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お気楽コラム


寅次郎な日々

バックナンバー2006年1月分
その49〜その79まで


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『おばあちゃん』番外編(2006,1,31)

『おばあちゃん』列伝(2006,1,30)

望郷の念未だ止まず(2006,1,29)

さくらとおいちゃんの紙風船(2006,1,28)

愛子の笑顔と涙(2006,1,27)

ゴージャスなとらやの面々(2006,1,26)

おいちゃんおばちゃんのラブロマンス(2006、1、25)

寅のもうひとつの天職(2006,1,24)

予想を裏切る爽やかなラストシーン(2006、1、23)

風に揺れる洗濯物(2006,1,22)

「山が蒼くなったな…」 『幸福の黄色いハンカチ』のナベさん(2006,1,21)

絶望の淵で未来を照らす船酔い男 『家族』(2006,1,20)

長山藍子さんが語る『お兄ちゃん』(2006,1,19)

終わりなき映画の中で生きる(2006,1,18)

待ち続けたリリー(2006,1,17) 

渥美さんと寅次郎(2006、1、16)

忘れ得ぬ『故郷』の松下さん(2006、1、15)         

山田監督の感覚と反射神経(2006,1,14)

幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その9(2006,1,13)

幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その8(2006、1、12) 

幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その7(2006,1,11)

幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その6(2006,1,10)

幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その5(2006,1,9)

幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その4(2006,1、8)

幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その3
(2006、1、7)


幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その2
(2006、1、6)

幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』 その1(2006、1、5)

幸福な犬『トラ』(2006、1、4)

ああ…さくらの髪型(2006、1、3)

思い出の正月雪景色(2006、1、2)

忘れ得ぬとらやの正月(2006、1、1)



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79



                          
『寅次郎な日々』バックナンバー








『おばあちゃん』番外編      1月31日「寅次郎な日々」その79



昨日は谷よしのさん、北林谷栄さん、浦辺粂子さん、
杉山とく子さん、鈴木光枝さん、秋田の民夫のおばあちゃん、
を紹介したが、おそらく、民夫のおばあちゃんは役者さんではないのだろう。
地元の方の特別出演。これは強い!。さすがにどの役者さんでもかなわない。

そう言う意味で、このシリーズで印象深い地元のおばあちゃんをまた
思い出した。

第7作「奮闘篇」の鯵ヶ沢の花子の自宅のおばあちゃんだ。あの言葉、姿、あんな
強烈なリアリティは役者さんでは出せない。




          




もうひとつ、最後の第48作「寅次郎紅の花」で泉ちゃんが結婚式をする時の
津山の家のおばあちゃん。とにかく元気なおばあちゃんで、スタッフの話によると、
ロケに使った家の隣に住むおばあちゃんだそうだ。あまりにパワーがあるので
特別に出てもらったらしい(^^;)




          



これを書いていて、ふと先日インドネシアで見たチャン.イーモウ監督の
「単騎千里を走る」のことを、思い出した。物語のほとんどを占める中国ロケで、
高倉健さん以外は全て地元の人々を使っている。もちろん映画なんか出たことの
ない一般の人々だ。

これがすごくいいのである。言葉が全く通じない健さんの強烈な孤独とその後の
精神の昇華が、地元の人々との生の交流の中で、味わい深く、そして雄大に
描かれていた。開けっぴろげで心豊かな人々の前で健さんは、何度も心を柔らかく
していたのがヒシヒシとスクリーンから伝わってきた。健さんはあのロケをしながら
明らかに感動していたと思う。そういう目をしていた。
チャン.イーモウ監督の懐は深い。





また明日







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78



                          
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『おばあちゃん』列伝      1月30日「寅次郎な日々」その78




いつだったか、このコラムで、谷よしのさん特集をした時に、
第47作「拝啓車寅次郎様」で、谷さん扮する琵琶湖湖畔の民宿の
おばあちゃんが、このシリーズで一番おばあちゃんらしい
おばあちゃんだった、と書いたが、他の作品でも谷さんに匹敵する
おばあちゃんらしいおばあちゃんが何人か登場する。

お菊さんを演じたミヤコ蝶々さんは、お年だが、おばあちゃんと言うよりは
お母さんなので除外。


で、結局、第31作「旅と女と寅次郎」で、佐渡の吾作という民宿の
おばあちゃんを演じた北林谷栄さんを思い出す。あのおばあちゃんは
よかった。自然な演技とはああいう演技を言うんだとつくづく感じた。
「阿弥陀堂だより」の時の北林さんもよかった。あのような姿のあり方は
彼女以外では今の役者さんは誰も出来ないだろう。



           



それ以外では、今回完結したばかりの、第18作「寅次郎純情詩集」
での浦辺粂子さん。あのひと癖ある婆やさんも彼女しか出来ない技だ。



技有り!、という意味では、杉山とく子さん。第44作「寅次郎の告白」に
出てくる鳥取の駄菓子屋のおばあちゃんである。
淋しい泉ちゃんの心を察知し、夕飯を食べさせてやる眼力のあるおばあちゃん。
寅とのやり取りも絶品だ。杉山さんならではのおちゃめなおばあちゃんだった。



            




それ以外では、第40作「寅次郎サラダ記念日」での小諸のおばあちゃん、
鈴木光枝さんも、なんともいえない柔らかな、静かな日常に根ざした物腰が、
リアリティを感じさせ、印象的だった。


なお、第35作「寅次郎恋愛塾」の中で出てくる、
民夫の秋田の実家のおばあちゃんは、一言もしゃべらないが、変に凄みが
あったことを付け足しておこう。超番外編としての輝きはこの人だろう(^^;)
一度ご覧あれ。





また明日







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77



                          
『寅次郎な日々』バックナンバー
        









望郷の念未だ止まず          1月29日「寅次郎な日々」その77




2日前から書いている第28作「寅次郎紙風船」は地味な作品で
世間での評価もさほど高くないようだ。しかし、私にとってはなにかと気にかかる
作品なのである。

余命が残り少ないカラスの常こと、常三郎を見舞いに行った寅は、
その秋月の自宅の壁に北原白秋の「帰去来」の詩の張り紙を見つける。

そこには20年以上も帰りたくても帰れない人生を背負った
白秋の切実な望郷の念に託した常三郎の故郷への想いが溢れていた。



帰去来

山門は我が産土、雲騰る南風のまほら、飛ばまし、今一度。

筑紫よかく呼ばへば、恋ほしよ潮の落差、火照沁む夕日の潟。

盲ふるに、早やもこの眼、見ざらむ、また葦かび、籠飼や水かげろふ。

帰らなむ、いざ鵲、かの空や櫨のたむろ、待つらむぞ今一度。

故郷やそのかの子ら、皆老いて遠きに、何ぞ寄る童ごころ。




           




山門柳河は私の生まれ育った故郷、

雲は湧き、南風がここちよく吹く

まほろばの地だ。

ああ、最後に今一度、

あの地へ飛んで帰りたい。

筑紫よ、

この名をよべば、干満の差が激しい、

炎のような
夕映え有明の海を思い浮かべるのだ。

私の目は冒され、水辺の葦や、籠飼や、そして水かげろうも、

もう見ることはできない。

それでもいい。 帰りたい。

鵲が空に舞い、そして櫨の木が待っているあの地へ。

故郷やそのころ一緒に遊んだ子らたちも老いてしまった。

長い歳月故郷に帰らず、疎遠のままであったのに、

子供のようにこんなに思いを馳せるのはどうしたわけであろうか。 



これは白秋の気持ちであり、常三郎の気持ちであり、そして
漂白の旅を続ける寅の気持ちでもあるのだ。
そして、16年も日本を遠くはなれ暮らしている私自身の気持ちでもある。


実は、この白秋の帰去来の詩は、山田監督のお父様が、晩年、
病気で臥せっていた寝室にそっと貼られていたものだそうだ。
お父様が亡くなられて、後片付けをしている時に、初めて、山田さんは
その詩が書かれた紙に気づかれ、さすがにこの時ばかりは涙を流されたと聞く。

第28作「紙風船」は何かが隠されている気がする。




               




また明日


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76



                          
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さくらとおいちゃんの紙風船          1月28日「寅次郎な日々」その76




昨日、愛子のことを書く時に、思い出したのがこの作品の
さくらとおいちゃんの紙風船ラリーだ。

寅は満男の土産として紙風船をもって帰ってくるのだが、
現代っ子の満男は気に入らない。
それをさとられないようにさくらとおいちゃんで
「こうやって遊ぶんだよ」なんてわざとらしく取り繕うシーン。



         




この時のさくらの紙風船つきがとても可愛い。(^^;)ゞ

まずさくらがソロで10回手でつく。
そのあと
タコ社長が「薬屋の広告か?安く上げたな」
何て言ったもんだから、
おいちゃんも一緒に取り繕うはめに。
「こういうのをほんとのおもちゃと言うんだよ、懐かしいなああ〜〜〜」(^^;)
おばちゃん援護射撃 「楽しいねえ〜」(−−;)

で、おいちゃんさくらとラリーし始める。
「ほい」 「はい」

満男「こんだけ?」

おいちゃん、すかさずラリーしながらも、
満男の頭をぺチッ!と叩き、また紙風船をつく、という
D難度の技を披露(^^)

よく見てないと見逃すほどに速い!



         
 風船をついた瞬間に満男の頭をぺチ
         



さくらも紙風船をラリーしながら同時に
「お兄ちゃんお茶にする?」
と、寅に聞く。
しかも笑顔を絶やさないで。
これもD難度の技(^^)

結局9回連続のラリーに成功!

しかし、バカにしていた満男もソロで
そのあと10回も手でついて遊んでいた。

やっぱり子供なんだね(^^)

もちろん寅。それは全て見抜いてしまう。

寅「わたくし、これで失礼します」(^^;)




チャンチャン。



また明日






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75



                          
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愛子の笑顔と涙           1月27日「寅次郎な日々」その75


第28作「寅次郎紙風船」の愛子は18歳の家出娘。
彼女のキャラは凄い。すさまじいと言ってもいいだろう(^^;)

とにかく寅と一緒に相部屋で寝ようとするのだから。前代未聞である。
寅とのやりとりがもう絶妙である。笑いが止まらない。


愛子「何考えてんの今?
寅「ねえちゃんと同じことだよ」
愛子「いやらしい!」
愛子「あ。。。いや、アハハハ!!キャハハ!!」

第6作「純情篇」のアレンジギャグだが、愛子が
演じると一段と滅茶苦茶になる。
足をバタバタさせもう暴れ放題だ。

テキヤの商売も結構上手。サクラもバッチリこなす。
船越パパやリリーも顔負けの名サクラだ。



         


もう、思ったことなんでも言う。
「でもさ…あの人人妻でしょう…、不倫の恋じゃない、そういうのは」

       


テキヤ仲間の常三郎の余命がいくばくも無いことを知った寅は
落ち込んでしまうが、そんな寅の心を笑って吹き飛ばしてしまうのも
明るい愛子だ。

愛子「何考えてんの?」
寅「人の一生についてよ…」
愛子「ブハッ!…ククク!」
寅「なんだ、可笑しいか?…」
愛子「ハハハ!ガラじゃないわよ、ムツゴロウが眠ってるような顔して、ハハハ!」
寅「ハハハ、ねえちゃん、今夜は飲むか!」



そんな愛子も、淋しい心を持っている。
家では誰も相手をしてくれないのだ。
頼りの腹違いの兄は遠洋漁業でずっといない。


その遠洋漁業の腹違いの兄貴がとらやに愛子を連れ戻しにきて店で大喧嘩。

そして大泣き

兄貴「愛子、なんでオレの気持ちわかんないんだよ!」

愛子「だって、兄ちゃん…家にいないじゃないか…いつもォ…ウエエエエン!!」

幼いころのさくらの気持ちを代弁するような愛子の言葉だった。




           




ラストで寅は愛子に会いに行く。


兄貴の遠洋漁業の出港に立会い、
寅「酒もするなー!博打もするなー!可愛い妹が待ってるぞー!」
愛子「ハハハ!」
愛子「兄ちゃーん!、お兄ちーゃん!!」と笑いながらも別れの涙を流す愛子。


愛子はさくらで、さくらは愛子なのだ。




           





ちなみに、愛子のこの黄緑花柄ハンテンは、第24作のさくら、第26作のすみれちゃん、第34作の寅、
にも同じものが使われている。第37作でも満男の部屋の椅子にかけてあった。なんと5作品で別々に
使われている!人気者のハンテンだ。


   
         第24作」         第26作     
  第34作
                 





チャンチャン。



また明日


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74



                          
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ゴージャスなとらやの面々      1月26日「寅次郎な日々」その74




さくらが、夢の中でいろいろカッコいい役をしているのに
おばちゃんは、あまりさせてもらえない。
そういえば博やおいちゃんなんかも同じ。タコ社長にいたっては
タコの役までしていた(TT)


しかし、たった一度、彼らが華やいだ一瞬があった。

もちろん『夢』ではあるが、第20作「寅次郎頑張れ!」で
社長の仕事が大成功し、みんな成金になるのである。

いかにものカッコ(^^;)、とはいえ、たまにはこういうのもしたいんじゃないかな。
満男まで、どこかのぼっちゃん小学校の制服を着ていた。


さくらは、さすがに綺麗…。うっとり( ̄ー ̄)


          
           




おばちゃんは特にゴージャス。

ご存知のようにおばちゃんは第4作「新男はつらいよ」で派手なハワイ行きの
服を披露した時も観客はどよめいていたが、それ以来の快挙である(^^;)



           




寅はもちろん、自分の思い描いているとらやがあとかたもなく
消えたことにショックを受けて慌てふためくのだった。

でも、夢だから、大丈夫(^^)

    


ちなみに寅もさくら同様、さすがに主役ゆえに、なんだかんだといっても
夢の中ではカッコいい役が多い。

ダントツ渋いのが、第15作「寅次郎相合い傘」のキャプテンタイガー、
第16作「葛飾立志篇」のタイガーキッド、そして第18作「寅次郎純情詩集」の
アラビアのトランスだ。そのほかまだまだ盛りだくさんだが、そのことはまた後日。



チャンチャン。



また明日

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73



                          
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おいちゃんおばちゃんのラブロマンス       1月25日「寅次郎な日々」その73






このふたりはもう出来てた。


二人で浅草でデートした。

帰り道に雨が降ってきちゃった。

駒形橋の袂に親戚のおじさんの家があり、

そこで雨宿りをした。

いつまでたっても雨が止まない。

おじさん「もうしょうがないからおまえたちここへ泊まっていきなよ」

おばちゃん「いいえ、私達まだ結婚前だから…」


粋なおじさんの計らいで

若い二人は二階の座敷で二人っきり。

雨がザーって降って

雷が突然ゴロゴロ!
    
