バリ島.吉川孝昭のギャラリー内 


第25作 男はつらいよ


1980年8月2日封切り











夢の中を駆けゆく生涯                  甘く哀しい蜜月の日々




渡り鳥たちの見た夢


寅とリリーは「寅次郎相合い傘」ではふたりの波長がピタリと一致し、お互いの目を見つめ合うような最高の切ない「恋」をした。
「寅次郎ハイビスカスの花」ではもう一歩踏み込み、共に二人で生き、人生を共に歩もうとした。
たとえそれが真夏の夢の中の幻想だとしても…。

自己の美学の赴くままに奔放に生きる寅やリリーのような渡り鳥にも、ふとしたタイミングで羽根を休め、
「定住の夢」を見るひと時もある。その夢は必ず、ないものねだりの夢。そしてそうすることは渡り鳥である彼らの
気質の中では死を意味する。


夢から覚め、娑婆に戻ったリリーは、再び大海原に羽ばたく直前にこう呟く。

「私たち夢を見てたのよ、あんまり暑いからさ…」



            

                      





駆けつける寅の幸せ


山田監督は寅次郎の恋の行く末をリリーに託した。寅の行き着くところは、最後の最後はリリーしかないと、
はっきり自覚したからこそ、同一マドンナとして3作目を作り、寅の恋の行き着く先を提示することを
決意したのであろう。

リリーの物語は「相合い傘」同様いきなり始まる。そして今回は最後の最後までリリーが出ずっぱりなのだ。
まず、いきなり博が小岩でリリーに再会するのだ。相合い傘同様、速い速い。
そして同じように先ずはリリーに一人で旅立たせる。「相合い傘」では北の果て。今回は南の果てだ。

一方、とらやでは水元公園あやめ見物騒動で笑わせて たたみ掛けるように飛行機騒動。
リリーが血を吐いて入院したと聞いて、入院先も聞かないですぐに飛び出してゆく寅。寅の瞬発力はすさまじい。
飛行機が大の苦手な寅もリリーのためなら乗っていく。もっとも綺麗なスチュワーデスが随分助けていたのは言うまでもない。

沖縄の病院に這うようにたどり着いた寅の声を聞いたリリーは顔が華やぐ、第18作の綾の華やぎを彷彿させる名場面。
寅が来たら、いきなり血液がサラサラと流れ出すリリー。寅は「淋しかったんだろ、ひとりぼっちでなあ…、もうオレがついてる
からから大丈夫だ」と励まし、カバンの中から次々と浴衣、川魚の佃煮、トランジスタラジオ,お見舞金、おまけにフンドシまで
出してリリーの気を高めていく。どんどん血色が良くなっていくリリー。このあたり二人の掛け合いののテンポは見ていて実に
気持ちがよく見事だった。寅とリリーの相性の良さが鮮やかに見るものを楽しませる。


蜩が鳴く夕暮れ時、おばちゃんの作った川魚の佃煮を口に運んでやりながら


「おまえも、沖縄まで来て、病気してよ…、どんな苦労したんだ、ん?」


と言いつつ優しくリリーを見つめる寅。少し笑って何も答えないリリー。苦労人の寅はそれ以上は聞かないで、
リリーを見つめるだけ。このセリフの直後の寅の目は私が知っているどの寅の目より優しく澄んでいた。
こんな美しいシーンはこの長いシリーズの中でもめったにあるもんじゃない。
見ている私たちの心も潤いはじめ、なんだかとても幸せな気分になるのだ。

「この病気は気持ちの持ち方が大切、生きようと思う心が大切なんだ」

こんな愚かな自分が明らかに必要とされていることが実感できる日々。こうして寅の奮闘が始まる。
寅は毎日リリーの病院に見舞いに行き、冗談を行ったり励ましたり、大活躍。寅が最も生きている時だ。
 


             

                   





蜜月の中のもどかしさ…そして告白の時


そしてリリーは退院し、本部(もとぶ)町の離れの一軒家に寅と二人で下宿する。ここから先は寅の四十数年
の歳月でも未知の世界。つまり、寅にとって女性と二人っきりで生活することは今の今までなかったのである。
人生の新しい扉が開かれたのだ。しかし、寅はその扉から中を覗きこむだけで満足してしまっている。泡盛を飲んで
リリーの横で眠っているだけでこの世の極楽になってしまう寅だった。今までそんなことすらなかったのだから。
しかし、リリーはもう一歩踏み込んで、リアルな日常を寅と共に送りたいと願うようになる。
ついにある日彼女は寅に気持ちを告白するのである。

寅には最後、とらやがあるが、リリーは、自分でその『居場所』を築かねばならない。寅はその方向を避ける。
男として自信がないのが半分。そして残りの半分が渡り鳥としての気質がそうさせるのだ。


紆余曲折の後、ようやく二人はとらやに戻ってきて、リリーと寅は過ぎ去ったあの夏の夢の日々を回想する。



寅「暑い一日が終わって、夜になると、ス――ツと涼しい風が吹いてなあ…、
  遠くで波の音がザワザワザワザワザワザワ 

リリー「ほら、庭に一杯咲いたハイビスカスの花に、月の光が差して…、いい匂いがして」

寅「うん。昼間の疲れで横になってウトウトしてるとお母さんの唄う沖縄の哀しい唄が聞えて来てなあ」


リリー、懐かしい『白浜節』を静かに口ずさむ。

まるで自分の気持ちを託すかのように。


リリー「♪我んや白浜ぬ 枯松がやゆら  春風や吹ちん 花や咲かん 二人やままならん 枯木心」


リリー「私、幸せだった、あの時…」



寅は未だ夢から覚めやらぬ感じでこう呟く。



「リリー…オレと所帯持つか…」



        



                     



                   






夢の中を生きる人生


この物語は、自らの旅人の美学に殉じながらも、ほんのつかの間、まるで子供のママゴトのように、定住を夢見た2羽の
渡り鳥の甘く哀しい物語である。現実の泥を被りたくない寅のわがまま、身勝手、そして心意気。寅の恋愛の行き着くところを、
つまりその限界を描いてしまった作品ともいえよう。


「あーあ…、夢か…
寅がそう呟いた短い言葉に、寅の人生が言い尽くされていた。
彼は夢のように生き、夢のように人に恋をし、そして夢の中で死んでいくのかもしれない。

さくらがラスト近くでそっとつぶやいた言葉、

「夢から覚めたって幸せとは限らないもんね、お兄ちゃんは…。

これが寅という人なのだ。





このシリーズ最高のハッピーエンド     ― 「 リリーの夢を見てたのよ 
 ―


柴又駅でのリリーとの別れで、寅は「幸せになれよ」と言う。 微笑むリリー。リリーの最高の表情。
こうして、今回もまた切なく分かれていくのか…、もう二度と寅はリリーに逢わないのだろうか…、
と観客はなんともいえない悔しい思いで、寅と一緒にその電車を見送るのである。

寅は言う「さて、オレも旅に出るか…」

ああ、もうこれでどこかの町で啖呵バイをしている寅が映って終わりなんだなあ…、
と誰もがそう思ったに違いない。

しかし、山田監督は、私たちに大きなプレゼントをしてくれた。
ラストの田舎のバス停で、なんとリリーに再会するのである。



リリーは聞く、「兄さんこそなにしてんのさこんなところで」


寅「オレはおめえ…リリーの夢を見てたのよ」



空は晴れ渡り、彼らの旅はまた始まるのであった。


旅の中にこそ、寅とリリーの本領がある。彼らはやはり根っからの渡り鳥なのだ。




              
                   





我が青春の『寅次郎ハイビスカスの花』


「忘れな草」と「相合い傘」の二つの名作を母体として生まれたなんとも贅沢な作品。それがこの「ハイビスカスの花」である。
作品が成功することを強烈に私たちに期待させ、物凄いプレッシャーの中、見事そのとおりに、密度の濃い華やかな作品に
仕上げた山田監督の、イメージを形にまで持っていく集中力と粘りに脱帽。

この「ハイビスカスの花」は1980年、西も東も分からない東京で始まった私の学生1年目の夏、このシリーズをリアルタイムで
映画館で見た最初の作品であり、これにより私は「男はつらいよ依存症」を発病するきっかけとなっていく。そう言う意味でも
青春の思い出の詰まった懐かしい作品なのである。黒澤明を見、フェリーニを見、小津安二郎を見、そして「男はつらいよ」を
見続けた日々だった。

このサイトで私が選んだ「動かしがたい珠玉のベスト9」のしんがりを務める作品であり、シリーズ中期の大傑作と言い切って
よいだろう。







                 



今回も夢から




なんと、拍子木の音


カン!カン!カン!カン!カンカンカンカンカンカンカンカン! カン!


          




江戸 御用金蔵


金銀財宝をつめ込んだ蔵の前で、岡っ引源ちゃんが眠りこけている。

タコ兵衛「また居眠りなんぞしやがって、この間抜け !と、源ちゃんを蹴る。

タコ兵衛「近頃江戸中を荒らしまわる鼠小僧寅吉とかいう盗人、
   悪徳商人の金をねらうなどと、シャラクセエ〜ことをぬかしやがって、
   お上の大事な金蔵をあずかるこの
タコ兵衛、命にかけても
   守らにゃあ
あああ〜〜いけねエ。さ、さ、もうひとまわり


手下たち「はっ」

源ちゃんだけ残って見張り役。


なぜかカギが開いていて、中から出てきた鼠小僧寅吉。

源ちゃん気づけよな(^^;)



鼠小僧にあえなく当て身を食って倒れてしまう源ちゃん。
 
基本的に ま.ぬ.け.(^^;)




               



源ちゃん「オワッ!つあ〜…ピーーピー呼子を鳴らす源ちゃん。

びょオ〜〜ん・・・ぽよ
〜〜ん


遠くから大声が聞える。


鳴り響く呼子の音。






裏長屋のおさくたちの家


貧しい部屋の中で、あんどんに灯をともして
夜なべにいそしむ博吉、おさく夫婦。


遠くに聞える呼子の音。

ふたりははっと顔を見合わせる。


おさく「オヤ、なんだろう、こんな夜ふけに

博吉「まさか鼠小僧さまでは?




                   




おさく「ええっ―、あ、もしそうだったらどうぞ神様、
  鼠小僧さまが無事逃げられますように



と手を合わせるところヘガラリと障子が開き、
黒装束の鼠小僧寅吉参上。

肩で息をして駆け込むと、水ガメから水をひと飲み。
息を殺してその姿をみつめているふたり。



博吉「ね、鼠小僧さま!



寅、粋な仕草で口に指をあてる。

寅「シィー!ちょっとの間かくまってくんな。
 なにすぐ出ていくから心配ねえ


博「ささ、おさく

おさく「は、どうぞ

寅「ありがとうよ―


遠くで犬の鳴き声

博吉「そうだ」と表の戸のカギをかけるひろ吉




寅「失礼だが、お見うけするとこ、
 楽な暮しじゃなさそうだ

寅、懐から小判をひとつかみ
取出し、座布団の上に置く。

ギョッとしている博吉、おさく。


これはオレみてえな者にほどこしを
受けたと思ってもらいたくねえ。
もともとはお前さんがたが、
血と汗で稼いだ金だ、それをオレが
取返したまでよ。さ、



小判を6〜7枚

博吉「ありがとうございます

おさく「これで借金が返せます

と博吉に小判を見せて喜ぶおさく。


おさく、そんなに喜んじゃって、一応盗んだお金だぞ、
それでいいのかおさく〜、もうちょっと迷えよな。
ま、でも夢だからいいかァ〜(^^)



三味線 ペン、ペン、ペン…


寅「正直者が貧乏な暮らしをし、
 嘘つきヤロウが賛沢な暮らしをして
 大手を振って歩いてやがる。
 腹の立つ世の中よ。でもまあ、幸抱が
 肝心だ


寅「おっとっとっと、へへ…盗人家業のこの
 オレ様が堅気のお前さんがたに
 意見を言っちまった



三味線 ベンベンベン

博吉「とんでもございません、ありがたいお言葉身に沁みます



寅「お前さん方は、江戸の衆かい?


三味線 ペンペン

博吉「はい、私どもは葛飾郡は柴又村の
  出でございます



昔、江戸時代の柴又は、間違っても
江戸とは言えない田舎だよ。


寅の表情にふと懐しさが浮かぶ。


三味線べべべンベンベン


寅「柴又村…

寅「御新造さん

おさく「はい

寅「お前さん、身内はいなさるんかね?

おさく「はい、たったひとり兄がおりましたが、
  幼い頃、家を出たきり行方知れず


三味線 ベンベン


寅「それで、その兄さんの名は?



おさく「はい、寅次郎と申します


三味線 ペン、ベンベンベンベンベン


ギョッとする寅。


寅「エエ!



                   




呼子の音が近づいてくる。

ピーーー!ピーー!


寅、はっと顔をあげる。

おさく「鼠小僧さま、もしやあなた様は
  
私の兄のことを


寅、ふと我に返り、激しく首をふる。

寅「知らねえッ、オラァそんなことはしらねえッ!



じっと寅を見つめるおさく。






                   






呼子の音、近づく。

路地の反対側にもたくさんの御用提灯。


追っ手たちが長屋を開けて点検している。


動揺を必死におさえる寅。
博吉、ふり返って叫ぶ。


博吉「鼠小僧さま、追手が!もうそこまで!ささ!

寅、裏庭の障子をあけ

寅「じゃましたな

おさく「もしやあなたは!?

三味線 ペン 、ペンペンペンペンペンペンペンペンペンペン!

寅「おさく、幸せになァ…

ピーー!ピーー!

前の塀を乗り越え飛び去っていく寅吉。


追っ手たち、博吉の家に入り込んで裏から出て行く。


御用だッ!あっちだ!つかまえッ!


博吉おさく、あの人は…


おさく「そうよ、あんちゃんよ ! 



軽快な鼠小僧の音楽が流れて



鼠小僧寅吉、屋根から屋根へとび移って走る


右に左に動く御用提灯屋根の上にも掲げられる提灯


裏長屋の住人たち、ドヤドヤと駆け出す。
その中に博吉、おさくもいる。


そこら中御用提灯で埋め尽くされる。


寅「ヤアィ!静かにしろい!

あ、あそこだ!

帰れ帰れ !

博吉「あ、あそこだ

大騒ぎの中を、寅の粛がひときわ大きく響きわたる。



寅の声「木っば役人!こっちだ、こっちだ!



御用だ!御用だ!

「トアーッ」と、数人を屋根の上でやっつける鼠小僧。

首には縄が何本かかけられている。



                   






屋根の上に踏んばり、足元では源ちゃんを
踏みつけながら両手で縄の束を握った寅が大見得を切る。




寅「さだめ悲しい柴又の、
 たった一人の妹にせえ(さえ)、
 我が名をあかさねえこのオレがァ、
 置き土産代わりに
 名乗ってやらアー!

拍子木 ピキーン!

 耳の穴かっぽじって
 よおおおく聞きやああがれええ
!



メインテーマが流れる。


私、生まれも育ちも葛飾柴又です。

帝釈天で産湯をつかい、
姓は車名は寅次郎、

人呼んで、鼠小僧寅吉たア!


拍子木 ピキーン!

オレがぁ!ことよオオ!!



と唾を手にかけて縄を一瞬のうちに
小刀で切る。


アータアッ!



御用の役人たちのけぞり転がり下に落ちる。


                   





源ちゃんも
わあああああ」と言いながら屋根から落ちる(TT)



民衆達、やんややんやの大拍手

息をのんで寅の口上を聞いていたおさく、思わず叫ぶ。



おさく「お兄ちゃん!


寅、夢とは言えカッコいい〜!!(>▽<)


                   





三味線「
ベンベン!



寅、豪快に


寅「フ、フフ、フハハハハハ.ハ.ハ!



歓呼の声をあげる町人たち。




よ、日本一!


鼠小僧 ! 


大統領 ! 」それってメリケンでっせ!ヾ(--;)













ある古びた土蔵郷倉


村はずれの小さな社の傍の古びた土蔵の中で
居眠りしている寅。

表から聞こえて
くる呼子の音に目を覚ます。



ピーー!ピーー!



                   





窓から顔を出す寅



子供達「ピー、ピーピー、ピー御用だ!御用だ〜


おもちゃのピストルで鳴らしている。


御用だ!御用だ!捕まえろ!御用!御用!

ダーン!待て!

寅、「はああ〜〜〜…」と、
あくびをして外に出て行く。











タイトル


男(赤)はつらいよ(黄)寅次郎ハイビスカスの花(白)映倫118131


バックは北軽井沢方面から見た浅間山



                   





口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
   帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
   人呼んでフーテンの寅と発します。




  
 ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前の喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


   ♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労もかけまいに かけまいに♪




                     





小川が流れる田舎の風景の中をのんびり歩く寅。

ピンクのツツジが咲いている村々







軽井沢 白糸の滝



クレジット     
リリー  浅丘ルリ子



リリーが帰ってきた…(TT)



                     





白糸の滝売店


信州地酒 『白糸の瀧』

白糸の滝前の茶店、表に置いてある長椅子に腰かけて、
カップルがソバを食べている。
疲れた足取りで歩いて来た寅、その長椅子に腰を下ろし、
親しげに声をかける。
カップル、気味悪げに片方に寄ってソバを食べ続ける。

店の奥から老婆が声をかけるので、寅、立ち上ったとたん、
カップルがバランスを失ってひっくりかえり体中熱いソバの
ツユを浴びて悲鳴をあげる。

寅、あやまりながら、手近にあった水道のホースをとり、
二人に水をかけてやる。というミニギャグ





めずらしく最後まで柴又が映らないで、
茶店の『ところてん』の旗とともに山田監督のクレジット。



                      










柴又 題経寺山門



おばあちゃんとお孫さん山門でお祈りしている。

源ちゃん、掃除サボって居眠り。
いいねえ…こういう人生も(^^)


                       
なぜか心に残るほのぼのとしたシーン
                      





さくら自転車で通りかかる。


さくら「源ちゃん!、こんにちは


ニカっと笑ってトロンとした眼で見送る源ちゃん。






とらや


帳場の机に向ってソロバンを入れているおいちゃん。



おばちゃん「
はい、ご苦労さま


谷よしの
さん、出ました。
十八番花売り兼ヨモギ売りの行商おばさん。

おばさん「
ありがとうございます。また、あの、お願いいたします。

おばちゃん「
大丈夫かい、ヨッ!こら、重いねえ〜



さくら、店先に自転車を停めて入ってくる。


さくら「こんにちは〜
江戸家のおかみさん「こんにちは〜
さくら「いい天気ねえ、
江戸家のおかみさん「そうですねえ


おばさん外に出ながら「
こんにちは

さくら「よもぎ?


おばさん「はい




                       




おばちゃん「
来月また来てちょうだいね、


とおばさんを送り出す。

このあと谷よしのさんは、もう一度、沖縄から柴又に戻って
行き倒れた寅を板戸に乗せて運んでくるご近所さんとして
再登場する。今回もなかなかしぶといのだ。




                      




さくら、机の上のヨモギの香りをかいで、

さくら「はあ〜、いい匂い

おばちゃん「こんなもの昔は江戸川の土手
   でいくらでもあったのにさあ


さくら「学校の帰り、道草くってこれたくさん摘んで帰って、
  おばちゃんにお小遣いもらったっけね


おばちゃん「そうそう、あの頃は土手の上に
   まだ
桜並木があってさ、
そうだったのかあ…( ̄ー ̄)


さくら「きれいだったわねえ、お花見の時分は

おばちゃん「
う〜ん


見たかったなあ桜並木の土手を歩く幼いさくら


ちなみに、第29作「あじさいの恋」では、
さくらはおばちゃんと、渡し舟に乗って千葉県まで行って
ヨモギを自力で籠一杯に採って来ていた。




おいちゃん、土間に下りて来ながら、

おいちゃん「そう言やとうとう花見に行かなかったなあ。
   行こう行こうなんて言いながら


さくら「もう新緑の季節よ

おいちゃん「そうか…、もう新緑とヨモギを見ている。

おばちゃん「いいだろうねえ、箱根あたりへ行ったら、
   温泉につかって、アンマでもとってさ


さくら「どう?思い切って二人で行ってきたら

おいちゃん「たまにはぜいたくするか

おばちゃん「フフフ…



一同、うっとりとしているところへ、

例の如く社長が蒼い顔で入って来る。


社長「あ―、えらいことになっちゃったよ。
  あ〜とうとう税務署にバレちゃった


  まただよ…(−−;)葛飾の税務署も暇だねえ。
  他にいくらでも大物がいるだろうに。



顔をしかめるおいちゃん。

おいちゃん「嫌だねえ、お前は。
   せっかくこっちが楽しい話をしている所へ


おばちゃん「たまにはカラッとした顔しなよ、
   天気もいいんだしさ


さくら「どうしたの、何がバレたの?

社長「少しくらいなら分らねえだろうと思ってさ、
  ごまかして申告したらそれが見つかって
  追微金が来たんだよ


さくら「あら

おいちゃん「下手な細工するからだよ、お前が

社長「他人事だと思って」

と、おいちゃんに襲いかかろうとする社長。
意外にこういうシーンは珍しい。


社長「
はー、首でもくくりてえよ、本当に。
 世の中にゃ何億も平気でごまかしている奴が
 いるっていうのに、何でオレばっか
 見つかるんだろうねえ〜


頭を抱えているところへ、ヘルメットを持った博が
庭から入って来る。


博「あ、来てたのかと、さくらに言う。

社長「あ、行ってくれるか

さくら「どこ行くの?

博「小岩のキャバレー

おばちゃん「あらいやだ、昼間っからそんなそんな所いくのォ?

おばちゃん、人の格好と状況見てから考えなよ ゞ( ̄∇ ̄;)




                     




社長「仕事だよ。出来上がった
  ポスター届けてもらうんだよ、
何言ってんだよ…


博、手にしたサンプルを広げて見せる。


OPEN 熱い信号をあなたへ
ホステスさん募集
お仕事してみませんか 保育室もあります 日給一万円保障。



おいちゃん「へーえ、そんな仕事もするのかね

博「不景気ですからね、なにしろ

どちらかというと、そう言う仕事が結構多いんですね、これが(^^;)


と店先に置いてあったバイクにまたがる。
社長「あ、御苦労さん

おばちゃん「あ、いってらっしゃい


社長「ついでに、いい注文とってきてくれよな

博「はいはい

さくら「車に気をつけて


博、バイクをふかして去る。

見送る一同。





ため息まじりにつぶやくおばちゃん。

おばちゃん「日給一万円だって。
   いいお金取るんだねえ、あの人達も


おいちゃん「しかしお前嫌な思いをさせられるんだぞ

さくら「着る物やお化粧代だってみんな自分持ちよ、きっと

おばちゃん「そうだねえ、ダンスなんかして疲れるだろうしねえ…


社長、吹き出す。





社長「嫌だねえ、おばちゃん、
 今時のホステスは
ダンスなんかしないよ

ダンスも時々するが、それ以外も…が正しい(^^;)


おばちゃん「じゃ何するんだい?

