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寅次郎な日々

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ご注意) このサイトの文章には物語のネタバレが含まれます。
まだ作品をご覧になっていない方は作品を見終わってからお読みください。



                 

今一度、故郷を発つ りん子さん。(2007、2,27)

たった一夜に懸けた聖子さん(2007、2,26)

見下ろす江戸川 去りし夢(2007、2,25)

湖畔を彷徨う哀しみの目 宮典子さん(2007、2,24)

ちょっといい大人の会話 葉子さんと寅(2007、2,23)

寅を金縛りにした情念の人、かがりさん(2007、2,22)

鐘の音と共に旅立った蝶子さん(2007、2,21)

食玩『男はつらいよシリーズ』から『帝釈天参道』(2007、2,19)

一男さんを心から愛していた礼子さん(2007、2,16)

走り、そして間に合った美保さん(2007,2,15)

人生を覚悟した小諸の真知子さん(2007,2,14)

心に泉が湧き、蘇生した隆子さん(2007,2,13)

往きは三人 帰りは二人 四人ならばと温泉津駅。&「朝日印刷の食玩」(2007,2,11)

朋子さん、生涯の失恋&第49作「寅次郎花へんろの台本」(2007,2,10)

さすが歌えば燦然と輝く『はるみさん』(2007,2,8)

清楚さの中に潜む色気  蛍子さん(2007,2,8)

いとしい人は旅の夢、りんどうこぼれる寅の夢(2007,2,5) 







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『寅次郎な日々』バックナンバー





今一度、故郷を発つ りん子さん。
 


2007年2月27日寅次郎な日々 その293


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。





第38作「知床慕情」

りん子さんは生まれも育ちも北の大地、知床のウトロ。
知床五湖で産湯をつかい、姓は上野、名はりん子。

そんな生粋の道産子だが、とにかく冬が寒い知床で青春期を送りながら、
少女のりん子ちゃんはいつもいつもストーブのそばで東京が映っているテレビを見て、
東京に行きたい。東京に行ったらすばらしい未来が待ってると憧れ続けていたのだ。

この「知床慕情」では、夏の知床しか映らないが、知床の冬はただものじゃない。
冬には流氷で真っ白になり、人も町も凍りつく。

大人になったばかりの彼女は、東京から来た男性と知り合い、東京へ行けるチャンスが
廻って来たのだ。彼とはおそらく恋愛感情があったとは思うが、それよりなによりとにかく
この知床を離れて東京へ行きたかったのだと思う。

そして、長い間の思い込みと、燃えていた愛が冷め、数年が経ち、結局男性とも別れる。
しばらくは失意のまま独りで暮らしながら働いていたが、知床がテレビに映った時、
押さえていた郷愁が噴出してしまい、もう矢も盾もたまらなくなって心を休めにウトロに
帰って来たのだ。

そして懐かしい斜里駅に降り立つ。
その直後なんと自分の実家で寅と知り合う(^^;)

寅とは相性が良いのかとてもウマが合い、惹かれ、好きにもなっていく。
寅がこのまま知床にいてくれれば、自分もこの地で頑張ろうとも思っていたのかもしれない。




              




そんな時、父親とはまなすのママ悦子さんの恋の成就の瞬間を間近で立会い、感激に胸を
震わすのだ。

しかし、それとは逆に渡り鳥の寅はあっという間に旅立ってしまった。

またもやりん子さんは一人になった。

しかし、考えてみれば、一人ではない。
精神的に一番頼っていたはまなすのママは自分の生涯の家族になったのだ。
こんな心強いことはない。彼女なら父親を任せられる。遠く離れていても3人の心は繋がっている。


今一度彼女の本当の巣立ちの時が来た。

りん子さんは、もうなんの幻想も無い東京で、こんどこそ地に足をつけて働き、社会の中で自分の
居場所を探していくのであろう。


東京での就職が決まって、とらやに再来し、自分や父親の報告をするりん子さんの表情に、
失恋の痛手はない。



              





人は何度でもやり直せる。死ぬその日まで人は人生を変えることができるのだ。









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『寅次郎な日々』バックナンバー





たった一夜に懸けた聖子さん。
 

2007年2月26日寅次郎な日々 その292


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第44作「寅次郎の告白」


聖子さんは、寅との物語がなかなか見えてこない。彼らの物語が、なんとセリフで
説明されてしまうのである。これはさすがに辛い。

あの吉田日出子さんという稀有の役者魂と存在感を持った俳優を起用しながらも、
彼女を十分には生かしきれていなかった。
彼女は使い方によっては浅丘ルリ子さんの存在感に匹敵するオーラを出せる女優さんだ。
これは彼女の他の作品の演技を見れば分かる。



