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寅次郎な日々

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ご注意) このサイトの文章には物語のネタバレが含まれます。
まだ作品をご覧になっていない方は作品を見終わってからお読みください。



                 

今一度、故郷を発つ りん子さん。(2007、2,27)

たった一夜に懸けた聖子さん(2007、2,26)

見下ろす江戸川 去りし夢(2007、2,25)

湖畔を彷徨う哀しみの目 宮典子さん(2007、2,24)

ちょっといい大人の会話 葉子さんと寅(2007、2,23)

寅を金縛りにした情念の人、かがりさん(2007、2,22)

鐘の音と共に旅立った蝶子さん(2007、2,21)

食玩『男はつらいよシリーズ』から『帝釈天参道』(2007、2,19)

一男さんを心から愛していた礼子さん(2007、2,16)

走り、そして間に合った美保さん(2007,2,15)

人生を覚悟した小諸の真知子さん(2007,2,14)

心に泉が湧き、蘇生した隆子さん(2007,2,13)

往きは三人 帰りは二人 四人ならばと温泉津駅。&「朝日印刷の食玩」(2007,2,11)

朋子さん、生涯の失恋&第49作「寅次郎花へんろの台本」(2007,2,10)

さすが歌えば燦然と輝く『はるみさん』(2007,2,8)

清楚さの中に潜む色気  蛍子さん(2007,2,8)

いとしい人は旅の夢、りんどうこぼれる寅の夢(2007,2,5) 







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『寅次郎な日々』バックナンバー





今一度、故郷を発つ りん子さん。
 


2007年2月27日寅次郎な日々 その293


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。





第38作「知床慕情」

りん子さんは生まれも育ちも北の大地、知床のウトロ。
知床五湖で産湯をつかい、姓は上野、名はりん子。

そんな生粋の道産子だが、とにかく冬が寒い知床で青春期を送りながら、
少女のりん子ちゃんはいつもいつもストーブのそばで東京が映っているテレビを見て、
東京に行きたい。東京に行ったらすばらしい未来が待ってると憧れ続けていたのだ。

この「知床慕情」では、夏の知床しか映らないが、知床の冬はただものじゃない。
冬には流氷で真っ白になり、人も町も凍りつく。

大人になったばかりの彼女は、東京から来た男性と知り合い、東京へ行けるチャンスが
廻って来たのだ。彼とはおそらく恋愛感情があったとは思うが、それよりなによりとにかく
この知床を離れて東京へ行きたかったのだと思う。

そして、長い間の思い込みと、燃えていた愛が冷め、数年が経ち、結局男性とも別れる。
しばらくは失意のまま独りで暮らしながら働いていたが、知床がテレビに映った時、
押さえていた郷愁が噴出してしまい、もう矢も盾もたまらなくなって心を休めにウトロに
帰って来たのだ。

そして懐かしい斜里駅に降り立つ。
その直後なんと自分の実家で寅と知り合う(^^;)

寅とは相性が良いのかとてもウマが合い、惹かれ、好きにもなっていく。
寅がこのまま知床にいてくれれば、自分もこの地で頑張ろうとも思っていたのかもしれない。




              




そんな時、父親とはまなすのママ悦子さんの恋の成就の瞬間を間近で立会い、感激に胸を
震わすのだ。

しかし、それとは逆に渡り鳥の寅はあっという間に旅立ってしまった。

またもやりん子さんは一人になった。

しかし、考えてみれば、一人ではない。
精神的に一番頼っていたはまなすのママは自分の生涯の家族になったのだ。
こんな心強いことはない。彼女なら父親を任せられる。遠く離れていても3人の心は繋がっている。


今一度彼女の本当の巣立ちの時が来た。

りん子さんは、もうなんの幻想も無い東京で、こんどこそ地に足をつけて働き、社会の中で自分の
居場所を探していくのであろう。


東京での就職が決まって、とらやに再来し、自分や父親の報告をするりん子さんの表情に、
失恋の痛手はない。



              





人は何度でもやり直せる。死ぬその日まで人は人生を変えることができるのだ。









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『寅次郎な日々』バックナンバー





たった一夜に懸けた聖子さん。
 

2007年2月26日寅次郎な日々 その292


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第44作「寅次郎の告白」


聖子さんは、寅との物語がなかなか見えてこない。彼らの物語が、なんとセリフで
説明されてしまうのである。これはさすがに辛い。

あの吉田日出子さんという稀有の役者魂と存在感を持った俳優を起用しながらも、
彼女を十分には生かしきれていなかった。
彼女は使い方によっては浅丘ルリ子さんの存在感に匹敵するオーラを出せる女優さんだ。
これは彼女の他の作品の演技を見れば分かる。



                



彼女自身もこうエッセイに書いている。

「今は昔の寅さんと違って、作品の中に話が2つくらいしかなくて、それもとってつけたような話だから、
寅さんまでとってつけたような人になっちゃう。これじゃ、芝居ができないだろうなあ…、とわたしなんかは
思うんだけど、でも渥美さんは台本に素直にやっちゃうでしょ。不思議だなあ、どうしてもっと
やっちゃわないんだろうと思った。……
でも渥美さんは手を抜いてるんじゃないのよ。あんなに映画のことをよく分かっている人が台本に注文を
つけたりしないで大きな流れに身を任せてやっていく。
それもまた格好いいなあって…」




                



渥美さんのことも、この映画の大きな流れのことも全て理解して、「それもまた格好いいなあって」
と、言える吉田さんは大物だ。ただの役者バカではない。

だからこそ、元気な頃の渥美さんとの絡みが見たかった。


とはいえ、まあ、話を物語りに戻すと、
聖子さんは、その昔、二人の男に同時に惹かれ、風来坊の寅でなく、板前さんの方を選んで、
人生を失敗してしまったのだ。実はその板前さんは大変な女道楽で、いつも泣かされていたと言う。
そんな彼も釣りに行った先の不慮の事故で亡くなってしまう。

そして一年…。

ひょっこり寅が現れる。

聖子さんは、昔の自分を思い出し、今度こそ寅に寄り添おうと、決意するのだ。

そして、従業員をすべて帰し、満男たちを2階で寝かせ、自分は、寅と一夜を共有しようと
お膳立てをした。この辺はさすがに老獪。そんじょそこらのマドンナではない(^^;)
深夜、部屋を暗くして寅にべったり寄り添う聖子さん。寅はタジタジだが必死で逃げようとは
していない。

聖子さんはこの長いシリーズのマドンナの中で最も積極的に寅に迫った女性である。

これは珍しい展開になると思いきや…、覗き見の満男が階段を踏み外して…(ーー;)

もし、あの時満男が、階段で覗き見していなければ、あの二人はどうなったであろうか…。
それでも寅はジリジリと逃げたか?それとも積極的な聖子さんに遂に身と運命を任せたか。

まあ、寅のことだから、やっぱりトホホな結末なのだろう。




               




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見下ろす江戸川 去りし夢。
 

2007年2月25日寅次郎な日々 その291


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。




昨日、浜松のKさんが前々回、前回と同じく、作品ごとに、それぞれの物語や
マドンナの
ことなどを「啖呵売」風、つまり七五調の言葉に乗せて、
美しく綴られた文章「覚え歌」の3回目を送ってくださった。

今度は第21作「わが道をゆく」から第35作「恋愛塾」まで。




どうぞゆっくりお楽しみください。




21作 もののはじまりが一ならば、

    道のはじまり、日本橋。 風に吹かれて、浅草あたり。
 
    スターの歩む 迷い道、奈々子「わが道」往けるのか。





22作 続いた数字が二つ。
 
    二人の先達、諭しても 神妙なのは、出会うまで。

    憂い含んだ「噂の」美人。 ’寅さん好きよ’うれしくて。





23作 続いた数字が三。
    
    参道の とらや駆け込む ウェディングドレス。

    「翔んでる」ひとみに 頼まれりゃ ツレェとこだが 仲人よ。





24作 四つ、よく似た この二人  寅とマイケル、インポシブル。

     蝶々夫人は「春の夢」  見下ろす江戸川、去りし夢。





25作 五つ、いそいで沖縄へ 病んだリリーを 愛しむ。

    月明かり「ハイビスカスの花」浮かぶ 島唄かすか 夢の中。

    まどろんで’所帯持つか’と ポツリ言う  このまま時よ 止まらぬか。





26作 六つ、娘は東京へ 生まれて初めて暖かな 団欒楽し「かもめ歌」





27作 七つ,泣き泣き 縋(すが)っても はずされ辛い「浪花の恋」

    夫婦道ゆく おふみさん 未練断つよな 雷鳴が。





28作 八つ、やんちゃで可愛い娘 寅の’追っかけ?’愛子ちゃん。

    縁(えにし)の薄い「紙風船」 ふわふわ約束 飛んでゆく。





29作 続いた数字が九
    
    くりかえし 寄せる潮騒 光る月 想い乱れる ほの白き足

    うれしさが 変わる哀しさ 「あじさい」の花。





30作 十で とっても 迷ってる 恋なの? 愛なの? わかんない。

     「花も嵐も」踏み越えて 廻るよ 愛の観覧車。





31作 もののはじまりが一ならば おけさのはじまり 佐渡島

     「旅」の わけあり「女」には 粋でやさしい 「寅次郎」 



32作 二つの幸せ 眼の前に 「口笛吹く」ほど はしゃいでも
    息の続かぬ 悪い癖。





33作 三つ、見つけた家出妻 洗濯物干す 背に暮らし
 
    風子思って 意見して 「夜霧にむせぶ」北の街

    クマガブリ セッタパックリ トラバタリ。





34作 続く数字が四

    柴又の平和を乱す男から 己の醜さ 知る進歩
 
    寅さんに 出会った人みな 「真実」の生き方学び 「一路」往く。
   

  


35作 五つ、五島の教会で ゆきずりの人の 墓を掘る

    寅さんの「恋愛塾」では わからない 恋する女の 気持ちまで。






まず今回のKさんの歌の中で
私がなによりも心にずっしり入ったのが第29作「あじさいの恋」の歌



「くりかえし 寄せる潮騒 光る月 想い乱れる ほの白き足
うれしさが 変わる哀しさ 「あじさい」の花」

叙情感溢れる名作だと思います。胸に来ます、これは(TT)

