バリ島.吉川孝昭のギャラリー内 


寅次郎わが道をゆく
第22作 男はつらいよ


1978年12月27日封切り









早苗さんの果てしない魅力
        人生の師 諏訪ひょう一郎の教え




この映画の大原麗子さんはいやはやほんとうに麗しく、光り輝いている。こうして画像をキャプチャーしていても
どこで切り取っても絵になるのだ。普通なかなかこんなことはない。だから大原麗子さんだけを見ていてもかなり満足する
はずだ。第34作「寅次郎真実一路」の38歳の大原麗子さんもこの第22作に勝るとも劣らない色気だったが、
この若々しい32歳の大原麗子さんもなんともまあ美しいのである。全作品中一番の美しきマドンナと評する人も少なくない。




            




しかし、そんな美しさとは反比例して、彼女はいきなり不幸せのど真ん中にいるのである。
どうしても好きになれなかった夫と離婚するしないで悩みながら別居し、とらやに店員として働きにきたのだ。

なんであのような見目麗しき彼女がこともあろうに小さな団子屋であるとらやで働くんだ?
なんてこの映画を見るたびにそう思ってしまう。三平ちゃんやかよちゃんならいい意味でもとらやにぴったりなんだが、
早苗さんではどうもオーラの種類が違いすぎるのだ。場違いもいいとこである。
ま、どうやらいろいろ人生であって来たのだろう。それに見た目とは違うちょっと変わった人らしいのだ。
とにかく、こんな絶世の美女がとらやで毎日働いてくれるという絶対にありえないような設定になったからには
観ている観客も寅も黙って見過ごすわけには当然いかないのだは当たり前のこと。



一方その頃寅は、旅の僧に大井川の蓬莱橋で「女難の相」が出ていると言われて帰ってきたのだが、
やはりそれは当たっていた。
精神的に追い詰められた人は、寅には弱いのだ。人は苦しい時悲しい時に他人に慰められると、ほんとうに嬉しいものだ。
第25作「ハイビスカスの花」のリリーや第29作「あじさいの恋」のかがりさん、が一番いい例だが、
「寅次郎夢枕」の千代さんも寅の優しさに泣いてしまった一人である。

そして今回のマドンナ早苗さんもしかり。
ある日遂に離婚をしてしまった早苗さん。早苗さんは今まで頑張って耐えていた緊張の糸が切れ、とらやで遂に
泣き崩れてしまうのである。
寅はなんとか茶の間で早苗さんの心を和まそうとするのだが、例の如く全て裏目に出る。
それで、みんなでかえって暗くなってしまったが早苗さんはその寅の優しい心に感動するのである。
そして帰り際に寅にこう言ってしまう。



早苗「あのー…、今日はほんとにありがとう。
   私…寅さん好きよ!




            



駆けて行く早苗さん。

さくらの言うように、よほど、離婚直後のこの団欒がうれしかったのだろうが、この発言には疑問が残る。
だいたい、いくら心を慰めてもらったとはいえ、この日は早苗さんが夫と離婚したばかりなのだ。
だから、これは間違ってもいわゆる「愛の告白」ではない。
あの第14作「寅次郎子守唄」で愛を告白する弥太郎青年のあの恋心とは異質のものである。

寅は齢四十をかなりもう越えている独身の男である。
寅に深い感謝と共にほのかな好意を持ちはじめたくらいで、いくら嬉しくてもちょっと言いすぎではないかと
思ってしまうのである。ましてやあの魔性の水野早苗さんの、あの潤んだ目と色っぽいあの声で言われると、
寅でなくても誤解をしてしまう(^^;)
この早苗さんの『勇み足』が寅の気持ちを加速させ、結果的に悲しませてしまうことにも繋がっていくのである。

しかし、実はこの日から早苗さんも寅のことを好きになりかけてたのかもしれない。そういう展開は人生で確かにある。
そしてその心を持ったまま突然の別れが来るのがこの物語のせめてもの救いかとも思った。


ラストで、彼女を二十年も想い続けた従兄妹の肇のもとへ急ぐように強く勧める寅。

頷きながらもなにか言いたげだった早苗さん。


早苗「寅さん、私ね、…、分かってるのよあの人の気持ち

寅「だったら本人にそう言ってやりなよ、どんなに喜ぶか

早苗「そんなこと言ったって…私ね……

と、寅を見つめる。

早苗「あたしね…

寅「明日聞くよ。
  早く行かないと間にあわねえぞ、な


寅は恋のライバルが現れた場合、ほぼ100パーセント自分は譲ってしまう。
そればかりか、ライバルの心が痛いほど分かり、恋の仲立ちまでしてしまうのである。


「明日聞くよ」と言った寅の口跡とその表情は惚れ惚れするくらい素敵だった。
渥美さんのあの言葉と姿を見たいがためにこの作品を見ることもあるくらいだ。

それにしても早苗さんは「あたしね…」のあと、何を言おうとしたのだろうか?

いずれにしても寅は、すでに遠い旅の空である。
早苗さんの密やかな心は封印されてしまったのだ。

寅の、このような花の咲かない哀しい行き止まりの恋はいったいいつまで続くのだろうか。


ちなみに市川崑監督の獄門島が封切られたのはこの前年1977年の夏。
この「獄門島」での大原麗子さんの美しさは絶品で一躍スターになったのだった。
その時の役名が「早苗」なのである。
偶然ではないと思う。
山田監督は獄門島から早苗の名前を拝借したの
だ。


           








人間 諏訪ひょう一郎の奥深き懐


だからと言ってこの作品は実は大原麗子さんがメインではない。もう一つの魅力的な人物志村喬さんの存在は、
大原麗子さんが吹っ飛んでしまうほど大きなものがある。大原麗子さんは、私たちが見たまま、見えたままの
姿と演技だが、志村喬さんの芝居は、私の人生の歳月に比例して演技がどんどん違うように見えてくるのである。
一生をかけてひとつの役者の芝居を見ていくことの醍醐味を志村さんや渥美さんは私にずっと教えてくれている。
そういう意味でも、この第22作は『人間 諏訪一郎(ひょういちろう)』を
もう一度垣間見ることが出来る嬉しい作品だ。
もちろん、私の関心の中心はもっぱらこちらにある。志村喬さん最晩年の穏やかさと貫禄がバシバシ感じられる
作品なのである。

御前様、諏訪ひょう一郎、坪内散歩、この三人はこのシリーズの寅の師匠である。
第8作「恋歌」でも『りんどうの花の教え』を寅に語り、寅を大いに反省させた大人物なのだ。

第32作でひょう一郎の三回忌の墓参りをするが、その時の墓の前での寅の一人語りを思い出して欲しい。
あれは人生に大きな影響を与えられ、そして深く感謝をしている人への愛惜の言葉だった。



             




芸者遊びに自分のサイフをポンと寅に渡してやるひょう一郎。

味わい深い今昔物語をとつとつと語るひょう一郎。

『大人物は反省して去ったか』…、と、微笑むひょう一郎。

とらやで慣れない接客をするひょう一郎。

さくらのアパートであまりしゃべらないひょう一郎。

『歳をとると速い乗り物に乗っても仕方ない、別に用事があるわけではない』と、つぶやくひょう一郎。

柴又ホームで安曇野に博のための土地を買ってあることを知らせるひょう一郎。

博のためにさくらに頭をさげるひょう一郎。

さくらが渡したお金を受け取らず、さくらのポケットに押し込むひょう一郎。

どのひょう一郎も味わい深く、実に奥深い。




              




生理的に麗しき早苗さんを楽しみ、
それと同時に人生の師としてひょう一郎さんの静かな寂しい背中を追いかけるのが
この第22作「噂の寅次郎」の私流の楽しみ方なのだ。









それでは本編をどうぞ。



松竹富士山



             





今回も夢から



寅地蔵尊物語


雪の降るある寒い日。


家路を急ぐおさくが寅地蔵尊に途中お参りをする。


おさく「寅地蔵様、どうか、お父っつあんの眼が見えるようになりますように。
   それから、私の身内や柴又村の人たちが幸せになりますように―



と手を合わせて拝むおさく。


この地蔵尊は顔が四角くくて眼が細い。




             



おさく「寅地蔵様、寒そうだねえ、
   雪が降り出したのにこんな薄着で、可哀相に、
   おお、そうだ




             



と、着ている綿入れを脱ぎ

おさく「おほおほお…と凍えながらも

おさく「これ着せてやるからね、ほおおお…、と寒さで手をこすり合わせながら



             



おさく「それからつきたての餅に、みかんもあげるからね



             



と、もう一度手を合わせて拝むおさく。

おさく立ち上がり家路を急ぐ。


おさく「おー…、今夜は大雪になりそうだ


おさくさん、綿入れを地蔵さんにかけてやるのは、かなりの太っ腹だ。
昔の人の信仰心と言うか優しさは骨太だねえ…。




なんと言うことだろうか…



四角い顔の地蔵尊の両方の細い眼から、なんと、
涙が一滴溢れ出し、零れ落ちるのであった。


清い音楽が流れる。



              




一方そのころおさくの家では…


おさくの家


貧しい農家の土間に、悪徳金貸しのタコ兵衛と子分の源吉が
立ちはだかっている。


家の外では娘を借金のカタに持っていかれ泣いている
近くの農家の家族が見える。


おさくの父親は眼の病で眼が見えない。



父親「お願いでございます、あと一日、一日だけ猶予を


一日待ってもしょうがないと思うが…


タコ冗談じゃねえや、慈善事業やってんじゃねえぞ。
  元金十両、利息が九十両、合わせて百両、耳をそろえて今すぐ
  出しやがれってんだい!


博作「なんだと!利息が九十両

タコ「そうよー、ちゃあんと書付に書いてあらあ!



               



博作「ふざけるな!そんなもの!

と、タコの首を絞める。

タコ「アタタ

源吉「やめろ!このおおお!

と博作を引きずる。


タコ「このヤロ!おい!叩き壊せ!ここいる貧乏人どもに
  見せしめだ!



源吉、木槌で、囲炉裏を壊しにかかる。




そこへおさくが飛び込んでくる。



おさく「待って!待ってください!
   タコ兵衛さま!私が代官さまの御妾になります。
   そうすれば借金は棒引きにしてくれるんでしょ


社長「ほー…

博作「そんな!

源吉が博作を押しのける。

タコ「ほー、おめえ、ものわかりがいいなあ、
  おう、父っつあん、おめえ、親孝行な娘持って幸せだなあ


父親「…なんてことを…

と悔し泣きをする。



哀しい音楽が流れる。


おさく「お父っつあん、好きなお酒と、お餅と、
  それから…これは眼のお薬だからねえ




               



父親「んん…もうしわけない…と泣き続けている。

博作「ダメだよ、おさくさん!行っちゃダメだよと泣いてしまう。


おさく「たとえ身は汚されても、心はいつも…と博作の手をとり泣く。


タコ「おうおうおう、下手な芝居、
  いつまでも見てる暇はねえんだ、おい、源の字


源吉「おら、おーら

と、おさくを押していく。

おさく「あれ、乱暴な

父親下を向いて泣きながら

父親「おさく!うううう…

柱にしがみつくおさく。

源吉「行くんだよ



その時、入り口が妙に明るくなり、人の姿がある。



タコ「なんだ…?

と、後ろずさり。


源吉もうしろずさり。




おさくに源吉の足が当たって


おさく「あいたたた


源吉、振り向いて

源吉「あ、ごめん

ここだけ源ちゃんのミニギャグ(^^;)





メインテーマが厳かに鳴り響く。



高僧が後光を輝かせて立っている。



源吉、びびりながら


源吉「な、なんだこのくそ坊主ー!

社長「どけ!


その瞬間、

チリーンと音がして



二人とも不動金縛りにあい、体がこわばり
身動きがとれずに気絶してしまう。



              




次のチリーンで、

再起不能になり、地面に倒れこんでしまう。


みんな真っ青。


高寅「おさくとやら


おさく「はい

高寅「南無観世音寅地蔵尊は、
  そなたの優しさに愛でて、
  願いを聞き入れてとらせるぞよ




               



三人ともひれ伏して


一同「ははああ!



高僧は父親に近づき、その眼のそばで、気を送ると…


チリーン



見えないはずの眼が開き、


父親「あ、眼が見える!



                



おさく、父親の眼を見て


おさく「ああ!



高僧、さらに拝みながら杖を一振りすると、

チリーン


なんと真冬が、暖かな春に!


おいおいおいなにもそこまで変えなくても…。
自然の生態系が…ヾ(^^;)





美しい音楽が大きく盛り上がり


家の中に米俵が積まれる。



                 




その前に海の幸とお餅の山。

野菜と団子の山

なんと小判の山




                 



さらに高僧が拝むと


おさくと博作の着物が真新しく美しくなっているではないか。

おさく「は!

博作「あ!


と、お互い見合って驚く。


上から小判がチャりんチャリンと舞い落ちてくる。



                 



春の野を幸せそうな村人たちが歩いている。


みんな「ああ!!


音楽が流れ続ける。


小鳥の泣き声。



高寅「南無観世音寅地蔵尊、
  ありがたき仏のお守りにより、
  この柴又村の幸せと平和は、
  子々孫々まで、守られることであろう。

  めでたきかなめでたきかな。


       


高僧はこうして家の外に出て行く。


おさく「寅地蔵さま



          


寅「南無観世音大菩薩 南無観世音大菩薩
 南無観世音大菩薩 南無観世音大菩薩





にっこり笑ったその顔がすっと消えていなくなる。



          




そのあとに、寅地蔵尊が残っている。



          



メインテーマが厳かに流れる。


おさく「
寅地蔵様ありがとうございます

と、ひれ伏して一心不乱に拝み続ける三人。


みんな「
ありがとうございました


と泣いている。



               





寅地蔵尊のアップ




音楽が流れて




寅地蔵尊の顔が
寝ている寅の顔に変わっていく。




               






木曽路 徳音寺


追記 2014年10月24日
寅友のちびとらさんの幾たびにもわたる奮闘によりこのお寺が木曽にある
徳音寺だとわかりました。

長野県木曽郡木曽町日義124-1

徳音寺(とくおんじ)は、
長野県木曽郡木曽町日義にある臨済宗妙心寺派の寺院である。
日照山徳音寺。源義仲一族の菩提寺。

境内には義仲、義仲の母小枝御前、巴御前、樋口兼光、今井兼平の墓、
義仲の遺品などを展示した宣公資料館がある。また、隣接して義仲資料館の義仲館がある。






本堂の回廊でうたた寝している寅。


寅とひょう一郎が後に行った『妙覚寺』山門に一見似ているが
少し違うような気もする。



和尚さん「もし、旅の人、もし


こけそうになって、はっと眼が覚め、



           



寅「へい

和尚「お風邪を召しますよ

寅「あ、はい


寅、起き上がり、身をかがめて歩き出し、

本堂前で賽銭箱を見つけて



              



寅「えー、すっかり軒先をお借りしちゃって


寮銭箱の前に立って、腹巻から小銭を出す。

寅「それじゃ、まあ」と

と小銭を一枚放り投げるが…


寅「あっ!

賽銭箱の中を覗き込み

寅「いけねえ、百円玉投げちゃった!


慌てて寮銭箱を揺らしながら大声で住職を呼ぶ。



寅「和尚さん、ちょっと!
 百円玉入れちゃったんだけど、
 お釣くんないかなあ、お釣、
 あ、入れちゃった……どうしよう



ついには賽銭箱を縦にしてお金を出そうとする罰当たりな寅(^^;)


頼むから賽銭箱縦にするのやめろって ヾ(TT)



                 







タイトル はつらいよ 噂の寅次郎 

 映倫19616




                 



口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
   帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
   人呼んでフーテンの寅と発します。


   ♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前の喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪



♪どぶに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら こんな苦労も
   こんな苦労もかけまいに かけまいに♪





江戸川土手 お彼岸の晴天



秋晴れの中

柴又に帰ってきた寅



今回もコントの帝王津嘉山正種さん登場!
絵描きさん(津嘉山さん)が江戸川で油彩で江戸川風景を描いている。





               




三脚イーゼルを立て、ベレー帽をかぶり、絵筆をふるう画家。



            



その背後から感心して眺めている子供や家族連れやカップル達。

かばんを下げて興味本位で
スタスタやって来た寅、みんなの後ろからのぞく。

画家さん、キャンバスをもっともらしく眺めながら二三歩下がる。

後ろにいたカップルと接触し、カップル慌てて後退りして
そのまた後ろの寅にぶつかってしまう。

虚をつかれて寅は思わずひっくりかえり、



            



畜生めと怒りの形相で立ち上がると、
カップルの男を後ろから足で蹴りを入れる、



            



男は前につんのめってなんと画家にぶっかり、
そのはずみで画家はキヤンバスに顔をベチっと衝突させ、
絵具だらけになってしまう。ああ…(TT)



            




あとは例のごとく画家と男の喧嘩が始まり、
寅は知らん顔してカバンを持ってスタコラ逃げ出す。



            



呆れて見ている他の見物人達。

というミニコントでした。


あ〜あ…せっかくの絵が台無しだよ(TT)






柴又 題経寺近くの題経寺専用墓地。

すぐ向こうに題経寺の大鐘楼堂が見える。

国道307号線沿いなので、
ちょうど喫茶店ロークが同じ道沿いにありる。
ロークからもうちょっと柴又駅寄り。


これはとても珍しいパターン。

とらやの面々の野外ロケからはじまる。
おいちゃんおばちゃんさくらで
秋のお彼岸に墓参りにやって来た。



              



彼岸参りの家族連れが数組お参りに来ている。
花や線香の煙で賑わっている墓地の風景。


株式会社 『澤口電機』 のビルの看板。一部破損(^^;)




源ちゃんを連れ、
墓参の人に「ご苦労様」と挨拶を交わしたがら歩いて来る御前様。


おばちゃん「あら、御前様

御前様「やあ、お墓参りで、ご苦労さま


挨拶をしながら桶や花を手にしたさくら
おいちゃんおばちゃんの三人連れが入って来る。



おいちゃん「いえいえ、仏ほっとけ
     春のお彼岸などは失礼しちゃったもんで、フフフ


マジですか、こんなに近いのに?(((^^;)
そういえば第4作にいたっては平造さんの命日すら忘れていたなあ…。

この仏ほっとけギャグはこのシリーズのいたるところで登場。


御前様「天気がよくて何より



                



おばちゃん「ほんとうに。もうすっかり秋ですねえ



何となく空を見上げる一同。


渡り鳥が飛んでいく。


御前様「ほう、渡り鳥

さくら「これから行くのかしら、帰って来たのかしら

おばちゃん「どうしてるかしら、うちの渡り鳥(^^;)

おいちゃん「変なの思い出しちゃったな。
    じゃ、御前様



御前様「いや、私もご一緒に

おばちゃん「恐れ入ります


と一同歩き出す。





さくら、墓の前でふと足を止める。



           



なんと寅の姿がちらっと見えたのだ。



           



さくら、びっくりしたような顔でおいちゃんに

さくら「お兄ちゃんよと言っている様子。


おいちゃんも驚き思わず指を指す。



                 



おばちゃん「あら、!!! 寅ちゃんが……



みんな呆然…。



カメラ珍しくズームイン!




おいちゃん急に喜びがこみ上げてきて


..
おいちゃん「あの野郎、驚かしやがって



                



殊勝な面持ちで手を合わせている寅の後に
やって来たおいちゃん達。

おいちゃん「寅ー!!


寅、振りかえる。


寅「ああ、おいちゃん

さくらはじめみんなの姿が視界に入って


寅「
あ、何だ、みんなも来てたのか。
 こら、まずいとこ見られちゃったなあ、こら。フフフ。

 あ、御前様、どうもごぶさた致しております



さくら「お兄ちゃん、帰って来てたの



            



寅「いや商売の途中よ。
 上野でもってな、用事があってちょっと降りたらな、
 そうしたら今目は彼岸だっていうじゃねえか、

 そしたら急に仏心が起きてね、
 そうだ、親の墓行って…線香の一本もあげようかなと思って、
 で、寄ったんだ。

 だから手土産も持たずにさ、
 すぐこのまま旅を続けるつもりだったんだよ、ヒヒヒヒ、
 いやあ、悪いことはできねえな、ハハハ




              



、おばちゃん「何が悪い事たもんか

寅「
えー


おばちゃん「
お前のお父っつあん、
    墓の下で喜んでいるよ、うううう


と、おいおい泣いてしまうおばちゃん。


おいちゃん「バカ、泣くやつあるかい。
    さ、久し振りに兄妹で線香をあげろ、な



寅「ん」


さくら「うん

一同、手分けして、水をかげたり花を差したり
線香を焚いたりしはじめる。



御前様、両手を合わせ、墓石に語りかげる。

御前様「ん……、
   千造さん、あんたの息子が旅先から帰って来たぞ。
   今日はいい日だなあ。南無妙法蓮華経……
   南無妙法蓮華経…



★御前様、寅たちの父親は「千造」でなく「平造」ですよ



               




いつもいつも父親ばかり…。
一度くらいさくらのお母さんの名前や長男さんの名前
セリフに出してやって欲しいよ(TT)




墓石に水をかげていたおいちゃん、大声を出す。


おいちゃん「あ、いかん。御前様、うちの墓は隣です



               



おばちゃん「あら、ほんとうだ。
   やだよ寅ちゃん、墓間違えたりしてぇ



寅「あ、そうか。ちょと立派すぎると思ったよ。ハハハ」

プッと吹き出すさくら。


寅「
よ、おい、引越し引越し、早く早く



                



みんな「いやねー


一同、あわてて花や線香を拾い集める。

源公、おかしそうに笑い続けている。

御前様不動(^^;)


寅「おばちゃん、それ、ぼたもちもこっち持って来て

さくら「
ごめんなさい」と墓に言っている。

おいちゃんおばちゃん「
どうも失礼いたしました、どうも

と、同じく墓にお辞儀。

さくら「
嫌だわお兄ちゃん

寅、花をもう一度挿しながら、



         



寅「いろんなことあるさ、フフ

みんな大笑い。


御前様もやり直し

御前様「千造さん、あんたの息子が帰ってきたぞ、
   今日はいい日だなあ…



みんな御前様が同じことを言ってるので大笑い。

寅「
同じことやってるよ、ハハハ
と指差す。



        


さくら「フハハハハ!!

