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寅次郎な日々

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ご注意) このサイトの文章には物語のネタバレが含まれます。
まだ作品をご覧になっていない方は作品を見終わってからお読みください。



                 

第15作「男はつらいよ.寅次郎相合い傘」ダイジェスト版(2007年4月30日)

第14作「男はつらいよ.寅次郎子守唄」ダイジェスト版(2007年4月29日)

第13作「男はつらいよ.恋やつれ」ダイジェスト版(2007年4月20日)


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310

                          
『寅次郎な日々』バックナンバー





第15作「男はつらいよ.寅次郎相合い傘」ダイジェスト版
 

2007年4月30日寅次郎な日々 その310


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


物語の勝利. ― 渡り鳥たちの栄光 ―


山田洋次監督の中で代表作と言えば「幸福の黄色いハンカチ」になるのだろうが、山田監督には実はもうひとつ「別枠」があるのだ。
それが「男はつらいよ」シリーズである。2種類の違った種類の映画たちをほぼ同時にどちらも同じ比重で、同じ気持ちで!
作ることが出来ると言う類まれな、ある意味変わった才能の持ち主である山田監督は、それゆえにこの「男はつらいよ」シリーズの中でも
神様の気まぐれに遭遇し、もう一つの代表作となった「寅次郎相合い傘」を生み出したのである。なんとも幸福な方だ。

ちなみに、この「相合い傘」が1975年封切り。「幸福の黄色いハンカチ」が1977年封切りである。

全てはタイミングの妙だ。「寅次郎相合い傘」はそのような奇跡の作品。このような作品には穴がほとんどない。最初から最後まで一気に
観させるテンポと軽やかさ、そして背後に流れる豊穣な叙情感。本当の傑作は「重々しくない」といのが私の持論だ。実に柔らかい
ふくよかな味わいがある。絵画も同じである。いわゆる力作というのは結構重々しいが、本当の傑作は「軽快なハーモニー」とでも
言うべきものが絵の隅々にまで溢れ、全てのカットに無駄な動きやギクシャクしたものがなく、観る者を優しく包んでくれるのである。

名作「忘れな草」を作り終えた山田監督は、浅丘ルリ子の水を得た魚のごとき最高の演技を見て、このリリーというキャラクターを
もっと生き生きしたものに、もっと人間として成長させて掘り下げたものにできる、と確信し、続編を書き始める。
アイデアはどんどん湧き出てくる。山田洋次44歳.

そしてこの頃、偶然にもちょうど渥美清、倍賞千恵子、浅丘ルリ子の人生の高揚期が訪れてくるのである。役者は年齢を重ねれば、
それはそれでその年齢しか出せない味が出てくるものだ。笠さんを見ているとそのことが良く分かる。しかし、それとは
別にやはりその役者のパワーが最も外に向けて発せられる高揚期というものはあるのだとも思う。
渥美清47歳.倍賞千恵子34歳.浅丘ルリ子35歳.

この作品は寅とリリーと同じくらいさくらが素晴らしい。倍賞さんが、このシリーズ中で最も生き生きとした表情でスクリーンの
なかで華やいでいた。内面の充実が、絶妙な演出とともに見事に光を放っていた。

そういうわけで、最初から最期まで作者側の「説明的な意図」というものを感じさせないで観終えることができる。
映画でしか味わえないエンターテイメント。ダイナミックな空間の広がり。軽妙なテンポ。それらが見事に決まっていた。



『物語』で見せていく醍醐味

この第15作には大きな悲劇や重みはない。誰も死なないし、大きな暴力も、裸も、殺しもしない。結婚式もないし、事故による
大怪我も無い。主人公が刑務所から出てきたり、警察から逃げ回ったりもしない。解決しがたい理不尽な大問題も出てこない。
想像しえない大事件にも巻き込まれない。外国へ行ったりもしない。超大物スターのゲストが出ているわけでもない。
それなのにこれだけの感動が味わえるのである。正真正銘、『物語の冴え』で最後までぐいぐい観客を引っ張っていくのである。
ここに私が映画と言うものに求めてやまない「物語の勝利」、「生活の勝利」がある。

「相合い傘」は、よい脚本とよい演出、そしてスタッフとキャストが冴えてタイミングが合えば、
過激な出来事や悲劇抜きで傑作足りえるということを、私に知らしめてくれた貴重な作品だった。


『懐かしさ』という助走

この第15作を語る時に忘れてはならないのはこの作品の成功の下でしっかり支えている第11作「寅次郎忘れな草」の存在だ。
「忘れな草」は放浪の宿命を背負った2つの孤独が北の大地で出会い、つかの間の蜜月のあと、お互いの孤独の深さの違いによって
別れていく物語であった。この物語を観客は今も懐かしく、そして切なく覚えているに違いない。
「相合い傘」の物語は、この名作「忘れな草」からの懐かしさと切なさという助走つきで、いきなりターボ加速していくのである。



@【独りに戻ったリリーの訪問】

今回も夢から  

『海賊船悪魔号』

海賊タイガーキッドの夢。20年前に別れてしまった妹のことが今でも忘れられなくて苦しんでいる心優しき海賊なのだ。

              


一方遠く離れた奴隷船ではさくらや博、なぜかおいちゃんおばちゃん、そして満男までも連れ去られて苦しんでいた。

ボスの部屋

奴隷商人「このアマ!手を焼かしやがって!いいか、ワシの言うことを聞けば、食い物をやる、おお、
      きれいな
おべべもやる、大きな屋敷だってくれてやるぞ!ええ?どうだ?
待ってました!吉田義夫さん!
チェリー「お前の言うことを聞くくらいだったら奴隷でいたほうがましだわ!プッ!!と唾をかける。
お〜!倍賞さんに唾をかけさせるなんて山田監督思い切った演出。

社長「大変だ!タイガーが!海賊タイガーが現れた!ワァ〜〜!」っと倒れこんでしまう。
主題歌のイントロ チャ―ン!チャラリラリラリラ〜、リールールールー
奴隷商人「タイガー…!
タイガー「そうか。…貴様であったのか!奴隷の売り買いをしてあこぎな銭儲けをしていた男は!
奴隷商人は命乞いをするが、人生の達人であるタイガーキッドは、冷血に商人の背中を撃ち抜く。
拳銃の煙を口で「フー…」っと吹く。

タイガー「娘さんお前のふるさとはどこだ?
チェリー「はい、カツシカでございます。倍賞さん、こういう格好もなかなか似合うね。
タイガー「カツシカ島…!
チェリー「あの、キャプテンはカツシカ島をご存知ですか?
タイガー「カツシカ島…と、懐かしがる寅。
ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第2楽章が流れる。

おいちゃん「ああ!タイガー様!
タイガー「そう言うお前達は!俺のおいちゃんとおばちゃん!
おいちゃん「おお!そういうお前は!
おばちゃん「20年前に島を飛び出したあたし達の!
タイガー「うん!!
タイガー「それじゃお前は捜し求めていた妹のチェリーか!
チェリー「お兄ちゃん?お兄ちゃんだったのね…椅子にもたれてハラハラと泣く。

源ちゃん望遠鏡を覗いている。
源ちゃん「おーい!カツシカ島が見えたぞー!
カツシカ島見えるの早すぎ!さっき助けたばっか。でも夢だから…(^^;)
タイガー「よーし!全員帆を揚げェーい!

                           

最後にさくらと寅の幸せそうな顔がアップになって、赤く、「THE END


映画館 場内

映画が終わって、場内が明るくなっていく。
眠っていた寅、ようやく目が覚め、ロビーに出てくる。
寅「おばちゃん、面白かったよこの一言が映画人にとってどれほど栄養になるか。
でもまあ、ほんとは寝てたんだけどね…。こういう、なにげないやり取りがこの映画の隠れた魅力。
               

寅、映画館から出てくる。
                           

タイトル

江戸川をバックにして。
男(赤)はつらいよ(黄)寅次郎相合い傘(白) 映倫18428(白)

口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。


   ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


   ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労もかけまいに かけまいに♪



なんと、今回は歌の間、コントも無いし寅も出ない。
歌の間の主人公は『さくら』

クレジット中ずっと「さくら」の日常を大事に撮っている。江戸川土手で旅先の兄を想うさくら。
さくらが鉄橋近くの江戸川土手で自転車を走ら、満男を迎えに行き、とらやに戻ってくるまでをカメラは丁寧に追っている。

               


矢切の渡しに風が吹いている。 
題経寺境内に午後の風が爽やかに吹いている。
ルンビーニ幼稚園で満男を引き取った後貴子さんの経営する喫茶店ロークを曲がって
題経寺の山門前を他のお母さんたちと通り、参道を歩きとらやに向かうさくら。




とらや 茶の間


テレビでエリザベス女王夫妻のパレードが映っている。
おばちゃん「お若いねえ。あたしといくつも違わないんだよこれで
エジンバラ公は博に似ているとか、じゃあさくらは女王様だ。って言って盛り上がる面々(^^;)
さくら「あらこのプリンス鼻垂らして、ちょっとおいであ、ちょっと、こら!プリンス!と満男を追いかける。
おいちゃん「そういやあ、うちにももう一人プリンスがいたなあとヨモギの葉っぱをちぎりながら思い出す。
おばちゃん「本当だ
社長「いたいた!四角い顔のプリンス!
おばちゃん「でも今度はずいぶん遅いねさくらちゃん
さくら「何してんだろ今ごろ

店に人が入ってくる。

おばちゃん「あれ?お客さんかしら
さくら「あ。あたし出るわ
さくら「いらっしゃいと、さくら、暖簾をくぐって店先を見る。

リリーが店先に立っている。


さくら「ぁあらまあ珍しい!さくらの顔が、急に華やぐ。懐かしくてたまらないのだ
リリー「こんちは
さくら「ちょっと!おいちゃんおばちゃんね、早く!

                 実にいい顔で迎えるさくら
              

おいちゃん「あ!!いやー、これはこれは」と驚く。
おばちゃん「あ〜ら、まあ!メリーさん出た〜〜!!おばちゃん十八番!
さくら、口にハンカチあてて「やだァ!大笑い。
リリー「フフフ
おばちゃん「え?あ、じゃないジュリーさんあちょ〜!2連発!(^0^;)/ジュリーは三郎青年だよ。なんてね。
そういえば第17作「夕焼け小焼け」の『ぼたん』の時もあわてて『リボンちゃん』って言ってたね(^^;)
さくら「何言ってんのよリリーさんじゃないのよ
リリー、ゲラゲラ笑っている。
さくら「はー!よく来てくださったわねー
リリー「なんだか急にここが懐かしくなってきちゃってね
いろいろリリーにお店(寿司屋さん)のことや近況を尋ねるみんな。
おばちゃん、お茶置きながら「赤ちゃんまだですか?リリーさん
リリー「あのねえ
さくら「うん
リリー「あたし別れちゃったの
一同「…!
さくら、まだ、言ってることが、すぐに飲み込めないでまだ顔がにこやかなまま。

               さくらはリリーの言ったことが飲み込めていない        
                    

リリー「結局堅気の商売には向かないのよ、あたしみたいな女は
さくら「…とっても、…いいご主人だと思ったけど
リリー「そう…。あたしが悪いのよ。あの人には、気の毒なことをしちゃった

一同沈黙。

リリー気を取り直して「寅さんは?
さくら、ちょっと顔が明るくなって
さくら「ああ、お兄ちゃん?今さっきもね、噂してたんだけど、去年の秋頃帰ってきて…それっきり
リリー「そお…ハハハ、私も会いたかったんだけどでも多分そんなことじゃないかと思ってたんだまあ、普通はいないよね。

みんなでリリーを引き止めるが旅の途中だからと遠慮し、スッと出て行く。
どうやらリリーは昔のようにまた旅をしながら歌を歌っているようだった。




帝釈天参道をリリーとさくらが歩いてる。

さくら「ねえ、これからどこいくの?
リリー「北の方。冬の内は九州とか四国とか暖かい所歩いてたんだけどね。そうね…夫と別れてからだいぶ経つんだね…
リリー「これからは、岩手、青森、それから北海道。そうだ!ひょっとしたらどっかで寅さんと会えるかもしれないわね
さくら「ああ、そうね。会ったらよろしく言ってね
リリー「うん
さくら、止まって。
さくら「それじゃお元気でね
リリー「さよなら。 そのうちまた来るわね
さくら「お兄ちゃんと一緒にね詩人だねえ…(−−)
リリー「うん」とハンドバックをふって別れる。
それにしても、一人行く後姿が良く似合うリリー。寂しさを風で吹き飛ばしているようだ。寅と同じ。


A【パパと寅の北の旅】

青森市。青函連絡船の見える港町

青函連絡船の汽笛「ボ〜!」
縁日 寅がバイをしている。易の本を売っている


旅館

二階に上がってくる。
寅は今、八戸からついて来たへんなサラリーマンと一緒なのだ。


寅「あ〜あァ…」と障子を開ける。
暗い部屋のテーブルに謙次郎が乗って、つま先立ちをしている。
寅「あ〜!!おいッ!早まっちゃいけねえ!と腰を持つ。
謙次郎が遂に自殺と思ったらただの蛍光灯のひも直しだったので寅は怒る。
                       
寅「バカァ!そのことを早く言えよお前!ハアァー…ビックリしちゃったなオレ
健次郎「どうもすいませんでした。」と頭を下げる。

健次郎「実際僕はこの数日間
寅「ウン
健次郎「あなたと旅をしながら
寅「ウン
健次郎「人間の愛情と言うものが
寅「と目をしかめる。
健次郎「本来どのように暖かくて
寅「ア〜〜!!
健次郎「優しいものであるかという事を…
寅「分かった分かった分かった
お前さんのその屁理屈聞いてるとね頭の芯がズーンと重くなっちゃうんだよオレ!
ビールでも飲もうよォ…もお

東京の家から失踪し、八戸からずっと寅にくっついてくる兵頭謙次郎だったが、本人は自宅にどうしても
連絡したがっていないので、寅は仕方なく自分でさくらに電話し、連れの男の家に連絡してやるように頼むのだった。
さくらはいきなりいろいろ言われて訳がよく分からないままにとりあえず電話をする。



津軽海峡

青函連絡船(十和田丸)の中 
寅階段で上のデッキまで帽子を押さえながら上がってくる。

寅「どっか行く時は一言断っていけよ。自殺したんじゃないかと思って心配しちゃうじゃないか
健次郎「大丈夫ですよ寅さん
寅「え?

               

健次郎「僕は死にやしませんよ僕は死ぬために旅に出たんじゃなくて自由を求めて旅に出たんですから
寅「分かった分かった分かった分かった
寅「な、パパ、下行っておマンマ食おう。な、早く行こう。うん
健次郎「そうですね

あっ寅さん!こんな近くに。
カモメが近くを飛んでいる。
健次郎「いいですねえ…鳥は自由で
パパさん。鳥はあれはあれで、空飛んでいる時も、いろいろ大変なんですよ、本当は…(^^;)だから、
寅もこれはこれでその代償を払いながら大変な人生を歩んでいるんだけどなあ…。
自由の旅がそのまま日常になってしまった男の侘しさと辛さをパパは遂に知ることはないだろうな…。



柴又参道 とらや 

兵頭パパの奥さんがやっていろいろさくらたちに尋ねるが、寅やパパがどこにいるかも分からないんだから、
話が進展しようがないのだ。結局寅からの連絡待ちしかない。




北海道 函館港  汽笛が鳴る ブォ〜〜〜

船を見送る家族が映る。

謙次郎「長い航海に旅立つ父親。別れを惜しむ子供たち。
    悲しみを胸に秘めて手を振る妻…。みんなそうやって生きてるんだなあ

アンパンを持ちながらしみじみする謙次郎パパ。
寅「のんきなこと言ってる場合じゃねえぞ、おい。二人の金合わしたってこれだけなんだよ。
 今夜の宿銭にも足りないんだよ

謙次郎「いいじゃありませんか
寅「ど、どうしてよ
謙次郎「いよいよとなれば駅のベンチだって寝られますよ。それがいい。ロマンチックですよ〜それも
と、
アンパンをかじる。

寅「ケェッ、パパだけロマンチックにしなさいよやってられねえな、まったく ┐(~。~;)┌



B【懐かしいリリーとの再会】

函館港 夜景

汽笛 ボーー…
屋台でラーメンを食べてる謙次郎。寅はうつぶせになり寝ている。
ラーメン屋のおじさんはお馴染み大杉侃二朗さん!


リリーが謙次郎の横に座る。

リリー「おじさん、ラーメンちょうだい
リリー「火かして
謙次郎「はいはい
リリー、少し頭を下げて、礼の意思表示。

謙次郎「お仕事の帰りですか、大変ですねえこんな遅くまで

リリー、それに答えるでもなく、前を向いてぼんやりタバコを吹かしている。
                 
寅、ちょっと起きかけて「う〜ん?自分に何か言われたと思って起きる。
リリー、寅の「う〜ん?」の声で、ほんのチラッと寅の方を見るような見ないような…。
寅ぼーっとリリーを見る。
リリー、なんとなく寅のあの姿かたちが視野の隅に入って、はっと振り返る。動物的カンが働いたようだ。
二人ともよく見ようと顔を覗くように見る。寅もハッとし、顔を覗き込もうと体をずらす。
寅、また、前へ乗り出して「…!リリー!
リリー「…!

目を大きく見開いて

リリー「寅さん…!…寅さんじゃないのォォ!!」    
寅「うん

             

リリー「あんた本当に寅さんなのねえ!
寅「当たり前じゃねえかよ。お前どこ行ってたんだい!?
リリー「いろいろあったんだあ〜。
間髪いれず頷く寅

リリー「私、あんたに会いたくて柴又まで行ったのよ!!

              

寅「柴又行ったぁ!
リリー「うん
寅、満面の笑みで
寅「俺いなかった!
リリー「そうよぉ!どこ行ってたのよ一体!
寅「うん、ヘヘへ
リリーは、寅だと分かった瞬間、すばやく寅の手を握ろうと手を伸ばす。
そして寅もほぼ同時にそれよりもっと早く、リリーが握ろうとした手を外からしっかり握っている!

謙次郎「あの…ちょっとすいません。お邪魔なようですので私はこれで…
リリーも寅も嬉しくて、パパの言葉が耳に入っていない(^^;)
謙次郎「本当に長い間いろいろお世話になって…
リリー「この人あんたの連れ?とパパを指差す。
寅「うん、そうなんだよ
間髪いれずに、迷いなく
リリー「一緒に飲みましょ一緒に!
寅「おー!よしよしよし、座れ座れ座れ

寅もリリーも会って、一言目に「久しぶり」だなんて他人行儀なことは言わない。寅は「お前、どこ行ってたんだい
リリーも「
どこ行ってたのよ一体だ。この言葉は夫婦や親子、兄妹たちの再会場面で交わされる言葉で、
いつも相手のことを会っていない時にも思い続けていないと出てこない言葉。運命共同体の意識なしには
絶対出てこない言葉である。友人同士が久しぶりに会った時にはまずこんな風には言わない。
お互いに
恋人以上の深い縁で結ばれているのだろう。不思議なものだ。そして山田監督の深い洞察力に基づかれた見事な演出だ。


寅「あ、この女な…、二年程前に俺といろいろわけありの女よと、謙次郎に紹介。
紹介の仕方があっさりしてていいねえ。「わけあり」 ただそれだけで、全てを語っているように思えてくるから面白い。

リリー「もう二年なるかしらねえ〜
寅「そうよー。去年、おととしの夏だもの
リリー「そうだったねえ〜…と思い出すように。
寅「う〜ん
リリー「あんたあれから何してたのよぉ〜!?と、寅の手を握って揺さぶる。
寅「えー?…俺か?……恋をしていたのよ
リリー「ヒィーー!よく言うよ!ハハハハ!
寅「エヘへへへへ!ハハハ!
パパも後ろで実に楽しそう。
                                           
                   

この函館の再会シーンを見ると、必ず第25作「ハイビスカスの花」のラスト「兄さんこそ、なにしてるのさ、こんなところで
おれゃ、おめえ…、リリーの夢を見てたのよ を思い出す。この二つは寅とリリーの名セリフの双璧だ。

寅「よーし一杯飲むかおい!
リリー「おじさんじゃんじゃん出して!
おじさん「はいはい」
寅「よし!今夜はパーッと行こうおい!
謙次郎「いきましょういきましょうハハハハ!

この1975年、函館での再会の夜の場面を、後に1995年第48作「紅の花」の中で20年の歳月を経て、
寅とリリーはふたりして回想してゆく。観客はみんな20年前にもどり、あの顔、あの声があざやかに蘇っていたことだろう。



リリーは寅にようやく会えた。にもかかわらず、謙次郎の存在を歓迎する。ここにこの映画の魅力の大きなヒントが隠されている。
人間に対する愛情が独占的でないのだ。これは寅だけの特徴でなく、リリーも兼ね備えている。人と人との交わりを
大切にする放浪者の特徴と言っていいかもしれない。謙次郎も、当然自分だけ排除されると思っていたら、
自分の存在が歓迎されたことで人の世の機微をまたひとつ学んだのである。さびしい魂を抱えるものは同じ魂を
持つものを絶対に排除しないのであろう。


C【彼ら生涯の最高の日々】

函館の旅館 2階の廊下

パジャマで歯磨きをしているパパ。あんな薄いカバンのどこにパジャマが入ってるんだ?
リリーのはしゃぐ声が廊下に聞こえてくる。
《リリー、何年ぶりかで心の窓180度開放〜!》\((( ̄( ̄( ̄▽ ̄) ̄) ̄)))/

リリー、相当はしゃいでいる。凄い声。もう完全に子供状態!O(≧▽≦)O

谷よしのさん扮する宿の人、ちょっと怒って階段を上がってきて!トントン!(▼▼メ) 静かにしてくれと怒る。

哀愁のあるアコーディオンが流れていく。リリーのテーマのアレンジ版

寅もパパも寝ようとする。
リリー「う〜ん、つまんないよ寅さん…
寅「ええ…
リリー「私冷え性なのすごく。夏でも足が冷た〜いんだ
寅、布団の中から、「下、行って、湯タンポつがしてもらえ
リリー「温めさしてェ]と甘えながら寅の布団に足を入れる。
寅「あ、あ、あ、だめだ。ヒャッコイ、ヒャッコイ、ヒャッコイ、そんなつっこんじゃだめだよ、おまえ
リリー「けち
リリー「じゃあいいよ、パパに温めてもらうからとパパの布団に、足を突っ込む。
謙次郎「そんなあ…(◎_◎;)
リリー「うわぁ、温かいわ、パパの足。気持ちいい〜!
謙次郎「寅さん…、寅さん!
寅、寝ながら「パパ…、温めてやれ…
謙次郎「ヒ、イイィ…パパ、緊張しながら、枕に頭を下ろす。
リリー、パパの布団に寄り添いながら、子供のように目をつぶり
リリー「気持ちいい…
パパ、唾を呑み込みながら、仰向けで緊張している。パパ、今夜は当然眠れそうにないねえ (〃^o^)=3

               




函館本線 

車内
パパが、うとうと居眠りをしている。
まあ、昨夜リリーにあんなにくっつかれちゃあ、寝れないよな。普通は(^^;)
リリー「アハー、あたしお腹すいちゃった〜!
寅「長万部で降りてカニでも食うか
リリー「カニ!
寅「うん!
リリーいいわねえ、パパ、お金有る?さっきの宿代の残り
寅「ちょっと、出してみろ、出してみろ
謙次郎「あ、はい。しかし、カニなんか食べてしまうと今夜の宿代が…
寅「いいじゃないか銭がなかったら、三人そろって駅のベンチで寝たっていいよ
謙次郎満面の笑み!「そうですね!そうしましょう
寅「だいぶ変わってるだろへへへへへ
リリー「ハハハハ
              



夕日に染まる  塩谷海岸。 積丹半島のつけ根

寅たち夕日をバックに波打ち際で遊んでいる。
ハーモニカによる故郷の廃家(はいか)が流れる。
第7作「奮闘篇」で花子ちゃんが、江戸川土手で歌っていた曲。
寅が拾った海草を振りまく。逃げるリリー。笑うパパ。
寅「ホ〜レ〜
リリー「イヤァ〜走るリリーハイヒールを手に持って
リリー「キャハハハ!
石を海に投げる寅。トォ〜

               

波打ち際をキャキャ走り回るリリー。
リリーの体が夕陽に包まれ光り輝く。

彼ら、生涯最高の日々…



早朝の  函館本線  『塩谷駅』
鶏の鳴き声
リリー、水道で顔を洗っている。
寅「ハーァ、久しぶりに駅のベンチで寝たら体痛くて。布団じゃなきゃダメだなこりゃ鉢巻している。
リリー「フ…タオルで顔を拭いてる。
パパ、出てきて「おはようございます
リリー「おはよう
謙次郎「よく寝られましたか、リリーさん

パジャマ姿!のパパ、歯ブラシを口に突っ込んで歯を磨く。
林間学校の生徒みたいな気持ちなのかもしれない(^^;)パパにとっては『駅寝』もハレなのだろう。
背広やワイシャツを脱いで、きちんとパジャマを着て寝てしまう行為は、日常の心を残したまま旅を続けていると
いうことでもある。『決心を伴わない放浪』のぎこちない、滑稽な姿がそこにある。


寅「ガハハハ!パパ!短靴(タングツ)はいて寝てやがる!ガハハ!
謙次郎「フフフ…」と笑いながら歯をしっかり磨いている。
リリーも笑っている。

                


札幌 大通り公園

なんと3人でバイをしている。(万年筆)
バイの主役はなんと寅ではなく、パパ!寅とリリーは『サクラ』
寅「あ、そうかい…、それじゃ、その火事になってその万年筆工場っての、潰れてしまったってわけだねおいおい(^^;)
謙次郎 頷く
寅「可哀想になあ…
リリー「あなた、買ってさしあげたら?坊やも欲しがってたじゃないの坊やって誰や?(ノ゜ο゜)ノ
寅「そうねえ…。これ1本いかほど?
謙次郎「せ、千円いただければ…上手い!(^^)

                

リリー「安い…
寅「え?そんな安くっていいの?、これ、あの、ほら、水をかぶっただけで、火には全然あぶられていないんでしょう?
パパ、頷く
寅「安いもんだなあ…
リリー「あ、よく書けるわ〜リリーっていったい…(^^;)
寅「ママ、嬢やにも1本買ってあげたら。英語のお勉強しているから嬢やもおるんかい?(/^□^)/
リリー「そうねえそうねえって…(^^;)
『ママ』『嬢やにも』って言われて、ほんの一瞬、どう言おうか迷っていたりりーでした(^^;)
リリー「女物ございますぅ?リリー笑ってるよ ヾ(´▽`;)
寅「安いねえ!千円は。安いねえ〜しかし

つられて何人の客が買い始めている。


田舎の牧場の1本道

荷馬車の上に揺られている3人。
白い花が一面に咲いている。
鳩笛による スコットランド民謡「Comin' thro' the Rye」が流れる。

リリー「だってさ、パパがしょんぼりしてると、ほんと可哀想ぽくなっちゃうよね!
寅「ほんとなあ、素人は恐いよ!え
謙次郎「いや、ほんとは汗びっしょりだったんです、ハハハハ!
荷馬車が揺れて「ワーッ」と3人とも大はしゃぎ。

3人の笑い声は続く。景色はいいし、懐もちょっと温かくなって、安堵して、最高の気分!
この笑顔はいつまでも私たちの記憶に刻まれていくことだろう。
こうして、渡り鳥たちの栄光の日々は最高潮に達していった。

                



D【小樽物語ー 謙次郎と信子30年目の再会】

小樽

蒸気機関車が遠くを走っている「ピ〜!」 。鄙びた小樽運河をポンポン船が行く 「ポンポンポン」

運河の橋の上

謙次郎「小樽……ここが小樽かあ…しみじみと感慨深げに運河を見ている。

小樽ではパパが主役なので、パパ改め謙次郎(^^;)
謙次郎、寅のところに駆け寄って
謙次郎「寅さん、僕は30年間、夢に見た街ですよ…30年間とは、ただ事じゃないぞ、こりゃ。
寅「そんなにいいかね、この古臭え街が…

                           

謙次郎「あ、いや…この街には僕の初恋の人がいるんです…学生時代東京で知り合った人ですけどね、
    小樽の人だったんですよ、その人は…

寅「そんなに惚れてたの…
謙次郎「ひょっとしたら、僕が生涯で一番愛した人かもしれませんねえ…
寅「愛しただって…ククク
リリー「ク〜ククク

謙次郎「考えてみれば、僕はこの街に来たくて旅に出たのかもしれないなあ…これはますますただ事ではないぞ…


『外人坂』の急な石段  小樽市東雲町付近。

初恋の人の家を探したが、一昨年夫に先立たれ、引っ越したことが分かる。今は喫茶店を開いているらしい。
寅「行ってやれ、行ってやれよ!と、彼女にそれでも会うことを助言する。
謙次郎、静かに頷いて「…そうですねえ心なしか表情が明るい(^^;)
謙次郎緑町へ急ぐ。



小樽市緑町1丁目あたり。

軽食喫茶 ポケット店内 

謙次郎、中に入ってくる。

信子、遠くから「いらっしゃいませ
初恋の人帽子を脱いで、前の方を向いた時、カウンターの中の信子を見つけ、ドキリとする。

三十年ぶりに見た初恋の人の姿であった。
彼女は入ってきた謙次郎に、全く気づいていないような、しかし、そのようなふりをしてるような…。
謙次郎「コーヒー下さい
しばらくたって
信子「お待ちどうさまと、やはり、謙次郎の方を見ないでコーヒーとミルクピッチャーを置く。
謙次郎は、思い切って信子を見るが、信子はやはりそのまま向こうへ行ってしまう。
謙次郎、急にいたたまれなくなり、
謙次郎「あの…お金ここに置きますからと、大急ぎで店を出て行こうとする。
信子「あら…

謙次郎は自分が信子に30年間抱いていたイメージとのギャップと、そして、信子が自分を
覚えていなかったのではないかと思う失望感で、いっぱいになってしまったのであろう。

店から出た謙次郎。迷いながらも歩いていく。

しかし、すぐ、立ち止る。カバンを忘れたことに気づいたのである。 ためらいながらも、店に戻ろうとして振り向く。

信子店から謙次郎の鞄を持って出て来て、目で謙次郎を探す。 そして、はじめて謙次郎を見て微笑む。

謙次郎、信子に近づき、鞄を受け取りながら
あ、どうもすいませんと、すぐに立ち去ろうとする。
信子「謙次郎さんでしょう?

