第34作「寅次郎 真実一路」超簡単ダイジェスト版


真実一路の旅を行く寅次郎    道ならぬ恋に悩みぬく寅次郎


この作品の大原礼子さんは第22作「噂の寅次郎」よりさらに美しく色っぽい。

魔性の女性大原麗子さんが、その美しさに磨きをかけて再登場したのが第34作「寅次郎真実一路」である。
この時も第22作同様なんと彼女は人妻の役。もちろんこの作品ではさすがに離婚はしない。
しかしまあこんな美しい人妻がいたら寅でなくとも心が騒ぐのが男というもものだろう。


もっとも、離婚はしないが、なんと仕事でノイローゼになった夫が失踪してしまうのである。
ふじ子さんは、夫と縁があった寅を頼って二人で夫を鹿児島まで探しに行くのだが、
夫が失踪して滅入っている彼女を寅がずっと励まし、慰める続ける。

もちろん心の中では人妻のふじ子さんを愛してしまっている自分がいるわけだ。
そして失踪した夫が死ぬことを考えてしまう恐ろしい自分と闘う、というシリアスな物語だ。

山田監督が「馬鹿まるだし」に次いで、「無法末の一生」を強く意識した作品でもある。


              


ただし、ふじ子さんも、夫がいるというのに寅に惚れてしまって…、という
ことではなく、ひたすら寅を夫の友人、自分たちの恩人として考えているところがやはり「寅さん映画」なところ。
そういえば寅は、第6作「純情編」や第42作「ぼくの伯父さん」や第43作「寅次郎の休日」第47作「拝啓車寅次郎様」なども
人妻に密かにではあるが惚れているのである。
しかし、この第34作はそのような『人妻もの』の中では恋心が一番素面で本気になっているところが悲しい。





意味深なことを言ってしまうふじ子さん


恋心を秘めながらふじ子さんの夫を鹿児島で一緒に探す寅が
同じ宿に泊まらない寅を見てふじ子さんは「つまんない寅さん…
」と言うのである。

これはどういう意味だろうか。

愛する夫が失踪し、小学生の息子を家に残して、半泣きで寅と一緒に探し回っている最中なんだから、
ある意味、「つまんない」のは当たり前で、そんなことをわざわざ中年独身男性に言うことは
状況から考えて不可思議だと言わざるを得ない。変な誤解をされる場合もある。

物語を『ちょっと危うい感じにしたい』という演出かもしれないが、これではふじ子さんの人格が
疑われるし、彼女の切実さや悲しみとのバランスも取れない。

大原麗子さんにああいう発言をさせてみたい、という監督の内なる欲求はとても痛いほど分かるが、
ここは、ぐっ〜〜っと、その欲求を堪えて、
「どうして…?そんな遠慮しなくたっていいのに…、でもありがとう、気を使ってくださって…」
くらいのことを美しく演出したほうがよかったのではないだろうか。

とにかくふじ子さんは、それどころじゃないのであるから。


              


ここは、あくまでも寅が一人で惚れてしまって七転八倒悩めばいいわけで、ふじ子さんは
未だ悲しみの中に埋没しているのが自然だなんて思うのは、ちょっと真面目すぎるだろうか。




真実一路の旅をゆく寅次郎



  真実諦めただひとり
  
真実一路の旅をゆく
  
真実一路の旅なれど
  
真実鈴ふり思ひだす


これは富永課長とふじ子さんの家に架かっていた北原白秋の「巡礼」の詩。

作家の山本有三が書いた「真実一路
」にもこの白秋の詩は引用されているので
そちらのほうが一般的には有名かもしれない。

白秋もこの当時、道ならぬ恋で悩んでいたらしいから、この詩は寅のその後を暗示するようで、
とても興味深いものがある。人妻に恋をしてしまう寅は現代の「無法松」だ。「オレは汚ねえヤツです」は、
無法松そのもの。そしてしだいに失踪した亭主が帰ってこないことを密かに考えてしまう恐ろしい寅の心。
膨らんでしまったその闇の心を振り払うように旅に発つ寅。真実一路の旅。

不倫に陥ることなく、正に真実を貫くために熱き気持ちを奥に隠して、潔く孤独を行く寅の姿に、
見る側の私たちはどこかでほっとしたはずだ。これこそが「男はつらいよ」なのだ。
顔で笑って心で泣く車寅次郎だからこそみんなに愛されるのだ。

それにしてもしつこく書くが、この物語の大原礼子さんにはぞっとさえするような大人の色気を感じる。
第22作「噂の寅次郎」ではまだ開花しきっていなかった美しい花がこの「真実一路」では
見事に花開き、私の心をクギ付けにさせてしまった。これは作品のよさとはまた、別の問題ではある(^^;)
あの声、あの瞳、あの立ち振る舞い。ほんと寅が道を踏み外す気持ちが分かる男は巷には大勢いるはずだ。

でも、彼女はもういない。
大原麗子さんは美しい人だった。私は掛け値なしにファンだった。

寅の言葉じゃないけれど

「花にたとえりゃ薄紫のコスモスよ…」


           




■第35作「寅次郎真実一路」全ロケ地解明

全国寅さんロケ地:作品別に整理








それでは超簡単本編ダイジェスト版をどうぞ



          



今回の夢は『怪獣もの』


宇宙怪獣ギララが日本へ上陸。


ちなみに『宇宙大怪獣ギララ』(うちゅうだいかいじゅうギララ)は、
1967年3月25日に公開された松竹が制作した唯一の怪獣特撮映画作品、
その時の映画のフィルムがたくさん使用されている。
この映画、エンディングテーマは賠償千恵子さんが歌っている。