特にさくらがバカ笑い(^^



おいちゃん、急いで墓に水かける。

さくら「あ!おいちゃん冷たい、フフフ

おばちゃん「フフフ






とらや 店




博が作業服のまま、店番している。


カメラは珍しくこのように上から下へのアングル。



        



ダンゴを買った客が出て行く。

博「
ありがとうございました

と見送っている所へ、

笑い声をあげたがらさくら、おいちゃん、おばちゃん、
そして寅の四人が戻って来る。




寅「よお、博

博「
あ、兄さん!

寅「おう

博「
お帰りなさい

寅「留守番か、ご苦労さん



さくらたちも帰ってきて、大笑いしてるので


博「なんだ、どうしたんだ


さくら「
フフフ、あのね、お兄ちゃんがお墓参りに来てたの



            



おばちゃん「まあ、感心だと思ってたらねー」

寅「もういいよー


さくら「お兄ちゃんたらね、間違えて隣のお墓拝んでたのよ



寅「
そういうこともあるよあんただけだってば ヾ(^^;)


博「隣のお墓を?フフフ、なるほど

さくら「
まったく、読めばわかるじゃない、フフフ


と笑い出す。



おいちゃん「さあて、上がってお茶でも飲むか、寅


おばちゃん「
あー、おかしかった。ハハハ


台所に向かうおばちゃん。


.


寅「おう、博、社長さんはどうだ?元気でやっているか



             



.
博「相変らず不景気でしよう、青息吐息ですよ

寅「
フフ、そうか、今いるのかい

博「
いや、今銀行、行っているんですよ

寅「
あ、そう、今夜でもさー、ちょっと話に来いって言ってくれよ

博「
はい

寅「
うん

博、工場に姿を消す。


懐かしそうにあたりを見回す寅。


看板

朝日印刷

各種印刷

TEL (657)3168



いつも思うんだが、この看板はとらや以外誰が見るんだろう?



彼岸で休みなので、
二階の寮でギターを弾いてくつろいでいる工員たち。




寅「おい、こら、おまえ、
 相変らず貧しく働いているのか、労働者諸君は。ハハハ


工員たち「???



           



寅「おまえだよ、ハハハ、いいいい、
  引っ込め引っ込め、引っ込め




           



このように墓参りをみんなに褒められた寅は結構機嫌がいいのだった。


その後ろの台所で同時におばちゃんとさくらのやりとり。



さくら「おばちゃん、とりあえずこのお団子、
   えびす家さんに届けるんでしょう


えびす家さんは『ふるさと亭』の手前にある。




おばちゃん「すまないねえ。
      ついでにガンモドキ買って来てくれるかい、
      寅ちゃんの晩のおかず







帝釈天・参道  『い志い』の前あたり。


ダンゴの包みを持ったさくらが急ぎ足に歩きたがら、
女の子と肩を並べてやって来る満男に声をかける。


さくら「お帰り。満男、おじさん帰って来てるよ


満男、おどけて、両手でピースを作り。

満男「イヒヒヒヒ



           








題経寺・鍾の音  タ方

ゴーン




カラスがカアカア帰って行く。





とらや 茶の間



食後のひと時、台所の後片づげをするおばちゃん。

溝男に勉強を教えている博。



おいちゃんの腰をもんでやっているさくら。


おいちゃん痛がっている。


そのおいちゃんに、寅が声をかける。


寅「おいちゃん、その…腰の所が痛いのか…


おいちゃん「うん、…重いもの持つのがつらくてなー。
     団子配達するのが一番こたえる



おいちゃん「あ〜〜たたた


さくら「私がいる時はいいんだけどね、
   PTAの役員やってるもんだから近頃出歩くことが多くて



寅「だからさ、あの、配達やめて店売りだけにしたらどうなんだい


おばちゃん「そんなことしたら売上げ半分になっちゃうよ


おいちゃん、痛がって

おいちゃん「あーあ…

寅「早くよくなんないかなあ〜」と言いながら

寅、おいちゃんの足をぐっと折り曲げてしまう。おいおいおいヾ(^^;)

おいちゃん「あああ!!痛いよ、イテテテテ!!そこはいい!


さくら寅を止める。



             




おいちゃん「いや、ありがとう


博「どうですか、いっそ、人一人入れたら

おいちゃん「冗談じゃない、うちが給料なんか払えるかい

さくら「あら、だって店員さんが来たら、
   売上げが三割は確実に増えるわよ
三割も増えるかね〜(−−)

おいちゃん「増えたっておまえ、その分給料払ったら元々じゃないかぁ


博「元々だっておじさんとおばさんの体が
  楽にたるだげいいじゃありませんか


さくら「そうよ、大事なことは、
  このお店をいつまでも永く続けることでしょう




               



おばちゃん「でもねえ、うちなんかにいい人が来てくれるかね

博「それが、間題だな


とは言え、
第1作ではちゃんと店員さんがいたよ。
第2作から第5作までも今度は別の店員さんがいたよ。



黙ってこのやりとりを聞いていた寅、
申しわげなさそうに頭を下げる。


さくらのテーマが流れる。


寅「すまねえなあ、
 オレがもうちょっとしっかりしてりゃ、
 おいちゃん達にこんな心配かけねえんだ




              



一同、ちょっぴりしんみりする。




おいちゃん「寅、その気持だけで充分だよ。
    人にはそれぞれ
というものがあるからな


さくら「そうねえ、お兄ちゃんには
  店番なんて無理だもんねえ




              




人にはそれぞれ器があり、
与えられた宿命があるという意味。
このシリーズのおいちゃんの言葉の中で
最も深い感銘を受けた言葉の一つ。
この言葉は、三人のおいちゃんの中で
下條おいちゃんが一番よく似合っていると思う。





満男向こうに行く。


寅「博、お前の工場の方も大変なのか


博「ひと頃と違って、近頃は仕事がないんですよ。
 ですから社長、仕事を取るのに大騒ぎで、
 そこにつけこまれて安く叩かれて、
 赤字を承知で結局引き受けたりするんですよ



寅「そうか、大変だなあ、え、中小企業の経営かぁ…


寅、はっとして…

寅「あれ、なんだい、さっきから社長の顔、見えないね、
  どうしたんだい、あいつ




               



おばちゃん「あら、ほんとだ

さくら「お兄ちゃん帰ってんの、知ってるんでしょう

博「いや、昼過ぎに出かけたきりぜんぜん帰って来ないんだ。
  どうしたのかなあ…




               



中村君やってくる。


中村君「こんばんは、失礼します。
   博さん、吉田活版から社長に急用らしいんだけど、
   どこへ行ったんですかねえ




              



博「なんだ、まだ帰って来ないのか

中村君「ええ、おかみさんがヒステリー起こしてんだ


心配そうに顔を見合わせる一同。


さくら「博さん、大丈夫たの


博「うーん、二時頃だったっけなあ、
 銀行から電話が来て、顔色かえてすっとんで行ったんだげ
 ど、そんなことしょっちゅうだもんなあ



パトカーのサイレン


このやりとりを荘然と聞いていた寅、やにわに大声を出す。


寅「博!お前そんな重大た事を今まで何で黙ってたんだ。
 これは大変たことだぞ




               



博「いやあ、どっかで酒でも飲んでんでしょう


寅「どうしてそんなのん気なこと言うんだ、
 毎日の新聞を見ているのか。
 『中小企業の経営者、経営不振を苦に自殺』……。
 おい、博!どこか心あたり電話しろ




              



博「はい


寅「青年


中村君「はい


寅「はい、じゃないよ
 いいかおまえすぐ労働者全員を集めて、
 一隊は京成線の踏切近く、
 残る一隊は江戸川の堤近く、残らず探せ、
 早く行け!早く!」


中村君「はい!

と表へ飛び出す。


土問に下り右往左往し始める。


寅「さあ…、えらいことになったぞ、これは



              





葬式好きの寅は、深刻になりながらも
知らず知らずに葬式癖が出て気持ちが高揚している。



さくら「お兄ちゃん、ちょっと落ち着いて



              



おばちゃん「そうだよ、まだ死んだって
    決ったわけじゃないだろう


おいおいおいおばちゃん ぜんぜん死んでないってば ヾ(^^;)


寅「万一ということがあるじゃないか。
 その万一にそなえて
 万事手ぬかりなくしてやるというのが
 近所のつき合いっていうもんじゃねえか、おばちゃん




              



おばちゃん「でもねえ、社長さんに限ってねえ


寅「その限ってが、いけないんだよ。
 そういうヤツに限ってポッコリ死ぬんだよ。
 いつも社長は言ってたじゃないか、
 死にたいよー死にたいよーって、え、
 あれがあいつの口ぐせだったじゃないか






博、受話器を置いてつぶやく。


博「おかしいなあ、飲屋にはいないな



              



寅「警察へ電話しろ、警察へ、

 おばちゃん、うちには酒あるか




             



おばちゃん「う、うん…


寅「すぐ酒屋に行って叩き起こして
 十本ぐらいここへ届けさせろ。

 さくら、茶碗、箸、皿、
 そういったものの仕度はいいか



ほんとに好きなんだねえ葬式仕切るのが((^^;)

第2作の散歩先生の葬式参照。




さくら「うん、そんなもんは大丈夫だけど……でも



              



寅「よし!あとは寿司屋はずっと遅くまで起きてると。
 残るは葬儀屋だけだな。
 あいつは体がでかかったから
 棺桶も特大にしなきゃいけねえ




              




寅「おいちゃん、これは万が一だけどな、
 もし今晩お通夜ということになったら、
 この家を貸してやろう。な


おいちゃん、思わずコックリ頷く。(^^;)



              



寅「奥の仏間にあいつの棺桶を据えて、え、

 右方に、親族、左方に遺族、そしてここに労働者。

 すっとここ酒の席にして。

 あすこ受付だよ




              



気持ちはもうすっかり葬式の気分((^^;)



寅、上がり口に腰を下ろし、しみじみとした表情で


寅「考えてみればあいつも可哀相なやつだったなあ、
 オレたちにゃはかりしれねえ
 辛い思いをしてたのかもしれないなあ…。

 もう一日オレが早く帰って来たらなあ。
 あいつと酒を酌み交わして苦労話を聞いてやれたのに」



         



もう死んだと決め付けて話をどんどん進めていく寅。


さくらとおいちゃん「……」



         



さくらが何か言おうとした時…


酔っぱらった社長の唄声(昔の名前で出ています)が聞えてくる。


社長の声「♪しのぶ〜と呼ばれたの〜


外を見るさくらとおいちゃん。



               



社長店に入ってきて


社長「神戸じゃ〜、渚と〜…




昔の名前で出ています 

歌 小林旭


京都にいるときゃ 忍と呼ばれたの
神戸じゃ 渚と名乗ったの
ハマの酒場に戻ったその日から
あなたがさがして くれるの待つわ
昔の名前で出ています


以下略




顔の向きはそのままで、目だけギョッとする寅。




               



みんな、唖然…。


赤い顔をした社長が上機嫌に台所に入って来る。



社長「なァんだ、寅さん、帰ってたのかァ。
  今日は私がもてちゃってね



おいちゃん「何だ、どこへ行ってたんだよ


社長「池袋よ。仲間とね、たまにはうさ晴らしやろうってんで
  バアッとくり出したのよ。ところがさ、
  これがハハハ、おもしろい店で…




              



たまりかねて、寅、怒鳴る。


寅「やい、このヤロ!

社長「え〜



              



やにわに社長を倒し、社長の首をしめあげる。


慌ててとめに入るさくらと博。




              



おばちゃん「寅ちゃん!

さくら「ちょっとお兄ちゃん!やめなさい

博「兄さん!やめてください!


寅「なんだこの野郎、人がさんざん心配してる時に
 女の子の手なんか握りやがって!バカ!




              




おばちゃん「そうだよ

博「そうですよ!

社長「いいじゃねえか!なんだい!
  人がせっかく機嫌よく酔ぱらてる時に、
  オレだって社長だい!
  女の子の手を握ろうと握るまいと
  てめえの指図なんか受けるかい!




と、寅の胸を押す。

寅よろけて、後ろの博が土間にこける(((^^;)


寅「やるか!!!



             



寅、社長のネクタイを掴んで、庭へ走っていく。

社長「イタタタタタタ!!

さくら「お兄ちゃん!!」

博の声「ちょっと!待ってください二人とも!


その騒ぎを心配そうに見ているさくらとおいちゃん。

さくら「大丈夫かしら

おいちゃん「まかせておけ博さんに、何とかなるさ




さくら「せっかく今日は気持よくお兄ちゃんを
  迎えることができたのにねえ…


と、残念がっている。




寅の声「何だてめえら労働者、団結してきやがったな。
    このヤロウ!来い!




博、必死で寅を止めている。


工員たちも出てきて社長を止める。


工員たちはまだ外に社長を探しに行ってなかったんだね。



              



社長「わああああああ!!と、寅に突撃していく(TT)


博「やめてくださいよ!



今回の一連の騒動は、なんとこの後の作品にもそのまま出てくる、
第27作「浪花の恋の寅次郎」の冒頭だ。
このあたり、山田監督もネタ作りが苦しくなってきているのが分かる。








翌朝 さくらのアパート こいわ荘

(第5作ではコーポ江戸川)



さくらのアパート 表の道



京成電鉄の電車が通過していく


朝日のさす道を主婦が掃除している。



               






さくらの部屋 電話口



さくら、電話に出ている。


さくら「…じゃ、おばちゃん達が寝てる間に
   こっそり出て行っちゃったのかしら



おばちゃんの声「そうらしいんだよ



               








とらや 電話口


おばちゃん、電話に出ている。


台所で、社長がおいちゃんに何やら弁解しているのが見える。



おばちゃん「蒲団なんかキチンとたたんじゃってね、
     書置きまで置いてあるんだよ。
     ……あ、今読むよ。



         



   
『え…やっぱり帰ってくるんじゃなかった。
   社長によろしく言ってくれ。
   あばよ。

   とらや御一同様。

   寅次郎 』





             










静岡 秋深き大井川 蓬莱橋



美しい音楽が流れる。


静かに流れる大井川。


世界最長の木造橋 蓬莱橋

897.4m 幅2.7m
大井川を渡る観光歩道橋として利用されている。
増水により何度も損壊。




           




古く長い板が崩れかけた蓬莱橋を、寅が静かに歩いている。



          




ところどころ欄干が崩れ落ちている。

ちょっと危ない(^^;)



           





尺八の音色



反対側から深編笠によれよれ衣の雲水がやって来る。



会釈して通りすぎようとする寅を、
雲水は深編笠の陰からほんの一瞬チラリと見て…、
いったん行き過ぎるが、



          




雲水「もし



寅、立ち止まり振り返る。




           



雲水「旅のお方




寅、一礼して



寅「何か?



           



雲水「まことに失礼とは存じますが、
  あなたお顔に
女難の相が出ております。
  お気をつけなさるように…




そんないきなり…かなり失礼((^^;)



          





寅、慌てず答える。



寅「わかっております。
 物心ついてこの方、
 そのことで苦しみ抜いております





          




寅って、『物心ついたころ』から女難…。
そんな若い頃から惚れっぽかったんだ…( ̄0 ̄;)





雲水、静かに頷く。



寅「では


お互いに合掌し合って、反対の方向へ。

風の中二人は離れて去っていく。


とは言え、、寅の昔からの一連の岡惚れは、
いわゆる女難ではない。何も悪いことは起きていないからだ。
ただ単に自分の個人的な理由で恋が成就しないだけ。



            
                           


ちなみに、その昔、『男はつらいよ』のテレビドラマ版で、すでに
この女難の相を易者から言われるシーンがある。
詳しいことは、私のリンクにも貼ってある、
『テレビ版寅さんサイト通信』さんをご覧ください。
あらゆる男はつらいよの『原点』を見つけることができます。




大井川添いの町 島田市 伊太


大井神社



        



花火と祭囃子。

いつも思うんだが、祭りごときでそんなに
いつもいつもどこでも花火を打ち上げないよ(^^;)


山に近い小さな町の鎮守様の縁日で、
主婦や老婆を集めて例の
電子リングを売っている。


寅「どう!はい!試すだけならただだから!
  はい!これ!よおしよし!」
  さあ、手にはめた人、こう出してみて、
  どう、ちょっとこのへん気分がよくない?
  ほら、なんとなく体の調子がよくなってくるだろ。ね、
  ほら、おばあちゃん顔色がいい、ほっぺた、こう赤いよ



一同に見られて、老婆、恥ずかしそうに笑う。


寅「このお婆ちゃん、美人だねえ、
 昔は男をよく泣かしたろう、ちきしょうめー!ハハ!




         



みんな「ハハハ

寅「
私もね、日本国中ずうっと、商売で旅していますげど、
  この町ほど美人の揃っている所はいない、
  初めてだ、こんな美人のいる所は、うん


みんな「
ハハハ




地元のエキストラのみなさん実にいい顔。



         



寅「さあ!もう、こうたったら、ただ、
  この電子バンドどう、口パクパクねえ!
  これただだよただ!、
  ただしだ、ね、私がここまで来た、電車賃、それと、
  貧しい弁当代あと、半口あけて待っている馬鹿カカァ、
  これにもいくらか持っていかなきゃならない。
  ね、私も女房持ちなのよ、これが、またひどい女、
  あたしゃ女房に外れたよ



みんな「
ハハハ


寅「
さあ、ねえ、どう、おばちゃん手に取って見てごらん、
  さ、これもいいよ、
  ねえ、こちらの手に、はめたやつこれどう……ねえ!



楽しそうに笑い声をあげながら聞いている女達。








柴又 とらや  店


外出から戻って来た博と
おいちゃん、書類をのぞき込んでいる。



おいちゃん「これはなんだ


博「平均的な給料の明細ですね

おいちゃん「はあはあはあはあ

博「30歳前後だと…



            



おばちゃん呼び込みをしている。


おばちゃん「いらっしゃいましー
     いかがでございますか

     いらっしゃいましー
     おやすみになりませんか

     どうぞ





さくら自転車でやって来る。


さくら「あー、今日は賑やかねー


さくらが入って来る。


さくら「何?

おいちゃん「博さんが職安に求人申し込みに行って来てくれたんだよ

さくら「そう。どうだった〜

博「やっぱり不景気なんだなあ、
 最近は求職者が増えてるらしいよ


さくら「へーえ

おばちゃん「じゃ、案外いい人が来てくれるかもしれなれいね

博「さあ、それはどうかな

おいちゃん「なにしろ、こんなケチな店なんだからなあ

さくら「そうねえ



             



裏庭から社長が顔を出す。


社長「博さん、また機械の調子が悪くなっちゃったよ、
  ちょっと見てくれねえかな


博「はいはい


博、ふと溜息をついて、

博「しかし、これじゃオレが工場やめてもたかなか行くとこなんかないな

社長「え、なんだい?

博「いやなんでもありません


冗談とは言え、この時点で博はまだ工場をやめることを
心の隅で考えているのかもしれない。
博が、完全に工場と心中する気になったのは、
第32作「口笛を吹く寅次郎」で、父親の遺産を完全に工場に投資してからだ。




立ち上がる博、


店先の客の相手をするおばちゃん。


さくら、パンフレットを読む

さくら「婦人就職相談センター…









静岡県川根本町  塩郷(しおごう)ダム


   


   



塩郷ダムは堤高3.2mの水力発電用取水ダムである。
一般的には「塩郷ダム」と呼ばれているが、
河川法上におけるダムの定義である15.0mに満たないため、堰として扱われる。



最近までここのダムは「井川ダム」だと思っていたが、
私のサイトをいつもご覧になられている
寅さんロケ地の達人である「
さすらいのサラリーマン」さんが
ここは「塩郷ダム」ではないかとメールをくださり、
いろいろ確認したところ、「塩郷(しおごう)ダム」であることが判明した。


 


中部電力のダム監視棟

堰堤の上で気持ちが沈んでいる女性を見ている職員。


寅が昼の弁当を食べた後、出て行こうとしている。

寅「どうもおじゃまさんで

職員「あ、どうも

寅「えーっとこれは…」と、弁当の箱を捨てようとしている。

職員「捨てとくからいいよ

寅「あ、どうも



寅、爪楊枝を加えながら階段を下りていく。



               



中部電力株式会社のプレート

『今日も一日安全に』



先ほどの堰堤を歩く女性、カバンを下に落とし、ふらふらしている。


寅もそれを目撃してしまい、ちょっと戸惑う。


振り切って離れていこうとするが…



                



寅「女難の相か……


と迷いながらも



                



もしものことを考え、ついかまってしまう。

長野県のガイドブック


ハンカチを取り出して涙鼻をかむ女性。


そのハンカチが風に飛ぱされ、湖面に落ちてしまう。


女性「ああ…


寅、ポケットからハンカチを取り出して娘に近づく。


寅「これを、使いな


娘、びっくりしたようた顔をして振り返るが、



                



娘「すいません


と小声で言い、ハンカチを受げ取り顔をおおう。


寅、傍に立って優しく語りかける。


寅「きれいな娘さんが、
 そうやって哀しそうにして泣くからには、
 よっぽどつらい訳でもあったんだろうなあ…



娘、大きた音をたてて鼻をかむ。


寅「通りすがりの旅の男だけど
 オレでよかっ…たら、話を聞くぜ。
 何もかも話してしまいな、
 そうすりゃ気持ちは楽になる




                 



女性、うう…と悲しみがこみあげている。







静岡県川根本町・千頭駅前


山奥の駅前の人気のない大衆食堂


御食事処おざわ屋


暖簾に

御食事処
丼類
めん類
有線二一四四番
電 百五○番




                  




涙をためた瞳、物凄い勢いでしゃべっている。


テーブルにはおでん。

瞳「その男ね、金にだらしがたいの、
 やれ背広がほしいの、
 やれ、ギターがほしいだのと、
 私にねだんの、しょうがたいなあと思いながら、
 私、買ってやったの、だって結婚するつもりだったんだもん、

 そりゃ大した男じゃたいわよ、顔がいいだけで、
 あと全部だめなんだから、



            



瞳「でもさ、私さえ、ちゃんとしてりゃ何とかやって行げると思っていたの、
 そしたらそしたら、あの馬鹿ね、他に女、作っちゃったんだから、

 その女の顔ったら、
こんな顔しちゃってさ(画像参照^^;)



            



瞳「フランスの服、着ているんだげど、ぜん笹ん似合わないんだから、
 香水なんかプンプンしちゃってさ、その女と結婚するって言うのよ


寅、唖然として聞いている。

瞳「私頭に来ちやったわよ、
  となりにあったハンガーでぶったたいてやったわよ!!


