はい」寅「おうおう二枚目!
かわいい恋人が待ってるぞ,早く」
水原君立ちすくみ、同僚を振り返り戸惑っている。
寅、戻って
「恋人すぐ来るからね。待ってろ」
めぐみ、急に泣き出してしまい、その場を立ち去る。

水原君、めぐみちゃんを追いかけようとするが、立ち止まり、
水原
あんまりだすっぺ!僕だじまだそんな関係で無いってば!

博たちは、無神経な寅を怒り、江戸川土手で、水原君とめぐみちゃんに、この際気持ちを
はっきりさせたほうがいいと荒療法を施し、水原君にははっきり言った方がいいと助言。
そして水原君は「
僕めぐみちゃんが好きだ」と告白。見事に恋の成就に成功する。

危機一髪、雨振って地固まるだった。


            


とらや茶の間

さくら「
そしたら水原君が土手の上にスッと立ち上がってね、
   空を見上げて大きな声で、『僕、めぐみちゃんが好きなんだ!
』」
リリー「
みんなのいるところで?
さくら「
そうなのよー
リリー「
ねえ?それで?
さくら「
めぐみちゃんびっくりしちゃってしばらくポカーンとしてたけどさ、
   そのうち、ワアーッと泣き出しちゃったのよ!

リリー「あらあ〜←リリーは興味津々
リリー「へーえ!いいなあー!

            

リリー「
いいな…いいねえ…ねえ?寅さん←リリーはすっかりこの純情物語に参っている(^^)
寅「何が?そうかい?つまらないじゃないか。『ボグスキだ』バカじゃねえのか!チッ


寅は、博に言われたことにカチンと来ている。
博に気を使えと言われたたが、博は自分に気を使ったことなんかない,
と言ったもんだからみんなに反発を食らう。


おばちゃん「
あたしたちはね、いつだってであんたに気を使ってるよ。ねえ社長さん?
社長「
そうだとも。はたで見ててね涙が出るほど気を使ってるよ。寅さんが恋をするたびにさ
寅「なんだよこの野郎!
恋をするたんびってそれじゃ俺が一年中恋してるみたいじゃねえか!
さくら「な−にいってんのよ、お兄ちゃん
ガヤガヤと一同恋ばかりしていると応戦する。
寅、恥ずかしがりリリーの方をチラチラ見て小声で
寅「
友達が来てるんでしょ今日…。もう少し気を使ったらどうなんだよ。…何?
リリー笑いをこらえながらもヒックヒック笑っている。
寅「
リリー何が可笑しいんだよお前

リリー「寅さんてそんなにしょっちゅう恋してるの?

寅「いやいや。バカ野郎!ほらあ。ウソウソウソウソ!いや、前さあ一度か二度ね、
 そんなことがあったって事よ。な、なあおいちゃん、なぁ?

おいちゃん「
そうそうそう10年も20年も昔の事だから忘れちまうさ
寅「そ!ナシ!ナシ!
と手を広げて無駄なアピール

リリー「
ねえねえさくらさん
寅、びくびくしながら「
そそそそ
リリー「
寅さんが恋した人ってどんな人だったの?ねえ教えて。
寅「さくら、しゃべったらたじゃじゃおきませんよ。分かってますか?
なぜか「です、ます」調になって口ごもりながらの
ブツブツ言う寅はかわいい!
この辺の渥美さん最高!

リリー「
いいじゃないの一つや二つ話してくれたって。ねえいいでしょう?
寅「
いやあそんな何人もいるわけじゃないんだからさあ今までに10人はいるぞ!!

リリー「
あっ、じゃあ一人でいいから。ね、おしえてよ
寅「
いやさあ、古い話だしね。さくらだって今、『言ってみな』って言われたら思い出すのつらいでしょう。
リリー「
覚えてるでしょう一人くらい
寅「
覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない
さくら「そおねえ…あたしもよく覚えてないけど、しいて言えば…」

寅「お千代坊でしょバカだなあー、あれは単なる幼なじみじゃないバカだなぁ。ねえ、おいちゃん」
さくらまだ何も言ってないぞ。「人名」と「失恋の解説つき」で墓穴掘ってる寅でした。
でもさくら、図星だったみたい。

おいちゃん「んんジャー小説家のお嬢さん。なんて言ったっけ。」
寅「歌子ちゃん
。あれはダメ!あれは年が離れてる。」
おばちゃん「
それじゃほら喫茶店の貴子さん
寅「
あ、貴子さんいたっけなあ。どうしてるかねえ…その前は?乗ってきたよ(^^;)

           

さくら「花子ちゃんよあの子どうしてるかしらねえ?
おばちゃん「
津軽の子だったねえ
さくら「
そう

おいちゃん「
ほら、幼稚園に綺麗な先生が居たじゃねえか
おばちゃん「
そうそう秋子先生」←ほんとは『春子先生』
寅「
豆腐屋の節ちゃんあれはいつ頃だっけなあもう完全に自爆している寅でした。
さくら「あの人のほうが先じゃない
寅「
あんときゃ暑かったなあ
このセリフ、第48作でも沖縄で再会したリリーとの思い出を語るシーンでも寅は口に出していた。
なんでもないセリフなんだけど妙に頭に残っている。


おいちゃん「散歩先生の娘さんねえ…」
社長「
伊勢の旅館の若奥さん←社長も結構覚えてるね!
おばちゃん「
御前様のお嬢さん
さくら「
どうしてるかしらねえ

 
ここで気になるのは第6作「純情篇」のマドンナ、「夕子さん」が抜けていることだ。
これはやっぱり
彼女が「人妻」だったから今回の話の中に登場しなかったのかもしれない。

ちなみにあの時のスケベ医者がここに今出ている2代目おいちゃんの松村達雄さんだ。

題経寺の鐘「ゴーン」

寅「
いやーぁ、お互いに年をとるわけだなあー」 「ゴーン」
一同ゲラゲラ笑い転げる
さくら「
イヤネエ!
リリーだけ笑わないで、じっと考えている…
一同、リリーを見て、「?」
リリー「
いいなあ…寅さんって、いいねえー…
寅「
どうしてよ?別にいいことなんかねえよ。ぶっちゃけた話いつもふられっ放しなんだから
いいじゃない!何百万べんも惚れて、何百万べんもふられて見たいわ
↑リリーの激しい気性が出ていて怖いくらいだ
おいちゃん「
またまたまた、あなたみたいな綺麗な人だったら惚れた人の一人や二人いたでしょう。なあ
そうじゃないの、惚れられたいんじゃないのよ、惚れたいの。そりゃ…あいろんな男と付き合ってきたわよ。
でもね…心から惚れたことなんか一度もないのよ

一生に一度でいい…、一人の男に、死ぬほど惚れて惚れて惚れ抜いて
みたいわ。振られたっていいの。振られて首つって死んだってあたし
それでも満足よ。……。ごめんね変なこと言っちゃって…


この時のリリーは真剣だった。リリーは心底『恋』をしたいのだ。

さくら「そんなことないわよ。とてもよく分かるわよ。ね、おいちゃん」
おいちゃん「あー分かる分かる

このあと、おいちゃんやさくらに初恋の人のことを聞かれてりりーは戸惑う。

リリー「
初恋ねえそんなことあったかしらねえろくな男いなかったから
寅「
そうそうそう…
リリー「
私の初恋の人…
リリー「寅さんじゃないかしらね。
一同「…」
寅「リリーしゃん、そらあ悪い冗談だよ。俺は、遊び人ながら分かるよ。でもこのやの住人
はみんな堅気だから真にうけちゃう。ヒヒヒ!ヒヒヒヒ!フッへへヒャハハハハハッ!!

完全に舞い上がって、社長を押しのけ土間に歩いて行き、
寅「おっ、労働者諸君!今夜は飲み、大いに語りたまえ!酒は、社長さんからの提供です!
社長「なんだー?」と裏へ走って行く。

            

一同ちょっと笑って
おいちゃん「バッカだねえ…


リリー、二階の寅の部屋をさくらに案内されて

リリー「
うわあいい部屋ねえ、ここで寝ていいの?
リリー「
きれいな布団。あー気持ちいい!」といきなり服のまま!!布団に入る。←ストレートな人だよほんと。
さくら「
洋服がしわになるわよ。これ寝巻ね
リリー「
この布団いい匂いするわ
さくら「
洗ったばかりだから、、糊がゴワゴワしてるでしょ
リリー「
あー糊の匂い」っとねながら匂いをかぐ。
『糊』の匂いは温かい家庭の匂いだ。こういう手間を掛ける家事って、
リリーの幼少期にはなかったのかもしれない。

リリー「
今夜はぐっすり眠れそうリリーよかったね。分かる気がするよ、その気持ち

『リリーのテーマ』流れる

リリー「ねえ、さくらさん」
さくら「何?」
リリー「
あたしみたいな女、変に見えるでしょ
さくら「どうして?」
リリー「
だって普通の人じゃないもん。厚化粧して、キャバレーなんかで酔っ払い相手に、聞いてもくれない歌、歌って
    お酒飲んで、タバコすって、夜更けにアパートに帰って、昼頃まで寝て、そんなこと繰り返してんだもんね…

さくら「
今日はゆっくりと休むといいわと黄色い花を挿した花瓶をランプの横に置く。←こういう言葉って嬉しいね。

           

リリー「
ありがとう
さくら「
これお水ね
リリー「
うん

さくら「
それから何かあったらね、となりにお兄ちゃんが寝てるから、声を出して呼ぶといいわ
リリー「
まあ!となりに、寅さん寝てるの?呼んででみようかな?…寅さん!!
寅、となりの荷物部屋から「
はいよ!
リリー嬉しそうに「
んー!心強い!
さくら「
じゃ、おやすみなさい
リリー「
おやすみなさい
さくら、なにげなく、リリーのスリッパを整えて、下がっていく。

リリー「
寅さん!?
寅「
はいよ!

リリー「
泥棒がはいったら、追っ払ってちょうだい!
寅「
そんなときは、ぶっ殺してやる!
リリー「
嬉しい!
寅、部屋の隅のバット持って「
うむ!よーし、タアア−!!

おばちゃんたち、下で聞いてて「
今夜は徹夜だね寅ちゃん」とあきれる。
博、満男、さくらも、ふたりが喋るたびにあっち向いたり、こっちむいたり。

リリー「
寅さん
寅「
はいよ
リリー「
きれいなお月さま

博、おばちゃん、さくらたちも裏庭から見える月を見る。

リリー「寅さん
寅「
はいよ←そうとう眠そうな声(^^;)
リリー「
恋をしたいなぁ…寅さん聞いている?

寅「
聞いてるよ…←眠る寸前

リリー「
燃えるような恋をしたい。…寅さん!聞いてる?

寅、寝たみたい…

おばちゃんの予想大外れー!寅って布団に入ったらすぐ寝てしまうんだよね(^^;)
このテンポいいねえ。短い言葉でのやりとり。ある意味名場面だよこれって。
その翌日のリリーのとらやでの様子をぐずぐず長引かせて見せないで、思い切って、
ポン!と栗原さんの話題に飛んでいる。これだと観てるほうも飽きが来ないね。




E【リリーと寅、その孤独の違い】

北海道の栗原さんの家に小包を届ける郵便屋さんのバイクが走ってる。

栗原さんからの手紙が送られてきた。

さくらがお礼のために送った多くの品物たちをとても気に入り、感謝していると書いてあったのだ。
そして貧しい牛飼いだが誇りを持ってこの仕事をやって生きたいと締めくくってあった。


           

おばちゃん読み終えて、
手紙を拝んでさくらに手紙を渡し
どうもありがとう。忙しい中で書いたんだろうね。さくらちゃん本当にいいことしたよ
手紙を拝むところがおばちゃんだねー。いいねー。この感覚


とらやニ階


寅「
なあ、さくら…、隣のオレの寝ていた部屋よ。しばらくの間、リリーのやつ置いてやっちゃいけねえかな?
さくら「どうして?
寅「
うん、別に、どうってことないけどさ、あの女にもね、人並みの家庭の味、味合わせてやりてえと、そー思ってよ。
さくら「
そうね…。こないだの晩とても喜んでたもんね
寅「
うん…うん…と頷いた後、じっとリリーのことを考える寅さくら、ふと、そんな寅の横顔を見る。
↑何気ないシーンだが心がちょっと温かくなる。このようなシーンを垣間見れることが男はつらいよの隠れた醍醐味だ。



さくらたちのアパート


さくらミシンを踏んでいる。
さくら「
私思うんだけどさ、リリーさんっていつまでも今の生活に甘んじて人じゃないと、思うわ。あの人賢い人よ。
そのうちきっと自分の力で幸せをつかむじゃないかな。そんな気がするわ。

お兄ちゃんはかわいそうなかわいそうだ俺が何とかしてやらなきゃなんて言ってるけどね

博、満男を寝かせながら、「
そうだなかわいそうなのは兄さんの方かもしれないな。今回もまた…

うすうすこれから起こることが予測できるさくらと博でした。


寅、啖呵バイ


サンダル、スリッパをまとめて売っている寅
源ちゃんもサクラで一緒にいる。



昼下がりの鎌田 国電のガード近く

、寂れた歓楽街を歩くリリー


リリーが複雑な顔で歩いている。
国電の駅のそば、リリーの母親アパート2階の窓から顔を出して咳をしながら「
清子(きよこ)今すぐ行くからね。
この時リリーの本名(ファーストネーム)が分かる!!
で、リリーは芸名が『リリー松岡』なので本名は『松岡清子(まつおかきよこ)』で決まりだ!!
清子って地味な名前、一見リリーに合わないように思えるが実は心が清らかなリリーにはぴったりの名前だ!


             

母親にお金をいくらか工面して欲しいと電話で言われてしぶしぶやってきたのだ。

リリー「
親のつもりなの、それでも。はっきり言って、私あんたなんか大嫌いよ!いなくなればいいと思ってんの
母親「…なんてこと、そんな…。私だってね!あんたに言えないようなつらい事情だってあるんだよ!なんだい!バカ!」
と言いながら泣き崩れてしゃがむ。

リリー、行ってしまう。

母親、リリーの背中に向かって「バカ!!」

リリーがこれだけきついことを言ってしまうということはよほどつらい幼少期があったんだろう。
母親の愛情をほとんどもらえなかったことをうらみ続けているんだろうな…。

何ともやるせないシーンだが、リリーはなんだかんだと言いながらも母親に会いに来ているのがちょっと救い。
第48作でもほんの少しだけこの母親と触れ合うシーンがあったな…。

そういえば寅も第2作「続男はつらいよ」や第7作「奮闘篇」で産みの母親であるお菊さんと大喧嘩していた…。
あの喧嘩も観ていて辛かったー。(TT)寅もリリーも母親には恵まれなかったんだな…。



深夜のとらや

港が見える丘の歌」を歌うリリーの歌声が参道から聞こえてくる。

リリー「
♪あなたと二人できた丘は港が見える丘ァ〜色あせた…かなり酔ってる
リリー、外から「
寅さんいる!?あたしよ来ちゃった。誰か-。
リリーガラス戸を叩く


リリー「
寅さん起きてー!寅さん!
おばちゃん起きてきて「
どなたですか。
リリー「
私、リリーよ。寅さんに会いにきたの。開けて。
寅下りて来る。
おばちゃん「
どうしよう?
リリー「
寅さん?
寅「
あいよ。一人か?おい
リリー「
こんばんは、すいませんこんな夜遅く
寅、ガラス戸を開けて酔ったリリーを支える
リリー「
私今日はチョッとよってますけどね。いいでしょ。よったって。
寅「
あーいいよいいよ。おっ座れ座れ、誰も悪く言っちゃいねえからな
おばちゃん「
上がってもらったら?
寅「
いいよいいよ。おばちゃんそこ閉めて
リリー「
ねえ。寅さん一緒に飲も。あたしちょっとつまらないのよ。
    いっしょに飲んで騒ごう。騒ごう!

寅「
よしよし。わかったわかった。わかった。じゃ今オレ酒持って来るからな。
リリー「
待ってる待ってる
リリー「
ねえ寅さん
寅「
あいよ
リリー「
あたし旅に出たくなっちゃったんだ
寅「
んん
リリー「
どっか遠ーいとこ。一緒に行かない?
寅「
そうだな俺もそろそろ旅に出ようかと思ってたんだい。一緒に行くか

リリー「
んん〜。何もかも嫌になっちゃった〜仕事だけでなく、実の母親のことも悩みになっている。
寅「
ん、ま、まあ一杯飲みなよ
リリー「
今日もさ、キャバレーで歌うたってたのよ。誰も聞いてない歌をさ。いいけどね、聴いてくれなくたって。
    どうせ私の歌なんか下手くそだから。…でもね、邪魔すること無いじゃないか!あの酔っ払いめ。やな奴

寅「
そうか歌ってる時に酔っ払いに絡まれたか
リリー「
だから私パーンとひっぱたいてやったのよ
寅「
おーおー
リリー「
そしたらマネージャーのヤツが…
寅「
リリーよ、やなことは忘れてさ、俺と飲もう。な
リリー「
寅さん
寅「
んー?
リリー「
旅に出よう
寅「
んん、出よう出よう本気で言ってない。
リリー「
本当に?
寅「
ほんとほんとその場しのぎ
リリー「
じゃ今すぐ行こう今!
寅「
えっ
リリー「
今行こう
寅「
いや、今すぐたってさ、今何時だと思ってんだよ
リリー「
いいじゃない行こうよ行こ
寅「
いや、それにさ夜汽車もありゃしないからって、ね?
リリー「
行きたあーーーーたい!
寅「
座って、リリーよ、な!今日はほら、静かに二人で飲もうな、ほら早く、ね
リリー「
何だ…嘘…
寅「
え?

汽笛「ピュゥゥゥゥ――…」

リリー「
そうか…寅さんにはこんないいうちがあるんだもんね。
    あたしと違うもんね。幸せでしょ?