社長「何するって言われても、エヘッ!
 ウフフフフちょっと
ご夫人方の前じゃ
 説明出来ねえなあアハハハ


クスクスと思い出し笑いをする。


おいちゃん「社長、お前首くくって
   死にたいって今言ったばかりだろう


おばちゃん「何だよ、いやらしい笑い方して




                    




社長「いや、オレだって好きでああいう所に行くんじゃなくて、
 仕事でさ。さて、金策に行くか、は〜ヤダ!


好きで行くに決まってる!そして経費で落とす(^^;)
そして税務署に疑われる…。




ただいま」と大声をあげて、満男が帰って来る。

おばちゃん「おかえりー


満男、チラシ見つけて
満男「
なんだこりゃ?ホステスさん募集〜おいおいヾ(- -;)

さくら、ぱっと奪い取る。


満男「おばちゃん、おやつない〜?




今回のとらやのお品書き

冷蔵庫は『サッポロビール』

お赤飯 200円
豆大福 150円
大福餅 150円

三色だんご200円
焼きだんご150円
草だんご150円
くず餅  250円
磯乙女  200円

ジュース200円
ラムネ150円
ミルクコーヒー200円


かしわ餅 ちまき









小岩付近・駅前の繁華街


風車
ハリウッド
ホステスさん大募
お給料は貴女のおのぞみ通り
素人の方も大歓迎 親切指導
パートも可 \11000以上
お遠慮なくお気軽にお試しください
応募者にお車代贈呈



小岩歯科の道向こうで荷物をほどく博


さぬきうどん・生そば
ビール飲み放題




リリーが歩いていく!


驚く博。



博、その後を追い、声をかける。



博「あの―


リリー、ふと振り返る。



博「リリーさんですね



博、懐しげに語りかける。




博「博です、柴又のとらやの



リリー、目を大きく見開いて、
口をあんぐり開けて驚いている。





                   




リリーの顔が大きくほころび、
喜びの色があふれる。




リリー「あんただったの?懐しい、
  何年振りだろ、

  さくらさん、元気?





博「ええ




リリー「おじさん、おばさんは?




博「元気ですよ




リリー「そおー、そいで、…ねえ、
  あの人どうしてる?寅さん





博「相変らずです




リリー「そお〜、じゃ、
 やっぱり一人もんで、
 年がら年中旅暮しで、
 そうなんでしょう。
 アハハハ…






                   





博「ええ



呼び込みの男前通って「ごめんよ




リリ「しようがない男ねえ、いい年してさ、
 相変らずさくらさんたちに心配かけてんのね。…
 ま、もっとも人のことなんか言えないんだけどさ





博「リリーさん、今でも歌を歌ってるんですか



リリー、うなずく。

リリー「そう、相変らず下手くそな歌。
  今夜もすぐそこのキャバレーでね



リリー、今でも歌ってるのかァ…( ̄_ ̄ )




博「もし、良かったら、終わってからでも来ませんか。
 みんな大喜びしますよ





リリー「本当!?うれしい。おばさんの
  美味しいごちそう食べたいなあ





博「じゃ迎えに来ましょうか




リリー「それが駄目なのよ。今夜自動車で大阪に行くの。
  その仕事が終わったら今度は九州。…
  私も旅暮しよ。寅さんと同じ





と、博の時計を見て、

リリー「あ、時間だ。じゃ、私。
  会えてよかったわ、こんな事ってあるのね。
  みなさんによろしくね





博「今度東京に戻ったらきっと寄って下さい




リリー「うん、そうする


急ぎ足に歩きかけ、リリー、振り返る。



リリー「たまには帰ってくる寅さん




博「ええ、思い出したように




リリー「リリーが逢いたいって、
 とっても逢いたいって、
 そう言ってたって言って



最後にもう一度大きく手を振り、館に入っていく。






リリーは博に、先ず『さくら』のことを聞いた。
さくらとリリーの結びつきの強さを如実に物語る印象的なセリフだった。
そして、『おいちゃんおばちゃん』を聞く。とらやは彼女にとって心の
居場所。大事にしたい人々なのだ。

寅はある意味、同じ穴のムジナなので、しんがり。でも、もちろん
最愛の人でもあるので、一番長く聞いている。そして最後は寅のことで
頭が一杯で、逢いたいと、はっきり言ってもいる。このへんのリリーの
心の機微と動きをとらえるのが山田監督は実に巧い。
浅丘さんのキラキラした眼と美しい声がとても印象的だった。


「忘れな草」から7年。「相合い傘」からも、5年の歳月が流れていた。






とらや  茶の間


おいちゃん、深々とため息をついて、
  
おいちゃん「は〜そうか、リリーさん、ず〜っと
   結婚もしないで歌うたってたか


おばちゃん「つらいことばっかりだろうねえ、きっと

博「そういえば顔色も悪かったなあ…

さくら「あらぁ…

一同、心配そうに顔を見合せる。

おいちゃん「生活は不規則だし、ロクな物食ってないん
    じゃないかァ〜


おばちゃん「うちへ来りゃいいのにねえ、ごちそうしてあげんのに



と、満男のために果物を皿に取り寄せている。

さくら「
強引に誘ってみればよかったのに

博「でも…人に同情されるのは
 嫌なんじゃないか、あの人は


おばちゃん「あ〜そうだねえ


おいちゃん、うなずく。


おいちゃん「そこがウチの寅と違うとこだな

なるほどねえ〜…。リリーにはプライドがあるしねえ…
リリーの苦労は、好きでしているいわゆる勝手な苦労
だからなあ…(−−)



                   




一同、考えている。


おいちゃん「そう言や寅どうしてるかなあ。
   そろそろ音沙汰ある頃じゃないか、さくら




さくら「そうねえ…、今頃どこにいるかしら



電話のベルが鳴り、リーン リーン


さくら、立上る。

おばちゃん「寅ちゃんだったりして、フフフ

さくら「はい、とらやです。……もしもし、
……お兄ちゃん?


おばちゃん「あら


びっくりしている一同。


さくら「今、どっからなの?…上州?……
 もしもし、酔っぱらってるの?……





上州  駅前の安食堂

赤電話に10円を入れ続ける寅


寅「
友達と一杯やってんのよ、うん
 これからみんなで旅に出るんだい。
 ……え?新潟、裏日本をな
 北へずっと回って酒田、秋田。ああ、
 ここしばらくよ、オレ家帰らねえけども、
 お前達、元気でやってるか?…-
 うん?そうか、うん、うん、それだったらいいけどよ。

 リリー? 誰だリリーって?……リリー!、ああ、
 レコード歌手の!……うん、あ、博会ったんか、




                   




へえ〜、え?オレに逢いたがっていたって?
ふふん!上手いこと言うなよお前。
どうせあいつはいい男つかまえて、
幸せにやってんだろ。
…そんなふうじゃないって?
じゃどんな…あ!もしもし、あ、切れちゃったか



ポケットに手を突込み十円玉を探り、
ソワソワする寅。


若い男A「兄やん、もうそろそろいこうか

寅「え?ああ、

若い男B「釣いらないよ

店員「はい、どうもありがとうございました

若い男「兄貴、先駅行って切符買ってきます。


寅、電話をあきらめ、机に戻って
コップ酒の残りを飲み干し、ふとつぶやく。






寅「リリーかァ……






「誰だリリーって」、って。
寅、リリーって言う名前出てんだからすぐ思い出せよな、
リリーのことだけは。

さくらの名前出た時に「誰ださくらって」と言わないだろ。
縁が深いんだから、頼むよォ〜(−−)







                         リリーか…
                   







若い男「兄貴〜!急がないと乗り遅れますよ!


カバンを片手に表に出て行く寅。
電車の警笛が駅の方から聞えている。










東京 小岩  

キャバレー ハリウッド


安っぽいネオンがきらめき、黒い服を着た男が声をからして客を呼んでいる。
出演歌手の顔と名前がズラズラ並んだ看板の中に、リリーの顔がある。




呼びこみ「はい、どうぞいらっしゃいませ、はい、ただいまお安くなっております、
    どうぞいらっしゃいませ、いらっしゃいませ、どうぞいらっしゃいませ、
    はい!いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。はい、どうぞ、いらっしゃいませ、
    ただいまお安くなっております





リリーの歌声が外にも流れてる 


泣けば〜涙のぉー…
 星空をー






5月10日(土)東千奈美
5月15日(木)松岡リリー
5月12日(月)紅ねね





                   



リリーが狭いステージで歌っている




リリー「♪ああーー、あああ〜…
 流れくぅるくぅ〜〜る〜〜、
 あの歌は〜〜

 誰がァ〜歌うかー、
 東京セレナーデー〜……





                   



「忘れな草」や「相合い傘の頃」より、
大人の魅力が出て、しっとりと歌っているリリー。





提灯に『あやめ祭』

狭いフロアで踊っている何組かの男女。

一曲歌い終えて、頭を下げるリリー。



お義理のような拍手
パチパチパチ

指名をがなりたてるアナウンス。

みどりさん、あけみさん、れいこさん、3番テーブルへ、
いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。ゆうこさん4番テーブルへ御指名…





                   



みどりさんは歌子ちゃんの友達
あけみさんはタコ社長の娘
れいこさんは御前様の親戚のマドンナ
もしくは泉ちゃんのママ。
ゆうこさんはおばちゃんの遠縁のマドンナ






『東京夜曲』

歌:山口淑子



青いランプに 夜は更けて
カーテン引く手のやるせなさ
泣けば涙の星空を
あーあーあー
流れ来る来る あの歌は
誰が歌うか東京セレナーデ





それから、ひと月




江戸川  堤


寅が、久しぶりに江戸川土手に立っている。

昼休みの工場のサイレンが鳴っている。


江戸川を走る若者「
ファイト!ファイト!ファイト!ファイト!ファイト!…

寅「あー…





                   




カップルを羨ましそうに眺めている源ちゃん。
寅、その傍に近寄り、源ちゃんに小石を投げる。



寅「コラ、フフフフ、バカ。
 羨ましそうな面して見てんじゃねえよ、



源ちゃん「兄貴!




                   





寅「どうだ、オレの身内は元気でやってるか

源ちゃん「皆、元気です

寅「うん、とらやはつぶれずに営業してるか

源ちゃん「やってます


寅「
そうか


源ちゃん、寅のカバンとお土産持って歩く。

前を歩くカップルに対して

げんちゃん「お〜こらこらこら、どけ、邪魔や。どかんかい


寅、源ちゃんの頭をぺチ!


寅「ごめんよ










とらや 店先



店の表に博が仰々しく紙を貼りつけている。


従業員慰労のため本日休業いたします 店主敬自


軽装のおいちゃんイライラとした表情で
台所の様子をうかがっている。


おいちゃん「おい、仕度いいのかもう行くぞ


おばちゃん「はい、はいはいさくらちゃん、卵あっち」.


さくら「うん、食塩もったし、おむすび、果物と、おいちゃん、
  お酒の水筒持ってくれた?

水筒の中にお酒が入ってんだね(^^)



おいちゃん「ああ、持ってる持ってる


さくら「満男、ほら、リュックサックしょって





                   





満男「ねえ、どこ行くの?


出発直前まで分かっていない満男って…(^^;)




さくら「あらいやだ、水元公園のアヤメがきれいだから
  お弁当持って見に行くのよ。今朝そう言ったでしょう



博「こいつ、後楽園に行きたいっていうんですよ

昔は後楽園球場っていうのがあったんです。


おいちゃん「なんだ野球なんかよりアヤメの方がいいぞ、きれいで、
    さあ、行こう行こう!



おばちゃん「ちょっと、私御不浄行ってくる
でた〜(^^)/


おいちゃん「ちっ…まったくう〜〜
と露骨に嫌な顔(^^;)




                          ちぃ…
                   




博「さくら、仕度できたのか?

さくら「うん、あ、そうだ、社長さんにちょっと挨拶してくる


おいちゃん「いいから、いいから、そんなこともう〜

おいちゃん、結構イラチやねえ(^^)




庭に出たさくら、ちょうど階段から下りてくる社長に出くわす。

さくら「あ、社長さん、じゃ、行ってきますから、
  よろしくお願いします


社長「ああ、行っといで、いいねえ、天気がよくて

さくら「ええ



博、店からさくらに声をかける

博「おい、オレたち、ブラブラ行ってるぞ

さくら「はーい


江戸屋おかみ「みなさんお揃いでいいですね。


おいちゃん「ええ。…?…!!!!!


おいちゃんと博、題経寺方面を見て、慌てて


おいちゃん、博よりはやく、僅かな隙間を
押しのけるようにして戻ってきて(^^;)




                   



ドドドド!


おいちゃん「帰ってきた!

さくら「え!?

博「おい、どうする?


博「ああ!

おいちゃん「何?

博「アレはまずい!




                   





博、店の表の張り紙をやみくもに外す。

何もソコまで隠さなくても…(^^;)
ほんとに気を使わせるねえ〜、寅って。


第12作の『九州旅行騒動』思い出すなあ…(  ̄ー ̄)




おばちゃん戻ってきて

おばちゃん「はい、お待ちどおさま、さあ、行きましょう

さくら「おばちゃん、お兄ちゃん帰ってきた

おばちゃん「えぇ?

おいちゃん「おい、さくら、どうする、もうすぐ来るぞ



博「しょうがないから、誘うか、アヤメ見物行こうって


おいちゃん「無理無理、あいつがそんなとこ行くわけなえだろっ

冬子さん、春子先生、綾さん、とは喜んで行ったんだけどなあ…、
寅はマドンナと一緒じゃないと行かない行かない(^^;)



博「そうか…

おばちゃん「どうすんだよ、早く決めなよどう決めるんだよおばちゃん(^^;)

さくら「い、いいわ、私残るから


おばちゃん「そんな、バカな、昨夜から楽しみにして、
    お弁当作ったのに


さくら「だってお兄ちゃん一人残して行くわけには


博「じゃあ、オレ残るよ、二人で酒飲んで帰り待ってる


おいちゃん「う〜ん、せっかくみんなでそろって
   出掛けようとしたのになあ・・・



さくら「あー!このお弁当、荷物隠さなくちゃ

それじゃあ、メロン騒動の二の舞になるぞ(^^;)


おばちゃん「はやく!はやくどっか…


おいちゃん、さくらにぶつかってしまう。

さくら「あ、痛い!ごめん、

おいちゃん「大丈夫か?

あわてて弁当や水筒をそのへんに隠す。

わっ!おいちゃん、
さくらの帽子被っちゃった!
ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ


例のごとく一度わざと通り過ぎて


郵便屋さん「とらやさん、郵便です



寅、つかつかと近づいてくる。

                




寅「♪郵便屋さん、 御苦労さん、この家だろ?

郵便屋さん「
ええ、速達なんですけど…




                   




寅「あっそう、オレがもらっとく、どうもありがとう

と封筒を受取り、店に入ってくる。

さくら「
おかえんなさい

寅「おう、さくら、なんだい、速達だよ。はは、
 お、みんなおそろいじゃないか



博「おかえりなさい


おいちゃん「おかえり


おばちゃん「おかえり


寅「どうしたい、おいちゃん、おばちゃんも元気か?」

おいちゃんたち「
うんー

寅「
うん、それはなによりだ、おう、博

博「しばらくです

寅「ハハハ、お前も相変らず額に汗して働いてるか?


さくら、おいちゃんが
さくらの帽子を被っているのに
気づいて『帽子、帽子…』と目で合図。


おいちゃん慌てて帽子を取る。



寅「なんだい、こざっぱりしたカッコして、
 どっかへ出かけんの?




博「いえ、別に




                   




寅「
あ、そう、うん、フフ、さくら、
 いつもと変わりはねえけど、オレのみやげだよ


さくら「あ、…どうもありがとう

寅「うん、



満男が表から顔を出す。

さく満男「ねえ、早く行こうよ〜満男正直(^^;)


寅「うん??


博「どこ行くんだい?博っていったい…(^^;)


満男「おかえんなさーい満男〜〜気を使うねえ〜(TT)




寅「どうも様子がおかしいな。何かワケあんのか?





                   





社長、裏からやって来て


社長「何だい、まだ行かなかったのかい、水元公園。
  早く行かないと陽がかげっちゃうよ



寅を見つけて、ハッとし、

社長「おう、寅さんおかえり
もう遅いよ、言っちゃったな社長(−−;)



寅「おおう、社長、元気か?

社長「元気だよ、元気だけど、
 
まずい時に帰って来たなあ-…
決まったな(−−;)




寅「今、何て言った?

社長「いや、別に


寅、おいちゃんの担いだ水筒グイッと引っ張って

おいちゃん「あ。。。

寅「さくら何かい?今じゃ、とらやは
 こんなもんで客にチャア入れてんのかい


このギャグ笑いました。それ酒が入った水筒です(^^;)



さくら、顔をあげて、話し始める。





                       




さくら「あのね、お兄ちゃん、実はね、今日は天気もいいし、
 水元公園のアヤメがきれいな盛リだっていうから、
 みんなでお弁当持って出掛けようとしてたとこなの。
 本当はおいちゃん達、新緑の箱根か伊豆に行きたいって
 言ってたんだけど、そんなゆとりもないしね、
 手近な所ですまそうかってそういうことになったの








寅、ふてくされて、


寅「ふう〜ん、ほうか…、これからみんなで
 水元公園出かけようって矢先に、やっかい者が、
 バカ面下げて帰って来たってわけか


バカ面って… ヾ(^^;)


一同、あわてる。


おいちゃん「いやいや、そうじゃないんだよ

社長「
違うんだよ〜

おばちゃん「ちょっと間が悪かっただけなんだよ


さくら「だってせっかく帰って来たお兄ちゃんに、
  留守番しててくれなんて言えないでしょう?



社長「
言えない(^^;)


寅、うらめしげに訴える。


寅「さくら、お前そういう気の使い方をするんだよ
 『あたしたちこれから水元公園に出掛けるのよ、
 お兄ちゃん留守番してくんない?』
 素直にそう頼まれりゃあ、ああいいよ、行っといで、
 オレは二階の部屋でちょっとひと休みして、
 おまえたち帰って来たら、お重の残りで一杯やろう
 じゃないか、気持ちよくお前たちのことを送り出して
 やれるんだよ。

 
そうだろ?満男

 満男に振るか普通(^^;)


           


満男「
ン?、そう…満男漫画読んでて、聞いてません。適当〜(^^;)

寅「オレたちは他人じゃないんだぞ、
 オレはな、身内だよ、お前達の!


                   

博「兄さん、すいませんでした。僕が悪かったんです

博はぜんぜん悪くない(^^;)



たまりかねて、社長が口をはさむ。

社長「機嫌直せよ、それだけ言や気がすむだろ


寅「他人は黙ってろい!タコ!


しらけてしまう一同。

おいちゃん「もう行くのやめよう、アヤメ、な、いや、さ、さくら


すべってはいるが
おいちゃんの一応言い間違えギャグ┐(´-`)┌




                   



寅「行くなって言ってるんじゃないんだよ、
 みんなで楽しく行きゃいいじゃねえかァ!!


おいちゃん「こんな気分でアヤメなんか見たって面白くも
   おかしくもねえや!あ〜あ〜あ〜!


博「
まあまあ

おばちゃん「このお弁当、茶の間で食べて、
    ピクニックに行ったつもりになろう満男、おいで


満男「
ちぇ 満男、もう踏んだり蹴ったり…(^^;)

社長「
あ〜あ…

寅「行くなって言ってんじゃねえだろ、
 行きゃいいじゃねえかよッ!!!




さくら、たまりかねて、叱るように言う。



さくら「行くなって言ってんのと同じことでしょう。
  何よ、お兄ちゃんこそ、子供がすねた
  みたいなこと言って。私達が気を使って
  どうして悪いの。
  『お前達気を使ってくれてどうもありがとう、
  でもオレが留守番してるからお前たち行っといで』
  って、なぜ優しく言えないのよ






博「やめろよさくら


社長「よくあることだよ。寅さん、上って一杯やろうよ


寅、ムックリ立ち上ると、かばんを片手に持ち、
机の上の速達をポイとさくらに投げる。

手紙が下に落ちる。


寅「フン、今夜やっかいになろうと思ったけど、
 とてもそういう気分じゃねえや





                   





出て行こうとする寅


もう出て行くのか、わがままやなあ〜 ┐(-。ー;)┌



手紙を拾って表書きに眼をとめたさくら、あわてて呼びとめる。





さくら「お兄ちゃん、これ、お兄ちゃん宛よ




                   



                   
                   
敷居をまたいで立ちどまる寅。


寅「誰がよこしたんだ?


さくら、裏を返して、博にも兄せる。




さくら「リリーさんからよ




                  




寅、さすがにハッとして、

寅「リリー…?

さくらと博、顔を見含わせる。

さくら「何があったんだろう。速達なんかで


寅、少し不安になって、

寅「いいから、ちょっと読んでみろ、え、

さくら「


寅「大したことじゃねえだろう。大きな声出して。


さくら「
うん



さくら、封を切リ、便箋をひらく。


さくら「いい? 読むわよ


寅「読め読め



茶の間で聞き耳をたてている社長、竜造、つね、満男。




さくら「ええっと……寅さん、私のこと憶えてる?



寅「憶えてるよ。おまえのこと忘れるわけねえだろ、
 バカだなあ



社長「いい女だったねえ。眼つきが色っぽくてさあ

リアクション多すぎ、話が進みません(^^;)

さくらキョロキョロ





寅「黙ってろ、タコ!。とにかく、読め読め
あんたもな(−−)



さくら「この間東京で博さんに会って、あんたのこと
  いろいろ聞いたわ…



寅「会ったって言ったなおまえな、なんだいろいろって…。
 え、おまえなんかオレの悪口言ってんじゃないか


博「僕はそんなこと言いませんよ、ただね


だから、リアクション多すぎだって ヾ(^^;)



さくら顔色を変えて、二人を制する。

さくら「ちょっと聞いて!!

 今頃寅さんどうしてるかしら、
 どっかできれいな人と恋でもしてんのかしら…



「ちょっと聞いて!!」のあとこれかいな(^^;)




寅「お前、誤解ですよ、誤解、フフ


博「しいしいしい!