寅、ビビル(^^;)


瞳「……そしたら、口惜しいじゃない:…。
 私のことなんか最初から、好きじゃなかったって……ううう




                  



うううとまた泣き出す。


寅、待ったという感じで、手を出して、

寅「おねえちゃん、ちょっと休もうか」

瞳、泣きながら頷く。

寅「
何か食べるか〜

瞳頷く。

寅「おばちゃん、あのー、ゆで小豆一つくれるかい


おばちゃん「はい


寅「それでいいな


瞳頷く。



                 



化粧がかなり黒くにじんでしまっている。

鼻をかむ瞳。


瞳「お兄さん、優しいのね


とハンカチで鼻をかむ。、、、




泉ピン子さんの歌『哀恋蝶』が小さく店に流れている。

♪ますます痛みます 胸が
涙があふれます 今日も
どうしてくれますか あなた
死んでもいいですか
蝶のように気楽に
私を捨てて あなたはどこへ
うらみつらみ言えばなおさら
ああみじめなだけます。
みじめです。





哀恋蝶  1977年

作詞:藤公之介、作曲:小林亜星


一番

苦しいものですね恋は
振り向いてください どうか
あきらめられません あなた
ふるえつづけています。
蝶のようにやさしく
してくれたのはあなただけです
それを真に受けました
ああほんとにバカですね
バカですね



二番

落ちてしまいました 恋に
受け止めてください どうか
おぼれていいですか あなた
ささえてくれますか
花のようにやさしく
抱かれたのは初めてでした
それがほんの気まぐれなんて
もう今では遅すぎる
遅すぎる



三番

ますます痛みます 胸が
涙があふれます 今日も
どうしてくれますか あなた
死んでもいいですか
蝶のように気楽に
私を捨てて あなたはどこへ
うらみつらみ言えばなおさら
ああみじめなだけます。
みじめです。







駅近くの『千頭駅前バス停留所』まで歩いている寅と瞳

求夢荘


散々男の愚痴を聞いてもらった瞳は元気になって
千頭駅バス停から井川鉄道バスで下泉方面へ向かう寅を見送る。



とんびが鳴いている。


瞳の表清はすっかり晴れやかになっていた。.


寅「どうだい、もう気分はよくなったか


私、何てお礼言っていいんだか、ほんとにどうもありがとう


寅「いいんだ、いいんだ。
  それよりさ、早くその川崎の工場に入って
  一生懸命働くんだよ。
  そのうちきっといいことがあるよ



瞳「はい



                   



寅は優しいね。絶世の美女じゃなくても(^^;)同じように優しいところが
この男のいいところ。




バスが近づいて来る。

瞳「お兄さん、これからどこへ行くの?


寅.「そうさなあ、
  あの山越えて木曽路の方にでも行ってみるとするかァ


瞳「あー…カッコいい!



                    



バスが停り、、トアが開く。


瞳「あ、そうだ。お兄さん家どこ?.」

寅、バスのステップに足をかげながら、



寅「オレの家か、オレの家はな


瞳手帳を取り出してメモし始める。



          




寅「東京は葛飾柴又帝釈天の参道にある
 とらやという小さな団子屋よ


  東京に来たら寄ってみな、
 オレの身内がいてきっと親切にしてくれるよ




瞳「絶対行く


寅「オレの名前はな、

 姓は車、

 名は寅次郎っていうんだ





この時の渥美さんの「名は寅次郎って言うんだ」という
セリフの部分の柔らかさは見事。よかった〜。




                     




瞳「カッコいい…、じゃ、寅さんね


寅「うん、そう呼んでくれていいよ。じゃ、あばよ




                     



瞳「どうもありがとう

寅、乗り込み、ドアが閉まる。


寅「おう

瞳「ごちそうさま!さよなら、さよなら



                     



手を振る。

そして、バスに乗った寅をいつまでも手を振る瞳さん。

それに応えるように「うんうん」と、手を降る寅。


この映像は第13作「恋やつれ」で津和野でバスに乗った寅を手をふって
いつまでも見送る歌子ちゃんのアングルと同じだ。
実は、このパターンは「幸福の黄色いハンカチ」でも使われた。



                    







バスの中


静岡県川根本町・川根大橋



座って


財布の中身を確認する寅、五百円札一枚しかない。
そんなもんでバス乗るなよ(TT)



寅「あーあ…これも女難のうちか…



                    



寅「
まいったなあ。
 今日これから商売するわけにもいかねえしなあ…。

寅振り向いて、

寅「
おじさんよ、このバスはどこ行くんだい


と、後ろに坐っていた白髪の旅姿の老人に声をかける。


              





ひょう一郎「下泉



寅「
下泉か〜、ふーん。
 じゃ、まあ、今日はそこで降りて杜にでも泊まるか。
 今夜は冷えるだろうなあ…



ひょう一郎「
君ね



寅「えー?



                   



ひょう一郎「
今夜は私の宿で
    一緒に泊らんかね



寅、ギョッとする。


寅「
…何んだい?いいのかね
  そんなこと言って、

  おじさんずい分親切だねえ。



         



  あんた、どういう人?



ひょう一郎にこにこ微笑みながら、
寅の肩を軽く叩き、




ひょう一郎「
君の親戚だよ


寅「
え?



と身を乗り出してマジマジ顔を見る。



寅「
あー!!!


      


博のお父っっあん



と、指を指す。



         



ひょう一郎、にこにこ頷く。


な、なんと老人は
博のお父さんの諏訪一郎だった!
確立は天文学的数字。




メインテーマがリズミカルに流れる。



寅「
なんだい!!
 気がつかなかった、こりゃどうも、フハハ


とお辞儀をする寅。

ひょう一郎も笑いながらお辞儀。




寅「
うまい人に会っちゃったねえ!

と手を打つ寅。



         


 は!そっかー!

 よーし!
 
 今晩は温泉泊りかァ。
 あったかいお風呂にあったまってと!
 さてそれからだ、フフ……




                 



そんな、けれんの無いやんちゃな寅を見て
ひょう一郎もなんだか嬉しそう。



バスの広告に温泉『紅葉館』の宣伝文句が書きつらねてある。


信州 木曽路の旅 紅葉館



                 





終点の下泉からさらにバスを乗り継いで、
あのあと夕暮れまでに南木曽までたどり着くのは
絶対無理な気がするのだが…、そこは映画。
まあなんとかたどり着いたとしましょう(^^;)








木曽郡南木曽町田立


木曽 紅葉館


協定旅館

交通公社 認定旅館



                 



三味線に混って、陽気な男女の唄声が聞えている。

   





ひょう一郎の部屋



♪木曾のなあ中乗りさん、
木曾の御岳さんは
何じゃらほい
夏でも寒い
よいよいよい
よいよいよいのよいよいよい。


この民謡『木曽節』は第6作「純情編」で、江戸川舟遊びの時
夕子さんたちと一緒に舟に乗った社長や博が歌っていた唄。



木曽節

木曽のナー 中乗りさん
木曽の御岳 ナンジャラホーイ
夏でも寒い ヨイヨイヨイ
  ヨイヨイヨイノ ヨイヨイヨイ

 袷よナー 中乗りさん
 あわしょやりたや ナンジャラホーイ
 足袋よそえて ヨイヨイヨイ
  ヨイヨイヨイノ ヨイヨイヨイ



木曽節を踊る芸者さん。



         



三人の芸者相手に盛り上がってる寅。



ひょう一郎、床の間を背に辞易した表情で坐っている。



唄と踊りが終って拍手が鳴る。



寅「さ、今度は先生だ。、お次の番だよ……


芸者達も「お次の番だよ」合唱する。



                

  


魔一郎「君、君、ちょっと


寅「

ひょう一郎「ぼつぼつこの辺でお開きにしたらどうかね



              



寅「お開き??冗談じゃないよ、
 今せっかくわーっと、
 盛り上がっていいとこじゃないの、ねえ!
 ささ、ほら、お次の番だよ…



芸者たち「……お次の番だよ!


と、ひょう一郎に歌を歌うように迫る。 絶対無理ヾ(^^;)


ひょう一郎「いや、僕は眠いんだ



             



寅「眠い…

ひょう一郎「
うん

寅「僕ちゃん眠いんだって。
  あ、そうか。
  じゃあ、こうしよう、オレ達だげで、ちょっと出かけてパーっと、
  もっかい盛り上がるか!
  どっかおもしろい所があるんだろ、な、行こう行こう



芸者達「じゃ、社長さん

ひょう一郎「ご苦労さん

芸者達「さあ、行きまひょ

口々に挨拶する。

ひょう一郎「あ、ちょっと

寅「え……

ひょう一郎「これもって行きなさい

と財布を渡す。

太っ腹(^^;)
もっとも寅は500円しか持っていないから、
どっちにしてもひょう一郎にツケがまわってくるんだけどね。




               



寅「あ、そう、そうかい〜、
 じゃ、預かっておくよ。さ、行こう行こう



一同、ガヤガヤと表に出て行く。


寅「じゃ、寝てな、なと寝るポーズ、をしてついて行く寅。



              



芸者A「ほら寅ちゃん、早く行きましょ。

芸者B「面白いとこがあんの


寅「どこどこ


廊下の向こうで寅と芸者達の笑い声が聞える。




ひょう一郎、椅子に腰掛けてへたりこみ、呆れている…

ひょう一郎「やれやれ…参ったな…



              


                 





翌日 木曽福島

タクシーが国道19号線を北へ行く。



木曽路

美しい音楽が流れる。


木曽川に沿って

中仙道を北上していく。



車中寅は寝てばかり。



              







宿場町を通過していくタクシー


              







長野県木曽郡大桑村大字野尻



妙覚寺


野尻宿より国道19号線をはさんで南側にある。
もとは天台宗といわれているが、
現在は臨済宗妙心寺派。
本堂・庫裡などは寛文11年(1671)の再建。
境内に
石造マリア観音(高さ52cm)といわれている千手観音風の石像を
川向かいから移して安置している。



              



山峡の街道を走って来た小型タクシーが
野尻宿そばの妙覚寺の前に着く。




              



木曽交通(タクシー)


相変わらずタクシーの中で眠っている寅。



              





山門をくぐり、中に入っていくひょう一郎。



              




時間が過ぎ、やがてひょう一郎が来て窓をトントンと叩く。


ひょう一郎「どうだい、なかなかいい寺だろ


寅、ほとんど寝ながら

寅「いい寺なんだよ、これが超適当((^^;)


ちょっと眼を開けた寅、すぐに眼を閉じてしまう。



ひょう一郎写真を撮ろうとするが
レンズのキャップをしたままなことに気づき、苦笑い。
気を取り直してシャッターを押す。



           



この志村さんのミニギャグは脚本には無いので山田監督との現場での
やり取りの中で生まれたものであろう。


脚本第2稿では、タクシーの運転手と四方山話をしている寅が描かれているが、
当然、昨日の今日だから、疲れて眠りこけているほうがリアル。







青空の下雪を頂いた木曽御嶽山が高く聳えている。




          










長野県木曽郡大桑村大字須原

国道19号線 大桑村須原宿

タクシーが止まる。


定勝寺


臨済宗妙心寺派(浄戒山定勝寺)

木曽三大寺中の最古刹


重要文化財 本堂・庫裏・山門  桃山時代建造物

定勝寺の創建 :1387年 室町時代初期

定勝寺は、室町時代初期に、この地を領した木曽親豊が創建したと言われ、
始め木曽川の近くにあったので数回洪水に襲われて荒れたが、
豊臣秀吉が全国を統一して安定した世の頃に、
犬山城主石川光吉が現在のこの地に再建した。










本堂



当時の住職、松原文弘さんが出演。



                



古文書などを前にして和尚と語り合っているひょう一郎。


和尚「慶長三年」.

ひょう一郎「慶長三年…ははざっと四百年前ですな

和尚「そういうことです

ひょう一郎「なるほど、昔の方は字が、おじょうずですな



一方外では…


ようやく起きたらしく、庭で、伸びをする寅の姿。


            


イチョウの葉に午後の光が当たりキラキラ輝いている。






もう一度野尻に戻って…




夜 大桑村 野尻 




木曽十一宿のひとつ 野尻宿

七曲りと呼ばれる曲がりくねった宿場の街並みが特徴。


旅館 庭田屋




            






ひょう一郎の部屋



手帖に書き物をしているひょう一郎。


風呂上りの寅が鼻歌を歌って入ってくる。

寅「♪たああびのそら〜

タオルを頭に乗せた寅が入って来る。

寅「先生よ、

ひょう一郎「


寅「
今、ちょっと聞いたらね、
  あの…芸者のOBっていうの。
 それだったらいるんだって。

 六十くらいのババアだけど、
 それちょっと呼んでみようか


ひょう一郎「
いや、いいよ

と、興味なし。


寅「おもしろいから、ちょっと呼んでみようよしつこい(^^;)

ひょう一郎「いや、ほんとうにいいよ

寅「ほんとうに…



             




寅「そうかい、先生でも芸者はやっぱり、
 若くて美人の方がいいか、な



ひょう一郎「いや、別に…。
    いくら美人でも死んじまえば、骸骨だからな



寅、ひょう一郎の横にしゃがんで、


寅「そういう考え方がいけないんだよ。
 そんなふうに思ったら
 世の中面白くも可笑しくもないじゃないの〜




             



ひょう一郎「年を取るとね、
    面白いことなんかなくなるんだよ



寅「あー、そりゃ心がけがいけねえんだよ、
 こういう漢字ばっかり出ている本なんか
 読んでるからね。いい影響を与えないんじゃないの
 こういう本っていうのは





めがねをはずし…


ひょう一郎はその文庫本を手に取り、


ひょう一郎「これは面白い本なんだよ


寅「ほう



ひょう一郎「今昔物語と言ってね、…


寅「こんにゃくの作り方かなんか書いてあんの?
  おかしな本だね
と寝転がる。

どう聞き間違えるとそう聞けるんだ??(^^;)


ひょう一郎「いやあ、これはね、
     昔の日本人の暮らしを書いた本でね




寅「はいと適当に相槌を打って漫画雑誌を見ている。



ひょう一郎「たとえば、ある所に、
    君のように二枚目で、女にもてる男がいた。



寅「はい、…え?、へへ…
 二枚目だなんて言われると困っちゃう、ハハハ



ひょう一郎「ところが、この世のものとも思えぬ美人が
    その男の前に現れた




                



寅「はあー、そういやね、
 こないだえらそうな坊さんに会って『
女難の相』が
 あるって言われたんだ。
 他人事じゃねえな、そりゃ。そ、それで?




ひょう一郎「男はたちまち恋に陥ってだな、
   苦心惨たんな挙句、その美女をものにした




                



寅「結婚しちゃったんだろ、
  うまくやりやがったなあ〜、それで?




                




めがねをケースに入れて…

ひょう一郎「可哀想にね、
    その美しい妻は一年も経たないうちに
    病を得て死んでしまったんだ。





               



寅「へー…、だけどそいつ二枚目だから、
 半年もしないうちにまた(小指立てて)
  いい女が出てきて、くっついた、くっついたろ




               



そりゃあんたや、半年に一回のサイクルで惚れてるのは ゞ(−−;)




万年筆のキャップを閉めながら…


ひょう一郎「いや、この男はね、
    君のような浮気者じゃぁないんだ


座布団一枚(^^)


        



寅、真顔になり、すっと考え始める。



寅「……








                



シリアスな音楽が静かに流れる。



ひょう一郎「三月経ち、半年経つが
    男はどうしても美しい妻の面影を
    忘れることができない。



             



      どうにもこうにも我慢ができなくなって、
      ある日妻の墓場へ行って、
      棺を掘り起こした。



        



      しかし、男が見たものは、
      美しい妻の顔とは
      似ても似つかぬ…腐り果てた肉の塊だった。

      男は、この世の無情を感じて、
      頭を丸めて仏門に入り、
      一生仏に仕えて暮らしたということだ。



         



      まあ、こんな話を読んでると、
      僕も人の一生について
      いろいろ考えさせられたりするんだけどね




寅「……



ひょう一郎の咳をする音が遠く聞こえる。




今昔物語 本朝仏法部 巻第十九

春宮の蔵人宗正出家の語
   より


(東洋文庫版(平凡社) 本朝部第3巻)
(角川文庫版 今昔物語集 本朝仏法部 下巻)




          








               






ひょう一郎「じゃ、ま、風呂に入ってこよう.。。



と、タオルを持って廊下に出て行くひょう一郎。




寅、うつむいて真剣に何かを考えている。



一人になった寅



           




寅、正座して『今昔物語』を持ち拝み、



               





中のページを開く。



               









翌早朝



木曽の山々が朝日に輝く。



              





通学を急ぐ女子学生



              







ひょう一郎の部屋



書置きを残して寅はすでに去っていた。



              





寅次郎の声


お教えありがとうございました。
寅次郎深く反省いたします。
なお、帰りの汽車賃と、
コンニャク物語(り)を拝借いたします。

大先生様  車寅次郎




御宿 庭田屋』 と書かれた専用便箋



               


ひょう一郎「大人物は反省して去ったか…





                





お茶を飲みながら窓の外を眺めるひょう一郎。



            


                




雲が悠々とたなびく木曽山脈(中央アルプス)の山々。




                











柴又 題経寺 二天門




御前様が源ちゃんを使って屋根の裏を掃除させている。


御前様「そこの下だ、下…

源ちゃん「へい



                 







早苗さん登場。



早苗さんが山門にやって来て、
道を尋ねようと近づいてくる。



源ちゃん、目ざとく早苗さんを見つけて、掃除をやめて下りてしまう。


御前様「こら!なにしとるか!



早苗「あのー、ちょっとお伺いしますけど…


御前様、はっとして

御前様「はい

早苗「とらやさんってお店どこでしょうか?


御前様、早苗さんの美しさに
ほんの一瞬唖然としながらも冷静さを取り戻し、




御前様「とらやさんなら、この参道をまっすぐ行って左側だが…



                 



早苗「あらそうですか、じゃあ私通り過ぎちゃったのかしら?

御前様「小さな店だからよく注意しないと分かりましぇん

この『分かりましぇん』のニュアンスが独特、熊本弁か(^^;)



                



早苗「ありがとうございました

御前様「はい



源ちゃんいつの間にか下りて来て、あまりの美しさにボー。

早苗さんの後を迷うことなくついて行く。



             



御前様源ちゃんに気づかない(^^;)

ふと周りを見まわす御前様。




御前様「おいこら、源、
    どこへ行っちまったのかな〜


お、御前様、そんなお言葉もつかわれるのですね(^^;)







とらや  店

客「おいくらですか
おばちゃん「
ちょうど千円です

客からお金を受げ取っているおばちゃん。

台所でダンゴをこねているおいちゃん。

さくらは電話で注文を受けている。



さくら「はい…はい、そうです。
  五百円のダンゴ十箱ですね、
  三時までに。…はい承知しました。
  …毎度ありがとうございます



        



庭から社長が入って来る。

社長「お、忙しそうだね、今日は。
   どうしたい、職安から店員さん来ないのかい




               



おいちゃん「
来るには来たがね。あれはいつだっけな、あれ

と、そばのさくらに声をかける。

さくら「一昨日

社長「へえ、それで?

