2025年8月1日





このシリーズで、
あんな美しい愛の告白シーンは他にありませんでした。



大川弥太郎よ永遠に。



   






第14作「寅次郎子守り唄」で存在感を見せた
髭中顔だらけの大川弥太郎こと上條恒彦(かみじょう・つねひこ)さんが
7月22日に長野県内の病院で老衰のためお亡くなりになられました。

85歳でした。


弥太郎と言えば、
このシリーズで一番美しいあの愛の告白のシーンを思い出します。


寅さん映画での上條恒彦さんの出演作品は

寅次郎子守唄、
寅次郎相合い傘、
葛飾立志編、
寅次郎と殿様、
翔んでる寅次郎(OPチョイ役)

これらの中でも寅次郎子守唄での大川弥太郎がなんとも印象深いです。


そして

弥太郎と言えば、
このシリーズで一番美しいあの愛の告白のシーンを思い出します。







本編↓




合唱の練習中に寅が迷惑をかけてしまい、失意の弥太郎は練習を中止にしてしまったのだが・・・

その後、怒ったさくらに指示されて寅は京成関屋駅前の弥太郎のアパートを訪問するのだった。

そこで、寅に恋愛の手ほどきを受ける弥太郎。

酒を酌み交わしながら、
木谷京子さんへの愛の告白が大事だと教えるのだった。


夜、気分良く酔っぱらって歌を歌いながら寅に連れられてとらやにやって来る弥太郎。

その、とらやの茶の間では偶然さくらたちと京子さんが歓談していた。

驚く寅と弥太郎。


寅は京子さんと冗談を言い合うが、

弥太郎は真剣に京子さんを見つめ・・・そして・・・




弥太郎、

京子の方を向いてなにか言おうとしている。





弥太郎「あの、木谷さん・・・



寅はあわてて


寅「
わあ!あー!おい、こんなとこで、
 そんなこと言うヤツあるかよ、



      
 

弥太郎「あの・・・僕







                     






寅、肩を組んでさ、楽しく歌おう!歌おう、ハイ!

寅「ね!、♪泣いてくれるな〜、







弥太郎、京子さんのほうを向き 見つめ




弥太郎「笑わないでください







寅「笑わない笑わない!

♪ホロホロ鳥よ〜、っと、
 月の比叡を、

 ホラ歌えよ!




                      




さくら「お兄ちゃん

さくらもただならぬ気配を弥太郎から感じ、寅の歌を止めようとする。



寅「♪ひとり行く〜

博「兄さん静かに…っと座敷に押さえ込む


寅「何だおまえ、いいじゃないか!おい



                      





弥太郎「いえ…



寅「♪パンパパンパッパンパン〜、パンパンパン



弥太郎「あの…



寅「♪花も〜嵐も〜…」






京子さんへ向かって


弥太郎「本当に、笑わないで下さい




寅「♪踏み…





           




                      




京子、真面目な顔で弥太郎を見ている。


その顔に、圧倒されて寅は歌を止める。





京子「笑わない。…なに?



                      








寅、弥太郎を見、京子を見、また弥太郎を見ている。





                      







弥太郎、息を整えて何か言おうとしている。





沈黙









弥太郎「急性盲腸炎で入院したその日から、

…僕はあなたが好きです






           
                      








京子のテーマ、ゆっくり、静かに流れる。


           





弥太郎「あれからずっと…、あなたが好きです






京子、弥太郎を見つめている。




                    



        






弥太郎、下を向いたまま。


          



京子のテーマがしっとりと流れていく。



沈黙の時。






弥太郎、京子を見て、我に帰ったようにハッとし、


          





周りの人たちを見て、

居たたまれなくて、体を反転し、

小走りで店から出て行く。


          





寅「おい!弥太郎!」っと、こける



フラフラしながら「
なんだあいつ…」



寅、店の椅子にドテッっと座って、呆然とする



京子も呆然として、どうしていいかわからない。


京子静かな声で「どうも、ごちそう様でした



と言い、頭を下げて帰ろうとする




一同「いいえと緊張して頭を下げる




寅、京子を見ている。




京子、ゆっくり立ち上がって、靴を穿き、

さくらの方へ向かって、戸惑いながら少し微笑む



           




寅、下を向いてしまう。




                     





京子急ぎ足で寅の前を歩いていく。


寅の前を通るとき




京子「さようなら


寅、下を向いたまま「


道へ出た後走って行く足音



寅、ハッと京子の行った方を見る




                     






我に帰って、とらやの人たちを見て、下を向き

立ち上がりながら



寅「ちェ!はッ!まったくねえ!
 どうにもこうにも話にならないよ、おまえ!
 女の気持ちなんて分からないんだから!
 あれじゃ、振られるの当たり前だよ!

 よ、ちょ、もうお開きお開き。無理だよ!


           


っと暖簾をくぐって2階にヨタヨタ上がっていく

さくら、ずっと店先の方を見ながら
弥太郎と京子のこと、



       


そして…兄のことを考えている。


       


博も、じっと下を向いて考えている。


とまどいながら時間が過ぎていく。






       







犬が遠くで鳴いている






この長い長いシリーズの中で
最も美しい愛の告白のシーンは
この弥太郎の告白である。
これ以上に美しい告白シーンを
私は他に知らない。






      




上條恒彦さん さようなら