おばちゃんキャー怖い〜〜!!

あの太った体でもってカマキリみたいな
おいちゃんに「キャ〜〜〜!!」って抱きついちゃった。



第32作でおばちゃんは寅のこの発言に対して口からでまかせだよ。
って言ってたが、まんざら嘘でもなさそうな雰囲気だった。




それから数十年経った1983年に同じように雷が鳴って
同じように全体重乗っけてキャーー!!

しかしその時のおいちゃんの反応は


「 やめろ、気持ち悪い 」 (^^;)




              
キャー                       やめろ、気持ち悪い
             




三崎さん、こらえてください。演出ですから…(TT)



また明日

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72



                          
『寅次郎な日々』バックナンバー            








寅のもうひとつの天職         1月24日「寅次郎な日々」その72






寅の生業は「テキヤ」である。時々「行商」とか「露天商」とも言われる。
おいちゃんやおばちゃんは、あまりいい顔はしないが、なんだかんだ言っても
これは寅の天職である。実に巧い。

特に啖呵バイの口上の口跡のよさは天下一だ。
お客さんの心を掴むのも実に巧み。


それ以外の職業も出来ないわけではないが、根気が無いので、
いわゆる毎日働くと言うような正業というものにつけないのである。

それでも、時として、その旅先で、目の醒めるような活躍を垣間見ることが出来る。

第3作「フーテンの寅」の番頭さん。第5作「望郷篇」の豆腐屋さん、などである。

なかでも、第32作「口笛を吹く寅次郎」での臨時の「お坊さん」役はそれはたいしたものであった。
みんなの心をぐいっと惹き付けるのだ。(^^)





               





結局、寅は人と話す仕事が向いているのだろう。お坊さんというのは人に物を売る仕事ではない。
人が話しに耳を傾ければ、それで成功だとも言える。いわゆる『法話』は寅の得意技なのだ。
もちろん歴史も仏教も何も知らないし、お経もほとんど読めないので、全部自己流ではあるが、
笑いながらも、人々は寅の話しに感動するのではないだろうか。

寅は人生の達人だ。お坊さんというのは人生の達人でなければ務まらない。



                   
 さくらに合図する寅
               




しかし、その後が悪かった。

朋子さんと婿養子結婚したいばかりに、本格的にお坊さんの修行を御前様に
申し出て、たった3日で逃げ出してしまったのだ。

結局、寅は瞬間的にいい仕事はできても、継続的にはできないのだろう。



怒ってとらやにやって来た御前様は「煩悩が背広を着て歩いているような男」「3日間で逃げ出すしまつ」と
寅を批判する。

おいちゃんそれを聞いて余計なことを言ってしまう。


3日坊主とはこのことですね


御前様怒り爆発!

みんなで反省…m(
 _ _ ;)m




                   
冗談を言ってる場合ですか!
               
          




やっぱ、寅ってテキヤしかだめかなあ〜…


明日はおいちゃんとおばちゃんのラブロマンスでも書こうかな…(^^;)



また明日

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71



『寅次郎な日々』バックナンバー           







予想を裏切る爽やかなラストシーン          1月23日「寅次郎な日々」その71




このシリーズのラストはいつも意外性を帯びている。
代表的なものとしては、第25作「寅次郎ハイビスカスの花」などが上げられる。

今回もそうくるかな…、と見せておいて、全く違う方向に展開をするラストシーンがよくある。
そのパターンで一番意外性を持ったラストが待っている作品が第13作「寅次郎恋やつれ」の
ラストシーンである。


マドンナの歌子ちゃんが大島の藤倉学園と言う養護施設に働きに行った後、歌子ちゃんは
この物語のラスト付近でとらやに暑中見舞いを出す。そしてそのハガキの最後に、

『寅さんがひょっこりこの島に訪ねて来てくれる気がします。ああ、本当に来てくれないかなあ』
と結んでいるのである。

そしてすぐ、カットが変わって、寅が生コンの車に乗せてもらって、ある海岸で降りるシーンが映る。


いよいよラストである。





              





ここで観客の誰もが、ここは伊豆の大島で、歌子ちゃんの職場の近くに寅が訪ねてきたと思い込むのである。

海岸を眺めながら、寅は伸びをする。

ああ、やっぱり、伊豆の大島で歌子ちゃんと最後に再会だ!と思っていると、寅が呼びかけ、
そして向こうから手を振ったのはなんとあの温泉津の絹代さんだったのだ。

寅は大島の歌子ちゃんでなく、山陰の温泉津の絹代さんに会いにきたのだった。





              





絹代さんは寅を、頼りがいのある優しい人だと今でも思っている。
恩人として好感を持っている。そうでないと寅にあのような手紙は
出さない。その絹代の心が寅には嬉しかったのだろう。

惚れたハレタ、振った振られた、でなくても、自分のことを思っていてくれる人が
いるということが寅にはたまらなく嬉しいのだ。そしてあの温泉津の日々の何もかもが
懐かしく、またやってきたのだろう。

それは、青森での花子ちゃんとの再会にも言えるし、対馬でのおふみさんとの再会にも言える。
今、更新中の「純情詩集」の雅子さんとの再会にも当てはまる。



寅の愛情と言うものは究極的にはそういうところに行き着くような気がする。
惚れているから会いに行く、振られたから会わない。というようなものではない。

寅がラストで絹代さんの方を訪問したことは、私にとって、このシリーズを理解するうえで
とても大事な出来事だった気がする。


寅はやっぱり人というものが好きなのだ。


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風に揺れる洗濯物                 1月22日「寅次郎な日々」その70






「男はつらいよ」の忘れがたいシーンと言えば、寅とさくらの別れのシーンをはじめ、
マドンナとの別れや、再会などが頭をよぎるが、時として、どうでもいいような実にさりげない
場面が、いつまでも頭から離れないこともある。

それが、第32作「口笛を吹く寅次郎」のラストシーンだ。

因島大橋工事現場で働く子連れのレオナルド熊さんが、職場で知り合った再婚相手のあき竹城さんを
偶然再会した寅に紹介するのだが、
このあき竹城さんの楽天性が鮮やかである。



            




彼女は第26作「寅次郎かもめ歌」でも物語のラストを明るく締めくくってくれるが、ひとつの
物語のラストを鮮やかなハッピーエンドに変えてくれるスケールの大きな役者さんである。

やはり、ハッピーエンドの女神は、あき竹城さん、そして第14作の春川ますみさんだ。

この映画のなんともいえない奥ゆかしい深みは、このような本物の役者さんがさりげなく
しめるべきところでしめていると言う点にも現れている。山田洋次監督はこのような役者さんの
力を引き出させるのが実に巧いのだ。

そしてラスト、あき竹城さんは叫ぶ

「あれー!!洗濯物とぉり込むの忘れたよぉ〜!」



そしてラストに映る風に揺れる3人家族の洗濯物。


あの風景の中にこの映画の核心がある。





            








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69



                          
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「山が蒼くなったな…」 『幸福の黄色いハンカチ』のナベさん      1月21日「寅次郎な日々」その69






渥美さんの短い出演が物語りに大きく影響を及ぼしている作品の最右翼が
『故郷』の松下さんなら、もう一つの峰は『幸福の黄色いハンカチ』のナベさん
こと渡辺係長だ。北海道 上川郡 新得町の新得(しんとく)警察署刑事係の係長
である。高倉健さんが扮する網走刑務所を出所したばかりの勇作が無免許運転で
再度しょっぴかれた時、勇作の昔の事件に絡んでいたナベさんが、助けるのだ。


もうだめだ。もう一度、刑務所行きか…。という時に、あの、渥美さんの顔がドーン!
と出てきて

「おう!島じゃないか!」

と来る(^^)



         




私たち映画を観ている観客は、この時点で、もう勇作が助かることを覚るのである。
渥美さんとはそういうオーラを持った人なのだ。あの時の勇作を見た渥美さんの目は
キラキラして、見ている私たちの心を一気に開放してくれたのである。


地獄に仏と言う言葉があるが、正にこの時のナベさんは勇作にとって地獄に仏だった。

ナベさんは勇作の奥さんの光枝さんのことも昔にすでに知ってくれているのである。
これも嬉しい。勇作のことをよく分かってくれているのが短い言葉の端々に現われていた。 


そして警察署を出る時も、さりげなく勇作を励ます。


「まあ、あれだな、辛いこともあるんだろうけれども、辛抱してやれや。えー、
一生懸命辛抱してやってりゃあ、きっといいこともあるよ…」

「なんか困ったことあったら、いつでも来いや」




         




ナベさんが警察署のドアを開け、勇作と一緒に外に出た時、
午後の爽やかな風が吹いていた。

ナベさんはこう言うのである。


「お、山が蒼くなったな」


勇作の未来を照らしてくれる一筋の光のような美しい言葉だった。



この映画の、

欽也と朱美
「勇さん、行こうや、夕張」
「行こう」

のセリフとともに、

あのナベさんの「お、山が蒼くなったな」という言葉は生涯忘れはしないだろう。

  

          





また明日(^^)










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68


                          
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絶望の淵で未来を照らす船酔い男 『家族』        1月20日「寅次郎な日々」その68




先日、渥美さんのもう一つの側面が現れていた『故郷』の松下さんの話を書いた。
主人公の民子たちの心を優しく見守っている感じが実に良く出ていて見事な冴えだった。

精一と民子と言う名前は1970年制作の『家族』でも使われている。この『家族』という映画も『故郷』と
同じく時代の波に翻弄されながらも、力強く生き抜くある家族の物語である。長崎の仁王島から北海道の
中標津までの3000キロを走ったロードムービーの広がりとドキュメンタリータッチの手法が見事に
成功し、多くの人々の共感を呼んだ映画である。




              





この映画の中で民子の赤ん坊の早苗が東京で亡くなってしまう、という大きな悲劇が起こってしまい、
一家は茫然自失のまま、魂の抜け殻のような気持ちで青森まで行き、青函連絡船に乗るのである。
その時に、ほんのひと時出くわし、短い会話を交わすのが渥美さん扮する、『船酔い男』である。



彼はちょっととぼけた味でうろうろする。現実に打ちのめされている民子たちや観客を和ませてくれる。
ただいるだけで和むのである。ああいう役をさせると実に渥美さんは天才的に巧い。




               このカットから少し民子は明るくなっていく
              

            


函館に着いた精一は悲嘆に暮れる民子にピンクのコートを買ってやる。民子はそれを見て僅かに、心が潤うのである。
そんな時に、あの、船酔い男に再び出会う。彼はすっかり元気になりラーメンをもりもり食いながら民子に微笑みかける
のである。ほとんどセリフがない場面であるが、あの時の渥美さんの笑顔を見ていると
なぜか遠くにある民子たちの
明るい未来を予想してしまうのである。


役者というものはすごいもんだと、あの船酔い男を見て唸ってしまった。彼の静かな存在感はあの映画では
とても重要だった気がする。人が持つ『楽天性』というのは結構伝染するものなのだ。




また明日(^^)




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67



                          
『寅次郎な日々』バックナンバー






長山藍子さんが語る『お兄ちゃん』      1月19日「寅次郎な日々」その67



浅丘さんの言葉


もう私ねえ寅さんを愛してたんですよ、ほんとに。
もう、山田さんに最後の時にお願いしたんです。
結婚させてくださいって、お願いしたんですけど、
…まだ50作品まで御撮りになりたかったのね…。

それでもねえ、寅さんがねえ、渥美さんが、
あの…僕いつどうなるかわからないからリリーさんと
結婚させて欲しいなってお友達におっしゃっていたことが
あるんですって…。だからそれ聞いて、
私、凄く嬉しかった…。愛し合っていたの私たち




            