哀しげな、テーマ曲が流れる。

謙次郎「ええあのうお分かりですか?
信子うなづいて「お店に入ってらっした時、すぐわかりました
謙次郎うなずく
信子「あなた、昔とちっともかわらないのねえ…
謙次郎「そうですか、僕はまた、覚えてないんじゃないかと思って。ヘヘヘ…
謙次郎、ハッとして
謙次郎「いえ、出張でこっちに来たもんですから、ちょっとお寄りしただけなんです
信子、ほんの少し、うなづく。
謙次郎「あのう…お元気そうで何よりです
信子「あの…
謙次郎「は?
信子「もう一度お入りになりません?

             

謙次郎「い、いえ。僕、汽車の時間なんかあるもんですから
信子「……
謙次郎「あのう…どうぞ、お幸せに…
信子「……下を向いたまま小さく頷く。
謙次郎「じゃ、僕、これで、…どうも…


足早に去っていく謙次郎。謙次郎に、もう一言何かを言おうとするが、やめ、
その後姿を追いすがるような目でいつまでも見つめている信子。

アコーディオンの響き

実は、信子は店に入ってきた謙次郎を、彼が彼女を見つけるより早く気づいていたのだった。
30年という歳月はあまりにもお互いの溝を大きくしていた。気持ちがあるからこそ気づかないふりをして
しまったのかもしれない。
それでも、最後は、ほんのひと時、昔の思い出に浸りたい気持ちを遂に隠せなかった。

会わない方がいいのは百も承知で、それでも過去の思い出に引きずられて会ってしまった男女の悲劇。
一番大切にしていた青春の美しい思い出が崩れていったのかもしれない。



E【突然やって来た旅の終わり】

小樽港。

夕暮れ時の波止場


謙次郎「僕って男は…、僕って男は、たった一人の女性すら幸せにしてやることもできないダメな男なんだ…
リリー「幸せにしてやる?大きなお世話だ。女が幸せになるには男の力を借りなきゃいけないとでも思ってるのかい?
寅「でもよぉ、女の幸せは男しだいだっていうんじゃないのか?
リリー「へえ〜、初耳だね、あたし今までに一度だってそんな風に考えたこと無いね。
   もし、あんたがたがそんなふうに思ってるんだとしたら、それは男の思い上がりってもんだよ

寅「へえ〜…、おまえもなんだか可愛げのない女だな、おい
リリー、ムカッときて、近寄ってくる。
リリー「女がどうして可愛くなくちゃ、いけないんだい。寅さん、あんたそんなふうだから、
    年がら年中、女に振られてばっかりいるんだよォ
と背中を向ける。
寅「おい!リリー、おまえ、 言っていいことと悪いことあんだぞー
リリー「だって、ほんとだろ?と少し微笑みながら寅の方へ振り向く。
謙次郎、おろおろ
寅「じゃあ、オレも言ってやるよ。なんだおめえ、寿司屋の亭主と
  別れてやったなんて体裁のいいこと言ってェ。ほんとは、テメェ、捨てられたんだろ


リリー、動きが急に止まって、振り向く。
一瞬その場が凍りつく。   
 リリー、振り向いたまま絶句。 悲しみに震え出す。
リリー「……

                           
              

リリー、悲しい顔で、

リリー寅さん…、あんたまでそんなことを…。あんただけは,そんなふうに考えないと思っていたんだけどね…
目に涙が一杯溜まっている。やがて頬につたってゆく。


寅、リリーを見つめている。
リリー、強い目で寅をにらんでいる。

謙次郎、リリーのところへ歩み寄って
謙次郎ごめんなさい!僕のために、こんなことになっ…!
リリー「うるさい!!
私帰る。さいなら
早足で行ってしまうリリー。
謙次郎「リリーさん!
謙次郎寅の方を振り向き、りりーの鞄を持ち上げる。
謙次郎「寅さん!どうしましょ!?
寅「バカ、持ってってやれよ!!とどなる。
謙次郎、頷いて、すぐに追いかける。

寅、リリーの後姿を見ている。
下を向き、自分が言ってしまった言葉の罪が ようやく実感できてきた表情。
座って、ぼんやり海を見ている寅

旅の終わりは突然やって来た。
謙次郎は謙次郎の理由で。
リリーと寅は背負った運命の重さの違いで。


リリーの、歌を愛するがゆえの、自分の足で歩き続けたいがゆえの、定住からの決別と孤独の闘いの日々を、
巷の色恋の顛末に、すりかえて茶化してしまった寅。 自分の日々の闘いの寂しさ辛さをたとえ誰も分かってくれなくても
この世で、寅が分かってくれていると心底信じていたリリー。 今、リリーはまぎれもなくこの世で独りぼっちなのだ。

ついさっきまで、あの声、あの瞳を持っていたリリーは寅の横で笑っていたというのに…。
波止場に独りたたずむ寅の背中は、いつになく小さく痛々しかった。



F【リリー再びのとらや登場】

とらや 店 

とらや さくらが兵頭パパの奥さんからの電話を受けている。

電話切って

さくら「兵頭さんのご主人帰ってきたって
おばちゃん「あら
おいちゃん「そうか、そりゃよかった

なんと店先の参道に寅がいる。
みんな、背中を向いているので寅には気づかない。

寅「

おいちゃん「そういや、リリーさんも北の方に行くって言ってたんだろ
さくら「うん…
寅、ビクッ  と反応
さくら「ひょっとしたらどっかで会ってるかも知れないわね

その発言を聞いて、ドドッ!っとさくらたちのところに駆け寄ってくる寅

寅「おい!リリー来たのか…!
さくら「うん…つい、寅に気づかず、下を向いたまま返事をしてしまう。
寅「うん!
寅「いついつ!?いつ!…いつ!!
さくら「ええーっと…せせ、先月の始め頃だったかしら
寅「きのうやおとといじゃねえのか…がっくり。
さくら「うううんん倍賞さんのこの小刻みな首の振り方、愛嬌がありました(^^)
寅「チッ、何だよ…ガックリさせやがらァ
さくら、おいちゃんと顔見合わせて、ようやく我に帰り、立ち上がりながら両手をあげて

さくら「…!お兄ちゃん!!遅いって ヽ(^^;)
さくらの、カン高い大声に、おいちゃんおばちゃん椅子から宙に浮く!!このタイミングのズレがたまりません(^^)
特におばちゃんのスーパーボールのようなぶっ飛び方は、さすが年季が入ってる!
寅「オイオイ!脅かすなよおまえ!!!あんたでしょそれはヾ(^o^;)

さくら「ね、お兄ちゃんリリーさんが来たのよ
寅「知ってるよ…函館でな、ばったり会ったんだよ
おいちゃん「やっぱり…やっぱりって、普通会わないぞ。天文学的数字だからね(^^;)

寅「それがな、さくら…
さくら「うん
寅「オレ、リリーの奴に…ひでェこと言っちゃったんだよ
さくら「どんなこと?
寅「うーん…ちょっと口に出しちゃ言えねえようなことよ。あいつ大きな目に、いっぱい涙浮かべて、
 よっぽど悔しかったんだろうな


さくら、リリーが前にいることに気づいて目が唖然。

おいちゃんや、おばちゃんもさくらに目で合図されてリリーに気づく。

寅「は〜あ、もし…ここにリリーがね、現れたら、オラァ、この土間に、手ぇついてでも謝りたいよ。
さくら、リリーのことを寅に知らせようとする。
さくら
ねえ、」と寅の袖に手を当てる。
寅、さくらに、お構いなしに反省の弁を続ける。
でもねえ、あいつはきっと勘弁しちゃくれねえよ。オラァ本当ひでえこと言ったんだもん…

リリー「寅さん…

寅、ビクッとして、捻っていた手ぬぐいがすっぽ抜ける。

                      寅さん…
              

寅「あれはリリーの声…、まさかそんな…
リリー「寅さん、私よ
寅、振り返る。
リリー微笑む。
寅「…!リリー
リリー「寅さん!夢中で寅に駆け寄るリリー

リリーのテーマが流れる  

マンドリンから入り、ギター、オーケストラへと膨らんでいく。

寅に抱きつくリリー。
リリー「ごめんねこないだ、私も言い過ぎたんだぁ!

                       

寅「悪いのはオレのほうじゃなえかよ。オレはもうおまえに一生勘弁してもらえねえと思ったんだぜ
リリー「バカねえ、私そんな女じゃないよ
寅「うん、そうなんだよ。おめえそんな女じゃねえんだ、そんな女じゃねえとオラァよく分かってんだよ

リリー「こんにちはと照れながら一同にあいさつ。
さくら「いらっしゃい
寅「お、さくら、分かったろ?こういう訳なんだよへへへ…分からんて、なあ〜んにも (´ー`;)
さくら「うん、なんだかよくわかんないけど、とにかく良かったわねさすが、さくら。熟練の技。訳聞かずに納得(^^)
寅「早く早く!オラオラ!オラ!お茶お茶お茶! いや!ビールビール!ビールに切り替えよう!
 さ!さ!ほら、リリー、上がって上がって!ね!パア−ッと盛り上がろうじゃねえかよ、これ!」




夜。とらや

リリーとみんなで賑やかに歌を歌って宴会をしている。
寅、パパに報告がてら電話している。
寅、電話から戻って

寅「どうしたどうしたどうした、え!?パーッっともっと盛り上げよう!
寅、今度は博に歌を催促。
博、頷いて「じゃあ兄さんとリリーさんの再会を祝して…、いっちょやるか!!

博「!!〜〜とお〜〜り〜〜それじゃ悲鳴だよ ゞ( ̄∇ ̄;) ♪』マークだせないよ。
博「♪さ〜かぁ〜ばでえ〜、の〜むさあ〜けぇ〜は〜…
寅とリリー顔を見合わせて微笑む
さくら、博のすさまじい歌にずっと照れている。**(/▽/)**
いいねえ〜。さくらのこの表情(@⌒ο⌒@)

博「♪わあ〜かあ〜れ、なあ〜み〜だあ〜の、あ〜あじが〜す〜る〜
寅も、リリーも、少し一緒に歌っている。
                                            
                        

とらやの茶の間で博と寅とリリーが歌っている。ただそれだけのことなのに、胸が熱くなってくるのはどうしたわけだろう…。

さくら、リリーも歌っているのに気づいて、寅に人差し指で「シー」っと知らせる。
寅も分かって、人差し指で『シッ』のポーズ。 指揮だけをする。
この寅の指揮がなんとも楽しそうで上手い!


ここからリリー独唱

リリー「♪の〜め〜ば、ぐ〜ら〜すに、 まあ〜たぁ、う〜〜か〜ぶ〜〜〜

寅「ハイ!!上手いなああああ!!指揮者の最後の決め!のポーズ!
一同大拍手! (*)ノノ゛☆

               

おいちゃん「はあー!よかったー!
おばちゃん「リリーさんは、いい声だねぇ〜!
リリー、おもいっきり手を左右に振って照れながら否定する。
寅「そら、あたりまえだよ。本職だもんなあ!

そして疲れたから先に休ませてもらうと
2階に上がっていくリリー。

寅「リリー…と言いながら土間に下りて、階段の下に来る。
リリー、階段を上ろうとして
リリー「うん?
寅、腰に手を当て「何か、不自由なものないかい?
リリー、手すりに頬を近づけ甘えるように
リリー「ないわ…
寅、リリーのすぐ隣まで寄り添って
寅「足が冷たくないのかい?
リリー「冷たい…
寅「じゃあ、オレが温めてやろうか?いつものようにひゃっこいひゃっこい、って嫌がってたくせに…(^^;)

               

リリー「そうしてと階段を上っていく。
寅、照れ笑いしながら「フフフフ…
夢気分で、寅「あ〜あ、しょんべんでもしてこよ。ほら、どけてぇ
みんな唖然…。同反応していいか分からない。
題経寺の鐘「ゴ〜ン」
博「ふ〜ん…ま、今夜ゆっくり寝てあした考えましょう何を?…(^^;)
堅気の人たちには冗談は通用しませんから(^^;)



G【リリーと寅、蜜月の日々】

次の日   とらやニ階

ニ階で寝ているリリー
布団の中。でもすでに目覚めている。
階下から寅とおばちゃんの声だけが小さく聞こえてくる。

寅の声「おばちゃん、あの、リリーまだ寝てるのか?
おばちゃんの声「疲れてるんだよきっと
寅の声「なんだよこれ?パンなんか焼いてどうすんだよ。リリーはオレと同じだぞ。朝飯は納豆と味噌汁だよ
おばちゃん、小さく声だけ「あら、そお?わざわざ買ってきたのにィ

嬉しそうに寅の言葉を聴いているリリー。
とても幸せそう…。安らぎの時。
リリーにとってこれは、面と向かわない分、逆に至福の瞬間だと言えよう。見事な山田演出の冴えだ。

               

二階 リリーの部屋

おばちゃん「あのね寅ちゃんがねどうしてもリリーさんに入ってもらうんだってお風呂立ててんだけど
リリー「朝風呂!!
おばちゃん「うん
リリー「わあうれしい!私入る!幸せだね、リリー。



そして昼。 さくら、とらやの店先から入ってくる。

さくら「あら、お出かけ?
リリー「ううん、買い物今夜あたし餃子作るの。さくらさん好き?
さくら「うん、大好き。

寅、口笛を吹きながら自分の部屋から降りてくる。

寅「うん、おう、リリー行こうか
さくら「いってらっしゃい
寅「うん〜!

リリー、寅と腕を組む (@◇@;) 
さくら、ビックリ!
寅も我ながらビックリ!(^^;)
寅、あたふたして、自分の腕を見てから、さくらを見る。
さくら、唖然…。 前の江戸屋の人たちも目が釘づけ!



帝釈天参道
御前様と、花束を持った源ちゃんが道から出てくる。
寅「あ、御前様、お久しぶりでございます
御前様「イッ!!」っとビックリ。

              

御前様、『世も末』と言う感じで数珠を持って拝む。(^^;)

リリー「誰あれ?
寅「寺の坊主
リリー「違うわよもう一人の方よ
寅「猿の惑星
源ちゃんていったい…(TT)

リリー、オープニングのあたりで「坊や、元気?」って山門のところで 源ちゃんに挨拶してたくせに〜。


とらや 

さくらが店先を掃いている。


御前様急ぎ足で「さくらさん
御前様「ちょいとちょと、だ、誰だねあれは
さくら「誰のことでしょう?
御前様「寅がこうやってこう腕を組んで…この…御前様の腕組の『再現』変に生々しい^^;
さくら「ああ!あの人リリーさんと言いまして…
御前様「リリー!アメリカ人か!?出た〜!
おいちゃん「いえ、日本人です。おいちゃん最高!
御前様「すると寅とどうゆうご関係のご婦人かな?
おいちゃん「いえ、ご関係と言うほど上等なもんじゃございませんが
御前様「ま、いずれにしろ昼ひなか女人(にょにん)と腕を組んで歩くとはこら、困ったもんだ!
おいちゃん「申し訳ございません」と頭を下げる。
ずっとクスクス笑いをする源ちゃん。さくらもつられて微笑んでいる。
源ちゃん、ふざけているのがバレて御前様に叩かれ、パコッ!Σ(>д<)
さくら「!!(゜O゜;
御前様「青少年に及ぼす影響も大きい
おいちゃん「はい
御前様「困ったァ…実に困ったァ…



商店街  八百満

寅とリリーが買い物籠を下げて買い物。買い物が終わって…

リリー、すぐ寅の腕を組む。寅、組まれることに慣れてきた感じ、

                   こりゃ目立つな〜、柴又では^^;
              

寅たち遠ざかる。
客A「ちょ、ちょっと誰え、あれ?
おかみ小指を立てこれだよおかみさん、気持ちは分かるけど、表現が…^^;
客B、鋭い視線で「堅気じゃないね…



夕暮れ時 題経寺の鐘

とらや 茶の間

博、餃子を食べている。
博「うまい。リリーさん、見かけによらないなあ…
おいちゃん、おばちゃん、元気がない
博「どうしたんですか。御前様に叱られたくらいのことで
おいちゃん「そればっかりじゃないんだよ。なにしろおまえ、町中の噂なんだからな

さくら「おにいちゃんが、恋をするの、なにも今回がはじめてじゃないでしょ
社長やって来て「いや、恋なんてそんななまやさしいもんじゃないね。悪いけど
おばちゃん「じゃ、なんなのよ
社長「だからさ……できてんだよ下品…(−−;)
おばちゃん「するのと、できてんのと、どう違うのよ
社長「そりゃあ…ずいぶん違うんじゃないか?こんなことを思ってる社長が言いふらす。
柴又のみんなはいろいろ酷い噂を流しているらしい。

社長「だからさ…ほんとに怒っちゃいけねえよ
さくら、後ろで真剣に聞いている
おいちゃん「早く言えよ
社長「寅さんはリリーさんの…つまり…ヒモだって…
おいちゃん、立ち上がって「この!タコ!
社長「オレじゃないよ
おいちゃん「なんてこと、おまえは!
社長「みんなが言ってるんだって…、怒らないって約束だったじゃないか。お、お休みなさい!と裏へ逃げていく。

              

一同、がっくり…
さくら、震えながら
さくら「ひどいこと言うわねぇ…。それじゃ、あんまりお兄ちゃん可哀想じゃない…と涙を流す。
おばちゃん、涙を潤ませながら立ち上がる。



H【寅のリリーへの想い。切なく美しいアリア】

博、店先の方を見て
博「あ、兄さんですよ
寅が、ちょっと落ち込んで入ってくる。
寅、ケーキの箱をさくらに渡して
寅「リリーが、みんなで食ってくれってよ
さくら「
あら…

上がり口に腰を下ろし、
寅「はあぁー……とため息をついて、下を向く。
さくら、寅をみて、何かあった、と感じる。
少し寅を覗き込むしぐさ
博「どうかしたんですか兄さん?
リリーが歌う場末のキャバレー店を見てショックを受けている寅。
寅「いやぁ…、ゴールデン歌麿なんていうからさ、オレはどんな立派な店かと思ったんだよ」  凄い名前(^^;)
さくら「うん
寅「なに…この店より、ちっちゃいんだからさ…
さくら、少し驚き、ちょっと上を見ながら広さを想像している
寅「ホステスなんてもんじゃないよ!ババアァばっかり!
おばちゃん「まあ……(^^;)
寅「ひどいな〜…ァァと下を向く。

寅「リリーに、あんなとこで歌わせちゃいけないよ。
 オらァ、なん
だかさ、可哀想で…。しまいにゃ涙が出てきたよ
寅、気持ち分かるよ…(TT)
博「そうですかァ…そんなところで歌っているんですか…
おいちゃん「苦労してるんだなあ…、あの人も…



寅「あ〜あ……。オレにふんだんに銭があったらなあ…

さくら「お金があったら…どうするの?

寅「リリーの夢をかなえてやるのよ。たとえば、どっか一流劇場

さくら「うん

寅「な!  歌舞伎座とか、 国際劇場とか、そんなとこを一日中借り切ってよ、

             


寅「あいつに…、好きなだけ歌を歌わしてやりてえのよ

さくら「そんなにできたら、リリーさん喜ぶだろうね!

寅「んんん…!

さくら、茶の間に座る。

寅「ベルが鳴る。 場内がスー…ッと暗くなるな
                      
  皆様、たいへん長らくをば、お待たせをばいたしました
  ただ今より、歌姫、リリー松岡ショウの開幕ではあります!

  静かに緞帳が上がるよ… 」

さくら、嬉しそうに笑う。

寅、立ちあがり

寅「スポットライトがパーッ!と当たってね

               

寅「そこへまっちろけなドレスを着たリリーがスッ・・と立ってる

おばちゃんも上がり口に腰掛ける。

寅「ありゃあ、いい女だよォ〜、え〜。ありゃそれでなくたってほら容子がいいしさ

おばちゃん「うん

寅「目だってパチーッとしてるから、派手るんですよ。ねぇ!

おばちゃんたち頷きながら「うんうん、フフ…

寅「客席はザワザワザワザワザワザワザワザワってしてさ
  綺麗ねえ…。 いい女だなあ…

さくら、おいちゃんたちと「フフフ…」と笑いあっている。

寅「あ!リリー! 待ってました! パン!日本一!

                

寅「やがてリリーの歌がはじまる…


寅「ひ〜とぉ〜りぃ、さかぁばでぇ〜〜〜……、

  〜む〜け〜は〜〜〜…

                                           
                                  

寅「ねぇ…。

  客席はシ…ンと水を打ったようだよみんな聴き入ってるからなあ……

  お客は泣いてますよ〜…

メインテーマがゆっくり入る。 ー クラリネット ー 

寅「リリーの歌は悲しいもんねぇ……

                                       
                  

寅「……

寅「やがて歌が終わる…。
  花束!  テープ!   紙吹雪!

  ワァ―ッ!と割れるような拍手喝采だよ

              


寅「あいつはきっと泣くな…。

 あの大きな目に、涙が
いっぱい溜まってよ…


                

寅「……

寅、堪えきれず、後ろを向き…そして座る。

寅「いくら気の強いあいつだって、きっと泣くよ…


ハンカチを取り出す寅。
おばちゃん、前掛けで目を押さえて泣いている。
寅「ハハ……なんだか話がしめっぽくなっちゃったな、おい

                

博「いや、とてもいい話でしたよ
おいちゃん「あ〜あ、よかったァ〜
さくら、下を向いて
さくら「……
寅「
そうかい?
おばちゃん「ほんと、泣けちゃったよぉ〜
寅「夢のような話だよな…
寅「さ、…今夜はこの辺でお開きってことにするか
立ち上がって
寅「お休み
口々に「お休み
さくら「おやすみなさい

寅、階段上りかけて

寅「あ、その、リリーのケーキよ。みんなで食べてやってくんねえか…。な

と上がっていく。

さくら「リリーさんに聞かせてあげたかったな〜…、今の話
おばちゃん「ねえ…
おいちゃんも鼻水をすすっている。
おいちゃん、ゆっくりお茶を飲む。 さくら、リリーのケーキのヒモを解き始める。
柱時計が時を打つ

               


その昔、世阿弥が『風姿花伝』の序で「ことば卑しからずして、すがた幽玄ならん」と
いうことを芸の達人としていたが、『真(まこと)の花は、咲く道理も、散る道理も、
人のままなるべし。』とは渥美さんそのものだなと思った。
「花を知る」「秘すれば花」を体得した稀有の役者だと思う。


見事な抑揚。口跡の良さ。そしてそれらを遥かに凌駕する渥美さんのその姿。有り方。
何事も大切なのは姿なのだろう。姿はその人そのものをあらわす。

渥美さんが何に感動し、何を憎んできたか。何をしようとし、何をしようとしなかったか。
彼の生きざまが全てなのだと、今更ながらに人間関係の葛藤をも含めたその傷だらけの
壮絶な役者人生を思い、戦慄さえ覚えた。

あれだけの姿。ただで済むわけはないのだ。


今から、何十年後になるだろうか…。恐ろしいほど地味で控えめなこのシリーズの、
真の価値が世界中の人たちによって認められ、そしてなによりも渇望される時が来るかもしれない。

そして、その時、渥美さんの一世一代のこのアリアを聴き、
人々は、人が人を想う柔らかな気持ちをもう一度知る。
また一から歩み始めることはできるのだと。

それは、映画の勝利。物語の勝利。
そんな日がほんとうに来るのではないかと、このアリアを見ながら思っていた。

人が人を想う。 ただほんとうにそれだけ。
それだけのことがこの世界の全てなのだろう。
他には何ひとつ大事なものはない。

そんなことに気づかせてくれるアリアだった。
かつて、このアリアによって私の人生は変わった。
人の人生を丸ごと変えてしまう力をこのアリアは持っていた。

あとにもさきにも、東にも西にも、こんな切ないアリアは
世界のどこにもない。


I【謙次郎のとらや訪問】

題経寺 山門付近  寺から太鼓の音

謙次郎の姿がある。
柴又までメロンを持って会いに来たのだ。

寅気が付いて「パパー!と駆け寄っていく。
謙次郎「寅さん
あの北海道の日々が蘇るね ( ̄ー ̄)



とらや 茶の間 

さくらと謙次郎が挨拶をしている。

謙次郎「いいえ、つまらないもので
おばちゃん「メロン頂いちゃったんだよ(*◎∇◎*)
おばちゃんの、『メロン』と言う時の顔。ただものじゃない気配。

寅「銭がなくてよ、駅の売店でお天道様がずーっと当たってカチカチになったような
アンパンうまいうまいって食ったじゃねえか
謙次郎「あああのアンパン
寅「うん
謙次郎「あれは美味しゅうございましたねえ
寅「なーに言ってやんだい二個も三個もかあ?
ああいう状況の食べ物ってなんでも美味いよね。
謙次郎ああ、そうでした食べました食べました

                

寅「あ!そうそうパジャマパジャマ
謙次郎「ああ!あの時の
寅「パジャマでしょ!エヘへへ!
駅のベンチでパジャマ着て寝たことをひとしきり笑い、

寅「あ!万年ペン万年ペン!
謙次郎「そう!札幌で」
寅「うんやったねえ万年筆工場が潰れました。この人は失業者ね!買ってください。
これが偽もんだと思えないんでドンピシャリ!万年筆が飛ぶように売れるんだから

謙次郎「寅さんがサクラになって
さくら「ヤダワァ

謙次郎「楽しかったですねえ
寅「今度は何売るか!アハハ…

謙次郎下を向いて、さめざめ.。。
謙次郎は、現在の閉塞感を吐露し、それを聞いた寅たちは どうすることもできないので沈黙が流れる
謙次郎「僕も定年まであと7年ですから。そうなったら寅さんのように、思いっきり僕も旅に出ます

謙次郎は、あの失踪劇の結果を受け入れなくてはいけないことは頭では分かっていても、
気を許している寅には愚痴をこぼして甘えてしまうのだ。心優しき甘えん坊。船越さんの当たり役だ。