合成技術は適当な感あり。

         




ギララにやられていた戦闘機は航空自衛隊F104J戦闘機。
同じくギララと戦っていた戦車は陸上自衛隊61式戦車。
をモデルに作ったと思われる。形がそっくり。

この時代は東宝のゴジラ、大映のガメラ、などが一世をふうびした。
松竹はさほど流行らなかった気がする。
  

一方こちらは
       
筑波山ろくで隠居している車寅次郎博士。

今回本編のロケ地が茨城県の牛久沼やつくば市がロケ地なので夢も筑波山ろくにしてあるんだね。


         


吉田茂首相にそっくりのタコ社長と軍人あがりの官房長官源ちゃん。
いやあ〜〜〜凄いコンビ、日本もおしまいだァ…(^^;)


ジョアキーノ・ロッシーニ作曲、ウイリアムテルの序曲に乗って

偉大なる預言者車博士の隠居所にギララ退治の妙案を聞きに行くのだった。

柴又にいた頃はお互いに「タコ」「寅」と呼び合った仲だから心配するなと自信満々の首相。


         


しかし、車博士は大学から追放された恨みから助けようとしない。

車博士「そう、もうあなたと私はファーストネームで呼び合う仲とはちがいます」(^^;)

車博士、官房長官の源ちゃん見て「なにこれ?」とクスクス笑い   確かに(((^^;)


         


首相は土下座。
官房長官は『お金』はお金を用意して頼みこむ。

さくら「いつまでも昔の恨みにこだわっている時ではこざいません
博「地球の運命は今博士の肩にかかっているんです」と二人して協力を促す。

さくらの髪型と着物がなかなか素敵だ。


         




チャイコフスキー 「悲愴」 第1楽章



車博士「かわいそうなやつめ…」と怪獣に同情的。

しかし、家のそばまで来てしまったのでついに決断する。

車博士「聞け!怪獣。おまえが憎いわけではない。
    わしが本当に憎むのはおまえをそのようにしてしまった愚かな文明だ


しかし殺すことを決意

車博士「怪獣!覚悟

取り出したお守りから光線が!


        


光線でやられながら

怪獣「トラ〜〜〜〜、トラサァ〜〜〜〜ン」と断末魔の声を出して苦しむ(^^;)


        




パッと現実に戻って


鹿児島県の田舎  薩摩湖湖畔

湖のほとりの「松屋食堂」で居眠りしている寅。

ゴジラのかぶりものをした子供が眠っている寅を驚かせる。


        


寅、驚いて

寅「うわああああ、…びっくりさせるなよ」とびびる。


        



そこへポンシュウがバンでやって来て、バイに連れて行く。

ポンシュウとの絡みはこのOPもラストも
薩摩半島の吹上の周辺で行われた。


鹿児島にある「イケダパン」の看板。

株式会社イケダパンは、鹿児島県南さつま市に本社を置くパン・惣菜などを製造・販売する食品メーカー


        




タイトル イン


はつらいよ 寅次郎真実一路


        


寅が江戸川土手に戻ってくる。

        

口上「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
   帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、
   人呼んでフーテンの寅と発します。



♪どおせおいらはヤクザな兄貴 わかっちゃいるんだ妹よ
   いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
   奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
   今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる♪


どぶに落ちても根のあるヤツは  いつかは蓮の花と咲く
   意地は張っても心の中じゃ
   泣いているんだ兄さんは
   目方で男が売れるなら  こんな苦労も
   こんな苦労も かけまいに かけまいに♪




今回のコントはアパッチけん。
アパッチさんがバイクでツーリング。
寅にヘルメットの中に『イガ栗』入れられてイタイイタイと
大慌て。


          




柴又 とらや 台所及び店


怒ったあけみがとらやに逃げてくる。
おいかけてくるタコ社長。
どうやらいつものように夫婦喧嘩をしたようだ。

ロールキャベツの中にマッチ棒を差し込んだあけみに
夫が怒り、料理を捨ててしまったそうだ。

     
         
         


そこへ寅が帰ってくる。

助けを求めるあけみ。
抱きとめてかばう寅。

あけみ「私たちの結婚にはね、もともと愛なんてなかったの。
    それなににね、父ちゃんたら無理やり元の鞘に納まれって言うんだよ
」と胸に顔をうずめる。
寅「世間体を気にしてか」と社長を睨む。


        


で、怒った社長はいつものように大喧嘩


        



ここから珍しく参道ロケ。


帝釈天参道

みんなでガヤガヤ喧嘩している。
なかなか見所の多いシーンだ。

社長が寅におもちゃのライフル向けると、
なぜか寅の後ろにいたおいちゃんがビビッて手をあげるのが面白い。


       



源ちゃん御前様に告げ口。
  
御前様「こら!柴又の平和を乱すのはおまえか!困ったもんだ」テレビの見すぎ(^^;)
御前様関係者を寺に引率して、たっぷり説教をすることに。
御前様「関係者はついてきなさい」と扇子を目印にバスガイドさんのようなことをする。
寅もおもちゃのライフル銃を手で上げて
寅「これを見てついてらっしゃい」おまえだろ張本人は(−−;)

みんなでぞろぞろ。

源ちゃんイヒヒ笑い。


       