渥美さんも、寅とリリーを一緒にさせたいと願っていたなんて、浅丘さんの話を聞いて、初めて知った。
こんな嬉しくて切ない話はない。リリーは本当に寅が好きだったし、寅も、最後はリリーしかいないんだと、
しみじみ思える話だった。






長山藍子さんの思い出


映画になる前に、テレビでやってたんですね、その時私はさくらをやらしていただいてたんですね。
で、テレビでは、あの、えっと、…たくさんの方が見てくださったみたいなんですけど、
ま、映画で、あの…お兄ちゃんが蘇るってことで、すごく嬉しいなあ〜って思ってたんですね。
そしたら、あの〜第5話ですね、「望郷篇」で、あの、マドンナでお声をかけていただいて、
またあの〜…とらやのみんなと会えるし、お兄ちゃんとも会えるし、あ、すっごく嬉しかったです。はい。

ライティングとかを直してる時間ってありますよね、で、そういう時に、やっぱり前にテレビの
男はつらいよをやってらっしゃる、どうだ?元気でやってる?おいちゃ〜ん!とか言ってね、
う〜んてつってねなんとかかんとか、二人で小さい声であのいろんなお話をしていた私語を。
そん時に渥美さんが、葦をぴゅっと、セットの中の葦を、取ってね、二人でこうやってあの…
川の水をこういう風にしながらお話してたんですよ。普通のお話を…。
そしたらそれを監督が見てらしたんですね。『今みたいにやってェ…』っとおっしゃって、
『え?』『その葦ね、捨てないでそのままやって…』っておっしゃって、それで二人で何か心の
通い合ったよな、通い合わないよな…フフ、とてもね、あの…素敵なシーンになりました。満月…でね。

お兄ちゃんのそばに…今度はちょっとマドンナとしていられたことが嬉しかったです…はい




            


この長山さんの言葉にはジーンと来ました。久しぶりにテレビで兄妹を演じた二人が映画で共演し、
心を通わせたなんとも温かい気持ちになれるエピソードだ。
             


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66



                          
『寅次郎な日々』バックナンバー








終わりなき映画の中で生きる      1月18日「寅次郎な日々」その66



倍賞千恵子さんの感慨


「26年間ずっと、男はつらいよ…という仕事を通じて、来ているんですけれども…。
あのー…、お兄ちゃんの渥美さん、それから…私の夫の博さんの前田吟さん、
それから、おいちゃん、おばちゃん、社長さん、私たち全部が、スタッフも
含めてなんですけど、なんか終わりのない、長い長い1本の映画を撮り続けている
っていうか、男はつらいよを通じてその中で生きている…っていう気がしています」




                




「音楽ダビングが終わって仕上げの一週間を残すのみとなります。
私たちくるまやのレギュラーたちも散っていきます。また来年…。
私たちが会うのは1年に1回。お互いに親しいのですが、普段はあまり会いません。
そのことが毎回の新鮮さと緊張感を保たせているのだと私は思っています」




倍賞さんが語ってくれた、彼らの付き合いの仕方は私にはとても意外だった。
馴れ合いや、倦怠を避けるために年に一度だけお互いが集まる。
とらやの面々の集中力はこういうところからも窺い知ることが出来るのだ。







山田監督が晩年の渥美さんを語る



「まあ一言で言えば天才ですからねえ、あのひとは、僕らの想像を
はるかに越えたあの…脳細胞の働きをしている人じゃないのかな、
だから、あの、こんどの映画なんかね、やはり、あの、渥美さんが歳とってくるとね、
少しづつこう本来の渥美さんの賢い表情がチラッチラッっと見えてきちゃうのね。

20年前、あるいはこの映画が始まった26ぐらい年前、の渥美さんてのはね、
若さでもって懸命に本来の頭の良さを
その隠してたんだなってことがね、わかるね」




                
               



また明日






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65




                          
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待ち続けたリリー    − 15年という歳月 −      1月17日「寅次郎な日々」その65


私は『寅次郎ハイビスカスの花』以来15年待ち続けた。マドンナの発表があるたびに今度は
リリーか。今度こそリリーか、もうさすがにリリーだろう、と願って祈って、天を仰いでいた。
私だけでなく、おそらくは山田組にとっても本当に待ち焦がれた最愛のマドンナだったのだ。
          
しかし山田監督が四たびリリーを呼ぶにはどうしても15年という気の遠くなるような歳月が
必要だったのであろう。タイミングというものはそういうものだとも思う。


浅丘さんは、この15年という歳月をこう語っている。

「ほんとに15年経ったんですよねえ〜」

「このお話があったときに、なんか3本目のハイビスカスで終わっておきたいなって
思いと、あー、嬉しい、ほんとは私待ってたの!と言う思いと両方だったんですが、
でも。。。お互いにみんな15年歳をとっているわけですから、それなりの寅さんや
さくらさんやとらやのみなさんや、そして…リリーさんが、15年経ってどうなったんだろう
っていう…、そういうあたしたちがあってもいいんじゃないかなっていうことで、
あの…お引き受けさせていただいたんですけれども、
あー、この組に帰ってきたんだ、っていう気がして凄く嬉しかったです」




              



「その山田さんについても全然お変わりになってらっしゃらないし、
あの〜相変わらずのエネルギーと言うかバイタイティーと言うか、粘り強さと言うか、
あー…そう言うのは本当にちっともお変わりになってらっしゃい…から、
それをずっとやってらしたと言う事は、すごいことだなあって事を
本当にしみじみ感じましたけど」




                   

                 


浅丘さんの「あー嬉しい!本当は私待っていたの!」は真実の言葉だった。
浅丘さんは待っていた。私には分かるのだ。彼女の気持ちはずっとスタンバイしていた。

最後の作品が浅丘さんで、リリーで本当によかったと心から今でもそう思う。
浅丘さんは、山田監督に対して相変わらずのエネルギーって言ってたけど、あの作品で、
浅丘さんこそが、物語に、そしてスタッフ、キャストたちに息吹を与えていたエネルギーの
源だったような気がするのは私だけだろうか。






三崎千恵子さんにとっての『おばちゃん』


「『おばちゃん、おばちゃんは、この中で生活してってくれればいいんだよ』って
こぉ〜んな難しいことはないです!いつもその言葉がね、耳の中にね、
残っているんですね。男はつらいよの芝居の中では、あの…実際にそこで生活して
いることをどう表現することのほうが凄く大変なんですよね

                 



                  




リアリティを求め続けた山田監督の感覚の核心に触れた三崎さんの言葉だった。
この簡単な言葉の持つ意味は実は深い。

               




また明日









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渥美さんと寅次郎       1月16日「寅次郎な日々」その64



おいちゃん役を演じている下條正巳さんが、インタビューで渥美さんの
演技を語っていた。


渥美ちゃんはねえ、どんな長いシーンでも、つまり、セリフをちゃーんと、
渥美ちゃんとしてではなくて、寅次郎としてセリフを入れてきてる。
セリフは寅として入ってるから、どんなアドリブでも役者渥美ちゃんと
出るんじゃなくて、寅としてのアドリブが、パッパッパッとこう、出てくる…つまり、
渥美ちゃんが役者として、こお〜…考えたんじゃなくて、寅として考えてる、
もう寅に、変な言い方だけど、寅になってセットに入ってくる。
これは非常にうらやましいし、そういう役者になりたいなあ…と、思いますねえ」



生涯を役者に賭けた下條さんならではの洞察力だ。言葉に力がある。納得。



          








一つの映画を作り続けるということ



山田監督へのインタビューから





             




映画の歴史が百年でねえ、来年。…で、寅さんの歴史は26年って事は
ちょうど映画の歴史の四分の一を、ま、僕達は…一つの映画、を作り続けてきたということになる。

第一作第二作のころを見ると…渥美さんたちも若かったし、僕自身もね、
あ〜、今じゃとてもあんな撮り方できないなあ、と言う若いと撮り方をしてるんだけども。
…こんだけ長い間続けてき…来れた事をね、そのように歳をとってきてしまった事を、
あるいはそう言う様に歳を、俳優さんたちも、こう、年老いて来たことを、むしろ…あの…
なんて言うかなあこう、自慢していいんじゃないかと。あのー。思いますねえ…。

思い切ってシチュエーション変えちゃったほうがいいんじゃないかと言うことを随分当時会社で
言われたりしたんだけどもね。

あの…いやこれはあんまり変えないのが特徴なんだと、キャスティングもほとんど変わらない…
葛飾柴又に寅さんの故郷があってそのダンゴ屋に時々フラッって、ふらっと帰ってると言う形とが
とんでもない美人に恋をしちゃ、ふられるというパターンはね…あの、変えない方がいい、
その変えないことがこの作品を長続きさせる事なんだろうと、と言うふうに…まあ、決心して、
ずーっと、その形を、まあ追ってきてることがね、今振り返ってみると、あの、良かったんだろうと、
…思います」


「変わらない」、ということへのこだわりを語った、歳月というものを感じさせる重い言葉だった。






『懐かしき町』を作り続けるということ


高羽撮影監督の最後の語り




               





いつもできれば同じような懐かしい世界がそこに繰り広げられると、ということを
維持しようと、いうのが大体の大きな作戦と言ってもいいんですね。
現実は.。この25年間と言うのは大変に変化したわけですけど、柴又の帝釈天の
通りなんかはそうは変わらない、昔ながらのいつもの世界で平和な下町、人情の濃い
下町がそこにはあるんだと、いうふうになるべく撮りたい、と思ってやってきたわけです。

で、実際は街灯が新しく出来たり、舗装道路になったり、建物もドンドン新しくなっていく、
そうするとはじまったころの昔ながらの古い下町の風景っていうのはだんだん現実には
減っているわけですけどなるべくそんな風に感じないように撮っていこう。
ありのままに撮るということよりも、だんだん、夢を追ってというか、想像を加えて
あるイメージに、みんなの考えるような懐かしい世界に近いような具合に撮っていこうと
というふうな選別作業が行われると、そういうことがありますね







また明日〜(^^)




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『寅次郎な日々』バックナンバー            







忘れ得ぬ『故郷』の松下さん         1月15日「寅次郎な日々」その63






山田映画の渥美清さんといえば『寅さん』だが、私にはもうひとつどうしても
忘れられない役がある。

1972年に公開された「故郷」と言う映画で、倉橋島の民子たちの家にいつも残り物の魚を
持ってきてくれる魚の行商を営む松下商会の松下さんだ。


これこそ渥美さんそのものだ!と心の中で私は叫んでいた。



                  



渥美さん扮する松下さんは松下商会を持っている。

松下商会と言っても一人で軽四トラックを運転し、島から島へ魚を売り歩いている
しがない魚屋さんだ。

そんなに商売熱心でもない飄々とした風貌がなんとも見ていて
心地よく、そのへんが寅次郎とダブるのだ。


松下さんは朝鮮半島から終戦後引き揚げて来たのだが、
両親は引き揚げの動乱時に死んでしまった。
その後、理由はわからないが結婚した奥さんも死んだらしい。
とても悲しい運命を背負った天涯孤独の人生なのかもしれない。

寅から『とらや』も『さくら』も取り除いてしまったら松下さんに
なるのではないか。そんなことを見ていて思ってしまった。

放浪の果てに瀬戸内海に住み着いた松下さんはこの島のことをこう言う。

「しかしあれだよね、私も方々行ったけどこんないいとこってないよね。」

しかし、それとは逆に精一たちは島を離れることを決意する。

精一が遂に石船を止めて島を離れ、呉の工場で働くと
松下さんに伝えた時に、ポツリポツリと語るあの言葉が忘れられない。



             




松下「そうか…それじゃあんた船長さんじゃなくなるんだ…
    船長さんじゃなくなって、労働者になっちまうんだ」


精一「船長も労働者も大して変わりはせんわいの」
 
 
松下「いやー、違う、そりゃ大違いだ」


精一「どこが…?」


松下「第一給料が違う…。船長の方がずっと安い


精一「…」


松下「それと…、労働が違う…。船長の方がずっと辛い


精一「フハハハハハ、フフ」


松下「でも、まあ、船長さんはやっぱり船長さんだよね、うん…


精一「……」


松下「朝から晩まで一生懸命働いて、なにひとつ悪いこと
   しないのにどうしてかねえ〜…どうして先祖代々住み着いた
   あんなきれいな村を出ていかなきゃいけないのかねえ…ええ?




