岸恵子さんが8月7日にお亡くなりになりました。
老衰でした。
93歳。
心よりご冥福をお祈りいたします。
寅さんシリーズの中で最も観客動員数が多かったのは実は岸恵子さんの第12作「男はつらいよ 私の寅さん」でした。
なんと242万人が観に来られました。
この観客動員数242万人はどういう理由でそうなったのでしょう?
当時洗練された世界的に知られたトップ女優で、
かつフランスに住みモダンな自立する女優だった岸恵子さんとフーテンの寅次郎の取り合わせが新鮮だったのは確かですね。
寅さんシリーズも第11作「寅次郎 忘れな草」で相当盛り上がっってきたことも弾みになったともいえるでしょうね。
物語自体も、
九州旅行騒動とりつ子さんとの恋の2部構成。
観客を飽きさせないなかなか面白い出来になっています。
本編ラスト付近で、ショパンの「別れの曲」が近所から流れる中
寅の気持ちを受け止め、しっかりと寅にそのことを直に伝えたりつ子さんでした。岸恵子さん凛としてました。
これは実は、テレビ版寅さんの最終回からの焼き直しなのです。(全26話での唯一無二のマドンナの冬子さんでした)
寅に対する佐藤オリエさんの涙は美しかったです。
りつ子さんは涙は見せませんでしたが、寅への気持ちは同じでした。
あのやり取り、気品のある孤高の岸恵子さんにはピッタリの言動となりましたね。

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第12作「私の寅さん」
柳りつ子さんのスペイン遊学の財源及び今後の活動財源についての簡単な考察

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僕は無名のしがない絵描きなれども、長い間絵を描いて、売って生活をしていますが、
実はこのシリーズでも絵描きさんや絵描きさんの卵が3人出てきます。
第12作「私の寅さん」の柳りつ子さん、第17作「寅次郎夕焼け小焼け」の池ノ内青観
第37作「幸福の青い鳥」の倉田健吾君、です。
りつ子さんの発言
「ほんとうに自分が気に入った作品というのは売りたくない、
気に入らない作品はますます売りたくない」
という気持ちは、心底僕は共感します。
絵のこと、そして生活のことで悩んでいる彼らの姿も分かります。特に健吾君が才能の有無や副業との間で悩み、ヤケになっているシーンなんか
身につまされて他人事ではなかったですね。
ところで絵描きというのはまず儲からない。自信を持ってこれは言えます。
(^^;)池ノ内青観なんていうのは、ほんの一握り、いや、ひとつまみです。
僕も無名の絵描きゆえにもちろんなかなか高くでは売れません。
絵だけでは半分も生活できないので、染織のデザインや各地での展覧会や委託での販売などでしのいでいるのです。
りつ子さんも、ご両親が残した自宅で住んでいるので家賃はいらないようでしたが、
彼女は僕のように副業をしていません(自宅や中川土手で写生させたりして絵画教室はしてましたね)のでさらにもっと貧しいようでした。
画材を買ったら終わりで、もうあとは食べるものにも困っている感じでした。固定資産税も払わないといけないでしょうしね。
彼女がとびっきりの美人なので生理的にくっついてくる一条(ジョーさんと呼ばれていました)というスケベな馴染みの画商がいましたが、
彼女は内心彼をとても嫌がっていたので彼に自分の絵をたくさん託すのを迷っているようでした。
あのシーンを見て、『その肩に置いた手をのけろよなスケベ一条』って思っていたのは私だけではないでしょう(^^;)

で、わずかな救いは、
時々兄の文彦がテレビドラマの脚本を書いた報酬のお金を数万円置いていってくれるので、なんとか制作する生活ができているという状態。
そんな時、
寅は、りつ子さんを一生懸命に励まし、フランスパン(バケット)をおごってあげたりしていたので、
「寅さんは私のパトロン」と心から感謝していました。
それで、題名が「私の寅さん」なのです。

