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寅次郎な日々

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ご注意) このサイトの文章には物語のネタバレが含まれます。
まだ作品をご覧になっていない方は作品を見終わってからお読みください。



                 

第9作「男はつらいよ.柴又慕情」.ダイジェスト版(2007年4月3日)

第8作「男はつらいよ.寅次郎恋歌」.ダイジェスト版(2007年3月26日)

第7作「男はつらいよ.奮闘篇」.ダイジェスト版(2007年3月23日)

追悼 船越英二さん  「兵頭謙次郎パパよ永遠に」(2007年3月20日)

第6作「男はつらいよ.純情篇」.ダイジェスト版(2007年3月17日)

第5作「男はつらいよ.望郷篇」.ダイジェスト版(2007年3月14日)

第4作「新.男はつらいよ」.ダイジェスト版(2007、3,12)

枯葉降る庭 眺めつ逝きたし(2007、3,9)

第3作「男はつらいよ. フーテンの寅」.ダイジェスト版(2007、3,6)

第2作「続男はつらいよ」.ダイジェスト版(2007、3,3)

第1作「男はつらいよ」.ダイジェスト版(2007、3,1)






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304

                          
『寅次郎な日々』バックナンバー           





第9作「男はつらいよ.柴又慕情」.ダイジェスト版
 


2007年4月3日寅次郎な日々 その304


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


 「ほら、見な、あんな雲になりてえんだよ…」

 松竹をあげての大作となった第8作「寅次郎恋歌」は予想通り大ヒットとなった。いよいよ会社としても、スタッフ達にとって
 もう後戻りができないところまで来たのだ。第9作のマドンナには当時すでに大スターだった吉永小百合さんを遂に起用。
 渥美さんも珍しく吉永さん起用に自ら大いに乗り気で、スタッフ、キャスト全てが地に足をつけながらも乗りに乗り始めたのが
 このあたりである。本編を見ていても渥美さんは吉永さんとの共演が実に楽しそうである。吉永小百合がマドンナ!
 もうこれだけのことで画面が一気に活気付く感じがする。

 また、この作品ではもちろんマドンナに案の定振られるが、第8作でもそうであったようにもうあからさまに振られることはない。寅次
 郎は作品を経るごとに、ある意味どんどんかっこよくなっていくのである。この作品で美しく華やいでいた吉永小百合さんを、
 山田監督が放っておくはずもなく第13作「恋やつれ」で同一人物のマドンナ、つまり続篇として再登場してくるのである。役が同一
 人物(続篇)のマドンナは浅丘ルリ子さん、後藤久美子さん、そしてこの吉永小百合さんの3人だけである。3人とも強烈な魅力を放
 ち、スクリーンに美しい花を咲かせていた。もっとも山田監督が後に語っていたところによると、歌子ちゃんをもう一度(3回目の登場)
 させる案がかなり進んでいたようで、大島の養護施設を辞めた歌子ちゃんが寅に再会することになっていたらしい。これは実に、観たか
 った話だ!残念…。

 また、第8作後に亡くなられた森川信さんに代わり、新しいおいちゃん役を松村達雄さんがこの第9作から演じている。初代のおいちゃん
 があまりにもすごいので、松村さんは大変だっただろうと思われる。しかし、おとぼけの森川さんとはまた違った、チャキチャキのキップ
 のいい人情味溢れるおいちゃんを見事に演じていた。松村さんもほんと名優だと思う。

 物語終盤、さくらがどうしてまた旅に行っちゃうの?って聞いた時、江戸川の土手にねっころがりながら寅次郎が空を指差し言うセリフ
 「ほら、見な、あんな雲になりてえんだよ…」 は私たちの心を代弁してくれる名言だ。


本編


@【寅の帰郷と貸し間有り騒動】

今回は「夢」がある。

戦前の頃の貧しい漁村。 さくらが浜辺にいて借金取り(吉田義夫)たちが押し寄せてきた。という設定。
お金がないので、鍋、布団、漁の網、などを持っていこうとする。
そこへ故郷を捨てて長らく帰ってこなかった寅次郎が戻ってくる。←木枯らし文次郎風に長い楊子をくわえている。

寅「無駄な人殺しはしたくありません。もし、金で済むことでしたら…」

ぽいっと札束を前に放る。

博「もし、旅のお方、今確かに寅次郎さんとか…」
さくら「私には今を去る20年前、ゆくえの知れなくなったたったひとりの兄がおりました。
その名を寅次郎と申しましたが、もしやあなた様はその寅次郎様では…」
寅「よくある名前でございますよ」←ないない
さくら「でも、そのお顔は…」
寅「よくあるツラでござんす。」←めったにないよその顔は
さくら追いかけながら「お兄ちゃん!」
泣き崩れる(スローモーション)

今回はさくらや博が家の新築計画のためにお金が必要になるのだが、その複線だね。

              

夢が終わり、小さな駅(かなひら駅)の待合室の長椅子から落ちてしまう寅。

寅、はっと気づいて、「おぅ、すまねえ、すまねえ」とカバンを持って一両列車に飛び乗る。←単線
駅員の笛。『ピィ―ッ!!』 動き始める列車。見送る駅員 ロングで長めに…

              


タイトル  「男はつらいよ 柴又慕情」


口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、
姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。」


  ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


   ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労も掛けまいに 掛けまいに♪


 今回のコントは柴又に戻ってきた寅が江戸川の土手で子供の釣竿を借りて振り回す寅が案の定カップルの
 女の子の帽子を釣り上げてしまい、今回はタコ社長が河原でゴルフをしていて寅が割って入ってドタバタ。
 とらやの常連が歌の中の喜劇に出てくることは珍しい。

 帝釈天の山門前

 さくら「なに見てらっしゃるんですか?」
 御前様「燕の巣だよ」
 さくら「今年もやっぱり帰ってこないんでしょうね」
 御前様「ああ…、この辺も住みにくくなってしまったかな…。もう片付けるか」
 さくら、満男の顔を拭きながら「でも、もし来年帰ってきて自分の巣がなかったら可哀想ですもの…
 御前様「…うん…、あんたらしいこと言うね。」
 さくら「え?」ちょっと間をおいて少し照れるさくら

 この場面はさくらたちの寅への思いが燕(寅)と巣(とらや)に置き換えられた、温かい気持ちになれるいいシーンだ。
 しかし、この後の「貸間有り」の騒動を予感させる話にもなっている。

参道をとらやへ歩いていくさくらと満男。
この第9作は中村はやと君お休みで、
沖田康浩君が臨時の満男を務めました。
源ちゃんこと佐藤蛾次郎さんは肋骨をたくさん折った交通事故で第8作は休んだがこの作品からまた復活!


とらや

さくら、店先にかかっている『貸間有り』の札を見て、不思議に思う。

おいちゃん「ホラ、お前達もいよいよ家建てる決心しただろう。それについちゃ、俺たちも何か応援しなきゃならないし、
かといって金はねえし、だから2階貸してさ、いくらかでもお前達の足し前にしようと。こういうわけなんだよ


しかし、さくらは寅が帰ってきたときのことを心配している。

さくら「だって、もうお前の部屋はないよ−って言ってるようなもんじゃない
おいちゃん「そうか…

そこへタコ社長ゴルフしてたことを寅に見つかった、と飛んでくる。

一同外を見て『はっ』とする。寅が前の道にもう来てしまっている。

寅、ニコッと笑って店に入ってくる。
寅「さくら!」といいつつ、はっ!と札に気づいて店先に戻って『貸間有り』の札をもう一度見る。
寅、顔をうつむき、出て道に行く。

              

前の江戸屋さんの前でションボリ

寅、また歩いて駅の方へ行く。さくら追いかけて
さくら「ねえ、お兄ちゃんどうしたのよ?」←さくら、それはないよ、分かってるくせに。
寅さすがに怒って「てめえの胸に手を当てて考えてみろよ
さくら「何のこと?」←まだシラを切るさくら
寅「とぼけるな!あの魔除けの札の下の、あの札はなんて読むんだ?
さくら「ああ…あの貸間有りの札のこと?…
寅「ほう…!あれがあれが貸間有りって読むのか
さくら「えっ?
寅「オレにはねー、もうお前の住むところはないよー!って読めたなー、
ふん!どおせオレは歓迎されざる男だよ。
もうちっと落ち着くところをてめえで探さぁ…、達者でな

さくら「


不動産屋を渡り歩いて部屋を探す寅

寅「日当たりが悪くたって部屋が汚くたっていいし、裏が工場かなんかでさ、
ねえかい?そんな部屋ねえかい」←それじゃ、とらやだよ。

なかなか決まらない寅です。だいたいが敷金礼金払えるのかね?

次の不動産屋

社長は桂伸治さん

寅「なーっ、ま、欲を言やぁさ、親切な女将のひとりもいて、オレが仕事から帰ったら疲れて帰ってくる。
『お帰りなさい。疲れたでしょう』そんなひと言を言ってくれりゃ十分よ。


あっ、風呂なくていいよ、オレ銭湯大好きだからね。『ひとっ風呂浴びてらっしゃいな。
帰ってくるまでに晩御飯作っとくから』 タオル、洗面器、シャボン、
『どーせあんた細かいお金ないんだろ』40円!ポンともらって『じゃ言ってくるか』『いってらっしゃい』
やがてオレは風呂へ行く。帰って晩御飯になる。ね!オレはおかずなんてなんだっていいな。
どおせ家賃はたいしたことないんだからさ。そうねぇ…、おつまみに刺身一皿、煮しめにお吸い物、
卵焼きがあってもいいし、おひたしなんかもあったらいいな。お銚子3本くらいそっと飲む。昼間の疲れで、
つい、ウトウトッとなる。ね!女将はそれを見て『
さくら、枕を持てっておやり。ついでに
お腰も揉んでやったらいいんじゃないかい』さくらってのはその下宿の娘よ」


↑見事な寅の『アリア』だ。現実無視もここまでいくと気持ちがいい

店主呆れてものも言えない。


             

3軒目の不動産屋

寅「オレ、くたびれたよ、なんでもいいよ。頼むよ」
店主「と、おっしゃいましてもねー…、あっ、これなんかどうかな?」←お馴染み、いつもは備後屋佐山俊二さん!
寅「あー、それでいい、それでいい、それでいいよ
店主「家は古いんですけどね。そのかわりお値段がぐっとお安くなってるんですよ」


とらやの茶の間

博「な、さくら、子供のために庭が欲しいなぁ…
さくら「そうね
博「しかし20坪の土地じゃあなぁ…

不動産屋が寅を連れてくる。

車が止まる。

寅「あー、みなさん、あっ、こりゃどうもお世話になります、皆さん
不動産店主「みなさん、いい方ですよ」
寅「あー、そうですか…、へぇ、…おでんに、茶めし、商いやってるのか。
や.ら.と.さんね。とらやを右から読んで
寅、不動産屋にむかって「おじさん、オレも以前ね、こうした家にご厄介になったことあるんだよ
不動産店主「よく言うよ
寅「本当だよ、」っていいながら一同を初めてまじまじと見る。
寅「あ〜あ〜!!!。ばかやろう!ここはオレの家だい!

結局さくらたちが謝ってみんなで茶の間の方に行くき、事なきを得たように見えたが、

不動産屋にこにこして、寅に手数料の6000円を払ってもらおうとする。

寅「おい!冗談言うな!オレがオレの家に帰ってきて
 どうしておまえに6000円払わなきゃならねえんだ!!

不動産屋「払えないと。そんなら、出るとこ出ましょ!
寅「出るとこって面か!この野郎!出るものが3日も出ねえような面しやがって!帰れ!帰れ!
結局寅は不動産屋と大喧嘩、
博、不動産屋をひょいと抱えてキャッシャーのカウンターに乗せて非難させる。佐山さん絵になる!
佐山さん博にも雑に扱われて面白い!いい味出しているなぁ。

             

とらやの茶の間

寅「オレのたった一つの安息の場所をよ、断りもなしに見ず知らずの他人に貸し与えて
 少しばかりの小銭を稼ごうってそういうきたねえ魂胆だからこういう
があたるんだよ


寅「オレは部屋を貸したことで文句言ってるんじゃねえんだよ。ひと言挨拶があってしかるべきだろう。
  それが常識ってもんですよ!

さくら「じゃあ、どうすればお兄ちゃんに相談できるっていうの?
寅「なにぃ!
さくら「そんな時、どこへ行ったらお兄ちゃんに会えるの?さくらの顔悲しげ…
寅、さくらのこの言葉に何も言えずに黙ってしまう。

しかし、一難去ってまた一難、「お前が帰ってきたら迷惑だと」おいちゃんが言ったものだから
今度は寅とおいちゃんが喧嘩を始めてしまう。


           

おばちゃん、博止めに入る。
さくら「やめて!!
博「我慢してください!我慢してください!今度の責任は僕にあるんです
寅「あたりめえだよ!いけないのはおまえたち夫婦だよ!
さくら、複雑な表情

寅「そうだよ!なんだ、あんちゃんは見なくたってお前たちの家がどんなだかよく分かるよ。
 割り箸みたいな細い柱立ててよ、安い煎餅みたいな壁をペタペタ貼り付けて中へお住みになるんですか?
 中へよっこらしょっと座ったら
ストーンと底が抜けるんじゃねえかおめえ!
 そよ風がふわっと吹いただけでコロンと転がるような家だよ。みっともねえことはやめろい!家なんか建てる
 なんて生意気なことやめろ!やめろ!
」←寅言ってることがきついぞ!

博、じっと寅を見つめている。眼に涙が貯まっている。

寅「なんだよ!なんだい!どうしたんだい!

博「…兄さん、ひどいこと言うな…。いくら兄さんだってそんな…そんな言い方は…。
博の目から涙が頬に落ちる

寅、戸惑いながら、博をじっと見つめる。

一同無言

さくら「言っていいことと悪いことがあるのよお兄ちゃん。そりゃ私たちの建てる家はどーせ安普請よ。
 そよ風でも吹いたら倒れるかもしれないわ。庭なんかないのと同じよ。でもね、私たちの毎日の節約するよう
 にして5年間に貯めたお金を元にして、あとはおいちゃんにお金借りたり、都の住宅資金からお金借りたり、
 あちこちいっぱい頭下げて何度も何度も嫌な思いをしてがんばってるのよ…。
そりゃ悪いことしてお金儲けて
 大きな家に住んでいる人もいるかもしれないわ。
でもね、私たちが建てる家はまじめに働いたお金で建てるのよ。
 博さんだって自分の家が持てるから嬉しくってしょうがないのよ。
お兄ちゃんは…どうしてさくらがんばれよ
 って、そう言ってくれないのよ…
(さくら泣くおばちゃんも泣いてしまう。)

            

おいちゃん、寅の膝叩いてさくらに謝るように促す。

結局、さくらに言われた言葉が心に突き刺さった失意の寅はみんなの止めるのも聞かず
旅立ってしまうのだった。


みんながっくり…



A【北陸で歌子ちゃんと出会って意気投合】

この後舞台は北陸の金沢へ…

ヨハン.シュトラウスのワルツ

金沢の武家屋敷後などのお決まりの観光地を歩く若い3人の娘たち。
兼六園の池のほとりの茶店私もよく行った
楽しみながらもどこか覚めている3人。

            


旅館に着く寅。


登と再会し、大ハシャギのドンチャン騒ぎ。
 

仲居廊下を覗く←谷よしのさん登場!今回も仲居役。

廊下を挟んだ歌子たちの部屋
それぞれにくつろいでいる3人。

それにしてもOLの歌子ちゃんたちと、商売人の寅が同じ旅館に
泊まっているわけないと思うけど…。


廊下の向こうでは寅たちが騒いでいて「
チンガラホケキョ-の唄」(渥美さんの持ち歌)が微かに聞こえている。

寅「
♪一、二、の三、日が暮れてぇ〜、ホラ、チンガラホケキョ〜、デコ坊よ〜、帰ろうよ〜♪

ちなみにこの唄は第2作「続男はつらいよ」でも散歩先生への道で歌っている。
第8作「恋歌」でも貴子さんの子供たちがこの唄を江戸川土手で歌っていた。


歌子「
子供の時の旅行なんて楽しかったもんね。あれは小学校6年時だったかかなー。
多摩川の遊園地に父と母に連れられて行って、飛行機に乗ったり、メリーゴーランドに
乗ったりしたことがあったのよ。父が珍しく冗談言って笑ったりしてね…。
(ちょっと思い出し笑いしながら)家の父っていつも着物でしょ、だからメリーゴーランドに
乗るとき「
尻っぱしょり」したの。そしたらその格好がね「ドジョウすくい」みたいで可笑しくって
可笑しくって…、どうってことない家族旅行だったけどなんだかとっても楽しかったな…」

マリ「その時は、まだお母さん一緒だったんでしょ?
歌子「母がいなくなる2年前だったわ…と遠い昔を思い出して切なくなっている歌子ちゃん。

この短い会話で歌子の複雑で孤独な青春期が窺い知れる。

マリ「
幸せって、どういうことなのかなぁ…

向かいの部屋の寅たち宿の女中と歌って騒ぎまくる。


仲居の谷よしのさん、48作中の一番の長ゼリフ
「あのねー、お客さん、もしもし、聞こえる?あのねー、
隣のお人がやかましゅうて寝れんゆうておりますがね。
静かにしてくださいよ。もう遅いですしねー。」

しかし言うこと聞かない二人。

マリ「静かにしてください!!と叫んですぐ引っ込む。
寅、部屋の中から「
バカァ!廊下で寝ろ!おまえ、ハハハ!
登廊下に倒れてドラバタ(^^;)

翌朝、寅は登と別れて静かに宿を去る。


福井

歌子たち永平寺を見学。

ローカル線の線路の上をおどけて歩く歌子たち。


疲れて茶店に入る。そこに寅も休んでいる。

寅、店のばあさんや歌子たちに自分の過去を長年帰ってないと、大ぼらを吹く。

寅「
ふっ…、そんなもんあるわけねえや…10年一昔、二昔、いや…30年も経つかなあ…
1ヵ月も経ってないぞ

寅「あれからどうなったのか…

店を出て

マリ「
あ!すいません。記念写真を一枚
寅「
オレか?
歌子、みどり「あ、そうね。じゃ、向こうに、どうぞ」

マリ「そこに並んで、…もうちょっとくっついて。ハイ!写すわよ!ハイ、笑ってー」
「バタ〜!!」←出たぁ〜〜十八番!!(^^;
3人「…!?
歌子とみどり唖然として寅を見る。
寅「あっ、オレ、バターって言った?
 あっ、間違えちゃった!あれ、チーズなんだよね!ハハハ!


            


ここからは実にテンポがいい!
ヨハン.シュトラウスのワルツが鳴り響いて!

バスの中で大はしゃぎの4人。さっきの「バタ〜」のことで笑っている。

寅「
でもよく口大きく開くのはチーズよりバター!!の方が大きく開くよな!
口を閉じて笑わないと意味ないんだよ寅(^^;)
寅「
もっとでかく開くんだったらバンザイ!!って言えばいいんだよ!
窓の外は越前海岸の荒々しい海。
みんなで
東尋坊「バターッ!!」って言いながら記念写真。

いろいろ4人で観光しながら実に楽しそう。
このあたりはテンポよくどんどん4人が動く。



夕方、小さな駅京福電鉄の東古市駅のホームで歌子たちを見送る寅


歌子「
寅さん、どうもありがとう。ほんと楽しかったわ。
寅さんに会えなかったらこんどの旅はこんなに楽しくなかったに違いないわ。会えてよかった。

寅「
そ、そうかい
歌子、かばんから
ハンカチに包んだ大きな木の鈴を取り出して
歌子「
これ、お礼というほどのもんじゃないんだけれど、記念に受け取ってちょうだい←結構デカイ鈴!

歌子たちの汽車が出発しようとする。寅は歌子にお札を渡してお返しをする。

歌子たち窓から手を振り「
さようなら!ありがとう!お元気で!
寅「
気をつけて帰るんだよー!
一人残った寅。
少し淋しげ。
寅「
行っちまったか…
おもむろに財布開けて、見て、
ほとんど空っぽ。

歌子のくれた鈴を指で振りながら寂しく駅前を歩いていく寅でした。
このときの夕闇迫る何気ない駅前の風景は情緒があって大好きなシーンだ。


            



B【寅、再びの帰郷と歌子ちゃんを待ちわびる日々】


歌子の自宅

歌子長旅で疲れた感じ。

父親、小説を書いている。ひとことふたこと会話するだけ。
父親、歌子が置いていったお土産を少し触って見ている、がまたすぐにペンを走らせる。
歌子疲れている。
焦げたトーストが留守中の全てを物語っていた。

宮口精二さん、このあとの「恋やつれ」でも随所に名演技を見せてくれます。

           




江戸川土手

バックにハーモニカ演奏


江戸川土手に戻ってきた寅。すぐに戻ってきたんだねえ〜。

遠くを眺めながら
かばんに歌子ちゃんがくれたあの大きな鈴をつけている。←かわいい!!

みどりとマリが、寅に会えるかもしれないと、
柴又へ遊びに来ていた。土手でばったり出会う寅。


寅「
そうかい。よく来たなぁ
マリ「
ねえ、寅さん、30年ぶりに帰ってきたんでしょう?
寅「
…そう。懐かしい嘘つき倒すのも大変だねえ〜。
2人「
そうでしょうねー!

2人寅をとらやに引っ張ってくる。


とらや

マリ「
とらや、って書いてあるわね。30年くらいは経っている感じね←30年にこだわっている(^^;)
みどり「
寅さん、寅さん、こっちこっち
マリ「
ねえ、なんか見覚えない?
そうよな、そう言われてみりゃ、昔見覚えがあるような…
マリ
「あのー、ちょっとお伺いしますが、車寅次郎さんって、ご存知じゃないですか?」
おいちゃん「
えー、知ってますよ。私の甥っ子ですからね
みどりとマリ
「あらー!!」と感動している。
マリ「
びっくりなさっちゃいけませんよ!あの人がその寅次郎さんなんですよ!
←ビックリしてるのはマリとみどりだけだって(^^:)

寅、恥ずかしくて後ろを向いている。
みどり「
寅さん、寅さん、あなたのおじさまよ!よかったわねえ!

           

寅「
生きてた!?
みどり
生きてた

寅、
ストン!とかばんを下に落として手を広げ、  
三味線 ぺぺぺペンペンペンペン  笛 ピ〜
寅「ハハ!!それじゃ、おまえはオレのおじき!!よくまあ、
 長生きしてくれたなあ〜


寅、おばちゃんを見て「
こちらのご婦人は!?
おいちゃん「
女房だよ!
寅、大声で
「それじゃあんたは私のおば!」
タコ社長とらやに入ってきて「いよー!寅さん、お帰り!」
「そう言うおまえは工場の社長ー!!」
おいちゃん
「バカ!!いいかげんにしろ!」



とらやの縁側

縁側座って笑い転げるマリとみどり

寅とさくらが一緒にいる。みんなで寅が大ぼらを吹いていたことを笑っている。


歌子ちゃんは茶の間のシーンふんだんにあったのに、マリとみどりは縁側。
やっぱり脇役だけではなかなか茶の間のシーンもらえないのかなあ…。


それとなく歌子ちゃんに恋人がいるかどうか聞く寅。

寅「
そうだけど、恋人くらいいるだろー、なー
みどり「
さあ、どうかしらねえ…友人なのに何も知らないんだねえ…(−−)
マリ「
歌子さんって引っ込み思案だしねえ。
みどり「
それにね、家庭的にちょっと不幸があたりしてね
寅「
自動車事故か?
みどり「
いえ、そんなんじゃないの
寅「
こっちがひいちゃったんだろ
みどり「
違うんだって、あの、お父さんが小説家でね、
寅「
小説家のお父さんが自動車事故か
このパターンのギャグは「葛飾立志篇」でもでてきた。
みどり「
違うの
マリ「
それにね、だいぶ前にお母さんが離婚なさってね…
みどり「
うん、そのあとずっとね…
マリ「
歌子さんがお父さんの面倒を見てるんです
おばちゃん「
まあ、大変だねえ、まだ、お若いのにお父さんの世話してるなんてねえ
寅、歌子の写真見ながら「
不幸せ、ねえ…


夜。とらやの茶の間食後の後片付け

タコ社長、歌子ちゃんの写真見ながら「ふーん、このお嬢さんがねえー…どう見たって幸せそうな
美しいお嬢さんにしか思えねえけどなぁ…」

寅「できりゃ、
いい婿さんのひとりも探してやりてぇ、そういう気持ちになるんだよ。
さくら、ちょっと寅を見る。

寅は自分のことを言ってくれないかといろいろ探っている。
さくらはそれをもう気づいている。


おいちゃんの言う花婿候補をことごとくダメだししていく寅。
自分の名前が出るまで粘るんだねこれが…。

寅「
ほら、もっと身近にいるだろうが、…」

おいちゃん、『はっ』として、遅ればせながらようやく気づく

寅「
普段忘れているけれど名前が出ると、あっ、なんだい、
 そんな人がいたよっ、ての。なあ、さくら、えっ、いるでしょう、なあ…


さくら、しかたなく、「そうねえ、そういえば家にもひとりいたわねえ
寅「
え?そう、誰、?えっ、誰よ?(^^;)
寅「
いやー、考えられないなあ…い、言ってごらん、満男?満男ちゃん?
←そんなわけないだろ!

さくら「
あたしの前にいるでしょうさくらも大変だねえ…(TT)
寅我慢しきれず「
僕でしょ!!
おいちゃん、だめだこりゃ、という顔。

寅、幸福そうに「
はあーっ
さくら、
困ったチャン顔で微笑むしかない。
寅「
そんなふうに言われてもなあ、年が離れているし、なあ、社長
社長「
年なんか問題ないんじゃない?」←御気楽に言ってしまう社長
おいちゃんとさくら、タコの発言に驚く←もう遅いって

寅とても幸福そうに社長にすり寄り、(^^;)
寅「
しかし、会社の経営なんか大変なんでしょう。
 明朝(
みょうちょう)もまた仕事で早いんでしょう?」とゴマをする。

みんな、シーン

寅「
はは…さて!今日はお開きにして休みましょう。ね!」   題経寺の鐘『ゴ〜ン』
寅「
今夜はなんだか未来の幸せについてしみじみ考えてみたい気持ちだなあー。
二階への階段を上りながら
♪いつでも夢を〜、いつでも夢ェを〜♪
『ゴ〜ン』吉永小百合さんのヒット曲(橋幸夫さんとのデュエット)
 作詞:佐伯孝夫 作曲・編曲:吉田正  昭和37年 その年のレコード大賞。 同名の吉永さん主演の映画もある。

おいちゃん「
あーあーいやだいやだ、また始まったぁー…」と頭抱える。
題経寺の鐘
『ゴ〜ン』

             



C【歌子ちゃんがやって来て大ハシャギの寅】

とらや

マリとみどりから寅のことを聞いた歌子ちゃん、遂にとらやにやって来る。

歌子「ごめんください

誰もいない

寅、帝釈様からとらやに戻りながら「
あーあ、たまにお参りしたからいいことあるかな
いきなりの御利益!!帝釈様ってすごい!!
寅、歌子に気づかずスッと通り過ぎて
寅「
おばちゃん!腹すいたい! いらっしゃい!お店にお客さんだよ!

歌子、後姿の寅に「
寅さん」   
歌子「あたしよ、歌子です


歌子のテーマ流れる。

寅「
あー!!歌子ちゃん!!暖簾外してそのまま持っったまま。
歌子「
こんにちは、寅さん。懐かしいわ
歌子「
ありがとう。マリちゃんやみどりさんから寅さんに会った話聞いてね、もう矢も楯もたまらず
   に来てしまったの。会いたかったわー


極度に緊張している寅。おろおろ

寅「
おばちゃーん。さくらぁー!」と呼んでも返事がない。
草団子くちゃくちゃ棒状に練りながら
寅「
あの…あの連中はみんな元気ですか?
歌子「
あ、あの、昨日ここへ来たでしょ?
寅「
そう、昨日ここへ来たんだよね。昨日から今日までずっと元気かな?
自分でも何言ってるのか分かっていない状態。

寅「
ああー…、どーも季節の変わり目には体の調子が悪くて…
歌子「
大丈夫?
寅「
ええ、大丈夫です。コホッ!コホッ!コホッ!

柴又慕情の「予告編」でこの場面の違うバージョンが見れる!マニア必見!!

さくら店に戻ってくる。


寅「
さくら!!今来たのか、歌子さん来てたんだぞ!!ほっとした寅
さくら「
歌子さん?
寅「
そうだよ!
さくら、思い出して「
あ!まあ!いらっしゃい!
初対面だが寅からさんざん聞いているのですでに親しい気持ち。
歌子、寅に「
さくらさん?」と聞く。

茶の間に上がってもらう。

寅「
そこ、ずーと上がって!」「よし!
店先で客「おじさん、団子ある?」
寅「
団子なんかないよ!帰れ帰れ帰れ!←このパターンのギャグは度々使われている。
客「
団子屋じゃねえか」とどこか行く。
寅「
よし!

歌子ちゃんが、とらやにやって来たので大ハシャギの寅。

          

焼きナスを食べる博。

博「
鮪の刺身だの、ビフテキだの言いますけど、正直なところ僕はこいつが一番上手いな
さくら「
安上がりにできてるんですよ。結局、貧乏暮らしのが出ちゃうのね
寅「
さくら、…なんだよおまえ」 
さくら「
え?」という顔。
寅「
食事の最中にの話なんか、汚いなあ…
博「
いえいえ!
さくら「
違うわよ!そのじゃないわよ!
寅「
その痔じゃないって…イボ痔か?」
さくら「
違うったら!いやねー…」と恥ずかしくて困ってしまう。
歌子、笑いをこらえる。
さくら「
わかりました。ごめんなさいさくら…(TT)
痔のギャグは「寅次郎子守唄」でもマドンナが提供していた。

話題は愛情問題に移っていく。

歌子「
あのー、私、一度おうかがいしたかったの
寅「
なんですか?
歌子「
寅さん、どうして結婚なさらないの?←出た〜!!
題5作で節子さんも質問していたね。

寅「
あー…どうしてって…
歌子「
なにかでも…?
寅「
あー、そんなことないんだよねー、どんなふうになってるんだろうねー、
  そこらあたりのところは?オレなんてのは?何言ってんだ??
さくら失恋したんじゃないの?
寅「
そ、そうは言い切れないんじゃきれないんじゃないかなあー。
  そらまあね、
いろいろ、いろんなことあったからねえー。(博笑いをこらえている)
歌子。真面目に
あ、じゃあ…昔の話
寅「
ええ、もう、そりゃ昔も昔10年も15年もずーっと。くだらないことです
歌子「
じゃあ、その心の痛手が…(博、顔を真っ赤にしてそうとう笑いをこらえている)
寅「
いや、そんなことじゃ…、つまり、
 こっちがそう言う気持ちじゃない
ってことありますからねえ…


みんな笑いを我慢。

寅「
な、さくら
寅「
そうだよね、さくら(大真面目な顔で)
寅「
よ、さくら
寅「
バカヤロー!!何笑ってんだよ!

博、遂に食べ物を吐く←ひえー!!

全員でヒーヒー笑い転げまくる。歌子も笑う。


柴又駅ホーム


歌子「
私あんな美味しいものいただいたの、あんなに楽しい思いしたの初めてよ。ほんとよ
さくら「うん、じゃあまた来てね
寅「
そ、またおいでよ
うなずく歌子

           


普通上野行きがホームに入ってくる。

ドアが開いて、乗ろうとした
歌子の足が止まる。
さくら不思議に思い、「
歌子さん?
歌子、さくらの方を向き、
歌子私…来てよかったわ。本当よ
さくら「
うん
歌子
ほんとに来てよかったわ
寅「
またおいでよ
歌子「
うん
ドアが閉まる。
歌子「
さよなら
さくら「
さよなら
歌子窓から顔出して「
ありがとう、さよなら
電車行ってしまう。

歌子のこのような思いつめた行動、発言の背景には彼女の今までの人生のなかで家庭の温かさというものに
対する飢えが想像できる。さくらにとっては普通の日常の家庭の団欒が、歌子にとっては嬉しい体験だったのだろう。
だからこそ、 歌子は数日後にまたすぐ寅たちに会いにやって来ることになる。


寅、さくらに「
また来るって
さくら、ちょっとあきれて
「はぁ…」と、ついため息。
寅「
なんだ?はぁ…って?
さくら「あ、なんでもない」と言いつつ、寅に違うという意味の手を振る。
寅「
なんだ?これは?えー?」とさくらの手を振る真似をする
さくらと寅、ホームを歩いていく。
さくらの気持ちが垣間見れるこのシーン私は静かだがなかなか面白い。


とらや

歌子ちゃんから電話
また来たいと寅に告げる歌子ちゃん


一同シーン

寅、さくらに
また、来るって
寅、博にまた来るって
寅、おばちゃんにまた来るって
おばちゃん、寅にビールついで上げる。寅、そわそわ



歌子の家

歌子は恋人の正圀のことで父親と意見が対立する。
父親「結婚したきゃ、結婚しろ。知らん」と立ち去る。

歌子泣いてしまう。

歌子のテーマ



D【ふたたびの歌子ちゃん訪問と夢の日々】

とらや

あの電話以来、寅がいつ来るともわからない歌子を待っている。
今日も日が暮れていった。


毎夕、「今日も彼女は来なかったか…」と呟く寅。とらや一同みんな知っている。

暮れ六つの鐘 『ゴ〜ン』


「あーぁ…、今日もとうとう来なかったか…」
はっと一同一斉に寅を見る。
寅、はっ、と我に帰り、さくらに、
寅「
オレ、今、独りごと言ったか?
さくら「
あ、…何も

寅「
そうか…そりゃよかった…みんな聞こえてるって ヾ(^^;)

そこへお約束のタコ社長がやって来る。寅がいるのが分からない。
←くるぞくるぞ!
社長「
あー、あ、今日も彼女は来なかったか!
寅と目が合って「
あ!!
社長「うわー!!助けてぇ〜!!ドタバタ向こうでやっている音。
社長「
オレ今、何て言った?
寅「
何も言わない何も言わないといいつつ殴る蹴る。


茶の間

寅は、歌子ちゃんがいつまた来るか分からないので、バイに行こうとしない。
御前様から仕事をもらって庭掃除をするが、源ちゃんと遊んでしまって役に立たず。



さくら「
上手くいくといいわね
おいちゃん「
えっ!!、歌と寅子さんがかい!?逆だってヾ(^^;)
一同「え!?」
おいちゃん「
いや、寅と歌子さんがかい?
さくら、呆れて「違うわよー!歌子さんの悩みが…、何言ってるのよおいちゃん、もう!」と笑う。
博、食べているもの胸に詰まらせながら、びっくりしている。

おばちゃん「
バカだねー!何言ってるのよー!

一同笑っている。

寅、いつの間にか店の中に立って怒っている。

寅「
出て行くのよ。そうだろ。たったひとりのお兄ちゃん、たった一人の甥っ子の陰口
きいて、ケタケタケタケタ笑っているようなそんな
悪魔の棲家みてえなところへ二度と帰ってこられるかい!


歌子後ろに立っている。

おいちゃんたちにこにこして会釈して挨拶。
寅は気づいていない。
おいちゃん「
どうぞ、せまいところですけど、どうぞお上がりください」みんなにこにこ。
寅、まだ気づかないで
お上がりください?ふざけるなおいちゃん、今更下手に出たって遅いやい

歌子ごめんください

寅、ごめんなさいってあやまりゃすむって問題じゃないよ!!
おいちゃん指差す。
博も指差す。
おばちゃん、顔で向こうをうながす。

寅、ゆっくり振り返って…


歌子
寅さん

寅、小さな声で来たのかい

歌子「突然来てごめんなさいね。上野まで出たら
  どうしてもここへ来たくなって京成電車乗り換えて来ちゃったの


そうかい、来たのかい←なんともいえない優しい表情。

みんな、田舎もんばっかりですけど心の優しい人ばかりがいるところですからね
おいちゃん
悪魔の巣窟だもんね

みんな大笑い。


            



夕食が終って

寅「なんか面白い話ないかよ、ぱーっと席が明るくなるような。おいちゃん、得意じゃないか
おいちゃん「あるある」フフフと思い出し笑い。
寅「
なに
おいちゃん「
この間ね、お駒で社長と飲んでいたんだよ。社長の奴が便所の中で『プーッ』
とデカイ屁たれやがったんだよ。フフフ…

一同聞き入る。
おいちゃん「
そしたらなおかみがビックリして、あら、今の音なんだろう?って言うからさ、ヒヒヒ…
オレがね、ヒヒヒ…、あれは社長の屁だよって言ったら、『
へーッ』だって、ヒヒヒ!
くだらねえ〜(^^;)
おばちゃん、肩をパシ!
一同シラー
寅、歌子に「
つまんないでしょう…
寅「
おいちゃん…、長生きしろよ…(^^;)

寅「さくらはの話。おいちゃんはの話。もうちょっと上品な話題はないのかよ、まったく…
さくら、また前回の痔のこと言われて、驚く。

さくら「じゃあ、
お兄ちゃんの失恋の話でもしたら?」←さくらこの前も「失恋」の話題でからかってたぞ!
寅、さくらの肩つついて
寅「
誰がそんなこと言えって言ったんだよ、おまえ、人が来てるんだよ…
歌子クスクス笑っている。
おばちゃん「
歌子さんなんか失恋したことないでしょ?
歌子
「いいえ、ありますよ

と、自分が結婚まで考えたある男性の、彼女に対するある一言によって、
結婚をすることをやめたくなった話をするのだった。



            


歌子「
その人が私にこんなこと言うのよ。『結婚したら君はバラの手入れだけしてりゃいいんだよ』って
寅、
バタッ!とうつ伏せになってしまう
歌子「
そのとき、私なぜかいやーな気持ちになっちゃってね、
寅、
パッと顔だけ起きる。
歌子「
何て言えばいいのかな、バカにされたみたいっていうのかな…。
  家に帰って父に話したら、『そんな奴やめちまえ。』って言うの。それでそれっきりやめちゃったの
おいちゃん「
そうか、それじゃ失恋じゃなくて、相手の人がふられた
寅、
全身起きて、そうだよ、そいつがいけないんだよ。その男は悪い男だよ
歌子「
そうかしら、私は自分の方が失恋したみたいな気持ちになっちゃったんだけど
寅、
ブルンブルン首をふる
さくら「
私、よーく分かるわ、今おっしゃったこと
歌子「そう?」
おばちゃん「
そうかねえ…、あたしゃ一度でいいからそういうこと言われてみたかったねー
←出た!おばちゃん分かるよその気持ち。
おいちゃん「
なーにを、へへへ…」とバカにする。
おばちゃん「
なによ、あんたなんて『おい、来るか』ってそう言ったきりじゃないの。←いいねえ!御両人!
おいちゃん「
バカ!オレだって相手によったらそれくらいのセリフ吐くよ!なんだい、バラの花ってツラかい!?
おばちゃん、ムッとして「
じゃ!あんたいったいなによ!
おいちゃん
ウヘ―ッて感じですくむ。
みんなクスクス笑っている。
寅「
ようよう、よしなよ、人前で喧嘩なんか。お互いバラの花ってガラか?
せいぜい鼻の穴ぐらいじゃねえか

歌子、さくら、クスクス笑う。
寅「
君は一日鼻の穴の掃除をしてれば.いいのか!? ハハハ!
みんな大笑い
寅「
まいったねー!」と笑う。
歌子笑いながら「
あー、面白かった。それじゃ…、私、…そろそろ
おばちゃん「
あら、まだ、いいじゃありませんか
歌子、
実は引き止めてくれて嬉しいのだが、
一応「ええ、でも、もう遅いですから…」と言ってみる。


さくら「
あの、よかったら泊まってらっしゃらない?
寅、小さな声で「
そうそう
さくら「
お父さんに叱られるかしら?
おばちゃん「
でもね…お一人じゃね…
おいちゃん、
歌子の微妙な表情でピンと来て電話してあげればいいんだよ
さくら、ほっとして「
あ、そうね。どう?歌子さん
歌子「
そうね…じゃあ、あの…泊めていただこうかしら
寅、急に顔が華やいで
よし!
寅「
おばちゃん!布団ひいて布団ひいて!
歌子「
あの、なんか、厚かましいかしら…
寅「
そんなことない!
寅「
さくら、すぐ風呂沸かす!よし!ニカーと満面の笑みの寅
寅「
おばちゃん!はやく2階で布団ひいて!さくら、風呂沸かす風呂!どんどん立つ!よし!
歌子「
すいません、どうも
寅「
敏速!よし!
歌子「
ごめんね、寅さん
寅「
よし!


朝日印刷の工員ハーモニカ吹いている。故郷の空

とらやの二階

歌子「
あのね、さくらさん…実はね、私、今日最初からここに泊めていただくつもりで来たのよ
さくら、うなずきながらマッチに火をつける。
歌子「
厚かましくてごめんなさいね
さくら「
うん、いいのよ。私、そんな感じしてたわ…
さくら、フッとマッチの火を消す。
歌子「
そう…
さくら「
なにか、あったの?
歌子「
父と…、ちょっとね…」と泣きそうになる。

どんなに笑っていてもほんとうの歌子の心はいつも父親との葛藤で悩んでいるのだろう。

ところで素朴な疑問だが歌子ちゃんせっかくさくらが沸かしたお風呂入ったのかなあ?
髪の毛とか濡れてないし…。まあいいか、細かいことは(^^;)



歌子の家の縁側

父親が歌子の置手紙を読み、寂しげに娘のことを思っている。
手紙『どうしてもお父さんが相談に乗ってくださらないのなら私ひとりで結論をだすより仕方ありません』



江戸川土手

歌子のテーマが美しく流れている。 歌子の置手紙のナレーションと同時に江戸川土手で
白つめ草
花の冠を作って遊ぶ歌子と歌子の周りをジャレる寅と源ちゃん。
寅、歌子の花冠を見て嬉しそう。歌子もおどけて寅をからかう。 キラキラ光っている瞳

              

歌子とても幸せそう。風が吹いている。 源ちゃん逆立ちしておどける。
つかの間の幸せ。


シリーズ屈指の名場面のひとつ

              


とらや


歌子「
寅さん、私、今日さくらさんっちでおよばれだったの
博、寅にすまなさそう。
歌子「
ごめんなさい、遅くなって、すぐ来ます」と2階に上がる。
博、寅に、招待したのは歌子さんだけだと言うと、寅ふくれる。

寅「
へっ!芋の煮つけでも食って屁でもたれて寝るか!あーやだやだ」と寝転がる。
源ちゃん、指差しながらクスクス笑っている。
博、源ちゃんに「
君、そろそろ鐘をつく時間だぞ
源ちゃん、はっ!と驚いて、アタフタと帰っていく。
博「
最初は、兄さんも招待するつもりだったんです
博「
話しづらいことがあるんでしょう。たとえば、愛情問題なんか…
寅「
愛情の問題でどうしてオレがいねえほうが?……
寅、はっ、としてクスッと笑い、
寅「
バカ!オレがいないほうがいいなんて、おまえ、考えすぎだよ!
と、大いに照れる。
↑寅のほうが考えすぎ(^^;)ああ…凄い勘違い。

歌子戻ってきて「
じゃ、寅さん
寅「
あっ、言ってくるかね。どーせ職工ふぜいのところだからね、
 ろくな御馳走はないだろうけど、どんどん食ってきなよ


寅「
♪星よりひそかに〜
寺の鐘『ゴ〜ン』



E【博の踏み込んだ助言と歌子ちゃんの決意】


さくらのアパート


食後、歌子と二人で食器片付けながら

さくら「
焼き物って言うと、こういうお皿とかお茶碗とか?
歌子「
ええ、なかなか大変な仕事なんだけど、彼はまだ修行中で一人前じゃないの
さくら「
じゃ、その方と結婚するってことは、愛知県のそれも窯場のあるような田舎で暮らすことになるわねえ…←多治見
歌子「
ええ、父は彼の将来性がないとか、口のきき方が気に入らないとか言っているんだけれど、
   
結局私をそばから離したくないのよ


             

博「
しかしなあ、さくら、誰かが傷ついたり、寂しい思いしても、仕方ないことだってあるよな
さくら「
どういうこと?
博「
うん、仮にだよ、歌子さんがお父さんのために結婚を諦めたとしても、誰も幸せになるわけじゃないだろ…
歌子「
そりゃそうかもしれないけれど、でも、私の場合は母がいないし、それに父はとてもひとり暮らしなんか…
博「そうかなあ、僕はそうは思わないなあ…。あなたができないと思い込んでるだけじゃないですか?
  
あなたのお父さんはそれに耐えていけるはずですよ大丈夫ですよ←さすが博、ここ一番ではしっかり言う。
歌子「
そうかなぁ…
さくら「
でも、辛いわよねえ…、私のときなんか両親ともいなかったからそんな苦労なかったけど…
博「
兄さんがいて、反対したじゃないか
さくら「
あんな、お兄ちゃんなんか!←さくらの可愛い発言(^^)
博「
でも、あのお兄さんが反対したのがきっかけみたいなもんなんだよ
さくら「
だって、お兄ちゃん無茶苦茶言ってただけじゃないの
博「
無茶苦茶言って反対されたからこそ、
 僕はカーッとなって
プロポーズしたんじゃないか!

本当は物語的にはそうではない。第1作を参照
さくら、恥ずかしがって「
なに急に言うのよ←ちょっと赤くなる
博「
なに、…バカだなあ!つまりさ、今の歌子さんに必要なのは
 きっかけみたいなものじゃないかって
←ちょっと赤くなる

歌子「
私、さくらさんが羨ましいわ…
さくら「
え?なにが?
歌子「
あなたたちからみたら私なんて意気地がなくって迷ってばかりで…、
   なんだかみっともないわねえ…

さくら「
ううん、そんなこと
博「
いいじゃありませんか。みっともなくたって。それはあなたが優しい人だからですよ
 ↑博、本質をついたいいこと言うなぁ。さくら、うなずく。ここまで踏み込んでしっかり言わないと
  なかなか人は勇気付けられないものなのだ。第9作で、最も感銘を受けた言葉だった。


 歌子、ちょっと驚いて下を向く。

博「
幸せだなあ、あなたのお父さんは←博の洞察力はたいしたものだ。
歌子、ちょっと照れながら「
そうかしら…


寅がアパートの階段を上がってくる。

博「
しかし考えてみたら歌子さんがこうして、
 たとえ2、3日でも家を空けたということは
行動を開始したと、いうことですよね

うなずく歌子
さくら「
離れて暮らすのは大変でしょうね。でも…好きなんでしょ?

歌子、うなずきながら、「好きです←小さな声だがはっきりと言う。

さくら「
それさえ、はっきりしていれば大丈夫よ。ねえ。
博「
ああ。あなたのような人が幸せになれないはずありませんよ
さくら「そうよねえ」
歌子「ありがとう。私今日ほんとにいい話を聞いたわ」

さくらなにげなく台所の窓を開けると
寅が立っていて超びっくり!
さくら「
あっ!!
寅「
あれ!?なんだい、ここお前の家か、あっ、そーか、ハハハ…
さくら「
なに言ってんの、はやくお入りなさいよ
寅「
ハイハイ

歌子にとって人生の分岐点となったこの夜のさくらや博との会話は
生涯忘れえぬものとなったに違いない。


           

寅たちが帰った後…
博「
またひとつ失恋話が増えるんだな…
さくら、ちょっと複雑な気持ち。


夜の題経寺山門


歌子「
実はねえ…
寅「え?」もうニコニコ
歌子「
結婚の相談をしていたの…
寅、ハッとして、いよいよ
自分のことかと思い、うれしさを隠しきれない。
寅「
誰の?
歌子「
私の…
寅、感極まって「
そんな…」とうれしくて下を向いてしまう。
歌子、それには気づかず
歌子「
父が反対していることもあってね、長い間、もう5年もの間悩んでいたのよ。
でも今夜、私決心がついたの。
彼と結婚することを


寅思いもしなかった歌子の言葉に愕然としながら、ゆっくり顔を上げていく。

寅、声震わせながら彼って、どこの人…?(TT)

歌子「
愛知県の方でね焼き物焼いているの←彼の故郷の方は山口県の津和野(第13作「恋やつれ」)
声震わせて「
…じゃあ、オレのような遊び人じゃないんだね」と何度もうなずく。←寅、自分のこと分かってるんだなあ。
歌子「
黙って、一日中泥をこねたりロクロ回したりしているような人だけど、寅さんに会ったらきっと気に入ってもらえるわ。
彼だって、寅さんが大好きになるに決まっているわ。

寅「
そうかい、そりゃよかった…」下を向く←つらそうな寅
歌子「
あのね、寅さん。
寅「
ん?
歌子「
私って意志が弱いどっちつかずの中途半端な人間で、自分でそんなところが嫌でたまらなかったんだけど、
今夜さくらさんたちと話し合っているうちにね、とってもはっきり決心がついたの。…私結婚しよう。明日の朝の
汽車で彼に会いに行こうって…私が幸せになれたらそれは、寅さんのお陰よ。もし寅さんに会えなかったら、
私結局ひとりで悩んで諦めちゃったかもしれないのよ

歌子泣く。

歌子は確かに寅に会っていなければ人生を見失っていたかもしれないが、
別の意味で彼女の決意を手伝ったのは博とさくらだった。特に博の言葉には力があった。


どうして歌子の悩みをマリもみどりも全く知らなかったんだろう。
一緒に何度も泊まりがけの旅行するくらい親しいはずなのに…

歌子「
ごめんね。泣いたりして、変ね…嬉しいのに…」嬉しいから泣くんだよ。

寅「いいよ」とすっと立って

寅「
よかったじゃねえか。決心できてよ!