おいちゃん「十七、八の生意気た娘でね、
    へーえこんなちっちゃな店なんて
    バカにしたような声出して帰っちまったよォ


社長「アハハハ、振られたか、ハハハ

さくら「いくら不景気だからって
  なかなかうちに来てくれる人なんていないわよ


社長「そらねえ、やっぱり人を雇うんだったらね
  労働組合、厚生施設、年次休暇、退職金、
  そういうことがちゃんとしてなきゃ


おいちゃん「バカヤロ、じゃお前の工場どうなんだ

社長「だから苦労してるんだよ、オレん所は







店でおばちゃんの声がする。

おばちゃん「いらっしゃい


何気なく二度店先を見て店を気にするさくら。




店先に、早苗さんが立っている。


おばちゃん「お団子ですか


早苗「いいえ、あのう、私、
  墨田の職安から紹介されて来たんですけど



葛飾の職安だけでなく、墨田の職安まで
自動的にお願いできるんだね。



              




おばちゃん「え、あの、そうですか。
     さあ、どうぞ、どうぞ。


おばちゃん、おいちゃんに


おばちゃん「
ちょっとあんた、
     職安から見えたよ



びっくりしたような顔を出すおいちゃんとさくら。

みんなどうしてこんな場違いな美人がとらやに来たのか
分からないで戸惑っている。



早苗「こんにちは、荒川と申します


おばちゃん「
あのー…、ウチで働いてくださる方の
    ご親戚か何かで…?
だよねェ(^^;)

早苗「いいえ、私です

おばちゃん「
あなたが?ねェ(^^;)

早苗「
はい

おいちゃん「
まあ、あのおかけになって…。」

おばちゃん「ささ、どうぞ

早苗「
ありがとうございます

おいちゃん「
あのう…、ごらんの通りの
     ちっぽけな団子屋なんですけど?
ねえ(^^;)

とにかくみんな、
こんな美人がなぜ????…だよねェ(^^;)



早苗さん、少し微笑む。


          



おばちゃん「あの…赤坂にある『とらや』さんって大きなお店があるんですけど、
      あそことは関係ないんですよ


おばちゃん、駄目押しの疑惑(^^;)


早苗「
知ってます


          



室町時代から続き、皇室御用達の赤坂に本店がある
『虎屋(とらや)』グループのことだね。
たくさん支店もあり、ニューヨークやパリにも支店がある巨大菓子店。
大きすぎて絶対間違わないよ(^^;)



おばちゃん、小さく頷く。


早苗「これ、紹介状と履歴書です



          


さくら「あのー…、仕事といったって…お団子配達したり、
   お客さんにお茶運んだり、そんなことなんですよ


さくらもしつこい(^^;)



          



早苗「はい、それは職安から伺ってますけど


おばちゃん「
あの、ちょっと店の中ご覧になったら?もう店の中だよ。


おいちゃん「
そーだ、ずーっと中のほうを…


          



早苗さん、頷いて立ち上がる。

さくら笑いながら

さくら「ずーっともなにもこれだけじゃないの、フフフ

さくら「
どうぞおかけになってください、今お茶入れますから

おばちゃん「
どうぞ

と、もう一度椅子をすすめる。



眼がハートになっている社長とさくらぶつかる


さくら「
あ、ごめんなさい


社長急いで工場へ報告に駆け出す。



         



美人ならどんな職種でもどんな場所でも歓迎され、
うまくいくだろうと思いがちだが、人には適材適所タイミングというものがあって、
運が悪いと、却って美人であることや見栄えがいいことなどが
ハンデになってしまうことはこの社会では古今東西意外にも多いのである。
ちやほやされるだけではすまないのである。

第39作「寅次郎物語」の
秀吉の母親であるおふでさんを思い出して欲しい。

どんなに地道に地味に働いていても
美人ゆえに回りが騒いだり、嫉妬されたり、トラブルに巻き込まれたり、
結局は職場を追われることにもなるのだ。

いわゆる美人でない人が勤めづらいのとは違う理由で
美人もまたなかなか思うようには行かないのが人生の機微なのである。
ましてや早苗さんほどの色気のある美人の場合は
それはもう過去にも騒がれたことはいろいろあったと思われる。
彼女が小さくて地味な団子屋を選んだのは、
そんな理由も少しはあったかもしれない。


ちなみに市川崑監督の獄門島が
封切られたのはこの前年1977年の夏。
この「獄門島」での大原麗子さんの美しさは
絶品で一躍スターになったのだった。
その時の役名が「
早苗」なのである。
偶然ではないと思う。
山田監督は獄門島から早苗の名前を拝借したのだ。





朝目印刷・工場



博はじめ、数人の工員達が、機械の間で働いている。


社長、息せき切って駆げ込む。


社長「博さん、大変だぞ

博「どうしたんです

社長「美人が来たよ、美人が。
  いやあ、色っぼいの何のって!へ!!


と興奮している。


         





庭に出ておいちゃんが早苗さんに説明している。

おいちゃん「この工場で、これの主人が働いているんですよ

早苗「そうですか

おいちゃん「なんだ散らかしっぱなしの庭でどうも、フフ


と、店に戻っていく。


早苗さん花を見つけて

早苗「あら、きれいなお花


早苗さんの眺めていた花は「ポインセチア」だと思われる。
あの赤いのは、花びらじゃなくて葉っぱなんだよね。
だからいわゆる目立つ花びら等は存在しない。
その下に着く葉の形の包葉が赤く染まるのが鑑賞の対象となる。


        




さくら「着替えをなさるんだったら二階の部屋を使えばいいわ

とりあえず今寅はいないもんね(^^)



早苗「はい

おいちゃん「唯一の厚生施設といいますかと照れる。

おいちゃん「お団子お好きですか

早苗「大好き

おいちゃん「あー、そりゃよかった

店に戻ってきて

早苗「それじゃ、私

さくら「ほんとうに来ていただげるんですか

早苗「ええ。あの…私、みなさんがいい方なんで、
   とってもうれしいです


一同、ニコニコする。

早苗「じゃ、明日九時ですね

おばちゃん「何時でもいいんですよ、
     気が向いた時に来てくだされぱ
それじゃかえって戸惑うよ(^^;)

早苗「それじゃ、明日からよろしくお願いいたします



        



おいちゃん「こちらこそ

みんなお辞儀。

早苗「あ、あの、着るものなんかどうしましょう。
   やっぱりお客さん商売だから少しは


おばちゃん「とんでもない。
     あの、汚れてもいいようた普段着で結構です


早苗「そうですか、それじゃ、さよなら

おばちゃん「さよなら

さくら「お願いします



去って行く早苗さん。




おばちゃんに嬉しそうにさくらのところに駆け寄って


おばちゃん「さくらちゃん、いい人が来てくれてよかったねえ

さくら「私、びっくりしちゃった

おいちゃん「いったいどういう人なんかね、ありゃ……

さくら「さあ…。いろんな事情のある人なんじゃない

おいちゃん「うん…



            



と早苗さんの去って行ったほうをみんな見ている。


確かに、早苗さんは事情のある人だが、団子屋に勤めることと、
彼女の個人的な離婚問題には繋がらないので、
彼女にとってこういう地味な団子屋の雰囲気が
かえって落ち着くのかもしれない。



裏庭から博が入って来る。



博「さくら、美人が来たんだって

さくら「
あら、もう聞こえたの?



博「ものすごく色っぽい人だって社長が興奮してたよ

見に来たんだね博、ちょっと遅かった…(^^;)


おばちゃん「色っぽいだなんて失礼ね…


おいちゃん「いいや、色っぽいと、キッパリ(^^;)


さくら「おいちゃん


            
   いいや色っぽい!
           



おばちゃん「あんたまで…


あの当時の大原麗子さんは日本では無敵ですからねえ〜、
そりゃ無理ないわ(^^)



博「
工場も暇だし、オレも店手伝うか…


さくら「バカねえ…」と博を押す!



           



博「たまには兄さんのお株とってさ、ハハハ!


笑っていた博、店先を見て笑ったまま真っ青(^^;)


博「帰ってきた…


               





メインテーマが突然鳴り出す。




寅が店先で眼光鋭くみんなを睨んでいる。




          




さくら「お兄ちゃん…



        



さくら「お帰んなさい



おばちゃん「まあ、寅ちゃん


この前出て行ったばかりなのに、もう戻って来た。

寅「博、

博「はい

寅「
そこへ座れ


信州の凍り豆腐を土産に持っている。

昔信州では冬場に家の軒先に吊して 夜凍らせて、
昼日光によって自然乾燥させて 作っていた。
昔は、凍み豆腐(しみどうふ)と呼ばれていた。




すっとテーブルに置く。

お土産が割り箸立てをこかす。

さくら、さっとこけたものを起こす。


博、神妙に座る。



寅「オレが旅先で誰に会ったか知ってるか?



         



博「旅先でですか?さあ…
 色っぽい女の人にでも会いましたか?




         



瞳さんには会ったけどね(^^;)


一瞬顔が緩むさくら。




寅「
バカモン!!


みんなびっくり。


寅「オレが会ったのはな、博、おまえの親父だ



        



博「えー!?

みんな驚く

               

さくら「そう言えば…
  信州から絵葉書くださったじゃない。
  お兄ちゃん、信州で会ったんでしよう




        



寅「そ。
 可哀相に、息子達に裏切られて、
 一人寂しく孤独の姿していたよ。

 オレはお前に代って親孝行をしてやった



嘘こけ、人におごらせて
芸者呼んでバカ騒ぎしてただけだろが ヾ(ーー )




        




博「どうもすいませんでした。

  そうですか、…親父に会ったんですか





さくら「お元気だった?


寅、大きく頷き、



        



寅「二人でしみじみ人生について語りあかしたよ。
  
しかし、博の親父というのは、なかなか勉強して大したもんだ

ウソウソ、人の金で芸者芸者 ゞ( ̄∇ ̄;)


寅、博を見て


寅「それに引き換え、博、お前は何だ。
 自分の仕事をほっぽり出して、
 昼日中から大口あいてゲタゲタ笑って。
 少しは反省しろ!



やっぱ、会ったその日にいきなり芸者呼んで
人の金でバカ騒ぎしてた&帰りの汽車賃まで拝借のあんたが
一番反省しろよ ┐( - -)┌



             




博「どうもすいません


さくら「ねえ、お父さんとどんな話したの


寅「そのことについては
 今夜みんなにじっくり話を聞かせる。

 はあー…、
 とりあえず二階に行ってちょっと頭を休めよう




と、凍り豆腐をさくらに渡し、二階のほうへ。




と階段の方へ向かうと、
間が悪く社長が大声をあげながら入って来る。



社長「おい、どうしたどうした、え、
  帰ったか!
色っぼい美人は!



         



暖簾のところで鉢合わせ。

真横に寅がいたので

社長、ギョヅとする。


社長「あ!

社長「
寅さん




寅、一同の方を向き


寅「この手の人物とは
 あまりつきあわない方がいいんじゃないか。

 
人間が堕落する(((^^;)




            




と、二階へ上がっていく。





社長「おい!大変じゃないか



        



さくら「何が?と知らんふり。

社長「
何がじゃないよ。
 …これからあの美人と顔あわせるんだぞ!




一同、沈んでいる。



さくら苦笑い。


社長「あーあ、これから大変だそォ、気の毒になあ…



と、一人で興奮しながら暖簾をかき分け二階を見上げ、
そしてさくらたちを見る。




おいちゃん、深いため息とともにテーブルに手をつく。



              





一同、あの色っぽい美人と寅が顔をあわせると
どうなるかを考えて憂うつになってしまうのだった。





夜 題経寺の鐘

夕暮せまる柴又の町に、源公の撞く撞

ゴーン…


子供が四、五人、何やら語らいながら塾から帰っていく。







とらや 茶の間



夕食後のひと時、台所で後片づけをするおばちゃん。
デザートのりんごをむいているさくら。

博、さくら、おいちゃん、そして社長、
寅の話を聞いている。


ちゃぶ台の上に置いてある『
今昔物語
.



            










静かに語り始める寅。






寅「今は昔、あるところに男がいた…



            


社長「ある所ってどこだい?
ちゃちゃを入れる社長。

おばちゃん「日本に決まってるよ

社長「
日本だっていろいろあるだろう、北海道とか九州とか

博「どこでもいいんですよ、それは

さくら「ほら、昔々ある所に
   おじいさんとおぱあさんがおりましたって言うでしょう、
   あれよ、


社長「あああ

さくら「ねえ、お兄ちゃん



            



寅、プッとふくれている。

寅「ちっ、やめたよ、お前達相手にとても話はできねえや

おいちゃん「まあまあ、そう怒るなよ、面白そうな話じゃないか、

      昔、あるところに男がいた。
      ん、それで?
恋愛でもしたか?




             






寅「その通り。これがなんといい〜〜女。
 男は惚れたねえー…




             



社長「でも失恋したんだろ?フフ座布団一枚(^^)

博「シッ!


寅「おい、これ片付けろよ、なんとか、この目障りの太ったの



             



さくら「お兄ちゃん、黙って聞くから先話して。
   恋をして、それからどうしたの?




             



寅「二人は結婚した。美しい妻。
 男は幸せさ、仕事にも励みが出る。
 汗をかいて家へ帰る。



       


 『お帰りなさいませ。
 今日はお疲れになったことでございましょう
 お風呂も沸いてございます。
 越後より美味しいお酒も届きました。
 一つつけておきましょう。』

 月の明かりの下で、つましい食事。
 ほら、昔はこういう電気なんかなかったから、ね。

 『どうだ、そなたも一口いかがじゃ』



        



 『いいえ、わたくしお酒など』



        



 『うん』  そこまでのディテールはない…(((^^;)


 この幸せな二人の暮らしは、
 一年とは続かなかった。

 その女は病を得て死んだ。

 子宮外妊娠
病名まで考えるか…(^^;)



                 




おばちゃん「あら、気の毒に…昔話昔話…ゞ(^^;)



寅「男は泣いたな…。お通夜、葬式、初七日と、
 日は過ぎて行くんだが、男の涙は止まらない。





                 




おいちゃん頷く。



寅「会いたい、
 もう一度だけ妻の顔が見たい。
 たまりかねて、月夜の晩に男は出かけたな…




みんな「




寅「…墓場へ



                  



犬の遠吠えウオ〜ン((((^^;)


寅「サック、サック、サック…。



         



 薄暗ァ〜い木立の中に不気味なふくろうの声…。

 ホオ〜…、



         


 ホォ〜…、


 ホォ…。



            



おいちゃん薄きみがってよける。


 
やがて棺桶が出てくる。

 『はああ、この中に愛する美しい妻が…。』




                



 男の手が棺桶の蓋にかかる。



            



ギギ、ギギ、ギギギギギギィィ〜ィ…。



                





寅は驚愕の表情で中を見、




                 






寅「うわあああああ!!




                   



みんなも一緒にびっくりし、


一同「うわあああ!



                 




博鼻からタバコの煙を吐く。上手い演出(^^;)


               




寅「なんと棺桶の中の妻の顔は腐れただれて
 蛆虫がうじゃうじゃ…





                 





さくら「ヤメテェ〜!




                 




おばちゃん「気持ち悪い〜


おいちゃん、気抜けして

おいちゃん「なんだおどかしたのかと、呆れる。



                  




さくらたち「もうやだなもう




寅「違う!違うよ、
 これからが大事なんだ。いいかい、



         



 男はね、
 その日から二度と
 その美しい妻の顔を思い出すことができなかった。



         



 どうしても思い出そうとすると、
 醜く腐り果てて蛆虫のクチャクチャな顔が浮かんでくる。


尺八の音が聞こえる。


 これは辛い…。

 その男の気持ちを考えると
 オレも知らない間に涙が出てくる




                  





さくら「それでどうしたの?その人




寅「出家したよ…。
 家を捨て、
 身を墨染めの衣にまとい、お経を唱え、
 生涯修行の旅を続けた





                  





博「なかなか味のある話ですね…




                  



おいちゃんも深く頷く。



寅「うん、人生について考えさせられたろ


博「はい


博が、寅のアリアを、いい話だと感動するこのパターンは、
第15作「相合い傘」でのアリアや
第24作「春の夢」でのアリアなど結構ある。




                  




鳴り続ける尺八の音


寅「よし、
 それでは今日はこれで
 お開きということにしよう




寅手を合わせる。


寅「おやすみなさい無声音



                



とりあえずおいちゃんと博も手を合わせる。
(^^;)


、博にも手を合わせて


寅「おやすみなさい無声音



                  




博もとりあえず手を合わせる(^^;)



               



さくら、ちょっと笑い気味((^^;)



寅、立ち上がり土間に下りる。






道を
虚無僧が歩いていく。


さくら「
あら、虚無僧(こむそう)


おいちゃん「




                




いったい何時まで店開けておくんだい?
客絶対来ないよ(^^;)
と、いうことで、
いつもながら夜までずっと茶の間は道から見えっぱなし(^^;)



寅「おばちゃん

おばちゃん「ん?


寅「明朝9時に修行の旅に出発します


おばちゃん「えー?9時?そんなに早く?



そんなにすぐに出発してしまうんだったら、
寅は、何のためにわざわざ柴又まで帰って来たんだい?
とらやのみんなにこの話を聞かせるためにかな??



寅「

博「

寅「そのコンニャク物語、おまえにやるから、とっ…くり読むように

と、本を指差す。

博「え、ええと本を手に取る。

寅「いいね

寅「それでは、どなたさまも、おやすみなさい…と、静かに手を合わせる。

おばちゃんと社長手を合わせる。


博とさくら「



                  



ちなみに、諏訪ひょう一郎は寅に、
その日から二度とその美しい妻の顔を思い出せなくなってしまった
というところは言っていない。
しかし、寅のこのことばを話に入れることによって男の絶望と無常観が
よりリアルに迫ってくるのである。(原文にもそのような表現がある)
こういう的確な補足を入れることができる寅は、この物語の核をしっかり
感覚的に把握していると言えよう。








翌朝 とらや 店







柴又駅

帝釈天・参道




朝、駅の改札から早苗さんが歩いて来る。



              








とらや 台所



団子の粉を台に撒きながらしきりに二階を気にLているおいちゃん。


二階をのぞき込むおばちゃん。

おばちゃん「ね、もう9時だよ、どうしよう。
    二階に行って出かけるように言ってこようか


おいちゃん「それじゃまるで追いたてるみたいじゃないか

おばちゃん「でも女の人が来ちゃうよー…、
     バッタリ会ったらどうするのよ



そんな…寅を色キチガイみたいに…(^^;)



おいちゃん「少し落ち着け、バカ、
     今さらじたぱたしたってしようがねえじゃねえか




なんとしても寅と会わせたくないようだね。
でも、今まで寅が数々のマドンナに出会って、
マドンナがいやな思いをしたことは
一度たりともないんだけどね。

ただ、寅はそういう場合、
最後はどうしても失恋気味になるので、
寅の悲しい顔をおいちゃんたちは
見たくないのかもしれない。



柱時計が9時を打ちはじめる。


おいちゃん、おばちゃんもう一度二階を見る。



          



二人、聞き耳をたてた途端、店の方から爽やかな声がする。


早苗の声「お早うございます


早苗さん凄すぎ!どんぴしゃにやって来た!


思いっきり驚いてびびるおいちゃんおばちゃん。



              



早苗さん台所へやって来る。


おばちゃん「あ、お早う



             



早苗「お早うございます。
   あら、つきたてのお餅、おいしそう



おいちゃん「つね


おばちゃん「


おいちゃん「
ほら、あのう…なんだ、ほら、
     その、あ、そうだ帝釈天でもご案内したらどうだ




              



早苗「とんでもない。すぐ働きます。


またまた素早く二階を見る、おいちゃんとおばちゃん。



         



早苗「あのー…、いろいろ考えてこんな服にしたんですげど、
   もし派手だったらと思ってこんなセーターも持って来たんです



おばちゃん「あの、そのまんまでいいですよ


早苗「そうですか






おばちゃん、おばちゃんに耳打ち。


         




おばちゃん嫌がるが、

おいちゃん「自分で行ってきな」と、
無理やりひじでつついて行かせようとする。


        



たぶん、二階の寅何とかしろって言ったんだろうけど…


おばちゃん、嫌がっておいちゃんに向かって体当たり。



             





おいちゃん、はじけ飛ばされてよろける(^^;)



              




三崎さん、下條さんによる
パントマイムのミニギャグでした(^^;)






早苗「それじゃ、この荷物、お二階の方へ

おいちゃん「は!

おばちゃん「あ、あの

おばちゃん「ここで、けっこうですと、茶の間を指差す。


早苗「はい


早苗、バッグ類をその辺に置き、


かわいいイチゴ柄のエプロンをとり出して身につけながら、



              



私がいつもお世話になっている寅友の「寅福さん」の「エプロン調査」の中で、
第31作「旅と女と寅次郎」で佐渡の店の女の子が早苗さんと同じものを
つけていたことを発見されている。



             



早苗「じゃ、何からしましょうか、
   お店の掃除でもしますか



おばちゃん「そうですね、あの、あっちにほうきがありますからどうぞ、どうぞ

早苗「はい







寅が階段を下りてくる。


おいちゃんは早苗さんに意識集中で気づかない。



           




寅「おう、おいちゃん、


おいちゃん、びくっとなって飛ぶ(^^;)



        



寅「オレはもう行くよ


.おいちゃん「あ、もう行くのかい。あのう…、朝ごはんは



寅「そんたもん食ってる暇はありゃしないよォ〜、
 これから御前様に挨拶してよ、その足で上野駅に
 行かなくちゃならねえんだから



おいちゃん「そうか


寅「うん


寅「あ、さくらとさ、あのー、博と社長によろしく言ってくれや、な」


おいちゃん「ん」となんとなくびびっている。


寅「
あ、そうだ、オレが夕べここで話したことを忘れずに、
 人生についてようく考えろって。
 ぼけっとしてい間に、あっという骸骨になってしまうんだからだ人間は




おいちゃん「分った、ようく分った適当(^^;)



             




おばちゃんも、暖簾のところまでやって来る。


寅「ようし、分れば、いいんだよ、
  じゃあおばちゃん、そこどいて、どいて





             




店に出ていく寅。



暖簾越しに寅を見ているおいちゃん。



            




ふと足を止める。





エプロン姿の早苗さんが店先を掃いている。



寅、黙って早苗さんを見ている。





            





寅「……






早苗さん、人の気配に気づく。





             




寅「……





寅、無重力、真空状態(^^;)





             






焦点が合う早苗さん。



             






静かに早苗のテーマが流れる。





嗚呼。。。会ってしまった二人。
こんな美しい女性が毎日とらやに来るなんて…。
これから寅はどうなるのでしょうか、
身が持つでしょうか(^^;)




おいちゃんたちが寅をマドンナに会わせたがらないのは、
寅が美人を見て舞い上がり、余計な騒動を起こすことそのものよりも、
その後の出口のない哀しい恋の結末が見え見えだからだ。
みんなそれならいっそのことマドンナに会わせたくないのだろう。

見ていて、結局は辛いのである。

第21作「わが道をゆく」の留吉のように、
相手さえその気になれば、いくらでも結婚していい男なら
それでいいのだが、寅の場合は、相手がその気になっても
結局は結婚の覚悟がないゆえに哀しくも逃げ出してしまうのである。

もう何度も書いてきたが、寅の恋愛が成就しないのは、
「マドンナと結婚する資格や甲斐性や自信」がないのではなく、
「マドンナと地道に結婚する覚悟」がないのだ。
いつも相思相愛になるたびに「オレみたいなやくざなヤツが…」と、
自虐的なことを言い、身を引くなんて格好つけてるわりには、
結局はギリギリで寅は自分の風来坊的な性格を実は肯定し、
優先してしまうとういう強烈なエゴを持っている。

寅が何を言い訳しようが結果はそういうことなのだ。
第32作「口笛を吹く寅次郎」の朋子さんを思い出してほしい。
柴又駅での彼女のあの涙が寅のエゴのすべてを物語っている。
第48作「紅の花」でいみじくも最愛の人リリーが奄美で寅に対して
言い放ったあの啖呵は真実なのだ。

「結婚」のようなどろどろした現実的な日常生活の中では生きれない男。
いつまでも「美しい恋の夢」を見ていたい男。
もうこれは業といってもいいだろう。根はかなり深い。
こういう男は定住も出来ないし、結婚も出来ない。
御前様やさくらがいつか言ったように寅の人生そのものが夢なのだろう。


だから寅の人生は寂しく、辛い。

恋の始めは、寅はマドンナに身を挺して献身的になる。
その行為は、青年のように清らかで、胸が締め付けられるほどに
切なく無私の精神に満ちている。
まさにこの部分こそが寅という男の美しさであり、真骨頂なのだが…、

一生涯にわたって現実の中で格闘しながら彼女を愛しきろうとは決してしない。
それゆえ相手が寅を好きになった時に寅はそれを受け入れないのだ。
いつまでたっても、何度恋をしても、
決して成就することのない花の咲かない哀しい恋が繰り返される。

それがさくらやみんなには痛いほど分かっているのだろう。


後編↓




早苗のテーマが流れ続ける。



静かにお辞儀する早苗さん。




              




おばちゃん「あ、寅ちゃん、この方今日からうちの店で
    働いてくださるんだよ。お名前は…





             





早苗「荒川です



            




固まってしまっている寅(^^;)


             




おばちゃん「この人ね、私たちの甥で、
    夕べ一晩泊まって、もう旅にでるのォ




わざとらしく追い出しにかかるおばちゃん(((^^;)



              



おいちゃん「残念だなあ…、もっとゆっくりしていけゃいいのに


さらに追い出しに拍車をかけるおいちゃん(^^;)


おばちゃん「
ほんとうに



早苗「
お世話になってます。
  どうぞよろ
しくお願いいたします




               




寅、ようやくの思いで口を開く。


寅「いえ、こちらこそ。
 年寄り夫婦で嫌なことばっかり多いでしょうけども、
 ま、がまんしてやってください



早苗「とんでもない。
  ほんとうにいい方達で私とてもうれしいんです



寅「は、そうですか。それはよかった……

ちょっと間があって、

寅「そうでしょうか…フフフ何言ってんだ??(((^^;)


早苗「
フフフ


寅「フフフ笑いがひきつっている。


寅、迷いながらも意を決して

寅「じゃ


               


早苗「失礼しました」と、お辞儀。




顔で笑って心で半泣きの寅が
つつつつとぎこちなく外に出て行く。




                




かばんを忘れる寅。

おばちゃん「寅ちゃん、寅ちゃん

おばちゃんが駄目押しでかばんを手に持たせようと店の前で渡す。




                



おばちゃん「体に気をつけるんだよ


と、かばんを渡す。


寅、雑におばちゃんの手からかばんを取る。

おばちゃん「あいた!たたた痛いよ!もう

と、必死で手を抜き取るおばちゃん。寅半分怒ってますよ((^^;)


寅、こわばったような足取りで店を出て行く。



おいちゃん「正月にでも帰ってこいよ


ふらふら出て題経寺のほうへ行く寅。



               



自転車の備後屋とぶつかりそうになる。

備後屋「気をつけろこのやろ!