                      




さくら「私、今病気なの、…




寅 「
え?




                      





さくら 「ええ…歌うたってる最中に血を吐いて、この病院に
  かつぎ込まれたの。


ハイビスカスの花のリリーのテーマが
静かに流れる。



さくら先生は気の持ち方で
  必ずよくなるってそう言うけど、でも生きてたって
  あんまりいい事なんかないしね。
  別に未練はないの。ただ一つだけ、
  もう一ぺん寅さんに会いたかった、寅さんの面白
  い冗談を聞きたかった、それだけが心残りよ





                      





寅、血相変えている。


寅「さくら…リリー…病気!



さくら「うん



寅「死ぬ間際にオレに会いたいって言ってんだな



さくら「そうね


おいおい、そうね、じゃないよさくら。
まだ死なないってば(^^;)




寅「よし!」.




                   





かばんを片手に持ち、脱兎のごとく店から飛び出す寅。
あわてて後を追うさくら。





                   





さくら「ちょっと待ってよ!



リリーのその手紙って「それだけが心残りよ」で終わっているのかな?
もう少し何か書いてあるんじゃないかな。終わり方がちょっと唐突。







帝釈天・参道


急ぎ足に駅のほうに行く寅。


その後から、手紙を片手にさくらが追う。


大和家を通り過ぎ、高木屋の前で


さくら「
お兄ちゃん、どこへ行くつもりなの


寅「決ってるじゃねえか、リリーのとこだよ


さくら「リリーさんの病院がどこか分かってるの?


寅「どこだその病院は


さくら、手紙の封筒の裏を見る。


さくら「沖縄県那覇市


寅「沖縄…?


さくら「そうよォ、遠いとこよ〜〜
ガキ扱いされてる寅でした(^^;)


寅「そこ、ど、どうやって行くんだ、どこで汽車乗り換えるんだ
ガキ扱いで正解かも(^^;)


さくら「立ち話じゃ無理よ。ちょっと帰って


寅「リリーが待ってるんだよ!


さくら「分ってるけど、とにかくみんなで相談しなきゃ


寅「待ってるんだよ、おい、よ〜




                   




と寅の手を引っばるようにして戻るさくら。


第17作「夕焼け小焼け」でぼたんを騙した鬼頭の
家に住所も聞かないで飛び出した、あのパターン。




とらや 店



寅、店に戻りながら

寅「
おい、博よ、あの〜
 沖縄行くのはあれか、やっぱり沖縄っていうのは
 あの博多まで新幹線で行って、



博「ちょっと貸せ」と手紙を読む。


寅「それからあとはふ、船で行くのかな、


さくら「おいちゃん、リリーさんのいる病院、沖縄なのよ


寅「よオ、何かいい考えねえかい、早く考えろよ

おいちゃん「満男、地図持って来い地図。

おばちゃん「満男



博「まず博多まで出る。それから鹿児島本線で鹿児島まで
 出て、そこから後は船だなあ



寅「じゃ今日、陽のあるうちには着くか?向こうへ



博「冗談じゃありませんよ、今日中に博多まで行くのが
 精一杯ですよ



寅「明日、午前中にどうだい


博「いや〜、明日の夕方、鹿児島に着いて、
 すぐ船があったとしても
 一日やそこらかかるんじゃないかなあ




寅「そんな遅いんじゃオレが困るんだよ。え?
 もっとなんか早く行ける方法さあ、
 だれかねえかよ、ねえ、ちょっと、え



さくら「東京から沖縄まで行く船が出てるんじゃないの?



寅「うん、それがいいよそれだったら、
 それだったら今夜中に着くか、うん?





               



博「いやいや、三日はかかるでしょう。
 それに毎日出てるかどうか…



昔、沖縄行く時に調べたことあるが、確か週一便くらいだったなあ…。



寅「そんなことしてたらお前リリーが死んじまうよ


おばちゃん「はい、あの地図



寅「これに書いてあるだろ病気だって!


あくまでも『死ぬ』と決め付けている寅(^^;)




おばちゃん「ほんとにねえ〜


寅「ん〜だよ、これだけガン首そろえてさァ、
  誰もいい考えが浮ばねえのかよ、



博「もっと下下…



                   






おばちゃん「弱ったねえ、そんな遠くの方で病気になっちゃって。
   
千葉県だったら
  タクシーで行かれんのに〜


出たあああ!おばちゃん、それ意味ねえ〜〜(^^;)/

寅「ナァ言ってんだい…
とさすがの寅も呆れる。


社長、口をはさむ。



社長「早く行きたいんだろう、要するに


寅「え?うん、なんかいい方法あるか?


社長「飛行機で行きゃあいいじゃないか、羽田から。

博「
あ、そうか


社長「三時間もありゃ行けるんじゃない




さくら「いやだ、気がつかなかった、乗ったことないから




                   



さくら〜、第12作で九州に行った時、羽田から大分までみんなで
乗ったじゃないか、しかも帰りも同じように大分から羽田まで
乗ってたし…(^^;)忘れんなよな。あの時も大騒ぎだったんだから。






おいちゃん「飛行機なら速いや〜



安心して笑い出す一同へ、
寅、憮然と言い放つ





寅「ダメ、 飛行機はダメ 」




                




さくら「どうして?



社長「恐いのかい?



寅「恐い恐くない!!!オーバーアクション(^^;)


        


寅の大声と手の振りにビックリして
のけぞるさくらたち。



寅「
恐くないけども、
 飛行機はいや!ねっ!
 あの〜何か他に方法はないか



博「
他にはありませんよ



さくら「お金だったら私達で何とかしてあげるから


寅「金の間題じゃないの。いやなものはいや!


唖然としている一同。



おいちゃん「
高い所が恐いんだよ、ガキの時分から




               






社長「プハ!



寅「高いとか低いとかの問題じゃないんだよ、
 イヤなものはイヤだってつってんの!



さくら「ねえ、そんなこと言ってる場合じゃないのよ、
  思い切って乗っていったら





                  





寅「ヤだよ!


博「でもね……


寅「ヤだってつってんだよ


博「しかし


寅「乗らないっちったもんは
 乗らないんだから、
 乗らないっつーの!





                 




ある意味、あんな鉄の塊が空に浮いて、目的地まで飛ぶわけが無い
と、考えてしまう寅の感覚は生き物として正常ともいえる。
私も仕事上毎年何度も乗っているが、やはり怖い。





題経寺・鐘楼


鐘 ゴ〜〜ン!







さくらのアパート


博が買ってきた那覇行きの
航空券を手に取って眺めるさくら。


着換えをしている博。

さくらの内職の洋服が仕立ててある。 黄色のワンピース。


                  

                   


番号 2000911245211
34,600円
東京 沖縄 
日本交通公社 東京 TOKYO 55・6・18 上野支店

901 6/19 0840

クルマ トラジロウ様( )才
日本航空 JAPAN AIR LINES



さくら「8時40分か…


満男「飛行機の切符?


さくら「うん・・・


チケットを手に取り、眺める満男


                 




博「どうした、あれから。兄さん納得したのかな

おいおい博、チケット買ってから、そんなこと聞いてどうするんだ。
まあ、払い戻しできるとは思うが。



さくら「うん、近所の人たちが、あ、最後は
 御前様まで来てくれてね、
 飛行機は恐くないっていう話を
 一生懸命してくれて、どうやら納得した
 みたいだったけどね



博「へえ



さくら「ねえ8時40分発って言うと、うちを何時に
  出ればいいの?



博「三十分前に行ってなきゃいけないから、
 六時半かな、余裕みて。車で送っていくよ



さくら「ごめんねお金使わせて


博「うん?いいんだよ、兄さんのためというより、
 リリーさんのためさ。

 満男・飛行機に乗りたいか




満男「ぼく、パイロットになるの


さくら「漫画ばっかり読んで、なれやしないわよ、
  パイロットになんか
さくら…(^^;)









翌朝


羽田空港の見える道


テーマ曲が軽やかに流れて


朝日印刷のライトバンが行く。
各種一般印刷朝日印刷所
足立 44 ね43−85

朝日が昇る赤いマーク発見!






車の中

ハンドルを持つ博、助手席にさくら。
後ろの席で寅が高イビキで眠っている。



博「よく眠ってるなあ


さくら「ゆうべは興奮して明け方まで
 眠れなかったらしいのよ。あら、
 御前様まで御見舞下さったわ



博「ええ?



                   



                   





と手にしたお見舞の袋を見ている。

フロント・ガラス越しに、空港がグングンと近づく。

飛行機の爆音 












とらや 店


御前様が腰を下ろしている。

恐縮しているおいちゃんたち。



御前様「そうですか、無事たちましたか。
  いや〜天気もいいし、まず、よかった



おいちゃん「たかが飛行機に乗るくらいのことで、
   御前様にまで御心配おかけしまして。
   困った男でございます




御前様「何をおっしゃる、ゆーなれば人助け
  なんですから、こら、ほめてやらなきゃいかん



いいこと言うなあ御前様は、寅のことちゃんと
分かっているんだなあ。


おいちゃん「いやー恐れ入ります


御前様「時に、あの、リリーさんとかいう人は、
  
何番目の女性かな?


何番目って…仏に仕える方がそのような過激な…(^^;)



おいちゃん「は、何番目かは忘れましたが…、
   確か五年か六年前になります



おばちゃん「
キャバレーで歌なんか歌っていた人で、
    派手な洋服を着て、やせぎすの



御前様「おうおう、あの眼の大きな、外人みたいな顔をした

            


                   




おばちゃん「ええ、その人

御前様「う〜ん、あれは美人だ

御前様もそんなことばっか考えてんだね(^^;)



リリーが誰かもイマイチ分からないでお見舞いを
渡した御前様っていったい(^^;)



電話のペルが鳴る。

リ〜ン リ〜ン

おばちゃん受話器を取って



おばちゃん「
はいはい、とらやでございます。
    ……あ、さくらちゃんかい、どうした、
    無事に飛行機に乗ったかい?-…、
    ええ、乗るのやめた!??どうして?



びっくりしているおいちゃんと御前様。


おいちゃん、手で翼の格好したまま、
唖然となって、凍っている。


このポーズ笑いました(^^)



                   










羽田空港前 電話ボックス


旅行客で賑わう玄関口の一隅の電話ボックスで、
うんざりした表情のさくらがしゃべっている。



さくら「飛行場まではおとなしく来たんだけどね、
 いざジェット機を目の前にしたらまた怖く
 なったらしいの。どうしても嫌だって柱に
 しがみついて動かないのよ。人だかりは
 するし、私、恥ずかしくて。……言うことが
 滅茶苦茶なのよ、
プロペラがないから嫌だって。
 今、博さんが最後の説得しているけどね、
 駄目でしょう…





                   





ポールにしがみつく寅。

                   


博「
時間が無いんですから…

寅「
やだ!


離してくださいよ



寅「やだ!やだ!
だだっこ(^^;)





博「いいですか後ろの方に穴があいてるでしょう、あそこから
 バアー
とガスを吹き出して、それで飛ぶんです


寅「馬鹿野郎!それじゃお前が芋食って
 ケツから屁が出て、それで空飛ぶか?非常識だい!
 そんなこといったってダメだい



凄い理屈(^^;)



                  



博「ナンセンスだなあ…いいですか。



博、あれガスっていうより、熱風だぞ。
正確に言ってくれよな。




スチュワーデスさんたちの一行が通り過ぎる。



寅「
こんにちは…これからお仕事ですか

スッチー「
こんにちは

寅、そのスチュワーデスさんのカバンを
持ってやろうとする。


これだよ! (-。ー;)



                




おいおい、スチユワーデスさん、寅がカバン持つまでじっと待ってるぞ!
NGだけど、まあいいか。


カバンを持ってやりながらそのまま
後をついていってしまう寅。
博に向かって来い来いと催促。



ああ〜あ、これだもんなあ、バカバカしい〜。
真面目に考えるだけ無駄だね。 


まったく、スチュワーデスがいなければ本当に
飛行機に乗らなかったなんて、駄々っ子だねえ〜。
困ったもんだ。リリーが待ってるのに。┐(- ー;)┌







題経寺・山門



小さな子供と源ちゃんが遊んでいる。




大通りから来た博とさくらを乗せたライトバンが、カーブを切って参遣に入って行く。

源ちゃんおもちゃの蛇を子供に見せてビビらせる。

こども「うわあああああ」








とらや 店


お客さんダンゴの包みを2箱持っていく。
柴又帝釈天の紙袋。



おばちゃん「ありがとうございます


おばちゃん「あら、ちょっと、帰ってきたよ、おかえり。


おいちゃん「やあ、御苦労さん

社長「お疲れさん。どうだった?


ぐったりと腰を下ろす博とさくら。


おばちゃん「あら?寅ちゃん、一緒じゃないのかい


さくら「あー、乗って行ったわ


おばちゃん「飛行機に?


おいちゃん「ほう、乗って行ってったか、それりゃよかった〜。
    なんか冷たいもん



おばちゃん「あ、はいよ。ほんとに御苦労様だったねえ


おいちゃん「
そうか〜〜



社長「どうやって説得したんだい?


博「いや、一度はあきらめたんですけどね、そしたら、な



さくら「きれいなスチュワーデスが通りかかってね、

おいちゃん「
ほう、

さくら「どうかしたんですかって言うから、
  これこれこういうわけでジェット機に乗るのを
  怖がっているんですってそう言ったの、
  そしたらそのきれいなスチュワーデスがね、あら、
  私なんか毎日乗ってるんですよ、一緒に行
  きましょうってそう言ってくれたの、



おいちゃん「あ〜〜、
実感(^^;)


さくら「
 そしたら、二つ返事でついて行っちゃった

 
と指で『ツツ-』っと再現(^^)


博「僕達の方なんか振り向きもしないでさ



                      二つ返事でついていっちゃった
                   





社長「なるほどねえ


おいちゃん「幸せなヤツだよ〜


おばちゃん「はい、冷たいの



社長「さっそくで悪いけどさ、駅前のスーパーから
  注文来てんだよ


博「はい、仕事仕事

おばちゃん「御苦労さんね〜

おいちゃん「大変だな〜

おばちゃん「あ、いらっしゃい

さくら「いらっしゃい

おばちゃん「何にしましょう

客「お団子ください

おばちゃん「はいはい




おいちゃん「今頃ヤツは飛行機の中か…


さくら「もう着く頃じゃない、乗ったら早いから



と、遠く那覇に想いを馳せている。



こう言うエピソードを聞くたびに、やっぱり
スチュワーデスっていうのは、美しく、親切でないと、
乗客の心が落ち着かないんだなあと、実感する。
あながち寅の心理は特殊ではないのである。











沖縄 那覇空港


南国の強い陽差しを浴びて、
ジャンボジェット機
DC10が轟音と共に着陸する。



JA8530日本航空JAPAN AIR LINES JALDC-10


アナウンス「日本航空901便、東京よりただ今到着いたしました…




コミカルな音楽が流れ


二人のスチュワーデスに抱えられるようにして、
顔面蒼白な寅がヨタヨタと乗客の最後に下りて来る。

階段から転がり落ちそうになる寅。


ある意味すごい目立ってるなああ(^^;)



                   





タラップに駆けあがる空港職員



観光客で賑わう玄関口を、車椅子に
乗った寅が、職員3人に付き添われてやって来る。


至れり尽せり(^^;)




              



コミカルな音楽と共に ♪


職員A「大丈夫ですか

職員B「あの〜30分でも横になられたらどうでしょうか

寅「いや、さっきから何べんも言ってるとおり、リリーが
 オレの来るのを待ってるからね。
 バスは、これですか?


職員c「これでいいんですけども


寅「じゃあ、これで行きますから

意識朦朧、自分でもよく分かっていない(^^;)




                   





バスの広告 
味の素KKのほんだし
危険物持込禁止
 急ブレーキ注意



銀バス』に這うようにして乗った寅


牧志経由M



職員A「大丈夫ですか?どうぞ、お大事にて


心配そうに見送る職員。

後ろの広告 24時間営業A&W




ポ〜ヨォォ〜〜〜ン!!



那覇バス市内線 『銀バス』

那覇バス市外線。昔から『銀バス』として親しまれ、2003年に民事再生法の適用を申請していた那覇交通が
自主再建を断念、北九州市に本拠を置く全国ネットの大手タクシー会社である第一交通産業グループが
営業の全部を譲り受けることで合意。2004年7月18日より「那覇バス」として、
路線バス・観光バス部門で運営を開始した。




国際通りをバスが通っていく。


疲れきり、今にも眠りそうな感じで坐っている寅


寅の乗ったバスが嘉手納基地近くを通る。
道路沿いの金網越しに見える広大な基地の飛行場。



このような厳しい超国家的戦略の現実とは無縁な寅。
ただひたすらぐったりと眠っている。ある意味凄い対比である。
このあたり山田監督の『眼』を強く感じる。





F-15』米軍戦闘機が嘉手納基地に着陸していく

また、3機連なっても飛んでいく。




                   




                   





寅の乗ったバスの真上を巨大な輸送機が轟音を立てて着陸していく。





F−15 イーグル戦闘機

1960年代後半にソビエトが公開した戦闘機群に対抗するためにダグラス社によって開発された。
初飛行は1972年だが、2006年現在でも世界最強とされる制空戦闘機の一つであり、
構造重量のうち4分の1以上をチタニウム合金製とすることで軽量化を図っており、
大推力のF100エンジンと相まって高い機動性を発揮する。
また強力なAPG−63レーダーを装備し制空戦闘機・ミサイル戦闘ともに優れた能力を
発揮できる。日本の自衛隊も現在でもこの機種が主力。


アメリカでは後継のステルス戦闘機F-22への機種転換が始まっているが、
2030年代まで使用される見込みである。








たがみ病院前』にバスが停る。


那覇市首里石嶺町「たがみ病院(現在のオリブ山病院

教会が遠くに見える。





                   




速達の手紙が着いてからたった1日で
ともかく寅はやってきたのだ。


運転手に声をかけた寅、
一目散にたがみ病院の建物に向って走り出す。




こういう時の寅のバイタリティは、なかなか凄い。
頭の中でひたすら『リリー今行くからな、待ってろよ』と念じながら、
超苦手な飛行機にも乗り、フラフラになりながらもたどり着く寅。

とにかく寅はリリーのために東京から遥か遠く離れた南の島に
やって来たのである。その事実がどの言葉よりも重く、そして嬉しい。


寅とリリーの新しい物語が今また始まろうとしている。








たがみ病院  リリーの病室






窓から見えるリリー、眼を閉じている。



                





廊下から、パタパタと雪駄の音が近づいて来る。




寅の声「リリー! リリー!




リリー「……!!




その声にハッとするリリー。


信じられない顔で息をのんで、
その声を聞いているリリー。





リリー「……





                  
                  





寅の声「あ、すいません、看護婦さん、あの、
   松岡リリーはまだ生きてますか?


看護婦「ええ

寅「生きてますか、あ〜!よかった。
 あの、部屋、部屋どこでしょう?
 

看護婦「こちらです

寅「あ、ここですか、あ、どうも



松岡清子とは聞かないんだね。
寅は松岡リリーとしか覚えていないのかもしれない。
それにしても清子と言う名前は一見リリーには
合っていないようだが実はリリーの心そのものだ。
ハイビスカスでは「松岡リリー」、第48作で映る
レコードのジャケットでは「リリィ松岡」だったけな。





カーテンを開けて寅、顔を出し、
入口近くの女性に小声で尋ねる。




寅「
松岡リリーどこにいますか?

寅、頷いて、ベッドに近づく。

おいおいちゃうやろがその方向は(^^;)

寅、急ぎ足にベッドに近寄り、
ハッとしてその病人を見つめる。



寅「
リリー…、どうしてお前そんなに
 シワクチャになっちまって…。
 それじゃ道ですれ違ったってわかんねえじゃねえか
 寅だよ、オレのことも分らねえのか、可哀相に-…



近くにいる人たち、ヒソヒソと話し声。


寝ていた老婆、呆れたように答える。


老婆「兄さん…


寅「へっ…変な声で後ずさり(^^;)


老婆「おんにゃあ、あらんど。
  リリーさんはあっちですよ



普通おばあちゃんとリリーは間違わんってゞ( ̄∇ ̄;)



富^「…!





                   







はっと振り返る寅。


なんともいえない顔で寅を見ているリリー。


その顔を見つめる顔が和らぐ寅。





寅「リリー




                  





リリー「フフ…





あわててその傍に駆け寄る。




寅「何だい…かわいい声(^^)


寅「お前ここにいたのか。あ〜、よかった。
ハハ、オレ今、しわくちゃのババアとお前と
間違えちゃってよ」

おばあちゃんに聞こえるよ寅 ヾ(-_-;)


リリーフフフ



お前、昔と一つもかわらねえ。
安心したよ




リリー、その細い腕を差し出し、
手を握ろうとする。
寅も迷うことなくしっかり両手で握る。





                 






リリー「寅さん…



寅「うん



リリー「来てくれたのね





寅「ああ、お前の手紙見て
 まっすぐ飛んできたんだけどね、

 何しろお前、遠いからなあ、

 時間がかかっちゃって、
 遅くなったけど、

 勘弁してくれなあ…






リリー、感極まって





リリー「私、うれしい





と、泣き出しながら寅にしがみつく。




寅「よしよし、

 寂しかったんだろう、

 一人ぼっちでな。




もうオレがついてるから大丈夫だ、え。




                 





泣くな、おい、泣くんじゃないよ、
みっともないから、な、

プーッ!



寅も感極まりハンカチを取り出し鼻をかんでしまう。



寅「ヘヘ!



リリー「フフフ



この光景を唖然としてポカ〜ンと
眺めているさっきの老婆。






寅「あ!、そうだおみやげがあるんだい。うん」



寅、カバンを開けながら



おばちゃんがね、フフ、
リリーにさ、この川魚の佃煮を作って、
食わしてやってくれって。へへへへ





                    







リリー「わあ





寅「これ、さくらから、浴衣着ろってよ。


リリー「
……


                  





これはね、あのおいちゃんと博が
トランジスターラジオだって。

リリー「……


うん、え〜っとアハハハ、裏のタコがくれたよ、
いくらも入っちゃいねえだろ。え?