薩摩琵琶がベンベン鳴る。




夜 とらや 茶の間


おいちゃんもついでに御前様に説教されてしまって機嫌がイマイチ。

そこへ上野で飲んでいる寅からSOSの電話。




上野 居酒屋  まるき  アメ横近く

寅「そんなに怒るなよ、な、恩にきるから…、ん、もうしない二度とこういうこと、な」と弱気。

しかしさくらは
さくら「今まで何べんそういうこと言ったと思うの、もう信用しないから」と強気の姿勢。
で、寅はプッツン切れて早々とあきらめてしまう。


電話を聞いていた富永健吉は興味津々で、これからどうなるんです?と寅に聞く。

寅は平然と、

寅「ねえ、ま、ここのオヤジと相談して最寄の警察へ行きますか。
  そこのま、留置所に楽しく一泊させていただいて、
  明日の朝、早く、今ここで電話しておりました妹があたくしの身柄を引き取りに来ると
  ま、そういったような図式ですね、ええ

居直って、料理と酒を注文する寅。
富永「ハハ、羨ましいなあ〜、オレもそんなふうにやってみたいなあ〜
寅「じゃあ、やればいいじゃん、フフ。あ、九州だ
富永「わかる?
寅「わかるよ、九州のどこ?
富永「鹿児島
寅「あー、いいとこだ、あそこ」と桜島の噴煙のジェスチャー。
富永「桜島、錦江湾、開門岳


        


富永さんはこうして寅と意気投合し、寅の分も払ってやるのだった。

一枚の名刺を渡して去っていく富永さんだった。



翌朝 柴又 さくらの自宅


どうやら、寅はさくらの家に昨夜泊まったようである。
寅がさくらの家に泊まったのはこの長いシリーズの中でこの時だけである。

寅が着ているハンテンはさくらが着ていたこともあるが、
その後、奥尻島ですみれちゃんが着ていたもの(^^;)


        


さくらは、情けなくて泣きながら料理を作っている。

寅はそれに気づき気まずく思ってしまう。
雪駄が家の前に投げ出されているところをみると昨夜はかなり飲んだくれて帰ったようだ。
     




日本橋  スタンダード証券ビル


お礼にバナナを持ってスタンダード証券を訪問する寅だった。

な、なんとここの受付には朝日印刷のユカリちゃんが勤めていた。
タコ社長の目を盗んでこんなところでアルバイトしてるんだろうか((^^;)


       


証券会社の厳しいサラリーマン姿が映し出される。
のんびり訪問しに来た寅とのコントラストが奇妙。
富永課長もこんな忙しい時間帯にやってきた寅にちょっととまどっている。


コントの帝王 津嘉山正種さんは、今回は富永課長の上司役。
かなり厳しい働きぶり。


寅の土産のバナナをみんなでどんどん食べていくのがなんとも面白い。


で、ようやく夜に飲み屋にGO。



上野 飲み屋


富永「枕崎知ってるかな枕崎」枕崎は富永さんの故郷
寅「知ってる、枕探し知ってるぞ」ちゃうちゃうヾ(^^;)

これをエンドレスで繰り返される(TT)

合言葉は「チェスト!行けー」(^^;)


        




常磐線 車内

上野から常磐線に揺られて
富永さんの自宅茨城県牛久沼に一緒に行ってしまう寅だった。



        




【運命のふじ子さんとの出会い】


茨城県 牛久沼のほとり

目の前は東谷田川と呼ばれている、牛久沼の一辺である。 

森の里団地内にある富永課長の自宅前




翌朝、4時間ほどの睡眠のあと自転車で駅まで漕いで行く富永課長。

寅はそれよりずっとあとに起きてここがどこだかわからない。



        


「里の秋」を口ずさんでいるふじ子さん。

???マーク宙に浮かせながら富永課長の奥さんのふじ子さんと挨拶。


        


壁には詩が額に入ってかけられている。


  真実諦めただひとり
  
真実一路の旅をゆく
  
真実一路の旅なれど
  
真実鈴ふり思ひだす



これは富永課長とふじ子さんの家に架かっていた北原白秋の「巡礼」の詩。

作家の山本有三が書いた「真実一路」にもこの白秋の詩は引用されているので
そちらのほうが一般的には有名かもしれない。



        


寅「あの…、大変失礼ですけれども…
  そちらはどこのどなたでしょう??
バカ(^^;)

ふじ子「富永の家内のふじ子ですけど

ふじ子さんからいろいろ説明を受けてようやく事情を把握する寅。


        


どこの誰か素性のわからない寅に対して、
こまめに世話をやいてくれるふじ子さん。

        


ふじ子「コーヒーになさる?それとも紅茶?
寅「は、わたくしいつもコーヒーをだって(^^;)


田舎育ちの富永さんは水や山のあるところが好きな富永さんは、東京から離れているのを承知で
この美しい水や山のある牛久沼の一軒家に引っ越してきたそうだ。

ふじ子さんと二人っきりだと理解した寅は真っ青になりスタコラと逃げ出していくのだった。


お守りを忘れた寅を追いかけて来たふじ子さん。


        


ふじ子「寅さん
寅「


ふじ子のテーマが流れる。


ふじ子「あ…すいません、夕べ主人が寅さん寅さんと呼んでいたものですから、つい
寅「どうぞ、寅と呼んでやってください
ふじ子「そう…、じゃあ、寅さん
寅「はい
ふじ子「奥様にどうぞよろしく

寅、にっこり笑って

寅「そういう面倒なものは持ち合わせておりません

ふじ子「あ…ごめんなさい
寅「それじゃ、ごめんなすって

去っていく寅。

もう一度振り返ってお辞儀。

ふじ子「さよなら


       