歌子「
寅さん、何見てるの?」  

 
歌子のテーマ

寅「
うん?、おー、星よ!今夜は流れ星の多い晩だぜ

歌子「
あ、流れた!大きかったわ。今のだったら願い事がかなうかもしれないわね

           

寅「
今度は、頼んでみてごらん

歌子夜空を眺める。

その歌子の横顔をじっと見つめる寅。←寅の切ない気持ちが表情に出ていた。
第13作「恋やつれ」でもラスト付近で浴衣を来た歌子が自宅の庭で花火を見ている後姿を見続ける寅の姿があった。

歌子「
あ。また流れた

源ちゃんもちょっと離れたところで空を見上げている。



F【寅の旅立ちと登との再会】

江戸川土手


寅とさくらと満男

土手にかばんが置いてある。(旅立つのだろう。)

かばんには失恋した後も歌子ちゃんがくれた大きな鈴がくくりつけてある。

さくら草むらに座り、寅は寝転がって肘をついている。

さくら「
幸せになれそうでよかったわね、歌子さん
寅「
うん
さくら「
いつかの晩言ってたもんね、お兄ちゃん。いいお婿さん探してやりたいって…。
   その通りになりそうね、お兄ちゃん

寅「
うん、そうだよな…
さくら「
…やっぱり寂しいの?
寅「
なんで?どうしてオレが寂しいのよ…
さくら「
じゃぁ…、どうして旅に出ちゃうの?
寅、ちょっと空の方を見て指を差す。

寅「
ほら、見な、あんな雲になりてえんだよ

さくら、手をかざして空を見る。

                  

↑何気ないこのシーンのこのセリフが48作全部の寅の旅立ちの
気持ちを代弁してくれている。

地味だが、このシーンもシリーズ屈指の名場面の一つだと思う。

寅、小さな声で独り言「
またふられたか…

さくら、ハッとして寅の方を見る。


寅、「
え?」と起き上がり「オレ、今なんか言ったか?
さくら「
ううん……なにも
と知らないふりをして下を向く。
さくらもやっぱり切ないのだ。
寅、さくらを見てちょっと安心してうなずく。


土手で一緒に遊ぶ満男。


それから ひと月後

夏真っ盛り、ちょうどもうすぐお盆のころの とらや


とらやの茶の間で歌子からの手紙やハガキを読んでいる父親。


父親「
娘が大変ご厄介になりまして…ほんとほんと(^^;)
おばちゃん「
いえ、とんでもありません。何のお世話もできませんで。
      でも、あの、お幸せそうで結構でございますね


           


机に歌子から来た
手紙(封筒で3通)と暑中見舞いのハガキ1通が置いてある。
封筒の裏に『
愛知県春日井市高蔵寺町
鈴木歌子(旧高見)
と書いてある。←籍を入れたんだね歌子ちゃん。

とらやのこの光景に歌子の手紙のナレーションがかぶさっていく。
江戸川土手をさくらと分かれて歩いて帰る歌子の父親。満男と一緒に見送るさくら。

歌子のテーマ

歌子の手紙

みなさん、暑い夏をいかがお過ごしですか。私も元気で毎日土をこねたり薪を運んだりしてすごしております。 
真似事ながら茶碗などをつくってみたりしているうちにとても面白くなって夢中になって今は夢中です

それにしてもなんという暑さでしょう。なにしろ1000度近い窯の近くで働くのですから、一日の終わりには
水を浴びたようになって
思わず彼と顔を見合わせて笑ってしまうのです。


ところで寅さんはどうしてるでしょうか?実はこの前私の留守に訪ねてきたという男の人がどうも寅さんらしいのです。
本当に残念なことをしました。私、とても寅さんに会いたい。今ごろどうしているでしょうか。
相変わらず旅の空でしょうか。 そういえばそろそろ盆踊りの季節ですものね。


寅は、歌子ちゃんが元気でやっているか様子を見に来たんだね…。優しいね。

           

歌子、近所の窯場の人と挨拶をして仕事場へ帰っていく。
この夫、正圀があと2年くらいで病に倒れて亡くなってしまうとは誰が予想しただろうか…



旅先の寅

木造の古い橋を渡っている。


ミンミン蝉が鳴いて、かなり暑そう。
ふと見ると舎弟の登が野糞をして川で手を洗っている。
またもや天文学的確立(^^;)


寅、笑いながらおい、兄さんケツちゃんと拭いたか?ハハハハ!
登「兄貴!あーはハハハ!兄貴!こんなところで何してんだい!?」 あ、いてててと、すべる。
寅「
野糞してたんだよ何だこの野郎ヨタヨタしやがって、ろくなもん食っちゃいねえんだろう!
登「兄貴、そうなんだよちっともいいことなくってさ。ついてねーよと再会が嬉しそう。

                     



通りかかったトラックを拾って走っていく二人。


登「頼む、頼む!」

寅「おい、行こ行こ行こ!」

とドアを開けて、トランク後ろの屋根に乗っけて、二人して乗り込む。
二人を乗せたトラックが向こうに走っていく。

その時正に横を汽車が力強くポーッと疾走して行く。

                 


上映時間 107分
動員数 188万9000人
配収 5億1000万円



第9作「柴又慕情」【本編完全版】はこちら




 

第9作「柴又慕情」ダイジェスト版を本日4月3日にアップしました。
第10作「寅次郎夢枕」ダイジェスト版はだいたい4月6日頃にアップいたします(^^;)ゞ



【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら



【寅次郎な日々】全48作品マドンナ制作年度順






寅次郎な日々 カテゴリー別バックナンバー
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303

                          
『寅次郎な日々』バックナンバー






第8作「男はつらいよ.寅次郎恋歌」.ダイジェスト版
 


2007年3月26日寅次郎な日々 その303


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


第8作「男はつらいよ 寅次郎恋歌」ダイジェスト版


第1作からの立て続けのヒットに松竹はいよいよ「男はつらいよ」を、会社の看板映画のひとつにすべく「ただの喜劇映画」意識を
脱却しはじめるのがこの第8作からである。遂に先行ロードショウとして、松竹系の洋画劇場で期間限定【1本封切り】決断。
これが見事に成功するのである。
そしてその勢いを買っての年末一斉一般封切り、と作戦がしっかり当たるのであった。上映時間もこれまでのなかで最長の
113分である。資金を出す側がやる気を見せると山田監督もそれに答えるように、それまでの7作品を総括するような、
強い構成力、映像美、明確なテーマ意識を持って制作したと思われる。それほどにもこの作品は見ごたえがある。それまで
「望郷の念、定着への憧れ」を主題に置いてきた山田監督がはじめて『定着と放浪の相互憧憬』という、より複雑でより本質的な
テーマへと踏み込んでいるのがすばらしい。

その前年に「家族」を制作している山田監督がその実力、成績、共にいよいよ松竹に認められ始めた証がこの作品ともいえよう。
私のベスト24作品の中でもかなり上位に入る作品だ。

また、名優森川信さんの遺作でもある。この第8作でも森川さんはその天才的才能をあますところなくなく発揮し、見事にスクリーンの
中で輝いていた。寅との大喧嘩も凄い迫力だった。

そういう意味でもこの作品は男はつらいよの歴史に残る美しい名場面が多い。大空小百合ちゃんとの雨の日のやり取り。
さくらが「かあさんの歌」を歌う深夜のとらや。葬儀後の博の胸のうちの吐露。博の父が寅と一緒に買物に行くシーンの蒸気機関車と
ふたり。博の父が寅に語る『りんどうの話』。貴子と寅が『旅の暮らし』を語り合う夜。さくらが寅の旅の暮らしを話すとらやの二階。
強い風の中さくらを振り切って襟を立てて柴又を出て行く寅の後姿。そして晩秋の八ヶ岳を背景に旅を続ける寅と、四国での一座との
再会と日本晴れ。なんとさわやかなラストだろう。


なお、源ちゃんはこの作品は自動車事故で怪我か何かしたとかでお休み。出てこない。
ポスター刷りしたあとだったのでポスターには載っているのはご愛嬌。



本編


@【雨の日の、坂東鶴八郎一座との出会い」

オープニングは、九月 雨の日の四国の片田舎の午後である。
寅は、商売が雨でできないため、芝居を見に来たのだが、あいにく芝居小屋のほうも
客足が途切れて、午後の部を中止としたばかりだったのだ。

坂東鶴八郎一座の旗が雨に濡れている。
質の悪いスピーから『♪みーんなでー肩をくみーなーがーらー。歌ぁーをー…』(たれか故郷を思わざる)
この作品の中で何度もこの歌は出てくる。

貼り紙に『
本日昼の部都合により休演致します』の文字
雨漏りがある客席

寅「
なぁ、座長さん、お互いに稼業はつれえやなあ…。まあ、こんなことはいつまで続くもんじゃねえよ。
 今夜中にこの雨もカラッと上がって明日はきっと気持ちのいい日本晴れだ。
 お互いにくよくよしねえでがんばりましょう


つらい境遇や状況の時にこういうこと言われると嬉しいよね。いつまでも覚えているもんだ。

座長「
どうもありがとうございます
座長「
お、お客様…、傘をお持ちでなのではないのですか?
寅「なに、宿はすぐそこ、濡れる暇に着きますよ。←いいねー!
座長「いえいえ、それはいけません。これ!小百合!
小百合「
はい!
座長「
一座の花形大空小百合にございます岡本茉利さん!
小百合『にこり』と笑いながらちょこっと首をかしげる。
座長を演ずる
吉田義夫さんはほんとに上手な役者さん。
夢のシーンでも必ず悪役で登場し、寅と闘う。
森川信さんと並んでこの映画をしっかりしめてくれている。大好きな俳優さんだ。


          

座長「宿までお送りさせていただきます」

小百合「
じゃあ…
寅「
あ、ちょっと待ちな
小百合
はい
寅「
ねえちゃん、確か小百合ちゃんとか言ったな
小百合「
はい
寅「
仕事はおもしれえかい?
小百合「
はい、とっても
寅「
つれえことはねえかい?
小百合「
フフ…、それはありますけど、でも舞台に立ったらみんな忘れてしまいます
寅「
そうかい、それはよかった、そうでなくっちゃいけねえ。ねえちゃん、
  おまえさんそのうちきっと立派な女優さんになるよ


そして5千円を渡す寅。


           

小百合「あのー、
先生のお名前は?」
寅、「
…名乗るほどのもんじゃねえよ
小百合「
そやかて座長さんに叱られますから
寅「
そうかい…、じゃあ、こう覚えてくんな。
  東京は葛飾柴又の生まれ、車寅次郎。人呼んで『フーテンの寅』というしがねえ旅烏だってな

小百合「
はい、フーテン寅先生ですね」←そこの部分とるか?小百合ちゃん。
寅「
へへ…、まぁ、そういうことよ
小百合「
ありがとうございました。頂いていきます。さようなら
寅、見送りながら、「
しっかりがんばるんだぞ!
寅、「
あら!?間違えて五千円やっちゃった!


メインタイトル、
「男はつらいよ「寅次郎恋歌」

口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
   帝釈天で産湯をつかい、
   姓は車、名は寅次郎、
   人呼んでフーテンの寅と発します。」

 ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
  いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
  奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
  今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる



江戸川土手に帰ってきた寅次郎。今回はミニコント有り。
ミニコントは子供達と竹竿で遊んでいるうちにカップルの帽子を引っ掛けてしまう、というもの。
今回は江戸川土手の雰囲気をゆったりと味わえる美しい映像この映像はスタンダードな安定感があり、大好きだ。


A【帰郷した寅、またもやすぐさま喧嘩】

帝釈天参道
さくらが近所の八百満で「
あんまり勉強しないと寅さんみたいになっちゃうよ」と言いながら
子供を躾る親の話を聞いてしまい、とらやで泣いてしまう。


そんな時寅が帰ってくる。

おいちゃんたちは、寅に同情し、今度こそ寅が入りやすい雰囲気を作ってやろうと
張り切るがそれが裏目に出てしまうのである。

さくら「
うんみんないるわよ。おいちゃん、おばちゃんお兄ちゃんが帰ったわよ
おいちゃん「
え!?寅が?いよーーわぁー!寅、おかえりいぃぃ!
わざとらしく胸をパタパタ叩く
タコ社長走ってきて「
やあーー!!
つまづいて、さくらたちをふっとばして転ぶ、おばちゃん胸を負傷。


これじゃ、いくらなんでもバレルよ(^^;)


              


寅「
どうして俺を歓迎してんだい!?歓迎されたい気持ちはあるよ
  だけどオレはそんな歓迎される人物かよ!
おいちゃん「
クァィ〜〜〜ッ」 森川ワールド爆発(^^)/
寅「
なんだぃ、クァーって…、さくら、おめえ企んだな!?
あんちゃん久しぶりにからかおうって言ってたろう!


このような寅の帰郷に際してのとらやの面々の愛情カラ回りギャグは第7作でも出てくる。誰も悪く無し、
みんなそれぞれに気を使っているのにどうも上手く事が運ばないのである。


おいちゃん「
あー、いやだいやだ。オレはもう、横になるよ。
   おい、まくら、さくら取って、いや、さくら、まくらとってくれ、
あーあー
毎度お馴染みの枕ギャグ。


工場の中に入っていく寅

博「兄さん、お帰りなさい、しばらくでしたね…
寅「よお!そうなんだよ、どおしてこう素直な挨拶ができないのかねえ、あいつら
博「
どうしたんですか?
寅「
聞いてくださいよ、ってんだ(といいつつ印刷したての広告で鼻をかむ)
工員達
アハハハ!
寅「
なんだ?何笑ってやがんだ、てめえら
博笑いながら寅に鏡を見せる。
寅「なに可笑しいんだ?タコか?

           

寅、鏡見て、びっくり。
顔中インキだらけ

寅「責任者呼べ!責任者を!安いインキ使うからこんなことになるんだ!
  チキショウ、バカにしやがって!

タオルで拭いて余計に顔に広がる。
このパターンのギャグは第1作の大喧嘩の後のシーンで最初に使われた。



A【さくらの歌う『かあさんの歌』】

とらや 夜

寅、酒飲んで、昔の仲間2人連れてとらやに戻ってくる。
(ベロベロに酔っ払っている)

とらやのみんな迷惑そう
仲間「
兄貴、あそこにいるベッピン誰?
この二人
谷村昌彦さん大杉侃二朗さんで、お二人とも雰囲気があった。
お二人とも「純情詩集」では坂東鶴八郎一座の座員として活躍。

さくらに、酔った勢いで歌を歌えと、どなり威嚇する寅。
歌うことはないと怒るおいちゃん。
寅「
うるせえぞ!このクソジジイ!!黙ってろ!」と暴れる寅。
おいちゃん「
つね!警察呼んで来い、警察!

さくら「
お兄ちゃん
寅「
なんでい
さくら「
歌うわよ…
寅「
よし、歌え!

             

さくら「
♪母さんがぁ〜…
寅「♪カーラース、ほい!!、なぜ鳴くの、ほい…
そういえば出だしが似ているな(^^;)

さくら「夜なべ〜をして、手袋〜編んでくれたぁ〜、木枯らし吹いちゃ冷たかろうて、
   せっせぇ〜と編んだだよ〜、ふるさぁ〜とのたよりがと〜ど〜く、囲炉裏の臭いが
   した〜……母さんの、アカギレ痛い、生味噌を…♪

↑いやあ、もう倍賞さんの歌を堪能できる数少ないシーンだ。やっぱり歌が上手い!

この他「葛飾立志篇」の夢で「さくらのバラード」西部劇バージョンを歌っている。
「寅次郎春の夢」では蝶蝶夫人となってプッチーニのマダムバタフライ、「ある晴れた日」を朗々と歌う。
「私の寅さん」では江戸川土手で「どんぐりころころ」を歌う。



          

寅じっと下を向いて聴いていたが、いたたまれなくて出て行く。。
さくら「お兄ちゃん…
寅、出て行く
博、工場からとらやへ戻ってきて
博「
兄さんの声がしたようだけど、帰ってきたんですか?さくら、兄さんは?

さくら「
…もう、行っちゃったの

さくらの、このセリフは心に染みとおりました。



B【葬式に現れ、かき回す寅】


雨の日 柴又参道
 
さくらがこわばった表情で早足でとらやに向かう。
さくら電報
を渡す。
おばちゃん「なんだい?電報?
おばちゃん「
あら…ちょっと
おいちゃん電報見て「
え!?
電報内容
ハハキトク スグカエレ」チチ


        

博とさくらは、汽車で岡山の備中高梁の実家に向かうが、母親はすでに亡くなっていた。

さくらを紹介する博。それぞれを紹介しあう。(父親のエゴを受け継いだ感じのちょっと冷たい兄弟達)
この時は博は全て男兄弟でお姉さんはいないことになっている。第32作「口笛を吹く寅次郎」では
お姉さんが出てくる。

告別式の当日、なんと寅が突然ご焼香に現れる。(いつもの背広に黒い腕章)
さくらと博ビックリして、唖然…
葬式の間も、何かとトラブルを続ける寅に、さくらは半泣き(TT)


お墓でみんなで集合写真撮影。

さくら「お兄ちゃん、お兄ちゃんがシャッター押してあげなさいよ
寅「
あっ、ここじゃオレが一番遠縁なんだな、そうか
寅「じゃ、みんな、はい、写しますよ。はい、笑って〜!! カシャ
次男夫婦ついにっこり笑う。←これを見逃してはいけない
長男ムスッと怒る。

さくら、慌てて駆け寄り
さくら「なんてこと言うの!笑ってっていうことないでしょ、お墓の前で!
寅「
あっ、そうか、つい、うっかりしましてすいません。もういっぺんやります
寅「はい!泣いて〜!!カシャ←出ました!!(^^;)

一同怒る。

          

この時の様子は第13作「恋やつれ」で博と寅がとらやの茶の間で歌子ちゃん
面白おかしくしゃべり、歌子ちゃんが大笑いしてしまう。




C【母を想う博の涙】

夜。それぞれが母親のことを語る。
兄や父親が、母親は幸せだったと言うのを見て怒る博。
博は母親が幸せでなかったことを知っていた唯一の身内だった。

博「お母さんが世間並みの欲望がなかったなんて、それは嘘です。小樽の小学校に行っている頃、僕は時々お母さんに
 僕は時々お母さんに連れられて港に行きました。お母さんは船を見ながら、
 『私の娘からの夢は、大きな船に乗って外国へ行くことだったのよ。
 そして華やかな舞踏会で胸の開いたドレスを着てダンスを踊ることだったのよ。
 でも、父さんと結婚した時、そんな夢は諦めたのよ、』って笑いながら僕に話してくれたことをよく覚えているんだ。

 お母さんだって、情熱的な恋をしたかったんだ。華やかな都会で暮らしてみたかったんだ。
 それを諦めていただけなんだ。


もし、嘘じゃなかったら、もし本気でそう思っていたとしたら、オレはお母さんがもっと可哀想だよ。そうじゃないか!
 お母さんみたいな一生を、父さんの女中みたいなさびしい一生を本気で幸せだと思い込んでいたなら、…そんな…
 そんな可哀想なことってあるもんか!…ウウウ…ウウウ…」(泣き続ける)


         

博の青春期の葛藤と母親に対する深い愛情が垣間見れる重要なシーンだ。
この場面の前田吟さんは凄みがあった。
父親、ずっと聞いていて、そして席をたつ。

雨の中
りんどうの花が咲いている。
書斎でじっと考え込む父親
↑この短いショットで父親の悔恨の念を表現している。父親も博の言葉に
何か考えるところがあったのかもしれない。




D【リンドウの花の物語】

とらや 
さくらたちはすでに帰ってきている。
おばちゃん「
博さん、お母さんが好きだったんだねえ。今までそんなこと話もしなかったけどさ…
おばちゃん、おいちゃん、孤独であろう博の父親に挨拶の電話することを勧める。

そして、電話したさくらは、なんと寅が諏訪家の電話に出たことに驚く。
商売の帰りに博の父が心配で慰めるつもりで逗留しているようなのだ。

寅「何!?迷惑をかける?冗談を言っちゃいけないよ、迷惑かかってんのはこっちだよ!商売だって
 たまってんのにやりくりつけてね、年寄りの相手してやってんだよ。大丈夫だよ心配ないっていってんの。
 わかってんの。はい、はい、はい、はい、はいよ、うん。
ガチャと切る

父親が買いものに行くというので、酒を買いたい寅も一緒について行く。
家を出て土壁の塀づたいに下ってゆく寅と博の父。

横をモウモウと煙を立てて力強く蒸気機関車がすれ違う
なにげないがダイナミックなシーンで、私の大好きな映像だ。


         

 
『白神食品店』で嬉しそうに辛口酒を買う寅。この白神食品店の一人娘「ひろみ」ちゃんは
 このころ1971年にはすでに小学校3年生だ。このあと彼女は1983年に蓮台寺の一道と、柴又の
 とらやの2階でキスをするのである。高梁魚市場。このあたりは第32作「口笛を吹く寅次郎」で再度出てくる。

 父親の家

庭にりんどうの花が咲いている


寅「♪花摘むぅ〜野辺ぇ〜に、日はぁ〜、落ちてぇ〜、チャラチャラララランタンタンタン〜
箸でリズムを取りながら

博の父親「寅次郎君
寅「
ハイハイ
博の父親「
旅の暮らしは楽しいかね
寅「
ええ、そりゃ楽しいございますよ、何ていったってこりゃやめられませんね。ヘヘ…
↑これもまた寅次郎の本音であることには違いない

博の父親「
フフ…。で、君はこれからどこへ行くつもりかね
寅「ええ…?どこへってね、これから寒くなるから南の方へ
 行くってことになるんじゃないですか、ハハ、
気楽なもんだよね。それに

 女房子供がいないから身軽
でいいですよ

博の父「
寅「
♪あ〜あ〜あ〜、誰か故郷を…♪
博の父「
寅次郎君
寅「
ハイハイ
博の父「
今、君は女房も子供もいないから身軽だと言ったね。
寅「え〜、そうですねー
寅「♪思わざるぅ〜ペコペ〜ン、ポンポン、ペコペ〜ンポンポン♪…
博の父「
ねー君、ちょっとその歌やめなさい
寅「
ハイ…

博の父「
そう、あれはもう10年も昔のことだがね、私は信州の安曇野というところに旅をしたんだ。
後にこのお父さんこの安曇野に土地を買ったらしい。


寅「
へぇ〜、先生も旅したことあるの?
博の父「ん…バスに乗り遅れて田舎道を一人で歩いているうちに日が暮れちまってね。
    暗い夜道を心細く歩いていると
ぽつん、と、一軒家の農家が建っているんだ。
    りんどうの花が庭いっぱいに咲いていてね、開けっ放した縁側から明かりのついた茶の間で
   家族が食事をしているのが見える。まだ食事にこない子供がいるんだろう、母親が大きな声で
   その子供の名前を呼ぶのが聞こえる。わたしはね、今でもその情景をありありと思い出すことができる。
   庭一面に咲いたりんどうの花。明々と明かりのついた茶の間。
   賑やかに食事をする家族達。私はそのとき、それが、それが本当の人間の生活って
   もんじゃないかと、ふとそう思ったら急に涙が出てきちゃってね。
   人間は絶対に一人じゃ生きていけない。逆らっちゃいかん。人間は人間の運命に逆らっちゃいかん。
   こに早く気がつかないと不幸な一生を送ることになる。分かるね、寅次郎君…分かるね…


寅「へい、分かります。ようく分かります

博の父は寅にこのことを伝えながらも、自分の人生に対して後悔の念も感じているようだ。
学究一筋に邁進するあまり、家庭をかえりみなかったその半生を回想して
いるのだろう。常に人はその話す言葉を一番聞かせたいのは自分自身なのだろう。


        

翌早朝

原稿用紙に万年室で置手紙 傍らにひと茎のりんどうの花


よくお休みなので、起こさないでこのまま帰ります。
昨夜のご意見身にしみて感じ入りました。先生のありがたいお言葉を固く胸に抱いて、
故郷柴又に帰り運命に逆らわずに生きてゆきます。先生もどうか御身大切に、
幸せになって下しまし。
                       車寅次郎 拝
 


朝、手紙を読み、
空の彼方に思いを馳せる博の父



E【寅の再びの帰郷とリンドウの話】

帝釈天参道

とらや

新しく題経寺の横にできた喫茶店「ローク」の女主人貴子さんが引越しの挨拶に来る。

貴子「わたくし、このたびお寺の横で喫茶店を開業いたしました
六波羅貴子と申します。」
おばちゃん「あーあー、あの角曲がった突き当りの」
貴子「はい」

          

おいちゃんずーとポケーっと貴子を見ている。
このおいちゃんの雰囲気がなんとも笑える。森川さんって、
何もしていなくてももう可笑しい(^^)


そして、お決まりのように寅も柴又へ帰ってくる。

おいちゃんたちはなんとか喜劇と悲劇のダブルパンチを避けるため、必死で寅と貴子さんを
会わせないようにする。

「うん、なんとなく気分がすっきりしないんで表行ってコーシーでも飲んでこようと思って、
 今来がけに見たらなかなか洒落た
きっちゃ店ができたんで…


おばちゃん「
あ、あのね、いけませんよ!コーヒーは胃に悪いよ!
おいちゃん「
体にだよそこまで言うか

          

夜.とらや茶の間

寅「たとえば日暮れ時、農家のあぜ道を一人出歩いていたと考えてごらん…。庭先にりんどうの花が
 こぼれるばかりに咲き乱れている農家の茶の間。明かりがあかあかとついていて父親と母親がいて
 子供がいてにぎやかに夕飯を食べる。これが、これが本当の人間の生活というもんじゃないかね
君!
こういう時は必ず博に振る寅。この先の作品でも数限りなく寅に話を振られることになろうとは…。

博「ええ、まあ、そのとおりですね
さくら「
お兄ちゃん、ほんとよ。とってもいいこと言うわ
寅「
オレもいろいろと考えたからなあ〜

           

おばちゃん「
ちょっと悪いけどね、親子で晩御飯食べてるだけのことで何でそんなに感心するんだい?
おいちゃん「
そうよ、どこでもやってるきゃないか、そのくらいのことは

寅「
ただ食べてるだけじゃないんだよ、庭先にりんどうの花が咲きこぼれていたの
おばちゃん「
りんどうの花だったら家にも咲いてるよ←そりゃそうだけどさ(^^;)
寅「
電気があかあかとついててさ
おいちゃん「
夜になりゃ電気つけるだろうどこでも←そうなんだけどね(^^;)

おいちゃんやおばちゃんにとっての平凡な日常が実は最高の幸せだということに
二人とも気づいていないのだが、しかし、だからこそ尊いともいえる。
過剰な意識を持つと言うこと自体が、そもそもそのことにどこかで充足していない
証にもなってしまうのだから。

寅「
…、あー分かってないな〜、これだから教養のない人たち
  いやなんだよ、話し合えないって気がするもんね〜


「なー、博君」←またまた博に振る寅でありました。
博「え?ええそうですね。つまり兄さんが言いたいことは
平凡な人間の
営みの中にこそ、幸せがあるとでもいうのかなぁ
寅「そうイトナミ
博「言ってみれば、人間には人間の定められた生活があるということじゃないですか

寅「そうそう…
おいちゃん「
はぁ…←いいね〜!!森川さん!
寅、おいちゃんをしげしげと見て
わからないだろうねえ〜
分からない分からない。充足してしまってるからね。

寅「考えてみると、オレも長い間人間の運命というものに生きてきたものよ
おいちゃん「
そうかい?そんなに逆らっちゃいねえと思うけどなぁ…
寅「
逆らってますよ、十六歳の折からずっと逆らってますよオレは
寅は葛飾商業時代に校長の頭をぶん殴って退学し、そのあとタバコを吸っていたことを
父親に見つかって大喧嘩の末、放浪の旅に出る


おばちゃん「
じゃ、電気の下でご飯食べたいの?
駄目押しおばちゃん天然ボケ。だいたい毎日電気の下で食べてるって(^^;)

寅「違う違う違うって!分かんないのかな、ほんとうに。なぁ、さくら…

さくら「
うん、つまり…、結婚したいってこと?
寅の話を聞いただけでそういう風にかんがえられるかな??
さくらは寅のことなんでも分かるんだね。

寅「
え!?
寅照れて博の持っている酒のお猪口を肘でぶつけ落とす
寅「いやぁ、そんなはっきり言われちまうとね、オレも困っちまうんだけどさどえらく照れる寅でした。
  図星だったみたい(^^;)すごい、さくら!!

            

寅「
もちろんオレもいい年だし、たいして稼ぎがあるわけじゃなし、堅気のお嬢さんを嫁にもらいてぇ、なんて
  大それたこと考えちゃいねえよ。いっそのことね、
コブつきでもいいと、オレは思ってるんだ。
  それにうるせえガキよりも、そうだ、
小学校3年生くらいの利口そうな男の子
だったら都合がいいなあ…
おいちゃんたち貴子のことを思い当たって内心びびる。
寅「ともかくさ、親と子があって人間の生活ってのは成り立つんだからな!
  どうだい、おいちゃん、なんかそんな適当な人いねえかねぇ?

おいちゃん「
い、いない、いないな、絶対いないな!
おいちゃんそうとうびびっている
寅「絶対?、どうしてそういうことが言えるんだよ?なぁ、さくら


タコ社長やって来て

社長「よっ、寅さんお帰り、どうだい、会ったかい?あの人に
出ましたいつものタコ社長のぶっ潰し
寅「誰だい?あの人って?誰かあわせたい人いるのか?
おいちゃんとおばちゃん、すごい形相で社長に言っちゃダメ光線を発射!
社長それに気づいて

社長「あの、…御前様だよ←上手く逃げたな(^^;)



F【遂に会ってしまった二人】

翌日題経寺
貴子の息子、学校を早びきしてしまった学と話をしている寅

貴子がやって来て初対面

ゴ〜ンゴ〜ン

寅「お子さんですか…

ゴ〜ン

           

寅、
ふらふら
になってとらやに帰ってきて
寅、おいちゃんに「
だれ?だ、だれ?見ちゃいられないね(><;)
おいちゃん「へ?誰って?だ、誰?←とにかくおいちゃんのこの間。絶妙!
寅「落ち着けよ
おいちゃん
落ち着けって、オ、オレは落ち着いているよもっともです。
寅「誰なんだろうなあ…」と2階へ
おいちゃん気づいて「
あー!←今ごろ気づいたの?


 茶の間

おいちゃんとタコ社長が下で口裏あわせの打ち合わせ。

そこへ寅が降りてきて手招きしてタコを呼ぶ。
寅「社長、知ってるかい?
社長「
知らねえ知らねえ知らねえ知らねえよ!おいちゃん向こうで頭抱えている
寅「
バカ野郎、まだ何も聞いてねえじゃないかよ
社長「
あ、そうか
寅「あのな、年のころなら三十一ちょっと過ぎ
目元にめっぽう色気
があって、小学校3年生くらいの子供がいる
後家さんどこの誰か知らねえか?←決め付けてるよ(^^;)

社長「さあ、知らねえなぁ、全然知らねぇ」
寅「そうか…」
社長「でも寅さん、そのひと後家さんだってどうして分かったんだい?
↑社長、上手く言ったな、そのとおり寅の盲点
寅「…はっ!ええ!!?そう言えば、そうと決まってるわけじゃねえんだなぁ…
社長「
そうだよ、女は一人じゃ子供は産めねえんだよ
おいちゃん遠くから「
産めない、産めないよ!駄目押しを狙うおいちゃんでした
寅、呆然として2階へ上がっていく。

翌日 題経寺で、花占いをする寅。

恥ずかしくも、さくらと貴子さんを間違えてしまう寅。

タコ社長、スクーターを止めて二人のやり取りを一部始終見ていて
ハハハハ!!!

寅「
このやろう!タコ笑いやがったな!テメエ待て!

          

社長あわてて正面にある貴子の喫茶店「
ローク」に入ってしまう。
寅振り向いて
ハッとする。
貴子「あら、いつぞやの
寅「
貴子「
コーヒーでもいかがですか
寅、気もそぞろでドギマギして「
表で妹が待っているもんですから…

フラフラ
で、とらやの前をそのまま通り過ぎる。
さくら「
お兄ちゃん、こっちよ…
おばちゃん「
どうしたんだい?

さくら「
会っちゃったの…この言葉ですべてを察したおばちゃんでした。
おばちゃん「え…


夕暮れ時、とらやの二階

部屋の壁に字を書いて張り紙している。字が相当間違っている。
色即是空』『反省」『忍耐色即是空は笑える
この字全て寅が墨を磨って書いたのかな?
さくら「だめよ、元気出さなくちゃ」
寅「
オレだって、ひとの奥さんに懸想するほどバカじゃないよ。
今だってよ、
もう一人のオレによーく言い聞かせていたんだよ。
この
頭と心の分離は第6作「純情篇」
でも寅がさくらに吐露している。

さくら「
もうひとりのお兄ちゃん、ちゃんと納得したの?
寅「やっと…←時間がかかったんだね…
さくら「よかったね…


そして寅は、貴子さんが団子を買いに来た時、彼女にこう言うのである。

寅「あの、…坊やのお父さんによろしく

           

貴子「あの…実は主人は3年ばかり前に亡くなりまして、
   女手ひとつでやっております。それじゃごめんくださいませ

寅、肩が、ちょと落ちる。
おばちゃん、
がっくりしてイスに座り込む。
↑全ては徒労に終った…(−−;)

寅「

寅振り向いて、目を輝かせてさくらを見る。

さくら少し困りながらもニコッと笑ってしまう。

↑さくら、笑うしかないよな…なんともいえない印象深い表情

寅「なんだかオレ腹空いてきちゃったよ!!
          ご飯食べよう!みんな元気を出しましょう!

トントントンと茶の間に上がって箸と茶碗で伴奏しながら
寅「♪あ〜あああ〜、誰か故郷を〜をを、思わぁーざぁぁ〜る〜♪
  パンパーン、パンパン、パンパーン、パンパン♪


おいちゃん、頭を抱え込みショックを隠しきれない。
さくら、おいちゃんの背中をさする。




G【晴れ晴れとローク通いの寅】

翌日 とらや


翌日から、寅のローク通いが始まる。
とらや一同、全く気づかないふりをしてやる。

社長「
行った行った、行っちゃったよ。
   やれやれこの分じゃこれから先は思いやられるなぁ…


おいちゃん「そうなんだよ、察してくれよ、オレはもう長いことねえぞ、社長
このあと封切り前に森川信さんが急死してしまうのでこのセリフは
考え深いものがある。


二人でハハハと大笑い。
寅、パッと走って戻ってきて、
寅「笑ってたな←寅、鋭い!
社長「ちゃうちゃうちゃう、寅さんのこと笑ってたんじゃねえよ」と言いつつ
素早くヘルメット被って防御
する社長でした。

寅「今、二人してオレのこと笑ってたな
おいちゃん「
何?おめえのこと笑うわけないじゃないか


            

寅「オレがコーシー飲みに行くのが可笑しいのか、おまえ。
 あっ?オレ、
コーシー飲みに行くって言った?


と、まあ、このように自分から墓穴を掘って、ロークに行くことを
結局バラしてしまう寅だった。

そしてさくらに頼み込んで一緒に店に入る寅。

貴子「あら、?じゃあ、お兄さんのお住まいは?
さくら照れながら「
兄は風来坊なんですよ…
貴子「
そう…、そうなんですの。じゃあ、やっぱり、
  妹さんのいらっしゃるところが懐かしいですわよねー

さくら「
そう?懐かしい?このさくらの聞き方が優しくていいなあ

こういうシーンがこのシリーズのたまらなくいいところです。


          

寅は、貴子さんの一人息子学を、元気にしようと、一緒に遊んでやる。
題経寺の饅頭を盗んだり(^^;)、江戸川の川原で遊んだり、近所の悪がきも
仲間に入れてソリを作って土手を滑ったり大騒ぎ。

この江戸川土手で遊ぶシーンは寅の優しさがよく出ていて好きなシーンだ。

       

夕方遅くに学、3人の仲間を連れて帰ってきて、店内でキャッキャ遊ぶ。
貴子、学が元気になって嬉しくて感動している。


夜、とらや


貴子が学のことでお礼を言いに来ている

貴子「
あの子のあんな明るい顔、私初めて見たんですよ。と嬉しそう。

寅は、調子に乗って、何でも引き受けると言う。勢い余って、おいちゃんのことを
悪く言ってしまう。

寅「全身的にガタが来る年頃ですからねえ。思えば不幸な一生だったんじゃないですか
  あの年寄りも…
←言いたい放題だね。



H【寅VSおいちゃん執念の対決】


貴子さんが帰った後でもちろん大喧嘩。

おいちゃん「はあ、はあ、よくもオレを殺しやがったな!
寅「謝るよ、はいはい謝りますよ。僕のおじ様の生涯は幸せに終りました。
これでいいかい?

おいちゃん「
おじさまとぬかしやがったな!!
おばちゃん「あんた、そんな、心臓に悪いよ」後ろから必死で止める。
おいちゃん「
やい、寅!オレの生涯は本当に幸せだった。
     …テメエさえいなかったらな!

このおいちゃんの巻き返し復讐発言パターンは葛飾立志篇でも使われていた。


          

おばちゃん、止めてるふりして、おいちゃんに
武器の肩たたきをさっと渡す!さすが夫婦!
寅「おいちゃん、もういっぺん聞くけどな、今日限りにおいちゃんとオレとは甥でも叔父でもねえと、こう言うんだね。

おばちゃん、博止める。
寅「誰がこんなとこにいるもんかい!畜生!さくら!止めるな!出たぁ〜、極めつけギャグ
おいちゃん「
さくらなんかいるかい!

第12作「私の寅さん」で、九州旅行をしているおいちゃんたちと留守番をしている寅とが長距離電話で話をした時、
寅がさくらも九州にいるのに、さくら、止めるな!って言う場面がある。さくらがいないのに、「さくら止めるな」と言う、
そのつらさはよりどころの無い寅のことを考えると心が締め付けられる思いだ。おもろうてやがて哀しきだ。

はっと、気づく寅、

おいちゃん「
どうする?
寅、ちょっと迷って、出て行ってしまう。
おいちゃん、くたびれて「は〜、ふぅ〜」と座り込んでおばちゃんに背中さすってもらう。

これが森川信さんと渥美さんの最後の大喧嘩シーン。
もっと観たかったなあ…


行く当てもなく、ロークのシャッターを閉める貴子を遠くから見ている寅。

翌朝 

新聞を開きながらとらやに向かう寅。おいちゃんと店と参道でツバ競り合い(^^;)

おばちゃん「
そんなことして、いつまで続ける気だい?
おいちゃん「
決まってるじゃねえか、死ぬまでよ!
寅、すぐに前の道まで戻ってきて新聞見ながら
寅聞こえよがしに「
いやな世の中だねえ〜

おいちゃん「
クゥ〜〜!!と、アンコかき回しながらのた打ち回る。
おばちゃん「
もう、よしなよ…
おいちゃん、さっきのこと思い出して「
クゥ〜〜〜!!
おばちゃん、おいちゃんを睨む

もうふたりのやり取りは絶妙!さすが!見事!のひと言!

          



I【博の父親の来訪】


その日の昼に

博の父親が博を訪ねて来る。


おいちゃん、何を話せばよいか分からず、緊張している。気まずい空間。
おいちゃん「
あの…、大学では、その…なにがご専門で?
博の父親「
インドの古代哲学です

博のお父さんはなぜか「農学部」の教授。
農学部とインド哲学か???なんか深い因果関係が
ありそうだ。う〜む。

おいちゃん「インド?…?
博の父親「はぁ」
おいちゃん「
インドですか…大変ですね…森川ワールド満開!(^^)/

おいちゃん、寅が聞きかじってきたリンドウの花の物語を、持ち出して、
誰かにそそのかされ、騙されたに違いないって言ってしまう。

と、博に向かって相槌を求める。
おいちゃん「
どこの誰がしゃべったんですかねえ…。もうしょうがねえ…
博の父親「いや、実は…、あれ、わたしが言ったんです
おいちゃん「え…?、は……は……そうですか…、はぁ…」もじもじ
なんともいえないいい味!間!森川さん最高!!

寅、戻ってきて、博の父親を見て、喜んで茶の間に上がり、おいちゃんとの確執など、吹っ飛び話に花が咲く。

さくら、満男連れてやってくる

博の父親、表情が硬い。

寅、博の父親に「
はい、バァーッと言ってください。バァーって

博の父親「バァ←テンション低くすぎ(^^;)
みんな大笑い特においちゃんにバカ受け!

          

夜.さくらのアパート

封筒を博に見せているさくら。「さくら殿」と書いてある。
さっきまで博の父親がアパートに来ていたことを伺わせる

博開ける。中に
一万円札が8枚から10枚

博「いつくれたんだい?
さくら「博さんが入場券買っている間にね。満男に何か買ってやりなさいって
  買い物篭の中にね…。いいのかしらそんなにたくさん

博「くれるものはもらっとけよ」
さくら「
結局、お父さんは何しに来られたのかしら?、本当はね、本当は、博さんと暮らしたいんじゃないの?
   一人暮らしは寂しいのよ、お父さん。なんとなく私そういう気がしたわ…



翌日 とらや

寅、上機嫌で2階で歌「♪花摘む〜野辺に〜日はぁ〜落ちて〜ペコペコペコペンペコペンポン♪
おいちゃん、電話でさくらと話している。

おいちゃん「ハァ〜、どうなっちゃうのかねえ…、このままいくと。早いとこ決着つけて欲しいよ。
     なんとかしてくれよ、さくら…

珍しくとらやのお客用座敷が見える

        



J【貴子の悲しみと寅の無力感


ローク店内

寅が遊びに来ている。

寅「
はい、もしもし、こちらきっちゃ店ロークでございます。近代商事さん、はいはい近代商事さん

貴子「ありがとう、…もしもし、あ、あのう…利子でしたらおととい銀行の方に振込みました
  けれど、…
保証金!?、そんな、それじゃ約束が違うじゃありませんか。
  …だってあなた契約の時そんなふうには…、それじゃあたし、
騙された
も同じで…、
 
 だってそうじゃありませんか!あなた契約の時にはあんなにはっきりと!あんまり人をバカに
  しないでください!


ガチャっと切ってしまう。


寅、町キンと貴子さんとのやりとりを聞いている。
工員達が客でやって来るが、貴子、悔しくて泣きそうになり奥に引っ込む。

寅、
自分の財布を取り出して、中を覗きこんむ。(ほとんど入っていない)
↑ 
一応財布の中身見るのが切なく哀しい。そして無力を思い知る。

寅もどうしていいか分からなくて動揺して店を出て行く。


江戸川土手で悩む寅、
独り言をつぶやく

何かお困りの事が御ありでしょうか、金で済むことなら…、金で済むことならか…

       

学たち「♪一二の三、浅草のぉ〜ホラ、シンガラホケキョー♪
この「チンガラホケキョウの歌」は渥美さんの持ち歌。いろんなCDの中に入ってます。

何とかしたいとバイに励む寅だが…全く上手くいかない。


警官やって来て「許可は?許可」
と聞いて威嚇。
寅「どうもごくろうさんでした」といいつつそそくさと片付け始める。

別の場所でも再起をはかるがまったく売れない寅。


物悲しく、つらい雰囲気が漂っている。

48作中寅の啖呵バイで、これだけ重苦しい空気が流れる場面と言うのも滅多に無い。
貴子の置かれている状況の厳しさがこの場面に乗り移っているようだ。



K【別れの夜に咲くリンドウの花】

夜、貴子の家の裏庭

寅、裏庭の垣根越しに貴子を見る。
貴子、気づいて「誰?誰なの、そこに…
寅「
あの…、私です
寅「さっき、夜店をぶらっと冷やかしておりましたらこんなもんがありましてね
貴子「
あら、まあ!りんどうの花ね、うれしいわ、私好きなのよこれ
寅「
そうですか、それはようござんしたね
貴子「
ほんとにありがとう、まぁー、きれいだわ。…ねぇ、りんどうの花って月によーく映るのよ

寅「
あの…、何か困っていることございませんか?
  どうぞわたくしに言ってください。どうせわたくしのことです。
  たいしたことはできませんか指の1本や2本、いえ…、片腕、片足くらいでしたら
  なんてことありません。
  どうぞ言ってください、どこかに気にいらない奴がいるんじゃないですか?