このリリーの発言は二人の孤独の深さの差を見事に表していた。寅にとってはとても痛い発言。
寅「
何言ってるんだよお前?
リリー「
♪あたしゃーみなし子ー街道暮らしー流れ―流れのー♪(越後獅子の歌)
リリーの『心』を歌っているのを寅は理解できない。
寅「
おいリリー静かにしろよ。昼みんな間働いてな、疲れて寝てるんだから。
  ここは堅気の家なんだぜ。さ、
と、酒を勧めるがリリーが振り払う。

リリー「
あたし帰る。
リリー立ち上がり入り口のガラス戸へ。
リリー「
どうせあたしのような女が来るようなとこじゃないんだろここは!
寅「
バカヤロウ…だれもそんなこと言ってねえじゃないか

          


リリー
寅さんなんにも聞いてくれないじゃないか…。嫌いだよ!目にいっぱい涙を貯めて…
リリー戸をあけて走って行く。
おばちゃん「
ちょっと!止めなくていいのかい?

寅、
ちょっと迷うが、「…かまわねえよ!

と、ガラス戸を荒く閉める

結局寅は、リリーの孤独を共感してやることができなかった。
心が崩れ落ちる直前になんとかとらやにたどり着いたリリーのギリギリの追い詰められた心を寅は受け止めることが
できなかった。「ここは堅気の家だ」という寅のお説教はそのことを皮肉にも物語っていた。
この二人の孤独の深さの違いは、
リリーにとって、自分の孤独をより一層強調してしまう結果になってしまったようだ。なんとも切ない話だ。


さくら、アパートの電話でおばちゃんと話をしている。


さくら「
そう…リリーさん泣きながら出て行っちゃたの
おばちゃん「
そう大きな声でさ、門前町のみんなが聞いてたに違いないよ。
      女の人のあんな酔っ払いなんてあたしゃ始めて見たよ


★この作品から、ようやくさくらたちも自分の部屋に電話を引いた!これでとらやとの通信も簡単になったね!
 電話の色はオーソドックスに黒

さくら「
お兄ちゃん、どうしてる?出かけた?どこへ?

とある下町。橋が映る。そこを人に道を聞いて寅が歩いていく。

ハーモニカによる『リリーのテーマ』が切なく流れる。


薄暗く、狭いリリーのアパートの階段を寅が上がる。薄暗いアパートの廊下。
ドアをノックする寅。そしてドアを開ける。

紙の表札で『松岡』

慌しく引っ越していったことが小物の散らかりようで分かる。
そして、リリーの分身である残された『もの』たちが哀しげに部屋に散らばっている。


赤い傘 フランス人形 楽譜 レオナルドダビンチの『モナリザ』のポスター
『旅』の字がついてる壁掛けレター入れ 赤いポール椅子 電球 スタンドの笠 雑誌


フランス人形は子供心を残しているリリー。
「モナリザ」は『美』を愛するリリーの感性。
「旅」の字がついている壁掛けレター入れは旅から旅の生活を肯定しているリリーの心。
楽譜は彼女のアイデンティティ。


          

リリーが立ち去った部屋で、ただただ立ち尽くす寅でした。



F【上野駅での別れ。旅立つ寅次郎】

夜の上野駅

さくら寅のいる地下の食堂にカバン持ってくる。
食堂でラーメンを食べている寅。


さくら「
何時の汽車?
寅「
ん、9時15分よ。

さくら「
今度はどっちの方に行くの?
寅「
そうよな、暑くなったから北の方でも行くか…このまえ網走に行って来たばかり(^^;)

          

さくら、うなずきながら

さくら「
どっかでリリーさんに会えるといいね…
やっぱり優しいね、さくらは…

寅、ラーメンのスープすすりながら「うん…
寅「
さくら、もし.。もしもだよ。俺のいないときにリリーがとらやへ訪ねて来るようなことがあったら、
  俺のいた部屋に下宿させてやってくれよ。
家賃なんか取るなよ。まああいつは遠慮するかもしれねえけどよ、
  俺がそんなことに気い使うなって言ったっていってくれよ。
リリーは可哀想な女なんだ。わかったか?


さくら、頷いて「わかった」


ちょっと前、とらやの二階でもさくらに同じようなことを言っていた。繰り返しさくらに
伝えるくらい、寅はリリーのことがほんと心配なんだな…


寅「
おめえも悪かったな忙しいところ。博と仲良くやるんだぞ。え。
あ、と言いながら腹巻から財布を取り出して
寅「チビによ、飴玉のひとつも…。ふ、500円か…、切符買ったからなくなっちゃったよ
さくらその財布を寅から奪う。
寅「え?何?
さくら、1枚1枚丁寧にお札を広げながら3枚ほど(5000円札含めて7000円か?)財布に入れる。

さくら、泣きながら「お金もう少し持ってくればよかったね…

お札を1枚1枚丁寧に広げるさくらに胸が熱くなるね。
こういう隠れた名場面こそがこのシリーズを支えてる。  

       



G【松岡清子の再出発と寅の再出発】

入道雲 とらや

みんみんみーん かき氷がりがり(いちご)

おばちゃん、リリーさんのはがき見せる。

風鈴の絵が印刷されているはがき

寅さんお元気ですか、いつかは本当にごめんなさい。
あれからしばらくして私とうとう歌手をやめてしまいました。
今では小さなお店のおかみさんです。
近所に来たら寄って下さい。
とらやの皆さんにくれぐれもよろしくね。  リリー


たぶんあれから2ヶ月くらいで結婚したんだろうな…速攻だ! もっとも昔から知り合ってたのだろうが。


千葉県松戸市

京成電鉄「
五香駅」前の五香センター付近を日傘を差して歩くさくら。

開店間もない寿司屋花輪が4つほど立ててある。『清寿司

さくら暖簾をくぐって入る。
リリーが亭主と一緒にカウンターに入っている。
客たちの笑い声が聞こえる


店主、さくらを見て、ニコッと笑って「あ、いらっしゃい、どうぞ」


さくら、リリーを見る。
リリーも気づき、さくらを見て驚く。


リリー「あら-…!、よく来てくれたわね…こんなとこまで、どうぞ」
リリー、亭主に「ちょっと柴又のさくらさんよ!
亭主「あ!…どうも」
亭主「デヘ!」と人なつっこく照れ笑い。
さくら「はじめまして

毒蝮三太夫が亭主を演じている。実に笑顔がいい。

リリー「ごめんなさいね。私何度も何度も電話しようと思ったり、訪ねていこうと
    思ったんだけど、つい.…

さくら「いいのよそんなこと
リリー「ね、座って。暑かったでしょう。何か冷たいものね

さくら「素敵なお店ね
リリー「借金だらけでどうなることやら

寅と別れたあとに結婚を決めて、そのあと亭主が新装してオープンした、ということは
物凄い行動力だ。早すぎ!

電話 リーンリーン
リリー「
はい清寿司(きよずし)です。あ、佐藤さん。銀行裏の。はいちらし5人前。はい毎度ありがとうございます。

店の名前はリリーの本名『清子』からとって『清寿司』。
このことでもいかに亭主がリリーに惚れているかよく分かる(^^)


にこっと笑いながら「お噂は清子から伺っております
リリー、電話を切って「ちらし5人前」
亭主「あいよ」
リリー「で…どうしてる?寅さん
さくら「あれから旅に出てね、それっきり
リリー「そう、やっぱり旅をしてんのか、会いたいなあ寅さんに

          

リリー、客にビールを渡しながら
リリー「ねえ、さくらさん、あたしほんとはね、この人より寅さんのほうが好きだったの

亭主、気弱そうに「またそれ言う…
リリー「だってほんとだもん

客大笑い


リリーのテーマ

さくら、幸せそうなリリーを見て微笑みながらも兄のことを思い少し寂しげ。
こういう時の倍賞さんの微妙な演技は他の追従を許さないくらい上手い。


とらや

さくらリリーさんがね今でもお兄ちゃんの方が好きだって
へぇー、そんなこと言ったのかと笑いながら驚いている
さくら「どーせ、冗談なんだろうけどさ」と笑ってる。←ちょっと冷静さを残してはいる。
↑こういう時のさくらってほんと「親ばか」いや、「妹ばか」だねー。
でもそういうところがなんとも観ていて温かい。

おいちゃん「しかし聞かせてやりたかったな、そのセリフ。寅の奴によ
一同納得して「ハハハ」



北海道網走の牧草地を歩いている寅
栗原さんの娘さん、寅に気づく「お母さん!!ほら!
奥さん「あら、どーも!
寅「いや、ハハハ」と手を上げる。

奥さん、笑いながら「家行ってお茶でも飲みましょう
寅「とんでもない、お茶だなんて、これから労働です、労働です!
と奥さんの麦藁帽子を奪って自分が被り、
自分の帽子を母親に被せる。


奥さん笑う。
寅「ご主人は?あ、あちらですね!さあ!働きましょう!
母親、寅の帽子を被りながら笑っている。←これ笑える(^^;)
寅「さあ!働きましょう!
娘さん「お父さーん!おじさん!
寅、丘の下から「こんにちはー!!」と手を上げる。
父親も手を上げて答える。
寅「また来ましたよー!
父親「よく来てくれましたね」と帽子をとる。
寅「ええ!はい、帽子を被って!」と牧草用の鋤を奪い取る。
父親「何をするんですか?
寅「労働です。労働です!と、はっ!ほっ!はっ!ほ!っと体操しだす。

父親「ハハハ!また、疲れるからおよしなさいよ、ハハハ←言えてる(^^;)

一、二、三、シッ 」と体操を続ける。
音楽大きく盛り上がって
娘さん大笑いで屈みこむ。父親も大笑い。

向こうには広々とした大地が広がっている。

なんとも明るいラストだ

           





公開日 1973年(昭和48年)8月4日
上映時間 99分
動員数 239万5000人
配収 9億1000万円

はつらいよ。寅次郎忘れな草【本編完全版】はこちら



 

第11作「寅次郎忘れな草」ダイジェスト版を本日4月11日にアップしました。
第12作「私の寅さん」ダイジェスト版はだいたい4月14日頃にアップいたします(^^;)ゞ



【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら



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305

                          
『寅次郎な日々』バックナンバー





第10作「男はつらいよ.寅次郎夢枕」ダイジェスト版
 

2007年4月6日寅次郎な日々 その305


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。

 
寅と千代 運命の亀戸天神 

第8作「寅次郎恋歌」で全力疾走を見せた山田監督は、第9作「柴又慕情」で大スター吉永小百合を起用することによって
その加速度を緩めることなくここまでやってきた。そして遂にこの第10作で寅の恋は新たな方向を向きはじめる。
つまり、マドンナに「一緒に暮らしてもいい」と言われるに至るのである。それもあの美しい!八千草薫さんに!
こうなるとその加速度は緩まるはずもない。

初期の寅の無様なふられ方からすると、天と地の差だ。ある意味で得恋という「禁じ手」を使ったこの作品は、
それゆえにシリーズ屈指の名場面を作り上げることにもなる。そして皮肉にも、あんなに結婚願望がある寅が、
実はギリギリでは結婚というものから逃げていることが露出してしまう最初の作品でもある。
つまり、寅にとって『得恋』することは、すなわち『失恋』にそのまま繋がってしまう、という永遠の悲しみが、
はからずも露出したとも言える。

このあと、「寅次郎忘れな草」「寅次郎相合い傘」「寅次郎ハイビスカスの花」のリリーを初め、
「寅次郎夕焼け小焼け」のぼたん、「浪花の恋の寅次郎」のふみさん、「寅次郎あじさいの恋」のかがりさん、
「口笛を吹く寅次郎」の朋子さん、「知床慕情」のりん子さん、と本気で寅を男性として愛する女性が登場していく。

あの運命の冬の亀戸天神でお千代さんが寅に自分の気持ちを告げた時、男はつらいよの次のステージへの新しい扉が
大きく開かれたのだ。そして寅を愛するその気持ちは第11作「忘れな草」のリリーへと受け継がれていくのである。
やはりこの第10作は「珠玉の名作」だ。

この第10作以降、寅は、自分さえその気になれば、結婚はできたシーンが続出していくが、しかしそれ以降も結局寅は
「夢枕」同様またまた『逃げる』のである。この寅の気質はこの後も、数々のマドンナに愛されながらも変わることなく、
第48作「紅の花」ラスト、リリーからの手紙の内容で分かるように最後の最後まで引きずっていくことになる。
渥美清さんの言葉を借りれば、「結局、寅はてめえが一番かわいいんでしょうね」ということにもなる。結婚に付きまとう
あの『煩わしさ』や『現実の日々』が嫌いなのであろう。

しかし、皮肉にも、誰のためでもなく、ひょうひょうと生き、その時その時の出会いの中で相手に愛されながら、
短い愛情を花開かせていった車寅次郎を、多くの国民は大いに支持をし、『寅さん』はリアルでヤクザなフーテンから
愉快で人情味のあるヒーローとして完成されていくのである。
その萌芽が先日書いた第8作「寅次郎恋歌」であり、第9作「柴又慕情」でさらにその色は濃くなり、
この第10作「夢枕」で遂に完全に変身したのである。


本編


@【寅の帰郷と改悛】

今回も夢から始まる。
セピアの画面。
昭和初期のカフェ。 蓄音機から『君恋し』が流れている。
♪『宵闇〜迫れば〜、悩みは〜果て無し〜…←この歌いいなあ。大好きです。
吉田義夫扮するヤクザの親分に無理やり酒を飲まされようとする女給のさくら
さくら、なかなか女給姿似合っていて綺麗!
父親のことで義理があるので邪険に出来ない。書生の博、後ろから止めに入る。
博は軽くあしらわれるが、そこへマカオの寅がやって来てヤクザをピストルでやっつける。


親分「おお、てめえ!マカオの寅
親分、そっと胸からピストルを取り出そうとする。
それより早く寅のピストルが速く、『
バーン!!ピストルの銃口をふーっと吹く寅。 トロイメライが流れる。
さくら「
せめて、お名前だけでも聞かせて下さい

            

寅「
江戸川は葛飾柴又の川っぷち、題経寺にあるお父っつぁんの墓だけは参ってくれよ…
霧笛が『ボーッ』と鳴る。
やって来た馴染みの刑事と一緒に去っていく寅。

さくら追いかけながら
さくらお兄ちゃん?やっぱりお兄ちゃんだわ!お兄ちゃん!と泣き崩れる。
寅、刑事に
旦那、マカオの寅もひとの子でございます
刑事うなずく。
霧笛がまた鳴る。『ボーッ』



早朝の駅
  日出塩駅

寅「あー、夢か…
とあくびをしながら外に出て、柿をひとつ枝からもいでかじる。
寅「
プァーッ!!と吐き、眼をパチパチ。
寅「
カーッ!!渋い!プア〜…

            

タイトル 

はつらいよ寅次郎夢枕』 赤と黄の文字 バックは江戸川

江戸川土手を歩く寅

口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
   帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
   人呼んでフーテンの寅と発します。

  右に行きましても左に行きましてもとかく
  土地土地の御ア兄さん御ア姐さんに
  御厄介かけがちなる若造です。」

↑今回は長めの口上が入っている。

  ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前
喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


   ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労も掛けまいに 掛けまいに♪


  
今回のミニコントは乳母車を土手から誤って転がしてしまう。乳母車は猛スピードで
  土手にいるカップルの中にぶつかってしまう。それを追いかけていたお母さんもスッテンと
  転がってしまう。赤ちゃんはお父さんが持ってるので無事。(^^;)




題経寺山門の前に立つ寅

久しぶりなので懐かしい気持ちでいっぱい。

近所の人「バカみたいに遊んでばかりいると寅さんみたいになっちゃうんだよ!ひでええ(TT)
寅、ハッとして、不快指数100パーセント。ブスー。
ふと門の壁を見ると、チョークでトラのバカと、落書きしてある。
寅、ますますむかついて不快指数200パーセント

           

とらや 店

不快指数200パーセントの寅が帰ってくる。
みんな驚くが、警戒している寅は中に入らないで外から工場の方へ…。
寅、スッと行ってしまう。
おばちゃん「知らん顔して、知らん顔


茶の間

タコ社長「来た!
さくら、気づいておいちゃんに指を差す。
おいちゃん窓の外を見てびっくらこいて、腰を抜かす。
寅の帽子だけ見えているところが間が抜けている。(^^;)
おいちゃん「褒めろ…褒めろ…
社長「褒めろ!?←でかい声で。 ゞ( ̄∇ ̄;)

           

おいちゃん「しかしなんだなあ社長、いい奴だねー、寅は
みんなそれぞれ超わざとらしく褒める(−−;)



とらや茶の間  夕食 鍋料理

寅が反省の色濃い顔をして、みんなと座っている。
さくらのテーマが流れる。

寅「オレは心の汚れた人間よ。心のゆがんだ人間だよ…
さくら「そんなことないってば、お兄ちゃんは本当に心の優しい人なんだから
寅「はぁ〜、そんなこと言われるとオレぁ穴めどのひとつもありゃくぐりこみてえ気持ちだぜ…

御前様、社長と一緒にやって来る。
御前様「実は今、社長さんに聞いたんだがお前が改悛したそうだな
寅「ひやーと照れる。
御前様「
それはよかった。それを聞いてわしも一言褒めておかなきゃいかんと思ってな。
みんなで「
ありがとうございますと恐縮。
社長「
あとはこれで、お嫁さんですなおいおい、いきなり過ぎるよ社長 ゞ( ̄∇ ̄;)
みんなで盛り上がる。
社長「
もうね、寅さんのためだったら、一肌も二肌も素っ裸になっちゃいますよ。
   明日からさっそく嫁さん探しを!
なんでいきなりみんなで…、こりゃもう止まらんわ┐(´-`)┌
御前様「ひとが褒めあうということは、これぁ、実に良いことだねえ。
    お互いに褒めあわなきゃいけない。褒めあってこそ人間は少しづつ向上していくんじゃないかな

おいちゃん「
ありがたいお言葉でございます

            

なぜか、寅が反省しただけでいきなりこういう話になり、
次の日から寅のお嫁さん探しが始まってしまう。

ただたんに誤解していたと反省しているだけですから…、もうちょっと日にちかけて寅の様子を見たほうが…(^^;)



A【お見合い騒動と旅立ち】

翌朝 とらや

寅は、お見合いの件を楽しみに待つが…、
ところが、とらやのみんなは案の定行く先々で、お見合いの話は断られてしまうのだ…。


夕暮れ時 とらや 茶の間

博「
どうでした?縁談の方は?
おいちゃん「
柴又界隈はダメだな…。寅の名前を出すとみんなだめになっちゃうんだよ。なあ、さくら
さくら少しうなづきながらお湯を注いでいる。
博「
やっぱりねえ…。うちの工員にもあたってみたんだけど誰も兄さんの親戚にはなりたくないらしいんですよ
おいちゃん「
身から出たびだな…いやまったくその通り(−−)
社長も、相手の娘さんが寅の名前聞いて泣き出して、一件得意先無くしちゃったらしい(^^;)
寅、「
聞いてたよ…階段で耳ダンボで聞いていたらしい。
一同気まずい空気が漂う。

電話 リ―ン、リーン 
おばちゃん電話に出て「
ちょっと、あんた!寅ちゃんの縁談らしいよ

            


おいちゃん根掘り葉掘り聞かれるが、みんなでなんとか知恵を出し合い、
勤務先セールス 上手い上手い(^^;)
仕事の内容出版、出版
学歴早めに卒業、実力主義
趣味
旅行
いたって頑丈
一同少し安堵。
おいちゃん「あ、肝心の本人の名前を申し上げておりませんでした。
     ええ、はい、名前は
車寅次郎と申します。

      
あ、フーテンの寅?あ、御存知で、え?バカにするな?
     …いえ、バカになんてそんな…。もしもしもしもし


寅新聞で顔を隠して、ショックで硬直、仮死状態。キコキコ固まってニ階へ上がって行く。

社長「
とにかくね、柴又で探すのは無理だよ。
  
関東一円探しゃあね、ひとりやふたり引っかかってくると思うんだよ。
上がった寅、もう一度階段を下りてきている。
社長、博の目を見て気づく。
寅「
そんなにオレの嫁さんひっかけるのが面白ええか!タコ、
 てめえ手足が多いからかすみ網でも投網でも持って朝っぱらから町駆けずり回ったらどーだ!