夜 とらや 茶の間 お月見の夜

ずっと、美しいふじ子さんのことを考えている寅。

寅「花にたとえりゃ、薄紫のコスモスよ

寅はあんな美しい奥さんとほとんど会う時間が無い富永さんは
可哀想だとつぶやくのだった。


寅は言う

寅「仮にオレがあんなきれいな奥さんをもらったとしたらだな、
  一日中その顔をジーっと見てる


みんなあきれる。

寅「台所で洗い物をしている。そのきれいなうなじをオレは見つめている。
  針仕事をする。白魚のようなきれいな指先をオレはじーっと見惚れる。
  買い物だってついていっちゃうよ。大根をねぎっているその美しい声音(こわね)に
  思わず聞きほれる。
  夜は寝ない。スヤスヤと可愛い寝息をたてるその美しい横顔をじーっと見つめているな。
  オレは寝ない。


        


博「問題があるなあ…その考え方には
おいちゃん「
第一どうやって食っていくんだい」と反論。
寅は「
食わなくたって、腹なんかすかないんだよ」とめちゃくちゃ。


ここで社長がいつものように問題発言。

社長「でもしょうがねえよな、人妻じゃ

寅、ピクッとして

寅「え!今なんていったんだタコ

寅「オレが惚れてるっていったか!それ以外の何ものでもない(−−;)

社長「顔に書いてあるよ


寅、社長に飛びかかろうとするがみんなに止められる。

寅「フ、まあ、いいだろう、てめえみたいなな、スルメみたいなカカア持ってるやつに
  今のオレの話がわかるわけがねえんだい

社長「スルメとはなんだ!!
寅「スルメじゃねえかこのヤロ!、
  ぺっちゃんこで粉ふいて
  焼くとクルクルと丸まってちゃうの

社長「あれでもオレのことをちゃんと愛してるんだよ!
寅「みなさん聞きました。え、スルメがタコを愛してるだと、
  大笑い、ハハハ!

社長「くやしいだろうなあ、女房も持てねえやつにはなあ!

寅切れる。

寅「このヤロ!

おいちゃん「今のはおまえが悪いぞ!」と寅をかばう。


        


社長、怒りながら工場へ逃げていく。

社長「かあちゃーん、あったかいご飯食べよ〜

薩摩琵琶  ベンベン



一方富永さんは

東京 八重洲 呉服橋交差点

通勤途中日本橋のビルの谷間でついにノイローゼになり疾走してしまう。



モーツァルト オーボエ四重奏曲K.370



あてもなくタクシーに乗ってしまう富永さん。

ふじ子のテーマが静かに流れて

枕崎に揺れる薄桃色のコスモスが頭の中に浮かんでいく。


        




とらや 店

ふじ子さんからとらやに電話があるが、寅は『筑波神社』でバイ。


        


おいちゃん曰く

おいちゃん「なんだか色っぽい声だったぞ




筑波神社 秋祭り

筑波神社で健康サンダルのバイをする寅。

このあたりは『ガマの油売り』の啖呵バイが有名。
寅のとなりでも実践していた。

そういえば第3作のオープニングでガマの油売りが出てくる。
第7作でも母親の菊にガマの油売りの口上をじゃべっている。


       





日本橋 スタンダード証券

上司の津嘉山正種さんに相談に行くふじ子さん


       





牛久沼

上にも書いたが目の前は東谷田川と呼ばれている、牛久沼の一辺である。
 

森の里団地


失意のままバスを降りて自宅に戻ってくるふじ子さん。


牛久沼のほとりでふじ子さんを待っている寅。


        


悲しみに暮れる心境を吐露するふじ子さん。


        



富永さんの自宅居間

ふじ子さんは、自宅で寅に思い切った質問をする。

ふじ子「実はね、寅さんに聞きたいことがあるの

寅「…なんでしょうか?

ふじ子「こんなこと、とても恥ずかしくてとてもほかの人にきけないんだけれども…。
    もしかして、主人に女の人が…主人はまじめ一方の人だからそんなこと無いと思うんだけど…でも…


メインテーマがクラリネットでゆっくり流れる。

寅「奥さん、オレは何聞かれてもまともに答えられるような男じゃねえ。
  でも、そのことだけはちゃんと答えられるよ。課長さんはそんな人じゃねえ。


        


  そりゃ、人は見かけによらないと言葉があるけれども、
  課長さんは大丈夫だ。
  奥さん、そのことは安心していいよ



         


ふじ子「そう…

静かに頷く寅。

ふじ子、ほっとして安心する。


でも近所の目を気にしてふじ子を励まし、すぐに家を出る寅だった。



とらや 茶の間

とらやに戻って茶の間でおいちゃんと大喧嘩。

店の売上金を富永課長さんの捜索のために使おうとする寅。

寅「オレが使おうって言うんじゃないんじゃないんだよ、オレは!
  見知らぬ町ですきっ腹抱えてうろうろしてる可哀想な課長さんのために
  使おうと言ってる、それが悪いのか!


おいちゃん「はあー!会ったこともない男のために何でオレが金を出すんだ!そらそうだ(^^;)

すったもんだで金庫のふたを無理やり開ける寅

ドロボー!!」と叫ぶおいちゃん。

ふたが開いて、お金が舞い落ちる。

防犯の音が鳴るジリリリリーン!!


        


泣いてしまうおばちゃん。

呆然と見ているみんな。

金庫の中身があまりにも少ないのでがっくり来る寅。

跡取りのお前がまともな人間だったらだらとワナワナ怒るおいちゃんだった。


小岩の拝みババア」の言うことを聞いて北海道に行こうとする寅を止める博。

博「万一の事態がおきたあとのことを冷静に考えておくのが兄さんの立場じゃありませんかえ??( ̄◇ ̄;)


        


寅「あとのこと?…なんだそれ?