夕暮れの江戸川土手
寅とさくら、が謙次郎を見送っている。団子のお土産

謙次郎「あの〜さくらさんちょっと…
謙次郎、さくらの耳元で
謙次郎「寅さんとリリーさん、いつ結婚なさるんですか

さくら「え!?
寅、耳ダンボで聞いていて
寅「
おい馬鹿なこと言うなよおまえ、シラケルなあまったく
謙次郎「いいえあの式のときはぜひ僕を呼んで頂きたく思いまして
寅「分かった分かった分かった照れながらも実に嬉しそう
謙次郎「何があっても駆けつけますから
寅「ん、うん、帰れ帰れ帰れ
謙次郎「じゃ、これで失礼します
寅「うんうんうんヒッヒッヒッあばよ
寅「まったく素人は付き合いきれねえよなハハハ…ヒッヒッ



J【さくらとリリーの友情の夜】

小岩付近の商店街 
リリーが友人と同居しているアパート

リリーが同居している女友達に彼氏が遊びに来て、数日アパートを
出て行かなければならなくなったリリー。…とは言え、どこも行く当てがなく、さくらに 電話するのだった。



さくらのアパート

電話 リーン

さくら「はい、諏訪ですまあ、リリーさん!こんばんは。……なに?
    どうしたの?遠慮なく言ってよ。なにか困ったことでも?…そう…、ん、それじゃ家にこない?
   ねえ、いらっしゃいよ。たまには家だって…もちろん狭いけど…、でもいいでしょ。

さくら懇願するように「ねえ、そうして
さくら「これから、バスに乗るの?あのね、それじゃ、柴又3丁目で降りて。
  私迎えに行くから。いいのよ。大歓迎よ。ほんとよ。それじゃ、あとでね
電話を切る。
博「リリーさん、どうしたんだ?
さくら「あのね。今夜泊まるところがないんだって、可哀想に
博「友達と喧嘩でもしたのか?
さくら「詳しいこと何も言わないの。よっぽど気兼ねして電話したに違いないわ。私迎えに行ってくる今から
博「うん
さくら「博さんお酒あったかしら心配りが細かいね。
博「ああ

短い電話の中で、すぐに自分のアパートに、来ることを勧めるさくら。
なんの迷いもなく、博への相談もなく「ねえ、そうして」とまるで、懇願するようにリリーに話しかけるさくら。
リリーに対する厚い友情の念が表現されていると共に、相談する必要もないくらい信頼感で結ばれている
博とさくらの絆もさりげなく表現されていた。このさくらの短いセリフ「ねえ、そうして」は心に染み通った。



柴又3丁目 バス停

さくら「よく来てくれたわねー」とリリーのかばんを持ってやる。
リリー「ごめんねー
2人の酔っ払い客がリリーをからかっている。リリーがキャバレーで歌っているのを知っていたのだ。
さくら、気にする。
リリー「ほっときなさい。バスの中でしつこいったらありゃしない
酔っ払いB「オメー錦糸町のハーレムで歌ってたろ凄い名前やな(^^;)『ゴールデン歌麿』といい勝負。
と、なんと勢いでさくらに抱きついてくる。Σ(|||▽||| ) さくら、ビックリ仰天プラス恐怖心で目を見開く。
リリー、体当たりで男とさくらを引き離して
リリー「なにすんのよぉ!バシッ!! (*▼▼)=◯)`ν°)
強烈なビンタ一発で、男はのけぞってしまい、足が止まって呆然としている。
さすがというか、凄いというか…、やっぱりリリーは修羅場をくぐってるなあ…

足早に、男たちから離れていく二人。

路地を曲がって
リリー「嫌だったでしょう
さくら「あービックリした
リリー「ごめんね
さくら「い…ハハ…と首を振る。
リリー「フフ
さくら、ようやく平常心に戻り、リリーと笑いあう。

              

このあと、リリーとさくらは雑魚寝をしながら夜のほんのひと時、どんなひそひそ話をしたのだろうか…。
二人の友情が大きく深まった夜だったような気がしている。



K【ああ、喜びと哀しみのメロン騒動】

翌日 とらや 台所

おばちゃんがメロンを冷蔵庫から出している。

おばちゃん「うーん!い〜い匂い
さくら「あら!メロン切るの?
おばちゃん「うん、リリーさん来たからちょうどいいだろ
このあたりの話題は小津安二郎監督の「麦秋」に出てくる、 とてつもなく高いあの『ショートケーキ』を思い出す。

おばちゃん「えーっと何人だったけな
おばちゃん「わたしとやっぱ自分を最初に数えるか(− ー)
おばちゃん「さくらちゃんと博さんとリリーさんと
満男「ボク!満男!偉いぞ!よく言った。 ここははっきり言わなければいけない!修羅場だ!

おいちゃん、自分を指差して無言の要請。
おばちゃん「たべんの?「たべんの」はないだろおばちゃん┐(-。ー;)┌
いやー、自分が食べるのに夫が食べない可能性があると思いたいおばちゃん!

おいちゃん「うん!強い自己主張
おばちゃん「6等分だね。ちょうどいいわ偶数だと切りやすい。
ここでおばちゃん、『ちょうどいいわの一言で思考停止。数えるのを〆切った!!弱肉強食!
おいちゃん「おいおいおい!
おばちゃん「ええ?
おいちゃん「喧嘩しないように公平に切れよ
おいちゃんも『公平』に切れと言っただけで寅の事は忘れている。
おばちゃん「それが難しいんだよおばちゃん、分かるよその気持ち(^^;)

リリーが裏の工場から戻ってくる

リリー「あたしの父さんの働いてた工場なんてもっともっと小さかったのよ
おいちゃん「ほお〜
さくら「おいちゃんリリーさんのお父さんもね、印刷工だったんだって
博「それにしても活字や機械の事に詳しいんですね
リリー「お昼に父さんの弁当持って行ってね、よく工場で遊んでたんだ。
   鉛って体に悪いでしょう。だから活字を触ると…父さん怒ってねえェ…。

   だから博さんに会ったときすぐに分かった。あっ、この人は、印刷工場で働いてるなって
おいちゃん「そうですか〜じゃリリーさんのお父さんは博さんの先輩ってわけですね
リリー「フフ…

哀しい幼少期と青春期を持つリリーにもしばしの間、安定した日々はあったんだね。母親運には恵まれなかったが、
父親と二人で暮らしているその生活の中に幼き日の松岡清子ちゃんの安らぎの時は確かにあったのだと、
そう思えるエピソードだった。リリーのあの優しさの原点を垣間見た気がしてなんだか少し幸せな気分になれた。




メロンさま御登場〜

さくら「ハイッ!お待ちどうさまキター!

               

一同「いただきまーす」
満男がすでに食べ始めている。 次に博、リリー、おばちゃん、おいちゃん、と口に入れていく。
リリー「う〜ん美味しい〜フフフ
博「は〜ウマイ
さくら「そ?と微笑みながら、自分も一口食べる。
ハイ!これで全員口をつけました。
博、間髪をいれず、2口目、3口目博は、相当好きなんだなあ。(^^)

店先で寅がいる。

おばちゃん、寅に気づいて、真っ青。
おばちゃん「あらいけない!寅ちゃんの分忘れちゃった!

||||||||||||||(* ̄ロ ̄)ガーン||||||||||||||||


さくら「…!!

                 

さくら「勘定に入れなかったの?と超真面目顔
おばちゃん「うっかりしちゃって…どうしよう…
さくら「どうしようって…
おいちゃんも博も慌てている。
リリー、全くの平常心(^^;)さすがだね。
博「隠しましょう間違った方へ行ってるぞ博(^^;)
おいちゃん「どこへ〜?ほんとだよな(^^;)
博曰く
テーブルの下…

寅が、台所の土間に入ってくる。

さくら「あ!ああ…お、お帰りなさい。あ…と、メロンの言い訳をしようとするが…。

寅「おい、リリー
リリー「こんちは
寅「ゆうべさくらん所に泊まったんだって?なんでこっち来ねえんだよ
リリー「遠慮したのよ。あんまりしょっちゅうだからさ
寅「なんだよ〜、水くさいこと言うなよ。あんな狭い所じゃ寝られなかったろう
寅「う〜んま、そりゃいいや、な!メロン美味しいかい?わっ(><;)
さくら「ウン
寅「よし、じゃ、お兄ちゃんも一つもらおうか。じゃ、出してくれオレのナッキター!
さくら「あ、お兄ちゃん。これ一口しか食べてないから
あ〜、この解決方法じゃ、寅が傷つくよ、さくら(_ _;)

                 

おばちゃん「あの、あたしのを…食べかけ(^^;)戦線離脱!台所へ
博「あ、僕のをどうぞ食べかけ(^^;)
おいちゃん「これ食べろよな、食べかけ(^^;)
ぞくぞくと寅の前へ
食べかけメロンが差し出される。

寅「……
さくら、下を向いて「……
寅、さくらの方へちょっと座りなおして

寅「わけを聞こうじゃねえかよ

寅「どうしてみんなのツバキの付いた汚ねえ食いカスを、オレが食わなくちゃならねえんだい?
さくら「
寅「オレのはどうしたの…、オレの!?声がわなわな震えている(^^;)
さくら「あ、あたしが悪かったの。お兄ちゃんのこと勘定に入れるの忘れちゃったの
おばちゃん「違うよ!あのね、あたしが悪かったんだよ
おいちゃん「俺も気が付かなかったんだよ

リリー、向こうへ行って満男にメロンを食べさせてあげる

おばちゃん「ごめんよ
博「僕もうっかりして…」と最後に言う
一見、おばちゃんのミス。しかし誰も寅の分、残してあるかと訊ねなかったので、似たり寄ったり(^^;)

寅「いいんだよ…いいんだよ。どうせ俺はね…。この家じゃ勘定にゃ入れてもらえねえ人間だからな
さくら「そんなこと言ってないじゃない…
しかしなこのメロンは誰のとこへ来たもんだと思うんだ!?
  旅先では一方ならないお世話になりましたと、あのパパがオレのところへよこしたメロンなんだぞ
さくら頷きながら「そうよ…
寅「本来ならばこのオレがだ、 『さ、みんなそろそろ食べごろだろう、美味しくいただこうじゃないか』
 『あら寅ちゃん、すまないわねえ、あたし達もご相伴にあずかっていいの?』(おばちゃんの口真似)

 『もちろんだとも〜』『すいませんねえ兄さん、それじゃ頂きます』{博の口真似)
寅「そうやって皆がオレに感謝をしていただくもんなんだろう。それをなんだいオレに断りもなしに
  あいつのいないうちにみんなで食っちゃお食っちゃお食っちゃお。どおせ、あいつなんかメロンの味なんか
  わかりゃしないんだ。
ナスのふたつもあてがっときゃいい。そうしようそうしよう。ナスって…(^^;)

                


寅「みんなでもって食おうとした時にオレがパタパタって帰ってきたんでてめえら大慌てに慌てたろ!なんだおまえ、
  テメエ皿この下に隠したな、今出したろ!そっから!

博「い、いや…、あれは、あれはですね…
寅「あれは、なんなんだい!
さくら「お兄ちゃん、いい加減にしてよ…。勘定に入れなかったことは謝るから、ね。ごめんなさい。

寅、正座して、(^^;)
寅「さくら、いいか、オレはたったひとりのお前の兄ちゃんだぞ。その兄ちゃんを勘定に入れなかった、
  ごめんなさいで済むと思ってんのか。おまえ、そんなに心の冷たい女か!

さくら「何よ、メロン一切れくらいのことで…みっともないわねもう
寅「何を!?

おいちゃん、バン!とお膳を叩いて
おいちゃん「つね!メロンいくらだ切れました(^^;)
リリー、おいちゃんの方を見る。
寅「おまえ、オレの言ってんのはな、
おいちゃん、
お札を手で持って


                

おいちゃん「
寅、おまえ、そんなにメロンが食いたかったらな、一切れとはいわねえ、これで買ってきてェ、頭から
      ガリガリガリガリまるごとか、かじれ!
リスか(^^;)
と寅に向かってお札をばら撒く。
寅「
バカヤロ!俺の言ってるのはメロン一切れのこと言ってるんじゃないんだよ!
 この家の人間の
心のあり方についてオレは言るんだ!
おいちゃん「
なあにを!一人前なこと言いやがって、おまえ!と雑誌を寅に投げる。
さくら「
おいちゃん、お客さんもいるのに…
寅「
うあー!チキショウ!
さくら「
お兄ちゃん、やめて
博「
兄さんやめてくださいよ」と寅の体をつかんで止める。
寅「
よおし!!
おばちゃん「んもう〜〜〜!!!メロンなんか貰うんじゃなかったよ〜!!うえええん、うえええええん
とチャルメラ泣き。(^^;)
チャルメラ泣きに関しては第28作「紙風船」を見てください(^^)


一同動きが止まる

博「
何だか情けないなあ…
寅、睨んで
寅「
養子は黙ってろ!養子じゃないんですけど…(^^;)
満男平気な顔でメロンを平らげている(^^;)

リリー「寅さん、あんたちょっと大人気ないわよ…
寅「ほー、なんだ身内ばっかりかと思ったら、ひとりお他人様がいたんだな
リリー「
なにいってんだい、さっきこの家は自分のうちだと思えって、そう言っただろ上手い!さすがリリー!(^^)
寅「
おまえ、いったい何が言いたいんだよ
リリー「
言ってもいいのかい?
寅「
言ってみりゃいいじゃないか…
すでにたじたじ(^^;)
リリー「
じゃあ、言うけどねえ、冗談じゃないってんだよ、
   オレのことを勘定に入れなかったの、心が冷てえだの、そんな文句を言える筋合いかい?

   ろくでなしのあんたをこんなに大事にしてくれる家がどこにあるかってんだ、私、羨ましくて涙が出ちゃうよ。
ほんとほんと(− ー)


                

リリー「本来ならね、いつもご心配おかけしております、おいちゃん、つい「いえ…」と頭を下げる
   どうぞメロンをお召し上がりください、私は要りませんから、私の分もどうぞと、こういうのがほんとだろ!

   甘ったれるのもいい加減にしやがれってんだ!
決まった〜〜〜〜!!。一本!それまで!!(^^)/
一同「                    
寅「
…!かあ〜〜…、憎たらしい口ききやがって…これでも女でしょうか!?

                      
                      
リリー「男でなくて悪かったね
いいねえ!さすが!
寅「たいしたもんだよ!と博の肩を突き放す。
博、前につんのめる。
寅「なんだい!テメエのツラなんか二度と見たかねえや!さくら寅を止めようとする
寅「いいよ、オレはこれからね、うんと楽しいところ行って、美味しい酒飲んで
 パーっと遊んでやるから、…バカヤロウ!!
と土間に下りる。
さくら「お兄ちゃん…
寅「メロンなんか食いたかないよォ〜!てやんでい子供か(^^;)
でも、寅、ちょっと可哀想かな…

寅、走って出て行ってしまう。

リリー「みなさんごめんなさい…。私、つい頭に血がのぼっちゃって…
さくら「あ、いいのよ。たまにはあれくらいのこと言ってやらなくっちゃ。ね、おいちゃん
おいちゃん「ほんとのこと言うとね、わたしゃスーッとしたんですよォ出た!本音!(^^)
さくらおいちゃんを見る。
おばちゃん、すっかり泣き止んで
おばちゃん「あたしも便乗で、また出た!本音!
さくら、おばちゃんの方を振り返る。
博「僕も気持ちよかったなあ…。い、一度ああいうことを言ってやりたかった博は特にそうだろうなあ…うんうん( ̄  ̄

                 

さくらたち、ホッとしながら笑いあうおいちゃんも笑いながら、さくらの肩を叩く。
リリー、ホッとした顔で
リリー「ほんとォ?
リリー「でも寅さん大丈夫かしらどこいっちゃったんだろ…
さくら「大丈夫よ。そのうち帰ってくるでしょ犬か…(^^;)
おばちゃん、確信めいた微笑で
おばちゃん「カバンがありますから
ツボを押さえて、しっかりチェックしているとらやの面々。さすが。寅のことを分かってるんだね。
リリー、カバンの方を見る。ちょっと安心。
さくら「
さ!メロン食べましょ
さくらさすが!強い!
号令一番仕切りなおし。寅のこともなんのその。食べる気満々(^^)
一同、リリーの啖呵に救われ、落ち着きと、なによりも
食欲が戻ってきたようだ(^^;)
                

一同ニコニコしてまた食べ始める。
リリー、自分の分を満男にやる。
満男2個目だぞ〜!
博「あ、どうもすいません
さくら「ちょと、自分のあげなさいよ
博、間髪をいれず「自分のやれよ博の飽くなきメロンへの執念!
さくら、笑って「あ、と満男の前に自分のメロンを置く。

博はガツガツ食ってどうしてさくらだけ…(TT)
博、それは超ワガママやぞ〜 
(ノ)ノ ~┻━┻ (/o\) オトーサンヤメテー!!

リリー「いいのよいいのよ
さくら「いいんですいいんです。はいこれ、満男、ほら
リリー、満男にメロン食べさせている。さすが苦労人だね。
満男はますますこれでリリーの大ファン (^O^)

さくら「こっち食べなさい、ほら、ほら(TT)
博、黙々と食べている。
博おまえ〜〜!(▼皿▼#)
満男だけ、これじゃ2個半になるぞ〜!一人勝ち〜甘やかされてるな〜(^^;)
おばちゃんも、おいちゃんも下向いて黙々と食べている〜!
さくらだけさっきのたった一口かよ〜。あんまりだあああ(TT)


              
メロン戦闘結果

寅 =ゼロ (▼▼メ)

さくら =たった一口 残りは満男のお腹に (ノ_σ)
リリー =1切れの半分くらい。
 残りは満男のお腹に (^^;)ゝ
おいちゃん =お札ばら撒きを乗り越え、1切れ全部たいらげました。
♪(*ー ̄)v
おばちゃん =チャルメラ号泣を乗り越え、1切れ全部たいらげました。♪(*ー ̄)v
 =さくらとの攻防に競り勝ち1切れ全部たいらげました。♪(*ー ̄)v  
満男 = 全くの平常心と援護射撃により堂々の約2切れ半。一人っ子気質構築 ヾ(●⌒∇⌒●)ノ

夕闇迫る題経寺 ラーメンを持ってきた源ちゃんが走って入り口まで来る。

寅、ラーメンすする。
寅「降ってきたなあ…

                 

1年のほとんどをとらやにいない寅であるし、ヤクザで身勝手なフーテンだから、忘れられても当然しかたがない。
しかし、逆に言うと、いかにもありがちだからこそ、負い目のある寅にとっては、勘定に入れてもらえないのは、
この場合やはり辛い仕打ちなのである。 たかだかメロン一切れぐらいでグダグダ言ってしまうのも分かる気がする。

それでもあの、リリーの啖呵によって、実は救われたのはとらやの面々ばかりではなく、
言われた当の寅自身だったのであろう。

とらやの人々の寅への愛情の深さを寅の心に定着させてやり、かつ、寅が食べれないことを正当化して
やったわけだ。それも愛情に溢れたその姿とその声で。つまり、今、このままの状態でいいんだ。と、
寅に言ってやったようなものだ。

一見、皆の前で大恥をかいたようにみえる寅だが、寅の立場が実は痛いほど分かるリリーだからこその、
寅の寂しく折れそうな心を強い言葉でしっかり包み、支えながら叱咤した心に染み入る温もりのある啖呵だった。
寅はリリーによって救われたのだ。この可笑しくも哀しいメロン騒動もまた、シリーズ屈指の名場面のひとつ であろう。

さくらやおばちゃんが延々と受け持ってきたこの『母なる存在』を託せる人は、寅の悲しみが分かる
同じ放浪の宿命を持ったリリー以外にはいないのである。

リリーの寅への数々の言葉は、時には恋人の愛の告白であり、時には同士の叱咤であり、時には家族に甘える
子供の声であり、そして、時には母の子守唄なのかもしれない。そんなリリーがやっぱりいとおしい。



L【寅の気持ち。雨の夜の相合い傘】

とらや

雨が降っている


寅、背広を頭から被り、小走りで戻ってくる。なにげなくリリーのことを聞き出し、
仕事から帰ってきた彼女が駅で雨に濡れてしまうことをさくらに暗示する寅。


寅、外を見ながら

寅「雨降ってるなあ…
さくら「そうねえ…
寅「濡れるな。
さくら、ちょっと微笑んで、
さくら「大丈夫、私傘借りていくから
寅「おまえじゃないよ!バカ!身も蓋もない(^^;)

さくら「あ、なんだ、そうか、お兄ちゃん、リリーさんのこと心配でわざわざ来たの?
寅「心配じゃないよ、バカァ!
寅「ただオレはねえ!、あいつが駅から帰ってくる途中でよ、雨なんかに遭って風邪でもひいてみろ、
 おまえ、え?、肺炎起こしてみろ、こんなに
カリカリに痩せてるんだから、死んじゃうぞ
おいおい ヾ(^^;)
寅「ましてや、あいつは身寄り頼りがねえんだし、ひょっとしてこのとらやから
 葬式を出すようなことになったら、面倒だからオレは言ってんの、
先もって!!だだっこか(^^;)
さくら「じゃあ、お兄ちゃんほら、迎えに行ったげて

さくら、番傘1本だけ渡す。2本じゃないところが心憎い配慮(^^)
でも実はおばちゃんが1本だけ持ってきたので、おばちゃんの心配りかも。

                  

寅「なんで、どうして、オレが行くんだよ…、おまえ行けよおまえ
さくら「だって私、もう帰るんだもん上手い!職人芸(^^)
寅「おまえ行けよ〜
さくら「ほらお願いよ、迎えに行ってあげてさくらも大変だね〜(^^;)
さくら「ほら…」と傘を渡す。
寅「そうかあ…、いやになっちゃうな。あーあ、帰ってくるんじゃなかったい見え見えすぎるって ヾ(^^;)
番傘をパチッと開く。 前にかがみながら「う〜〜っ!」と言いつつ駅の方へ歩いていく。
この渥美さんの前かがみのポーズ、上手いねえ!
さくら、おばちゃんと見合って微笑んでいる。
おばちゃん、『ほんとにねえ』って言うような顔(^^;)
さくら、口に手をあてておばちゃんとこっそり笑っている。

こころの深いところで繋がっている寅とリリー。少々の喧嘩があってもすぐに相手の心を心配するんだね。
リリーがぬれてしまうことをさくらは気づかなくても寅は気づく。ここが寅の苦労しているところ。つまり、このへんが、
人生の素人じゃないところ。 リリーの寂しさをいつもどこかで考えている寅でした。




夜の柴又駅前 

まだ雨がかなり降っている。
電車が到着して客がぞろぞろ改札から出てくる。どの客も傘を開いて差していく。

リリーも改札から出てくるが傘を持っていないのでしょんぼりし、途方に暮れた表情。
リリー、なんとなく、向こうの方の人影に焦点が合う。

薄暗い中で寅が向こうを向きながら番傘を差して立っている。

リリーのテーマが流れ始める。 (マンドリンによる)

寅、チラッとリリーを見て、ぎこちなく、すぐまた知らん顔してむこうを向く。

                             


胸がいっぱいになりながら寅を見つめ続けるリリー
そして、満面の笑み

寅、むこうを向いたまま、番傘をくるくる回している。
                     
                 

気持ちを高ぶらせながら寅の方に勢いよく駆け出して行くリリー。
リリー「きゃあーっ、はあっっと寅に甘えてくっついてくる。
寅「んん…

寅、照れと緊張で顔をこわばらせながら、少し歩き出す。

リリー、雨を避けるため、スカートを左手で少し上げながら、
きらきらした目で寅の顔を見つめて

リリー「迎えにきてくれたの?

                 

寅「バカヤロウ〜、散歩だよ

リリー「フフッ!雨の中傘さして散歩してんの?

寅「悪いかい

リリー「ぬれるじゃない

寅「ぬれて悪いかよ
                       
リリー「風邪ひくじゃない?

寅「風邪ひいて悪いかい
                        
リリー「だって寅さんが風邪ひいて寝込んだら…私つまんないもん

寅のぬれた番傘を持つ手が映って、リリーもその手に触れるように一緒に傘を持つ。
夜の参道を相合い傘で歩いていくふたり。
リリーのテーマが切なく流れていく。

リリーのテーマが流れる中、リリーをチラッと見る寅のあの表情とあの後ろ姿を何度も見たくて、
そしてリリーが寅を見つけた時のあのなんともいえない幸せそうな柔らかい表情が見たくて、
私は延々とこの長いシリーズを見ているのかもしれない。



M【さくらの願いと、リリーの承諾】

翌日

啖呵バイ
街のビルの谷間  パチンコワールド



江戸川土手

博「すぐ喧嘩するけどすぐ仲直りするってのは本当に仲がいい証拠じゃないのか?
 そりゃああの二人の喧嘩は夫婦喧嘩みたいなものだよ

博、相変わらず鋭い洞察力!この言葉は人の世の真理だね。
さくら「そいじゃあ…、お兄ちゃんとリリーさんが結婚したら、どうなると思う?
博「え?ハハハッハハ…」  さくら、博のほうを見て
さくら「真面目な話よぉ〜。…うまくいくとおもうなあ
    だってさ、リリーさんならお兄ちゃんのこと、ちゃんとコントロールできるだろうし…
博、真面目に聞く。
博「そうか…、なんていたって、リリーさん、苦労してきた人だからなあ…
博「案外うまくいくんじゃないのかなあ
さくら、スクット立って「ねえ! たとえみんなに笑われたってさくらは本気なのだ。



とらや

店へさくらと博、満男が帰ってくる。

おいちゃん「あ、いいとこへきた。リリーさんがアパートが見つかったからそっちへいくって言うんだよ〜…
リリーは苦労人だねえ。甘え続けることができないんだね。分かるよその気持ち。
さくら「あらァ
おいちゃん「寅も帰ってないしなぁ…、とにかく晩飯食べてもらおうと思って、今支度させてんだ


茶の間 

リリーがトランクに服を入れている
。アパートに引っ越すのだ。
さくら「ねえ、どうして?いいじゃないのここにいたら
博「遠慮は要らないんですよ
リリー「そうしたいけどキリがないしねえ

さくら「少しなにか考えている。
さくら、リリーのほうを見て、なにか言いたげ。
さくら「…言っちゃおうかなあ…
博「何を?
さくら「さっきの事
博「ハ、よせよ、笑われちゃうよ
リリー「なあに?なんのこと?

そんな何かを言おうと迷っているさくらに対して、リリーは迷わず早く言うように催促する。

さくら「実はねえ…これぇ…あの、ほんとに冗談だから、怒っちゃやーよ
リリー「分かったから、早く言って
おばちゃん「本当だよ早く言いなさいよこっちまでイライラしちゃうじゃないのよ
リリー「ねえおばさん
おばちゃん「ん〜〜ん!…
さくら「じゃ言うけどね、
   リリーさんがね、
お兄ちゃんの奥さんになってくれたらどんなに素敵だろうなあって

さくら「ねえ…、冗談よ。これ本当に冗談よ心配そうにリリーの表情をうかがうさくら。 
さくら「…!

リリー「思いつめた表情。

                


さくら「
さくらどうしていいか分からなくておろおろしはじめる。
博「はっ、気にしないで下さい。夢みたいなことを二人で話していただけですから…

リリー「いいわよ

さくら「えっ?

リリー「私みたいな女で…よかったら

さくら「あの、いいって…

                 

さくら「まさかお兄ちゃんの奥さんになってもいいってことじゃ…

リリーさくらを見つめ、そしてそっとうつむいて

リリー「そう…

さくら「…!
博「本当ですか!?」 
さくら、呆然とし、ある種虚脱感の表情。事の重大さに頭がついていっていない。
                                                  
博「…ハッ
ようやく、喜びが訪れ、博に向かって表情を大きく崩す。     
さくら「は…どうしよう博さん!
さくら「おばちゃん聞いた!!?
おばちゃん「ちょっとッ!!アンタ!!!48作中一番興奮しているおばちゃん(^^;)
おいちゃん「落ち着けバカ!みっともないぞ!おいちゃんも落ち着いて落ち着いて(^^;)
リリー「……リリー、自分の言った言葉の重みに耐えている真剣な表情。
おいちゃん「もう少しで寅が帰ってくるから…はっ!!帰ってきた!!