あの110分の物語がこの短い言葉の中に美しい姿で
しまいこまれているよう。
歌の姿が見事です。文字全体から香り立つ品格に脱帽。

それにしても、
あれは寅にとって試練とも言うべきつらく悲しい恋でした。




             






第24作

私は第24作「春の夢」のマイケル(マイコ)が好き。
あの、さくらに恋をした正直で一途なおじさんがなんだか可哀想でしかたなかった。
そんなマイケルのはかない夢と幻を、

『蝶々夫人は「春の夢」  見下ろす江戸川、去りし夢』

これにはジーンと来ました。

あの飛行機が江戸川上空を通る時、さくらが土手で上を
見上げている。何も語らなくても、遠くに離れていても
なんだか二人の心が触れ合ったようないいシーンでした。




           






第25作

五つ、いそいで沖縄へ 病んだリリーを 愛しむ。
月明かり「ハイビスカスの花」浮かぶ 島唄かすか 夢の中。
まどろんで’所帯持つか’と ポツリ言う  このまま時よ 止まらぬか」

リリーと寅、二人して見た亜熱帯の夜のはかない夢の情景が目に浮かんでくる。

『このまま時よ止まらぬか』
はKさんの切なる願いであり、この歌を読む私たちの切なる願いでもあります。





            






第32作

「口笛吹く」ほど はしゃいでも 息の続かぬ 悪い癖」

うまいですねえ。口笛に対しての「息の続かぬ」がなんともうまいなあ(^^)






第33作

『三つ、見つけた家出妻 洗濯物干す 背に暮らし』

第33作のあの家出奥さんが赤ん坊を背負いながら、新しい夫とすき焼きの
話をするシーンは実は私もあの作品の中で頭から離れない印象深いシーンだ。
このシリーズ全体の中でも重要なシーンではないかと思っている。あのシーンを
抽出されたKさんに深く共感。

「クマガブリ、セッタパックリ、トラバタリ」

トラバタリはほんと笑いました。あの時の慌てようが
思い起こされて実に面白いです。
Kさんにはこういうユーモアがあるから奥深い。
私はこういう遊びは大好き(^^)






同じく笑わせていただいたのは第34作、
「柴又の平和を乱す男から 己の醜さ 知る進歩」
うまいですね〜この展開、大笑いです(^^)


寅さんに 出会った人みな 「真実」の生き方学び 「一路」往く。

「一路往く」 これは、ふじ子さんや富永課長だけでなく、このシリーズを見続ける
私たちのことでもあるんですね。うん、と頷く強く短い言葉でした。






第35作

「五つ、五島の教会で ゆきずりの人の 墓を掘る」

「ゆきずりの人の 墓を掘る」このなんでもない短い言葉の中に
寅の持っている無償の献身の人生が垣間見れる。
私はこの短い言葉がとても気に入った。
Kさんの深い感性がこの静かななんでもない言葉に表れているようでした。
しみじみといいです。



今回も、なにげない言葉、短いが強い言葉、を
じっくり噛みしめさせていただきました。


残るは13歌。楽しみにゆっくりまったり待ちましょう。




Kさんの「覚え歌」のバックナンバーはこちら↓

覚え歌
@「いとしい人は旅の夢、りんどうこぼれる寅の夢」第1作〜第10作まで


覚え歌A「往きは三人帰りは二人 四人ならばと温泉津駅」第11作〜第20作まで

覚え歌C「枯葉降る庭 眺めつ逝きたし」




「寅次郎な日々」全バックナンバーはこちらから          


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『寅次郎な日々』バックナンバー 





湖畔を彷徨う哀しみの目 宮典子さん
 

2007年2月24日寅次郎な日々 その290


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琵琶湖 湖畔

5分間、写真を撮り続ける典子さんの静かな時間をカメラは黙々と映し続ける。

この長いシリーズの中で、マドンナ一人の静かな行動をここまで長くカメラが
撮ったことは無かった。それだけこのマドンナの今の時間がいかに彼女に
とって大切かを表現していたのだろう。

「この一週間のために一年があるの」

彼女は一年に一度の撮影旅行をこう表現する。


腕を怪我して、寅と一緒の民宿で、遠くを見ながら「琵琶湖周航の歌」を
口ずさむ典子さん。

寅は、ただ黙々と団子屋を手伝う平凡なさくらと比べて、鎌倉の家の環境や写真の趣味を
持つ典子さんを羨ましいと嘆くが、それを聞いた典子さんは、なんとも哀しい目をして
虚ろに何かを考えているのだ。カメラは寅をぼかして典子さんの哀しみの目を映し続ける。

典子さんは夫婦とはいったいなんだろうかと悩んでいる。
自分と夫は果たしてほんとうに分かり合っているのだろうかと…。
もう、今やほとんど実感がないのだ。





             




暮れなずむ、琵琶湖の畔で、寅に夫婦ってなんだろうと問いかけたりもする。



             




そんな典子さんが気になっていた寅は、典子さんがとらやを訪ねたことも
あって、鎌倉の家まで会いに行くことを決意し、満男に手伝わせるのだ。


そして、そこで遠めに垣間見た典子さんの明るい笑顔。
娘さんと楽しそうに話す声。


陰で見守る寅。


寅「もうすっかり、元気になってるんだ。笑ったりなんかして。
 なあ満男、夫婦になって長い間暮らしていれば、そら、いろんなことが
 あるんだろうけどさ、お互い相手を好きになろうと一生懸命思っていれば、
 必ずなんとかなるもんなんだよな。そう思わないか満男…」


典子さんの歩むべき一筋の道を照らし出す
寅の、頼もしくも切ない大人の言葉だった。



            










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ちょっといい大人の会話 葉子さんと寅
 

2007年2月23日寅次郎な日々 その289


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第46作「寅次郎の縁談」


この作品で2度目の登場となる寅のマドンナ葉子役の松坂慶子さん。
第27作「浪花の恋」のふみさんのような艶かしい美しさではなく、
葉子さんは、破産、病気と、人生の地獄を味わった、なんともしっとりとした落ち着きのある
大人のオーラが出ていて素敵だった。

松坂さんは第27作に出演した後、彼女の最高の演技を見せた小栗康平監督の「死の棘」(90年)を
くぐっている。あの作品で、松坂さんは開眼したと、私は思っている。あの暗くて人気の無い
名作を私はもう何度見ただろうか。あのような「美」は意外にも松坂さんだけが出せる魅力なのだ。

私も40半ばになってようやくあの葉子さんの魅力がわかるようになってきた。
地獄を味わってこそ輝く人間の魅力というものはこの世にあるのだ。



           



寅と葉子さんの、大人同士のちょっといい会話


葉子「寅さんみたいな人もおるのねえ…、どうしてもっとはよう会わんかったんやろう」
寅「ほんとうに、オレもそう思う」

葉子「ねえ、なんかプレゼントさせて」
「いらねえ」

葉子「セーターは?」
「着ない」

葉子「ネクタイは?」
「締めないな」

葉子「コート」
「羽織らない」

葉子「じゃああ……、」


ちょっとうつむいて

葉子「…温泉にでも行く?」

「オレェ…、風呂へは入らねえ」

葉子「…もう!意地悪ゥ!」と寅の手をつねる。
「イタタタァ!」


このような会話が聞け、そしてさまになるのは成熟した葉子さんと晩年の寅ならでは。

寅の良さを「母の手の温もり」にたとえる葉子さん。
寅がもつ無償の献身を言葉にできる人でもあった。


この頃の渥美さんはもう限界が近いことがスクリーンからも滲み出るように
なってきてしまっているが、その分静かなたたずまいをその背中で醸し出して
いることもまた事実である。このことを見逃して、渥美さんがあまり動かない
晩年の作品を軽く見てしまうことはあまりにももったいない。
最晩年の3作品は特に渥美さんの立ち姿を垣間見ていろいろな想いをめぐらせる
醍醐味がある。あの頃の作品は寅次郎というよりも渥美清がそのままスクリーンに
滲み出ていた瞬間もあったとも思っている。

寅は時々静かな遠い目をするのである。
葉子さんは隠された悲しみを背負っている。

そのような寅と葉子さんの日々だった。


          






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288


                          
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寅を金縛りにした情念の人、かがりさん。
 

2007年2月22日寅次郎な日々 その288



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安珍と清姫の物語



かがりさんはなんとも美しい。他のマドンナにない独特の『美』だ。

しかし、その美は、朋子さんのようなほのぼのとした太陽の輝きではない。
千代さんのような可憐な輝きでもない。
また、ふじ子さんのような、男心を惑わせる魔性の輝きでもない。

もっと清楚で、もっと静かな…、そう、月光の光。それも満月ではなく、
三日月の密やかな光。しかし、それを見た人々は、その妖しい蒼白き
光に涙するのだ。


しかし、そんな彼女だが、小さい頃にもらわれて来るわ、夫には死に別れてしまうわ、
恋人の陶芸家には裏切られるわで、可哀想な運命にさらされているのである。
いや、だからこそ、あのような密やかな輝きになったのかもしれない。そんなかがりさんの
ことを寅は気にするようになっていく。

失意のまま故郷の丹後、伊根に帰ってしまったかがりさんを、寅は遠く峠を越え会いに行き、
そっとこう言うのである。

「誰を怨むってわけにはいかないんだよなこういうことは。そりゃ、こっちが惚れてる分、
向こうもこっちに惚れてくれりゃぁ、世の中に失恋なんていうのはなくなっちゃうからな。
そうはいかないんだよ」 


静かに頷くかがりさん。



その夜、かがりさんはわざわざ丹後まで自分に会いに来てくれた心優しい寅に身を任せたくなる。
そうでなくても彼女にとっては、寅が赤い鼻緒の下駄をくれた時から、気になっていた人なのだ。
彼女のその夜の変化に寅もさすがに気づく。
緊張感がスクリーンに漂う空前絶後のシリアスな場面である。
このシリーズの最初で最後の『危ういシーン』である。
第27作でも似たようなシーンがあるが、あの時のふみさんは泥酔して寝てしまう。
第44作でも同じように似たような場面が出てくるが、あれは聖子さんは半分『おちゃらけ情念』、
しかしこの第29作は、『しらふの情念』がスクリーンを支配している。