                



彼女自身もこうエッセイに書いている。

「今は昔の寅さんと違って、作品の中に話が2つくらいしかなくて、それもとってつけたような話だから、
寅さんまでとってつけたような人になっちゃう。これじゃ、芝居ができないだろうなあ…、とわたしなんかは
思うんだけど、でも渥美さんは台本に素直にやっちゃうでしょ。不思議だなあ、どうしてもっと
やっちゃわないんだろうと思った。……
でも渥美さんは手を抜いてるんじゃないのよ。あんなに映画のことをよく分かっている人が台本に注文を
つけたりしないで大きな流れに身を任せてやっていく。
それもまた格好いいなあって…」




                



渥美さんのことも、この映画の大きな流れのことも全て理解して、「それもまた格好いいなあって」
と、言える吉田さんは大物だ。ただの役者バカではない。

だからこそ、元気な頃の渥美さんとの絡みが見たかった。


とはいえ、まあ、話を物語りに戻すと、
聖子さんは、その昔、二人の男に同時に惹かれ、風来坊の寅でなく、板前さんの方を選んで、
人生を失敗してしまったのだ。実はその板前さんは大変な女道楽で、いつも泣かされていたと言う。
そんな彼も釣りに行った先の不慮の事故で亡くなってしまう。

そして一年…。

ひょっこり寅が現れる。

聖子さんは、昔の自分を思い出し、今度こそ寅に寄り添おうと、決意するのだ。

そして、従業員をすべて帰し、満男たちを2階で寝かせ、自分は、寅と一夜を共有しようと
お膳立てをした。この辺はさすがに老獪。そんじょそこらのマドンナではない(^^;)
深夜、部屋を暗くして寅にべったり寄り添う聖子さん。寅はタジタジだが必死で逃げようとは
していない。

聖子さんはこの長いシリーズのマドンナの中で最も積極的に寅に迫った女性である。

これは珍しい展開になると思いきや…、覗き見の満男が階段を踏み外して…(ーー;)

もし、あの時満男が、階段で覗き見していなければ、あの二人はどうなったであろうか…。
それでも寅はジリジリと逃げたか?それとも積極的な聖子さんに遂に身と運命を任せたか。

まあ、寅のことだから、やっぱりトホホな結末なのだろう。




               




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見下ろす江戸川 去りし夢。
 

2007年2月25日寅次郎な日々 その291


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。




昨日、浜松のKさんが前々回、前回と同じく、作品ごとに、それぞれの物語や
マドンナの
ことなどを「啖呵売」風、つまり七五調の言葉に乗せて、
美しく綴られた文章「覚え歌」の3回目を送ってくださった。