帝釈天 参道



虚ろな表情と足取りで歩いている寅。

題経寺の曲がり角で、超後ろ髪を引かれ続けている寅。
ついに体が止まってしまい、とらやをずっと見ている。
なんとかとらやに戻りたいが適当な理由が見つからない。



六波羅貴子さんの経営するロークが見える。




そこへ、さくらが自転車でやって来る。


さくら「あ、お兄ちゃん、間にあってよかった。
   九時に出かけるっていうからもっと早く来なきゃと思ったんだけど、
   これからどこへ行くの、お金あるの



          



とらやの方向を見ている寅。

さくら「どうかしたの、具合いでも悪いんじゃない


寅「具合い??寅の頭にランプが点灯(^^;)

寅、急につらそうに顔をしかめる。

寅「アイタタタ、アチ、アチ

さくら「
どうしたの?



          



寅「アイタタタ、腹いてえ…

と、うずくまる。


さくら「ちょっと大丈夫?


寅「
イタ…ダメなんだ。
 
店帰んなきゃダメなんだ

さくら「え?


寅「
店帰んなきゃダメなんだよ

と、店に戻ることをいやに強調(^^;)



サドルにMIYATAの印刷。
さくらの自転車が「宮田(ミヤタ)自転車」だとわかりました(^^)




         



腹を抱えてうずくまる寅。

さくら、慌てて抱きかかえる。

さくら、後にあけみの仲人を勤める背の高い近所の方に

さくら「あの、すいません!!とお願いをする。

寅「痛いよ、痛いよ





とらや 店


さくらが寅の帽子とかばん持って走りこんでくる。


さくら「おばちゃん、大変。お兄ちゃんがと、焦っている。


おばちゃん「
え?


さっきの露木さん扮する備後屋も自転車を止めて見ている。


さくら「こっちです!



           



近所の店主や店員達の手で
戸板にのせられた寅がかつぎ込まれて来る。




第25作「ハイビスカスの花」もこのパターンを踏襲。
ご近所さんで谷よしのさん登場
(ハイビスカスの時もも全く同じ位置で登場)



                                  第25作「ハイビスカスの花」
          




おばちゃん「あら!!どうしたんだい!?


さくら「すいません、奥の方にお願いします

おばちゃん「寅ちゃん、どうしたのよ!?


さくら「そこでお兄ちゃんと話してたらね、急に苦しみ出して


さくら「すいません、今布団出しますから!


近所の人たち茶の間で布団に寅を寝かせる。


みんな「大丈夫かい





この騒ぎを見ていた早苗さん、

ハツと我に返って傍らの電話を取りダイヤルを回す。



          



早苗「あ、消防署ですか。急病人です、救急車お願いします!。
  こちら葛飾柴又帝釈天参道のとらやというお店です、
  お願いします



         



おいちゃんさくら草履草履!

と頭に草履を乗せるしぐさをしながら必死でさくらを呼ぶ。



さくら「何するの草履なんか!?ねえ〜(^^;)


おいちゃん「草履要るんだよ!確信(^^;)



★昔の言い伝えなんだね。
 草履を頭に載せてお経を唱えると、癲癇や腹痛が治るらしい。


 発作的な病気は「天に感じる病だから
 いつも地に接している(感じてる)草履を頭に乗せることで
 中和(陰陽バランスを取る)ことで治そうとする。
 実際このとき草履を乗せる頭の頂上部が
 「百会」のツボで脳性疾患や精神不安などの治療によく用いられる。



                     
 おいちゃんが頭に草履を乗せるしぐさをしている
       



座敷では大勢がワアワアと騒いでいる。





帝釈天・ニ天門



救急車がとらやに行く。

山門の前でびっくりして見送っている御前様。

境内から救急車が御前様の横を駈げ抜けて去る。


源ちゃん追いかけていく。



        




ガヤガヤ、騒いでいる。


人混みが分れ、係員のかつぐ担架が来る

その上に横になってキョ回キヨロしている寅。






とらや 店先 参道





救急車がサイレン鳴らしてやって来て、
寅を乗せていく。『
東京消防庁




寅はこれで第2作につぎ、救急車2回目。
第45作でも乗るから合計3回乗ることになる。


ここでも谷よしのさん登場。ひさしぶりのロケ参加。
このあと同じ作品で、
結婚式場に入るご近所さん役でもロケ参加。





             


                    



で、寅、本当は腹痛でもなんでもないので、
きょろきょろ、おろおろしながら上半身を起している。



ただの仮病が、大げさなことになってしまったな寅(−−;)


早苗「すいません、開けてください、お願いします!


みんなで「そこどいたどいたどいた」「さがってさがって」

寅ちょっと起き上がってキョロキョロオロオロ((^^;)


さくら「
寝てなきゃダメよ



             





おばちゃん「さくらちゃん、あんた乗ってっておくれよ



さくら、緊張の表情で救急車に乗っていく。

おっと!
さくらも人生で初めて救急車乗りました(^^;)




おばちゃん「
寅ちゃんしっかりね!


心配そうに窓ガラスに顔をつけて見送るおばちゃん。



           



窓ガラスに『柴又屋』と『トルコ』の文字がしっかり映る(^^;)



たちまちドアが閉まり、
サイレンと共に救急車が走り出す。




           





救急車がサイレンを鳴らしながら走り去る。




救急車のマイク「はい、右へ曲がりまーす」




とらや  店  タ方


見舞いに来ている近所の店主二、三人にお茶を出す早苗。

気抜けした表情の博、おいちゃん、そして社長。




おばちゃんが御前様からの電話に出ている。


おばちゃん「はい、さようでございます。
     一時はどうなるかと思いましたげど、
     さきほど病院から電話がございまして、
     幸い大した事はないようで、はい、まもなく戻ってくると思います。
     はい、はい……は、恐れ入ります。
     御前様にまでそんな心配をおかけいたしまして、
     申しわげございません。
     ……はい、はい、ありがとうございます、失礼いたしました


     仮病仮病(^^;)



           





電話を切って深く溜息をつくおばちゃん。


近所の店主達、立ち上がる。


店主A「じゃ私達」

おいちゃん「どうも悪かったな

店主B「ま、大したことがなくて良かったよ」

みんな「どうも」と頭を下げている。

博「どうも、お騒がせしまして


一同、ぺコペコ頭を下げて送り出す。



早苗さん、帰り仕度をして、言いにくそうに口を開く。


早苗「あのう、それじゃ、私、これで…

おいちゃんあ、そうだ、こんなに遅くまで

おばちゃん「ねえ、来る早々とんだ騒ぎで



表に出ようとした早苗さんの前にさくらと寅が現れる。



           




おばちゃん、さくらを見て

おばちゃん「あら



さくら、早苗さんを見て

さくら「と、お辞儀。

早苗さん、お辞儀。



寅怒りながら歩いて来て、店先のさくらを見て、

寅「何つったっているんだよ、バカヤロー



           



と、のしのし大またで入ってきて椅子に座る。


おばちゃん「お帰り

おいちゃん「ご苦労さん

社長「どうだった、大丈夫か


寅「決ってるじゃないか!!

と、かなり怒っている。


           



博「さくら、お医者さんには一応診てもらったんだろう


さくら.うん、お腹の痛いのはね、
  ガスだまりだって
バカ(−−;)

と、寅を睨む。


さくらも寅に不信感を抱いてかなり機嫌が悪いのだ。


           


社長「アハハハ、ガスだまりか、ハハハ!


寅「おかしかないよ、バカ!


           




第2作では本物の「胃痙攣」で緊急入院していたけどね。

このマドンナに会い続けたいばかりに仮病を使うパターンは
実はテレビ版「男はつらいよ」で登場したギャグなのである。




さくら「
それからね、少し栄養のバランスが
  とれてないから食事に気をつけなさいって



おばちゃん「
そう、そんならよかったけどさ、
     みんな心配して見舞いに来てくれて大変だったんだよ、ねー



.おいちゃん「
まったく人騒がせな奴だ


寅、テーブルをバン!!と叩いて、


寅「
冗談じゃねえぞ、えー!!」


寅「どうして救急車が来たんだ、えー、
 誰が電話したんだ、そっから」


       



寅「オレはちょっと腹が痛かっただけなんだぞ。

 おばちゃんか!?




おばちゃん「違うよォ


寅「博てめえだろ!?


博「いいえ、僕はいませんでしたよ



             



寅「だったらどうして救急車が来たんだよ!え!
 誰かが電話をしたんだろ!
 今日は、責任取ってもらうからなオレは




早苗、思い切って声をかける。
               

早苗「あのう…実は…小声(^^;)



                 






寅、ふり向きながら



寅「ダメ!!!おいおいおいヾ(^^;)



                



寅、早苗さんに気づいて、すくっと立ち



寅「は…!…いたんですか




                





バツが悪そうに早苗さんを見る。



               





早苗「電話したのは私なんです。
  すいませんご迷惑おかけしてしまって
と頭を下げる。


             




寅「いいえー、そんなこと。
 でも、よく気がついてくれましたねー、
 なあっ



出たァ〜ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ





                




早苗「でも私が電話しなけりゃ、こんな大騒ぎには…


さくら「いいんですよ、そんなこと気にしないで、ねえ、お兄ちゃん


寅「うん!オレ前からね
 一辺乗ってみたいと思ったの救急車


第2作の胃痙攣で乗ってるって寅…ヾ(^^;)
第45作でも乗るんだぞ(^^;)




おいちゃん、だめだこりゃの呆れ顔。



             おいちゃんの顔に注目
            




寅「うん、気持ちいいなあ!
 赤
だってだって
 信号止まらないでな、
 どんどん突っ走っちゃって、
 葛飾病院まで
5分だぞ、博


と、とりあえず博にふる寅(^^;)




                





博「ああ、速いですねえ…シラ〜…

このやる気の無い博のセリフ、笑いました(((^^;)


おばちゃんの、どっちらけの顔に注目((^^;)




                







寅「速かったよな



と、さくらに同意を求める(^^;)

そういえばさくらも乗ったんだったね、一緒に(TT))





早苗「それじゃ私


寅「あ、もう帰りますか?


早苗「ほんとうにすいませんでした

おいちゃん「どうもご苦労さんでした

さくら気にしないでね

早苗「ええ。じゃ、また明日

寅「あ、どうも、今日はほんとうに、ありがとうございました。
 おかげでもうすっかり腹よくなりましたからね。どうも




と店の表まで送り出す。


手を振って上機嫌の寅。




みんなで早苗さんを見送った後
当然ながら寅はすっかり機嫌が直っている。



で、そのあと寅が店のほうを向くと…


みんな完全にシラケきってさっと
寅に背中を見せて散らばっていく。



             
シラ〜〜〜〜
         



寅「あー、ガスが出たら腹減ったなあ〜飯でも食うか


寅、バツが悪そうに、薬を手に取りながら、


寅「さくら、医者は一応なんて言ってたの?
 栄養失調、ふ〜ん、なんか栄養について考えるか



あまりの豹変に唖然としているさくらとおばちゃん。




          



このマドンナ登場で態度豹変のギャグは、
第13作「恋やつれ」や第14作「子守唄」などで登場。










京成線の立石駅   夕暮れ




駅を出て行く京成電車。


駅前の店店「いらっしゃーい」「いらっしゃいませー」


        




電車を降りた通勤客たちに混じって階段を下りていく早苗さん。


今回はこの早苗さんが降り立った駅を
なんとか調べてみたくて、
いろいろ京成の駅の画像を探してみたが、
決定的なものはなかったが、
下の画像のようにかなり似ているのが
京成立石駅』だったのである。

ホームのあり方、ホームの端の様子などがそっくりだった。
まず『京成立石駅』で間違いないと思われる。




      →  




      →   

        




もう、あたりは暗い


繁牽街を少し離れた場所にある小さな美容院。



          






美容院  表


ただいま

お帰りなさい



買物包みを持った早苗が来て、横手の入口に入る。




居間兼台所



狭いリビング・キッチンの奥が玄関になっている。.


表は営業中の美容院。


早苗「ただいま


ドアを開げて早苗さんが入って釆る。

経営者友子の亭主、
エブロンをつけて台所で料理を作っている。



別居中なので、親友の家にしばらく厄介になっている早苗さんだった。
みんな人がいいが、早苗はいつまでも厄介になれないと思ってもいる。

             


亭主「お帰り


早苗、手にした包みを机の上に置く。


早苗「駅前で、これおいしそうだから買って来ました


亭主「そんな気を使わなくていいのに、お金大事にしなくちゃ



              




店から友子が忙しそうに顔を出す。


友子「バパ、おかず、できたの

亭主「スプーンがないから探しているんだよ

友子「いやねえ、六時には塾に行かなきゃいけないのよ

早苗「私、今手伝うわ




友子「早苗

早苗「え?

友子「お団子屋さんどうした?勤めることに決めたの?

早苗「うーん…、とってもいい人たちなの

友子「あんたも変な人ね

早苗「どうして?

友子「
だって、もうちょっとなんとか気の利いた仕事無かったの?

亭主「しゃれたブティックとかさ




友子「キイちゃん!塾に行く時間よ!」と、二階に向かって叫ぶ友子。


早苗、その言葉を背に聞きながら、階段を上がって行く。



             





二階の部屋





小学生の息子が漫画雑誌を読んでいる。

早苗、入って来て声をかける。


早苗「キイちゃん、ママ呼んでるよ


息子「えー



息子、めんどくさそうに出て行く。



畳の上に散らばった雑誌を片づける早苗。




窓の外から遠くを行く救急車のサイレンが聞える。


カーディガンをハンガーにかけながら


早苗、クスリと思い出し笑いをもらす。


今の救急車のサイレンで、
とらやでの珍騒動を思い出したんだろうね。

まあ、あの寅の態度見りゃぁ誰だって笑うわな(^^;)






          











どこかの結婚式場


電車注意 


寿・・・・



2015年7月 

追記

寅友の寅福さんの調査により
この結婚式場の場所が

鎌倉の近く、つまり大船撮影所からもまあまあ近い
日蓮宗 
瀧口寺の前で撮影されたことがわかりました。

寅福さんはお手柄でした^^ 


  

  




ロケは葛飾区のどこかと見せかけて、
実はあのロケは鎌倉周辺地域。
やられましたね〜〜〜。


なんと実はここの瀧口寺周辺は第7作奮闘編で、
後半寅が易の啖呵バイをする場所でもあるわけです!!
瀧口寺の隣の瀧口神社の入り口でバイをします。

なんという偶然と言うか、使い回しと言うか^^;

山田監督のトリックですね〜〜。







谷よしのさん、またもや登場


谷さん「
フフフ



             



おいちゃん、おばちゃん、正装でやって来る。


       




おばちゃん、ふと不安そうに言う。


おばちゃん「ね、あんた、大丈夫かしら

おいちゃん「何がぁ

おばちゃん「お店よー、寅ちゃんと荒川さん二人きりなんだけど

おいちゃん「そんなこと、いちいち心配しちゃいられねえよ、
     女学生と中学生じゃあるまいし



なんか笑える、この会話(^^;)



知人が、あいさつしてくる。



おいちゃん「

知人「ま、お揃いで

おいちゃん「いいお日和でどうも












とらや  店





お客が四人程立っている。


忙しそうに金を受け取ったりお釣りを渡したりしている早苗さん。



早苗「こちらは五百円の…お釣りでしたね」

客「すいません、まだ、お団子頂いてないわ」

早苗「あ、すいませんどうも、失礼しました。
  ありがとうございました。



店の客も帰る。

客「ごちそうさま」

早苗「
-あ、ありがとうございました


と、一人でかなり大変そうな早苗さんだった。



             



お客「ごちそうさま」


ホッとひと息ついて、卓の上の皿や茶碗を取り、台所へ行く。




台所に、寅が立って店をのぞいている。


早苗「あ、お早うございます」と、お辞儀。


寅、ちょっと緊張して


寅「あ、おはよ



          


台所に皿を下げる早苗さん。



寅「あのー…おばちゃんたちはどうしたのかな?


早苗「結婚式のお呼ばれだとかおっしゃってご夫婦で


寅「え?じゃあんたに店番頼んで…、
 こりゃどうもすいませんでした
 ペコ


早苗「いいえ、店番は私の仕事ですからそれは言える(^^;)


寅「んー、ま、そりゃそうだけどね

寅「
いい年しておまえ、夫婦二人で
 ちゃらちゃら出かけることないんだよ、みっともないな




               



早苗「どうぞ



とお茶を入れた湯のみを差し出す。



寅「
ああ、どうも



               




おなじみ、昼の清掃車の『乙女の祈り』が流れる。


そんないつもいつも清掃車来ないよ。




早苗「あのー…

寅「
え?

早苗「
私、ちょっと失礼してお弁当食べますね


額の汗を拭き、


               




と、食べかげの弁当のふたをとり、箸を手にする。


寅、胸をつかれる思いでその姿を眺める。


箸を持った早苗さん、




               




寅のお弁当への視線に気づき



               



恥ずかしそうに手で弁当をかくす。


早苗「
あ…見ないで



               





寅、ドギマギする。




寅「
そうだね、そうやって毎日お弁当作るんじゃ大変だなァ。
 なんかおかずを。
うなぎのかば焼でも

見栄はるなよ、そんなもんないよ(^^;)

早苗「いいえ、いいんです

寅「
あ、漬物だそうね

早苗「ほんとうにけっこうですから


寅、流しの方に行き、ガタビツと漬物を探す。



              



寅「
おばちゃん、どこへしまっちゃったんだろうかな



なべを落としそうになり、ガチャガチャ。


その姿を見ながら、早苗、笑い出す。




             




寅「
え、何がおかしい




早苗「
寅さんて、怖い人かと思ってたげど
  ほんとうは優しいのね



寅、照れる。

  そら誤解だよ。こ、怖いだなんてさ…。フフ、

  荒川さんだってあれだよ、最初見た時にゃ
  気取った人だなって思ったよ、オレャ



と、テレながら人参をぺちぺちさせて遊ぶ。



              




早苗「
誤解だった?



             




寅「
うん、あの『荒川』って名前が
 ごつい感じしたんだけどねえ。
 全然…ハハハ



早苗「
私も荒川って苗字あまり好きじゃないの。
  前は水野だったのよ




                    




寅「水野、あ、水野早苗か…、
 あ、そりゃいいねェ。
 そっちのほうがいいよ、水野早苗。
 どうして、また名前変えちゃったの?
おいおいヾ(^^;)

うきうきしている寅。



          




早苗「フフ、結婚したからよそらそうだ(^^;)

                     

寅「…!!…結婚してたのか…

と急に気持ちがしぼんでいく寅だった。



                   




寅「そりゃそうだよなあ…、
 へー…、で、旦那さん元気?
目が暗く沈んでいる。





          




早苗「うん…今別居してるの…




寅「……!!


どうしても微妙〜ォに喜んでしまう寅。




                



寅「そう…、そりゃいけないな。
 はやいとこ話し合って仲直りしなきゃ




無理やり深刻顔を作る寅。



               




早苗「
そう思って努力したんだけどね。
  でも…ダメね





                 






メインテーマが軽快に流れる。



おいおいこんなところで
音楽盛り上げるなよ…((^^;)



寅、どうしても喜びを隠せなくてニコニコ顔で



寅「だめかもねェおいおいおいヾ(^^;)



                 




寅「
いらっしゃい!