ところで、ラストで突然りつ子さんは、スペインに旅立ってしまいます。理由は絵の勉強らしいです。

りつ子さんはそうとうお金には困っていたはずです。それにもかかわらずなぜ、日本円がまだまだ
国際的には相当安く1ドル280円から250円くらいの1973年にスペインに、それも長期の絵の勉強に行けたのでしょうか。
確かにスペインはフランスなどと比べると物価は安いが飛行機代やホテル代はそんなに安くない。
ましてや長期滞在となると、そうとうの出費がかさむ。事前に絵を2枚や3枚売っただけではできないことなのです。
もし旅行を続けたり、学校に入ったりとなると特別の出費も出てくる。
考えられる一番のお金の出どことしては、
@一条以外の人でりつ子さんの絵を応援してくれている理解のある画商がいて絵を相当の枚数
預かってくれて、かつ、半分くらい先払いしてくれた。無名のりつ子さんではこれはまず無理でしょう。
A父親から譲り受けたりつ子さんの住んでる葛飾区新宿の土地を担保に銀行からお金を借りた。もしくは土地を
売ってしまった。(文彦も承諾) あのあたりは亀有駅に近いのでまあまあの評価価値でしょう。
でもお金はたぶん借りないでしょうね。利息もついてしまいますしね。思い出の自宅を売るのもなかなかできないでしょう。
B美しいりつ子さんに利害を度外視してくっついてくるスケベな一条にしかたなく絵をまとまった枚数先払いにて売った。
りつ子さんさえ割り切って我慢すればこれは可能なこと。
ということで、このBが一番ありそうで現実的でしょうね。
(しかし後に生理的にひっついてくる一条との関係は後々ややこしいことになる可能性がある)
一条が見返りを期待するかもしれないですね。
でもね、まあよくよく考えてみれば一条もあの言い回しを観ている限りではそんなにえげつなく酷い人間とも思えないので、
意外に生理的な面以外にも絵描きとしてもきちんと考えてくれて、彼女に本気で画家として投資する気持ちで行動している部分も
多いのかもしれません。
もしそうだとしたら、りつ子さんにとって一条は大切な仕事のパートナーと考えてもよいのではないでしょうか。。
生理的には受け入れがたくても、彼女が絵画制作を続けていく上で長く大切にしなくてはいけない人かもしれないですね。
男であれ女であれ、貧しい芸術家が生き抜く上ではこういうことは大事なのです。
友人でなくても仲が良くなくても仕事上の長いパートナーとして成立する人がいるということは芸術家にとっては良いことなのです。

岸恵子さん
いろいろな感動をありがとうございました。
あらためて ご冥福をお祈りいたします。

ちょっと追伸です。
寅とりつ子さんのあの別れの曲シーン、
テレビ版の最終回での焼き直しと書きましたが、この言葉の意味は、テレビ版では、より深いんです。
テレビ版のほうは、散歩先生の娘さんの冬子さん
(テレビ版では夏子でなく冬子)彼女の家に最後の別れのために寅が
訪れた時このピアノ曲が部屋で流れていて、せつない会話が繰り広げられます。
冬子さんと寅は長く全26話分も繋がりがあり、テレビ版では唯一無二のマドンナだったゆえに
冬子さんの方がりつ子さんより『寅を大事に思う心』がありました。
いろいろなエピソードの中で幼馴染の寅に寄り添う心がありましたね。
りつ子さんは自分の絵描き人生を中心において寅のことを考えています。
冬子さんは全26話もありましたので、寅の人生も大事に思っています。
りつ子さんはどちらかというと精神的に寅から優しさを与えられていたけれど、
テレビ版の冬子さんは、全26話もありましたゆえに、愛情を寅に与え、寅から与えられのお互いの気持ちの行き来が存在しました。
だからこそ、寅の気持ちになり涙を流してしまうのでした。
(実はこれは山田洋次監督のもう少し若い頃の映画「馬鹿まるだし」のラスト付近の焼き直しです
そして「馬鹿まるだし」は「無法松の一生」の影響を強く受けています)
第12作「私の寅さん」でのこのシーンは
この作品の静かなクライマックスで、ふたりのやり取りに心が切なくなりますが、
テレビ版の最終回での同じシーンは、それをも越える二人の本来の強い結びつきを
感じさせる歴史的名シーンにまでなっています。
(当時のテレビドラマゆえに演出は少し粗いですけどね)
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テレビ版最終回の 冬子さんの涙 の考察 追記
寅に対するマドンナさんの気持ちの部分の大事なところですので テレビドラマのあの名シーンのことをもう少し追加しますね。
あの映画版第12作『私の寅さん』にも使われたテレビドラマでの寅との別れの場面は、映画版とは違って
冬子さんは寅の目を見つめて涙をこぼし、「寅ちゃんごめんなさい、ほんとうにごめんなさい」と謝るのです。
あの「別れの曲」のシーン、ちょっと寂しげな声で、寅が桜の花を追って南から北へ旅をする話をしている時、
冬子さんは、寅が別れを言いに来たことをその言葉と気配で気づいたのでした。
目が潤みはじめ、寅を見つめ続ける冬子さん。
本当に目をそらさずずっと見つめる。
このカットは、私にはとても長い時間に感じられました。
そしてついに
「寅ちゃん、ごめんなさい。ほんとうにごめんなさい」と
涙が頬を伝っていくのでした。