御見舞 朝日印刷






リリー「は〜、嬉しいなあ、お見舞いもらったの初めて





寅「ああ、そうか、うん、お、まだあるぞえ、
 これ御前様。御前様もくれたよ




御見舞 題経寺




                    








寅「これは何だ、さくらなんでも入れるからなあ、
 これエプロン…あ、オレの
フンドシだ、アハハハ


寅ってフンドシさくらに縫わせるんだよね。第7作参照(^^;)



                    





あわててフンドシをしまい込む寅、
笑っている同室の女性達に気づき、立ち上る。



寅「あ。これりゃどうも御一統さん。
 ご挨拶が遅れまして失礼致しました。
 わたくし、車寅次郎と申します。この度は
 リリーのやつがとんだ御厄介になりまして、
 ありがとうございます



あわてておじぎを返す一同。
そこへ看護婦が検温に入ってくる。



寅「あ、看護婦さん、どうもこの度はリリーのやつが
 大変お世話さまになりまして


看護婦「いいえ

寅「なにせ、わがままな病人ですから、
 遠慮なく叱ってやって下さい。
 先生のお部屋どちらでしょうか


看護婦「一階ですけど

寅「一階ですか。ありがとうございます。
 お、リリーオレな、その先生に会って
 ちょっと挨拶してくるから、
 なっ、ん、名前なんて言うんだ?




リリー「内科の知念先生



とカバンの中からウイスキーらしい箱を取りだし、
いそいそと廊下へ出て行く。


第38作「知床慕情」ではこの手の付け届け、受け取ってもらえず
寅は内科の先生と喧嘩していたっけなあ。





                    





寅.「内科の知念!よし!は、内科の知念、内科の知念…(^^;)





看護嬬「あの人誰?

老婆、方言で答える。

老婆「リリーさんの、おもやーばい

看護婦「あた、おばさんよてよーし

老婆「てばーらんど、まんでてーばーさーてさ

看護婦「おばさんなんて言ってるか分かる?」


首を振るリリー


看護婦「リリーさんのいい人だって

老婆「いいきがなァ





                   






老婆「おばさんが若さたれー、ういたるも

同室の女性達、ドッと笑う。

見舞いの品を抱え、微笑むリリー、




リリーはいつまでもたくさんのお土産を胸に抱いていた。

寅はともかくたった一日で飛ぶようにやって来た。
淋しくベットで目をつぶるリリーの耳に聞こえてきた
夢にまで見たあの懐かしい声。


「リリー!!、リリー!!」


そして寅の優しい言葉
よしよし、寂しかったんだろう、一人ぼっちでな。
 もうオレがついてるから大丈夫だ、え」


寅は、次々とカバンから、お土産を出す。
川魚の佃煮、浴衣、トランジスタラジオ、御見舞い、もうひとつ御見舞い、
それらをいつまでもしっかりと胸に抱き続けるリリー。

遠く駆けつけてくれた寅の気持ちを、みんなの気持ちを、
いつまでも感じ続けたい。
そんなリリーの嬉しさをかみしめる姿がそこにあった。







たがみ病院  夕焼け空



カラスが鳴き、
蜩がカナカナカナと鳴いている。


赤い夕陽の差し込む病室の一隅で、
ベッドに寝たリリーに夕食を食べさせてやっている寅。

枕もとにはお土産のトランジスタラジオがセットしてある。



リリーのテーマがゆったりと流れる。



寅「お、あーん、て、あーん、て


寅「
どうだ、うまいか



リリー「まず〜い



寅「まずい?まずくたってがまんして食わなきゃダメだよ、
 なあ。そうじゃダメなんだほら、もう一サジ。

 あーんて、そうそうそう。
 な、知念先生が言ってたろ、
 この病気は心の持ち方が大事なんだ、
 生きようと思うことが大切なんだって。な、



                 





あ、ほれ。おばちゃんの作った佃煮、
これ食ってみろこれうまいぞ


っと、箸を口に持っていってやる寅。


寅「うまいだろ?



リリー、箸を持つ寅の手を握って




リリー「おいしい





                    






寅「な、…おし、茶、飲むか






リリー「うん




微笑んで寅を見つめるリリー。





                    







寅「うん



その光景を眺めている同室者達。





寅、深々とため息をつき、

リリーを優しい目で見つめて。








寅「あーあ…、

…お前も、

 沖縄まで来て、病気してよ、…

 どんな苦労したんだ、ん?








リリー「フフ…






何も答えないで、微笑みながら
寅の袖を指でいじって遊ぶリリー。






リリー、ふと上を向き、眼を閉じる。







                   







寅「……








寅「あんまり語してると病気にさわるか、なっ











リリー「寅さん




                  





寅「えー、なんだ?




リリー「こうやって眼つぶって寝てしまうでしょう、



寅「うん



リリー「そして明日の朝眼がさめたら、寅さんが
  こうやって御飯食べさせてくれたの、
  みんな夢だったりして




寅「バカだねえ、お前。だったら
 自分の体つねってみろ、痛えから




リリー「じゃ、つねってみて

                   


寅「え?ど、どこらあたりよ?


リリー「どこでもいいから



寅「う〜ん、どういうところつねって
 みるかなあ、ここか?





                   






リリー「痛い!!


寅「ヘヘへ……痛えだろう、
 エヘヘヘへ痛えか


一生やってろよ ┐(ーー;)┌


唖然として、ため息をもらす同室者達。だよな(^^;)


寅「あ〜〜、もそろそろ面会時間も終わりか、
 じゃ、オレも
ホテルへ帰るか


ホテル…(^^;)




                   







リリー「ホテルに泊るお金なんてもってるの?


寅「病人がそんな心配するこたあねえんだよ。
 それじゃあ、どなたさんもお休みなさいまし



同室者たち「おやすみんさい〜


寅「おやすみなさい



リリー「おやすみ



寅「お、夢なんか見ねえでぐっすり寝ろよ



リリー「うん



寅「あ、看護婦さん、どうもお世話様です.
 また明日朝早くきますから。え、
 リリーのこと、ひとつよろしくお願いします



足音を忍ばせて部屋を出て行く寅。



老婆、ため息まじりにつぶやく。

老婆「くさなやー、おにんがわかさごべんじゃちろなァ、
  あいえな、あっさみよい

私しゃいいけど、若い者には体に悪いよ



リリー「え?



付き添いの娘さん「
お母さんやきもちやいてんのよ、フフフ

老婆の隣の女性「フフフ!



廊下から、看護婦と挨拶を交わす寅の声が聞えてくる。





「おまえも、沖縄まできて、病気してよ…、
どんな苦労をしたんだ?」

この時のリリーを見つめる寅の目はどこまでも優しかった。

寅を静かに見つめ、何も答えずただ微笑むリリー。


リリーの長い生涯の中でこの日が最も嬉しい日だったことを
私は確信している。

「また、明日の朝早く来ますから」と看護婦に伝える寅の声を
聞くリリー、こんな嬉しく心強い言葉が他にあるだろうか








那覇市牧志の古い安宿  ホテル入船

沖縄県那覇市牧志2丁目13−13


この場所は大切な寅友の
吉川明さん
2012月の9月にに見事にピンポイントで見つけられました。

「協会推薦.ホテル入船 TEl.33-3016」と
書かれた看板に朝陽が当たっている。



沖縄県那覇市牧志2丁目13−13、入船のすぐ後ろのマンションは
古くなって入るが今も健在↓


現在の周辺はこうなっている↓

      





教会の鐘の音



ガタピシと二階のガラス窓を
開けて顔を出した寅、大あくびをする。




寅「ふあ〜…あああ!!



古い手すりが下に落ちて驚いている寅。

名前だけは一応ホテルだ。確かに…(^^;)




                   













那覇の
『新天地市場から農連市場付近』


市場本通り、市場中央通りから続き、
この通りを通過し、大平通りを経て、
農連市場方面に続いていく。


売り声「よってらっしゃいシャツは3枚で千円…3枚で千円…」

とても活気がある。




『ハイサイおじさん』が流れている。


 ♪ハイサイおじさん(ハーイ)

 ハイサイおじさん(アッヌガッ)

 夕びぬ三合ビン小 残とんな 残とら我んに分らんな

 アリアリ童 イェー童

 三合ビンぬあたいし我んにんかい

 残とんで言ゅな イェー童






『十九の春』が流れている。


一番の女性ボーカル

♪私があなたにほれたのは ちょうど十九の春でした
いまさら離縁というならば もとの十九にしておくれ





料品の店
サービス品1500円 2枚で1500円

ゴーヤー(ニガウリ)が売られている。

この海蛇(学名エラブウナギ)は神の島
又高と八重山の海で取れ陸上でも二、三時間は生きる事が出来ます
沖縄では昔から…症状…神経痛て愛用されてます エラブの粉末あります 1500円

結納セットあります 結納金


店主「海蛇って言う人がいるんだけども
  
 エラブだけが本当なんです

聞き手「はあはあ、じゃあ、ウナギちゅうのはどう言う意味なんですか



八百屋のおばさん「これで130円ぐらいです。
聞き手「あ、130円…その小さいのはどうなんですか
八百屋のおばさん「…上がってるんですよね。値上がりしてね…





                   




「ハイ、いらっしゃいどうぞ〜」






ハイサイおじさん


作詞作曲:喜納昌吉 アレンジ:南 良一



1.ハイサイおじさん(ハーイ)

  ハイサイおじさん(アッヌガッ)

  夕びぬ三合ビン小 残とんな 残とら我んに 分らんな

  アリアリ童 イェー童

  三合ビンぬあたいし我んにんかい 残とんで言ゅな イェー童

  アンセおじさん 三合ビンし不足やせみーら

  一升ビン我んに 呉みせーみ

2.ハイサイおじさん(ハーイ)

  ハイサイおじさん(アッヌガッ)

  年頃なたくと 妻小ふさぬ 貴方が女ん子や 呉みそーらに

  アリアリ童 イェー童

  汝や童ぬ くさぶってきて 妻小とめゆんな イェー童

  甘才やあまて三十過ぎて

  白毛かみてから 妻とめゆみ







十九の春


元歌は日露戦争の最中東京で生まれた「ラッパ節」が九州の炭坑労働者の間で歌われ、
その後与論島に伝わり、「与論ラッパ節」「与論小唄」と進化し、それが沖縄に伝わった
のではないかと言われている。

戦前、沖縄では「ジュリグヮー小唄」として歌われた。
それを1972年の日本復帰後、本竹裕助が歌詞を補作してレコード化、田端義夫さんが
歌ったことで全国的に有名大ヒットした。



私があなたにほれたのは ちょうど十九の春でした
いまさら離縁というならば もとの十九にしておくれ

もとの十九にするならば 庭の枯木を見てごらん
枯木に花が咲いたなら 十九にするのもやすけれど

みすて心があるならば 早くお知らせ下さいね
年も若くあるうちに 思い残すな明日の花

一銭二銭の葉書さえ 千里万里と旅をする
同じコザ市に住みながら あえぬ吾が身のせつなさよ


そういえば第35作「寅次郎恋愛塾」で若菜さんが自分の十九の春の
初体験のことを民夫に語っていたっけナぁ…。




売り声「はい、いらっしゃい!そうぞ…」






新天地市場前


アーケードの前で
サンダル、草履のバイをしている寅


那覇高等美容学校





                   





寅「さて、沖縄県民のみなさま、
 毎日お仕事本当に、御苦労さまでございます。
 ね、わたくしは、東京は葛飾柴又から
 はるばる海を越えて、ジェット機に乗って
 やって参リました。御当地初のお目見えで
 ございます。ねっ!

 御挨拶がわり御名刺がわり、
 今日はもうけは一切考えない、
 本来ならばこれ全部タダでやっちゃう!ね!
 しかし、私には
病気の妻がいます、
 私の恋する恋女房、これがいい女だ。



おばちゃんたち「アハハハ…


寅「あれ、アハハハって笑ったねおばさん。
 嘘だと思うんだったら見せてやろうか、
 でもおばさんたちにはちょっとかなわないな、
 いい女だから、






                   






客「あんして、はちょーちるー

寅「え?昔は男を泣かしたろうねえ


わあわあと笑い転げる観客達。


寅「お安くしとく、お安く、もんな美人だから、
 もう…500円、500円!





啖呵バイをしながら寅の手紙がナレーションで流れていく。





現在も名残がある店が残っている↓


        







寅が啖呵バイで立っていた「那覇高等美容学校」前。 学校は今もある。

        










寅からの手紙


さくら、飛行機の一件じゃ世話になったな。

無事沖縄について、元気で暮しているから安心しろ



さくらのテーマが流れる。



さて、リリーのことだけどな、

オレ本当に来てやってよかったよ…






手紙のナレーションと同時に




たがみ病院・リリーの病室


心配そうに見ている寅。




ギャグ1

医師「ハイ口開けて あーん」

知念先生、リリーの口の中を見る。

緒に口をあけて見ている寅。(^^;)




                   





ギャグ2


医師「
ハイ、胸開けてえ


つい自分の胸を開ける寅。(^^;)

看護婦
「フフ、寅さん」


医師、唖然(^^;)


医師、聴診器を耳にあて、リリーの胸に聴診器を当てる。





                   







あわてて眼をそらす寅。



その寅をおかしそうに見ているリリー。



寅の手紙続き

看護婦の話じゃ、オレが来るまでは
医者の言うことなんか何も聞かないわがままな
病人だったらしいけど、オレが来てからは、
すっかり素直になって、この調子じゃもう
大丈夫と医者も太鼓判を押してくれたよ






ある雨の日

リリーの病室



寅の手紙

寅「雨の日も風の日も、オレは病院に通い続けて
あいつをなぐさめているよ。

近頃はよく
笑うようになってな、顔色もよくなってきたし、
だんだん昔のリリーに戻ってきたよ




リリーのベッドの傍に、八百万のおかみさん(^^;)はじめ
同室の女達が集って楽しそうに寅の話を聞いている。

リリーも大きな口を開けて笑っている。

それで、オレはさあ、まさかリリーがさあ!ハハハ!


        





ある晴れた日
 リリーの病室



晴れあがった青空、窓の外に
まっ赤なハイビスカスの花が咲き乱れている。


しきりにセミが鳴いている。





ベッドに座り、化粧していたリリー、
ふと振りかえり、訪ねてきた寅に笑いかける。



みやげの果物と花を持って立っている寅、
化粧したリリーの顔にとまどっている。





                   





寅「
何だ。おまえ、おめかしなんかして、どうかしたのか?

リリー「
二枚目が訪ねて来るんだもの


寅「誰が、い、いつ来るの?



リリー「もう来てるよ


同室の人たち「フフフ…


寅「え、ど、どこに?




リリー「私の目の前♪




と、自分と寅を指差して、微笑むリリー。



同室の人たち笑っている。






                   








寅「バカだなあ、お前。
 そういうことこと言っちゃいけないよお前、
 カタギの衆が本気にするじゃないか、バカだなあ

   ほらあ、ほらあ、へへへへ



と、花を渡して照れる寅。


ずいぶん元気そうになったリリー


りりーのベットの前には琉球人形。








ホテル入船  帳場



うす汚い商人宿のせまくるしい帳場で
ビールを飲んで、蚊を叩きながら、チビた鉛筆
で手紙を書いている寅。




寅の手紙続き

そういうわけでオレは当分こちらに滞在するが
元気でいるから心配するな。
博、おいちゃんおばちゃん達にくれぐれも
よろしく言ってくれ。

沖縄のホテルにて、兄より…




あー、痒いなあ!くそお!」とウチワで足に止まった蚊を叩く。

え〜、え、え、兄、よぉ…り、っと…



中年の客が顔を出す。



寅「
泊まるの? おばち〜ぁ〜ん、お客さんだよ〜!


十九の春が流れている


二番の男性ボーカル


♪もとの十九にするならば 庭の枯木を見てごらん
枯木に花が咲いたなら 十九にするのもやすけれど〜




                  





え〜っと、切手切手きってえ〜、
切手切手きぃってえ〜と…あった〜よし!



引出しから切手を取り出し、
ペロリとなめて封筒にくっつける。


寅「よしゃ!

ぺチツ!

その切手代払わねえだろうなあ…(^^;)









たがみ病院  表

セミがしきりに鳴いている。



病院通いのクリーニングのワゴン車がやって来て停り、
寅が下り、すれちがった看護婦に挨拶。

寅「こんちは

寅、運転手に「
どうもお世話様

運転手「ハイハイ」



病院の建物に向う。


しばらくして出てきた寅、大声で
外に向かって


寅「
リリー!




裏手の丘のグラウンド

見はらしのいい丘の上に、浴衣を着たリリーが日傘を差し、
立って少年野球の練習を見ている。

近くの教会から聞えてくる子供たち
讃美歌の合唱




寅の声「おい!リリー!



寅の声にリリーが振りかえると、
坂道をあえぎあえぎ寅が駆けて来るのが見える。
リリー、片手を上げながら大声で叫ぶ。


リリー「
寅さん!




                     






寅「
いいのか、お前、こんな表に
 出たりして、医者に断ったのかよ?



リリー「あのね

寅「うん

リリー「先生がね

寅「うん

リリー「
あと三日たったら退院してもいいって



寅「ほうか〜、よかったなあ


リリー「退院できる〜




寅「そうか!



リリー「フフフ


よろよろとして寅の方へ
もたれかかるリリー。





寅「
おとっとと、大丈夫かおい






                    




教会のほうからオルガン伴奏で
子供たちの賛美歌 (461番)『主われを愛す』
が聴こえてくる。


♪主我を愛す
主は強ければ
我弱くとも
恐れはあらじ
我が主イエス
我が主イエス
我が主イエス
我を愛す〜。

この賛美歌461番は日本で一番古くに伝わったそうだ。
教会の日曜学校などでよく子供たちが歌っている。




歩きながら笑い声をあげるリリー。


リリー、サンダルで寅の足を踏んでしまう。



寅「痛っ、つつつつとくるくる回る。



リリー「
あらっ


ちょっとしたミニギャグ(^^;)











とらや 店



雨が強く降っている。

合羽を着た郵便配達夫が雨にうたれながら行く。



おばちゃん「
あ、ご苦労さん




とらや 台所


さくら、封筒の封を切っている。


昼食の途中の博、帳簿をつけていたおいちゃん、
お茶を飲みに来ていた社長、いずれも
さくらの手元を見つめている。


便箋をひろげて眼を走らせたさくら、大声をあげる。




さくら「あら、リリーさん退院したんだって





                    






おばちゃん本当!

おいちゃんんー、そりゃあ、よかったなあ

口々に喜び合う一同。


さくら「ちょっと読んでみるわね。


おいちゃん「うん



リリーの手紙を読むさくら

とらやのみなさん、この度は本当に
御心配おかけしました。

おかげで私退院したんです。





おいちゃん「
あ〜…と喜んでいる。


さくら「
一時はもうやけくそになって
  死ぬ覚悟までしたんですけど、
  今はあの頃のことが夢のようです




おばちゃんどんなにうれしいだろうねえ



さくら「
ねえ〜



さくら、読みつづける。

さくら「
寅さんが本部(もとぶ)の町の海岸に部屋を
  惜りてくれて、今そこで暮しています



社長「
療養してるんだな、海岸で




さくら「
空気はきれいで、水は澄んでて、
  とってもいい所ですって





博「
きれいらしいからなあ、沖縄の海は


・さくら「
ええと、毎日新鮮なお魚を食べて
  ぐんぐん元気になってるって。
  みなさん、本当にありがとうございました。
  それじゃ、お元気で、さようなら。
  沖縄にて、リリー…。

  よかったわねえ〜




意訳しないで、ちゃんとリリーの文章でそのまま読んでやれよさくら、
急いでるわけでもないのに…。




おいちゃん「
寅が出掛けて行ったかいが
    あったというわけだ



おばちゃん「
大変だったねえ〜、あん時は、
   飛行機に乗るの乗らないのって



第4作でハワイ行く時は飛行機なんかへっちゃらで
あんなに張り切ってたのにねえ(^^;)




さくら「
そうだったわねえ


社長「
ね、さくらさん、寅さんはどうなってんだい?

さくら「さあ…

おばちゃん「
帰って来るんじゃないのかい、
    リリーさんがよくなったんだから



手紙を一枚めくって、さくら、声をあげる。



さくら「
あら、まだ何か書いてある


おばちゃん「
うん?


さくら「
追伸。寅さんからくれぐれも
  よろしくとのことです。
  今夜は泡盛を飲みすぎて、

  
私のそばでひっくりかえって寝ています…



顔を見合わせる一同。



社長、恐る恐る口を出す。



社長「
そばで寝ているということは、
   ひょっとすると、
同棲しているっていう…


その場の空気が凍りつく(^^;)


まあ普通そう考えるよなあ、二人ともいい大人なんだから。




                     






一同の不安をかき消すように、博が言う。



博「
ま、そういう心配は、後回しにしましょう


青少年じゃあるまいし、四十をとうに過ぎた男と、
三十半ばの女がどう住もうと、
『心配』するようなことではないと思うが…



おいちゃん、社長を突付いて

おいちゃん「適当なこと言うなよ」ってぶつぶつ…





社長「ちょっと心配しただけなんだけどなあ…


さくら、博にお茶をついでやっている。








本部の海



背底島が向こうに見える




初夏の陽を受けて、キラキラ輝く珊瑚礁の浜。
澄みきったエメラルド色の海。





            





日傘を差したリリーが見守る中、

高志がモリを持って海に飛び込んでいく。

水しぶきがリリーにかかって、びっくりする。




リリー「
キャー!!



リリー「あー!魚いた!




浜崎漁港

海岸から家までの道


ハイビスカスの咲き乱れる路地を、
魚を入れた手網を抱えてリリーがやってくる。




魚が網の中で動いて

リリー「うわ!!

とはしゃいでいる。


リリー「おばさーん、おばさ-ん!

後ろからついてくる高志。




本部町 建堅(けんけん)

浜崎漁港から細道を入ってすぐの場所。


国頭家  庭





リリー「おばさん、おばさん!
 ほら、こんなにたくさん!





                   





富子「捕れたね


リリー高志君がもぐって突いたのよ」


おばさん「あ〜これカースビーだねぇ、
   これ刺身にしてもおいしいよ



リリー「ほんと

おばさん「
うん

リリー「
じゃ、今夜食べようかな。
  これおろしてくれる?


おばさん「いいよ

リリー「あ、うれしい

おばちゃん「ワサビあってい?

富子「まだあるよ

リリー「あ-、暑い暑い。
  少し休みしなくちゃ、高志君ありがとう


高志「ええ

おばさん「高志ー、

高志「あ?

おばさん「海洋博から電話があったんどー

高志「ぬいだか?

