2023年10月30日





  帰り寄ってくれやー!、茶ぁ入れるから


  さようなら 犬塚弘さん


   
  


犬塚弘さんが10月27日までに亡くなられた。94歳だった。

本名弘=ひろむさん



1960年代に人気グループ「クレージーキャッツ」の一員として活躍、
俳優としてもかなり活躍し、知られたが10月27日までに死去した。
東京都出身。


2012年11月にメンバーのピアニスト桜井センリさんが他界したことにより
最後のクレイジーキャッツだった。

クレイジーキャッツではベーシスト。 一番スラっとしていてダンディ。



      



俳優としては

山田洋次映画、その中でも馬鹿シリーズ3本、
そして「吹けば飛ぶよな男だが」などが目立っている。

自分的には「男はつらいよシリーズ」でも俳優として大活躍されていた。



山田洋次監督(92)が27日、犬塚弘さんの思い出のコメントを発表した。

「ワンちゃん、サヨナラ」という一言とともに、
「遂にワンちゃんもか、という思いです。
リーダーのハナ肇さんはじめ、
クレージーキャッツのメンバーは、みんなお人好しだったが、
その中でもワンちゃんこと犬塚弘さんはとびぬけて好人物、
善意が背広を着てコントラバスを演奏しているような人でした。
全身からあふれ出すようなその善意で、
どれだけ多くの観客を楽しませてくれたことでしょうか。
ありがとう、ワンちゃん」


と、追悼した。
     






男はつらいよシリーズの、

第7作「奮闘編」の沼津駅前交番のお人好しのおまわりさんはまさに当たり役だった。


このシリーズを出演を羅列してみると↓

■第7作男はつらいよ 奮闘篇(1971年)
  沼津駅前のお巡りさん

■第21作男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく(1978年)
  田原温泉の大朗館の主人

■第23作男はつらいよ 翔んでる寅次郎(1979年)
  ホテルニューオータニで待機していたタクシーの運転手

■第24作男はつらいよ 寅次郎春の夢(1979年)
  大工の棟梁 茂 寅の小学校の同級生

■第28作男はつらいよ 寅次郎紙風船(1981年)
  同級生の茂

■第48作男はつらいよ 寅次郎紅の花(1995年)
  寅とリリーを乗せるOK無線タクシーの運転手




どの出演も印象的だ。

でも、やはり第7作奮闘編で、
花子を津軽へ送り返すために自分の財布から
お金を出す沼津駅前交番のおまわりさんはまるで犬塚さんそのもののようで
いつまでも忘れがたい。




      










それでは

第7作「奮闘編」
の犬塚弘さんの登場シーンを思い出し詳細に再現してみたい。



↓↓


沼津駅前シーンまでの物語の序章

寅の生みの親のお菊さんが数十年ぶりに柴又のとらやを訪ねて来た。
今度結婚するとハガキをくれた寅に会いに来たらしいのだ。

しばしの歓談の後、お菊さんが滞在している帝国ホテルに戻った直後、たまたま寅が旅から戻って来る。
寅はさくらたちの懸命の説得もあって帝国ホテルに滞在しているお菊さんにさくらの付き添いの元会いに行くが、
結局は寅のガサツさとお菊さんへの恨みもあって、お菊さんと大喧嘩をしてしまい、寅は悲しみの中旅に出ていく。

      


富士市本町での履物の啖呵売の後、
寅は夜にラーメン屋来々軒でラーメンを食べている。
同じくとなりでとても愛らしく明るい雰囲気の女の子(花子)が食べていたのだが
花子が健常者でないことをラーメン屋のオヤジに見抜かれ、
花子の哀しい過去と不安な未来をオヤジに推測され、ちょっと同情的になる寅だった。



店主「お客さん、あの子ね、ここがね少しおかしいね。

寅「
そうかい?


店主「そりゃね、ちょいと目にはかわいい女の子で
    通るけれども、よーく見て御覧よぉ…。

    目なんか変にこう...
    間がぬけててさ、確かにありゃ、
    どっかの紡績工場から逃げ出されたに違いないよ。
    確かに、今、人手不足だからねえ、工場の人事課長かなんかが
    田舎行って、そいでまぁ、ちょっと変な子だけども、頭数だけ
    そろえておきゃぁ、なんてんでひっぱってきたもんの、
    人並みに働けねえ、しょっちゅう叱られてばかりいて、
    いやになって逃げ出すってやつだよ。そのうち、まあ、
    悪い男かなんかに騙されて、バーだ、キャバレーだ、
    あげくの果てにゃ、ストリップかなんかに
    売り飛ばされちまうんじゃないかな。可哀想だな…






寅「・・・・




      
    




沼津駅前交番

『県民に信頼される警察』『和と団結ー誠意ある勤務』



      



ラーメン屋にいた花子が交番の中にいる。

     



寅、通りかかって、さっきの女の子だと気づいてちょっと覗く。



     



おまわりさん(犬塚弘さん)が名前を聞いているが答えてくれない。


     


寅はなんとか花子に手助けしたくて交番の前でうろうろ佇む

     



おまわりさんの質問にも怖がって答えない花子。

遂に寅は割って入るのだった。



寅「あ、だんな、
  



     



 寅
大きな声を出しちゃいけませんよ。
   ちょっと頭薄いんですよ。


   それをさっきから旦那大きな声でどなるもんだから、
   怖くて怖くて震えてるんだ。



     



寅、座って 花子に


寅「
どうしたの?泣かなくてもいいんだよ。
  はい、涙拭いて、な、名前なんていうの?