                 





かがりさんは二人っきりになった時から寅を強く意識している。
寅は冗談一つ言えなくて、緊張感が続く。寅は逃げの一手で早々とあてがわれた部屋で、
布団に入るが、かがりさんは、それでも寅の寝ている部屋に入ってくる。
窓を閉め、電気を消し、寅の横で彼を待つ。寅は寝たふりをして、それに応えようとしない。
かがりさんは、寅が寝たふりをしていることを女性の動物的カンで察知している。
それでも寅は金縛りにあったように目を開けない。座って待つかがりさん。
遂に動かない寅を諦め、かがりさんはそっと部屋を出て行く。


彼女の清楚な雰囲気からは、想像できないような女性の情念が音もなくほとばしるのを
私は息を飲んで見ていた。
月光の青白い光の中に燃えるような情念を隠し持つかがりさんの心。
山田監督と高羽さんは、かがりさんの足首を映し続けることによって、
彼女の隠された気持ちを見事に表現していた。



この作品のかがりさんは、しらふである。
お互い独身で、かがりさんを密かに気に入っている寅にとっては
嫌がる理由はほとんどなにもない。住所不定であろうが収入が不安定であろうが、
生涯の伴侶としての『決意』と『覚悟』さえすればいいだけである。
一緒に住むということは基本的には『この女性と死ぬまで共に人生を歩もう』という気持ち
だけである。しかし、寅はそれがどうしてもできない…。

このシーンによって寅の限界が以前よりかなり露出してしまったのだ。
このような怖気づく安全パイな寅はある意味私にとってはほっともしたが、
心の奥ではやはり切なく哀しくもあった。

翌朝、寅がタヌキ寝入りをしていたことをうすうす見抜いていたかがりさんは、
ちょっとそっけない受け答えをして応対する。それでも、いざ別れの時になると、
女性としての情念が再燃し、別れを惜しむ彼女がそこにいた。
寅は昨晩の絶望感が癒えぬまま、「また風が丹後に吹いてくることもある」などとごまかし、
それこそ逃げるように柴又へ帰っていくのだった。
とにかく伊根での寅は笑わないのである。


今度という今度は寅は大きなダメージを受けたに違いない。
柴又にたどり着き寝込んでしまう寅。これはいわゆる『恋の病』でなく、
もっと深い寅の挫折感をともなう絶望のような波が寅を飲み込んでいったのではないだろうか。
山田監督はリリーやふみさんの時にはあやふやで終わらせた女性に対する寅の『性』の問題を、
この第29作によってさらに深く追求してしまったのだった。




               
                       
                


                  

そして、遂にかがりさんは柴又に追いかけて来る。怖いくらい真剣な目をして。



              




これはまるであの、お能の『道成寺』で有名な『安珍と清姫の物語』ではないか。


「法華験記」や「道成寺縁起」などによると「安珍清姫の物語」はこうである↓。


平安中期、紀伊国牟婁郡真砂の家の娘(清姫)は、熊野詣での途中で宿を借りた
僧侶の安珍を見て恋に落ちる。
安珍恋しさのあまり、清姫は安珍の寝床に夜這いをかけて告白する。
安珍は、なんとかその一途なまでの情念をそらそうと、嘘をつき、その場をごまかす。

参詣の帰りにはきっと立ち寄るからと騙って、参詣後は立ち寄ることなく行ってしまった。

待てど暮らせど安珍は戻ってこない。
騙されたことを知った清姫は怒り、狂ったように髪を振り乱し裸足で走り続け
安珍に追いつくのだ。しかし安珍は再会を喜ぶどころか逃げ腰で、人違いだ
と嘘に嘘を重ね、逃げ出そうとするのである。

不誠実な安珍に清姫の怒りは爆発し、遂に蛇身に化け日高川を渡り、安珍を飛ぶように
追いかけ、道成寺に逃げ込んだ安珍を鐘の中に見つる。清姫は鐘に巻き付き、
遂には火を噴いて安珍を焼き殺してしまうのであった。
安珍を滅ぼした後、清姫は蛇の姿のまま入水自殺する。

蛇道に転生した二人はその後、道成寺に現れて供養を頼む。
住職の唱える法華経の功徳により二人は成仏し、
天人の姿で住職の夢に現れた。

この二人はそれぞれ熊野権現と観世音菩薩の化身であったのである、と
法華経の有り難さを讃えて終わるのだ。



かがりさんの一途さはこの「清姫」にも通ずる怖さがある。


私は彼女の消えることのない激しく燃える内なる情念にまたもや息を呑んでしまった。

もうわけが分からなくなり限界を遥かに通り越してしまい、頭がパニックになった寅。

最後はもっともやってはならないことをしてしまったのだ。
つまり、満男をつれてかがりさんとデートをしてしまった。
性的な問題はともかく、今回は白昼に普通に男女がデートするという事すらできない寅だった。
こうなると物語は急速にしらけて行く。しかし、そうでもしないと、この情念の物語は終わりが
なくなってしまうともいえる。ま、どおせ、寅が一人で会いに行ってもかがりさんの手も握れなかった
ことは明白なわけだし、私に言わせれば、それはそれでそういうプラトニックな愛し方が
あってもいいと実は思っている。

ともあれ、幸い、かがりさんの気質は「清姫」ではなかった。ほっ(^^;)

だいたい性的なことを抜きにしては愛が語れないというのも、なんだかつまらないし、
ロマンチックじゃない。性的なことは男女の根本だなんて言って、そんなものにこだわり続けると、
時として潤いが無くなり、貧困な感覚だけが残ってしまうからだ。

しかし、それでも鎌倉へはあえて寅を一人で行かせ、
もう少し緊張感が続く演出にして欲しかった、とちょっと思ってもいる。


「私が会いたいなあと思った寅さんは、もっとやさしくて、
楽しくて風に吹かれるタンポポの種みたいに自由で気ままで…。
 …あれは旅先の寅さんやったんやねえ。今は家にいるんやもんねえ。
あんな優しい人たちに大事にされて…」


このかがりさんの言葉は、第11作「忘れな草」でいみじくも
リリーが泣きながら訴えた言葉と重なっていく。

しかし、彼女の孤独と寅の孤独の差は、私に言わせれば、大したことはない。
リリーの背負っている孤独とは絶対に違うのだ。
あの伊根の家族や彼女のまわりの結びつきを見る限りでは、彼女はさほど孤独でも
不幸せでもはない。ラストの彼女の生き生きした顔をスクリーンで見た時私はそう確信した。

彼女には居場所があるのだ。




                 







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鐘の音と共に旅立った蝶子さん


2007年2月21日寅次郎な日々 その287


(ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



蝶子さんはまろやかな人である。
寅が髭を剃ってもらっている時の至福は何ものにも
変えがたい貴重な時間だったに違いない。

そして蝶子さんは出会いを待っている。

いつか、もう一度あの店の鐘がチリンとなって
あの男性が店に来てくれて
「オレと一緒に暮らさんか」とまた言ってくれたら
一緒に暮らそうと本気で思っている不思議な女性。

あの風吹ジュンさんの、にこやかな笑顔を見たら
ああ、この人ならそういうこともあるかもな、と思ってしまうから
不思議だ。

もっとも、それを聞いた泉ちゃんは

「男の人を待っているなんてや、幸せが男の人だなんて
考え方も嫌い。幸せは自分でつかむの」

って満男に言っていた。

しかし、そんなことを言っていた泉ちゃんは、結局自分の感覚を曲げて、
お母さんを安心させようとして、受身的に恋愛感情のないまま結婚を
してしまう。人生はなかなか思うようにはならない。

もっとも、そのような泉ちゃんの結婚をぶち壊したのはみなさん
ご承知の満男。満男の発作的な妨害がなければ泉ちゃんの
人生はどうなっていたのであろうか…。

それはそれで、津山で結構円満な夫婦生活を送ったと
も考えられるが、私はそんなに簡単にはいかないと思う。
青春期を通して深く愛した人への想いはいつまでも
引きずるものだからだ。




一方の蝶子さんは、もう一度例の男の人が鐘をチリンと鳴らして
現れて、本当に二人して結婚してしまったのだ。


動物的勘をフルに使った蝶子さんは、見境がなく行動したように
見えてもギリギリでは人を見る目は冷静だったと思う。
そして、なんだか今は幸せな暮らしをしているような気がする。

もちろん、蝶子さんは、寅のことを憎からず思ってはいたが、
寅の方は例のごとく逃げ腰になるからどうしょうもない。

それでも蝶子さんは失恋の痛手に耐えながらも、フットワークは
忘れていなかったわけである。ただの『待つ女』ではないのだ。

彼女はほんとうに風のように爽やかで涼やかな人だ。
あの魅力は他のマドンナじゃ出せませんよ〜(^^)

寅と二人で歌う「港が見える丘」シーンなどの息の合い方は
リリーや、朋子さんと比べてもまったく遜色はない。
私の個人的な『マドンナベスト5』にもしっかり入り込んでくるのだ。



           





宮崎県串間市 石波海岸の南、

幸島(こうじま)の浜



蝶子「♪あなたとふたりで

  来た〜丘〜は、…





寅も歌に入って



寅と蝶子「
♪港が見える丘〜…。

  色あせた桜ただひとつ、

  さみしく咲いていた〜






寅の涼しい目。



蝶子さんの可愛い日傘。


肌色のカーディガン




お互い目を見て微笑みながら歌っていく。





               



そしてまたふたりとも海を見る。



何度見てもこのシーンはいいねえ〜。







食玩 『男はつらいよ.シリーズ』から『帝釈天参道』はこちらから

 『帝釈天参道』は拡大しても見れます






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食玩『男はつらいよシリーズ』から『帝釈天参道』
 

2007年2月19日寅次郎な日々 その286


(ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


先週は柴又のある大きな団子屋さんが発売している
食玩 『男はつらいよ.シリーズ』のから『朝日印刷』(ガム付き)
を紹介したが、今回は同じシリーズの『帝釈天参道』を紹介しよう。