おばさん「明日9時までに入いれって

高志「ああ




【ゴマフエダイ. カースビー】

「マングローブジャック」。沖縄方言名はカースビー。
マングローブ林をはじめとする河口などの汽水域、漁港などに生息。最大10kgを超える。










夕方  国頭家の前の道


日暮が鳴いている


夕闇迫る国頭家の塀にもたれ、
リリーが寅の帰りを待っている。

角を曲がって疲れた寅が現れる。

リリー、大きく手を振る。



リリー「寅さん、おかえり、フフ…


手を上げて応える寅



            







国頭家 庭




寅とリリー仲良く敷地に入ってくる。


寅「
お母さん、ただいま


おばさん「おかえりー


寅は『お母さん』といい、リリーは『おばさん』という。面白い。




寅「あー、暑いよ暑いよ〜


リリー「御苦労さん。今夜はね、おいしい刺身があるよ


寅「あ、そお!ビール冷えてるかオリオンビール!



                   ふたりのなんという笑顔!

                  





リリー「もちろんさ



寅「うん


リリー-「汗かいただろ、はい、お風呂行っといで


寅「あいよ


リリーからタオルと石けんを受取り、
鼻唄まじりに風呂場に向う寅。




寅「どうだいおまえも入るか おい?


リリー「もう入っちゃったよと笑っている(^^;)


寅「うん



この躍動感!このやり取り、動きのキレ!
これぞ寅とリリーの青春だ。

こんな幸せな二人は見たことがない。
この時の寅とリリーは紛れもなく共に
同じ一つの人生を歩んでいたのだ。





              









国頭家  庭



ハイビスカスの花が
母屋からもれる明りを浴びている。



三線の音色と唄声





母屋の縁先で沖縄三味線の『三線』をつまびきながら、
悲しい唄「
下千鳥(さぎちじゅやー)」を
ゆったりと唄っているお母さん。



「ちぢゅやー」とは浜千鳥の方言呼称である。
舞踊曲としても人気のある「浜千鳥節

アレンジした曲というが、「下千鳥(さぎちじゅやー)」は
一段と哀愁をおびた曲調となっている。

沖縄芝居の愁嘆場に相応しい曲として用いられることもある
下千鳥の「下(さぎ)」は、スピードを下げるという意で、
「浜千鳥(ちじゅやー)」のテンポをスローにすると「下千鳥」となる。


下千鳥(さぎちじゅやー)という歌は沖縄の島うたの中でも
最も難しい曲であり、もっとも美しく悲しい曲の一つとされている。
「下千鳥(さぎちじゅやー)」は基本的には悲しいときに歌う唄らしい。
離別の唄だとも聞く。


お母さんの唄う下千鳥(さぎちじゅやー)の歌詞は
彼女のオリジナルかもしれない。
歌詞は地域によっても、人によっても、かなり変えて唄うそうだ。





リリーの住む離れ




小さな冷蔵庫(
たぶんオリオンビールが冷えている

壁にかかったリリーの派手な衣裳が目立つ。

カースビーの刺身を食べてオリオンビールを飲み、
枝豆を食べて、食事を終えた寅、寝転んでウトウトしている。

リリー、つと立って押入れから枕を取出し、
寅の頭にあててやる。

寅、眼を覚まし、アクビをしながら体を起す。



               





寅「あ-、すっかり寝ちゃっなあ。
 もうだいぶ遅いんだろ。そろそろ寝るか



リリー「今、お茶入れるよ。このお土産食べよっ!

ポットのお湯を土瓶にさすリリー。





寅「ん…あ、お母さん、また歌唄ってらあ






リリー「死んだ旦那さんがね、
   大好きだったんだってさ







               






寅「ふーん。大酒飲みだったんだってなあ、
 お母さんずいぶん苦労したんだろう、



富子を見つけて、


寅「ご飯すんだか?

富子「うん、すんだ

寅「うん





リリー、湯飲みにお茶を注ぎながら



リリー「さっき御飯作ってたら、富子ちゃんが来てね


寅「可愛いなあ、あの娘なあ





               





リリー「私に聞きたいことがあるって言うの


寅「分った、レコード歌手になりてたいっつったんだ、
 お前やめろって言ったろ、この道の苦労はお前が
 一番知ってるからな



リリー「違うよ、そんなことじゃないんだよ



寅「へえ〜





                 






リリー「私と寅さんは、夫婦かって聞くの





寅「…!




寅の目を見ているリリー





寅「…それでお前、何ていったのぉ…?





リリー「まだ式はあげてないよって、
  そう答えた




リリー、ビールの王冠で遊んでいる。




寅、狼狽しながら、



寅「その物の言い方は誤解を
 招くんじゃないかなあァ〜。
 
もぉ…

 
遅いから寝ようか





逃げるように立ち上ろうとする寅。




リリー「寅さん…





寅「え?何?




リリー「私、一度聞きたかったんだけ




寅「何を?




リリー「あんた、今までに誰かと
  所帯持ったことある?





                 





リリーの真剣な言い方に、思わずヘドモドする寅


寅「そういう過去はふれない方が
 いいんじゃねえか、

 お互いにいろいろあるからさ





リリー「私はあるよ、所帯持ったこと




寅「オレ知ってるよ、うん




リリー「寅さん、どうなのさ




                 





寅「いいじゃないの、今ぁ



リリー「白状したっていいだろうないないなんにも(^^;)



寅「だから、つまりさ、こっちがいいなあって思っても、
 向うが
良くないなあ〜と思う事があるしさ。
 
要するに、いつも振られっぱなしっていうことだよ。
 フフ…、そんなことまでオレに言わせんのか、バカ。
 さ、もう寝よ






リリー、おかしげに寅を見つめている。




リリー「じゃ、ねえ…



寅「オドオド(^^)




リリー「こうやって女と差し向いで
  御飯食べるの初めてなの?





寅「そうそう、初めて初めて。

 あ、あの寝る前に薬飲んで寝ろよ、なっ

と、アタフタと出て行く。


 



なにもかもが寅には初めてのことばかり(^^)
もうこの手の話題、するだけでも寅にとっては
ドキドキもの。ダメだねえ〜。



                  






寅「おッ青年、高志、

高志「はい


寅「なんだお前こんな夜遅くまでえ?
 
夜遊びは体に毒だぞ


高志「夜遊びなんかじゃないですよ、
  
青年会の集まりです




寅「調子のいいこと言って、テメエ


と母屋に上がっていく。



しばらく暗い庭に眼をやっていたリリー、

ため息をついて卓縦台の上を片づけはじめる。




                       ……
                




富子が果物を盛った籠を手にして顔を出す。

富子「こんばんは。これ、すっぱいけど
  体にいいから食べなさいって


リリー「なあに、これ?


富子「シークヮサー


これは酸っぱいが効くよ〜!




               





リリー「へええ

富子「おやすみなさい

リリー「どうもありがとう



笑顔を見せて去る。

まだ青いシーク
サーの一つを手にとり、かじるリリー


酸っぱい…




リリーは、寅と人生を共に生きたいことを、
それとなく寅に分からせようとするが、
寅は今のままで十分満足そうだ。
リリーの言葉をするりするりとかわしてしまう。
リリーは、もっと寅に寄り添いたいのに…。

リリーは今、寅に恋をしているのだ。



オリオンビール

会社設立は昭和32年5月。当時の社名は「沖縄ビール株式会社」。

オリオンビールの名は公募による。

日本全体でのシェアは0.9パーセントだが沖縄ではシェア約55パーセントを誇る。
現在はアサヒビールが筆頭株主となり、業務提携してアサヒビール・ブランドの
生産販売を行っている。オリオンブランドの販売量は漸減傾向にあるようだ。
私も八重山滞在中はオリオンビールを飲んだが、少し甘め。



シークヮーサー(ヒラミレモン)

シークヮサーは、私がバリでいつも食べている柑橘ものである。
皮をマーマレードにしても美味い!
八重山に滞在した時も、そこらじゅうで売っていた。あのすっぱくて苦い
味がたまらないのだ。


沖縄特産の柑橘系果物で、沖縄では青切りシークヮーサーと
呼ばれる未熟なままでとった実を、泡盛に絞って入れたり、
香味料として焼き魚やさし身などの料理に使ったりする。
また熟した実は、絞ってジュースにしたりもする。

シークヮーサーにはフラボノイドの一種
ノビレチンが他の柑橘系
に比べて果汁で2〜12倍、さらに皮には400倍も含まれていると
言われている。ノビレチンは、抗癌作用、血糖値を下げる作用などが
あり、とても体によい。

沖縄の言葉で「シー」は酸、「クヮサー」は与える者という意味。





この国頭家がなんとピンポイントで見つかったのだ。



さて今回、このロケ地のピンポイントを知らせてくださったのは、
私の寅友であり、SNSの仲間であり、
私たちの周りからはロケ地探訪の天才とまで呼ばれている
京都市の深草在住の寅増(とらぞう)さんだ。
彼のロケ地探訪歴はもうかれこれ20年ほどになる。

その彼がついに遠く遠く沖縄に行かれ、
あの寅たちがつかのま住んだ蜜月の棲家をついに探し当てられたのだ。
寅増さんは、龍野を描いた私の絵もお持ちのコレクターさんでもある。
東京にも何度か来ていただいているし、龍野での展覧会も来ていただいた、という
とても深いお付き合いの方だ。


ちなみに
このロケ場所はもともと「国頭郡本部町健堅(けんけん)付近だということは
色んな方々や雑誌などからもわかっていたし、
私も最終チェック段階で編集協力し、名前を載せていただいている
講談社の「男はつらいよ寅さんDVDマガジン」のまとめ本
「男はつらいよ寅さんロケ地ガイド」にも健堅(けんけん)あたりに
あの蜜月の家『国頭(くにがみ)家』があったことはしっかり載っている。
またあの舞台になった漁港が『浜崎漁港』だということまではつきとめているが

それより詳しいピンポイント情報がなかったのである。

そらまあ、そこまで行けばある程度掴めるのかもしれないが
それはもぅあの国頭郡本部町は東京からは時間がかかるのだ。
今の私には不可能。(T_T)

なかなか飛行機に乗り、はるばるあそこまで行って
地道に一日中かけて探すというようなことはしないものなのである。
那覇空港からバスで国頭郡本部町まで2時間以上かかってしまう。

寅増さんはこれまでも、ロケ地における数多くの世界初登頂を成し遂げてこられたが
おそらくこの国頭郡本部町の国頭家も正式で正確な記録としては世界初登頂だと思われる。

少なくとも今までプレスやインターネットを含む巷のどのメディアにも紹介されていない。


さてそれでは寅増さんの貴重な写真をいくつか使わせていただきながら
寅増さんになり代わって紹介して行こう。



地図↓で頭の中に正確な場所を入れてください。

 





まずはこのシーン。
私が大好きなシーンだ。

夕方寅がバイから戻ってくるのをひたすら待っているリリー。
そして寅が道の向こうに現れるのである。
このころはまだ寅は水族館のイルカのお姉ちゃんに入れ込んでいないから
文字通り、リリーとの甘い蜜月の時期だ。

    



この塀が、二人が下宿していた国頭家(くにがみけ)の外の塀だ。
風除け 津波除け 泥棒除けも兼ねているのかな。

    




     
寅増さんが撮られた写真↓ (本編を再現した高羽アングル)


     





そして外門を入って6〜7メートルほど歩くとようやくこの画像で見える内門↓があり、
その中に左に母屋、正面に離れが建っている。

     


現在はこの外の門とそれにくっついている白いトタン屋根の倉庫だけが残っており
撮影がまさにここで行われたことを物語ってくれる。
6〜7メートル奥には、今は内門もなく、その向こう左の母屋も
そのまた奥のリリーの住んでいた離れも今はない。

そして今は道から見て右側にブロック塀ができ、隣の肌色鉄筋の大きな建物が迫っていた。
このブロック塀のあたりは映画撮影時は庭(植物)があったところだ。


     
この写真も寅増さんが撮られたもの。↓この写真は道から撮ったので内門があったところまではまだ遠い
      外門と内門は結構距離(6〜7メートルほど)があることがこれでわかる。
      外門にくっつくように建っている倉庫の白いとたん屋根は撮影時の面影がそのまま残っている。

      


      倉庫の白いトタン屋根が本編でも少し見える↓

      




この外門の中からの映像はとても貴重で結局このアングルから見た現在の
向かいの2軒の家が物的証拠の最後の決め手となった。↓
そして外門の長い塀の一部が向かって右側にしっかり見える。

     



外門の中に入って撮影すると撮影時に映っていた家が今も残っているのがわかる。
     この写真も寅増さんが撮られた写真↓

     




この国頭家の夜のシーンは全て大船のセットで撮影されたのだが、
夕暮れ時のこのリリーの離れはまだ光があったせいか
かろうじて現地ロケで撮られている↓

      


一方、この夜のシーンは大船のセット撮影↓ 実によく再現してはいるがやはり違う。

      



       これは現地ロケで撮影された母屋の前

         


  これは大船のセットで撮影された母屋の前。植物などいろいろ違う。特に母屋の柱が違う。

       




一方・・・


      国頭家から伸びている浜への細道はどうなっているかというと・・・

      



残念ながら石垣はもうない。みんなブロック塀。でもまだ地の道。
      この写真も寅増さんが撮られたものです。↓
      



それでも今も面影が残ってる箇所はいくつかある↓

  


ただし、実はこの道は国頭家からまっすぐに浜へ伸びている道ではない。
ちょっと離れた場所から海へ伸びている地道だったのだ。
でもまあ、家から浜への道まで歩いて数分なので違和感はない。




   浜崎漁港の浜のほうから逆にあの細道を見るとこうなる↓

    



   この写真も寅増さんが撮られたものです↓ 
   現在はこうなっている。建物も含めやや面影が残っている。

    




以上国頭家ピンポイント発見レポートでした。

寅増さん、レポートやお写真でのお知らせありがとうございました。
長旅お疲れ様でした。

2014年4月7日 加筆。



私も数年以内に行きたい場所だ。遠いけれどもやはりどうしても行きたい・・



リリーの夢を見てたのよ・・か 


       





行かれる方のために、地図と航空写真を再度添付↓しておきます。


浜崎漁港からの細道がそのまま国頭家に直結していないことが地図でもわかる↓
本編の中でも2つのカットで撮られている。


国頭郡本部町建竪1093付近

   




  赤く囲んだのが国頭家。黄緑がリリーの離れがあった場所。(今はもう外門と倉庫以外なにもない)
  赤い矢印は浜崎漁港の浜辺からのリリーの歩いていた細道(上の地図参照)

   






話は変わって・・・


   ところで誰かこの場所をご存知な方いらっしゃるでしょうか?^^;
   沖縄ロケの中で最も難攻不落の場所です↓

   







翌朝 浜崎漁港 舟着場



おじさん「わかちゃあ、みんしんてー

おばさん「おみゃげきて〜

おじさん「わかみちんたはわかちゃあれらわかしんことをみなすんて〜

おばさん「おとおととうひゃあ、かあまんかじ、けめじじやあ〜アハハハ



照りつける陽差しの中で、
真黒に日焼した漁師が、サバニを浜に引き上
男に混じって、おばさんも働いている。




ハイビスカスの枝を片手に持ったリリーがブラブラやってくる。


リリー「おばさん、寅さんどこへ行ったか知らない?






おばさん「さっき会っただなあ…。あんまり暑いから、涼しい所
   探していくって出かけて行きよった





               







リリー「そう…




               






おじさん「おい!さがちのめがちょめ

おばさん「たあふな、かあさみやあ

おじさん「あ!わかふくすね

おばさん「ほんとにわかくしやあ、ぷんたのやあ





リリー「なに考えてんだろうね、男なんて…





どうしても気ままが出てくるんだね、寅って







村近くの一本道


セミが煩いくらいに鳴いている。


ギラギラと照りつける強烈な陽差しの下、
畑の中の真っ白な道を、アイスキャンディを持った寅が
あえぎあえぎ歩いている。



寅「ひえ〜〜〜、ああ〜、あちい、あちい…


電柱の細〜い影に手を広げ合わせて
無理やり入ろうとする寅。


今も語り継がれる伝説の『電柱ギャグ』




寅「
うへぇぇ…


もうヘロヘロ



                    うへぇぇ〜
              




寅「
うわーっ、あち


アイスキャンデーを額に当てる。 
 


寅、ギラつく太陽を恨めしく見て


寅「あーっ、あち、うわあああっ」

寅、涼しい所探してる割には、日陰も無い長い一本道
を歩くなんて自殺行為だよ(^^;)



鳥居の傍の僅かな日陰に逃げ込む寅

寅「あつい〜、は、あー、あつい〜

使い古した乗用車が走って来て寅の傍に停り、中から高志が顔を出す。


高志「寅さん、何してんだ、そんなとこで

寅「おう、お高志か。どこへ行くんだおまえ

高志「海洋博に仕事に行くんだ

寅「海洋博?そこ涼しいか

高志「ああ、水族館なら涼しいけど


寅「うん、その涼しいとこ、ちょっと連れてってくれや


ヒョロヒョロと立上り、後部席に座りながら、



寅「いやあ、参った参った〜、この沖縄ってのは、
人間の住める暑さじゃねな、おい、え?


ひでえ〜〜〜(▼▼;)




              





高志、ムカッとして、

高志「寅さん、沖縄の悪口言うなら、下りてください


寅「あ、いや、悪かった悪かった。いい所だいい所だ。
 とってもいい所だここは。涼しい所行ってくれ、
 頼むから行ってくれ



口先だけ丸出し(^^;)




ムッとした表構でエンジンをふかす高志


暑そうな音をたてて出て行く車。
高志のクルマのミラーに
熱帯魚のカップルアクセサリー







国営沖縄海洋博覧会記念公園



本日はようこそ国営沖縄海洋博覧会記念公園にお越しくださいました。
この記念公園は昭和50年の沖縄国際博覧会を記念して『太陽と花と海』を
テーマとして誕生した、我が国で最も大きな亜熱帯公園でございます






水族館 イルカスタジオ・上部


ダイバーの女性たちが、酸素ボンべを背負いマスクを
つけ、水槽の中に入って行く。






水族館の中 イルカスタジオ



巨大な水槽の中を四匹のイルカが泳いでいる。
そのイルカを優しくあやつりながら、水槽の中をゆっくりと泳ぎ出す。

その水槽のガラス越しに見える少なめの
観客の中に寅がいて、気持よさそうに居眠り。



エミール・ワルトトイフェルの
スケーターワルツが流れ始める。




イルカの演技を説明する女性アナウンサーの
やわらかな声とワルツを子守唄のように
聞きながら涼しげに眠っている寅。


ガラス越しの青い水槽の中でイルカの演技が続く。




場内アナウンス


常夏の島沖縄の輝く太陽の光と
澄み渡った海が織りなす、
エメラルドグリーンの世界、
青空に舞い遊ぶカモメのように、
水の中を自由自在に遊ぶイルカの群れは、
南の奥深くにあるという幻のユートピア、乙姫様の竜宮城を
思わせる光と色と優雅なダンスの一大シンフォニー、
地上の真夏のキラメキとはガラリと変わった涼しさ一杯の夢の世界。
青〜い幻想の世界でございます。




寅、ようやく眠りから覚めて、
水槽の中のイルカとダイバーの女性に焦点が合う。




人懐っこく、甘えん坊のイルカ君たち、その愛らしい瞳に見つめられると、
思わず微笑んでしまいますね。仲良しのイルカ君たち、一番ちっちゃいのが、
可愛いモトちゃん。なかなかの美人ですね〜




ずっと、食い入るように見つめる寅。





                




あとの大きな3頭がバンドウイルカのクロちゃん、サンちゃん、ムクちゃんです



微笑みながらその姿を見るかおり。
水槽のガラス越しに、口を開けた寅の顔。




この曲の作曲者「エミール・ワルトトイフェル1837年〜1915年

フランスの作曲家。ドイツ系ユダヤ人の子として
1837年ストラスブールに生まれる。

音楽一家で、母からピアノを学んだ。パリ音楽院で学んだ後、ナポレオン三世の
皇后ユージェニー妃付のピアニストとなり、1865年宮廷舞踏楽長となる。
1870年普仏戦争で第二帝政が崩壊すると指揮者や作曲家として活躍した。
代表作は1882年の「スケーターズワルツ」「女学生」など。








イルカのプールの近く


作業服を着た高志、イルカのえさをリヤカーに乗せて運んでいる。

高い所から聞こえる寅とかおりの笑い声に顔をあげる高志。
プールの上で、寅とかおりが語り合っている姿が見える。



遥か彼方、青い海の向うに見える伊江島。


見晴しのいい水槽のヘリに腰を下ろしている寅とかおり。



寅「そうかい、はー、じゃあ一応泳いでて
 楽そうに見えるけど大変なんだ



かおり「そうなんです


寅「へえ、へっへへ、


かおり「クロちゃ〜ん、どうしたのお〜?


イルカの鳴き声



寅「へえ、こんなんがそんなに可愛いかねえ


かおり「病気した時なんかねえ、淋しがって鳴くのよー


寅「ほお…、そんな時どうすんだい?

かおり「水の中で抱いてやりますっと抱く真似

寅「抱くの?とこれまた抱く真似。

寅「はーあ、うまくやってんなあクロちゃん、へっへへへ



寅「でも、いずれ…結婚したらこの仕事やめるんだろう


かおり、恥ずかしそうに、

かおり「まだそんなこと考えてません

寅「んな、恋人いるんだろう?

かおり「いいえ

寅「嘘だーい、へっへ


寅「じゃ、ボーイフレンドは?
 ボーイフレンドもいないの?



首を振りながら照れるかおり。





                






かおり「クロちゃ〜ん

寅「そうかい〜?じゃ、このイルカが恋人か?おい

なでようとした寅、噛まれる。

寅「
ああ!噛んだ!噛んだよ!

かおり「ハハハ


寅の悲鳴に、おかしそうに笑っているかおり。


寅「イテーヨー〜〜〜

かおり「フフフ



国営沖縄海洋博覧会記念公園

1975年の沖縄国際海洋博覧会(通称・沖縄万博)跡地の記念公園で、
首里城公園と同じ国営沖縄記念公園のひとつ。







本部の海岸の夕焼け




国頭家  庭



寅が鼻唄まじりに帰って来る。


寅「♪私があなたに惚れたのは
  ちょうど十九の春でした-…



風呂場から出て、髪をといでいる富子に声をかける寅。


寅「富子ちゃん、リリー寝たかな?



富子「
さあ…







離れのリリーの部屋


蚊帳の中でうちわを使っていたリリー、




              




寅「リリー、寝たか?


リリー「
起きてるよ、どこ行ってたの?


寅「ん、あの…水族館へ行ってきたい。
 なんだか魚ばっかり泳いでいるだけで、
 面自くもありゃしねえや」
 ほおおお〜( ̄、 ̄)

起き上がろうとするリリー

 
あ、いいよ、いいよ
 寝てな寝てな、お前まだ病人だからよ。
 明日病院へ行く日だろう?