今度は第21作「わが道をゆく」から第35作「恋愛塾」まで。




どうぞゆっくりお楽しみください。




21作 もののはじまりが一ならば、

    道のはじまり、日本橋。 風に吹かれて、浅草あたり。
 
    スターの歩む 迷い道、奈々子「わが道」往けるのか。





22作 続いた数字が二つ。
 
    二人の先達、諭しても 神妙なのは、出会うまで。

    憂い含んだ「噂の」美人。 ’寅さん好きよ’うれしくて。





23作 続いた数字が三。
    
    参道の とらや駆け込む ウェディングドレス。

    「翔んでる」ひとみに 頼まれりゃ ツレェとこだが 仲人よ。





24作 四つ、よく似た この二人  寅とマイケル、インポシブル。

     蝶々夫人は「春の夢」  見下ろす江戸川、去りし夢。





25作 五つ、いそいで沖縄へ 病んだリリーを 愛しむ。

    月明かり「ハイビスカスの花」浮かぶ 島唄かすか 夢の中。

    まどろんで’所帯持つか’と ポツリ言う  このまま時よ 止まらぬか。





26作 六つ、娘は東京へ 生まれて初めて暖かな 団欒楽し「かもめ歌」





27作 七つ,泣き泣き 縋(すが)っても はずされ辛い「浪花の恋」

    夫婦道ゆく おふみさん 未練断つよな 雷鳴が。





28作 八つ、やんちゃで可愛い娘 寅の’追っかけ?’愛子ちゃん。

    縁(えにし)の薄い「紙風船」 ふわふわ約束 飛んでゆく。





29作 続いた数字が九
    
    くりかえし 寄せる潮騒 光る月 想い乱れる ほの白き足

    うれしさが 変わる哀しさ 「あじさい」の花。





30作 十で とっても 迷ってる 恋なの? 愛なの? わかんない。

     「花も嵐も」踏み越えて 廻るよ 愛の観覧車。





31作 もののはじまりが一ならば おけさのはじまり 佐渡島

     「旅」の わけあり「女」には 粋でやさしい 「寅次郎」 



32作 二つの幸せ 眼の前に 「口笛吹く」ほど はしゃいでも
    息の続かぬ 悪い癖。





33作 三つ、見つけた家出妻 洗濯物干す 背に暮らし
 
    風子思って 意見して 「夜霧にむせぶ」北の街

    クマガブリ セッタパックリ トラバタリ。





34作 続く数字が四

    柴又の平和を乱す男から 己の醜さ 知る進歩
 
    寅さんに 出会った人みな 「真実」の生き方学び 「一路」往く。
   

  


35作 五つ、五島の教会で ゆきずりの人の 墓を掘る

    寅さんの「恋愛塾」では わからない 恋する女の 気持ちまで。






まず今回のKさんの歌の中で
私がなによりも心にずっしり入ったのが第29作「あじさいの恋」の歌



「くりかえし 寄せる潮騒 光る月 想い乱れる ほの白き足
うれしさが 変わる哀しさ 「あじさい」の花」

叙情感溢れる名作だと思います。胸に来ます、これは(TT)

あの110分の物語がこの短い言葉の中に美しい姿で
しまいこまれているよう。
歌の姿が見事です。文字全体から香り立つ品格に脱帽。

それにしても、
あれは寅にとって試練とも言うべきつらく悲しい恋でした。




             






第24作

私は第24作「春の夢」のマイケル(マイコ)が好き。
あの、さくらに恋をした正直で一途なおじさんがなんだか可哀想でしかたなかった。
そんなマイケルのはかない夢と幻を、

『蝶々夫人は「春の夢」  見下ろす江戸川、去りし夢』

これにはジーンと来ました。

あの飛行機が江戸川上空を通る時、さくらが土手で上を
見上げている。何も語らなくても、遠くに離れていても
なんだか二人の心が触れ合ったようないいシーンでした。




           






第25作

五つ、いそいで沖縄へ 病んだリリーを 愛しむ。
月明かり「ハイビスカスの花」浮かぶ 島唄かすか 夢の中。
まどろんで’所帯持つか’と ポツリ言う  このまま時よ 止まらぬか」

リリーと寅、二人して見た亜熱帯の夜のはかない夢の情景が目に浮かんでくる。

『このまま時よ止まらぬか』
はKさんの切なる願いであり、この歌を読む私たちの切なる願いでもあります。





            






第32作

「口笛吹く」ほど はしゃいでも 息の続かぬ 悪い癖」

うまいですねえ。口笛に対しての「息の続かぬ」がなんともうまいなあ(^^)






第33作

『三つ、見つけた家出妻 洗濯物干す 背に暮らし』

第33作のあの家出奥さんが赤ん坊を背負いながら、新しい夫とすき焼きの
話をするシーンは実は私もあの作品の中で頭から離れない印象深いシーンだ。
このシリーズ全体の中でも重要なシーンではないかと思っている。あのシーンを
抽出されたKさんに深く共感。

「クマガブリ、セッタパックリ、トラバタリ」

トラバタリはほんと笑いました。あの時の慌てようが
思い起こされて実に面白いです。
Kさんにはこういうユーモアがあるから奥深い。
私はこういう遊びは大好き(^^)






同じく笑わせていただいたのは第34作、
「柴又の平和を乱す男から 己の醜さ 知る進歩」
うまいですね〜この展開、大笑いです(^^)


寅さんに 出会った人みな 「真実」の生き方学び 「一路」往く。

「一路往く」 これは、ふじ子さんや富永課長だけでなく、このシリーズを見続ける
私たちのことでもあるんですね。うん、と頷く強く短い言葉でした。






第35作

「五つ、五島の教会で ゆきずりの人の 墓を掘る」

「ゆきずりの人の 墓を掘る」このなんでもない短い言葉の中に
寅の持っている無償の献身の人生が垣間見れる。
私はこの短い言葉がとても気に入った。
Kさんの深い感性がこの静かななんでもない言葉に表れているようでした。
しみじみといいです。