と、店にるんるん気分で飛び出していく寅。
人の不幸を露骨に喜ぶなよ(^^;)



寅「お団子美味しいよ!



さくらが店にやってきた。

さくら「何?どうしたの?


寅「あ、さくらか



寅、心が高揚して、参道に出て、



               




寅「今日は天気が良くていいねえ!


さくら、台所にいる早苗さんを見る。



         



外国人観光客が通る。

寅「
はいらっしゃい!お団子いかがですか!

外人客「アリガト

寅「どういたしまして!


とスキップで足を前後に運んで遊ぶ。
渥美さんのこのギャグは軽快で面白いです。




                 






寅「また来てね!



         





                  




さくら、よくわからなくて早苗さんのほう見ながら苦笑い。



                  


      

寅「元気でね!



                  





動画アニメーションで渥美さんの名人芸をお楽しみください(^^)
            
 ↓

               



しかし、寅も、人の結婚生活が破綻しかかっているのに、
そんなに露骨に喜んじゃダメだよ ヾ(−−;)







さくらのアパート




内職の服飾のための生地を見ているさくら。

博は手紙を書いている。

満男は宿題をしている。



             




博「離婚か、妙なものがはやるんだな


流行で離婚するんじゃないけどね(^^;)
上手く行かない時はどうしたって上手く行かないんだろうね…。


さくら「はっきりした原因があるんじゃないんだって、
  むしろ旦那さんはいい人なんだけど、
  どうしても好きになれなかったということらしいの



博「結婚するから悪いんだよ、好きでもない人と


さくら「そんな風に割り切れるもんじゃないわよ。

  もちろん、みんな自分の責任だから、
  これからは誰の力も借りずに生きて行かなくてはって、
  荒川さん言ってたのよ



博あくびをこらえながら

博「もう何ともならないのか」

さくら博を見る。

博「
いや、君が何とか力になってやってさー


さくら「むずかしいわよ、そんなこと、…立ち入れないもの


博「そうかな



机には 雑誌『世界』と『今昔物語』を置いてある。


さくら、お茶を博の茶碗に注いでやる。


さくら「誰に書いてるの?



博「親父にさ




               














京成線踏み切り近くの公衆電話





早苗、赤電話をかけている。



早苗「あ、とらやさんですか。荒川です、お早うございます。
  ……あの、ちょっと急用ができま
  したので遅刻させていただげませんでしょうか。
  ……申しわげありません、一時か二時には
  必ず伺います。はい……どうも





                




受話器を置き、歩いていく早苗さん。








喫茶店



早苗さんが別居中の夫を待っている。




コロンビア300
ブラジル 300
モカ    350




店員「おまたせいたしました」

と早苗さんにコーヒーを置く。



モーツァルト: ピアノ協奏曲 第20番
ニ短調 K466 第2楽章 : ロマンツェ

が流れている。






                 




入口が開く音に早苗さんふと眼をあげ、驚いた顔をする。




                




店員「あ、いらっしゃいませ」

主人「いらっしゃいませ」


古びたレインコートを着たあまり風采の上がらぬ男添田肇、
早苗を見つけ、つかつかと傍に来る。





.
早苗「どうしたの? 肇兄さん

と、立ち上がる。



添田、腰を下ろす。



                 



添田「タべ、荒川君がやって来てな、
  今日あんたに会うことになってるんだけど、
  どうしても自分じゃ行けないから、かわりにオレに行ってくれって



座りながら


早苗「あ、そう…。すいません。
  学校あったんでしょう、今日



添田「午前中は授業ないんだ




水を持って来た店員が手持ちぶたさに立っている。


早苗「何飲むの、肇兄さん


添由「コーヒーください


店員「はい」






早苗「ずい分しばらくね


添田「うん


早苗「小樽には時々帰る?


添田「いや、親父の法事があった時だから、
   三年前かな。

 早苗ちゃん、オレ、びっくりしてな。
 おばさんに話は聞いてたんだげど、
 まさかここまで来てるとは知らなかったんで…、

 荒川君にも怒ったんだけど、君も君だよ
 どうしてこんなことになる前に俺に相談してくれなかったんだ



早苗、添田をなだめるように言う。


早苗「もういいの、

  どうしょうもないの…



添田「





               





早苗「ごめんね、心配させて





添田「君の判子を…



と、言いつつ封筒を差し出す添田。


早苗、封筒を受け取って中味を取り出し広げる。


離婚届けである。



添田、万年筆を卓の上に置く。



ハンドバッグから判を取り出す早苗さん。


早苗、万年筆を取りあげ、署名をはじめる。




添田「今、どうやって暮してるんだ?


早苗「なかなかいい仕事ってなくてね、
  柴又に帝釈天ってあるでしょう、

添田「


早苗「
あそこの門前町のおダンゴ屋さんで働いてるの



店員が来てコーヒーを持ってくる。


カップを手で持つ添田。



店員「すいません



判を押す早苗の手元を哀しげに見ている添田。



早苗「これでおしまいか……



             






離婚届の自分の名前の下に、
荒川という判を押す早苗さん。





             





            










墨田区 区役所 


墨田区横網1-6

      


大通りに面して建っている古風な建物。(昭和5年4月竣工)

区政PR課 
納税課
区民相談室




玄関から早苗と添田が出て来る。



早苗「どうもありがとう




            





添田「これからどこへ行くんだ

早苗「決ってるじゃない、柴又のおダンゴ屋さんよ


添田「そんなの休んで飯でも食わないか


早苗「そうはいかないわよ。じゃ、さよなら



スタスタと階段を下り、駅の方に向かって歩き出す早苗。

その後を追って駆け寄る。




添田「早苗ちゃん!

早苗「


添田、押えていた感情が
いっきにふき出したような口調で語る。



添田「もっと自分を大事にしなくちゃだめだぞ、
  人生はな、人生は一度しかないんだから





早苗、その言葉をさえぎる。

早苗「分ってるわよ




添田追いかけて、


添田「しかし、あんたは



             




早苗「お願い!

  私今一人になりたいの!




と、泣きそうになりなが小走りで駆けて行くていく。

その後ろ姿を呆然と見送る添田。


哀しげな早苗さんの背中が小さくなっていく。



          









柴又 とらや 店




寒風が強く吹く参道。



客「ごちそうさま


出て行く客を見送るさくら。


さくら「ありがとうございました


貼り紙

『おでん始めました』


風で剥がれそうになっている紙を貼るさくら。


寒そうに身をかがめるさくら。



               






とらや 台所




台所で箱にダンゴをつめているおいちゃん。


出来上がった団子を店に運ぶおばちゃん。



さくら「ひどい風、雨でも降るのかしら」




二階の方から寅の大声が聞える。


寅の声「
まだかよ、おい!


おばちゃん「まだだよ!



              




さくら「


おばちゃん「もう〜荒川さんまだかまだかってねえ、
    さっきから上がったり下りたり大変なんだよ



おいちゃん「ほら、来たぞ



寅下りて来る。


寅「んもう…、(腕時計を見ながら)

 一時か二時までに来るって言ったんだろう。
 何かあったんじゃないかなあ。
 ……それとも、もう来ないのかなあ




                



さくら「どうして?


寅「考えてみろよ、お前、
 いくら生活のためだからといったってさ、
 こんなお前、薄汚い汚ねえダンゴ屋でもってさ、
 モウロク爺にイチイチ文句言われて働くことないんだよ。
 あの人だったら仕事するんだったら
 いくらでも他に口はあるんだよ。
 もう、やめたんだい



と、戸に背を持たれかけさせる寅。


            


さくら「だって何も言ってなかったでしょう、そんなことは



寅「あの人は自分の口から言えるかおまえ、
 今日言おうか明日言おうかって、どんなに心の中で
 苦しんだかわかりゃしないんだよ。
 はあ〜…そう考えると可哀相だなあ…






店先から早苗さんが駆けて入ってくる。


早苗「こんにちは。ごめんなさい遅くなってしまって


驚くおばちゃん。


声を聴いて台所でコロンとコケル寅。


                



おばちゃん「あら、ごくろうさん


寅、目の色が輝いて店に行く。


           



寅「はっ




早苗「こんにちは



                



寅「ようく、こんな日に来たねぇ、休めやよかったのに

よくもそういう真逆が言えるね〜(^^;)。

笑っているさくら。


早苗「そんな事したら寅さんに心配かけるもの


寅「心配なんかしちゃいないよ、何も



                 



さくら「何か大事なご用でもあったんじゃないの


早苗「ううん、大したことじゃないの。凄いたいしたことだよ。


暖簾をくぐって



早苗「
こんにちは、おじさん


おいちゃん「あー


寅も入ってきて


寅「
こんにちは、おじさん…だって


と、にっこにこ。


と台所に入り、紙袋から洗濯した白衣と三角巾を取り出す、

寅、うれしそうにその傍にまとわりつきながら、


寅「荒川さん、何もそんな急いで
 支度しなくたっていいよ。
 なあ、さくら、荒川さんにお茶入れて



さくら「ね、荒川さん、ちょっと上がって一休みしたら?



早苗「あのね、さくらさん


さくら「
うん?



               



寅「なんだ?腹すいた?飯でも食うか?


早苗「
ううん

早苗「
今日から私…水野早苗になったの、
  もう荒川じゃないの
」.


と店員服を着る早苗さん。


            


ハッとするさくら


寅「へーえ、どうして?


頼むから気づけよ(−−;)



                



さくら「



早苗「今日…正式に別れたの。
 長い間ゴタゴタしてたけど、
 これですっかり片がついたわ




              




寅「あ、そう。そりゃよかったよー

あああ…(TT)



              




さくら、きつく寅を睨む。

早苗「うん、よかったわ。私、…これで…



              




三角巾を頭に巻こうとしていた手が、ふと止まる。
見る見る涙が溢れてくる早苗さん。


寅「



早苗さんを下から覗き見ている。



         



早苗さん目を真っ赤にして


早苗「寅さん、私泣きそう…




             




寅「




             





早苗「二階に行ってもいい…?




             



寅「うん



早苗「ごめんなさい



早苗さん、泣きながら
バタバタと二階に逃げるように駆け上がる。








呆然として階段を見ている寅。

おろおろして


寅「え?なんだい、どうしたの?今



              




さくら「どうしたじゃないわよ。
  そりゃよかったなんて言い方ないでしょう



おいちゃん「ばかっだなあ、おまえは無声音。


寅「よー、さくら、おい、
 二階へ行って何とかしてやってくれよ、ほら、……




              



オロオロLている寅。


寅「知らないんだからさ、こっちは、
 前もって言ってくれりゃあいいじゃないかァ〜
アホ(−−;)


おいちゃん「そんなもん前もって言えるか、バカ!ほんとにい」無声音


みんな寅に不信感。


寅「なんだよ…



雨が降ってきて


工場の工員が声をかげる。


工員「とらやさん、雨ですよー!、洗濯物


寅、いらだって小声で怒る。


寅.「うるさいなあ!大きな声出すんじゃないよ、バカだなあ…労働者!




              




葉っぱが赤く色づいたポインセチアに、
パラバラと雨が落ちている。








とらや  二階





窓外に雨が静かに落ちている。

机に顔を伏せて泣いている早苗。

お茶とお菓子を手にしたさくらがそっと顔を出す。





ハンカチを取り出して



早苗「うううう…



さくら「いいかしら



早苗、顔を少しだけ上げ頷く。



早苗「ごめんなさいね…みっともないこと…


さくら「
いいのよ



           



さくら「兄が無神経なこと言って悪かったわね


早苗「ううん




さくら「はい、熱いお茶


早苗「ありがとうと茶碗を受け取り、両手で持つ。






早苗のテーマが静かに流れる。





さくらあなた、休めばよかったのに…


早苗「うん、そう思ったんだけれど、
  他に行くところもなかったの…



さくら「…そう




早苗さんの悲しいこの言葉は胸にしみました。




          




早苗「変ね…。
  区役所で手続きすませてから
  一人でブラブラ歩いているうちに浅草に来てしまってね…、
  ね、疲れたからお茶でも飲もうかと思って
  喫茶店に入ってふと気がついたらお財布がないの




          



さくら「」,


早苗さん、笑いながら


早苗「私、ハンドバッグの口あけたまま歩いてたのよ。

   バカね…



さくら「あら…



           



早苗「
仕方ないから交番に行って
   お金借りたんだけど、
   まさか今離婚したばかりですとも言えなくて…





            
 


早苗「……私、別れたらどんなにすっきりするかと思ってたのよ。

  でも、手続きすましたら、
  何だか急に張合いがなくなったみたいに……
  私、この先何をあてにして生きてけばいいのか……


        



早苗「こんな気持になるなんて、
  昨目まで想像もしてなかった…
  こんな気持になるなんて……ううううう






おさえていた気持のたかぶりが一気に吐き出されたかのように、
顔を押え、泣き出す早苗さん




              




早苗のテーマが静かに流け続ける。




降り続く雨。




             



かける言葉もなく、その姿を痛ましく彼女を見て、
そして下を向いてしまうさくら。



             




泣き続ける早苗さんの横に座りどのような助言も
してあげれないさくらは、ただ、一緒に
いることだけしかできなかった。







ようやく雨がやみ、
庭のポインセチアにピタピタと雨だれが落ちている。





とらや  店




客「ごちそうさま

おばちゃん「ありがとございました


おばちゃん道に出て


おばちゃん「雨、あがったね




江戸家の女将さん頷く。



台所から二階を覗いていた寅。




                 




おいちゃんおばちゃんに打ち合わせ。


寅「今、降りてくるからな、気を使うようにしろ


おいちゃん「だからどうすりゃいいんだよ


寅「わかっているじゃないか、そんなこと、
 いいか『離婚』という言葉これいけないよ」


おばちゃんも指を折って覚えようと懸命。


寅「あと『離れる』『切れる』『別れる』とか、
 この手の言葉は一切つかわない



でました禁句ギャグシリーズ!


「続男はつらいよ」では「おかあさん」の類はダメ!
「夢枕」では「坊や」「倅(せがれ)」「息子」はダメ!
「かもめ歌」では「すべる、落ちる」はダメ!
「柴又より愛をこめて」では「島」「海」「女の先生」「魚」はダメ!




            


寅「いいね、こういう問題ね、ぜんぜん、ふれないで、
 何も無かったような顔して」




おばちゃんもとりあえず頷く。


早苗さんが下りてくる。




寅「あ!きた、離れろ、切れろ!

おいおいいきなり ゞ(^^;)




                               




早苗さんが店に出て来る。


早苗さん、ちょっと照れている。




                  




寅、早苗さんにニコッと笑って、



寅「ほんとだねえ、おばちゃんの言うとおりいい天気になっちゃった

おばちゃん「うん



                   



寅「ねえ!


早苗さん、下を向いてもじもじしながら、

早苗「どうもすみませんでした。ご心配かけて


早苗さん、早速お客さんの食器の後片付けをし始める。
手伝うおばちゃん。

おばちゃん「あ、私やるから、いいのいいのよ


早苗「すいません


おいちゃん「お茶でも入れろよ

おばちゃん「そうだね

寅「そうだな。あの、そこ、かけたら



頷く早苗さん。

頷く寅。





さくら、下りて来て


さくら「雨上がったわね



寅「
ん? あー、そうだねー



さくら「
雲が切れたみたいおっと(^^;)



             



寅、思わず目をつぶる。


                            




おいちゃんもびっくり(^^;)




寅「!!切れない!



                   



さくら「え?





お約束の社長、庭から間が悪くやって来て



社長「♪にい〜げたあ〜、
  にょ〜ぼにゃあ かァ!
  ハハハ!どうしたい
  別居中の美人は?




ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ出アア〜!!



                            



一同真空状態



寅「バカヤロ!




社長、早苗さんを見て


社長「!!!あ、いた、
 ごめんなさい!
とすっ飛んで帰る。



台所の門でぶつけて
ガチャガチャと物が落ちる音と社長の悲鳴



社長の声「あいてえええ!!いたいたたた!

                  



一同



                    





寅「ああいうガサツな男は、
 この家に入れない方がいいんじゃないか



さくら「ごめんなさいね



                    





早苗「いいのよ


と、表情は柔らかい。



                    








寅、ブツブツ言ってる所へ
店先から華やかな声が聞こえる。



瞳「寅さん!、いたの




                    



寅、びっくりして振り返ると、
いつか旅先で会った瞳である。



  
寅「よお、あ、あんた、あの時の!




                    




嬉しそうな顔をする寅にちょっとほっとした。
いきなり訪ねてきた瞳さんを邪険にしたら、
瞳さんが可哀想だからね。





瞳、うれしそうに店に入って来る。.



                    




瞳「よかったー!。
 あのね、ハンカチどうもありがとう



寅「おう


ハンカチちゃんと覚えてて返すのは偉い。



             




瞳「それからさ、寅さん聞いて聞いて。
 ほら、例の男さ、私捨ててさ、
 よその女と一緒になっちゃってさ、

 新婚旅行から帰って何と一週間で
 離婚しちゃったのよ。
 別れてよかった、あんな男と


禁句だらけ(((^^;)

寅、早苗さんを気にしている。


          


瞳「私の所に来てね、
 『俺ともう一度ヨリを戻してくれ』って、



寅「
ほう…


瞳「
バカ言うな、お前の面なんか
 二度と見たくねえや、ざまみろってんだ!ねえ〜




               



と、お土産を渡す。


スッとテーブルに置く寅。


瞳さん、はっと気づいて、みんなに



瞳「あら、はじめまして」と急に小声になる。


深々とお辞儀。


瞳さん、早苗さんにも気づいて




               



瞳「あら、こちら、奥さん!?」と小声で聞く。



               



寅「え??


早苗「え!!??と驚いた声(^^;)



               



寅「
いや、ちょ、ちょっと違うこの人は違う…

瞳さん、もうすっかり思い込んで

瞳「こんにちはとお辞儀

瞳構わず、早苗に

瞳「まあ、失礼しました

瞳「なによ寅さん、独身だなんて嘘ついてひそひそ


寅、とにかく瞳を外に連れ出そうと、

寅「あ、この先にね、
 オレの知ってるところあるから。
 静かだからちょっと


寅、瞳さんを無理やり連れて行く。



瞳「どうしてよ?

寅「いいいい、いいいー


瞳「あ!分かった。
 私がいるとまずいんでしょ!

寅「いやいやいや違う

瞳「
いいじゃない別に、
 そんなへんな関係じゃないんだから




                              




寅、向こうに連れて行きながら


寅「お前声が大きいんだよォ〜


瞳「どーして、変に誤解されるわよォ


寅の声「シーッ!!


遠くで瞳の声「
だってお団子買って帰ろうと思ったのに…



と、ワイワイ言いながら題経寺の方へ消えて行く。






さくら「あー、びっくりした

まあ彼女よくしゃべるからね(^^;)

おばちゃん「ねえ〜



          



早苗さん、微笑みながら

早苗「寅さんって、もてるのね、

   …フフ…フフフ




毎回もてますよ〜(^^;)



               
                      












とらや 茶の間  夜





食後のひと時、博やおいちゃんが笑っている。


おばちゃんの声「さくらちゃん、ポットにお湯…


台所で手早く後片づげをしているさくらとおばちゃん。


柿をむいている早苗さん、その手元をのぞき込んでいる寅。


                   




手を切ってしまう早苗さん。

驚く寅。




                   



満男は座敷で勉強している。



社長、反省しながらやって来る。


さくら「あら、こんばんは





社長、早苗の前に深々とお辞。


社長「あのー…先程はごめんなさい。
  私はほんとにバカなんですよ




                   



早苗「いいんですよ、そんなこと



寅、早苗さんの血の出た親指を持っている。



はっと気づいた寅、手を引っ込める。


照れる早苗さん





                   




おばちゃん「おかしいよ、あらたまったりして。
     まあおかけなさい、お茶入れっから



社長「申しわけない


と腰を下ろす。


かなり沈んでいる社長。



寅「何だよ、不景気な面して。えー、
 これから皆で楽しくデザートをいただこうというのにさ。

 何か、明るい話題ないか、
 聞いただけで家の中がパアーツと明るくなるような、え



マドンナの沈んだ心を明るくさせようと、
夕食に招待し、みんなで盛り上がるのは第10作「夢枕」の
お千代さんの時と同じパターン。




社長「
ないよ、あるわけないじゃないか説得力あるなあ(^^;)



                  



寅「情けないね、この男はほんとに。

  博、明るい話しろ



博、びっくりして、


博「あ、明るい話ですか

寅「そうだよ


博「そうだなあ…、国際情勢もあんまり明るくないみたいだしなあ。。。、
  パレスチナの問題、イランの内乱…、アジアでは…



寅「バカ、誰が外国の話聞いてんだよ、柴又だよ柴又





                  




寅「なあ、おいちゃん、何かないかよォ


おいちゃん「
ん、例えばどんな話だい、明るい話題ってのは


寅「だからさ、宝くじにドーンと当たったとか、ね。
 空から一万円札がヒラヒラヒラヒラ振ってきたとかさ、
 裏庭をちょっと掘ったら小判がざくざく出てきたとか。
 ねえ、そんな話ない?ちっ、
 おばちゃん、何かないかよー?


  
みんな棚からぼた餅系の金の話(^^;)





                  



おばちゃん「裏庭じゃないげどね、
    この間下水工事でそこんとこ
    掘りかえして大変だったよ





                 



寅「へえ、何が出て来た?