リリー「


寅「ん、忘れんなよ、な



母屋の方に去る寅を見送るリリー。




寅「おう、青年高志、ウイスキー飲もうや。
 
な、泡盛あきちゃったんだよ





                    








遠ざかる寅の声を聞きながら、何かを考えているリリー。


美しい…



           




蛙の鳴き声が聞えている。





寅は、リリーのために沖縄に飛んできた。
退院するまでは足しげく毎日通って話をし、励ました。
しかし、リリーが元気になってくると、徐々に寅のフーテンの
気質が表に出始める。リリーは、寅との関係を深めたくて
しょうがない。しかし、寅は煮え切らないで、リリーが元気に
なってきたことをいいことに、夜まで外でフラフラ遊んでいる。

リリーは寅と近くにいるはずなのに、
気持ち的は徐々に孤独を感じ始めているのかもしれない。








朝 本部の海岸



漁を終えたサバニが、白波を蹴立てて帰って来る。
朝陽を浴びてキラキラ輝く朝の海

サバ二 :沖縄の漁師が使う細長い小型の木造船



浜崎漁港 舟着場


男達に混じって、お母さんがサバニの陸上げを手伝っている。




タオルで頬かむりをした寅がフラフラ歩いてくる。


寅「暑いねえ〜

漁師「そこ危ないよ


寅「おう、おう、エヘヘへ ハハハ

寅、ロープをピョンと飛び越えて




船陰に座り込んで


寅「あー、あ、あーち、あーち、
 
お母さんよお!





               




サバニを砂浜に上げながら、

お母さん「はいい!このニュアンスいいねえ(^^)


寅「せがれどこ行ったい?


海洋博のかおりちゃんところへ連れて行って
もらおうとしているんだな、どーせ (ーー;)





お母さん「仕事休んでよおー、リリーさん病院連れて行くと
   言って出かけたぁ!






寅「へえ〜、そらまた親切だねえ、いやに。
 あーあー、こう朝っぱらから暑くちゃ
 たまんねえなこりゃ、暑い暑い



こういうことは変に勘が鋭い(^^;)



フラフラと戻って行く。








高志の車の中


ミラーに赤と青のカップル熱帯魚


助手席に乗っているリリー

.フロント.ガラス越しに米軍の広大な敷地が見える。

リリー「そのゲートがあるでしょ、その正面を左に曲って
キャンプハンセン第1ゲートの前


高志「はい

英語の看板の並んだ歓楽街に入って行く。





キャンプハンセンの前の通り

金武(きん)の町

一般には『新開地』と呼ばれている。



ベトナム戦争時は賑やかであっただろう、米軍兵士相手の歓楽街が、
今はすっかりさびれている。




            






道路脇に車を停め、キョロキョロ眺めている高志。

FLOOR SHOW 
EVERY NIGHT

CLUB UTOPIA
CLUB MOON RIVER

NEWYORK

米兵たちが街角でたむろしている。


近くのキャバレーの暗い室内から、
リリーが支配人ふうの男としゃべって出てくる。



高志、車のドアを開けてやる。



リリー「どこも不景気だね。

  もうちょっと先へ行ってくれる。
  もう一軒心あたりあるから



高志「はい



               









ドライブ・イン 浜田

DRIVE IN RESTRANT

和室 完全冷房 和食 洋食



米軍のジェット機の騒音


黙々とライスカレーを食る高志に、
リリーが自分の皿を差し出す



リリー「これも食べて。
  …悪かったわねえ、
  私のために一日引っぱり回して




高志、首を振り、水を飲む


リリー「ツー・ステージで八千円だってさ。
  衣裳代にもならないわよ、バカにして


  煙草一本くれる?


高志「ええ


机の上の煙草の箱から一本抜き出すリリー。

ライターの火をつけてやる高志。


リリー高志の手を持って自分に近づけて火を点ける。


緊張する高志。



リリー、煙草の煙を吐く




リリー「
沖縄は暮しやすいって言われて
  来たんだけど、どこもおんなじねえ…




疲れた表情で窓の外の海を見ているリリー。



米軍のジェット機の騒音


窓を開けるリリー

ドライブイン浜田さん、冷房完備じゃないの?
そこらじゅうの窓開いてるってことは
電熱費節約で冷房入ってないのかも(^^;)




          




リリー「今日はどうしてんのかしら、あの男…




高志「寅さんですか?



リリー「そう。どっか商売に行ったのかしらね...



高志、口ごもりながら声をかける。



高志「あのう…、リリーさんは、いずれ、
  寅さんと結婚するんですか





リリー「え?



                




顔を伏せる高志
 




リリー「どうして?





高志「あのう…、こんなこと言って…怒らんで下さい。
  あの人、なんか、リリーさんにはふさ
わしくない
  ような気がするんです。
  リリーさんには、もっと、頼りがいのある人が…。




リリー
……




高志「
すいません、余計なこと言って…すいません!



じっと高志を見つめていたリリーの眼が、優しくなごむ



リリー「いいのよ。私、とってもうれしいわよ。
  そんなふうに心配してくれて





                



高志「そ、そうですか…




真赤になっていた高志、急に大声を出し、
おばさんを呼ぶ。



高志「あ、おばさん、おばちゃんコーヒー!


おばさんかおばちゃんかはっきりしろよな高志



おばさん「ティーチ なん ターチなん?
     (一つなの二つなの?)


高志「
ターチ


おばさん「ターチ、ハイ




ウチナーグチの数勘定

1、ティーチ
2、ターチ
3、ミーチ
4、ユーチ
5、イチチ
6、ムーチ
7、ナナチ
8、ヤーチ
9、ククヌチ
10、トゥー



ジェット機の轟音がまた聞こえる


高志これ、いただきますとカレーを食べる。


妹の富子ちゃんに同じようなことを質問された時は
「まだ式はあげてないよ」と茶化すリリーも、兄の高志の
同じ質問には、不思議そうな顔をする。富子ちゃんと違い、
高志は大人だと思っているからかもしれないが、彼は
男女の機微や人間の優しさを見通す目がまだ養われていない。
それゆえリリーが人間に対して求めるものが分からないのだ。

深い哀しみを通してしか感じることのできない人間の魅力を
高志が分かるまでにはまだもう少し歳月がかかりそうだ。

しかし、人を思いやる気持ちを誰よりも純粋に持てるのも青年
なのである。リリーは一途に人を想える高志に感動している。






海洋博記念公園・イルカスタジオ


かおりをまじえて四、五入の若者達が、
水槽の中をタワシ
やホースで掃除している。



水槽のヘリに上ったかおり、
下を見下ろし寅に気づき、片手を上げながら




かおり「寅さん



寅「よお!ハハ



                




寅もまあ、マメだねえ〜 ┐('〜`;)┌




従業員「かおりさん、だあれえ?


かおり寅さん


従業員また来たの?」と呆れている。


かおり「うん



寅はこのへんの淡い関係の時はえらいしつこいよ〜。
もっと仲良くなって、親密になるとアタフタと例の如く
逃げ出しちゃうけどね(^^)




黄色いバケツに『クロ』と書いてある(^^;)




寅「何だい、今日は休みだって

かおりはい


寅「
せっかく来たのによ〜



階段を上がり、水槽のヘリに腰を下ろす寅。


寅「あ〜、くたびれちゃったよオレャ〜
 暑いのにご苦労さんだね



水槽の壁のあかを力を入れてこする若者達。

寅、水槽の底に横たわっているイルカを
見つけてびっくりする。




寅「あ!おい、おねえちゃん、大丈夫かい、
 そんな所に魚まるごとほっぽりだして。
 死んじゃうぞ。

 ちょっと水入れてやれ、水



かおりの持ってるホースを引き伸ばそうとする寅。

それ水道と繋がってまへんで(^^;)



                




かおり「平気よ。イルカは哺乳類だもの
ヾ(- -;)寅には通用しません





寅「平気たって、あーあ、ロパクパクさせて
 苦しそうにしてるよおい、

 干物
になっちゃうぞおい!

┐('〜`;)┌これだよまったく



ハハハ!


おかしそうに笑う若者達。

寅「大丈夫か、おい


従業員「大丈夫!










オクマ・ビーチ


沖縄北部オクマリゾート内のビーチ

OKUMAの看板


白い珊瑚礁の海岸の木陰で、イルカ・スタジオの
若者達が陽気にエイサーの時の代表的な唄
唐船ドーイをうたっている。

三線を弾く若者、指笛を吹く若者もいる。

ステテコ姿で上機嫌に一緒に手拍子を打っている寅。



♪唐船ドーイ さんてえまん
 一散走えーならんしや ユーイヤナ
  若狭町村ぬサー 瀬名波ぬタンメ
  (サーヨセンスル ユーイヤナ)




エイサー(旧盆の賑やかな民族舞踊)といえば『唐船ドーイ』と
いうくらい有名な唄と踊り。みんなで騒ぎかき回す『カチャーシー』の
際の代表曲。


カチャ−シーとは、三線の早弾きに乗せて、各自自分のスタイルで踊る、
その踊りのこと。お祝い事の席では、必ずと言っていい程、最後は
カチャ−シーを踊る。




           



    

唐船ドーイ さんてえまん
一散走えーならんしや ユーイヤナ
  若狭町村ぬサー 瀬名波ぬタンメ
  (サーヨセンスル ユーイヤナ)
(唐船が寄港したぞーと言っても、
ゆっくり歩いて駈け出してこないのは
 若狭町村の瀬名波のおじいさんぐらいだ。)

イヤ、アサッサッサッサッサッ


瀬名波のおじいさんってなかなかの出不精&あまのじゃく(^^;)

瀬名波の爺さんというのは琉球王朝末期のころ実在した人物らしい。
この腰の据わった瀬名波の爺さんだけは、唐船が久しぶりに港に帰ってきても
「船はこっち向きにやって来るのに、何で走っていく必要があるか」と、のんびり
歩いていった。という話。

肝っ玉の据わった大人物だったらしく、あるとき急に雨が降りだして、人々が慌てて
走って行くのを見て、「めーんあみ、くしんあみ(前も雨、後ろも雨)」と笑って
悠然と歩いていったという話もある。



山田監督の脚本では「谷茶前」を唄い踊っている。


前の踊り手たちから、バトンタッチされた
寅とかおりが踊り出す。

寅見よう見まねで雰囲気を作っている。

寅「まずいなあ〜」と照れて

寅「
難しいなあ〜…こうか? おう、ヨイショ!



♪若狭町村ぬサー 瀬名波ぬタンメ
  (サーヨセンスル ユーイヤナ)


イヤ、アサッサッサッサッサッ




            




若者達の掛け声と指笛。










夕暮れ時  国頭家  庭


外の調理場に立って夕食の仕度をしているリリー。

もう、表は暗い。


寅の笑い声に、リリー、ふと顔をあげる。





                





海岸に通じる道を
寅とかおりが笑いあいながら歩いてくる。



:
寅「ここに今住んでんだよ

かおり
あ、そうですか

寅「んー…オレ今ここに住んでんだよ。じや、かおりちやんは
 毎朝かおりちゃんこの道通ってたわけだ」

かおり「はい、そうです

 はあー、知らなかったよオレ。あ、ちょっと寄って行くか」


         



かおりいえ、連絡船の時間がありますから


寅「そうかい


汽笛 プォ〜〜!!


かおり「
あ、汽笛が鳴っている

この時点で汽笛じゃ普通は
間に合わないんじゃないかな…(^^;)



寅「じゃ、急いでいったほうがいいよ


かおり『どうも今日は御馳走さまでした。さよなら


寅「おいおい、おい、気を、気をつけろよ、転ぶぞ

寅頷いて、「あばよ!と傘を上にあげる。






手を振り、満足気に庭に入ってくる寅


寅「♪いまさら〜離縁とぉ〜いうのならぁ〜

  もとの十九にしておくれ……






リリーの離れの中



卓袱台の上におかずを並べているリリー


寅が顔を出す。


寅「はあー、飯か。はあー、今日は暑かったなあ。
…タオルと石けんくれやー



リリー「だあれ、今の女の子?



寅、ギョッとして、焦りながら


寅「え?  ああ、今の、そのへんでちょっと会ってさ、うん、
 冷たい物か何かおごってや
ったら喜こんでた。
 まだおぼこ娘だい、へへへ




          



リリー、笑いながら、


リリー「バカだねえ、何もそんな
  言いわけすることないじゃないか



とはいいながら複雑な顔



寅「今日病院行ったんだろ、医者何だって?




          



リリー「大分よくなったって


寅「あ、そうか、そりゃよかった


リリー、石鹸とタオル渡す。

寅「
はい」と受け取る。


リリー「だからね、私、あしたっから働くことにした



寅「働くって何すんだ?





                





リリー「決ってるじゃない、歌うたうのよ、
  他になんにも出釆ることないもん





とタオルと石けんを出す。



寅「バカだね、お前。
 そんなことしたら元も子もなくなっちゃうぞぉ」

と座敷に横たわって足を投げ出す寅


寅「
歌をうたうったって酔っぱらったアメリカの
 兵隊とこで歌うんだろう、よせよせよ。
 それよりお前はね、この庭でさ、花でも眺めて
 ブラブラしてればいいんだよ、涼しくなるまで、な



それ歌子ちゃんにも言ってたよな(^^;)



リリー「
もうお金ないの、どうやって食べてくの?




                





寅「お前貯金持ってたじゃないか




リリー「もう使っちゃったのよ

リリー、立ち上って棚から郵便貯金通帳を出して見せる

リリー「ほら。
  この残りはね、どうしようもなくなって
  内地に帰る
時の飛行機代


リリー『国民健康保険』に入っていないんじゃないかな…。
もしそうだとしたら入院費や薬代であっという間に
お金なんかなくなっていっただろうことは想像できる。





寅、あまり真剣に聞いていない。
めんどくさそうに答える。



寅「オレがなんとかしてやるよ




               




リリー「嫌だね



寅「どうして



リリー「男に食わしてもらうなんて、私、まっびら




           


 


寅「フフフ、水くさいこと言うなよ、
 お前
とオレとの仲じゃねえか







リリー「でも…夫婦じゃないだろ





               








寅「えつ?





ギョッとしてリリーを見つめる寅。







リリー、目を伏せがちに…




リリー「あんたが夫婦だったら別よ。

  …でも違うでしょう






               





寅、ヘドモドしながら




寅「馬鹿だなあ、お前、
 お互いに、所帯なんか
 持つ柄かよ〜。

 真面目な面
して
 変なこと言うなよお前〜…






               







リリー、悲しげに寅を見つめる。





リリー「……



               





リリー「あんた女の気持なんか
  分かんないのね…





          







寅「、何がよぉ〜





               





リリーの目が涙で潤んでいる。




寅、言葉を続けようとするが、
リリーの眼に浮かぶ涙に気づき黙り込む。







リリー「
……




寅 「
……




            







長い沈黙の時が流れていく。





            




母屋の方から来た高志が顔を出す。




             






高志「
リリーさん、病院の薬、忘れてました


救われたように声をかける寅


寅「おう、青年、今日は御苦労さん、

リリーありがとう

寅「
あちこち行ったんだって


高志「ええ、寅さん、今日も水族館に行ったんですか


寅「おー、せっかく行ったのに休みでよお、フフ、
 娘達にね、海水浴引っぱり回されてさ、大散財だよ、フフ




リリー不機嫌になって


リリー「結構だねえ。私達が仕事探して
  あちこち歩いている間に、あんたは
  娘っ子といちゃ
ついてたのか



寅「何言ってんだよお前は〜…




リリー「男なんて身勝手なもんだって言ってんだよ





寅「フン、嫉いてんのか



リリー「…!!



リリー「嫉くほどの男か!そのへんの鏡で
 てめえの面とっくり見てみなってんだ!





                





寅「言ったなこの野郎、てめえ!




あっけにとられて二人のやりとりを
眺めていた高志、大声で叫ぶ。


高志「寅さん、やめろ!



その声にギョッとする寅。



高志「リリーさんは病気が治ったばかりじゃないか。
 なんでもっといたわってあげんの





寅「てめえリリーに惚れてんな!



リリー「何てこと言うんだよ!寅さん!


高志、寅の肩を掴み


高志「わん話ちけえ!リリーさんはなあ、
  いいかあ、リリーさんは、あんたを
  愛してるんだぞ!






リリー「愛してなんかいないよ。こんな男!



             

                






高志「嘘です!




寅「てめえ達出来てやがるな!このヤロウ!




やにわに高志を押し倒す!


高志「やらあ、がんばやあ!


高志も負けじと、寅を押し倒す。



          



リリー「
やめて、やめて!


もみ合いになっている二人





リリー「やめてよ、寅さん!



リリー「やめて!!




リリー、とっさに卓撚台を引っくり返す。



                






その音で我にかえり、母屋に駆け去る高志。




          



荒い息で、シリアスな寅。


こんな顔は珍しい。






               







リリー「ねえ、私のために
 来てくれたんじゃなかったの、
 …こんな遠くまで






               



寅「……




寅、無言で外に出て行く。





                
             


お母さんと富子が庭に出て心配そうに見ている。



あふれ出そうになる涙をこらえているリリー。



畳に落ちた茶碗やその中味を拾う。


          




お母さんと富子がそっと離れに顔を出す。


リリー、気づいて、


リリー「
おばさん、ごめんね、大きな声出して

お母さん「
あらんあらん、しむさぁ、いえいえそんなことなんでもないよ

    あんたも、苦労するね…かわいさやぁ…

     
    



お母さん、富子に

お母さん「
片じけれ

富子「
うん」ちょと涙ぐんでいる。

富子上がってリリーと片付け始める。

リリー「
ごめんね…



遠くの方でかすかに、三線を弾きながら
島唄を唄う声が聴こえてくる。





             
       



リリーは、どうしても自分の気持ちを寅に
打ち明けたかったのだ。
寅とともに人生を歩む夢をみていることを
分かって欲しかった。

後先を考えれば寅とは長続きしないことは
分かるはずだが、恋をする彼女には
そのことは見えていない。










翌朝




国頭家  庭


古い琉球瓦に朝陽が差している。

琉球瓦の屋根に守り神
シーサーが乗っている。






                



鶏の鳴き声


眠そうに服をこすりながら、母屋から出て来た寅、
伸びをした後、離れに寄って来る。



後ろの方で富子が寅の姿を見てなにか言いたげ…


寅「おい、リリー、まだ寝てんのか



母屋の玄関から、富子がその様子を伺っている。



寅「夕べは悪いことしちゃったな、病み上がりのお前に
 大きな声出させちゃったりしてよ。



 いや、オレの言いてえのはね、せっかくここまで
 療養したんだから、もう少し辛抱して…、」


ハッとする寅、左右を見渡し、


寅「
おい、リリー!




          



中はリリーもいない。荷物もない。


卓袱台の上に置手紙の便箋。



ギョッとして急いで手にとり、読む寅。





寅「
寅さんいろいろありがとうわたし内地へ帰りますさようなら
と早口で読む。




便箋の文章

寅さん、いろいろありがとう。
私、内地に帰ります。

       さようなら

         リリー






          



寅、庭に出て、

寅「
あ!富ちゃん、リリーどうした!?




置手紙


散った赤いハイビスカスの花びら…



          











富子「お兄ちゃんが朝早く
  飛行場まで送って行った




寅「ちきしょう!



やにわに母屋に上がり、カバンを持ち、
表に向って駆け出す寅。




寅「リリー!、ちょっと待て!


富子、あわてて後を追う。






浜崎漁港 船着場



走る寅


小さなフェリー・ボートが汽笛を鳴らし出航しようとしている。

プォプォプォプォー


息を切らせて駆けて行く寅、大声で呼ぶ。


寅「おーい船長ぉ〜!、待ってくれぇー!待ってくれぇー!


小さなフェリーに飛び乗る寅。


後から駆けて来た富子、海岸で叫ぶ。



富子「おじさん、どこへ行くのー!?


寅「東京だ!東京東京ー!


富子「その船東京へは行かないわよー!!




               




富子息を切らしながら呆然と寅を見ている。



寅「おい!ちょっと船長!
 オレのことな、とっとと、東京へ
 連れてってくれー!よっ!船長
 東京へな!一直線にひとつつれてってくれよ!



船長行かないことを告げる。


寅「え!?だったらさ、この島、島伝いに、飛び飛びに
 東京へ連れてってくれダメかよう!
 おい!頼むからさあ!なんとかしてくれよ!



               

         




汽笛を鳴らしながら、
隣の島までの短い航路を行くフェリーだった。






本部の町でリリーのそばにいる寅、今も近くにいて、
話もするが、自分を親身に想って一生懸命尽くして
くれたあの日々は戻ってはこないのだ。

もともと気ままな寅がリリーと向き合って日常を
いつまでも生きていけるわけがない。
リリーはそのことを理屈ではとうに分かっているが、
寅と共にずっと人生を送りたいという気持ちを
抑えることを今回ばかりは出来なかったのだ。
リリーは寅に本気で恋をしていたのだから…。

自分との想いの違いに絶望し、沖縄を離れるリリー。
寅の近くにいるゆえに感じるすれ違いの孤独に
これ以上耐えられなかったのであろう。


一人取り残された寅が、今度は強烈な孤独に襲われる。
まるで初恋に夢中になった青年のようにリリーの後を追う寅、
いくら追いかけても、もうあの日々は帰らないし、あのリリーも
ここにはいないのだ。失ったものの大きさを体で感じながら、
灼熱の太陽の下で狂わんばかりに叫び、空回りする寅だった。






題経寺・境内


おばあさん御前様にあいさつ。



御前様にさくらが報告している。

御前様にしてはちょっと憮然として聞いている。

そばで箒を手に耳を傾けている源公。



さくら「はじめの頃はいろいろ心配してたんですけど、
  でも、よく考えてみれば、リリーさ
んのような、
  頭が良くて、しかも苦労した人が一緒になって
  くれるなら、兄はいちばあーん幸せじゃないか…、
  そんなふうに、近頃は叔父叔母とも話し合ってるんですよ



御前様「なるほど、それも一つの考え方ですかな〜…


あまり納得していない顔の御前様




               



さくら「御心配かけて申しわけございません


御前様「いやいやと手を合わせる。


さくら「それじゃ…



頭を下げて立ち去るさくら。



御前様、数珠をまさぐりながら眩く。


御前様「しかし、同棲はいかん!


御前様「いかん!