            





私は普段から、『とらや』という温かい心の置き所を持っている寅が羨ましくて
しょうがなかった。だからリリーの心がよく分かるのだ。

松下さんにも、リリー同様その心の置き所が無い。


風邪をこじらせても、誰も知らないで、アンパンだけを食べて何日も
過ごしている。



私にとってあの映画は精一と民子と仙造の物語であると同時に
自由気ままでそしてとても孤独な松下さんの物語でもあるのだ。




ある日、松下さんは海の見える高台で、ひとり、遠くを見つめながらパンとコーヒー牛乳で
食事を取っていた。食べ終わった松下さんは、立ち上がって、ゆっくりと歩きながら、

「♪濡れた翼の〜銀の色〜…」っと、「浜千鳥」を歌う。

あの歌声を聴いていたらなぜだか胸が締め付けられるように熱くなってしまった。



あれは松下さんの歌なのかもしれない。



             




青い月夜の    はまべには
親をさがして    なく鳥が
波の国から    うまれでる
ぬれたつばさの    銀の色



夜鳴く鳥の    かなしさは
親をたずねて    海越えて
月夜の国へ    きえてゆく
銀のつばさの    浜千鳥








あ、時間だ〜…。日付が変わる〜ゥ 今日はここまで



また明日〜(^^)




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62



                          
『寅次郎な日々』バックナンバー            







山田監督の感覚と反射神経          1月14日「寅次郎な日々」その62




第34作「寅次郎真実一路」脚本作成中に受けたインタビューで
      この当時の心境をこう語っている。




赤坂の旅館で脚本を作成


山田監督


一番、辛い、辛い仕事…だなあ脚本書くっていうのはねえ…。
毎回だから、こういう風にして仕事を始める時は…つまり、高い山にこれから登ろうという、
麓、一合目あたりからって感じでね、
てっぺんを見るとなんがかとても気が遠くなってしまうから、あまりてっぺん見ないように…、
足の先だけを見て歩かなきゃいけないと…、そういう感じねえ〜…。
上見ても怖いし、下見ても怖いしという、段階にこれからなっていくんですよ





                






山田監督の感覚のほとばしりと反射神経。




山田監督は綿密な脚本と打ち合わせのもとに制作を進めていくが、時としてここだという時には、
すべてを取りやめて、新しい映像やセリフに突如として変更することも多いと聞く。


ここでは、第34作の帝釈天参道ロケで、テスト中ひとりのおばあさんがとてもいい感じで立っていたことを
見逃さないでいきなりぶっつけ本番に突入したエピソードの瞬間を書き写してみる。




監督「無し!」

スタッフ「無しだって」

監督「無し!そいつも無し!!」

監督いきなり

監督「用意!」

スタッフ「テスト!!」

監督「本番!本番!!ぶっつけでいくよ!」




             





スタッフ「本番!」

監督「用〜意、用〜意、あのばあさんがいいからいくよ!用〜意…」


監督「ハイ!!」





             




カチンコ  カチン!!





監督の言葉「あのばあさんがいいからいくよ!」にはシビレた。


何のことかわからない方も多いと思うが、感覚的に味わっていただけたらと…(^^;)ゞ


また明日〜(^^)



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『寅次郎な日々』バックナンバー







幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その9    
1月13日「寅次郎な日々」その61




今回で 最終回






山田監督、忘れ得ぬエピソードを語る




                



監督「ロケ先…でいろんな、土地の人に会っていろんな思い出があるんですけども、
  例えば、こないだの『 奮闘篇 』ですか、その時に、越後の小出と言う所にロケーションしたんですけどね。



                




「土地の人に出演してもらって、その小さな駅で、まあ、集団就職の一団と寅さんが一緒になったという
シーンを撮影したんですけども、あの、寅さんが、まあ、その連中に向かって集団就職の、、少年達や、
父兄に向かって、えー…、」




画面では 
 第7作  奮闘篇  のクレジット




               




「年端も行かないのに、この遠いところに出かけていくと、それは親を恨んじゃ
いけないと、親だって何も好き好んで子供に苦労させたいんじゃないんだと
セリフを言うシーンなんですけども、えー…」





画面では 只見線  越後 広瀬駅



                 
              






                 





「リハーサルやってる時に、そのセリフを寅さんが、つまり渥美ちゃんが全部言い終えたら、それを聞いてた
そのお母さん、地元の人ですけども、ポロポロっとこう涙を流して泣いちゃったんですよね」






                  





第7作 「奮闘篇」のオープニング



青年「もう心配しないでくんねえか、みんなで帰るんだから」

母「そんだって、まんず、」


青年「ああ」

母「体に気をつけてかからねえばだめだぞ」

青年「はい じゃあ、母ちゃんもまあ、あんまり無理しないでかけがっしゃれ。」



母「は…」と感無量になっている。



                 






「ほら、…たあちゃんちがお前に餞別くれるってや。」

青年「はい」

「行ったら忘れないでどうでも礼状を出さねばならんど」

青年「はい」

「…はよくそうやって落とすんやよく…」

青年「…じゃ、母ちゃんも…」

青年「心配で心配で…」



                 




それを聴いていた寅、おもむろに…


寅「
君達は…集団就職かい?



青年「はい」

寅「あ〜…ご苦労さんだねえ〜 で、 どこに就職すんだい?」

娘「東京のおもちゃ工場です」



                 




寅頷きながら「そうかい、おばあちゃんも心配だねえ」


おばあちゃん「
はあい」いいキャラ!



                 

  


寅「東京かあ…」




                 







監督のインタビュービューに戻って





監督「僕も驚いたし、その渥美ちゃんも驚いたし、スタッフもなんだかみんな一瞬シーンとしてしまう
   すっと後になってから、その、その泣いたおばさんから、あー…僕のところに手紙が来ましてね、




                 





その手紙、とてもその、思い出に残る、その事であったとその映画出演は、んー…
それで、あのー、いつまでもこう、いつまでも大事にしておきたいと、まあ、そんなことが、
まあ、書いてあったわけですけどね」




                 



映画に戻って
              

寅「あ、それからな、君達東京へ出て、故郷が恋しくなってたまらなくなったら
葛飾柴又の帝釈様の参道にとらやという古くせえだんご屋があるからそこへまっすぐ訪ねていきな…。


「はい」「はい」

そこにはオレのおじさんと
おばさんにあたる老夫婦とそれからたった一人の妹がいるからよ。
どいつもみんな涙もろい情け深いやつらばっかりで君達が故郷に帰ったみたいにきっと親身になって
迎えてくれるよ。」


出発直前の汽車の汽笛『ポーーッ』!!


「あっ、もし妹がオレのこと聞いたら、車寅次郎は…、あっ、オレだけど、車寅次郎は、たとえこの身は遠い他国
の空にいようとも、心は柴又の皆さんと一緒にいると伝えてくんな。」


「はい」「はい」




                 




汽車動き出す。



お母さん達「元気での、の!!」

「ひろし、」
「さようなら」


寅「元気でな、しっかりやれよー!」


過ぎ去っていく汽車





                  




                  



監督のインタビューに戻る。



映画を作るということ





監督「
まあ、映画っていうのは、集団創作と言われてる、大勢のスタッフが
   ひとつの仕事に取り組んでいくわけだけども…




                  



たとえば、あの…ひとつの壷を焼くというふうな仕事であれば、ひとりで楽しんで作ればいい。
しかし、その…映画っていうのは大勢の人間が一緒になって作るものだから、大勢のスタッフみんな
がその楽しい…、楽しい気分で、仕事を楽しみながらあの取り組まなきゃいけない、そうでなけりゃ
あの、楽しい作品は絶対出来上がらない。それが映画という芸術だと…





                  









撮影が全て終了して、記念撮影






                 





スタッフ、キャストたちが記念撮影でとらやで坐っている。



「全部がそろえると不自然ですね」


一同  笑う


スタッフ「いつもやってるように」

渥美「いつもやってるように」

渥美「ぎこちなくなりますから」


一同  笑う



はい、いきますよ」




                 


パチ!



                 



どうぞ、終わりました。


一同  「どーも お疲れ様でしたー!」


軽快に男はつらいよのテーマ曲が流れて


クレジットで



スタッフが次々と紹介されていく。



                







                






                








これで、「フーテンの寅さん誕生」は終わり。




明日からはまた違うものを書きましょう!(^^)







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60



                          
    『寅次郎な日々』バックナンバー        








幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その8    
1月13日「寅次郎な日々」その60



昨日の続き、




編集室での、父親の言葉が、実際に映像としてスクリーンに
映し出される。



第1作 男はつらいよ





クレジット 博の父   志村  喬



           




父親「本来なら新郎の親としてのお礼の言葉を申さねば
  ならんところでございますが、わたしども、そのような資格の
  ない親でございます。

博、父親を見る。
          
しかし、こんな親でも、何と言いますか、親の気持ちには
変わりがないのでございまして、


実は今日私は8年ぶりに倅の顔を…、
みなさんの温かい友情とさくらさんの優しい愛情に
包まれた倅の顔を見ながら、親として私は
いたたまれないような恥かしさを…。

いったい私は親として倅に何をしてやれたのだろうか。

なんという私は無力な親だったか…。

隣におります、私の家内も同じだったと思います。

この8年間は…私ども2人にとって長い長い冬でした。…

そして、今ようやく、みなさまのお陰で春を迎えられます。
みなさん、ありがとうございました。


さくらさん…、博をよろしくお願いいたします」


さくら、顔をあげ、父親を見、そして博を見る。



              




下を向いて涙を流している博。


さくらさんのお兄さん、
二人のことをよろしくお願いいたします。



              

      
              

ふたり、下がろうとする。


寅「待ってくれぃ!」



              




立ち上がる瞬間に袖が破れ、それも
構わず、両親に駆け寄る寅。


寅「おとっさん!」と手を握り。

寅「おっかさんよ!」と手を握る。


二人の手を取って

寅「どうもありがとう!」



                  
              


寅「博の奴もきっと、喜んでますよ!うん…、」

父親の肩を叩いて、もう一度

寅「どうもありがとう!」


寅、さくらのほうを見て

寅「さくら!」

と、駆け寄る寅

さくらのそばまで行って、しゃがみ、

寅「さくら…、よかったな!うう…うううう」



             




と、テーブルクロスをハンカチ代わりに泣く寅。

寅「な!」

さくら、涙を流しながら、頷く。


テーマ曲、大きく流れていく。

寅「ううう。。。。」

終始咽び泣く博、さくらも泣く。

出席者の冬子が拍手。

みんな拍手。

寅お礼を皆にする。


寅、みんなの方にそれぞれ
頭を下げながら
「ありがとうございます、
ありがとうございます」
と言い続けている。

司会者とも握手。








備中 高梁市  ロケ

               



ナレーション「10月9日博の父親がいる岡山県高梁の町、
        ここへ旅がらすフーテンの寅がふらりと現れたシーンです。」




           
               



寅と博の父親が買い物をした帰り道の撮影




撮影を見ている人たち

「なんか大勢きたんやなあ、飛行機で」

「うん、きれいやなあ」

「帰ろうや、もう見たからええや、な、もう見た、かえろうや、もう、見たらええ、な、見たかかえろ、はよ」(^^;)



           



通行人役の女性の声

女性「ただもう通行人として通るぐらいかと思っていったんですがァ、
  フフ、そったらちょっと奥さん出てください言うてそいで、ライトが、もうこっちにライトがあるでしょう、
  暑いし、大勢のお客で、アハハ…そいで、始めは、あのーあいですがァ、あのー…他の助監督
  の方ですかねえ?あの方なんかと練習したんですけど。



           



女性「最後本番だ言われても…なかなかあのー…
    早く合いすぎたとか、
あのー…見送り方が時間が短かったとか、フフ、って言ってねえ…何回も、フフフ…」




監督「用意!……」



小さな小川の向こうからキャメラが撮っている。



          




監督「ハイッ!」


カチンコ  カチン!


朝間さんが見物客に手で『静かに』と指図。



メインテーマのメロディが静かに入る。





           




スタッフ「終わりです、ここは終わりです」



「え〜皆さん、突き当たりの、突き当りを左に曲がりまして、右側の方です、」





               


引き続き


寅と博の父親が汽車が通り横を歩いていく、あのダイナミックなカットの撮影




監督「今度はあの、どっち行くんですか汽車は、」

スタッフ「あ、右っ側から来ます」

監督「右から?」

スタッフ「はい」



           




近所の見ている人たち

「(汽車が)来た来た来た…」

汽車 シュゴシュゴシュゴシュゴ…ボォ!ゴトンゴトン…


スタッフの露木さん、手を上げている。下げて、

(彼は後に備後屋として活躍)


汽車が豪快に通り過ぎる。


見事なシーンだ。



           

           



ナレーション「昼間の撮影はこうして終わりました…でも、夜のシーンは
       夜撮影しなければなりません」




           




夜の備中高梁駅前


スタッフ「あそこにパイプ組めば済むじゃねえか」


駅のスピーカー「高梁―高梁―越中高梁であります。高梁―高梁―越中高梁であります。お忘れ物の
無いよう、ご注意願います。…お疲れ様でした。高梁―高梁―越中高梁であります。お忘れ物の無いよう、
ご注意願います」



           


スタッフ「で、あと一本〜」
「福岡さんのどの辺まで届くんでしょうかねえ?」
「あ?何が?」
「屋根屋根」
「あー!オーライ!オーライ…オーケーオーケー…」



           




スタッフ「もうちっとキャメラこっち来るか?」

「え?」

「いいよそんなもんで」

「もうチョィ!はい!オーケー!まだ、まだ?」

「ぐーっとね?」

「うん」

「もうちょっと弱めて、こっちの方に寄ろうか?」



監督、前田さんと倍賞さんにタクシーに乗る時の注意事項を説明。



           




備北タクシー

山田監督、タクシーに乗るところを撮っている。



           