結局社長と最後は大喧嘩。

寅「この野郎!!白菜くらいやがれ!!!
と社長の頭に
白菜直撃!!!←ひぇー!!超過激(@@;)/
社長「
白菜でやりやがったな!」                          

               

おいちゃん遂に「
出て行け!!
寅「
何!?
おいちゃん「
出てけって言ったんだ!!
寅「
おいちゃん、それ言ったらおしまいだぞ!!
おいちゃん「
おしまいだよ、この野郎!
寅、悔しくて
寅「
聞いたか、さくら、あんちゃんこんなことを言われてんだぞ。
 オレがいってえ何悪いことをしたって言うんだよ。

↑確かに身から出た錆びなんだけど寅の気持ちも分かるなあ…。

これだけ人間がいる中でオレが一番つらい思いしてんだ。悔しい思いしてんだ。そう思わねえか!?

さくら「
思うわよ…、だけどね、本当につらいのは、お兄ちゃんよりおいちゃんたちのほうかもしれないのよ…
と泣き崩れる。
←これはさくら切ないね…
さくらの言葉に打たれて、じっとさくらを見つめる寅。しかし、どう言っていいか分からない。


               

カバンを持って店の方へ出て行く。
暗い店内で寅、「
そうだよな、さくら…、一番つれえのは…
と、さくらの切なくつらい気持ちがようやく分かる寅だった。
寅、出て行ってしまう。


さくら「
お兄ちゃん…」哀しむさくら。
博「
お互いに褒めあわなきゃいけないって、きのう聞いたばかりなのになあ…
おばちゃん、わんわんチャルメラ泣きの号泣。
この場合、もちろん誰も悪くないのである。そして誰もが深く傷ついている。


B【旅人の悲哀】

晩秋の甲州路を寂しく歩く寅。

予告編では信濃路とあるが実際は甲州 山梨県明野村でのロケだったらしい。
 
ビバルディの「四季」の中の「秋」が流れている。
美しい甲斐駒ケ岳が遠くに見える風景の中、とても孤独そうな背中。

            

旧家の玄関先で昼ごはんを食べている寅。

奥さん「
寅次郎さんとか言われましたな
寅「
へい
奥さん「
あなたのお仲間で為三郎という人を知っていますか?
寅「
為三郎…。あ、伊賀の為三郎ですか 私が生まれ、2歳までいたのは伊賀上野なのでなぜか嬉しい(^^;)
奥さん「
ええ
寅「
ええ、あいつでしたら、旅の行きずりに
 二、三度出会ったことがありますが、あいつが何かご迷惑を?


          

奥さん「
いいえ、それどころか亡くなった舅のお気に入りでしてな、
  ずいぶん昔から時々寄ってくれてはいろいろと旅の話を賑やかに聞かせてくれたものです。
  私たち女はその話が面白うて、為三郎さんが来ると、うれしゅうて、うれしゅうて

寅「
あー、そうでしたか。そういえばどっかひょうきんな奴でしたね
奥さん、囲炉裏の灰をかき混ぜながら、
奥さん「
この夏、まだ暑い盛でしたがの。その為三郎さんがひょっこり見えてあなたのようにそこに腰を下ろして
    お昼をつかいながらいつものように旅のよもやま話を聞かせてくれているうちに、急に具合が悪くなったとかで
    しばらく横にさせてくれと、おしゃいますからな、裏の座敷に床をとって休んでもらいましたが、そのまま
    寝込んでしまわれて、三日後にポックリと、それこそ言葉どおり、眠るようにあの世にな…。

   第一番に身内の方にと思うて、伊賀を名乗るを手立てに人を走らせましたが、結局分からずじまい…。
   この家で安らかに往生をとげられたのも仏の思し召しと思うて、形ばかりでしたが、私どもでお弔いを
   させていただきました。なんにも手のかからん大人しいご病人でしたよ


 田中絹代さんのこの語りは静かな中にも、人生の深みを感じさせる名演技だった。
 

寅「

奥さん、奥の部屋から為三郎の形見を持って来て、
奥さん「
はい、これが形見です…
トランクかばん 帽子 ダボシャツ 青の腹巻 ← 寅の格好にそっくり
寅「

寅「
ご親切にしていただきまして、ありがとうございました。随分ご迷惑をおかけしたんでしょうねー…
奥さん「
もしお時間があればお仲間のためにお線香を上げていただけますか?
寅、下を向きながらコックリ神妙にうなずく。

ビバルディの「四季」の中の「秋」
が流れる中、お墓で手を合わせる寅。向こうに晩秋の甲斐駒ケ岳が美しく見える。


                

奥さんに礼を言い、寂しい田舎道を襟を立てながら寒そうに歩いていく寅。
見送る奥さん。 夕暮れで、カラスが『カアー、カアー』と鳴いてうら悲しい。

この場面の田中絹代さんの背中もやっぱり凄い存在感だった。 本物の役者とはこういうものなのかもしれない。



奈良井 「かぎや旅館」

隣の部屋の声かすかに聞こえる。なんと舎弟の登が隣でいたのである。

登「
兄貴ィー!!
寅「
登ー!!
登「
どうしてたんだよ!?」
寅「
相変わらず地道な暮らしよ!ハハハ!
寅「
おい!パーッと酒持って来てくれ!どんどんやってくれ!

翌日 登と一緒に田舎道を歩く寅   ビバルディの「秋」
登と一緒に啖呵バイ

            


早朝、宿で寝ている登。
目を覚ますと寅の置手紙←手紙の上に
もみじ3枚

登。おまえと共にいつまでも楽しく旅を続けてぇが、そんなことはおまえのためにならねえと思ったから
オレはひとりで行く。追いかけてなんか来るな。お前も早く足を洗って地道に暮らせ。
このままじゃ末はろくなことにならねえからな。お前ならまだ間に合うよ。では達者でな。  寅次郎  


やはり、伊賀の為三郎の最期を聞いたのが、登との決別に繋がっていたのかもしれない。
登には自分や為三郎のような孤独な人生をなんとしても歩ませたくなかったのだろう。

登、泣きながら外に出て「兄貴ィー!!」
この第10作をもって登は登場しなくなる。それよりずっと後の第33作「夜霧にむせぶ寅次郎」でもう一度だけ登場するが、
すでに彼はきちんと堅気になっていて、東北で『今川焼き屋』さんを営み、所帯を持って子供もいた。




C【幼馴染の千代さんとの再会】

とらや 店先

御前様の甥の岡倉金之助助教授が、とらやのニ階にしばらくの間下宿することになる。

             


岡倉先生、夕食の時も団子を食べながら難しい本を読んでいる。


おいちゃん「
大丈夫だろうな…、本当に帰ってこないんだろうな…
さくら「
いいじゃないの、帰ってきたって。他に部屋がないわけじゃないんだもん
おいちゃん「
だってよ、寅の一番嫌いなタイプなんだよ、ああいうのはさしずめ『インテリ』だもんなあー。


そして千代さん登場!
千代「
こんにちは
さくら「
いらっしゃい
千代とさくら,さくらが縫う服地のことで親しく喋っている。
おいちゃん「
お千代さん、お茶でもどうだい
千代「
ありがとう、またあとで、おじゃましました」と裏地に使う生地を探しに戻っていく。
おばちゃん「
お千代ちゃん、若いねー。美人は得だねェー おばちゃんが言うと説得力あるなあ(^^;)
おいちゃん「
正直言って、今、寅に帰ってもらいたくねえよ
さくら「

おいちゃん「
さくら、えれえことになるぞ、こりゃあ…
絶対当たるおいちゃんの寅予言。

            

とらや 夕食

夕食を食べている。

岡倉先生、本をひたすら読みながら、芋の煮っ転がしを食べている。
相当な変わり者であることが、この食べ方で分かる(^^;)

社長、寅が帰って来たことを大急ぎで知らせにくるが、時遅く、寅はとらやに到着。

寅、茶の間にやって来て、岡倉先生を意識しつつ

寅「
しかし、なんだな、この家のなんかそのあたりによー,
 なんか
お見かけしない人がいるんじゃねえかい?
 さっきから、たくあんポリポリポリポリ噛んでっけど、どちらのどなたなんだ?


寅「
ほーっ!大学の岡倉さん、へぇ〜っ!じゃあさしずめインテリだぁー!!

            


寅、プッツン切れて、すぐにかばんを持って出て行こうとする。

寅「何でい、このありさまは!見てみろ、この家の者の冷てえ地獄の鬼みてえな眼差しを!
 オレは馬鹿だったよ。いや、もう何も言うな。
二度とこの家には帰ってこないよ
 どこか
遠い他国馬車引きでもして地道に暮らすよ
そういえば第9作「柴又慕情」でもとらやのことを悪魔の棲家って呼んでいた。(^^;)
寅、さくらからカバン奪って出て行こうとする。

暖簾の向こうから千代の声
こんばんは

さくら「はい…

寅「さくら、
もう生涯会えねえかもしれないけどな。たとえ、どんな、どんな遠い他国の空でも、
兄ちゃんお前の幸せを祈っているぜ。あばよ


千代暖簾をくぐろうとしながら寅の顔を見る。
寅も思い当たる顔なので暖簾をくぐりなおす。
千代、逆にくぐる。

寅、またくぐる。
ようやくお互い顔を見合わせ、

千代「
あ…
寅「
あ…
千代、寅見て、さくら見て
千代「
寅ちゃん…じゃない?
寅、早口で「
お千代坊でしょ
千代「
寅ちゃん!

寅「お千代坊か!どうしたんだよ一体!
千代、感極まりながら、
千代「
懐かしいわねえ!…
寅「
うん!

             

↑この演出はリズム感があり上手かった!

第48作中でも寅のことを気安く「寅ちゃん」と呼ぶのはおばちゃんはもちろんのこと、第1作の冬子さん、
第2作の夏子さん、そして第10作のお千代さん、第30作にちょっ江戸屋の娘の桃枝さん、
など幼馴染で気心が知れた女性ばかり。


寅、さくらに「
おい!ほら!覚えているだろ!オレと同級生の、なあ!呉服屋の娘のお千代坊だ!
さくら「
一月ほど前からね、そこで美容院をね。
寅「
病院務めてんのか、看護婦か
千代、笑いながら首をふる。
さくら「
違うわよ!病院じゃないの、
  美容院
そこにあるでしょう

寅「
あーあー、パーマネント屋か
寅、おいちゃんたちのほうを見て、
寅「
おいちゃんたち、覚えてるか!?え!ほれ、
 おでこが出っ張ったラッキョみたいな
おかしなつらした娘だったよなあー。
 結構見られるようになったんじゃねえーか!?

千代、笑う。
さくら「
お兄ちゃん、何言うの、こんなきれいな人つかまえてねー
寅「
そうそうそうそう、おまえと二人でもってね手握って歩いているとよ、
デカラッキョにチビラッキョ
ってよくおまえたちからかわれて泣いて
帰ってきたじゃねえか!へへへハハッハ!

千代「
そのたびに、寅ちゃん棒切れ持って飛び出してったのよね
←寅がからかってたのではなく寅は助けていた方だった!

寅「
そうそうそう」と、座敷に上がって
寅「
あの頃からよ、シミシミシミシミ小便しちゃ布団濡らしてたけど、
寝ションベン治ったのか?おい、ハハハ!

←なんでもばらす寅でした。

千代、大笑いしながら「
それ言われるから、寅ちゃんに会うのが嫌だったの。フフフ
↑なんだ、やっぱり寅もからかっていたのか…(^^;)
寅「
またまたまた!!
千代「寅ちゃん、でも変わらないわねえ…。昔とおんなじ顔
寅「うん、よくお前と二人でいるとよ、瓜二つ』だなんて言われてたもんなあ、ハハハ←凄いギャグ
千代さん笑いが止まらない。

              

しかし山田監督も、よくもまああんな美しい清純派女優の八千草薫さんに対してこんなムゴイことを
次々に寅に言わせるなあ。デカラッキョだなんて(^^;)

ようやくさくらに裏地を渡すことを思い出して帰ろうとする。
千代「寅ちゃん、しばらくいるんでしょう?
寅「あー、ずっといるよ、なあ!
←さっき一生帰ってこないなんて言ってたのに。
遠い他国での馬車引きの件はどうすんだよ〜(−−)

千代「でも嬉しいわ、寅ちゃんに会えて。どうしてるの、今?
寅「ん、まぁー、相変わらず地道な暮らしよそれ、この前登にも言ってたよ(^^;)
千代「そう。じゃあまた後でね。じゃあおじさんおばさん
と言って帰っていく。
寅、にこにこ陽気に
よし!」「よし!っと
一同シラー…
寅、博に小声で「
おい、博、あの、ほら、なんだい、お千代坊の御亭主ってのは何してるの?え?
もじもじしながらお馴染みのさぐりをいれる。
博「え、ええ…、それが…いろいろ訳があって2年前に別れたらしいんですよね…ああ、言っちゃった(−−;)
寅「そりゃどっちにしても気の毒な話だなあ…。そうか
はい、セットアップ完了。決まっちゃいました。頭の中でエンジン発射(^^;)
荷物部屋へ上がって行く寅。
社長「えらいことになったねー。これから大変だねーと帰っていく。
博「これは、はじめてのケースですね、おじさん
おいちゃん「オレはこれを心配していたんだよ!最悪だよ、事態は…

そんないきなり最悪って、まだ何もおこってませんがな…(^^:)


帝釈天参道

千代さんの店『アイリス
アイリスって確かとらやの斜め前!ほんとかよ(^^;)

新しいガスストーブの設置を仕切る寅。

             



D【岡倉先生の恋をからかう寅】

とらや.店

寅、設置後、配達員に団子食わせ、500円をチップで渡す寅。

千代「すいません、いろいろと。お陰で助かったわ。やっぱり、男手って必要ね…
寅「そうかい?こんな事でだったらいつでも言ってきてくれよ。 こっちはしょちゅう暇なんだから
寅、さりげなく千代の肩についたほこりなどを取ってやる。
↑お!寅にしては結構思い切った行動。これは珍しい!やっぱり幼馴染の気安さか。

さくら、店にやって来る。
ちょうど岡倉先生も帰ってくる。

岡倉先生、千代さんを見て『ポ――ッ

           

さくら「あ、ご紹介するわね。あの、お千代さんです。私たちの小さい時からの知り合いなんです
さくら「あの、こちら岡倉先生、東大の理学部の助教授よ。
   二階に下宿していただいてるの。とっても偉い方なんですって

『偉い方』っておばちゃんと同じこと言ってる(^^;)

千代「はじめまして、志村千代と申します ←本名でました!