寅は、その姿を見、その言葉を聞いて、
「お嬢さんが、あっしに謝ることはありません、あっしは別にどうってことないんです」
と、ひたすら恐縮して冬子さんをかばう。

そのあと、冬子さんはもう一度寅をそっと見つめ、
スッとそのまま顔を上げて…
庭の桜を強い瞳で見上げる。
この時の佐藤オリエさんの表情とその瞳は私にとって最も感動したカットとなったのでした。

その瞳はもはや、悲しみに泣き暮れる色ではない。
悲しみも切なさも超えたところの彼女の純な生命がほとばしるような強い目でした。
佐藤オリエさんの、若い、とても感覚的で鋭敏なセンスを強く感じました。
そして彼女のビビッドな目と重なるように
哀しげな寅の表情をカメラはアップで捉え続ける。
なんという深い孤独…。

そしてまた
桜が映り
最後にカメラは遠くから二人の背中を映すのでした。

あの演出にはさすがに私は泣きました。
ぐっと寅の気持ちに寄り添っている。
やはり冬子さんは寅のことを大事に思っているのです。
私は、テレビ版「男はつらいよ」と言うと、
真っ先に、この、冬子さんが目を潤ませながら寅を見つめる「別れの曲」の夜を思い出します。
寅の気持ちを分かり、とてもいとおしく思ってくれる冬子さんが私には誰よりも魅力的でした。
全26話同一マドンナというのは実にいいものです。
それが敬愛する散歩先生のお嬢さんの冬子さんだからなおさら最高です。
映画版第4作「新.男はつらいよ』でもそうだったが、小林俊一さんは、実にしっとりとした見せ場を
繊細に作られる。映画版ではラスト付近で夜中にそっと出て行く寅の姿とそれに気づいた
おいちゃんたちの表情や柴又界隈の人々の風情が印象的でした。
それにしても、このテレビ版をたった2話見ただけでも、いかに映画版の物語がテレビ版の物語に支えられているか
よくわかります。
どちらも山田洋次さんが中心に脚本を書かれてるとはいえ、テレビ版の影響力は多大なものが
あることがわかるのです。大きな物語の流れからちょっとした会話まで随所にテレビ版の断片が出てくるのでした。
いつの日か、この、フジテレビが制作したテレビドラマ『男はつらいよ』が真に再評価された時、
あの別れの夜の、二人のやり取りの見事さと、それを支えた小林俊一さんの演出、
そして最後の最後に二人の表情を見事にアップで重ねて表現したスタッフの鋭敏な感覚は絶賛されるでしょうね。
もちろん、そのテレビ版のリメイクである映画版第12作『私の寅さん』のあの別れの曲のシーンも、
スタッフたちは集中し、時間をかけて、上手に上品に撮っています。
りつ子さんも、寅の気持ちは敏感に感じて、自分の気持ちを優しく、しかししっかりと寅に伝えています。
そこはさすがに演出も逃げていない。そして二人ともやり取りに品格すら感じられる。
演出に弛緩した穴はない。さすが山田監督ですね。
第12作のクライマックスといってよいと思います。
それでも、私の人生にはあのテレビドラマの冬子さんの、
寅を大事に思い、寅に寄り添う気持ちこそが、
そして寅のために流したあの涙がやっぱり大事です。
そして一番最後に彼女が桜を見つめる命の輝きの目は私には何物にも代えがたい宝物なのです。
おしまい
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