博「夫を亡くした美しい奥さんの悲しみが
  どれほど深いものか、想像してごらんなさい
たぶん死んでないってヾ(^^:)

寅「そうか…

薩摩琵琶

ベンベン!

そそそと茶の間に座り


寅「まず…ムシロをとる。


        



寅「ご主人に間違いありませんか?
  そうですか…。
  まず葬式か…、これは身内だけでいい。
  初七日、四十九日、
  すぐ一年経っちゃう…
凄い想像力((((^^;)

博「兄さん、なにもそこまで考えることは…

寅「そうだな、くよくよしたってしょうがないもんね

みんな頷く。

寅「あんな広いところにいるのは無駄だからさ、
  そうだ、柴又の方へ越してきたらいいんだよ。
  なあ、さくら



さくら「そうね…


        


寅「博、オレこれから、あとーーのことについてゆっくり考えてみるよ

こうして寅は、博の失言によって、ご飯も食べないで
『あとのこと』を二階でじっくり考えると言い出し、

寅「あとのことを考えるって、難しいなあ…」と憑かれたように二階へ上がっていく寅だった。


        


博「まずい言い方しちゃったなあ〜〜〜〜…
気にしない気にしないどっちにしてもいずれ結果は同じ ゞ( ̄∇ ̄;)

みんな博を睨んでいる。

        


下を向く博。

さくら「私知らないわよ、これからどうなんのかしら


2階で寅の声「労働者諸君、田舎のご両親は元気かな?たまには手紙を書けよ


おいちゃん、気分が悪くなってきた。




鹿児島県 坊津市 丸木浜


ふじ子のテーマが静かに流れる


懐かしき海岸線を彷徨う富永課長。


       





一方寅は、悲しみにくれるふじ子さんをなんとか元気づけようと
とらやの食事に誘うことに。




帝釈天参道 とらや前


この時の参道ロケであのお千代さんが経営していたアイリスの屋根
骨だけになっていた。お千代さんは店をたたんだんだろうか…。


ちょうど七五三の日に来てしまったのでみんな店が忙しそう。

寅はせっかくふじ子さんが来ているというのに話がはずまなくてふてくされている。

いつまでもずるずるお茶漬け食ってるおばちゃんに

寅「いつまでもズルズルズルズル茶漬け食ってるんじゃないよ。

  口の中でウンコになりますよ
出た〜〜〜ヽ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;)ノ



      


社長がやって来て明るくなると思ったら、

社長涙ぐみながら

諦めちゃいけませんよ!ご主人は生きていらっしゃると思いますΣ(|||▽||| )
と悲しませるようなことを言ってしまう。


      


寅、店がガヤガヤ忙しそうなのでずっと嫌がっている。


ふじ子「いいわね、寅さん
寅「なにが?
ふじ子「いっつもこんなふうに賑やかにごはんがたべられて…
みんな「…」
ふじ子「家族がそろって賑やかに食事するなんて、何でもないことのようだけど
    考えたら…幸せってそんなものなのかもしれないわね

みんな「…」

さくらは、自分たちだっていつもこんなふうに賑やかにご飯食べているわけではないと言うのだった。
寅は同調して、ことさら寂しい老夫婦の食事を強調する。

寅「くら〜い電球の下で二人差し向かい…、煮込みうどんかなんかこれぽっち。
 ね、鼻水といっっしょにズズズ…すすりながら、『あら入れ歯が落こちゃったよ』なんて、
 そりゃあもう惨めなもんですよ



       



さくらの家はここから近いのかとふじ子さんから聞かれて

寅「遠い遠い、何県だあそこ、村か?
さくら笑いながら
さくら「東京よ
寅「だって二時間はかかるだろ
ふじ子さん、真に受けて
ふじ子「あら、電車で?
さくら首をふる。
寅「いいえ、歩いて。
  安月給だから定期なんか買えませんよ。
  靴なんかも買えない。
  裸足でペタペタペタペタ歩いてたんだよ、この前まで。ねえ

さくら含み笑いを浮かべながら頷く。
寅「草鞋についこないだ切り替えたんだよ。
  だからこいつんとこの家族はみな
かかとが丈夫で
一生言ってろよ(-。−;)
ふじ子さん下を向いてクスクス笑っている。
寅「え?なんですか?
ふじ子「だってえ、デタラメ言ってるでしょ寅さん、フフフ本当だったら怖い(((^^;)


一方満男はタカシ君に将棋角落ちで負けてしまう(TT)

寅「お!満男、今日はな、お客様に歌を歌って聴かせろ

文化の日と、いうことで、満男とタカシ君がなにか歌を歌うことに。
タカシ君は音楽の成績が一番いいそうだ。

歌ったのは『里の秋

タカシ君は美しいボーイソプラノ。
満男途中から棄権(^^;)


1静かな静かな 里の秋
 お背戸に木の実の 落ちる夜は
 ああ 母さんとただ二人
 栗の実 煮てます いろり端

しだいに悲しみが噴き出しついには下を向いて涙を流してしまうふじ子さん。


      


この『里の秋』は1945(昭和20)年 敗戦により失った領土からの引揚者への激励のために
NHKの番組で流された歌。

本編では2番3番は歌っていないが実は↓のような内容なのである。
失踪した富永課長を家で待つふじ子さんとタカシ君の歌なのだ。

2明るい明るい 星の空
 鳴き鳴き夜鴨の 渡る夜は
 ああ 父さんのあの笑顔
 栗の実 食べては 思い出す

3 さよならさよなら 椰子の島
 お舟にゆられて 帰られる
 ああ 父さんよ 御無事でと
 今夜も 母さんと 祈ります



ふじ子のテーマも、この『里の秋』のアレンジバージョンだ。



このあたりのシーンで、
決定稿の前の『脚本第2稿』では、本編では使われなかったさくらの興味深いセリフがある。

ふじ子さんがなぜ寅が結婚しなかったのかを聞く場面があるのだ。
それに対してさくらが
さくら「結婚してもいいって人もいなかったわけじゃないわよ
と、興味深いことを言い切っている。