岡倉先生、ずっと『ポ―ッ
岡倉先生「岡倉です。どーも

寅、ここで、岡倉先生の一目惚れに、はやくも気づく。
岡倉先生、緊張のあまり、いきなり団子調理場に入って、おばちゃんとおでこがごっつんこ!!
岡倉先生の一目惚れに笑い続ける寅たちの笑い声だけ聞こえる。ハハハハ!!!
お千代さん、意味がわからなくて「え?」とさくらを見る。
さくら、困った顔。

題経寺の鐘 『ゴ〜ン』



とらや 夕食。


岡倉先生、相変わらず本を読みながら食べている。

寅、歌を歌いながら帰ってくる。案の定、千代さんのところで
おじゃましていたのだ。

さくら「
お千代さんのところはずうずうしく押しかけたらご迷惑よ
寅「
バカヤロウ、あいつとオレとは幼友達でしょ、大丈夫だよ
おいちゃん「
差し向かいで何しゃべってたんだ?
寅「
あ、…岡倉先生のこと褒めてたなあ…つりだね(−−;)
岡倉先生『ムクッ!』と顔を上げる。
さくら「
あ、ああ…、何て?
さくら乗っちゃダメだよ、
つりだよ、寅の。
寅「
え?さすが大学の先生だって。立派で真面目な人そうだって言ってたなぁ…。
 好感
もってんじゃないかなあぁ〜

岡倉先生緊張しまくり、下を向いたまま、箸でおかずを取ろうとして灰皿に箸をつっこむ。
一同唖然…
そのまま、タバコの吸殻をつまみ口へ『ポイッ』っとほり込む。
一同「
…!!!!
寅「
はっ!?
岡倉先生、目をひんむいて、口を膨らまし、土間へ行ってゲーゲー吐く。
さくらたち「大丈夫ですか!?」と背中をさする。
寅「
先生大丈夫かい?慌てるからいけないんだよ。落ち着いてさ、冷静に
おいちゃん「
何言ってんだい!
寅「
ウンコになって出るときは同じだよ!意味ねえ(^^;)
さくら「何言ってるのお兄ちゃん!
寅「
じゃ、ま、今晩はこれでお開きということにしましょう

岡倉先生「
だいじょうぶです。致死量は食べてません言うことがいちいち…(^^;)

このように岡倉先生をからかいまくる寅でした。

              


帝釈天参道

柴又の洋品店に岡倉先生入って「白のパンツ」を買っている。

千代偶然店に入ってくる。
千代「先生
岡倉先生、
はっ!と帽子を上げて、また被る。
千代「お買物ですか?御不自由なことが多いでしょう。お手伝いいたしましょうか?
岡倉先生「
!…
千代「
何をお買いになるのですか?
岡倉先生いえ、ちょっと…
店員「
白いパンツないんですけど
岡倉先生、恥ずかしがって
でもピンクでも構いません。はければいいんですから」と財布を捜す。
千代さん、くすっと笑う。


二人参道を歩く。

岡倉先生はなぜかいつでも長靴をはいている。
その長靴で隣の長靴を掻きながらヨタヨタ歩いている。


千代「
先生は大学で何をご研究すか?
岡倉先生「
あの、理論物理の中の『素粒子論』です。
ようやく千代さんとまともな会話ができた岡倉先生でした(^^)

寅と源ちゃん、笑いながら一緒に後をつけて笑っている。

            

暮れ六つの鐘 『ゴーン』

とらや 茶の間


寅「
オレは、はなっからピンと来てたんだ。これぁ、一目惚れだよ。一度逢ったらもう
忘れることが出来ない。
寝ては夢、覚めてはうつつ幻の…。今、先生はそれよ

寅「
オレは、そっちのほうの勘は鋭いんだよ。難しい顔して英語の本なんか読んでいるけどさ、
頭の中には何にも入っちゃいないからね。今、目先にはお千代坊の顔だけがちらついているんだ。
オレにゃ―、ちゃんと読めてるのよ。


この分野の寅の推測って正解率100パーセントだもんなあ…。

さくら「
いくらなんでもそんなこと…」甘いよさくら。
寅「
なんだよ、違うってのか、おまえ
おいちゃん「
あの先生の頭の中には難しい学問が詰まってるんだよ。色恋なんかするもんか、
     おまえじゃあるまいし

妙なこと言うね。それじゃ何かい?オレみたいな下等な人間だから恋をして、
 上等な人間は恋をしないと、おいちゃんはこう言うのか?
恋は下等な人間のするものなのか?

おいちゃん「
決まってらーな
博「
それは違うな、おじさん、人間は誰だって恋をしますよ
寅「
そうだ、その通りだ
恋愛というのは人間の美しい感情ですからね博だね〜!(^^)
博は前々から「恋愛」という感情をとても大事にしている。

そうだよな。おまえは経験者だから分かってるんだよ。
 え、博、おまえがさくらに恋をしているときは寝ても覚めてもさくらのことしか頭になかったろ。
 何見たって全部さくらに見えちゃったろ?え?


博「
それほどでも…」と苦笑い。
寅「
なんだおまえ、そうじゃねえのか?

寅「
いいかい恋なんてそんな生易しいもんじゃないぞ。
 飯を食う時もウンコをする時ももうその人のことで頭がいっぱいになる。
 何だかこー胸の中が柔らかぁーくなるような気持ちでさ、ちょっとした音でも、
 たとえば千里先で
針がポトって落ちてもワ〜ッ!となるような(さくらたち驚いて身を引く)
 そんな優しい気持ちになって、この人の
ためなら何でもしてやろう、命なんか惜しくない。
 『ねえ、寅ちゃん、私のために死んでくれる?』と言われたら、
 『
ありがとう』っと言ってすぐ死ねる。
 それが恋というもんじゃないだろうか


↑「葛飾立志篇」でも、寅が恋について大学教授に、このような自分の信条をせつせつと話す場面がある。

寅「
どうかね、社長
社長「
さあ、オレは見合い結婚だからねえ、申し訳ない」っと、話題をさける。
↑特に社長の場合は見合いの時と結婚式当日とは違う相手だったという凄い経験の持ち主だからなあ…(^^;)
寅「
帰れ、タコ
寅はそんなこと思えて幸せだ、と、みんな言う。そうじゃないだろ、と言い合いが続いて
みんなガヤガヤワイワイ騒ぎ立てる。

いつの間にか岡倉先生階段の下に立って、静かにしてくれと怒っている。

その時暖簾の向こうから千代さんの声
千代「
こんばんは

岡倉先生階段の途中でビクッとして止まる。

さくら「
あら、お千代さん
寅「
お千代坊来たか
千代「
あ、先生先ほどはどうも
岡倉先生「いえ!」
←ずっと階段で止まっている。
千代、満男に「
満男ちゃん、ケーキよ
寅「
あれ?先生、何やってんの?そこで
岡倉先生「
あの、ド、ドイツ語の辞書…
寅「
都々逸(どどいつ)やるの?え?
岡倉先生「
あ、いえ、無ければいいです
←あるわけないよ、とらやに(^^;)
寅「あー、そう、残念だねえー
さくら「
あ、先生、お茶でも
岡倉先生「はっ」っと階段を下りかける。
寅「
あ、呼ぶかい?あ!無理だよ
岡倉先生、小さな声で「
どうして?
寅「
今、お千代坊が来たんでね、みんなでここでもってお茶でも飲んでさ、
 愉快に話をしようと思ったんだけどね、先生勉強中だろ、こりゃ仕方がねえや。あきらめた

岡倉先生、小さく首をふり、何か言いたげ…。

              

千代「
私、仮縫いでお邪魔したのよ
っとさくらといっしょに隣の部屋へ行く。
寅「
あーそー、仮縫いか、仮縫いってのは何、全部スポッと脱ぐのー!? ゞ( ̄∇ ̄;)
岡倉先生、
ハッ!!!と振り向いて手を広げる。
さくら、隣の部屋から「お兄ちゃん!
寅「
おっ、先生まだそこにいたの?しっかり勉強してくださいねー!私たちの分も!
やな性格だねえ〜(__;)

岡倉先生、しぶしぶ上がっていく。
寅「
お千代坊、仮縫いが済んだらさ、コーシーとケーキで楽しいお話をしましょう!!
  先生はお2階でお勉強ぉー!!寅ニッコニコ
おいちゃん、心底呆れて「幸せだよなぁ…
寅、ニコニコで「
そうそうもう一生やってろよって感じ┐(-。ー;)┌



大学の研究室

レポートを提出」する岡倉先生

教授「
あ、君、アメリカへはいつ行くんだい?
岡倉先生「
あれは断るつもりです
教授「
断る?プリンストンをかい?
岡倉先生「
はい、僕は当分日本にいたいんです。失礼します

レポート用紙を見て驚く教授
(黒文字)フクザツダ…オチヨサン。(赤文字)スキダ スキダ…アイシテル アイシテル
末期症状ですねこれはもう…(−−;)



F【千代さんの悲しみと寅の心】


お千代さんの美容院「アイリス」

髪をセットしてもらっているさくら。

千代「
そんなことないわよ、本当に助かってるのよ。照れ屋なのよ、あなたのお兄さんは。
  小さい時からそうだったわ。人が見てるといじめたり、悪口を言ったりするけど、
  二人っきりになるととっても親切よ。
さくらちゃんだってそうでしょ

やっぱり幼馴染はその人を昔から見ているから鋭いね。

さくら「
うん、まあ、そういえばね…
さくらのことを「さくらちゃん」と呼べるのは、おばちゃんと千代さんだけかもしれない。
それにしても千代さんは寅のことをよく見ている。
ただ単に、優しいくて美しい人だけではない、深い洞察力のある聡明な人なんだな、と思う。


さくら、窓の方を見ると、寅が笑いながら中を指差しているので驚く。


寅、ドア開けて

寅「なんだいこの店は漬物屋か?えーっ、ラッキョが2個そろって、何の相談してるんだよ。
 ほんとやるほうもやるほうだし、やらせるほうもやらせるほうだよ。髪の毛なんかやらないで
 おでこ削ったらいいじゃないか、以上!ハハハ!!

  と大笑いで出て行く。

相変わらず容赦なく『ラッキョ攻撃』を浴びせ掛ける過激な山田演出でした(^^;)
でも、なぜかこの時の寅もお千代さんもとても幸せそうだった。
繋がりが深いんだなあ。

              

千代さん、大笑い。

さくら「
まぁー!!、憎らしいわねー!
千代「
フフ…、いいわねえ、お兄さんがいるって
ほんとは一番上にもう一人さお兄さんがいたんですよ。

さくら「
どうして?
千代「
私は一人っ子でしょう、羨ましいわ
さくら「


千代は今、ちょっと淋しいのかもしれない。



さくらのアパート

博「
じゃあ大きな呉服屋の一人娘だったのか」
さくら「お千代さんがお嫁に行くころはもう随分大きな借金をかかえこんで
  たんじゃないかしら。とても華やかなお嫁入りだったけど、その翌年だったかしら、
  お店が潰れて、まもなくお父さんが病気で亡くなられたの…

博「
ふーん、おまけに亭主運にも恵まれなかったわけだな
さくら「

博「
何があったんだ?
さくら「さあ、そんなこと聞けないしねぇ…
博「
うん…


午後の柴又参道


千代さん、蒼ざめた形相でカーデガンを羽織って走って行く。
江戸川土手で遊ぶさとしたち。
千代、かけて来て
、「さとし!

千代「
よく電話かけてかけてくれたわね。ママ、夢かと思った…
さとし「この辺、柴又って聞いたもんだからさ
千代「
そう、ボク、大きくなったわね…←ずっと会ってないのだ。
お千代さんが自分の息子が会いにくることが「夢かと思う」って、
いったいどんな障害がこの親子の間にあるんだろう…。
二人はほんのしばらく短い会話をして…、
さとし「じゃ、行く…」
千代「
うん
千代「
パパ、お元気?
さとし「
うん
千代「

さとし「
ママ…
←さとしのこの「ママ…」という言葉は切なく、悲しい。この親子にいったい何があったんだ…
千代、さとしのジャンパーのファスナーを上げてやる。

           

千代「早く、いらっしゃい。みんなが呼んでるわ
さとし、涙を拭く。千代、さとしを見つめる。
さとし走って行く。自転車に乗りみんなと帰って行く。
千代、すすり泣く。




とらや 
夕暮れ時

おばちゃん「かわいそうにね。自分のお腹を痛めた子に会えないなんて、どんなにつらいだろうね
寅、ずっと、考え込んでいる。
さくら「

寅「
よし!オレ!行ってくる!
おばちゃん「何しに!?
寅、ツツッ、と止まって「
慰めによ
おばちゃん「
慰めるって、どうすんのよ
寅「
どうするって、ど、そうしたらいいんだ!?
さくら「
じゃあ…さあ、晩御飯にでも呼んであげたら?
寅「
バカヤロウ!そんないいこと
 知ってるんだったら何で初めから言わないんだよ!


寅「
おばちゃん、今夜のうちのおかず何だ?
おばちゃん「
お前の好きなお芋の煮っ転がし
寅「
カァーッ!!貧しいなあ、うちのメニューは。もうちょっと、何かこう、心の豊かになる
 おかず
はないかい・たとえばさあ、厚揚げだとか、筍の煮たんだとか頼むよ
美味しそうなメニュー! あくまでもヘルシー清貧路線を貫く寅でした。(^^;)
おばちゃん「
わかったよなんか工夫するよ
寅「
じゃ、行って来る!と行きかけて、「あ!とまた戻ってくる
寅「
あのな、お千代坊を、オレがここに連れてきたら『坊や』だとか『倅(せがれ)』だとか『息子』
 そういう類のことはいっさい口にするなよ

さくら「分かってるわよ

出ましたお馴染み『
禁句』ギャグ↑!
「続男はつらいよ」では「おかあさん」の類はダメ!
「恋やつれ」では「夫、亭主、だんな、ダーリン」はダメ!
「噂の寅次郎」では「離婚」はダメ!
「かもめ歌」では「すべる、落ちる」はダメ!


もちろん、どの回も全て禁句を使ってしまって大騒ぎになるのだが(^^;)



とらやの二階 夜

千代「
こんばんは。すいません、突然おじゃまして…、
寅「
どうせ、こんな貧しい家だからよ、ま、大したもんもねえけけんどたくさん食ってくれや
千代「
とんでもない、私、ここに来ると自分の家帰ったみたいでほっとするの
寅「そうかい
おばちゃん「
栗ご飯、お好き?
寅「
あ、オレ嫌いだなぁ、腹が張ってが出るからやだ
あんんたじゃないってば(−−)

さくら「
お兄ちゃんに聞いてるんじゃないわよ
寅「
そうか、お千代坊こっち来なよ
千代「
寅ちゃんには悪いけど私は大好きよ
寅「
そうかい?
博「
ただいま
博「
いらっしゃい
さくら「
晩ご飯にお呼びしたのよ
千代「
おじさんは?
さくら「
今日は寄り合いなのよ」
千代「先生は?
寅「
お二階でお勉強…、うんもういいってば(^^;)
寅「
ハハ…、なあ、博、今日工場でなんか楽しい話なかったかい?
博「
別にありませんねぇ…」と新聞を広げながら記事を読む。
博「総領事の子供が誘拐、13歳の少年か…
寅「
13歳の少年?なんだおまえつまんないよ、そんなもん」と新聞を下げさせる。
博は千代の事情をまだ知らないのかもしれない。(^^;)
博、別の記事呼んで「
けしからんな実に!
寅「
何かやりやがったなちきしょう!どんな奴だ!?内容知らないで怒るなって(^^;)
博「
母親が子供を置き去りにして家出しちゃったんです
お千代さん、下を向いてじっとしている。寅、お千代さんの顔をちらっと見ながら
寅「つまんないんだよ…、誰がそんなの読めと言った
新聞を丸めてしまう
寅「テレビ、テレビつけろ、こういう場合はテレビだ

博、スイッチを入れて0,3秒くらいで映像が出る!
凄い!こんなに早く映像が出るなんて未来型テレビか(^^;)
CM『ダイハツ、ハイゼット。

続いて、ローカルニュースです樋口アナウンサー すごい簡素なニュースだ!
第6作「純情篇」での『ふるさとの川.江戸川』と 同じようにシンプルな番組

寅「
うん、今日は何かいいことあったかなー?
千代さん、ちょっと顔が明るくなってきている。
樋口アナウンサー
幼い子供を置き去りにして家出した母親が逮捕されました(TT)
さくら、少しおろおろ。
寅「早く消せよ!消せよ!早く!
このテレビで墓穴を掘るパターンは第2作の「おかあさあ〜あん」が有名。」

千代さん、また下を向いてしまう。

一同どう反応していいか分からない


岡倉先生が千代さんに会いたくて我慢できずに下りてくる。

寅「
おっ!先生!
岡倉先生「
はっ?
寅「
はっ、じゃないよ。歌うたえよ!歌うたえってんだよ!ほら!歌いましょう!せーの!
箸をタクト代わりに振っている。
岡倉先生「
♪きーぃよぉーしー…
寅「何!?清がどうした? いいよ!二階に行ってろよ、おまえ
千代さん下を向いたまま。

寅「
じゃ、オレ歌う。♪かーらーす何故鳴くの、
からすはやぁーまーにー
清!歌え!合唱!みんな。
♪かぁーわいーい…
あ、これ違うんだな。

♪お馬のおーやーこーは、
…初めからだめだな。

♪ちいちいぱっぱ、ちいぱっぱー、雀のガッコの先生はー、むーちをふりふりちいぱっぱ!』
さくら、お千代さんが涙ぐんでいることに気づき、歌い続ける寅に
さくら「
お兄ちゃん、やめなさい
寅「
うるせぇ!『♪ちいちいぱっぱ、ちいぱっぱー、雀のガッコの先生はー、
 むーちをふりふりちいぱっぱ!ちいちいぱっぱ、ちいぱっぱ…
ちいちいぱっぱ
 ちい
ぱっぱ、
ちいパッ』…」と声が小さくなっていく。

寅もお千代さんが涙ぐんでいるのを見て
黙って下をむいてしまう。

みんな気まずい雰囲気になる。
満男が後ろからお千代さんに抱きつく。
お千代さん少し微笑む。
↑この満男の行動はお千代さんにとって少し救いだったのだろう。満男の無邪気な
行動がその場の重苦しい空気を少し和らげていた。


さくら「悪かったわね…、無理に引っぱってきて
千代さん、首を横にふる。
千代「
そんなことないわ。…寅ちゃん、ほんとにありがとう…。
  私ね、寅ちゃんたちの優しい気持ちがよく分かるの。…
  私…ほ、ほんとうにうれしいの…
と号泣する。

          

「千代のテーマ」が美しく流れる。

この時の千代のテーマは、亀戸天神でのクライマックスと双璧のタイミングで、
最高の効果だった。


嗚咽する千代
さくら「お千代さん…」と優しく慰める。
寅、下を向いたまま。
おばちゃん、台所で泣いている。


美しい場面だった。マドンナが心から寅の気持ちに打たれ号泣する場面は
第17作「夕焼け小焼け」のぼたんの時にもあった。


千代さんは寅や、とらやの人々と一緒にいる時が一番気持ちが休まるのだろう。
それだけ、彼女の今までの人生が、悲しく辛いことの連続だったと想像できる。


岡倉先生のレポートを東京大学に届けに行く寅

寅、教授に岡倉先生の恋煩いのことを知らせる。

寅「
別に熱があるわけじゃなし、腹下してるわけじゃなし、神経だよ、神経
教授「
神経って言うと?
寅「
ほら、よく言うじゃない恋煩い。たいしたことないよ
教授「
あ、ちょっと、そのことをもう少し詳しく話してくれませんか

トイレに行った寅、講義中の大教室に間違えて開けてしまう。
講義中の満員の大教室。一斉に学生達寅の方を見る。


寅「
あれ?ここは教室か…。はあ〜っ、田へしたもんだよかえるのションベンだな、こりゃ
よう!学生諸君!ご苦労さん!先生よ!
手ぇ抜かないでしっかり勉強教えてやってくれよ!ご苦労さん!!」


と出て行く。学生達「わぁーっ、と、どよめく。パチパチと拍手
この「寅と学生のふれ合い」パターンのギャグは第40作「サラダ記念日で花開く。



G【岡倉先生の恋煩い】

寅、とらやに戻ってくる。
寅「
♪都のせいほーく、とらやぁーの杜にぃー♪
早稲田大学校歌の替え歌。
第40作「サラダ記念日」でも「♪都のせーいーほーく、ちんちん電車ア〜」と、歌っていた。


とらやニ階
寅「
若先生行ってきたよー!大先生がよろしくってさ
岡倉先生、布団の中から「
どうもありがとう

寅「
♪お医者様でぇ〜も、草津ーのー湯でもって言うだろ?惚れた病ぃ〜はぁーあ…
岡倉先生「そんな、変な誤解はやめてください。僕の病気はあくまでも感冒の初期にしかすぎません。
寅「
ほんとか?ヒヒ…
岡倉先生「
そんな変な目つきはよしてください。
いったい、いつ僕が
お千代さんに恋をしたというのですか?