                 






おばちゃん「間違って水道管に穴あけてねえ、
    水がザァーツと出て来てこの辺グチャグチャ





                 





早苗、吹き出しかげている。



寅「何だい、それ、明るくないじゃないか



                 




さくら、なんとかいい話を思い出す。


さくら「こんな話はどう、
  キリン堂のお嫁さんが双子生んだっていうの




                 





寅「そりゃ明るいね、双子ね、うん、可愛いいだろうな




                  




社長「それがねえ、大変らしいよ。
  何しろね、かかりが倍だろう、
  二人の赤ん坊相手にね、おしめとっかえたり
  ミルクやったり、もう殺されそうだって
  この間うちに婆さんが来てこぼしてたよ、



            



寅、パントマイムでおばちゃんに、
社長の口黙らせるように言っているが
社長は気づかず。



社長「
ほら近頃の若い嫁さんは全然働かねえだろ、
  姑こき使っちゃってさ、文句を言うと、
  すぐ
離婚だとかいっちゃって…はっ


            




社長、寅ににらまれて慌てる。

社長「暗い話になっちゃった、ごめんなさい


寅「
無音で『バカ




             





博のそばに満男が試験の答案を持って来る。


博「あ、そうだ、この問満男が国語のテストで百点もらいましたね

おいちゃん「そうそう


寅「これは明るい

博、満男の頭なでなで。

満男、ガッツポーズで威張る。


            


寅「満男偉いぞ!伯父さんに似たんだ。フフ


博、理科のテスト用紙を見て

博「…!なんだ理科30点じゃないか!と頭を小突く。


コケル満男
  中村君ごめんなさい(TT)



                    



さくら「30点?と、テストを見に行く。

おいちゃん「伯父さんに似たか、フフフ

うまい!座布団2枚(^^)



早苗さんクスクス…。

さくらも笑っている。


博.「ちゃんと復習しないからこういうことになるんだぞ


満男「みじめェ〜かわいいポーズ(^^)

「し〜らけ鳥飛〜んで行く、南(東?)の空へ、みじめみじめ〜」
小松政夫さんの『しらけ鳥音頭』からきたのかな??



さくらまたまた笑っている。


                
 みじめ〜〜
             



博「バヵ、ふざけてる場合じゃない


寅「
やめろやめろよ

博「
ちゃんと、教えた…

早苗さんに気づき、黙る博。


寅「やめろって、
  結局ね、何の話してもこの家ゃ、最後に暗くなるんだよ



さくら、満男に教えている。



おいちゃん「しかしなあ寅、明るい話題なんてそう転がっていないぞー



寅「どうしてよ


おいちゃん「え?






早苗さん手を挙げて。



早苗「はい!明るい話題




                




寅「はい!出ました。

 なんでしょう?




早苗「フフフ


寅「フフフ



寅、ニッコニコ



                           




早苗「あのね


寅「はい!



早苗「私の人生で、
 寅さんに会ったっていうこと





                







早苗のテーマが静かに流れる。




寅「



                




みんな、固まる。



                          





さくら、呆然。



                         





みんな「





緊迫した空気が流れる。



早苗さんも下を向いている。




寅、横を向いて、


寅「いやあ…、んん…、


新聞を読むふりをしながら 
寅、新聞さかさまだよ ゞ((^^;)




寅「そんなことを言われたの初めてだったなあ…。
 ぼ、僕はどっちかって言うと
暗い人間だと思っていたし…、
 それにこの年になってみると…、
 面白いことなんかなんにもないしね。
 まあ、楽しみといえば、寝ることぐらいだから…。
 明るいなんて言われると、
 なんか、とまど…ちまうなあ





               





早苗さん、下を向いてクスクス。



遂に早苗さん
プーっと吹いてしまう。



みんな大笑い。



     
社長「楽しいねえ〜!!ほんとに楽しいや



                         



早苗「暗い人間だって、フフフ



さくら「ねえ〜!フフフ


寅「陰気なんですね


みんな「ハハハ

             


早苗さん、笑いながら時計を見て、


早苗「あ、私、そろそろ帰らなくちゃ


さくら「あら、まだいいじゃない

寅自分の腕時計を見る。


おばちゃん「そうだよ、よかったら泊ってったら太っ腹(^^)


寅「今日だけ泊まっていきなよ?


早苗「一緒にいる友達が心配するから、
  ほんとうにごちそうさまでした



おいちゃんたち「
いえいえ



手早く仕度をしながら土間に下りる。



早苗さん、よろけて、おばちゃんにぶつかる。

おばちゃん「
あ、あぶない

みんな「ああ!!」

社長も、手を出して助けようとする。

寅「
社長!!手を離せ!!

と、社長をどなる。


さくら、笑っている。



              




早苗「ごめんなさい


社長「ほんとうに今日はごめんなさいでした


早苗「いいえ


さくら「元気出してね


早苗「ありがとう、じゃ、失礼します


みんな挨拶。


早苗さん、店先へ歩いていく。


寅、追いかけて、


           



寅「気をつけてね、 荒川さん 



早苗さん振り返って


早苗「水野よ


寅「あ、そうか、今日から水野さんだったね


早苗「寅さん


寅「はい


早苗「私、こんな楽しく晩御飯食べたの何年ぶりかしら


そういえばリリーも「相合い傘」で、
茶の間での夕食でそういうこと言ってたなあ。




                  

                 

         

寅「あ、そうか、よかったね。
 それだったらこれから毎晩来て食べればいいんだよ。
 淋しい時泊まっていきなよ、ね



いつもいつもよく言うよね、自分は世話しないで、
さくらとおばちゃんに負担かけるくせに(^^;)





早苗、頷いて


早苗「じゃ、また明日

寅「うん

早苗「さよならと言って帰っていく。


寅「待ってるからねと、店から見送る寅。



                            




早苗さん、パッと止まって。

戻ってくる。



寅に近づき、寅を見つめて


早苗「あの…、

  今日はほんとうにありがとう



          



早苗「



          




早苗「私、…寅さん好きよ。



          


と、言って、駆けていく早苗さん。





呆然と立ち尽くす寅。




その言葉を聞いて愕然とするさくらとおばちゃん。
お互いの顔を見ている。



                
                 



早苗のテーマが流れる。



        


いったん横を向き

もう一度背中を向け、

緊張しながら新聞を広げ、
カクカク震えて、台所に戻ってくる。




        




みんな気を使って見てみぬふり。


階段下のガラス窓にぶつかり、


        



階段を踏み外しながら


        



新聞で顔を隠し、


         



石になって二階に上がって行く寅。


深刻な顔で二階を見上げ…

そして顔を見合わせる一同。







             






おばちゃん「何であの人あんなこと
    言っちやったんだろう



確かにちょっと考えられない発言だ。
普通じゃないね。



               




さくら、呆れながらも、しみじみと…


さくら「よっぼどうれしかったのねえ、今夜の食事





首を振りながら出て行く社長。



              



分かる気がして、わずかに頷くおいちゃん。




語る言葉もなく押し黙っている一同。




さくらの冷静な言葉


さくら「満男、帰るよ




あまりにも不可思議で
もう一度二階を見るおばちゃん。




やれやれといった顔の博。



確かにいくら嬉しかったとはいえ、
早苗さんの言葉はあまりにも唐突。

十代の女の子なら「好き」は、
ただ好きという意味なんだけど、
30歳の女性の場合は
ちょっと違った意味を持つ時がある。
責任取れるのかな?

男性の気を引く意識的な行為にも
取られかねない微妙な行動。

さくらの反応が若干醒めていたのも、
社長が首を横に振りながら帰っていったのも、
早苗さんの言葉に「お手つき」「勇み足」の意味合いが
あったからだろう。

いくら嬉しいからと言って
惑わしてしまってはいけないのである。

この夜の早苗さんには、
その配慮は無理なのかもしれないが…。







それから約一週間ほど経って…





江戸川・土手







             






澄みきった晩秋の空


七五三詣の親子連れが鈴を鳴らしながら
楽しげに笑いあいながら行く。





小さなポストン.バヅグを下げたひょう一郎、
河原の風景を眺めながら、ゆっくり歩いている。


          


七五三の親子連れとすれ違い、微笑ましく思い、
ふと振り向いてちらっと眺める。



こういう何気ない芝居が
志村さんはほんとうに堂に入っている。






とらや  店



七五三詣で賑わう参道。




ひょう一郎が現われ、店の中に声をかける。




ひょう一郎「ごめん。

    ごめん。

    お留守かな







              



返事がないので中に入っていくひょう一郎。





一組の軽い乗りの客が入ってくる。


女性「ここじゃない?とらやさんって

男性「ここ?」とやや失望。


客「こんにちはー!!



電話口に座っているひょう一郎。


ひょう一郎「はい



男性「おじさん

ひょう一郎「
はい


男性「
お宅のおダンゴ
  おいしいって聞いて来たんだけどさ





              



ひょう一郎「ああ、おいしいですよ


と立ち上がる。


男性「じゃねぇ、草ダンゴニ皿


女性「お茶も二つね、おじさん


ひょう一郎「はい、承知しました




ひそひそ話


男性「ほんとにおいしいのかな?ひそひそ

女性「汚い店ほど美味しいのよきっとひそひそ


男性「あの爺さん見てみろよひそひそ

女性「悪いわよ、お宅のマスターよりましよ、フフフひそひそ

男性「そうか、フフフひそひそ




悪気はないにしても酷いこと言うねほんとに(−−)




ひょう一郎、お茶を探すところへ、


さくらがやって来る。


さくら「いらっしゃい。…あらー!!



               




ひょう一郎「こちら草ダンゴが二つだそうだ。」

さくら「はい」と客を見る。

客頷く。



ひょう一郎「
お茶はこれでいいかな




               



さくら「どうもすいません、いいんです、私しますから


さくら客に


さくら「ちょっとお待ちください


と、台所へ走っていく。


さくらの声「ちょっと、おばちゃん!!


客「???」

ひょう一郎「ちょっと待ちなさい(^^;)



              




男性「????


女性「プッ!フフフ!」と、大笑い。




              








とらや 台所


さくら「おばちゃん!!




おばちゃん、二階の掃除から下りて来て


おばちゃん「何だよ、大きな声出してぇ


さくら「博さんのお父さまが見えてるのよ

おばちゃん「えー!



             



さくら「駄目じゃないの誰かいなくちゃ




おばちゃん、慌てて割烹着を脱ぎながら、



おばちゃん「だって今日は水野さんが引越しでお休みだろう、
     だからかわって寅ちゃんが代わって店番してくれるって
     約束だったんだけどね、いなかったかい



いるわけない。いるタマではない(−−)


さくら「いないわよ。お父さま、お容さんにお茶出しでたわよ


おばちゃん「まあ、どうしよう


さくら「私、博さん呼んでくるから


と工場に向かって駆け出す。



              




おばちゃん、髪の毛整えて、慌てて店へ。




おばちゃん「まあ、まあ、どうもして礼いたしまして

ひょう一郎を見る直前から、すでに声を出しているところが
なるほどである。年の功。



ひょう一郎「あー、これはこれは、
     いつも博がお世話になっております



おばちゃん「こちらこそどうもお世話になっております

ひょう一郎「どうもどうも



お互い何度もお辞儀。



               













アパート 表  いずみ荘




                





江戸川土手に近い静かな住宅街の一角にあるアパートの表に、
小型トラックが停っていて、高校生が三、四人、荷物を運んでいる。



早苗さんの声「その荷物最後に降ろしてください




巡査に案内されてきた寅、


寅「あ、ここだここだ、うん、どうもありがとう、うん


巡査敬礼して帰っていく。





寅、小走りで階段を上がっていく。

すれ違いざまに手伝いの高校生とすれ違う



寅「よお、ご苦労さん


早苗さん、窓から顔を出して、


早苗「あら、寅さん


いずみ荘の看板




               




寅「ん?、よお


と、窓の方を振り返る。

早苗「まあ、フフ








早苗の部屋




寅「よおと、上がりこむ寅。



               



早苗「来てくださったのー



寅「いやあもっと早く来るつもりたんだよ、
 あちこちあちこちほうぼう探しちゃったよ。
 もう大分片づいたじゃないか、え




早苗「お店のほうはいいの?



寅「いいいい。あんな所、
 どーせ客が来や
しないんだからひでええ(^^;)


荷物を運んでくる高校生たち。


早苗さん「どうもすいません

寅「あ、ごくろうさん

寅「一応そこ置いておいて、あとで片付ける

高校生たち「はい

添田「じゃあもう一回行って、小さいの持ってくるから


早苗「はい


寅「
あ、運送屋さん、運送屋さん、
 あの、今行った若い連中に、
 なんかあの甘いもんでもちょっとやってくれ



とお札を出す寅。



            



早苗「寅さん!、この人ね、私の従兄なの


寅「従兄?


憮然としている添田。



            





寅「あ、そうか、これは失敬、
 オレ、車寅次郎っていうんだ



           


              



早苗「今働いてるお店の着旦那でね、
  とってもお世話になってるの



寅「いやいや、フフ


添田「あ…、添田です、よろしくと、帽子を脱いでお辞儀。



寅「フフ、しかし、従兄が運送屋なんてのは
 都合がよかったねえ



早苗さん、笑い出す。


早苗「違うのよ、この人高校の先生でね、
  今日休みだから生徒さん連れて
  手伝いに来てくれたのよ




寅「え、先生。は、これはどうも失礼




              




早苗さん、笑っている。


添田「じゃ、僕


早苗「お願いします



添田、悔然とした表情で出て行く。




寅「でもどっから見ても、
 あれは先生には見えないなあ



早苗「私もね、昔からよくそう言ってからかってるの


寅「だけどあの図体のでかいのはさ、
 不良学生にはにらみがきいていいかもしれないぞ



早苗「そう、フフフ


と言いながら、窓の外を見る。



              




窓の下では、


高校生A「えー、それじゃ三角関係じゃんかよー

高校生B「どーせまたふられるよ

添田C「ほら、いくぞー!!

高校生D「先生、先生、あの男の人…


窓の下に停っていたトラックに乗り込みながら、
添田が大声で怒鳴っている。



添田、運転席から

添田「うるさい!!



と発進し、高校生たちが素早く荷台に乗って去って行く。


高校生D「オーライ、オーライ」と指示している。

高校生D「なんだなんだ待ってくれよ」

と、走りかける軽トラの荷台にパッと自分も乗る。


二階から、それを寅が見ている。

早苗さんもちょっと覗こうとする。



              





寅、振り向きざまに早苗さんと超接近!

早苗さんもちょっとドギマギ。


             


寅「
」と、

緊張する寅。

照れる早苗さん。

早苗「ごめんなさいと小さくつぶやく。



          





寅、窓辺から離れて、両手に唾をつけ、


寅「えっと、何か片付けよう、な

寅「え、これかい、よし


と早苗さんが持とうとしていた荷物の片方に手をかける。

寅「何だ、くそ重いなこれ、何だ?


早苗「いらないフトン、
  実家に送っちゃおうかと思ったんだけど、
  どっこいしょ



掛け声をかけながら部屋の隅になんとか置く二人。


早苗「はあー

寅「よいしょ


寅、へたって

寅「あー、くたびれた」

早苗「うん


寅「
お茶にしするかおいおいおいヾ((^^;)

早苗「え?



            




早苗さん「
プー」と吹いて

早苗「フフフ

寅「まだちょっと早いか、フフ

早苗「いいわよ、私も喉渇いたから、フフフ



             



早苗さん荷物をまたいで台所へ。


寅「
あ、邪魔か」と、


早苗さんの前にあったトランクをのかせる。



その時突然、トランクが開き、
早苗さんの下着が飛び出す。


       



早苗さん、真っ青になって

早苗「いや!ちょ、いや!見ないで!

と、必死で体でトランクを隠して見えなくする。

早苗「寅さん、見ちゃいや!!



寅向こうを向きながら、起き上がって

寅「見ない見ない見ない

早苗「やだ



寅、なんでもいいから、あせって作業するふり、
意味もなく布団カバーの紐を縛っている。

意味ないってヾ((^^;)



早苗「何やってるの?寅さん、フフ



            



寅一心不乱に作業して、見なかったことにして
ごまかしている((^^;)



早苗さん、可笑しくなって


早苗「フフフ」と笑い出す。




             



大原麗子さん、笑ってしまっています。
渥美さん、面白いですものね(^^)













さくらのアパート




狭い部屋の小さなコタツに向かって手もちぶさたに
坐っている博とひょう一郎。
満男の机にカバンを置いている。

板の間の食卓で満男の勉強を見ているさくら。
ひょう一郎、室内を見回す。



ひょう一郎が博の住むアパートに泊まるのはいい設定だと思う。
とらやに泊まらせてもいいのだろうが、それじゃ、ひょう一郎が
気を使うし、プライベートな話も博とできないだろう。
こういうところにこの映画のリアリティを感じる。





             




ひょう一郎「この部屋も…狭くなったね




博「仕方ありませんよ、月給が安いんですから




ひょう一郎「うん



               




二人のちぐはぐな様子を気にするさくら。


窓の外を大きな音をたてて電車が通過する。


ふすまに満男の小さい頃の落書き。
ある意味これ許すのって凄いなあ〜((^^;)



博「明日の汽車で、真っ直ぐ岡山に帰ります?

ひょう一郎「うん

博「じゃ、新幹線の切符、僕が買います

悪いけど、博より親父さんの方がお金持ってるって ヾ(^^;)



ひょう一郎「いや、いい。
   年を取るとな、
   速い乗物に乗ったって仕方ないんだ、
   別に用があるわけじゃないし



なるほどなあ…。味わい深いいい言葉だな( ̄ー ̄)




二人の話が途切れる。


さくら「紅茶でも入れようか


                



博「うん


電話のべルが鳴り、さくらが受話器をとる。


さくら「もしもし…あ、お兄ちゃん



        



さくら「何〜:…うん、見えてるわよ。……
  これから?……はいはい。……
  何言ってんのバカね、じゃあね




表情が少しにこやかになるひょう一郎。



               
 
                




このあたりのひょう一郎の気持ちの
繊細な移り変わりは
志村さんの独壇場。




受話器を置き、博の傍に膝をつく。


さくら「あの、今兄から電話で、
  これからご機嫌伺いに行きますって
  そういうんですけど




                




ひょう一郎「ほう、寅次郎君が来るか



                



ひょう一郎の表情がほころぶ。



さくら「『お酒の用意して待ってろ』
  なんて言うんですけど、召し上がりますか




ひょう一郎「うん、そうだね、…じゃあまあ、少しいただくか



                 




博も微笑んでいる。



博「酒あったか?この場合日本酒。


さくら「あ、買って来る


と立ち上がり、
財布を取りながら冗談のように言う。



さくら「『ついでに芸者も呼んどけ』だって。
  バカねえ





                




ひょう一郎「芸者か…



博「旅先で兄さんと何してたんですか?



                




ひょう一郎「いや、別に、フフフ



そういうことを、ぺらぺら言わないで
「いや別に」と言ってほくそえむ。
いいねえ人生の達人ひょう一郎。




               




このあと、寅がやって来て、賑やかしく、お酒を飲んだことだろう。
山田監督は、このあたりのおいしいところをさっと飛ばして、
翌朝にさせる。
実にテンポのよい構成だ。










柴又駅  ホーム  午前中

ホームに水を撒いている駅員。



              




朝の通動ラッシュが過ぎた静かなホームに、
ひょう一郎とさくらが立っている。




商店街から宣伝の声が聞こえてくる。

「中村時計店のセンスある時計指輪宝石など豊富に取り揃えまして…」
これを2回繰り返している。一度目は小さく、二度目は大きく…。


ひょう一郎のカバンととらやのお土産をさくらが持ってあげている。

繊細な演出だ。



ひょう一郎の肩に糸がついている。


そっと取って上げるさくら。




              



ひょう一郎、ポツリと言う。


ひょう一郎「さくらさん


さくら「はい



              




ひょう一郎「もし博が、家を建てるようなことになったら、
    あなたから私に言ってください。

    そのつもりで、安曇野に少々土地が買ってあります




                




さくら、返事のしようもなく頷く。



               



さくら「はっ…



               




あの懐かしい第一作のオープニングテーマが
静かに美しく流れる。





ひょう一郎「寅次郎君の言うように、
    あれは、私に似て、頑固なだけで
    おもしろくもおかしくもない人間ですが、


        


帽子を取って


ひょう一郎「どうか、よろしく


と、頭を下げる。


      
              


  
さくら「は、いいえ……



と、頭を下げる。



              
             
        



踏切がチンチン鳴り出す。



ひょう一郎の博を思う気持ちがにじみ出たいいシーンだ。




博は、生真面目で一途だが、
私は彼をそれほど頑固と思ったことはない。
いろんなことに柔軟性を持っている人間だと思う。





第一作のオープニングテーマが流れ続けている。       



電車の警笛が近づいて来る。





さくら、封筒を出す。



さくら「あのう、これ兄から言われて来たんですけど、
  旅先でお父さまからお借りしたあの……




ひょう一郎「いや、それはいい



さくら「でも



               




ひょう一郎「いや、ほんとうにいいの




とさくらを手で制して


さくらが持っていたカバンとお土産を持って歩き出す。




さくら「でもあの…



             




ひょう一郎「いや、いいんだよ



と、もう一度差し出すさくらに、
ひょう一郎は封筒を受け取り、そして
さくらのエプロンのポケットに
その封筒をしっかり突っ込むのだった。



               





お辞儀をするさくら。




               




この感動的なシーンを、あえてカメラは引いて、
二人を小さく点描のように映している。
なんともいえない繊細な演出だ。
このシーンは私にとって第22作の白眉。




晩秋の日差しを浴びて、
電車がゆっくりとホームに入って来る。




ひょう一郎は、博たちと一緒に
りんどうの花咲く安曇野で家を建て、
余生を送りたいのかもしれない。
だから、アパートが狭くなったなんて言ったのかもしれない。
しかし、それは博にもさくらにも無理な相談だって言うことも
ひょう一郎はよく知っているはず。

父親の叶わぬ願いなのである。











浅草 浅草寺 五重塔前




啖呵バイ  易本を売る。 




            




背後に『色即是空空即是色』の看板。


その下で骸骨の模型を持って、易本
『高島易断』 東京神宮館蔵版
を売っている寅。


寅「天に軌道のある如く、
 人そそれぞれには運命というものを持っております。
 
 色即是空空即是色

 人は全部死ねば骸骨になってしまう。

 いいね、たとえばこの綺麗なお嬢さん、
 このお嬢さんだって死ねば
 このような骸骨になってしまう。

 それを承知で世間のバカな男どもは
 この娘さんに惚れるんだよ、

 告白しますとね、
 私も今まで数々の色の道では苦しんで参りました。


客「ハハハ」


寅「
いや、お兄さん、笑っているけどね、
 あ!あなたは近々、結婚したいという女性がいるでしょ、
 いや、います!