今回も、なにげない言葉、短いが強い言葉、を
じっくり噛みしめさせていただきました。


残るは13歌。楽しみにゆっくりまったり待ちましょう。




Kさんの「覚え歌」のバックナンバーはこちら↓

覚え歌
@「いとしい人は旅の夢、りんどうこぼれる寅の夢」第1作〜第10作まで


覚え歌A「往きは三人帰りは二人 四人ならばと温泉津駅」第11作〜第20作まで

覚え歌C「枯葉降る庭 眺めつ逝きたし」




「寅次郎な日々」全バックナンバーはこちらから          


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『寅次郎な日々』バックナンバー 





湖畔を彷徨う哀しみの目 宮典子さん
 

2007年2月24日寅次郎な日々 その290


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琵琶湖 湖畔

5分間、写真を撮り続ける典子さんの静かな時間をカメラは黙々と映し続ける。

この長いシリーズの中で、マドンナ一人の静かな行動をここまで長くカメラが
撮ったことは無かった。それだけこのマドンナの今の時間がいかに彼女に
とって大切かを表現していたのだろう。

「この一週間のために一年があるの」

彼女は一年に一度の撮影旅行をこう表現する。


腕を怪我して、寅と一緒の民宿で、遠くを見ながら「琵琶湖周航の歌」を
口ずさむ典子さん。

寅は、ただ黙々と団子屋を手伝う平凡なさくらと比べて、鎌倉の家の環境や写真の趣味を
持つ典子さんを羨ましいと嘆くが、それを聞いた典子さんは、なんとも哀しい目をして
虚ろに何かを考えているのだ。カメラは寅をぼかして典子さんの哀しみの目を映し続ける。

典子さんは夫婦とはいったいなんだろうかと悩んでいる。
自分と夫は果たしてほんとうに分かり合っているのだろうかと…。
もう、今やほとんど実感がないのだ。





             




暮れなずむ、琵琶湖の畔で、寅に夫婦ってなんだろうと問いかけたりもする。



             




そんな典子さんが気になっていた寅は、典子さんがとらやを訪ねたことも
あって、鎌倉の家まで会いに行くことを決意し、満男に手伝わせるのだ。


そして、そこで遠めに垣間見た典子さんの明るい笑顔。
娘さんと楽しそうに話す声。


陰で見守る寅。


寅「もうすっかり、元気になってるんだ。笑ったりなんかして。
 なあ満男、夫婦になって長い間暮らしていれば、そら、いろんなことが
 あるんだろうけどさ、お互い相手を好きになろうと一生懸命思っていれば、
 必ずなんとかなるもんなんだよな。そう思わないか満男…」


典子さんの歩むべき一筋の道を照らし出す
寅の、頼もしくも切ない大人の言葉だった。



            










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ちょっといい大人の会話 葉子さんと寅
 

2007年2月23日寅次郎な日々 その289


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第46作「寅次郎の縁談」


この作品で2度目の登場となる寅のマドンナ葉子役の松坂慶子さん。
第27作「浪花の恋」のふみさんのような艶かしい美しさではなく、
葉子さんは、破産、病気と、人生の地獄を味わった、なんともしっとりとした落ち着きのある
大人のオーラが出ていて素敵だった。

松坂さんは第27作に出演した後、彼女の最高の演技を見せた小栗康平監督の「死の棘」(90年)を
くぐっている。あの作品で、松坂さんは開眼したと、私は思っている。あの暗くて人気の無い
名作を私はもう何度見ただろうか。あのような「美」は意外にも松坂さんだけが出せる魅力なのだ。

私も40半ばになってようやくあの葉子さんの魅力がわかるようになってきた。
地獄を味わってこそ輝く人間の魅力というものはこの世にあるのだ。



           