寅「
あ!
岡倉先生「
あ!」またシュンとしてしまう。
寅「
ほら、何も聞かないうちに
 全部白状しちゃったじゃないか、そうだろ?


岡倉先生、布団に潜り込んでしまう。

寅「
別に恥ずかしいことじゃないんだよ。誰だって身に覚えがあることなんだからな、え。
岡倉先生「
寅さん
寅「
あいよ
岡倉先生「
君は、今までに恋をしたことがありますか?
寅「さあ、…ねえ…、あるんじゃないの、そういうことは…(^^;)
                  

↑あるなんてもんじゃないです。冬子さん、夏子さん、お志津さん、春子さん、節ちゃん、
夕子さん、花子ちゃん、貴子さん、歌子ちゃん、そして今回千代さん!

岡倉先生「それなら、今の僕の気持ちは分かってもらえますね。僕はね今までに
      恋を
研究したことがないもんだからよく分からないんですよ
第16作でも田所教授が言っていたね。
寅「
どうも、インテリの言うことは大げさでいけないいよ。
 自分でお千代坊のとこへ行ってスーッと話をすりゃ、いいじゃねえか。それでスミだよ


自分ができなこと言うなよな(^^;)


岡倉先生、むくっと起きて、

岡倉先生「
それが可能なくらいならこんな苦しい…。恋をする男の気持ちというのはですよ、
      寅さん、そんなものじゃない
寅も同じなんだよね。告白できないんだ。
え…
岡倉先生「
頭の中にはその人のことばかし、何を見てもお千代さんの顔に見えてくる。
      君の顔だってこうして見ているうちにだんだん
角がとれてきて、瞳がつぶらになってきて…」
寅「
ラッキョみたいになっちゃうの?
岡倉先生
ラッキョ?ラッキョとはなんのことです?
寅「お千代坊だよ、そっくりだろ?ハハハ
岡倉先生「
よくもあんな美しい人のことをラッキョだなんて!そういう君はいったいなんだ!
     え!え!
(三角)フラスコみたいなツラしやがって!そうでなきゃプラカード
だ!
寅「
な、なんか言ったな?さしあたりオレのツラのこと言ったな。おう!上等だよ!へえー!
てめえ、なんだい
 夏の日のドブ板じゃねえけどもな!反り返ってるじゃねえか!しゃくれてりゃいいってもんじゃないんだよ!えー!
 裏ひっくりかえしたらミミズがのたくってるだろう、ざまあみろ
ってんだ!この野郎!

岡倉先生「
ナンセンス!!
寅も立ち上がって
寅「
ナンデンション?何言ってるか分かんないんだよ、
岡倉先生「
封建主義者!と指を差し、寅に挑みかかる。

下から上がって来たさくら、唖然。

         



江戸川土手

江戸川土手で考え込む寅

さくら、満男連れて、やって来る。

さくら「
お兄ちゃん、なにしてんの、こんなところで
寅「
…、考え事よ…
さくら「
お兄ちゃんでも考えることあるの?
寅「
そら、あるさ。インテリと交際してるからな今、…

岡倉先生が可哀想になってきた寅なのでありました。



さくらのアパート

さくら「
お兄ちゃん、先生が気の毒になったんじゃないかしら、オレがまとめてやんなきゃ
   しょうがねえだろ、なんてね

博「
ちょっと頼り無い使者だけど案外上手くいくんじゃないかな。
 お千代さんも教授夫人にはふさわしいし、…なんだ、心配なのか?

さくら「
ひょっとして、お兄ちゃん、お千代さんが好きなんじゃないかしら?かしら?なんてもんじゃないだろが(^^;)
博「
…うん…と、仰向けになる。

寅は明らかに気持ちが左右に引き裂かれている。これはとてもつらいことだ。恋のライバルに自らが
進んで道を譲ることを考える寅。このシリーズで初めてのパターン。




H【寅と千代さん。運命の亀戸天神】

数日後、亀戸天神

寅と千代さんが並んで歩いている。

寅「♪歩みののろい毛が生えた、どうして…
↑童謡「うさぎとかめ」『♪もしもし亀よ〜』の替え歌
それにしても今回は童謡が多く使われた。


千代「
寅ちゃん…
寅「
なんだ。…」「♪どうしてそんなに毛が生えた〜
歌の種類選べよな寅(−−;)
千代「
用があるってなんのこと?
寅「
うん…

          

千代「
歌ばかり歌ってないで話してよ
寅「
どうも、言いにくいんだよな、これが…なぁ…
千代「
でも、ご飯食べて、お茶飲んで、
   かれこれ
4時間も経ってるのよ
寅「
そんなに経っちゃった?
 じゃあ、めんどくさいから今日は打ち切りにして帰るか

千代「
そんな…、せっかくお店を休みにして出てきたのに…」

千代さん、わざわざ美容院休んで寅の誘いについて来たのか…、
千代さんなりにかなり気合が入っていると感じた。


寅「
うん…そうか…。あーなんてったらいいのかなあ…
千代さん、ため息
寅「
えー…、おおかた察しはついているだろう。お千代坊は勘がいいから、え?
千代「
それは、まあ…なんとなく
千代さん、ちょっと微笑み、はにかむ。
寅「
あ、それだよ、それでいいんだよ…。なんだ4時間もかかってくたびれちゃったよ

千代さん、クスッっと笑いながら、橋の手すりを手でなぞり、寅に求婚された嬉しさを表していた。

寅、しゃがんで手すりに両腕を掛けながら

まあ、お千代坊もさ、いつまで一人でいられるわけでもないんだし、あんまりパッとした相手でも
 ないんだけどさ、このあたりで手を打ったほうがいいんじゃねえかな…どうかね


と、千代さんを見る。

千代さん、微笑んで、下を向きながら
千代うん…
寅「
いや、いやだったらいやでいいんだよ、こういうことは…、いやかい?
↑寅、ほんとは心のどこかで「いや」と言って欲しい。

千代「
ううん…嫌じゃないわ…
寅「
じゃ、いいのかい?
千代「
フフ…、ずいぶん乱暴なプロポーズね。寅ちゃん
寅「
しかたがねえや、おれこういうこと苦手だしさ寅、まだ気づかない。

微笑んで、フッ、っと息を吐く千代。

寅「
じゃ、いいんだな
お千代さん、微笑みながら、小さくもう一度うなづく。
ここまでの千代さんは幸せだった


           

寅、少し寂しそうに、
寅「
決まったようなもんだ。よし!そうとなりゃ、あいつ
 電話で知らせてやろうか。嬉しくなって気が狂っちゃうんじゃないかな?
電話どこかな?


千代「
…?…寅ちゃん
寅「
なんだい?
千代「
あいつって誰のこと?
寅「
決まってるじゃないか、うちの二階のインテリだよ
千代「
岡倉先生!!?

寅「
そうだよ
お千代さん、失意の微笑みを寅に向け、

千代「
あ、フフ…私、勘違いしていた…と、寅を見る。

寅、「
勘違いって、誰と?まだ気づいていない。

お千代さん、寅から目をそらし、下を向き、

千代寅ちゃんと…

            

寅、ビクッっと小さな目を大きくして、あまりのショックに肩をガクッ!っと落とし、 しばらく何も言えない。
自分のありのままの気持ちを寅に伝える千代さん。

千代「
私ね、寅ちゃんと一緒にいるとなんだか気持ちがホッとするの。
  寅ちゃんと話をしてると、ああ、私は生きているんだなぁーって、
  そんな楽しい気持ちになるの。寅ちゃんとなら一緒に暮らしてもいいって、
  今、フッとそう思ったんだけど…


っと遠くを見る。


寅、すごく動揺し、肩をガタガタさせ、唾を飲み込み、飲み込み、

寅「
ジョ…ジョージャンじゃないよ。そんなこと言われたら誰だって
 ビックリしちゃうよ。ハハハ…


千代さん、寅の方に向きなおして、首をしっかり横に振りながら、はっきりと
千代冗談じゃないわと言い、真剣に寅を見つめる。

            

千代のテーマ美しく大きく流れていく

この「冗談じゃないわ」という言葉こそが千代さんが自分の気持ちを真剣に
 寅に告白した、大事な発言である。



全48作中、結婚をしたいという真剣な自分の気持ちを寅にそのままストレートに伝えたのは
この第10作のお千代さんを置いて他にはない。 この真っ正直な気持ちが私は大好きだ。


寅、千代さんの視線に耐えられなくて後ろずさりしながら目を上に上げることが
できないまま、橋の手すりに背中をもたれてしまう。嬉しい以上に動揺してしまっている。

            

千代さんは、寅のこのような態度を見て、幼馴染み以上の自分への特別の
気持ちが無いのだ、と、勘違いしてしまったのかもしれない。
寅をこれ以上萎縮させてはいけない、という気持ちで…

寅を見つめ
下を向き考え
小さく息をはき、

そしてうって変わって、にこやかに             

              

嘘よ、フフ、やっぱり冗談よと、笑って言ってしまう。

あ〜!!!残念だァー!!!(T T)

寅、安堵感で溢れた顔になり、ペタッっと尻餅をついてしまう。

寅「
そうだろ!冗談に決まってるよ!ハァー…

千代さん、失恋の気持ちを隠しながら、

千代「
じゃ、そろそろ帰りましょうか…
寅、しゃがんだまま、千代さんの方を見ないで
そうね、帰ろうか
千代、ゆっくり先に歩きながら
千代買物があるから、寄り道するわ…

寅、しゃがんだまま、まだ、千代さんを見ないで

寅「
うん!
寅、両手で顔や目を擦って
ハァーッと息をはく。
遠ざかる千代さん。
千代さん、もう一度だけ振り返り寅を見る。

寅は相変わらず、
お千代さんを見ないで、下を向いて大きなため息をついている。
千代さん、ゆっくりずっと遠ざかっていく。


千代さんは最後にもう一度寅の方を見る。なぜならば、寅に呼び止めて欲しいからだ。
そしてもう一度寅の気持ちを確かめたいと思ったに違いない。
その一分の望みも絶たれたのを観て、なんとも切なく、やるせない気持ちになった。



I【岡倉先生の失恋と寅の旅立ち】

とらや

おいちゃん「おい、先生どうしてる?
おばちゃん「
待ちくたびれちゃってさ、気の毒みたいだよ…
おいちゃん「
上手くいったのかなあ…


寅が帰ってくる。


おばちゃん「さくら」 と、岡倉先生を呼ぶことを促す。
さくら、階段の下に行って、

さくら「
先生ー
さくら階段上りながら

さくら「
あの、今、兄が帰って…
岡倉先生「はい!」と言いながら、ダダダ!ドドド!!と階段を駆け下りてこける。
さくら、怖くて逃げる。(^^;)

           

岡倉先生そのままピュ−ッとおいちゃんを蹴散らし、帯を撒き散らし、寅のいる部屋
まで物凄い勢いで上っていく。


おいちゃん、起き上がって、
おいちゃん「
あー、びっくりした!まるで寅だな!

2階から岡倉先生の声「
結論だけ教えてください

おいちゃん、おばちゃん、さくら、
階段の下で
耳をダンボにして聞いている。

岡倉先生「
分かりました…
岡倉先生「
もう、結構です…と言いながらゆっくり下りてくる。夢遊病者状態(^^;)

おいちゃんとおばちゃん深々と頭を下げる。

タコ社長、例のごとく間が悪く入ってくる。
社長「おい、どうだったい!?お千代さんの返事は!?
  
まさかふられたわけじゃ…あー!!
目の前に幽霊のようなのような岡倉先生がいる。

もちろん今までのパターンならここに寅がいた。今回は岡倉先生。

岡倉先生、社長に向かってキッと怒り、社長怖がってよける。

岡倉先生「寅さんなら、殴っているところでしょう…寅さんならね…
社長怖がる。


岡倉先生が2階へ上がったあと、社長ようやく安心して、

社長「
言うことが違うね、インテリは」
おいちゃん「
感心している場合じゃねえよ。おい、目を離すんじゃねえぞ

さくら、寅のいる二階の荷物部屋へ上がっていく。

寅「
さくら
さくら「
ん?
寅「
ほんとはな、ほんとは千代…

              

寅「まあ、いいや…。何てことはないんだよ…と、窓を見る。

千代さんの気持ちを受け止めることが出来なかった寅に、
彼女の寅への気持ちをたとえさくらであろうが吹聴する資格はない。

さくら、気になりながらもゆっくり下へ下りて行く。
木枯らしがビュービュー吹いている。



J【千代さんの気持ちを理解するさくら】

青空の正月

とらやの茶の間

みんなで何か笑いあっている。 お千代さんもお年始の挨拶に来ている。

おいちゃん、笑いながら「
お千代坊も、先生の嫁さんになったらどうだ?え?
おばちゃん「
そうだよねー、強がり言ってないでさー
千代「
本当よ、もう結婚なんてこりごりよ
おばちゃん「
何いってんの、まだ若いくせに、ねえー
社長「
ほんとだよ
おいちゃん
なんならさ、あのー…寅でどうだい?えー。
博も社長も大笑い。

千代、真面目な顔で
千代
どうして、可笑しいの!?

              

みんな『シーン

千代
私、寅ちゃんとならいいわ
おいちゃん「
えー−!!!!?
千代「
でもだめねえ、ふられちゃったから…
社長「あっ、びっくりした、オレ本当かと思ったよ!おい!
お千代さん社長に向かって
千代「本当よ真面目に答える。
さくら
だめよ、そんなこと言っちゃ。お兄ちゃん本気にするわよ

千代、さくらに
千代「
冗談じゃないのよ
社長「またまたーハハハ!とすぐ茶化す。
お千代さんもつられてつい笑ってしまう。
みんなも笑っ
ている。

でもさくらだけはお千代さんを見つめたまま、笑っていない。

千代のテーマが美しく流れる。
お千代さんを見つめ、何かを考えるさくら。


さくらは、お千代さんが「冗談じゃないのよ」と言った言葉の意味を考え、
あの日何が二人にあったのかを少し理解したのだった。

さくらにとっても兄の「得恋的失恋」を垣間見る初めての経験でもあった。

           

そしてその後さくらもなにごともなかったようにみんなと一緒に笑っていた。

千代さんに来た年賀状をもう一度目で読み返すさくら。

『謹賀新年』と大きく書いたあと、本文は寅のナレーションと共に、

『明けましておめでとうございます。
わたくし、柴又におります日々は思い起こすだに恥ずかしきことの数々、
今はただ、後悔と反省の日々を過ごしておりますれば、
お千代坊にもご放念下されたく、恐惶万端ひれ伏して、
おん願い申し上げます。
末筆ながら、あなた様の幸せを遠い他国の空からお祈りしております。
                   
                              車寅次郎 』


この年賀状の横に
岡倉先生からのエアメールも置いてあった。
車竜造 様(Kuruma Ryuzo) Los Angeles 空港にて  岡倉金之助
アメリカのプリンストン大学で心機一転研究を頑張る気持ちになったのだろう。めでたしめでたしだ。



旅先の茶店


寅が酒を飲みながら、登と店のおかみさんに千代さんとの一件を話している。


寅「
オレは言ったのよ、お千代坊、おめえのその気持ちは分かるが、
 どうかオレのことはあきらめてくれ。そこが渡世人のつれえところよ』ってな
相当脚色しているぞ!(^^;)
登「
かわいそうにな…その、お千代さんって人
寅「
うん…泣いてたよ←泣いてない泣いてないゞ( ̄∇ ̄;)
おかみさん「
罪作りな男だねえー、そんなに女を泣かせちゃだめじゃないか…
寅「
泣かせたかねえんだけどなあ…
なあにカッコつけてんだまったく、嘘が混じってるぞ ┐(-。ー;)┌


             
                  
格好よく支払ったはいいが、いつものいようにお金が足りない寅。
おかみさん「
あと200円
登もいくら探してもお金が見つからず、仕方無しに自分の
上着をおかみさんに押し付けて
「すいません。これでお願いします」と逃げていく。


古い橋を渡りながら、

登「
ー!見てくれ!ババアに上着取られちゃった!ハハハ!」「あー寒、寒い

寅と登はしゃぎながら嬉しそうに歩いて行く。

             





上映時間 98分
動員数 211万1000人
配収 7億6000万円



第10作「寅次郎夢枕」【本編完全版】はこちら


 