源ちゃん「へい…」 と訳もわからず頭を下げ、
          身代わり反省(^^;)
 
       




                  「いかん!」 「へい…」
               
  








帝釈天・参道




おばちゃんが道に立って駅の方向を眺めている。


参道をみんなが駅に向かって走っていく。






自転車で来たさくら、声をかける



さくら「おばちゃん



おばちゃん「ん?



さくら「何があったの、?





               







おばちゃん「みんなバラバラ駆けて行くんだよ。
    ちょっと、どうしたんだい?



近所の店員が走りながら答える。



店員「行き倒れだってさー


さくら「はーん


と店に戻る。









とらや  店



おいちゃん店で団子の箱をチェック

おばちゃんとさくら戻ってくる。


おいちゃん「何だった?

おばちゃん「行き倒れだって

おいちゃん「へ一ーえ、めずらしいな、今頃

おばちゃん「終戦後は多かったけどね。
    みんな栄養失調だったからさ


おいちゃん「食うや食わずだったなあ、あの頃は

おばちゃん「毎日水団ばっかりで、お腹が減ってお腹が減って


水団(すいとん)は、小麦粉に水を加えて練り混ぜたものを適当な大きさに加工して
汁に入れて煮た食品、または小麦粉でできた具を指す。



さくら「そうね

おいちゃん「憶えてるのか?おまえ


さくら「憶えてるわよ、よくお兄ちゃんがさ、
  柿とかお芋の干したの盗んで来て
  食
べさせてくれたわ

優しいね寅って…(−−)



おばちゃん「そうだったねえ


おいちゃん「どうなってるんだ、あいつはー?


さくら「ねえ、手紙ぐらいよこせばいいのに


おいちゃん「幸せにやってるなら幸せにやってるってな
   
           
おばちゃん「ハブにかまれて
  死んじゃったんだよ、きっと




テレビ版の最終回を知ってる人にとってはたまらないギャグ(^^)



                






と言い捨てて台所へ。



近所の店員が寅のカバンを提げて立っている。


おいちゃん寅のカバンに気がつく。

おいちゃんさくらをつついて…

さくら「
ん?

おいちゃん「
あのカバン…-


近所のおかみ、帽子と上衣を持ってくる。


おかみ「大変だね…



スタッフの露木さん、寿司屋の店員役。


店員「ほら、ここ!
近所の人「しっかりしろ!
近所の人「とらやだとらや!」




ギョッとして立上るさくら。



               






社長「き、た、大変だい、寅さんが
  行き倒れになってね帰って来たよ!





シリアスな音楽がドーンと流れる。



近所のおかみ「ここよ!


社長「どこにすんだどこに!


戸板に乗せられて寅が運ばれてくる。


社長奥の部屋に向かって


社長「あっちだあっちだ!




               


先頭向かって右に後のあけみの仲人さん。その後ろに谷よしのさん。
谷さん、今作品、オープニングのヨモギ売りに続いて2役目!



さくら「お兄ちゃん!

近所の人「もっとそっち行ってえー!

社長「そこ気をつけて、気をつけて

谷よしのさん「かわいそうに〜!

近所のおかみ「お医者さん呼ばなくっちゃ!」


露木さん「息してるか!?息?


露木さん「誰か肛門見てみろ!肛門を!
おいおい、それ以外の方法何ぼでもあるで  ヾ(^^;)




店員「脈見ろ脈!




                




しばらくたって…




工場の工員たちも必死で塀から座敷を覗いている。



中村君落ちる。

中村「
ごめん

また覗く



             




医者がおいちゃんに説明している。


さくら、茶の間から工場のほうを見る。
                






とらや 店


とらやの店先にも鈴なりの人垣。


社長「先生のお帰りです!すいません、
  道を開けてください!道を明けてください



近所のおかみ「あ、先生のお帰りだよ



医者と看護婦が帰っていく。


谷よしのさん「ごくろうさまでした

近所の人たちも「ごくろうさまでした

おいちゃん「どうもありがとうございましたどうも


みんな、おいちゃんのまわりに集まり

店員それでどうなんだね、ほんとのとこは?


おいちゃん「どうもみなさんお騒がせして申し訳ありません、
     あのー、先生のお見立てですと、長旅による
     
極度の疲労と…


バイクが通過『ブウウーン!』


近所の人「聞こえません!記者会見か(^^;)


おいちゃん「はい!あのー、並びに栄養失調だということでして、
     しばらく安静にして滋養のあるものを食べればすぐに
     回復するだろうとなんです、どうもいろいろご心配かけて
     ありがとうございました



近所の人たち、がっかりし、拍子抜けした感じで、


かみさん「たいしたことなかったんだ」とか口々に言って帰っていく。


重大な病気の方がワクワクしてしまう
ご近所さんたちっていったい…(^^;)




                





汗を拭きながら店党の様子を兄ている社長


社長「どうだい様子は?


さくらと博、仏間から出てきて


博「ジュースをコップ一杯飲んだら
 少し落ち着いたようです



博「しばらく、じっとしといたほうがいいなさくら


さくら「うん


さくら「社長さん、ご迷惑おかけしました



社長「いやいや通りかかってねー、
  ちようどよかったんだよ。
  一体どういうことなんだい?



さくら「さあー…、途切れ途切れに話すから
  よく分らないんだけど、沖縄から
  島伝いに鹿児島に来
てね

社長「え!?

それから汽車を乗り継いで、ようやく
東京に着いたらしいのよ



博「金がなくて、三日三晩飲まず
 食わずだったらしいですよ


社長「三日三晩!へーえ、
 それで柴又の町を見たとたん
 安心して、
バタリと、こういうわけか…へええ〜…


感慨深く首を振る社長。



寅は、あのあとどのようにして東京まで行ったのだろうか、
おそらくは、いったんしぶしぶ国頭家に戻って、
服を着て、鹿児島行きや大阪、東京行きの直行便を
待ちきれず、船で島伝いに奄美大島まで行ってしまい、
そこからまた近くの島までのフェリーに乗って、
何回も乗り継いで鹿児島までようやくたどり着き、
汽車に乗ったのかもしれない。








そこへ、風呂敷包みを抱えた
おばちゃんが汗を拭き拭き帰って来る。



おばちゃん「あー、やれやれ



さくら「どこへ行ってたの?

どっこいしょっと

おばちゃん「何か滋養になるもの食べさせた方が
    いいって言うからさ、
特製のウナ重作って
    もらってきたんだよ。可哀相にねえ、
    三日間飲まず食わずで
    どんなにかお腹空いたろうねえ


と、蓋を開けて確かめるおばちゃん。
みんな思わず特性うな重を覗く(^^;)



          



寅ちゃん…



と襖を開けて仏間に入ろうとするのを引きとめる博。



博「おばさん!

おばちゃん「ん?

博「
ウナギはまずいですよ


おばちゃん「どうして・・?


さくら「空っぽのお腹にそんなもの
  食べたら腹痛起しちゃうわよ



おばちゃん「あら、そうか

とうな重を卓袱台に置く


さくら「やっぱり最初は重湯ぐらいにしなくちゃ


博「あったかい牛乳とか



社長「片栗粉でさ、こうぐううっと




手で練りこむ仕草



さくら「あ、くず湯?


社長「そう、くず湯



向こうで襖の開く音


おばちゃん「そう言えばそうだね


おいちゃん「…!!



おいちゃん手で指差す




一同振り返って

はあ!!!




             







寅、いつのまにか、布団に入ったまま、
身を乗り出して、割り箸を紙袋から取り出さずに
中身をぴょんぴょん、口に入れている。




効果音  「びぽびぽびぽびぽ…




               





さくらたちやめさせようとする。


さくら「お兄ちゃん!


さくら「何してんのお兄ちゃん

おばちゃん「ちょいと!およし

寅、さくらの手を振り払って

さくら「キャー!!とひっくり返る。


博「あの…と、うな重を取り上げようとする博の
        手を口で噛む寅(^^;)





博「イタタタ!!…


さくら「今もうちょっとやわらかいもんあげるから




                




さくら「お兄ちゃん!

博「今すぐはまずいですよ…いたた…



さくら「お兄ちゃん、死んじゃうわよそれはないよさくら(^^;)


倍賞さん、笑っていますね。そりゃそーだ(^^)



                  倍賞さん笑ってます(^^)
               








夕暮れ時  題経寺境内



源ちゃんが撞く鐘の音が夕募の柴又の町に鳴り響く。


近所のおかみさん「まこと!ごはんだよ!帰っといで


子供たち言うこと聞かないで遊んでいる。



近所のおかみさん「ほら!ご飯食べないと、
       寅さんみたいに
行き倒れになっちゃうよ!


さっそく。町のホットな話題を、子供の躾に
応用する茶目っ気のあるおかみさん(^^)/


                









とらや 店



店でおばちゃんが容器を取りに来た
寿司屋と蕎麦屋に金を払っている。




おばちゃん「はい、天ぷらソバのお金

店員「はい

おばちゃん「お寿司いくらだっけ?


さっきの「肛門」発言の露木さんまた登場

寿司屋店員「え、上ですから800円です上のわりには安い!

店員「おつりです

店員たち「お大事に〜

「じゃ、お大事に〜、毎度どうも」



               




さくら「うな重のお金払ってくれたのねえ

おばちゃん「ああ、払ったよ









茶の間



寅「おいちゃんよぉ、ほんとうにすまなかったなあ、
 散財かけちゃって、
三日三晩飲まず食わず
 だからねェ。もう腹
減っちゃって、腹減っちゃって


人の金だとよく食べるのは、第18作「寅次郎純情詩集」の
別所温泉警察署で実証済み(^^;)




                




おいちゃん「ああ、分ったよ。その話は分ったよ

と新聞を読む。

寅、シーサーの置物博の手に握らせて

寅「これ、お土産だからさ

博「あ、わかりましたはいはい

寅「部屋の中に飾っといて






社長が庭から入って来る。


社長「どうだい、寅さんの具合は?

さくら「もうすっかり元気よメロンを切っている。

社長「おう!

寅「ん!社長、さっきはすまなかったな


社長「いやいや、元気になってよかったじゃねえか

寅「んん



社長「
どうだった、沖縄?

寅「いやぁ〜もう、暑いの暑くないの

社長「暑い!?


寅「
これは行ってみなきゃ分んない



社長「はあ〜!





寅「ん〜〜!ともかくね、表に出るだろ、そしたらもう
 それだけで頭がくらくら!
 もう日陰探して飛び込む始末だ
よ、ん〜!



さくら、メロンを持って茶の間に上る。


さくら、寅をさえぎる。


さくら「暑い話はもう分ったから、ねえ、肝心なこと教えて


         

               





寅「え?肝心って?



博、膝を進める。


博「つまり、リリーさんに置いてきぼりに
 されたっていうのはどういうことなんです




社長「え、置いてきぼりかい?




寅「そうなんだよ。リリーのやつ一人で帰っちまってさあ、
 あの暑い沖縄にオレ一人置いてきぼりだもんなあ






博「だからどうしてそんなことになったんですか



寅「さあ、知らない〜




さくら「それ、いつのこと?




寅「確か十日ぐらい前かな

10日かかってたどり着いたんだね柴又に(^^;)




さくら「それまでは、
 リリーさんと
一緒に暮してたの?


寅「一緒だよ〜!


一同 Σ(|||▽|||)!!!!

          
と、寅寝転がる。

一同頭の中に『同棲』の2文字が
渦巻いて…シーン



重苦しい空気が茶の間を支配する。



               





寅、ハッとして、起きて一同を見回す。



寅「なんだい、みんな勘違いするなよ、おい。
 一緒ったって、リリーはこっちの離れで一人
 寝てたし。オレは母屋
の伜の部屋で寝てたんだ。
 本当だぞ、これは





               



おいちゃん「ま、それはそれでいいとしてさ…決め付けました(^^;)


みなさん、寅はもう四十もとうに過ぎたいい大人なんだから
それくらいでびびちゃダメだよ。年がら年中旅暮らしで、なにがおこったって
おかしくない環境にもともといるわけだから、今更ねえ… ┐(-。ー;)┌




博.「十日前にリリーさんとの間に何かあったんでしょう?


寅「いや別に、いつものようにオレは夕方
 仕事から帰るだろう、

『ただいま』、
『あ、おかえり』、
『暑かったろ、さ、ひとっ風呂浴びてきな、
はい、タオルと石けん』
『あー、ありがとう。ビールは冷えてるかい』
『もちろんよ』



               




社長「へーえ



仕事なんてうそうそ。あの日はイルカスタジオのお姉さんたちと
歌って踊ってカチャ―シーして遊び呆けてました ┐('〜`;)┌



すっかり不機嫌になっている一同。


寅「それからなあ、風呂からあがってくるだろ、フフフ


博「ま、それはいいとして、その先どうしたんですか


          

寅「それから…あ、そうだ、ああ、あいつがね、
 『あたし明日っから仕事をするわよ』て、こう言ったんだね。

 だからオレはさ、


さくらうん


寅「『そんなことをしたら元も子も
  なくなるから、生活費はオレが
  みるからブラブラ遊んでろ』
  っとこう言ったんだよ




社長「イキなこと言うねえ〜


博、おいちゃん、社長を睨む。



寅「えー、そらおまえ、オレだって男の端くれよ〜!」



さくら「そしたら、リリーさんが何て言ったの




                




寅「確かに、こういうこと言ったな、

 『男の世話になるのはまっぴら』





                   





博、感心して


博「リリーさんらしい言い方です

                

寅「ん……あ、その後ね、

さくら「


寅「
『ただし、あなたと夫婦だったら別よ』

 あん時あいつ、色っぽい眼つきしたなあ…、

 なぜかしら…



       



博とさくら顔を見合わせて驚いている。



             
さくら「どうしたの、そんなこと言われて




               




寅「え…

 そりゃオレ照れくせえからよ、

 『お互い世帯なんか持つ柄かい、ヘヘへ』
 って笑
っちゃったよ。そうだよ…。

  そしたら、リリーの奴…






さくら「リリーさんが、どうしかたの



           
                




寅「悲しそうな声…してな、

 『あんたに、女の気持なんて分んないわね』

 そんなこと言って
涙こぼしてたなあ……
          




 一同 静まり返る。            



               







さくら、静かに言う。





さくら「リリーさんの愛の告白ね




               






寅、小さく「うん…」と頷く。



はっと寅我に帰り


寅「
おい!


照れくさそうに笑う。





寅「バカなこと言うなよお前、真面目な顔してえ!
 へっ、満男が聞いてるぞ、おい、エヘヘ





                
           




博、真剣な顔で大声を出す。


博「兄さん、笑いごとじゃないんだ。

 リリーさんがその時どんな気持でいたか、
 分からな
いんですか




                





おばちゃん「そうだよ、女にそこまで言わせてさぁ〜!



社長「おばちゃん、それどういうこと?タコ鈍い(^^;)



博「社長は黙ってて下さい!!





               





おいちゃん座り直す。



おいちゃん「いいか、寅、どこの世界にお前に
   プロポーズするような女がいるんだ、え、
   そこんとこを
よーく考えろ


おばちゃん「そうだよ


さくら「しかも、相手はリリーさんよ。
 あの人だったら苦労はしてるし、
 お兄ちゃんみたい
なわがままな男でも
 ちゃんと面倒をみることが出来る人よ。
 お兄ちゃんが留守の間、
 私達いつもそのことを話し合ってたのよぉ




千載一遇、一同たたみ掛けるように、
ここぞと寅を説得(^^;)





                




寅「それじゃぁ、お前達、オレにどうしろって言うんだよ




博「草の根を分けてでも
 リリーさんを探し出して、
 『リリー、お前を愛してる、
 一緒に暮
そう』

 そう言うんですよ




さくら「そうね」と小さく頷く。


こういう時の博の瞬発力は相変わらず機敏だ。博の
一途な思い切った発言が寅の心をその気にさせていく。
まあ、プロポーズの表現はもろ博風で気恥かしかったが(^^;)





               





社長「なるほど





寅「しかし、リリーどこにいるか分らないしなあ…



博「きっと会えます、そのうちに


さくら「リリーさんだってお兄ちゃんのこと
  心配しているはずだもの




寅「…そうだろうか




                   




おばちゃん「今頃どこにいるんだろうね。
   電話くらいかけてくれりゃいいのに


お!おばちゃんの『電話予知』が出た!これは電話くるぞ!



さくら「そうね…



しんみりしている一同。






電語のベルが鳴る。

リーン リーン




社長「ほら、リリーさんだ!
            

寅「は!
           

おばちゃん、ドンピシャ!
いくらなんでものタイミング(^^;)





寅「どっか、近い駅からか!?
 近くからかな?


それじゃ第13作の歌子ちゃんだよ(^^;)
          



さくら、走って電話取る。



さくら「もしもし



寅「はい!とらやです! おいおい ヾ(^^;)




               




さくら「は?





さくら「なんです??



                  ワクワクドキドキハラハラ(^^;)
                



さくら「 いいえ、
  うちは
葬儀屋じゃありません!


出た〜〜〜!!ベタなギャグ( ̄▽ ̄;)




               




ガチャン!



おばちゃん、タコ社長共々はずれ〜〜(TT)


タコ社長、にやついて寅を笑ってる。


寅「このやろう!タコ!


社長「ごめんごめん!悪かったよ


寅「悪かった〜!?」        




               



ドタバタしながら庭でタコを捕まえて、
ボカスカやっている。

社長「
あいたた、痛い!たは〜〜




さくら「お兄ちゃん、お兄ちゃん!



逃げる社長を追って飛び出す寅。

庭から物音と悲鳴が聞える。


満男も窓から見ている。

寅「コノヤロ!もうひとつやってやろか!

社長「イタッ!



寅「労働者諸君!君達の工場は
 ただ今倒産致しました



社長「嘘だよ、


寅「おめでとうございます!



おいちゃん、はあ〜…とため息をつく。


おいちゃん「分ってんのか、あいつは…



庭から声


社長「
そういうこと言うと工員が ど、動揺するじゃないか

寅「
何言ってんだコノヤロ!
 おまえこそ動揺してんだろうが!








リリーのテーマが静かに流れる。




社長の悲嶋に混じって、近所中の犬の
鳴き声が聞えて来る。





               




2階に寅のカバンと帽子を持って上がるさくら。



下の庭ではまだ、寅と社長が喧嘩している。


寅と社長のケンかが下から聞こえてくるのだがこの場面で、
寅の「よおおし!…中略…」から社長の「イタタタ!!」までが
短い時間の中で2回使われている。2回目は音量を小さくしてあるので
わかりにくくはなっているが、まったく同じ。

このパターンは第1作のさくらたちの披露宴でもあった。
工員のスピーチのあたりで2度同じ録音が繰り返されて使われている。






窓の外をボンヤリ見ながら、
兄とリリーの今後のことを想い、

そしてカーテンを閉めるさくら。








                







第15作「寅次郎相合い傘」の時もさくらは、
兄とリリーの結婚を強く望んでいた。
今回はリリーからのアプローチがあったこともあり、
なんとしても…という気持ちになっているはず。
彼女はただひたすら兄に幸せになって欲しいのだろう。
その強い想いは盲目的とさえ思うし、怖いくらいである。
会っている時間は少ないがつながりの深い兄妹なのだ。










江戸川土手




さわやかな風が吹きつける土手の上を、
ハイビスカスの鉢植え包みを手にしたリリーが歩いて来る。

子供と一緒に虫とり網をふりまわしていた源ちゃん、
リリーに気付き、ポカンと見送る。



源ちゃんに手を振るリリー




      




とらや 台所




裏庭で洗濯物を干しているおばちゃん。
.

寅がアクビをしながら階段を下りて来る。



寅「ふああ〜、おばちゃーん、朝飯だよ、おばちゃあああーん!
もう駄々っ子のまんま(^^;)

.おばちゃん「今作るよぉ〜。
    私だってねえ、いろいろ手順があんだから



寅「
三旦三晩飲まず食わずで沖縄から帰って
 来たんだからなあ、
 腹減っちゃって腹減っちゃって



前の晩の無茶食いでそれは十二分に補っているはず(−−;)


おばちゃん「そのセリフはね、耳にタコが出来るくらい
    聞いたよ




タコ社長がここで「なんか呼んだ?」って出てこないかなあ…(^^;)



寅、ブツブツ言いながら、机の上のラッキョを口の中に放り込み、表に出て行く。


寅「
タコでもイカでもいいから早く食わしてくれよ〜、
 ほんとにもう、
ラッキョ食っちゃったよ〜


寅は本当はラッキョ嫌い。どこまで皮か分からないかららしい(^^;)






帝釈天 参道

店から出て来て大アクビをしている寅。



ふあーあー、


備後屋と思われる御馴染み露木さん、
またまた自転車で登場。

露木さん「暑いね〜」


寅「おまえでも暑いかー?おまえでもって…(^^;)


露木さん「遊びに行きてえよ〜…」まったくねえ〜(^^;)




寅、題経寺方面参道を見て驚く。




メインテーマ大きく高鳴って!





       




頭真っ白で寅を見つめるリリー



       



寅「リリー!」.



       




リリー大声で、

リリー「帰ってたの寅さん!


駆け出すリリー。




寅「ひどいじゃないか、おまえ、
 オレ一人のことを置いてけぼりにしてよー!



駆け出す寅!





                    




寅に飛び込みしがみつくリリー。


            






リリー「ごめんね、寅さん


寅「ハッ、ハーア、ハーア


リリー「でも、よかった、帰ってて。
  まだ沖縄にいたらどうしようと思ってたの」

寅「ハハハハハハ


リリー「
よかったあー


と寅の胸に顔を沈めるリリー。




寅「あーあ、びっくりしたよ。





備後屋、自転車から転がり落ちる。



備後屋「びっくりした…

天下の公道で男女が抱きつきゃそらびっくらだよな…(^^;)




第11作「寅次郎忘れな草」でも参道で抱きついていたが、
今回はロケで抱きついているのでそらもう目立ちますよ(^^)









朝目印刷  工場の中


工員達が忙しそうに働いている。



窓の外のさくらを見て、中村君が博の肩を叩いて知らせる。



さくら、博を手招き。

博「何だ?

さくら「大変、リリーさんが来たの


博「へえ!?。兄さんどうしてる?