ナレーション「一日の撮影が済んでもその日の仕事は終了したわけではありません」






宿泊している高梁の旅館で打ち合わせ



渥美「…!、お兄さん、僕が撮りましょ」

朝間さん「そうですか、すいませんねえ、」

渥美「エ?いいえいいえいいえ…」

朝間さん「わかりますか?ここ押すだけでいいんですから」

渥美「ア、これね、押すだけでいいんすね、あいあい、ハイ、」

朝間さん「ピントも合ってますからね、」

渥美「ハイハイハイ…これでよしと…じゃ、いきますからね…じゃ、みんなこっち向いてェ、
   じゃあ、写しますよー」

渥美「 はい、笑って」


監督「ハイ、笑って!」


渥美「ハイ、笑って!」


みんなクスクス笑っている。


倍賞さんも渥美さんの表情見てつい笑ってしまう。


気を取り直して





           



倍賞「なんてこと言うのよお兄ちゃん!」


渥美「何が?」


梅野泰靖さん、我慢できなくて笑ってしまう。


倍賞「お兄ちゃん、笑ってってことないでしょ!お墓の前で」

渥美さん後ろ振り返って、キョロキョロ(^^;)


みんな、噴出してクスクス。

渥美「あ、いけね、

   あ、どうもすいませんでした。じゃあ、もういっぺんやらせていただきます」


みんな、クスクス

渥美「あのー、いいすか、写しますよ、ハイ、泣いて」


一同、クスクス

梅野「修!おまえ写せ!」


朝間さん「そんなことがありまして…帰りのタクシーの中で…」



渥美さん、監督に質問





           




渥美「あの、監督さん」

監督「はい」

渥美「 『今度は泣いて』、 ですか?」

監督「ハイ、ハイ、泣いて!」

倍賞さん笑っている。

渥美「ハイ、笑って!」

監督「同じ調子だよね、そこね」

監督「ハイ、泣いて!」

一同爆笑

朝間さんもひさしぶりに笑っていた(^^)




           





翌日、高梁のお墓のロケ


おばあさんたち、昨晩の駅前の撮影苦労を見ていて、感心したことを
近所の人と話しながらロケを見ている。


近所の人たち
「昨夜は駅前で物凄い人やった8時ごろ…
駅前で、駅から降りて改札から出て行ってハイヤーに乗るところまでを…映してなあ」
葬式にな、娘さんとお婿さんが帰るとこ…
時間かかって映してたなあ…、何べんも、5、6ぺんも…。


さくらと寅の例の「笑って〜」のやり取りが映し出される。


           




渥美「じゃあ、写しますよ〜!泣いてェ〜!」


           




近所の婦人会の人たちの感想

私なんか一番最初、撮影ロケを気軽な気持ちでお受けしたわけですね。
昨日もまあ、気軽な気持ちで行きましたけれど、こう一日を通して見てみましてね、
なかなか大勢の方々の大変なご苦労があって1本の映画が出来るんだなあ、と思いまして
ね、それにまあ、この草深い高梁というものも、そういう風な作りの中でね、
皆さんの目の中に映っていくんだなあっていう気がしましてね」



           




出演した近所の世話役の人の感想


「高梁の町でも、こういう風な映画になるところかな、と、自分ながらはじめて知りましたことで、
我々も苦労しました。なるほど、暑いところ立ちっぱなしで苦労しましたが、ああ、これで…どんな映画が
出来てるのか、こういうことを楽しみにしています」



           



ナレーション「4日間のロケーションが無事終了しました」


           



ナレーション「しかし、撮影は、まだ、一月の分量が残されています…」



           








明日に続く








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59



                          
『寅次郎な日々』バックナンバー          







幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その7    
1月11日「寅次郎な日々」その59






昨日の続き、




秋の紅葉が美しい
神奈川県大船松竹撮影所が映る 




               




スピーカで案内が入る。


山田組、山田組、撮影開始いたしますから第10ステージにお入りください。


スタジオのドアに「男はつらいよ」
場面:とらや、山田組 



十月六日




                  





照明さんが天井の上で歩いている。



監督「おばちゃん、もうちょっと…」

渥美さんたちののセリフあわせが続いている。




                  




ナレーション「午前9時、50人余りの人々が、お馴染みの
とらやのセットで、渥美清の寅が旅先から帰ってくる場面を
撮影中です。


役者さんは役者さんでお互いでセリフあわせをし、スタッフさんは
それぞれの担当でどんどん話を詰めている。

それぞれのグループの声が入り乱れて活気がある。





                     




役者さんたちは小声でセリフの稽古を繰り返ししている。

スタッフさんたち、お構い無しでボンボン声掛け合って仕事している。


こういう場面を見ると、スタッフさんもキャストさんもまったく同じ分量で大事な仕事を
していることがわかる。全体のバランスの中で、それぞれが上手に役目を果たしているのだ。





寅を気持ちよくとらやに迎えてやろうとして、タコ社長が過剰演出をし、
寅に見破られ結局空振りをする例の名シーンを繰り返し稽古。


森川おいちゃんは稽古中でも独特の雰囲気がある。ちょっとしたセリフがもう決まっている。
世界観があることがよく分かる。


おいちゃん「寅〜!うわあああ!」



倍賞さんたち、思わず大笑い




                  



監督「渥美さん、ちょっと、通してください」


稽古

おいちゃん「え?今行ったの寅じゃないか?」

おばちゃんさくら「え!!?」

監督「ハイ、寅さん」



この時太宰さんが入り方を少しとちって、
みんなで噴出してしまう。



社長「あ、あれえ〜寅さんじゃないか…とうとう帰ってきたかァ〜!
これから大変だねえあんたたちも〜!ご愁傷様」





                  




森川さん、団子を詰め込む手の部分が映るかどうか高羽さんに聞く。

森川「この手のところ見えますか?」

高羽「見えません」

森川「そいじゃあ、もうこれでいいですね」

高羽「大丈夫です」

高羽「そこの手のとこだけが、そのへんが入ります」

森川「このへんが…じゃあこんなことやってればわからないですね」

高羽「はい、わかりません」





                  




光の加減をチェックするスタッフ



                  




山田監督、太宰さんに演技指導

監督「あの…もうちょっとふくれっつらで言いますとどうなりますかね。大声で憤慨するんじゃなくて
『何言ってるんだよ…』って」

太宰「なにいってんだよ…」

監督「ぶつぶつぶつぶつ言ってる感じ…」

太宰「なにいってんだよ…そんな縁起でもないことをいうなよ…オレだって経営者の端くれだい!
ちゃ、ちゃんと頑張ってるよ、」

渥美「んー、結構だ、経営者が聞いて呆れらあ」

太宰「なんだと…なんだと」




                      



照明全開


監督「用意!」
監督「いきますよ…用意……ハイ!」

ビー!





                   



クレジット 社長  太宰久雄



おいちゃん「いやああああ、寅かい、いやああいやああ!おかえり〜!」


おばちゃん「寅さん、おかえり」




                   




ドドドと走ってきて


社長「いやああ!あは!はは!寅さんお帰り、お帰り」





                   






ここで止めて


構図をチェックする監督



沈黙し、待っているする一同




このカットのリハーサルが何回か繰り返される。



太宰さんが突進する場面で、監督たち笑っている。


寅「おいちゃんよ、なんのまねだい?これ」

おいちゃん「なんのまねって、おまえ歓迎してんだよ」

寅「歓迎してんのはわかるけどさ…」

森川さん、セリフが出ない(^^;)

倍賞さん、ぼそっと、森川さんのセリフを言ってあげる
「歓迎しちゃ悪いのか?」

渥美さん、しょうがなく笑いながらもう一度同じセリフ
「歓迎してんのはわかるけどさ…」



倍賞さん、笑いながら森川さんを指差す。



                   




森川さん、セリフ思い出して
「ほえ?歓迎しちゃいけねえの?」

寅「いや、いけなかねえけど…ちょっとおかしいじゃねえか」

おばちゃん「どうしてさ、あんただって歓迎されたいだろ?」

寅「そらあ、歓迎されたい気持ちはあるけどさあ…、おいちゃんよお、
第一オレがそんな歓迎される人物かァ?」

さくら「お兄ちゃんそんな言い方ってないわよ」

寅「さくら…おまえ…は…フフフ…」

と渥美さん笑ってしまい、倍賞さんも噴出す。

監督も笑っている。


寅「企んだろ!?」

さくら「企んだって…」

寅「誰が何もからかってやしないわよ、なにひねくれてんのよ」
社長「まあ、まあ、久しぶりに会ったのに兄弟げんかなんてさ…」

渥美さん太宰さんのヘルメットをポコンと孫の手で叩く。


倍賞さん大笑い。

監督たちも長〜〜く大笑い。




                    





寅「てめえはなんだ、こんなくだらねえ田舎芝居に一役買うってのは
よっぽどてめえの工場は暇なんだな、とうとう潰れたか!」

監督また笑う


社長「オレだって経営者のはしくれだい!ちゃんとがんばってるよ!」
寅「ああそうかい、そらァ結構だ笑わせやがらァ!」




                     




監督「それじゃテスト行きます」
監督「用意」
監督「ハイ!」

ビー!!




社長「やああ〜〜〜!!寅さん久しぶり!ハハハ!!いやお帰り」
みんな社長にぶつかって痛がっている。

渥美さん、クスクス笑いながら
寅「なんのまねだい、これ、フフフ」



                      



森川さんも、笑いこらえながら

「何のまねって、おまえ歓迎してんだ」

寅「どうしてオレが歓迎されなくちゃいけねえんだ」

おいちゃん「あれ?歓迎しちゃいけねえの?」

寅「あんまりよかあねえなあ…」

おばちゃん「どうしてよぉ?歓迎した方がいいじゃない」

寅「そらあ、歓迎されたい気持ちはあるよ、」





高羽さん、がキャストを見て、
「あ、目線誰か作って、そっちの方に…、」

スタッフ「ハイハイ、これでよろしいですか?」

高羽「はい」



                      




監督「ハイ、本番行きます」
高羽「ハイ、本番」

監督「用意!」
監督「ハイ!」

ブブー!!

『 2!』 カチン!!



                                本番!
                       





社長みんなに体当たりして

社長「わああああ!!!寅さん!!お帰りお帰り…ハハ!」

寅「…」

寅「なんのまねだよ」

おいちゃん「な…なんのまねって、おめえを歓迎してんだよ」

寅「どうしてオレのこと歓迎するんだ?」

おいちゃん「え?歓迎しちゃいけねえの?」

寅「あんまりよくねなあ…」

おばちゃん「なんでえ?歓迎された方がいいじゃない?」

寅「そらあ、歓迎されたい気持ちはあるよ、だけどおいちゃんどだい
オレはそんな歓迎される人物かい?」

おいちゃん「
くううううういいい〜〜〜〜.…」(^^)森川さん最高!


録音の中村寛さんが録音機で森川さんの、あのうめき声をしっかり録っている。



                             『くううううういいい〜〜〜〜.…
                         






クレジット 中村 寛




                         




さくら「お兄ちゃんなにもそんな言い方しなくたって…」





キャメラは、編集室へ向かっている。

それにかぶさるようにキャストたちのセリフが遠く流れ続けている。

この演出は上手い!


カメラは編集室に入る。




                           




まだセリフは続いている。



                           




寅「さくらおまえ、企んだな?」



社長「まあまあまあまあ、久しぶりに帰ってきたんだから兄妹げんかは…」

寅「うるせえこのタコ!てめえはなんだ」




                            





ここで編集作業がこの寅のセリフのシーンとかぶさるように映されていく。

寅のセリフ
寅「こんな田舎芝居に一役買うようじゃ、よっぽど仕事は払底してるなあ?」



ナレーション「撮影や録音の終わったフィルムやテープは編集室に送られ、
細かく念入りに、整理されていきます」


この間も例のセリフのシーンは小さく流れている。




クレジット  編集  
石井  巌




                            




                             




うわあ、このフィルムもったいない…(TT)欲しい…



                            




バックに第1作の志村喬さんの披露宴のスピーチが流れてくる。



                            










明日に続く



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58




『寅次郎な日々』バックナンバー          







幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その6    
1月10日「寅次郎な日々」その58




昨日の続き、



渥美清さんが、車寅次郎を語る。



「車寅次郎の役をやるようになりまして
街…を歩いていたりしますと、

よくお客さんに

「ほんとうにフーテンの寅さんって人はいたんですってね」
よく言われるんですよ。
「あ、そうですか」
「いや確かにいたんですよ。そういう話聞いていますが
渥美さん知りませんか?」ってお客さんにむしろ教えられる
ようなことがあるんですけれども、

これは全く架空な人物で、山田さんと話して、
作り上げた人物なんですけれども…。




               




で、正直車寅次郎を演じている時に多分におっちょこちょいでバカで、
直情系で、え.…こういう人間に扮しているから役者として面白いんで、

渥美清というのは、こんなおちょこちょいでなくて、もう少ししっかりした
人間が、これをやっているんだというような、まあ、役者のひとつの
何ていいますか、そんな優越感みたいなものも、あったんですけども…。

最近、だんだん考えてみると、あまりこの、車寅次郎と渥美清というのは
変わりがないんじゃないか…、やはり、人に非常に笑ってもらってサービスすることが
大好きだし、ともかく自分のいるところを楽しくすることが好きだし、
寂しいことが嫌いだし、





               




やっているうちに、ひょっとしたら本当にお客さんの言う通り、
柴又か、あるいは浅草か上野か…どこかに車寅次郎という人間は
いたんじゃないかなあ…という懐かしさっていうか…

あのー、非常に寅と切っても切れない、なにかそういう、血の繋がりみたいな
ものをだんだん感じてくるようにくるようになってしまったんです。





ひょっとすると…、よっぽどしっかりしないとこらあ…
フーテンの寅という男に、なんか置いてきぼりにされてしまうんではないかと
言う気が... するんです」





                










第5作 「望郷篇」の労働ギャグが流れる




               






とらや

ジーンズのツナギ着て、運動靴履いた寅、口笛



「じゃ、これから労働に行って来るからな!
あっ、これか、博に借りてな!似合うか?」



ポーズ!!(写真参照)↓




               




おばちゃん「似合うよ」


寅「まじめにやってくるからな!」
←気張った顔で目をヒンムイタ顔が最高!!
気合だけは入ってるなあ〜!


