久しぶりにきれいな海ば見た
大滝秀治さん 逝く
前日もご家族と一緒に過ごされ、お酒も飲まれ、
翌日眠るように逝かれたそうだ。
先日観た「あなたへ」の漁師役は渋かった。
気骨ある老漁師。
「ひさしぶりにきれいな海ば見た」
大滝さんが力強く発したこの言葉にこの漁師の苦しみや悲しみがにじみ出ていた。
そして今は晴れやかだと―。
あんな個性的な役者さんが今の日本にいるだろうか。
もういない。誰一人いない。
残念だけれども、しかたないです。
思い出すのはやはり 大雅堂の海坊主
神田 神保町 大雅堂 店内
寅、店内に入ってからも見せるかどうか迷っている様子。
寅「ドフ、ドフトフ、エフスキー… カラマゾフの兄弟」(^^;)
店主、ちょっと気になって
店主「なにかお探しかな?」
もうこの時点で大滝さん、変に面白い。
もうすでに大滝ワールドに観客の僕らは
巻き込まれているんですね(^^)
寅「いや、あの探しもんじゃないんだけどね、
ちょっとあんたに見てもらいたいもんがあって、うん」
店主「ほう、どんな」
寅「うんあのー、ウチの2階にね何だか変なジジイがいてね、
これが変な絵みたいなの描いてさ、でえ…、神田の大雅堂ってとこに、
これ持ってけ、で、そこにあの眼のギョロとした海坊主みたいな
おやじが…あ、いや、オレが言ってんじゃないんだよ。そのジジイが
言ってんだけどさ、まーいくらか工面してくれるからね、ま、行けって言うからね。
まあノコノコやってきたんだけども」
店主「何ていう方?」
寅「あ、…名前は聞かなかったなあ」
店主「絵というとどんな種類かな色紙とか短冊とか」
寅「いや、なんか子供が描くような画用紙にサラサラッと書いたような
もんなんだけどね。…まあ、今回はいいわ、また来るからさ」
店主「まあまあまあ、待ちなさい。せっかくここまできたんだから
一応見せなさい」
命令調^^; 客より偉い大滝さん^^;
寅「そうかい、なんだかお見せするほどの
もんじゃないんだけどねえ、まあ出すかぁ」
店主「絵描きもピンからキリまでいてな、中には食えなくて贋物を
専門にするものも近頃だいぶいるらしいが、
ほら、見せて……
やっぱ偉そうやなア・・・^^;
店主「!!カハハハハ!」
寅「なに?」
店主「フフフフフ…青観…。人もあろうに青観の名を騙るとは。
いいかね、青観とは日本画の最高峰だよ。
それも色紙の類を一切描かないので有名な先生だ!
贋物を描くならあんた…フフフ、それくらいのことを知ってないと…」
店主「…待てよ…おかしいな…これは…、
…あんた、これどどどこで?」
上手い!このいかがわしい空気を出せるのは大滝さんだけ^^;。
この表情が出来る人は大滝さんだけ。
寅「いや、だからオレの2階のじいさ…や、よせよおい冗談じゃないよ。
オレ別に悪いことしてんじゃないんだからさちょっとかいしてくれよ。
オレ…か、帰るから、よお」
寅、絵を店主から奪い返そうとする。
店主、寅の手をスッとかわして、
絵を持ったまますっと奥に。
普通の人は、つい、寅に一応渡してしまいがちになるが、
さすが大雅堂の海坊主オヤジは違うねえ、長年の動物的カンで、
飛び込んできた獲物は逃がさない!そのことが、あの身のかわしに
如実に出ていた。チャンスは絶対逃がさないんだねえ(^^)
店主「吉田、ちょっと」
吉田さん、青観のサインを確認。真筆と断定。
この店はこの目の利く吉田さんで持ってるなこりゃ。
こういう人って意外に少ない。この点も彼を雇っている
海坊主は商売上手。
店主「あんたこれ売るんだね?いくら?え?いくら?」
おいおい、そんな焦っちゃって、
買いたがってるのバレてるぞ、海坊主 ヾ( ̄o ̄;)
寅「そうねえ、いくらって…」
店主「断っておくけどそんな高い金は出せないよ、
落書きのようなもんなんだから。
いくら?早く言いなさい」
『早く言いなさいって』、いよいよバレてるよ ヾ(^^;)
寅「それじゃあ電車賃使ってきたことだし…」
と指を一本。(もちろん千円)
店主「そりゃ高い。
いくらなんでもそんな高い金出せないよ」
寅「負けるよオ、オレもちょっと高いんじゃなえかなと思ったんだ」
店主「これでどうだ?これなら買う」と手をパーで5本。
寅「半分か…?」(五百円)
店主「じゃ、もう一本色つけようこれだな、これ、
これで決まったな、いういだろう」ともう一本!
寅「まー、まーしょうがねえな」(六百円)
六百円で手を打つ寅の感覚もある意味、
世俗を超越していて凄い(^^;)
店主「吉田、6万円の領収書いて!」
店主さんいやに必死だね ( ̄  ̄ )
吉田さん「はい」
寅、ギョッとして
寅「おじさん、今何て言った?6万円!?」
と、目を白黒
6万円!?
店主「気に入らないか?
えっ?
よし、じゃあもう一本色つけよう、」
あ、寅ラッキー、店主の妙な早とちりで1万円得しちゃったよ(^^)
手で7本の指立てて
店主「これで決まり、
吉田7万円だ、7万円!」
この海坊主の焦りようから考えて10万円でも買ったね。
寅は相場がよく分からないのでこうなってしまったが…。粘りまくれば
15万円でも買ったかもしれない。
それにしても、この大雅堂のオヤジは大滝秀治さんしか
できないはまり役。もう演技とはとうてい思えなかった(^^;)
何度見ても地でやってるとしか思えない(((((^^;
見事の一言。完璧!!
もう彼の右に出るものは誰もいない。
夕焼け小焼けの隠れた名シーンだ。
大滝秀治さん、
数々の感動をいただきありがとうございます。
合掌