貴子「
ありがとう…。ほんとうにありがとう寅さん…嬉しいわ、
   私とっても嬉しい。いいの、そりゃ、困ることもありますけどね。
   私ひとりの力でなんとか解決できると思うの。だから、それはいいの…。
   でも、寅さんの気持ち嬉しいわ。
そんなふうに言われたの…、
   今の寅さんみたいに言われたの、生まれて初めてなのよ…


第10作のお千代さんも、第17作のぼたんも寅の気持ちに打たれ涙を流す。なかなかこういう風には言えないもんだ。
人は人の心に救われ
、人の気持ちに涙を流す。寅は社会的な救済には無力だが、貴子さんの心を温めることは
できたのかもしれない。そして、そのことが人間にとっていかに大切なことか。48作を通してこの物語は訴え続けるのである。


寅「
……、いい月夜でございますね
貴子「
寅さんも旅先で、こんなお月様見ながら柴又のこと思いますことあるんでしょうね
寅「
ありますよ
貴子「
いいわねえ、旅の暮らしって
寅「
好きで飛び込んだ稼業ですからいまさら愚痴も言えませんが、ハタで見ているほど楽なもんじゃないですよ
貴子「
そう?
寅「
そうですよ
貴子「
たとえばどんなこと?
寅「
たとえば、そうですね、たとえば、夕暮れ時、田舎のあぜ道を一人で歩いていたんですね…
貴子「
ええ
寅「
ちょうどりんどうの花がいっぱい農家の庭に咲きこぼれて、電灯は
  あかあかとともって、その下で親子が水入らずの晩飯を食っているんです。
  そんな姿を垣根越しに見たときに、ああ…、これが本当の人間の生活じゃねえかな…。
  フッとそんなこと思いましてね


貴子「分かるわ…、寂しいでしょうね。そんな時は…

寅「
しかたねえから、行き当たりばったりの飲み屋で無愛想な娘相手に
 一杯ひっかけましてね、駅前のあきんど宿かなんかの薄いせんべえ布団に
 くるまって寝るとしまさぁ…。なかなか寝つかれねえ耳に
 夜汽車の汽笛がポ―っと聞こえてきましてね、
 朝、カラコロ下駄の音で、目が覚めて、あれっ?
 オレは今一体どこにいるんだろう…。
 あー、ここは
四国の高知か…。
 そんな時に今、柴又じゃ、さくらやおばちゃんたちがあの台所で
 味噌汁の実をコトコト刻んでいるんだなぁ…、なんて思ったりしましてね」

貴子「いいわねぇ…。あー、羨ましいわ.私もそんな旅がしたいなぁ

貴子は寅の言葉を聞いているようで聞いていない。寅は「定住」に
憧れているが、貴子は気ままな「旅」に憧れている。何を言っても
二人の感覚は平行線だ。ここに寅の決定的で絶対的な孤独がある。

寅「
そうですか…

貴子「
ええ…。女学生のころからの憧れだったのよ。 好きな人がいてね、たとえば
その人が旅役者かなんかで、私も一緒にねんねこば
んてなんかで赤ちゃんを背負って旅から旅への暮らしをするの

寅「さようですか…
貴子「
お金がなくてね、おなかがぺこぺこだったり、雨が降っても傘が無くて
   肩を寄せ合って濡れながら歩いたり。でもね、時には心から楽しいことに出会って
   大声で笑いあったり。
ああ…いいなぁ旅って、私も今すぐにでも行っちゃいたいわ。
   こんなお店も何もかも捨てちゃって。ねぇ、寅さん。


貴子のこの一見素直な発言が寅を傷つけていることに貴子は気づいていない。

寅「…え…そうですね

            
   
貴子「寅さん、またいつか旅に行くの?
寅「
ええ、そりゃ、そうですね
貴子「
そう…、いつごろ?
寅「
いつごろでしょうか…。風に誘われるとでも申しましょうか。
  ある日ふらっと出て行くんです

貴子「羨ましいわ…、私も一緒について行きたいなぁ…
寅「
そうですかねぇ…、そんな羨ましがられるもんじゃねえんですけどね…

この貴子の裏庭での会話はシリーズ屈指の名場面だ。
この第8作は映像的にも実に美しい場面が多い。


電話『リーン、リーン』貴子電話に出て行く。
大家さんから家賃の催促。

寅はだまって立ち去っていく。(風が強く吹いている)

結局、寅は貴子にふられたわけではない。
むしろ貴子は寅に親しみ以上の心を感じ始めているのかも
しれない。しかし、二人の感覚は大事なところで噛みあわないことを
寅は悟ったのだろう。この先、寅の失恋から『ブザマさ』は、姿を消す。




L【兄妹の悲しい別れ】

とらや

風が強くなってきたようだ。


社長「しかし、あいつもそろそろ2枚目が現れてふられる時分じゃないか?
おいちゃん「
うん…いつもそういう筋書きだからなといいつつ寝転ぶおいちゃん
寅、いつのまにか店の土間に立っていて
寅「そうだよ←おいちゃんぶったまげて足バタバタ
寅無気味に笑いながら「いつもの筋書き通りよ…←ふられていないんだが…
おいちゃん「そうかい、あ…、やっぱりとつい言ってしまう

みんなでとりあえず笑う
寅「また、ふられちゃったよ…本当はぜんぜんふられていないって。
みんなで仕方無しに笑う。社長の笑い声でかい

寅2階へ上がっていく

おいちゃん、社長に「ばか!」
おばちゃん「
そのばかでっかい声だけでも何とかならないかね

さくら心配で2階へ上がっていく。

寅、カバン開けて身支度している。
さくら「
また行っちゃうの?

寅「オレみたいなバカでもよ、潮時ぐらいは考えてるさ。
 このまま柴又にいてもオレぁますます辛くなる一方だし、
 おまえたちに迷惑かけることは目に見えてるし、
 いずれそのうち筋書きどおりになるのがオチだよ…


さくら「
お兄ちゃんそんなこと考えていたの…
寅「
ん?うん、まあな…かばん閉めて
寅「
さくら
さくら「
なに?

寅「兄ちゃんのこんな暮らしが羨ましいか?うん?
  そんなふうに思ったことあるかい?

さくら「
…あるわ
寅、さくらの思いがけない言葉にはっとする。

          


さくら「
一度はおにいちゃんと交代してあたしのことを
  心配させてやりたいわ。…寒い冬の夜こたつに入りながら、
  『ああ、今ごろさくらはどうしてるかなぁ…』って、そう心配させて
  やりたいわよ…


倍賞さんのこのセリフ心に染み入りました。
寅の究極の孤独がこのさくらの言葉によって救われた気がした。
寅、さくらにこんなこと言ってもらってよかったな。

寅、少し涙ぐみながら「そうかい…、さくら、すまねえ
下へ降りていく寅。外は相当寒い風が吹いている。

おいちゃん「
どこへいくんだい、ちょ、ちょっと待ちなよ
寅「
おいちゃん、おばちゃん達者で暮らしてくれよ。
おばちゃん「
なに言うんだよ
おいちゃん
寅さん、外は風が吹いてるよ。今夜出て行くことはないだろ
おばちゃん「そうだよ」

寅「
ありがとうよ、おいちゃんたちにはいつも迷惑ばかりかけてすまねえな…
さくら「
お兄ちゃん

寅、思いを振り切るように、戸を開けて、強い風の中出ていく。
参道の
プラスティックの花が風で虚しく揺れている。
襟を押さえながら遠ざかっていく。


おいちゃん「さくら、止めてこいよ」
おばちゃん「そうだよ」
さくら兄ちゃん、おいちゃんたちが戻っておいでって、お兄…
↑倍賞さん渾身の演技。さくらと寅の別れのシーンとしては
第6作「純情篇」と並んで、このシリーズの中で最高。

暗い参道を身をかがめて去っていく寅。

全48作中寅の孤独が最も表現された忘れることのできない
切なくも美しい場面である。第8作は本当に名場面が多い!


          


ある晴れた日のとらや

貴子がとらやの縁側でみんなと寅のことで話をしている。貴子に寅からハガキが届いたもよう。

おいちゃん「
でね、今度は入ってくるかと思っているとね、店の入り口まで来てすーっと
      Uターンですよ。しばらくするとまた戻ってきてね、店の中をチラッ!チラッ!っと眺めん
      ですよ。私達がね、知らん顔していると入ろうかなどうしようかなって、表を行ったり来
      たり、行ったり来たり、ねー、なんでもないことなんですよ。スーッと入ってくれば…


おいちゃんの言葉でみんなでにこやかに笑う。
森川信さん最後の演技とセリフ
ほんとに森川さんは役者の中の役者だった。古き良き下町言葉を熟知している人だった。
    

途中から寅の貴子へのハガキのナレーションがかぶさって入る。

拝啓、その後お変わりございませんか。
私柴又にありし時は思い起こせば恥ずかしきことの数々今はただ
反省の日々を過ごしおりますればどうかお許しくださいませ。
私の妹さくら、そして年老いたおじ、おば、いずれも世間知らずの
田舎者ではございますが、私のかけがえのない肉親どもで
ございますれば何とぞ、ご指導ご鞭撻のほど、お願い申し上げます。
末筆ながら旅先にてあなた様のご幸福を心よりお祈り申しあげます。
 
                               車寅次郎 拝 




M【再会の甲斐路】

またまた、寅のナレーションの途中から八ヶ岳の美しく見える山梨県の田舎道に変わる。

            

道ばたの地蔵様のところに柿を置く。その直後トラックが通り過ぎて、すぐ止まる。
荷台の縁に『
御当地来演!地方公演巡業中』の横幕。

荷台から大空小百合ちゃんが「あら!、」
小百合「先生ー!!」
寅、よおく顔を見る。
小百合「先生!私です。いつか四国でお会いした小百合です!
寅、気づいて「あー!、小百合ちゃん!雨の降った日の!
小百合満面の笑みで「
はい

このシーンが見たくて、ただそれだけで「恋歌」を何度観た
ことだろうか。あの雨のファーストシーンがありありと目の前に
現れる。岡本茉利さん、やっぱりいいなあ。役と出合った人の眼をしていた。

座長、寅にいつぞやのお礼を言う。


        

座長「今夜のお泊りはどちらへ
寅「
なに、のむくまま気のむくまま気楽な旅でございますよ
座長「
今夜は是非私どもと同じ町にお泊りになりお泊りくださいまして、私どものお芝居を楽しんでいただきまして
寅「
あー!、それは結構ですね、結構毛だらけ猫灰だらけ、お尻の周りはなんとかだらけ!
一同どっと笑う「
ハハハハ!!

             
                 

寅「
いやー、どちらも御陽気な方ばかりでようござんすな!

寅たちを乗せたトラックが田舎道を走っていく。
遠くに
富士山が見え、空は日本晴れ

この第8作のラストのさわやかさは全48作中一番だ。
寅の寂しい思いも、貴子さんのこともすべてこのシーンで吹き飛ばしてくれた。


第20作「寅次郎がんばれ」のラストでも寅と坂東鶴八郎の再会がある。明らかにこの
第8作の焼き直しといえよう。もちろん、オリジナルであるこの第8作のほうがダイナミックで
瑞々しいのは言うまでもない。


        



公開日 1971年(昭和46年)12月29日
上映時間 113分
動員数 148万1000人
配収 4億円


第8作「寅次郎恋歌」【本編完全版】はこちらから



 

第8作「奮闘篇」ダイジェスト版を本日3月26日にアップしました。
3月29日頃に第40作「寅次郎サラダ記念日」の本編完全版をアップしますので、
第9作「柴又慕情」ダイジェスト版は3月30日頃にアップいたします(^^;)ゞ



【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら



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302

                          
『寅次郎な日々』バックナバー







第7作「男はつらいよ.奮闘篇」.ダイジェスト版
 


2007年3月23日寅次郎な日々 その302


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


 穢れ無きマドンナ 花子を護る寅次郎


 この第7作は48作中でもかなり特色がはっきりした作品である。それはマドンナが障害を持つ、という設定から来るものでろう。
 主人公が障害者、というのは後に「息子」や「学校U」となって花開いていくが、この時期、山田監督の感覚はまだそこまで
 いたっていない。しかし、障害をもった人の自立についての大きな問いかけの萌芽は福士先生の花子に対する教育姿勢のなかで
 窺い知ることが出来るのである。とはいえ、この映画はあくまでも『恋の物語』であり、笑い転げる『喜劇』でもある。山田監督の
 問題意識が喜劇の軽やかなテンポを崩してしまってはもともこもない。この第7作はそういう意味では、ちょっと大口を開けて
 笑いながら見づらい作品かもしれない。ここの部分の欠点はどうしてもぬぐいきれない。

 それでも、マドンナの花子が江戸川の土手で歌を歌い、寅と語り合うシーンは他の作品にはない、なんともいえない涼しげな
 優しい風がスクリーンに吹いており、寅の心もいつもよりなんだか温かくて私はこの作品も好きである。48作中、ある意味では
 もっとも穢れのないマドンナであったともいえよう。もちろん小さん師匠扮するラーメン屋の親父が言うように現実的にはいろいろな
 問題がこの巷では彼女の身に降りかかってくるのであろうが、それでもやはり彼女の心は清らかで穢れがない。このこともまた
 紛れもない事実である。寅は恋をした、というよりは「清らかな護るべき心をわずかの間だが持ち得た」と言った方がこの場合
 的確かもしれない。障害を持つ花子と寅の結婚について周囲が当然のように反対する中で、さくらだけが2人は結婚しても
 いいのではないかとつい思ってしまうのだった。これはさくらの兄に対する盲目的なまでの愛情の深さが表現されていて、
 切なくも悲しい見事な演出だと思う。

 また、寅の産みの母である菊も再度登場して、母と子の消すに消せない絆も表現されていることが、この作品に深みを与えている。



@【寅の郷愁と菊の来訪】

オープニング。『夢』はない。

越後広瀬駅 

雪が随分深い。集団就職の一団が汽車を待っている。
寅のナレーション

冬来たりなば、春遠からじ、とか申します。その遅い春の訪れがこの北国にもようやく
やって来た頃、故郷を後にして
都会に旅立つけなげな若者たちの姿が
この田舎の駅に見られるのでございます。


どの学生も父母達もとてもいい顔している。

集団就職の学生たちを励まし、なにかあったら柴又のとらやへ行け、 と言う。
おいおい、とらやは駆け込み寺か…ゞ( ̄∇ ̄;)


汽車の汽笛『ポーーッ』!!

           

汽車動き出す。

寅「しっかりやれよ!…あれ?あっ、オレもあの汽車乗るんだ

あちゃ〜〜〜(_ _ ;)

メインタイトル 男はつらいよ.「奮闘篇」


おなじみの口上

 わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
 帝釈天で産湯をつかい、
 姓は車、名は寅次郎、
 人呼んでフーテンの寅と発します。


♪どおせおいらはヤクザな わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる



↑この第7作の歌は「兄貴」でなく「男」となっている。このあとに「偉い兄貴」とでてきて
「兄貴」がだぶるので「男」に変えたのかもしれない。しかし結局「兄貴」にまた戻っていく。

今回第7作は水面からの江戸川や対岸の景色今回はしっとりとして大好きな映像だ。
コントもいいがやはり私はこういう何気ない風景も好きだ。


          


柴又 題経寺前
とらや 店

大きめの車がとらやの前で止まる。

派手な服着た菊さんが車から降りてくる。一年前、寅に「結婚をする」とハガキをもらった菊が
その顛末を確かめにやって来たのである。


とらやの店の中

おばちゃん「まぁ!お菊さん
おいちゃん「おー!お菊さん

昔のいろんなことはさて置き、お互いを懐かしむ3人。歳月が人間たちを丸くしていくんだね。

           


菊「実はね、1年程前に寅からこんな便りがありまして、近じか嫁貰うよって母ちゃんも
  遊びに来てくれと、書いてありまっしゃろ。


おいちゃん、ハガキ見ながら「なるほど…

菊「もう、あんなね、極道なやつでも親を安心させてさせてやろう、
  というその気持ちがうれしゅうてね、私…


さくら、とらやに満男を連れてやって来る。

菊「あんた、寅の嫁はんでっか…へぇー、ほんならこの子私の孫でっか、
 おばあちゃんやで、血ィって怖いもんですね
おいおい(^^;)

         

満男を寅の子供と思っている菊。

おいちゃん「いや、ちょっと、あのね…こりゃ寅の嫁じゃないんですよ
菊「えっ?
おいちゃんさくら、こちら寅のおっかさんだよ
おいちゃん「
寅の妹なんですよ

さくら「あの、…お兄ちゃんの妹のさくらです。はじめまして。

菊「私、寅の母親の菊でございます。どうもなんやけったいな具合でんなぁ、
 なんや関係ありそうでよう考えたら全然他人でんなぁ、この人
ほんと、そうだ(^^;)

さすがに菊さん、アクのある発言するなぁ…

菊「なんやおかしいと思いました。こんなきれいなおこ(娘)が
  寅の嫁はんに来るはずがないわね。私なんでこない
  慌てもんでんねやろ、昔から慌てもんで、えらいすいませんでした。


さくら「お兄ちゃんのお嫁さん?
おいちゃん「寅がな、お菊さんにね、所帯を持つなんてハガキを出しやがってさ

さくら「いつ?
おいちゃん「いや、1年程前さ

さくら「浦安の節子さんのことかしら?

おばちゃん「あー、そうかもしれないね!
おいちゃん「ありゃ去年の夏だろう?
さくら「一年ほど前っていったら…
おいちゃん「あっ、幼稚園の秋子先生おいちゃん『春子』先生だって(^^;)
おばちゃん「あっ、そうかな…
さくら「でも、散歩先生の夏子さんだってちょうど1年くらい前よ
おいちゃん「そうかい?ありゃ、もうちょっと前だろ…
おばちゃん「ひょっとしたら、御前様のお嬢様じゃないか?冬子
さくら「それはもっと前よ
おいちゃん「ありゃ、ずっと前だ…、その辺は確か…
菊「いろいろあったんでんなぁー…そうそう、あったあった(^^;)

↑この寅の恋の遍歴ギャグ
「忘れな草」や「恋やつれ」「紅の花」などでも出て来る。特に「忘れな草」のは傑作。

おいちゃん「ええ…
菊「で、結局はどうなってますん?
おいちゃん「えー、ですからつまりね…、その、相も変わらず、独身で一人ということになっております。
菊「ああ…、そうですか…」菊は淋しそう…。



A【寅の帰郷といきなりの喧嘩】


江戸川 土手

寅、江戸川土手を歩く。
帰ってきたか…

         


とらやの前

ホテルに帰る菊さん。寅が帰ってきたらすぐに連絡するということになる。
菊、車に乗り込んで
菊「あのー、帝国ホテル、でございます。」と何度も言う。
         
とらや 店

寅も、考えてみれば悲しい生い立ちを抱えて生きていることを
今更ながらにしみじみ考えるみんなだった。
それで、今度寅が帰ってきたら優しく迎えてやろうということになる。
おいちゃんさっそくその迎え方の練習を
しようとする。

おいちゃん「仮にオレが寅だとするだろ。上野あたりで買ってきた一個100円の土産をこう…
土産を人差し指にかける
おいちゃん「例によってバカ面してよヨッ!おいちゃん、おばちゃん、元気ー!?
     なんて言うだろ。するとおまえたちがスーっと立ち上がってよ、
    やあ、まあ、寅さんよくお帰り…てんで
肩の一つもポーンと、叩いてやるだろ、
    そうすっと、あの寅のバカヤロウ、
コロッコロッして大喜び!!
    簡単なんだよなあ、こんな簡単なことがどういう……??

後ろに寅が立っている。

さくら、おばちゃん目で合図(−−;)

おいちゃん何だ?え?え?え〜ッ?え??

おいちゃん左へ振り向く(寅は右の方へずれて見えない)

おいちゃん「バカおどかすな、そんな…!!あっ!いた!
      あ!!すいません!あの、おかえりなさい


          

寅「そう言やぁ、このバカがコロコロ言って喜ぶのかい!

さくら、お前もグルだとはオレ知らなかったょ!たとえ日本中の人間がみんな
 オレを裏切ってもだ!たったひとりの妹だけはこのオレのことをね…
 今更そんなこと言ったって愚痴だよ!オレはもう二度と帰ってこねえよ!


さくら「ちょっと待ってよ、お母さんがみえてるのよ
寅「おふくろ?
寅「オレにはおふくろなんかいねえよ

でも寅、お菊さんにハガキ出したんだろうが(^^;) 第2作のラストはよかったよ。

さくら「
どこ行くの?

寅「
夏になったら鳴きながら必ず帰ってくるあの燕(つばくろ)さえも何かを境にぱったり姿を
 見せなくなることだってあるんだぜ…達者でなー!!

時々出てくる寅の旅立ち際の捨てゼリフ

題経寺の方向から
冬子「寅ちゃ〜ん!!」

冬子がやって来て、寅のお母さんのことを話し、寅は照れ笑い。
すっかり機嫌が直るが、おいちゃんやおばちゃんたちはどっちらけ(^^;)

その後、寅は工場に来て、さくらたちと今喧嘩したことを博に告げる。

博「兄さん、何したんですか?

とらやで事情を聞く博。

博「兄さんはどうしても会わないっていうんですか?
おばちゃん「会ったって話すことなんかないねえっって、そお言うんだよ!
博「さくら、なにも泣くことないじゃないか、そんなことで…

さくら「ちがうのよ、私達が一生懸命そんなことで話しているうちに
   お兄ちゃんったら、お兄ちゃんったら、
プーッって大きなおならするんだもん!!
 またさくら泣く。
理由がくだらねえ〜(^^;)この時の倍賞さんの表情かわいい!
おいちゃん「そうなんだよ!しかも飛び切り臭い奴だぜ!」(目をひんむいて顔中でデカイを強調!

おばちゃん臭いって顔で手でパタパタ扇ぐ。このおばちゃんのしぐさは笑えます!

         

一同寅も交えて「おなら」のことで大喧嘩(^^;)


寅「
うるせーな!ブツブツと、コノヤローめ!たかが屁したくらいでもってメソメソ泣き面しやがって!
 もし
糞したら自殺でもしなけりゃならないのかい!!


さくら「おならの話なんかしてないでしょ!お母さんの話してんのよ!

オナラごときで、ここまで真剣になれるとらやさんの面々っていったい…(^^;)



B【菊との再会と大喧嘩】


翌日


タコ社長の車で帝国ホテルに行く、さくら、博、寅。タコ社長の車ライトバン(
朝日印刷K.K
←時々、作品によっては
有限会社にもなる。例えば第39作では有限会社
              

帝国ホテル  部屋


トイレとバスタブとを間違えて用を足してしまう寅。
間違えたことすら気づかないで
しゃべるまくる悲しさ。

さくら、唖然…
菊さん、下を向いて少し泣いている。


菊さんがさくらに昔の思い出や苦労話を話している時も、寅は子供のように大ハシャギ。

菊ついにキレて爆発!啖呵!!
菊「
何でも恋しやがって、どんどん振られやがって、
それが四十に手が届く大の男のすることか!おまえちょっと脳が足らんのとちゃうか?
何顔見てんねん、
悪い顔しやがって!考えることあるか!
痛んだ脳しやがって!おまえみたいなそんな出来損ないのそんなとこに来てくれる女はな、
手が2、3本足らんかて、脳が足らんかて、あー、結構でございます、
よう来てくれはりましたと、涙こぼして礼ゆうてもええねんぞ!

↑菊さん、そりゃあんまりだよ…とほほ絶対テレビ放映できません(^^:)

         

寅「黙って聞いてりゃ、ひでえこと言うんじゃねえかよ!脳が足りねえ息子を産んだのはどこのババアだ!
菊「
生まれた時にはちゃんと足りとったんや!
寅「
そうか!そうだろうな、ヒリッ放しで放り出され、長い間雨風に打たれてりゃ、
 脳みその半分くらいは溶けて流れちまうわい!それもみんなてめえのせいだぞ!!

菊「それが生みの親に向かって言う言葉か!
寅「
誰が、てめえなんかに産んでくれって言ったい!
寅「
そのうち、ハァ〜ッ!って腰抜かしてびっくりするほどベッピンの嫁さん連れて来てやるからな!
ものすごいキツイ言葉の応酬だ。さすが泣く子も失神する菊さん。凄まじいとさえ思う。

寅が出て行ったあと、さくらが菊に怒る。

さくら「
あんなひどい言い方ないと思います。脳が足りようと足りまいとお母さんの息子でしょ、
   私にとったってたった一人のお兄ちゃんなんです。あんなひどい言い方しないでください。

菊泣く…

菊「さくらちゃん、おおきに、おおきに…。あんな出来損ないの子、そこまでおもてやってくれて、おおきに…

なんだかんだとキツイことを言っても、しみじみとさくらの気持ちが嬉しい菊さんでした。


C【花子との出会い】

静岡 富士市

啖呵バイで下駄を商うする寅

なー、おばちゃんよ、こんな立派な鎌倉彫りがねー。
 わずかこんなお値段でお願いできるわけないでしょ。
 これは大きな声じゃ言えないけれどね、神田は
ポックリ堂という
 履きもの問屋がわずか何百万円の税金で投げ出した品物だよ。デパートでお願いし
 ましたら600が500する品物、今日はそれだけくださいとは言わない。
腹切ったつもり
 どう、400、300、あー、これで買い手がなかったら

 右に行って田子の浦
左に行って三島!右と左の泣き分かれだ!
 よし!特別250円!おばちゃん持っていけ、ほら!どう、おばちゃん、ほら!」


          

沼津
近く

ラーメン屋
『来々軒』
寅の近くで、花子がラーメンを食べている。
花子ラーメン食べ終えて、寅の方見て『にこリ』と笑う。寅も『ニコ』
寅と花子の出会いであった。

店主(柳家小さん師匠)寅へ、「ハイ、お待ちどう。」


          


花子「えぎ(駅)、ど行けば…?
寅「
なに?
花子「
えぎ(駅)

花子が出て行った後で
店主「
お客さん、あの子ね、ここがね少しおかしいね。
寅「そうかい?

店主は花子のことを見抜いていた。あのような女の子の辿る悲しい道を
危惧する店主。それを聞いて彼女の今後を心配する寅だった。

沼津駅前交番

花子がなんと中にいる。
寅、通りかかってちょっと覗く。

お巡りさん(犬塚弘さん)が名前を聞いているが怖がって答えてくれない。

寅「
だんな、大きな声を出しちゃいけませんよ。ちょっと頭薄いんですよ。

花子の名前は太田花子
住所は青森県西津軽郡鯵ヶ沢町轟(とどろき)
どうやらこの近くの
バーで働かされていたようである。


        

寅とお巡りさんでなけなしのお金を出し合って花子のキップを買ってやる。
優しいねえ。こんな人いないよ、普通は。

沼津駅
みかんおかき買ってやって、見送る。
弘前、急行 3600円

改札で
寅「
あのね、東京でもって迷子になったらな、
 葛飾の、柴又の、とらやって団子屋
を訪ねて行きな

と、メモを渡す寅。このパターンはいたるところで使っている。ほぼ同じ状況で
使っていたのは第26作「かもめ歌」だった。


寅「
これ持ってな、迷子になったらお巡りさんにみせて、
  この家に訪ねて行きな。そこでよ、
寅ちゃんに聞いてきたって言えよ。
  家の者親切にしてくれるから

花子
とらちゃん?
寅「
レ、とらちゃんて言うんだよ、なっ!早く行きな

花子、心細くて階段で
みかんばらばら落とす

早く行くんだよ寅とても心配そう


とらや

花子ちゃん、とらやにやって来る。


花子「とらちゃ〜ん。とらちゃんいね〜の?」

おいちゃん気づいて「…??」
花子「とらちゃん、いるべか?
おいちゃん「いねべよ

社長、花子を世話してやることに心配する。

社長「『よくも、うちのめらしこキズモノにしたな!』ってんで
   損害賠償1千万!
てなことになってみろよ…


座敷では花子が満男相手に遊び相手になってあげている。

博「青森の役場に速達を出して両親を探しましょう。なあ、さく

一同賛成。



D【花子を住まわせる寅】

花子のことが心配でたまらない寅が柴又へ帰ってくる。

おいちゃん「!!…。来たよ、来た!

寅が
ちょび髭色眼鏡をかけてとらやの前を横切る。

おばちゃん「髭つけてたよ」←おばちゃんのしぐさ面白い
社長「
変装しているつもりだよ
おいちゃん「
ばかだねえ、あの四角い顔が隠せると思ってるのかねえ…ほんとにバカだね…いやになっちゃう

寅、ごく近くの
赤電話からとらやに電話

寅「
あっ、もしもし、とらやさんですか」(別人のふりで声を高くしている)
いきなり地声に戻って
寅「
あっ、なんだ、さくらか、え、あ、オレだけどね…。
さくら「早く帰ってらっしゃいよ。誰か来なかったかって?

寅「
いや、誰も来てなかったら、それでいいんだ、別になんでもないんだ。うん。
  えっ!?来てる?何でそれ早く言わねぇんだよ!


さくら「
うん、お兄ちゃん一体…?切っちゃった…

博、外に覗きに行く。

寅ドドドと走ってくる。

博突き飛ばされる!凄い変装!タコ社長やさくらも蹴散らして


          

寅、笑って喜んで、「どこだ、どこだ!
花子を見つけて「
花子ー!、花子!
花子「おっかねぇー!助けてけれ!
怖いよな、その変装じゃ(^^;)
寅「
ほれ!オレだよ!
寅、髭、めがね、取りながら
寅「
オレだよ!とらちゃんだよ!
花子「
とらちゃーん!!(安心して笑う)
うん渥美さんのこの「うん」はしみじみと美しい表情だった。
寅「
そうかい、来てたのかー。よかったなー
はだしの花子の足と桜の花びら…

寅「キップ無くさなかったか
花子「
うん
寅「
悪い男に声かけられなかったか?
花子「
うん
寅「
オレが書いた紙、お巡りさんに見せたんだな
花子「うん
寅「
よかった、よかった…」(しんみり
寅「この店のおいちゃんやおばちゃんは親切にしてくれたかい?
花子「うん
寅少し泣いて「
そうかい、よかった…
花子も安心して泣いてしまう。

寅「オレな、心配でな…泣かなくていいよ
寅ハンカチ出して、「
チンしろ、
花子「うん」(鼻をかむ)

しみじみ、二人して安心して泣いている。

とらやの一同少し離れて唖然と見ている。


        

さくらたちと花子のことで相談する。
寅は花子をとらやで住まわせたいと言う。


タコ社長の工場で働く事になる。社長上機嫌で工員達に紹介する。

寅「
おばちゃんよ、となりのね、社長はよ、どうなんだい、女道楽の方は…?
おばちゃん「昔はね、遊んだらしいんだけど…
     バーの若い女かなんかとできちゃってさ、おかみさん泣かしてたっけ


社長ってそうだったのかあー…(^^;)

寅「!!…」

社長「イテッ!何すんだ!」
寅「
タコ!見たぞ!花子に肩なんか揉ませやがって、児童虐待法で訴えてやる!
なぜか難しい法律の名前知っている寅でした。
即刻身柄は引き取る。今日一日分の賃金をよく計算してとらやまで持ってこい!細か(^^;)

寅「
花子おいで、油断も隙もありゃしねえ…

題経寺 御前様に仕事をお願いする寅。

御前様「それじゃおみくじでも売ってもらおうかな
寅「
御前様なら安心ですよ
花子を預けたあとにふと心配に…


寺の門の柱が目に入り、
そこにスケベとチョークで落書きがしてある。

はっとする寅
大急ぎで戻って
寅「花子、行こ、
御前様「
なんじゃ?
寅「
すみません、今の話はなかったことにしてください。
花子「
どこさ行くの?


お偉いお方でもよ、生身の人間だ万が一ってこともあるからな…ハア〜…(−−;)

        

結局とらやで働くことに落ち着いた花子

寅「オレ、なんだってはじめからこのことに
気がつかなかったかなー…、ほれ、昔からよく言うじゃないか、

おいちゃん「なに?」

寅「灯台の根元は暗いよ。って灯台下暗し

おいちゃん「
そうそうそう」←笑える(^^;)

とらやの客にいろい構われる花子、寅カチンと来て、結局客を追い出す。
寅「たとえ、おいちゃんだってな、馴れ馴れしくするとこういうことになるんだ!
ということで、誰のことも信用できない寅。もうここまで来ると過干渉の極致。寅、間違ってるぞ(−−)

寅「花子、おいで
おいちゃん、呆然
おいちゃん「あー、いやだいやだ…

何日か経って

おばちゃん、さくらのアパートで対策をさくらたちと相談。

おばちゃん「
あたしゃ、近頃、寅さんの花子ぉ〜って声聞くと背中がゾッとすんだよ



E【遂には結婚を決意する寅】

江戸川土手で、花子と寅

         

『故郷の廃家(はいか)』
を歌う花子

花子♪いーくとーせー、ふーるさーと、来てみればー、
   さーくはーな、なーくとり、そよぐーかぜー、
   かーどべーの、おーがわーのささやきもー、♪

↑美しい歌だなあ…花子にぴったし

寅「
花子、歌上手いなぁ…
花子「とらちゃん、岩木山知ってるか?
寅「イワキさん?って誰だ上手い上手い(^^;)
花子「人じゃねえ、山の名前だ
寅「あーあ、津軽の岩木山か、知ってる

花子「
じゃ、福士先生も知ってるか?
寅「フクシ先生?
花子「うん、山でねえ、私の先生だ
寅「
学校の先生か?
花子「
うん
寅「
知ってる知ってるうそ(^^;)

花子「
あのな、福士先生、夕焼けの時、岩木山さ、花子の歌コ聞かせてやれって
  言ったの。花子はたいした歌コ上手いから岩木山もうんと喜ぶべって

う〜ん言い言葉だなあ。福士先生ってすばらしい感覚の持ち主だ(^^)

寅「花子は福士先生好きか?
花子うん
寅「福士先生に会いたいのか?
花子「うん、会いてえ
寅「
福士先生の嫁になりてえか?
花子「
えへ!ふふふ…バカなこと!福士先生には奥さんいるんだもの、
  私が嫁っこになったら奥さんに怒られるべさ!ふふふ

寅「
そりゃ、そうだよな
寅小さな声で「
よかった…

        

花子「寅ちゃんは奥さんいるか?
寅「
そんなもんいるかよ、オレに
花子「
本当か?
寅「
あたりめえじゃないか

花子「私、とらちゃんの嫁コになるかなー

寅「えー!?、てへへ…、よせよ何いってんだい、…からかうんじゃねえよ。
 ハハハ、笑っちゃうよ。オレの嫁さんになるなんてよ、そんなことうぶなおまえが
 言うなんて、へへへ…、

 でもよ、ありがとよ…オレその気持ちだけで十分なんだよ。
 花子、もうおまえどこへも行くな。故郷にも帰るなよ。ずっとここにいろよ、
 オレが一生面倒見るからよ、なあ、花子


↑寅とても嬉しそうでいい表情している。

花子、寅が話している途中で寅の話そっちのけで歩いていく、そしてまた歌を歌う。


花子「
♪ふーけゆーくー、あきのよぉー、たーびのそーらーのー、
   わーびしきー、おもーいーにー…



さくらのアパート 部


寅「なあ博、この部屋ってのはいくらするんだ?

博「家賃ですか?15000円です」
寅「ハァー、高けーなー、こんなケチな部屋がよ」


さくらと博、寅が何かしようとして、こんなことを聞いているのを察知。

さくら「お兄ちゃん、まさか結婚の話じゃ…

寅「
いやー、ハハハハ…早い話が
そういうことになるんだけどね…、また出直してくらぁ…


さくらちょっと待って、相手は誰なの?

寅「
相手?そんなものいたかなぁ?
博「
相手がなけりゃ、結婚できませんよ
寅「あー、そういうもんかなー、ほうー
さくら、問い詰める。

寅「よく言うだろ、緑(みどり)はコトナルモノヨって
さくら「緑?
寅「
なんだ、知らないのか緑はコトナルモノヨアジナモノヨ、って、いにしえ
  言葉にあるだろう。つまり僕たち二人はそういうケースだったんだ

        


博「
縁は異なもの味なもの、のことだろう」

さくら、ようやく気づいて

さくら「
お兄ちゃん、もしかしたら、花子ちゃんなんじゃない?

寅、照れ隠しにタンスのドアを開けて鏡を見て顔を隠す。照れる

寅「
まあ、その話はさあ、今度でいいんじゃない?、じゃぁまた来らぁ〜

さくらと博、複雑な顔…


寅「
♪丘に登れば〜



F【さくらの盲点とおいちゃんたちの冷静な判断】

とらや

おいちゃん「はぁー、さくらの気持ちも分かるよ、なんてったって寅のことを一番考えている
      のはおめえだからな。しかしな、さくら、花子は普通の娘じゃねえんだよ。

さくら「
でもね…

おいちゃん「
早い話が、足りねえ同士の結婚ってことだぜ、どんな子供ができるか…。
     寅の嫁にはね、頭だけはしっかり人をあてがわなくちゃ


おいちゃんは、花子ちゃんのことはともかく、寅のことについてはちょっと偏見がある。
寅はいわゆる一般の生活を送れるきちんとした健常者であって
いわゆる『足りない』わけではない。ただ思慮深くない面や、軽薄な面が多々あるだけ。
ここはあくまでも医学的見地で物事を判断すべき。

さくらでも、花子ちゃんは、あんなにお兄ちゃんのことを慕ってんのよ。いいじゃない、
   子供のことなんか、お兄ちゃんがあんな嬉しそうな顔したの初めて見たのよ


さくらはあきらかに客観的な判断力を見失っている。

おばちゃん待ちなよ、さくらちゃん、さくらちゃん、寅さんのことをばっかり考えすぎるよ

さくら「どうして…

おばちゃん花子ちゃんが寅さんと一緒になってはたして幸せかどうかってことなんだよ。
     あたしたちは、なんてったってあの娘のことよく知らないものね

前48作中おばちゃんが最も冷静な判断をした発言(^^)確かにおばちゃん常識的で現実的な考えだ。

さくら、泣く。
判断力が狂ってしまうほどさくらの盲目的なまでの兄を思う心が切ない(TT)

タコ社長やってきて「
大変なことになったと悩む。

御前様やってきて「本来ならおめでとうと言うところなんだが、どうもねぇ…

みんな、なんとかしないと、大変なことになってしまうと、悩む。


デパート

花子を連れていろいろ新居に必要なものを見て回っている。
照明器具売り場や化粧品売り場を歩いて、『結婚前の恋人ごっこ』を
楽しむ寅。花子は、事の重大さが分かっていないで、ついて回っているだけ、という感じ。

           

さくらのアパート 電話

さくら菊と話している。

菊「
実はね、さっき寅から電話掛かりましてね、
また嫁はんもらう言うとりまんねんけど…

さくら「
あっ、ええ、何か、そんなふうなことを…さくらはっきり否定しない
あの子の嫁さんになるってのはどんな子でっしゃろ?
  あんなんの嫁ハンになるねんからちょっとくらい脳悪うおまんねやろ。
 …いえ、どんな子でも結構なんです。へ、あのこのところへ来てくれるという、
 その優しい気持ちだけでも私…私、うれしゅうて…
ある意味凄い発言(^^;)
菊はすっかり信じて喜んでいる。


江戸川土手

蓬を摘むおばちゃんと花子
(満男も一緒)

花子「
♪ふーけゆく〜、あーきのよ〜、たーびのそーらぁーの〜
   わーびしき〜、おもーいーに〜、ひーとりなーやむ〜…♪

ばちゃん「花子ちゃん、あんた本当は田舎に帰りたいんじゃないのかい?
花子「でも、とらちゃんが帰るんでねえよ、って、そう言うんだ。う〜ん問題だ(ーー)

       



G【花子を引き取りに来た福士先生】

とらや

福士先生がとらやへ花子を引き取りにやって来る。

福士先生実は花子は子供のときから私がずっと特別に生活指導してきた子でして
    ご覧のとおり、発育が遅れておりますが、私としては特別扱いすることなく人間として
    生きていく自信を与えてやりたい、そう思いまして、つまりああいう障害児にこそ、
    密度の濃い教育が必要であると、そう思います。…、気立てはいい娘(こ)でして、


後の『学校シリーズ』に繋がっていくテーマの萌芽がすでに見られる。


さくら「
それに、とてもしっかりしてますよおいちゃん、にっこりうなずく

福士先生、うれしそうに「
そんですかぁ。…歌が好きで
さくら「
うん、いい声で、
福士先生「
そんですかぁ、お宅でも歌ってたんですかぁ、そんですかぁ、(嬉しそう)

そこへ花子が帰ってくる。

福士先生「花子!先生迎えにきたぞ!
花子「
先生!来てけたの!?
福士先生「えがった、花子、まめしててえがった。花子、切なかったべな…
花子、泣く
福士先生「
花子、泣くんでねえ、みんな先生が良ぐなかったんだ…

        

おばちゃん「寅さんが帰ってきたらどういうことになるんだろう…

おいちゃん
たとえ、どんなことになってもね、
     花子は先生と一緒に帰ったほうがいいよ。そうだな、さくら


さくら
うん、…そうね…複雑な表情

      



H【怒り、出て行く寅】

寅、バイ終って、夕方柴又へ帰ってくる

寅「
♪恋しや〜、故郷〜、なつかし、ジジイ、ババ凄い替え歌(^^;)

題経寺の鐘『ゴ――ン〜』

おばちゃん「来たよ!歌うたいながら帰ってきたよ!
タコ社長「
ついに来たか!、大変だ!大変だ!とらやさん最大の危機
だぞ!オラ知らねえぞ!」社長工場の方へ逃げてい

一同おろおろ。

さくら「私やっぱり言えないわ、博さん言って

寅「
おいちゃーん、おばちゃーん、ただいま帰りました。ほら、花…。
 花子、…花子どこ言ったんだ、えっ?博

おいちゃんをじっと見て
知りませんか?(^^;)博逃げたな!
おじさん、知りませんか
おいちゃん「
え?え…あ、あの、その…何じゃはゃないかな…
(にやけながら裏庭の方を指す)

寅「
ハニョニョヘヘ…?、庭かな?
寅、探すが当然いない。
寅「なに黙ってんだよ、さくら!
さくら「
あのね…

そのとき御前様の娘
冬子
用事で来て一時中断(
寅一時的にニコニコ装う

おばちゃん、冬子が帰った後、
必死で目にも止まらぬ速さで寅から離れる。
ものすごい早業

さくら「あのね、お兄ちゃん、花子ちゃん田舎に帰ったの…

詳しい事情を話す、さくらと博。

もちろん寅は納得しない。

寅「おまえたち、嫌がる花子を無理やり帰したな
博「それは違います。花子ちゃん故郷(くに)に帰るの、とても喜んでいましたよ
でもよ、オレは花子の傍に一生いてやると約束したんだぞ!
それはそんなこともあったかもしれないけど…、花子ちゃんは普通の娘じゃ
 ないんですからね…

寅「あーそうかい!分かったよ!それじゃ花子はオレみたいなヤクザもんの
 傍にいるより、その津軽の山奥のよ、
ナンジャラ先生の傍にいたほうが
 幸せっていうのか!?えー!そうなんだろ!はっきり言ってみ
ろ!
 さくら!、
そうなのか…?最後は自信なさそうに言う

さくら「そうよ、お兄ちゃん、その通りよ…

わなわなして寅二階へかけ上がりトランクに荷物を詰め込み始める。

さくら、上がってきて
お兄ちゃん、どこへ行くの!?どこ行くの、お兄ちゃん」(トランクを握ろうとする

寅、さっきのこともあって、つい、止めようとする

さくらの頬を手の甲で叩いてしまう


倒れこむさくらハッとする寅、少し間があって、
それでも出て行ってしまう寅。起き上がって頬を押さえながら、
悲しみに呆然とするさくら。


旅立つ寅。

        



I【津軽に向かうさくら。そして寅との再会】

それから一週間ほどたった。

とらやの茶の間  雨


おいちゃん「ゆうべもな、またあいつの夢見ちゃったよ。毎晩不吉な夢ばかり見るんで気になってしょうがないよ

郵便屋「車さん、
速達ですよ」

拝啓。おまえを殴って悪かったな。あんちゃんは本当にバカな奴だ。
こんなバカな役立たずは生きていても仕方がない。
花子も元気にしていたし、オレはもう用のない人間だ。
オレのことは忘れて達者に暮らしてくれ。

さよなら。

敬具 寅次郎


寅が速達とは珍しい。よほど心がギリギリなのだろう。
速達と言えば、第25作「ハイビスカスの花」のリリーを思い出す。


一同不吉な予感が当たったと、不安になる。
心配でしょうがないので、さくらが津軽まで寅を探しに行くことになる。


         


夜汽車の中のさくら、疲れた表情で窓を見ている。
早朝弘前でローカル線に乗り換える。

北の果て、とういう感じの無人の「驫木駅」
さくらのまわりを風が吹き抜けていく


ようやく人に聞いて花子が働く田野沢小学校にたどり着く。

田野沢小学校

福士先生「
花子ー!給食が来たぞー!」(西北給食センター

福士先生や花子と再会

寅がここに訪ねてきたことが分かる。

福士先生「
そんですか、いや、花子からお兄さんのことはいろいろと
      伺っておりましたども、実に親切なええ方ですなぁ

さくらあの、兄がこちらでご迷惑をおかけしませんでしたか?
福士先生「
いえいえとんでもない、花子が元気でしてる様子ば見て、
     えがったえがったとたいした喜んで下さって、その晩は私どもさとこ泊まって頂いて、
     なんももてなしできなかったんですが魚だけは新しいもんで、二人して酒飲みましてなあ、ハハハ。
     しかし、お兄さんじっつに面白いお方ですなぁー!酔っ払ったら歌うたって、もうハハハ。


花子さくらにあげる給食を持って立っている。笑って少し照れている

福士先生「
花子何遠慮してるんだ来へ
さくら「
こんにちは
花子「
こんにちは
さくら「
花子ちゃんとっても元気そうね、帰ってきてよかったね
花子「
うん!」(嬉しそう

          

赤電話でさくら、とらやに連絡、安心していいと話している。
おばちゃんはまだ安心していないことが分かる。

弘前行きのバスに乗っているさくら(弘南バス)

車掌さん「次は、千畳敷…」
乗客たち「あれあれ、なんだべか?消防団も警察も出てるダ」

乗客たち「最近、よくこの辺で
身投げがあるんだ」

さくらの表情が曇る


北風の中寒そうに歩く寅、手がかじかんで、凍えている寅(回想)

車掌さん「岳(たけ)温泉前…」

さくらが座っている窓の向こうに
寅の帽子がちょっと映る

はい、どうもどうも、来たかちょうさん待ってたホイ
 !ハイ、おばあちゃん順番にお詰ください、ハイ気をつけてねー!


びっくりして振り向くさくら

寅「はい、おばあちゃん乗ったねー!
 (車掌さんの名前観て)あっ、
斎藤みつ子さん発車オーライ!毎度ご乗車…とと

バスが発車して揺れて、さくらの前にこける寅

寅、さくらを見て

寅「!!…さくら!

さくら「何してんのよ!!こんなところで!

寅「オレか?…温泉入ってたんだよ。な、おばちゃん、

さくら「何いってんのよ!このハガキはなによ!!相当怒って

寅「あっ、ハガキ?つ、着いた?

さくら「着いたわよ」(すこし怒って

いやー、なんだかあの時はあんな気分だったんだよなー…。
腹はすくし、金はねえしよ、それにボロっちい宿屋でもって、壁の隙間っから風が
スース―吹いちゃうしなー…


さくら「

オレ、死んだと思ったか?
さくら冗談じゃないわよ

寅、なんともいえない顔でさくらを見つめ…

寅さくらをじっと見て、フッと笑い顔に変わり
寅「…死ぬわけないよな…!

さくらに対して優しい目になっている


         

寅「そんな訳でよ、毎日ここにいるバアちゃんとね、風呂に入っちゃ、背中の流しっこして
 キャッキャ、キャッキャやってたんだへへへ…


さくら、呆れて、でもほんとは安心してなんともいえない気持ちになる。
そしてようやく…少し笑うのだった。

        

寅の声「けっこう毛だらけ猫灰だらけ、お尻のまわりはクソだらけってな!」


バスは日本晴れの中、岩木山を遠くに
望みながら津軽の田舎道を走っていく。


         




1971年(昭和46年)4月28日
上映時間 91分
動員数 92万6000人
配収 1億8000万円


第7作「奮闘篇」【本編完全版】はこちら


 

第7作「奮闘篇」ダイジェスト版を本日3月20日にアップの予定でしたが
「船越英二さん追悼」をアップしましたので、「奮闘篇」ダイジェスト版
本日23日にいたしまた(^^;)ゞ
次回、第8作「寅次郎恋歌」ダイジェスト版アップは3月25日夜頃になると思います。



【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら



【寅次郎な日々】全48作品マドンナ制作年度順






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301

                          
『寅次郎な日々』バックナバー 






追悼 船越英二さん  「兵頭謙次郎パパよ永遠に」
 


2007年3月20日寅次郎な日々 その301


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。




『船越英二さん.兵頭パパ』名場面集













対極に運命付けられる者としての存在感  兵頭謙次郎



スマートな優しい演技で親しまれた俳優の船越英二(ふなこし・えいじ、本名・栄二郎=えいじろう)さんが
2007年3月17日午後10時57分、脳こうそくのため亡くなった。84歳だった。奇しくもこの日は船越さんの
誕生日だったそうだ。船越さんと言えば、もうやっぱり「時間ですよ」なんだけれども、「男はつらいよ」では
もちろん「相合い傘」の兵頭謙次郎パパだ。

彼があの物語のもうひとつのカギを握っている。

兵頭謙次郎(パパ)を演じる船越英二さんは、一見飄々としているが、実にバランスが取れていて、
寅とリリーの対極に運命づけられている者、つまり『定住者』としての滑稽さと哀愁を十二分に表現していた。
なんともいえない柔らかな演技。絶妙の間。この方は本物の役者である。
そして、寅もリリーも久しぶりの再会であるにもかかわらず、このパパを絶対排除しない!これがこの
二人のおおらかさであり優しさなのだ。
リリーも寅も「出会い」を大切にする。放浪者の気質であり、絶対条件とでも言えるだろう。

その昔、「なつかしき風来坊」で、衛生局防疫課の課長補佐で、謙次郎に似た侘びしくも哀しいサラリーマンが
出てきたが、山田監督にとっては、この手の人物と型破りな放浪者との組み合わせは十八番だ。
謙次郎のあの優しき目は、さくらにも向けられ、ラストで「さくらさんは優しい言い方をなさいますね…」と
言わしめるのである。名優、船越英二さんでなければ味わえない柔らかく奥深い味わいだった。



それでは第15作「寅次郎相合い傘」の兵頭パパの名シーンをしばし追いかけてみよう。



寅はひょんなことから、八戸で兵頭謙次郎と出会い、旅を共にすることになる。彼は突如会社を無断欠勤し、
家族にも何も言わず旅に出て寅と知り合ったのである。




@【兵頭パパの屁理屈にタジタジの寅】


青森港そば


啖呵バイを終えて、宿に帰った寅は兵頭パパが首吊り自殺しようとしたと思い、必死で止めるが…。


謙次郎「ち、違うんです
寅「何ィ!?
謙次郎「蛍光灯のひもが切れたんで繋げてたとこなんです

寅、謙次郎を思いっきり投げ飛ばす。

健次郎「あ、いてて…た

寅「バカァ!そのことを早く言えよお前!
 ハアァー…ビックリしちゃったなオレ

健次郎「どうもすいませんでした。」と頭を下げる。
健次郎「商売の方は、今日、寅さんいかがだったでしょうか


寅「人の心配は要らないんだよ!
 手前ェの心配だけしてりゃ良いじゃねえか、え?
 今朝もほら俺がでかけに言ったろうかみさんとこへ
 帰れって、どうして帰んないんだよお前


健次郎「はい

寅「え?せめて電話だけしたのか電話だけ

健次郎「何べんもかけようと思ったんですが
寅「おー
健次郎「なんと言うか…照れくさいというか

寅「そんなこと言ってる場合じゃないだろお前。
 一家の亭主がだよ。ある朝ぷいと出たっきり、
 お前一週間も行方不明じゃさ
 家の者が心配でいてもたってもいられねえだろう。
 あ、ひょっとしたら
一家心中してるかも知れねえぞ、おい


健次郎「いやあそんなことは有り得ないでしょう

寅「えェ?それじゃお前ん家の家族はそんなに心が冷たいの?