寅と葉子さんの、大人同士のちょっといい会話


葉子「寅さんみたいな人もおるのねえ…、どうしてもっとはよう会わんかったんやろう」
寅「ほんとうに、オレもそう思う」

葉子「ねえ、なんかプレゼントさせて」
「いらねえ」

葉子「セーターは?」
「着ない」

葉子「ネクタイは?」
「締めないな」

葉子「コート」
「羽織らない」

葉子「じゃああ……、」


ちょっとうつむいて

葉子「…温泉にでも行く?」

「オレェ…、風呂へは入らねえ」

葉子「…もう!意地悪ゥ!」と寅の手をつねる。
「イタタタァ!」


このような会話が聞け、そしてさまになるのは成熟した葉子さんと晩年の寅ならでは。

寅の良さを「母の手の温もり」にたとえる葉子さん。
寅がもつ無償の献身を言葉にできる人でもあった。


この頃の渥美さんはもう限界が近いことがスクリーンからも滲み出るように
なってきてしまっているが、その分静かなたたずまいをその背中で醸し出して
いることもまた事実である。このことを見逃して、渥美さんがあまり動かない
晩年の作品を軽く見てしまうことはあまりにももったいない。
最晩年の3作品は特に渥美さんの立ち姿を垣間見ていろいろな想いをめぐらせる
醍醐味がある。あの頃の作品は寅次郎というよりも渥美清がそのままスクリーンに
滲み出ていた瞬間もあったとも思っている。

寅は時々静かな遠い目をするのである。
葉子さんは隠された悲しみを背負っている。

そのような寅と葉子さんの日々だった。


          






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288


                          
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寅を金縛りにした情念の人、かがりさん。
 

2007年2月22日寅次郎な日々 その288



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安珍と清姫の物語



かがりさんはなんとも美しい。他のマドンナにない独特の『美』だ。

しかし、その美は、朋子さんのようなほのぼのとした太陽の輝きではない。
千代さんのような可憐な輝きでもない。
また、ふじ子さんのような、男心を惑わせる魔性の輝きでもない。

もっと清楚で、もっと静かな…、そう、月光の光。それも満月ではなく、
三日月の密やかな光。しかし、それを見た人々は、その妖しい蒼白き
光に涙するのだ。


しかし、そんな彼女だが、小さい頃にもらわれて来るわ、夫には死に別れてしまうわ、
恋人の陶芸家には裏切られるわで、可哀想な運命にさらされているのである。
いや、だからこそ、あのような密やかな輝きになったのかもしれない。そんなかがりさんの
ことを寅は気にするようになっていく。

失意のまま故郷の丹後、伊根に帰ってしまったかがりさんを、寅は遠く峠を越え会いに行き、
そっとこう言うのである。

「誰を怨むってわけにはいかないんだよなこういうことは。そりゃ、こっちが惚れてる分、
向こうもこっちに惚れてくれりゃぁ、世の中に失恋なんていうのはなくなっちゃうからな。
そうはいかないんだよ」 


静かに頷くかがりさん。



その夜、かがりさんはわざわざ丹後まで自分に会いに来てくれた心優しい寅に身を任せたくなる。
そうでなくても彼女にとっては、寅が赤い鼻緒の下駄をくれた時から、気になっていた人なのだ。
彼女のその夜の変化に寅もさすがに気づく。
緊張感がスクリーンに漂う空前絶後のシリアスな場面である。
このシリーズの最初で最後の『危ういシーン』である。
第27作でも似たようなシーンがあるが、あの時のふみさんは泥酔して寝てしまう。
第44作でも同じように似たような場面が出てくるが、あれは聖子さんは半分『おちゃらけ情念』、
しかしこの第29作は、『しらふの情念』がスクリーンを支配している。




                 





かがりさんは二人っきりになった時から寅を強く意識している。
寅は冗談一つ言えなくて、緊張感が続く。寅は逃げの一手で早々とあてがわれた部屋で、
布団に入るが、かがりさんは、それでも寅の寝ている部屋に入ってくる。
窓を閉め、電気を消し、寅の横で彼を待つ。寅は寝たふりをして、それに応えようとしない。
かがりさんは、寅が寝たふりをしていることを女性の動物的カンで察知している。
それでも寅は金縛りにあったように目を開けない。座って待つかがりさん。
遂に動かない寅を諦め、かがりさんはそっと部屋を出て行く。


彼女の清楚な雰囲気からは、想像できないような女性の情念が音もなくほとばしるのを
私は息を飲んで見ていた。
月光の青白い光の中に燃えるような情念を隠し持つかがりさんの心。
山田監督と高羽さんは、かがりさんの足首を映し続けることによって、
彼女の隠された気持ちを見事に表現していた。