江戸川土手 夕方

帰りに江戸川土手から帰るふじ子さん親子。
ふじ子さんは寅にすっかり頼っている様子。


         



さくらの自宅

見送りに行った満男からふじ子さんが寅に頼っている様子を聞き、
さくらたちは寅の行動がますますエスカレートしていくことが読み取れ、
心配の淵に投げ出される気持ちになっていく。


         



そんなある日


富永さんの自宅

富永課長をなんと故郷鹿児島で目撃したという情報が入り、
ふじ子さんは実家の母親にタケシ君の面倒をみてもらい
一路飛行機で鹿児島へ。

そして寅にもその情報が…。



なんとふじ子さんの母親は、あの京都グランドホテルの従業員だったお澄(おすみ)さんだった!
彼女は確か子供はいなかったはず…、ま、いいか(^^;)


         




とらや 店


さくらが暴走する寅を止めようとして自転車でとらやにかけつけた時にはすでにもう…。


さくら「お兄ちゃんは?
おばちゃん「行っちゃったよ…
さくら「どこへ?
おばちゃん「鹿児島…
さくら「え_!!
おばちゃん「どうしても一緒に行くって

さくら、すぐ追いかけようとするが、もうとっくに走っていってしまったらしい。
さくらは、行かせてしまったおばちゃんを責めるが、

おばちゃん「あの細い目で、じーっと顔見て『オレも一緒に行っていいかな』って
       言うんだもの。『ああいいよ…』って言っちゃったんだよ。反対なんかできやしないよォ…


だそうです(^^;)

          


それもお金なんか持っていないので、社長に5万円借りて(^^;)

社長「こんなこと書かれちゃ、請求もできねえよ


         


さくら、とらやの包装紙の裏に書かれた借用書を見る。


借用書

一金 5万円也

社長様  寅 拇印

御恩は一生忘れません。






TDAで一路鹿児島へ。

機内から桜島が見える。



         



鹿児島 市内


まずは鹿児島市内で市電に乗り、いろいろ聞いて回る寅だった。

とにかく『あご』に特徴があるって聞きまくる(^^;)



        


枕崎駅

まずは実家に行くため、指宿枕崎線に乗り、枕崎駅で降りる。

飲み屋での富永さんの話では枕崎から3つ目の駅と言うことだったが
なぜか枕崎駅で降りる。


        


古い家並み


        


富永さんの義理のお姉さんはなんと津島恵子さん!
あの七人の侍でのうら若き女性だ。

そして富永さんの父親役は新国劇の重鎮である辰巳柳太郎さんだ!


ちょっとボケが入っているので父親は寅と息子の見分けがつかず長刀や刀を
振り回す。

寅「やめはんか!」今回のキーワードです(^^;)

一方薩摩琵琶もじっくり聴かせる文化人の面も。
もちろん寅は聴くふりしながら寝ていた(^^;)


漢詩 『城山』 勝海舟



        



翌朝、いろいろ目撃情報を聞きに行くふじ子さん。


枕崎から結構遠い

鹿児島県南さつま市

加世田武田上鴻巣 付近の 武家屋敷


水路にかかる橋が風情がある。


気の弱い南映タクシーの運転手がお馴染み桜井センリさん。
タクシー代を値切る寅。バカだねえ〜(^^;)


         



鹿児島県南さつま市坊津町 丸木浜

なんの手がかりもないまま、また再び南下して
夫の幼少期の思い出の土地である『丸木浜』に行き、考え込んでしまうふじ子さん。

一週間ほど前に夫がこの浜辺で同じように座っていたことを彼女は知らない。


ふじ子のテーマが流れる。


波を見て

ふじ子「きれい…。子供の頃、こういうところで泳いでたのねあの人…

涙ぐんでるふじ子さんの横顔をそっと見ている寅。


薄紫のコスモスが咲いている。


         



そのあと今度は東へずっと行き、指宿温泉のそば
富永さんが中学生の頃病気を治すために療養しに行ったことがある
「鰻温泉」に行く。

カルデラの鰻池が有名。

鹿児島県指宿市山川成川 鰻温泉

この鰻温泉の「鰻荘」に一週間前に『車寅次郎』の名前で数泊し、鰻池で釣りをしたことがわかる。


        


風力発電


旅館  かどや 室内


明日は霧島に行くことに。


        


ふじ子「あのきれいな海や、静かな温泉を見た時、私、今まで気がつかなかった
    主人の心のうんと奥のほうを覗いたような気がしたの


寅「ほんとに…課長さんはいい人ですから


ふじ子のテーマが流れ

ふじ子「そうね…、いい人だったのね、あの人

寅「

ふじ子「寅さん

寅「はい

ふじ子「私、覚悟してるわ、どんなことがおきても…


ふじ子のテーマが流れる。


寅は「そんなことはねえ、きっと生きてるよ」と励ますが、ふじ子さんは泣いてしまう。

泣き続けるふじ子さんの後姿を見つめ、

そっと肩に手を置く。

寅「奥さん…


        


その時、女中さんの声((((((^^;)

女中の声「ごめんください」

寅、パッと手をのけ

地図を見るふり。

う〜ん惜しい!v(≧∇≦)v

ギクシャクギクシャク((^^;)


        

  
なんと女中さんは谷よしのさんだった!