帝釈天参道は全部で
5つのパーツに分かれるらしい。それぞれはめ込み式
になっていてつまり5つのパーツが全て集まり、はめ込むと、きれいなひとつの帝釈天参道が
できあがるというわけだ。それぞれガムが4個ついていて一箱一パート380円。
もちろん箱を開けるまでどのパートが入っているかわからない。『朝日印刷』が入っていたり、
『とらや(くるまや)』が、入っていたりするから、なかなかうまく集まらないのだ。
食玩なので前回同様お菓子屋さんやコンビニやスーパーでも買える。

内容は以下の通り。

@大和家さんと木屋さんでひとつ。(参道のポールと提灯、お巡りさんと猿付き)

A江戸家さんととらや(くるまや)さんでひとつ。(通行人たち、おばあちゃん付き)

B川千家さんと亀家さんでひとつ。(自転車に乗る人付き)

C題経寺山門と参道でひとつ。(樹木。御前様と源ちゃん付き)

D鐘撞き堂と喫茶店ロークでひとつ。(寅次郎付き)



ちなみにDの鐘撞き堂と喫茶店ロークは『シークレット』と言って、滅多に箱に入っていないらしい。
だからCまではすぐに集まるのだがDはなかなか出会えないということらしい。
@からCまでだけでも、それなりに楽しめるがDが加わるとより完成度が増す。

Dは1ダースの食玩に一つしか入っていないので、『大人買い』で手に入れるのが
確実な方法だということ。

ちなみに『大人買い』とは、店の人が1ダースの箱を開ける前に、倉庫に行って、1ダース丸まる
買わせてもらうことを言うそうだ。子供ではできない、いかにも大人がやりそうなだから
そう呼ぶのかな。

それぞれ参道の店は、裏から部屋の中が見れるようになっていて、中のお客さんや店員さんの
様子などが分かるらしい。結構凝っている。

今回横に置いてあるのは『あずき味のガム』とのこと(^^;)


『シークレット』も含めた5つのパーツを全て揃えたあと合体させて完成した状態という設定で
ご覧下さい。今回は実物よりも少し小さめだそうだ。

いつの日か食玩の『とらや(くるまや)』を紹介するかも分からない。しかしこればっかりは私でなく、
息子が気まぐれで描いているので、催促するわけにはいかない。自然に任せるのが一番。




あ、当たり前ですが、前回同様こんなものは本当はデタラメですので、コンビニで探さないで下さい。
この世に全く存在しませんから。どこでも作っていませんし、どこに行っても売っていません(^^;)


                       クリックすると拡大して見れます↓

             


             イラスト:龍太郎



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一男さんを心から愛していた礼子さん
 

2007年2月16日寅次郎な日々 その285


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いきなりですがここで問題です。
このシリーズの
物語の中で姉妹共々マドンナになった人たちがいます。
誰と誰でしょう?
わかりますか?わかったら読み進めてください(^^)



第43作「寅次郎の休日」


泉ちゃんのママである礼子さんは、一応このシリーズのマドンナということになっている。
みなさんは礼子さんの妹も一応マドンナだったって知るだろうか?そう、あの「佐賀のおばちゃま」の
寿子さん(檀ふみさん)だ。あの二人は物語上れっきとした実の姉妹。そして礼子さんの
ひとり娘の泉ちゃんも一応マドンナ。なかなか凄い一族なのである。



          



寅は、あの色っぽいママと泉ちゃん探しの旅にでるのが嬉しくてしょうがないようであったが、
泉ちゃんのママは心の奥では本気で夫(一男さん)に戻ってきてほしそうだった。

「私は水商売なのでお酒も飲むしタバコも吸うがあの人を裏切るようなことだけは決してしたことがなかった。
でもあの人は他に好きな女性がいることをずっと長い間隠していた」とブルートレインの中で嘆くのである。
一男さんの真面目で正直なところが大好きで一緒になったのに、一番大事なことで嘘をつかれていた
と悲しみに泣き暮れるのである。

一方日田で泉ちゃんはパパに再会し、考えたあげくパパへの説得を諦める選択をする。

その後、寅や満男と一緒に泊まった日田の温泉旅館でママにそのことを伝えるが…。


礼子「パパと別れてくれってその女に言ったの?」

泉「言えなかった…」

礼子「どうして?」

泉「…、パパ、幸せそうだったから…」


泉ちゃんのその言葉に、なにも言わずに呆然と沈んでいく礼子さん。



         



この時の彼女の横顔ほど悲しい顔はなかった。こんな辛い絶望の表情をしなくては
ならないマドンナがこのシリーズで他にいただろうか。


礼子さんは号泣し、激しく嗚咽し、収拾がつかないくらい心が乱れてしまうのである。
この礼子さんの心乱れるシーンは凄まじく、それはとりもなおさず、一男さんを未だ
深く愛している証でもあったのだ。

これまた、この長いシリーズの中で、人を深く愛していることをこれほどストレートに
激しく表現したシーンは他になかったように思う。
夏木マリさんの迫真の演技が今も生々しく記憶に残っている。あの人はいい女優さんだ。



         



礼子さんの切なく悲しい純情をまざまざと見た日田市天ヶ瀬温泉の夜だった。







付録:食玩 『男はつらいよ.シリーズ』から『朝日印刷』(ガム付き)は、こちらから



付録:第49作寅次郎花へんろの台本」の絵はこちらから





 
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走り、そして間に合った美保さん
 

2007年2月15日寅次郎な日々 その284


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第37作「幸福の青い鳥」



父親を長い患いの末亡くした後、筑豊の住宅で独り芸者をしてひっそりと暮らしていた美保さん。
彼女は少女の頃、「大空小百合」の名前で旅役者をしていた。
寅がその昔、ひいきにした坂東鶴八郎(第37作では中村菊之丞)一座の花形だったのだ。
座長の坂東鶴八郎は実の父親。その大空小百合ちゃんと9年ぶりに筑豊の寂れた町で再会する。


             
車先生!                      寅さん?  
        →  


あの「車先生」と寅を呼んでいた可愛い娘が、今は「寅さん」と呼ぶ大人の女性になったのである。
かつて熱烈な大空小百合ファン(岡本茉利さんファン)だった私としては、そのキャラの変わり様に
それはないよと、この時ばかりは山田監督を恨めしく思ったが、時の流れとはひょっとして
そういうものかもな…と、静かに思いかえしもした。

心が淋しい美保さんは東京に出てきて寅に一目会って、もう一度話をし、筑豊に帰ろうと
していたのだが、寅やさくらたちの応援で、柴又の中華食堂「上海軒」で働きながら
とらやの2階で生活するようになる。

「寅さん、いつもこうやって大勢でご飯食べるの?」美保さんは嬉しそうである。

彼女はさくらにそっと言う「みんなの待つ家に帰ってくるのは嬉しい…」と。
小さい頃から小学校を50回も転校し、父親が亡くなってからの孤独な人生は
もう辛くてしかたがなかったのだろう。矢も盾もいられなくなりとらやへ来てしまったのだ。



           




そんな美保さんは、ふとした縁で親しくなった、画家を志す青年健吾に惹かれていく。

しかしお互いすれ違いが重なり、意地を張ってしまう。
健吾はとらやの店で別れの言葉を告げて柴又駅に走り去っていくのだ。
しかし、本当は美保さんも健吾もお互い相思相愛。

この流れはあの第1作「男はつらいよ」のさくらに想いを告げ、立ち去って
行く博の姿に重なるシーンだ。
そして美保さんは、ギリギリで健吾を全力疾走で追いかける。

それは、まるであの第1作で博を追いかけ柴又駅に走るあの日のさくらのようだった。


そのきっかけになったのは寅の言葉とさくらの優しさ。

寅「話は後で聞く、さ、すぐ追っかけて行きな」

美保「でも…」

寅「おまえはあの男が好きだし、あいつはおまえに惚れてるよ。
 オレから見りゃよぉくわかるんだ」


そして、さくらは自分の体験を踏まえて真剣な顔でこう言うのである。


さくら「お兄ちゃんのいう通りよ。もしほんとにこのまま別れ別れになったらどうするつもり?」


          



さくら、はっと気づいて、サイフを取り出し、小銭を美保さんの手のひらに渡し、


さくら「これ、おつり。渡してあげて、…さ、」と美保さんを優しく押し出す。

全力で走っていく美保。

美保さんが行ってしまった後、下を向き淋しい気持ちを隠せない寅。


さくらが美保さんにおつりを渡す時の顔は優しくきらきら輝いてほんと素敵だった。
私はこの時のさくらが大好きである。私はあのようなさくらを見ては毎回さび付いた
垢だらけの心を洗っているのだ。
やはりさくらは人の人生を変える力を持っている。


         



かつて

出て行った博と走り追いかけるさくらがいた。

そして今、

出て行った健吾と走り追いかける美保さんの姿。


17年の歳月を経てまた柴又駅ホームで新しいふたりのドラマが始まるのである。



      
   博に追いついたさくら                  健吾に追いついた美保
           
 

悲しい別れのドラマが圧倒的に多いこの柴又駅ホームの物語の中で、数少ない恋の成就
は、あの第1作と、この第37作だけである。やはり感慨は深い。


それにしても美保さんは偉い。寅に会う前に、何度もとらやに電話して寅がいるかどうかを
確かめている。何の連絡もなしに突然訪ねてくる多くのマドンナより、よっぽどきちんとしている。
さすがあの礼儀正しく真っ直ぐな気性の坂東鶴八郎(中村菊之丞)座長の娘さんである。






付録:食玩 『男はつらいよ.シリーズ』から『朝日印刷』(ガム付き)は、こちらから



付録:第49作寅次郎花へんろの台本」の絵はこちらから





 
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人生を覚悟した小諸の真知子さん
 

2007年2月14日寅次郎な日々 その283


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真知子さんと言っても式根島の小学校の先生ではない。
第40作「サラダ記念日」の小諸病院の女医さんのほうの真知子先生である。