この作品のかがりさんは、しらふである。
お互い独身で、かがりさんを密かに気に入っている寅にとっては
嫌がる理由はほとんどなにもない。住所不定であろうが収入が不安定であろうが、
生涯の伴侶としての『決意』と『覚悟』さえすればいいだけである。
一緒に住むということは基本的には『この女性と死ぬまで共に人生を歩もう』という気持ち
だけである。しかし、寅はそれがどうしてもできない…。

このシーンによって寅の限界が以前よりかなり露出してしまったのだ。
このような怖気づく安全パイな寅はある意味私にとってはほっともしたが、
心の奥ではやはり切なく哀しくもあった。

翌朝、寅がタヌキ寝入りをしていたことをうすうす見抜いていたかがりさんは、
ちょっとそっけない受け答えをして応対する。それでも、いざ別れの時になると、
女性としての情念が再燃し、別れを惜しむ彼女がそこにいた。
寅は昨晩の絶望感が癒えぬまま、「また風が丹後に吹いてくることもある」などとごまかし、
それこそ逃げるように柴又へ帰っていくのだった。
とにかく伊根での寅は笑わないのである。


今度という今度は寅は大きなダメージを受けたに違いない。
柴又にたどり着き寝込んでしまう寅。これはいわゆる『恋の病』でなく、
もっと深い寅の挫折感をともなう絶望のような波が寅を飲み込んでいったのではないだろうか。
山田監督はリリーやふみさんの時にはあやふやで終わらせた女性に対する寅の『性』の問題を、
この第29作によってさらに深く追求してしまったのだった。




               
                       
                


                  

そして、遂にかがりさんは柴又に追いかけて来る。怖いくらい真剣な目をして。



              




これはまるであの、お能の『道成寺』で有名な『安珍と清姫の物語』ではないか。


「法華験記」や「道成寺縁起」などによると「安珍清姫の物語」はこうである↓。


平安中期、紀伊国牟婁郡真砂の家の娘(清姫)は、熊野詣での途中で宿を借りた
僧侶の安珍を見て恋に落ちる。
安珍恋しさのあまり、清姫は安珍の寝床に夜這いをかけて告白する。
安珍は、なんとかその一途なまでの情念をそらそうと、嘘をつき、その場をごまかす。

参詣の帰りにはきっと立ち寄るからと騙って、参詣後は立ち寄ることなく行ってしまった。

待てど暮らせど安珍は戻ってこない。
騙されたことを知った清姫は怒り、狂ったように髪を振り乱し裸足で走り続け
安珍に追いつくのだ。しかし安珍は再会を喜ぶどころか逃げ腰で、人違いだ
と嘘に嘘を重ね、逃げ出そうとするのである。

不誠実な安珍に清姫の怒りは爆発し、遂に蛇身に化け日高川を渡り、安珍を飛ぶように
追いかけ、道成寺に逃げ込んだ安珍を鐘の中に見つる。清姫は鐘に巻き付き、
遂には火を噴いて安珍を焼き殺してしまうのであった。
安珍を滅ぼした後、清姫は蛇の姿のまま入水自殺する。

蛇道に転生した二人はその後、道成寺に現れて供養を頼む。
住職の唱える法華経の功徳により二人は成仏し、
天人の姿で住職の夢に現れた。

この二人はそれぞれ熊野権現と観世音菩薩の化身であったのである、と
法華経の有り難さを讃えて終わるのだ。



かがりさんの一途さはこの「清姫」にも通ずる怖さがある。


私は彼女の消えることのない激しく燃える内なる情念にまたもや息を呑んでしまった。

もうわけが分からなくなり限界を遥かに通り越してしまい、頭がパニックになった寅。

最後はもっともやってはならないことをしてしまったのだ。
つまり、満男をつれてかがりさんとデートをしてしまった。
性的な問題はともかく、今回は白昼に普通に男女がデートするという事すらできない寅だった。
こうなると物語は急速にしらけて行く。しかし、そうでもしないと、この情念の物語は終わりが
なくなってしまうともいえる。ま、どおせ、寅が一人で会いに行ってもかがりさんの手も握れなかった
ことは明白なわけだし、私に言わせれば、それはそれでそういうプラトニックな愛し方が
あってもいいと実は思っている。

ともあれ、幸い、かがりさんの気質は「清姫」ではなかった。ほっ(^^;)