健次郎はい。ある意味ではそう言っても
   差し支えないと思います


ほんとうは、家族はパパのこと凄く心配してるよ。

寅「へえ…と言いかけた所へ健次郎が近寄ってくる。

健次郎「実際僕はこの数日間
寅「ウン
健次郎「あなたと旅をしながら
寅「ウン
健次郎「人間の愛情と言うものが
寅「と目をしかめる。
健次郎「本来どのように温かくて
寅「ア〜!!


               


健次郎「優しいものであるかという事を…
寅「分かった分かった分かった
お前さんのその屁理屈
聞いてるとね頭の芯がズーンと重くなっちゃうんだよオレ!
ビールでも飲もうよォ…もお

寅、階段の所まで行って「おい姉ちゃん!ビール持ってきてくれビール!

従業員「はーい






A【自由に憧れる兵頭パパ】


青函連絡船「十和田」

寅階段で上のデッキまで
帽子を押さえながら上がってくる。
マジで強風で飛んじゃうんだねえ。


寅「どっか行く時は一言断っていけよ。
 自殺したんじゃないかと思って心配しちゃうじゃないか


健次郎「大丈夫ですよ寅さん

寅「え?


                 


健次郎「僕は死にやしませんよ
  僕は死ぬために旅に出たんじゃなくて
  自由を求めて旅に出たんですから


寅「分かった分かった分かった分かった(^^;)

寅「な、パパ、下行っておマンマ食おう。な、早く行こう。うん

健次郎「そうですね

あっ寅さん!こんな近くに。


カモメが近くを飛んでいる。

健次郎「いいですねえ…鳥は自由で


パパさん。鳥はあれはあれで、空飛んでいる時も、
いろいろ大変なんですよ、本当は…(^^;)
だから、寅もこれはこれでその代償を
払いながら大変な人生を歩んでいるんだけどなあ…。

自由の旅がそのまま日常になって
しまった男の侘しさと辛さを
パパは遂に知ることはないだろうな…。


                 






B【ロマンチックな兵頭パパ】


函館港  汽笛が鳴る ブォ〜〜〜

船を見送る家族が映る。


謙次郎「長い航海に旅立つ父親。
   別れを惜しむ子供たち。
   悲しみを胸に秘めて手を振る妻…。
   みんなそうやって生きてるんだなあ



アンパンを持ちながら。


パパは、この家族の絆が現れている心温まる風景を見てしみじみと気持ちが
潤っている。それは、どこかで自分もそのような状況にあり、
ギリギリでは満ち足りているからであろう。

しかし、「忘れな草」でのリリーは同じ光景を見て、哀しみ、涙するのである。
青春期から自分とは縁の無いもの。強烈な憧れがあるにもかかわらず、
自分の因果な放浪の気質ゆえに彼女には持つことも出来ない遠い存在なのだ…。



               


寅「おい、パパ
謙次郎「はい
寅「のんきなこと言ってる場合じゃねえぞ、おい。
 二人の金合わしたってこれだけなんだよ。
 今夜の宿銭にも足りないんだよ


謙次郎「いいじゃありませんか
寅「ど、どうしてよ

謙次郎「いよいよとなれば駅のベンチだって寝られますよ。
  あ、そうだ、それがいい。
  ロマンチックですよ〜それも


と、干からびたアンパンをかじる。


                  


寅「ケェッ、パパだけロマンチックにしなさいよ
やってられねえな、まったく ┐(~。~;)┌






C【リリーと合流!3人で大いに盛り上がる】



寅「あ、この女な…、二年程前に
 俺といろいろ
わけありの女よ

 と、謙次郎に紹介。

紹介の仕方があっさりしてていいねえ。
わけあり」 ただそれだけで、なにか全てを語っているように
思えてくるから面白い。


            



リリー「もう二年なるかしらねえ〜
                     
寅「そうよー。去年、おととしの夏だもの


                   


リリー「そうだったねえ〜…と思い出すように。

寅「う〜ん

リリー「あんたあれから何してたのよぉ〜!?
と、寅の手を握って揺さぶる。


                  


寅「えー?…俺か?

……恋をしていたのよ


                      恋をしていたのよ
                  


リリー「ヒィーー!よく言うよ!ハハハハ!


                                ヒィ――
                      


寅「エヘへへへへ!ハハハ!

パパも後ろで実に楽しそう。


                           


寅「よーし一杯飲むかおい!
リリー「おじさんじゃんじゃん出して!
おじさん「はいはい」
寅「よし!今夜はパーッと行こうおい!
謙次郎「いきましょういきましょうハハハハ!


パパ、本音で生きている二人にめぐり逢えて本当に嬉しそうだね。
これこそが旅の醍醐味であり、人生の醍醐味だ。






D【リリーの添い寝で寝不足の兵頭パパ】


哀愁のあるアコーディオンが流れていく。
リリーのテーマのアレンジ版

函館の宿で寅に甘えるリリー、相手にしてくれない寅を見放した
リリーはパパに足を温めてもらおうと同じ布団に入ってくる。

リリー「う〜ん、つまんないよ

リリー「寅さん…

寅「ええ…

リリー「私冷え性なのすごく。夏でも足が冷た〜いんだ

寅、布団の中から、「下、行って、湯タンポつがしてもらえ

リリー「温めさしてェ]と甘えながら寅の布団に足を入れる。


                     ヒャッコイ、ヒャッコイ、ヒャッコイ
                


寅「あ、あ、あ、だめだ。ヒャッコイ、ヒャッコイ、ヒャッコイ、
 そんなつっこんじゃだめだよ、おまえ


リリー「けち

リリー「じゃあいいよ、パパに温めてもらうから
とパパの布団に、足を突っ込む。

謙次郎「そんなあ…(◎_◎;)

うわぁ、温かいわ、パパの足。気持ちいい〜!

謙次郎「寅さん…、寅さん!

寅、寝ながら「パパ…、温めてやれ…

謙次郎「ヒ、イイィ…


パパ、緊張しながら、枕に頭を下ろす。


リリー、パパの布団に寄り添いながら、子供のように目をつぶり
リリー「気持ちいい…


                 


パパ、唾を呑み込みながら、仰向けで緊張している。
パパ、今夜は当然眠れそうにないねえ (〃^o^)=3


普段独りでいる時は気を張っているリリーも、このメンバーだと
気心が知れて心が芯から休まるのだろう。
リリーは、親に恵まれなかった分、実は甘えん坊。

リリー、今夜は久しぶりにぐっすり眠れるね。
パパのキャラクターだからこそ安眠できるんだけどね、わかるわかる。



函館本線 

車内

パパが、うとうと居眠りをしている。

まあ、昨夜リリーにあんなにくっつかれちゃあ、
寝れないよな。普通は(^^;)


リリー「ちょっとちょっと

寅つまようじをくわえながら「うん?

リリー「気になってたんだけどさ。
  この人と寅さんとどういう関係?


寅「…これ?スーッ、えーっとねえ…あ!
 こいつと初めてあったのはね
八戸の駅なんだよ。
 ホームでもってボケ−って面して突っ立ってやんの

寅「『おいこら、お前自殺でもする気か?』って
 俺声かけてやったんだよ。
 それからずっと俺についてきやがんの。


リリー笑う「フフ…


寅「だいぶ変わり者だよ、オレたち常識人に比べると
リリー「ハハ…寅さん常識あるの?」と笑いながらつまみに手を出す
寅「あるよ、おめえ、大常識だよおまえ
リリー「キャハハハハ!
寅「おめえ無いんじゃないの?
リリー「あるよォ〜キャハハハ…


パパの横で布団に足入れて平気で寝てしまうリリーも、
寅のことを、悪く言えないぞ。
どっちもどっちの困った人たち ┐(-。ー;)┌

ちなみに、寅の「おまえ無いんじゃないの?」は本当の口の動きは
「お前と一緒だな」である。これでも面白いと思う。


                  


寅「へへへへ
謙次郎、起きて「ハハ…ハハハハ…」と寝ぼけながら釣られて笑う
寅「ホホホホホ…笑ってやんの
リリー「ハハハハ
寅「ウワハハハハ!
リリー「アハー、あたしお腹すいちゃった〜!
寅「
あ〜?
寅さんなんか食べよう!

寅腕時計を見て「うーんそうだなあ…」と時計を見ながら。

寅「長万部で降りてカニでも食うか

リリー「カニ!
寅「うん!
リリーいいわねえ、パパ、お金有る?さっきの宿代の残り
寅「ちょっと、出してみろ、出してみろ

謙次郎「あ、はい。しかし、カニなんか食べてしまうと今夜の宿代が…

寅「いいじゃないか銭がなかったら、
 三人そろって駅のベンチで寝たっていいよ


謙次郎満面の笑み!「そうですね!そうしましょう!


                  


寅「だいぶ変わってるだろへへへへへ
リリー「ハハハハ


パパが、なかなかユニークで楽天的で懐が深いキャラであることに、
リリーも気づいていくのだった。





E【兵頭パパ人生最高の日々】


夕日に染まる  塩谷海岸。 積丹半島のつけ根

寅たち夕日をバックに波打ち際で遊んでいる。

ハーモニカによる故郷の廃家(はいか)が流れる。
作曲:W.S. Hays       作詞:犬童球渓

第7作「奮闘篇」で花子ちゃんが、江戸川土手で歌っていた曲。

                


寅が拾った海草を振りまく。
逃げるリリー。笑うパパ。



走るリリー
ハイヒールを手に持って

リリー「キャハハハ!


寅「パパ!投げろ!

パパも石を投げる。
謙次郎「よいしょ

波打ち際をキャ
キャ走り回るリリー。


                         


瀕死の重傷だった兵頭パパの心は、
こうして開放されていった。
3人にとって最高の日々…

この塩谷海岸は、鶴岡雅義と東京ロマンチカが
歌ったあの名曲「小樽のひとよ」にも出てくる、
夕日の美しさで名高い『塩谷の浜辺』である。

「小樽のひとよ」は三条正人のファルセットと、鶴岡雅義が弾く
レキント・ギターの澄んだ音色が時代を超えて
今でも私の胸に感動をおこさせるなんとも素敵な曲だ。




早朝の  函館本線  『塩谷駅』

鶏の鳴き声

遠くに塩谷海岸からの日本海が見え、船が行き来している。

リリー、水道で顔を洗っている。

寅「ハーァ、久しぶりに駅のベンチで寝たら体痛くて。
 布団じゃなきゃダメだなこりゃ
鉢巻している。

リリー「フ…タオルで顔を拭いてる。

寅「ウホィ!ッヨッガァハァ…!ヨ!ハア…
腕を広げた後、屈伸の体操している。


リリー「フフ…と手を洗って、ブラシで髪をブラッシングをしている。

パパ、出てきて「おはようございます

リリー「おはよう

謙次郎「よく寝られましたか、リリーさん

パジャマ姿!のパパ、歯ブラシを口に突っ込んで歯を磨く。

林間学校の生徒みたいな気持ちなのかもしれない(^^;)
パパにとっては『駅寝』もハレなのだろう。
背広やワイシャツを脱いで、きちんとパジャマを着て
寝てしまう行為は、日常の心を残したまま旅を続けていると
いうことでもある。
『決心を伴わない放浪』のぎこちない、滑稽な姿がそこにある。


そんな格好で駅の待合室に朝の始発過ぎても寝てたら、
駅員さんに注意されるよ普通は(^^;)宿屋じゃないんだから。




リリー「ふう〜ん…と笑っている。

寅「ガハハハ!パパ!短靴(タングツ)はいて
 寝てやがる!ガハハ!


謙次郎「フフフ…」と笑いながら歯をしっかり磨いている。

リリーも笑っている。


              




札幌 大通り公園

3人でバイをしている。(万年筆)

バイの主役はなんと寅ではなく、パパ!
寅とリリーは『サクラ』



寅「あ、そうかい…、それじゃ、その火事になって
 その万年筆工場っての、潰れてしまった
 ってわけだね
おいおい(^^;)


謙次郎 頷く

寅「可哀想になあ…

リリー「あなた、買ってさしあげたら?
  坊やも欲しがってたじゃないの
坊やって誰や?(ノ゜ο゜)ノ

寅「そうねえ…。これ1本いかほど?


謙次郎「せ、千円いただければ…上手い!(^^)


                


リリー「安い…

寅「え?そんな安くっていいの?しかし、これ、あの、ほら、
 水をかぶっただけで、火には全然あぶられていないんでしょう?


パパ、頷く


寅「安いもんだなあ…


                


リリー「あ、よく書けるわ〜リリーっていったい…(^^;)

寅「ママ、嬢やにも1本買ってあげたら。
  英語のお勉強しているから
嬢やもおるんかい?(/^□^)/

リリー「そうねえそうねえって…(^^;)

『ママ』『嬢やにも』って言われて、ほんの一瞬、
どう言おうか迷っていたりりーでした(^^;)


リリー「女物ございますぅ?リリー笑ってるよ ヾ(´▽`;)
謙次郎「は、はい」と言って万年筆を渡す
謙次郎「ありがとうございます
寅「安いねえ!千円は。安いねえ〜しかし

ヘルメット姿の男の人1本買う (ノ≧∇≦)やった…!
帽子を取って頭を下げるパパ。


謙次郎「あ、ありがとうございます

パパはこの手の商売の才能あるのかも…。
泣きの兵頭」って言われたりして(^^)

OL連れ「何があったんですか?
寅「
いや、会社が潰れて、万年筆を退職金代わりに
売ってるんですよ。
お買い得ですよ、安いですよ、え〜

リリー、千円札をパパに渡す。

謙次郎「おそれいいます…」と受け取る。

寅「いや〜、僕ももっとお金があったら
 欲しいなあ…いくらでも


いくらでも買ってどうするんだ? (^^;)




田舎の牧場の1本道

荷馬車の上に揺られている3人。

白い花が一面に咲いている。

3人とも大笑い


                


リリー「だってさ、パパがしょんぼりしてると、
  ほんと
可哀想ぽくなっちゃうよね!


寅「ほんとなあ、素人は恐いよ!え


謙次郎「いや、ほんとは汗びっしょり
  だったんです、ハハハハ!



荷馬車が揺れて「ワーッ」と3人とも大はしゃぎ。



3人の笑い声は続く。景色はいいし、懐もちょっと温かくなって、
安堵して、最高の気分!



この笑顔はいつまでも私たちの記憶に
刻まれていくことだろう




                


遠くに山々が見える。
実にのどかな風景




こうして、渡り鳥たちの
栄光の日々は最高潮に達していった。
兵頭パパにとっても生涯の思い出となる
日々だったに違いない。








F【謙次郎と信子の再会と別れ】


運河の橋の上

謙次郎「小樽……ここが小樽かあ…

しみじみと感慨深げに運河を見ている。


                 


小樽ではパパが主役なので、ここからはパパ改め謙次郎(^^;)



謙次郎、寅のところに駆け寄って

謙次郎「寅さん、僕は30年間、夢に見た街ですよ…

30年間とは、ただ事じゃないぞ、こりゃ。


寅「そんなにいいかね、この古臭え街が…

リリー、タバコをふかしながら、謙次郎の方を振り向く。


                            


謙次郎「あ、いや…この街には僕の初恋の人がいるんです…
寅、ほお〜っというようなおどけた顔をして、リリーを見る。

謙次郎「学生時代東京で知り合った人ですけどね、
   小樽の人だったんですよ、その人は…


寅「そんなに惚れてたの…

謙次郎「ひょっとしたら、僕が生涯で
   一番愛した人かもしれませんねえ


寅「愛しただって…ククク

リリー「ク〜ククク

と二人して下を向いて笑いをこらえている。

おいおい、悪いよ、笑っちゃ。

謙次郎「考えてみれば、僕はこの街に来たくて
   旅に出たのかもしれないなあ…



初恋の人、信子を訪ねて、一人彼女の喫茶店に訪ねるパパ。

軽食喫茶 ポケット

店内 

謙次郎、中に入ってくる。

信子、遠くから「いらっしゃいませ


帽子を脱いで、前の方を向いた時、カウンターの中の
信子を見つけ、ドキリとする。

信子の名前は脚本による



                        30年ぶりの再会だった.
                   



三十年ぶりに見た初恋の人の姿であった。


彼女は入ってきた謙次郎に、
全く気づいていないような、
しかし、そのようなふりをしてるような…。



A「何にいたしますか」←信子を手伝ってあげてる感じ。

謙次郎「コーヒー下さい


                   



息子、奥の部屋から野球のユニホーム姿で出てくる。
この奥が自宅になっているらしい。


息子「母さん野球しに行ってくるよ
信子「あんた勉強しないでいいの?
息子「後でするよッ
信子「勉強しないで野球ばっかりして

出て行く息子さんを深い感慨とともに見送る謙次郎。


                      彼女の息子さんを感慨深げに見る謙次郎
                   
                    


喫茶店の活気や、息子さんの
育ち方を見ている限りは 今の環境は
父親のいない寂しさや生活の苦しさはもちろんあるが、
息子さんにとってはそんなに悪くない環境であることがわかる。




信子「お待ちどうさま


と、やはり、謙次郎の方を見ないで
コーヒーとミルクピッチャーを置く。

そして、コーヒーカップの向きを整える。


                     思い切って信子を見る謙次郎。信子は目を合わせない。
                   


謙次郎は、思い切って信子を見るが、
信子はやはりそのまま向こうへ行ってしまう。



謙次郎コーヒーを口にする。


謙次郎、急にいたたまれなくなり、
謙次郎「あの…お金ここに置きますから

と、代金をテーブルに置き、大急ぎで店を出て行こうとドアの方へ向かう。


信子「あら…


謙次郎は自分が信子に30年間抱いていた
イメージとのギャップと、そして、信子が自分を
覚えていなかったのではないかと思う失望感で、
いっぱいになってしまったのであろう。


店から出た謙次郎。
迷いながらも歩いていく。



しかし、すぐ、立ち止る。
カバンを忘れたことに気づいたのである。


ためらいながらも、
店に戻ろうとして振り向く。



信子店から謙次郎の鞄を持って出て来て、
目で謙次郎を探す。
そして、はじめて謙次郎を見て微笑む。



                  信子はこの時初めて謙次郎と目を合わせ微笑む
                 


びくっとする謙次郎。


謙次郎、信子に近づき、鞄を受け取りながら

あ、どうもすいません
と、すぐに立ち去ろうとする。


信子「謙次郎さんでしょう?


哀しげな、テーマ曲が流れる。


                       謙次郎さんでしょう?
                  


謙次郎「ええ

謙次郎「あのうお分かりですか?


信子うなづいて「お店に入ってらっした時、
     すぐわかりました



謙次郎うなずく


                  



信子「あなた、昔とちっともかわらないのねえ…


謙次郎「そうですか、僕はまた、
   覚えてないんじゃないかと思って。ヘヘヘ…


謙次郎、ハッとして

謙次郎「いえ、出張でこっちに来たもんですから、
   ちょっとお寄りしただけなんです


信子、ほんの少し、うなづく。



                   



謙次郎「あのう…お元気そうで何よりです

信子「あの…

謙次郎「は?

信子「もう一度お入りになりません?


                  



謙次郎「い、いえ。僕、汽車の時間なんかあるもんですから

信子「……

謙次郎「あのう…どうぞ、お幸せに…

信子「……下を向いたまま小さく頷く。


謙次郎「じゃ、僕、これで、…どうも…



足早に去っていく謙次郎。
謙次郎に、もう一言何かを言おうとするが、
やめ、その後姿を追いすがるような目で
いつまでも見つめている信子。



アコーディオンの響き


                 


                 


実は、信子は店に入ってきた謙次郎を、
彼が彼女を見つけるより早く気づいていたのだった。
30年ぶりなのに何の迷いもなく、すぐ彼だと分かる。
そして、なにも言わないで、気づかぬふりをする。
その後店を出て行くまで目もあわせない。

気楽に再会できない。
それだけいつも彼のことが心のどこかに
あったのかもしれない。
だからこそ声をかけられなかった。

その昔、心の中で彼を思っていた自分。
でも、いつの間にか変わってしまった自分。
気づかぬふりをせざるをえない自分がいる。


彼女の置かれている厳しい現実と
過去の懐かしい思い出のはざ間で、
料理やコーヒーを作りながら
心の奥底でその間迷い続けていたのだろうか…。
もしそうだとしたら、これは切ない話だ。

それでも、最後は、ほんのひと時、
昔の思い出に浸りたい気持ちを遂に隠せなかった。

会わない方がいいのは百も承知で、
それでも過去の思い出に引きずられて会ってしまった男女の悲劇。
一番大切にしていた青春の美しい思い出が崩れていったのだ。

謙次郎は、自分の身勝手な思い込みへの反省と無力さを感じて、
いたたまれず、その場を去ればすむけれど、
彼女は、この厳しい現実の中で明日も生きていかなければならない。

しかし、出張とはいえ、謙次郎が、遠く東京から
自分に会いに来てくれた。(本当は出張ではない)
その事実だけは、彼女の人生の慰めになったかもしれない。

女手ひとつで忙しくはあるが、店はそれなりに順調そうだったし、
息子も普通に育っているように見えるので、がんばっていけると思う。


そしてあの別れのシーン。

あのシーン、岩崎加根子さんの表情は複雑で、
ちょっと辛くて、寂しそう…。

『追いすがるような強い視線』が切なく、やるせなかった。

ただ、30年前の彼女が、悲しみの中で一瞬蘇るような、
心の封印がほんの一瞬解けてしまったような表情が
もう少しだけあれば…。
これで生涯二度とお互いもう会うことはないと、
はっきり分かっているのだから。


ちなみに、 山田監督の脚本では、

「あなた、ちっとも変わらないのねえ」
信子の目に涙がにじむ

とある。

そして別れの最後にも

謙次郎の後姿をボンヤリ見つめる信子の
眼に新たな涙が湧いてくる


と2度涙を滲ませている。

この脚本を読んだ時私は確信した。
やはり信子も謙次郎のことがその昔好きだったのだと。



G【娑婆に戻って哀しむ兵頭パパ】


旅は、寅とリリーの喧嘩により突然終わりを告げる。
東京の自宅に戻ったパパは、淋しい日々を送っていた。
そして懐かしい寅のもとへメロンを持って訪ねて来る。



題経寺境内

寅気が付いて「パパー!と駆け寄っていく。
謙次郎「寅さん
寅「来たか!
謙次郎「ハイ!
寅「ハハハハうんうん

謙次郎も寅も大喜び

あの北海道の日々が蘇るね ( ̄ー ̄)


               



とらや 茶の間 


さくらと謙次郎が挨拶をしている。


謙次郎「はじめてお目にかかります…あたくし兵頭謙次郎と申しますと名刺を渡す。

さくら、恐縮して頭を下げている。

パパの挨拶がバカ丁寧で長いので寅がシビレを切らす。



寅「それじゃ何時までたっても終わらないよ。
 え?
だらだらと。ほれ座れ座れ

さくら「どうぞ
謙次郎「それじゃ失礼致しまして
おばちゃん茶を出す「どうぞ
寅「どうぞ、どうぞ、どうぞ、どうぞ
おばちゃん「先ほどは結構なものを
寅「ハハハ
謙次郎「いいえ、つまらないもので
おばちゃん「メロン頂いちゃったんだよ(*◎∇◎*)
おばちゃんの、『メロン』と言う時の顔。ただものじゃない気配。
よほど貴重なんだろうな、とらやでは(^^;)

殺気すら感じるおばちゃんのメロンへのあくなき執着。
この心が後に問題を起こすことになろうとは…。



                        
              


さくら「あらぁ…さくらも恐縮

謙次郎「近頃はメロンも味が落ちましてねえ
寅「何が味が落ちましてだおい。忘れたのか

さくらハンカチを額にあて聞いている。

寅「銭がなくてよ、駅の売店でお天道様がずーっと当たってカチカチ
になったような
アンパンうまいうまいって食ったじゃねえか
謙次郎「あああのアンパン
寅「うん
謙次郎「あれは美味しゅうございましたねえ
寅「なーに言ってやんだい二個も三個もかあ?

ああいう状況の食べ物ってなんでも美味いよね。


              


謙次郎「ああ、そうでした食べました食べました。


寅「あ!そうそうパジャマパジャマ
謙次郎「ああ!あの時の
寅「パジャマでしょ!エヘへへ!

さくら「どうしたのよ
寅「いや、こいつとね
さくら「うん

リリーと3人でさ宿銭がなくなっちゃったんで
 駅のベンチで寝ようってことになってさ
 あたし洋服のまま寝るのはやだって一人だけ
 パジャマに着替えてベンチに寝てんだよこの人

さくら「アハハ
寅「おかしな人だよ全く

寅「あ!万年ペン万年ペン!

謙次郎「そう!札幌で

寅「うんやったねえ万年筆工場が潰れました。
 この人は失業者ね!買ってください。
 これが偽もんだと思えないんでドンピシャリ!
 万年筆が飛ぶように売れるんだから

謙次郎「寅さんがサクラになって

さくら「ヤダワァ

寅「リリーがね、オレの女房みたいに
 ここにぴったりくっ付いてさね、あなた、
 この万年筆坊やに買いましょうか。
 うまくいったなあ!え?アハハハハ!
 またやろうまたやろう!え?


謙次郎「楽しかったですねえ
寅「今度は何売るか!アハハ…


謙次郎下を向いて、さめざめ.。。

沈黙が流れる

おいちゃん、やってきて「なんだか楽しそうなお話ですなあ、アハハ…?

さくら、ウルウルしている謙次郎に気づいて、おいちゃんの袖をつかむ。


寅「…?なんだい?どうしたの?

謙次郎「ハハ、どうも失礼しました。
僕はね、近頃、寅さん。あなたが
羨ましくてねえ…。
家じゃ
家族の者がみんな白い目で見ますし、
会社へ行けば役職を取られて
することは有りませんし、
全くなんのために
生きてんだかこれから先どんな楽しみが
あるんだか。
一体僕の人生は何なのか、
そんなことを考えますとね寅さん、僕はあなたが羨ましくてね

パパ、会社に関しては身から出た錆だよ。これは
自由を愛したら、こういう羽目になる(^^;)


             


寅「分かる分かる分かる分かるパパの気持ちよーくは
分かるけどもさ、あのーそっちとオレとをほら立場を
とっかえるってわけにはいかないんだから辛抱しろよ。
よく言うじゃない
の。あのー上を見たらキリがない。
ね、おばちゃん



謙次郎の人生と寅の人生のいいとこ取りは
できないのだと思う。寅のことが羨ましいのなら寅が
背負っているリスクを同じように謙次郎も背負わなくては
ならないのだ。


おばちゃん「うんそうね
寅「うん
謙次郎「分かってます
謙次郎「「僕も定年まであと7年ですから。
   そうなったら寅さんのように、

   思いっきり僕も旅に出ます

おばちゃん「まあ…、そりゃようございますねえー

おいちゃん「定年のある方は羨ましいですよ…。なあ、寅
ほんとほんと(^^;)

寅「うんん!そうだよ。そうなんだよ。
オレ、定年なんてないもんね。
そっちどこで手に入れたんだ?え?
あ、あれは
区役所行くのか?

さくら「ばかね!もう、お兄ちゃん
おいちゃん「なんにも分かっちゃいないんだ、こいつは
おばちゃん「ああいうものはね、手に入れるもんじゃないの
寅「じゃ、口に入れるんですかくだらねえ〜(−−;)
おばちゃん「違うよ!」
さくらたち「フフフ」
寅「鼻に入れるんですか悪乗り(ー −;)

おばちゃん、お茶のカン振り上げて
おばちゃん「もう!

時々、こうしておばちゃんをからかっては喜ぶ寅でした。(^^)

謙次郎もみんなも大笑い


謙次郎は自分のわがままで、しでかした蒸発劇の
結果を受け入れなくてはいけないことは頭では
分かっていても、気を許している寅にはつい愚痴をこぼして
甘えてしまうのだ。心優しき甘えん坊。船越さんの当たり役だ。





H【寅とリリーの結婚を望む兵頭パパ】


夕暮れの江戸川土手


寅とさくらが謙次郎を見送っている。団子のお土産

謙次郎「どうぞもう、このへんで。ほんとにどうもいろいろありがとうございました
さくら「いいえまたどうぞお出かけください
謙次郎「はい
寅「今度よ、かみさんと一緒に来いよ、な
謙次郎「はい

謙次郎「あの〜さくらさんちょっと…

謙次郎、さくらの耳元で
謙次郎「寅さんとリリーさん、いつ結婚なさるんですか


              


さくら「え!?
寅、耳ダンボで聞いていて
寅「
おい馬鹿なこと言うなよおまえ、シラケルなあまったく
謙次郎「いいえあの式のときはぜひ僕を呼んで頂きたく思いまして
寅「分かった分かった分かった照れながらも実に嬉しそう
謙次郎「何があっても駆けつけますから
寅「ん、うん、帰れ帰れ帰れ
謙次郎「さくらさん、お願いしますね
さくら「あ、はい
寅「帰れ帰れ、ヒッヒッヒッ
謙次郎「じゃ、これで失礼します
寅「うんうん、ヒッヒッヒッヒッヒッヒッ
さくら、寅を見ている。

さくら「失礼します
謙次郎「本当に、呼んでくださいねと土手を歩いていく。
さくら「はい
寅「うんうんうんヒッヒッヒッあばよ
寅「まったく素人は付き合いきれねえよなハハハ…ヒッヒッ



             


謙次郎「さよなら〜
寅「うーん
寅「おい、いこいこ、いこ。おい

さくら、お辞儀をしている。


この謙次郎の言葉は、後にさくらの行動を後押しし、その遥か後に、
リリーとの奄美での共同生活にも繋がっていく。




I【兵頭パパの優しさ】


そして、夏

柴又参道

氷の旗 風鈴が鳴っている

おばちゃん、スイカを切っている

茶の間で謙次郎が座っている。


謙次郎「傷の癒えた美しい渡り鳥は、
  ある日ふただび青い空へ…。
  なるほどねえ…寅さん詩人ですねえ…



さくら「
フフ…」と照れる。

おいちゃん「フフ、恐れ入ります…この発言妙に面白い(^^;)


            


さくら「でもね、おいちゃん、私たち
  悪いことしたんじゃないかしら?


引き金的には「私たち」じゃなくて、「私」だろう、さくら(^^;)

おいちゃん「どうして?

さくら「なんていうのかなあ…。無理やり結婚の話を
  持ち出したことで、かえって…ふたりの仲を
  引き裂いたような気がして



おいちゃん、静かにうなずく


謙次郎「仲を裂いたって…?


さくら「ですから、リリーさんと兄は、
  本当に仲のいい…
  友達だったんじゃないかって
  …フフ…そんなふうに



自分を納得させるように呟いたこのさくらの言葉は心にしみました。


              


謙次郎「…なるほどねえ…」とうなずく
      

謙次郎「さくらさんは優しい言い方をなさいますねえ…



              




おいちゃん「フフフ…
さくら、下を向いて照れる




謙次郎の眼差しが優しくさくらを包み込んでいる。この言葉こそ彼の
優しさであり、懐の深さなのだろう。私はこの人が心底大好きだった。




真面目でユニークで、そして何よりもこころ優しい兵頭パパでした。

船越英二さん、心よりご冥福をお祈りいたします。




 

第7作「奮闘篇」ダイジェスト版を本日3月20日にアップの予定でしたが
本日は「船越英二さん追悼」をアップしましたので、「奮闘篇」は22日にいたします(^^;)ゞ



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300

                          
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第6作「男はつらいよ.純情篇」.ダイジェスト版
 


2007年3月17日寅次郎な日々 その300


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。

おかげさまで『寅次郎な日々』は今回で300回になりました。読んでくださってありがとうございます。

さて、この第6作「純情篇」は豪華キャストである。大映のスター若尾文子と名優森繁久弥を起用し、
いよいよ松竹の看板シリーズ映画として制作して行くことになって行く。


第6作「男はつらいよ.純情篇」ダイジェスト版


赤いマフラーの別れ


気持ちを新たにして作った完結篇の第5作「望郷篇」は成功し、完結どころか逆にシリーズ化のエンジンがかかり始める。
次の第6作はマドンナも当時すでに大女優の貫禄を持ち、美しい顔立ちで人気の高かった大映の若尾文子を起用し、
森繁久弥も重要な役で出演するなど、キャストもなかなか派手である。松竹がいよいよ本腰を入れて投資しはじめたのである。

私にとってこの純情篇はなんといってもラスト近くのさくらと寅の柴又駅ホームでの別れである。

数あるさくらと寅の別れのシーンの中でも最高の叙情感があり、この二人の繋がりの深さを表現していた。
このシーンだけでもうこの映画は再観に値する作品だと言い切ってよいと思う。私はあの別れを『赤いマフラーの別れ』と
勝手に呼んでいる。定住に憧れ、故郷に強い思いがあるにもかかわらず、どうしても放浪の旅を続けてしまう寅。
このふたつの心の葛藤をこの別れのシーンは見事に表現していた。

森繁久弥の演技も秀でており、この作品を引き締めている。
博の独立騒ぎのドタバタやタコ社長の家族構成がばっちり見れることでも有名。博がこの時独立していたら、この物語は
この先しばらくして終っていたに違いない。とらやのすぐ裏手で博がタコ社長のもとで働いている。このことがどれだけ
とらや共同体を広がりのある強いものにしているか。この第6作ではやばやと博は独立を諦めたのである。後に第32作で、
父親の遺産が入った後でもそれを独立資金にせず、工場にオフセットを投資して、タコ社長との共存の方向を選択し
模索していくのである。

とのかくあのシリーズ屈指の名場面柴又駅でのさくらと寅の別れがある限り、この第6作は私の中から忘れられることはないだろう。

私はあの別れの場面を『赤いマフラーの別れ』と勝手に呼んでいる。倍賞千恵子さん生涯の名場面だと断言できる。
前作第5作は望郷篇といったが、この第6作も「望郷」の念が強く押し出された作品である。

また、この作品のマドンナである夕子さんは寅のことを男性として愛する事はできなかったが、寅の根っこの部分を
しっかり理解し、共感していたマドンナである。
その鋭い洞察力で短い時間で寅を把握できた数少ない女性だったのではないだろうか。
このような内省的な思考ができるのが夕子さんの優れた資質なのだろう。ただ単に上品な山の手のご婦人じゃないのだ。


本編


@【テレビ番組をみて郷愁をそそられる寅】

今回は夢のシーンはない。

夜汽車
に揺られて侘しく旅をする寅の姿から始まる。

ふるさとは遠くにありて思うものとか申します。
葛飾は柴又を飛び出してより、もう二昔と半、どおせ気楽な旅烏渡世と粋がってはおりますものの、
侘しい独り旅の夜汽車のうたた寝に、ふと夢に見るのはふるさとのこと、お笑いくださいまし、四十に手が
届くこの寅次郎は行きずりの旅の女の面影に、故郷に残した妹を思い出しては涙をこぼす、意気地なしでございます。

プシュー!!
隣で寝ていたおじさんにかかり「
うわっ!なんだ」と逃げていく。泡をふーっと吹く寅

          


メインタイトル「はつらいよ 純情篇」 

ヘリコプターかセスナから撮った
俯瞰映像(なかなか興味深い)

口上

 わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
 帝釈天で産湯をつかい、
 姓は車、名は寅次郎、
 人呼んでフーテンの寅と発します。


ゆったりとした歌い方

 
♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
  いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
  奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
  今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪



この間ずっと航空からの柴又付近の俯瞰映像が流れる。

           

キラキラ光る江戸川。帝釈天参道
いきなりテレビの白黒番組で柴又が映る
ナレーションと字幕が入り、これがテレビ番組だということがここで分かる。

ナレーション
この江戸川のほとりに周囲の繁栄から取り残されたような町、柴又があります。
周囲の繁栄から取り残されたって、柴又の人聞いたら怒りそうなナレーション..

寅は、山口県の港のとあるそば屋で偶然この番組を見ている。

テレビのナレーション
江戸時代から多くの人々の信仰を集めた帝釈様として知られる題経寺。
昔は江戸川を船でさかのぼって人々はこのお寺にお参りをしました。』
『今も門前町には江戸庶民の味覚を楽しませたお団子屋さんが軒を並べています。


江戸時代から続いて六代目
だという車竜造さんは団子も若い人たちにそっぽを
向かれてしまってと、悲しそうに語っていました。』


おいちゃん、なかなか渋い職人さんとして映ってる。寡黙な人柄に見えるから不思議(^^;)
     


寅「!……

いきなり、題経寺やとらやが出てきて驚いて食い入るように番組を見ている。

江戸川の岸辺に満男とたたずむさくらが映る。
さくら!!

        

テレビ画面ではさくらが満男と一緒に江戸川のほとりにたたずみ、さくらが満男を抱いて
微笑んでいるアップが映っている。

とらや  茶の間

とらやでも皆で見ている(とらやのテレビはそば屋のものよりもずっと新しいタイプ)

ナレーション

『このあたりの美しい自然の景色はいつまで残ってくれるのでしょうか…、
今、江戸川は静かに暮れようとしています…』
ふるさとの川 ― 江戸川 ―  終
とらや一同初めてのテレビ出演で盛り上がっている。

そういえばタコ社長も第36作「柴又より愛をこめて」であけみを探すため恥をかいていた。

          

さくらどっかで見てなかったかしらね…お兄ちゃん

電話 リ―ンリーン

テレビ番組のことで盛り上がる寅とみんな。

寅「
これから九州に行くところよ。オレかぁ?うん、元気でやってるから心配するな、え?
あっ、みんな仲良くやってるか?あーっ、もう10円なくなっちゃうんだよ、
帰ってこいって?そーもいかないよ、オレ忙しいんだよ。なっ、みんなによ、
よろしく言ってくれよ、な!オレも元気でやってるからよ!うん
あっ、さくら!!あの、
あんちゃんな!!おい??…


私はこのシーンが好きだ。寅の郷愁がよく滲み出ていて少し悲しい

           



A【五島の父娘の絆を見て柴又へ走る寅】

長崎港 

今日最後の船が出てしまった後。
寅「
行こか、戻ろか思案橋ってなぁ…

五島行きの船が終わってしまったのである。
一日ここで泊まるか。違う土地に行くか迷っているのであろう。


絹代あのー…すいましぇんけど…お金貸してもらえんとでしょうか…、
   少しでよかです…今晩泊まるお金が足らんとです…

寅、しばらくだまって、じっと見つめ、何か言おうとして…、
来な…
宮本信子が体当たりのいい演技している。まだこの頃は若い!

旅館『丸重』

谷よしのさんがまたまた下働きの女中さん役で登場!(ちょっとセリフ貰っていた)
絹代は寅に夫のひどい競輪狂いと遊び癖を告白して泣きじゃくる。

寅「さあて、じゃ、寝るか…と襖を開けて隣の部屋へ行こうとする寅。
 ふと絹代を見ると、

絹代が服を脱ごうとしている。

絹代「泊めてくれて…なにもお礼できんし…
寅「……
絹代子供がおっけん電気ば消してください!」と、泣いて寅を見る。

船の汽笛ブオーッ
寅、絹代を見つめ、悲しい表情になって

寅「あんた、そんな気持ちで、このオレに金を…そうだったのかい…
寅、やさしい顔で


オレの故郷にな、ちょうどあんたと同じ年頃の妹がいるんだよ。
もし、もしもだよ、その妹が行きずりの旅の男にたかだか二千円くらいの宿賃でよ、
その男がもし、妹の体をなんとかしてえなんて気持ちを起こしたとしたら、オレはその男を殺すよ……。
五島とかいう…あんたの故郷で待っているおとっつあんだってオレと同じ気持ちだよ。
それに決まってらぁな…


寅の心根が分かる美しいシーンだ。だ第6作の隠れた名シーンだ。


      

静かに襖を閉めて隣の部屋へ行く寅。


翌日 五島、福江島(福江市) 五之浦漁協
自宅に案内する絹代。中村旅館

第6作のテーマ曲流れる。
この曲は柴又駅でのさくらと寅の別れのシーンでも使われている。

頑固者の父親と絹代が何年ぶりかで会ったのだ。
寅は気を利かせて外へ出て行く。父親役は名優森繁久弥さんだ。

       


父親「
なんて名前だ
絹代「
さなえ
父親「
えっ?
絹代「
早苗

短い言葉のやり取りの中から親子の情愛が
滲み出る味わい深い場面だ。


夜、酷い夫のことをなじり、もう別れたいと泣く絹代。

絹代でも…うち、もう、あげん男とは…」泣きじゃくる。

父親「おまえが好いて一緒になった男やろが、そんならどっか一つくらいよかとこのあっとじゃろ、
 そのよかとこをおまえがきちんと育ててやらんば、その気持ちがのうてどんな男と一緒に
 なったって同じたい。
おいの反対ば押し切って一緒になったんならそんぐらいの覚悟しとらんで
 どげんすっか。そんな意気地のないことじゃ父ちゃん心配で死ぬることもできん…


寅、ずっとそれを聞いている。
しんみり黙っている寅

寅「
まったくなあ、おじさんの言うとおりだよ。帰れるとこがあると思うからいけねえんだよ。
失敗すりゃぁまた故郷(くに)に帰りゃいいと思ってるからよ、オレゃ、いつまでたっても
一人前になれねえもんなおじさん。

父親「
故郷(くに)はどこかね?

寅「
くにかい?くには、東京は葛飾の柴又よ。

父親「
ほう…、親御さんはおるのかね?

寅「
うん、もう死んだ。でもな親代わりにおいちゃん、おばちゃんがいるんだ。
 それに妹が一人いるよ。おじさんの娘と同じくらいの年頃だ。


ほんとは産みの母親(お菊さん)は存命で京都のグランドホテル(ラブホテル)の経営者

父親幸せかな妹さんは?
寅「
あっ、子供がいるよ。その亭主ってのがな、オレみたいな遊び人とはまるで違うんだ。
 真面目の上にクソってのがつくくらいなんだ。印刷工場の職工やってるよ。

その印刷工場の裏手でもってね、オレのおいちゃんてのがケチな団子屋やってるんだ。

さくらがよ
、あっ、これはオレの妹だけどね、
近所のアパートに住んでるんだ。買物の帰りなんか、子供連れてね団子屋に
ちょくちょく顔出してよ、くだらないことしゃべっているうちに、日が暮れらあな。

『どうだい?晩御飯食べてお行きよ』
いいよ悪いから←渥美さんのこの言い回しが絶妙。
何言ってんだい、これからじゃ面倒だろ?』『ね、さっ、裏に亭主いるんだから博呼んどいで。
みんながまぁーるくにぎやかに晩飯よ。その時になると決まって出る噂がこのオレだ。

オレはもう二度と帰らねえよ。
いつでも帰れるところがあるからいけねえんだ。うん!


船の汽笛『
ブオー〜

おい!その船待ってくれー!!
汽笛の音で郷愁をかきたてられた寅は、遂に家を飛び出し、五島を立ち去るのである。

         



B【下宿した夕子さんとご対面の寅】

とらや

おばちゃん2階をパタパタ掃除

タコ社長「なんだい今ごろ掃除なんかして、大掃除には早いんじゃないか?」
おいちゃん「ちょっと
下宿人が来たんでね。」
丹念に櫛で
髪をおめかしセットしている
おいちゃんも困ったもんだ(^^;)

おばちゃんの遠縁の夕子さんが夫と仲たがいし、とらやの2階に下宿することになったのだ。

おばちゃん曰く私の従兄弟の嫁いった先の主人の姪の夕子さん
すげー、遠縁!!もう親戚でも何でもネエぞ!それにしてもおばちゃん詰まらずに
スラスラッと早口言葉のように言っていた。

夕子さんに若くてきれいだったと言われてと雑巾で口を押さえて、ハッ←おばちゃんミニギャグ。

          美人だネエ…(@@)


おいちゃん、社長ともどもお口ポカーン(見とれている)
確かに若尾文子さんは美人の典型のような顔だなぁ。
タコ社長「スゲェ―上玉だね!!」

寅がもし今、帰ってくると…、と社長がビビる。

おいちゃん「嫌なこと言うなよおめえ、縁起でもねえこと.…」

寅がスーッと前を通る。

おいちゃん気づいてビビリまくる
この顔が凄い!森川さん十八番の顔芸)


         

そして遂に寅が帰ってきて、いつものように2階に上がろうとする。

おいちゃん「あ、あー!、う、うー!!

寅「おいちゃんよ、たったひとりの甥がね、
はるか南(みんなみ)から寝もせでこうやって来てるんだぜおい。いくら、
不人情なおいちゃんでもそれくらのことは許してくれるだろ?
いいねぇー!この言い回し

         

遂に、おいちゃんは下宿のことをバラす。

おいちゃん「寅さんよ!実はなー…、おまえの部屋人に貸しちゃったんだよ…、
     だから物置部屋で、おい、
つね布団出してやれ

そしていつものように、傷ついた寅は旅立とうとする。

寅「どうせ、オレはこのうちの人間じゃねえもんな。だけどよ…そうだったらはじめからひとこと言って
くれりゃいいじゃねえか、なんてこたあねえのによー、それとも遠慮かい?おいちゃんとオレの仲は
そんな水くせェ仲だったのかねえ…


おいちゃん「ちょっとどこへいくんだい?
寅「さくらによろしくな

寅、店先まで出て

夏になったら鳴きながら、必ず帰ってくる
あの燕(つばくろ)さえも、何かを境にパッタリ姿を
見せなくなることも…あるんだぜぇ。

おいちゃん、おばちゃん、オレゃ、もう二度とここのうちには
帰ってこねえよー。本当だぜー、
(土産物を置く)

寅、店を出る。夕子さんとすれ違う。(^^;)

夕子「ただいま、おばさんこの辺り物価が安いわね、←箱ティシュ70円

三味線、ペンペンペンペン…
寅、足をつまづかせながら夕子を見る。

夕子さん寅に気づく。

おばちゃん「あ、あれね、あたしたちの甥なのよ

紹介されて

夕子 「まあ、甥子さん。あの、夕子です。ご厄介になります。どうぞよろしく

寅、低音で「ハハァ…

         

夕子二階へ

ニカーと笑う。
おいちゃん「ばかだねー」としゃがみこむ。

寅、もじもじ、後ろ髪を引かれながらも事の流れ上、店の外へ出てしまう。

そのときさくらが来る。グッドタイミング!