寅、易本取り出して、

寅「
実はですね、それに際しましてはこの…、
 いや、待ちなさい待ちなさい




          



寅「これは売るとか買うとかという
 意味あいではないの、ね、
 当るも八卦当らぬも八卦と言うじゃないか、
 私もこの道を極めて二十数年!!

 いいかい、ちょっと手に取って見てごらんなさい、
 だまされたと思って手に取って見てごらん、お母さん、はい



本を配りながらまくしたてている寅。






とらや 店  夕方
  


結構忙しくお客さんの応対を
しているおばちゃんとさくら。


客「ちょうどありますから」

さくら「はい

おばちゃん「あの、忘れ物です」

女性客「あ、どうもすいません」

さくら「ありがとうございました

みんなぞろぞろ店を出て行く。

おいちゃん、帳簿つけながら

おいちゃん「ありがとうございました

さくら「ありがとうございました

おいちゃん「どうも


例の早苗さんの従兄妹の添田肇が
店で彼女を待っている。



さくら「もうすぐお帰りになると思いますよ

お辞儀をする添田。


夕刊を配達しに来る少年。

とらやさん夕刊取っているんだね。


豆腐屋のラッパ


少年「はい、夕刊です

さくら「はい、ごくろうさま

おいちゃんに夕刊を渡すさくら。



台所からおばちゃんの声。

おばちゃん「さくらちゃん、私夕飯の支度するから、
     あんたたちも食べて行きなよ、美味しいサンマがあるよ




寅、帰ってくる。


寅「ただいま


さくら「お帰り


寅「あー、働いた働いたー!



         



寅、添田とすれ違い、ふと思い出し、振り向く。


添田立ち上がって頭を下げる。



寅「よおおお!、あんたこの間の運送屋。
  あ、違った違った学枚の先生、な。
  何だい、水野さんに用事か



      
         


さくら「うん、今、越後屋さんに配達に行って貰っているの

寅「うん

さくら「
すぐ帰ってくると思って
   待っていただいてるんだけど、
   お兄ちゃんご存じなの



お客さんである添田さんがいる場で、
自分の兄(自分側)である寅に対しての発言、
尊敬の「ご存じなの?」はちょっとおかしいかも…。
謙譲の「存じ上げてるの?」のほうがいいかも。
この場合敬うのは添田さんだけ。自分の兄とさくらは
同じ立場のはず。



寅「うん、こ間の引越しの時バッタリ会ったんだよな。
 あ、あん時は失礼しちゃったね



添田「いえ、こちらこそ


寅「うん。まあ、かけなよ、ん

二人座って


寅「あ、さくら、これでお茶でも持ってきてくれ

と、お土産を渡す。

寅「はあー



おばちゃん台所で


おばちゃん「ねえ

さくら「ん?

おばちゃん「
嫌なこと起きなきゃいいけどねえ


さくら「どうして?



おばちゃん「
だって、そろそろそういう時期だろう
鋭いねえ…おばちゃん(−−)


さくらもふと不安になって寅と添田の様子をうかがう。
.


       




とらや  店


寅「確か従兄妹だとか言ったね

添田「ええ

寅「あーあ、こんな小さいころから知ってる?

と、手で腰の位の高さを表現。


                       


添田「ええ。おふくろたちが姉妹で、
   小学校の時は家が近くだったもんですからね、よく
…」

寅「ほうー、そうか、へえー、
 小さい頃あの人は可愛かっただろうな


添田「ええとニコーッっと笑う。バレバレ(^^;)


                       



寅「…!

添田「…!」 はっと我に返る。

寅「!!プッ、おい、
 お前ガキの頃惚れてたろ


添田「

寅「図星だろう!え!?、フフ



                 



さくら、お茶を運んで来て

さくら「お兄ちゃん失礼よ、そんな

添田、スクッと立って

添田「僕、帰ります

さくら「あら、せっかく見えたのに


                      


添田「いや、用件だけ伝えてもらえれば。
  それもたいしたことじゃないんです


寅「ああいいよ。聞いてやるよ


添田、封筒を渡し、

添田「これ。早苗ちゃんに渡してください

寅、受け取って

寅「


                     


添田「何かあった時に使ってけれって…。
  そういえば分かります


寅「

添田「それから…、実は僕…、故郷(くに)に
 就職口が見つかりましてね、
 故郷ってのは小樽ですが。
 そっちへ転勤することになりました。
 『しばらく会えないかもしれないけれども、
 元気でいるように』って、伝えてください



                      


さくら、小さく頷く。

添田「じゃあ、失礼しますと店先へ出ようとする。



さくら「あ、あの、もう少し、お待ちになってみ…


添田、突然立ち止まり、振り返り



                      



添田「あのー…と戻ってくる。



寅「なんだい?



                     



添田「……どうか車さん、
  早苗ちゃんを大事にしてやってくださいね。
  お願いします



深々と頭を下げる。




         



寅、立って



                     



寅「あんた……、

 惚れてるんだ、今でも…




         




添田、はっとして、立ち止まり、振り向き、



                  



そして去っていく。



     


参道から早苗さんの声


早苗「肇兄さん!と、駆け寄ってくる。


振り向く添田



                      


早苗「どうしたの?


店からさくらが声をかける。


さくら「さっきからあなたのこと待ってらしたのよ

早苗「あ、そうですか



添田を見て

早苗「なんか用だったの?


                       





添田「車さんに話といたから。

  じゃぁ
と去っていく。



                       


この男は凄いね。自分がこれだけ好きなのに、
未練がましく話をしないできっぱり立ち去るんだね。
これはなかなかできませんよ。凄い男だ。


早苗「ちょっと




早苗、店に入って来て





早苗「フフ、愛想のない人ね、
  昔っからああいう調子なのよ




                       




寅、添田の心に打たれて
まだ呆然としている。





             



早苗「
何だったの用って?



さくら、寅を見て


さくら「お兄ちゃん、ちゃんと話さなくちゃ



                       




寅、小さく、しかし、しっかり頷く。

    


          



寅、封筒を差し出しながら


寅「従兄が…小樽…行っちゃうってよ



                     



早苗「ええ!?小樽へ?と、参道を見る。


寅「当分会えねえけれども、元気で暮らせって…


封筒を、ぐっと差出し、


寅「これ置いてったよ



                      



封筒を開ける早苗さん。


さくら、見ないようにしている。


さくらは、こういうところは気を配っている。



                     



印鑑が落ちる。

拾ってあげるさくら。


早苗「
すみません



               






郵便貯金通帳 

水野早苗






                  




53年12月9日

1,000,000 (百万円)




早苗「あら……」と声にならない声でつぶやく。



                 




                 




さくら「なにかあった時に使ってくださいって


早苗さん、通用を見ながら



早苗「あの人…こんなことして…



                      



寅を見る早苗さん。



                     




寅「わかるだろ、惚れてんだよ



        



寅「あんたのことが
 ずーっと前から好きだったんだよ




寅を見るさくら。


寅「あいつは不器用だから
 口ではうまいこと言えねえんだよ



早苗「


       


寅「十年も二十年も…


       


寅「早く行ってやんなよ


早苗「


さくら「まだ駅まで着かないと思うわ



         



頷く寅



さくら「
ね!



もう一度頷く寅



                      
                 


頷く寅。


迷いながらも、
帰る方向に行動していく早苗さん。



                   



早苗さん、頷いて、

おいちゃんに



                   



早苗「私、帰ってもいいですか…?

おいちゃん「どうぞどうぞ

お辞儀をする早苗さん。


おばちゃん、早苗さんの服を持ってきてやる。

早苗「
あ、すみません

と、仕事着を脱ぐ早苗さん。


            



またもや豆腐屋のラッパ。

背中を向け、沈んでいる寅。

寅を気にしながら、
複雑な思いで、早苗さんを見るさくら。



        



おばちゃんの声「私が片付けとくから」無声音

いい演出。


早苗さんの声「ごめんなさい



早苗「じゃあ、さようなら


と言いつつも、
まだ動きがぎこちなく迷っている早苗さん。


おばちゃん「ごくろうさん





早苗のテーマが流れる。



早苗さん、店先で立ち止まって

…振り返り、寅を見て




         




早苗「寅さん…、

  私ね…

   



                      




早苗「
分かってるのよ、あの人の気持ち
と、下を向く。



                   



寅「だったら本人にそう言ってやんなよ、
 どんなに喜ぶか




早苗「そんなこと言ったって…



       



早苗さん「私ね…




  
と寅を強く見つめる。



                   



寅「」と頷いて



                        





寅「明日聞くよ



       



寅「早く行かねえと間に合わないぞ、


と強い目で言う。



        


寅「

                          
    


早苗「そう…

     


早苗「じゃあ…、また明日ね
と寅に微笑む早苗さん。


                           


                 

駅のほうへ駆けて行く早苗さん。


早苗さんの、背中を見ている寅。



         



そういえば、第1作で、さくらも博を追いかけ、柴又駅まで
走ったっけなあ…。


社長裏からやって来て、


社長「
あーあ、今日も一日終わったか。
  なんだいとらやさん、電気つけないで


おばちゃん「あら、ほんとだ


社長「寅さん、もう帰ったのかい?
  色っぽい店員さんは



寅「
ああ、帰ったよ


社長「なんだい、一日会わなかったからさあ、
  一目会おうと思って来たのに






寅、スッと、かばんを持って、
店を出ようとする。





二階にはなにも置いていないのかい?寅。







社長「あれ?




                   






さくら「ねえ、どこ行くの!?




                      






寅「旅に出るよ




さくら、驚いて




さくら「どうして!?




                     



寅「




さくら「『また明日』って今早苗さんに言ったばっかりじゃない




寅「な、さくら、オレがこの家にいたんじゃ、
 あの人は困るんじゃねえのか?



困りはしないだろ(ーー)



さくら「そんなこと言ったって、明日、
  あの人がウチに来たらなんて説明するの?


と、シリアスな顔で言う。





                      





寅「ん……、急に気が変わってプイっと旅に出ました。
 そう言やいいのよ



           



 あの男はそんな風に身勝手で、
 人の気持ちなんかさっぱり分からない不作法な男です。

  どうぞ、お忘れくださいと、そう言やいいよ、な





             

         



さくら「でも、なにもこんな時間に出て行かなくたって…




                       






メインテーマが静かに流れる。





寅、社長に向かって


寅「社長



                         



社長「なんだい…


寅「おまえとは一晩ゆっくり飲みてえと
 思ったけど、また今度だい、な




社長「うん




寅「おいちゃんおばちゃん、達者で暮らすんだぞ


おばちゃん「寅ちゃん、せっかく晩御飯の支度したのに

と、涙ぐむ。




                





おいちゃん「そうだよ、正月はまだ先だろ、もう少しいろよ


おばちゃん「うん


寅「そうしてぇのは山々だが、
 そこが渡世人のつれえところよ。





                




寅、吹きすさぶ初冬の冷気に襟を立て、身をかがめ、



寅「あー…あ、もう師走だなあー…と題経寺の方へ行く。



                           







やっぱり早苗さんたちとは逆のほうへ出て行くんだね。
金町まで寒い土手を歩くんだろうなあ…。





さくら、何も言えないで、
悲しみの中で小さくなっていく寅の背中を見ている。



               



向こうでおばちゃんが泣いている。

            
      
寒風が参道を吹き抜けて行く。





早苗さんは「私ね…」の後に何を言おうとしたのであろうか…。

新しく芽生え始めた寅への自分の気持ちなのか、

それとも、結婚対象の男性として添田をどうしても
思えない自分の心を吐露しようとしたのか…。

もう今となっては、それは早苗さんの心の奥底に
仕舞い込んでしまって出すことはないのだろう。

それにしても寅の「明日聞くよ」は渋かった。
あの静かな口調の中に早苗さんに
有無を言わさぬ気迫さえ感じた。









参道に出ているラーメンの屋台は、
第28作「紙風船」でも出てくる。
このときは訪ねてきた愛子のために
さくらがラーメンを注文していたっけ。




               















小樽  正月


遠くで汽笛。




早苗のテーマが流れる。



        




古い街並


軒先の氷柱

煙を吐くストーブの煙突。


雪の坂道を行く晴れ着の娘さんたちや小学生たち。



早苗の年賀状


早苗の声「明けましておめでとうございます。
   何年振りかで小樽で正月を迎えております。
   やはり故郷はいいものです。
   帰って来てよかったと思っています。


カトリック富岡教会。

         


   今私が思うことは、もう一度寅さんと
   お話がしたかったということです。
   どうか寅さんに私の気持を伝えてください。

   遠い小樽より皆さまの幸せを祈っております。

   水野早苗





小樽運河『浅草橋』が映る。



                  





最初に映った遠くに見える赤い屋根は、
カトリック富岡教会。

早苗さんの実家はこの教会のあたりなんだろう。

と、いうことは、第15作「相合い傘」でパパが
訪ねていく、緑長のあの喫茶店ポケットのかなり近くだ。

あそこから、約400メートルくらい北西に
上がるとあの教会が見えてくる。

商大通りから高台の西稜中学校のほうに
登って行けば見える。












柴又  とらや 茶の間




囲碁をしながら酒を酌みかわすおいちゃんと博。

将棋はしていたことあるが囲碁もするんだね、おいちゃんは。
博もできるんだ囲碁。



座敷では満男が友達三人とカルタを取っていて、
社長が大声で読み札を読み上げている







コタツでさくらとおばちゃんがその絵葉書を見ている。



さくら「よさそうな町ねえ、小樽って…




                





社長、カルタ遊びを手伝っている。


社長「ろうそくの灯りが灯るクリスマス


子供たち「はい



おばちゃん「どうなんだろう、
    水野さんあの男の人と一緒になんのかしら?



さくら「さあねえ…



おいちゃん「そうなるんじゃないかいずれ




              





ことはそう簡単に運ばないかもしれない。
なんせ従兄妹同士だからね。
かなり昔はそういうことも多かったかもしれないが
現代では子供のことを考え、躊躇する傾向にある。
早苗さんは小樽に今いるくらいだから、
彼の気持ちを強く感じて近くにいるのだろう。
そしてそれに応えようともしているのかもしれない。
しかし、そうとは言え、
結局考えた挙句ギリギリでは結婚はしない気もする。

なかなか難しいところだ…。





囲碁は、博が勝ったらしく、満足そうにコタツに戻る。

おいちゃんが、残念そうに碁盤を考察している。

碁盤を眺めている社長。

子供たちが社長に催促。

満男「どうしたの」

子供「おじちゃんおじちゃん、はやく」

と、社長の顔を手で持って自分たちに向けさせる。(^^;)


社長適当に嘘のカルタを言う。

社長「とらやの団子は鼻くそ団子おいおいおいおいヾ(ーー;)


子供たち一生懸命捜す。おいおいないってばヾ(^^;)


満男「そんなのないよォ〜

そうそうないない、悪い大人に騙されるな ヾ(^^;)



寅も、昔、第6作「純情編」と第12作「私の寅さん」で、
おいちゃんに「鼻くそ団子」って言ってたな。
おいちゃんかなり怒ってた(^^;)


          




博「しかし、どうしますか、また職安に申し込みますか


さくら「
またいい人が来てくれるといいけどねえ…



と、いうことはやっぱり早苗さん、
とらや辞めて、故郷の小樽に完全にUターンして、
移住しちゃったってことだな…。


社長「無理無理、あんないい人滅多にいないよ〜

翻訳「無理無理あんな色っぽい美人滅多にいないよ〜」



社長カルタ読む。

社長「
りんごより赤いほっぺがかわいい…

子供たち一斉に、「
ハイ!!




店の方で


客の声「ごめんください」

さくら「
はい

おばちゃん「
いらしゃい

男性客「おめでとうございます」

みんなで応対。

おばちゃん「ねえどうする、これ、寅ちゃんの手紙

と、おいちゃんに渡して店に出て行く。



おいちゃん、寅の年賀状を眺めている。

博も見て


博「小樽に転送しておきましょう

おいちゃん「いいのかあ、ちょっとみっともいないんじゃないか。
     恥ずかしいよ、それえ





              






寅からの年賀状



さくらのテーマが流れる。





郵便番号 125

東京都葛飾区柴又七ノ十ノ三十三
とらや様  方

水野早苗  様





寅の声「謹賀新年
   昨年中は誠に恥ずかしき事のかずかず、
   心より反省しております。
   
   


                  







年賀状の途中から、
スクリーンでは寅の旅先が映りだす。



さくらのテーマが流れ続けている。





静岡  大井川鉄道 塩郷(しおごう)駅



今も蒸気機関車が走る鉄道として知られている。


日本で初めて蒸気機関車の動態保存を始めた鉄道として名高く、
現在でもほぼ毎日運転されている。





             




年賀状の続き


  今年が早苗様にとりまして幸せな年でありますよう、
  遠い旅の空の下で心より祈っております。

  一月元旦   車 寅次郎拝






大井川の見えるホームへ歩いて行く寅。



                          




またもや、ロケの都合で、最初と同じ地域を旅している寅だった。
これは実に頻繁におこるお約束事で、
この傾向はこの作品の後もずっと続いていく。


煙をもうもうと出してやって来たC11形機関車

C11227

C11227は、
この撮影の前年の1976年に
大井川鉄道で運行開始した
日本での復活蒸気機関車第1号機。






蓬莱橋での一期一会。

あの旅の雲水がなんと降りてきた。

ふたたび出会う寅。


寅「あ、こりゃどうも…無声音


お互い手を合わせお辞儀。






                








一号車のドアを開け、車内に入ってくる寅。

ドアには『車掌室』と書いてある。


寅「こめんくださいよ」と、挨拶して

カバンを棚に

寅「よいしょっと」と置き、


椅子に座る寅。



目の前の座席にはなんと、
あの瞳が新しい彼氏と座っているではないか。




                




びっくりする寅。


呆然と寅を見ている瞳。




                






寅「
ヨォ!!




                           





瞳「寅さん!!




                          




寅「うん!






瞳「びっくりした。わあ、どうしようと、照れまくる



川崎の工場で働いている瞳ちゃんが
どうしてまたもやこの付近に出没してるんだ…?




寅「なんだい、また、そんな『おめかし』してよ



                         




瞳「だって…新婚旅行だもん早!((^^;)




               




おいおい早すぎるぞ、
あれから3ヶ月も経ってないぞたぶん。




寅「え?


新郎、寅にお辞儀。


瞳「私たちね、昔からの知り合いでね、
 兄妹みたいにしてたの。
 ま、手近で手打ったってわけ、ね、フフフ



と二人とも照れまくり。



瞳「あ、そうだ、私たちね
 これから赤石(あかし)温泉に行くの。
 寅さんもよかったら一緒に行かない?



え!?赤石温泉?それって山梨の?
あそこは『身延線』。ここは『大井川鉄道』・・・あれ?(^^;)


後記 追加 :

私のサイトをいつもご覧いただいている熱烈な寅さんファンであり
ロケ地巡りの達人である「
さすらいのサラリーマン」さんから
メールをいただき「静岡市南アルプス赤石温泉」という同じ名前の
「赤石温泉」が静岡にもあることがわかりました。




瞳たちは赤石温泉に行くと行っていたので、
この『大井川鉄道』金谷駅から東海道本線で静岡駅
そこでまた乗換えて『身延線』に乗り、
『市川大門』行き、そこからまたタクシー。
3時間以上かかるということになる。そりゃ大変だ〜(^^;)
しかし、おそらく上に書いたように、
静岡の赤石温泉だと思われるので
これでいいのだ^^ヾ





                 




寅「ん…


瞳「行こうよォ


寅「へへ、ま、お邪魔でしょう、へへへ



                     




瞳「あー…、変なこと想像してんでしょう、
 いやらしいわね、エッチ!もう!フフフ





                 




顔を新郎のマフラーで隠して恥ずかしがる
幸せいっぱいの瞳さん。



新郎、首をかしげて照れまくり。



                





寅、二人の様子を見て笑っている。 




                 






ちょっと照れながらも
なんだかほのぼの嬉しくなる寅だった。



                 







静岡県島田市川根町家山1549 大和田駅そば



            

            





一方こちらは・・・



静岡県榛原郡川根本町下泉1426


        




なんと、この二つのシーンは南から北へ15km.。かなり距離があったのだ。






寅たちを乗せた大井川鉄道線は大井川に沿って
白煙をたてながら根本町の茶畑の中を通っていくのだった。

捨てる神あれば拾う神あり、よかったね瞳さん(^^)










                 









                 













出演

渥美清    (車寅次郎)
倍賞千恵子 (諏訪さくら)
大原麗子
  (水野早)

下絛正巳   (車竜造)
三崎千恵子 (車つね)
前田吟    (諏訪博)
中村はやと
 (諏訪満男)
太宰久雄   (タコ社長)
佐藤蛾次郎
 (源公)

笠智衆    (御前様)


泉ピン子   (瞳)
室田日出男(添田肇)
大滝秀治  (旅の雲水)


志村喬   (諏訪ひょう一郎)








スタッフ

監督: 山田洋次
製作: 島津清
企画: 高島幸夫 、小林俊一
原作: 山田洋次
脚本: 山田洋次 朝間義隆
撮影: 高羽哲夫
美術: 出川三男
編集: 石井巌
録音 : 中村寛 松本隆司
照明: 青木好文
スクリプター: 長谷川宗平
音楽: 山本直純
助監督: 五十嵐敬司
製作進行 : 玉生久宗
制作補 : 峰順一


公開日 1978年(昭和53年)12月27日
上映時間 104分
動員数 191万5000人
配収 11億7000万円


これで第22作「噂の寅次郎」は完結しました。

次回は
第23作「翔んでる寅次郎」です
幸せとは何かを考える若者たちの物語です。

3月前半は仕事でバンコクに旅たちます。
それゆえ、第23作の『前編』アップは
バリに戻った3月下旬頃になると思います。










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