寅「よっ、とらやの皆様今日一日労働ご苦労さまでございましたッ

緊張して、座りなおすリリー。
さくら「お兄ちゃん大変よ
寅「なんだ大変って?
さくら「リリーさんがね
寅「リリーがどうかしたのか?(リリーに)何だ?

さくら「違うのよ、リリーさんがね、結婚してもいいって

寅「結婚?…誰と?

さくら「お兄ちゃんとよ!

                              

寅「オレと…?

さくら「リリーさんがね、お兄ちゃんと結婚しても
   いいって言ってくれたのよ。よかったわねえ


と言って、振り返りながら嬉々としてリリーを見つめるさくらの目はある意味怖かった。
リリー「…… 足を抱え、緊張して下を向いて黙っている。

                 

寅「フ…、何言ってんだお前、真面目な顔して、ええ?あんちゃんのことからかおうってのか
と、チラチラ、リリーを見ながら信じようとしない。

さくら「からかってるんじゃないわよ!お兄ちゃん
寅「おい、リリーお前も悪い冗談やめろよ、え?まわりはほら素人だから、え?みんな
 真に受けちゃってるじゃねえかよ

さくら「お兄ちゃん、…
博「兄さんあの…
寅「いいから、ちょっと博お前は黙ってろ
                  
                  

寅「おい、リリー
リリー「……
緊張した表情。
リリー「なに?

この時、いったんは緊張が崩れてちょっと笑ってしまうリリー
寅「いいから、ちょっとこっち来いよ
寅の近くへ歩いていくリリー。    寅、小さなか細い声で、
寅「お前本当に、じょ..冗談なんだろ?…え?…

リリーのテーマがゆっくり流れる。

逃げ腰の寅に対してそれでももう一度正面から対峙し、
寅を見つめるリリーの表情。リリーの最後の賭け。

                  

寅の、戸惑いの表情を見て、最後は、諦めて、顔を緩めていくリリー…
                     
リリー「……
寅「えっ?
もう、リリーは僅かに笑ってしまって緊張感は消えていった…。

リリー「そう、冗談に決まってるじゃない
そう答えざるを得ない。

寅、ちょっと笑って、静かに
寅「そうだろう…
寅さくらの方を見て
寅「ほら、見ろ冗談じゃないかと、子供のようにがっくり。なんだか寂しそうな寅
さくら「
でもねお兄ちゃん、そ…

リリー「 そいじゃあたし
寅「お、どこ、どこ行くんだい?
リリー「帰るの。皆さん、お世話になりました。バイバイと、寅に向かって手を振る。
風と雷 ヒュゥ〜…ゴロゴロ…

怒りを隠しているかのように、足早に去っていくリリー。
寅「

呆然と見送る寅たち…
さくら「お兄ちゃん…リリーさん嘘付いたのよ!
寅「いや、どんな…」と小声でつぶやく。
さくら「リリーさんはね、本気でお兄ちゃんと結婚するって言ったのよ、冗談なんかじゃないのよ
博「追いかけていくべきですよ。そしてもう一度リリーさんを

                   

急に厳しい眼をして、何かを考えている寅。
さくら「ねえ、そうしたら?
博「たぶんあの駅の方ですよ
さくら「どうしたのよ、お兄ちゃん!!と、激しく寅の腕を揺すって訴えるさくら。
遠雷が鳴る。
寅、押し黙ったまま、二階の部屋へ。
雷の音 ゴロゴロゴロ…  雨が降り出す ザザザァー…

さくらと博、リリーの去った方を見て
さくら、二階の部屋へ急いで上がって行く。



N【渡り鳥の宿命を知る寅と、諦めないさくら】

二階荷物部屋暗闇の中で座っている寅。  さくら、部屋の電球のスイッチを入れる パチ
さくら、座って

さくら「どうしたの?どうして追いかけていかないの?
    お兄ちゃんは、お兄ちゃんはリリーさんのことが好きなんでしょう?


                        諦めないさくら
                   

寅「もうよせよ、さくら
さくら、意外で少し驚く。

メインテーマがゆっくり流れる。

寅「あいつは、頭のいい、気性の強いしっかりした女なんだい。
 俺みてえなバカとくっついて幸せになれるわけがねえだろ


下を向くさくら。
落雷 ピシャーン!ゴゴゴ…  停電
ガラス窓に雨があたっている ザー… 沈黙の時が流れる。

寅「あいつも俺とおなじ渡り鳥よ。腹すかせてさ、羽けがしてさ、しばらくこの家に休んだまでの事だ。
  いずれまた、パッと羽ばたいてあの青い空へ…。な、さくら、そう言うことだろう


                    


さくら「…そうかしら

                    

雨がふり続いている。 

最後まで諦めないさくらの心が痛々しくも美しかった。

その昔、さくらは、柴又駅に向かった失意の博を、走りに走って、追いかけ、そして追いつき、幸せを自分の手で
掴んだことを思い出すにつけ、「どうしたの?どうして追いかけていかないの?」の言葉は彼女の最後の悲痛の
叫びにさえ聞こえた。

そして、さくらの、最後のそれでも諦めないセリフ「そうかしら…」を聞いたとき、寅の遠い未来に向かって差し込む
細い光がはっきり見えたような気がした。 『鍵』はやはりさくらが握っているのだ。 さくらはただものじゃない。

寅とリリー、このふたりが『定住』というものを自然に考え始めるのはこれからさらに5年後の暑い南国の夏を経て、
それからさらに15年の歳月が必要であった。そしてまたさらに歳月が流れ、相合い傘から実に25年以上たった現在、
おそらく寅はリリーとの縁を今こそ遠く紅の花咲く島でゆっくり深めていっているようにも思える。


あのあとリリーは雨に濡れただろうなあ…。



O【さくらの優しさと謙次郎の眼差し】

そして、夏  氷の旗 風鈴が鳴っている

柴又参道 とらや

おばちゃん、スイカを切っている
茶の間で謙次郎が座っている。

謙次郎「傷の癒えた美しい渡り鳥は、ある日ふただび青い空へ…。なるほどねえ…寅さん詩人ですねえ…
さくら「フフ…」と照れる。
おいちゃん「フフ、恐れ入ります…この発言妙に面白い(^^;)

さくら「でもね、おいちゃん、私たち悪いことしたんじゃないかしら?
引き金的には「私たち」じゃなくて、「私」だろう、さくら(^^;)
おいちゃん「どうして?
さくら「なんていうのかなあ…。無理やり結婚の話を持ち出したことで、かえって…ふたりの仲を引き裂いたような気がして

おいちゃん、静かにうなずく

謙次郎「仲を裂いたって…?
さくら「ですから、リリーさんと兄は、本当に仲のいい…友達だったんじゃないかって…フフ…そんなふうに
自分を納得させるように呟いたこのさくらの言葉は心にしみました。

               

謙次郎「…なるほどねえ…さくらさんは優しい言い方をなさいますねえ…

おいちゃん「フフフ…
さくら、下を向いて照れる
謙次郎の眼差しが優しくさくらを包み込んでいる。

さくらの考えは合っているが、同時にちょっと外れてもいる。寅とリリーは、本当に仲のいい友達であり、絆の深い
同士であり、そして何よりもそれ以上に最愛の恋人だったのだ。
ただ、愛していることと人生を共にすることは別だということなのであろう。
しかしもし、そうだとしたら、それはなんてやるせない耐え難い恋なんだろう。




北海道

函館市日ノ浜町、日ノ浜海岸
青い空、青い海、かもめが鳴く カァ、キャア… カァ…
寅、波打ち際にしゃがみこんでいる
ぼんやり海を見ながらこの初夏のできごとを想っている。

ベッティー「アレェ、寅さーん!
キャッシィー「アレエ!何やってんだそんなとこで!!
寅「ヨォ!函館のキャバレーの!キャッシィーハハ…ベッティーかァ!!

寅「ヨォ、なんだ今日はおそろいでよ?
ベッティー「従業員の慰安旅行だよこれから温泉に行くんだこれから
寅「へえ〜
ベッティー「寅さんも行くが?
キャッシィー「行くべ!行くべ!
寅「よし、じゃ、イッチョお供するかおい

                

ベッティー「ワァ〜〜決まった決まった〜
寅「従業員の皆様、毎晩のお勤めご苦労さんです
一同「ワー!
寅「これより出発します!発車オーライ!
遠く向こうに見える恵山(えさん)を背景にマイクロバスが走っていく。

                

寅とリリーの物語はまだ未完である。

さくらのあまりにも熱き思いによって、確かにふたりは足早に別れることとなってしまったが、人生を長い目で見たときに
あの、さくらのリリーへの直訴は、彼らの心にいつまでも残り続け、実にいい後押しになっていくのではないだろうか。
私は、さくらのあの熱き思いをふたりがしっかり受けとめる日がいつか必ず来ると本気で思っている。


私は諦めない。




第15作「寅次郎相合い傘」【本編完全版】は、こちら


 
またもやここ数日多忙のためアップが遅れました(^^;)ゝ
第15作「男はつらいよ.寅次郎相合い傘」ダイジェスト版を本日4月30日にアップしました。
第16作「男はつらいよ.葛飾立志篇」ダイジェスト版はだいたい5月3日頃にアップいたします。



【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら



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第14作「男はつらいよ.寅次郎子守唄」ダイジェスト版
 

2007年4月26日寅次郎な日々 その309


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


これぞ正調 『男はつらいよ』             忘れられない春川ますみさん。呼子での一期一会


この「寅次郎子守唄」はある意味地味な作品である。しかし実に上手い展開の連続で、見ごたえが随所にある。
正調「男はつらいよ」とは正にこの作品のことである。見せ所がしっかりしていて密度が濃いのでしょっちゅう繰り返し観てしまうのだ。
熱烈な寅さんフアンのなかでこの作品をベスト10の中に入れている人を何人も知っている。しっとりとした味わい深い作品に
仕上がっていて見飽きない。笑いのタイミングも決まっている。「男はつらいよ」を観たことがない人に勧めるときの代表格だ。

この作品から恋のキューピットとしての寅が誕生する。しかしもちろんマドンナにも恋をしているので、恋を手伝いながらも、あわよくば
自分が恋を横取りしたいという、複雑な心理。まるで夏目漱石の「こころ」のような表層意識と潜在意識の葛藤が入り乱れる精神状態が
寅の心に芽生える。このようなパターンは後期になってくると当たり前のように繰り返し採用される。もっともその最初の萌芽は
第10作「夢枕」の岡倉先生との関係にすでに現れてはいる。

またそれゆえ、今回は、しっかり近所のマドンナに惚れるわりには京子さんと寅との縁自体は意外にも薄い。マドンナは精神的にも寅に
寄り添ってはいない。そしてそれとは別にさくらが京子さんたちの合唱団のグループに入り、京子さんとさくらの絆が強固になっていく。
これもリリーや歌子ちゃんなどの例外を除いては、とても珍しいパターンだ。

それにしても京子さんに自分の思いを告白する弥太郎の言葉はなんて簡潔で強いのだろう。おばちゃんのセリフじゃないけど、
「あの言葉に心を動かされない女はいない」だろう。恋のキューピットもどきでお茶らけた寅の完敗である。博がさくらへの思いを告白する
第1作のあの夜を思い出すのは私だけではないだろう。

今回から登場の3代目おいちゃんの下條正巳さんは、真面目な独自のおいちゃんを好演し、その存在感をアピール。

また、寅が赤ん坊を背負ってきたあとの一連の騒動は柴又中を巻き込んで笑いの連続である。この長いシリーズのなかでも
特に印象深いドタバタとして語り継がれていくことであろう。
そして、この騒動の中で、おばちゃんのうれしそうな子守り姿と赤ん坊がいなくなってからの落胆がなぜかとても印象に残っている。


また、マドンナではないが、佐賀県の北の端、呼子港で知り合ったヌード劇場のダンサー役の春川ますみさんが実に味のある爽やかな
演技でこの映画に奥行きを与えていた。渥美さんも絶妙のやり取りで、私はもうそれだけで胸が熱くなるのだ。渥美さんの春川さんを
見つめる目が実に温かい。同じ匂いを持つふたりは目だけで分かり合えるのだ。彼女はテレながらもその涼やかな強い瞳には人生の
荒波を自力で渡っている矜持さえ感じられた。これだけリアリティがあるやり取りはこの長いシリーズの中でもめったにお目にかかれない。
「忘れな草」でのリリーとの出会いを彷彿させるような静かな名シーンだった。

マドンナ十朱幸代さんの若々しい屈託のない笑顔も魅力的なのだが、やはりそれ以上に、いわゆる美人女優でもマドンナでも何でも
ないが、しみじみと春川ますみさんがいいのである。どこかでリリーの寂しさと通じる部分があるのかもしれない。実に味わいのある
役者さんだ。



@【博の怪我と寅の帰郷】

今回も夢から始まる。

本編の「赤ん坊」を暗示するような演出。

寅の声
昔ある村になとても働き者の夫婦がおった。この二人には子宝が無かった。二人とも子供がほしゅうてほしゅうてならん
博とさくらがお参りをしている。

雅楽の音 ポロロローン…ピラリィ〜…
寅の声
おやなんだろう。恐る恐る顔を上げた二人の目に映じたのは、はて!
オホホホホホホホホ!その声なあ(^^;)

さくら、博びっくり!
赤子が布に包まって現れる。
さくらたち大喜び
寅の声『ありがとうございます。ありがとうございます
喜びの祈りをささげる
ふたありの耳に再び聞こえる楽の音は…!

メインテーマ ♪ピーピロピロピロピロリ〜…リロり〜ロ、リ〜ロリロリロ〜。
寅の声
ハテ!おォ!またもオホホホホホホホホ…もう、その笑いやめれってば \(^^;)
我ハ産土ノ神ナルゾと、さくらたちをに福を与えて高笑いをする寅。

             

産土の神「汝等ノ篤キ信仰二愛デテ、ソノ子ヲ授ク

             

産土の神「賢キ男ノ子ナリセバ名ハ寅次郎ト命名ス。必ズヤ立派二成長シ、孝養ヲ尽クスベシ…(煙でむせて)
      コーホッコホッ…善キ哉コホッコホッ…善キ哉コホホホェ!…



夢から覚めて寝ている寅

寅「コホッコホッコホッコホッ…あー煙いなおい…あー
子供「おじさーん!魚焼けてるよ
串刺しのちっちゃな川魚が焼けてる
寅「どーれどれ…フッフッフッフッ、ソッソッソッソッ…モクモク…うん、上手いなこのイワシはハハハハおいおい(^^;)
子供「ハハハハイワシだってハハハ


タイトル

  『はつらいよ 『寅次郎子守唄

口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。


 ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
 いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
 奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
 今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


  2番は歌わないで、今回は曲だけ続いていく。 1番のサビだけもう一度歌う。

 奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
 今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪



今回は江戸川土手ではない。

上州、妙義山が見える田園

をバックにススキが揺れている中、旅をする寅。 

手すりの端に咲いてる花を摘もうとするが、帽子を川に落としてしまう。帽子どんどん流れていく。
帽子をカカシの頭に被せて藁の上に座りながら乾くのをゆったり待っている寅。実に絵になる風景。

               




柴又 江戸川土手 

さくら自転車で異様に急いでる。いつもとは違う表情。何かあったのか!?
「ハアハア…」といいつつ曲がっていく。


とらや店先
さくら必死で自転車をこいでとらやに駆けつける。
さくら「おばちゃん!必死の目
おばちゃん「…!さくらちゃん!!
さくら「博さんどこ?
おばちゃん「さっき病院行った
下條おいちゃん初御目見え!
おいちゃん「あ!さくら!いたか」と工場の裏から出てくる。
おばちゃん「病院どこなの?
おいちゃん、工員に「病院どこだ?
工員「吉田病院ですよ2丁目の
おいちゃん「吉田病院2丁目の後に第38作「知床慕情」で、おいちゃんも入院する病院。
さくら「とにかく私行ってくる

                





吉田病院 

博「大丈夫。骨に異常は無いそうだから指一本取れちゃったかと思ったけどそんな心配いらないらしいや。はは
京子「諏訪さーん京子さん早くも本編が始まってから5分以内で登場!早い!!

                 

博、待合室にいるさくらにようやく気づく。
博「…。は・・心配したかさくら。
さくら、ぎこちなく、うなずく。
博「何だまたおばちゃんが大げさに言ったんじゃないかそうだろ?
さくら、小さくうなずく。
博「ハハハ・・
さくら「は〜…よかった←ようやく自分を取り戻したさくらでした。 何気ない演技は倍賞さんの独壇場。なんという臨場感!

              



とらや

夕焼け 題経寺の鐘 ゴォーン…

とらや 茶の間

おいちゃん「いくら真面目に働いてきたってこんな事に片手でもなくなった日にゃ誰も保障してくれないんだからなあ…
さくら「おいちゃんたちだってそうよ今までは丈夫ですごしてきたからいいようなものだけでどっちか病気にでもなってごらんなさい


御前様お見舞いに入ってくる。

御前様「博さん、ケガをしたそうだなあなんといっても博さんはこの家の大黒柱だからなァ
     いや、待てよ。博さんは車家の跡取じゃなかったか?

おばちゃん「さくらちゃんの、お婿さんでございますから
御前様「そうだったねえ…、こりゃ失礼あ〜、なるほど、寅が大黒柱
一同照れ笑い
こりゃぁ困ったァ〜… っと、おなじみのセリフ吐いて、考え込んでいる御前様。
おいちゃん、ちょっと笑いながら「すごい安普請でございます座布団一枚(^^)
一同、ハハハ
御前様「うん…困ったァ〜」といいつつ微笑む。
おいちゃん「何しろこの大黒柱住所不定でして座布団もう一枚(^^)
一同、ハハハ
おばちゃん「上手い上手い」
おいちゃん、寅ネタで楽しんでるね(^^;)

おいちゃん、暖簾のところの寅に気づく
御前様「ハァ!ハァ!ハァといつもの御前様笑い。
笠さんってコメディも間違いなく一流。

その時、なんと寅がニコニコ笑いながら突然帰ってくる。
寅「どうも御前様!何を楽しそうにお笑いになってるんですかハハ・・よっしばらくだなオレだよ
  なに不思議そうな顔してるんだおい、化けもんじゃないぞ、さくら

さくら「あんまり突然だからびっくりしたのよ
一同 ・・お帰り

                

御前様「それじゃあ、大黒柱帰りになった所で私はボツボツ…
一同「どうもありがとうございました



A【寅の葬式シュミレーションとさくら名義の貯金通帳】

寅は、博の怪我の話題が出た時、自分も実は一寸先が闇である将来のことを考え、
貯金をし、自分の葬式のことも普段から考えていることを告白する。

寅「せめて、てめえの葬式ぐらい自分の費用で賄いたいとそう思ってね貯金だってしてるんだ
スッと貯金通帳をほんの一瞬腹巻から出す。
さくら「!!・・貯金?

                

寅「まあいくらもたまっちゃいねえけどな
「貯金」:寅の辞書にない言葉。 だと思っていました(^^;)
おいちゃん感動いや額なんていくらだっていい甘いなあ(−−;)

そして自分の葬式のことについて語る寅。

寅「御前様には悪いけどさ、あのお経(手を合わせる)あれ嫌い!あと、ほら霊柩車
あの屋根のこうなった
(手であらわす)キンキラキンのあれ嫌い!うん。ともかく、そういうことは一切やめ!と調子に乗る。
さくら「そうねえ儀式張ったのはお兄ちゃんらしくないものねえと同意
寅「そうだろう。だから俺の野辺の送りにはだからあの江戸川に屋形船の五艘も浮かべてもらいたいなァ!
と、どんどん調子に乗り始める。

おいちゃんたち少し戸惑う。
さくら「屋形船?」と驚き。
寅「そう!先頭に俺の屋形船だ。二艘にはさくら博、他に親戚一同。
寅「あ、おいちゃんおばちゃんはそのころ死んで片づいてる
おいちゃん、さすがにムカ顔。みんなおいちゃんの顔色を気にする。やばぁ〜い雰囲気(− −;)

               おいちゃんの顔色をうかがうさくらとおばちゃん
                

後の三艘にはハッピ鉢巻姿の柴又神明会の威勢のいい若い衆。
それと
本所深川きれいどころの姐さんを二〜三十人!
あと笛太鼓三味線鳴り物も積み込んだ!!
さあ!出発だよ
ネエ!
五艘の舟が江戸川を静かに下っていく!

♪エンヤトット
〜エンヤトット〜松島〜のオ!

              エンヤトットォ〜 エンヤトットォ〜
               

両岸で今や遅し待っている花火屋大筒にスッと思いを込めて火をつけた!
しゅるしゅるしゅるしゅるしゅる…バーン!!

玉屋ァ〜!!パーッ!と散ったヤツがパラパラパラパラパラパラ…

おいちゃん、情けない顔して「あ〜ヤダヤダ!
おばちゃん「ウゥゥ…しくしく

寅「何ィ!
寅バン!とちゃぶ台を叩いて「何だよみんな!クソ面白くネエ面しやがって!
なんか文句あるんだったらはっきり言ってくれエ!

さくら「あのねお兄ちゃんあたしたちは真面目に話してたのよ

おいちゃん「寅!寅よーく聞け寅今日博さんがケガをして病院に運ばれた時もしかしたら指が何本か取れたんじゃねえか。
      ひょっとして
片腕もげたんじゃねえか。と俺たちゃどんなに心配したか。え?爪のあかほどでもその気持ちが
      分かってたら今のてめえみたいな口きけねえんだぞ。え?


               

寅「あ〜・・と帽子を持って立ち上がる
さくら「お兄ちゃんどうするの?
寅「決まってるじゃねえかよ出て行くんだい!なんだい。人がたまさか帰ってきたら、意見がましいこと言いやがって。
 どうせね、俺はね遊び人だよ!お前さん方の苦労なんか分かりませんよヘッ!結構毛だらけ猫灰だらけお尻の周りは
 糞だらけだい!あばよ邪魔したな

さくら「お兄ちゃん
寅「うるせえな
おばちゃん「ちょ、ちょっと寅ちゃん
さくら「ねえちょっと待って、お願い一晩だけでも泊まっていって…
寅「さくら
さくら「なあに?


さくらのテーマ流れる。

寅「これなあもう少し貯まってからお前にやろうと思ったんだけど博の医者代にしろ

通帳印鑑を渡し、出て行く。


                 

さくら封筒から通帳を出す。

                 

郵便貯金通帳 諏訪さくら様 

さくら、思いつめた表情

さくら「お兄ちゃん…!と参道にかけ出す。               
寅はもう遠くへ…。


父も母ももういない、二人っきりの兄妹。
そんな兄が妹のためだけを思ってコツコツと貯めた7700円。
そのひとつひとつがさくらにはただただ嬉しかったに違いない。


寅が渡した「諏訪さくら」名義の郵便貯金通帳。少額ながらもさくらのために実に足繁く通い、
入金を繰り返している。入金の額は小さいが1週間に一度寅はさくらのことを考えながら増やしていったことが
伺われる。入金の回数だけ寅の思いがある。


B【呼子での一期一会と捨てられた赤ん坊】


九州 唐津

唐津神社秋祭り「唐津くんち」の花火が青空の下打ち上げられている。
国の重要無形民俗文化財で唐津神社の秋祭り「唐津くんち


佐賀県呼子港

ヌードショウ小屋『呼子ショー』の旗が見える道をぶらつく寅。
渡し舟の船着場でアンパンを食べている寅、湯飲みのお茶をすする。

女が赤ん坊を抱いて船着場にやって来る。
男は女から赤ん坊受け取り「すんまへんな。泣くな、何で泣くねや…」とダッコする。
男と赤ん坊を乗せた小舟が出る。

女、壁にもたれ、なんとなく寅に向かって
女「頼りなか親父だよ、ほんのこつ
寅、ニコっと笑って「訳ありかい?
女、小舟を見送りながら、
女「逃げられたとばい、女房に
寅「
女「去年、私のところでちょっと踊ってた娘(こ)ばってんね
女、小舟に向かって手を大きく振る。

                     

女、空を見上げて「あー、天気のよか…

寅「ここで踊ってんのかい?
女「フフ…こんな景色のよかとこへ来て、暗か所で女の裸見てどこがよかすかねえ…

寅「フフフ…別に裸を見るわけじゃねえよ。
 姐さんの芸を見に来たと思えば腹も立たねえだろう


女、寅の方を振り向いて

女「フフフ…兄さん、よかこと言ってくれるね

とちょっと嬉しそうに、にっこり笑う。
寅「そうかァ
と寅、かじりかけのアンパンをまたパクつく。

                                         
                   

女「フフフ…

この、なんでもないやり取りが実にいい。アンパンの袋をチラッと見る春川さん。
それに応じるようにさりげなく春川さんにパンをすすめる渥美さんのちょっとした動き。そしてその目は温かい。
春川さんならではの天真爛漫なアンパンのパクつき。いいねえ。


小屋の中から流れる演歌の声
女、しゃがんで海を見る。
カメラは遠くから二人を小さく映す。
呼子でのささやかな一期一会。

寅と女は同じ悲しみを持っている。稼業としても、おそらく人生の中でも…。
そうでないとあのようなやさしい言葉は言えるものではない。私はこのシーンを見るためだけに何度も
「子守唄」を見続けるのだ。この呼子のシーンは、渥美さんと春川さんだからこそ作り出せた
味わいだと思っている。透きとおった秋空のような清々しさがあった。



夜。旅館「馬渡屋」

晩酌をしている寅
例の男が隣の部屋で赤ん坊と一緒に泊まっていることを知った寅は、酒をおごってやるが…。


翌早朝

置手紙『この子をよろしくお願いします。
    すいません。ほんとうにすいません。
    御恩は必ず返します。寅先生


置手紙には『佐藤幸夫』と書かれてあった。

                

C【赤ん坊騒動とおばちゃんの奮闘】


とらや

美人の看護婦さんの話でもちっきりになる。

博「でも、兄さんだったら間違いなく惚れるなあ〜。なあ、さくら
 こういう時の博は的中率100パーセント(^^;)

社長、店先に行きながら「お医者様で〜も、草津〜のぉ湯で…??
おばちゃん、呆然とし、怯えて店に戻ってくる。 道の向こうを指差して、『石』になっている(^^;)
社長、驚いて、ヘルメット被って、店先に出て見に行く。見たあとガクガクブルブル(((゛◇゛)))。
博とさくらそれ見て「???
おばちゃん「ちょっと〜! あ…と指差したまま。

赤ちゃんのガラガラおもちゃの音が聞こえて来て、

なんと寅が赤ん坊を背負ってふらふらでやって来る。

寅、戸をもって仁王立ち

寅「おばちゃん、家のものはみな達者かい?
おばちゃん、かすれ声で「ああ
寅「フ、とんだしょいものをしてな〜、…おもちゃをその場に落として、
カクッっとつまずいて前によろけて椅子にへたりこむように座る。カバンもなにもほうり出してしまう。
全員固まってしまって動けないでいる。

              

寅「あー!くたびれたなあ!!
さくらと博も足がすくんで近くまで来れない。
寅「さくら!何とかしてくれよ!おい!
さくら、ようやく赤ん坊を見に近寄る。
寅「あ〜…、まいったなあ、おい
さくら「お兄ちゃん、いったい!?だよなあ(^^;)

赤ん坊を背中から離しておろおろするさくらたち。

寅「あ〜、はァ〜、水持って来てくれ、水を!早く、水を!
みんな赤ん坊に意識が行っていて誰も聞いてない(^^;)
さくら、赤ん坊を抱いたまま気が動転して

さくら「おばちゃん、どうしよう!
おばちゃん「どうしよう…

               

寅「水持って来てくれよ!!、もう!!とどなる。

とらや御一同、勝手に色々思い込んで、あたふた動揺し、 寅どころじゃない精神状態(^^;)
社長、ヘルメット放り投げて、情報伝達のため工場の方へふっ飛んで行く。

工場の中

社長、目をひんむいて「おい!大変だぞ、寅さんにな、赤ん坊が生まれたんだ!大変だぞ!これは!嬉しそうだね〜社長(^^)