第10作「柴又慕情」ダイジェスト版を本日4月7日にアップしました。
第11作「寅次郎忘れな草」ダイジェスト版はだいたい4月10日頃にアップいたします(^^;)ゞ



【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら



【寅次郎な日々】全48作品マドンナ制作年度順






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第9作「男はつらいよ.柴又慕情」.ダイジェスト版
 


2007年4月3日寅次郎な日々 その304


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


 「ほら、見な、あんな雲になりてえんだよ…」

 松竹をあげての大作となった第8作「寅次郎恋歌」は予想通り大ヒットとなった。いよいよ会社としても、スタッフ達にとって
 もう後戻りができないところまで来たのだ。第9作のマドンナには当時すでに大スターだった吉永小百合さんを遂に起用。
 渥美さんも珍しく吉永さん起用に自ら大いに乗り気で、スタッフ、キャスト全てが地に足をつけながらも乗りに乗り始めたのが
 このあたりである。本編を見ていても渥美さんは吉永さんとの共演が実に楽しそうである。吉永小百合がマドンナ!
 もうこれだけのことで画面が一気に活気付く感じがする。

 また、この作品ではもちろんマドンナに案の定振られるが、第8作でもそうであったようにもうあからさまに振られることはない。寅次
 郎は作品を経るごとに、ある意味どんどんかっこよくなっていくのである。この作品で美しく華やいでいた吉永小百合さんを、
 山田監督が放っておくはずもなく第13作「恋やつれ」で同一人物のマドンナ、つまり続篇として再登場してくるのである。役が同一
 人物(続篇)のマドンナは浅丘ルリ子さん、後藤久美子さん、そしてこの吉永小百合さんの3人だけである。3人とも強烈な魅力を放
 ち、スクリーンに美しい花を咲かせていた。もっとも山田監督が後に語っていたところによると、歌子ちゃんをもう一度(3回目の登場)
 させる案がかなり進んでいたようで、大島の養護施設を辞めた歌子ちゃんが寅に再会することになっていたらしい。これは実に、観たか
 った話だ!残念…。

 また、第8作後に亡くなられた森川信さんに代わり、新しいおいちゃん役を松村達雄さんがこの第9作から演じている。初代のおいちゃん
 があまりにもすごいので、松村さんは大変だっただろうと思われる。しかし、おとぼけの森川さんとはまた違った、チャキチャキのキップ
 のいい人情味溢れるおいちゃんを見事に演じていた。松村さんもほんと名優だと思う。

 物語終盤、さくらがどうしてまた旅に行っちゃうの?って聞いた時、江戸川の土手にねっころがりながら寅次郎が空を指差し言うセリフ
 「ほら、見な、あんな雲になりてえんだよ…」 は私たちの心を代弁してくれる名言だ。


本編


@【寅の帰郷と貸し間有り騒動】

今回は「夢」がある。

戦前の頃の貧しい漁村。 さくらが浜辺にいて借金取り(吉田義夫)たちが押し寄せてきた。という設定。
お金がないので、鍋、布団、漁の網、などを持っていこうとする。
そこへ故郷を捨てて長らく帰ってこなかった寅次郎が戻ってくる。←木枯らし文次郎風に長い楊子をくわえている。

寅「無駄な人殺しはしたくありません。もし、金で済むことでしたら…」

ぽいっと札束を前に放る。

博「もし、旅のお方、今確かに寅次郎さんとか…」
さくら「私には今を去る20年前、ゆくえの知れなくなったたったひとりの兄がおりました。
その名を寅次郎と申しましたが、もしやあなた様はその寅次郎様では…」
寅「よくある名前でございますよ」←ないない
さくら「でも、そのお顔は…」
寅「よくあるツラでござんす。」←めったにないよその顔は
さくら追いかけながら「お兄ちゃん!」
泣き崩れる(スローモーション)

今回はさくらや博が家の新築計画のためにお金が必要になるのだが、その複線だね。

              

夢が終わり、小さな駅(かなひら駅)の待合室の長椅子から落ちてしまう寅。

寅、はっと気づいて、「おぅ、すまねえ、すまねえ」とカバンを持って一両列車に飛び乗る。←単線
駅員の笛。『ピィ―ッ!!』 動き始める列車。見送る駅員 ロングで長めに…

              


タイトル  「男はつらいよ 柴又慕情」


口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、
姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。」


  ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


   ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労も掛けまいに 掛けまいに♪


 今回のコントは柴又に戻ってきた寅が江戸川の土手で子供の釣竿を借りて振り回す寅が案の定カップルの
 女の子の帽子を釣り上げてしまい、今回はタコ社長が河原でゴルフをしていて寅が割って入ってドタバタ。
 とらやの常連が歌の中の喜劇に出てくることは珍しい。

 帝釈天の山門前

 さくら「なに見てらっしゃるんですか?」
 御前様「燕の巣だよ」
 さくら「今年もやっぱり帰ってこないんでしょうね」
 御前様「ああ…、この辺も住みにくくなってしまったかな…。もう片付けるか」
 さくら、満男の顔を拭きながら「でも、もし来年帰ってきて自分の巣がなかったら可哀想ですもの…
 御前様「…うん…、あんたらしいこと言うね。」
 さくら「え?」ちょっと間をおいて少し照れるさくら

 この場面はさくらたちの寅への思いが燕(寅)と巣(とらや)に置き換えられた、温かい気持ちになれるいいシーンだ。
 しかし、この後の「貸間有り」の騒動を予感させる話にもなっている。

参道をとらやへ歩いていくさくらと満男。
この第9作は中村はやと君お休みで、
沖田康浩君が臨時の満男を務めました。
源ちゃんこと佐藤蛾次郎さんは肋骨をたくさん折った交通事故で第8作は休んだがこの作品からまた復活!


とらや

さくら、店先にかかっている『貸間有り』の札を見て、不思議に思う。

おいちゃん「ホラ、お前達もいよいよ家建てる決心しただろう。それについちゃ、俺たちも何か応援しなきゃならないし、
かといって金はねえし、だから2階貸してさ、いくらかでもお前達の足し前にしようと。こういうわけなんだよ


しかし、さくらは寅が帰ってきたときのことを心配している。

さくら「だって、もうお前の部屋はないよ−って言ってるようなもんじゃない
おいちゃん「そうか…

そこへタコ社長ゴルフしてたことを寅に見つかった、と飛んでくる。

一同外を見て『はっ』とする。寅が前の道にもう来てしまっている。

寅、ニコッと笑って店に入ってくる。
寅「さくら!」といいつつ、はっ!と札に気づいて店先に戻って『貸間有り』の札をもう一度見る。
寅、顔をうつむき、出て道に行く。

              

前の江戸屋さんの前でションボリ

寅、また歩いて駅の方へ行く。さくら追いかけて
さくら「ねえ、お兄ちゃんどうしたのよ?」←さくら、それはないよ、分かってるくせに。
寅さすがに怒って「てめえの胸に手を当てて考えてみろよ
さくら「何のこと?」←まだシラを切るさくら
寅「とぼけるな!あの魔除けの札の下の、あの札はなんて読むんだ?
さくら「ああ…あの貸間有りの札のこと?…
寅「ほう…!あれがあれが貸間有りって読むのか
さくら「えっ?
寅「オレにはねー、もうお前の住むところはないよー!って読めたなー、
ふん!どおせオレは歓迎されざる男だよ。
もうちっと落ち着くところをてめえで探さぁ…、達者でな

さくら「


不動産屋を渡り歩いて部屋を探す寅

寅「日当たりが悪くたって部屋が汚くたっていいし、裏が工場かなんかでさ、
ねえかい?そんな部屋ねえかい」←それじゃ、とらやだよ。

なかなか決まらない寅です。だいたいが敷金礼金払えるのかね?

次の不動産屋

社長は桂伸治さん

寅「なーっ、ま、欲を言やぁさ、親切な女将のひとりもいて、オレが仕事から帰ったら疲れて帰ってくる。
『お帰りなさい。疲れたでしょう』そんなひと言を言ってくれりゃ十分よ。


あっ、風呂なくていいよ、オレ銭湯大好きだからね。『ひとっ風呂浴びてらっしゃいな。
帰ってくるまでに晩御飯作っとくから』 タオル、洗面器、シャボン、
『どーせあんた細かいお金ないんだろ』40円!ポンともらって『じゃ言ってくるか』『いってらっしゃい』
やがてオレは風呂へ行く。帰って晩御飯になる。ね!オレはおかずなんてなんだっていいな。
どおせ家賃はたいしたことないんだからさ。そうねぇ…、おつまみに刺身一皿、煮しめにお吸い物、
卵焼きがあってもいいし、おひたしなんかもあったらいいな。お銚子3本くらいそっと飲む。昼間の疲れで、
つい、ウトウトッとなる。ね!女将はそれを見て『
さくら、枕を持てっておやり。ついでに
お腰も揉んでやったらいいんじゃないかい』さくらってのはその下宿の娘よ」


↑見事な寅の『アリア』だ。現実無視もここまでいくと気持ちがいい

店主呆れてものも言えない。


             

3軒目の不動産屋

寅「オレ、くたびれたよ、なんでもいいよ。頼むよ」
店主「と、おっしゃいましてもねー…、あっ、これなんかどうかな?」←お馴染み、いつもは備後屋佐山俊二さん!
寅「あー、それでいい、それでいい、それでいいよ
店主「家は古いんですけどね。そのかわりお値段がぐっとお安くなってるんですよ」


とらやの茶の間

博「な、さくら、子供のために庭が欲しいなぁ…
さくら「そうね
博「しかし20坪の土地じゃあなぁ…

不動産屋が寅を連れてくる。

車が止まる。

寅「あー、みなさん、あっ、こりゃどうもお世話になります、皆さん
不動産店主「みなさん、いい方ですよ」
寅「あー、そうですか…、へぇ、…おでんに、茶めし、商いやってるのか。
や.ら.と.さんね。とらやを右から読んで
寅、不動産屋にむかって「おじさん、オレも以前ね、こうした家にご厄介になったことあるんだよ
不動産店主「よく言うよ
寅「本当だよ、」っていいながら一同を初めてまじまじと見る。
寅「あ〜あ〜!!!。ばかやろう!ここはオレの家だい!

結局さくらたちが謝ってみんなで茶の間の方に行くき、事なきを得たように見えたが、

不動産屋にこにこして、寅に手数料の6000円を払ってもらおうとする。

寅「おい!冗談言うな!オレがオレの家に帰ってきて
 どうしておまえに6000円払わなきゃならねえんだ!!

不動産屋「払えないと。そんなら、出るとこ出ましょ!
寅「出るとこって面か!この野郎!出るものが3日も出ねえような面しやがって!帰れ!帰れ!
結局寅は不動産屋と大喧嘩、
博、不動産屋をひょいと抱えてキャッシャーのカウンターに乗せて非難させる。佐山さん絵になる!
佐山さん博にも雑に扱われて面白い!いい味出しているなぁ。

             

とらやの茶の間

寅「オレのたった一つの安息の場所をよ、断りもなしに見ず知らずの他人に貸し与えて
 少しばかりの小銭を稼ごうってそういうきたねえ魂胆だからこういう
があたるんだよ


寅「オレは部屋を貸したことで文句言ってるんじゃねえんだよ。ひと言挨拶があってしかるべきだろう。
  それが常識ってもんですよ!

さくら「じゃあ、どうすればお兄ちゃんに相談できるっていうの?
寅「なにぃ!
さくら「そんな時、どこへ行ったらお兄ちゃんに会えるの?さくらの顔悲しげ…
寅、さくらのこの言葉に何も言えずに黙ってしまう。

しかし、一難去ってまた一難、「お前が帰ってきたら迷惑だと」おいちゃんが言ったものだから
今度は寅とおいちゃんが喧嘩を始めてしまう。


           

おばちゃん、博止めに入る。
さくら「やめて!!
博「我慢してください!我慢してください!今度の責任は僕にあるんです
寅「あたりめえだよ!いけないのはおまえたち夫婦だよ!
さくら、複雑な表情

寅「そうだよ!なんだ、あんちゃんは見なくたってお前たちの家がどんなだかよく分かるよ。
 割り箸みたいな細い柱立ててよ、安い煎餅みたいな壁をペタペタ貼り付けて中へお住みになるんですか?
 中へよっこらしょっと座ったら
ストーンと底が抜けるんじゃねえかおめえ!
 そよ風がふわっと吹いただけでコロンと転がるような家だよ。みっともねえことはやめろい!家なんか建てる
 なんて生意気なことやめろ!やめろ!
」←寅言ってることがきついぞ!

博、じっと寅を見つめている。眼に涙が貯まっている。

寅「なんだよ!なんだい!どうしたんだい!

博「…兄さん、ひどいこと言うな…。いくら兄さんだってそんな…そんな言い方は…。
博の目から涙が頬に落ちる

寅、戸惑いながら、博をじっと見つめる。

一同無言

さくら「言っていいことと悪いことがあるのよお兄ちゃん。そりゃ私たちの建てる家はどーせ安普請よ。
 そよ風でも吹いたら倒れるかもしれないわ。庭なんかないのと同じよ。でもね、私たちの毎日の節約するよう
 にして5年間に貯めたお金を元にして、あとはおいちゃんにお金借りたり、都の住宅資金からお金借りたり、
 あちこちいっぱい頭下げて何度も何度も嫌な思いをしてがんばってるのよ…。
そりゃ悪いことしてお金儲けて
 大きな家に住んでいる人もいるかもしれないわ。
でもね、私たちが建てる家はまじめに働いたお金で建てるのよ。
 博さんだって自分の家が持てるから嬉しくってしょうがないのよ。
お兄ちゃんは…どうしてさくらがんばれよ
 って、そう言ってくれないのよ…
(さくら泣くおばちゃんも泣いてしまう。)

            

おいちゃん、寅の膝叩いてさくらに謝るように促す。

結局、さくらに言われた言葉が心に突き刺さった失意の寅はみんなの止めるのも聞かず
旅立ってしまうのだった。


みんながっくり…



A【北陸で歌子ちゃんと出会って意気投合】

この後舞台は北陸の金沢へ…

ヨハン.シュトラウスのワルツ

金沢の武家屋敷後などのお決まりの観光地を歩く若い3人の娘たち。
兼六園の池のほとりの茶店私もよく行った
楽しみながらもどこか覚めている3人。

            


旅館に着く寅。


登と再会し、大ハシャギのドンチャン騒ぎ。
 

仲居廊下を覗く←谷よしのさん登場!今回も仲居役。

廊下を挟んだ歌子たちの部屋
それぞれにくつろいでいる3人。

それにしてもOLの歌子ちゃんたちと、商売人の寅が同じ旅館に
泊まっているわけないと思うけど…。


廊下の向こうでは寅たちが騒いでいて「
チンガラホケキョ-の唄」(渥美さんの持ち歌)が微かに聞こえている。

寅「
♪一、二、の三、日が暮れてぇ〜、ホラ、チンガラホケキョ〜、デコ坊よ〜、帰ろうよ〜♪

ちなみにこの唄は第2作「続男はつらいよ」でも散歩先生への道で歌っている。
第8作「恋歌」でも貴子さんの子供たちがこの唄を江戸川土手で歌っていた。


歌子「
子供の時の旅行なんて楽しかったもんね。あれは小学校6年時だったかかなー。
多摩川の遊園地に父と母に連れられて行って、飛行機に乗ったり、メリーゴーランドに
乗ったりしたことがあったのよ。父が珍しく冗談言って笑ったりしてね…。
(ちょっと思い出し笑いしながら)家の父っていつも着物でしょ、だからメリーゴーランドに
乗るとき「
尻っぱしょり」したの。そしたらその格好がね「ドジョウすくい」みたいで可笑しくって
可笑しくって…、どうってことない家族旅行だったけどなんだかとっても楽しかったな…」

マリ「その時は、まだお母さん一緒だったんでしょ?
歌子「母がいなくなる2年前だったわ…と遠い昔を思い出して切なくなっている歌子ちゃん。

この短い会話で歌子の複雑で孤独な青春期が窺い知れる。

マリ「
幸せって、どういうことなのかなぁ…

向かいの部屋の寅たち宿の女中と歌って騒ぎまくる。


仲居の谷よしのさん、48作中の一番の長ゼリフ
「あのねー、お客さん、もしもし、聞こえる?あのねー、
隣のお人がやかましゅうて寝れんゆうておりますがね。
静かにしてくださいよ。もう遅いですしねー。」

しかし言うこと聞かない二人。

マリ「静かにしてください!!と叫んですぐ引っ込む。
寅、部屋の中から「
バカァ!廊下で寝ろ!おまえ、ハハハ!
登廊下に倒れてドラバタ(^^;)

翌朝、寅は登と別れて静かに宿を去る。


福井

歌子たち永平寺を見学。

ローカル線の線路の上をおどけて歩く歌子たち。


疲れて茶店に入る。そこに寅も休んでいる。

寅、店のばあさんや歌子たちに自分の過去を長年帰ってないと、大ぼらを吹く。

寅「
ふっ…、そんなもんあるわけねえや…10年一昔、二昔、いや…30年も経つかなあ…
1ヵ月も経ってないぞ

寅「あれからどうなったのか…

店を出て

マリ「
あ!すいません。記念写真を一枚
寅「
オレか?
歌子、みどり「あ、そうね。じゃ、向こうに、どうぞ」

マリ「そこに並んで、…もうちょっとくっついて。ハイ!写すわよ!ハイ、笑ってー」
「バタ〜!!」←出たぁ〜〜十八番!!(^^;
3人「…!?
歌子とみどり唖然として寅を見る。
寅「あっ、オレ、バターって言った?
 あっ、間違えちゃった!あれ、チーズなんだよね!ハハハ!


            


ここからは実にテンポがいい!
ヨハン.シュトラウスのワルツが鳴り響いて!

バスの中で大はしゃぎの4人。さっきの「バタ〜」のことで笑っている。

寅「
でもよく口大きく開くのはチーズよりバター!!の方が大きく開くよな!
口を閉じて笑わないと意味ないんだよ寅(^^;)
寅「
もっとでかく開くんだったらバンザイ!!って言えばいいんだよ!
窓の外は越前海岸の荒々しい海。
みんなで
東尋坊「バターッ!!」って言いながら記念写真。

いろいろ4人で観光しながら実に楽しそう。
このあたりはテンポよくどんどん4人が動く。



夕方、小さな駅京福電鉄の東古市駅のホームで歌子たちを見送る寅


歌子「
寅さん、どうもありがとう。ほんと楽しかったわ。
寅さんに会えなかったらこんどの旅はこんなに楽しくなかったに違いないわ。会えてよかった。

寅「
そ、そうかい
歌子、かばんから
ハンカチに包んだ大きな木の鈴を取り出して
歌子「
これ、お礼というほどのもんじゃないんだけれど、記念に受け取ってちょうだい←結構デカイ鈴!