寅と出会ってその日のうちに「末期医療」についての悩みを寅に打ち明ける。
もちろん寅は意味が分からず笑わせるだけ(^^;)
真知子先生の悩みはそれだけではない。小学生の息子さんを東京の母親の
元に預けたままになっているのである。


「雲白く遊子悲しむ」を地で行く寅との語らい、静かなひと時。


山で亡くなった夫にどことなく顔の輪郭が似た寅との恋愛は最後まで淡い状態のまま
終わってしまうが、私にとって、それよりもその直後、彼女の医師としての生き様の一瞬の
変化が印象的だった。


物語の終盤、寅と縁があったおばあさんが長年住み慣れた家で死ねずに
小諸病院で亡くなってしまったこともあって真知子先生の悩みはピークに達する。
しかし、これは寅が助言できる領域ではない。




          



そして遂に院長に小諸病院を辞めることを申し出るのである。



「しばらく自分を見つめ直したい、先のことをじっくり考えたい」と
申し出た真知子先生を院長は真剣な顔で一喝するのだ。


院長「自分を見つめたいか…、結構ですねえ。寅さんの言葉を借りるなら、
  結構毛だらけ猫灰だらけだ。その程度のことで辞められたら、医者が
  何人いたって足りませんよ。こういう土地じゃね。

  いいですか、この病院はあなたを必要としている、
  それが何よりも大事なことで、あなたが抱えている問題などはたいしたことじゃない。

  子供と会いたければ呼び寄せればいい。
  悩み事があるのなら働きながら解決すればいい。
  そうやって苦しみながらですね、この土地で医者を続けていくことが、
  自分の人生だってことに、あなたど、どうしてその確信が持てないん…ですか。

  東京の郊外のお母さんの家で花でも眺めながら休息の日々を送る。そのうち縁談が
  あって、瀟洒な病院の奥様に納まる。
  そんな人生があなたにとって幸せなんですか。…ちっとも幸せなんかじゃない!」


  院長を見つめる真知子先生。



  看護婦がドアを開けて、患者の様態の急変を告げる。


  席を立つ真知子先生。


  この短い時間で彼女はすでにこの地で生涯医師を続ける決意に溢れた目をしていた。
 一瞬の間に人の言葉に感動し、自分の人生を丸ごと変える。
 これは優れた能力を持った人間だけが成し得る瞬発力と決断力だ。ここのところが
 真知子先生はやはり秀でている。院長の語る哲学は、さすが人生の達人という感じだが、
 それに真正面から反応した真知子先生は凄い。


  後期のこのシリーズの中では珍しく、人生に深く踏み込んだシリアスなカットだった。



             



 子供を一人で育てながら医師を続けている人はいくらでもいる。また、逆にいくら院長のこのような
説得を聞かされても決断できない人もたくさんいるのである。

人間は新しい行動をする時、前もってやらない理由とやる理由が密かにその心に用意されている。
そして、実際は、やらない人はやらなかった後で、やらない理由のリストの中から適当にみつくろって
それを自分の言い訳にする。
やる人も同じようにやる理由を実際はあとで適当に自分の心のリストから選んで、勝手に納得する。
本当は、理由が最初にあるのでなく、意外にも生理的な『行動』が先にあるのである。

結局、自分の人生の扉を開ける人は蹴飛ばしてぶち壊してでも開けるということである。

真知子先生は、おそらく全てのハンデや苦悩を抱えながら、人生の扉を蹴飛ばし、それでも
だめなら体ごと体当たりでぶち当たって扉を壊して開けていったに違いない。

彼女はこの時、長い人生で、もっとも大きな決断をしたのだった。
寅が人生の中でどうしてもできない「決断と覚悟」を、真知子先生は一瞬の間に行った。

見る前に飛べ、だ。


寅が出る幕はここにはない。



             



その頃寅はもう旅の空にある。



『旅立ってゆくのはいつも男にて

カッコ良すぎる背中見ている。』







食玩

付録:2007年2月11日アップ


食玩 『男はつらいよ.シリーズ』から『朝日印刷』(ガム付き)




今日も息子は夕方遅くに帰ってきてなにやらPCにチョコチョコと絵を描いていた。
聞いてみると、映画の一場面のようだが、どうも違う感じだ。聞いてみると、柴又の
ある大きな団子屋さんが発売している
食玩「『男はつらいよシリーズ』から『朝日印刷』」を描いたらしい。
私は食玩のことはよく分からないが、これはどうやらお菓子についてくるこじんまりしたジオラマ風の
おもちゃだということだ。まあ、ジオラマの建物をもっと小さくしたと思えばいいのかな(^^;)
食玩というくらいだからお菓子は入っているのかと、聞くと、4粒ほどのヨモギ味(^^;)のガムが
透明袋の中に申し訳程度に入っているそうだ。食玩ゆえにコンビニで気楽に買えるとのこと。
税込みで380円だそうだ。『朝日印刷』以外にも、
『とらや(くるまや)』『帝釈天参道』などが
あるらしい。なお、ガムはヨモギ味以外に、きなこ味、あずき味、磯乙女味があるそうだ(^^;)

ちなみに2階の窓から向こうを眺めているランニングシャツの男性は第1作でさくらに憧憬の目を
向けていた博だそうだ。あの時のうら若きさくらに恋焦がれる博の切ない心が息子にも分かるの
だろうか(^^)


あ、以上、この話題はすべて息子の妄想ですから。実際はこんな食玩どこも作ってませんし、
発売もしてません。コンビニに行ってもそんな物ありません。あくまでもイラストの世界です。

誰も間違わないって 
ゞ( ̄∇ ̄;)



では「箱から出したらこんな感じ」、という設定でお楽しみください。これは実物大だということだ。↓
隣にあるのはヨモギ味のガムです。


                     クリックすると拡大して見れます。

           クリックすると拡大して見れます。




チャンチャン。

2月10日付録:第49作寅次郎花へんろの台本」の絵はこちらから





 
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心に泉が湧き、蘇生した隆子さん
 

2007年2月13日寅次郎な日々 その282


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第39作「寅次郎物語」


寅「かあさん、これからどうするんだい?」

隆子「小さな車に乗って、八木、五条、橋本…、
   そんな旅がずーっと続くの…。

寅「ん…、かあさんも旅人なんだな」


かつて、網走の波止場でリリーが口ずさんだように隆子さんも、リリーも、寅も、
流れ流れの渡り鳥なのだ。



          




寅や秀吉とのひと時の擬似家族に喜びを感じ、寅と再び会うまで男断ちして待っていると笑っていた
隆子さんは突然泣き崩れる。
自分の抑圧していた潜在意識が遂に外に出てきたのだった。

隆子「私、粗末にしてしまったのね、大事な人生なのに、ウウウ…」

寅「大丈夫だよ。まだ若いんだし、な、これからいいこといっぱい待ってるよ。な」

隆子「
そうね、生きててよかったぁー…、ウウウ、そう思えることがね

隆子さんのこの言葉は、物語のラスト、柴又駅前での満男の問いに対する寅の答えに繋がっていく。


結局、隆子さんも、寅やリリー同様、『同士』なのだ。惚れたハレタというよりも、お互いの悲しみを
分かり合い、慰めあう仲である。自分の悲しみの底を分かり合えると感じた寅だからこそ隆子さんは
自分の過去の錆を全て寅の前で吐露し、号泣もする。


実は、隆子さんはこのシリーズのマドンナの中でも特別つらい人生を背負っている。
秀吉の寝顔を見て彼女はこう言う。

隆子「私にもこんな子供がおったんよ。可哀想におろしてしもたけど…」



このように、彼女にはこのシリーズのどのマドンナにもない、取り返しのつかない
悲しい過去があるのだ。そして、それを聞く寅にも、そして秀吉の父親般若の政にも
同じように取り返しのつかない過去と人生がある。


寅は安宿で般若の政の位牌を取り出し、彼と自分の破滅的な人生をこう嘆くのである。


寅「釈善政か…、フン、何が『善』だい、フフフ…、悪いことばっかりしやがって、
  どーせ今頃は地獄の針の山かなんかでもってケツかなんか刺されて『イテテテテ』
  なんて言ってんだろう。フ…。

 どんな人間でも取り得がある。悲しまれ惜しまれ死ぬんだよ。
 おまえが死んだって、悲しんだのはおめえ...サラ金の取立て人だけだったっていうじゃねえか、
 ったくもう…情けねえな…。たった一度の人生を、どうしてそう粗末にしちまうんだ。え?
 おまえは何のために生きてきたんだ?

 なに?てめえのこと棚にあげてる?? あたりめえじゃないか、そうしなきゃ、こんなこと言えるかい」
  



              



般若の政の人生は、そっくりそのまま実は寅の人生でもあるのだ。寅は自分に向かってしゃべっている。
そして今これを書いている私自身も寅の言葉を借りて辺境の地に棲む自分の無為で真っ暗闇な人生を
振り返っている。



ともあれ、あの徹夜の看病の翌朝、隆子さんは人生の中で秀吉と共にもう一度蘇生したのだった。


隆子「あーよかった、助かった…。そう思った時に、あの子の命だけじゃのうて、自分の命まで
   取り返したような…。胸の奥から冷たくて、きれえな水が、音をたてて溢れてくるような…、
   そんな幸せな気持ちがしてね…、フフ…」





しかし、それもつかの間、やはり別れの日は来る。

寅や秀吉と別れたあとの大和上市駅ホームに残る隆子さんの表情には孤独の陰が色濃く宿っていた。
あの顔は寅がマドンナとホームで別れた直後に見せる正にあの孤独だ。これはほんとうに辛いものだ。
旅人の辛さは独りでいる時の孤独にあるのではない。そんなものは慣れる。やはり人との別れの直後の
辛さこそが耐え難い試練なのだ。私も旅人の端くれ、この辛さがただものでないことは熟知している。
しかし、この耐え難い辛い別れだけが旅を奥深くし、人間を鍛え、焼きを入れることも自明である。
そして旅人は次の新たな出会いに向かってまた歩み始めるのだのだろう。





            









付録:2007年2月11日アップ


食玩 『男はつらいよ.シリーズ』から『朝日印刷』(ガム付き)