博手伝ってやれよ寅の正念場だぞ(−−)




さくら「それがねえ、この間の晩のことなんか忘れちゃって、
  バカな話ばっかりしてるのよ。ちょっと顔出してくれる



博「よし



さくら中村君に挨拶。



                 









とらや 茶の聞

楽しげにしゃべっている寅とリリー。


店で客の相手をしているおいちゃん。




リリー「フフフ


寅「ハハハ


博がやって来る。


寅「おう、博、覚えてるか、リリー




リリー、座り直して挨拶する。



           





リリー「こないだはどうも。いろいろみなさんに
  御迷惑かけてすいませんでした





博「ああ、元気そうですね




リリー「一時は... もう駄目だと思ってたんですけどね、
  おかげさまで働けるようになりました




リリー寅の手を取って

リリー「
寅さんは命の恩人よ…



寅「へへ、よせよぉ、照れちゃうよそんなこと言うと。へへ、
 おう博、腰落ち着けろよ工場の方はどうでもいいから、え



博、茶の間に上る。

さくら「ね、これいただいたのよ、ハイビスカス


博「ほー、きれいだなあ


寅「沖縄に行きゃ、そんな花どこにだって咲いてんだぞ

せっかくリリーが持ってきたんだからサア…(^^;)




リリー「それも一年中だって



さくら「へーえ




                    





博「海がきれいなんでしょう



リリー「そりゃきれい…。

  あ、高志君と言ってね、
  私達の家にいた息子なんだけどね





寅「あ、おまえに似てるよ、
 ちょっと融通がきかなくて、ね、ハハハ





リリー「フフフ、その子がね、海にもぐって、魚いっくらでも
  突いてきてくれるの。それを刺身にして
  食べ
るの




博「へー




さくら「リリーさん、料理が上手なんですってねぇ




リリー「嘘よぉ、ただ寅さんが喜んで食べてくれるから、
  一生懸命作っただけの話。


寅「へへへ

リリー「
暮らしていると、料理なんか作ることないでしょう。
  近所の食堂でライスカレーか何か食べたりして





寅「リリーの作った沖縄料理はうまかったよ




リリー「フフ、ゴーヤチャンプール



寅「うん…



さくら「何、それ?




               




リリー「ニガウリの炒めたの。本当はおいしいのよ


このゴーヤ料理はバリでもしょっちゅう食べます。最後にカツオ節をパラッとまくのがポイント(^^)




寅「それからよ、ほら、ほら、あの、豚の耳の



リリー「あ、ミミーガの刺身


正確には『ミミガー(耳皮)』 
刺身と言っても、熱湯にくぐらせてある。
何故か刺身と呼ぶようだ。薄くスライスしたミミガーは、ちょうど中華料理の
クラゲ見たいな食感で、こりこりした舌触りが魅力。
魚の刺身のようにワサビ醤油で食べるのではなく、ピーナツバターや酢味噌で
あえて食べる。

ちなみに私の住むバリ島では儀式の時、本当に豚の生肉を細かく小さく切って
香辛料や豆と一緒に食べる(ラワールと言う)。最高のバリ料理。私も大好き。



             
寅「んー、あれで泡盛飲むとうまかったなあ、




         




寅「あーあ、

 暑い一日が終って、夜になると、

 ス―――ッッ…と涼しい風が吹いてなあ…。

 遠くで波の音がザワザワザワザワ…




                   

               





リリー「ほら…、

  庭に一杯咲いたハイビスカスの花に、
 
  月の光が差して、

  いい匂いがして…







寅「ん…。昼間の疲れで、ウトウトしてると…、

 お母さんの唄う、沖縄の哀しい唄
が聞えて来てなあ





               




リリー、懐かしい『白浜節』を静かに口ずさむ。

まるで自分の気持ちを託すかのように。



リリー「♪我んや白浜ぬ 

  枯松がやゆら
 

      
わんにゃ しらはまぬ
      
かりまちがやゆら



           





リリー「……あたしは白浜の枯れた松の木なのか、
  春になっても花は咲かない…。好きな人と

  どうして一緒になれないのだろうって唄なの





さくら「素敵な唄





リリー「♪春風や吹ちん 

 花や咲かん 

 二人やままならん 枯木心



    はるかじやふちん
   はなやさかん
   はいやままならん
   かりきぐくる





                






おいちゃん、電話口で座り、しみじみと聴いている。



うっとりと聴いている一同。




                





リリー、あの日々を思い浮かべ、遠い目をし、



リリー「私、幸せだった、あの時…






               






ひじまくらをしながら、
夢を見るようなうっとりとした表情の寅。







寅「リリー、オレと所帯持つか…





         




リリーの動きが止まる。



        




寅を見つめるリリー。



        




寅を見つめる博。


仰天し、目を見開き、
リリーを凝視するさくら。




        



リリーは、寅から目を離さない。



寅は夢心地の目。



       




リリーの強い視線に気づき、
急に我に帰る寅。




       



リリーを見つめるさくら。

寅を見ている博。

寅を見ているリリー。



寅、ムクッと起き上がって、緊張し、箸を持ちながら…、



寅「
オレ、今、何か言ったかな…?



さくらを見る博。


リリーはまだ寅を見つめている。




       



料理を摘む寅の手が震えている。     






リリー「あ、ハハハハハ、



      



リリー「やあねえ寅さん変な冗談言って、
  みんな真に受けるわよぉ






            




リリー「ねえ、さくらさん



       




さくら「..ええ…



寅も無理して笑いながら、


寅「フハハハ、そう、そうだよそうだよ、
 この家は堅気の家だからなあ。


リリー「そうよ



        



寅「うん、こりゃまずかったよ、
 アハハハッ、ハーッ




        



さくら、どうしていいかわからないで
目の力が弱くなっていく。

博、悲痛な顔で寅を見続けるが何もいえない。




        



リリー「私達…夢見てたのよ、きっと。

  ほら、あんまり暑いからさ



と寅に微笑むリリー。


寅「そぉーだよ、夢だ、夢だ、うん



博「そうですね



寅「うん


        


庭に行く寅を複雑な顔で見ている博。




リリーの目は実は笑っていない。



       




僅かに、表情が沈むリリー。



       




目を伏せ、遂に哀しみの色が濃く出てしまうリリー。

さくらはそんなリリーを見続けている。

この局面でさえもまださくらは諦めていないのだ。



       




と庭に出て行く。






とらや  庭



寅、フラフラと出て来て柱に背中をもたれてたたずむ。




寅「はあー…。あーあ、夢か……



遠くを見つめ、深いため息をつく寅である。



       




遂に、ここらへんが限界か…(TT)


沖縄で恋に破れた後も寅は今回はがんばった。
ギリギリで柴又での敗者復活まで狙った。


しかし…、

ふたりとも未だ若く、生来の渡り鳥としての業は
捨て切れていない。ここにいたってもまだタイミングが
熟していないのだろう…。

ふたりのこのやり取りの先をこのあと私たちは
なんと15年もの長い間待つことになる。

それは少なくとも私にとっては気の遠くなるような
苦しく辛い歳月だった。


私は今回の寅に言ってやりたい。

「とにかく!よくぞリリーに告白した!」と。

あの告白があるかないかで、二人の人生はこの先
長い目で見ると違ってくる。


リリーはあの言葉を絶対一生忘れないのだから。


しかし、やっぱり哀しい…。





リリーの口ずさんだ「白浜節は、
小宗三郎作の人情劇「浜に咲く花」の主題歌として三線に
のせてうたわれる沖縄民謡である。

劇の内容は、糸満の海岸に捨てられた赤子を
漁師が拾い、自分の子として育てるが、
長じて漁師の息子がその娘に恋をするという。
義理兄弟の恋がテーマで、独特の糸満方言による
涙と笑いの恋物語ととなっている。
この劇は昭和16年に大阪で初めて公開されたが、
戦後は沖縄各地で上演された。



我んや白浜ぬ 枯松がやゆら 春風や吹ちん 花や咲かん 二人や春知らん 枯木心
汝ん節知らん 白梅がやゆら うぐいすや鳴ちん 咲かに花や 二人や節知らん 枯木心

二人やままならん 御縁るんやりば 浜千鳥とぅむに 語り遊ば 二人やままならん 
義理ゆでむぬ 義理とぅむてぃ 御縁浜風にまかち あきよ我が思い 
あだがなゆら 二人やままならん 義理ゆでむぬ 


リリーは「二人や春知らん」の部分を
「二人やままならん」に入れ替えている。
リリーの寅に対するやるせない気持ちが
この部分にも込められている。






柴又駅  ホーム






             





日傘をさしたさくらとリリーが座っている。

少し離れて腰に手を当て、たたずむ寅。





遠くで聞える電車の警笛。




さくら「せめて晩御飯くらい食べて
  くれればよかったのに。
  おばちゃんがっかりしてたわ






              




リリー「また今度来る時、ごちそうしてもらうわ



背中でその会語を聞いていた寅、ひょいと振りかえる。



寅「上野から上越線に乗って、どこへ行くんだい?



リリー「水上温泉。その後は…
  清水トンネルを通って六日町。
  稼がなくちゃしょうがないでし
ょう、
  貯金もなくなっちゃったしさ。




うんうんと、うなずいて、むこうを向く寅。






さくら「ねええ、リリーさん




リリー「なあに





             





さくら「さっき、お兄ちゃんが
 変な冗談言ったでしょう、

 あれ…、少しは本気なのよ








リリー「わかってた…



さくら「
……




リリー「
 でも…、

  ああしか答えようがなくて







             







さくら、小さく頷きながらリリーを見つめる。





           





寂しげに笑うリリーの横顔を、そっと見るさくら。



そして…、

観念したように「はぁー」と
微笑みながら息を吐くさくらだった。



       



寅の耳にふたりの会話は聞こえただろうか…。





電車が近づいてくる。





寅「来たぞぉー





リリー、さくらに

リリー「いろいろありがとう





と立上り、寅の傍に行く。





寅を見つめて、




リリー「それじゃ




       


      

寅「うん




           




寅を見つめるリリー。


リリーの視線に耐えれなくて、
電車の方を見る寅。





           




ゆっくりとメインテーマがクラリネットで流れる。




リリー「ね、寅さん


      
       



      

寅「え?




           




リリー「もし旅先で病気になったり
 つらい目に
あったりしたら、
 またこないだみたいに来てくれる?






寅「ああ、どこでも行くよ。
 沖縄でも北海道でも、
 飛行機に乗って飛んでくよ、ヘヘへ





         





リリー「うれしい、きっとよ


寅「ああ




そのやり取りを微笑みながら見ているさくら。




               




電車が到着し、リリー乗リ込む。




今度は寅の視線に照れて、
リリーが電車の来る方を見る。





               





リリー「さようなら、さくらさん




さくら「元気でね


リリー
うん


さくら「
また来てね


リリーうん





手を振るリリー。



ドアが閉まる。



手を振る寅とさくら。





          






寅、ドアの閉まるその刹那、
リリーに近寄り、



          








寅「幸せになれよ







目で頷きながら美しく微笑むリリー。




リリーの最高の表情。




           






さくらの方に向かって手を振るリリー。




           





警笛が鳴り、電車が動き出す。



あっという間に過ぎ去っていく電車。



         




厳しい表情で見送る寅。



         




         

さくらがポツリとつぶやく。





一さくら「いやねえ、別れって





寅「うん。


 …さて、オレも旅に出るか






              







もう一つの別れもまた近づいていることに気づき、
一層心が切なくなるさくらだった。





               
               

          

思わずドアに駆け寄る寅「幸せになれよ」
ドアの向こう、最高の表情で微笑むリリー。

こんな美しいラブシーンは後にも先にも
私はどの映画でも見たことがない。

そしてあんな美しい表情のリリーは他にあるだろうか。







夏空   入道雲




とらや 店


出ました!おばちゃんの人力カキ氷

シャカシャカシャカシャカ…


         




お盆を手にした源ちゃんが手伝っている。

おばちゃん「これね、あっちのお客さんお願いしますよ、
    源ちゃんの分、今作ってるからね


源ちゃんへい
          




とらや 仏間


けさ袈裟をつけた御前様が座っている。

仏壇の周囲には賑やかなお盆の飾り。

うちわで風を送るさくら。




さっぱりした服装の博と竜造。

縁側の風鈴が涼しげに鳴っている。

スイカを食べている満男。


御前様「そうですか。沖縄で夢を見たと
   言ってましたか。なるほど




         



おいちゃん「ま、早い話がふられたんでございますけどね


そうじゃないだろおいちゃん。


博「振られて夢から覚めたかな



おいちゃん「駄目駄目、あいつは夢の見っぱなしだよ


さくら「夢から覚めたからって幸せとは
  限んないもんね、お兄ちゃんは



さくらしか言えない言葉だねえ( ̄  ̄)





御前様「なるほど。『生きてる間は夢だ』というのは、
    
確かセクスピアアの言葉でしたな一

おいちゃん「恐れ入ります


夢から覚めたのは事実だが、今回は、
誰もふっていないし、誰もふられていない。
恋はある意味成就しているのだから。

あのふたりの恋はそんじょそこらのヤワな恋じゃない。





われわれ人間は夢と同じもので織りなされている、
はかない一生の仕上げをするのは眠りなのだ。


シェークスピア晩年の戯曲 『テンペスト』より
妖精たちが大気の中に消えていくのを見たプロスペローの言葉(第4幕第1場)
we are such stuff as dreams are made on
and our little life is rounded with a sleep.





社長が汗を拭き拭き入ってくる


社長「いやー、暑い暑い。-おや、御前様、
  御苦労さまで。今日はかき入れ時ですね。
  ゲンナマで。あやかりたいな、私も
いやまったく同感…(^^;)ゞ

おばちゃん「バカだね、この男は

と座敷に上る。



御前様「では、そろそろ。
    今日はスケジュールがつまっておりますから、
    お経は少々短めに



おいちゃん「
どうぞどうぞ、
     ありがたいとこだけお願いします



ありがたいとこだけって…(^^;)



         




御前様、チーンと鉦を鳴らし、お経を唱えはじめる。



御前様善導独明仏正意  ぜんどうどくみょうぶつしょうい
    
矜哀定散与逆悪 こうあいじょうさん よぎゃくあく
    
光明名号顕因縁  こうみょうみょうごうけんいんねん
    
開入本願大智海 かいにゅうほんがんだいちかい
       ……

善導独り仏の正意をあきらかにせり 定散と逆悪とを矜哀して 光明・名号因縁を顕す
本願の大智海に開入すれば 行者まさしく金剛心を受けしめ 慶喜の一念相応してのち…



御前様がここで読むお経はなんと
浄土真宗の「正信念仏偈(しょうしんねんぶつげ)」だ。
本来は日蓮宗のお経を唱えるのが普通だが、

御前様は第11作では「般若心経」を
そして今回は正信念仏偈を読していた。
御前様の誦されていた部分はかなり後半部分である。



「正信念仏偈」は七言を一句とした百二十の句からなる詩。
この文章は親鸞聖人の著書「教行信証」のエッセンスとされ、
親鸞聖人はこの中に浄土真宗の教えの要点をまとめて
いるとも言われている。

 第七世の存如により「正信念仏偈」として「教行信証」から
独立して書写され、第八世の蓮如によって印刷されて日常の
勤行用に門徒に広められた。それ以後、浄土真宗の門徒たちに
読誦され親しまれている。浄土真宗では葬儀においても、
正信念仏偈」を念仏・和讃とともに読誦する。

私のアトリエがある富山県八尾町でもここ十年で何度か

近所のお葬式に出たが、やはりみんなで
正信念仏偈」を
読誦した覚えがある。





社長、手をのばして茶の間のテーブルの
絵葉書を手にとり、眺める。


窓の近くにリリーの持ってきたハイビスカスの鉢植え
と金魚鉢。


後ろで源ちゃんが
メロン味のカキ氷を食べている。



沖縄本部の国頭高志から
諏訪さくら宛の、
美しい海の写真の絵葉書である



第12作『私の寅さん』の
りつ子のテーマ
ゆったりと流れる。





         






高志の手紙


拝啓。この度は御ていねいな贈物をいただき、
ありがとうございました。寅さんの御滞在中は
大したおもてなしは出来なかったにもかかわらず、
こんなにしていただいて大変恐縮です





沖縄の海岸

まっ白い珊瑚礁の浜。
果しなく広がるエメラルドの海



小さな舟をあやつりながら漁をしている高志。
水中に獲物を見つけてザブンと飛び込む。



               





高志の手紙続き


寅さんとリリーさんがいなくなられて、
とても寂しい毎日です。いつも母や妹と
お二人の噂をしております。
どうぞよろしくお伝え下さい。高志











群馬県 荷付場 

(群馬県吾妻郡六合村荷付場) 


軽交通(くさかるこうつう)バス』
&国鉄バス



上荷付場
停留所




草軽交通(くさかるこうつう)
は、長野県軽井沢町が本社。草津と軽井沢を結ぶ定期バスおよび観光バスが中心。

以前の社名は草軽電気鉄道で、鉄道事業を廃止したことに伴い草軽交通に社名変更した。
路線バスのほかに、白糸ハイランドウェイ(有料道路)や、数件の売店、自動車整備工場、
伊香保温泉の伊香保東急ビラなども経営している。グループ会社に、草軽観光、草軽観光バスなどがある。





              






坂の途中の小さな待合所。


降るような蝉しぐれ。


寅が暑さにうだっている。



         





眼を閉じて手にしたウチワで扇いでいる寅。

バスの警笛を聞いてフラフラと.上り、
バスに対して片手を上げる。



ミニバス、寅を無視して通り過る。



寅「バスじゃねえのか。うああー、暑い暑い



フラフラとベンチに座り込む。



ミニバスは少し行き過ぎた所で急停車し、
中からサングラスをかけ女が下りる。


女性たちの声

ねえ、すぐに終わる?
うん


蝉しぐれ


日傘をひろげて急ぎ足に待合所にやって来る。



          




眼を閉じていた寅、ウチワをふと落としてしまう。


ある気配に気づき、前を見る。






               






サングラスをかけた女…



          




…!! リリーが立っている



               






サングラスを上げ、笑うリリー。




              





まじまじとその顔を見ていた寅、
はっと、輝いた表情をとり戻す。

ちょっと格好つけて、







寅「どこかでお目にかかった
 お顔ですが、

 姐さん、どこのどなたです?





         





リリー、ニツコリ笑って答える。



リリー「以前お兄さんにお世話に
 なったことのある女ですよ





         




寅「はて…? こんないい女を
 お世話した憶えは…ございませんが




         







リリー「ございませんか、この薄情者!


         




リリー「ハハハ!



寅「ハハハ!



明るくメインテーマが流れ始める。


寅「何してんだ?、お前、こんなとこで




              







リリー「商売だよ


寅「



リリー「
お兄さんこそ
  何してんのさ、こんなとこで!




        






寅「オレはおめえ、

 リリーの夢を見てたのよ






       



リリー「フッーキャ!



リリー照れながら
寅を肩でつついて大笑い



          
   キャ!
       





リリー「ね、これから草津へ行くんだけどさ、
 一緒に行かない?



寅「あ、行こ行こ!
 オレどっか行くとこねえかなって
 思ってたんだ!行こ行こ行こ!



リリー「おいでおいで!


あ、リリーのサングラス鼻までずれ落ちた(^^)。


おでこの上のサングラスが落っこちたのは
なんと本番で偶然だったそうだ。
(浅丘さんのインタビューから)




寅「フホハハハ!!


       



リリー、寅を引っぱるようにして、
ミニバスに連れて行く。

寅も一緒に笑いながら駆けて行く。




       





リリー「ちょいと、この人も乗せてあげてー



寅「これはこれはバンドのみなさん、
  いつもリリーがお世語に
  なっております!どーも!



挨拶をする楽団の若者たち。


草津ナウ.リゾートホテルのミニバス

草津ナウリゾートホテル
標高1,200mの草津高原の中心、天狗山の麓ベルツの森にある
ヨーロッパスタイルの建物は四季折々の自然に囲まれたリゾートスペース。


       




声をかけながら乗り込む寅。

ミニバス、エンジンをふかして走り出す。


深い緑に覆われた山々。


寅とリリーを乗せたバスがぐんぐん遠ざかって行く。


お〜い、草津は逆の方角だぞォー(^^;)




           





ラストでもう一度最愛のリリーに再会するという、
奇跡の演出をしてくださった山田監督。

間違いなくこのシリーズ最高のハッピーエンド。

リリー4部作の中で最後の最後リリーと
一緒に終わるのはこの作品だけである。

このふたりにはこのあともうひとつ
忘れられない草津での思い出『
草津物語』がある。

もちろん映画には映らない。
だからこれは私たち一人一人が勝手に想像できる
特権を与えられているのだ。

しかし、草津では、もうあの沖縄のような
甘い蜜月は繰り返されなかっただろうことは
想像に難くない。

どちらかというと、第15作「寅次郎相合い傘」での
北海道の旅のような、気楽で楽しく、和気あいあい…
という爽やかな『草津物語』だったのではないだろうか。

そして…

「じゃあまた、日本のどっかで会おうな」

「うん、またどっかでね」

って言いながら、にこやかに別れたのだろう。

この二人の縁がここから一層深くなるのは
まだ気の遠くなるような相当の歳月が必要なのである。


その歳月の間に寅はリリー以外のマドンナと多くの恋をし、
リリーはもう一度、ある老人と結婚もする。


しかし、それでもなぜかこの二人の間には「赤い糸」が見える。
ちょっとやそっとでは絶対切れない運命の糸だ。

そして、その鍵を握っているのはやはり『さくら』なのかも
しれない。













出演


渥美清 (車寅次郎)
倍賞千恵子 (諏訪さくら)

浅丘ルリ子 (松岡リリー)

下絛正巳 (車竜造)
三崎千恵子 (車つね)
前田吟 (諏訪博)
中村はやと (諏訪満夫)
太宰久雄 (社長)
佐藤蛾次郎 (源ちゃん)

笠智衆 (御前様)


新垣すずこ (山里かおり)
間好子 (国頭フミ)
江藤潤 (国頭高志)
金城富美江 (国頭富子)
比嘉美也子 (イルカスタジオのアナウンサー)
伊舎堂正子 (病院の老婆)
伊舎堂千恵子 (看護婦)
光石研 (軽井沢のカップル男)
一氏ゆかり (軽井沢のカップル女)




スタッフ


監督 : 山田洋次
製作 : 島津清
原作 : 山田洋次
脚本 : 山田洋次 / 朝間義隆
企画 : 高島幸夫 / 小林俊一
撮影 : 高羽哲夫
音楽 : 山本直純
美術 : 出川三男
編集 : 石井巌
録音 : 鈴木功 / 松本隆司
スチール : 長谷川宗平
助監督 : 五十嵐敬司
照明 : 青木好文




公開日 1980年(昭和55年)8月2日
上映時間 104分
動員数 206万3000人
配収 13億円



今回で第25作「寅次郎ハイビスカスの花」は完結です。

次回は透き通るように美しいふみさんが登場する
第27作「浪花の恋の寅次郎」です。
次回第1回更新はだいたい4月29日ごろです。








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