だいたい性的なことを抜きにしては愛が語れないというのも、なんだかつまらないし、
ロマンチックじゃない。性的なことは男女の根本だなんて言って、そんなものにこだわり続けると、
時として潤いが無くなり、貧困な感覚だけが残ってしまうからだ。

しかし、それでも鎌倉へはあえて寅を一人で行かせ、
もう少し緊張感が続く演出にして欲しかった、とちょっと思ってもいる。


「私が会いたいなあと思った寅さんは、もっとやさしくて、
楽しくて風に吹かれるタンポポの種みたいに自由で気ままで…。
 …あれは旅先の寅さんやったんやねえ。今は家にいるんやもんねえ。
あんな優しい人たちに大事にされて…」


このかがりさんの言葉は、第11作「忘れな草」でいみじくも
リリーが泣きながら訴えた言葉と重なっていく。

しかし、彼女の孤独と寅の孤独の差は、私に言わせれば、大したことはない。
リリーの背負っている孤独とは絶対に違うのだ。
あの伊根の家族や彼女のまわりの結びつきを見る限りでは、彼女はさほど孤独でも
不幸せでもはない。ラストの彼女の生き生きした顔をスクリーンで見た時私はそう確信した。

彼女には居場所があるのだ。




                 







287


                          
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鐘の音と共に旅立った蝶子さん


2007年2月21日寅次郎な日々 その287


(ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。



蝶子さんはまろやかな人である。
寅が髭を剃ってもらっている時の至福は何ものにも
変えがたい貴重な時間だったに違いない。

そして蝶子さんは出会いを待っている。

いつか、もう一度あの店の鐘がチリンとなって
あの男性が店に来てくれて
「オレと一緒に暮らさんか」とまた言ってくれたら
一緒に暮らそうと本気で思っている不思議な女性。

あの風吹ジュンさんの、にこやかな笑顔を見たら
ああ、この人ならそういうこともあるかもな、と思ってしまうから
不思議だ。

もっとも、それを聞いた泉ちゃんは

「男の人を待っているなんてや、幸せが男の人だなんて
考え方も嫌い。幸せは自分でつかむの」

って満男に言っていた。

しかし、そんなことを言っていた泉ちゃんは、結局自分の感覚を曲げて、
お母さんを安心させようとして、受身的に恋愛感情のないまま結婚を
してしまう。人生はなかなか思うようにはならない。

もっとも、そのような泉ちゃんの結婚をぶち壊したのはみなさん
ご承知の満男。満男の発作的な妨害がなければ泉ちゃんの
人生はどうなっていたのであろうか…。

それはそれで、津山で結構円満な夫婦生活を送ったと
も考えられるが、私はそんなに簡単にはいかないと思う。
青春期を通して深く愛した人への想いはいつまでも
引きずるものだからだ。




一方の蝶子さんは、もう一度例の男の人が鐘をチリンと鳴らして
現れて、本当に二人して結婚してしまったのだ。


動物的勘をフルに使った蝶子さんは、見境がなく行動したように
見えてもギリギリでは人を見る目は冷静だったと思う。
そして、なんだか今は幸せな暮らしをしているような気がする。

もちろん、蝶子さんは、寅のことを憎からず思ってはいたが、
寅の方は例のごとく逃げ腰になるからどうしょうもない。

それでも蝶子さんは失恋の痛手に耐えながらも、フットワークは
忘れていなかったわけである。ただの『待つ女』ではないのだ。

彼女はほんとうに風のように爽やかで涼やかな人だ。
あの魅力は他のマドンナじゃ出せませんよ〜(^^)

寅と二人で歌う「港が見える丘」シーンなどの息の合い方は
リリーや、朋子さんと比べてもまったく遜色はない。
私の個人的な『マドンナベスト5』にもしっかり入り込んでくるのだ。



           





宮崎県串間市 石波海岸の南、

幸島(こうじま)の浜



蝶子「♪あなたとふたりで

  来た〜丘〜は、…





寅も歌に入って



寅と蝶子「
♪港が見える丘〜…。

  色あせた桜ただひとつ、

  さみしく咲いていた〜






寅の涼しい目。



蝶子さんの可愛い日傘。


肌色のカーディガン




お互い目を見て微笑みながら歌っていく。





               



そしてまたふたりとも海を見る。



何度見てもこのシーンはいいねえ〜。







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