今日も息子は夕方遅くに帰ってきてなにやらPCにチョコチョコと絵を描いていた。
聞いてみると、映画の一場面のようだが、どうも違う感じだ。聞いてみると、柴又の
ある大きな団子屋さんが発売している
食玩「『男はつらいよシリーズ』から『朝日印刷』」を描いたらしい。
私は食玩のことはよく分からないが、これはどうやらお菓子についてくるこじんまりしたジオラマ風の
おもちゃだということだ。まあ、ジオラマの建物をもっと小さくしたと思えばいいのかな(^^;)
食玩というくらいだからお菓子は入っているのかと、聞くと、4粒ほどのヨモギ味(^^;)のガムが
透明袋の中に申し訳程度に入っているそうだ。食玩ゆえにコンビニで気楽に買えるとのこと。
税込みで380円だそうだ。『朝日印刷』以外にも、
『とらや(くるまや)』『帝釈天参道』などが
あるらしい。なお、ガムはヨモギ味以外に、きなこ味、あずき味、磯乙女味があるそうだ(^^;)

ちなみに2階の窓から向こうを眺めているランニングシャツの男性は第1作でさくらに憧憬の目を
向けていた博だそうだ。あの時のうら若きさくらに恋焦がれる博の切ない心が息子にも分かるの
だろうか(^^)


あ、以上、この話題はすべて息子の妄想ですから。実際はこんな食玩どこも作ってませんし、
発売もしてません。コンビニに行ってもそんな物ありません。あくまでもイラストの世界です。

誰も間違わないって 
ゞ( ̄∇ ̄;)



では「箱から出したらこんな感じ」、という設定でお楽しみください。これは実物大だということだ。↓
隣にあるのはヨモギ味のガムです。


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チャンチャン。

2月10日付録:第49作寅次郎花へんろの台本」の絵はこちらから





 
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281


                          
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往きは三人 帰りは二人 四人ならばと温泉津駅。
 

2007年2月11日寅次郎な日々 その281


(ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。




先日このコラムで紹介させていただいた、浜松のKさんが昨日、前回と同じく、作品ごとに、
それぞれの物語やマドンナの
ことなどを「啖呵売」風、つまり七五調の言葉に乗せて、
美しく綴られた文章「覚え歌」の2回目を送ってくださった。
今度は第11作「忘れな草」から第20作「寅次郎頑張れ!」まで。





ものの始まりが一ならば、寅とリリーの始まりは、
夜汽車、あばしり、入船出船。
会えば別れる旅人同志、つなげる心「忘れな草」に。




続いた数字が二。
兄さん今度は家にいて、待つ身の気持ち 分かったでしょ。
分かってほしいの「私の寅さん」、苦悩和らぐ心のパトロン。




続いた数字が三。
往きは三人、帰りは二人、四人ならばと温泉津駅。
寅が歌子の背を押して、頑固親父も揺さぶって、
皆の幸せ叶えても、花火のような「恋やつれ」。




続いた数が四つ。
よしよし、よい子だ「子守唄」、おばちゃんつかの間夢を見た。
夢をつかんだヒゲの弥太、寅にも欲しいよ、あの覚悟。


五つ、いつもの旅じゃない。リリーもパパもあたたかい。
すったもんだで「相合傘」に、宿った二羽の渡り鳥、
つがいの、巣作り、夢なのか。




六つ、娘も雪のよう。母に想いをはせる夜。
朝(あした)に学ぶ「志(こころざし)」、「立」てて夕(ゆうべ)に恋心、
己(おのれ)知ってか寅次郎。




七つ、名前で七万円、名声天下に極めても、尽きぬ後悔、人の道。
帰り道、「夕焼け小焼け」の赤とんぼ、ぼたんの涙 美しい。




八つ、やさしいさくらでも、やっぱり怒るよ、別所では。
人は何故、死ぬのかしらと、問う君は、今日の命を、恋に燃ゆ。

          ___純情詩集より__




九つ、急にリヤカーで、大洲の「殿様」柴又参上。
民主主義で、若殿寅次郎、露と消え。




十で、とうとう とらや飛ぶ、度肝抜かれた大爆発。
他人(ひと)の恋、取り持つことより、「頑張れ」よ。






さすがにKさん。今回もどの歌もそれぞれの物語を実に深く噛み砕き、
そのエキスを選ばれた美しい言葉に託しておられた。
やっぱりなんともいえない味わいがあるなあ…。
とりわけ私が好きだったのは下に書いた4首。



往きは三人、帰りは二人、四人ならばと温泉津駅。
寅が歌子の背を押して、頑固親父も揺さぶって、
皆の幸せ叶えても、花火のような「恋やつれ」。

「四人ならばと温泉津駅」がなんとも泣けます(TT)。実に上手いです。
物語の機微を熟知しているゆえの冴えですね。
人に愛を与えることだけを神様から業のように授けられた寅の
やるせなさが『皆の幸せ叶えても、花火のような「恋やつれ」』の部分に
切なく出ていてしみじみいいですね。




          




五つ、いつもの旅じゃない。リリーもパパもあたたかい。
すったもんだで「相合傘」に、宿った二羽の渡り鳥、
つがいの、巣作り、夢なのか。

第15作の持っている明るさとテンポ、高揚感、そしてつかの間の
二人の休息と蜜月を優しい言葉で綴られていて、なんだかなごみます。




         







六つ、娘も雪のよう。母に想いをはせる夜。
朝(あした)に学ぶ「志(こころざし)」、「立」てて夕(ゆうべ)に恋心、
己(おのれ)知ってか寅次郎。

これは傑作だと思います。
抜群のリズムと匠の技。そして見事な切れ味。なんともいえない叙情感。
いや、なによりもこの第16作「葛飾立志篇」の真髄を言い切っているところが凄い。
余韻が心にいつまでも残ります。
「己知ってか寅次郎」…寅の恋の哀しみまでがひしひしと伝わってくるようです。
いいですねえ〜。寒河江の雪さんが大好きな私はこの歌は特に気に入りました。




           





八つ、やさしいさくらでも、やっぱり怒るよ、別所では。
人は何故、死ぬのかしらと、問う君は、今日の命を、恋に燃ゆ。
               ___純情詩集より__


これは前半で笑わせて、後半でいやもう泣かせますねぇ。
綾さんの最後の日々、寅と共に過ごせた彼女の密かな幸せをKさんの
この短い言葉から静かに感じ取りました。胸に迫るものがあります…。
『今日』と『京マチ子』さんをかけてあるのがさすがです。





           






それにしても、『十で、とうとう とらや飛ぶ、』には大笑いしました(^^)



ちなみにKさんの、この十作台の「覚え歌」には、短い「独白」が最初に
書かれてある。下にご紹介しよう。

『こんなワタクシにも、十代なんて時分がございました。
ついたアダ名が「キツネ」に「下駄」「カバ」なんてネ。
ロクなもんじゃござんせん。』



十作台と十代をかけて、寅のアダ名でクスッと笑わせてくれる(^^)






Kさんの歌を読ませていただいて今回も感じたことは、言葉って大事だなあ…、
ということでした。言葉の中には宇宙があるんですね。



第21作以降も気長に待ちましょう(^^)




Kさんの覚え歌バックナンバーはこちらです。

覚え唄
@「いとしい人は旅の夢、りんどうこぼれる寅の夢」

覚え唄A「往きは三人帰りは二人 四人ならばと温泉津駅」
覚え唄B「見下ろす江戸川去りし夢」
覚え歌C「枯葉降る庭 眺めつ逝きたし」








食玩

付録:2007年2月11日追加


食玩 『男はつらいよ.シリーズ』から『朝日印刷』(ガム付き)




今日も息子は夕方遅くに帰ってきてなにやらPCにチョコチョコと絵を描いていた。
聞いてみると、映画の一場面のようだが、どうも違う感じだ。聞いてみると、柴又の
ある大きな団子屋さんが発売している
食玩「『男はつらいよシリーズ』から『朝日印刷』」を描いたらしい。
私は食玩のことはよく分からないが、これはどうやらお菓子についてくるこじんまりしたジオラマ風の
おもちゃだということだ。まあ、ジオラマの建物をもっと小さくしたと思えばいいのかな(^^;)
食玩というくらいだからお菓子は入っているのかと、聞くと、4粒ほどのヨモギ味(^^;)のガムが
透明袋の中に申し訳程度に入っているそうだ。食玩ゆえにコンビニで気楽に買えるとのこと。
税込みで380円だそうだ。『朝日印刷』以外にも、
『とらや(くるまや)』『帝釈天参道』などが
あるらしい。なお、ガムはヨモギ味以外に、きなこ味、あずき味、磯乙女味があるそうだ(^^;)

ちなみに2階の窓から向こうを眺めているランニングシャツの男性は第1作でさくらに憧憬の目を
向けていた博だそうだ。あの時のうら若きさくらに恋焦がれる博の切ない心が息子にも分かるの
だろうか(^^)


あ、以上、この話題はすべて息子の妄想ですから。実際はこんな食玩どこも作ってませんし、
発売もしてません。コンビニに行ってもそんな物ありません。あくまでもイラストの世界です。

誰も間違わないって 
ゞ( ̄∇ ̄;)



では「箱から出したらこんな感じ」、という設定でお楽しみください。これは実物大だということだ。↓
隣にあるのはヨモギ味のガムです。


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チャンチャン。

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朋子さん、生涯の失恋
 

2007年2月10日寅次郎な日々 その280 


(ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。






石橋朋子さんはこのシリーズで、数少ない車寅次郎に全身全霊で恋をした女性である。
それ以外では千代さん、リリー、がいる。みなさんは、他にもぼたん、ふみさん、
かがりさん、りん子さん、蝶子さん、葉子さんなどなど何人もいるではないか、というのだろうが、
彼女たちはやはりどこか淡く、想いがイマイチあやふやだ。結婚まで真剣に考えていた
と思える人はこの長い歴史の中でも限られるのである。

つまり、真剣に寅との結婚を現実の中で考え、寅に対する自分の愛情を何らかの形で直接
はっきり伝えたのは、千代さん、リリー、そしてこの朋子さんだけである。





             