さくらお兄ちゃん!
寅「さくら!!」
さくら「いつ帰ってきたの?
今、たった今帰ってきた!でた〜(^^;)
さくら「おじちゃんたち!お兄ちゃんよ!
ただいま!よく言うよ(−−;)
おばちゃん「おかえり…優しいね(^^;)
おいちゃんおか、おかえり…大変だね(^^;)
寅「
元気!? これだよこれ┐(-。ー;)┌
おいちゃんたちうう…うんうん…おつかれさま(^^;)

夕子暖簾をくぐって2階から店にやって来る。

寅、いきなりすくっと立ち上がって、パッと華やいで、
さきほどはどうも

帝釈様にお参りに行く夕子さんにニコニコくっついて行く寅でした(^^)

さくら「
どうなっちゃったの?おいちゃん
おいちゃん「
あーなっちゃったんだよ…あーあー気持ち悪くなっちゃった。あー〜…」



C【寅の頭と心の葛藤】

夜、さくらたちのアパート

なんと博が工場を辞め、独立したがっているのだ。

さくら「ねぇ、誰に書いてるの?」
博「親父にだよ」
さくら「お金の事?」

博「
独立するにはなんとか機械を持たなくっちゃ…、機械さえあれば80万円!
 ↑博が独立!タコ社長えらいこっちゃこれは!

       

とらやの朝

おばちゃん「お昼まで寝かせて欲しいってよ」
おばちゃん「疲れが出たんだろう、いろいろあったらしいから…」←別居問題

寅あわてて戻ってきてペストかコレラになったら困ると言って医者を呼ぶ。

万が一ってことがあるじゃないかよ!電話だよ電話!医者医者!医者を呼べよ早く!

寅「何ィ!年はいくつくらいだ!?ふざけるな!このスケベ医者!!

医者がきて
↑後の2代目おいちゃん
松村達雄さん登場!!

医者2階から降りてくる。

医者「いやー、なんでもないちょっと疲れてるだけだ。一日ゆっくり寝てリャ治るよ」
寅「
よくてくれたんでしょうね
医者「た、た、じっくりた!!しかし、美人だネエ!!
寅「
何ィ!!?、いっていドコ見てたんだよ!?
医者「どこったって…オッパイ…」←身振り手振りつき
あ―――!!!←寅錯乱!(@@;)
医者の首絞める  

      


とらや 2階 


おばちゃん「ごめんね、騒々しくて、
      あいにく変なのが戻ってきちゃって、
根は悪い人間じゃないんだよ

おばちゃん優しいね、寅をかばってる。
夕子
でもね、私ここに来て、ほっとしてるの…。
   人間が住んでるって気がして。だから夕べは久しぶりに
   ぐっすり眠れたわ、本当よ

おばちゃん「そうかい

        

題経寺の前

さくら、通りかかる。

源ちゃんが門のところで町内の人集めて浪花節で寅をちゃかしている。
源ちゃん「♪寝ては夢〜、起きてはうつつ〜幻のぉ〜、♪さてこの寅さんの幸せがいつまで
続くことでしょうかぁー!!」
みんなでハハハハハと笑っている。

さくら、呆然…

        


夕方、夕子さんがお風呂に入っている。

寅「なんだ、おいちゃん、なに考えてんだ?ん?
おいちゃんおめえと同じことよ

い…いい年してなんだよ!汚ねえよ!考えてる事が不潔だよ!まったくなあ!
ああ、オレは恥ずかしいよ。こんな卑しいジジイがオレの身内だと思うとなぁ…

おいちゃん「なにいってんだい?あー今日も日が暮れるなぁって…
うそだよぉ―!ハハハハ!隠したってダメだよ、今その口で言ったじゃねえか!オレと
同じ考えだって、そうだろ!ハハハ!なぁ!ハハ…
あれぇ―??

(さくら怒っている)
↑このギャグは第28作「紙風船」でも使われた。愛子が寅と相部屋になった時に使っていた。
もっともその時は愛子が寅の役割だったが。

おいちゃん
そうか!!おめえ、そういうことを…!分かった、へっ!汚ねえのはてめえじゃねえか!
      恥ずかしいのはこっとのほうだい!いい年してニキビづらの中学生みたいに…
      あーいやだ!あーいやだ!


         

おいちゃんと寅は取っ組み合いの喧嘩に。

おばちゃん「
いいかげんにおしよ!!夕子さんに聞こえたら恥ずかしいじゃないか!
      なんだいふたりともいい年して!

さくら
やっぱり帰ってこないほうがよかったんじゃない!?

さくら怒って帰る。
おばちゃん「さくらちゃん、怒ったよ…
おいちゃん「
謝ってこいよ…
寅、さくらを追いかける。

題経寺山門前で

寅「
悪かったよ、どんなふうにも謝るからさー、機嫌なおせよおまえ…

さくら「
今日だってこの道歩いていたら、ここんところで源ちゃんが
  川甚さんや菊寿司さん集めてお兄ちゃんの悪口言って笑ってたのよ


えっ…泣くなよ、おまえ…

さくら「
そりゃ、夕子さんはきれいな人よ,誰が見たって
   素敵だって思うわよ。でも、お兄ちゃんとは関係ない人よ


寅「
そんなこと言われなくても分かっているよ。
  頭の方じゃ分かってるけどね気持ちの方じゃついてきてくれねえんだよ。ねっ!
 だからこれはオレのせいじゃないよ
あんたのせいだよ(−−)

さくらだって、その気持ちだってお兄ちゃんのものでしょ?

寅「いや、そこが違うんだよ。
 早い話がだよ、オレはもう二度と柴又に戻ってこないと、
 そう思ってるんだよね。でも、気持ちのほうじゃそう考えて
 くれねえんだよ。あっ、と思うとまたオレここに戻って
 来ちゃうんだよ。困った話だよ。
ほんとにね(^^;)

フフ…」笑ってしまうさくら。

         

寅「なんだい、おまえ、笑いごとじゃねえぞ、おい…真剣な話だぞ

さくら「
そうね…本当に困った気持ちね…」さくら、優しいね


D【博の独立騒動の顛末】

啖呵バイをする寅
寅の
啖呵バイ取材で録音している若者二人。

「結構毛だらけ猫灰だらけお尻のまわりはクソだらけ、ってね。」
「タコはイボイボにわとりゃハタチ、いもむしゃ、ジュウクで嫁に行く、ときた!」

バシ!!

「黒い黒いはなに見てわかる、色が黒くてもらいてなけりゃ
山のカラスは後家ばかりっ!ね!」

「色が黒くて食いつきたいがあたしゃ入れ歯で歯が立たないよときやがった!、どう!」
バシ!!

「まかった数字がこれだけ!どう!」

バシ!!

「ひとこえ千円といきたいが、ダメか、八百!六百!よし!腹切った
つもりで五百両!!もってけ!オイ!」

              
     



とらや 店

社長「だめだー!オレの工場、もうだめだー!
もともとだめだろ(−−;)
おいちゃん「
おい、どうしたとうとう不渡り出したか!?
社長「
何いってんだい!博君のことだい!
このころは『博君』後には『博さん』

社長博君、オレのとこ辞めるらしいんだよ!
みんな「
ええー!!
社長「
さくらちゃん!どうなんだよ!ほんとうかい!?
さくら「
まだはっきり決まったわけじゃないのよ、
  ただ計画だけはね、機械とか家とか…

社長「
あー!ダメだ!ダメだ!
  オレの工場ダメだー!オレの工場…
元々博に頼りすぎ…(−−)

      

さくらたちのアパート

寅が来ている。

さくら「独立して自分の工場持ちたいっていうのが
  結婚した頃からの博さんの夢だから
  私だってなんとか実現させてあげたい
  と思うのよ。でも、今、博さんがあの工場辞めちゃったら
  本当につぶれてしまうかもしれないのよ。

  それよりも一緒に働いていた人がどんなにガッカリするか…。

  いつまでも
こんなところにいたくないって気持ちは誰だって
  同じだもんね。その同じ気持ちで我慢していることが
  わかっているからこそなんとかいままで辛抱
  してやってこれたんだもの。

さくら、優しい口調でなかなかシビアな分析をするなあ…

博「それを言ってちゃいつまでも同じなんだよ。いってみりゃ、今までオレはそのことで
 我慢してきたんだ。もうこれ以上は…

さくら
そりゃよくわかるわよ。でも、独立したからって
   未来がバラ色に輝くわけじゃないでしょう?
その通り( ̄ー ̄)
博「だから、女の考えは進歩がないって言うんだよ←博少し偏見
さくらどうして?
新しい事をやるには危険がつきものだよ。人生は賭けだ!ねえ兄さん
寅「そうよ!人生は賭けよ!…あー独立結構!おまえ社長だよ!なー!、さくらはさしづめ
  社長夫人だよ!えー!、こんな、おまえ狭っくるしいアパートでもってよ
  内職なんかするこたあ
ねえんだよ
芝生のある庭の大きなお屋敷で
  目まで毛糸がほつれて垂れ下がっちゃった犬かなんか抱いてよ、
  『あら、奥様ごきげんよう』なんてよ、このやろう、
  どうするさくら、おまえ!」
そこまで考えるか…(^^;)
寅「よし!この話、オレが社長のタコに話してきてやろうじゃないか!あんちゃんにまかせとけ!
  大船に乗ったつもりで待っていろよ!
と、出て行く寅

とらやを通り過ぎてタコ社長の家に。

寅はタコ社長の家に交渉に行く。

タコ社長の居間大公開!!!

社長「あー!寅さん!いいところへ!さ、さ、ささ!

なんと
2兄弟2姉妹の計
上から順番に↓
★おとなしくて頭のよさそうな『お兄ちゃん』と呼ばれている長男
★そうとうおてんばそうな長女。←これが後の「あけみ」(美保純)
★超ヤンチャなチャンバラ好きの次男。
★『ミー坊』と呼ばれている次女。
奥さんは第1作のさくらの結婚式に仲人役で出てきた水木涼子さんである。
あけみ」以外の子供達の消息はその後分からない。ほんとうに謎の家族。

      
              

社長は寅に博を説得してくれるように頭を畳にこすりつけるのだ。

社長あんたを男と見込んで堤梅太郎
(後に監督の設定変更で梅太郎になるが、桂はついに本編では使われなかった。
社長オレは言いたかねぇけどな、北海道の親元を飛び出してきて
  頼るところのなかった博さんを工場の2階に住まわせて仕事を覚えさせて
  今日までにしたのはこのオレだよ!

寅「ま、オレに任しな
寅、二股かけた!しらねえよ、オリャ…( ̄ー ̄;)

翌朝 とらやニ階 

結局、苦し紛れに寅は社長には話がついたと言い、博には話がついたと言って八方美人になってしまう。
そのあと、博は博で社長に礼を言うし、社長は社長で博に礼を言うのだった。
社長は博のためにとらやで芸者さんも呼んで大宴会を開くことに。


とらや 大宴会
芸者さんも来てワイワイ騒いでいる。

さくら「でも、よく社長さん辞めること許してくれたわねー。
夕子「それが、さくらさん、社長さんの話では博さんのほうが
   諦めてくれたって言ってるわよ

さくら「どっちが本当なの?
おいちゃん「
さあ…オレもあんまりつっこんで聞くと差しさわりがあるような気がしてな…
夕子でも、寅さんがね、オレがうまくさばいてやったから安心しろって…
さくら「
お兄ちゃんが…?

もちろんすぐにバレて社長と博は口争い&寅と社長は大喧嘩(TT)

寅「上等じゃないかよ!おまえの工場がぺシャンとなりゃスパン
 日当たりが良くなるんだよ!
社長「
言ったなあ!よくも!

もうめちゃくちゃな取っ組み合い


      

博は動揺し、帰ろうとする。

さくら「お兄ちゃんの言葉を真に受けた私たちが悪かったのよ
博「これが独立できるチャンスなんだぞ、今は
さくら、おもむろに、博に父親から来たハガキをわたす。
そこには博の借金を断る内容だった。

さくら「
これ、今日北海道のお父さんから来たハガキよ。80万ものお金はないらしいわ。
   いくら退職金が入ったからって公務員なんだもんね

博のお父さんはなかなか厳しい!博を甘やかさない。
博は我に帰り、社長に独立することを撤回すると伝えたのだった。

おいちゃん「まあなんだよ、博さん、あと2年か3年したらさ、
      オレもこの店でも売って力を貸すからさ、その時になりゃな、
      社長おめえだって応援するよな、

さすがおいちゃん年の功!心に響くねぇ!
床にヘナヘナと座り込む。おいおい泣き出す社長、

      

寅「
分かってる、分かってるよ。でもなタコ、こんなことばっかり続きゃしねえぞ。
  おめぇそのうちにグーっと運勢が上がっていくよ!


社長「そうか…

寅「
そうともおめえ
ぷっ、と笑って凧凧揚がれって言うもんねー!

一同ハハハハハ!!!みんな笑いがとまらない。

夕子さん、笑いながらも目に涙を貯めている。

夕子さん2階へ上がっていく。
さくら、少し気になって2階へ
さくら「どうかなさったの?

夕子「
ごめんなさい。私ね、私が今まで暮らしてきたまわりは
  あんな自分の気持ちを隠さないで笑ったり怒ったり泣いたりすることなど
  一度もなかったわ…、私達の生活なんて嘘だらけなのね。
  そう考えてたら急に涙が出てきちゃって…


少しまた泣く。感覚の鋭い夕子さんだった。

さくらも目に涙。



E【寅の恋煩い】

揉め事が片付いた記念に、江戸川で舟遊び+船の中で宴会


「♪木曾のなぁ〜、なかのりさ〜ん、木曾の御嶽山〜はなんじゃらほい♪(お馴染み木曾節

博、タコ社長、工員たち、夕子さん、さくら、社長の長男!も座っている

2艘の船で川下り  寒そ〜〜…

寅、仲間に入れてもらえず源ちゃんと土手で焚き火
博も歌う「♪袷なー〜なかのりさーん、袷せやり―たやーなんじゃらほい♪」
寅、土手から「おーーい、おまえ達は貧乏だぞー!

    

数日後

寅が食欲不振&寝込む

医者(2代目おいちゃん)走ってとらやに来る。

おいちゃん「先生、ここ2〜3日まえから食欲がなくなりましてね…
夕子階段から下りてきて
夕子「
病人は寅さんです
医者「寅?……あなたは元気?

医者拍子抜けして

医者「電話のときにはっきり言ってよ!寅なら3〜4日食べなくても死にやしないよ。私は忙しいんだ
おいちゃん「だったら寅がかわいそうですよ
医者「だったら精神科の医者に電話したらどうかね?
おいちゃん「ひでーなー…

        

森川信さんは第8作の直後に亡くなられてしまい、第9作から松村達雄さんになるが、
くしくもこの二人が第6作で上の画像のように競演しているのは感慨深い。


さくら、2階に上がって寅の様子を見る。
その後夕子2階にやってきたので寝たふりする寅


夕子
「寅さんはいいわー、こんな温かい家があるし、こんないい妹さんがいらしゃるんですもの
   幸せよ…」(夕子は孤独なのである)



F【寅の気持ちに気づく夕子さん】

時が過ぎ

寅、ボーっと降りてくる。
夕子「あら、具合いかかですか?
寅「
悪いよ…

また上にあがっていく
夕子さん、心配そうにおいちゃんや博に向かってご飯食べながら

夕子「寅さんが病気だとまるで火が消えたみたい。早く治って、また散歩に連れてって欲しいわ
  私、まだ江戸川にいってないのよ


ついこのまえ江戸川で舟遊びしたんでは?夕子さんど忘れしてる!
その夕子さんの言葉をダンボ耳で聞いて寅階段を猛烈に駆け下りてくる。
ドドッ!ババン!!

寅「僕、ちょっとお腹すいたみたい!!

寅、思いっきり博をどかせて博のご飯を猫飯にして凄い勢いでむしゃむしゃ食べ始める。

この寅の豹変に夕子さんは『はっ』と寅の病気は
自分への気持ちに関係があるのだと気づく
勘がいい夕子さん


翌日
おばちゃん、さくらに電話
おばちゃん
やっぱり、恋煩いだったんだねえ。今朝6時に飛び起きていきなり朝風呂入ったかと
         思うとその後でね、腹減った、腹減ったって
ごはん6杯も食べて、それから今度は床屋
         飛び出していってさー!

さくら「えっ?床屋?」
おばちゃん「だから、夕子さんが散歩にでも連れって欲しいって言ったのを真に受けちゃったんだよ


江戸川土手 寅と夕子さん

寅、野の花を摘んで、夕子さんに渡そうとする。

夕子「東京にもこんなところがあるのね。フフ…嘘みたい…。
  寅さんはこういう風景を見ながら育ったのね。
  夕子さんいい感覚してるね

寅「
はい!わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。

夕子「なに、それ?
寅「これは、私達商売人仲間の挨拶ですよ。

夕子「まあ、素敵ねもう一辺言ってみて

寅「
わたくし生まれも育ちも葛飾柴又です。
  帝釈天で産湯を使い
根っからの江戸っ子
  姓は車、名は寅次郎、

  人呼んでフーテンの寅と発します。
  フフフ…。まだ、続くんですよ

夕子「
そう

わたくし、不思議な縁もちまして
生まれ故郷に草鞋を脱ぎま
した。あんたさんと御同様、東京の空の下、

ネオンきらめき、ジャンズ高鳴る花の都に
仮の住居まかりあります。
故あって、わたくし親分一家持ちません。
ヘヘヘ…まだまだ続くんですよ。

夕子「
素敵…ほんとうに素敵よ

     

夕子「ねえ寅さんに、どうしてもお話しておきたいことがあるの…
  私、困ってるの。…ある人がねえ…


寅「
女の人ですか

夕子「
男の方

夕子「
その人がね、私にとても好意を寄せてくださるの。その人とてもいい人なので
    私嬉しいんだけれど、でもね、私どうしてもその気持ちをお受けするわけには…


寅「よく分かります!よーく分かりますよー!
  オレァハナッからピンときてたんだ!諦めろ!とスパッと
  言ってやりゃいいんだ、そのバカに!よしオレが行って
  来ましょう!大丈夫!大丈夫!

夕子「
えっ!?
寅「よし!善は急げだ!オレこれから話してきますよ!
ふてぇ野郎だ!あんチクショー!!

走っていってしまう。
夕子「
いいえ、あの…、ねえ、寅さん!


勘違いした寅は山下医院に行き、例のスケベ医者に

寅「
諦めてもらいます」(^^;)


年末の大忙し とらや

おいちゃん「このままじゃ、夕子さんもいづらくなるし…
      どうすりゃいいのかね、さくら…

さくら「
困ったわね…
おいちゃん「
ほっといたら一番嫌なことが起きそうだよ…、オレは知らねぇよ



G【去ってゆく夕子さん】

夕子さんの、遂にとらやに来る。

夫「こちらに夕子がおじゃましてないでしょうか,」
夕子さんに未練がましく言い訳する夫。
仕方なく夕子さん家に戻ることを決意。甘いよ夕子さん(−−)

おいちゃん
こういうときに限って帰ってくるんだ、あのバカ

寅と源ちゃん「わっしょい!わっしょい!」と臼と杵を寺から借りて戻ってくる。

おばちゃんもうだめだと目をつぶる。

さくら「
あのね、お兄ちゃん、夕子さん、
    ご主人と一緒にお家帰るんだって…


寅「
…、今?
さくら
うん
夕子おいちゃんおばちゃんにあやまる。
夕子、寅の方を見て
夕子「
寅さん、寅さんには本当にお世話になったわねぇ…、
寅「い、いいえ
夕子「あなたのご親切いつまでも忘れないわ…
寅「そんなことより、
 夕子さんもどうか幸せになってください
夕子「ありがとう…別れが悲しそう

この時の若尾文子さんは名演技だった。

         

夕子「さよなら
一同「さよなら」
寅、手を上げて「さよなら!
寅よろけながらさくらに「
よかったな、さくら、これがなにより
さくら「そうね、仲直りしたんですものね
寅「
よかった、ハハハ…あーあーぁぁ…
『圭子の夢は夜開く』の口笛吹きながらよろよろ2階へ上がろうとする。

そこへタコ社長例のごとくバイクでやって来て余計なことを言うが寅は喧嘩せずニ階へ。


階段に頭ぶつけて
、ふらふらになって2階へ上がっていく。
さくら心配で2階のほうを見る。

ゴロゴロガタガタガタドーン!!
(>м<)と落ちてくる



H【寅とさくら、赤いマフラーの別れ】

柴又駅ホーム

さくら「お兄ちゃん、またどっか行っちゃうのね…
寅「
さくら、…覚えてるかい、この駅でよ。
 オレが16の時に親父と喧嘩して家出したら…


さくら「そうね…確かにね、なんだかお兄ちゃんと
   別れるのが辛くてどこまでも追っかけてったんじゃない?私


寅「そぉよ、追っ払っても、追っ払ってもよ、
 え、おまえ泣きべそかいてよちよち
 くっついてくるんだろう、オレ困ちゃったよ。

 でも、そこの改札のところまで来たらあきらめてよ、
 これ餞別よってオレに渡しておまえ帰ってったろ。

 電車乗ってそれ開けてみたらよぉ、
 こんな
真っ赤なおはじきが入って
 やがんのオレ笑っちゃったよ。


さくら「
そう…笑いながらも、泣いている

さくら
ねぇ、お兄ちゃん、もうお正月も近いんだしさ、
  せめてお正月までいたっていいじゃない


寅「
そうもいかねえよ、オレたちの稼業はよ。
 世間の人がコタツにあたってテレビ観てるときに、
 冷てぇ風に吹かれて鼻水たらして声を枯らして
 ものを売らなきゃならねえ稼業なんだよ。
 そこが渡世人のつれぇところよ…


    

電車が来る

寅「みんなによろしくな、博と仲良くやるんだぞ
電車のドア開く
寅「
じゃぁな、さくら

さくら、自分の首のマフラーを、素早くとって、寅の首にかける。
寅「うん?」って小さく言いながら素直に従う。


   

さくら「
あのね、お兄ちゃん。辛いことがあったら、
    いつでも帰っておいでね。


ここから第6作のテーマ曲
ハーモニカで入る。

寅「
そのことだけどよ、そんな考えだから、
オレはいつまで一人前に…、故郷(こきょう)ってやつはよ、


      

さくら「
うん

電車の笛『
ピ――!!

寅「
故郷ってやつはよ!

さくら「
なに?」ドアが閉まる。
電車の発車音『
ビーーーー!!

さくら「
えっ!?なに?、なんて言ったの!?

走り出す電車寅必死でドアの向こうで何か言うが
さくらには分からない。

さくら「
え!?なんて言ったの!!?

    

テーマ曲大きく流れる

目に涙をいっぱいためて走るさくら。
寅過ぎ行く電車のドアから何か言う。

『寒いから風邪ひくなよ』と、口の動きから読み取れもする。
(もうこの時点では、寅は明るい顔をしてるのでさくらのことを
気遣う普通の別れのセリフに変わっている気がする)

電車速く走る。寅の顔が見えなくなる。

   

それでも電車を追いかけるさくら。悲しい顔 
音楽最高潮に達する。
行ってしまった電車をいつまでも息を
ハァハァいわせて泣きながら見送るさくらの
後姿がなんとも切なくて泣けてしまう。

         

シリーズ屈指の名場面である。
寅とさくらの別れのシーンの中ではベストだ。



I【娘からの電話と父親の涙】

正月 とらや

五島で寅が助けた絹代夫婦が以前のお礼に来ている。

さくら「長崎でしたね。
絹代「長崎の五島です


長崎、五島

電話 リーン、リーン

千造(絹代の父親)「
あっ、絹代か…
絹代「
今ね、東京から電話しとっとよ、いつか世話になった寅さんいうお宅でな、
   年賀状も出しとらんいうたら、かけろーって勧められて、父ちゃん、聞こえる?

千造「
はい、きこえる…
絹代「
そいでねー、うちら二人同じ店に住み込んで
  一生懸命働いとるけん、安心して。

千造「
……
絹代「
じゃ、電話代高こうなるけん、もう切るよ。体大事にな。
さくら声に出さず口だけ開いて『おめでとう』
絹代さくらの口見て
絹代「
あー、肝心なこと忘れとった。とうちゃん、おめでとう。じゃ、さいなら。
絹代、かけたあと、はーっ、と汗を拭く。

千造、泣いている。鼻水も出る。座布団に鼻水と涙のじる。

       

寅から千造への年賀状

昨年中は色々お世話になりました。
 今年もどうぞよろしくお願いいたします。

          元旦  車寅次郎


       


浜名湖

レークサイトウェィ付近のお宮
鶴亀の置物をバイしている寅。なんと源ちゃんも!

源ちゃん寺男はどうしたの?やめたの?

寅「御通行の皆様、新年あけましておめでとうございますように。

さてここに陳列されましたる幸せを呼ぶ鶴亀でございます。

鶴は千年、亀は万年、あなた百までわしゃ九十九(くじゅく)
まで共にシラミのたかるまで、
三千世界の松の木が枯れても、おまえさんと添わなきゃシャバに出た甲斐がない。

七つ長野の善光寺、八つ谷中の奥寺で竹の柱に萱の屋根、
手鍋下げてもわしゃ、いとやせぬ。

信州信濃の新そばよりもあたしゃあんたのそばがいい。

あなた百までわしゃ九十九まで共に白髪の生えるまでというのが本当!
もしこれで買い手がなかったら、貧乏人と思って諦めます。

右に行っていづつ(?)橋、左に行って三ケ日、右と左の泣き別れだ!!」


↑浜名湖にちなんで少しアレンジしてある。

  




上公開日 1971年1月15日
上映時間 89分 映時間 89分
観客動員数 85万2000人
配収 2億3000万円

第6作「男はつらいよ.純情篇」.ダイジェスト版 2007年3月17日アップ)

第6作「男はつらいよ.純情篇【本編完全版】はこちら



 

「純情篇」ダイジェスト版を16日にアップの予定でしたが17日になってしまいました(^^;)ゞ
明後日3月19日(月)の夜は
第7作「男はつらいよ.奮闘篇 」のダイジェスト版をアップしてみましょう。
この作品は、花子ちゃんの純情に惹かれた寅が一生懸命彼女を護ろうとする異色作です。




299

                          
『寅次郎な日々』バックナバー
        





第5作「男はつらいよ.望郷篇」.ダイジェスト版
 


2007年3月14日寅次郎な日々 その299


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。

第5作にいたってようやく山田監督が、もう一度腰を上げ、完結篇に挑むことになる。
『自分にとっての寅次郎とは何か』をもう一度初心に戻って考えた挙句の選択だった。

それでは今日は、第5作「男はつらいよ.望郷篇」ダイジェスト版をどうぞお楽しみください。




第5作「男はつらいよ.望郷篇」.ダイジェスト版

山田監督渾身の完結篇.  

前の2作品は山田監督は脚本を共同出筆するに留まった。、第3作第4作品とも山田監督とは違った視点から撮った「力作」であったが、
山田監督から見れば、自分の思う演出とはやはり食い違いがあったため、作品の質とは別に、山田監督にとって若干悔いが
残る思いだった。

自分が現場にいてこそ、自分が考えるオリジナルの演出ができるのである。やはり自分が納得のいくものを自分の手で作り上げるのが
一番いいのは当然のこと。それぞれの監督には、それぞれ自分でしか出せない色があるのは当たり前なのだ。

かくして山田監督は殺人的超ハードスケジュールをぬって、自分の手でこの作品を完結篇にするべく「山田監督の寅次郎」を甦らせる
ためにテレビ版男はつらいよのメインキャストを含め、気心の知れた人々を配し、 これまた比較的短い期間でテンポよく仕上げている。

渥美さんも乗りに乗ってるという感じで、最初から最後までだらけた箇所が無い。寅次郎のネックのひとつでもある「労働の尊さ」と
いうテーマがはっきり感じられるところもこの第5作を懐の深いものにさせている。

しかし、この作品にはもうひとつ、「死の影」がオープニングから前半を支配している部分がある。
夢の中でのおいちゃんの死、とらやでのおいちゃんの死にかけ騒動、そして、北海道で寅がお世話になった政吉親分の死。
全編で大笑いしながらも、どこか心の中で「死のにおい」を感じさせるのがこの第5作「望郷篇」である。
この陰と陽の対比がこの作品に一筋縄ではいかない奥行きをつくっている。

それともうひとつ。、これは私だけの感想かもしれないが、テレビ版さくら役の長山藍子と映画版さくらの倍賞千恵子さんが同じ
スクリーン上で、登場するシーンはやはり緊張感がそこはかとなく滲み出ていて、二人とも眼がキラリと光って女優魂を
感じさせてくれる。長山さんも渥美さんとのマドンナとして再会できたことは どんなに懐かしくそして嬉しかっただろうか。

しかし、これでいよいよ終わりだと思っていた山田監督も、この作品の成功によって松竹側のシリーズ化を計っていく強い意向により
豪華キャストで第6作「純情篇」を作ることになっていくのである。



本編


@【正夢に怯え、とらやに帰る寅】

夢のシーンから入る。


とらやのふすまの空いた部屋を次々に通って一番奥の臨終の
きわのおいちゃんが伏している部屋にたどり着く寅。

なぜか裏庭は真っ赤な夕焼け空。

とらや

襖が、何枚もある奥の深い部屋の一番奥に重態おいちゃんが寝ている。


さくら
お兄ちゃん泣かないで」と声をかける

寅「おいちゃんよー、ウウウ…、おいちゃんよー
さくら「
お兄ちゃん、お兄ちゃん

さくらの声が最後だけ「お客さんんになる

            

博はなぜか労働中の汗にまみれたシャツのままだがこの辺が今回のテーマ(労働)を暗示

さくらの「お客さん」という声から谷よしのさん扮する安旅館の女中さんの
「お客さん」と寅を起こす声に変わっていく。

夢から覚めて

長雨でバイができないで困り果てている寅
テキヤ殺すニャ刃物は要らぬ、雨の三日も降ればいいってね、
 いっそのこと、カラッと晴れちゃくれねえかかな…

頭で障子押してしまって『ステン!』と転ぶ。
寅「あいて...いててて...

            


メインタイトル  「男はつらいよ.望郷篇」
青の字とバックは入道雲と青い空

口上

わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。


 
♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
 いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
 奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
 今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる


 第5作から↑この歌でほぼ定着。


今回、歌の間は柴又風景が静かに映る。


とらや  店

さくらが店にやって来る。

            

おいちゃんもおばちゃんもこの夏の暑さに参っている様子。

電話が鳴る

おばちゃん「寅さん!ちょっと、あんた寅さんなの!?

寅は、この前の夢が正夢だったら困るので電話で確かめているのだろう。

おいちゃん「畜生めェ、人が散々心配してんのも
     知らねえで、
死にかけてるって脅かしてやれおいおいいいのかよゞ( ̄∇ ̄;)

おばちゃんも、頷いて

おばちゃん電話で「あのねえ〜、生きてることは生きてんだけどさ…
         もう息をしてるだけなんだよ...
もう長いことなさそうだよ...


赤電話を、下に降ろして

やっぱり...正夢に違いないと、思ってしまう寅。 
                      
寅は急ぎタクシーでとらやに向かう。
タクシー車内で

寅「運ちゃん、あした友引か?友引だと困るんだよ火葬場休みだから..
   運ちゃん、いまどきの暑さじゃ、仏は2日ともたねえかね?
   いよいよとなればドライアイスでもいいけどな...
 それより面倒なのは
仕出しの弁当だよな。生ものじゃ腐っちゃうし...
そこまで考えるか…( ̄ー ̄;)


葬式もんにいやに詳しいね寅って。「続男はつらいよ」でも葬式仕切ってた。


とらや 茶の間

寅急いで入ってくる!


♪ピロピロピッ♪


おいちゃん昼寝。

寅「おいちゃん!オレだよ!分かるかい寅だよ!...もう口もきけねえのか?
  虫の知らせっていうのはあるもんだなあ...
寅「いいんだ、いいんだ、いいんだ、オレはな、帰る道々ピシーッと打つべきところにゃ
  
ちゃんと手は打ってきたからなあー
おいちゃん置き上がって、(^^;)
おいちゃん「おい、寅さん、今なんて言ったんだい?

そして、さっきの電話がおばちゃんたちの冗談だと分かると、

寅「冗談?
おいちゃん「
おい、おめえ、打つ手は打ったってどんなことなんだい?
寅「
う…、決まってるじゃねえか…
おいちゃん「
え?
寅「
おいちゃんがダメだって聞いたからよ…

御前様、蒼ざめて入ってきて

御前様かみさん、今そこで寅さんに聞いたんだが、ちっとも知らなかった。そんなに悪いのかね!

            

近所の人たちもあわてて飛んで来て。
近所の人「おかみさん!旦那が危ないんだって!?
と近所のみんなそのあとも次々に飛び込んでくる。

井上葬儀店
 軽四で到着
葬儀屋ごめんください。このたびはご愁傷様です...出た〜(^^;)
さくら「どちらさまですか?
葬儀屋「は、葬儀屋でございます。さきほど連絡をうけまして…
寅「あ、あー、ごくろうさん。葬儀屋さん?
葬儀屋「あ、はい

あっそう、今日はいいなあぁ〜うん魚屋か(^^;)

葬儀屋「いいと、申しますと…??

おいちゃん帰ってくれ!帰って!死んだのはこのわしだバカ!」
↑さえる森川節、いいねえ〜!!


            



A【おいちゃんと大喧嘩】

とらや 夜

みんなでもめにもめている。

おいちゃん遂にプッツン切れてさくらに

おいちゃんさくら、ひ、紐もってこい紐!
     死んでやるよ、そんなに死んでもらいたきゃ
     ほんとにオレは死んでやらぁ!え!?、なに言ってやがんだい、
     コンチキショウ!!


鴨居にひもぶら下げて、首を吊るまね。どすんと細い紐が切れる

おいちゃん「イテテ…、どーせオレはバカだよ!どうせオレは寅の血続き
     なんだから!バカだよ!


            

寅「なにい!?
おいちゃんなにじゃねえや!てめえのツラなんか見てるよりも
     死んだほうが幸せなんだ!!



寅、激情して、

寅「よし!紐なんかいらないよ!
 オレがこの手で絞めてやるよ!!
凄いセリフ(^^;)

結局大喧嘩になり出て行こうとする寅

寅「出て行くよ!オレが出てきゃいいんだろ!
 どうせオレは邪魔者だよ!ああ!さくら!止めるなよ!

さくら「お兄ちゃん!私たちが悪かったわ、ね!
寅「止めるなっていっただろ…

ここまで止めるなって言われると、止めてくれって言ってるのと同じ┐(-。ー;)┌


翌朝

寅「おばちゃん腹減った朝めし朝めし
おばちゃん「
もう、冷えちゃってるよ…
寅「上等、上等、温かい味噌汁さえあれば十分よ。
  あとは
お新香海苔たらこひと腹、ね!、からしのきいた納豆
  これにはね、
生ねぎを細かく刻んでたっぷり入れてくれよ!
  あとは
塩昆布生卵でも添えてくれりゃ、おばちゃん、何もいらねえな、うん。

  ↑すんごい贅沢(^^;)



B【政吉親分の下へ走る寅】

登がとらやにやって来て札幌の政吉親分が死にかけてることを告げる。
寅は何とか旅費を工面しようとするが、みんなに避けられ上手く行かない。
最後はさくらのアパートに行って、なんとか説教されてしまう。


さくら地道に働くってことは尊いことなのよ。お兄ちゃん、自分の年のこと考えたことある?
   あと5年か10年たってきっと後悔するわよ。そのときになってからでは取り返しがつかないのよ!
   あー、ばかだと思ってももう遅いのよ!
真剣に怒るさくら

それでもさくらから5000円を手に入れる。このお金は寅が昔さくらに渡したものだった。

いいのか?
さくら
いいのよ。いつだったか満男に飴でも買いなってくれたでしょ。あのお金よ
さくらは第2作でのあの題経寺前で寅からもらったお金を使わなかったのだ。

            

しかし、そのあと、寅は「上手くいった〜!」と登と外で喜び合うから、
どうしょうもない。ああ。。。さくら可哀想(TT)



札幌

札幌の病院で変わり果てた政吉親分は、寅に息子とあわせて欲しいと頼み込む。


            

政吉息子に会いてえ…、一度会いてぇ…

寅「ん…、わかったよ、親分、よーく分かったよ。あんた、昔、派手に遊んだ人だ。
  そんときのことだろう。この女中さんは優しい人だったんだろうなあ。その息子さん、
  まだ一目もあったことのねえ息子さんに、


ただ一言すまなかったとそう詫びてぇんだな親分!

政吉顔を見てえ、見てえ

これは、第4作「新男はつらいよ」でも出てきた親子の葛藤だ。

意を決して息子を探しに小樽に行く寅と登。



C【父を赦せぬ息子の涙】

小樽

ここから機関車(D51)がバンバン出て機関車好きの山田監督の世界に突入!
蒸気がブァーと出て、驚き、たじろぐ寅と登
フーテン風の寅と機関士の対比が抜群の効果。労働の厳しさを蒸気が暗示

            


息子(澄夫)にようやく会うが、息子は母親に産ませただけで、父親には、ほったらかしにされ、
辛かった思いは消えず、今更会いたくはないという。

寅「
おまえ一度だって父親に会いてえと思ったことねえのか?ええ、青年?どうなんだよ?
澄夫「
ないといえば嘘になります。本当は会ったこともあるんですよ…
寅「
え?、会ったことがあるのか?、親父にか?

             

澄夫「ええ…、小学校1年生の時でした。自分に父親がいると知らされて、
   無性に会いたくなっておふくろに内緒で汽車で札幌まで行ったんですよね。
   あとで考えればそこは赤線だったんですね。
   その家までまで行ったら女の人が大勢いて、父親だと指差された男が
   真ん中にいて女の人をなぐっていましたよ。
   その若い女の人は泣いて謝っているのに、その男は何度も殴るんです。
   僕はその男が鬼のように見えましてね


寅「
それで、どうしたい
澄夫「
そのまま帰ってきましたよ。
寅「
一人で汽車に乗ってか?
澄夫「
いいえ、帰りの汽車賃も持ってなかったので、線路の上を歩いて帰りました。
   そうすれば間違いなく帰れると思ったんですね。

                       

澄夫遊び半分に子供を生ませてあとは知らん顔で、今度は自分が死にそうだから息子に
   会いたいって、そんな身勝手なことありますか?
   ふざけるなといいたいよ。なにが親父なもんかそんな男は


美しく寂しい音楽流れる。
                  

澄夫「
息子は転勤していなかったと、そう言ってください…

                        

この息子さんの長い葛藤の時間を思うとなんともやるせない哀しい話だ。
幼い日、遠くまで会いに行った父親に失望し、果てしなく長い線路を独り歩いて帰った彼の
寂しい心を考える度に、人の世の理不尽さを感じざるを得ない。前半のクライマックスだった。




D【寅の改悛と再びのとらや】

札幌の病院
事務員電話に出て、

大変お気の毒ですが竜岡政吉さん、今日の五時にお亡くなりになったそうです。

寅、赤電話持ったまま、呆然…

            


寅は、かなりショックを受ける。
その夜登に堅気になれ、地道に働けと叫び、殴り、泣きながら追い出してしまう。


寅「いいかあ、人間、額に汗して、油にまみれて地道に暮らさなきゃいけねえ。
 そこにはやく気がつかなきゃいけねえんだ!



とらや 店


あいかわらず暑い日が続いている。


そこへ寅が、改悛して帰郷する。さくらは喜んで歓迎するが
おいちゃんとおばちゃんは懐疑的。


おばちゃん「
あんた大変だよ、寅ちゃん帰ってきてね、これから地道に暮らすんだってさ
おいちゃん
地道に?(^^;)
おばちゃん「うーん(^^;)
おいちゃん寅が?(^^;)
おばちゃん「うーん(^^;)
おばちゃんあんまり暑いんで、おかしくなったのかもしれないね
おいちゃんそうかもしれねえな。もともと少しおかしい奴が
      さらにおかしくなりゃあ案外こりゃ元に戻るかも知れねえぞ
(^^;)


寅、戻ってきて、全ての行動が大真面目
動きにあわせてドラムがタタタタタッ!と鳴る

帽子をちょっと浮かして挨拶ドラムがタタタタッタタッ!
おいちゃん、おばちゃん直立不動で出迎えている。
歩行にあわせて
ドラムタタタッタ、タタタッタ

            

おいちゃん、おばちゃん、この度はどうもいろいろと
  ご心配かけてすみませんでした

おいちゃんいやあ、あの、まあ、あの、どういたしまして、
      寅さんもお元気でなによりです
(^^;)
はい

寅「あっ、さくら、これから汗水たらして地道に働くかと思うと
  なぜか身の内が引き締まるようだな


今回はなぜか荷物部屋のほうに上がっていく
↑時々こちらのほうの部屋も使うようだ。それにしてもなぜ、荷物部屋のほうに行ったのか?わからない…。

            

おばちゃん「どうしちゃったんだろ?」(^^;)
おいちゃん
とうとう来たかな?」(^^;)
おばちゃん
ちょっとおかしいよねえ」(^^;)

頷きあう老夫婦。


さくら
なによ、まじめに働こうってのが、どうして可笑しいの?

おいちゃん、首フリフリ(^^;)

さくら「
その気持ちを大事にしてあげなきゃ、
   お兄ちゃんいつまでたっても救われないじゃない。そうでしょう?


おいちゃん、頷く(^^;)


E【あれこれ仕事を考える寅】

とらや 茶の間

おいちゃんおばちゃん、さくらで、とらの仕事を話している。   
さてここから…

職業選びのギャグ

今回のお題は「地道な暮らし」(キーワード「額に汗」と「油まみれ」)

さくら
いつか、福寿司さんで、若い衆がいなくなって困っている。
   福寿司さん!お寿司屋さんなんかいいんじゃない?粋でサ!


寅、浴衣姿で後ろに立っていて歩くたびに

大太鼓がドーン、ドーン

寅「さくら、おまえらしくないな、粋だとかイナセってのは今までのオレのことを
 言うんだよ。そんなものが
地道な暮らしとはオレゃ思えないな

おいちゃん店を手伝えというが、おいちゃんたちが汗水たらしていないのでダメ。
★おいちゃんテンプラ屋で働くことを提案するが、寅がてんぷら嫌いという理由でダメ。
★おばちゃん銭湯の「菊の湯」さんの釜焚きを勧めるが…。

おいちゃんありゃ暑くて汗が出るぜぇー!どうだい、寅さん?

            

ダメだよ、あれゃ、地道な暮らしとは言えねぇよなぜ!?
さくらどうしてよ!地道よ、あんな地道な仕事はないわよ

寅「おまえも考えが浅いね〜、釜だけ焚いてりゃいいよ、
 風呂屋にいりゃあなあ、暇な時には三助のまねごともしなきゃならねえんだ。
 男湯ばかりじゃねえ、
女湯もあるんだ。ババアや子供ばっかりじゃないよ、
 たまには
三十過ぎの女ざかりの粋な芸者も来るかも知れねえや。
 それの肩なんか揉んでりゃさ、つい調子にのって歌の歌の一つもでらあな。ね!

 
♪包丁一本〜、サラシにまいーてー〜♪
 あら、寅さんいい声ネエ、あしたお約束あるの?ねえ、この色男
 『イテテテ…、あざになっちまうじゃねえか』、そんなことが地道な暮らしといえるかよ


おいちゃんなにもそこまで考えなくたっていいじゃねえかほんとほんと(^^;)

この「なにもそこまで…」パターンは第2作でも、第32作でも出てきた。

兄さん、お帰りなさい!にまみれた姿

よお…ドラムタタタタタタッタ!ジャーン!
まじまじと博の汗と油にまみれた体を見て

寅「と、…!」
手をさすって汗と油を匂う寅
←ちょっと変態ぎみ(^^;)

決まった!!明日からオレあんたの工場で働くぜ!
 これでめでたく仕事が決まったな、今夜は早く寝るか


↑タコ社長許可してないぞ ┐(~ー~;)┌


寅がニ階へ上がった後みんなで「知らないよ〜」


翌朝とらや

ジーンズのツナギ着て、運動靴履いた寅、口笛吹いて

寅「じゃ、これから労働に行って来るからな!
  あっ、これか、博に借りてな!似合うか?



ポーズ!!

            

おばちゃん似合うよ

「まじめにやってくるからな!」
気張った顔で目をヒンムイタ顔が最高!!
気合だけは入ってるなあ〜!



あっ、おばちゃん、オレな帰ってきたら
 すぐ
風呂に入るからな、 風呂沸かしといてくれ。

おばちゃんあいよ

寅「なにしろ労働してくるからな!
寅「うん、それじゃ、行って来る

寅「あっ、それからね、風呂上がったら 冷えたビール飲むからな!
 ビール冷やしといてくれ、なにしろ労働してくるからな!


おばちゃん
わかったよ…

あっ、それからもうひとつ、できたら按摩呼んどいてくれるか、
 ちょっと
労働して筋肉揉みほぐすからな、

じゃ、行って来る!

おばちゃんあいよ…←おばちゃんげっそり(−−;)

おいちゃん!地道な暮らしってのはいいな!

ポーズ!!これか!

「♪たて万国の労働者〜♪、おはよー労働者諸君!
 今日から僕は君達の仲間だぞ!共に語らい、共に働こう!!ハハハハハ!」


おいちゃん「バカだねー、まったく…」

このあと社長の工場はもちろんのこと、全ての店から断られることになる寅。
最後は菊の湯さんの首を絞め、失踪(^^;)
あれだけさわいだのに、とほほ…



F【浦安での再起と奮闘】

渡しの小舟の中で寝ている寅、
勝手に流されて川下のほうへ…←
浦安方面

            



半月ほどたって…

べたべたの小包が浦安に住んでいる寅からさくらのアパートに
送られてくる。とらやで開ける。中身は
腐った油揚げ。

とらや 店


寅が一生ここで地道に暮らすかもしれないと書いた手紙を
読んで一同『
一生』という言葉に引っかかる。

寅の手紙『
オレのことなら心配するな、地道に、油まみれになって働いている
     暇な時、オレの服やなんかを送ってくれ、ひょっとするとオレは
一生ここで地道に
     暮らすかもしれない。兄より


おいちゃん
ただごとじゃねえよ…一生てぇのは、
おいちゃんこりゃなんかあるぜ、なんかあるよ…知らねえぞ、オリャ、知らネエヨ…


千葉浦安

さくらが寅の働く店を探す。


下町風情溢れる浦安。

豆腐屋を探し当てるさくら。


店から寅の
鼻歌が聞こえてくる。

「♪包丁一本、サラシに巻いーてー、かぁ、旅にでたのぉもー、
板場の修業ーて
♪」

寅の鼻歌「♪タララララララァ〜、ラララララララー…♪」
あっ!さくら!来たか!おい!

            

豆腐屋の女主人に紹介する。

母親いやねぇ、二言目には、オレに似て、オレに似てって
  あんたのこと自慢すんだよ


自慢なんかしちゃいねえよ、こんな口うるさい小姑みたいな妹
 持ってよー、ただ、なんとなくさ、
ツラがオレに似てるってことよ

どこが…(^^;)

母親
いやだよ、ツラなんか似てやしないよ、ね、さくらさん

さくらええ、兄は色男ですからこれは、名言!さくら巧いこと言うなあ

            

いやー、うまいこと言うな!まいった、まいった

さくら、寅にひそひそ構成人員を尋ね、探りを入れる。
寅はもう一人住んでいるという。

さくらえ?…誰?
子供だよ…
さくらなにしてるの?その息子さん←おっと、フェイント
息子さんって
 いうんじゃないな、あれは…

さくら
さん?!←決まってるよさくら(^^;)
まあ、そういうことになるんじゃない…

さくら、「やっぱり」と、悩んでいる顔…。

そして、節子さん登場

節子寅さんいるー?


↑残り30分でようやくマドンナ登場!シリーズ中最も遅い登場
ちなみにこの第5作「望郷篇」はシリーズ最短88分だ!
やっぱり映画は長ければいいもんじゃないのがわかる作品だ。


ハイよ
母親
節子!さくらさんだよ!

★ここが新旧さくら二人がハチアワセの場面!

さくら
兄がいろいろお世話になってます。
               

           

節子いいえ、私達こそいつもお世話になりっぱなしで、あのね、
  お噂はよく、ねー、お暑いのに…、
  うん!いやだわ、寅さん!オレにそっくりだなんていうからてっきり私!


もっといい女だと思ったでしょう! ヒヒヒヒ!ヘへへ!
節子と母親ハハハ!ハハハ!