歌子たちの汽車が出発しようとする。寅は歌子にお札を渡してお返しをする。

歌子たち窓から手を振り「
さようなら!ありがとう!お元気で!
寅「
気をつけて帰るんだよー!
一人残った寅。
少し淋しげ。
寅「
行っちまったか…
おもむろに財布開けて、見て、
ほとんど空っぽ。

歌子のくれた鈴を指で振りながら寂しく駅前を歩いていく寅でした。
このときの夕闇迫る何気ない駅前の風景は情緒があって大好きなシーンだ。


            



B【寅、再びの帰郷と歌子ちゃんを待ちわびる日々】


歌子の自宅

歌子長旅で疲れた感じ。

父親、小説を書いている。ひとことふたこと会話するだけ。
父親、歌子が置いていったお土産を少し触って見ている、がまたすぐにペンを走らせる。
歌子疲れている。
焦げたトーストが留守中の全てを物語っていた。

宮口精二さん、このあとの「恋やつれ」でも随所に名演技を見せてくれます。

           




江戸川土手

バックにハーモニカ演奏


江戸川土手に戻ってきた寅。すぐに戻ってきたんだねえ〜。

遠くを眺めながら
かばんに歌子ちゃんがくれたあの大きな鈴をつけている。←かわいい!!

みどりとマリが、寅に会えるかもしれないと、
柴又へ遊びに来ていた。土手でばったり出会う寅。


寅「
そうかい。よく来たなぁ
マリ「
ねえ、寅さん、30年ぶりに帰ってきたんでしょう?
寅「
…そう。懐かしい嘘つき倒すのも大変だねえ〜。
2人「
そうでしょうねー!

2人寅をとらやに引っ張ってくる。


とらや

マリ「
とらや、って書いてあるわね。30年くらいは経っている感じね←30年にこだわっている(^^;)
みどり「
寅さん、寅さん、こっちこっち
マリ「
ねえ、なんか見覚えない?
そうよな、そう言われてみりゃ、昔見覚えがあるような…
マリ
「あのー、ちょっとお伺いしますが、車寅次郎さんって、ご存知じゃないですか?」
おいちゃん「
えー、知ってますよ。私の甥っ子ですからね
みどりとマリ
「あらー!!」と感動している。
マリ「
びっくりなさっちゃいけませんよ!あの人がその寅次郎さんなんですよ!
←ビックリしてるのはマリとみどりだけだって(^^:)

寅、恥ずかしくて後ろを向いている。
みどり「
寅さん、寅さん、あなたのおじさまよ!よかったわねえ!

           

寅「
生きてた!?
みどり
生きてた

寅、
ストン!とかばんを下に落として手を広げ、  
三味線 ぺぺぺペンペンペンペン  笛 ピ〜
寅「ハハ!!それじゃ、おまえはオレのおじき!!よくまあ、
 長生きしてくれたなあ〜


寅、おばちゃんを見て「
こちらのご婦人は!?
おいちゃん「
女房だよ!
寅、大声で
「それじゃあんたは私のおば!」
タコ社長とらやに入ってきて「いよー!寅さん、お帰り!」
「そう言うおまえは工場の社長ー!!」
おいちゃん
「バカ!!いいかげんにしろ!」



とらやの縁側

縁側座って笑い転げるマリとみどり

寅とさくらが一緒にいる。みんなで寅が大ぼらを吹いていたことを笑っている。


歌子ちゃんは茶の間のシーンふんだんにあったのに、マリとみどりは縁側。
やっぱり脇役だけではなかなか茶の間のシーンもらえないのかなあ…。


それとなく歌子ちゃんに恋人がいるかどうか聞く寅。

寅「
そうだけど、恋人くらいいるだろー、なー
みどり「
さあ、どうかしらねえ…友人なのに何も知らないんだねえ…(−−)
マリ「
歌子さんって引っ込み思案だしねえ。
みどり「
それにね、家庭的にちょっと不幸があたりしてね
寅「
自動車事故か?
みどり「
いえ、そんなんじゃないの
寅「
こっちがひいちゃったんだろ
みどり「
違うんだって、あの、お父さんが小説家でね、
寅「
小説家のお父さんが自動車事故か
このパターンのギャグは「葛飾立志篇」でもでてきた。
みどり「
違うの
マリ「
それにね、だいぶ前にお母さんが離婚なさってね…
みどり「
うん、そのあとずっとね…
マリ「
歌子さんがお父さんの面倒を見てるんです
おばちゃん「
まあ、大変だねえ、まだ、お若いのにお父さんの世話してるなんてねえ
寅、歌子の写真見ながら「
不幸せ、ねえ…


夜。とらやの茶の間食後の後片付け

タコ社長、歌子ちゃんの写真見ながら「ふーん、このお嬢さんがねえー…どう見たって幸せそうな
美しいお嬢さんにしか思えねえけどなぁ…」

寅「できりゃ、
いい婿さんのひとりも探してやりてぇ、そういう気持ちになるんだよ。
さくら、ちょっと寅を見る。

寅は自分のことを言ってくれないかといろいろ探っている。
さくらはそれをもう気づいている。


おいちゃんの言う花婿候補をことごとくダメだししていく寅。
自分の名前が出るまで粘るんだねこれが…。

寅「
ほら、もっと身近にいるだろうが、…」

おいちゃん、『はっ』として、遅ればせながらようやく気づく

寅「
普段忘れているけれど名前が出ると、あっ、なんだい、
 そんな人がいたよっ、ての。なあ、さくら、えっ、いるでしょう、なあ…


さくら、しかたなく、「そうねえ、そういえば家にもひとりいたわねえ
寅「
え?そう、誰、?えっ、誰よ?(^^;)
寅「
いやー、考えられないなあ…い、言ってごらん、満男?満男ちゃん?
←そんなわけないだろ!

さくら「
あたしの前にいるでしょうさくらも大変だねえ…(TT)
寅我慢しきれず「
僕でしょ!!
おいちゃん、だめだこりゃ、という顔。

寅、幸福そうに「
はあーっ
さくら、
困ったチャン顔で微笑むしかない。
寅「
そんなふうに言われてもなあ、年が離れているし、なあ、社長
社長「
年なんか問題ないんじゃない?」←御気楽に言ってしまう社長
おいちゃんとさくら、タコの発言に驚く←もう遅いって

寅とても幸福そうに社長にすり寄り、(^^;)
寅「
しかし、会社の経営なんか大変なんでしょう。
 明朝(
みょうちょう)もまた仕事で早いんでしょう?」とゴマをする。

みんな、シーン

寅「
はは…さて!今日はお開きにして休みましょう。ね!」   題経寺の鐘『ゴ〜ン』
寅「
今夜はなんだか未来の幸せについてしみじみ考えてみたい気持ちだなあー。
二階への階段を上りながら
♪いつでも夢を〜、いつでも夢ェを〜♪
『ゴ〜ン』吉永小百合さんのヒット曲(橋幸夫さんとのデュエット)
 作詞:佐伯孝夫 作曲・編曲:吉田正  昭和37年 その年のレコード大賞。 同名の吉永さん主演の映画もある。

おいちゃん「
あーあーいやだいやだ、また始まったぁー…」と頭抱える。
題経寺の鐘
『ゴ〜ン』

             



C【歌子ちゃんがやって来て大ハシャギの寅】

とらや

マリとみどりから寅のことを聞いた歌子ちゃん、遂にとらやにやって来る。

歌子「ごめんください

誰もいない

寅、帝釈様からとらやに戻りながら「
あーあ、たまにお参りしたからいいことあるかな
いきなりの御利益!!帝釈様ってすごい!!
寅、歌子に気づかずスッと通り過ぎて
寅「
おばちゃん!腹すいたい! いらっしゃい!お店にお客さんだよ!

歌子、後姿の寅に「
寅さん」   
歌子「あたしよ、歌子です


歌子のテーマ流れる。

寅「
あー!!歌子ちゃん!!暖簾外してそのまま持っったまま。
歌子「
こんにちは、寅さん。懐かしいわ
歌子「
ありがとう。マリちゃんやみどりさんから寅さんに会った話聞いてね、もう矢も楯もたまらず
   に来てしまったの。会いたかったわー


極度に緊張している寅。おろおろ

寅「
おばちゃーん。さくらぁー!」と呼んでも返事がない。
草団子くちゃくちゃ棒状に練りながら
寅「
あの…あの連中はみんな元気ですか?
歌子「
あ、あの、昨日ここへ来たでしょ?
寅「
そう、昨日ここへ来たんだよね。昨日から今日までずっと元気かな?
自分でも何言ってるのか分かっていない状態。

寅「
ああー…、どーも季節の変わり目には体の調子が悪くて…
歌子「
大丈夫?
寅「
ええ、大丈夫です。コホッ!コホッ!コホッ!

柴又慕情の「予告編」でこの場面の違うバージョンが見れる!マニア必見!!

さくら店に戻ってくる。


寅「
さくら!!今来たのか、歌子さん来てたんだぞ!!ほっとした寅
さくら「
歌子さん?
寅「
そうだよ!
さくら、思い出して「
あ!まあ!いらっしゃい!
初対面だが寅からさんざん聞いているのですでに親しい気持ち。
歌子、寅に「
さくらさん?」と聞く。

茶の間に上がってもらう。

寅「
そこ、ずーと上がって!」「よし!
店先で客「おじさん、団子ある?」
寅「
団子なんかないよ!帰れ帰れ帰れ!←このパターンのギャグは度々使われている。
客「
団子屋じゃねえか」とどこか行く。
寅「
よし!

歌子ちゃんが、とらやにやって来たので大ハシャギの寅。

          

焼きナスを食べる博。

博「
鮪の刺身だの、ビフテキだの言いますけど、正直なところ僕はこいつが一番上手いな
さくら「
安上がりにできてるんですよ。結局、貧乏暮らしのが出ちゃうのね
寅「
さくら、…なんだよおまえ」 
さくら「
え?」という顔。
寅「
食事の最中にの話なんか、汚いなあ…
博「
いえいえ!
さくら「
違うわよ!そのじゃないわよ!
寅「
その痔じゃないって…イボ痔か?」
さくら「
違うったら!いやねー…」と恥ずかしくて困ってしまう。
歌子、笑いをこらえる。
さくら「
わかりました。ごめんなさいさくら…(TT)
痔のギャグは「寅次郎子守唄」でもマドンナが提供していた。

話題は愛情問題に移っていく。

歌子「
あのー、私、一度おうかがいしたかったの
寅「
なんですか?
歌子「
寅さん、どうして結婚なさらないの?←出た〜!!
題5作で節子さんも質問していたね。

寅「
あー…どうしてって…
歌子「
なにかでも…?
寅「
あー、そんなことないんだよねー、どんなふうになってるんだろうねー、
  そこらあたりのところは?オレなんてのは?何言ってんだ??
さくら失恋したんじゃないの?
寅「
そ、そうは言い切れないんじゃきれないんじゃないかなあー。
  そらまあね、
いろいろ、いろんなことあったからねえー。(博笑いをこらえている)
歌子。真面目に
あ、じゃあ…昔の話
寅「
ええ、もう、そりゃ昔も昔10年も15年もずーっと。くだらないことです
歌子「
じゃあ、その心の痛手が…(博、顔を真っ赤にしてそうとう笑いをこらえている)
寅「
いや、そんなことじゃ…、つまり、
 こっちがそう言う気持ちじゃない
ってことありますからねえ…


みんな笑いを我慢。

寅「
な、さくら
寅「
そうだよね、さくら(大真面目な顔で)
寅「
よ、さくら
寅「
バカヤロー!!何笑ってんだよ!

博、遂に食べ物を吐く←ひえー!!

全員でヒーヒー笑い転げまくる。歌子も笑う。


柴又駅ホーム


歌子「
私あんな美味しいものいただいたの、あんなに楽しい思いしたの初めてよ。ほんとよ
さくら「うん、じゃあまた来てね
寅「
そ、またおいでよ
うなずく歌子

           


普通上野行きがホームに入ってくる。

ドアが開いて、乗ろうとした
歌子の足が止まる。
さくら不思議に思い、「
歌子さん?
歌子、さくらの方を向き、
歌子私…来てよかったわ。本当よ
さくら「
うん
歌子
ほんとに来てよかったわ
寅「
またおいでよ
歌子「
うん
ドアが閉まる。
歌子「
さよなら
さくら「
さよなら
歌子窓から顔出して「
ありがとう、さよなら
電車行ってしまう。

歌子のこのような思いつめた行動、発言の背景には彼女の今までの人生のなかで家庭の温かさというものに
対する飢えが想像できる。さくらにとっては普通の日常の家庭の団欒が、歌子にとっては嬉しい体験だったのだろう。
だからこそ、 歌子は数日後にまたすぐ寅たちに会いにやって来ることになる。


寅、さくらに「
また来るって
さくら、ちょっとあきれて
「はぁ…」と、ついため息。
寅「
なんだ?はぁ…って?
さくら「あ、なんでもない」と言いつつ、寅に違うという意味の手を振る。
寅「
なんだ?これは?えー?」とさくらの手を振る真似をする
さくらと寅、ホームを歩いていく。
さくらの気持ちが垣間見れるこのシーン私は静かだがなかなか面白い。


とらや

歌子ちゃんから電話
また来たいと寅に告げる歌子ちゃん


一同シーン

寅、さくらに
また、来るって
寅、博にまた来るって
寅、おばちゃんにまた来るって
おばちゃん、寅にビールついで上げる。寅、そわそわ



歌子の家

歌子は恋人の正圀のことで父親と意見が対立する。
父親「結婚したきゃ、結婚しろ。知らん」と立ち去る。

歌子泣いてしまう。

歌子のテーマ



D【ふたたびの歌子ちゃん訪問と夢の日々】

とらや

あの電話以来、寅がいつ来るともわからない歌子を待っている。
今日も日が暮れていった。


毎夕、「今日も彼女は来なかったか…」と呟く寅。とらや一同みんな知っている。

暮れ六つの鐘 『ゴ〜ン』


「あーぁ…、今日もとうとう来なかったか…」
はっと一同一斉に寅を見る。
寅、はっ、と我に帰り、さくらに、
寅「
オレ、今、独りごと言ったか?
さくら「
あ、…何も

寅「
そうか…そりゃよかった…みんな聞こえてるって ヾ(^^;)

そこへお約束のタコ社長がやって来る。寅がいるのが分からない。
←くるぞくるぞ!
社長「
あー、あ、今日も彼女は来なかったか!
寅と目が合って「
あ!!
社長「うわー!!助けてぇ〜!!ドタバタ向こうでやっている音。
社長「
オレ今、何て言った?
寅「
何も言わない何も言わないといいつつ殴る蹴る。


茶の間

寅は、歌子ちゃんがいつまた来るか分からないので、バイに行こうとしない。
御前様から仕事をもらって庭掃除をするが、源ちゃんと遊んでしまって役に立たず。



さくら「
上手くいくといいわね
おいちゃん「
えっ!!、歌と寅子さんがかい!?逆だってヾ(^^;)
一同「え!?」
おいちゃん「
いや、寅と歌子さんがかい?
さくら、呆れて「違うわよー!歌子さんの悩みが…、何言ってるのよおいちゃん、もう!」と笑う。
博、食べているもの胸に詰まらせながら、びっくりしている。

おばちゃん「
バカだねー!何言ってるのよー!

一同笑っている。

寅、いつの間にか店の中に立って怒っている。

寅「
出て行くのよ。そうだろ。たったひとりのお兄ちゃん、たった一人の甥っ子の陰口
きいて、ケタケタケタケタ笑っているようなそんな
悪魔の棲家みてえなところへ二度と帰ってこられるかい!