「なんと言いますか…、美しさの中に知性を秘めたと言いますか

これは、朋子さんに遭った後、博がとらやで呟くセリフ。

さくらが横にいても自分の感想を、堂々と言える博。私は博のそういう真摯なところが好きだ。
さくらも博との繋がりが深く強いため、他の独身女性を彼が褒めても平気なのである。
(ぼたんの時若干もめてはいたが(^^;))


博が言うように美人で聡明な朋子さん。そして何よりも、とても家族想いで、温かな心が
映画を見ている私たちの気持ちをも和らげてくれるようだった。


そんな朋子さんが、柴又駅ホームで、悲しみで潤んだ目をし、首を横に振った時、私たちは彼女の
『本気』に気づき寅動揺愕然となるのである。

今回のマドンナとの相思相愛の別れは私にとってこのシリーズでもリリーとの別れ同様、最も悲しく、
後にまで想いが残ってしまうものだった。それほどまでにこの二人には「物語
」が存在したのだ。
一緒に一つ屋根の下で暮らし、寅は働いてもいたのだ。
その上、彼女の父親、弟、そして弟の恋人ら
との喜怒哀楽を寅も同時に体験したからである。つまり短いながらも彼女の住む高梁の家が寅の心の
住処になっていったからである。さらにはハンコ屋、タクシー運転手たちに代表されるように町の人々とも
関係が深くなっていくにつれ、高梁の町自体が寅の第2の居場所、故郷となって朋子さんと寅の恋を応援して
いたからである。


物語の終盤で朋子さんがとらやに訪ねてきた時、私たちはまるで寅の身内がとらやに訪ねてきたような
錯覚に陥るのはそのせいである。つまり寅はさくらたち家族のものでもあり、実はすでに朋子さんたち
家族のものでもあったのだ。
だからこそ余計あの柴又駅ホームの別れがいつにもまして切ない。





              




それにしてもこの頃の竹下さんは美しい。あらゆるマドンナの中で渥美さんとの相性が浅丘さんに
匹敵すると言われる竹下景子さん。
渥美さんは、競演中、ずっと竹下さんのことを「お嬢さん
と呼び、実に仲がよかったそうだ。
実際スクリーンを見ても、竹下さんと渥美さんは最初から最後まで見事に息がピタッ!と合っている。
山田監督もそのことを感じたからこそ、後に竹下さんをもうあと二度もマドンナに起用するのである。
浅丘さんを除いて、三度出演したマドンナはもちろん竹下さんだけである。



山田監督はこうして絶妙の寅の『居場所』をこの物語で作ることに見事に成功したのである。
この『居場所』設定の効果はこの後、第38作「知床慕情』に受け継がれていく。この時のマドンナも
竹下景子さん。山田監督がいかにこの第32作で大きなヒントを得たかが窺い知れるところである。





とは言っても、さすがに今回の朋子さんは、このシリーズの
中で、最もこの寅の神経症の大きな犠牲になり、
最も深く傷を負った女性になってしまったと言えるだろう。
悲しみの深みに入ってしまったという意味ではリリー以上である。

なぜなら、彼女には寅は最愛の恋人であると同時に、
なによりもすでに彼女のかけがえのない家族でもあったのだから。

恋人としての別れ。

そして家族としての別れ。


彼女の傷はやはり深い。おそらく彼女にとって生涯の失恋だったかもしれない。



この長いシリーズの中で、リリーは別枠として、私が、『寅となんとしても別れては
ならない運命的な出会いをした女性』という感覚を持ったただひとりの人。
それがこの朋子さんだった。それほどにも切なく悲しい別れだった。当時映画館で
この作品を見終わった後も彼女のその後が気になってしょうがなかった覚えがある。


ただひとつの救いは、第48作「紅の花」で満男が朋子さんのことを奇しくも話題に出した時、
「再婚したよ、とっくの昔に」と、寅が言っていたことだ。

その後、朋子さんが手紙を出したのか、さくらたちが父親の法事の時に再婚のことを
聞いたのかはわからないが、長い歳月のあと、寅のことは懐かしい思い出に変わり、
今はもう新しい幸せの中にいるのかもしれない。


そうであることを切に願っている。



              







台本
2007年2月10日追加


昨日息子が「第49作寅次郎花へんろ」の台本を書いていた。
書いていたと言っても台本の中身を書いていたわけではない。
「台本」を描いていたのだ(^^;)
この台本を見開いて、心行くまで脚本をスミからスミまで読んでみたいものだ。
ちなみにこの台本は山田監督所有のものらしい。それで、「山田」と書いてあるのか。
なるほどである。テープで補修したり丸めたりして相当使い込んであるなあ。芸が細かい。




       











 
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さすが歌えば燦然と輝く『はるみさん』
 

2007年2月10日寅次郎な日々 その279 


(ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。




渥美清さんは都はるみさんのファンである。これは本人が言っているから間違いない。
渥美さんにしてみれば「旅と女と寅次郎」で遂に長年の夢が叶ったって感じかもしれない。

しかし、はるみさんは当然演技の修練も修羅場も経験が浅いので、スクリーン上では
見ている私たちにとっては若干の違和感が付きまとう。

都はるみさんがそのまましゃべっているというイメージのまま物語は進んでいく。
もちろん、物語の中でも、恋に悩む大スターの京はるみが失踪し、寅と旅の途中で知り合い、
心を休め、新たな気持ちでもう一度恋人とのことをやり直そうと決意するのである。
実際、都はるみさんは、この映画の直前に引退を発表し、放映の1年後、ほんとうに
一旦引退してしまうので、あの映画は、そのことを考慮した山田監督が現実とシンクロするように
脚本を書いたのであろう。

だからはるみさんは別段演技をするまでもなくそのまんまでいればよい、と思われる方も多いとは
思うが、実はそれはちょっと違う。

役者は相手の演じ手が役者の「気」になっていないと、役者とは絡みきれないのである。
いみじくも主役のマドンナを張るかぎりは、私素人ですからではやはり済まないのも事実である。
スクリーンにほんのちょっとでてくるチョイ役ならかえって新鮮味が出ていいのだが、あれだけの
セリフと重要な役回りではあまりにも荷が重いのである。渥美さんの精一杯のリードにも
かかわらずやはり違和感は残る。ここにこの作品の一番のつらさがある。

しかし、さすがはるみさん、本編で歌を歌う数々のシーンでは、水を得た魚のように、見事に生き返る
のである。特に「惚れちゃったんだよ」を歌うシーンは惚れ惚れする声と居場所に戻ってきた
ような晴れやかな表情で、スターとはこのようなものか…と、今更ながら思い返すと同時に凄い!と、
納得もしてしまった。



           




それでは、すべての会話のシーンは失敗しているかと言えばそうでもない。

特に佐渡ヶ島でのはるみさんと寅のなんともいえないかけ引きは、渥美さんの天才的なリードも
あって、見事な高揚感にまで持っていっているから面白い。




          






本編出色のあの伝説のギャグ『とうもろこしギャグ』がこの作品の一つのヤマ。
あのギャグでの渥美さんとはるみさんの2人の『間』は最高だった。
佐渡でのお忍びバカンスも宿屋の夜で最高潮を迎えるのである。
そして遂に寅がはるみさんの正体を見破ったと思いきや…。



寅「どっかで見た顔だなあ…」

はるみ「…、そお?」

寅「まえ、オレと会ったことなかった?」

はるみ「会ってない」

寅「会ったなあ…、なんかしょっちゅう会ってた感じだなあ…」


寅、テレビを見て


寅「あ、…!思い出した」


はるみ「……」


寅「去年、岐阜の千日劇場…、」


はるみ「……」


寅「あそこの前でとうもろこし焼いてたろ。こうやって…」



        




と、両手でとうもろこしを焼く真似。


はるみ「ううん、焼いてないよ」


寅「人間違いかァ〜」


う〜〜ん、見事な『間』である。



はるみさんはこの翌年の第35回NHK紅白歌合戦を最後に引退した。
しかし、CALLING天職というものは本人が歌から逃げても、歌が本人を逃がさないのである。

はるみさんは2007年の今日もスターとしてステージに立っている。




最後にもうひとつ。実は、この第31作は「予告編」もすばらしい。
弾けるようなテンポの良いいはるみさんの曲に合わせて次々とスクリーンを
暴れまわる寅。この「予告編」はシリーズ全体の中でも傑作である。

はるみさんの歌『惚れちゃったんだよ』のリズムに見事に乗って、『寅のパン食い競争の練習』や
『東芝ウォ―キーを聴きながら歩く寅』『たらい舟でひっくり返るベンガルさん』などが実に上手い!
次々にギャグのハイライトシーンが映し出されていく。
なによりもこの『惚れちゃったんだよ』を歌うはるみさんの声が冴えている。
当時確実に美空ひばりさんと並ぶ日本一の歌い手のひとりだったことがよくわかる。

そして、船での別れのシーンで今度は「涙の連絡船」の三番!