寅「あっ、おばちゃん、オレな帰ってきたら
 すぐ風呂に入るからな、
 風呂沸かしといてくれ。」


おばちゃん「あいよ」

「なにしろ労働してくるからな!」

「うん、それじゃ、行って来る」

「あっ、それからね、風呂上がったら
 冷えたビール飲むからな!
 ビール冷やしといてくれ、


        



寅「なにしろ労働してくるからな!

おばちゃん
「わかったよ…」

あっ、それからもうひとつ
 できたら
按摩呼んどいてくれるか、
 ちょっと
労働して筋肉揉みほぐすからな、」

「じゃ、行って来る!」

おばちゃん
あいよ…」←おばちゃんげっそり(−−;)

おいちゃん!地道な暮らしってのはいいな!
                 
ポーズ!!「これか!」

「♪さて万国の労働者〜♪、

  おはよー労働者諸
君!
  今日から僕は君達の仲間だぞ!
  共に語らい、共に働こう!!」


おいちゃん「バカだねー、まったく…」






               










第8作の脚本の出だしのナレーション






               






シーン1:ある地方。ここはとある海岸の田舎町。
     
秋の長雨がしとしとと降り続いて人影もまばらである
     どこからか聞こえてくる擦り切れた歌謡曲




シーン2:ある芝居小屋の表





               





設定では高知県になっていたが、このロケシーンを見る限りでは
東京から近い三浦港でロケをしている。



何もない空き倉庫が…




                  





佐藤公信さん「それで下いっぱいかい?」

佐藤公信さん「はい、それでよし、もうちょっと寄せてください」




              





美術の佐藤公信さんが映る




                





              





高羽さん「ちょっとファインダー貸して?」




              





「のぼりもっと短くしようか?」

「いいんじゃない」

「いいかな」




             





監督「あんまり行儀よく並びすぎると…」

高羽さん「ああ。。。じゃあ真ん中の.…」

監督「真ん中ってのはつまり、左から…」

高羽「4番目」

監督「4番目、3番目…」






             




発動機のけたたましい音

水を吸い上げて雨を降らしている。





             





             




スタッフ「はい、本番!テストォ〜!ハイ!」

カチン!




             




渥美さんが、ベニヤを傘にして、小屋に
走りこんでくる。

スタッフ「ハイ!」

監督「いいだろう」

スタッフ「ハイ!OK!」



            




今度は小屋の中に入っていくカット

監督「用〜意、ハイ!!」

カチン!



            





向こうで大空小百合ちゃん役の岡田茉莉さんも見守っている。




            



スタッフ「OK!」

朝間さん、はいOK!




            





スタッフ「OK!」



           






この続きはまた明日




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57



                          
『寅次郎な日々』バックナンバー            







幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その5   1月9日「寅次郎な日々」その57





昨日の続き、



大船のとらやセット




            





ロークにコーヒーを飲みに行く行かないでモメルあの場面を
監督も交えて台本読みしている。



寅「オレが出かけたらよ、この二人がオレのこと笑いやがるんだ」
おばちゃん「それは悪いよ、」

寅「だろう」
寅「オレがコーヒー、オレがコーヒーを飲みに行くっていうのがどうして悪いんだい
  え?、おいちゃん?」

おいちゃん「ん?」

といいつつ森川さん台本にしきりにメモ。






森川信さんと三崎千恵子さんが山田監督を語る




            



森川「我々役者のその…難しいところは、台本を受け取ってね、
  その役がなんであるかということをかみしめて、それで、その役に
  なりきるというということが一番難しいもんなんですね…」

三崎「そうですねぇ…」

森川「んん…」

三崎「自分ではその一生懸命、それなりに役に入っている
   つもりでいても、」


森川「ん…」

三崎「ふっとあの、監督から、あの、こういうふうにって言われる、
   その想念がね、足りないのかなんか、そういう、ひょっと言われた
   ヒントでもって、またふぁっっ!と膨らむ時がありますよね」



            



森川「そ〜うなんだよ、その演出の細かさがね、あの、山田さんのいいところ
   だと思うな」

三崎「んん、そうねえ」

森川「うん」



            








再び、先ほどのカットの打ち合わせに戻って





監督「この動揺は、あれですよね…、あの…もっとフイをつかれて、
   
ディスペク されたんですから」

太宰「そうですね、ここはもう…こっちがあわてなきゃ…」

監督「ええ、ええ、悪いんだから明らかに、弁解のしようがないっていうかたちなんです。
   ただてめえでコーヒー飲みに行くって言っちゃったところが、フフフ、今度はやや、
   ホッとする部分があるわけなんですねえ」

と、太宰さんに説明する監督。

 
              









前田吟さん、博という役、そして役者としての自分、を語る。

  


              



前田「あの、もう8作にもなりましたけれど、僕の…もう本当に
   僕自身…が出ればいいっていうかあんまり役作りが要らないみたいなところが、
   多分にあって、だからほとんど自分では努力しないんですけど、
   まあ、台本を見てすぐ声を出して読むんじゃなくて、なるべくならこう…
   腹の中で読むって言うか、まあ、頭の中で黙読をたくさんして、それからセリフを
   覚えて、あとはセットで監督さんの言われるように今度は初めて声を出す、みたいな
   ところですかねえ…」




             









第1作男はつらいよ がまた流れる




「博に目にものを言わせることを教える寅」のカット






            





寅「要するに女をつかむのは目だよ!ね?それだって
 最初からじーっと見てたらダメだよのっけから
 色キチがいだと思われちゃうから
 だからね…何ていうのかなこう…ちらっと流すんだよねっ?」

店員「ワンビーァ」

寅「すっと流すんだよそうすっとこうやってってるおんなのほっぺたにも
 電波がビビビビビ…っとかんじるんだよ。
 そうすっと女もフッと見るじゃない。見られたなーと思おもったら、
 目をスッとふせるんだよ。
そうすると女はあら?っと思うだろ!?
 その時ぱっちっと眼をあわしたら、この目をくっと絡ませるんだ、
 そして訴えるような、すがえるような、甘えるような目で
 ジーッと見るんだよ!女は動かなくなるからね、」



寅「そこでもう一押し!目にものを言わせるわけだ」

博「目に…ものをですか?」


寅「当たり前よ目だってもの言うよ、お前言わしてみようか?ちょっと見てろよ」




             




寅「言ったろ」

博「なにをです?」

寅「なにをですってバカヤロウ!
 アイラブユーだよっ!」

客一同「アハハハ・・・」



            






この続きはまた明日


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56



                          
                          
『寅次郎な日々』バックナンバー
            






幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その4
   1月8日「寅次郎な日々」その56




昨日の続き、題経寺ロケを紹介したあと






ここでマドンナ、冬子、夏子、夕子の3人が紹介されていく。



まず 第1作の、題経寺での冬子と寅の会話が流れる



            



寅「家にいるきゃあ、なんだか騒々しくって口やかましい妹だなって思っておりましたが
 さていなくなってみるてえとなんだか家の中に火が消えたと申しましょうか…」
冬子「わかるわ、特に寅ちゃんには、たったひとりの肉親だったんですものねえ」
「ええ、そういうわけで…」
冬子「少し痩せたんじゃないの?」
「え?ええ…、ここ1貫目ほど…」
冬子「ん…そういえば顔色も悪いわ」
「ええ、あんまり飯も食ってないんです…」
冬子「いけないわそんな〜、病気になるわよ」
「コホコホコホコホ」
冬子「大丈夫なの?」
「ええ.…まあなんとか…」





引き続き、

第2作「続男はつらいよ」の夏子と寅の会話シーンが流れる。



            



「あ、お嬢さん、いらっしゃい」
夏子「だいぶ元気になったみたいね」
寅「ええ、まあ、おいちゃんおばちゃんに迷惑かけちゃいけねえと
 思って、なんとかやっておりますがね、どうもあのことがあって以来
 なんだかこのへんに熱いシコリみたいなものができちゃって…」
夏子「そうでしょうねえ…」
寅「ええ」
夏子「今日暇だったら、うち、遊びに来ない?」
「今日?ええありがとうございます」
夏子「じゃあ」
「ええ」
夏子「おばさん、失礼しました」
「おかまいもしませんで」
夏子「源ちゃん、あなたも一緒にいらっしゃいね」
「はい」
「持ちましょうか?」
夏子「大丈夫よ。それじゃさようなら〜」
「大丈夫ですか」とコケかける。
「どうもお嬢さん、気をつけてお帰んなさいよ!」
遠くで
夏子「はい」
「世の中には悪い奴が多いですからね」
夏子「はーい」






そして第6作「純情篇」の夕子との江戸川土手の名シーンが映る。


これは寅の格好よさと夕子の感受性の強さがよく表現された印象深い
爽やかなシーンだ。私はこのシーンの夕子さんは他のマドンナと違う
知性と感受性の高さを感じた。




              




江戸川土手 

寅、野の花を摘んで、夕子に渡そうとする。

夕子「
東京にもこんなところがあるのね。フフ…嘘みたい…。
  寅さんはこういう風景を見ながら育ったのね。


寅「
はい!わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。

夕子「
なに、それ?
寅「
これは、私達商売人仲間の挨拶ですよ。

夕子「
まあ、素敵ねもう一ぺん言ってみて



テーマ曲が流れる。


「わたくし生まれも育ちも葛飾柴又です。
 帝釈天で産湯をつかい根っからの江戸っ子
 姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します。
 フフフ…。まだ、続くんですよ」


           


夕子そう

わたくし、不思議な縁もちまして生まれ故郷に草鞋を脱ぎました。
  あんたさんと御同様、東京の空の下、ネオンきらめき、
 ジャンズ高鳴る花の都に仮の住居まかりあります。
 故あって、わたくし親分一家持ちません。ヘヘヘ…まだまだ続くんですよ。」


夕子「
素敵…ほんとうに素敵よ


        


普通、他のマドンナだったら、面白いわねそれ、って笑ったりする
んだろうけど、夕子さんは心底この仁義を切る寅の言葉に感動している。
彼女の感覚の非凡さを垣間見れることができる出色のシーンである。






題経寺 山門ロケに戻る。



      


じゃ,お入りください。


渥美さんが山門から出てくる。

ハイ

カチン



地元の人達がたくさん見ている

子供達もザワザワ見ている。
赤ん坊も泣いている

地元のお母さん
小百合ちゃん、そこにいなさいよ〜



      





「お子さんですか?」


      


貴子ええ、転校したばっかりなもんですから学校行くのどうも
   億劫がりましてねえ…

「なあに、そのうち慣れますよ」
貴子
「そうでしょうかねえ?」
「最近来られたんですか?」
貴子
「ええ、静かないい町ですわねえ」
「ええ、でも最近随分うるさくなりました」




            








再度 あらためて


第1作の映像がテーマ曲を歌う渥美さんの声と
共に映し出される。




            


♪俺がいたんじゃお嫁にゃ行けぬ
分かっちゃいるんだ妹よ、
いつかおまえが気に入るような
偉い兄貴になりたくて、


奮闘努力の甲斐もなく、
今日も涙の、
今日も涙の陽が落ちる
陽が落ちる。





               




おいちゃんおばちゃん頭を畳につけている。


               



寅「おいちゃん、おばちゃん、ただいま帰ってまいりました。
 さ、お手を上げなすって。それじゃ、挨拶になりません。さ、さ、
 お上げなすって」

おいちゃん、おばちゃん頭を上げる。


寅「十年一昔の勘定でいきゃあちょうど二昔。
 父母もさぞかしご迷惑をお掛けしたことでございましょう。」


おいちゃん、おばちゃん恐縮している。近所の人たちもぞろぞろ店の中まで
入ってきて見ている。
おいちゃん「いや、め、迷惑だ何て、そんなあ…」


寅「弟(てい)の身持ちまして、いちいち高声(こうせい)に発します
 あいさつ失礼さんです。ここに改めて厚く今までの
 ご無沙汰のお詫びとお礼を申し申し上げる次第でございます。」


おいちゃん「へ、へいへいどうも」

おいちゃんおばちゃん共々また深々とお辞儀。
 
寅「 なお、たったひとり残りました愚かなる妹が無事に成長しましたのも、
  ただただひとえに、お二人の御訓育の賜物と誠に兄としてはお礼の言葉も
  ございません。おいちゃん、ならびに、おばちゃん。本当にありがとうございました。」