             

題経寺横の雑貨屋

さくら、あわててやって来て
さくら「ミルク1缶と、ほ乳瓶と、え〜っと…、
店のおばさん「大変ねえ、寅さんに子供がいたんだってねえ←でたあ!!
さくら「ええ…」っと言ったあと「え!?」っと唖然…

情報早い!タコ社長や源ちゃん、備後屋が走りに走る!柴又町民の伝達能力は光フアイバーなみの速さ。
凄い!これは大変なことになってきたぞ。




とらや

2階で疲れてぐっすり眠っている寅

とらや茶の間

おばちゃんたち、寅の隠し子だと思い込み泣いたり怒ったりてんやわんや。

さくら、籍なんかどうなってるんだ。まだ入ってないんじゃないか。さくら、知らんて(^^;)
おいちゃん「騙されてるんじゃないか、あいつさくらそんなこと分からんて (^^;)
さくら「その、母親っての、いったいどこにいるんだい、え?さくらちゃんなあ〜んにもわからんて (´д`;)
さくら「そんなこと私に分かるわけないでしょう。私だって泣きたいの我慢してるんだものと半泣きで落ち込む
おばちゃん「ウウウェ…とエプロンを顔に当て泣き続ける。


御前様入って来て

御前様「いや、みなさん
一同、恐縮して
おばちゃん「あ、御前様、お恥ずかしい…

御前様「ほぅれェ〜、寅が捨て子同然に、この家に貰われてきた時もこうだったでしょうそういえば、そういうことも…( ̄ヘ ̄)
おいちゃん「ああ、そういえばあの時も大騒ぎでしたァ…
御前様「まあ、これも何かの因果と言うものかもしれん。とにかく、生まれてきた子には罪はない

一同頭を下げる
御前様「ところで、どうしたのかね?父親は御前様ちゃうって ヽ(^^;)


2階から寅、あくびをしながら下りてくる。

寅「あ〜、あ、あ〜ああ〜、よく寝たよく寝た。あ、どうも御前様、どうも
おばちゃん「。こんなみっともないマネをしでかして〜!めそめそ

寅、座敷に上がりながらこんな目にあって疲れたと文句を言う。

             

御前様「寅!おまえはそれでも父親か!
寅「父親、?誰が?
御前様「おまえだ!バカッ
寅「どうしてオレ…?あ!?カァ〜!ヤダヤダ
寅「おい、さくら!それじゃおまえたち、その赤ん坊の父親がオレだと思ってたのか?
さくら「違う…んでしょ ←さくら、上手い!
寅「あたりめえだい!見比べてみろ!現物オレとを!似てるか!?
一同、赤ん坊を見て比べる。

                                              
                        

寅「ええ、そんなこ汚ねえガキと…、味噌も糞も一緒にするねい!表現がきちゃない(^^;)
博とさくらほっとして顔がほころぶ。
さくら「よかった…ε=( ̄。 ̄;A
おいちゃんも、ようやくほころんで「疑って悪かった」と頭を下げる。
御前様「じゃ、寅、その子は、誰の子だ?ごもっとも(^^;)


赤ん坊は少し熱があった。

例の吉田病院に連れて行こうとするが、美人看護婦の京子さんになんとしても会わせたくないので
車に乗れないという理由で、さくらと博だけでそそくさ赤ん坊を連れて行く。


寅「へへ、ねえ御前様、オレほんとのこと言うとね、病院嫌い。あの匂い。それからバイキンがいっぱい付いたスリッパ。
  それと、あのツンケンとした看護婦。イ〜〜ッ!!
凄い偏見…(^^;)



とらや


翌日 とらや、裏庭

おばちゃん、背中に赤ん坊背負いながらオシメを干している。そのあと背負いながらレジで働いく。

さくらやって来る
おばちゃん「あ、さくらちゃん、おーよしよし
さくら「おばちゃん大変ね、赤ちゃん元気?
おばちゃん「すまないけど、ミルク作ってくんないかい

             

さくら「お兄ちゃんどうしてるの?いったい

寅は全く赤ん坊の世話やる気なし。連れてきただけ。

おいちゃん「ほっとけ、ほっとけ、こいつは、父親になる資格なんかねえんだい父親になる義務も無い(^^;)

寅「けッ!なりたくねえよ、そんなもんには。クソ面白くもねえな、
 昼飯も晩飯もいらねえやい。どっか、面白いとこいって、遊んでくるよ
 」 と店の方へ出て行く



D【京子さんとのご対面と寅の病院通い】

寅、はっ、とする。店先に京子が立っているのだ。

京子のテーマが流れる( この曲も名曲 )

寅、ぼ〜ッっと京子を見る。
さくら、暖簾をくぐって、京子に気づく。
京子、さくらを見て安心したように「こんにちは
寅、勘違いして「こんにちはニッコニコ
京子「やっぱり、ここだったわ。夕べうかがってたもんですから

寅、頷いてにこにこ

さくら「病院の看護婦さん」とおばちゃんに。
寅「病院のきゃんごふしゃんうわずっている。

さくら「ほら、いつも噂してる…
寅、その言葉にピンっと来て、昨日のことを思い出してる感じ。やばいぞ、さくら…。

寅、おもむろにやって来て
寅「さくら、あ、赤ちゃんどうもありがとう。オレが抱こうか、いつもの通り、ねっとしらじらしく抱く
さくら「あの、私の兄です
京子「あ、この方、夕べのお話に出た
寅「寅次郎です。どうもよろしく
京子「木谷京子と申します。事情は妹さんからお聞きしましたわ。大変でしたわねえ。
マドンナの本名は「木谷京子」さん!
寅「ええ、思わぬ苦労を背負い込んじゃいまして…フフフフ
京子「でもそうやって抱いてると可愛いでしょう
寅「そうですねえ、情が移ると言いますか、まるで他人の子どもだとは思えなくって。ええ、フフ…
よく言うよ、しらじらしいね、まったくさっきまで他人様の子って言ってたのに(− −;)
後ろのさくらたち、しら〜〜
寅「オレはほら、子供好きだもんね、なあ、さくら
さくら「そうね」  ←精一杯の皮肉をこめて、目線がキツイさくらでした。
寅「好きだなあ!子ども、フフ
小さな声で「
なに言ってんのよ
さくらの小さな抵抗。第12作のりつ子さんの時も「自分が言ったくせに」って小声で小さな抵抗をしていたさくら。


                  なによ…(さくらの表情に注目!)
               

京子「京子「あ〜、安心した。それじゃ、私これで、
おばちゃん「あの、お茶を一杯でも
京子「いいえ、私、家へ帰って一休みしないと…。なにしろ眠くて眠くてと、帰っていく。

京子のテーマ流れる


寅「
そういうわけだったのかあちゃ…(><;)
さくら「何が…?
寅「とぼけるなよ!このやろう!怒りで声が裏返ってる。
寅「どうも、おかしいと思ったんだよ。オレが夕べ帰ってきたとき、お前たちオレのことを病院に行かせない算段したろう!と、カンカン。

しかしさくらって、いくらあとでややこしい事になるからといって、寅が『人を好きになる機会』を奪うのはどうかとも思う。

その時京子、またまた店先に戻ってきて

京子「あー、肝心なこと忘れちゃって
寅、態度豹変。急にニコ〜ッっとして、赤ん坊を抱きもどして、
寅「はいはいはい。はい。いらっしゃいませ。何か?もうそれやめれって、その演技は(ーー;)
さくら、寅の繰り返される態度の豹変に遂にカチン(− −メ) 
京子「いいえ、フフ、お団子買っていこうと思っていたのに
京子団子を買って「失礼します」っと再度帰っていく。

寅、ぎこちなく「はいはい、さ、お母ちゃん、はい
さくら、「お母ちゃんなんかじゃありませんよ」っと、さっと作業場のほうへ。(怒

              

寅「おばあ〜ちゃん〜
おばちゃん「私だって知らないよ」と茶の間に逃げる。
寅「おじいちゃん〜
おいちゃん「そんなもんじゃないよ」っとそっけなく作業場へ。

ネギカモ(ネギダコ)のタコ社長やってくる。
寅「あ、タコちゃん!っと赤ん坊をサッと手渡し、参道にとんずら。
社長「お〜、よしよしよし!(おろおろ)お〜、よちよち、バア〜!ハハ…。あ〜、タコちゃんよ!お!パァ!
社長、その顔怖い!近い!かえって赤ん坊泣いちゃうよ (^^;)

               映画とはいえ、赤ん坊可哀想(^^;)
                   




京成電鉄 江戸川駅

アパートに戻る京子

東京都江戸川区小岩4−13−6木谷京子 様
山形県米沢市通町3−4−15木谷はな
りんごと干し柿の小包。

京子が電話「母さん?今、りんご着いた。どうもありがとう。元気?ん…。私、夜勤明け、
       これから寝るとこ。うん、うん、また、手紙書くから…、うん、それじゃ


小さい頃から母一人子一人の環境で育った京子。母親も若かりし頃看護婦さんで、京子も自分がこの仕事につくことが
当たり前だと思ってきた。そのような母と娘なのだ。


              

コタツを入れて、ゆったりと雑誌をめくる。

このあたりの電話での何気ないやり取りや、京子の静かな一人だの時間っていいよね。
京子の人生が唯一臨場感を持って感じられるシーン。この映画はこういうなんでもない場面が実にいい。




題経寺 境内

源ちゃんがなんと子守りをしている。オシッコを洩らされて大変。 御前様も手伝うが要領を得ない。
変に似合っているぞ源ちゃん(^^;)
さくら、走ってきて
さくら「どうもすみません、御前様。どうしました。
御前様「おしっこしてる、おしっこみんなであたふた。



とらやの茶の間

社長寅さん、会っちゃったんだって?看護婦さんに。大変だねえ、これから。
社長、ほんとは楽しみが増えてうれしいんじゃないの?(^^)
おいちゃん「一応打つべき手は打ってみたんだがね。まあ所詮、小細工を弄したって無理よ。
       なるようにしかならないんだからな
んだんだ(− −)
嬉しそうに赤ん坊の世話を焼くおばちゃん。
おばちゃん「よしよしよし、お前はどこにもやりゃしないよ。おばあちゃんが、ちゃ〜んと育ててやるからね
社長「おばちゃん、かわいいかい?
さくら「とっても懐いているのよ
社長「なにしろ、このおばちゃん、子どもができなかったんだからな
社長、相変わらずはっきり言いにくいこというねえ。
おいちゃん、そっとおばちゃんを見る。人生の機微だねえ…。( ̄  ̄) 

おばちゃん「寝た寝たなんだかとっても幸せそうなおばちゃんの顔…。

             

さくらのアパート

寅と電話をしているさくら

さくら「え?病院に連れて行くの?その程度ならいいんじゃないかしら
寅、電話の向こうで「なんだよ、おばちゃんと同じこと言うのかい
さくら「どうして?


とらやでの電話

寅「いいか?これがオレの実の子だったら、いちいちウンチが軟らかいくらいで大騒ぎはしやしないよ
 こりゃおまえ、他人様の子なんだよ。もし、この子に間違いがあってみろ、お前、弁償できるか!?弁償って…(^^;)
さくら「じゃあ、どうすればいいっての?
寅「だからさ、お前に相談してね、赤ん坊病院に連れてってみようかなって…

で、結局さくらに無理やりOK出させて強引に病院に行く口実を作り上げてしまった寅でした(^^;)

寅「じゃあ、行ってくらァ…
寅「だけど行かなきゃしょうがないよ。他人様の子どもだから、フフ、じゃあ、行ってくるらあ!っと暖簾をくぐる。

タコ社長「ごゆっくり!
寅「なにい!!っとバッと戻ってくる。
おいちゃん、足を踏み外してコケル。

              

寅「
なんでごゆっくり…あ!てめえ、オレのこと入院させようってつもりか!?とごねながら出て行こうとする。
おいちゃん、社長、おばちゃんで一斉にいっといでえ〜!
寅、のけぞり!
寅「なんだ!
おいちゃん、またコケル(^^;)
寅「オレどこにも!行かない、行かない、行かない!とテーブルにうつ伏せになりすねる。
おいちゃんたちなんとか寅をなだめて病院に行かせる。
時計をチラッと見て、寅「ったく、時間の無駄だよ!ほんとにい〜!っと店先に出て行く。
一同、ほっとする。
ほんとにみなさん大変だねえ…同情するよまったく(^^;)このパターンは第1作の寺通いの時でも使われた。
おばちゃん「あら、嫌だ!肝心の赤ん坊忘れて行っちゃった!でた〜!(^^)/
おいちゃん、社長、情けない顔で「ばかだねえ〜、まったく…

寅「あ!いけねえ…。赤ん坊忘れちゃった」参道で、とらやのほうを振り向いて
寅「ま、いいや。手ぶらで行くか…とまた小走りで去っていく。『手ぶら』って言いやがった(− −;)

                

吉田病院の前

病院まで行って、うろうろして、ちょっと迷っている寅。
玄関から患者と一緒に京子も出てくる。患者家族が京子に挨拶。退院するらしい。

京子のテーマ流れる
京子、爽やかな顔で、大きく伸びをし、体操をしながら館内に戻っていく。
寅、その姿を見て、なんともいえない優しい気持ちになる。本気で京子のことが好きになった瞬間だった。

明るく健気に働く京子を見つめ、なんだか温かい気持ちになっていく寅でした。

                

究極のところ、寅はマドンナに直接会わなくてもいいのかもしれない。
マドンナが幸せに暮らしているのを遠くから眺めているだけでもいいのだ。



E【赤ん坊を引き取りに来た二人】

とらや 店

呼子で出会った踊り子と赤ん坊の父親がとらやを訪ねてくる。

男「あの〜…、車寅次郎先生のお宅はここでしゃろか?
さくら「え…、そ、そうですが…
男「先生、いてはりまっか?先生から、赤ん坊のこと、なんも聞いてはらしまへんやろか?

踊り子、凡その事情を話して、あのあと踊り子に説教された父親が子供を引き取りに来たことを告げる。

さくら、うつろな目で聞いている。複雑な精神状態。

                

おいちゃん「ちょっと待ってくれ。そんな、お前…、そんなかっ…勝手な話が、あ…
男「何?このおっちゃん?それは無いだろ、佐藤幸夫さん!
おいちゃん「おっちゃんとはなんだ、おっちゃんとは!だいたいな。おまえみたいなやつが今時多いから…
さくら、おいちゃんを止めて
さくら「あなたにはあなたの事情があったかもしれませんけど、この子、ほんとうに可哀想だったんですよ。
   すっかり痩せてしまって、肌着もおしめも汚れっぱなしで、着いた晩に熱出して病院に駆け込んだ時なんか、
   もしもの事があったら、どうしようかなと思ったりして…。でもね、こうやって無事に育ってくれて、目方も増えたし…


おばちゃん、わなわなしながら、赤ちゃんをヒシッと抱きしめている。
おばちゃん「ほんとに、こんなかわいい子を、よく犬や猫みたいに捨てられたもんですね
さくら、踊り子に向かって、
さくら「お渡しするのはいいんですよ。でもね、お父さん、二度とこの子を捨てたりしないでしょうね
おいちゃん「そこなんだよ、オレの言いてえのは。どうなんだ。え?お兄さんんだんだ(- −)
踊り子、さくらからさっと赤ん坊を抱き上げる。
さくらたち、突然の事に驚きながら赤ん坊を見つめる。
女「あ〜、坊や!幸せだったんじゃねえ!よかったねえ!おばちゃんねえ、もう、おまえ、どっかで死んじょるかと
  思ってたよ。よかったねえ…、よかったねえ…


さくらもおいちゃんも下を向いている男も下を向いたまま。
おばちゃん、赤ん坊から目をそらし、涙を流している。
さくら、おばちゃんを見つめる。
男も自分の犯した罪にようやく気づき、すすり泣いている。

おばちゃん、涙が溢れて、おいちゃんの肩の手ぬぐいを取って涙を拭く。おばちゃん…(TT)

                 




夜。とらや茶の間


満男、天井から吊るしているガラガラをまわして遊んでいる。
おばちゃん、目を潤ませながら、悲しげにオシメを片付けている。


さくら「あたしが、責任を持って子どもを育てます。自信もあります。って
   そう言うの。どうしてかっていうとね。
あの女の人、ちょうどあの子くらいの子ども、死なせたことがあるんだって…。
   あの人の話、聞いているうちに、この人なら、きっとこの子を幸せにしてくれるだろうと思って…、ねえ、おいちゃん


それで、彼女あんなに赤ん坊を可愛がっていたんだな…。ようやく分かったよ。(−−)

                 

おいちゃん「うん、おまえに会いたがっていたけどな…。汽車の時間があってさ、よろしくってそう言ってたよ
さくら「お兄ちゃんに断わらずにしたけど、それでいいでしょ?
寅、帽子を手に取り、寂しそうに立ち上がって、
寅「迷惑かけてすまなかったな…しょんぼりとゆっくり階段を上がっていく。寅は寅で淋しそう…。
おいちゃん、さくら、社長、寅を見ている。
やっぱり、寅も、いざ赤ん坊がいなくなると心に穴があいてしまうんだね。分かる気がする。
おばちゃん、おしめを片付けながら、また涙ぐんでいる。
赤ん坊の起き上がりこぼし、遊び道具などがそのまま飾ってある。天上からぶら下がっているおもちゃが哀しい…。
おばちゃんまた涙が溢れて、嗚咽する。
満男、おばちゃんのそばに立って、眺めている。

おばちゃんの悲しみが浮き彫りにされた場面だった。
世の中にはどうしようもないことがあるんだと、思い知らされました(TT)



           
F【お茶目な京子のギャグ3連発】

とらや

京子「赤ちゃんのことお聞きしましたわ。おばさん、がっかりしてらっしゃるんですってねえ。。。(TT)そうそう
   でも、仕方ないわね、いつまでもお宅にいるわけにもいかないでしょうし
おいちゃん「ええ、可愛がってもらってるといいんですけどねえ
京子「ほんとにね」

寅下りて来て、京子さんと打ち解けている工員たちを睨んでいる。

京子「
寅さんどっか、具合が悪いの?
さくら「赤ちゃんがいなくなってからずっとこうなのよ
京子「そう…無理も無いわねえ、がっかりしたでしょう
寅「ええ、コホッ、コホッ…コホッ…
京子「あ、大丈夫?ちょっと失礼っとおでこに手を当てようとする。
寅京子さんの手がおでこに触れられてビビッってしまい、柱に「ゴン!」っと後頭部を打ち付ける。

                

工員達2階から「ハハハ!」っと大笑い。
寅、怒って庭の池に水を貯めていたホースを取り出して2階に向かってかけまくる
2階、ビショビショ。工員達逃げていく。
さくら「お兄ちゃんやめなさい!と言いながらも倍賞さんの逃げ方面白い(^^;)
寅、「ダ〜〜〜!!っと水を部屋に向かってかけまくる。

                
  
夜、とらや茶の間

みんな楽しそうに笑っている。

寅「今なぁ、オレ盲腸患った時、手術した後でなかなか屁が出なくてね、弱ったって話今してたのよ。
京子「それで閉口(ヘイコウ)したって話ね京子さん、それって駄洒落だよ。とほほヾ(^^;)

それにしても、寅が「手術」の経験有りだとは知らなかったあ!!意外!(^^)/これは大スクープだ!

痔の手術の話をしてみんなの顰蹙を買うタコ社長。
社長「いいじゃねえか!絶対ね、あれは切った方がいいんだよ。ねえ!看護婦さん
京子「ええ、でもこの頃は痔も切らないで治すんですよ飴の粉をね。こう、振り掛けるの
社長「へ〜、飴の粉を...?
みんな真剣に聞いている。

京子「アメ降ってジ固まる...

一瞬、??
一同「ハハハハ!!
社長「あー、上手い上手い!ハハハ!
社長顎が外れるよそんなに笑っちゃ

京子さん、そのギャグも駄洒落だよ。しかもシモネタ。「おやぢギャグ」だよ。困った人だ(^^;)

仕事と結婚の両立について…

京子「ええ…、私たちの悩みはなかなか結婚できないことかしら
さくら「やっぱり、仕事が忙しいから?
京子「看護学校出て、勤務するでしょう、初めの2年くらいは西も東もわからず無我夢中で、その時期が過ぎると、
   今度は仕事が面白くなってきて、あっと言う間に5、6年が過ぎて、ふっと気がつくともう、三十なのよぉ

寅「ほぉ……。えっ!?誰が?
京子「あたしがよ…
おばちゃん「あら?京子さん三十?ま〜見えないわぁ〜!
おばちゃんの「見えないわ〜!」は笑えました。上手い!

社長「見えない見えない
おばちゃん「うん〜
寅「十七、八くらいかなって思ってたオレそれじゃ、逆効果だよ、寅ヾ(^^;)
京子「ハハハハ!

                 

京子、寅を見ながら、
京子ねえ、さくらさん
寅「なに??
って言いながら、京子が何か言いたげなので『ニコッ』って笑う寅。渥美さんの独壇場。

京子、さくらに「寅さんって…、お一人?
さくら、ちょっと苦笑いして、つまりながら
さくら「え、ええ…
京子「フフ…、どうして?どうしってって…(((((^^;)
さくら、寅の方を見て
さくら「どうして?お兄ちゃん
寅「え???…どうしてなんだ?博?おいおい、なんでも博に聞くなって(^^;)
博、急に呼ばれたもので、ビビッて、
博「つまり、…あれじゃないかな…
寅「うん…
博「初めの何年かは無我夢中で過ぎて、今度は仕事が面白くなって
 また何年かがあっという間に過ぎて、ふと気がつくと、
四十になってたと、そういうことじゃないですか?

博、京子さんの言葉のままだよ。適当〜だなぁ、でも上手い上手い(^^)
京子「フフフ!
寅「あ〜、そんなとこかもしれないな

京子「まあ、寅さん、もう四十?
寅「え〜、なんですか、いたずらに歳ばっかり…
京子「あたし、十七、八かと思っちゃったっとお茶目に舌を出す。

                

一同爆笑「ハハハ!!
社長「上手い上手い!ハハハ!
京子さん、さっきの駄洒落2連発よりはちょっとは上手いギャグです。

帰り際にコーラスにぜひ参加してくれるようにさくらを勧誘する京子さん。

京子「よかったらさくらさんとご一緒にどうぞ
寅「あ、そうですかさくらじゃ連れてってもらおう!うん!
京子「じゃ皆さんお休みなさい


寅戻ってきて

寅「♪花も嵐も〜さくらぁ〜♪今度の土曜日コーラス行こうね!♪踏み越えてェ〜…
この「♪さくら〜」が絶品!

さくら、あっけにとられ、そして呆れながらもながらも遂、微笑んでしまう。
森川おいちゃんだったら、こういう時
「かあぁ〜、バカだねえ…。さくら、おりゃ知らねえよ…」って言うんだろうな(^^;)




G【寅のコーラス騒動】

とらや 台所

社長「もう木曜日?本当か?
おいちゃん「ああ」
社長「水曜日だとばっかり思ってたよなんでこう一週間ってのは早くたつのかな〜
おいちゃん「まったくだ」
寅「おいちゃんおいちゃん、今日は金曜日だろ?と、下りて来る。
おいちゃん「うん?木曜日だろ
寅「まだ木曜日?なんだよオレ、てっきり金曜日かと思ってたよ…。あーあ、どうしてこうも1週間が長いかねえ…
社長「あー嫌だ嫌だ俺生きてんのがになったよ」と情けない顔をする。

これがきっかけで、いつものように社長と寅は大喧嘩(^^;)

              


北千住 聖和幼稚園の近くの道


聖和幼稚園内

さくらたち遅れてやってくる。
なぜか源ちゃんもついて来ている。


京子、さくらに気づいて、小さく手を振る。
寅「『一人じゃ嫌だから、お兄ちゃんついてってよ』、っていい年しやがって
 おめえ、オレだって忙しい体なんだぞおまえ
あちゃ〜…┐('〜`;)┌
あんまりだよ寅…。さくらが可哀想(TT)
                   
京子「フフ…、どうもご苦労様
京子「リーダー、紹介するわ。大川さァ〜ん
髭もじゃの弥太郎、振り返って「はい」っと歩いてくる。
京子「この間お話した人
弥太郎「あ〜!、僕、大川弥太郎って言います。おもちゃ工場で働いてます

ちなみに「男はつらいよ」のファンである信州のTさんによりますと、
上條恒彦さんの実のお兄さんはなんと『弥太郎』さんとおっしゃるらしい!
Tさんと上條さんの実家はお互い朝日村で、すぐご近所だったそうだ。

さくら「
諏訪さくらです」っと頭を下げる。
弥太郎、あ、っと頭を下げる。
さくら「あの、私の兄です
寅「おう、寅次郎って言うんだよ。妹がなにかと
弥太郎「いえ、どうも
さくら「それから、この人…と源ちゃんを紹介しようとする。
寅「あ、これ、友達の源ちゃんだ
さくら「名前何て言ったっけ?と源ちゃんの方を向いて尋ねる
寅「え?源ちゃん、考えながら、自分の名前を思い出せない。ほんとかよ、おいおい ヾ(^^;)
寅「名前か?名前なんかなにもないよ。源ちゃんだよこいつは、ハハ!
一応、脚本では「源吉」となっているので、本当は源吉なんだろう。


この『統一劇場の人たち』と倍賞さん。「さくら」と『同胞』のヒロイン「河野秀子」が頭を交差した。
同胞』が封切られるのはこの翌年。同時に脚本が進んでいたのは間違いない!

さくらも一緒に入って歌いだす。寅と源ちゃんはもちろん見学。

弥太郎「それでは最初から〜」
アコーデオンの前奏
眺めている寅と源ちゃん
みんな「♪月影は〜、泉〜に落ちて〜、山の端に陽は昇る〜
さくら、寅が何かしないか気にしながら歌っている。

                


源ちゃんお面を被っている間に暇でしょうがない寅にさくらの口紅で顔じゅう落書きされている。
みんなそれを見てしまって歌にならなくて
みんな「ハハハ!

弥太郎「もう一度頭から」と怒りながらやり直すが、もう空気は元へは戻らない。

寅と源ちゃん真面目に座る。
しかし、源ちゃんの顔はすでに口紅でめちゃくちゃ。

                     こりゃ、笑うわな。(^^;)
                 

もう完全にみんな笑いモードだって。
このあとも寅と源ちゃんがドタバタやってコーラスはポシャッってしまった(TT)

一同歌どころじゃなく笑いまくる。

さくら、我慢できずに怒る。
さくら「お兄ちゃん!




コーヒー専門のカフェ

たぶん北千住界隈の店
さくら、寅、京子が座っている。(源ちゃんどこ行った?)
さくら、怒っている。

さくら「あそこに集まっている人たちは、京子さんのようにそれぞれが仕事をもっていて
   まじめに働いている人たちで、1週間に一度楽しみでああして集まってコーラスしてるんじゃないの。

寅、京子さんにニカッっと笑ってごまかしている。
さくら「なによ!お兄ちゃんのあの態度は!

で、結局寅がリーダーの大川弥太郎青年のところに謝りに行くことになる。

寅「うるせええなあ、だから謝りに行きゃあいいんだろ、ようするに。行きますよ。
京子「そうぉ、気持ちのさっぱりした人だからすぐお友達になれると思うけど」
寅「
大丈夫だよ、あの手のツラに悪い奴はないから、ね。うん



H【弥太郎へ恋の指南をする寅】

京成関屋の駅

『幸福荘』

寅、上に向かって「オーイ青年!コーラス団の団長ぉ〜!
弥太郎、窓を開ける
寅「よう!
弥太郎「あ…
寅「ちょっと話あるんだけどな、おい

寅、戸を開けて、


寅「酷い所に住んでるな、おい弥太郎、片付けている
寅「これでも、人間の棲みかかい?え?
弥太郎に向かって
寅「よ!青年。さっきはすまなかったなと先ほどの失態を謝る。
弥太郎「え…、はあ、分かりました。あ、それでわざわざ、どうも
寅「どうだい、手打ちに一杯やんねえか!
弥太郎「あ、酒ですかと、ニカッ
寅「ホホ、嬉しそうな顔しやがって、おまえ、いける口か?