この曲に合わせて二人の別れ、とらやでのドタバタなどが次々に現れ、
最後に波止場での寅の叫ぶ姿で終わる。文字通り息つく暇もない活きのいい予告篇である。

この作品の「予告編」には本編以上の感動が潜んでいるといったら、怒られるだろうか。


 
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清楚さの中に潜む色気  蛍子さん
 


2007年2月8日寅次郎な日々 その278 


(ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


 
もうご存知の方も多いと思うが、先日ちょっと時間をかけて2005年から2007年1月までの
「寅次郎な日々」のカテゴリー化を計った。前々から要望があったのだが、生来の怠け気質が災いして、
なかなか着手しなかったが、なんとかえっこらしょっと作ってみた。
(今後も1ヶ月ごとにカテゴリーに新しい文章を足していきます。)

作ってみると、我ながらこれは便利である(^^;)
見てくださる方々にとっても、これがあるといきなりピンポイントで読むことができて楽なのではないだろうか。
まあ、いくらすぐに読むことが出来きても、所詮駄文であることは同じなので、そこは全くトホホなところ(^^;)ゞ

しかも、こうしてジャンルに分けると、私が怠けている部分が見事に露出してしまうからさらに怖い(TT)
特に、マドンナのカテゴリーを見ると、あれれ?全員のことが書かれていないことが判明。ああー…(TT)。
毎回発作的に思いついて書いてきたせいもあってリリーのように何度も書いているマドンナもいれば、
まだ一度もメインで書いていないマドンナもいる。さきほどチェックしてみたところ11人がメインで書かれていない。
(聖子さんのように、名前はタイトルについていなくても「吉田日出子」さんで書いていたりする場合はOKとした。)

蛍子さん、はるみさん、朋子さん、りん子さん、久美子さん、隆子さん、女医さんの方の真知子さん、
泉ちゃんのママの方の礼子さん、蝶子さん、葉子さん、典子さん。と11人もいる。
これはもちろん興味が無いから書かなかったわけではない。
だいたい、私の個人的な好みから言っても(以前にこのコラムでも書いたが)朋子さんや蝶子さんなどは
マドンナベスト5に入る。つまり書かないなんの理由も無く、ついつい書かなかっただけである。
素の女優さんとして見た場合なんかは田中裕子さんなどは「役者」としては私にとってピカイチだ。

このサイトの「作品紹介」や「予告篇」や「本編」覚え書きの中でもすでに彼女たちはあちこちで
登場しているのですっかりこんがらがっていた。

と、いうわけで今日からしばらくは数日置きに今までメインで書かなかったマドンナさんをちょろちょろっと、
気持ちのおもむくままに適当〜ぉに書いてみましょう。


今日は蛍子さん。






清楚さの中に潜む色気  蛍子さん


第30作「花も嵐も寅次郎」は豪華である。あのジュリーこと沢田研二さんと田中裕子さんが競演されて
いるのだから凄い。おふたりがこの競演を境に急激に恋仲になり、すったもんだの後で結婚されたのは
みなさんご承知の通り。

彼女のあのぞくぞくする魅力はナンだろう。
私はもし自分が人生でたった一度映画監督をすることができたら、そして主役の女優さんを
起用するとしたら、夏目雅子さんか田中裕子さんしか頭に浮かばない。
彼女たちに合わせた物語を私は作るだろう。

このお二人は共にその体の中に二つの相反する魅力を兼ね備えられている。
清楚さと妖艶さである。いかにも清楚という方はたくさんいるし、いかにも男好きする感じの方も
枚挙にいとまがない。しかし、このお二人は見た目は清楚で中性的でさえあるが、心の中に
燃え盛る炎を感じる。押さえきれないような激しい情を感じるのだ。そしてその立ち姿に「華」がある。
CALLING、天性の女優さんだ。私にとって田中裕子さんといえば、この翌年に出演したあの三村晴彦監督の
「天城越え」である。あの映画を見た人は、彼女の中にある怖いくらいの純情と魔性の両方に震えたと思う。
近年でも「いつか読書する日」や「火火」でも静かな生活の奥底に燃え盛る炎を見事に演じられていた。
特に「いつか読書する日」の田中さんは心の奥の奥に誰にも見られないように情念を隠し持つ人を演じていた。
もう彼女以外誰もあの役はできない。いや、彼女のための映画だと言い切っていいと思う。


この第31作でも蛍子さんの友人のゆかりさんが寅に、
「ほら、へんな色気があるでしょう、この人」って言っている。
やはり山田監督もその魅力を強く感じていたのだろう。監督はそれから14年後、第49作「寅次郎花へんろ」で、
おそらく寅の最後になるであろうマドンナとして田中さんを再度起用したのだ。
結局それは夢と終わってしまったが…。


物語の中盤から三郎青年と蛍子さんを結ばせるためにひたすら奮闘する寅。山田監督は寅に
シラノ.ド.ベルジュラックのごとく、我が想いを隠し、ひたすら若い二人の恋を援護射撃させるのだ。
そして遂に三郎青年は谷津遊園の大観覧車の中で彼女に告白しキスをする。



                




そして、彼らの恋が成就したことを知った寅は、なぜだか淋しげに旅に出てしまうのであった。


最後に、寅がさくらに言った言葉がこの物語の本当のメインである。


寅「さくら…」

さくら「なあに」

寅「やっぱり二枚目はいいなあ…、ちょっぴり妬けるぜ…」


            




その言葉を聞いて呆然と寅を見つめるさくら。


            


やはり、寅は心の奥底で蛍子さんのことが好きだったのだ。


このさくらと寅の表情がなんとも切なく美しかった。



これがあるからこの映画はやめられない。

 

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277


                          
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いとしい人は旅の夢、りんどうこぼれる寅の夢
 


2007年2月5日寅次郎な日々 その277 


(ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



私の本編は、だらだら長く、トイレットペーパーのようだと常々
自嘲しているのだが、その逆に、本編を短い選ばれた言葉で
表現するのは実は大変難しいことなのである。難しいので書きたくても
書けないのだ。

なかなか、これはできない。ちょっと長い散文は書けても、俳句や
短歌は難しいのと同じだ。

私の仕事である絵もそうだ。チマチマした写実は時間と持続力さえあれば
なんとかアベレージまで持っていけるが、冴えのある簡潔なタッチが生きる
リズミカルな絵はなかなかできるものではない。優れたセンスが必要なのだ。


以前から私のサイトをご覧下さっている熱烈な「男はつらいよ」ファンである
浜松のKさんが、作品ごと(1作〜10作まで)に、それぞれの物語やマドンナの
ことなどを「啖呵売」風、つまり七五調の言葉に乗せて、響きよく、短く、頭に
入りやすいように綴られた文章「覚え歌」を作られた。そしてそれを昨日送ってくださった。

Kさんは自室に「男はつらいよ」の過去のいろいろなポスターを飾り、
寅さんワールドを日常の空間に作り上げられている筋金入りのファンさんだ。




それは、珠玉の言葉で綴られたリズミカルな美しい詩とも言える文章だった。
驚きそして感動した私は、さっそく、私一人のものにするのではなく、このサイトを読んで
くださっているみなさんにもお知らせしたくて、Kさんのお許しを得て、今回掲載することにした。
Kさんは、この文章を作る際に私のサイトも随分ご覧になられたので掲載されるのは
気恥ずかしいと謙遜されていたが、私が無理やり頼み込んで掲載させてもらった。
この言葉やリズムはKさんのセンスそのものだ。

(★それぞれの文章に必ず作品のタイトルが組み込まれています。)




ものの始まりが一ならば、「男はつらいよ」始まりは、
葛飾、柴又、帝釈天。
幸せはじまる妹さくら。失恋はじまる寅次郎。
 

「続」いた数字が二つ。
二人で泣いた京の宿。二度と貰えぬ師の説諭。
にくい思いも溶けてゆく、並ぶ母子(おやこ)の背中が弾む。
 


続いた数字が三。
三食付いた湯の宿で、「フーテンの寅」捨てるのか。
拾えぬ夢か、障子越し。


 
続いた数字が四つであります。
四つ木、高砂、「新」柴又。まわり道して江戸川へ。
四六時中、春子先生についてゆく、四角い顔のお兄ちゃん。

 

ごとん、ごとんと機関士が、油まみれで石炭を、くべりゃ汽笛も「望郷」列車。
油まみれの豆腐屋で、堅気夢見て笛吹けど、娘の想いすれ違い。
やっぱり地道にゃいきられねぇ。
 


六はろくでも、ろくでなし。
ろくに学校行かないで、フーテン暮らしの私でも、義理、人情と「純情」は
六法全書にゃないけれど、鞄いっぱい詰まってる。
頭(おつむ)の中にも詰まってる、恋しちゃいけない他人(ひと)の妻。
 


続いた数字が七つ。
七つ涙の日が落ちる。
「奮闘」努力のかいもなく、可愛いい花子は青森へ。


 
八つ、ヤクザな兄貴でも、仲間にゃ自慢の妹よ。
やっぱり美人にゃ惚れちまう、「恋歌」つづる喫茶店。
いとしい人は旅の夢、りんどうこぼれる寅の夢。
ひとり見上げる八ヶ岳。
 


続いた数字が九。
九段、牛込、神楽坂、早稲田の森のサユリスト。
苦労かけじと父思い、ゆれる心で「柴又慕情」
歌子祈るは流れ星、雲になりたい寅次郎。
 


十で遠くに甲斐の山。友の供養の墓参り。
渡世の無常、眼にしみる。
しみた一言「夢枕」 、「寅さんとなら..」とお千代さん。
千代の契りは柄じゃない。
夢に生きてる寅次郎。





どれもこれも全部すばらしいが、特に私が印象深かったのは




『二人で泣いた京の宿。二度と貰えぬ師の説諭。
にくい思いも溶けてゆく、並ぶ母子(おやこ)の背中が弾む』

これなどは、相当この第2作を深く理解していないと出てこない言葉だ。
散歩先生、そしてお菊さん…。ジーンと胸に迫り、こみあげてくるものがある。



            




 
八の


『いとしい人は旅の夢、りんどうこぼれる寅の夢』
は、第8作のマドンナと寅の決定的なすれ違いを短い言葉で
表した叙情感溢れる見事な詩だと思う。

そして晴れやかなあのラストシーンを『ひとり見上げる八ヶ岳』と簡潔に表現されている。



            



九の

『歌子祈るは流れ星、雲になりたい寅次郎』

いやもう、響きがカッコイイです。
歌子ちゃんの純情と寅の気質をセリフの中から見事に
掬い出すセンスに脱帽。



            



そして十


『千代の契りは柄じゃない。
夢に生きてる寅次郎』


人生そのものが夢であるような寅の本質をズバリタイトルやマドンナと絡めて
表現されたその筆圧に感服。



           





ああ…はやく第11作以降も読みたい。しかしこればかりはKさんの
イメージの醗酵をゆっくり待つしかない。

はい、もちろん待ちます(^^)

        

Kさんの覚え歌バックナンバーはこちらです。

覚え唄
@「いとしい人は旅の夢、りんどうこぼれる寅の夢」

覚え唄A「往きは三人帰りは二人 四人ならばと温泉津駅」
覚え唄B「見下ろす江戸川去りし夢」
覚え歌C「枯葉降る庭 眺めつ逝きたし」








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