歌子後ろに立っている。

おいちゃんたちにこにこして会釈して挨拶。
寅は気づいていない。
おいちゃん「
どうぞ、せまいところですけど、どうぞお上がりください」みんなにこにこ。
寅、まだ気づかないで
お上がりください?ふざけるなおいちゃん、今更下手に出たって遅いやい

歌子ごめんください

寅、ごめんなさいってあやまりゃすむって問題じゃないよ!!
おいちゃん指差す。
博も指差す。
おばちゃん、顔で向こうをうながす。

寅、ゆっくり振り返って…


歌子
寅さん

寅、小さな声で来たのかい

歌子「突然来てごめんなさいね。上野まで出たら
  どうしてもここへ来たくなって京成電車乗り換えて来ちゃったの


そうかい、来たのかい←なんともいえない優しい表情。

みんな、田舎もんばっかりですけど心の優しい人ばかりがいるところですからね
おいちゃん
悪魔の巣窟だもんね

みんな大笑い。


            



夕食が終って

寅「なんか面白い話ないかよ、ぱーっと席が明るくなるような。おいちゃん、得意じゃないか
おいちゃん「あるある」フフフと思い出し笑い。
寅「
なに
おいちゃん「
この間ね、お駒で社長と飲んでいたんだよ。社長の奴が便所の中で『プーッ』
とデカイ屁たれやがったんだよ。フフフ…

一同聞き入る。
おいちゃん「
そしたらなおかみがビックリして、あら、今の音なんだろう?って言うからさ、ヒヒヒ…
オレがね、ヒヒヒ…、あれは社長の屁だよって言ったら、『
へーッ』だって、ヒヒヒ!
くだらねえ〜(^^;)
おばちゃん、肩をパシ!
一同シラー
寅、歌子に「
つまんないでしょう…
寅「
おいちゃん…、長生きしろよ…(^^;)

寅「さくらはの話。おいちゃんはの話。もうちょっと上品な話題はないのかよ、まったく…
さくら、また前回の痔のこと言われて、驚く。

さくら「じゃあ、
お兄ちゃんの失恋の話でもしたら?」←さくらこの前も「失恋」の話題でからかってたぞ!
寅、さくらの肩つついて
寅「
誰がそんなこと言えって言ったんだよ、おまえ、人が来てるんだよ…
歌子クスクス笑っている。
おばちゃん「
歌子さんなんか失恋したことないでしょ?
歌子
「いいえ、ありますよ

と、自分が結婚まで考えたある男性の、彼女に対するある一言によって、
結婚をすることをやめたくなった話をするのだった。



            


歌子「
その人が私にこんなこと言うのよ。『結婚したら君はバラの手入れだけしてりゃいいんだよ』って
寅、
バタッ!とうつ伏せになってしまう
歌子「
そのとき、私なぜかいやーな気持ちになっちゃってね、
寅、
パッと顔だけ起きる。
歌子「
何て言えばいいのかな、バカにされたみたいっていうのかな…。
  家に帰って父に話したら、『そんな奴やめちまえ。』って言うの。それでそれっきりやめちゃったの
おいちゃん「
そうか、それじゃ失恋じゃなくて、相手の人がふられた
寅、
全身起きて、そうだよ、そいつがいけないんだよ。その男は悪い男だよ
歌子「
そうかしら、私は自分の方が失恋したみたいな気持ちになっちゃったんだけど
寅、
ブルンブルン首をふる
さくら「
私、よーく分かるわ、今おっしゃったこと
歌子「そう?」
おばちゃん「
そうかねえ…、あたしゃ一度でいいからそういうこと言われてみたかったねー
←出た!おばちゃん分かるよその気持ち。
おいちゃん「
なーにを、へへへ…」とバカにする。
おばちゃん「
なによ、あんたなんて『おい、来るか』ってそう言ったきりじゃないの。←いいねえ!御両人!
おいちゃん「
バカ!オレだって相手によったらそれくらいのセリフ吐くよ!なんだい、バラの花ってツラかい!?
おばちゃん、ムッとして「
じゃ!あんたいったいなによ!
おいちゃん
ウヘ―ッて感じですくむ。
みんなクスクス笑っている。
寅「
ようよう、よしなよ、人前で喧嘩なんか。お互いバラの花ってガラか?
せいぜい鼻の穴ぐらいじゃねえか

歌子、さくら、クスクス笑う。
寅「
君は一日鼻の穴の掃除をしてれば.いいのか!? ハハハ!
みんな大笑い
寅「
まいったねー!」と笑う。
歌子笑いながら「
あー、面白かった。それじゃ…、私、…そろそろ
おばちゃん「
あら、まだ、いいじゃありませんか
歌子、
実は引き止めてくれて嬉しいのだが、
一応「ええ、でも、もう遅いですから…」と言ってみる。


さくら「
あの、よかったら泊まってらっしゃらない?
寅、小さな声で「
そうそう
さくら「
お父さんに叱られるかしら?
おばちゃん「
でもね…お一人じゃね…
おいちゃん、
歌子の微妙な表情でピンと来て電話してあげればいいんだよ
さくら、ほっとして「
あ、そうね。どう?歌子さん
歌子「
そうね…じゃあ、あの…泊めていただこうかしら
寅、急に顔が華やいで
よし!
寅「
おばちゃん!布団ひいて布団ひいて!
歌子「
あの、なんか、厚かましいかしら…
寅「
そんなことない!
寅「
さくら、すぐ風呂沸かす!よし!ニカーと満面の笑みの寅
寅「
おばちゃん!はやく2階で布団ひいて!さくら、風呂沸かす風呂!どんどん立つ!よし!
歌子「
すいません、どうも
寅「
敏速!よし!
歌子「
ごめんね、寅さん
寅「
よし!


朝日印刷の工員ハーモニカ吹いている。故郷の空

とらやの二階

歌子「
あのね、さくらさん…実はね、私、今日最初からここに泊めていただくつもりで来たのよ
さくら、うなずきながらマッチに火をつける。
歌子「
厚かましくてごめんなさいね
さくら「
うん、いいのよ。私、そんな感じしてたわ…
さくら、フッとマッチの火を消す。
歌子「
そう…
さくら「
なにか、あったの?
歌子「
父と…、ちょっとね…」と泣きそうになる。

どんなに笑っていてもほんとうの歌子の心はいつも父親との葛藤で悩んでいるのだろう。

ところで素朴な疑問だが歌子ちゃんせっかくさくらが沸かしたお風呂入ったのかなあ?
髪の毛とか濡れてないし…。まあいいか、細かいことは(^^;)



歌子の家の縁側

父親が歌子の置手紙を読み、寂しげに娘のことを思っている。
手紙『どうしてもお父さんが相談に乗ってくださらないのなら私ひとりで結論をだすより仕方ありません』



江戸川土手

歌子のテーマが美しく流れている。 歌子の置手紙のナレーションと同時に江戸川土手で
白つめ草
花の冠を作って遊ぶ歌子と歌子の周りをジャレる寅と源ちゃん。
寅、歌子の花冠を見て嬉しそう。歌子もおどけて寅をからかう。 キラキラ光っている瞳

              

歌子とても幸せそう。風が吹いている。 源ちゃん逆立ちしておどける。
つかの間の幸せ。


シリーズ屈指の名場面のひとつ

              


とらや


歌子「
寅さん、私、今日さくらさんっちでおよばれだったの
博、寅にすまなさそう。
歌子「
ごめんなさい、遅くなって、すぐ来ます」と2階に上がる。
博、寅に、招待したのは歌子さんだけだと言うと、寅ふくれる。

寅「
へっ!芋の煮つけでも食って屁でもたれて寝るか!あーやだやだ」と寝転がる。
源ちゃん、指差しながらクスクス笑っている。
博、源ちゃんに「
君、そろそろ鐘をつく時間だぞ
源ちゃん、はっ!と驚いて、アタフタと帰っていく。
博「
最初は、兄さんも招待するつもりだったんです
博「
話しづらいことがあるんでしょう。たとえば、愛情問題なんか…
寅「
愛情の問題でどうしてオレがいねえほうが?……
寅、はっ、としてクスッと笑い、
寅「
バカ!オレがいないほうがいいなんて、おまえ、考えすぎだよ!
と、大いに照れる。
↑寅のほうが考えすぎ(^^;)ああ…凄い勘違い。

歌子戻ってきて「
じゃ、寅さん
寅「
あっ、言ってくるかね。どーせ職工ふぜいのところだからね、
 ろくな御馳走はないだろうけど、どんどん食ってきなよ


寅「
♪星よりひそかに〜
寺の鐘『ゴ〜ン』



E【博の踏み込んだ助言と歌子ちゃんの決意】


さくらのアパート


食後、歌子と二人で食器片付けながら

さくら「
焼き物って言うと、こういうお皿とかお茶碗とか?
歌子「
ええ、なかなか大変な仕事なんだけど、彼はまだ修行中で一人前じゃないの
さくら「
じゃ、その方と結婚するってことは、愛知県のそれも窯場のあるような田舎で暮らすことになるわねえ…←多治見
歌子「
ええ、父は彼の将来性がないとか、口のきき方が気に入らないとか言っているんだけれど、
   
結局私をそばから離したくないのよ


             

博「
しかしなあ、さくら、誰かが傷ついたり、寂しい思いしても、仕方ないことだってあるよな
さくら「
どういうこと?
博「
うん、仮にだよ、歌子さんがお父さんのために結婚を諦めたとしても、誰も幸せになるわけじゃないだろ…
歌子「
そりゃそうかもしれないけれど、でも、私の場合は母がいないし、それに父はとてもひとり暮らしなんか…
博「そうかなあ、僕はそうは思わないなあ…。あなたができないと思い込んでるだけじゃないですか?
  
あなたのお父さんはそれに耐えていけるはずですよ大丈夫ですよ←さすが博、ここ一番ではしっかり言う。
歌子「
そうかなぁ…
さくら「
でも、辛いわよねえ…、私のときなんか両親ともいなかったからそんな苦労なかったけど…
博「
兄さんがいて、反対したじゃないか
さくら「
あんな、お兄ちゃんなんか!←さくらの可愛い発言(^^)
博「
でも、あのお兄さんが反対したのがきっかけみたいなもんなんだよ
さくら「
だって、お兄ちゃん無茶苦茶言ってただけじゃないの
博「
無茶苦茶言って反対されたからこそ、
 僕はカーッとなって
プロポーズしたんじゃないか!

本当は物語的にはそうではない。第1作を参照
さくら、恥ずかしがって「
なに急に言うのよ←ちょっと赤くなる
博「
なに、…バカだなあ!つまりさ、今の歌子さんに必要なのは
 きっかけみたいなものじゃないかって
←ちょっと赤くなる

歌子「
私、さくらさんが羨ましいわ…
さくら「
え?なにが?
歌子「
あなたたちからみたら私なんて意気地がなくって迷ってばかりで…、
   なんだかみっともないわねえ…

さくら「
ううん、そんなこと
博「
いいじゃありませんか。みっともなくたって。それはあなたが優しい人だからですよ
 ↑博、本質をついたいいこと言うなぁ。さくら、うなずく。ここまで踏み込んでしっかり言わないと
  なかなか人は勇気付けられないものなのだ。第9作で、最も感銘を受けた言葉だった。


 歌子、ちょっと驚いて下を向く。

博「
幸せだなあ、あなたのお父さんは←博の洞察力はたいしたものだ。
歌子、ちょっと照れながら「
そうかしら…


寅がアパートの階段を上がってくる。

博「
しかし考えてみたら歌子さんがこうして、
 たとえ2、3日でも家を空けたということは
行動を開始したと、いうことですよね

うなずく歌子
さくら「
離れて暮らすのは大変でしょうね。でも…好きなんでしょ?

歌子、うなずきながら、「好きです←小さな声だがはっきりと言う。

さくら「
それさえ、はっきりしていれば大丈夫よ。ねえ。
博「
ああ。あなたのような人が幸せになれないはずありませんよ
さくら「そうよねえ」
歌子「ありがとう。私今日ほんとにいい話を聞いたわ」

さくらなにげなく台所の窓を開けると
寅が立っていて超びっくり!
さくら「
あっ!!
寅「
あれ!?なんだい、ここお前の家か、あっ、そーか、ハハハ…
さくら「
なに言ってんの、はやくお入りなさいよ
寅「
ハイハイ

歌子にとって人生の分岐点となったこの夜のさくらや博との会話は
生涯忘れえぬものとなったに違いない。


           

寅たちが帰った後…
博「
またひとつ失恋話が増えるんだな…
さくら、ちょっと複雑な気持ち。


夜の題経寺山門


歌子「
実はねえ…
寅「え?」もうニコニコ
歌子「
結婚の相談をしていたの…
寅、ハッとして、いよいよ
自分のことかと思い、うれしさを隠しきれない。
寅「
誰の?
歌子「
私の…
寅、感極まって「
そんな…」とうれしくて下を向いてしまう。
歌子、それには気づかず
歌子「
父が反対していることもあってね、長い間、もう5年もの間悩んでいたのよ。
でも今夜、私決心がついたの。
彼と結婚することを


寅思いもしなかった歌子の言葉に愕然としながら、ゆっくり顔を上げていく。

寅、声震わせながら彼って、どこの人…?(TT)

歌子「
愛知県の方でね焼き物焼いているの←彼の故郷の方は山口県の津和野(第13作「恋やつれ」)
声震わせて「
…じゃあ、オレのような遊び人じゃないんだね」と何度もうなずく。←寅、自分のこと分かってるんだなあ。
歌子「
黙って、一日中泥をこねたりロクロ回したりしているような人だけど、寅さんに会ったらきっと気に入ってもらえるわ。
彼だって、寅さんが大好きになるに決まっているわ。

寅「
そうかい、そりゃよかった…」下を向く←つらそうな寅
歌子「
あのね、寅さん。
寅「
ん?
歌子「
私って意志が弱いどっちつかずの中途半端な人間で、自分でそんなところが嫌でたまらなかったんだけど、
今夜さくらさんたちと話し合っているうちにね、とってもはっきり決心がついたの。…私結婚しよう。明日の朝の
汽車で彼に会いに行こうって…私が幸せになれたらそれは、寅さんのお陰よ。もし寅さんに会えなかったら、
私結局ひとりで悩んで諦めちゃったかもしれないのよ

歌子泣く。

歌子は確かに寅に会っていなければ人生を見失っていたかもしれないが、
別の意味で彼女の決意を手伝ったのは博とさくらだった。特に博の言葉には力があった。


どうして歌子の悩みをマリもみどりも全く知らなかったんだろう。
一緒に何度も泊まりがけの旅行するくらい親しいはずなのに…

歌子「
ごめんね。泣いたりして、変ね…嬉しいのに…」嬉しいから泣くんだよ。

寅「いいよ」とすっと立って

寅「
よかったじゃねえか。決心できてよ!

歌子「
寅さん、何見てるの?」  

 
歌子のテーマ

寅「
うん?、おー、星よ!今夜は流れ星の多い晩だぜ

歌子「
あ、流れた!大きかったわ。今のだったら願い事がかなうかもしれないわね

           

寅「
今度は、頼んでみてごらん

歌子夜空を眺める。

その歌子の横顔をじっと見つめる寅。←寅の切ない気持ちが表情に出ていた。
第13作「恋やつれ」でもラスト付近で浴衣を来た歌子が自宅の庭で花火を見ている後姿を見続ける寅の姿があった。

歌子「
あ。また流れた

源ちゃんもちょっと離れたところで空を見上げている。



F【寅の旅立ちと登との再会】

江戸川土手


寅とさくらと満男

土手にかばんが置いてある。(旅立つのだろう。)

かばんには失恋した後も歌子ちゃんがくれた大きな鈴がくくりつけてある。

さくら草むらに座り、寅は寝転がって肘をついている。

さくら「
幸せになれそうでよかったわね、歌子さん
寅「
うん
さくら「
いつかの晩言ってたもんね、お兄ちゃん。いいお婿さん探してやりたいって…。
   その通りになりそうね、お兄ちゃん

寅「
うん、そうだよな…
さくら「
…やっぱり寂しいの?
寅「
なんで?どうしてオレが寂しいのよ…
さくら「
じゃぁ…、どうして旅に出ちゃうの?
寅、ちょっと空の方を見て指を差す。

寅「
ほら、見な、あんな雲になりてえんだよ

さくら、手をかざして空を見る。

                  

↑何気ないこのシーンのこのセリフが48作全部の寅の旅立ちの
気持ちを代弁してくれている。

地味だが、このシーンもシリーズ屈指の名場面の一つだと思う。

寅、小さな声で独り言「
またふられたか…

さくら、ハッとして寅の方を見る。


寅、「
え?」と起き上がり「オレ、今なんか言ったか?
さくら「
ううん……なにも
と知らないふりをして下を向く。
さくらもやっぱり切ないのだ。
寅、さくらを見てちょっと安心してうなずく。


土手で一緒に遊ぶ満男。


それから ひと月後

夏真っ盛り、ちょうどもうすぐお盆のころの とらや


とらやの茶の間で歌子からの手紙やハガキを読んでいる父親。


父親「
娘が大変ご厄介になりまして…ほんとほんと(^^;)
おばちゃん「
いえ、とんでもありません。何のお世話もできませんで。
      でも、あの、お幸せそうで結構でございますね


           


机に歌子から来た
手紙(封筒で3通)と暑中見舞いのハガキ1通が置いてある。
封筒の裏に『
愛知県春日井市高蔵寺町
鈴木歌子(旧高見)
と書いてある。←籍を入れたんだね歌子ちゃん。

とらやのこの光景に歌子の手紙のナレーションがかぶさっていく。
江戸川土手をさくらと分かれて歩いて帰る歌子の父親。満男と一緒に見送るさくら。

歌子のテーマ

歌子の手紙

みなさん、暑い夏をいかがお過ごしですか。私も元気で毎日土をこねたり薪を運んだりしてすごしております。 
真似事ながら茶碗などをつくってみたりしているうちにとても面白くなって夢中になって今は夢中です

それにしてもなんという暑さでしょう。なにしろ1000度近い窯の近くで働くのですから、一日の終わりには
水を浴びたようになって
思わず彼と顔を見合わせて笑ってしまうのです。


ところで寅さんはどうしてるでしょうか?実はこの前私の留守に訪ねてきたという男の人がどうも寅さんらしいのです。
本当に残念なことをしました。私、とても寅さんに会いたい。今ごろどうしているでしょうか。
相変わらず旅の空でしょうか。 そういえばそろそろ盆踊りの季節ですものね。


寅は、歌子ちゃんが元気でやっているか様子を見に来たんだね…。優しいね。

           

歌子、近所の窯場の人と挨拶をして仕事場へ帰っていく。
この夫、正圀があと2年くらいで病に倒れて亡くなってしまうとは誰が予想しただろうか…



旅先の寅

木造の古い橋を渡っている。


ミンミン蝉が鳴いて、かなり暑そう。
ふと見ると舎弟の登が野糞をして川で手を洗っている。
またもや天文学的確立(^^;)


寅、笑いながらおい、兄さんケツちゃんと拭いたか?ハハハハ!
登「兄貴!あーはハハハ!兄貴!こんなところで何してんだい!?」 あ、いてててと、すべる。
寅「
野糞してたんだよ何だこの野郎ヨタヨタしやがって、ろくなもん食っちゃいねえんだろう!
登「兄貴、そうなんだよちっともいいことなくってさ。ついてねーよと再会が嬉しそう。

                     



通りかかったトラックを拾って走っていく二人。


登「頼む、頼む!」

寅「おい、行こ行こ行こ!」

とドアを開けて、トランク後ろの屋根に乗っけて、二人して乗り込む。
二人を乗せたトラックが向こうに走っていく。

その時正に横を汽車が力強くポーッと疾走して行く。

                 


上映時間 107分
動員数 188万9000人
配収 5億1000万円



第9作「柴又慕情」【本編完全版】はこちら




 

第9作「柴又慕情」ダイジェスト版を本日4月3日にアップしました。
第10作「寅次郎夢枕」ダイジェスト版はだいたい4月6日頃にアップいたします(^^;)ゞ



【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら



【寅次郎な日々】全48作品マドンナ制作年度順






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