     



花子「
太田花子

寅「ね、ちゃんとこたえるでしょう

こっくり頷く おまわりさん。

寅「
ねえ、住所どこ?うち…


花子「
青森県・・西津軽郡鯵ヶ沢町轟(とどろき)

寅「青森かー、遠いところから来たんだねぇ…

寅「
おうち帰ろうとしてたんだな

花子「
んだ


     



寅「
お茶でも飲むか

頷く花子

寅「
うん

寅「
お茶入れてきて

と、犬塚おまわりさんに指示(;^_^A


寅「
あ、俺にもね、ふたっつ


     



おまわりさん、少し呆れ気味に、でも素直にお茶を入れに行く。

寅は花子ににかっと笑ってやる。

花子も安心して微笑み返す。




     



犬塚巡査は、お茶の急須を両手で回しながら、花子を見ている。

丁寧に湯飲みにお茶を注いでいく。

ちゃんと美味しいお茶を出そうとしてくれているのが分かるシーン。

山田演出はこういう細やかな優しさがいいよねえ・・・




    
 美味しいお茶のために丁寧に急須を回す犬塚巡査さん

     



    
 お茶をかき回しながら花子を見ている犬塚巡査

     




寅がいろいろ話しかけて花子から聞き出したもよう。


壁に貼ってある

和と団結
誠意のある勤務
敬礼の励行



寅「
今聞いてましたらね

おまわりさん「
うん

寅「
やっぱりこのへんのバーで働いてたらしいですよ

おまわりさん「
たぶんそんなこっちゃないかと思ったぁ。
       また悪い奴に捕まるから
       ここに連れて来たんだがな


寅「
そうなんだよ花子ちゃん。ん・・・
  この人はね、決しておっかなかないんだから
  
ん・・・優しい〜〜人なんだよ(^^;)
 
 ほら、みてごらん、ほら、優しい、優しいよ〜


おまわりさん ぎこちなく花子に微笑む(;^_^A



       花子を安心させようとぎこちなくも笑ってあげるおまわりさん

       


寅「
ねえ、この子の言う通り、
  青森の故郷へ帰した方が良いんでしょうかねえ


おまわりさん「
そうだなあ・・・今から上りの汽車乗せるか

時計を見るおまわりさん

寅「
あ、時間表は・・

本棚を指さすおまわりさん。

時刻表を見ながら汽車を探す寅。


おまわりさん「
花子ちゃん、お金持ってるか?


     



花子「
うん


これで全部か?

千円チョイかな

おまわりさん「
青森までいくらかかるかなあ?


     


寅「
3000円くらい
じゃないですか?

そんな安いわけないでしょ(;^_^A 
1971年当時沼津駅から青森駅なら特急でなく
時間のかかる急行「十和田」などでの最低料金でも
7〜8千円はするだろうなあ・・・



寅少し焦って

寅「
あ、旦那、急がないと上野からの連絡間に合いませんよ


おまわりさん、
時間がないゆえに自分の財布を取り出すが
少ししか入っていない。



     



寅「
あ・・・お・・・

と、おまわりさんの財布を手でこじ開けて覗く。


驚いて財布を胸まで引くおまわりさん。


寅「
それで・・・全部ですか??


     



おまわりさん「
月給前だからなあ…


おまわりさん「合わせて・・二千四百・・・二十・・・


寅自分の札入れを探しながら

いいでしょう!

パン!という景気のいい音で札入れを叩く)

寅「
どうぞ。 用立てておくんなさい


     


おまわりさん「
そうはいかないよ〜


と、財布を寅の背広の内ポケットに戻そうとするおまわりさん。


     



寅「
何を言ってるんですか旦那、
  急ぎの用じゃございませんか。
  さあ!



と財布の中を見る寅。

おまわりさんも寅の財布を凝視・・・(;^_^A


     


ところが
500円札3枚だけしかない。


寅「
私も月給前ですからね…2,3 。。。と




       



寅は、おまわりさんの財布から素早くもう一枚千円札抜いて

おまわりさん「
あ、これ・・・

いいでしょいいでしょ

寅「
千、二千、三千。。。五百円と・・・」総合計3,500円で切符を買おうとする。


花子心配顔

寅「
なんとかなるよ・・・な・・・

花子「
うん」と頷く。


       





国鉄 沼津駅 切符売り場





販売員の声「これ、弘前までの乗車券ですね。
        それと、上野からの急行券です。400円のお釣りね


持ってきたお金3500円ー400円=3100円 切符代は急行券入れて3100円


(実際はそんな安いわけないけどね)


おまわりさん「は、どうも


おまわりさんホッとした様子で




      




      




おまわりさん「これ切符だ。 ね

と、花子に渡す。


そして、お釣り400円も

おまわりさん「これ落とすなよ

コインを掌に乗せて指で閉じさせる。



      




おまわりさん「じゃあ、見送り頼むよ!



      




寅「へい、わかりました

おまわりさん「
うん

寅「
じゃあ花子ちゃん行こう


寅はおまわりさんに素早くお辞儀して花子を連れて行く。




おまわりさんは敬礼をする。



      




おまわりさん、寅に大きな声で




       




おまわりさん「帰り寄ってくれや、

     茶
入れるから




       




交番に戻りながら 振り返り二人を見ているおまわりさん。


       





少し歩いては、振り返るおまわりさん。


        



人に対して温かいこのおまわりさんの人柄が2回の振り返りに表現されている。



本編ではこのあと寅と花子の沼津駅改札での長い別れシーンがメインになって行くのだが、


      



この巡査さんと寅の、その後のお茶を飲みながらの歓談は省かれているが、
花子を見送った寅はすぐに駅前の交番に戻り、
短くも楽しい交番内での歓談の時間を過ごしたと想像できるのである。


犬塚弘さんのキャラクターならではの
古き良き1970年代前半の心優しき善良な巡査役だった。

奮闘編の序盤の見せ場とも言えるだろう。




犬塚弘さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。