と、寅深々とお辞儀。

おいちゃんおばちゃん、またまたまた深々とお辞儀。


と続いていく。見物に来ていた近所の人たちに対しても、

寅、土間で聞いている近所の人々に向かって。

寅「これはご近所の御一統様、
 長らくごぶさたいたしました。以後お見知り置かれまして、
 よろしく引き立っておたの申します。」と続いていく。




         



谷よしのさんたち、深々とお辞儀(^^;)

店員の女の子もお辞儀


おばちゃん、嬉しくて泣いてしまう。


おばちゃん「ほんとに、立派になってお帰りになってとうちゃんやかあちゃんが
       見たら、どんなにかね…ううう」




インタビュー




倍賞千恵子さんが語る「 男はつらいよ、そして さくら 」




         



倍賞「1作目の時のさくらって、あの…BGで、その1作目であのいろいろお見合いなんかして、
  あの…結婚して、子供が生まれて、そいで今8作目ではその子供もだいぶ大きくなって、
  BGからお母さんに役としては変わったんですけどあのー、やってる本人としては、
  あんまりなんか変わってないような気がしてしょうがないんですよね



         




第6作「純情篇」での私が『赤いマフラーの別れ』と呼んでいる、このシリーズ屈指の
寅とさくらの別れのシーンが流れる。



         




寅「さくら、…覚えてるかい、この駅でよ。
オレが16の時に親父と喧嘩して家出したら…」


          


さくら「そうね…かすかにね、なんだかお兄ちゃんと
   別れるのが辛くてどこまでも追っかけてったんじゃない?私」

寅「そぉよ、追っ払っても、追っ払ってもよ、え、おまえ泣きべそ
  かいてよちよちくっついてくるんだろう、オレ困ちゃったよ。
  でも、そこの改札のところまで来たらあきらめてよ、
  これ餞別よってオレに渡しておまえ帰ってったろ。
  電車乗ってそれ開けてみたらよぉ、こんな
真っ赤なおはじき
  入ってやがんのオレ笑っちゃったよ。」

さくら「そう…」(笑いながらも、泣いている)

さくら「ねぇ、お兄ちゃん、もうお正月も近いんだしさ、
    せめてお正月までいたっていいじゃない」


           


寅「そうもいかねえよ、オレたちの稼業はよ。
 世間の人がコタツにあたってテレビ観てるときに、
 冷てぇ風に吹かれて鼻水たらして声を枯らして
 ものを売らなきゃならねえ稼業なんだよ。
 そこが渡世人のつれぇところよ…」

電車が来る

寅「みんなによろしくな、博と仲良くやるんだぞ」

電車のドア開く
寅「じゃぁな、さくら」


さくら、自分の首のマフラーを、
素早くとって、寅の首にかける。



           



           



寅「うん?」って小さく言いながら素直に従う。

さくら「あのね、お兄ちゃん。辛いことがあったら、
   いつでも帰っておいでね。」



           






倍賞さんの語りに戻って



           


倍賞「あの…よく…さくらって、とても…さくらに限らず、あのー、男はつらいよのなかに出てくる
  人間像みたいな人ってのはどこにでもいて、普段みんないろんな…その普段誰もが
  知っているようなことを、その、一つの映画の中で表現していくみたいな…。
  そういうことって私とっても難しいような気がしてしかたないんですよね。



倍賞「
なにげないことを何気なく見せないでその、やってくみたいな難しさ、それが
   とてもさくらにはあるような気がして…



           




倍賞「さくらの中に倍賞千恵子さんがいて





                





倍賞「倍賞千恵子さんの中にさくらがいるような…
   最近はそんな気持ちでやっております







スタジオの中で満男役の中村はやと君とくつろぐ倍賞さん


                
                






この続きはまた明日


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55



                          
『寅次郎な日々』バックナンバー







幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その3
   1月7日「寅次郎な日々」その55

サーバーのトラブルのため時間ほど更新が遅れました。お待たせいたしました。



昨日の続き。

昨日の渥美さんと山田監督の対談の直後、


今度はマドンナの池内淳子さんへのインタビューが映される。


池内「あのーわたくし…こちらの今の男はつらいよって言うのは
   もう二年ぐらいおやりになってらっしゃるんですけど
   まだ…申し訳ないんですけど一本しか拝見してないんですよ。



                 



「でもその一本が、えー…あの『望郷篇』という、とっても楽しくて笑わせてしんみりさせて、
今のこの、なんて言うのかしら、わりと、殺伐としている世の中に欠けてる様な、とても
身近にあるどこにでもいそうなお話だったんで、これから出さしていただくって事
すっかり忘れちゃいましてね、泣いて笑って、で…とても楽しく、拝見させていただいて、

このお話いただいたのが、そうですねえ、もう、だいぶ前なんですけども、
いつもあのー、こういう映画に出させていただきたいなと思ってたんです、

っていうのは、あのーお客様が大勢見てくださいますし、えー、われわれこういう
同業者の中でも見てくださいますでしょう、ですから、やっぱり、出さしていただくんでしたら
こういう大変楽しくて、あのー面白くていい映画に…出たいなと思ってたんですけども、
まあ、やっと話しをいただきまして、あの、念願かないまして今、大船に来ておりますけども



                 



まあ、皆さんがもう何本もおやりになってらしてできてるチームであり、チームワークですからねえ、
上手く入っていけるかどうか心配だったんですけども、やっぱり撮影所ってとこはどこでも、こう
お邪魔してしまえば同じ事ですからね、大変いい雰囲気の中でやらせていただいておりますけども、
まあ、なかなかこう久しぶりの映画なもんですからあの、緊張しまして緊張のしっぱなしで
どうにかこう半月以上来てしまいましたね」



倍賞さんがスタジオで池内さんをキャストとスタッフさんに紹介している映像が流れる。

                 


池内さん「先日はどうも…」



挨拶をする池内さん。高羽さん、山田監督などスタッフが映る。



                 



とらやのメンバーとリハーサル

貴子さんが、引越しの挨拶に来て、おばちゃんやさくらと会話するシーンが
映し出される。

池内「ごめんください」

監督「そこで声かけましょう、そのへんで…」


      
               



このあとしばらくその場面のリハーサルが続く。


おばちゃん、さくらのアパートの方角 が分からなくてスタッフに聞く
倍賞さんもいっしょに指をさす。


               




池内さん、お土産を置く場所を聞いている。

池内「ここでよろしいですか?」
監督「ええ、そうですね、そのへんで」


               



監督、真剣な眼差しで池内さんの動きを見ている。


               



題経寺の山門がゆっくり映り。


                




クレジット 
柴又  題経寺

                 
                



まわりで見ている地元の人たち

「池内淳子さんだね…」


                



地元の人たち倍賞さんを見ながら

「妹だから…あの人は寅さんの妹なんだから…」


                 



この続きはまた明日




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54



                          
『寅次郎な日々』バックナンバー







幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』その2
   1月6日「寅次郎な日々」その54


昨日の続きです。




柴又題経寺のロケ風景が映って

そのあとすぐに大船のとらやのセットが映り、山田監督と渥美さんとの
「男はつらいよ」誕生についての対談が行われている。



            




渥美「テレビドラマを何か」
監督「ええ」
渥美「やるんだけど」
監督「ええ」
渥美「なにかいいことないかって山田さんとこへ相談に行って」
監督「ええ、ええ」
渥美「あれやろう、これやろうで、結局、…そうねえ、それもあんまり面白く無い、
これも面白くない、って、結局最後に寝そべって…、だれちゃって、」
監督「ええ」
渥美「なんとなく、いろんな世間話になった時に、」
監督「んー…」
渥美「こんなテキヤの、フフ…、おじさんでこんな面白い人がいるって、テキヤの話ー、
を最初、雑談でしたのが一番最初…、でしたね。」



            



監督「そうですねえ」
渥美「ええ」

監督「…あの、なんだかそんな話をしているうちに渥美さんから、」
渥美「ええ」
監督「わりにこう、よく出たですねえ、啖呵バイの話とか」


               
参道をビルの3階から撮る高羽さん
             


渥美「はは、ええ、ええ」
監督「上野の…じゃない、御徒町のどっかで」
渥美「ええ」
監督「なんですか、通し面子をする話しとか…フフフフフフ」
渥美「そうそうそうそう、まあ、僕が見聞きしてきた」
監督「ええ」


             



渥美「あのーその頃の本当に現実にいた人達の話だけども、
   でも、それがしかし、葛飾柴又で、さくらと言う妹がいてこう言う寅って言う人間が
   生まれてくるってのは僕は予想もしなかったんですよ、そこはねフフフ…ええ、うん」

監督「なんだか、で、結局、」
渥美「ええ」
監督「要するにテキヤの話ィ……でいいんじゃねえか、みたいな」
渥美「ええ…」
監督「割りにそんな気楽なとこでしたよね」
渥美「ええ」
監督「決めたのはねえ…」



             




渥美「ええ」
監督「…」
渥美「…」
監督「だから…本当にあの、最初はもっと変わった事を考えてたんですよ」
渥美「ええ」
監督「せっかく渥美さんのドラマをやるんなら」
渥美「ええ」
監督「え、だけど、一番…楽なとこで始めちゃったみたいな」
渥美「うん…ええええ」
監督「そんな感じがありますねえ」



              



メインテーマが静かに流れる。


渥美「う〜ん…で、まあ、その背景に柴又の帝釈天と江戸川が流れてるなんてことが」


渥美「今考えてみると」

監督「ええ、フフ…」

渥美「最初から当然であって、ねえ?」




               



監督「そうですねえ」

渥美「飯に味噌汁とお新香がついてるように本当に決まりみたいに思えるけども」



               



監督「ええ」

渥美「考えてみると本当に、よくこんなふうに段取りが出来たなと今、」

監督「んー…」


               





渥美「たまに、考えるとちょっとビックリするような、今更ねえ…フフフ」

監督「フフ…」


               



葛飾柴又という設定も、その参道のとらやという団子屋も、江戸川、帝釈天なども
奇跡のようになにから何までが偶然も手伝って実に上手く行ったことに対して
今更ながらのように驚く渥美さんと山田監督でした。





渥美さんのあの言葉…


「で、まあ、その背景に柴又の帝釈天と江戸川が流れてるなんてことが
今考えてみると、最初から当然であって、飯に味噌汁とお新香が
ついてるように本当に決まりみたいに思えるけども
、そうですねえ…


本当に、よくこんなふうに段取りが出来たなと今、
たまに、考えると、
ちょっとビックリするような、今更ねえ…フフフ」




ああ…胸に沁み、心に沁みました。(TT)



この続きはまた明日。



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53



                          
『寅次郎な日々』バックナンバー







幻のメイキングフィルム『フーテンの寅さん誕生』 その1
   1月5日「寅次郎な日々」その53


今日は  序曲




          




男はつらいよにはメイキングフィルム(ビデオ)が4本存在する。
このうち3本は今でもなんとか手に入る。(と…思う)
もちろん私も3本とも持っている。

1本は昔の『NHK特集 寅さんは生きている』のビデオで、第34作「寅次郎真実一路」のメイキング。

あと2本は、結構多くの人が知っている松竹が作成した
第47作「拝啓車寅次郎様」と第48作「寅次郎紅の花」の
メイキングビデオ「おーい寅さん」bPとbQだ。

この3本のことは、わりと私の友人たちも知っている。




そして、実はもう1本、知られざるメイキングフィルムがある。これが4本目。
時期的にはこれがもっとも初期の頃に作られたものなのである。

松竹、そして東京12チャンネルも加わり、昭和46年(1971年)に
あの名作第8作「寅次郎恋歌」制作時に、同時にメイキングを作成しているのである。
映倫も入っているのできちんと当時公の場で本編と同時期にシネマスコープで
上映されているものである。

題名は『フーテンの寅さん誕生』



          




内容は、柴又ロケ、備中高梁ロケ、芝居小屋ロケ、大船スタジオセットなどの撮影風景、

インタビュー、山田洋次、渥美清、倍賞千恵子、
森川信、三崎千恵子、前田吟、池内淳子、

山田監督と渥美さんの誕生秘話対談。などで構成されている50分間である。

第8作「寅次郎恋歌」制作時の秘蔵映像で満ち溢れている。



          



これをDVD化したものを今から7〜8年ほど前に本編DVDをたくさん買った
お客さんに、ある一時期もれなく郵送し、プレゼントしていたが、すぐに
締め切られてしまって、それ以降、販売にはいたらなかった。

その短い期間にDVDをたくさん買って、応募した方たちだけの
持ち物となってしまったのだ。

私は、その応募期間の時に、タイミング悪くDVDを大量に買わなかったので
遂に縁が無いまま昨年まで諦めていた。

ところが、私の友人である神奈川県のYさんから昨年夏、連絡があり、なんと、この
幻のDVDが手に入ったというではないか。そして私の日本帰国時に富山の
アトリエに郵送してくれたのだ。彼は、私以上の無類の「男はつらいよ」好きで、
人生を、この映画と共に長年歩んできた筋金入りの人だが、私が前々から
このDVDを探していることを知り、オリジナルを送ってくれたのだ。この時は
泣きたくなるくらいに嬉しかった。持つべきものは友だ。



そして、見た。

映像の中で1971年の若々しい渥美さんが、山田監督が、倍賞さんが、
この映画を語り、自分の役を語っていた。
そして最後の森川さんのインタビューもあり、生き生きと山田監督を語っていた。
このあと森川さんは急死される。