谷さん「お客さん、タクシーの運転手さんが呼びに来てますけど」

寅「い、今行く今行く

谷さん「悪いとこおじゃましたみたいですね、ごめんなさい」


        


寅はタクシーの運転手の家に泊めてもらうそうだ。

ふじ子さんは「もうひとつ部屋を取ればいいじゃないの」と言うが、
寅はきかない。


テーマ曲が静かに流れ


寅「好きであんなヤツのところに泊まりに行くんじゃありません。
  旅先で妙な噂が立っちゃ課長さんに申し訳ないと思いまして


ふじ子「つまんない、寅さん…

と、下を向く。


        


寅「奥さん、オレはきったねえ男です…


        


寅「ごめんなすって

と、勢いよく背中を向け襖戸を開けたら、そっちは押入れだった(^^;)


        

照れ笑いをする寅。

寅「こっちだった、いけねハハハ


        


襖を閉めたら枕がポトリ。


薩摩琵琶 ベンベン


クスクス笑っているふじ子さんの背中。


        


ふじ子さんは、どうして「つまんない」と言ったのだろうか。
「つまんない」というのは意味深にとれる。
山田監督はちょっと色っぽいセリフを言わせたかったのかもしれないが
神経をすり減らせているふじ子さんは「遠慮しすぎよ」とは言っても
「つまんない」なんていう…、そういう言い方はしない気がする。




鹿児島 名勝 仙巌園(磯庭園)

1658(万治元)年に薩摩藩主島津光久が別邸として造営。
通称磯庭園。鹿児島いちばんの名所で、庭園と桜島の展望がすばらしい。


霧島も空振りに終わり…

桜島を眺めながら

ふじ子「寅さん…
寅「はい
ふじ子「もう帰ろ
寅「そうですね


        


それにしても第25作ではあんなに飛行機怖がっていたのに
この作品では全く平気になったのかな??




数日後



柴又 題経寺 境内

さくらが御前様に寅のことを相談している。

御前様「そうですかァ…己が醜いと寅が言いましたか


       


さくら「はい、ご飯も食べないで横になったまんまそればっかり言ってるんです
御前様大きく何度も頷いて
御前様「己の煩悩に気がつくというのは、一つの進歩ですよ、さくらさん
さくら「そうでしょうか
御前様「寅の苦しみのためにお祈りをしましょう
さくら「ありがとうございます

源ちゃん、掃除さぼって手鏡で、髪の毛をいじっている。

御前様「これ!己の姿を醜いと思わんか!困ったやつだ」と去って行く。無駄無駄ゞ( ̄∇ ̄;)


       


源ちゃん、御前様を指差して、さくらにヒヒヒ笑い



とらや 台所

さくらが店に来ておばちゃんに寅の様子を聞くが

何も食べないでウンウンうなってばかりだそうだ。

あけみもりんごを持って見舞いに来るが、あけみには
人生の機微は理解できない。

あけみ「寅さんは顔は三枚目だけど心は二枚目よ」だって(^^;)


       


で、おばちゃんもおいちゃんも結局なぜそこまで悩んでいるのかがわからない。

博が説明

博「あの奥さんに恋するあまり、蒸発しているご主人が帰ってこないことを
  心のどこかで願っている自分に気づいてぞっとする…ということかなあ


おばちゃん「おそろしい…
  

       


博「だから、自分の中にその恐ろしさを感じて苦しんでいるんだと思いますよ兄さんは

おばちゃん「まあ、可哀想に…


       


おいちゃん、無感動に

おいちゃん「そんなことにいちいち同情してちゃきりがないよ、は、商売商売」と
茶の間から店に下りて行く。


おいちゃんのこの言葉に救われるのは私だけだろうか。
こういうことは、あまり難しく考えずに当事者にまかせるしかないのだから。


社長もやって来て

社長「しかし、いくら惚れても人妻だもんなあ…。
   旦那が死んで未亡人にでもなれば別だけど、そうはうまくはいかねえもんな


おばちゃん「社長!なあんて罰あたりなこと言うんだい。
        かりにも人の命に関わることだよ。ほんとにもう…



      


寅、静かに下りて来て

寅「おばちゃん、オレも罰当たりな男だよ。
  社長を責めていたその言葉はそのまんまオレを叱る言葉だ


みんなで御前様の言葉を聞かせたりして寅を慰めるが、寅は旅に出ようとする。
遠い他故郷であの奥さんの幸せを祈っていくと店を出る。
 

      



とらや 店先


寅「あばよ

店先で人と肩が当たってしまう。

寅「お!ごめんよ
よろける男。
その男の顔を見る寅。

富永「寅さん…。僕です。ほら…『チェスト』

寅「九州の…

寅、少し下を向いて


      


寅「生きてたのか…」寅の本音


      


富永「…はあ…」と下を向く。

寅「…!!」と。。。我に帰って。


寅「奥さん、知ってるんだろな、このことを

富永「なんか、顔あわせるのが具合悪くて…。
   寅さんに会ってからと思いまして


寅「バカヤロウ!何で連絡しねえんだい!


      


富永さんをぐいと掴んで電話口に引っ張っていく寅。

寅「さくら!電話しろ電話!


      


しかし、さくらが電話しても電話には誰も出ない。

じれったく思った寅は直接、牛久沼までタクシーで行くことに。

二人して参道を走っていく。





牛久沼  森の里団地内

タクシーが止まり

戸を開けて

寅息を切らし

寅「奥さん!奥さんいるかい!
奥からふじ子さんの声「はーい」
寅「オレだよ、寅だよ!
ふじ子「寅さん?」と玄関へ
ふじ子「どうしたの?
寅「旦那さん帰ってきたよ!
寅「いますぐ連れてくるからね!