寅の気質を熟知しているさくらだけが少し心配顔。

帰り道

節子と挨拶して別れるさくら。


さくら「いい人たちね、二人とも
寅「口の悪いお袋と、気の強い娘だ、どおってことねえやいいねえ〜!このセリフ(^^)


豆腐屋によくやって来る剛とすれ違いざま。

不器用な野郎だね、あいつは、おまえの亭主の博に似てやしねえか?
井川比佐志さんはテレビ版「男はつらいよの」博(博士)役!

            


「同じ種類だな!」

さくらお兄ちゃん、あの、地道に暮らして、
  それから考えることも地道にね、
  あまり
飛躍しちゃだめよ


さくらにはなんとなくこの先にある不幸が見えているのかも。


寅「
気をつけてな!あばよ!

寅のラッパ「パープー」「パープー」


G【節子の願いを受ける寅】


豆腐屋

《謙遜ネタ》

母親謙遜するにもほどがあるよ。立派な若奥さんだよね!
節子「うん
寅「へへへ、とんでもねえ、あんなみっともねえオカメとても人前にゃひえ〜(^^;)

節子「寅さん、団子屋、団子屋っていうから私てっきり屋台のお店だとばっかり
   思っていたら、ね、立派なお店みたいじゃない。

寅「何が立派なもんか、あんなもの犬小屋に毛が生えたようなもんですよひえ〜(^^;)

母親「帝釈様の門前町にあるんだろ立派なもんだよ
寅「帝釈様なんて豚小屋みたいなもんですよぴえ〜〜(^^;)

節子「あらっ、有名なお寺じゃない、裏に江戸川があって
寅「とんでもねえ、あんな川、ドブ川みたいなもんですよあちょ〜(^^;)
母親「なにも、江戸川まで謙遜することないじゃないか」

『予告編』では節子さんのことも「節子なんて…」と謙遜してしまう
シーンがあるので、是非DVDに ついているおまけで見てください。

              

柱時計(ボーン、ボーン、ボーン)

「明日早いので失礼させていただきます。」

母親「
乱暴な口利いているけれど、案外育ちがいいのかもしれないよ

寅、ちょっと遠くで耳ダンボ(^^;)

寅戻ってくる。


母親あ…なに…?

寅「じゃ、ぼく寝ます(^^;) (髪に手をあてちょっとポーズ

部屋に戻りながらもう一度

ぼく…寝ます」(^^;)

♪ピロピロピロピロピロピーッ! パコパコパコパコパコパコ… ピピピピッピッ!

 
翌日

節子「あら、今日は?
剛来て、「ちょっと時間ないか?大事な話があるんだ。」

どうやらこの二人は恋人であるようだ。
     

その夜

その夜節子は母親と店のことで口喧嘩する。

節子、寅のところにやって来る。

昼間、源ちゃんと出会って、豆腐屋まで連れてきた寅。
一緒にいた源ちゃんを隠す。



節子「寅さん、まだ起きてたの?そっち行っていい?
寅「どうかしたかい?
節子「ちょっとね、母さんと喧嘩したの…泣いてしまう。

寅、小さな木切れで、川の水をつつく。

            

節子あーきれいなお月様…
あーそうだね

天に軌道のあるごとく人それぞれ運命というものを持っております、かぁ、

節子ん、なあに?

三(産)で死んだが三島のおせん、おせんばかりがおなごじゃないよ、
白く咲いたが百合の花、四角四面は豆腐屋の娘色は白いが水臭い上手い上手い(^^;)
四谷、赤坂、麹町、チャラチャラ流れる御茶ノ水、
 粋な姐ちゃん立ちションベン! あ…


節子ハハハハハ

                  

節子寅さん、どうして結婚しなかったの?
この質問歌子ちゃんや京子さんもしてたなあ…(^^;)

まあ、…いろいろあったしな、うんあ〜あ(^^;)

節子寅さん、できたらね、…もしできたらずっとウチの店に
   いてもらえないかしら?だめ?


            

寅「いや、いいよオレはずっとそのつもりだったし、昔から豆腐大好きだからな」           

節子本当?本当によかったわ、これで安心できるわ

ある意味節子さんのこのお願いって超自己中心的な発想、
もしくは鈍感。普通これだけ露骨に寅が節子に なついてたら分かるはず。
もしうすうす分かっているとすれば酷い。


節子お礼を言って部屋に戻っていく。

源ちゃん「兄貴おめでとうございます。今のプロポーズやな」

源ちゃんがこう誤解するのものも無理ない。誰だって自分に気があるって思うよ、そら。
寅喜びを我慢できない様子

           



H【寅次郎.天国と地獄】

翌朝

自転車でまたまた配達

自転車で「♪包丁1本〜サラシにマーイーテー♪」
このあたりの浦安の風情がいい!

                        
            


寅、さくらに電話

寅「ひょっとしたらオレ、こっちで 所帯持つかもしれないよ。
 おい、みんなにはまだだまってろよ。ここだけのはなしだからな、
 おい!きいてるのか?


            


さくらのアパート
さくら「
うん、聞いてるよ、もしそうなるといいね…

勘のいいさくらはすでに不吉な予感、

暗い音楽

この寅の「所帯持つ思い込み」はこの先の 作品にも度々出てくる哀しいギャグだ。
私が印象深いなと思ったのはまず
「奮闘篇」の花子ちゃん。これは美しくも切ない思い込みだった。
あと、
「寅次郎恋やつれ」の絹代さん。 「寅次郎紙風船」の光枝さん。「口笛を吹く寅次郎」の朋子さん。


豆腐屋

源ちゃんも参加。

節子、寅にビールを注いでやる。

節子「
どうもごくろうさまでした

剛がやってくる。

剛「こんばんはー

節子あのね、この寅さんが、ずっとこの店を手伝ってくれることになったのよ
節子さんはどういうつもりで この言葉を言っているのだろう…。

ほう!そうですか、そりゃ都合がよかったどうぞよろしくお願いいたします!
う、うん、へへ…?
なぜ剛が自分にお願いを…??と寅は考える。

剛のことを話す母親。
母親これから親戚になるんだけどね…
母親おまえから肝心なことを説明しなくちゃと節子に言う。

結局、剛が節子さんとの結婚の話を寅にする。寅が店を手伝ってくれたら、自分と節子さんは、
結婚して転勤先へ引っ越せるというものだった。


源ちゃん、真っ青になっている。
寅、震えながら割り箸口で割ってわなわな、
「三枚目だよ、僕は」と笑う。

寅のこの告白にも近い「三枚目だよ」という言葉をこの親子がこの時まじめに
考えれば、遅まきながらも、もう少し寅は傷が浅かったかもしれない。


            

ほんと、おめでとう(TT)
剛「ありがとう

節子ずっといてくれる?

これだけ動揺して「三枚目だよ」とまで言っている寅の動揺が伝わらないのかこの女の人には。
この節子さんって鈍感というか自分本位というか…。寅はおじいさんでもない中年の独身男性。
いや、やっぱりうすうすどこかでわかっていて、それでも自分たち二人の幸せの事しか今は
考えられないのかもしれない。恋というものは時としてエゴイスティックなものなのだ。


ずっといてくれますよ、心配いりませんよ、哀しいね(TT)

母親そのうち、ね、誰かいい人見つけてあげるからね、寅さん追い討ちをかけるように(TT)

           

このあたりの会話は寅ほんとに可哀想だった。

事情を知っている源ちゃんだけ真顔で寅を見ている。
この時の源ちゃんのシリアスな顔がこの場の真実を語っていた。
私にはこの源ちゃんの顔がある意味、唯一の救いであり、この生き地獄の証人であった。


翌朝 浦安の漁師舟が次々に出て行く。

節子、寅の部屋に行って寅がいないのに気づき

節子寅さんは?
源ちゃん朝早ようどっか行ってしまいました…
節子どうして?
どうしてはないよ…頼むからいい加減気づいてやって欲しい(TT)

源ちゃん「知りまへん…

節子「……

もうこのへんでさすがに 気づいてくれたかな…節子さん。(TT)



I【やっぱり今回も旅立つ寅】

とらや夜葛飾花火大会にみんなで行こうとしている

さくら浴衣姿

おいちゃん、さくらたちが遅いのでやきもきしている。


おいちゃん今日明日あたりふられて帰ってくるような気がしてならねえんだよ。鋭い(−−;)

さくらたちそうめん食べる。

電話 リーンリーン

おばちゃん「まあ、これはこれは、まあ、この度はすっかり寅がお世話様…、は?
      寅がいなくなった?いいえ、私どもには…、はい、まあご心配をおかけしてすいません。
      あの、こっちへ来ましたらね、さっそくお知らせしますから


おばちゃんちょっと大変だよ!寅ちゃんいなくなっちゃったよ、
      やっぱり、ふられたんだよ!バカだねー!


後ろに寅が立っている(TT)

            

さくら、おいちゃん、寅が後にいることを目で合図。

おばちゃん「えっ?ひぇー!
↑このパターンは第2作でおいちゃんが葬式帰りに使った名作ギャグ(^^)

さくらお兄ちゃん、もう…、お店やめちゃったの?

豆腐屋…?やめちゃたよー、へへへ…ヘへへ…へ(TT)

                

タコ社長なにも知らないでやって来て、
タコ社長「あ、寅さん、なんだい嬉しそうな顔しちゃってさ、連れてこなかったのかい?
寅「
誰を?
社長
これをだよ!(小指
社長
聞いてるようまくやってるようじゃないかよー、浦安の方でさー!
社長色男!ハハハ
寅いきなり手で思いっきり社長の鼻を押さえる
社長
うう!イタタタ!

            


寅怒って二階へ


みんなで揉めている中、寅はそっとカバンを持って 二階から下りて、店先へ。

そして出て行く

さくら気づいて追いかける。

題経寺の前で追いつくさくら。
さくら「
また行っちゃうの?
寅「
うん
寅「
やっぱり地道な暮らしは無理だったよ、さくら」
哀しい言葉だね…(TT)

            

さくらうん…

オレ昔からバカだったもんなあ…、
 だけどよぉ、さくら、あんちゃんはよう…今度は、
 今度だけは、地道に暮らせると思ったよ、
分かる分かる(TT)

さくら
うん

本気でよ!

さくらうん

やっぱりだめだよな…。おまえ、幸せに暮らせよ!

さくら「お兄ちゃん!


曲がり角で

ちょっとさくらの方をむいて その後去っていく (少し笑って)

            
 

花火バン!バン!バン!

この別れのシーンは美しい! 寅の無念な気持ち分かるな〜。
自分の愛する人のために地道に 働くことは動機としてちっとも
不純じゃないと私は思う。 寅はきちんと地道に働いていた。
山田監督がこの第5作で完結していいと思っていたことがこの二人の会話で
窺い知ることができる。この寅の気持ちは寅の本音であり見果てぬ夢である。



J【節子の後悔】


1ヵ月後 


さくらのアパート


節子さんがさくらをアパートに訪ねてくる。
(最後の給料寅受け取ってないしね)

節子「どうしてかしら、どうして寅さん急にウチを辞めちゃったのかしら、
   …なにか訳があるんじゃないかしら?


↑さすがに節子さんもうすうす分かっているような話し振り。でも気づくのが遅い。

さくら「別に訳なんて、口先ばかり良くって、
   結局兄はヤクザな人間なんですから、まともな暮らし
   なんて飽きちゃったんでしょう。 いつもそうなんですよ


            

そう言うしかないよね、さくら。
『兄はあなたのことが好きだったんですよ』 なんて言えるわけないし(TT)


旅先からの節子さんに宛てた寅のハガキを読むさくら

懐かしい第1作のテーマ曲が流れる。


拝啓、

その後、お元気ですか。
私こと思い起こせば恥ずかしきことの数々
今はただひたすら反省の日々を過ごしております。

浦安にておかけしたご迷惑の数々、くれぐれもお許しください。
なお、柴又におります、私の妹、
愚かな女なれど、身寄り頼り無き不幸の身の上ゆえ、
なにかと、お力になっていただきたく、
ひれ伏してお願い申し上げます。
末筆ながら、節子様の幸せを心からお祈りしています

                        車 寅次郎


ハガキのナレーションが流れる中、さくらが江戸川の土手で
たたずみながら兄のことを思っている。
静かな名場面とはこのことを言うのだろう。


            



K【登との旅は続いて行く】

寅は旅の途中、田舎の海岸で登と再会

よぉー!

あー!!

「お控えなすって!」
「お控えなすって!」
「それじゃ、仁義になりません、
 まずあんさんからお先にお控えなすって!」

「それじゃ、ひかえさせていただきやす」

「さっそくの、お控えありがとさんにござんす。
 わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
 姓は車 名は寅次郎、
 人呼んでフーテンの寅と、発します!」

               

ハハハ!ハハハ!!

兄貴ー!堅気になったんじゃねえのかよー!?
てめえだって、なにうろうろしてやがんだい!バカヤロー!
ちっとも変わってねーよー!!
バカヤロー、徐々に変わるんだよ!いっぺんに変わったら体に悪い
  じゃねーかよー!!コノヤロー!
どっ(^^)

二人とも「ハハハ!!ハハハ!」


遠くで蒸気機関車が通る プォー〜!!

            




公開日 1970年8月26日
上映時間 88分
動員数 72万7000人
配収 1億8000万円



第5作「望郷篇」【本編完全版】はこちら。

第5作「男はつらいよ・望郷篇」ダイジェスト版(2007年3月14日制作)


 

明後日2007年3月16日(金)の夜は
第6作「男はつらいよ.純情篇 」のダイジェスト版をアップしてみましょう。
この作品は、あの柴又駅での寅とさくらの切ない別れが印象深い。あの兄妹の繋がりは全てあのシーンに
集約されている。




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298

                          
『寅次郎な日々』バックナバー
           






第4作「新.男はつらいよ」.ダイジェスト版
 


2007年3月12日寅次郎な日々 その298


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。

前作『フーテンの寅』から第4作『新・男はつらいよ』の撮影期間はわずか42日間。
それでもなんとかやり遂げる男はつらいよの生みの親、小林俊一監督。
制作時間が短くても「良作」はできることを見事に証明して見せてくれた。

それでは今日は、第4作「新.男はつらいよ.」ダイジェスト版をどうぞお楽しみください。



第4作「新.男はつらいよ」.ダイジェスト版



第3作に続き、今回も山田監督は共同脚本執筆に留まり、監督はしていない。森崎東監督はすでに第3作制作の真っ最中で
体は2つはない。そこで次なる監督はこれまたテレビ版「男はつらいよ」に演出やプロデューサーとして深く携わってこられた
小林俊一監督にお願いすることとなった。この第4作は松竹が無理して早く作らせたお陰でなんと1ヵ月半で作らざるを得ないはめに
なったのである。

それゆえ、この作品にはほとんどロケらしいロケが出てこない。そのぶん柴又参道がたっぷり出てくる。ロケが無いのはつまらないと
おっしゃる人も多いとは思うが、私にとっては風吹く柴又参道がたくさん映し出されるこの作品はとても嬉しく貴重なもので、
古き良き庶民の町、柴又をしっとりと窺い知ることができる数少ない作品なのである。また、登場する人々も佐山俊二さん扮する蓬莱屋、
二見忠夫さん扮する弁天屋をはじめ、谷よしのさんたち柴又の御一統さんたちが実にいい顔でスクリーンを駆けずり回っている。
全48作中、こんなに柴又風情がしみじみ描かれた作品は無い。

そういう意味ではこの映画シリーズのオリジナルであるテレビ版男はつらいよの雰囲気を強く醸し出しているのがこの第4作とも言えよう。
またエピソード的にもハワイ旅行騒動やその後の泥棒騒動など、テレビ版の物語のアレンジが採用されている。

また、この作品で、初めてマドンナがとらやに下宿することになる。このパターンは後に度々使われることとなる。
やはり、マドンナがとらやの家族になると物語りは深まりを見せるのである。



本編


山梨県の道志村

村瀬幸子さん演じるおばあちゃんが営む峠茶屋

町のお孫さんから心のこもったはがきが届く、峠の茶屋。団子と甘酒で体を休憩していた寅は、
望郷の念に駆られる。

団子と甘酒で120円。なんと寅が出したお札は500円でも千円でもなく、あの板垣退助さんの肖像の100円札!

寅「私の故郷にも、血を分けた妹と叔父夫婦が、私のことを案じながら暮らしております。
 毎年、春が近付くたびに、出来ることなら暖けえちゃんちゃんこの一枚も買って帰って、
 喜ばしてやりてえと思うのでございますがね。それがなかなか、思うに任せぬ辛さでもあります。

 まったくの話、銭があれば…、銭さえあれば、私は今すぐにでも土産を買い込んで、
 故郷に帰りたいのでございます。さようでございます、
 私の故郷と申しますのは、東京、葛飾の柴又なのでございます。



           



タイトル  新.男はつらいよ


「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、
姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。」


今回だけ歌詞が「どうせおいらは、底抜けバケツ〜」の出だしで唄われる。
このあたりも貴重。

♪どうせオイラは底抜けバケツ、分かっちゃいるんだ妹よ
入れたつもりがすとんのポンで、何もせぬより未だ悪い
それでも男の夢だけは、何で忘れて、何で忘れているものか、いるものか♪


           




@【大儲けし、柴又に凱旋する寅】

一人30万円のハワイ旅行を勧めにくる登。柴又で営業したって無理 ヽ(´〜`;)

一方

名古屋から帰って来たタコ社長が
地方競馬の右回りダートの名古屋競馬場で寅次郎にばったり会ったと言う。
(18000円の大穴→特券で18万円)
寅次郎は「ワゴンタイガー」という同姓同名の年寄り馬に掛けて大穴が当たったらしい。

ちなみに「ワゴンタイガーは日本語で車寅次郎となるらしい(^^;)


           


寅次郎はなんとそのあとも勝ち続けて100万円獲得

そのままタクシーで柴又へ凱旋。
名古屋から柴又までのタクシー代は29,000円。

タクシーを取り囲みながら柴又の御一統さん、ワイワイガヤガヤ大騒ぎ。


          


源ちゃん「寅の兄貴が帰って来たんだぞー!
    名古屋だーい!名古屋のタクシーだぞー!

と、のりのりではしゃぐ。


弁天屋「なんでもね、競馬で大穴当てたらしいぜ!!


寅はもったいぶってじらしながらも100万円の入った財布をおいちゃんたちに
放り投げ見栄を張る。

谷よしのさんたち大ハシャギ。


          


ハワイの話題が出て

寅「ハワイ結構、結構毛だらけ猫灰だらけ、お尻のまわりは
 クソだらけってな。おいちゃんおばちゃん、
 ハワイ行こうじゃねえか、決定!!


寅「おばちゃん立ったままジョンベンもらすなよ!ざっと百万両だ!

と、ぽいっと膨れ上がった札入れを投げる。
おいちゃんたち、中を見、お金を出して顔を蒼ざめる。

おいちゃん「ほんとだ…


ちなみに、第41作「心の旅路」でも寅は万車券を取ったものの、
最後に一気に賭けてスッテンテンになったらしい(^^;)



          


その夜みんなで飲めや歌えの大騒ぎ。

♪私のラバさん酋長の娘〜

柴又のみなさまも、寅と一緒になってバカ騒ぎするなんて
結構堅気じゃないんだね(^^;)誰も止めないのかね。

茶の間でとらやのみんなはしらけて見ている。

博は冷静で、競馬でバカ儲けしてしまった寅の頭を心配し、

博「
もともとあまり正常じゃないんですからね(^^;)
さくら
・・・・・・・!博を見てギョッとする。

このあたりの陰陽の演出は第3作によく似ている。

翌日、おいちゃんは、なにかおこりそうで気疲れで寝込んでしまう。


          


一方、柴又の連中は、その後、全く真面目に働く気がしなくなって、
だれてしまっている。わかるわかる(^^;)
 




A【ハワイ旅行のはずが…】

ハワイ旅行の当日 

みんなでパスポート作ったんだね

★寅は胸に
日の丸。しかしハキモノは雪駄
★おばちゃんはなんと
ミニスカートに紫の帽子。長ぁーいマフラー。
★おいちゃんは
JALの大きなカバンななめがけ。



          


英語ネタ

★「
ホエア イズ トイレットおばちゃん
★「
ギブ ミイ ウイスキーおいちゃん

さくら「
お兄ちゃんは?

寅「決まってるじゃねえか。アイ ラブ ユーよ!」決まったね!

ところが!登の旅行会社の社長がお金を持ち逃げして全てパー(TT)


          


動揺する寅だが、とりあえず、みんなでバンザイ三唱して、タクシーに乗り込み、
羽田で時間潰して、深夜にそ〜っとみんなで戻って来て、電灯にカバー付け、
ひっそり暮らしている。夜になると博が食料を運んでくるのだ。さくらには内緒(^^;)


博「
これからどうするんですか?

寅「
簡単だよおめえ、4日ばかりこの家に隠れてるのよ。そして5日目によ、
  どっかの八百屋行ってパイナップルでも買ってきて、
  近所の衆にただ今帰りましたと言えばそれでいいんだよ


みんな自信がなさそう…。


そうとは知らずに、
翌日柴又のみんなは、とらやの店先でハワイの話で盛り上がる。

海岸、 日光浴、 椰子の木陰、美人に囲まれる、
フラダンス踊る、 ダブルベッド、 コーヒー

あ〜、現実は…(TT)


         


ここで春子先生が、子供を連れて参道を歩いてくる。マドンナ登場!

春子のテーマが流れる。

寅は店のガラス戸の隙間から彼女を見て当然ながら一目惚れ。




B【とらや泥棒騒動】

その日の夜

とらやの留守につけこんだ財津一郎さん扮する泥棒が盗みに入ってくる。
博と寅で取り押さえて警察に知らせようとする。

寅「博、110番ってのは何番だっけ?(^^;)

博「え、…、!イチイチゼロです

寅「よし

博「ちょっと!兄さん、警察に届ける以上、
 僕たちがここにいることが分かってしまいます。覚悟してくださいよ


寅「えー?…あああ!!!


           


寅以外はもうほとほと疲れているので警察に届けたい。

寅だけ町内の笑いものになるのがいやなので隠したい。




寅は結局、泥棒を逃がそうとするが、
今度は泥棒のほうが足元を見て、寅をゆすり始める。

結局寅は泥棒に自ら一万円払って出ていかせてしまうのだ。

悔しがる一同。

寅も唇をかんでチキショウ…


しかし、その泥棒が警察に捕まってしまって、泥棒が全てを話し、結局ハワイに
行かなかったことがバレてしまう。

寅、おいちゃん、おばちゃん
ヘヘヘ…

寅はプッツン切れて、泥棒の一万円を奪い返して、殴りかかり、蓬莱屋にも八つ当たり。
暴れまくり警官を巻き込んだ大騒ぎで全ては終わりを告げる…。



           


騒ぎの後で

とらや 店



恥をかいたおいちゃんとおばちゃんは寅を攻め立てる。


おばちゃん「ともかく、もともとハワイに行くなんてのが無茶だったんだよ!
今回の全てをリセットしたがっているおばちゃん(^^;)

おいちゃん「そうだとも!おりや、ハナっから乗らなかったんだ!
それじゃ、寅の立つ瀬が…(TT)


おばちゃん「私だってさーおばちゃんまで(TT)

寅「よくそんなことが言えるな、ええ。
 あんな嬉しがって
英語の勉強なんかしやがって、
 年甲斐もなくアロハシャツなんか買い込みやがってよ!

おいちゃん「おう、みんななあ、お前の顔を立てるために
     やったんだい!仕方なくやったんだよ!
酷い…(TT)

寅「チキショウめえ!だったらオレはいったいどうしたら良かったんだよ!
 オレが百万両稼いだのが悪かったのか!


 おいちゃん「スッパリ言わせてもらえやその通りよ『悪銭身につかず』と
      言ってな、所詮こんな赤っ恥かくのがオチなんだ!


寅、湯飲みを投げつける。

おいちゃん「バクチの金なんか欲しかねえんだ!

暴れ始める寅。

必死で止める博。

寅「止めるな!

おばちゃん「やめとくれえ!!ワアアアアアア、ウエエエン


失意の心で帽子もかぶらずに旅に出て行く寅。


            




C【さくらの涙】


翌日

江戸川土手

おばちゃん「悪い夢見てたんだよ、さくらちゃん。
     そう思わなくっちゃなんだか後味が悪くてね


さくら「…おばちゃん、また白髪が増えたね

おばちゃん「当たり前さ、寅さん帰ってくると白髪が増えるんだよ

さくら「お兄ちゃん、馬に頼んだんだって?

おばちゃん「そうだってさ、笑っちゃうよ、そしたらね、
      馬が返事して一着になってくれたなんて、
      真顔で言うんだからね、可笑しな人だよ、あんたの兄貴は…


さくら、目が潤んで下を向く。

おばちゃん「どうしたんだい、さくらちゃん

さくら「なんだか、お兄ちゃんが可哀想で…」と泣く。


おばちゃんもさくらの気持ちが分かり、沈んでいく。

寅は実は悪くないことがさくらにはよく分かるのだった。
寅のおいちゃんやおばちゃんを思う気持ちは純粋なのだ。



             




D【再びの帰郷とマドンナとの出会い】


一ヶ月後、寅がまたもや柴又に帰ってくる。

入りにくそうな寅に気を使っておいちゃんたちは、わざと気がつかないふりをしてやる。
寅も結構機嫌がよく、この前のことを謝り、仲直りをする。

そして2階で一休みしようとする寅に、おいちゃんたちは2階を人に貸したと打ち明ける。


            


寅は、自分の部屋が無くなったことにショックを受け出て行こうとするのだが…。

寅「オレは出て行く、雨の中。さくらたちによろしくな。
  寅次郎兄ちゃんは、けえるところも無くよ、

  雨に打たれて淋しく出て行ったって伝えてくんな。あばよ!



そこへ春子先生が帰ってくる。

おばちゃん「おかえんなさい

春子「ただいま


春子のテーマが流れる。

全ての時が止まり、完全に春子先生に釘づけになった寅。
完全に瞬殺。目が
ハート。惚れました。


            


おいちゃん「これが、いつもお話している甥の寅次郎です

春子「宇佐美春子です

もちろん旅立つことなんか、吹っ飛んで茶の間で春子先生とおしゃべりする寅。

おいちゃん「知らねえよ、おりゃ」と、いつもの言葉。

ところで、春子先生が借りていた部屋は、寅次郎が住んでいた部屋だと言っていたが、
なんと春子先生の部屋は階段を上がって右側の部屋。この部屋は第1作と第4作で
使われただけ。普段は開かずの廊下でさえぎられている。

工場の寮でギターを弾きながら『スイカの名産地』を歌う、工員達。

寅、源ちゃんを手伝わして、寮の窓の間近に板塀を張り付ける。
春子先生の部屋が寮から見えないようにするためである。


一方、

春子先生は父親の友人の吉田医師から、
父親の命がいくばくも無いこと、そして一目会いたがっていることを

知らされ、会ってやってくれと頼まれるが、生まれてすぐに父親に
捨てられた春子先生は、今更父親と言われても…、と戸惑い、心を閉ざしてしまう。



            


夜 とらや 茶の間

春子先生は家賃を支払おうとするが…。

寅は怒って、

寅「へえ〜、こりゃ、驚き桃の木山椒の木、ブリキにタヌキに蓄音機だ

寅は、あんな部屋でお金が取れるね、常識外れてる、あこぎだとなじる。

寅「春子先生がお住みになるというんだから、どうもありがとうございますと、
  おいちゃんのほうでお金を差し上げるというのが常識あるやり方じゃないのかい?


まあしかし、独善的だねえ。お金の問題はあまり口を挟まない方がいいぞ寅。


            


一方、タコ社長たちは、例の板塀のことで『人権問題だ』と言って、
出るとこに出ようと喧嘩寸前になる。
春子先生が「喧嘩なんかなさらないで」と言った瞬間に、
全てがチャラになる変わり身の早さの寅だった。



            




E【寅の幼稚園通い】

次の日から寅のあからさまな題経寺のルンビニー幼稚園通いが始まる。

頭に紙で作ったかぶとをかぶって春が来たを歌い、踊りながらとらやに戻ってくる寅。

寅「♪はーるがきぃた、はーるがきぃた、どーこにーきたぁ、あ
と浮かれてスキップ。
     

おいちゃん「どこへ来たもねぇもんだ、手前ぇの頭の中に来たんじゃねえのか?


            




F【春子先生の悲しみ】

そんなある日、

父親が亡くなったことを吉田医師から知らされる春子さん。


愕然とし、

春子「わかりました…。わざわざどうも…

吉田「春子ちゃん、あなたも気を落とさないように。そして冥福を祈ってやってください。
  お父さんはね、十分罪の報いを受けましたよ。十分なくらいね…


春子「…はい


            


寅が「私生児」だということを春子先生に語る御前様。
春子先生は自分の身の上とダブらせているようだった。



その後、御前様は寅の父親の命日にとらやを訪れるが、おいちゃんおばちゃんは
すっかり忘れていたもよう。おまけにおばちゃんのへそくりが仏壇から
見つかってすったもんだの大騒ぎ。


             


春子先生は笑って見ていたが、父親の死を忘れきれず、
遂にみんなの前で堰を切ったように泣き出してしまう。



春子のテーマが流れる。




G【春子先生のために奮闘努力する寅】


寅は父親の死によって傷ついた春子先生を何とか慰めたいと、博に相談。

博の答え

★景色のいいきれいな湖にボートを浮かべる。
★気持ちのいい音楽
★悲しい恋の小説を贈る。


            




水元公園

寅はボートを浮かべて実践。

工員たちに歌とギターやハーモニカを手伝わせて春子先生を慰めようとする。

♪愛、あなたとふーたり、花、あなたと、ふーたり、恋、あなたとふーたり、夢、あなたとふーたり、
ふーたりのためー(パヤッ、パヤッ)せーかいはあるのー(パヤッ、パヤッ)ふーたりーのためー…


工員達は「世界は二人のために」を歌うが長くなってしまって工員たちが反逆。
工員達『腹減った飯食わせろ』と紙をみせたりして今一歩、統一感がでないで、成功にまではいたらない。

春子先生は今一歩沈んだまま…。


              




H【おいちゃんの【婦系図】の一席】


第4作の名場面が始まる

とらや 茶の間

次においちゃんに『悲しい小説』を知っているかどうか聞く寅。

寅「おいちゃん、悲しい小説知らないか?

たぶん知らないだろうとたかをくくっていた寅は、意外にもおいちゃんが話す
婦系図』の名場面に聞き入り感動していく。

名優・森川信演じるおいちゃんの一人芝居が聞ける貴重なシーンである。
意外に博識なおいちゃんの一面を知ることが出来る珍しいシーンでもある。



泉鏡花の婦系図は「切れるの別れるのって、そんな事は、芸者の時に云うふものよ。」という
セリフを吐く新派の「湯島の白梅」の芝居で有名。本来物語は恋愛と復習劇のニ筋だ。
特に後半の早瀬の復讐が見ものなのだが、前半の恋愛劇が芝居で人気が出たため、
泉鏡花は、大正3年にはお蔦、早瀬の別れの場面だけを脚色しているくらいだ。
一般的にはこの恋愛部分を言うことが多い。

その恋愛物語はこうである。
若きドイツ語学者、早瀬主税(ちから)は、恩師の独文学者、酒井俊蔵(真砂町の先生)に
かくれて柳橋の芸者お蔦と所帯を持ったことが露見する。
酒井は十三年前静岡の焼跡から連れて来て育て上げた愛弟子主税と兄妹同様の
一人娘妙子を行く末は添わせたいと考えていた。そして酒井は自分の過去の同じような
苦い経験を反省し、ここは鬼になってでも早瀬の将来のために別れさせようと決断する。


「俺を棄てるか女を棄てるか!」と迫る酒井。

義理と愛情の間に立った早瀬主税はお蔦を湯島の境内に連れ出し別れてくれと
頼むのだった。その言葉に驚ろいたお蔦もそれが酒井の厳命とあっては返す言葉もなかった。

主税は仕事の為静岡へ行き一人残されたお蔦も日夜早瀬を想うあまり病の床に伏す様になった。

二人の仲を裂いた酒井はかつて芸者との間に子までなしながら学問のため女を捨てた身であり
お蔦の心情を察し断腸の思いだった。


同じ頃早瀬も運悪く、高熱によって静岡の河野病院に入院していた

重態になったお蔦の病床を見舞った酒井は彼女の真心をようやく深く知り、
『お蔦、早瀬が来た。ここにいる』と励ましながら息を引きとって行く彼女を見守るのだった。
酒井に早瀬との仲を許されたお蔦は、
その酒井の腕の中で「先生が会ってもいいって、嬉しいねぇ!」と早瀬が遂に来てくれたと思い込み、
こときれていったのだ。


おそらくおいちゃんは相当リアルな視覚的な記憶があるようなので、小説だけではなく、新派劇を観たか、
映画化も何度かされているからそれを観たのかも。特に1962年の市川雷蔵主演の映画は特に流行った
のでそれで覚えたのかもしれない。


おばちゃんが笑い転げながら、ニ階の春子先生の部屋に上がって来る。

三味線がなぜか鳴り続けている。

おいちゃん「の酒井俊蔵を夫と思え、早瀬主税(ちから)と思ってしたいことをしろ!
     念仏も弥陀もいらん、一心に男の名を唱えろ!
     早瀬と唱えて胸を抱けぇ!お蔦ァ!早瀬が来たァ!ここにいるぞおお!


寅「うん」と涙ぐみながらおいちゃんを凝視。

おいちゃん「お蔦はな、目がもう見えねえやな

寅「はあ…と涙。

おいちゃん「意識は朦朧としている。細い手でしっかりと真砂町の先生(酒井)の
     襟を掴んでこう言うんだ。『ねえ、苦しい…、口移しに薬飲ませて…



            


寅「ん…それでどうした

おいちゃん「真砂町の先生(酒井)はな、言われるままに水薬を口に含んで

寅、感激して

寅「ほぉ〜ぉ…

おいちゃん「口移しにお蔦の口へトクトクトクと…


          


寅、頷いて

寅「それで…

おいちゃん「お蔦は、もう、うっとりと仰向けになってな。
     これが最後の一番いいセリフだ!


寅「うん!

おいちゃん「早瀬さん!!と、寅の背広の襟を掴む。

寅「はい

おいちゃん「『真砂町の先生が、会ってもいいって…、嬉しい〜ねええ…』

寅、涙でぐしょぐしょ。

おいちゃん「さすがの先生もここで、ハラハラハラと男泣きだ!

机をバン!

寅「おいちゃん、あんまり泣かせねえでくれよ、ううう…

おいちゃん「ううう…

寅「そんなに悲しくっちゃ早瀬君だって泣いちゃうよな、ううううう


         


三味線が次第に早く大きく鳴り響いていく。

寅、おいちゃんの手ぬぐいで泣きながら鼻をかむ。

おいちゃんも、その手ぬぐいで涙を拭く。

鼻水がおいちゃんの顔について(^^;)

おいちゃん「うううう…???


おばちゃんと春子先生遂に我慢できなくて笑い転げる。

寅とおいちゃん「???

春子「ハハハ、フフフ

春子「フフフ、ごめんなさい、笑ったりして、つい、
  なんだか、ほんとごめんなさい、フフフ!



         


と笑い転げながらながら階段を上がっていく。

笑い転げているおばちゃん。



テーマ曲が大きく流れていく。



寅「先生笑ったな!ハハハ、ヒヒヒ

おいちゃん「ハハハ!

寅「先生久しぶりに笑ったな!

おいちゃん「まったくだな!おい!ハハハ!


           


寅、庭に出て


寅「おーい労働者諸君!今夜はオレのおごりだ!大いに飲もう!

夜の参道をはしゃぎまくる寅と工員達。


           


春子先生は笑い転げていたが、私にとっておいちゃんの【婦系図】は、
胸にこみ上げて来るものがあった。おいちゃんの演技はそれほどにも抜群だった。
笑わないで感動してしました。上手い!森川さん!





I【再び寅の幼稚園通いの日々】


その日以来

幼稚園児に混じって賑やかしく遊びまくる寅があった。



           



心にハリがある寅は易の啖呵バイも調子良くがんばる。


           




J【寅の失恋】


しかし幸せは長く続かなかった。

ある日春子先生の恋人である仙台市に住む会沢隆史が
柴又の春子先生のところへ突然塞いでいる彼女を励ましにきたのだ。
ニ階へ上がっていく二人。


      


おばちゃん「どうする?
おいちゃん「どうするって、おめえ…

ちょうど運悪くそこへ春子の為に人形を買ってきた寅が参道を走ってくる。

寅「めだかあ〜の学校は、蓬莱屋、相変わらずバカか?



とらや 店

源ちゃん「あ!兄貴が帰ってきたぞ!

一同「ええええ!!!

みんなは寅にばれないように気を使うが、相変わらず上機嫌の寅は、
お構い無しに
お土産人形を持ってスタスタニ階に上がっていく!


寅の声「
あっ・・・


続けて、
人形が階段を転げ落ちてきた。

おいちゃん「おりゃ、知らねえよ!とスタコラ逃げようとする。

怖くなって、博も、工員達も、弁天屋も今まさに逃げようとした時に
寅がニ階から下りてくる。


全員金縛り状態で動きが止まる。



         


寅、ニカアア〜っと笑う。



        


おいちゃんたちもニカア〜っと笑ってごまかす。
弁天屋たちもニカアア。



        


寅、微笑みながら、人形を拾い、おばちゃんの隠している
靴を見つけ、台所のテーブルに置く。


一同血の気が引く。


寅、ニカッと笑いながらおいちゃんに歩み寄り人形を渡す。

社長「なんだなんだ!よおお、寅さん!こいつらに聞いたよ。
   近頃は春子先生とうまくやってるんだってぇ!?こないだも
   水元公園でアベックでボート漕いでいたっていうじゃないか!
   このおお、色男!


と、寅をつつく。

一同、真っ青&唖然。

寅、笑って社長の頭をなぜて、思いっきりひっぱたく。

寅「このヤロウ!!

社長「いてえ!なにしやがんだい!

みんなで必死で止める。


         


寅は、「
チキショウ!」と言いながら走って店を出て行く。



K【夜に旅立つ寅】



柴又参道  誰もいない深夜


とらや 茶の間

犬が吠えている。

風呂上りの春子先生、人形に気づいて

春子「あ〜ら、変わったお人形さんねと、人形の顔を真似する。

これは何気ないシーンだが寅の心が人形に宿っているようで
とても哀しくやるせない(TT)



         


春子先生が2階に上がった後、おいちゃんたちは寅が帰ってきたら
どうしたらいいか戸惑い悩んでいる。


音がして寅が帰ってくる。

とりあえず、あたふた二人とも寝たふりをする。


寅、そっと階段の下へ行って、
春子先生の寝ているニ階を哀しい顔で眺める。


そして、二人が寝ている仏間の襖を開ける寅


           


さくらのテーマが流れる。

寅「なんだよー、すっかり年取っちゃいやがって。
 おいちゃん、おばちゃんよ、毎度のことながら、また笑いもんになっちゃった。

 オレは旅に出るぜ。なあ、また今度もよぉ、なにひとつ恩返しらしいことは
 してやれなかったな。そのうち必ず必ずいい夢見させてやるからよ。
 勘弁してくれよ。

 体だけは大事にしてな。二人仲良く長生きしてくれよ。春子先生によろしくな。
 あばよ。



部屋を出て行く寅。

そして店の戸を開ける。



          


おいちゃん「おい、もう出て行っちまったか?
おばちゃん「行っちまったようだよ

実は寅はまだ店にいる。

おばちゃん「でも…いいのかねえ、ほっといて

おいちゃん「しかしなあ。毎日ここにいて毎日春子先生と
     顔合わせんのもつれえだろうしなあ。


おばちゃん「本気で惚れてたのかねえ〜

おいちゃん「当たり前だよお前、 バカだねあいつはまったく


ガッシャン!


おいちゃん「おい店に出て行く二人。


カラカラと自転車が回っている。


おいちゃんとおばちゃん、自転車の車輪を見ている。

           
                 


風になびくカーテン

回る車輪


         




参道を淋しく歩いて行く寅。


寅、参道の途中で止まり、春子先生を想い、涙する。

春子先生の寝顔。


           




L【九州旅で賑やかしい寅】


一方、寅は旅の空


汽車が由布岳をバックに煙を出して走ってくる。

シュシュシュシュシュシュ!ボオオー〜〜〜!!!



           


車内で寅の【泥棒騒動】の話に耳を傾けている大勢の乗客たち。


寅「その泥棒はよ、俺たちが待ってるってことも知らないでよ、
  鼻歌か何か歌いながらね、そ〜っと開けて入ってきやがんの


客たち「う〜ん

寅「ねえ?そうするとよ。誰もいねえはずの部屋ん中に
 お前ストーブがぽ〜っとついてんだよ。

 そこんところは泥棒の野郎おっちょこちょいだからよ、
 下風にピューっと吹かれてフー寒いなんていってやったのがね、
 ストーブが点いてたもんだからスーっとそば行ってよ、
 こりゃいいなんてあたってやんの!



一同「ガハハ!


寅「うわ〜あったけえな〜んてね、野郎言ってるうちにハッと気がついたんだよ。

 どうして留守のうちにこんなストーブがついてんのか、ね。

 この時遅く、この時早く、野郎の襟をぱっと捕まえて、頭ポカポカポカと
 ぶん殴ってやった。こりゃまた根性のねえ泥棒でねえ、
 『どうか命ばかりはお助けください』と、こう言うんだよ。
 なにをぬかしやがるんだよこのやろう!警察に突き出してやる。


 オレが110番へ電話しようとすると、

 弟がよ『兄さんしばらくお待ちなさい、警察へ連絡する、警察が来るわ、
 ここに私たちが隠れてるのがわかっちゃいます』これ言われて、
 オレは大弱りよ。しょうがねえんでね。なけなしの1万円札を泥棒にやって
 どうぞお帰りくださいと頼んだんだオレは


一同「ガハハハハ!!