もちろん、どの撮影現場も今までに見たことのないような活気があり、
臨場感に溢れ、まさに宝の山の連続だった。


明日から10回ほどに分けてこの寅次郎な日々でダイジェスト版を
ちょろちょろっと紹介していきたい。



            








で、今日はほんの序曲まで。



短いですがお楽しみください。それではどうぞ。







松竹富士山   音楽が鳴り



            




江戸川の土手での撮影

鉄橋を渡る電車の警笛 プゥ〜



昭和四十六年 秋―



            




メインテーマが静かに入る


江戸川土手の撮影現場が映る。

寅が土手の向こうから歩いてくるシーンを撮っている。




            





キャメラの横で指示を出している山田監督



            





一緒に映る渥美さんと高羽さん



            





クレジット  
東京   葛飾



寅「
私生まれも育ちも葛飾柴又です」



              




クレジット フーテンの寅 渥美清



「帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎。人呼んでフーテンの寅と発します」



            






いつものオープニングの曲が流れる。



男はつらいよ第1作から第8作までの台本をバックにタイトルがクレジットされる。



フーテンの寅さん 誕生


 映倫16945



            







題経寺が映る。




琴の音とともにナレーション。



ナレーション「
男はつらいよ…。

       これで8本目だと言う、評判の映画の撮影が始まりました。




            





寅と貴子さん(池内淳子さん)とが始めて会う題経寺境内の撮影現場。



ナレーション「
ここ2年間いたるところで話題の主人公となった男、

      フーテンの寅は一体どういうふうにして生まれてきたのでしょう




            




今日は序曲なのでここまで。この続きは明日(その2)。







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52



『寅次郎な日々』バックナンバー







幸福な犬『トラ』     1月4日「寅次郎な日々」その52

今年は戌年である。寅は虎だから犬ではない。どちらかというと猫だ(^^;)。

とはいえ、今までに印象深い犬をちょろちょろっと紹介しよう。




すぐに浮かぶのはあの第19作「寅次郎と殿様」
に出てきた拾ってきた源ちゃんが名付け親の「トラ」だ。


映画が始まるなり、
もういきなりさくらにだっこされ、なでられ 

羨ましい〜(^^)



       




さくらの顔を舐めまくるのである。

いやはやまったく羨ましい〜(^^;)


       




おいちゃんにだっこされ


       




またまたしつこく座敷に上がりこみ


       




まただっこされ(^^;)


       




博には、たかいたかい〜をされ、

羨ましい限り



       




一方、同音異義語の人間様の「寅」の方は…




博に呼び捨てにされ…




博「トラ!」

寅「はい」


           
トラ!  「はい」
       




博「こんなところでクソをして!」 

寅「…」


        
   思わず股を見る寅(^^;)
       
     




「博、いつオレが庭でクソをした?」

             
       




おいちゃんたちの無駄な言いわけ

おいちゃん「犬のほうはカタカナだろ、」
おばちゃん「寅ちゃんは漢字だもんね」
おいちゃん「そうそう…寅.次.郎.…」




あげくに、おばちゃんには犬扱いされ…


       
うちにはちゃんと寅ちゃんんという犬が…
      





タコ社長には「トラトラ
トラ!」と呼ばれ

      
        大喧嘩
      



挙句の果てにおいちゃんの「野良犬」発言に寅は出て行く。


その寅にもなでてもらう犬のトラ。


人間様のいざこざなどはどこ吹く風
終始一貫羨ましい〜、トラは全く幸福な犬だ(^^)


            
      






その他で印象に残っている犬は…


源ちゃんが第46作で江戸川土手で散歩させている巨大犬。

      



第2作「続男はつらいよ」の夏子さんに可愛がられていたチビ

チビになりたい(^^;)


      





その他文字だけで紹介ですが(^^;)



第1作の奈良法隆寺の怪我していたビッコ犬

第15作「相合い傘」の兵頭パパの犬

第47作「拝啓車寅次郎様」の長浜の満男ビビリでかいハスキー犬

同じく47作の宮典子さんの近くの犬

第16作「葛飾立志篇」の犬臭くなった源ちゃんの横でいた犬


あれれェ〜〜〜!…時間がきたのでアップしちゃいます。



チャンチャン(^^)




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51



『寅次郎な日々』バックナンバー                         







ああ…さくらの髪型     1月3日「寅次郎な日々」その51



さくらはもう年がら年中『前髪無しの後ろ結び髪型』だ(^^;)

それはほんとうに可哀想になるくらいいつも同じ。たまに遠くへ旅行する時もやっぱり同じ。悲しいくらいもう
工夫が無い髪形だ。まあ、それなりに似合っているとは言えとほほである。監督う〜(TT)

寅や、おいちゃん、おばちゃん、タコ社長は別にどーぉでもいいのだが、やはりさくらはそれじゃあんまりだ…。)

で、1年に一度だけさくらも髪型のおしゃれをする。それが正月だ。
しかし、それでもそれはそれでだいたい正月のよくある髪型。お団子が上に大小2個乗っかったような
オーソドックスなやつだ(^^;)あれが結構どの作品でも続く。


そんなマンネリ髪型の中でも、おっ、ちょっといつもと違うかな、って思ったのが第28作「寅次郎紙風船」だ。
この年はちょっと可愛い感じで決めている。着物は第26作と一緒。黄色と紫の補色関係で
なかなかいい感じだった。

              
ちょっと可愛い感じの髪形
           






それ以外の作品で、いつもの正月と若干違ったのは第18作「寅次郎純情詩集」だ。
これも、なかなか似合っていた。↓たまにはおしゃれしないとね。


           






もっとも、寅の夢の中では、結構いろいろな髪型を楽しんでいる。これは
もうなんでもありなので自由なのだ。

下に代表的なさくらのイメチェンものを紹介しよう。





ご存知第15作「寅次郎相合い傘」でのチェリー、長い髪の毛とハイビスカスが
開放的な南国の雰囲気を醸し出していた。これはきれい!

           





第18作「寅次郎純情詩集」での北アフリカでのさくら。
もう、文句なしにカッコいい〜!。パリから来ました!って感じ。

           





第16作「葛飾立志篇」でさくらのバラードを歌う、テキサスの酒場のチェリー。
野性味のある雰囲気の中にも哀愁が漂う渋いさくらだった。


           





ガラッ〜〜ッと変わって、第20作「寅次郎頑張れ!」の成金さくら。優雅で上品なご婦人って感じの
雰囲気だった。同じ成金役でもおばちゃんとは対照的だった(^^;)興味のある方は本編をどうぞ。


          




まだまだいろいろあるがキリがないので今日はこのへんでお開きということで。



チャンチャン(^^)





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50



『寅次郎な日々』バックナンバー                          







思い出の正月雪景色     1月2日「寅次郎な日々」その50



とらやの正月 その2です。


とらやの雪景色は珍しい。そして美しく情緒があり、いつまでも心に残っている。
第20作「寅次郎頑張れ!」で、幸子ちゃんのテーマ曲がしっとりと流れる中、
さくらが幸子ちゃんからの年賀状を読むのである。




障子ガラスの向こうは雪景色…

          

     
      外は雪景色…
       




雪景色の中、米倉さんの巡査が長万部から戻って来た。


       




満男が庭で雪遊びをしていている。
おいちゃんの盆栽も雪がかぶって…



しっとりとした幸子のテーマ曲が流れ続ている。



       




さくらに雪を投げつける満男(^^)
このシーンがなんともいえない。 

今となっては涙さえ出てくる。


澄んだ空気を感じ、いい雰囲気なのである。



       





そしてその頃寅は…

正月日本晴れの中、あの懐かしい『坂東鶴八郎一座』とまた巡り逢うのである。

これこそ「男はつらいよ」。



明日はなにかいいことありそうな…やっぱりお正月は寅さん!


       





そしてもうひとつ


第24作「寅次郎春の夢」でもとらやの正月は雪景色である。


縁起物の獅子舞があったりして嬉しい気持ちになれる。


       




林寛子さんが、工場のみんなとスキーに行くシーンも
なかなかいい味が出ていた。


       




とらやの庭にも雪が積もって、ストーブつけて…

       


これらのなにげない風景にこのシリーズの底力をみせつけられるのです。
う〜〜ん。これなんだよなあ〜。


このあたりが後を引く味なんだなあ…(^^)


あれ〜、超正月ボケでちょっと更新遅れてしまいましたぁぁ〜。…m(_ _)m


チャンチャン(^^)






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『寅次郎な日々』バックナンバー            






忘れ得ぬとらやの正月          2006年1月1日 「寅次郎な日々」その49



          




『とらやでの正月風景』は冬作品や満男シリーズのお決まりの名物であり、それ自体がラスト直前の
気分転換の役目を果たすメリハリのシーンにもなっていて、その描写が終わるやいなや、寅の旅先に
カメラが飛んで、元気ハツラツの啖呵バイや、マドンナとの再会などで物語りは日本晴れで終わっていく。

それゆえ、数々の思い出に残る正月風景があるのだが、その中でも私にとって思い出深いとらやの
正月シーンがある。

それは、第10作「寅次郎夢枕」のとらやでの正月だ。
あの時、とらやの茶の間には、マドンナのお千代さんが年始の挨拶に訪れていて、賑やかしく雑談を
しているのだが、この時、にこやかに笑いながらもお千代さんは自分が寅を好きであったこと、その気持ちを
告白したが振られてしまったことを短い言葉ながら真正面から包み隠さず話すのである。

私はこのお千代さんの真っ正直でストレートな気質が大好きだ。
彼女の語気からは自分が寅を好きになったことに対しての誇り、とでもいうようなものさえ感じられ、私は、お千代さんなら、
ひょっとして寅のわがまま気ままを受け止めながらも末永く添い遂げることができたのではないか…。と、
今でもあのとらやでの彼女の言葉を思い出す度にそう思うのである。
リリーのもっとも強力なライバルになり得た人だったと…。

ともあれ彼女の美しく凛とした笑顔と真摯な態度はまこと正月の晴れがましい場にピッタリで、忘れ得ぬ名シーンとして
今も心に深く刻み込まれている。



下にちょろちょろっと再現してみよう。





千代「本当よ、もう結婚なんてこりごりよ」




              




おばちゃん「何いってんの、まだ若いくせに、ねえー」

社長「ほんとだよ」

おいちゃん「なんならさ、あのー…寅でどうだい?えー。」

博も社長も大笑い。




千代、真面目な顔で
どうして、可笑しいの!?




          




みんな『シーン』



千代「
私、寅ちゃんとならいいわ



          




おいちゃん「えー−!!!!?」



          






千代「
でもだめねえ、ふられちゃったから…



          



社長「あっ、びっくりした、オレ本当かと思ったよ!おい!」
と、博の肩を叩く。



お千代さん社長に向かって「
本当よ」と真面目に答える。


                    
本当よ
           






さくら「
だめよ、そんなこと言っちゃ。お兄ちゃん本気にするわよ

と本気にしないさくら。


           






千代、さくらに「
冗談じゃないのよ



           
          



社長「またまたーハハハ!」とすぐ茶化す。

お千代さんもつられてつい笑ってしまう。みんなも笑っている。

でもさくらだけはお千代さんを見つめたまま、笑っていない。



千代のテーマが美しく流れる。




お千代さんを見つめるさくら。




さくらは、お千代さんが「冗談じゃないのよ」と言った言葉の意味を考え、あの日、何が
二人にあったのかを理解したのだった。さくらは短い時間だがお千代さんを見つめ、
そして下を向き、深く考える動作をしている。
お千代さんの言葉をさくらが受け止めることが出来た瞬間だった。


さくらにとっても兄の「得恋的失恋」を垣間見る初めての経験でもあった。



そして…すべてはもう終わったことを悟り、

そのあとさくらもなにごともなかったようにみんなと一緒に笑うしかなかった。




             



おいちゃん、笑いながら「ラッキョあるよ」とか言って笑わせる。
おばちゃん「寅ちゃん、今ごろどっかでクシャミしてるわよ、きっと」



さくら、笑いながらも少し切ない気持ちになって、お膳に置いてある寅からお千代さん宛て
に来た年賀状をもう一度目で読み返す。


                                 


謹賀新年
 明けましておめでとうございます。
 わたくし、柴又におります日々は思い起こすだに恥ずかしき
 ことの数々、今はただ、後悔と反省の日々を過ごしております
 れば、お千代坊にもご放念下されたく、恐惶万端ひれ伏して、
 おん願い申し上げます。
 末筆ながら、あなた様の幸せを遠い他国の空からお祈りして
 おります。 車寅次郎
 』






新年 明けましておめでとうございます。

2004年1月10日から始めたこの『男はつらいよ覚え書きノート』ももうすぐ2年になろうとしている。
この間、カウンターの数字だけでも15万8千人以上の訪問があった。
当初、お気楽、かつ自閉的、かつ超自己満足的にやっていた私としてはこんなに多くの方々に
見てもらえるとは全く思っていなかった。まことに嬉しい限りで、これを読んでくれている方々に
深く深く感謝します。今年もマイペースでタラタラやっていきますが、どうか見捨てずお付き合いください。

本年もよろしくお願いいたします。



チャンチャン(^^)


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