           


寅、玄関を出て富永課長の背中を両手で掴み
寅「さ、行ってやれ
頷く富永さん。
寅「しっかり二人を抱いてやれ!
寅「ほら
と小さくささやいて手を離す。
歩いて行く富永さん。


          


じっと見つめている寅。


          


富永さんを見つめ、呆然と立っているふじ子さん。


          


泣きじゃくり、富永さんの胸を叩き続けるふじ子さん。

そしてしゃがんでしまう。



ふじ子のテーマ大きく流れて


          


富永「すまん…すまん

泣きじゃくるふじ子さん。

タケシ君玄関にやって来て「パパ!
タケシ君、富永さんの肩を揺らして
タケシ君「どこ行ってたんだよ!バカ!ママ泣いてたんだぞ!

ふじ子さんとタケシ君をヒシッと抱く富永さん。


富永さん自宅前 東谷田川土手

寅がゆっくり歩いている。


メインテーマが静かに流れる。


土手にしゃがんで、自分に「これでいいんだ」と言い聞かせている様子。


        




とらや  茶の間

みんな寅を待っている。
おばちゃん「遅いねえ、寅ちゃん
おいちゃん「上がりこんでごちそうになってるんじゃないか
博「いや、兄さんそんなことしないでしょ。きっと玄関で別れてますよ
おいちゃん「だったらとっくにかえって来なきゃおかしいじゃないか

さくら「帰ってこないと思うわ、お兄ちゃん


        


おばちゃん「どうして?

さくら「そのまま、旅に出るのだと思う

みんな「…」

電話が鳴る

リリリリン

さくら「もしもし、あー!お兄ちゃん。心配してたのよー。今どこ?
寅「常磐線の土浦駅だ
さくら「土浦
寅「オレ、このまま旅に出るからな、みんなによろしく言ってくれ
さくら「
寅「あ、課長さんと奥さんがくれぐれもよろしく言ってたよ
さくら「…そう」少し頷く。
寅「もう時間が無いんだ。じゃあ
さくら「もしもし!ちょっと待ってよ

寅「なんだ?

さくら「…よかったねお兄ちゃん

メインテーマがゆっくり流れる。


        


寅「あ、よかったよ」と静かに言う。

さくら「…ほっとした?

寅「…ん…ほっとした

さくら「そう…

        


茨城県 土浦駅前

電話ボックス 黄色電話

寅「それじゃお前元気でな、あばよ


        


強い風の中、襟を立てて駅へ向かう寅。

深い孤独が寅を襲う。


       




とらや 茶の間


博「どんな様子だった?

さくら「うん…晴れ晴れしたような声だしてた


         


博「そうか…

おばちゃん「なんだか可哀想だね」と涙ぐむ。

みんな心が沈んでいくのだった。


         



時は過ぎ…


とらや 台所  正月

あけみがまたもや亭主のことで別れてやるとぐずっている。

社長目の色変えてやって来て
社長「よし別れろ!もう止めないぞ!今すぐ別れちまえ!

あけみびびって
あけみ「いいよ、正月終わってからでェ!


        


ふじ子のテーマが流れる。


年賀状の中にふじ子さんからのハガキがある。

ハガキの差出人に「富永ふじ子」の記述。


        



ふじ子さんのナレーション

森の里団地の南 4km.


あけましておめでとうございます。

不思議なご縁で皆様とお知り合いになれたことを嬉しく存じております。


おかげさまで、主人は会社の特別な計らいで退職を免れ、
12月1日付けで土浦営業所勤務となりました。

仕事の忙しさは相変わらずですが、
以前と比べて主人は、私の身近にいる人のように思えるのです。

私たちは、毎晩と言っていいほど寅さんの噂話をしています。


寅さんは、今どこにいらっしゃるのでしょうか。

私は、寅さんと一緒にした旅を、きっと、一生忘れません。




        



カメラで母息子を撮る富永さん。

目が生き生きしている。

ふじ子さんも嬉しそう。


        






鹿児島



鹿児島県 吹上町 南薩線 伊作駅


        



寅とポンシュウがいつまで待っても汽車が来ない。

寅は待合室で寝転がっている。


ポンシュウはレールが取り外され、枕木だけになっている線路を見て大笑い。

ポンシュウ「なんだこりゃ!ハハハ!
寅「どうした?
ポンシュウ「ククク、ダメだ寅、こりゃいっくら待ったって汽車なんて来ねえよ、ハハハ
寅「そんなこたねえよ。線路はずっと繋がってんだから
ポンシュウ「それがねえんだよ!ハハハハ!見てみろよ


         

見てみる寅。

寅「ん?あーあーあーあー、


         


二人して大笑い。


寅「ダメだダメだこりゃ、いくら待ってもダメだ、ハハハ
寅「ようし、決めた、飛行機に切り替えよ飛行機に、な、ハハハ

ポンシュウ笑い続けている。


         



メインテーマが流れる中


レール無き枕木だけの線路を笑いながら
ヨタヨタ歩くふたりの背中が小さくなっていく。



        


伊作川の鉄橋をこわごわ渡るポンシュウ。寅は平気。

向こうには金峰山の美しい姿


いいねえ〜。


        


このシリーズでも出色のラストシーンだ。


あの風に吹かれていた背中が関敬六さんであり、渥美清さんだ。

彼らは生死の狭間を体験した本物の渡り鳥だった。


今、天国でお二人はどんな話をしているのだろうか。



終わり