っと言いながら大急ぎで、楽譜の横に立てかけてあった京子のモノクロ!写真を楽譜の中にしまいこむ。
コーラス全体を写した写真から写真屋でトリミングしたんだね。わかるわかる(^^)


自分の茶碗にも注いで

寅「行け行け行け
弥太郎一気に飲み干し、ブルブル震えながら
弥太郎「カアー!(ブルブル)プッハ!シュウー!ハーッ、ハアア…弥太郎っていったい…アル中か?(^^;)
寅、笑いながら「よし!おら、おい、駆けつけ3杯だ。う〜、飲め飲め飲めはい飲め飲め!フフ

っと酒をついでやる。

弥太郎「給料前なもんですから
寅「んん〜、とニコニコこういうタイプは寅は大好き。

寅「しかしよぉ〜、銭はねえし、口は下手だし、その上その男っぷりじゃ女にはモテねえだろう
弥太郎、飲みながら「え、まあ
寅「フハッハ、惚れられたことあんのかい?
弥太郎「ないです
寅「ハハハハ!ないですか、よしよしよしよしよし飲め飲め飲め
と、また酒をついでやる。
寅「惚れたことはあんだろ?
弥太郎、ニヤケながら「しょっちゅうです
寅「ウヒヒヒ〜!ヒ〜!そうかい、飲め飲め飲めと親近感を覚えながら手で催促。

              

寅、ってこういう正直で素朴な青年大好きなんだよね。自分自身も実際は恋愛に関しては惚れっぽい割には
不器用な面が多いので弥太郎がいとおしいのかもしれない。もちろんバカにしてからかっている部分もちょっとはある。


寅「あ〜、女に惚れても無理だな、お前は…
弥太郎「…そりゃあ…僕はあなたと違って二枚目じゃないし…
弥太郎「しかし、男にとって大事なのは顔じゃなくて心じゃないでしょうかねっと寅を見る。
寅「かあ〜、お前と話してるとため息がでちゃうよ。ね〜、だから素人は困るんだよ
心や気持ちで女が動いたら、おまえ苦労はしないじゃないか、そうだろう?

寅が言うと真実味が出てくるなあ(^^;)

寅「おまえ、今誰に惚れてるんだい?
弥太郎「え?
寅「え?
弥太郎「あ、あなたの知らない人です
寅、楽譜めくりながら
寅「この近所のネエちゃんか?それとも労働者仲間の女子部か?ん?
例の写真が下に落ちる。なにげなく拾って寅ビックリ
寅「!!

                            
            

京子のテーマが流れる

弥太郎「
あ!!あ!!
寅、写真見ながら

寅「カハハハ!バカだなあ、おまえ!え!?

弥太郎、写真を取り返そうと焦りながら

弥太郎「いや…、ち、
寅「これは身の程知らずだぞ青年!可哀想だなあ〜
おいおい、あんたも人のこと言えないよ ヾ(^^;)




江戸川土手

さくらと京子が歩いている。


              

京子「それが可笑しいのよ、こないだ、田舎に帰った時に、母さんの言ういい男性ってのは、どんな男性なの?
   って聞いたら、
おまえの父さんみたいな人だってそう言うの。
さくら「じゃあ、お父さんって素適な人だったのね
京子「それがぜェんぜん!
さくら「え?
京子「私、よく覚えてないけど、写真で見ると酷い醜男。おまけにとっても口下手でお金儲けなんか全然縁が
   なかった人よ。フフフ…そんな人見つかると思う?
どこかで見たことあるなあそういう奴(^^;)
このへんで『不細工で不器用な男に対する憧れ』のとらうまが京子さんにはあるのかも(^^)
さくら、笑っている。




弥太郎のアパート

寅「今度会った時には、こうも言おう、ああも言おうって、頭の中でいろいろ思い巡らしてはいるが、いざ、
 惚れた女にばったり出会った時にまるでオシになったようになんにもしゃべれなくなることがある。

弥太郎、深く頷く

寅「それは、よおく分かる…。だがな、青年、おまえはその口をチャックしたまま好きでもないお多福と所帯を持って、
 尻に敷かれて、
ガキの5人もヒリ出してだ。どん底の生活に喘いで一家心中をしようとするその時に、
 『ああー、もしかして京子さんは、このオレが好きではなかったのか…。』そう思った時おまえどうする。
 いくら後悔してももう遅いんだぞぉ…

よくもまあ、ここまで人の不幸の物語をでっちあげれるねえ、まったく(^^;)

弥太郎「じゃあ、寅さんいったい僕にどうしろって言うんですか?
打ち解けてきたのか弥太郎はこの時点ですでに「寅さん」と言っている。
寅「思い切って何でも言ったらいいさ。惚れていますとか、好きですとか、

               

弥太郎「そしたら、どうなりますかねェ?
寅「断わられるのに決まっているきっぱり!おいおい、決め付けつけるなよ(^^;)
弥太郎「なんだ…」と酒を飲む
寅「しかし、無駄ではないんだ。おまえがそれで諦めることが
 できるから。な。また、
別の角度のお多福を探し求めていけばいいんだ。別の角度って…(^^;)
弥太郎「
……考え込んでいる。
寅「分かったか青年、うん・

                      

I【突然の弥太郎の告白】

夜の柴又参道

寅と弥太郎の歌声
。二人ともかなり酔っ払って、肩を組んで千鳥足で駅の方から歩いてくる。
二人で「
♪花も〜嵐も〜踏み越えーて〜

                
とらや

とらやの茶の間が店から見えて、 京子がみんなと一緒に座っている

寅、店に入って来て

寅「とらやの皆さんこんばんは!ただいま帰りました!ベロベロに酔っている。

弥太郎「こんばんは〜!!突然お邪魔しまして、僕、大川弥太郎といいます。千住の労働者です。
     今日は、寅さんに、ごちそうになってしまって…

弥太郎、京子に気づいて、目が輝き、驚く

弥太郎「ああ!
京子「いやーね、大川さん、寅さんと飲んでたの?

京子「さくらさんに誘われてね
寅「うん
京子「晩ご飯までご馳走になっちゃった。フフ
寅「あー、そりゃよかったよかった

博「どうぞお上がりになりませんか
おいちゃん「どうぞどうぞ

寅、茶の間の上がり口でひっくり返ってしまう。

弥太郎、京子さんを見つめて黙っている。

                 


弥太郎のただならぬ気配を感じ、寅はハッとし、周りの人たちにも緊張が走る

弥太郎、そんな空気とは関係なしに、京子の方を向いてなにか言おうとしている。

弥太郎「あの…木谷さん…

寅「わあ!あー!おい、こんなとこで、そんなこと言うヤツあるかよ、

弥太郎「あの、僕

                     

寅、肩を組んで「さ、楽しく歌おう!歌おう、ハイ!ね!、♪泣いてくれるな〜、

弥太郎「笑わないでください

寅「笑わない笑わない!♪ホロホロ鳥よ〜、っと、月の比叡を、ホラ歌えよ!
さくら「お兄ちゃん
さくらもただならぬ気配を弥太郎から感じ、寅の歌を止めようとする。

寅「♪ひとり行く〜
博「兄さん静かに…っと座敷に押さえ込む
   
弥太郎「いえ…
寅「♪パンパパンパッパンパン〜、パンパンパン
弥太郎「あの…
寅「♪花も〜嵐も〜…」

弥太郎「本当に、笑わないで下さい

寅「♪踏み…

               

京子、真面目な顔で弥太郎を見ている。
その顔に、圧倒されて寅は歌を止める。


京子「笑わない。…なに?

寅、弥太郎を見、京子を見、また弥太郎を見ている。

弥太郎、息を整えて何か言おうとしている。


沈黙


弥太郎「急性盲腸炎で入院したその日から、
   …僕はあなたが好きです



               


京子のテーマ、ゆっくり、静かに流れる。


弥太郎「あれからずっと…、あなたが好きです


京子、弥太郎を見つめている。


               


弥太郎、下を向いたまま。

沈黙の時。

弥太郎、京子を見て、我に帰ったようにハッとし、

周りの人たちを見て、居たたまれなくて、体を反転し、小走りで店から出て行く。

寅「おい!弥太郎!」っとこける

京子も呆然として、どうしていいかわからない。
京子静かな声で「どうも、ごちそう様でしたと言い、頭を下げて帰ろうとする
一同「いいえと緊張して頭を下げる
寅、京子を見ている。
京子、ゆっくり立ち上がって、靴を穿き、さくらの方へ向かって、戸惑いながら少し微笑む
寅、下を向いてしまう。

              

京子「さようなら
寅、下を向いたまま「
道へ出た後走って行く足音
寅、ハッと京子の行った方を見る 。我に帰って立ち上がりながら

寅「ちェ!はッ!まったくねえ!どうにもこうにも話にならないよ、おまえ!
女の気持ちなんて分からないんだから!あれじゃ、振られ。。。
っと暖簾をくぐって2階にヨタヨタ上がっていく
さくら、ずっと店先の方を見ながら弥太郎と京子のこと、そして…兄のことを考えている。
博も、じっと下を向いて考えている。
とまどいながら時間が過ぎていく。

この長い長いシリーズの中で最も美しい愛の告白のシーンは
この不器用な弥太郎の告白である。これ以上に美しい告白シーンを私は他に知らない。




J【弥太郎恋の成就と旅立つ寅】

京成関屋駅

京子が電車から降りてくる。
下を弥太郎が走っていく。

弥太郎「こんちは
京子、消え入るような小さな声で「こんにちは

弥太郎「あ、あの…夕べはどうもすいませんでした
京子首を振って「フフ…今お昼休みなの
弥太郎「ァ」
京子「ちょっと..あなたに、会いたくて…と、少し照れる。

弥太郎、ウレピイ表情。生まれて初めて、最初で最後、この世の極楽浄土!。(●⌒∇⌒●)/

ん〜〜!!よかったなあ〜、弥太郎ォ〜。(T-T) 
これも京子さんのお父さんの面影を追う京子さんの父親コンプレックス&お母さんの理想の男性像の刷り込み
ブ男、口下手、お金儲け下手)があったればこそだぞ。(^^;)まず、普通はないぞ世の中でこんなこと。(キッパリ)
京子さんのご両親に感謝だね。

                



とらや 

二階で二日酔いの寅、水を飲んでへたっている。


一階の店先。社長がおいちゃんに聞いている。
社長「じゃあ寅さんがけしかけて無理やりに愛の告白をさせたとこう言う訳か
おいちゃん「そうらしんだ可哀想になァ〜
おばちゃん「あんたそんなこと言うけどわかんないよ。だってあんな言い方されて心を動かされない女はいないんじゃないかい?

おばちゃん、鋭いね。あれだけ真面目に愛を告白されていやだと思う女性はいない。
自分が嫌いではなくどちらかというと好感を持っていた人からの告白はさらに嬉しいに決まっている。


おいちゃん「そらまあ『ひょうたんから駒』って事も有るだろうけどさあどうだか


その時、弥太郎が猛スピードで店先にやって来る
弥太郎「こんにちは。夕べはどうも失礼しました
かなり上機嫌で寅にお礼を言いにニ階へ上がって行く。

               

さくら「こんにちは
おばちゃん「あ!さくらちゃんちょっとほら何て言ったっけほら!ほら!

おいちゃん「ほら!『僕愛してます僕愛してます』!
おばちゃん「ほら!髭中顔だらけの!
あんたたちっていったい弥太郎のことを…(^^;) まじめに考えると「髭中顔だらけ」はホラー映画。
これにはさくら、さすがに笑う(^^;)
                          
さくら「何の用だろう
おばちゃん「それがさなんだかおめでたいことがある様な気がするんだよ
おいちゃん「俺たちにとっては不幸せな事がな…」上手い!
社長「ホントだとつっこむ。
さくら「それどういう事?

ニ階から降りてきた弥太郎ニコニコでさくらに挨拶して帰っていく。

さくら急いで二階の寅の部屋へ。



とらや 二階

寅「お、さくらか…。あんちゃんなそろそろ旅に出るよ
さくら「大川さん何の用だったの?
寅「なあに、何だか礼かなんか言ってたよ。早い話がひょうたんから駒が出たんじゃないかな
寅「ま、良かったじゃないか、さくら。な、
弥太郎が来たら、すぐ二日酔いが治るっていうのもなんかなあ(^^;)



とらや 一階

みんなに名残を惜しまれながらとらやを出て行く寅。


さくら、茶の間で貯金通帳と印鑑を引き出しから取り出してきて
さくら「これ、使わずに済んだから返しとく

                

寅「…そうか、…じゃ、また、少しずつ貯めといてやらっと懐に仕舞い込む。

さくら「ありがとう…」
さくら「あてにしてるわ寅を見て少し涙ぐむ。

寅にとって、この諏訪さくら名義の貯金通帳はさくらの願が入った『お守り』みたいなものになったね。
さくらも、潜在意識の中でそのことを願っているような気がする。


寅、頷いて、店先へ行き、梁に手をおいて。

寅「あ〜、すっかり涼しくなりやがったなあ〜
寅「もう師走だなあ…。せめて正月ぐらいは生まれ故郷の柴又でゆっくり過ごしてえが…
さくら、近づいて「ねえ、たまにはそうしたら?
寅「そうできねえのが、渡世人のつれえところよ
寅、ちょっと、微笑んで「じゃあ、あばよ!と寒そうに襟を立てて歩いていく。
さくら、哀しくて、「お兄ちゃんと言って参道を追いかける。

見送るさくら。

             


この長いシリーズで結局寅は一度たりとも、正月を柴又で過ごすことはなかった。



K【寅からの年賀状と呼子での再会】

正月 江戸川土手の凧

京成関屋駅下の大川弥太郎のアパート「幸福荘」

さくらが新年会出席のため2階を見上げながら歩いてくる。


さくら「どうもあけましておめでとうございますとお辞儀をする。
リーダー我らが江戸川合唱団1975年度の発展をきたして、乾杯!
一同「カンパー
みんな口々に「おめでとうございます

弥太郎「あの〜…、みなさん、あのぉ…、いや、ちょっと聞いていただきたいことがあるんです。
一同弥太郎を見る。
弥太郎「あのぅ…、
京子、照れて少し笑っている。
みんなも、ニタニタ。
弥太郎「実は…つまり…
みんなクスクス
弥太郎「結婚します
団員D「誰が?
弥太郎「いや、俺だ…
団員D「誰と?
みんなニヤニヤ
弥太郎「あのぅ…そこにいる木谷京子さんとです
京子お辞儀する。
団員D「どうして?(^^;)
弥太郎「ど?どうしてって、おまえ!とドギマギしてつっかかっていく。
一同大爆笑
                           

               

団員F「まあまあまあ、
団員G「みんな知ってんのよ
一同「ねえェ〜!
団員H「とっく、とっく
弥太郎「え?え?っときょとんとする。
あんただけだよ、誰にも知られてないと思っていたのは(^^;)

それにしても、1ヶ月の間に結婚を決めたんだね。早え〜!が、それにしてもなぜそんなに早く決めたんだ?
それと、誰がとっくにバラしたんだ?そらまあ京子さんしかいないか。あたりまえ(^^;)

団員I「美女と野獣上手い!

京子が小さなカバンからハガキを取り出す。寅からの年賀状、さくらにそのハガキを見せる。

                

寅の声がかぶさっていく。

寅の声

「新年おめでとうございます。
新しき年をいかがお迎えでしょうか。
私こと、昨年中を振り返れば、思い起こすだに恥ずかしきことの数々
今はひたすら反省の日々をうち過ごしております。
本年が、京子様には特別に良き年であるよう、心からお祈り申し上げます。


ここから映像は佐賀の呼子港の渡しが映リ始める

なお、末筆ながら、くだんの青年。名前は失念いたしましたが、
あなた様を恋い慕うひげ面の男にくれぐれもよろしくお伝えくださいまし。

木谷京子様      九州大宰府にて 車寅次郎



この最後の『九州大宰府にて』の部分は寅のナレーションでは読まれていない。
が、ハガキには書いてある。


                

佐賀. 呼子港

ふたたびこの地へやってきた寅。
寅、こちら岸で、渡しを待っている。
寅「よお〜!
女、寅を見て、…間があって
女「ああ〜!あんたじゃなかね!
寅、満面の笑みで
寅「んん!と頷く。
舟が動き始める。

女、寅をシゲシゲ見て「わあ!
二人とも笑いながら座る。
女「わざわざ来てくれたんね!?
寅「ん!唐津まで来たんでね。赤ん坊のことも気になってたもんだから
女「そう〜!
寅「うん
女「元気だよ、ほら、 ここにいるばい、見てみんね

                        

寅、笑いながら赤ん坊の、ほっぺを指でさわる。
女「病気ひとつせんもん、ね!と赤ん坊を見ながら笑う。
女「タケはいい子じゃけんね!
赤ん坊、寅を見て笑っている。
女「ほ!ほ!ほ!と言いながら赤ん坊をあやす。

寅、ほっとした顔で
寅「そうか…、元気だったか…
ちょっと、まじめな顔になって、

寅「ところで、この子の父親どうしてるんだい?
女「フフ…いるばい、あそこに
寅「え?」と振り向く。
小屋の呼び込みとかモギリとかさせちょるんよ。つまり、ね!なんと言うか、ま、一緒に暮らしとるんさ
寅「そうかあ、それじゃ親子ともどもあんたの世話になってるわけだと心から安堵。
女「フフ…
寅「よかったよかった

この時の春川さんの笑顔。なんの『けれん』もない、 そのままの笑顔に、何度救われてきたことか。
この笑顔を見たいために何度も「子守唄」を見てきた。


女「あ!お父ちゃんだ!お父ちゃーん!
対岸に出てきた男、手を振っている。
女「お父ちゃーん! お客さんバイ!こん人こん人
寅、涼やかな顔で手を振る。

              

安堵の表情で遠く、対岸を見ている寅。
静かに寅たちの舟が近づいていく。

呼子の海と渡し舟が遠くに映る。


              


このシリーズの数あるラストの中でもベスト10に入る爽やかなラスト。
寅はこういうラストが実に良く似合う。



第14作「寅次郎子守唄」【本編完全版】は、こちら



 
またもやここ数日多忙のためアップが遅れました(^^;)ゝ
第14作「男はつらいよ.寅次郎子守唄」ダイジェスト版を本日4月26日にアップしました。
第15作「男はつらいよ.寅次郎相合い傘」ダイジェスト版はだいたい4月30日頃にアップいたします。



【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら



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『寅次郎な日々』バックナンバー





第13作「男はつらいよ.恋やつれ」ダイジェスト版
 

2007年4月20日寅次郎な日々 その308


ご注意) 下の文章をはじめ、私のサイトには物語のネタバレが多く含まれます。
       まだ映画作品を一度もご覧になっていない方は必ず作品を見終わってからお読みください。


「浴衣きれいだね…」ただそのひと言に込めた思い。

遂に第13作「恋やつれ」である。この作品は第9作の続篇だ。同一マドンナの続篇を作るということは、観客が第9作を観ている
という前提に立っている。これは山田監督の大変な自信の表れだと思う。柴又慕情を観た人は必ずこの作品を観るだろう、という
確信が無ければ怖くてできない。それくらいこのシリーズがいよいよ世の中に広まってきたということだろう。

歌子ちゃんは実は48作以降でも作られる予定だったらしい。なんと吉永小百合さん3度目の登場となるはずだった。観たかった(TT)
山田監督にとってリリーと歌子ちゃんは特別な存在だったのだろう。ある意味この2人はこのシリーズの大きなテーマをそれぞれに
背負ったキャラクターだったことがこの『同一人物の続篇設定』で分かる。歌子ちゃんの場合はリリーのような「放浪と定住」のテーマ
というよりは第12作で表現した「女性の自立の問題」がさらに進化したかたちで突きつけられることになる。人が働くということはお金の
ためだけではない、幸せとはなんだろうか。という難しいが根本的なテーマをひとりの普通の女性が悩みながらも考えぬき、決断し、
その現場に飛び込んでいく話だ。

吉永小百合さんは第9作のときよりもいっそう美しく、演技もより集中力があったように思う。第9作から続いている甘く優しい
歌子のテーマ曲は今回も吉永さんを温かく包み込んでいた。
そして第9作から解決できていない問題である「父娘の葛藤」もさらに一歩進んで表現している。お互いが歩み寄ることの難しさ、
そして歩み寄る勇気の尊さを、かなりの比重で描いている。歌子ちゃんと父親がとらやで泣き崩れるシーンはこのシリーズの屈指の
名場面だと言えよう。

また、この作品がおいちゃん役最後の作品となった松村達雄さん。父と娘の和解を見て喜びのあまりくしゃくしゃに泣きはらした松村さんの
顔がとても印象的で、あの名場面を一層忘れがたいものにしていた。あれは松村さんのキップのいい強い演技がポイントだった。


また、この作品では実は歌子ちゃん以外にもうひとりマドンナが登場する。これもきわめて珍しいパターンだ。温泉津(ゆのつ)で知り合った
絹代さんである。この絹代さんの話は、夢の部分や、ラストの部分、そして歌子ちゃんとの再会の部分に全て関連している。本当は絹代さん
の話だけでも一話作れるのでは、と思うので、あんなにさっさと失恋させてちょっともったいないような気がした。しかし、ふたつのハラハラが
楽しめてまあ、それはそれでよしとしよう。設定的に寅は今回は絹代さんに恋をし、結婚まで考え、夫を亡くして間もない歌子ちゃんには、
恋心は心の奥に押さえて、彼女の自立を応援し、見守った。といえよう。「無私、無償の、人間としての大きな愛情」とでも言えばいいのかも
しれない。

そして、ラスト付近。唯一、あの花火の夜の歌子ちゃんを見つめる寅の目だけが、この物語が「恋の物語」だったのだと私に思い出させて
くれる。そして、だからこそよけいに、彼女の後姿に向かって「浴衣きれいだね…」とそっとつぶやいた寅の言葉が胸にいつまでも切なく
残るのだとも思う。
こんな純粋で少年のように穢れが無い言葉を寅からつぶやかれたマドンナはこの長いシリーズの中ではたして他にいただろうか。
私は記憶に無い。



本編


@【寅の帰郷と温泉津物語】

今回も夢から入る。

桜の花が満開の海岸
♪金襴緞子の帯しめながら〜の「花嫁人形」のメロディが流れる。
タコ社長夫妻が仲人をして、花嫁道具を持った人々が階段を上がっていく。
寅次郎が結婚をするらしいのだ。

この夢は本編への橋渡し的な役目を果たしている。
階段の上に上がりきると、なんとそこはとらや

               

寅「さくら、アンちゃんとうとう嫁さんもらったぞ!ほら、この人だ
さくらが寅に何か言おうとしたその時博が
博「兄さん!遅かった!去年の秋、ふとしたはやり病で枕を並べるように二人とも…
さくら、泣く
茶の間の戸を開けるとそこは茶の間でなくなんと秋の風吹く墓場。
源ちゃんがほうきで地面の落ち葉を掃いている。う〜む、シュールリアリズム!(− ー;)
寅「嫁さん連れてきておいちゃんとおばちゃんの喜ぶ顔が見てえと思って。それなのに…うう…
どうして死んだんだ。なんで死んじまったんだよ。
」と泣きじゃくる
またさくらの方へもたれかかって泣き、うずくまって泣き崩れる。
さくら「お兄ちゃん、…お兄ちゃん…」


電車の音が聞こえてくる

電車の中で寝ている寅

寅、隣のおばさんにもたれかかっている。おばさん嫌がって跳ね除ける。

              

このおばさんは、テレビ版で寅の産みの親を演じた個性派武智豊子さん
反対側に寄りかかって今度はおじさんのほうへ。
おじさんにも嫌がられる。こちらもほとんどの作品でおなじみ吉田義夫さん

乗り越してしまった寅、ブスッとして口尖らせながら「戻りゃいいんだ戻りゃ!


タイトル  男はつらいよ 寅次郎恋やつれ

                    
男(赤文字)はつらいよ(黄色文字)寅次郎恋やつれ(白文字)バックは今回も第12作同様お馴染み江戸川土手

口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。


   ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


   ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労もかけまいに かけまいに♪


今回も第12作同様寅が矢切りの渡しを使って千葉の矢切から柴又へ帰ってくる。

             


江戸川河川敷ではラジコン飛行機を飛ばしている青年がいて寅が興味を持つ。

寅、例のごとくちょっかい出してラジコンのツマミいじって、困らせたり、カップルにぶつかって、自分のでかい
温泉津からのお土産とカップルのかばん間違えたりするミニコント。


         

帝釈天 参道

とらや

おいちゃん寝巻姿でボー
おばちゃん「なんだか知らないけど、明け方変な夢見て寝付かれなかったんだってさ」
おいちゃん「それが、寅のやついつもと違ってさ元気いっぱいでなんだか幸せそうな顔してさ、ズカズカっと
     俺のところへ来てこう言いやがったんだ。『おいちゃんよ、長い間心配かけたけど
結婚したよ』って
まあそれにしても今回はしょっぱなから『結婚』の夢続きだね、これはなんかあるぞと、いやでも思わせる山田演出!
おいちゃん「夢枕って言うけど、まさかそれじゃねえだろうな」←これじゃ寅が死んだことになってしまう?(^^;)


その時、玄関で寅と源ちゃんがパッと姿をあらわすがすぐにくらます。

今回は寅の土産は豪華な海の幸。
おばちゃん「あら!まあ〜!美味しそうなお魚!」と昆布や干し魚の真空パックを手に持つ
さくら「どうしたのこれお兄ちゃん」
寅「女将が持たしてくれたんだよ マドンナが女将!?第3作の二の舞か!?さくら不安げ。

寅のアリア 『温泉津番頭篇』

寅「朝、目が覚める。
耳元で波の音が
パシャパシャパシャパシャ
雨戸をカラッと開けるパアァー!っと一面目にしみる様な青い海。これが日本海だ。なあ社長

        
           パアァー!っと一面目にしみる様な青い海
                

社長、口をポカーンっと開ける←この反応最高!

寅「ああ、今日一日ももいいお天気でありますように。新鮮な空気を胸いっぱいすーーっと深く吸った時、
下から女中さんの声が聞こえる
番頭さん朝ごはんですよ
おいちゃん「なんだいお前番頭やってたのか
寅「そうだよ。『あいすぐ行くよ』そう答えておいてポンポンポンっと布団をたたむ。トントントントントーンと階段を下りて
ガラッと湯殿の戸を開けてザブーンっと朝風呂に入る
(布団の仕草が特に絶品!)

              ポンポンポンっと布団をたたむ
            

寅「身も心もさっぱりした所で朝ごはんですよ。さっきまで生きていたイカの刺身!ね!
  こんなどんぶり山盛りだしょうがを
パラッとかけて醤油をツルツルッとたらし一気にパアーッと食っちまう。
  あとはアジのたたきに新鮮な卵

社長、パブロフの原理で唾を飲む

寅「これで朝ごはんをたっぷり頂いて、さあ仕事ですよ、ね!女将のいたわりの声『ご苦労さんだね番頭さん
 リュウマチババアの声を後にしてまず土間をパッパッパッと掃いちゃう。
 打ち水を
サッとして表の道路まで出てサッと水を撒く。そこへ近所の女がスッと通りかかる
 『
お、お絹ちゃんこれからお出かけかい?』『ええそうよ』『そうかい気をつけてなケガをしないように』『はいどうもありがとう』
 『じゃいっといで』『行ってきます』
 そんな所で午前中は終るかなァ・・・
仕事もう終わりかよ。それってただ遊んでるんだよ(^^;)

さくらが『リュウマチババア』の部分でホッとするところがなんともいいねえ−。

社長「で、午後はどうなる?←タコ社長指を突き出して乗りに乗っている。
寅「うーん、午後はまあ、海岸の散歩かね楽なもんだ・・( ̄ω ̄;)

このあともしきりに『お絹さん』という名前が寅の口から飛び出す。

さくら「あのねお兄ちゃん、ちょっと質問なんだけど
寅「なんだい?
さくら「お絹さんってどう言う人←やはりさくら、ポイントは外さないね。
寅「えっ
寅「・・・お絹・・?絹代ちゃんか…
寅「あ、さくらあのー・・今晩博な忘れずに呼んどいてくんねえか大事な発表もあるし…。
 アー疲れたなあ〜。思ったより疲れたな
←意味ありげ

とらやご一同、超希望的観測と現実がごちゃ混ぜ状態で進行中。『大事な発表』を過大評価。


工場

社長、走って入ってきて「大変だい大変だい!おい博さん!寅さん帰ってきてな今夜重大発表するってよ
社長「あー忙しくなってきた!←仕事しろよな。(-_-#)

このあと柴又中に光ファイバーの速さであっという間に結婚の噂が広がっていく。

御前様も「ん、今、源に聞いたとこじゃが、嫁さんが決まったそうだねぃ〜なんて言っていた。



A【重大発表騒動】

とらや茶の間 夜

博「
お、ご馳走だなあ…。これ社長から前祝だって、フフフ」っと日本酒
おいちゃん見ぃろよ、この夫婦茶碗源ちゃん物凄く気が早い(^^;)
おいちゃん源ちゃんがな、わざわざお祝いに持って来てくれたんだぜ」
おばちゃん「それと、このウイスキーねえ、前祝だって御前様が」
御前様も寅のことになると、結構盲目的なとこあるかも(^^;)困ったァ〜!