どっと、みんな大爆笑


           




テーマ曲大きく広がり高まっていく。

別府が遠くに見えて



           



この疾走する機関車と賑やかな車内の会話がたまりません。
私は第4作のこのラストを見たいばかりにこの作品を見る時が多いのだ。







公開日 1970年(昭和45年)2月27日
上映時間 92分
動員数 48万5000人
配収 1億3000万円


第4作「新・男はつらいよ」ダイジェスト版(2007年3月11日制作)

 

明後日3月14日(水)の夜は
第5作「男はつらいよ.望郷篇 」のダイジェスト版をアップしてみましょう。
この作品は、山田監督が今度こそ完結篇だ。と気持ちを込めて勢いよく作った快作である。
軽快なテンポと深いテーマのコントラストがなんとも気持ちがいい。




297

                          

『寅次郎な日々』バックナバー





枯葉降る庭 眺めつ逝きたし



2007年3月9日寅次郎な日々 その297


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



ここ数日スマトラのパダンでまたもや大きな地震があり、多数の死傷者や倒壊家屋が出ている。
そして一昨日のガルーダ航空の事故。この前も同じような航空機事故があったばかり…もうほんとうにこの国は
ずっと大変な状態だ。そして駄目押しで昨日3月8日の早朝からバリ島中部を風速35メートル以上の暴風が
夕方まで吹き荒れ、多くの電気ケーブルと、電話ケーブルが故障した。もう踏んだり蹴ったりだ(TT)
長い停電は、さきほどようやく解消し、少し電気がついたので、こうして文章を打っている。しかし、まだまだ
ほとんどパソコンが使えない状態(TT)

そんな時、あの浜松のKさんが覚え歌の
完成を知らせてくださった。
ちょっと気が滅入っていたので、Kさんの心温まる覚え歌を繰り返し読んでいたら、心が少し安らかになった。

そこで、本日は第4作「新.男はつらいよ」のダイジェスト版アップの予定だったが、第4作アップは2日後の
3月11日にスライドさせて、急遽、覚え歌の第36作「柴又より愛をこめて」から最後の第48作「紅の花」までを
ご紹介いたします。

Kさん全作品完成おめでとうございます。そしてありがとうございました。




第36作「柴又より愛をこめて」

 六つ、無性に会いたいな、「柴又」の「愛」 寅さんに。

 十五年、初心貫き ふと止まる、首筋ヒヤリ ベル鳴らす。

 一・五(いってんご) 浜名湖畔で 四に会う。

        
   (私も寅さんに会いたかったなぁ)



37「幸福の青い鳥」

  七つ、なつかし あの小百合、幸せ祈り 「青い鳥」を。

  美保走る 気転きかせる 先輩さくら。




38「知床慕情」

  八つ、やもめの 変わり者、ウマが合ったか トラとママ。

  港に朝もや立つ羅臼、そそぐ陽光花の丘、夕映え燃えるオホーツク、
 「知床」の短い夏は 恋のとき。



39「寅次郎物語」

  九つ、このまま柴又へ 秀吉連れて かあさんと 恋「物語」 綴る夢。

  他人(ひと)のため 渡世人でも お役に立てば
  生まれた甲斐が ございます。




40「サラダ記念日」


  続いた数字が十
  遠い旅 いろりの残り火 消えゆくように 枯葉降る庭 眺めつ逝きたし

  寅さんが ’芋がいいね’と 言ったから おばちゃん「サラダ」に 芋いれちゃった。



41「心の旅路」

  もののはじまりが一ならば
  初の洋行 ヨーロッパ 雪駄チャラチャラ 流れるドナウ 「心の旅路」 江戸川へ。

  異郷の地 日本のスパイ 恋に酔う、夢か 現か バベルの塔か。




42「ぼくの伯父さん」

  二つ、二輪よ ひた走れ、初恋の人 住む町へ。

  恋をして 旅をしてみて 気が付いた、なぜ魅かれるのか 「伯父さん」に。




43「寅次郎の休日」

  三つ、満男は 飛び乗って、不安な泉に 寄り添った。

  まるで家族の「休日」に 幸せ装う 母哀し。




44「寅次郎の告白」

  四つ、喜び 転がって 泉にとびつく 鳥取砂漠。

  惚れてた女の「告白」に、寅の操も これまでか。




45「寅次郎の青春」

  五つ、いつまで雨やどり、寅さん似合う 髪結い亭主。

  海きらめいて 日傘ゆれ 「青春」の歌 つかの間に。

  湧く想い 口づけに込め 去る泉。




46「寅次郎の縁談」

  六つ、昔の船長が 娘とタンゴ お手をどうぞ。

  過ぎし日の 想い重なる 大人の恋、機微わからずに 取り持つ「縁談」。



47「拝啓車寅次郎様」


 七つ、菜穂ちゃん 怒ってる、 大きなお世話よ ほっといて、
 けれど気になる 満男さん。

 「「拝啓 車」先生様  念願叶い 紅白へ  印堂輝く さち子より」



48「紅の花」

  八つ、やめろよ 結婚を 満男必死の フロントガラス。

  不様でも ようやく言えた ’愛してる’ 心に咲いた「紅の花」。

  寅さんは 日本のどこかで 旅してる、 さくらも リリーも待っている。

    




私の感想


第36作

「一・五(いってんご) 浜名湖畔で 四に会う。」

実は私はこの意味が分からなくて2分くらい考えてしまいました(^^;)ゞ
これを読まれているみなさん分かりますか?「一.五」と「四」の意味。

上手いですねえ〜。寅は目が小さいから同窓会に臨時で寅を入れても
「二十四の瞳」にならなくて「二十三半の瞳」でしたよね。
つまり寅は「1.5の瞳」なのですね(^^)





第39作

「九つ、このまま柴又へ 秀吉連れて かあさんと 恋「物語」 綴る夢。
他人(ひと)のため 渡世人でも お役に立てば生まれた甲斐が ございます。」

第39作は私にとっては人ごとじゃない。
Kさんの書かれた
「他人(ひと)のため 渡世人でも お役に立てば生まれた甲斐が ございます」
は、寅の心からの言葉だと思う。今回の人助けは寅にとってはまさに本懐だったのだ。

人生を無為に過ごしてしまっている後悔と懺悔で心がいっぱいだからだ。同じように人生を
無為に過ごしてしまっている般若のマサも隆子さんも、そしてこれを書いている私も同じ心を
抱いている。

そしてついもう一歩進んで「家族」をも持ちたくなってしまう寅。
「このまま柴又へ 秀吉連れて かあさんと 恋「物語」 綴る夢。」
見果てぬ寅のなんとも哀しい夢物語が切ない…。


             
         





第40作

「遠い旅 いろりの残り火 消えゆくように 枯葉降る庭 眺めつ逝きたし」
「寅さんが ’芋がいいね’と 言ったから おばちゃん「サラダ」に 芋いれちゃった。」

前半部分にこの第40作の核がある。
おばあさんの気持ちは私の気持ちでもある。あの家を去る時のおばあさんの顔は忘れられない。
私も最期はかくありたい。
たとえそれが小諸病院の医院長さんに、それじゃ野垂れ死にだ、と言われてもだ。
人には、ギリギリの局面では尊厳があることを忘れたくはない。



             



そして後半部分、「芋いれちゃった」がおばちゃんのおとぼけが出ていて笑えます(^^)
この前半後半の緩急のコントラストが私には心地よいです。





第41作

「夢か 現か バベルの塔か。」

坂口兵馬がウイーンのウィーン美術史美術館で見たあのピーテル・ブリューゲルの
バベルの塔は、
寅の空想的で見果てぬ夢、そして愚かにも美しく敗れてはまた生まれる
永遠に繰り返される恋を象徴しているかのようだ。
まさに寅の恋は「バベルの塔」かもしれない…。ほんの数秒映るだけのバベルの塔に
注目された眼力はさすがだ。

それにしてもあの、ピーテル・ブリューゲルの絵のなんという硬質な透明感!。
見れば見るほど美しい。あの透明感も寅の恋に実は繋がるのだとも思う。




         





第42作

「二つ、二輪よ ひた走れ、初恋の人 住む町へ。
恋をして 旅をしてみて 気が付いた、なぜ魅かれるのか 「伯父さん」に。」

これは満男だけでなく、こんな異郷の地を旅している私の心にもズンと染み通る言葉。
寅の魅力とは何かを味わえる、この簡単で優しい歌が私は大好きだ。




         



第43作

「三つ、満男は 飛び乗って、不安な泉に 寄り添った。
まるで家族の「休日」に 幸せ装う 母哀し」

あの新幹線に反射的に飛び乗ったシーンにポイントを当てられたKさんの
感覚に深く共感。あのシーンは青春のキラメキがまぶしいくらいだ。
いいなあ〜(^^)

「幸せ装う母哀し」これは実に哀しい言葉だ。
泉ちゃんのお父さんは、離婚をしたことや他の女の人を好きになったことが
悪いと言うよりも、そのことを偽って、何年も泉ちゃんのママと暮らしていた
ことに罪を感じる。そのことがなによりも悲しく死ぬほど辛かった礼子さんだった。
おちゃらけで寅は彼女と夫婦ごっこはしてもこの問題は荷が重過ぎた。隣の部屋で
泣き崩れている礼子さんをどうすることもできなかったのだ。



         




第44作
四つ、喜び 転がって 泉にとびつく 鳥取砂漠。
惚れてた女の「告白」に、寅の操も これまでか」

これは笑わせていただきました(^^)
まず『泉=オアシス、と砂漠』の掛け合いで笑わせて、駄目押しで、
。(^^;)
満男の覗き見のお陰でなんとか、確かに寅の
は今回も守られました…。
安心したような、男として情けないような…。

いやはや私も第38作のマコト青年じゃないけれど、はやく
「寅ちゃんの純潔を守る会」から「柴又の自然を守る会」に変えたい。
寅ってほんとうに…とほほ。





第45作

「五つ、いつまで雨やどり、寅さん似合う 髪結い亭主。
海きらめいて 日傘ゆれ 「青春」の歌 つかの間に。
湧く想い 口づけに込め 去る泉。」

この素敵な歌は第45作の魅力を言い切っていると思います。
完成度の高いバランスのいい歌。

「海きらめいて 日傘ゆれ 「青春」の歌 つかの間に。」
臨場感のある優れた視覚描写が心に残ります。




        





第48作

「八つ、やめろよ 結婚を 満男必死の フロントガラス。
不様でも ようやく言えた ’愛してる’ 心に咲いた「紅の花」。
寅さんは 日本のどこかで 旅してる、 さくらも リリーも待っている。」

寅が遂にどうしても言えなかった「愛してる」。
満男は寅と違う人生を歩みだし、愛する人と共に二人で生きていくことを選ぶ。
そして彼らを見届けて寅も、今度こそはリリーと一緒に暮らし始める。
でもやっぱり…寅はまた旅へ。

「寅さんは 日本のどこかで 旅してる、 さくらも リリーも待っている」
これはKさんを初め、私たち寅さんファン全員の祈りだ。

この遥かなる『覚え歌』の最後に相応しい優しい言葉だと思います。



リリーもさくらもたった一つの言葉をずっと用意し、いつまでも待っているのだ。



「おかえりなさい」




          





Kさんは最後にこう結ばれている。


 寅さんへ、さくらさんへ、山田さんへ、「男はつらいよ」全ての人へ
 ありがとう  生きる喜び頂いて  本当に ありがとう。




Kさんの「覚え歌」のバックナンバーはこちら↓

覚え歌
@「いとしい人は旅の夢、りんどうこぼれる寅の夢」第1作〜第10作まで


覚え歌A「往きは三人帰りは二人 四人ならばと温泉津駅」第11作〜第20作まで

覚え歌B「見下ろす江戸川去りし夢」第21作から第35作まで





明後日3月11日(木)の夜は
第4作「新.男はつらいよ 」のダイジェスト版をアップします。


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296

                          
『寅次郎な日々』バックナバー 






第3作「男はつらいよ. フーテンの寅」.ダイジェスト版
 


2007年3月6日寅次郎な日々 その296


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。

今日は鬼才森崎東監督の第3作「フーテンの寅」のダイジェストである。
この作品は、さすがに『本編』をまだ作っていなかったので4時間もかかってしまった。
ダイジェスト版は、いつもの本編の10分の一以下の長さとは言え、なかなか一筋縄ではいかない。
やはり、同じように要所要所はしめなくてはならないし、書かなくてはならないことは短くとも
書かなくてはならないからだ。しかし、短くまとめるという作業は、とても勉強にもなる。
結構面白い。これは最後の48作まで続く可能性が大きいぞ。

それでは今日は、第3作「男はつらいよ.フーテンの寅」ダイジェスト版をどうぞお楽しみください。



第3作「男はつらいよ.フーテンの寅」.ダイジェスト版


夜が冷たい心が寒い、渡り鳥かよ俺等の旅は、風のまにまに吹きさらし。


第3作「フーテンの寅」の監督は森崎東(もりさき あずま)監督だ。
山田監督が諸事情で脚本だけ書くが、監督は他の方にして欲しいと願い出たのだ。
第1作「男はつらいよ」の脚本とTV版「男はつらいよ」の脚本に携わった森崎東監督はこの映画を引き継ぐに相応しい人選だと思う。
森崎監督は、山田洋次監督・小林俊一監督と共に『男はつらいよ』をTVドラマから映画版まで育てて来た、もう1人の生みの親に
あたる人物だ。

ちなみに、森崎監督と言えば私などは『生きてるうちが花なのよ、死んだらそれまでよ党宣言』がとても印象深い。
世の中の泥にまみれてあがき、それでも力強く生き抜く庶民のバイタリティを描いた危ない傑作だった。

ちょうど、この第3作「フーテンの寅」も、山田監督の描くソフトタッチでしっとりとした情緒溢れる寅とは違い、ギラギラ眼光が鋭く泥の中で
もがいている寅を見事に描ききっている。第4作「新.男はつらいよ」の小林俊一監督もそうだが、山田監督とはまた違ったもう片方の
「男はつらいよ」が燦然とそこに輝いているのである。若干演出に荒さが見られるものの、全48作中、寅が最もパワフルで、
最も悲惨で、最も打たれ強かったのがこの第3作「フーテンの寅」である。『旅を日常としてしまった男、人間車寅次郎の日々』に迫った、
寅の旅の姿を追った作品でもある。私のベスト24にはギリギリで入れなかったが、この第3作と、次の第4作は両方とも、寅とその
まわりの人々が織りなす喜悲劇を、山田監督作品には無いリアルさで表現した『力作』であることは間違いない。


本編



@【落ち目な寅】


蒸気機関車が煙を吐き出しながら疾走する。

流れる木曾節


           


披露宴の木曽節流れる信州の旅館。

風邪をこじらせ、宿のこたつで寝込んでいる寅は、みなしごだった女中と話しているうちに、
とらやのみんな写した家族写真を見せ、故郷柴又を思い出す。
女中は勘違いしてさくらを奥さん、満男を寅の子供だと間違えてしまう。
寅は見栄を張ってそうだと肯定する。

やはり寅は自分だけの家族が欲しいのだ。

寅「いくら可愛くっても妹じゃしょうがねえや、はああ〜」と、我ながら呆れている。

くしゃみをして窓が外れる。

寅「落ち目だなあ〜…


             



メインタイトル  男はつらいよ フーテンの寅

「わたくし、生まれも育ちも
葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、
姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。」



♪俺がいたんじゃお嫁にゃ行けぬ、
 分かっちゃいるんだ妹よ、
 いつかおまえ
よろこぶような
 偉い兄貴になりたくて、

 奮闘努力の甲斐もなく、
 今日も涙の、
 今日も涙の陽が落ちる
 陽が落ちる。



♪どぶに落ちても根のある奴は
 いつかは蓮の花と咲く
 意地は張っても心の中

 泣いているんだ兄さんは
 目方で男が売れるなら
 こんな苦労も
 こんな苦労も掛けまいに 掛けまいに♪





第3作は懐かしい第1作の「俺がいたんじゃお嫁にゃ行けぬ」の歌詞が
使われている。原点に帰りたいってことだろう。

今回は「いつかおまえが」じゃなくて「いつかおまえ

「心の中じゃ」ではなく「心の中
」と歌っている。








A【寅の帰郷と理想の女房】


とらや 店

寅はとらやに入りにくくて、わざわざ「とらや」の店先から「とらや」へ電話をかける。

おいちゃん「旅先・旅先ってどこだよ?今も噂してたとこなんだよ。帰っておいでよ。
       みんなで心配してんだぜおめえのこと。おい、寅さんよ、もしもし、もしもし?


寅「もしもしじゃないよ、ほら、客だよ。どこに〜?、後突っ立ってるじゃねえかー

寅が電話で接客をあれこれ指示。
森川さんと渥美さんのやり取りが最高に笑える電話ギャグでした(^^)


             


なんと旅から帰ってきた寅に『縁談』の話が待っていた。

紹介主はタコ社長。

おばちゃん「ねえ、どんな人がいいんだい?

寅「別に注文なんかあるわけねえじゃねえかよ」と照れる。

博「だけどこう、好きなタイプってあるでしょう

寅「えー、どうせこっちはしがねえ旅がらすよ、贅沢は言えねえよ。
  まあ、ババアじゃなかったらいいってとこじゃねえか、ハハハ


おいちゃん「ほんとうに誰でも言いのかい?ババアでなきゃ

寅「まあ、しいて言えばさ、気立てが優しいってことぐれえかな…」と言っていたが次第に好みが露出していく。
寝坊の女はいけねえ」「朝起きて亭主にひゃっけい水で顔洗わせちゃあいけねえな
トイレで小便の時、丹前の袖が汚れないように」などなどおばちゃんをも巻き込んで、贅沢が次々に出てくる。

遂には、

寅「★男はいったん敷居をまたいで表に出りゃ七人の敵がいるって言うぐれえのもんだからな、汗水たらして苦労して
   稼いで帰ってくるんだからさ、女房としちゃ、やっぱり
スーッと化粧して三つ指の一つも付いて、お帰りなさいませ、
   お疲れ様でしたでしょう
、ぐれぇの言葉はちょっと言ってもれえたいよね。

  ★
おばちゃんみてえにザンバラ髪でよ、あら帰ってたのかい、風呂沸かしておくれよ、なんてのは駄目だよ。
  亭主が帰ってくる、
風呂が先か酒が先か、スッと面見て判るようじゃなきゃ駄目だよ。

  ★あ、それからもう一つ、おばちゃん酒ね、こりゃ難しいよ。酒は人肌、熱くもなく温くもなしってね。ウーン、
   こりゃね、燗の漬けすぎでさ、こうやって注ぐだろう、ここんとこまで持ってくる、目へツーンとアンモニアみてえに
   なっちゃうくれえ燗するようじゃ、こりゃ女房としちゃ落第なんだよ。
亭主が最後の一滴を盃に受けてチョット
   やる。これをちゃぶ台に置くか置かねえかにスッと入れ違いに人肌のやつがもう一本出てくる。


  
ここら辺の呼吸を上手く飲み込んでもらわないと気分良く酔えねえよな。へへ、唄の一つも口を出る時にはさ、
   昼間の疲れでトローッと眠くなるんだい。
ああ、横になりてえな〜と思う時にゃさ、スッと枕が出てるんだよ、うん。

   ぼくはぁ、別に注文つうのは…。

  ★あ、そうだ。もうひとつあるよ…。女にはねー、たしなみが必要なんだよな。まあ、他に
   注文って言うのはもうないな、あ〜あ〜
と、アクビ。


            


みんな呆れて「…」 心の中でだめだこりゃ ┐(-。ー;)┌


B【寅の見合い】


翌日 川千家

なんと、緊張する寅の前に現れた見合い相手は寅次郎の仙台の知り合いのお駒さんだったのである。

駒子「あら
寅「おー!確かあんた仙台の狸小路の焼き鳥屋のお駒さんじゃねえか
駒子「寅さん!


           


駒子から色々と事情を聞くと、亭主の勤め先のラーメン屋で新しい女ができて
家を出てしまい、その腹いせに、自分も見合いをしようと思ったらしい。
おまけに駒子のお腹の中には「子供」までいるらしい。


それを聞いた寅次郎は、駒子を放ってはおけず、その日の内に千住に亭主を連れ戻しに行き、
とらやに連れてきて説教をし、話をつけ、二人の縁りを戻してやったのである。


ある意味、凄まじい行動力だ(^^;)

駒子「あんた、ごめんよね
亭主「俺が悪かったよ
      


しかしそこまでは良かったのだが、その夜仲直りした二人の為にとらやで盛大に料理を取ってお祝いをしてやり、
芸者まで呼んで、大盤振る舞い。最後はなんとハイヤーまで呼んで二人を熱海まで送ってやった。


        


伝票は全てとらや持ち。
あちょ〜いったいいくら使ったんだ??(^^;)



C【博のパワーとおいちゃんの涙】



おいちゃんおばちゃんは「なぜ他人にそこまでしてやらなきゃいけないのか」と、
寅に食って掛かるものの、寅は知らん顔。凄まじい寅の独善とわがままが炸裂するシーンだ。

こうなったら、おいちゃんは体を張るしかない。そして
博も遂に頭にきて我慢できなくなり、寅と本気の喧嘩になった。寅も受けて立ったが…。

寅「やってやろうじゃねえか!こい!
博「殴るぞ!

寅は喧嘩に強い博にストレートパンチを思いっきり受ける。そして間髪おかずに一本背負い
1回転!最後は地面にねじ伏せて腕をひねってグウの音も出なくしてしまう。


           


おいちゃん、自分の心が伝わらない寅が情けなくて、おいおい泣いてしまう。

おいちゃん「みんなで、心配して…、こんど帰って来た時は…、今度はなんとかしてえ…、嫁さん見つけてと、
       ううう…本気でそう思ってたのに…、よくも、心が…冷てえ人間だなんて言ってくれたな…ううう、
       俺によくもそんなこと言ってくれたな、うううう



          


おばちゃんも泣いてしまう。

寅、地べたに座って下を向き考え込んでいる。

博が抱き起こそうとするのを振り切り、座り続ける。

そして、みんなが家に入った後、そっと後を振り向き

寅「バカヤロが…、このやろ…」と目に涙を貯めるのだった。


このシーンは博の意外な強さと気迫が表に出たシリーズでも貴重な場面だ。
このあらくれる寅と博こそがこの作品の特徴。このシ―ンは暴力シーンでは決してなく、
人間のバイタリティと人々の深い情をむしろ感じさせる実に清々しい演出だったと思う。


        




D【反省し、旅立つ寅】



気まずくなった寅は次の朝旅に出てしまう。

江戸川土手 朝もや

このシーンでようやくさくらがちょこっと出てくる。倍賞さんの出番が少ないのは
倍賞さん側のスケジュールの関係もあったのかもしれないが、それ以上に
森崎監督が、『旅先のリアルな寅』というテーマにこだわったことがあげられる。


寅をかばうさくら。

さくら「どうしても行っちゃうの?
寅「うん
さくら「止めたって無駄ね
寅「ああ

博も昨晩のことを謝る。

寅は、分かってるよと言って去って行った。


          


江戸川土手での寅はトレンチコートに白いマフラー。なかなかおしゃれである。
こういう寅もいいではないか。
トレントコートは第18作の夢「アラビアのトランス」でも登場。


ところで、私はこの時の寅を見送るさくらと博の姿が好きだ。
全48作中、私が最もさくらと博にリアリティを感じたのがこのシーンだ。
私はこのシーンの二人の立ち姿が、そのあり方が好きなのだ。

        

     


E【おいちゃんおばちゃんが温泉旅行に出発】

一ヶ月後、おいちゃんとおばちゃんがこのシリーズ最初で最後の
夫婦水入らずの旅行に出かける。
先日の寅による散財にもかかわらず、旅行しようってんだから、
とらやは景気がいいのかも(^^;)


おいちゃん予言めいたことを言う

おいちゃん「これが旅先で寅さんにばったりあたってなあたり(^^)
おばちゃん「悪い冗談だよ
一同ハハハ


         



F【お志津さんにぞっこんの寅に出会う】


三重県 湯の山温泉 『もみじ荘』 梅の間

女将さんが直接挨拶。すげ〜美人。新珠三千代さん


         


なんと寅はこの「もみじ荘」で番頭をやっていたのである。
これまたいつもどおり天文学的確立で鉢合わせ(^^;)


         


寅「ホイ来た梅の間そーかそーか。草加越谷千住の先だと!
とやって来た寅はおいちゃんたちと再会。

寅は、番頭になった理由として、おいちゃんたちに人手がいないから「人助け」だって
格好のいいこと言ってはいたが実は…、



寅に余興の内線が入る。

寅「女将さん、ハイ了解!ただ今直行!どうぞ!

寅、目がハートになって転げて、ぶつかってあわてて駆けて行く。


その後、女中さんのお澄さんの話によると、

第1作でも出た、例の電子の力の『健康バンド』を売りに来たのだが
一文無しの時に腹を壊して便所を借りたのがきっかけでもみじ荘に泊めてもらい、
いつのまにか「捨て猫」みたいに番頭として居ついてしまったらしい。居つく理由は単純である。
寅次郎は「もみじ荘」の独身の女将・お志津(新珠三千代)に狂わんばかりに惚れているからである。
町中の評判らしい。この噂を知らないのは寅ばかりということ。


女中さん「余興の最中に夢中で女将さんの名前を叫んでしまうくらいなんですよ。お志津〜!って

おいちゃんおばちゃん「オシズ〜!?


雪の間


花笠道中三番
♪亭主〜、持つなら堅気をお持ち、とかくヤクザは苦労の種よ〜、
恋も人情も旅の空〜…


染奴「それじゃどうしても行くのかえ?
寅「そこが渡世人のつれえとこよぉ〜
染め奴「銀平さん!
寅、見栄を切って、
寅「お志津〜!!

客たち、大爆笑!
客一同に「言った言った!!」

みんなに酒の肴にされているのだが、寅だけ自覚症状無し(TT)
この無残なまでの寅の滑稽の上にたった力強い笑いがこの作品の核だ。


         


おいちゃんとおばちゃんは、寅の失恋を見たくないので
「俺知らねえよおりゃ〜」と逃げるように柴又へそそくさ帰ってしまった。




G【信夫との決闘】



見送りに来ていた寅は、乱暴な運転をしていたバイクに驚いて転んでしまう。

気を取り直してラーメン屋に入ると宴会で寅の横で踊っていたあの馴染みの芸者染奴(染子)と
さっきのバイクに乗っていた信夫が口論をしていた。寅はさっそく止めに入り、信夫を追い出そうとするが、
ノイローゼ気味の信夫は寅の顔に水をかけ、喧嘩に発展してしまう。


         


喧嘩の前に、寅は粋な口上で格好をつける。


寅「そっちから勝手に仕掛けた喧嘩だ。仕来り通りにいきゃゴロ面子は省かして
 貰うところだが、あんさんとは縁もゆかりもねえ初対面、新面子だけは通させて貰うぜ!
 お控えなすって、差し支えました仁義失礼さんにござんすが、
 手前生国と発しまするは関東にござんす、関東関東と申しましてもあんさん関東
 いささか広うござんす、西に富士、東に筑波、


その時信夫の出した刃物でタジタジになってしまった。

寅「注意一秒怪我一生、危ないことはやめましょう…ねおいおい交通標語だよ…ゞ( ̄∇ ̄;)

そこへ止めに入って来たのは信夫の姉である志津さんであった。

それを知らない寅は、志津さんが危ないと思い、助けようとして、誤って川へ落ちてしまう。



H【イロノーゼの講釈をする寅】


脳しんとうを起こし、なんと志津さんの部屋に運び込まれた寅は、夢ごこち。


         


志津さんは、弟の信夫を心配している。
志津「信夫の日記に『自殺とは、人間だけが取り得る最も英雄的な行為である』。なんて書いてあるんです」

寅は、「ノイローゼ」のことを「イロノーゼ」と間違う。

寅「
はあ〜、それは完全なイロノーゼですよ。ええ。尻っぺたの青いインテリが、
とかくかかりがちなイロノーゼですね。
つまり色気って言うのは頭に登ってくるんで、
それでイロノーゼです。
これはすぐ治るんじゃないですか。
凄い理屈(^^;)

志津「治るかでしょうか…寅に聞くなって ゞ( ̄∇ ̄;)


       


ンテリというのは自分で考えすぎますからね、そのうち俺は何を考えていただろうって、
 分かんなくなってくるんです。つまり、このテレビの裏っ方でいいますと、配線がガチャガチャに
 こみ入っているわけなんですよね、ええ、その点私なんかが線が一本だけですから、
 まァ、いってみりゃ空っポといいましょうか、叩けば
コォーーンと澄んだ音がしますよ、
 なぐってみましょうか


1992年の東京大学の国語の入学試験にここの部分が出たらしい。



I【寅が信夫に『こたつの恋』を伝授】


寅は信夫を呼んで究極の口説きテクニック、隠し剣こたつの恋』を伝授。(^^;)

寅次郎は信夫に、こたつに入りながらこう講釈する。

寅「いいか良く聞けよ。若い男がだ、たった一人の女のことでもって、もたもたしているなんてのは
 衛生上良くねえよ。こういう恋愛ってのはね、ベテランに任せておけよ、悪いようにはしねえからさ。
 相手はシャーゲだよ。芸者は芸者らしく座敷で口説いたらいいんだ。

 良く見てな、俺がこれからどんないい女でもイチコロで口説く方法を教えてやるからな。
 俺が口説くって言うのは口で口説くんじゃねえぜ。じゃあ何で口説くんでしょ。
 「
お手手」で口説くのよ。お手手をこたつの中に入れてるわけだ、ね。お互い
 の手と手がスッスッと当たるわけだ。その内相手も、気の付かないフリをしてすっ
 と手を引っ込めようとする、それをしっかりその手を握るんだ。言っとくけどな、
 決して目を見ちゃいけねえよ。


ちなみに博には第1作で「目でくどく」方法を伝授してたね。(^^;)


         


もちろん結果は、お粗末(^^;)

信夫は寅の手を握り、寅も志津さんと勘違いし、握り返し、勝手に二人でやっていた。
あ〜あ、どうしょうもないね、こりゃ┐('〜`;)┌




J【信夫の決断と寅のはからい】



父親がアル中の病気で、言葉も体も不自由になり、その挙句、借金が返せなくて
妾に奪い取られる染子。
彼女を奪い返すために信夫はバイクで旅館を立ち去ろうとする。

寅は信夫が何を考えているのかうすうす知っていたので、彼のバイクの後に乗って
四日市コンビナートの見える漁村にある染子の家に行き、染子と信夫の二人の仲を
取り持って東京に駈け落ちさせる事になる。


父親に関しては、信夫たちが引き取りに来るまで寅の顔で、浅草の観音様の裏手の奇特な
医者の所に行かせることに。

このへんのさばきは寅は名人芸だ。


           


感激した父親は自分の身分を明かす紙を見せ、心の中で仁義を切る

花沢徳衛さんの渾身の演技が光るこの作品の名場面。


本人の代わりに読んでやる寅

勢州朝日家十二代目新居六兵衛、実子分田代熊吉 舎弟 坂口清太郎

(勢洲とは三重県伊勢地方のこと)

そして寅もあらためて仁義を切るのだった。

遅ればせの仁義、失礼さんでござんす。わたくし、生まれも育ちも関東、葛飾柴又です。
渡世上、故あって、親、一家持ちません。駆け出しの身をもちまして、姓名の儀、一々声高
に発します仁義、失礼さんです。姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します。

西に行きましても東に行きましてもとかく土地土地のおあ兄さん、おあ姐さんに、ご厄介かけがちなる
若造です。以後、面体お見知り置かれまして恐惶万端引き立ってお頼み申します



            


信夫は、後に染子を乗せ、僧兵祭り」の大イベントのこの夜に姉の志津に染子と一緒に東京に行き、
働くことを告げる。

志津「信夫さん、荷物やなんかは?
信夫「荷物は後ろに乗ってらあ。こいつを担いで俺は一生歩くんだ!!なあ!
染子、深く頷き
染子「うん!

【僧兵祭り】
湯の山温泉にある山岳寺は、永禄年間には僧兵が強い勢力を誇っていた。
そのゆかりにちなんで行われる、湯の山温泉の秋の最大イベント。僧兵姿の若衆が、
燃え盛る『火炎みこし』を繰り出し、火花を散らす、豪快な祭り。


          


結局この信夫の決意が、自分の悩みをも吹っ切れさせることとなり、志津さんは長年やってきた旅館を
手放す決心がつき、自らも以前からプロポーズされていた大学教授の吉井の元へ嫁ぐこととなった。




K【強烈な寅の失恋】


何も知らない寅次郎は風邪を引いて寝込み、志津さんはどうしても旅館をたたむことを切り出せない。
おまけに番頭の徳爺志津さんと間違えて手を取りながら寝言で『お志津さん・・・』などと言ってしまう始末。


         

しかし旅館の女中のお澄さんが志津さんの本心を寅次郎に話すと、
寅次郎は歯磨き粉を飲み込んでしまうほど大変なショックを受けてしまった。


寅「そのバカっていうのは…

徳爺「そうよ、バカはおまえよ〜徳爺、それってそのまんまだよ〜(TT)


            


お世わになりました。みなさんさようなら とら』と寅は置手紙。

寅はまたトレンチコートに身を包み、別れの言葉を障子越しに告げる。
しかし肝心の志津さんは留守中。志津の部屋には片付け中の従業員たちしかいない。
寅はそうとは知らず、別れの言葉をしゃべりだすのだ。


            


寅「なにもおっしゃらずに、寅の別れの一言を聞いてやっておくんなさい。
 いえ、なにもおっしゃらずに…。ありがとうござんす。いろいろと考えてきましたが、
 いざ、ここへ来てみるってえと、もう胸が一杯で何も言えません。このひと月、寅は…、
 寅は幸せもんでございました。ただ、その一言を言いたくて、一目を忍んでやって来たので
 ございます。お志津さん、お達者で。


女中さんたち、終わってほっとしていると、すぐさままた寅が戻ってきてしまう。

みんな頭を伏せて隠れる。

障子越しの寅の影

寅「もし、…、十年、二十年経って、雪の降る寒い夜、寝つかれぬままに昔のことをお想いになる
 ことがございましたら、『ああ…、その昔。湯の山に、寅というバカな男がいたっけなあ…、とでも
 お想いになってくだい。…


寅、一層障子に近づいて、手をサンに触れ、感無量の表情で、

寅「ごめんなすって


           


こんな哀れで、ある意味滑稽な寅はこの作品だけ。強烈な失恋である。
そして最後にもうひとつ大きなパンチが待っている。



悠々と歩く寅とすれ違いざまに志津さんの車が止まる。
志津さんは旅立つ寅の姿に気づく。
しかし!なんと、声もかけないのである。
迷いながらも最後の言葉すら投げかけれない志津さんの残酷さ。

それとは対照的に寅は、明日をまた夢見て旅立っていくのである。



            


散々もみじ荘に奉仕し、余興にも参加し、弟の面倒も見、染子の父親の面倒も見、
子供の道子の子守もした挙句、無残にふられ旅立った寅は見事に惨めである。
このシリーズ最高の悲劇。まさにスッテンコロリンコロリンよだ。

しかし…、心が貧しいのはどちらであろうか。

無残にふられ旅立った寅か?
寅の気持ちに気づきながら、人手不足により、寅を利用するような行為を続け、
最後に優しい言葉さえかけれなかった志津さんか?

社会的には志津さんはもちろん全く悪くない。寅の勝手な岡惚れであり、一人相撲である。
しかし、それとは別にあのシーンで言葉をかけれないのは、人間として美しい生き様とは思えない。
ああいうギリギリのところで優しさが出せない人は、この後の人生でも人の絆の上に立った本当の
幸せは掴めないような気がする。

寅はいわゆる今でいう『ストーカー』ではない。無欲で献身的でそしてさっぱりした男である。
引き際も心得ている。だからこそ志津さんの心よりの短いねぎらいの言葉が欲しかった。

しかし、一つ救いがあるとすれば、志津さんがその後、車の中で、寅にしてしまった
自分の仕打ちを自覚し悩むカットが映し出されることである。彼女もやはり当然良心の
呵責があるのだろう。当たり前である。それが人間というものだ。



          


そんな志津さんの葛藤とは全く関係なく、
悠々と歌を歌い去っていく寅。わが道をゆく寅次郎なのだ。カッコいい!

森崎監督は、一見、寅を突き落とし、突き放し、酷く扱っているように見えるが、
寅はお花畑に咲く花ではないのである。真っ暗な泥の中からしぶとく咲く蓮の花なのだ。
私には森崎監督がいかにこの人間寅次郎をいとおしく思い、寄り添っていたかが分かる。

どんなにバカだ、惨めだ、滑稽だと言われようとも、寅の心には一点の曇りも無い。
安易なメルヘンを嫌う森崎リアリズムの真髄がこの失恋に滲み出ていて爽快でさえある。



『旅笠道中』の3番を歌う寅

寅「♪亭主〜、持つなら堅気をお持ちィ〜ってね、とかくヤクザは苦労の種よ〜とくりゃあ、
  恋も人情お〜も、旅の空〜…



            


寅の後を志津さんを乗せたベンツが過ぎ去っていく。


ちなみに旅笠道中の一番はこの作品の寅の人生そのものである。

『夜が冷たい心が寒い、渡り鳥かよ俺等の旅は、風のまにまに吹きさらし』



旅笠道中

藤田まさと 作曲 大村能章 昭和10年.


夜が冷たい 心が寒い
渡り鳥かよ 俺等の旅は
風のまにまに 吹きさらし


風が変れば 俺等も変る
仁義双六 丁半かけて
渡るやくざの たよりなさ


亭主もつなら 堅気をおもち
とかくやくざは 苦労の種よ
恋も人情も 旅の空



L【見栄を張る寅と、おいちゃんの涙】


大晦日 夜

とらや 茶の間

駒子たち夫婦が手伝いに来ている。

みんなで年越しそばを食べている一同。

テレビで鹿児島の霧島神宮が映り、なんと寅がインタビューに出ている。

       



            


アナウンサーに奥さんや子供のことを聞かれ、家族がいると嘘をついてしまう。

アナウンサー「お子さんは?」

寅「子供・…?子供は2人、…3人になるか、な。オレに似て可愛いよ、うん


おいちゃん泣きながら

おいちゃん「…、なにが子供だい…、そんなものどこにいるんだい…ううう…バカだよ、
     あいつはほんとにバカだよ…



            


おばちゃんもさくらも涙で潤んでいる。

アナウンサーに奥さんや子供に挨拶を、と言われ、

寅「お志津よ、元気でやってるかい?新年おめでとうと見栄をはる寅(TT)

駄目押しで

寅「道子!おまえ、ションベンしてはやく寝ろよ!必ずお土産買ってかえるから…


            


あまり寅がしつこくしゃべるのでインタビューが切られてしまう。

吉井と志津さんの家庭も、この番組をかけていたが、
なにやらさわがしいのでスイッチを切ってしまう。


最後の最後さえ、大晦日にテレビカメラに向かって「お志津」と呼びかける寅の姿。
いやもう、ここまで泥臭くバイタリティ溢れる懲りない鉄人寅を描かれると拍手をしたくなる。



M【新たなる旅立ち】



正月の海

新年の初荷を積んだ鹿児島発種子島行きの小さな船。
みんな故郷に帰る人々でいっぱいである。
その中に行商の寅もいる。



         


寅「今度鹿児島に帰ってくるのは三月頭かな、桜の花もぼちぼち咲こうかって頃よ。それから、熊本、
小倉、尾道。ずっと下がって四月は関東、五月は東北、六月は北海道。俺達
の旅は桜の花と一緒よ。花見の旅だい。まあ、俺ッチのような粋な売人になるには
タクがマブくなくっちゃ駄目だ。うん、よーし、ひとつさわりだけやってやろうか


四角四面は豆腐屋の娘、色が白いが水臭い。四谷赤坂麹町、ちゃらちゃら流
れるお茶の水、粋な姉ちゃん立ちションベンってなどうだ。

たいしたもんだよ蛙のションベン、見上げたもんだよ屋根屋のフンドシ。結構毛だらけ猫灰だらけ、
お前のケツはクソだらけ。ハハハ!!



        



寅にあわせてみんなバイの口上を復唱していく


          


第3作「フーテンの寅」の寅は、失恋ごときではへこまないのである。
踏まれても踏まれても伸びる麦のように不死身なのだ。ある意味凄くカッコイイ!
私はこの作品の持っているある種のパワーにいつも圧倒されている。







公開日 1970年1月15日
上映時間 89分
動員数 52万6000人
配収 1億2000万円


第3作「男はつらいよ.フーテンの寅」ダイジェスト版(2007年3月6日制作)



 

明後日3月8日(木)の夜は
第4作「新.男はつらいよ 」のダイジェスト版をアップしてみましょう。
この作品も、第3作同様『本編』をまだアップしていないのにダイジェスト版から作ることに
なってしまったが、私にはそれはそれで刺激的で面白い作業だ。


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295


                          
『寅次郎な日々』バックナバー






第2作「続男はつらいよ」.ダイジェスト版
 


2007年3月3日寅次郎な日々 その295


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。

ダイジェスト版とは言え、第1作、第2作ともアップの作業は結構時間がかかり、
1日1時間半くらいの作業で2日間かかった。合計各作品3時間はかかったことになる。
いつもの寅次郎な日々は1回のアップに1時間くらいで終わっていたので、
それと比べると倍以上の時間がかかっている。しかし、このことによってこの映画シリーズを
新たに好きになる人が僅かでも増えるとしたら私にとっては冥利であり、お安い御用である。

それでは、今日は、これは、第2作「続.男はつらいよ」ダイジェスト版をどうぞお楽しみください。



第2作「続.男はつらいよ」.ダイジェスト版


 第1作の成功に気を良くした松竹はすぐさま第2作を作ることを決断するが、急がせたために全く新しい
 脚本を書くに至らず、ストーリーや登場人物等は『テレビ版の影響』が色濃い。散歩先生のこと、
 寅の入院、菊との悲しい再会、うなぎ釣り、散歩先生の死、などなどテレビ版の脚本無しには
 はじまらないのである。しかしそれでもなお、この第2作はスタッフ、キャストのの情熱、安定した構成力、
 密度の濃さ等、長いこのシリーズの中でも最高峰の一つであることは間違いない。
 特に散歩先生のキャラクターはとても魅力があり、寅との深い絆を感じさせてくれる。東野英治郎さんの好演も
 ありこの作品は散歩先生の存在により格調の高い物になっている。しかし題名の「続.男はつらいよ」でもわかるように
 スタッフがこの時点でもなおシリーズ化を完全に決めているわけではないのがわかる。シリーズ化をどこかで頭に
 しっかり置きながらも、もう1本、もう1本、という感じでこのあともしばらくは作っていく。


 本編


 今回は夢から

@【瞼の母の面影を見る寅】

第1作との違いは夢のシーンがこの作品から登場してくることだ。
 
このあとも夢のシーンが無い作品もちらほらあるが、基本形としては冒頭には「夢」のシーンが定着していく。

 この夢は本題への伏線になっている。
 
寅「もしやあなたはお菊さんと申しませんか?」「この顔に見覚えがございませんか
 「今を去る38年前雪の降る寒い夜、玉のような男の子をお産みなすったはずだ。
 この時点で38歳の寅次郎。
 「おっかさんの倅、寅次郎でござんすおっかさーん…、おっかさ〜〜〜ん
 ここで夢から覚める。
寅「また夢かァ… よく見るんだねこの夢(TT)

 メインタイトル 続 男はつらいよ

 「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
 帝釈天で産湯をつかい、
 姓は車、名は寅次郎、
 人呼んでフーテンの寅と発します。」


 さくらが結婚してしまったので 「俺がいたんじゃ、お嫁にゃいけぬ…
とは歌えない。それで2番の歌を採用

 どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
 意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
 目方で男が売れるなら こんな苦労も
 こんな苦労も掛けまいに 掛けまいに♪



A【寅の帰郷】

とらや  店

さくらが満男のオムツの世話をしている。

おいちゃん「よ、えー、フフ…。しかしこの子はなんだね、ますます寅さんに似てきたね。

長い旅の後、寅が久しぶりにとらやに戻ってくる。

茶の間で赤ん坊の泣き声。寅、はっと気づく。

寅「さくら!…、なんだいそりゃー。へーぇ…子供が生まれてたのかー
  


      

第1作ラストの手紙で「風の便りに妹さくら出産の知らせを聞き…」と手紙で書いているので
 本当は知っているはず。この寅の行動は第1作をきちんと見た人にとっては困惑する発言。

さくら「バカね、お兄ちゃんは…なにしてたのよ。こんなに心配しているにのに・・・知らないで   
 さくら泣いてしまう(この時のさくらの顔が美しい)

おいちゃん 「寅さんよ、おめえに似てるって評判なんだよ・・・
寅「そうか…おめぇオレに似てるのか?え?
遥か後に、容姿だけでなく、満男は恋にのたうちまわるところまで寅に似てくるのだ。

なんともいえないやさしい顔で満男を見る寅

それでも、寅はちょっと立ち寄っただけだと言って、すぐ出て行こうとする。

止めるおいちゃん。
おいちゃん「とにかくな、奥で茶一杯!それぐらいならいいだろ!

それがいけねえんだよ。一杯が二杯になり三杯になる。団子が出るか、また茶を飲むか、
そのうち酒になるじゃねえか。オレは一杯や二杯じゃすまねえぜ、気がついた頃にゃ、お銚子がずらっと並ぶ。
さあ、もう腰がたたねえねえ。いっそのこと、泊まっていくか、
カラスカーァと鳴いて朝になる。おはよう!
またお茶をください!二杯になる三杯になる。団子が出るか、酒を頼むよ、どうする?
オレは旅に出れなくなっちまうじゃねえか

             
 二杯になる三杯になる。
      


おいちゃん「何もそこまで考えなくていいじゃねえかよほんとほんと(^^;)

しかし、今回は本当に出て行ってしまう寅。


題経寺の前  さくら「お兄ちゃん!」と追いかけてくる。

さあ、飴玉の一つも買ってもらいなな、なんと5千円!を上げるが、
痛かったなあ…今のは後で5千円を渡したことに後悔する

寅って、第8作「寅次郎恋歌」では500円と5000円間違えて大空小百合ちゃんに渡していたね。
さくらに渡したこの5000円は、第5作でさくらから寅へ北海道に行くための旅費として戻されることになる。



B【散歩先生や夏子さんとの再会】

 このあたりからのストーリーの内容と展開が一部テレビ版を踏襲している。

寅、近所をぶらつきながら「
チンガラホケキョーの歌」を口ずさむ
 「
♪一、二、の三、鎌倉の〜、ホラ、チンガラホケキョ―

 そんな寅次郎の耳に子供達の英語の歌声が聞こえてきた。
 歌声のする家を覗いてみると、葛飾商業時代の懐かしい恩師、
 坪内散歩先生(東野英次郎)がいるではないか。

 寅が看板見ると「坪内英語塾表札に「坪内散歩」

寅「先生!坪内先生!おひさしぶりでござんす。
  アッシのこのツラに見覚えありませんか?お忘れですか…無理もねえ、20年も昔のことで
  ございますからねえ…葛飾商業でもって、先生に英語習ってた、車寅次郎ですよ。

  勉強一つもしないで先生にぶん殴られちゃ悔しいってんで、先生とこのハナッタレ娘
  いじめてた、不良の寅ですよ!ねえ!忘れちゃったかなあ…

散歩先生いいや、忘れとらん、覚えとるよ     
覚えてる!
散歩先生さ、上がれ

夏子がチェロを抱えて玄関の前に立って不思議そうに見ている。


      


散歩先生「夏子誰だかわかるか?テレビ版では彼女は「冬子さん」

夏子もし、人違いだったらごめんなさいね。寅次郎さんじゃなぁい?

ハイ←小さな声で

テレビ版「男はつらいよ」のマドンナは、ずっとこの佐藤オリエさん。
渥美さんとのコンビは年季が入っている。


      

お酒を飲みながら大いに盛り上がる二人。 夏子さんも嬉しそう。

散歩先生 あーあー、人生相見ズ、ヤヤモスレバ参(シン)ト商ノ如シ。
       今夕(コンセキ)マタ何ノ夕べコノ灯燭ノ光ヲ共ニス。
寅、分かるかこの意味が!

散歩先生「人間というのは再会するのは、はなはだ難しいということだ。
      
私は、この二人の師弟関係が心から羨ましい。


散歩先生「アーアー明日山岳ヲ隔ツ、世事両(セジフタツ)ナガラ茫々。だな!

散歩先生最高!!

これは中国の詩人杜甫(712〜770)が四十八歳のときに作った友情を表現した詩「贈衞八處士」である



C【寅の胃痙攣騒動】

 この直後なんと寅が人生初の胃痙攣

 理由は急に美味しい物を食べ過ぎたからだそうだ。
 クラッシックな救急車に乗る!
金町中央病院

寅はこのシリーズで救急車に3回乗っている。
第22作「噂の寅次郎」、第45作「寅次郎の青春」でもお世話になっている。(^^;)
また、盲腸で入院、手術の経験もあり(子守歌参照)ちなみに第22作の時は仮病。


電話で入院を聞いたおいちゃんいつものセリフ布団かぶりながら知らねえよ、オレゃもう

翌日 金町中央病院 寅の病室

翌日になってもさくらもおばちゃんも介護に来てない!どうしてだァ???

寅、病院のベッドの上で啖呵バイの実演をし、みんなに大うけ。

         


財津一郎さんの付き添いの女姓役で
谷よしのさんがでている。
実はこのあとラスト近くの散歩先生の葬式の時も谷よしのさんは知り合い役、まり別人役で再度出ていた。
看護婦さんや藤村医師にきつく注意される。

おっ?てめえ、
さしづめインテリだな!?
あっ、そうか、
そのインテリが暴力を振るったわけだ。


しかし夏子さんが見舞いに来たらすぐに猫をかぶる寅でした(^^;)


D【無銭飲食で逮捕騒動】


寅、入院を我慢できず病院から抜け出す。


と会って飲み屋『京城園』で無銭飲食暴力のトラブル

ようやく警察沙汰になってからさくら警察署に来ている。どうして一度も病院に来なかったんだろう?

警察署ではなんと寅が手錠かけられている。初期ならではの生々しい寅。

さくらはなんと下着と団子持ってきた。団子っていうのが変だね??

ショボくれる寅
さくら、泣き崩れる。


      



E【旅立つ寅 散歩先生との別れ】

翌朝、緩やかに流れる江戸川 土手

散歩先生と寅


寅「穴があったら入りてような気持ちでござんす…。
  すぐいい気になって羽目を外してしまう。どうしてこうバカなのかねえ先生…

散歩先生「うん
寅「もう、みっともなくて、この町にはいられねえから、また、旅に出ますよ…
   そのうちきっと…ご恩返しさせていただきやす。
散歩先生「うん
散歩先生「寅!
散歩先生人生相見ズヤヤモスレバ参(シン)と商ノ如シだなあ…
おっしゃるとおりです。そこが渡世人のつらいところでござんす。

会話が噛みあってないんだが、なぜか不思議に自然な感じ。

散歩先生、頷く。

散歩先生の寅へ呼びかける「寅!」という声は、
寅に対する愛情に溢れていた。いい師弟関係だね〜。


         


立ち去っていく寅、見送る散歩先生。

しかし、このあとふたりは京都で偶然再会するのだが…



F【京都での再会】

1ヵ月後

京都  京都を旅行中の散歩先生と夏子
寅は渡月橋で啖呵バイ
なんと源ちゃん、京都までついて来ている。
寅「天に軌道のあるごとく、人それぞれに運命と言うものを
  
生まれ合わせております、…
源ちゃん『サクラ』で活躍。
     


さてみなさん、こうやってここで話をしております。チョンガーの身の上のこの私も
何時如何なる時
絶世の美人とばったり出逢うということも・・

寅「お嬢さん!あっあっ。

なんと夏子と偶然会ったのだ。

この偶然は天文学的確立。第1作でも、寅は御前様たちと奈良で偶然会っている。
このように48作までずっと毎作品信じられない偶然が続いていく(^^;)


こりゃ驚き桃の木山椒の木だ!どうしてこんなとこに??

夏子「寅ちゃんの運勢判断でも分からないの?フフ…
夏子さん上手い上手い!座布団1枚(^^)


旅館「巴家」
旅館で散歩先生に説教される。

散歩先生なんで正業につかんのだ。額に汗して労働することの尊さが分からんのか!?
テキヤもそれなにり、正業だと思うんだが…

寅「よく分かっております

散歩先生おまえは人並み以上の体と、人並みに近い頭を持っとるんだ!
散歩先生、微妙ぉ〜なことを言う。実に含蓄のある言葉だ…。

散歩先生「なぜ京都にいる?

寅「理由にはならないんだけどおふくろがいるんでね…
テキヤ仲間が知らせてくれたらしい。

寅「別に会ったってねえ、どうってことないんだしさ〜、うん…
夏子「生きてたの!お母さんが!?
寅「でも、俺のこと捨てたおふくろだからね…、むこうで会いたがってるかどうか…
夏子「何言ってんのよ!寅ちゃん、大変じゃないの!すぐ会ってらっしゃい!ね!会いたいでしょ!?
寅「それに、あっしはお見かけどおりのヤクザな男だし、もしおふくろが
 立派な暮らしをしていたらきっとおふくろは迷惑なんじゃねえかな…


散歩先生ネバ!ネバッ!!NEVER! NEVER!!英語でた!


     


散歩先生「寅、これは大事なことだからよーく聞け。

老病死別といってな、人間には四つの悲しみがある。
その中で最も悲しいのは死だ。おまえのおふくろもいつかは死ぬ。
その時になってからじゃ遅いんだぞ!その時になって
『あ〜、一度でもいい、産みのお袋の顔を見ておけばよかった、と
後悔しても、取り返しがつかないんだぞ!そうだろ!寅!


寅「
散歩先生「さ、会いに行け。生きてるうちに。今すぐだぞ
      何をぐずぐずしておる。夏子、おまえ一緒についてってやれ
夏子「うするわ、寅ちゃん行きましょう
寅「ええ、ありがとうございます

ところで散歩先生が本来の仏教の教え「生老病死」の「生」を削り、その代わり
愛別離苦(あいべつりく)を加えて「老病死別」と、言ったのは「生まれること」を悲しみと
言いたくない優しさ
のあらわれとも考えられる。
寅の生い立ちや散歩先生の生い立ちを考えると、とても複雑な気持ちになる。



G【産みの親 菊との葛藤】

●ここでは再会の喜びでなく悲しい修羅場が待っていたのだ。

菊のいる「
グランドホテル佛蘭西ハイツ」は、なんとラブホテルだったのである。
そして、見た目から従業員の『お澄さん』の方を産みの親だと勘違いしてしまう二人だった。
実際オープニングで見た夢でもお澄さんが出てきていた。これは観客をも騙す匠な演出。


とりあえず、寅と夏子さんラブホテルの部屋に入って…

寅「暗ろうござんすね寅、逆に、スタンド消してしまう
夏子「あっ
寅「あん?