『真打ち』寅も二階からやって来て

おいちゃん「
それじゃいいか、それじゃな、
寅の就職と健康を祝って、な、乾杯!
一同「
カンパーイ!!

こわ〜い約2秒の沈黙
 なんとなく一同また「フフフ」「ヘヘへ」
極度の緊張感
がとらやの茶の間を支配

          

各自絹代さんのことをバラバラに聞いてもらちがあかないので博が代表で聞く事になる。

まず。。、名前はなんですか?
さくらお絹さん
そう、絹代さんっていうんだよ
絹代さんはいくつですか?
そうねえ…三十五か六、そのあたりじゃないかな
初婚ですか、それとも再婚?
子供が二人いるよ今から三年前に上方に仕事に出たまま行方知れずよ
社長そうかあ…蒸発っていう奴だな
おいちゃんよくあるやつだよ
社長かわいそうになァ…、残った二人の子を抱えて健気に働いてるってわけか
そうよ、細い体で薪しょったり、泥をこねたり、なりふり構わず真っ黒けになって
 働いてるんだ。そのくせ、人には優しい心の持ち主だからなあ…。誰だって悪く言う人がいるわけやねえ

一同納得して、黙る

兄さん…その人を幸せにしてあげなくちゃいけませんよもうすっかり結婚すると信じている(^^;)
おばちゃん「
寅ちゃんにピッタリの人みたいだねえ…
さくらほっとしながら下を向いて「うん」と微笑む。

なあさくら、オレももうそろそろ惚れたハレタの年じゃねえしなァ。ここらあたりで所帯を持つんだったら、
まず何よりも、さくらやおばちゃんやおいちゃん、博にたちに気に入ってもらえる人が一番だとそう思う。
それでオレはこのことを一時も早くみんなに知らせようと思って休暇を貰って帰って来たんだよ

さくらそうだったの
おばちゃん、感無量で「
よかったね、さくらちゃん。いつかはこういう日が来るんじゃないかと夢に見てたんだよ目がウルウル
みんなで再度乾杯〜!
社長でね、式のさ、日取りなんかはどうなってる?
手帳をひろげて、黄色いめがねをかける。
何の式?
結婚式ですよ
…?…あ、式? ああ、そんなのはまだだよ
社長あ、そうか結納が先か、おばちゃん、消しゴム1ランクダウン(^^;)
さくら
絹代さんとはどんな相談してるの?そういうことは
いや、別に…←とらや一同に暗雲が…
さくらでも…約束はちゃんとしてるんでしょ
社長婚約か..」と手帳に書く。2ランクダウン(--;)
約束って?
さくら結婚のよ
あ〜…、それは、まだだ…
一同唖然。3ランクダウン(_ _;)
博「
しかし、なんというか、お互いの間に暗黙の心の触れ合いとでも言うか…
形式にこだわらず、心の内面を探る博。粘るねえ〜

              

???なんだいそれは?←だろうね。
社長
早い話しがさ、暗い所で手を握るとかさ分かりやすすぎ(^^;)
バカヤロウ、てめえじゃあるまいしそんなことするかいバシッとうちわで社長を叩く。
しかし、例えば、第三者を通しての好意の確認とか…←分からんってそれじゃ(^^;)
わかんないわかんないよ」と首をふりふり
さくらでも二人っきりで散歩くらいはしたことあるんでしょ…?もうこうなると『最低ライン』だけは確保したいさくら(TT)
二人っきりで会ったことなんかないよあ〜あ〜あ〜(T T;)/~~
~最低ラインを遂に切った・・・
じゃあ、なんですか、絹代さんとの間にはなにもないんですか、まだ!?さすがの博も声のトーンが変わる。
当たり前だろおまえ←よく言うよ…
さくら、愕然として
ほんとに!?なんにも!?さくら超ショック。。。。(T T)
みんながついに真実を知った瞬間だった。
うるせえな!しつっこいんだよ、おまえたちは」とまわりを睨みつける。
社長、
手帳放り投げて、「なーんだぃ、ちっと脱力
おいちゃん、仏壇の前で、「
お粗末な重大発表だったね…
さくら、うつむいて頭抱えている。(T T)さくら可哀想…

おいちゃんだから、早い話がお前のいつもの岡惚れなんだろ、
      そんならそれと最初から言ってくれりやあね、別の相談だってあったんだよ。
おいちゃん、当たらずとも遠からず。

結局これをきっかけに寅とおいちゃんたち、掴み合いの大喧嘩。

私がねお兄さんと一緒に絹代さんに会いに行くわ。ね?お兄ちゃんそれでいいでしょ?
うるせいてめえなんかに世話になるかい!この野郎!
と手をほどこうとして
さくらを押し倒す(><;)

        

おいちゃんおもちゃのカタナで寅に応戦。

あ、てめえ!
結婚前の体に傷つけやがったな!ダアアー!



B【温泉津での失恋と旅に出る寅】

山陰線 車内

寅、社長、さくらの3人が温泉津へ向かっている。
メインテーマ曲が流れてる
温泉津駅からタクシー
寅たちを乗せえたタクシーが町なかを走ってる。


さくら「
静かでいい町ねお兄ちゃん
寅「
そう思うかお前
駅長さんや芸者さんの反応から寅がこの温泉津の町ですでに馴染んでいたことがよくわかる。

タクシー窯場に入ってくる。


寅、遠くから見て
さくら、あ、あの人だよ・・
ふと、寅に気がつく絹代さん。
お絹さん
絹代、眺めて、驚いてああー!寅さん!
絹代「ウフフフ!」と笑いながら背負ってた蒔を落として急いで嬉しそうに走りよってくる!
さくらもタコ社長も絹代の
過激な行動にこれは!?っと少し驚いて見ている。

絹代
寅さん!
うん!
絹代主人がね
うん
絹代主人がおととい帰ってきたですよ!ハアハア・・あんまり突然で私もビックリしてしもうて。
   でも思うたより元気にしとうてね。あ…、いろいろご心配かけてすみませんでした。

と頭を下げる。
寅、一瞬「…」ちらっとさくらを見て…


              

そうか・・そりゃ本当によかったな
絹代すぐ寅さんに知らせよう思うたら、なんか東京の方に帰っとんさるとかで
櫻たちを紹介する寅。挨拶する絹代とさくら。
絹代のテーマ流れる。

さくら
良かったねお兄ちゃん…
良かった…フフ…良かったよなんともいえぬ寅の顔
さくら、そんな寅のことを気遣い、複雑な気持ちで向こうに歩いていく寅を見ている。辛いね…


その夜は寅は荒れて、社長と温泉津で飲み明かしたのである。

とらや


博、電話で
そうか・・見事にふられたもんだな・・で、兄さん今何してるんだい…?
おばちゃん
横で聞いていて「やっぱりダメだったのかい…?哀しい.…
社長に借りが出来ちゃったなァ…
おばちゃんハァ・・・(T T)


温泉津 早朝

さくら寝ている。←さくらの寝顔は珍しい!
置手紙。
さくら、俺は一足先に旅に出る。お前気をつけて帰れよ。
わざわざ遠くまで引っ張り出してわるかったな  兄より


簡単な言葉だが寅の気持ちが伝わってくるね。(T T)


温泉津駅 ホーム

社長「
しかし絹代さんって人よさそうな人だったなあんな人が
   寅さんの嫁さんなら(アーア・・・とあくび)さくらさんも安心なんだろうなァ・・・アーア・・・


              

さくら「
疲れたでしょうごめんなさいね社長さんには何と・・・
社長「
それを言うなって大阪にどうせ用があるんだからもともと俺だってそう期待はしてねえんだよ

駅向こうの中学校の校庭からブラスバンドの演奏が聞こえてくる
じっとブラスバンドを見ているさくらの横顔が長く映し出される。




山陰の海岸

絹代のテーマ曲ゆっくり流れる
波打ち際で海をぼんやり見ている傷心の寅の横顔が寂しい。
海沿いの寂しい道を歩く寅





C【津和野での歌子との再会と別れ】

益田市  縁日での啖呵バイをしながら寅は津和野に入っていく。



「安富橋」を渡る寅

この橋については本編完全版の同じ箇所を参照してください。



津和野 

食堂 すさや
うどんを食べる寅の寂しい背中 


店先から女性(歌子)の声、店の中に向かって
歌子「
こんにちは、図書館の鈴木ですけど

寅、歌子のほうを何気なく見る。はっとして…あの懐かしい面影がそこに。
歌子、店を見渡そうとして、寅に目が行く。
しばし、見つめ合う二人。

            

寅、だんだん
確信と喜びの表情に変わっていき、
遂に、寅「
はー!
と、笑って歌子を見る。
寅「
歌子ちゃんじゃねえかぁ
歌子、
静かに,優しく 寅さんね…
寅、最高の笑顔で「
うん

             

歌子、信じられない顔で、そして感動しながら
歌子「
どうしたの?どうしてこんなとこにいるの?
歌子は微笑みながらも寅への視線は眩しいほど強い。会いたかったのだろう。誰よりも寅に会いたかったのだ。


寅「
どうしてって、オレは旅の途中よ
歌子「
私、びっくりした…と感極まり、泣いてしまう。       

歌子にとって寅は自分の人生の扉を大きく開けてくれた大切な人。忘れるわけがない。
そして今歌子は更に人生の大きな岐路に立たされているのだ。この涙は、彼女の今背負っている
悲しみの重さが暗示されていてとても切ないシーン。


寅はこの時点で歌子の涙のわけは知らないで、懐かしさでいっぱい。


あれ…?多治見にいたんじゃなかったの?なんでまたこんなところに?
歌子ここね、
うん」 
歌子彼の実家があるの…声が静か
、うどんつつきながら
あー、そうかそうかそうか歌子ちゃん、あの、芸術家の青年と結婚したんだったっけな
歌子頷く
で、どう、彼と仲良くやってるかい?」
歌子、下を僅かにむいて (カメラは歌子の斜め後ろ)
寅「
ん?
歌子の顔が映って
歌子、寅を見つめて、そして下を向き
小さな声で「彼ね…」   

           

寅、ニコッと笑ってうん、彼、どうしたぃ?

歌子死んだの。……去年の秋…病気でね

寅の背中

歌子、寅を見て僅かに微笑み、そして下を向く。
下を向いた歌子の顔は深い悲しみの色

歌子のテーマ流れる。
『去年の秋…病気でね』のセリフと重なるように
長い沈黙




津和野川
           

津和野川のほとりのベンチに座っている寅

               

歌子、しゃがんで当時の夫の病状や様子を話す。
歌子「
お医者さんは好きなようにさせたほうがいいって言うし、退院させてね、彼が子供の頃から
   暮らしていたお部屋を、病室にしたの…。
   庭先に大きな柿の木があって、あの柿の実はとっても甘くて美味しいから一番先に歌子に
   食べさせるんだって…、そう言ってたんだけど、結局…その柿の実がまだ赤くなりきらないうちに…(
嗚咽に変わっていく

寅「
あんたも辛い思いをしたんだねえ…
歌子泣き続ける。
寅「
それから、この町に住むようになったんだね


丘の上にある津和野のバス停

眼下に町や鉄道が見える。
ゆっくりと歌子のテーマ流れる。

歌子「
寅さんに会えて嬉しかった…。とっても嬉しかった。


沈黙の後

寅「
オレ……もしなんだったら…この町にあと2、3日泊まってってもいいんだけどなあ…
寅は歌子の気配から彼女が自分を今必要としていることを察したのだろう。寅にとってはとても思い切った言葉だった。

歌子、首を振りながら「
いいのよ、
寅「
え?
歌子「
私のためにそんなことさせちゃ悪いわ…
この言葉のニュアンスは「ほんとはいてほしい」という感じ。寅は、このことを分かったのだろうか。

歌子「
寅さん旅の途中なんでしょ?…」
寅「
歌子
「これから山口へ行って…、それからどこへ?
寅、ゆっくりと「
うん、まあ、山陽路から、広島、呉、三原、尾道。それから、取って返して、下関、小倉、博多、唐津…
歌子「
いいわねえ…、私もそんな旅したいなあ…
歌子は閉塞感を抱えている。そのことを無意識に訴えている。

寅「
歌子ちゃん
歌子「
え?
寅「
今、幸せかい?
歌子、言葉に詰まりながら
歌子「…ええ」と頷く。
寅「
なにか困ったことないかね
歌子、かなり間があって
歌子、下を向き、「
いいえ…

バスが目の前にやって来てドアが開く。

歌子の目が、寅に何かを訴えかけているが、寅は気づかない…。 いや、気づいているがどうすることも出来ないのだろう。


ドアのところで

寅「
もし何かあったら葛飾柴又のとらやに訪ねて来な、悪いようにはしないから

歌子、顔が少し明るくなり、しっかりと頷く。

             

この寅の言葉が歌子の運命を大きく変えていく。


バスが歌子から遠ざかっていく。いつまでもいつまでも手を振り続ける歌子。
姿が消え入りそうになってもまだ手を大きく振る歌子のその心は寅の心に突き刺さったはず。
点のように小さく見える歌子の姿はあまりにも寂しく、哀しげだった。


この長いシリーズの中でも屈指の名場面のひとつだと思う。




D【歌子のとらや訪問と寅の涙】

とらや 茶の間  あれから10日後


さくらふと店先を見る
さくら、寅に気づいて、思わずじっと見つめる。


さくら「
お兄ちゃん…
寅、小さく「よお、さくら…
さくら喜んで「
はァ!おいちゃんおばちゃんおにいちゃん帰ってきた!!
おばちゃん「
どうしたんだいえー?
おいちゃん
寅、少しやつれてんじゃないかい?


                

寅「
・・実はなさくら
さくら「うん
寅「歌子ちゃんに…会ったよ
さくら「
歌子ちゃん?・・!まアー
社長「
誰だい?歌子ちゃんって?
おいちゃん「
豆腐屋の娘だろ 寅、露骨に嫌な顔(^^;)
おばちゃん「
ちがうよあれは節子さんだよ
さくら「
歌子ちゃんてのはね・・
社長「
わかった津軽の娘さん
さくら「
あれは秋子さん
おばちゃん「ちがうよ、秋子さんは幼稚園の先生だよ
寅、話が噛み合わないので嫌がっている(^^;)
社長「
ごめん花子ちゃんだ津軽の娘は
寅、いつまでも歌子ちゃんに辿り着かないのでイライラ(^^;)
おいちゃん「
うるせえな名前なんかどうだっていいじゃねえか
ようするに
寅の惚れた娘のことだろ・・そうだろな、寅なもともこもない言い方(^^;)
寅、ドン!とテーブルを叩いて
なんていう言い方をすんだよ情けねえなおいちゃんは本当にィ〜
さくら「
ごめんなさいねお兄ちゃん・・あの歌子さんてさ、ほら、小説家のお嬢さんでお父さんが結婚を
   どうしても許してくれなくてとうとう家飛び出しちゃった人

一同あ〜・・
さくらで、歌子さん元気だった?
それがな。
寅、さくらの手をとり、座らせ
寅「さくら驚くなよお前
さくらうん
歌子ちゃんの亭主な。去年の秋に・・死んだよ
さくら
「えーッ


寅「
あの歌子ちゃんはな大切な亭主にも死に別れて意地の悪い姑ババア(おばちゃんを指差す寅
と陰険な小姑(
さくらを指差す寅)にはさまれて不幸せな日々を過ごしているんですよ。
その歌子ちゃんを俺は津和野の町にたった一人ぼっち置いて来ちゃったんだ。あーあー…あの子はオイラを怨んでるだろうな
『心の冷たい人ね私がこんなに助けてと手を差し伸べているのに、にっこり笑ってバスで行ってしまったわ 


          
 心の冷たい人ね…
                

そうじゃねえんだよ歌子ちゃん。オレだってどんなに傍にいてやりたかったか・・。
ねえもっと傍にいて…』なぜ一言そう言ってくれなかったんだよ・・
自分の妄想に完全に入り込んでいる。あかんわこりゃ┐(-。ー;)┌


おいちゃん寅、少し疲れてるんじゃねえか?重症だよ、(^^:)
さくらそ、そうね、とにかく二階行って少し休みましょう



とらや 茶の間


歌子ちゃんのことで話し合っているとらや一同。

博「いや、食うに困らないからと言ってそれで歌子さんが幸せかと言うとそれは違いますよ
人間として生きていく張り合いとでも言うのかなあ・・それが歌子さんにとってなんなのか
さくら、「
ほら、日本には未亡人なんて言う嫌な言葉がるじゃないの
おいちゃん「
ヘッヘエェ・・・未亡人サロンってやつかァ〜
さくら、キッと睨んで「
おいちゃん
おいちゃん下品  ┐(-。ー;)┌

おいちゃん「
だからと言ってさ寅がいくら心配したってどうにもなるもんじゃないだろうそりゃあ。
       
げっそりやつれちゃってさエラなんか、こう出っ張っちゃって、なア
おばちゃん「
ああ言うのを昔は恋やつれって言ったんだよ出ましたタイトル!
博「
恋やつれか・・・なるほどねえ・・
おいちゃん「
しかし考えてみれば羨ましい話だぞォ。できる事なら恋でやつれてみてえよこっちも
↑おいちゃんの本音。寅さんフアンたちの本音(^^;)ゝ。「忘れな草の」リリーの本音でもある。
一同
「ハハハ・・!
おいちゃん「
お前ン所の社長なんかどうだ、え?税金やつれ
じゃねえか可哀想にお前・・またの名を「税務署やつれ」
博笑いながら「
僕は労働やつれ」とトマトを食べる
おばちゃん「
ハハハハ・・あたし達はお団子やつれハハハ・・
おいちゃん「
さくらは兄ちゃんのこと心配して寅やつれ
おばちゃん「
上手い上手い!ハハハハハ!
一同大笑いさくら、手で口を押さえるほど笑ってる

寅がカバンを持って階段を下りてくる。
さくら足音に気づき振り向いて

さくら「
ねえ、どうしたカバンなんか持って?
とら「
・・・他人の不幸をあざ笑うような家庭で飯なんか食えるかい!

                

博「
兄さん僕たちはそんなことでしてたん・・
寅「
黙れ!!労働者やつれに何がわかる!オレは行くぞ!
さくら「
お兄ちゃんどこ行くの?
寅「
津和野よ
さくら「
津和野?
寅「
二度とここへは帰ってこないよ。津和野のどこかの町外れでオレはあの不幸せな歌子さんの生涯を
見守って暮らすつもりだ
相変わらず極端だねえ〜(^^;)
さくら「
お兄ちゃん・・・
寅「
これが一生の見納めだぞ。心改めて深く反省しまともな人間になってくれ!あばよ!何度言ったことか(^^;)

寅店を出て行く。

さくら「
ね、お兄ちゃん
電話
リリリ−ン リリリ−ン

さくら、後ろから前へ出て寅を引きとめようとするが寅振り払って出て行く。

おばちゃん「
はいはいとらやでございます。あ、えッ!?歌子さん!?
おいちゃん「
エェッ?
さくら「
お兄いちゃあ〜〜ん!!歌子さんから電話よォ!」(手を口に当てて叫ぶ
おばちゃん「あ、ちょっとお待ちくださいまし・・

寅,ドドドド!!と超スピードで転がるように参道から戻ってくる。ε=ε=( *゜0゜) 

さくら、店先でかばんを持とうとするがそのスピードについていけず受け取りそこなう。惜しい!!


寅、さらに店先から電話口まで怒濤のつっこみ!
受話器持ってた重たいおばちゃんもドーン!っと押されて彼方にふっとぶ!(><;)

                

寅、すばやく受話器左手で握って
寅「アッ・・ハアハアハア・・もしもし、もしもし うん 歌子ちゃん?
 は、オレ、オレです。うん・・うん?今、うん柴又の駅・・・(立ち上がって)柴又の駅ィ!!?駅に来てんの!?
 何で早くそれを言わないんだよ!
来る?来られる、うん、じゃ、ほか寄らないでまっすぐ来て、はい、うん!と受話器を置く。

後ろを振り返って。寅、とらやのみんなに緊急にお茶、風呂、料理、布団、と、用意をするようにまくし立てる。
それに付き合ってあげるとらやの面々も優しいねえ。

みんな、さすがにあたふた。

寅「まかり間違ってもとかとかダァ〜リンとか旦那とか その類のことは一切口走んないで下さい。
分かったねことにお前は女だから。そうださくらお前の亭主は死んだことにしろ!博、お前は即刻死ね!


                  ダァ〜リンとか
           


もう何度か出てきてこの後も時々出てくるお馴染み「禁句ギャグ「続男はつらいよ」「夢枕」「噂の寅次郎」「かもめ歌」などなど。

さくら「そんなお兄ちゃん無茶苦茶な・・
寅「黙れ未亡人!誰がやねん(^^;)

寅、歌子ちゃんが心配で駅のほうへ駆けて行く刹那、歌子とすれ違う。

歌子「???寅ドッドド!と急転回!
寅「アハッ!歌子ちゃん!アーッ!あんまり急いでいったんで見違えちゃったよ!うん、うん
これ以上ないってくらいの笑顔とハシャギ。渥美さんの独壇場!


歌子「寅さん、こんばんは
寅「うん
歌子「あたし・・来ちゃった

このシーンを待っていた…(T T)

寅さんフアンならこの歌子の目を生涯忘れることはないだろう。

               あたし… 来ちゃった
            

歌子のテーマが流れる(「うん、」の時に流れ始める)

寅「うん、よく来た。よく来たよ・・
この寅の声はとても優しい。

もう歌子のテーマがぴったしの場面。このシーンは目が潤む。

歌子「・・みなさん
おいちゃん「はい
歌子「突然来てすみません
一同「いらっしゃい
さくら「本当にひさしぶりねえ
歌子「いろいろありがとうございました『柴又慕情』参照(^^)
寅「いいからいいからそんな堅苦しいあいさつは抜きにしてさアちょっと上がって、ほら上がってもらって
寅「おいあれどうしたい、
さくら「え?←寅が博に「死ね」って言ったから戸惑う。
寅「『え?』じゃないよお前の亭主だよ・・、バカお前の旦那
寅「お・・(夫)!!…しまった!と目をつぶる。←梅干顔(><;)
あとはもうめちゃくちゃ。寅照れてあばれまくり。

                   

食後の茶の間

寅、安心して今までの疲れがどっと出たのかコックリとうたた寝グウ〜・

歌子は他のマドンナのように明るく盛り上げたり、愛想を振り撒いたりはしない。父親譲りの不器用さと
実直さがある。図書館をやめ、東京で自分のやりがいのある仕事を見つけようと出てきた事を告げるのだった。


さくら「…ねえ、家(うち)でしたらいつまでもいてくださっていいんですよ
さくらって、こういうタイミングが実に上手い。ほんと心根が優しい。
歌子「でも私、寅さんに会えてよかったわ。もし会えなかったらこうやって東京に出てくる決心なんか
  つかなかったかもしれないんですもの
感慨深げ
寅「遠いしねようやく起きるがまだ寝ぼけてる(^^;)
一同「ハハハハ…

                 バタ〜〜!
              

そして2年前の歌子と寅の北陸旅行の「バター」話に花が咲く。
一同ウケる


博「しかしあんときも可笑しかったですね
寅「いついついつ!寅、乗り乗り!
博「おふくろの葬式の時ですよ・・墓の前でね
寅、すでに分かってウハハハ!
さくらも、すでに分かって大笑い!
博「みんなで写真撮ろうってことになったんですよそしたらね俺が取ってやるってカメラ構えて
『ハイ!笑って』!って
博、裏声!
博が裏声まで出して目をひんむいてギャグの再現するなんて貴重なフイルムだ(^^;)
寅「ハハハあれは参った参ったうーんいや、オレ、しまったと思ったんでね
 それでね、いや『
泣いて』と、こう言ったんだけれどもう遅かったよ

寅「ハハハーァ・・?
と歌子が黙って下を向いてるのを見て笑いを止める

さくら「歌子さんどうかなさったの?
歌子「プー!!おかしいわね寅さん!!と噴出してクククク大笑い。コップを倒してしまう

ゆっくりと静かにメインテーマが流れる

寅、歌子を見つめてる。なんともいえないやさしい顔。

             

歌子笑いすぎでまた体制を崩す。

寅、下を向いて、目を潤ませている

博「
兄さんどうしました?
寅「
うん…歌ちゃん笑ってるよ
博「・・・ええ」と頷く。
寅「よかったなア…と、涙
博、静かに頷く。

寅、分かるよ、その気持ち。よかったね。前田吟さんの「ええ…」は胸にぐっと来ました。



とらや 二階

さくら「あ・・あのう・お父さん..元気?
歌子「ええ多分
さくら「最近お会いになったの?
歌子首を横に振る
さくら「・・でもお葬式の時は・・
歌子「こんなこと聞いたらさくらさんびっくりなさるかもしれないけど
さくら「…」
歌子「正圀さんが亡くなった時、すぐそのことを、父に速達で知らせたら返事が来て…それもハガキでね 
  『仕事中だから行けない。お前は葬式が終わったらすぐ帰って来い』って・・たったそれだけ。

さくら「・・でもそれはお父さんの性格で。心の中ではきっと歌子さんの事を・・
歌子「だけどね。いくら心の中で思っててもねそれが相手に伝わらなかったらそれを愛情って言えるかしら…。 
   私、今父に会いたいと思わないの

さくら「・・・ごめんなさいね、立ち入った事聞いてしまって

              

窓を見ている歌子。

ギター演奏で歌子のテーマが流れ始める。そして次の江戸川の場面へと続いていく。



E【寅と歌子、とらやでの日々】

江戸川

歌子のテーマが流れる

渡し舟に乗って歌子と寅と源ちゃんで釣りをしているのが遠く映される。


前シーンのギター演奏から始まって、そのまま途切れることなく、バイオリン演奏とのジョイントに入っていく。とても美しい流れ。

源ちゃん、寅の釣り針に大物の魚を着けて捏造工作!!
源ちゃん「兄貴!引いてる引いてる!」
「よし!」
しかし竿が外れてパーになり、歌子大笑い。


源ちゃん「ヒヒヒヒ!
寅「見ろ!バカ!