二人で過剰に緊張している(^^;)
お澄さん、トントン(ドアをノック)、
夏子「どうぞ!
寅「ハイ!

これまた過剰に反応して同時に言う。

お澄さん、いろいろ部屋の中を説明。
お澄さん「これがバイブレーションベッドのスイッチどす。
ベッドがモコモコ動き出す。(^^;)
山田組のスタッフが汗流しながらベッドの下で動かしてんだろうなあ…。

お澄さん「鏡はお好きどすか?
夏子ハイ…。いいえ!
この一連のやり取りは何度見ても面白い(^^;)

寅、夏子さんと相談し、思い切って、お澄みさんを追いかけて聞く。

人違いだったらごめんなさいよ。よーく俺の顔見てくれ、
  この顔に見覚えないかい?38年間一度だって忘れちゃいねえよ」
  一度だけ口に出して呼んで見たかったんだ!

  
おっかさん!あんたの倅の寅次郎だよ!

夏子、寅の事情をやって来た菊に説明する。その結果、なんと産みの親は
優しいお澄さんではなく、この激しい気性の菊の方だったのだ。


寅、菊の名前を出す。

お澄さんお菊はんは、この人だす。あちゃ〜(−−;)

菊「せや、グランドホテルのお菊はわてやが、
 おまはんらに妙なイチャモンつけられる
ことはないで、
 うちは暴力団とのつき合いはないんやさかいな


夏子「この人ね。寅次郎さんなのよ…

菊「…!えっ…、おまえ…
 ちょっと顔がほころぶ
が、すぐ元に戻って。

菊「ふーん、そう…、今ごろ何の用事やねん。

菊「あっ、銭か?銭はあかんで、もう。
  親子でも銭は関係あらへんで


夏子「おばさん、何てこと言うの。寅ちゃんはね、
  産みのお母さんに会いたくて、それだけでここまで来たのよ
               

寅も、菊のこの発言には、遂に切れてしまう。

寅「お嬢さん、帰りましょう。オレは何もこんな淫売上がりの女
 見るためにのこのこやってきたんじゃねえんだよ!

  さっきから黙って聞いてリャぐたぐた言いたい放題ごたく並べやがって、
 てめえなんかどっかとっとと消えてなくなれ、このたぬきババア!


菊「何?ようそんなことが言えるな、産みの親に向かって!

寅「てめえが産みの親?誰がてめえに産んでくれと頼んだ!
 オレゃてめえなんかに産んでもらいたくなかったい!

 ひりっぱなしにしやがってひとのことほったらかして雲隠れしやがって、
 てめえ、それでも親か!


菊「ひりっぱなし?ひりっぱなしとはよう言うたな!

寅「てめえがオレを捨てたんじゃないか!!

菊「やかましやい!!
 なに言うてケツかんのじゃ、アホ!どこぞの世界に自分の子供を
 喜んでほうる親があるんじゃ!えっ!何も知らさらんと
 すき放題なこと言いやがって!このバカヤロー!出て行け!



     


寅「畜生!てめえが産みの親じゃなかったら、ぶん殴ってやるんだ!


      


菊「おう!殴ってもらおやないか!やれや!

この光景はこの世の地獄。正に母子の修羅場だ。

やめて!!ダメ!!…夏子泣く。

クソ…」寅出て行く。

寅ちゃん!」夏子追いかけていく。

このシーンの寅は全48作中で、最も辛く、悲劇的だった。
キリストを抱く聖母マリアのステンドグラス。
菊はこのステンドグラスをどのような気持ちで作らせたんだろうか。
寅に対する懺悔の気持ちもあったような気がする。

菊しゃがみこんで、
何しにきやがったんや、あのアホ、ほんまに…

悲しみの中で涙ぐんでいる。


菊は第7作「奮闘篇」でまたまた活躍!第44作「寅次郎の告白」でも寅が泉ちゃんに
菊がまだ健在であることを話す。さすが、寅の母親だ。なかなか丈夫で元気な人である。

それにしてもこんなに親身になってくれるなんて夏子は優しい人だ。
さすがは散歩先生の娘さんだ。
寅がマドンナを助けたり、面倒見たりする作品は数多くあるが、
全48作中、マドンナがこんなに寅のことに一生懸命になってくれる
(恋愛感情は無いとしても)のは最愛の人リリー以外ではこの坪内夏子さんだけ。
ほんとこのひとは情に厚く優しい。父母の育て方が良かったのだろう。



H【共に泣く師弟の絆】

 旅館「巴家」

散歩先生 「あーあー、俺が悪かった。俺が無理に勧めなければ
     こんな悲しい目に会わなかった。泣け!泣け!泣け!こころから泣け!

バン!とお膳を叩いて


        


散歩先生 「実にこの世は悲しいなあ…

寅「そうだよ、ウウウ…、だったら先生だって泣いてくれよ!

散歩先生「よし!泣こう。寅、
    お前と一緒に二人で泣こう、な、寅!


寅「先生よ!ウウウ…

夏子今晩ここへ泊まって、明日私たちと一緒に東京へ帰りましょう。
   ね、それが一番いいわ。


夏子の優しさが身に沁みる

さくらのテーマが流れる

 
寅「お嬢さん、心の張りをなくしちまったこのおいらに帰っていくところなんかあるわけねえよ、ハハハ…
ガタ!!座椅子ひっくり返る
寅、照れて…エヘン…
障子がスーと、動いて
あーーっ!庭先へ転がり落ちる寅。 転びギャグ2連発

落っこちちゃった、アーアーっと、泣く。


                                                 


夏子つい笑う
散歩先生「可笑しくない!」 三味線 ぺペン、ペン
この作品の渥美さんは、相当燃えていた感じがする。攻めているね〜。



I【とらやに帰った傷心の寅】

とらや 店

寅が京都で産みの親の菊に深く傷ついたことを夏子さんから知らされた
とらや一同はなんとか寅を慰めようと、いろいろ作戦を練るが…。

おいちゃん「夏子さんがくれぐれも優しく迎えてやってくれ…って。
      なにしろ自殺しかけたってくらいだからなあ…


そこで、とりあえず

お母さん」とか「母親」とか「おふくろ」とか言ってはいけないことになる。
(この手の禁句ものギャグはこの先多くの作品で使われることになる)
★「夢枕」では息子、倅はダメ!
★「恋やつれ」では夫、亭主、だんな、ダーリンはダメ!
★「噂の寅次郎」では離婚はダメ!
★「かもめ歌」ではすべる、落ちるはダメ!

寅が帰ってきて、笑顔で迎えるおいちゃんたち。

おいちゃんの顔ひょっとこ(^^;)シンプルだが誰もが笑える森川信ギャグ!

三味線、ぺン、ペン、ペン…

               


寅は博とさくらに抱えられるように奥の茶の間に…

その時満男がぐずる。
さくら「私が抱くわ」
おばちゃん「やっぱりお母ちゃんがいいのね…」わっ(><;)

一同 シ〜ン
……寅のアップ (--;)  三味線  べンべン

      

この間、この子を見におふくろが来たでしょう…
あちょ〜、博まで…(_ _;)
寅のアップ(--;)  三味線  べンべン…
おいちゃん「あ…ツネ、テレビでもつけろよ
いや〜な予感(一 − ;)
さくら「ほら!満男ちゃん、お馬さんよ!

 テレビ「おかぁーさーぁーん
     ハナマルキ味噌おかあさん。
   ♪お味噌なーら(ハナマルキ)
ああ…(TT)
このシリーズの中でも燦然と輝く名ナンセンスギャグ

           


おいちゃんのテレビを消せという仕草が笑える。寅が沈んでいても、
森川おいちゃんで思いっきり笑わせるのが、初期の作品の強み。

三味線  ベンベンベンベン
一同シーン

タコ社長やって来て、いつものように駄目押し
社長「ひでぇ、おふくろさんだったんだってねえ…


J【再び散歩先生と夏子さんとの日々】

失意の寅を励まそうと夏子がとらやにやって来て、家に遊びに来ることを提案。
ほんとうはもう回復なんだけどね(^^;)

夜、散歩先生と夕飯


散歩先生こら!渡世人、フーテンの寅公!
へい!
散歩先生おまえは実にバカだなー!
 
    おまえを退学させた校長のタヌキもバカだが、そのタヌキを
     ぶん殴ったぶん殴ったおまえはもっともっとバカだぞ!


↑寅が葛飾商業を3年で中退になった直接のきっかけ。

はい、すいません。
寅のことを真面目に叱ってくれるのは散歩先生だけだと知っている寅は、嬉しくてしょうがない。
寅「先生、もっと叱ってくださいよ

散歩先生よーし!おまえのようなバカは
     いくら叱っても叱り足りん!


散歩先生ただ!しかしだ!(バン!!
    おまえなんかより少し頭がいいばっかりに、おまえなんかの
    何倍もの悪いことをするやつが、うじゃうじゃいることだ。
    こいつは許せん!実に許せんバカモノどもだ!!


寅「
私よりバカがおりますか?

散歩先生「おるおる!無数におる!


      


喚き散らして散歩先生寝てしまう。

夏子と寅で一緒に毛布を掛けてやる。

夏子と顔が近づいてドキドキしてしまう寅。
夏子それに気づかず微笑んでいる。


            


寅の至福ここに極まる(^^)

美しいテーマ曲が流れる。


門の外に出て

夏子本当はね、お父さんとってもうれしいのよ寅ちゃんとお酒飲むの。また来てね

別れ際に、帰ろうとする寅と、道を開けようとする夏子で、譲り合ってお互い照れ笑い。

またもや至福の寅


第1作のように『喧嘩辰』を歌うのかな?と思わせて

お味噌なーら、ハナマルキ、おかーさーーん、とくらぁ!
と、踊り、回りながら夜道を帰る。菊さんとの悲劇などとうの昔に吹っ飛んでしまっている(^^;)

とらや 店

寅、帰ってきて

団子の店とらやの従業員のみなさま、本日一日ごくろうさんでした
 ♪団子なーら。とらやさん! おじーちゃーん!
 
あっ!間違えちゃった! おかーさーん

     



おいちゃんバッカだねえ…
森川おいちゃん十八番の愛情たっぷりのシンプルギャグ。この【間】は天才です(^^)



K【散歩先生の最後の頼み】

喫茶店で会っている夏子と藤村

いつの間にか仲良く交際するようになっていた二人でした。もちろん寅はそんなこと知るよしもない。

夏子、体の調子が悪い散歩先生が寅に折り入って相談事が有ることを伝えに来る。

散歩先生の家  散歩先生元気が無い。
散歩先生
わしが若い頃食べた天然の、ナチュラルなうなぎが食べたい出ました英語(^^;)
で、仕方なく寅は、江戸川で釣りをすることに…

江戸川土手

ほお被りしてうなぎを江戸川で釣ろうとする寅だが、何時間たっても全く釣れない。

夏子が来て

夏子「寅ちゃん…私夕べ、お父さんに叱られちゃった…。
  寅ちゃんのことで


寅「え!?オレのことで?

夏子あたし寅さんのお母さんのことひどい人だって言ったら、
 急に怒り出して『子供が可愛くない親がどこにいる、
 子供を捨てるにはそれだけの辛い事情があったはずだ。
 他人のおまえが生意気な口をはさむんじゃない』って


寅「でもねえ、お嬢さん、それはあのババアの面を
 見たことのねえ人の言うことですよ。そうですよね。
 先生のような、上品なお母さんを
 持っている人には、とてもわからねえ…


夏子父もね、お母さんの顔知らないのよ…、

えっ!…

夏子「父が二つか三つのときに死んだの…


     


工場のサイレンが聞こえる。

寅「はァ…先生も産みのおふくろさんの
 顔知らないんですか…


寅「
はぁー…

散歩先生が寅の気持ちをよく分かってくれる背景には、
同じ寂しさ、哀しさを共有しているせいかもしれない。



釣れないので、しびれ切らした夏子が寅に提案

夏子じゃあ、こうしたら、丸甚さんとこ行って生きたうなぎ買うのよ。そいで、
  今、…江戸川で釣ってきましたって…


寅、怒ったような顔でスくっと立つ!
夏子、ちょっとたじろぐ。

そんなこと知ってるんだったらどうしてはやくそれを教えてくれなかったんですよ。
 そうなんだよ、いくら物知りの先生でも、
江戸川のうなぎのツラと浜名湖の
 うなぎのツラ見分けつかねえもんなあ!

あんたたちっていったい(−−;)

しかしその直後ほんとにうなぎが掛かる!
源ちゃん「引いてる!引いてる!兄貴!
寅「うなぎだ!

               
              

釣れた!釣れた!釣れた!釣れたーい!!
 うなぎだ!うなぎだ!うなぎだ!うなぎだ!

3人とも全力疾走で大はしゃぎして家に帰る。

♪お味噌なーら、ハナマルキ、とくら!おかーさーん

源ちゃんおかあさ〜〜ん!!

散歩先生の家 

子犬の鳴き声


先生!うなぎ釣れたよ!土手からずっと駆けづめだったからねー!
 蒲焼にしてやるからね!
正真正銘の天然のうなぎだぞ!
 キモはキモ吸いにしてやるからな!


寅「先生…起きろよ!……!

寅「

寅「先生………

散歩先生の顔を見つめる寅

寅「先生よ…死んだのかい?ガクッと腰が落ちる。

子「寅ちゃーん!あーッ疲れた。寅ちゃんの足の速いこと!…おとう…!!

夏子、先生に触れ、真っ青になりすぐ電話のほうへ走る。

寅「死んじゃったよ…し、しんじゃった…よ

と愕然としている寅


             



L【散歩先生の葬儀】

お通夜
散歩先生のイスに伏して泣き続ける寅。         

御前様やって来て、

御前様、障子を閉めて

御前様
寅、みっともない。泣くのはやめろ。悲しいのは誰も同じだ。
    しかし、一番悲しいのは、一番泣きたいのは、あの、娘さんだ


寅、ハッとする。

  その娘さんが涙一つこぼさずにきちんとしておられるのだ。
  おまえはなんだ。それでも男か?こういう時こそおまえがしっかり
  しなくちゃいけないのではないかそれくらいのことが分からんほどバカじゃなかろう」


               

寅、決心

翌日葬式

奮起して次の日の葬式のダンドリを朝5時起きですべて仕切る寅。

寅は葬式のことをとてもよく知っている。もうほとんどプロ並

観音経
が聞こえてくる。
谷よしのさん、今度は知り合いのおばさん役で、さくらたちと同じ部屋にいる。今作品2度目



M【寅の手痛い失恋】

葬儀にやって来た藤村。

夏子、藤村を見て、耐えていた心が崩れていく。

夏子の部屋

夏子自分の部屋で思わず藤村の胸に泣き崩れる。

寅、そうとは知らず部屋のドア開けてしまう。
寅愕然として、しばらく二人を見ている。渥美さんのきつい目。シリアスな場面。


お嬢さん
夏子「
はい
寅「お棺が出ますよ、出棺ですよ…
夏子「どうもありがとう…
寅「
いいえ

そのあと、焼き場まで偶然3人車に乗り合わせる寅の不幸…これは辛い。

     

ちなみに「テレビ版.男はつらいよ」では、同じく佐藤オリエさん演ずるマドンナ冬子さんは、寅に、彼の気持ちを
受け入れることができないことを真正面から謝るのだ。つまり彼女は寅の想いをきちんと理解していた。
しかし、この映画版では夏子さんは、遂に寅の気持ちは分からずじまい…。残念…(TT)



M【寅の旅立ち】

夜、とらや   

一同、夜になってとらやに戻ってくる。

おいちゃん「
まいった、まいった、今日は、まいったーな!
     あんな辛れえこともなかったな!


みんな口々に寅が惨めだったと同情する。

おばちゃん「
火葬場でお骨の焼ける間の長かったこと、ねえ〜

おばちゃん実感だねえ(^^;)

さくら「
私お兄ちゃんと顔合わせ無かったわ。気の毒で…

おいちゃん「
ああいうのを三枚目というんだよな、絵に描いたようだよ
     だから、オレは言わんこっちゃねえってんだよ。
     ほんとにあいつはバカだねー...

        
電灯つく。

おいちゃんの背後に寅が座っている。

                    
!!!!!
おいちゃんだけ気づいていない。
おいちゃんえっ?
さくらと博、ビックリしておいちゃんに無言で知らせる。
おいちゃんえっ?
さくら、首を横に振る
おいちゃん
ううん?…

     
       
おいちゃん
うぇええぇ…!

おいちゃんビックリ仰天して後ろにひっくり返る。

森川信の独壇場だ!これぞおいちゃんギャグ!

寅ゆっくり立って、ビビリまくっているおいちゃんの手をとり起こしてやり、
パタ、パタ、と着物をはたいてやる。

こわ〜〜〜(^^;)

追いかけ、二階に上がるさくら。

窓の外は風が強い

さくら
お兄ちゃん…

寅、泣いている。

さくら、心配するなよ、別にどおってこたあねえんだ…。
 オレは慣れてるしよ。先生の葬式も一応取り仕切ったし、
 これで…ちったあ先生への恩返しもできたろうよ。
 あとのことはよどうってこたあねんだよ…ウウウ…


さくら
お兄ちゃん、泣いてるの?

バカヤロウ!顔で笑って、心で泣いてよ…
 そこが渡世人のつれえところよ。ウウウ…


さくらも泣いてしまう。

先生!先生よー!
  先生は分かってくれるよなー!ウウウ…

悲しい尺八が流れる。

       

第1作も寅は結構泣いたが、この第2作は寅は泣きに泣きまくった。
こんなにも寅が思いっきり泣くシーンが多い作品は他にはもちろんない。


春、桜、とらやの縁側


登が堅気になってとらやを訪ねる。

登「お嬢さんは?

おいちゃん「3日前に結婚式、今、新婚旅行で京都だよ



M【寄り添う母子の背中】

京都  三条大橋

夏子の語り


そうなのよ、お父さん、私今京都にいるの、つとむさんとふたりでね。

そしてね、とってもびっくりするような、
お父さんにどうしても聞かせてあげたいことに出会ったのよ。

寅ちゃんがいたの



             

寅が雪駄を修理してもらっている。

「ホラ、寅、もう寅、行くで!」

細かいの、ちょっとくれよ

「厚かましいな!何べんも何べんもこの子は…」

いいじゃねえか、親子の間柄で

「勝手なこと言うな、金の話はまた別じゃ」

しみったれてるなあ、まったく!
 よお!お母ちゃん!



夏子「お父さん。寅ちゃんは、お母さんに会っていたのよ。

   そうなのよ、やっぱりそうだったのよ。お父さん。

   お父さんがどんな顔をするか見てみたいわ。


      

藤村おい、声をかけなくていいのか…?

夏子「いいのよ…、いいの…

夏子さんの顔はとても優しい。

       

でも、もう..

そのお父さんはもういないのね…


シリーズ屈指の美しく哀しい余韻。
この夏子さんの言葉に泣きました。

三条大橋を渡る寅と菊、
失われた時間を取り戻していくような二人の背中…



       


 終

上映時間 93分
公開日 1969年11月15日
動員数 48万9000人
配収 1億1000万円

第2作「男はつらいよ」ダイジェスト版(2007年3月3日制作)


 第2作「続男はつらいよ」【完全版】はこちらから。


 

明後日3月5日夜は
第3作「男はつらいよ フーテンの寅」のダイジェスト版をアップしてみましょう。
この作品は『本編』をまだアップしていないのにダイジェスト版から作ることになってしまったが、
それはそれでまた面白いのではないかと思っている。


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294


                          
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第1作「男はつらいよ」.ダイジェスト版
 


2007年3月1日寅次郎な日々 その294


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


私のサイトの各作品『本編』は、自分で言うのもなんだが、なかなか読み切るのはしんどい。
相当の体力と集中力が必要なのだ。

トイレットペーパーのようにダラダラダラダラ長く、粘着質で、しつこい。どこまで下っていっても
終わりが来ない底なし沼のようである。一度入ったら、まず1時間半は抜けられない迷宮の館
と言ってもよい(^^;)話に大きな脱線も多いので、物語が分からない人にとっては場所的にも
物語的にも迷子になって、挙句の果てに、こりゃあかんわと緊急脱出してしまう(^^;)

(もっともこのシリーズにすでに昔からハマリ、この映画シリーズを見ることが日常になっている
『寅キチ』さんたちにとっては別段何でもない長さでもあるのだが)

特に最近「男はつらいよ」に興味が湧いたばかりの方々にとっては、私のサイトの『本編』はなにが
なんだか分からないで、目が回ってしまうかもしれない。まず本編を一度で最後まで読みきることは
されないだろう(^^;)

でもまあ、私はもともとただの私人で『好き』で書いているので自分勝手な書き方でもずっとお許しを
願ってきたのだが、ここ1年、NHKの全作品放映などにより、新たにこの映画の良さを知る人が増えてきた。
そしてそれと平行してこのサイトを初めて見てくださる方もかなり増えてきた。

で、今回マドンナもとりあえず全員書いたことだし、このあたりで全作品をそれぞれもっと簡単にわかる
ダイジェストもの』も作ることにした。つまり私の『本編』をライトにし、10分の一以下に短くしたものだ。

コンセプトは『
30分で読める「男はつらいよ」各48作品ダイジェスト』
そしてこの映画をあまり知らない人でも『
一気に最後まで読み切れる簡単さと分かりやすさ

だいたい3日に一度の間隔で、この『30分』で読める『本編ダイジェスト』ものをこのコラムの場所を利用して
第1作「男はつらいよ」から第48作「紅の花」まで制作年度順にずらあーっと48回アップしていくつもりだ。
たぶん6月末ごろには【ダイジェスト版】全48作品を完成できると思う。

もちろん従来の長い『本編』も、手を抜かず今までどおりの予定でアップしていくので、
そちらの方がお好きなディープ派の方々もご安心ください。

それでは、今日は、まず、第1作「男はつらいよ」ダイジェスト版をどうぞお楽しみください。




 第1作「男はつらいよ」.ダイジェスト版

 『男はつらいよ』は、1969年8月27日に記念すべきあの第1作が産声をあげた。フジテレビ系の同名テレビドラマ(26回)で
 人気をはくしたことがきっかけになたのだ。テレビ版では最終回で寅次郎が奄美大島でハブに噛まれて死んだことになってしまい、
 その直後から視聴者からのテレビでの復活の要望が相次いだことから、山田監督が今度は映画を作って寅次郎を復活させようと
 したらしい。松竹経営陣とすったもんだのあげく何とかその第1作が作られ、しばらくのお蔵入りの後放映。これがなんと大いに
 当たったのである。そして思いもよらないシリーズ化への道を猛烈なスピードで進んでいく。

 この第1作の物語、構成、登場人物の関係が、このあとの作品全てに反映され、生かされていく。
 この後の全ての作品はこの記念すべき第1作のバリエーションだといっても過言ではないほどだ。

 スタッフもキャストも、もうこれが最初で最後の作品だと思って渾身の力を込めて制作したゆえに、
 この第1作はこのシリーズの中でも極端に密度が濃く、完成度が高い。
 



 本編


 @【寅次郎20年ぶりの帰郷】

 第1作のオープニングの曲はあのおなじみのテーマ曲とは違い、とても優しい美しい曲だ。 
 最初の松竹の富士山マークの時からすでに曲が始まり本編へそのまま流れていく。

 まず出てくるのは 江戸川の桜、土手、帝釈天参道…。


         


 白黒映像


 「寅次郎の心の風景」というべき演出だ。スクリーン全体を涼しげな風が吹いている。

 オープニングの中では48作中私が最も好きな演出である。

 この記念すべき第1作にふさわしい爽やかな映像だ。

 そして同時に流れる寅次郎のナレーション…   

 「桜が咲いております。懐かしい葛飾の桜が今年も咲いております。
 思い起こせば20年前つまらねえことでおやじと大喧嘩、頭を血の出るほどぶん殴られて
 そのままプイっと家(うち)をおん出て、もう一生帰らねえ覚悟でおりましたものの、
 花の咲く頃になると決まって思い出すのは、故郷のこと、ガキの時分ハナタレ仲間を相手に
 暴れ回った水元公園や江戸川の土手や帝釈様の境内こことでございました。

 風の便りにふた親も秀才の兄貴も死んじまって、今、たった一人の妹だけが
 生きてることは知っておりましたが、どうしても帰る気になれず、今日の今日まで
 こうしてこうしてごぶさたに打ち過ぎてしまいました。

 今、江戸川の土手に立って生まれ故郷を眺めておりますと、何やらこの胸の奥が
 ぽっぽと火照ってくるような気がいたします。そうです。
 私の生まれ故郷と申しますのは葛飾の柴又ででございます。」



 このあとメインタイトル「男はつらいよ
 

 「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯をつかい、
 姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します。」

 土手に渡世人寅次郎が座り江戸川の対岸を見ている。なんとネクタイ、靴、柄など、まだ寅の
 服装が定着しきっていない過渡期
であることが観てとれる。また、あえて江戸川を渡ることに
 よってこの二十年ぶりの寅次郎の柴又への帰還を感動的なものにしている。


               


 歌は山本直純さんの名曲「男はつらいよ」であるが、第1作では、まださくらが結婚していないので、
 「俺がいたんじゃお嫁にゃ行けぬ、分かっちゃいるんだ妹よ、…」となっている。これ以降はすでにさくらは
 結婚してしまっているので「どーせおいらはヤクザな兄貴、分かっちゃいるんだ妹よ…」となっていく。


 この映画は庚申の日の縁日からはじまる。

 寅「ここは柴又題経寺とくりゃ!
 ちょい、ちょい、ちょいやさっさ、ちょいやさっさ!とまといを回し威勢がいい。

 近所の人々は「誰だい?」って言う感じで寅次郎のことを覚えていない…。

 題経寺の境内で寅次郎は御前様やおばちゃんと20年ぶりの再会を抱き合って喜ぶ。

 第1作の源ちゃんはまだ東京弁あの独特の大阪弁のキャラはない。寅とも仲はよくない。
 松竹最後の大部屋女優と言われ、このシリーズの多くの作品に登場した谷よしのさんも出演。



 A【さくらとの再会】


 とらや 茶の間

 さて、おばちゃんと再会を果たした寅は…。

 夜のとらやで車竜造(おいちゃん)、車つね(おばちゃん)にあらためて正座し、仁義を切る寅。

 第8作まで、森川さんと渥美さんの両天才の掛け合いは見ごたえ十分。

 寅弟(てい)の身持ちまして、いちいち高声(こうせい)に発しますあいさつ失礼さんです。
  ここに改めて厚く今までのご無沙汰のお詫びと…
と、渡世人振りが滲み出る。


 寅「ナニはまだかい?と、オリエンタル電気から帰ってくるさくらを今か今かと待つ寅。

 そして車 櫻(さくら)が帰ってくる。

まだ結婚していないので【車】姓である第2作以降は当たり前だが諏訪櫻である。

 寅「さくら!へー、おまえほんとにさくらかい?
   ほらほら俺だよ、この顔に見覚えないのかい?さくら!


 
さくらこの人誰?

 って言って分からなかったさくらもようやく、

 
さくら「お兄ちゃん?


           


 
寅「そーよ!お兄ちゃんよ!

 
さくら「生きてたの…

 と二十年ぶりの再会を喜ぶ。


 その直後「しょんべんしてくらあ…」でタイミング外す。ここはやっぱりコメディだ。


 再会の後、さくらは2階の自分の部屋に上がり自分たちがまだ小さい頃の父母兄弟で
 撮った額に入った白黒記念写真を見て少年期の寅を思い出しているのだった。

 ご覧のように寅だけつまはじきっぽく横目で睨んでちょっと舌を出している。
 父親の横で賢そうに写っているのがその後まもなく亡くなってしまった長男の顔
 さくらの
母親の顔が出てくるのはこの時だけ。観客にはずっと名前さえ分からない。
 この父親平造女道楽が凄くて親戚一同を困らせてたそうだ。
 寅は酒を飲んだときに芸者に産ませた子である。このことは第2作でしっかり出てくる。

         


 2階から、ちょっと向こうの窓から諏訪博が見える博初登場の場面である。

 そしてなんとこの第1作は朝日印刷でなく共栄印刷KKになっている。
 この朝日印刷はその後も「株式会社」になったり「有限会社」になったりいろいろ揺れ動く。


 物語序盤はここまで。

 このあとさくらのお見合いからはじまってさくらと博との結婚。そして
 御前様の娘の冬子さんとのからみがある最終章へと進んでいく。





 B【さくらの見合い】


 さくらの勤めるオリエンタル会社の取引会社の社長がさくらを気に入り、
 見合いの話が進んだようである。←ある意味凄い玉の輿
 ところが昨晩酒飲み過ぎで、おいちゃんが二日酔い。お陰で寅がホテルでの
 お見合いに付き添い、その席で寅の地がついに露出し、無残なことになっていく。



 ホテル(ホテルニューオータニに向かう二人。

 見合いの席でスープを音を立てて皿を持ちながらすする寅。
 皆露骨にいやがっている。寅も無作法だが、いやがる人々も鼻持ちならない、
 という感じの演出。


 寅の毒舌が遂に始まり、終わることはなかった。

 櫻という漢字を「2階の女が気(木)にかかる」とこう読めるんですよ!」

 尸(しかばね)に水と書いて尿!つまりしょんべんだ。
 尸(しかばね)に米と書いて屎(ふん)!つまりくそですね。
 尸(しかばね)にヒを2つ書いてつまり、屁なんですよね。
 どうしてへがヒか?つまりおならは「ピー!」ってしゃれかなっと思って…へへへ


 「結構毛だらけ猫灰だらけ
そして…、「尻の周りは糞だらけってね!」


             


 なおかつ、さくらとは腹違いの兄妹であることをばらしてしまう寅。

 寅「あたしのことをぶん殴る時いつも言ってたね。
 『おまえはへべれけの時つくった子供だから生まれつきバカだ』とよ!
 あんちゃん悔しかったなあ…
 酔っ払ってつくったんだもんなぁ…俺のこと。
 真面目にやってもらいたかったよオレは!本当に!」


 これは寅の心の傷であり、癒されることのない寂しい生い立ちなのである。

 最後の駄目押しは

 寅「出物腫れ物所嫌わずっていうからねえ…
   あっ!みなさん私は早いんだよ!早飯早糞芸のうちってね!
   見せたいくらいだね!座ったなっと思ったらぺロっとケツ拭いちゃう!


 これでお見合いは見事ぶち壊し。

 しかしまあ、そのおかげで博とさくらはその後結婚し、満男が誕生するのだから
 これでよかったとも言える。
 所詮、住む世界も、価値観も違う相手とは長続きしなかったと思う。



 
C【おいちゃんと寅の大喧嘩】

 とらや 夜

 家に帰って悲しんでいるさくらを向かいの工場の寮の部屋から博が見ている。



 翌日 月島

 
その筋の兄さん達にバイを始めるに当たっての仁義を切る寅。

 「わたくし、生まれも育ちも東京葛飾柴又です。
 姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します。
 皆様ともどもネオン、ジャンク高鳴る大東京に仮の住居まかりあります。
 不思議な縁持ちましてたったひとりの妹のために粉骨砕身、売に励もうと思っております。
 西に行きましても東に行きましても、とかく土地土地のおあにいさん、おあねえさんに
 御厄介かけがちなる若造でござんす、
 以後見苦しき面体お見知りおかれまして、恐惶万端引き立って、よろしくお頼み申します。」

 このあとバイをしている舎弟の登と巣鴨地蔵通りで再会し、寅は、初めての啖呵バイを披露。
 この登も最初の作品群では第10作くらいまでちょくちょく顔を見せていた。
 その後、第33作で久しぶりに登場。その時はすっかり堅気になって今川焼屋さん。


 一方…やっぱり見合いの結果、縁談を断られ、ショックを受けるさくら。


 とらや 茶の間

 おいちゃんとおばちゃんはカンカンである。
 そうとは知らず登を連れて帰ってくる寅。

 おばちゃん「寅さん!断られたのはあんたのせいなんだよ!

 この場面で寅は怒って思いっきりさくらにビンタを食らわせてしまう。


           


 この第1作のビンタは強烈。

 さくらが殴られたのを見てだまっちゃいられないのがおいちゃん。
 裏の博の手も借りて庭へ出て寅を拳骨で殴りつける。
 このへんはすごいドタバタ劇だ。
 後期の作品群では絶対お目にかかれない立ち回りだ。

 おいちゃんこれは俺が殴ったんじゃないぞ!
     俺のゲンコじゃねえんだ!こりゃあ!
     こりゃ死んだてめえの
     親父のゲンコだぞ!


 上手いねえ森川さん!

 おいちゃんに対して寅も意地で返す!

 寅笑わせやがら!
   親父のゲンコはもっと痛かったィ!!


 凄い啖呵の応酬!


      



 おいちゃん「てめえ、言いいやがったな!コンチクショウ!!

 とまた殴るが、博に当たってしまう。(^^;)

 寅、居直って

 寅「おーし!やれってんだ!このやろう!

 おいちゃん「てめえがな、てめえが
     家をおん出た時、オヤジはどれだけ心配したか、えー。
     おとついてめえの面見たときはな、ああ、親父が生きて
     たらどんなに喜ぶかと…、

     でもかえって、死んだほうがよかったィ!
     このざま見るくらいならな、死んだほうがましだったと、
     親父は今ごろ草葉の陰で、草葉の陰で…



さくらのテーマ流れる

 翌朝

 
深く反省して置手紙を残し、ひとり矢切りの渡しを渡り旅に出る
 土手向こうから追いかけてきたさくらと登が叫ぶが
 「
そこが渡世人のつれえとこよということで行ってしまう。



 D【冬子との再会】


 それから1ヵ月…

 寅は奈良にいる。そして病気療養していた御前様のお嬢さん(坪内冬子)
 ばったり東大寺二月堂で会うことになる。寅は懐かしき幼馴染にぞっこんになってしまう。

 この第1作はテキヤのマドンナ役ということでどの女優さんも尻込みしてなかなか
 出演を引き受けてくれなかったそうである。光本幸子さん(新派)は快諾してくださり出演。

 御前様「おまえが出目金とあだ名をつけてよくいじめとった冬子だ。

 冬子「寅ちゃんでしょう。ちっとも変わらない同じ顔


             


 奈良公園にて
 写真ギャグ

 寅「さあ写しますよ、はい、にっこり笑って
 ハイ、ハイ。 じゃあ笑って!ハイ笑って

 御前様「ブァタァァー〜〜〜〜!!!

 御前様懲りずにもう一度バタァ〜〜〜〜!

       バ…ッタアアァ〜〜〜 受けまくる冬子
      



 寅「お嬢さん、どうしたんですか?え?

 冬子「チーズよ!

 寅「え?

 冬子「ねえ、チーズの間違いでしょう、ハハハ!
 
 御前様「つべこべ言わずにはやく撮れ

 寅「ハイハイ、ハイ、ハ〜イ笑ってえ

 御前様「バッ…タアアアァ…3度も言うなんて懲りないねえ(^^;)

 冬子笑いが止まらない。

 御前様の記念撮影ギャグ「3連発バター」でした。



 E【博とさくらの恋のゆくえ】

 とらや 店

 一方とらやでは冬子からのハガキが来て、旅立ったはずの寅が彼女たちと
 一緒に奈良で合流していることが分かる。


 博現れて「団子200円下さい

 さくらちょっと嬉しそうな顔して「はい

 実は二人は密かに惹かれあっている。


             


 さくら嬉しそうに♪フフッフ、フッフッフ〜♪
 (スイカの名産地のメロディ)
と博のだんごを裏に持っていく。

 おいちゃん「フフッフ、フッフッフ〜だって…さくらの方もまんざらでも

 おばちゃん「そうなんだよー、そーっとしときゃ、なんとかなんのかもしれないよさすが!

 そこへ冬子がとらやに現れる。
 その後にすぐ寅もくっついて帰ってくる!寝ても冷めても冬子さんって感じ(ーー;)
 本当に何の節操もない寅でした(^^;)

 その時さくらは裏で工員達とギターを弾いている。

 さくらがギター持って
「スイカの名産地〜♪スイカの名産地…」
 と弾いているシーンは私のお気に入りだ。雰囲気があっていい。

 しかし、この時博のさくらに対するちょっとした言葉にカチンと来る寅。
                           
 さくらさん?気安いぞこのやろう!
  さくらは
大学出のサラリーマンと結婚させるんだい。
  てめえらみたいな
ナッパ服の職工には高嶺の花だい!

 
 この偏見で凝り固まった寅の発言に怒った博たちと寅は江戸川で果し合い。
 口げんかする寅と博。博は大学出にこだわる寅に反感を抱く。


 しかし、博がさくらに惚れていることに気づき、

 寅「あれ?このやろう、てめえさくらに惚れてやがんな
  
このやろう、女とか、愛だとか、
  
ハチの頭だとかアリのキンタマだとかゴタク並べやがって…


 その後、縁を取り持つために、さくらの勤めるオリエンタル電機に出向いて
 博のことをどう思っているか聞いてみるが、さくらにほとんど何もしゃべらさないで、
 なんと
さくらは博に気がないものと寅は決めつけてしまう。

 メチャクチャとは言え、寅が、恋のキューピット役を演じた最初がこのさくらと博の
 カップルだったのだ。この先長いシリーズの中で数多くキューピットの役割を果たしていく。




 工場に戻った寅。

 博に会社でのさくらの反応を聞かれて 

 寅「パーだいひでええ、嘘八百(TT)

 博「パー!?

 寅「あ、パーでイチコロだよ。
  アリャあきらめな、脈ねえから
よくもしゃあしゃあと適当な…(−−;)

 博寅次郎さん…あんた女の人に惚れたことが…



 とらや 茶の間

 さくらへの想いを断ち切られた博は、工場をやめる決心をし、

 さくらのもとに真剣な表情でやって来る。

 さくら「どうしたの、博さん?


 「僕の部屋からさくらさんの部屋の窓が見えるんだ。
  朝、目を覚まして見ているとね、あなたがカーテンを開けて
  あくびをしたり、布団を片付けたり…。日曜日なんか楽しそうに歌を歌ったり。
  冬の夜、本を読みながら泣いていたり、
  …あの工場に来てから3年間、毎朝あなたに会えるのが楽しみで、
  考えてみればそれだけが楽しみでこの3年間を…。
  僕は出て行きますけど、さくらさん幸せになってください。
  さよなら。」


 これはまぎれもなく博の愛の告白だった。

 


 必死で博を追いかけるさくら!

 柴又駅

 なんとかギリギリでプラットホームで待つ博に追いつく。



              

 
 ピーっと笛が鳴り
ふたりで思わず電車に乗る。

 さくらの優しさと果敢さが光るシーンだ。

 もしこの時さくらが博に追いつけなかったらさくらは一生後悔し、
 兄の寅を恨むことになったかもしれない。
 しかしさくらは間に合ったのだ。


                        

 一方とらやでは寅とタコ社長が口喧嘩 

 そこへさくらが高揚した表情で戻って来る


 さくら「ただいま。
   お兄ちゃん、私博さんと結婚する。
   決めちゃったの。
   いいでしょう、ねえ、お兄ちゃんいいでしょう。」


 

            



 寅、少し驚いて、はっとするが、こっくり頷いて喜ぶ。
 でもふっと兄としての寂しさも感じる。



             


 ↑この時の渥美さん、倍賞さんの演技は絶品でした。


 泣いてしまうおばちゃん。
 おいちゃんのなんだかうれしそうなほっとした顔


               
 F【さくらの結婚式】

 川甚

 そしてタコ社長を仲人に、
 川甚(川魚料理で有名な料亭)で結婚式を開くことになる。


 (社長の奥さん(水木涼子さん)が少しだけだが登場!)

 ちなみになぜかおいちゃんは欠席
 見合いのとき同様前日の酒の飲みすぎか?←普通ありえないぞ!

 森川さんの予定がどうしても合わなかったというのが本当のところ。


 
 結婚式の前に博の父親と母親が来ていることを博も含めみんな初めて知る。

 北海大学農学部名誉教授 諏訪一郎(ひょういちろう

 神主も司会者もタコ社長も誰も読めないんだもの。
 (たぶん日本中で読める人はほとんどいない…)


 神主「諏訪…イチロウ」
 タコ「諏訪ゥアーイチロウ」
 司会「諏訪、諏訪ウンイチロウ」

 記念撮影で例の「バター」をかます寅!


           


 博は、父親には長い間勘当されているので、なぜ彼らが今更来たのか、
 納得がいかなくてぐずる。



 披露宴


 スピーチ


 工員:「
博さんとさくらさんがけんか…あっ、間違いました!
    博さんとさくらさんが仲良くなられたのは、さくらさんと
    博さんのお兄さんがもの凄い喧嘩して…
     『おまえらナッパ服の職工にさくらを嫁にやれるか!』

一同爆笑

 御前様:さくらさんは、お兄さんの寅次郎君が父親にしかられて泣いていると
    自分もそばにいてしくしく泣いている。そんなやさしい子供でした。それにひきかえ
    寅次郎君というと…困ったー。本当に困ったー!


 工員達の歌♪『五月のある日、スイカの名産地、
        結婚式をあーげーよー、スイカの名産地。
        スイカの名産地、すてきなとーころよー、
        きれいなあのこの晴れすがた、スイカの名産地、』♪
 アンコール!


 この披露宴の間も寅は、ずっと博の父親のことを嫌がっている。


 そして…

 博の父親の挨拶


 司会「諏訪、諏訪、うん一郎様…」


 父親「
本来なら新郎の親としてのお礼の
    言葉を申さねばならんところでございますが、
    わたしども、そのような資格のない親でございます


      

 博、驚いた表情で父親を見る。
         
   しかし、こんな親でも、何と言いますか、
   親の気持ちには変わりがないのでございまして、


   実は今日私は8年ぶりに倅の顔を…、みなさんの温かい友情と
   さくらさんの優しい愛情に包まれた倅の顔を見ながら、
   親として私はいたたまれないような恥かしさを…。

   いったい私は親として倅に何をしてやれたのだろうか。

   なんという私は無力な親だったか…。

   隣におります、私の家内も
   同じだったと思います。
   この8年間は…私ども2人にとって長い長い冬でした。…

   そして、今ようやく、みなさまのお陰で春を迎えられます。
   みなさん、ありがとうございました。
   さくらさん…、博をよろしくお願いいたします


 感動した寅は服が「ビリッ」と破れるのも気にせず博の両親に礼を言うのであった。
 終始咽び泣く博、さくらも泣く。出席者の冬子が拍手。
 みんな拍手。寅お礼を皆にする。博の心に本当の雪解けが訪れた瞬間だった。



 G【寅の恋、そして失恋】


 寅の、冬子さん目当ての寺通いが頻繁になる。


 黒サングラス
して

 寺通いがバレないように、変に敏感になっている寅。
 とらや一同始末に置けない状態。


ある日、冬子と寅は気晴らしに遊びに行く。

 
オートレースで2000円儲けて、夜に飲み屋で焼き鳥を食べる。

 夜の帝釈天参道で冬子が北島三郎の「喧嘩辰」を歌う

 冬子「
♪殺したいほーどー惚れてはいーたーがー…

 冬子ちょっと酔っ払って、寅に微笑みさよなら
 
 寅はこの夜、冬子への想いがピークに達し、
 夜の人気の無い参道を踊りながらあの【喧嘩辰】を歌う


 「♪殺したいほーどー惚れてはいたーが〜、指も触れずーに〜、
  別れたぜ、浪花節だと笑っておくれ、
  野暮な情けに生きるより俺は仁義に生きて―ゆーく〜♪」

 この夜の寅は至福だった...


        


 しかし、数日後

 釣りの約束で冬子に会いに行ったが…。
 冬子はある男性と庭で歓談している。

 「
今日、お約束してたんだったわね。ごめんなさいね
 冬子さんそれはないよ(TT)ちょっと鈍感。
 御前様「これから親戚になる男だ

 そう、そこには冬子さんの婚約者がいたのだ。

 こうして、はかなく寅は失恋し、水元公園で一人泣くのだった。

寅「お嬢様、お笑いくださいまし。
  私は死ぬほどお嬢さんに
  惚れていたのでございます。



 H【寅の旅立ち】


 寅は、ひっそり裏の庭から戻って
 とらやの茶の間で落ち込んでいる。


 寅のいることを知らない店にいるとらや一同。

 
おいちゃん、冬子さんの婚約者を題経寺で垣間見てきて
 「今夜大荒れだよオレ知らねえよ。オラ、ああやだ、あ〜やだ

 と、寅が不機嫌になるのを怖れる。

 全部押入れの中で隠れて聞いている寅。

 タコ社長江戸川で身投げするんじゃねえだろうな
 
などと、みんな好き勝手なことを言う。

 おばちゃんここでピシッといいこと言う

 おばちゃんお嬢さんもはっきり言ってくださりゃいいのに。
       あたしゃね、お嬢さんにも罪があると思うよ。
んだ(ーー)

 このあとおいちゃんの
 歴史的ギャグ「まくら、さくら持ってきてくれ...」が入る。

 この先くどいほどこのギャグは使われる。

 さくらがガラッと押入れを開けると寅がいる。


 
おいちゃんあ、あの、いたの?
 まあね
 さくら「どうしたの、こんなところで?
 知らねえよ


       


 聞いたよ
 
押入れの柱に頭ぶつけてあ痛っ

 笑うなよおめえ
 
 
 そして口笛を無理やりふく寅


 ニ階へ上がり、
 トランクを片付けて足早にとらやを出て行く寅。

 参道に出て叫ぶさくら。

 さくらお兄ちゃん!行くとこなんかないんじゃない!
     ばかね!お兄ちゃん!



           



 登、走って後を追いかけていく。

                     

 上野駅の地下食堂


 登に故郷八戸へ帰るように叱って殴り、追い出す寅。


 寅は登の食べ残しのラーメンを号泣しながらムチャ食いする。
 寅がこんなに泣くシーンは珍しい。


 
I【満男の誕生】

 一年後 

 さくらに「満男」が生まれ、みんなで「寅に似ている」と言い合う。

 中村はやと君・・・(第1作〜8作、10作〜26作)
 ↑もちろん吉岡君が有名だが素人の中村君も天然ぼけの魅力があり根強い人気がある。

 寅から冬子への手紙が題経寺に届く。

 拝啓、坪内冬子様

 久しきご無沙汰をお許しくださいまし。
 故郷柴又を出しより1年余り、思えば月日の経つのは早きもの。
 風の便りに妹さくら出産の知らせを聞き、兄として喜びこれに優るもの無く、
 愚かしき妹なれど私のただ一人の肉親なれば、
 今後ともお引き立てのほどお願い申し上げます。

 なお、私こと思い起こせば恥ずかしきことの数々、
 今はただ後悔と反省の日々を弟登と共に過ごしておりますれば
 お嬢様には他事ながらお忘れくださるようひれ伏してお願い申し上げます。
』   
                 


 最後は「天橋立」で啖呵売をする寅と登。

 結局登とは別れなかったのだ。



  
 四角四面は豆腐屋の娘、
  色が白いが水臭いときた!
  よーし!まけちゃおう
  まかった数字が三つ!ね!
  七つ長野の善光寺八つ谷中の奥寺で
  竹の柱に萱の屋根手鍋下げてもわしゃいとやせぬ。
  信州信濃の新そばよりも、わたしゃあんたのそばがいい!
  あなた百までわたしゃ九十九まで、共にシラミのたかるまで、
  と、きやがった!!



         


 楽しそうに旅を続けていく二人だった。



 終

                         
 

 公開日 1969年8月27日
 上映時間 91分
 観客動員数 54万3000人
 配収 1億1000万円

第1作「男はつらいよ」ダイジェスト版(2007年2月28日制作)


 第1作「男はつらいよ」【完全版】はこちらから。



 
とまあ、こんな感じで作ってみましたが、どうでしょうか?
明後日3月3日は「続.男はつらいよ」のダイジェスト版をアップしてみましょう。
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