                

おそらく何ヶ月ぶりかで見せる心底幸せそうな歌子の笑い顔。ひと時の休息。
柴又慕情の『白つめ草の白い花冠』を思い出す。



歌子の父親の家

さくら、歌子さんの状況を知らせるために父親の実家まで来たのだ。

さくら「歌子さんは今私どもの所にいらっしゃるんです
父親「ほう・・
さくら「なんですか・・今度東京にお見えになったのは津和野の生活を切り上げて
   こちらで何かいい仕事を見つけたいと、そのようなお考えだとか

父親「
さくら「いやあのそれでご心配なすってらっしゃるかと思いまして一応お知らせに上がったわけなんですけども

帰り道、さくらを追いかけてきて父親が
父親「あ、あの…駅までお送りしましょう
さくら「は…あ、はい
駅のそばで
父親「それじゃ、わたしは、これで
さくら「どうもわざわざすみませんでした。それじゃ
父親「あ、…あのう、歌子がご面倒をおかけします。ま、よろしく願います・・。じゃ

                


さくらのアパート

さくら「いいお父さんなのにね・・どうして歌子さんあんなふうに言うのかしら。
   会ってみればいいじゃないあって話しをすれば必ず分かり合えると思うけどな


博「そうだよ会いさえすればいいんだよ。会いさえすれば全てが解決するんだよ。
 ただその会うってことに歌子さんに抵抗があるんだろう。
 考えてみれば父親に反発する気持ちが今日まで歌子さんを支えてきたのかもしれないな


博の体験から来る実感でもあるんだよね。

               



職安(相談所)へ向かう歌子

養護施設での勤めのことを職員に聞いている歌子。
職員「公立ですと現在資格が無いと採用ができないんですが
職員「えーこれはあのー私立でございますと、そういう助手的な面で、えー働きながら資格を取る方法はございます
歌子「そういう私立の施設は東京にはございますか?
職員「東京にもございますが私の知っているのが千葉県、大島におりますのでご紹介申し上げても結構だと思いますけど



とらや 夕方

寅、バイ終って帰ってくる。

寅「何だおかずは
さくら「ハンバーグ
寅「ハンバーグ・・?カーッそんな横文字のモンは嫌いだよ!食いたかねえや!

暖簾くぐって
寅、歌子を見つける「ハーッ!
歌子「お帰りなさい
おばちゃん「寅ちゃん歌子さんがねあんたのためにってハンバーグ作ってくれたんだよ
寅「歌ちゃんが!!もう極上@▽☆◆◎!
歌子「上手くできなかったんだけど
寅「いやいや大好き!!ハンバーグ!今晩当たり洋食食いたいなと思ってた
これだよな〜 ┐(-。ー;)┌


さくら、暖簾をくぐって、ちょっと、唖然

                


                          
とらや 茶の間 

寅「人間金があるからっったって決して幸せとはいえないよ
社長「どうして?社長には絶対分からない感覚

                 


博「幸福と言う問題をでつなげて考えるのは正しくないと言うことですかね
歌子、ケーキ食べながら、頷いている。
寅「ア!あ、なるほどなるほど・・
博「たとえば兄さんは今自分の仕事にどれだけ満足しているか
寅「オレ?オレ、仕事、そらあ・・い、いい。なかなかいいせん行ってんじゃないの
博「あるいはこの愛情と言う問題についてどれだけ充足しているか・・
「仕事」はマリ。「愛情」はみどり、が今悩んでいる問題っていうことか
寅「バカだなお前あ歌子さんの前で愛情だなんて・・どうも失礼しました
博「ま、男女間の愛情だけじゃ無い友人や肉親つまり兄弟親子そう言った関係での愛情も含むんですがね
寅「オー、
肉親、肉親、肉親!身内だよ、ね?
社長「その点じゃ寅さん言うこと無いよさくらさんおいちゃんおばちゃん博さんみんなに愛されて幸せだよ。なあ竜造さん?
おいちゃん「そーそー!俺は立派な甥を持って幸せだと思ってるよ
寅「そう言う嫌味なものの言い方するんじゃないよ
おいちゃん「それじゃあなんて言やあいいんだよえ?
極道者の甥をもって不幸せでございますと本当の事を言やあいいのかい?

さくら「アラ、あたしだって幸せよ優しいお兄ちゃんがいて
と苦いコーヒーを飲んでゆがんだ顔になるさくら。
さくらの言う「優しい」と言う言葉は寅には実によく似合う。
寅「よーく言うよおい婿、お前どうなんだい?
博「ええもちろんですよ具体的な発言を避ける博(^^;)
寅「社長どうなんだ?
社長「俺だって幸せだよ親切な知り合いがいて
寅「そうかいそうかいみんなでそうやってよってたかって人をバカにすりゃあいいよ なアと照れて紙を丸める。

歌子笑ってる。

寅「え?何どうしたの歌子さん
歌子「フフ・・あのね寅さん
寅「うん
歌子「あたしも幸せよ。寅さんみたいな…友達がいて
寅「友達…なんて言われちゃあ困っちゃうよなあ博!
と丸めた紙を博に飛ばす前田吟さん直撃、痛い!
博「…!!痛ッい、いいじゃありませんか…なあさくら…痛くて目をパチパチ
さくら「そうよ、お兄ちゃん幸せでしょ?
さくら、その発言はそのまんまだよ(^^;)でもすごくわかる。



温泉津

絹代のテーマが流れる。

絹代の声で

寅さんその後お変わりありませんか。突然この町をお発ちになってしまって
どうしたのかと心配しておりましたが、


雨の中絹代と子供が学校から帰ってくる。

妹様のお手紙でご無事に実家にお帰りになったことを知ってほっといたしました。

絹代、窯場で壷を窯に入れている。

私ども親子も元気で暮らしています。主人も心を入れ替えて働く気になってくれております。
これも皆々様のお陰でございます。梅雨の季節に向けご家族の皆々様
お体をお大事にお過ごしくださいませ。 かしこ


さくらは温泉津に手紙出したんだね。優しいな。

こういうところの演出が実に決め細やか。

              



とらや 二階 

寅と歌子がいる。
歌子が寅の代わりに絹代さんに返事を書いてる。


さくら「歌子さんそろそろ行きましょうか
寅「行きましょ行きましょ何にも無いけど
さくら「違うのお兄ちゃん
歌子「あ、今日さくらさんのお宅にお呼ばれなの第9作を思い出すなあ〜(−−)
寅「……あぁそう、いいんじゃない…気をつけて。へへこわ(^^;)
さくら「ごめんねお兄ちゃん
寅、プイと向こうを向く(怒)
このスネ方が可愛い(^^)
歌子階段のとこから顔だけ出して「寅さん
寅「はいッ
歌子「行ってきます
寅、階段に向かって「気をつけてね、うん(

このの緩急がたまらなく可笑しい(^O^)



F【歌子の心と父親の心。そして和解の時】

さくらたちのアパート  

歌子「みどりさんやマリさんもあたしの就職の事いろいろ心配してくれて、就職口を
   紹介してくれたり…再婚の話まで持ち込んできたりするんだけども、
   でも
生活のためだけに就職したり、就職する代わりに結婚したりするくらいなら
   なにもいろんな人の反対を押し切ってまで津和野から出てくる必要は無かったと思うの


さくら「さっきおっしゃってた施設の仕事って心身障害時児とか、お年寄りの世話をする仕事のこと?

歌子「ええ。そういう仕事なら私みたいなものでも一生懸命にがんばれば何か人のために
  役立つことがるんじゃないかしら。少しは人から感謝されることがあるんじゃないかしらって、
  そういう風に考えてね


さくら「でもそういう仕事って大変なんでしょう?
歌子「そうなの

               

歌子の後ろに寄ってる満男
満男結構歌子になついているね。

歌子「いざやってみたら半年ももたなかったって言うんじゃみっともないしね。
   だからここんところはあんまり無理をしないであたし相応の仕事を選んだ方がいいのか?
   でもそれじゃああんまり意気地の無いような

歌子満男をなでながら「そんなとこですっかり迷ってしまってね…
さくら「むずかしい問題ねえ・・ねえどう思う?
博「うーん…あ、僕にはとても答えられないなあそりゃあ歌子さんが決めることだし、
また、歌子さんはきっと一番正しい選択をするに違いないとそう思います

歌子「
さくら「もしもよ、お父さんに相談したら何ておっしゃるかしら?
歌子「実はね。そうしようかとも思ってるのこういうこと思える時って和解の兆し有り。

さくらとひろし顔がゆるむ「は・・」
博、ホッとした顔で「そいつはいいなあ。そうしたらどうですか
歌子「もちろん返事は決まってんでしょうね。『お前なんかにそんな仕事できるか』なんて
  バカにしたような言い方するするわきっと・・
←意外にそうでもなんだな…
ひろし「そいつはわかりませんよ。話してみなくっちゃあ
歌子「そうかしら
博「もしお父さんにそう言われたとしたってあなたが考えを変える必要は無いでしょう。どうですか、会ってみたら

歌子、深く考えている背中



翌日 さくらたちのアパート

寅からの電話に出るさくら
さくら「今忙しいのよ。いったいどっからかけてんの?・・・!歌子さんのお父さん!?
   じゃ、高見先生のお宅に行ってるの!?

             
歌子の父親の居間

寅「そうだよあのガンコ親父に一発ぶちかましてやろうと思ってよ、うん
  そしたらね今仕事中だからちょっと待ってろなんて、ったくご大層なこと言いやがってよ
  ・・うるせえなお前は!切るぞー
」と黒電話の受話器を置く寅。

居間で父親と話す寅。

寅「だから言っただろう。歌子ちゃんお前に両手をついて、私が悪うございましたお許しくださいって言えるかどうかって
父親「そんなことがいえるか…。謝るのは私じゃなくて歌子の方なんだ
寅「うん、わかった!俺は最初あったときからね、あ〜この男は話し合えない人間だなとそう思ったよ。うん…へッ

               


寅「ケッ歌子ちゃんも可愛そうだよこんな父親を持ってさ。
 今何やってんの
商売あ、小説家か、チャンバラ書いてんの?チャンバラ

父親「うん?いや…『時代物』は書いてないが…
寅「あー現代物・・・あ!知ってる知ってる人妻の不倫な恋なんて!
 カァー!イヤらしいもん書いてるねぇ!お前!しかしよくまあそうしたもん書けるね
その顔で!
得意の仁義なき決めつけ(^^;)
父親「おい君ーちょ、ちょっと待ってくれ
寅「いやいやさ生活状況も苦しいだろうけどさ、いくら苦しくたってそういう恥ずかしいものかいちゃいけないよ。
 やっぱりその、真面目にねコツコツコツコツやっていきゃあいつか芽が出るんだから。…そう言うもんだよ、世間てのは・・うん
得意のいわれ無き説教┐(-。ー;)┌

寅「ま、いいやじゃ今日俺これで帰るよ、うん。あー…じゃ、あばよ・・あ、何だこっちか
ザラザラザラザラしてんだよ掃除をしてないんだよこの家は。これじゃあいい作品は生まれないよー厳しいねェ〜



とらや 

寅が歌子ちゃんの父親に余計なことをしたとさくらたちは叱る。

さくら「お兄ちゃん、お兄ちゃんお願いだから歌子さんに謝んなさい
畜生!俺がいったい何をしたっつうんだよ!どうして謝らなきゃならねえんだい
さくら「だってそうでしょう歌子さんとお父さんがいつかは仲直りしなきゃなんない事ぐらい分かんないの!お兄ちゃんは!
寅「向こうが悪いんだから仕方が無いじゃないかお前
さくら「そうじゃないって言ってるでしょうそれじゃ歌子さんがあんまり可哀想でしょう
寅「歌子ちゃんはねオレんちの二階にいてフラフラフラフラしてた方がそれでいいんだっつうんだよ
さくら「は〜・・・そんな事できるわけないじゃないのよ
寅「どうして!
さくら「あのね、生きていくためには誰だって働かなくちゃいけないの
寅「何を言ってやんだいそだったらお前の亭主は働きもんだからその分働いたらいいじゃなえかよ!
凄まじい理屈…博って一体…(TT)

さくら「お兄ちゃんお兄ちゃん本気で歌子さんの幸せ考えてないわね
寅「何!?どうしてそんなこと言うんだお前!ドギマギする寅

さくら「だって歌子さんにいつまでもうちに居てほしいのと言うのはお兄ちゃんの気持ちでしょでしょ。
   それじゃ、歌子さんが幸せなんじゃなくてお兄ちゃんの方が幸せなんじゃない


             

さくらのこの言葉は、寅の本質的な気質を見事に言いえて怖いくらいだ。寅は自分の幸せのためだけに
動いている部分が常にある。さくらは時々寅に辛辣なことを言うが、この言葉の持つ意味は大きかった。


寅「そうかそうか要するにお前は歌子ちゃんがこの家に居るのが嫌いなんだよ、お前はな

おいちゃん「おお・・!ちょちょと店先を見ている
一同店先を見る


店先

歌子の父親、高見修吉が店先に立っている。

父親「・・・高見です・・突然お邪魔しまして・・
さくら「あら・・どうも失礼いたしました
父親「あ・・いつぞやはどうも・・
さくら「いいえ
父親「寅次郎さん先ほどは大変失礼しました。
寅「え?いえいえ←この反応面白い。寅も緊張するんだね。

おいちゃん「あ、こりゃどうも・・・!つね!!ちょっとお前・・
おばちゃん「ハッ!!ただ今お茶を!」と偉い人&話題の人が来たのでおばちゃん緊張。


歌子「寅さァーん!

父親気がつく。

一同も心配。
さくら、ドキドキ
歌子「ほら釣忍買って来ちゃった・・!

釣忍がチリンチリリン・・鳴る
歌子「どうしたの?・・・!
一同長い沈黙
歌子、父親を見つめる。
歌子、目の前の寅をチラッと見、父親を見ながら近づいて行く。
父親「・・もっと早く来たかったんだが・・・父さん、仕事があってな、うん・・
沈黙
父親「昼間寅次郎さんに言付ければ良かったんだがつい気がつかなくって。ま、なにかの足しにしなさい
と袖からお金の入った厚みの封筒を椅子に置く。


父親「あ、それから暑くなるから父さんよく分からんのだが、お前のタンス開けてな、適当な物包んであるから・・・
歌子「
ようやく歌子の方をそっと見る父親。
父親「…うん…まあ元気そうで…何よりだ
父親「…じゃあたしはこれでと席を立つ

歌子「お父さん…

父親、ちょっと戸惑ったように

父親「うん?…何だ…ともう一度座る。
歌子「・・長い間心配をかけてごめんなさい…
父親「いや・・うん、何も君が…謝ることはない…。謝るのは、多分、私の方だろう…
   いや、私は…口が下手だから…何というか誤解されることが多くてな


美しいメロディが流れる。

父親「かし私は君が自分の道を。自分の信ずる道を選んで、
その道を真っ直ぐに進んで行ったことを・・うれしく…。私は…本当に…うれしく…


と、遂に胸が高ぶり、泣き、ハンカチを目に当てる。


                        

歌子も泣きながら「あたし…もっと早くお父さんに会いに行けばよかったのにね…ごめんなさいね…ごめんなさい…
と、父親の腕をしっかり掴み、
歌子「ごめんなさい…ウックゥゥゥ・・・と泣き崩れる。

おいちゃんの肩がぐっと落ち、震え続ける。
             
こんなにも、この親子は会いたかったのだ。父親こそ娘との和解を望んでいたのだろう。
娘に心底誇りを持っていた父親。彼は実は娘の人生を理解していた。歌子が見た生涯にたった一度の父親の涙。
本当に相手に伝えたかったことを、ようやく言い合えた二人。和解の時期が手遅れにならなくて本当によかった。
二人は間に合ったのだ。


おいちゃん 「クフッズズズーゥッグファ
ぐちゃぐちゃに泣いているおいちゃん。

               

さくら、目を潤ませて、歌子たちを見て、
 さくら「ねえ…良かったね、おばちゃんとおばちゃんに駆け寄る。

               

おばちゃんも目を泣き腫らしながら
おばちゃんズゥゥゥ。よかったねェ・・・ズッ

おいちゃん、ガッと、立ち上がり、
おいちゃん「ヅゥ・・さくら!すぐ工場行って博と社長呼んで来い

男はつらいよ メインテーマがゆったりと流れる。

おいちゃん「おいつね!何だこの野郎、メソメソしやがって、酒だよ!さ、酒の支度だよ!
おばちゃん、泣きながら台所へ。

おいちゃん「おい!寅ァ・・なんだいお前までバカみたいにそんなとこに突っ立って…

おいちゃん、優しい声。           
寅、店先で立って下を向き泣いてる。 
釣忍がチリンチリンチリンチチリン リン…と鳴る


               

産みの母親に捨てられ、父親にも縁遠く育ってしまった寅。そんな寅が垣間見た父と娘の深くて強い絆。この寅の涙は
父娘和解への感激の涙であると同時に、寂しい自分の生い立ちへの慰めの涙でもあるのかもしれない。釣忍の
風鈴の朱色がいやに目に沁みた。
  
          

この作品の最も重要な部分とも言えるこの場面は、ともすれば情感が強く支配し、テンポが止まってしまう場面でもある。
それを見事に広がりのあるカットに成立させていたのは、松村おいちゃんの、メリハリのある強い演技と台詞回しだ。
小細工抜きで真っ向勝負の彼の演技はこの場を大きな空気に変えることに成功し、あのシーンにもう一度テンポを与えていた。
見事な山田監督の演出。そして、松村達雄さんの面目躍如。
この演技は森川さんでも、下條さんでもなく、松村さんならではの世界だったと思う。松村さんはここぞと言う時の「強い演技」が
できる人だった。

それにしてもこの場面は「柴又慕情」からの歴史があってこその感動だったことを思うに、続篇をあえて制作した意味がここに見事に
説得力を持つのである。



              



G【その一言に込めた寅の気持ち】

江戸川 電車が鉄橋を走ってる

寅つまよう枝を咥えながら、抜け殻のようにぼんやり寝転んでいる。



とらや 

きれいに片付けられた二階の荷物部屋が夕暮れに赤々と照らされてる。
寅のかばんが立ててある
.

おいちゃん「おかしいなあ…かばんはあるのか?
さくら「かばんはあるけど部屋の中きちんと片付いてる
おいちゃん「なにしろ歌子さんが親父さんのところへ行っちまった後の寅は半病人だったからなア

う〜ん、そうだったんだア…




歌子の家 

花瓶にあじさいの花
庭先に寅がやって来た。

歌子「あッ、寅さん!! まあ… あーびっくりした。
寅「うんちょっとその近くまで来たもんだからね。

花火が上がる スパッ!パタパタン…パラパラ…

歌子「あっお座布団・・
寅「あ、いいよいいよ。花火どこでやってるんだろ
歌子「あ、多摩川
歌子「さっきからね、子供の時の事を思い出してたの。母と3人でよくここに座って花火見物したものよ…。
   そのころはねあんなビルなんか無かったからもっと良く見えたの。あっ上がった

花火 ポン、タタタタン!パラパラ…
寅「仕事のことはどうなった?
歌子「え?
寅「いやちょっと気になったもんだからね
歌子「うん、いろいろ悩んだんだけど、とにかくやれるとこまでやってみようと思って施設に行くことに決めたの
寅「うん…
歌子「大島に藤倉学園って言う施設があるの。この前見に行って来たんだけどね
寅「そお…伊豆の大島かぁ
歌子「そう
歌子「三原山の煙が遠くに見えてね、広くって、とっても景色のいいところ
花火 ドドーン!
歌子「あっ、だめねえ音がしてから見たんじゃ、こっから観るのはそれが難しいのよ
寅「うんあれそばで見ていると筒の中からポォーン!って出る音まで聞こえるもんね
歌子「それからしばらくしてパァーっと開くのよね
寅「そうそう
歌子指を刺して「ほら、きれい!

花火 ドドン!パラパラ…ドン!パララ…

                  

明るい歌子の横顔をじっと見ている寅。

寅「歌子ちゃんもすっかり元気そうになって良かったね
歌子「ハ・・そうかしら・・
寅「うん
歌子「でも寅さんには本当にお世話になったわねどうもありがとう」としみじみ言う。
寅「いやァ別に俺は何もしねえよ」と下を向く。

歌子ちゃん、本当に寅には感謝しなくっちゃね。いつかどこかできっと恩返し出来る日が来ると思うよ。
花火 ドッ!パツ!ドドドン!ドパッ!
歌子「仕掛けじゃないかしら
寅「うん?
歌子、木のサンダルをはいて庭先に出る
寅、歌子のサンダルをはく足を見つめる。

庭に咲くあじさいの花
歌子のテーマがゆったりと流れる
花火 トパパパパン!パン…ドパパパパン!
歌子遠くの夜空を見て跳ねてみたりする。
その後姿をじっと見つめる寅。


                       
寅「浴衣…きれいだね


                 


歌子、振り返って「えっ、何?


                 



寅、ハッと我に帰り、考え…、

寅「…いや、なんでもない
歌子、近寄って「なんて言ったの?」 
寅「ううん、何にもいわねえよ」

寅「あ、先生・・先生は遅いねえ
歌子「そうそう
寅「え?
歌子「父がね寅さんの事ほめてたわよ
寅「ヘッ何だって?
歌子「とっても厳しい批評をされたって。何ていったの?
寅「ヘヘッ何だかわかんねえな 俺、口から出まかせだから
歌子「ハハハ…!あっついけない何か冷たい物もって来るわね
「ハハハハ、ん
歌子、途中「フフフフ」笑いをこらえ奥の部屋へ戻る

寅、ふと強烈な寂しさが襲ってくる。
遠くを見つめる寅。寂しい肩。

そして、顔が暗くなり、ゆっくり下を向いてしまう。

花火が上がっている トドパッ!パン!パタン…パラララ…ドン!ドン!

歌子を見つめる少年のように澄んだ寅の目。ふと口に出てしまった『浴衣…きれいだね』。
寅と歌子の数々の物語の果てに呟かせたほんとにささやかな言葉。
どうして渥美さんは、あんな優しい目ができるのだろう。



H【寅の旅立ちと歌子の旅立ち】

とらや 

裏庭 おいちゃんや博と一緒に満男が花火で遊んでる。


               

博「次これ行きますよと大きい花火を出す
社長「俺の工場焼けちゃうよ
おばちゃん「危ないよ、ねえ〜へへ」

電話のベル リリリリリリーン!

さくら電話を取りに行く

さくら「あら歌子さんお元気?ええお陰さまで。えッ兄ですか?ああ…お宅に伺ってたんですか。
   …いえどっかからだの具合でも良くないんじゃないかしら

    どうぞ心配なさらないで。え、大丈夫…はい、帰ったらそう伝えるわどうもすいませんでしたわざわざ
と電話を置く。

さくら、土間に寅の雪駄があることに気が付く
荷物部屋へ繋がる階段から寅がかばんを持って降りてくる。

さくら「帰ってたの今歌子さんから…!
   と言いかけて寅がかばんを持ってることに気が付き絶句。
寅「おいちゃん達と面合わせるとまた引き止められたりして面倒だからこれでいくよ、な、」と土間に下りる
さくら「お兄ちゃん」と寅を座らせて、
寅「うん?
さくら寅を座らして「なにもこんな時間に行かなくたって明日にしたっていいじゃない
寅「うーん…
裏庭で大きな花火で遊んでいる一同。歓声が起こる。
さくら、寅を見ている。
寅「…、何だお前情け無え面して、え?ちょっと旅へ出るだけじゃねえかよ。
  それにお前たちに迷惑掛けたらしいしさ


メインテーマがゆっくり流れる

さくら「誰もそんなふうに思ってやしないわよ
寅「まーたまた何言ってやんだい、へへ…
さくら「本当よ。…お兄ちゃんが居ないとね、みんなだまーって
   テレビ観ながらご飯食べて、それじゃお休みなさいって寝るだけなの。
   お兄ちゃんどうしているかなって、いつだってみんなそう思っているのよ

寅席を立つ「…」
さくら「…、お兄ちゃんと追う。
寅「そんな風に思われているうちが華よ。な、さくら」と参道へ出る

             

花火見物から帰ってくる男達が通り過ぎる。「ハハハハ…」

さくら見送る。
おばちゃんお盆を持ちながら茶の間から「誰か来てたんじゃないのかい?
さくら、ちょっと微笑みながら下を向く「…、」

                  

みんな黙って食事をして、じゃぁお休みと言って寝る。
さくらは、地味で退屈な兄のいない日常を寅に伝えたかったのかもしれないが、
その日常の中にこそ、幸福があることを一番知っているのも実はさくらなのだろう。



  
夏 とらや 

セミが鳴いている


歌子の父親が再訪している。

歌子が買った釣忍ぶが風に鳴っている。
「チりン…チリン」

博「お手紙の様子じゃ仕事はなかなか大変らしいですねえ
さくら「一日中子供を追い掛け回してるとか
父親「はあ何かそのような事らしいですなあ

満男がおばちゃんに寄ってくるがおばちゃんが暑がってよける

さくらかき氷を出す「どうぞ
父親「あ、どうも
おばちゃん「でもよくお許しになられましたねえ大事なお嬢さんを。あんな遠いところに
父親「いやああたしは反対したんですが、言うことを聞くような奴じゃありませんから。頑固な所は私に似ておりまして
一同ハハ・・
父親「あ、寅次郎さんはどうしてます?
さくら「先月の中ごろ家を出たっきりで…まあ、どっかで元気にはしているんでしょうけど
父親「ほお…、放浪の旅と言うことですか
さくら「…ええ…は…

                

歌子のナレーション
歌子のテーマ
歌子の手紙『とらやの皆さん暑い夏をいかがお過ごしですか大島に来て一月が夢のようにたってしまいました

江戸川土手で満男とさくらが父親を見送っている。

歌子の手紙『心や体が不自由な子供の面倒を見るのは想像していたよりも遥かにに大変な仕事です。
大島の施設で歌子がたくさんの子供と働いてる。
歌子の手紙『朝、目が覚ましてから夜寝るまで、子供たちを相手にまるで戦争です。
      毎日が無我夢中の内に過ぎてしまうのです。皆さんと幸せについて語り合った夜のことを
      時々懐かしく思い出します。

歌子、敷地内の農園で茄子を子供たちと一緒にとっている。

               

歌子『今の私は幸せかどうかそんな事を考える余裕もありませんが
  でも十年先二十年先になって今のことを思い出したときに
  ああ、あのころは幸せだったと、そう思えるようにと願っています。
 
  ところで寅さんはどうしていますか? 今旅先ですか?私は寅さんがいつかヒョィとこの島に来てくれるような
  気がしてなりません。ああ、本当に来てくれないかなあ




I【そして再びの温泉津物語】

ある海岸の道

生コンクリートのトラックが止まって、降りてくる寅

海岸近くで、手を上げて伸びをする寅。
遠くから聞きなれた笑い声が聞こえてくる

寅、ハッと見て、駆け寄っていく。

寅「お絹さーん!

なんと!寅が会いに来たのは大島の歌子ではなく、温泉津の絹代だった!
温泉津の日々を失恋の後も大事に思っている寅に胸が熱くなった。

それでこそ、車寅次郎だ!

              

男はつらいよメインテーマが流れる

手を振る寅。
絹代ハッと気づいて「寅さーん」と手を上げる。
後ろで男が子供をあやしている
寅「おーう!!

絹代「まー寅さんしばらく…!父ちゃん!父ちゃん、ちょっとちょっと父ちゃん!ほら父ちゃん
父親何度も寅にお辞儀。
顔も見えないし、配役にも出てこないけど、この無骨な、絹代の夫の演技が実にいい。
こういうキップのよさそうな、お人好しでちょっと気ままな人っているよねえ。

寅「えーお絹さんにはいろいろとお世話になっておりました。え、今そこで皆さんのあのお幸せなお姿を拝見しまして
メインテーマ高鳴り、

              


絹代は寅を、頼りがいのある優しい人だと、人として好感を持っている。そうでないと寅にあのような手紙は
出さない。その絹代の心が寅には嬉しかったのだろう。惚れたハレタでなくても、自分のことを思っていてくれる人が
いるということがたまらなく嬉しいのだ。そして温泉津の日々の何もかもが懐かしく、こうして再来したのだろう。
寅の愛情と言うものは究極的にはそういうところに
行き着くような気がする。

寅は人というものが好きなのだ。






第13作「寅次郎恋やつれ」【本編完全版】はこちら



 
ここ1週間多忙のためアップが遅れました(^^;)ゝ
第13作「男はつらいよ.寅次郎恋やつれ」ダイジェスト版を本日4月20日にアップしました。
第14作「男はつらいよ.寅次郎子守唄」ダイジェスト版はだいたい4月23日頃にアップいたします(^^;)ゞ



【寅次郎な日々】全48作品ダイジェスト版のバックナンバーはこちら



【寅次郎な日々】全48作品マドンナ制作年度順






寅次郎な日々 カテゴリー別バックナンバー
寅次郎 さくら 名脇役たち タコ社長 満男 シリーズの流れ おいちゃん、おばちゃん 源ちゃん
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